中国の猫なで声と本音
先日の中国軍の大規模軍事演習は、共産党からすれば微妙な手心を加えています。
実施時期は、中国軍のよくやる4月に設定し、それに伴う飛行禁止区域について当初3日間と言っていたのを、27分に短縮しています。
「中国政府が今月16日から3日間、台湾の北方を「飛行禁止区域にする」と台湾当局に通告しました。
台湾当局によりますと、中国政府は11日に、16日から18日までの3日間、台湾の北方を「飛行禁止区域」にすると台湾側に通告しました。
しかし、12日になって台湾交通部は「飛行禁止期間は16日午前9時30分からの27分間に短縮された」と発表しました。
台湾当局は「中国政府に対し不合理な飛行制限をしないように伝え、交渉した結果だ」と説明しています」
(テレ朝4月12日)
台湾の北方を「飛行禁止区域にする」と通告 中国 (tv-asahi.co.jp)
勝手に3日間も飛行禁止区域を設定してしまえば、米国は必ずこのどこかで「航空の自由作戦」をするはずです。
米国がグアムからB52を飛ばして、堂々と飛行禁止区域破りをしてしまえば、メンツ丸つぶれになってしまう、ということもひとつにはあるかもしれません。
そしてすぐに妥協してみせたのは、習近平は内心、台湾総統選挙までは波風を立てたくないのです。
もちろんあくまでも「選挙までは」です。
というのは、中国にとってもっとも望ましいのは熟柿が落ちるように、台湾が自ら進んで中国と融合してしまうことです。
中国は、台湾内部の親中メディアや人士を使って、台湾の中に米国を疑う疑米論が生まれ、米国がいるから戦争に巻き込まれる、米中代理戦争の戦場になるのはイヤダという世論を作ろうとしています。
台北の両岸政策協会研究院の呉瑟致はこのように述べています。
「昨年8月の中共演習後、台湾では「疑米論」が持ち上がり、米国に近づきすぎると台湾は戦争に向かうという世論が起きた。呉瑟致は「北京は軍事演習によって、馬英九の訪中成果を失わせた。しかし、米国の台湾への武器販売促進による戦争への脅威は、北京の世論誘導をさらに効果的にした」と指摘した。
呉瑟致はVOA(ボイスオブアメリカ)で「この背後には、台湾の親中人士、団体の世論操作がある。彼らは疑米論を再び喧伝し、戦争と平和どちらをとるかという形で、親米路線が軍事的脅威を上昇させるという言い方をしている」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.769 2023年4月10日)
この論法は、本土や沖縄内部の左翼勢力が流布している「巻き込まれ論」と同一です。
米軍や自衛隊がいるから戦争になる、平和であるためには彼らを追い出し、中国と仲良く外交をするのが一番だ、というものです。
この論法に従えば、米国との友好関係を断ち切って、自国の防衛にかける予算も縮小するのがいいということになります。
米軍や自衛隊がいても、中国は尖閣のみならず沖縄まで自国領土だと宣言しており、公船は領海に侵入し続け、スクランブル発進は毎日のようなのに、ウクライナが侵略されたのを見ても、あいかわらずこんなことを言っていられる神経がわかりません。
ウクライナ人のグレンコ・アンドリー氏はこんなことをいつも言っています。
グレンコ アンドリー
ウクライナ戦争の最大の教訓とは、軍備と安全保障に力を入れない国は侵略されるという事です。
平和を保つには、
第一 自国の軍事力
第二 同盟関係
台湾も沖縄も置かれた状況はまったく同じです。
共に中国という現代世界で類を見ない侵略的性格を持つ国の真正面に位置し、揃ってここはわが領土だと宣言されています。
こんな地域が平和を保つためには、侵略することをあらかじめ断念させねばなりません。
そのためには強い自衛する力を持ち、米国などの自由主義陣営と同盟を組む必要があります。
それをわかっているからこそ、中国はこのふたつをなくしたいのです。
実際、前回の地方首長選では国民党はこの論法で、防衛予算を国民福祉に回さないから台湾の民衆は苦しんでいるのだというアンチ蔡英文キャペーンを張って勝利を収めました。
【野嶋剛】「台湾・民進党敗北」をどう読み解くべきか (newspicks.com)
中国としては、この「疑米論」の芽を育てて、台湾内部から「米国と手を結んでいるから戦争になる。中国は同胞だ。悪くするわけがない」という世論を作り出したいのです。
ですから、今の総統選前の時期は太陽政策をせねばならない時期です。
たとえば習近平は、融和的な施政をアピールするつもりで「戦狼外交官」の異名があった趙立堅報道官を更迭しました。
いま彼はベトナム国境でペンキ塗りをしているようです。
直接の原因は彼の妻が、ゼロコロナ政策で薬が手にはいらないとツイートしたのが原因だと言われていますが、いままでの好戦的態度が問題視されたのでしょう。
Share News JapanさんはTwitterを使っています: 「元中国報道官・趙立堅氏、左遷されて、田舎でペンキ塗り… https://t.co/IFWG3n0yC4」 / Twitter
今回の大規模軍事演習もやや小規模にし、その理由も「台湾同胞に向けたもののではなく、外国勢力から諸君らを守るためだ」くらいのことは言ってみせます。
最近アップされた台湾侵攻の主力をつとめる東部戦区の動画があります。
中国軍の本音が分かる動画です。
New China 中文
東部戦区
同上
同上
同上
同上
同上
このように習近平は必ず台湾に侵攻します。
一方、見せかけの融和的態度とは別に、中国は台湾侵攻準備を着々と進めてきました。
去年10月22日に、中央軍事委員会の衝撃的人事が発表されました。
それは2つの看板人事に現れています。
もっとも西側を驚かせたのは、何衛東(かえいとう、ハー・ウェイドン )が政治局員となり、党軍事委員会副首席入りしたことです。
いままで中央委員候補でもなかった人物が、一気に政治局員になることはありえませんでしたが、習近平がごり押ししたのです。
しかも、軍中枢中の中枢である副首席です。
ちなみに軍事委員会主席は習近平ですので、副首席は現役軍人トップとなります。
石平氏はこのように述べています。
「このような人事ができるのは当然ならが習近平しかいません。(略)
何は去年9月まで東部選句司令官でした。その司令官をいきなり政治局と軍事委員会に抜擢した理由は、3期めの今後5年間のうちに台湾戦争に踏み切ることを強く意識したからとしかおもえません」
(『習近平・独裁者の決断』
「3日に開いた第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)で軍最高指導機関の中央軍事委員会の陣容を決定した。制服組トップの副主席は、留任した張又俠氏(72)のほか、新たに何衛東・前東部戦区司令官(65)を起用。7人体制を維持しつつ、同委主席を兼ねる習近平(シーチンピン)総書記の指揮権限を強める組織改革を図る」
(朝日2022年10月23日)
中国軍最高機関、3人が昇格 台湾に精通する何衛東氏を副主席に起用 [中国共産党大会2022]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
何は台湾を管轄する東部戦区の福建省第31集団軍出身でキャリアを重ね、2019年から台湾侵攻の現場作戦の責任者を務めていました。
そしてペロシ訪問台時に中国軍が行った軍事演習の指揮を執ったのは、この何です。
「人民解放軍日報によると、人民解放軍の東部戦域は台湾海峡を担当する主な攻撃部隊です。
在任中、何偉東は作戦計画の計画と訓練作戦を担当し、今年1月に習近平直下の中央軍事委員会の合同作戦司令部に昇進した。 今年8月初旬、人民解放軍の東部戦域は、彼が設計した作戦計画に基づいて、台湾を威嚇するために島を取り囲む演習を実施しました」
劍指台灣!8月圍台演習設計者何衛東 「連跳3級」升任軍委副主席 (nextapple.com)
そしてもう一枚の看板は定年慣習を破って留任した張又俠(ちょうようきょう、ジャン・ヨウシア )でした。
張と習近平の父親同士は、かつての国境内戦の同僚で、習に直結した軍人です。
張は今の中国軍では希少の実戦経験があります。
1979年の中越戦争時に連隊長として部隊を率いています。
この台湾担当の何と、実戦経験のある張との組み合わせが物語るのは、習近平は3期めのこの5年の間に絶対に台湾を侵攻をする気だということです。
張又侠・何衛東中華人民共和国中央軍事委員会副主席の略歴 (news.cn)
「軍事委員会に3人の新メンバーを送り込むとともに、軍の中で最も信頼する張又侠上将を制服組トップの副主席に留任させ、一段と自身の影響力を増大させた。張又侠氏は72歳で、これまでの中央軍事委員会の慣例ならば引退する年齢だった。(略)
張又侠氏は、米国防総省が昨年公表した中国軍の近代化に関する報告書で人民解放軍の「小君主」と表現したほど、強大な権力を持つ。張氏と習氏は、父親同士が1949年の国共内戦で戦友だったという縁がある。
張又侠氏子飼いの1人である李尚福上将も今回、中央軍事委員会メンバーに昇格した。重要なのは李氏が、電子戦やサイバー戦、宇宙戦を担う戦略支援部隊の所属経験がある点だ」
(ロイター2022年10月29日)
焦点:新たな中国軍最高機関、「対台湾」で結束とスピード発揮か | Reuters
実際に台湾に侵攻する場合、最終的な決定を下すのは共産党最高指導部の政治局常務委員会ですが、具体的な戦闘計画の策定と実行は軍最高指導機関の中央軍事委員会に委ねられています。
この中央軍事委員会副首席に東部戦争区の司令官が抜擢されたことの意味は、いまさら説明する必要がないでしょう。
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わが県のデニー知事は「中国が台湾に侵攻する、と言った見方は非常に偏った考え方だ」としています。
記事のように、中共は軍事力の伸長だけでなく、政治局委員の人事にも侵攻を見据えた準備を整えています。
結果的に中共が台湾への武力侵攻を躊躇させるとすれば、それは台湾はもちろん、日・米を筆頭とする抑止力構築への万全の準備以外にありません。
また、デニー知事は「(日米両政府は)平和的な外交による緊張緩和、信頼醸成を進め、有事を起こさないための取り組みを強化していくべきだ」としてい、そのための具体的取り組みとして中国との経済連携を密にすべき、との誤った認識を持っています。
内容非公表のファーウェイ経営者との秘密懇談、7月に予定される訪中、その裏でお膳立てをする河野洋平率いる日本貿易促進協会等々、6月とされる二階俊博訪中まで含めて、それらの行為はもはや台湾侵攻に逆に加担する意味に等しい局面に状況が変化している事を認識すべきです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年4月15日 (土) 18時14分
デニー知事は反自衛隊的なことしてますけど、知事選出馬前までは沖縄県防衛協会のメンバーだったことを忘れてはいけません。
投稿: クラッシャー | 2023年4月15日 (土) 23時31分