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2023年4月22日 (土)

経済の集団安全保障体制とは

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中国が自由市場を理解してくれていればいいのですが、困ったことにはこの新興の中華帝国は経済力を政治力の武器として使用することをためらいません。

たとえば豪州が中国における新型コロナウイルスの発生起源の調査を要請した時、中国は豪州ワインを禁輸しました。
正確にいえば禁輸ではなく、豪州産ワインに対して、中国はオージーが反ダンピング・反補助金として計218%を上回る追加関税を課したのです。
まぁ200%超の関税なんて禁輸も同じですがね。

その結果、豪州ワインの対中輸出は2020年の8億7000万ドルから2022年には830万ドルに激減し、一時期は産業が立ち行かなくなる寸前にまで追い込まれました。

「中国は今年に入り、関係が悪化しているオーストラリアからの多額の輸入を妨げる貿易制限措置を相次ぎ講じてきた。
豪州産の牛肉や大麦、石炭、ロブスター、ワイン、木材を対象とした制限措置はさまざまな形態で導入されている。大麦に対する反ダンピング(不当廉売)・反補助金の追加関税は明確であり、豪政府はこの件を巡り世界貿易機関(WTO)に提訴した」
(ブルームバーク 2020年12月18日)
豪州からの輸入制限、中国はあの手この手-口頭指示や個別企業標的も - Bloomberg

豪州ワインは政府補助金を受け取っていないし、不当廉売している証拠はないとしてオージー政府は抗議しました。
オージーは安価ワイン市場向けを作っており、中国向けは3割です。
中国向け輸出に200%超の関税を掛けられてはどうにもなりません。

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ブルームバーク

WTOに入っておきながら堂々たる自由貿易の破壊ですが、そのきっかけはオージー政府がコロナ発生について中国に情報開示を要求したことです。
なにか後ろめたいことでもあるのか、中国はたちどころに輸入制限をかけてきました。
外国が自分の国と利害を異にすれば、すぐに制裁関税をかけてくるのですから始末におえない。
経済的優位を笠に着たパワハラです。

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中国、豪の農産品狙い撃ち 南シナ海など批判けん制 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

「中国の税関総署は27日夜、オーストラリア産牛肉の輸入を一部停止したと発表した。中豪両国が使用を禁じる薬物が検出されたと説明している。すでに豪州当局に連絡し、45日以内に関係企業への調査を実施し、中国側に報告するよう求めた。(略)
中国は5月にも「検疫上の理由」から豪産食肉の輸入を一部停止した。直後には豪産大麦の価格が不当に安いなどとして80%超の追加関税を課した。8月には豪産ワインを対象に反ダンピング(不当廉売)調査を始めた。

両国は豪州が新型コロナウイルスを巡り、独立調査を求めたことで緊張が高まった。豪州はその後も香港や南シナ海問題で米国と歩調を合わせて、対中批判を続けている。中国の一連の輸入規制は豪州側への報復措置との見方がある」
(日経2020年8月28日)
中国、豪産牛肉輸入を一部停止 「禁止薬物を検出」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ところでオージーにも弱みがありました。
中国と地理的に近いせいもあって、中国のサイレント・インベージョン(静かなる侵略)を受け続けていた国です。
クライブ・ハミルトンが同名の本で詳述していますが、中国は有り余るカネにあかせて州政府や政府要人に強い影響力を行使したり、様々な民間団体を装って政府の政策に介入し続けました。
これが中国得意の超限戦です。
2016年にはターンブル政権は、北部ダーウィン港を中国企業に99年貸与するという安全保障問題にまで進展します。
まさに傀儡国家一歩手前にまでオージーは行っていたのです。
そのせいもあって、ひと頃は輸出入共にファイブアイズで群を抜いて中国に依存した経済構造が出来上がっていました。

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日経

危機に目覚めた豪州政府は、南シナ海問題や香港市民への豪州永住権申請の許可、ファーウェイの5G排除などで毅然として中国と対決していく姿勢を鮮明にします。
中華帝国にすれば、傀儡だと思っていた飼い犬が手を噛んだと思ったのでしょう。
弱小国の癖に生意気な、と歯ぎしりしました。
特に中国を怒らせたのは、2020年4月、前述したように武漢から発生したコロナウイルスを巡り、独立した調査を要求したことです。

これは当時の米国や欧州で燃え上がろうとしていた中国への賠償論に火を点けました。
マクロンなんかが武漢に行って、なんて素晴らしい中国の防疫により世界は救われたぁ、なんてゴマをすりまくっているのと対照的です。

「北京のある大学教授は「中国共産党が最も恐れたのが各国からの賠償請求だった」と話す。賠償論の引き金になりかねない独立調査を主張した豪州を徹底的にたたき、同調する国が広がらないように抑え込む狙いがあると解説する」
(日経前掲)

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日経

また、リトアニアのケースもあります。
2021年にリトアニアが首都ビリニュスに台湾の代表事務所を設けた時、中国は欧州のサプライチェーンからリトアニアの産品を除外するよう圧力をかけました。
域内の国々だけではなく、ヨーロッパの小国にまでパワハラをするのですから、スゴイね。

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AFP

【11月19日 AFP】中国は19日、台湾がバルト3国のリトアニアに大使館に相当する代表機関「台湾代表処」を開設したことについて「悪質極まりない」と糾弾。台湾の独立を目指す動きは「必ず失敗する運命にある」と猛反発した。
台湾は18日、リトアニアの首都ビリニュスに「台湾」を名称に用いた「駐リトアニア台湾代表処」を開設したと発表した。台湾独立の動きをけん制する中国を無視したもので、外交面での対峙(たいじ)を強めるものとなる。
中国外務省は声明で「世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の不可分の一部である」とし、「誤った決定を直ちに訂正するようリトアニア側に求める」と述べた」
(日経2021年11月19日 )
台湾の駐リトアニア代表処開設に猛反発 中国「悪質極まりない」 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

このように見てくると、中国が古臭い帝国主義そのものの手法をいまだ使い続けていることがお分かりいただけると思います。
これは独裁国家にとって共通の方法と見えて、ロシアもウクライナ侵略に反対する諸国に対してまったく同じことをしかけてきました。
ロシアは、ウクライナ戦争前までも、近隣諸国を勢力圏に閉じ込めておくために経済的恐喝を使い続けてきました。

あともう一つの中露の手口は、武器を売りさばいて相手国の軍隊を支配することです。
東欧諸国やアフリカ、アジアではこの方法は大変に有効です。
いま内乱が起きているスーダンにも、ロシアと中国が武器を売り渡しています。
スーダン国軍とRSFを両天秤にかけてロシアが軍事支援し、代わりにスーダンの金鉱を狙っています。

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ロシアはどのようにして世界最大の武器輸出国の一つになったか - ロシア・ビヨンド (rbth.com)

それはさておき、ヨーロッパ諸国のエネルギー源の大部分を、ロシア産原油に縛りつけてしまいました。
ロシアは中国と違ってカネはないが、油だけは売るほどあるのです。
そこで四方八方にパイプラインを伸ばして、油を売り続けました。
油はロシアの外貨獲得手段であるとだけではなく、エネルギー源を掌握することによる間接支配の方法でもあったのです。
わが国にもシベリアからパイプラインを海底でつながないか、という話が持ちかけられましたが、断ったのは賢明なことです。

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ロシア、South Stream 計画を取り止め - 化学業界の話題 (knak.jp)

ヨーロッパ各国の天然ガスの依存度はドイツで43%、イタリアで31%、フランスで27%に上りました。
ドイツなど輸入エネルギーの半分弱がロシアですから、こりゃ頭が上がりません。

これでは政治的にも首根っこを押さえられたのも同然です。

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脱ロシアのエネルギー未来図~アメリカは救世主になれるのか~ | NHK | ビジネス特集

ヨーロッパはロシア産原油の48%を支配されていたのです。

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ロシア産原油の禁輸に慎重だった米国、強硬姿勢求める世論受け一転…英国も歩調合わせ禁輸 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

このように見てくると、独裁国家に輸出入やエネルギーのゲタを預けてしまうことがいかに危険かわかるでしょう。
なにかあった時、必ず専制国家はそれを武器にパワハラをするからです。

プーチンはウクライナ侵略をするにあたって、エネルギーを武器としている以上、ヨーロッパ各国は反対することはしないだろう、仮にしてもそれは口先だけに終わるはずだ、と考えたはずです。
しかし欧州および民主主義の世界は、ウクライナ支援とロシア石油・ガスからの脱却の両面で結束して対応しました。
まことにプリンシパルで見事です。

このような対応が可能だったのは、ひとつには新たな天然ガス供給源として米国が登場したことです。

「アメリカからヨーロッパ向けのLNGの輸出は、ウクライナ情勢の緊張が高まっていた1月時点で、前年比で4倍に上っていた。
ベンチャー・グローバルLNG マイケル・サベルCEOは
「生産能力は今はまだ年1000万トンだが、これを7000万トンに拡大する工事を進めている。地政学の状況は様変わりし、石油や天然ガスを供給できるアメリカの重要性がますます高まる」と述べた」
(NHK2022年5月17日)
脱ロシアのエネルギー未来図~アメリカは救世主になれるのか~ | NHK | ビジネス特集

そしてふたつめには、このウクライナ侵略を通じて、欧州に「経済の集団安保体制」という新しい概念が誕生したことです。

「アナス・フォー・ラスムセン前北大西洋条約機構(NATO)事務総長が、中国の経済的威圧には民主主義諸国が一体となって集団的に対抗することが有効であると、3月28日付の 米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」で述べている」
(岡崎研究所2023年4月18日)

中国に対抗するために必要な「経済の集団防衛」  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

既に「経済の集団安保体制」はロシアで実践されていますが、さらにこれをもうひとつのならず者国家である中国にもつかったらどうだろうか、という検討が始まっています。

「中国に対しても、同様に結束した対応がより有効であろう。北京は小さな国を次々と狙い撃ちするが、世界の国内総生産(GDP)の 60%を占める民主主義世界の統合された経済力に直面すれば、同じ事はできないだろう。
NATO条約第5条の経済版を経済的威圧に適用すべきである。
「経済の第5条」は、標的とされた民主主義国あるいは企業に対する支援を含む必要がある。民主主義諸国は相互に支援し合い、輸入禁止や過剰な関税の対象とされた産品に別途の市場を提供することとなる」
(岡崎研前掲)

たとえば、「経済の集団安全保障体制」という国際連携の枠組みができれば、中国から直接的経済攻撃を受けている国同士の支援を制度化することができます。
たとえば、2020年に中国がリトアニア産品の輸入を禁止した時、リトアニアのビール・メーカーにとって中国からの注文はなくなった代わりにそれ以前の23倍を超える量のビールの注文が台湾から来ました。

台湾バナナが中国から輸入禁止になった時には、日本で購買運動が起きて一気に挽回することができました。
このような枠組みを、自由主義諸国間で「経済第5条」として定着させるのです。

「これによって、加盟国の一つが標的とされた場合、EUは貿易、投資及び資金的措置をもって報復する権限を有することになった。(略)
中国の経済的威圧に対抗する手段を持つことは重要で必要なことである。3月28日、EUでは、理事会と欧州議会が、第三国によるEUおよび加盟国に対する経済的威圧に対抗する仕組みを規定するEU規則について原則的な合意に達した。
最終的に承認されれば、欧州委員会はそれ自身の発意あるいは加盟国の要請により、経済的威圧のケースの調査を行い、一定の要件を充たすことを認定すれば、対抗措置(関税、輸出入ライセンス、政府調達などの分野における貿易措置)を提案し、提案が理事会により特定多数決で否決されない限り、実行されることになる」
(岡崎研前掲)

昨年、日本は外国の経済的依存に基づく威圧から身を守るため経済安全保障推進法を採択しました。
米国議会では、中国の経済的威圧に直面する米国の同盟国を助けるため、新たな手段を政府に与える法案が米議会に提案されています。
そしてこの日米の動きをより加速するのが「経済の集団安全保障」なのです。
この枠組みを、ヨーロッパではNATO諸国から、アジアでは日本とオーストラリアあたりから作っていきたいものです。

 

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コメント

 WTOが機能不全を起こしているので、国家間協力や経済安全保障推進法の重要性が大きくなっていると思います。
日本の経済安全保障推進法の想定するところは多岐にわたり、対策としても良く出来ています。

けれど、中国とは習だけでなく秦剛外相までが公に他国に対し、「火遊びすれば、その国は焼け死ぬ事になる」などと狂った暴言をまき散らす国です。個別撃破というか、各個優遇対応などを交えての激しい揺さぶりが確実です。
相当の痛みをこらえても、やがてはゼロチャイナとかデカップリングへと進まざるを得なくなるんじゃないでしょうか。

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