スーダン内戦、ワグネルの関与
ロシアの民間軍事会社(PMC)ワグネルが、スーダン内戦とからんでいることが判明しました。
ワグネル創設者のエフゲニー・ブリゴジンは、シラっとしてここ2年以上「ワグネルの戦闘員は1人もスーダンにいない」と説明していますが、ウソではないが真実は言っていないといった類です。
たしかに現時点では、スーダンにワグネルの戦闘員がいるということは確認できていませんが、それはスーダンから手を引いているためではなく、ワグネルがウクライナ戦争で手一杯だからです。
いまも、ワグネルがスーダンの金鉱から輸送機で金を搬出しようとしているのが見つかっています。
CNN
「隣国リビアを捉えた衛星写真には、ワグネルの基地での活動が異常に増加している様子が写っており、こうした主張を補強している。リビアではワグネルの支援を受ける反政府のハフタル将軍が国土の広い部分を支配する。
(CNN2023年4月21日)
ワグネルがスーダンの準軍事組織に兵器供与、証拠浮上 CNN EXCLUSIVE - CNN.co.jp
また、ワグネルがスーダン内戦の片方である準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して、ミサイルを供与していることもわかっています。
AFP
「スーダンではRSFのダガロ司令官と、軍事指導者で国軍トップでもあるブルハン将軍が権力争いを繰り広げている。複数の情報筋によると、供与された地対空ミサイルはRSFの戦闘員やダガロ氏にとって大きな追い風になっているという5
(CNN前掲)
ところで、過去にスーダンにおいてワグネルが活動していた足跡は見つかっています。
BBCはこう伝えています。
「2017年、スーダンのオマル・バシル大統領(当時)はモスクワを訪問し、ロシア政府との間でいくつかの協定書に調印した。
その中には、紅海に面したポートスーダンにロシアが海軍基地を設置する協定や、「ロシア企業のMインヴェストとスーダン鉱物省との間の金採掘に関する利権協定」も含まれていた」
(BBC2023年4月23日)
スーダンで「ワグネル」の影 ロシアの雇い兵組織は何を狙っているのか - BBCニュース
ドミトリー・メドベージェフとスーダン共和国大統領オマル・アル・バシールとの会談
ここでスーダン鉱物省と協定を結んだのがMインヴェストと子会社のメロエ・ゴールドでしたが、米国財務省は双方ともワグネルのフロント企業だと断定しています。
では、ワグネルはスーダンでなにをしていたのでしょうか。
NHKが現地調査しています。
なぜロシアが?スーダンのゴールドラッシュの背後に | NHK
「ロシア企業の名前は「メロエ・ゴールド」。2017年にスーダンでの地質調査を名目に進出し、金鉱がある町アベディヤに巨大な工場を作りました。しかし、この「メロエ・ゴールド」、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」とのつながりがあるなどとして、2020年、アメリカ政府の制裁対象となっていました。(略)
ブローカーによると、「メロエ・ゴールド」が買っているカルタの量からすると、毎月100キロの金を生産することが可能で、年間では1トン以上になるということです。
1トンの金の市場価格は、日本円にすると75億円以上に上ります。(1キロ=5万2338ドル、1ドル144円換算。9月27日時点)
さらにブローカーは、アメリカ政府が関係性を指摘した「メロエ・ゴールド」と「ワグネル」とのつながりについても証言しました。
「彼らは自分たちで工場の警備を行っている。工場に入ることができるのは取り引きを行うときだけ。入り口には無線を付け軍服を着た人間がたくさんいる」
この軍服を着た人が「ワグネル」の傭兵だというのです」
(NHK2022年11月10日)
この証言に登場する「カルタ」とは、金鉱を掘り出した残土のことで、採掘される金の70%はこの残土の中にあります。
ただし、ここから金を抽出するには有害な水銀を使わねばならず、その廃棄物の投棄はスーダンの法律でも禁じられていました。
しかしこの違法採掘をしているのが、ロシア政府の息がかかったワグネルとなると治外法権だったようです。
スーダンにおける金の生産をめぐっては、2019年、当時の軍民共同統治の政府が、民政への移管を目指す中、国の重要な資源の金を有効活用するため、違法採掘や取り引きに関するルール作りを進めていました。
ロシアば2014年のクリミア新興での西側の制裁を回避するために、アフリカの金に目をつけます。
そしてスーダンに軍事支援として兵隊の訓練や武器を供与する一方、金鉱の採掘権を得ました。
この金の違法採掘と軍事支援を努めたのが、ブリゴジンのワグネルでした。
ブリゴジンはプーチンの手先としてスーダン軍部に浸透し、同時に金鉱で私腹も肥やしていたわけです。
BBC
2021年にスーダンでクーデターが起き、軍事政権が誕生すると、スーダンの軍事政権はロシアからの武器の供与の見返りとして、ロシアの違法な資源開発を事実上黙認しました。
軍部と太いパイプがあるロシアが、このクーデターの陰でなんらかの関与をしたのかもしれません。
とくにそれが顕著となったのは、2022年のウクライナへの侵攻後、欧米からの経済制裁を受けたロシアではルーブルが急落し、それを買い支えるために金の保有量を増やす必要があったようです。
ところがこのスーダン軍部は、国軍派のブルハン将軍とRSF派のダガロ将軍のふたりの頭目の衝突でバラバラになります。
アフリカにつきものの軍をめぐる権力闘争ですが、どうやらワグネルはRSF側についたようです。
「文民政権へ権力の座を譲る政治協定の署名・承認が予定されていた中、渋々パートナー同士となってこの4年間スーダンを共同支配してきた2人が互いに戦う運命となることは、ほぼ不可避だった。
しかし、主権評議会議長で陸軍最高司令官のアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍と、悪名高い民兵組織「即応支援部隊(RSF)」のトップであるモハメド・ハムダン・ダガロ将軍の対決は、民主主義の回復やスーダンの人々の数十年にわたる苦境の終結とはほとんど無関係だ。
この対決は実際のところ、権力闘争であり、長年の独裁者オマル・バシール氏に対し2019年に軍事クーデターを起こした勢力の間での戦いである」
(アラブニュース2023年4月23日)
スーダン軍が勝利を収めることが必要不可欠だ|ARAB NEWS
ワグネルは「企業」である以上、金にならなければ出ていきます。
今、輸送機を動員してスーダンから金を運び出す真っ最中です。
自分たちが武器を与えてこんな内戦を引き起こしたのに、逃げるときは金目のものだけ引っ掴んで一目散ですから、そうとうなものです。
どちらかが勝てば、何事もなかったかのような顔をして帰って来る気でしょう。
ところで、ロシアはスーダンだけではなく、アフリカ各地で同様のことをしてきました。
アフリカには、安価なロシア製武器が大規模に拡散しています。
アフリカ諸国、実利求める等距離外交 ロシアも軍事協力 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
たとえばマリでもスーダンと同様に、ワグネルがロシアの手先として浸透して国政に強い影響力をもつようにまでなっています。
「マリで“フランス離れ”が進む中、存在感を強めてきたロシア。過激派対策としてロシア製のヘリコプターなどの兵器を送り、マリとの軍事的な協力を進めてきた。
スウェーデン国防研究所によると、マリに加え、アフリカの少なくとも6つの国にロシアはワグネルを派遣しているとされる。その多くが強権的な政権で、それを支えることで、ロシアとの関係強化につなげるねらいも指摘されている。
さらに、関係強化の切り札として派遣されたと指摘されているのが、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」。(略)
スウェーデン国防研究所によると、マリに加え、アフリカの少なくとも6つの国にロシアはワグネルを派遣しているとされる。その多くが強権的な政権で、それを支えることで、ロシアとの関係強化につなげるねらいも指摘されている」
(NHK2022年10月22日)
“親ロシア”広がるアフリカでいま何が?傭兵部隊ワグネルが暗躍? | NHK
このように軍部に武器を与えて、見返りに鉱物資源を押さえるやり口は、アフリカを支配下に置きたいロシアの常套手段でした。
たまたまスーダンで軍部が内部衝突をしたのでロシアの浸透ぶりが露呈してしまいましたが、スーダンやマリのようにワグネルが派遣されている国は6カ国に登ります。
これが世にいう「グローバルサウス」の実態です。
彼らの多くは国連でロシアの票田として機能しています。
ロシアが“友好国”を拡大? 知られざる国際戦略の実態 - NHK クローズアップ現代 全記録
「ロシアによるウクライナ4州の併合を無効とする国連総会決議が10月12日に行われ、賛成143カ国で採択された。2022年3月のロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議では、エリトリアが反対したほか、アフリカの多くの国が棄権ないし不参加を選択したことが国内外で話題となった。(略)なお、国連加盟国全体では、5カ国が反対、棄権は35カ国で、それぞれに事情は異なるが、依然として棄権の半数以上をアフリカが占めた」
(JETRO2022年10月17日)
ウクライナ4州併合無効の国連決議、アフリカは賛成が微増(ウクライナ、ロシア、アフリカ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)
今後も、ウクライナ戦争のようなワグネルを揺るがすようなことが起きれば、スーダンに似たようなことがアフリカ各地で起きるはずです。
« スーダン邦人退避がなぜ困難なのか | トップページ | スーダン脱出成功、ただし残る問題点 »
みなさんお読みかとおもいますが
https://www.jiji.com/sp/article?k=2023042501174&g=int
ハルツームの国立公衆衛生研究所が正規軍か準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」によって占拠されたそうです。
ワグネルがやっているのか、入れ知恵されたスーダンの組織がやっているのか、わかりませんが。
現地を滅ぼすあまりにもロシア的な攻撃が行われているようです。
原発がないならバイオハザードで脅すんですね…。そして金目のものは全部もってく。
日本の即時停戦派はこれをスルーしてGWにデモをする。維新の親露派議員は訪露する。
地獄の小間使いがよくできるなと思います。
投稿: ふゆみ | 2023年4月26日 (水) 17時07分