クレムリンドローン攻撃は自作自演の可能性が高い
先日の「クレムリン・ドローン攻撃事件」について、IWS(国際戦争研究所)がこんな分析を出しています。
結論から言えば、プーチンの自作自演だろう、というものです。
その理由は、モスクワ、なかんずくクレムリン周辺中枢部には濃密な対空ミサイル網が張りめぐらされており、それをドローンがかいくぐるのは現実的ではないとしています。
「ロシア当局は最近、モスクワ国内を含むロシア国内の防空能力を高めるための措置を講じており、したがってドローンが複数の防空網を貫通し、クレムリンの中心部のすぐ上で撃墜されたりする可能性は非常に低いと考えられる」
(戦争研究所5月4日)
ロシアの攻撃キャンペーン評価|戦争研究所 (understandingwar.org)
ロシアはモスクワ周辺にパンツィリ防空システムという優れた防空網を形成しています。
また、かねてからクレムリン周辺に行くとGPSの位置情報が狂うと言われており、これはGPS誘導のドローンやミサイル対策ではないかと言われてきました。
「露大統領府のあるクレムリン一帯はこれまでも位置情報の異常が指摘されていたが、位置情報を使って飛行するタイプの無人機対策として、妨害電波を流す範囲を拡大している可能性がある」
(読売5月5日)
モスクワでGPS障害、カーナビ誤作動…無人機対策で妨害電波の範囲拡大か : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
戦争研究所は、これらを突破されたとしたら、ロシア軍当局は重大な恥だと思うだろうと書いています。
「そのような防空資産による検出と破壊を回避し、クレムリン上院宮殿のような注目を集める標的を攻撃することに成功したストライキは、ロシアにとって重大な恥ずかしさとなるだろう」
(戦争研究所前掲)
このクレムリンへの複数のドローン攻撃は2発だとされており、一発は撃墜され、一発は大統領府の丸屋根に命中し軽い火災を引き起こしています。
まずは一発目ですが、「石川雅一シュタインバッハ大学」様のユーチューブによれば、この方向から飛来しています。
石川雅一のシュタインバッハ大学: 元特派員と学ぶ国際ニュース】 - YouTube
石川雅一シュタインバッハ大学による
クレムリンからウクライナ国境まで450キロですが、この黄色線の飛来方向はウクライナ・黒海方向ではなくカスピ海方向です。
Google Earthで延長してみましょう。
石川前掲
また、もし仮にウクライナ軍がこのドローンを使ったのなら、使用できるのは自爆ドローンのALTIUS-600M、あるいはUJ-22です。
ALTIUS-600M
UJ-22
UJ-22は20キロのは爆弾を搭載し、800㎞を自律的に飛行可能です。
ただし20㎞爆弾の破壊力では、小型の目標物を破壊するていどでクレムリンの大統領府を攻撃するためにはまったく役不足です。
そして2発目はまったく別方向から飛来しています。
発射場所が2カ所あったのでしょうか。
石川前掲
この2発目は大統領府の丸屋根の先端に当たって、小規模な火災を引き起こしています。
石川前掲
また着弾時に、この丸屋根には3名の身元不明の人間が乗っていました。
石川前掲
この3人がなにをしていたのか、真夜中に警備要員の配置とも思えず、あるいは目標を指示するイルミネーター(誘導用電波照射装置)を照射していたのかもしれませんが、わかっていません。
なお、当時プーチンはこの大統領府にはいなかったとされています。
もし大統領府を攻撃するなら、目的はただひとつ、プーチンの無力化以外考えられません。
したがって、彼の動向を完全に押さえておかねばなりませんが、いなかったとなると、いったいなんのためにこんなことをしたのかわからなくなります。
これでプーチンの警備はいっそう強固になり、以後このようなことは不可能に等しくなるからです。
これがウクライナ側の攻撃とするなら、目的は堂々と防空網を突破してロシア中枢を攻撃可能だと示威することでしょう。
まったくないとは思えませんが、ロシア領土を攻撃することは、米国との約束違反となります。
米国はウクライナがロシア領に手を出せば、さらにエスカレーションラダーを登ってしまうとして嫌っています。
ウクライナがそれを公然と破って攻撃することは考えられません。
去年10月のクリミア大橋の爆破にしても、これがウクライナの攻撃だとプロパガンダできたはずですが、ウクライナ当局は終始沈黙を守りました。
クリミアがウクライナ領土ではありつつも微妙な立ち位置にあるからで、ロシアとの直接対決をなんとしてでも避けたいバイデン政権に配慮したのでしょう。
なお、ゼレンスキーはこのクレムリン攻撃について、直ちに否認しました。
「ウクライナ・ゼレンスキー大統領:「我が国は、プーチンやモスクワを攻撃しない。我々は自国の領土で戦い、村や都市を守っている。兵器に余裕はない。プーチンを攻撃していない。彼は法廷で裁いてもらう」
ウクライナ大統領府・ポドリャク顧問:「占領された領土のロシア軍事施設をすべて破壊するのは重要。それ以外の行為はロシアにテロ行為として解釈され、民間人や民間設備への大規模攻撃の正当化に使われる」
(テレ朝5月4日)
「2度の爆発」人影も…誰がなぜ?考えられる3つの可能性“ドローン攻撃”徹底検証(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
残る可能性は、ロシアの自作自演の可能性です。
その理由を戦争研究所はこう述べています。
「ロシアは、戦争をロシアの国内の聴衆に持ち帰り、より広い社会的動員の条件を設定するために、この攻撃を上演した可能性があります。 いくつかの指標は、攻撃が内部で行われ、意図的に実行されたことを示唆している。(略)
クレムリンはすぐにウクライナがテロ攻撃を行ったと非難し、ロシア当局の反応はこの非難を中心に急速に肥大した。
攻撃に関するロシアの公式の発表は、迅速かつ首尾一貫しており、ロシアが戦争を国内の聴衆にとって実在するものとして組み立てるために、5月9日の戦勝記念日の休日のすぐ近くでこの事件を上演したことを示唆している。(略)
ISWは以前、ロシアがウクライナでの戦争をロシアの国国民に対して実際に目でみえるものとして組み立て、より広範な社会的動員に備えるために一連の措置を採用していると評価していた」
(戦争研究所前掲)
プーチンは西側がクレムリンさえ狙うテロを起こしたとして国家総動員令をかけるかもしれません。
とうぜん戒厳令も付随し、言論やデモは極度に制限されます。
同時にウクライナに対しては、「報復攻撃」と称して民間住宅、病院、学校を狙って女性や子供をミサイル攻撃するでしょう。
こんな反応は誰もが予想がつくことで、だからプーチン自身以外こんな馬鹿げたことは思いつかないのです。
なお、米政府は関与説を一蹴しました。当然です。
F16を送るのさえためらい続けたバイデンが、プーチンを直接狙う攻撃などできるはずがありません。
そんなことができるくらいなら、半年も前にこの戦争は終わっていました。
米国はISWと同じ自作自演説をとっています。
【フォトギャラリー】ウクライナ・最前線の塹壕 - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和と独立を
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コメント
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ウクライナによる攻撃!→ウクライナ工作員によるテロ攻撃!→アメリカに扇動された勢力による破壊工作だ!
プーチンよ、いくらなんでも無茶苦茶すぎるぞ。
昨年キーウに急襲かけて開戦したのはロシアですからね。たとえもしやられても文句が言える筋合いではないですね。
昨日のニュースだとモスクワ周辺ではクルマのGPSが狂いまくってるとか。本気かどうかも怪しいけれども必死でジャミング掛けてると見せかけてるようです。
ソ連時代からモスクワは世界一の防空システムを備えているのが自慢でしたが、冷戦最盛期の40年前に西ドイツのルスト青年がセスナ172で低空侵入して赤の広場に着陸して大騒ぎになったなんてことも。
大韓航空機撃墜事件と続いたので、航空雑誌でも「どうなってる?ソ連防空軍!」なんて記事が大々的にトップでしたが。。
投稿: 山形 | 2023年5月 6日 (土) 09時04分
骨の髄まで腐りきったロシア政府による自作自演・プロパガンダの目標は、事実を見る事の出来る西側社会に向けたものではなかったと思います。
これはつまり、典型的な偽旗作戦であり、それはロシア議会がさっそく「(報復として)戦術核の使用を選択肢に入れよ」と息巻いている事からも明らか。
核使用の脅しとともに、乱れ始めている自陣営やロシア国民の戦意をだましつつ引き締める目的だろうと考えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年5月 6日 (土) 10時23分