ウクライナ軍、反攻準備作戦開始か
現在、ウクライナは大規模反撃をかけると宣言していますが、それがいつ、いかなる形で行われるのか明らかにしていません。
先日、バフムトでウクライナ軍が大きくロシア軍を押し返したという情報が入りましたが、これが反撃開始の号砲なのかどうか、バフムト戦線とどのように関係するのかわかっていませんでした。
確かに、ロシア軍はあれだけ多大な損害をかけてでも占領せんとしたバフムトにおいて、大混乱に陥り退却を余儀なくされているようです。
ブリゴジンがどう言ったの言わないのとは関係なく、視覚的に確認された戦況はこうです。
航空万能論
「ロシア国防省は、ロシア軍がバクムットの北部郊外から「ベルヒフカ貯水池のそばのより有利な位置」に撤退したと発表した。
ロシア国防省は遠回しに「バフムート周辺のクロモヴェ突破が失敗に終わり、ベルヒフカ貯水池周辺の有利な位置まで後退した」と発表したが、ウクライナ軍の砲撃を受けながら徒歩で後退する兵士や車輌を➁付近で、➂の陣地をウクライナ軍に攻撃する様子が確認され、ベルヒフカ貯水池の南部分をロシアが放棄したのは確実だ」
(航空万能論5月13日)
バフムートを巡る戦い、ウクライナ軍の反撃とロシア軍の後退が鮮明に (grandfleet.info)
バフムト BBC
親ロシアのジャーナリストはこう報じています。
「親ロシア派のロシア人戦場記者サーシャ・コッツ氏は、広く予想されてきたウクライナの反攻が始まったと伝えた。
同氏は「信頼できる」情報源の話として、ウクライナ軍の戦車がハルキウの環状道路をロシアとの国境に向けて進んでいるとした。この報告は独立した検証ができていない。
コッツ氏はまた、「車列の中には西側の(戦車)モデルなどを積んだ低荷台運搬車がある」と説明。(略)
別のロシア人戦場記者、アレクサンデル・シモノフ氏は、ウクライナ軍がバフムート近郊のボーダニフカ村の近くを突破し、「数平方キロメートル」の土地を確保したとテレグラムに書いた」
(BBC5月12日)
ロシア、ウクライナ軍の前進を否定 東部の前線 - BBCニュース
ブリゴジンはあいかわらずオーバーなしぐさでこう言っていますが、ワグネルが後退したことは確かなようです。
「中でも目を引くのは、ロシアにとって屈辱的と思われる戦場での後退を暴露したことだ。プリゴジン氏は今週の投稿で、東部バフムート周辺からロシアの旅団が「逃走」したため、ワグネルの部隊がウクライナ軍に包囲される恐れが出ていると怒りをあらわにした。
「西部側面の状況は予想される最悪のシナリオで進んでいる」。11日に公開された音声メッセージでプリゴジン氏はこう不満をぶちまけ、「戦友の血と命を代償に解放した領土は今日、我々の側面を支えるはずの者によって、ほぼ無抵抗のまま放棄された」と述べている」
(CNN5月13日)
ワグネルのトップ、怒りのボルテージ上げる これは何を意味するのか? - CNN.co.jp
そこにウクライナ軍がすかさず厳しい砲撃をかけた上で部隊を入れたために、玉突き的戦線崩壊が起きたようです。
では、これが約束していたウクライナ軍の総反撃なのでしょうか。
たしかにその一環ですが、違うと思われます。
これは「形成作戦」と呼ばれる準備攻撃のようです。
「(CNN) ウクライナ軍が予想されるロシア軍への反転攻勢を前に、準備段階に当たる「形成」作戦を開始したことが分かった。米軍や欧米当局の高官がCNNに明らかにした。
形成作戦の内容には、部隊の進軍に備えて戦場の状況を準備するため、武器集積所や指揮所、装甲車、火砲を攻撃することが含まれる。大規模な連合作戦の前に行われる標準的な戦術となっている。
ウクライナが昨年夏に南部と北東部で反攻を仕掛けた際にも、事前に航空攻撃で戦場を形成する作戦が行われた。米軍高官によると、こうした形成作戦は、予定されるウクライナの攻勢の主要部分の前に何日も続く可能性があるという。
ゼレンスキー大統領は11日公開のインタビューで、欧米から約束された軍事支援のさらなる到着を待つ必要があるため、反攻開始には「もう少し」時間が必要だとの認識を示していた」
(CNN5月12日)
ウクライナ軍、反攻に向けた「形成」作戦を開始 米軍高官 - CNN.co.jp
渡辺悦和元陸将このようにツイートしています。
ところで、4月初め、米国からNATO(北大西洋条約機構)の機密文書を流出させたことが話題になりました。
これを分析した深川孝行氏はこう述べています。
「軍団は「機械化旅団」12個で、うち9個は欧米など国外で鍛え上げられ、4月までに完了の予定(機密文書は3月現在)。「機械化」とは戦車や装甲車を多数配備し、攻撃力(火力)とスピード(機動力)に優れているという意味だ。
規模は約5000名、世界で最も実戦経験豊富な米陸軍のフォーメーションが手本になっていることは想像に難くない。(略)
「諸兵科連合部隊」とも呼ばれ、ある程度の規模の作戦を単独(自己完結)で続けられる。最低限必要な部隊を“全部乗せ”した戦闘集団で、MBTが約90台と比較的多いのが特徴だ。「師団」(兵力は1万~1万5000名程度)の規模をほぼ3分の1に圧縮した、小回りの利く“ミニ師団”と考えていい」
(深川孝行5月12日)
ウクライナの一大反転攻勢作戦で第2次大戦以来の「欧州戦車戦」が勃発か ルートは?進軍方法は? 専門軍団の兵力から見るロシア軍壊滅のシナリオ(1/7) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
この西側によってパワーアップされた砲兵、歩兵、機甲部隊などを「全部乗せ」した諸兵科連合部隊が、現状で9個、西側装備ではないものが他に3個あるようです。
実は既にこれだけで、NATO軍のどこの国よりも強力です。
もちろんわが国の自衛隊よりはるかに強力で、いまや米国を別にしてウクライナ軍は自由主義陣営最強の陸軍に育ちつつあるのです。
BBC
「実はNATOの欧州主要国、英仏独の陸軍と同等かそれ以上の戦力だ。中でも「第33旅団」と呼ばれる部隊が最強らしく、話題のMBT、レオ2を50台弱も揃える」
(深川前掲)
つまりNATOのどの国より強力な装備を有し、士気が高く実戦経験豊富なウクライナ兵が用い、英米直伝の指揮で戦って仮に破れたとしたら、もはやロシア軍を止めるものはこの世界にはいないということになります。
あと欠落するピースは空軍力と長距離ミサイルですが、後者は既に英国が供与していることを認めました。
鶴岡路人氏は、今のウクライナ情勢をこのように整理しています。
ウクライナの反転攻勢で言えること:
①露はウの反転攻勢を警戒
②反転攻勢は必ず行われる+一部開始
③ウは装備も訓練も完璧ではないが改善
④露の装備、訓練は悪化傾向
⑤ウは成果が必要(米欧の支援継続に直結)
⑥ウは過剰期待を警戒
⑦露の防御は昨年より強固に
⑧露の防衛線の中には弱い地点もその上で、今回の反転攻勢がウにとって死活的な理由は主に2つ。
(1)軍事面:NATO諸国からの再度の同規模の武器供与は短期間では無理ーー少なくとも今年は1回限りの機会しかない
(2)政治面:成果が上がらないと、武器供与継続への米欧の支持が低下+停戦協議への圧力が高まる懸念が存在する
Michito Tsuruoka / 鶴岡路人(@MichitoTsuruoka)さん / Twitter
反撃は近づいています。
そしてそれは鶴岡氏が言うように、ただ一回かぎりでやり直しが効かないものなのです。
が故に、ウクライナはバフムトに目を向けさせてロシア軍主力を拘束し、準備攻撃によって損害を強いているのです。
ウクライナに平和と独立を
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