F16供与容認からわかること
イソコさんがポカやりました。
バイデンのF16供与容認報道に対して、こうツイートしちゃったのです。
「まさか、日本が保有するF16戦闘機を米国は出させるつもりではないだろうか 殺傷能力を持つ武器の貸与・供与を憲法九条を持つ日本は絶対にやるべきではない」
5月19日Twitter
ここで、イソコ女史が自衛隊にはないF16とF2をゴッチャにしたのは、ちょっとめには似てますから、素人なら間違えます。
だったら武器輸出や安保問題で発言すんなよ、と思いますが、すぐに訂正かけたからまぁいいとしましょう。
すぐに政府批判に結びつけるのはこの人たちの病気のようなものですが、せっかく「F16」という切り口からいろいろわかってくるというのにもったいないことです。
イソコ女史に警戒感を抱かせた報道とはこれです。
「バイデン米大統領は19日、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で各国首脳に、ウクライナ軍のパイロットに米国製F16戦闘機の訓練を行うことを承認したと伝達した。米メディアが報じた。ロシアの侵攻を受けるウクライナはF16の供与を強く求めている。バイデン政権は否定的な考えを示してきたが、供与容認に方針を転換した」
(産経5月20日)
バイデン氏、F16訓練を容認 ウクライナ軍に - 産経ニュース (sankei.com)
私がイソコ・ツイートで問題にしたいのは、彼女、なぜF16をがここで焦点になっているのか、どうやらまったくわかっていないことです。
ゼレンスキーが訪日を決意したのは、後の報道では4月下旬だったそうですが、その理由は世界から集まる首脳陣に対して直接に支援を呼びかけること、そして具体的にはこのF16供与を米国に認めさせることでした。
バイデンからしても、ズっと引き延ばしてきた決断を英国に外堀を埋められ、そして約8千キロ道のりをロシアのテロの脅威にさらされながらやってきた勇敢な戦時指導者に直接訴えられたらもう逃げられませんやね。
米国においては、祖国の自由を守って戦う戦時指導者は絶対的英雄なのです。
冷遇したら共和党になんと言われることやら。
広島サミットがなければ、まだバイデンはグズラグズラしていたかもしれません。
F16戦闘機 アメリカ 欧州同盟国がウクライナに供与決めた場合 容認へ | NHK | ウクライナ情勢
バイデンはここで、デンマーク、オランダ、英国などから出ていたF16の供与及びパイロットの訓練とロシアの核使用のリスクを天秤にかけたのでしょうね。
そして供与を認めたということは、ロシアの核使用の可能性はないとはいえないが、すでにその意志を喪失している、と判断したと思われます。
つまり、よくテレビのコメンテーターが言っている、「ウクライナに武器支援するとロシアがエスカレートして、核を使う」ということはありえないと米国は判断したのです。
次に、ウクライナ側がなぜF16にこだわるのかです。
軍事技術的意味の前に、F16を供与されることによって、ウクライナ国民が鼓舞されるからです。
産経はこのように伝えています。
「筆者(渡辺)が先月、ウクライナで「西側に望む支援」をたずねると軍人もボランティアもF16を真っ先に挙げた。その対空、対地攻撃の性能以上に、ウクライナ国民の多くがF16の供与を西側との紐帯の象徴ととらえていた。
供与が始まれば、パイロットの訓練から始まり、搭載兵器の補給、改修など西側の息の長い関与が必要となるからだ」
(産経ワシントン支局長渡辺浩生5月22日)
つまり、F16はただの戦闘機という枠を超えて、「西側との長い連帯の絆の象徴」なのです。
言い換えれば、ウクライナはすでに長期戦になると読んでおり、その間西側との絆が切れないための担保としてF16を考えているということです。
一方、西側からしてもF16を供与することは、砲弾を供与するのとはわけが違います。
現代の最新鋭戦闘機はテクノロジーの粋を集めて作られていますから、飛ばせるようになっただけではパイロット訓練は終わりません。
すでに米国に先遣隊として派遣されているウクライナ空軍パイロットは優秀な成績を納めて4カ月くらいで飛ばせるようになるというお墨付きを米空軍からもらっているそうです。
ただし、だからといってこの4カ月間で取得できるのは、飛ばして初歩的な空戦をするところまでです。
「この4ヶ月間で習得できる戦闘スキルは初歩的な空対空戦闘のみだ。
専用シラバスを用いた4ヶ月間=16週間の訓練内容は大まかに移行訓練、低レベルの低空飛行訓練、空対空戦闘訓練の3つに分かれており、唯一の戦闘スキル=空対空戦闘は「単機もしくは2機編成による迎撃とAIM-120とAIM-9による基本的なWVR(視界内射程)運用に重点を置く」と言及しており、基本戦闘機機動、空中戦闘機動、空中給油、近接航空支援、水上攻撃といった訓練要素は含まれていない」
独占:米国は16か月でF-4を飛ばすようにウクライナのパイロットを訓練することができます (yahoo.com)
これは空自でいうTR(training )は終了したが、OR(Operation Ready作戦可能態勢)の前という段階です。
まだまだ本命の対地攻撃訓練などはやらしてもらえません。
これでは、ウクライナ空軍がF16を取得することで望むような、クリミア大橋に緊密に張りめぐらされたロシア軍の対空レーダー網を沈黙させ、かつピンポイントでクリミア大橋を落とすことは不可能です。
AGM-88HARMを搭載したF16
ウクライナ軍は露戦闘機を55機撃墜、AGM-88投入で局地的な制空権も確保 (grandfleet.info)
「ウクライナが期待しているような効果をもたらすとは言い難く、AIM-120の射程を生かした視界外戦闘、無誘導爆弾やJDAMを使用した近接航空支援、AGM-88HARMを使用した敵防空網制圧に対応したスキル獲得を全て身につけるには「年単位の訓練期間」が必要で、各国の空軍が何年もかけて育てるパイトットを「短期間で」というのが無理な話なのだろう」
(航空万能論5月20日)
ウクライナ人パイロットは4ヶ月の訓練でF-16を操縦できるようになる? (grandfleet.info) 。
たぶんF16をウクライナのパイロットたちがものにするには、1年間ていどかかる可能性があります。
たぶんそれでは間尺に合わないので、すでに使い勝手のいいミグ29にHARMを統合したりしているのは知られています。
機体自体は、NATOのいくつかの国でF35の機種転換が行われているので、余剰となっていますから、すぐにでも供与可能です。
そもそも米国がその気にさえなれば、数百機のF16などたちどころに湧いてでるのですが。
問題はそれを操るパイロットと整備の人たちの訓練の成熟具合です。
この夏から始まるといわれていますから、早くてこの冬くらいから空戦ていどはこなせるパイロットが生まれてくると思われます。
とまぁこのように、「F16供与容認」からだけでも、わかってくることがたくさんあるのですよ、イソコ女史。
Coming this fall!
The greatest air force blockbuster of all time!
F-16s in Ukraine's skies!
We shall defend our skies!
ウクライナ国防省
ウクライナの空に平和が来ますように。
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コメント
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望月記者には、かつて「武器輸出と日本企業」という著書があり、私は100円プラス送料の古本で購入。しかしその内容は専門的性に欠け、ゆえに説得力も奥行きもない内容なので、30分も読めば十分のシロモノでした。F16とF2を混同させるのはその専門性の欠如と言えなくもないですが、そもそもこの二機は役割が違いますので、ウクライナが自衛隊機をもらっても困惑するだけかも。
いずれにしてもウクライナの空でF16が活躍するのはまだ先の事で、今回の反抗作戦のキーになるものではないですよね。
その後の反抗作戦シーズン2に向けたものか、記事のように西側の支援の永続性・象徴的意味合いの強いものだと思います。
けど、ロシア側のミサイル防衛網に順次的に穴が出来次第、F16の重要な任務と出番が廻って来るんじゃないでしょうか。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年5月23日 (火) 13時37分
イソコたん、F2に訂正しても、その性質からしてウクライナに求められないし、それより日本から戦闘機を供与するなど全く出たことがない話ですから、訂正するならば「日本の戦闘機供与は現実的でない話でした申し訳ありません」が適切なんじゃないですかね。
あれは妄想、もしくは叩けるからそうであって欲しい願望なので、良い子のみんなは元ツイも訂正ツイも丸呑みしない方がいいよん。
その上、山路さん仰る通り「武器輸出と日本企業」(角川新書 2016)という著書があるわけで、私は読んでいませんが、内容が薄くとも、イソコたん二重三重に恥を晒すの巻。
そんなことはさて置き、「F16が戦況を劇的に変えることはない」と米空軍長官が言ったと朝日新聞は報じていますが、戦況を劇的に変えられるものって例えば何?核?というわけで、そんなことはわかっているし、そもそも「劇的に」なんて目標は誰も設定していないし。
鬼怒川水害の被災者の方のお話を参考に書けば、大規模災害に遭遇して安全確保もままならずに恐怖と心細さでいっぱいな時に、音が聞こえ、自衛隊ヘリの姿が見え、近付いてきてくれた時の気持ちや如何に。そのようなことは大きいですよね。
侵略され滅ぼされるかどうかの時に、友軍が途切れず関わってくれる、その心強さはひとしおでしょう。
いずれ来る時のために、法と道徳的優位性を保ちながら、より良い準備ができることを願うばかりです。
投稿: 宜野湾より | 2023年5月23日 (火) 14時33分