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2023年6月

2023年6月30日 (金)

「ワグネルの乱」と核兵器

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「ワグネルの乱」を観客席から見ていた西側は相当に憂鬱な気分だったようです。
西側はロシアの解体を望みません。
ソ連崩壊のようなことが起きると、核兵器の処分だけで大問題だったからです。
いちばんいい例はウクライナです。
ウクライナは1990年代前半、米ロに次ぐ世界3位の核保有国で、ソ連が崩壊し、独立したウクライナ国内には当時、1240発の核弾頭と176発のICBMが存在していました。
このウクライナの残った核兵器をいかにして取り上げるかが問題となりました。

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fsight.jp

「独立後初代のレオニード・クラフチュク大統領は一時、戦術核の搬出に疑問を感じて中断したが、旧ソ連の後継組織として発足した「独立国家共同体(CIS)」への加盟後、自発的に戦術核を搬出。ウクライナは1996年6月に「すべての核弾頭の搬出完了」を宣言した。
 その経緯の中で1994年、米国、ロシア、ウクライナ3国は「ウクライナ非核化協定」に調印、さらに同年、英国を加えた4カ国でウクライナのNPT調印と引き換えに、米英露がウクライナの主権・領土尊重を約束するブタペスト合意に調印した」
(春菜幹男2022年12月26日 )
5000発の核弾頭をロシアに搬出していたウクライナ:ロシアが「核攻撃」すればNPT体制は崩壊へ:春名幹男 | インテリジェンス・ナウ | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp) 

まさにウクライナ版非核三原則でした。
米露はブタペスト覚書において、「ウクライナの領土保全ないし政治的独立に対して脅威を及ぼす、あるいは武力を行使することの自重義務を再確認する」とおためごかしの約束をしてみせ、核を取り上げました。
当時内政の混乱の極にあったウクライナには、大量の核兵器を維持する力はなかったのは事実であったとしても、もっと粘り腰で合意の担保を取るべきでした。
とまれ、ウクライナは誠実に非核化を実行し、その結果得たものは、ロシアの14年のクリミア侵攻と22年全土侵略、そして核による脅迫だったのです。
これほどひどい背信行為はありません。

さて、「ワグネルの乱」直後の26日、ルクセンブルクで開かれたG7会議では、ワグネルが核を奪取する可能性が論じられたといいます。

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「EU=ヨーロッパ連合はルクセンブルクで26日に外相会議を開き、民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こしたロシアの情勢やウクライナの戦況への影響などについて意見を交わしています。
会議に先立って記者団の取材に応じたEUのボレル上級代表は「週末に起きたことが示しているのは、ウクライナへの軍事侵攻はロシアの力を弱め、政治システムにも影響を及ぼしているということだ。ウクライナへの支援を続けることが、これまで以上に重要になっている」と指摘し、ウクライナへのさらなる支援を訴えました。
その上で「ロシアのような核兵器をもった大国が政治的に不安定になるのは望ましい状況ではなく、この点についても考えなければならない」と述べました」
(NHK6月26日)
EU外相会議 武装反乱のロシア情勢やウクライナ戦況など協議 | NHK | ウクライナ情勢


ウクライナ支援のさらなる強化は西側の大義ですから置くとして、「核保有国であるロシアの不安定化は困る」というのが本音です。
たぶんいくつかのシナリオが討議され、その中には「プーチン失脚・プリグジン政権樹立」というシナリオもあったはずです。
その場合、一番の心配は核兵器の管理でした。

「 ロシアの路上を戦車が行き交う映像で思い出されるのは、1991年のソ連時代に共産党強硬派が起こしたクーデター未遂事件だ。当時、懸念されたのが「ソ連の核兵器が果たして安全に保たれているのか」「悪意を抱く軍の指揮官が弾頭を盗み出すのではないか」という点だった、と複数の元米情報当局者は話す。 (略)
ロシア民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こし、一時モスクワに進軍を開始したことで、米政府内には昔の恐怖がよみがえった。それはロシア国内が大混乱に陥った際、保有されている核兵器がどうなってしまうかという問題だ。
元米中央情報局(CIA)高官で欧州とユーラシアの極秘活動を監督していたマーク・ポリメロプロス氏は「情報機関の世界では(ロシアによる)核兵器の備蓄にとてつもない注目が集まるだろう」と述べた」
(ロイター6月26日)
アングル:ロシアの核兵器管理は正常か、ワグネル反乱で懸念浮上 | ロイター (reuters.com)

仮に、ソ連崩壊時のようなことが再現されれば、ワグネルやあるいは鎮圧に向かったといわれるチェチェンのカザロフのようなならず者が核兵器を掌握してしまう悪夢もないとはいえなかったのです。

「国防総省の元高官だったエブリン・フォーカス氏は米メディアの取材に、「今回、ロシアで内乱があった時、すべての核施設を責任者がしっかり管理し続けられるかが最も心配だった」と述べている。
というのも、核兵器が反乱軍の手に渡った場合、地球のか6月30日)なりの地域を「消し去る力」が敵方に渡ることを意味するので、米政府関係者は神経を尖らせていた」
(堀田佳男6月30日)
ワグネルの乱:早くも米国で取り沙汰され始めたプーチンの後継者 ロシア崩壊で最も心配される核兵器の行方は(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

しかしかつてのソ連崩壊時と異なるのは、現代のロシアの核兵器管理システムはかなり堅牢にできていることです。
秋山信将氏(一橋大)はこうツイートしていました。

「それに比べれば今はもっと核管理のガバナンス体制はまともだろう。ワグネルが核貯蔵庫を襲ったとして、果たして核を奪取できるのか、また奪ったとしてどんな使い道があるのか、そもそも起爆させられるのかなどを考えるとリスクを過大に評価すべきではないでしょう。
プリゴジンの乱で、にわかに核管理のリスクや核セキュリティ上のリスクが注目されたが、一般での盛り上がりとは裏腹に、核屋が集う僕のツイッターのタイムライン上では、巷間騒ぐほどリスクがあるわけではないという議論で盛り上がっていました」
(秋山信将ツイート 6月27日)
nobu akiyama

秋山氏が指摘しているのは、今の米国の核管理システムをそっくりそのままロシアに移しかえたロシア核発射システム「チェゲット」のことです。
米国が大統領、副大統領、ホワイトハウス補完用と三つに分けているように、発射命令権限を3ツに分割しています。
この3名とは、大統領、国防相、参謀総長の3名です。
現在では、プーチン、ゲラシモフ軍参謀総長、そしてショイグ国防相の3名ということになります。

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ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長
ロシア統括司令官にゲラシモフ氏 参謀総長が直接作戦指揮|全国のニュース|北國新聞 (hokkoku.co.jp)

プーチンが発射命令許可を国防相と参謀総長に求めると、随伴しているロシア軍士官が核戦争用通信装置「カフカース」を使って送信します。
残り2名が同意して認証すると、初めて大統領の発射指令が有効になり、戦略ロケット軍司令部に送られて発射の運びとなります。

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チェゲット【詳しく】ロシアは核兵器を使うのか?プーチン大統領の判断は? | NHK

やっかいなのは、この「チェゲット」以外に、もうひとつ半自動式発射システムがも用意されていることです。
これは米国の核発射を感知したり、露大統領が暗殺されたりした場合、人間の判断を迂回して核を発射するシステムです。

まるでターミネーターの世界ですが、本当にロシアには存在します。
米国にも似たものがあると言われています。
たぶんトランプが持ち出した核の秘密文書には含まれているはずです。
ロシアの半自動式発射システムは、その名も「ぺリメートル」(死者の手)という悪趣味な名称を持っており、これがあるために、西側はプーチン暗殺をためらっているとささやかれています。

仮にプリゴジンが、核を掌握しようとした場合、以下の2つの方法で「チエゲット」の認証カードを奪うこと以外にありません。

①プーチンを暗殺以外の方法で拘束すること。
②ゲラシモフ軍参謀総長とショイグ国防相を拘束すること。

ですから、本気でクーデターをしたかったのなら、この3名をつかまえなければならないのですから、手の届かないサンクトペテルブルクに逃げられた時点でゲームオーバーなのです。

それにしても同時期にプーチンは、ベラルーシに核の前進配備をしており、その場所に今回「反乱軍」の頭目に私兵をつけて移駐させようというわけです。


「そうだ、彼は確かに本日、ベラルーシにいる」とルカシェンコ大統領は集まった国防関係者に述べ、プリゴジン氏のベラルーシ亡命を手配したのは自分だと話した。
大統領は、もしワグネル戦闘員がプリゴジン氏に合流したいなら、使われていない軍事基地を提供すると述べた。「フェンスもあり、なんでもある。自分たちでテントを設置するといい」。
さらに、ワグネルがその実戦経験をもってベラルーシ軍の助けになることを期待するとも述べた5
( BBC6月28日)
ベラルーシ大統領、プリゴジン氏の到着を発表し亡命を歓迎 ワグネルに基地提供と - BBCニュース

ルカシェンコは極めて不安定な独裁政権です。
常に反対派におびやかされており、今回もプリゴジンに同調する動きかありました。
もしルカシェンコが倒れて反プーチン勢力が権力を掌握し、核基地も掌握したらどうするつもりでしょうか。
チエゲットがあるからと、安穏としていられるのかどうか。
その時、プリゴジンがどのように動くのか、それほどまでにルカシェンコを信じているのか、それともなにか別の意図があるのか、いずれしても理解に苦しみます。

 

 

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Володимир Зеленський
ウクライナに平和と独立を

 

 

 

 

2023年6月29日 (木)

プーチンとプリゴジン、そしてゼレンスキーに見る歴史の天才的凝縮

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秦郁彦氏によれば、歴史には「天才的凝縮」があると言ったのはステファン・ツワイクだそうです。
その凝縮された一瞬にいかに身を処するのかで、その人物のみならず歴史まで変わってしまいます。
たぶんプーチンとプリゴジンにとって、先週からの2日間はまさに「歴史の天才的凝縮」の時間だったに相違ありません。

ロシアは、プリゴジンがモスクワに200キロと迫りながら突入しなかたっことを「ロシアの民度の強さ」「社会の安定性」なんて言っているようですが、笑止です。
プーチンは勝ったわけではなく、ただプリゴジンの戦略意志が不徹底であることに助けられただけのことです。

プリゴジンはこう言っていました。

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ANN

「ワグネルの司令官評議会は、軍指導部がもたらした悪を阻止しなければならないとの決定を下した。彼らは兵士の命を軽視し、正義という言葉を忘れた。われわれは正義を取り戻す。何万人ものロシアの兵士を殺した者は罰せられるだろう。
抵抗しないでください。抵抗する者は脅威と見なし、直ちに抹殺する。

 これを終えたらわれわれは祖国を守るために前線に戻る。大統領府、政府、内務省、国家親衛隊、その他の組織は通常のように機能するだろう。軍の正義は回復するだろう。その後、全ロシアに正義が戻る。
ショイグ(国防相)はわれわれの男たちを殺すためにヘリコプターを飛ばした。説明を回避するためにひきょうにも逃げた。
われわれは2万5千人おり、なぜ国で無法状態が起きているのか解明しようとしている。
これは軍事クーデターでない。正義の行進だ。われわれの行動は軍隊を妨害するものではない。軍人の大部分はわれわれを熱烈に支持している」
ワグネルのプリゴジン氏主張 | Reuters

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ワグネルが武装蜂起、ロシア軍の南部軍管区司令部を制圧(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

なんとプリゴジンは、自称2万5千の軍を動かし、空軍機を8機撃墜し、南部軍管区司令部を占拠して、なおこれを「軍事クーデターでない。正義の行進だ」と言っているのです。
彼は、いわば2.26事件の皇道派のようなことをしてしまいました。
君側の奸であるショイグによってプーチン大帝の眼が曇っている、これを実力排除しさえすれば大帝は正気に戻られる、それを哀訴しにモスクワに行く「正義の行進」だという論法です。
ですから大帝自らが「反乱は許さない」と断ずれば、それで終わってしまいます。

こんな不徹底な意志で勝てる道理がありません。
明確に現政権を打倒する軍事クーデターだと自覚し、そのためにあらゆる軍事的、政治的手段を使うのでなければ目的が成就するはずがないのです。
その中に核兵器の奪取が含まれていれば、今頃私たちはモスクワにプリゴジン「新政権」が生まれ、サンクトペテルブルクの「旧政権」と対峙している光景を見られたはずです。
ただし、仮に核を奪ってもそれを管理し作動させる能力はあるとは思えませんが、威嚇効果は充分でしょう。
もっとも欠落していそうな政権奪取後の運営能力も、政治犯らを釈放し擬似的にでも大統領選挙をしてしまえば、なんとか凌げるでしょう。

とまれ、プリゴジンには勝機がありました。
いったん「蜂起」したら走りきるしかないのです。
プリゴジンは誰にでもなく、自らの不徹底な意志に敗北したのです。

一方プリゴジンに攻め込まれそうになったモスクワは、上を下への大騒ぎだったようです。
プーチンは真っ先に政府専用機でサンクトペテルブルクに逃げ出してしまい、側近や官僚たちの多くが逃亡し、「逃亡禁止令」が出たほどでした。
彼らが恐怖した最大の原因は、南部軍管区が戦わずワグネルの支配下に入り、ロストフの住民たちもこぞってワグネル軍を歓呼の声で迎えたことでした。

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購読して読む|フィナンシャル・タイムズ (ft.com)

モスクワタイムスが、彼らの当時の状況をこう述べています。

「下院は、新たな軍事反乱が発生した場合に当局者がロシアを離れることを禁止することを提案した ロシア当局は、テロ対策作戦(CTO)体制が導入された場合、国を離れることを禁止されるべきである、と下院副スルタン・カムザエフは述べた。
「地域にCTO制度が導入されたことで、あらゆる階級の役人が国を離れることを法的に禁止されるべきである」と副官は述べた。
副官は、現時点でそのような禁止が法執行機関の代表者に適用されるとした。
6月24日に、モスクワでの行進を発表したワーグナーPMCの指揮官エフゲニープリゴジンの軍事反乱を背景に、CTOは首都、モスクワ、ヴォロネジ地域に導入された。
同時に、高官らはモスクワを逃げ始めた。
特に、特別飛行分遣隊「ロシア」の航空機がサンクトペテルブルクに飛行したが、誰を輸送していたのかは不明である。(略)
CTOの時点で、モスクワの占拠の脅威に関連して、政府機関をサンクトペテルブルクに移管する可能性がある。
エリートたちはもはや完全に安全だと感じていない、とネザヴィシマヤ・ガゼタの編集長であるコンスタンティン・レムチュコフはニューヨークタイムズに語った。「反乱の日に何人かの有名人が首都から逃げた」と彼は言っている 」
(モスクワタイムス6月27日)

モスクワでは、迫り来るプリゴジンのたかだか2万5千(実態は半分以下)の傭兵軍に怯えてテロ対策作戦法(CTO)が発動されたようですが、すでに多くの政府職員や政治家はモスクワから逃げ去ったようです。
どうやら保安部隊には死守を命じたとみえて、モスクワ市内には軍隊が配置され、歩兵戦闘車や多くのトラックが映像で確認できます。
ただ動きは鈍く、これらの部隊は戦車などの重装備は持っていなかったようです。

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ロシア軍事指導部の悪事を止めなければ!プリゴジン氏“報復”を明言 ワグネルをミサイル攻撃か…モスクワは軍用車両で警戒|FNNプライムオンライン

また政府中枢をサンクトペテルブルクに遷都させることすら検討されていたようで、プーチンはここから指揮を執るということになっていたようです。
当時ワグネル軍は、ロストフでガス欠のために進軍どころではなかったようですので、これでは水鳥の羽音に怯えて逃げまどう平家です。
なんせ、南部軍管区は、ドネツクからロストフまでトレーラーに戦車を乗せて突っ走るワグネル軍を止めるどころか、検問ひとつできないでボーっと突っ立っていたのですから、消極的支持と見られたのでしょう。
唯一まともに阻止を試みたのは空軍だけで、その結果あえなく7機ものヘリと希少な空中指揮管制機まで落とされるありさまです。

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ワグネルが撃墜したロシア軍機か SNSに残骸の画像 - CNN.co.jp

「ロシア軍はまともに抵抗した様子が無く、無血開城に近い形で南部軍管区司令部をワグネルに明け渡しています。この他に行政府の庁舎や警察署、FSB(情報機関)の庁舎、軍事基地、飛行場なども制圧されています。一体何が起きているのでしょうか?
今のところワグネルの武装蜂起に正規軍や国家親衛軍が合流する動きは見られません。ですが正規軍がワグネルの武装蜂起に何も反撃しないというのも奇妙です」
(JSF6月24日)
ワグネルが武装蜂起、ロシア軍の南部軍管区司令部を制圧(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

南部軍管区司令部ロストフ・ドヌーを無抵抗で落とした後、先鋒はすでに首都圏のリペツクの先にまで達していました。
たぶん抵抗がなければ、半日もかからない距離です。

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ワグネル部隊撤収 ロシア政府、プリゴジン氏の罪問わず ベラルーシに出国へ:北海道新聞デジタル (hokkaido-np.co.jp)

占領したロストフ・ドヌで、プリゴジンと南部軍管区司令官、国防次官と思われる2人とまるで茶飲み話のように話あっていますが、ただショイグとゲラシモフを連れて来いだけではなかったはずです。

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プリゴジン氏、なぜプーチン氏に牙むいたか - WSJ

上の写真は、ロストフドヌーでの南部軍管区司令部で話あう、同司令官のウラジミール・アレクセーエフ中将とユヌスベク・エフクロフ国防次官の様子です。
なにが話あわれたのかはわかっていませんが、穏やかな雰囲気が察せられ、軍事占領したならず者と軍区司令官と国防次官との会談とは思えません。
オメー、ガスは足りてんのか、榴弾砲貸そうか、ウチのテカ連れってくか、プーチンはオメーを許さねぇと言っとるらしいぞ、とか言っていそうです。

この状況を見て、プーチンやショイグは、南部軍管区はすでに寝返ったと判断したのかもしれません。
ワグネルと南部軍管区のが合流するとなると、国家親衛軍の治安部隊だけではとうてい抑えきれるせのではないという危惧が現実のものになりそうなので、あわてて首都にCTOを出して、要人を逃がしたのでしょう。

プーチンは携帯にプリゴジンが出ないという理由で、ルカシェンコに交渉を丸投げしてしまいました。
その上、「蜂起」当初の24日午前には、プリゴジンを裏切りだと断じて処罰すると言っていたのを翻し、反乱罪に問わない決定を下してしまいました。その間たった半日。朝令暮改も極まれりです。
国内の反乱を外国の首脳に調停をお願いするだけでも充分に醜態なのに、どうぞ亡命してください、なんならワグネル軍もお連れ下さいでは、話になりません。

しかも我が身かわいさで、サンクトペテルブルクに真っ先に逃げ出しているのですから、この人物のマッチョ神話は完全崩壊です。

さてもうひとり、このウクライナ戦争で「歴史の天才的凝縮」された時間に遭遇した人物がいます。
いうまでもなく、それはゼレンスキーです。

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ロイターさんはTwitterを使っています: 「「われわれはわが国の独立を守る。それがわれらの未来だ。男性も女性も、わが国を守る人々に栄光あれ! #ウクライナ に栄光あれ!」(ウクライナのゼレンスキー大統領) https://t.co/duyELxLzS7」 / Twitter

「ウクライナ戦争でそれに近い瞬間を探すとすれば、ロシア軍の侵攻から2日目の2月25日の夕方、主演はウクライナ軍の最高指揮官を兼ねたゼレンスキー大統領といえそうだ。(略)
まず注目したいのは、前線部隊の健闘状況を知り得ない側近たちの多くが、悲観的気分に包まれていた心理状況である。(略)
ロシア軍の圧倒的な軍事力を知る内外の軍事専門家たちは、ウ軍に勝ちめはなく、72時間以内にキーウは占領されるだろうと推測していた。米欧諸国も半ば見放していたのか、ウ側からの至急の援助打診しても色よい返事はなく、代わってゼレンスキー以下の脱出や亡命を促してきた。ヘリを派遣してもよいとの申し出もあった。(略)
大統領はがスタッフを集めて決意を告げたのは、25日の夕方である。「ここに残るかどうかは各人の判断に委ねる」と告げるや、泣きだす女性もいたという。(略)
暮色の迫る午後6時半、自撮りした写真はやや鮮明さを欠くが、「われわれは屈せずに戦う」と宣言し、「「独立を守るウクライナに栄光あれ」と結んだゼレンスキーの肉声はSNSを通じて世界中に流れ、感動を与えた」
(秦郁彦『ウクライナ戦争の軍事分析』)

いまでもこのゼレンスキーの姿はまぶたに焼きついています。
それにひきかえプーチンは身内同然の元調理人の「反乱」にさえ立ち向かえない。
戦争は人の真実を暴き出します。
この対極的ともいえる差は、指導者以前の人格の問題です。

 

 

 

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「ウクライナ軍は不可能を成し遂げた」=ゼレンスキー大統領  ロシアのウクライナ侵攻100日 - BBCニュース
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月28日 (水)

プリゴジン、ロシアの「戦争の大義」を完全否定

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プリゴジンはいろいろなことを言い散らしています。
ゴロツキのアイツの言動から話半分以下で聞くべきですが、今回はホホっーということも言っています。

6月23日の自身のテレグラムで、プーチン大帝の「ロシアの戦争の大義」を全否定してみせたのです。

「ウクライナでの戦争を巡り、プリゴジン氏は軍や国防省を繰り返し批判してきているが、ロシアの「特別軍事作戦」をウクライナの「非武装化、非ナチ化」が目標という政権の説明を今回初めて否定。テレグラムに投稿した動画で、ロシアがウクライナ侵攻を始めた「2月24日に起きたことは日常茶飯事にすぎない。国防省は国民と大統領を欺こうとし、ウクライナからとんでもない侵攻があり、北大西洋条約機構(NATO)全体でロシアを攻撃することを計画していると説明していた」と述べた。
さらに「戦争はショイグ国防相が元帥に昇格するために必要だった。ウクライナを非武装化し、非ナチ化するためには必要ではなかった」と強調。エリート層の利益のためにも戦争は必要だったという見方も示した。
また、ロシアは侵攻に踏み切る前にウクライナのゼレンスキー大統領と協定を締結できたはずだったほか、戦争ではロシアで最も有能とされる部隊を含む何万人もの若い命が不必要に犠牲になったとし、「われわれは自らの血を浴びている。時間は過ぎ去っていくばかりだ」と述べた」
(ロイター6月24日)
ウクライナ戦争、軍上層部の「うそ」が根拠に ワグネル創設者が非難 | Reuters 

ふーん、ロシアの言う「大義」とはずいぶんと違いますね。
尻まくっちゃったんでもういいんでしょうね。あるいは殿への諫言なんでしょうか。
ロシアはウクライナに対して、なんと言って侵略を仕掛けたんでしょうか、思い出してみましょう。
ウクライナは国じゃねぇ、あいつらはネオナチ国家で、ロシア系国民を虐待し、さらにはNATOとつるんでロシアに攻撃をしかけているんだぁぁ、でしたね。
ロシア軍がウクライナの産院を爆撃したのも、あそこがネオナチのアジトだったからだぁ、なんて言ってませんでした。
ネオナチ相手なら、病院を患者もろとも爆撃しても許されるようです。

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駐日露大使館のツイートには、見よ、これがウクライナがネオナチの証拠であるぞよ、と麗々しく写真つきで登場しますが、そんなにネオナチって国家を乗っ取るほどすごかったんですね。(わけねぇだろ)
秘密外交文書を読んだことが自慢の佐藤某など、なにかといえばウクライナはネオナチ国家だと言い続けていましたっけね。
あるいは、例のミンスク合意をウクライナが破ったとも言っています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/koizumiyu/20211210-00272010

ちなみにロシア大使館は、日本におけるニセ情報のコントローラーですのでお気をつけ下さい。
多くのロシアンフレンドはここの人間から「秘密情報」をもらってネットに発信し、あとはソースがわからないままエコーチェンバーしていく仕組みです。
この仕組みはソ連時代から変わりません。
日本でも原発事故の時の放射脳の人たちのデマっぷりを思い出せばわかるでしょう。

私はオープンソースを中心にして考える習慣をつけるようにしています。
やっぱり米大統領選での失敗に懲りています。
ですから、私のブログには「裏情報」はありません。
引用ソースには検証可能なようにリンクを貼っておきます。

さて、プリゴジンは「蜂起」直前とみられるテレグラムで、ロシアの侵略の言い分を完全に否定しています。
ロシアの内情を知るにはいい「証言」です。
プリコジンはこの収録された時点ではだれにも拘束されておらず、なにかを見てしゃべってもいません。自分の言葉で自由にしゃべっているように見えます。
戦争当事者の「証言」ですから、彼が正しいことを言っているのかどうかを別にして、一級資料であることは事実です。

では、まずは聞いてみることにしましょう。
誤訳が流布しているようなので、ナザレンコ・アンドリー氏が逐語訳をつけてくれた動画がありますので、スクショごと引用させていただきます。ありがとうございました。
ナザレンコ・アンドリー

この動画で「特別軍事作戦」なるものがどうして始まったのかについて、プリゴジンはこのように述べています。

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「ドンバス周辺のちょうどわれわれ(ワグネル部隊)が突破しようとしていたところに確かにウクライナ軍はいた。
この部隊は志願兵というか、ナショナリスト(注アゾフ連隊のことだと思われる)によって編成されていた。
彼らはウクライナ正規軍とも戦って。われわれは彼らと2014年から22年の4年間を戦った。
砲撃戦は強弱があったが、2022年2月24日までなにひとつ異常なことはなかった」
この部分は重要です。キエフ合意違反はしていないと、対戦相手が言っているのですから、これほど確かなことはありません。

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しかし突如としてこの「特別軍事作戦」が始まり、状況は一変します。
その理由についてプリゴジンは、「国防省が世論と大統領を騙している」と決めつけています。
もっとも私は、そうは思っていません。
あの専制主義国家でプーチンの意志を離れたところで意思決定はできないし、仮に騙されていたとしても、ショイグごとき小物に騙されるだけの狂気に陥っていたのはプーチンの側なのです。

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それはたとえば、先の駐日ロシア大使館やロシアンラバーがよく言っているように「ネオナチがロシア系市民を殺している」とか「NATOが後ろ楯となってロシアを攻撃している」「ミンスク合意をウクライナは破っている」、という「大義」でした。
しかし、プリゴジンは、ウクライナは破ってなんかいないぜ、と言ってしまっています。

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プリグジンはこういう「大義」を嘘だと決めつけ、市民への攻撃はウクライナ側からなく、あったのはロシア軍やワグネル部隊に対してだけだったとしています。
つまりミンスク合意は守られていたという証言です。
そしてこの「特別軍事作戦」を起こした理由は、「国防省のクズ共が勲章や星を増やしたいために起こした」と断言しています。

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特に「ショイグ国防大臣は元帥になりたがっていたために、この戦争をPRの場に使ったのだ、ショイグの元帥昇進の命令書はすでにできていた」、としています。
ショイグが2つめのロシア連邦英雄勲章をもらい「平時に2つの英雄油勲章と元帥のくらいを得た偉大な軍師」として君臨したかったのだと述べています。
この辺はショイグに対する妬みですね。

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そしてこれは「歴史に名をきざみたい野望を持った男」が起こしたもので、ロシアを衛ためのものでもなければ、ウクライナの非ナチ化のためでもでもない」と言い切ります。
この部分で、完全にロシアの戦争大義は真正面から否定されています。

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プリグジンに言わせると、プーチンはショイグに騙されたのだ、ということのようです。
あいにく私はまったくそう思っていませんが、彼の忠誠心は不動のようです。
後はダラダラと恨み節ですから省きますが、興味ある方は元の動画をごらんください。

「プリゴジンの乱」の「面白さ」は、ロシアの権力構造の内側を暴露しまくったことです。
プリゴジンは、なんせあのおしゃべりで落ち着かない男ですから、「蜂起」前後からモスクワのオリガルヒ仲間や民間軍事会社のボスたちに携帯しまくったようです。
それはもちろん完全に米国に傍聴されていましたから、情報機関の連中は腹を抱えて笑いころげていたでしょう。
これでプーチン政権の内幕は完全に暴露されました。
とりあえずベラルーシには逃げおおせたみたいですが、この男はプーチンの中東、アフリカ工作の裏側すべてに関わってきた人物です。
「知りすぎた男」は元秘密警察長官の国では長生きできません。

 

※お断り、今回から「ブリゴジン」表記をあらためて「プリゴジン」としました。
Yevgeny Viktorovich Prigozhinですので、プリゴジンのほうが正確でした。申しわけありません。

 

 

 

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Рубрика(@rubryka)さん / Twitter
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月27日 (火)

「ワグネルの乱」を知っていたウクライナ

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こうして「ワグネルの乱」は一幕の茶番で終わったのですが、ウクライナ戦争とどのようにからんでいたのでしょうか。
まずこの乱について、米国の情報部が事前に知り得ていたとワシントンポストは報じています。

「ロシアの民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こす前に米情報当局が兆候をつかみ、政権や議会の限られた関係者に伝えていたと、複数の米メディアが24日報じた。情報当局は反乱の成否までは予測しなかったが、成り行きによってはロシアの核兵器管理が不安定化すると懸念を抱いていた。
情報当局は反乱の正確なタイミングは把握していなかったが、起きること自体は確実だと判断。ワシントン・ポスト紙は、政権や議会への説明は「直近2週間以内」になされたとした。政権はプーチン大統領が反乱を西側諸国の陰謀だと主張することを警戒し、反乱が実際に起きるまで表だった行動を控えていた」
(共同6月25日)
米当局、ワグネル反乱を事前把握 ロシアの核不安定化を懸念(共同通信) - Yahoo!ニュース

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ロイター

米国にとって「ワグネルの乱」は静観しているだけのものであり、余計なことをあらかじめ言うとロシアンラバーたちから「米国の謀略工作だ」と言われることのほうがイヤだったようです。
だから沈黙しつつ、唯一核兵器管理が混乱することのみを恐れていたようです。
これはソ連崩壊時から一貫した米国の姿勢で、崩壊時の混乱で核兵器が闇市場に流れるなどということが繰り返されないようち監視していました。

また、可能性としては低いものの、ワグネルが雪だるま式に膨れ上がり、首都に向えばあるいはあるいは、ということも頭の隅にはあったと思われます。
事実南部軍管区は無抵抗という恭順を示しており、一時期状況は流動的ではあったのです。

そして同時にウクライナには、この「ワグネルの乱」の情報をしっかりと伝えていたはずです。
秦郁彦氏『ウクライナ戦争の軍事分析』によれば、侵攻直前の2022年1月中旬にCIAのバーンズ長官は極秘裏にキーウを訪れてゼレンスキーと面会しています。
そこでバーンズは、ロシアが近々ウクライナを侵攻行い、初日にアントノフ国際空港を空挺部隊で奇襲攻撃する予定だと、作戦内容まで教えています。
ゼレンスキーがなんと答えたのかはわかりませんが、国際空港近辺に第4即応旅団が配置され、これが決め手となってロシア空挺軍の奇襲を凌ぎきりました。
この緒戦の失敗が、プーチンの戦争計画すべてを狂わしていきます。

今回もまたワグネルが反乱に走るという情報は、いち早く1カ月以上前にキーウに届けられていたとはずです。
当時、キーウは米国情報機関ルートとは別に、ワグネルから情報が漏洩されていました。
ブリゴジンは5月の初めに、ウクライナ側にバフムトを撤退してくれれば、ロシア軍陣地の展開位置を教えると打診したと言われています。

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ANN

「米紙ワシントン・ポストは14日、ロシア軍のウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムト攻略で主力を担う露民間軍事会社「ワグネル」が、ウクライナ国防省情報総局に「ウクライナ軍がバフムトから撤退すれば、露軍部隊の展開場所を教える」と提案していたと報じた。
インターネット上に流出した米機密文書に基づく報道で、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が今年1月下旬、ウクライナ国防省情報総局に関係者を通じて打診したところ、ウクライナ側は、プリゴジン氏を「信用できない」として拒否したという」
(読売5月16日)
ワグネルが「露軍の展開場所教える」と打診、ウクライナ側「信用できない」と拒否 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

この仇敵から内通のオファーをもらったウクライナ側は、即座に拒否したそうですが、たぶんワグネルの情報はだだ漏れだったはずです。
ロシア軍の機密保持が甘いのは有名ですが、ましておや「民間軍事会社」にまともな防諜組織があるのかさえ疑問です。
ワグネルが、「武装蜂起」を決断したのは5月中旬頃ですが、その準備過程をウクライナは興味津々で観察していたはずです。
そして、ブリゴジンの最終的なゴーサインが、7月1日までに国防省の指揮下に入ることで決断されたというタイミングまでも読んでいました。ウクライナとワグネルほど「長いつきあい」になると、キーウがブリゴジンの心理を読むことなどたやすいことなのです。

「ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が、ロシアのウクライナ侵略に戦闘員を派遣している露民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏に対し、7月1日までに国防省の傘下に入るよう迫っている。プリゴジン氏は猛反発し、プーチン大統領にも公然と異議を唱え始めた」
(読売6月22日)
ワグネル創設者、傘下入り迫る露国防相に猛反発…戦況巡りプーチン氏に公然と異議 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

当時、ウクライナ軍は反攻のチャンスをうかがっていました。
武器は万全とはいえぬものの一定の量の備蓄がかない、損害を受けた部隊の再編も行われ補充も完了しました。
なんといっても西側から新鋭戦車が大量に供与されたことが大きかったでしょう。
あとは空軍ですが、F16を待ちきれないと判断し、あとは反攻のタイミングだけの問題でした。
そのような時、6月24日に、ほんとうにワグネルが「武装蜂起」してしまったのです。
ワグネルに期待などみじんもなかったものの、戦線攪乱の役にくらいたつと判断したのでしょう。
ウクライナ軍はこの機を逃さず他方面で攻勢にでています。

「CNN) ウクライナ軍は24日、民間軍事会社ワグネルの武装蜂起で混乱するロシアに対し、多方面で同時に反転攻勢をかけた。
マリャル国防次官はSNS「テレグラム」で、東部の部隊が同日、複数の方向に攻撃を仕掛けたと発表。具体的にバフムート、ヤヒドネなど数カ所の名前を挙げた。
マリャル氏は「全方面で前進がある」と述べたが、それ以上の詳細には言及しなかった。
同氏はまた、ウクライナ南部で激しい戦闘が続いているとも報告。ロシア軍は守勢に回り、ウクライナ軍の動きを必死に阻止しようとしていると主張した」
(CNN6月25日)
ウクライナ軍、ロシアに多方面攻撃 国防次官が発表 - CNN.co.jp

また南部戦線において、ダムの決壊によって先のばしになっていたドニプロ川の渡河作戦が敢行され、部隊は対岸の上陸に成功しました。

「ロシアの有力紙イズベスチヤは16日、ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニプロ川東岸のノバカホフカに上陸を試み、東岸を占領する露軍と銃撃戦になったと報じた。
ウクライナ軍関係者は16日、自国部隊がノバカホフカに反撃拠点となる橋頭堡を確保する作戦を開始したとSNSで明らかにした」

(読売6月17日)
ドニプロ川の渡河作戦、東岸で銃撃戦…ウクライナが反撃拠点の橋頭堡目指す : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

そして、「ワグネルの乱」の前日、ウクライナ空軍はウクライナとクリミアを繋ぐチョンハル橋を長距離ミサイル・ストームシャドーで破壊しました。

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BBC

「チョンハル橋は、並行する2本の橋からなる。ロシアが任命したヘルソン州トップのウラジミール・サルド氏によると、2本とも損傷した。負傷者はいなかった。
サルド氏は、イギリスがウクライナに供与した長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」が、「イギリス政府の命令」による攻撃に使われた可能性が高いと述べた。
チョンハル橋はクリミア半島からウクライナ本土南部の前線への最短ルート。ロシア占領下の都市メリトポリへと続く重要な連絡路でもある。メリトポリは今月初めにザポリッジャ州で始まったウクライナの反転攻勢の標的のひとつだと考えられている」
(BBC6月23日)
ウクライナ、クリミア半島と結ぶ橋を攻撃か 英長距離ミサイルを使用とロシア - BBCニュース 

いよいよ、クリミア半島とヘルソン州全域を射程に入れたウクライナの反撃が始まったようです。

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NOELREPORTS 

このようにウクライナ側の動きを一連のものとしてみると、ウクライナは明らかに事前に米国情報機関からワグネルの武装蜂起を教えられ、それに合わせて反攻作戦を練っていたことが分かります。

ちなみにブリゴジンは行方不明だそうですが、たぶんどこかで変死体でころがっているのが見つかるはずです。

 

 


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JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

ウクライナに平和と独立を

 

2023年6月26日 (月)

「ワグネルの乱」終わる

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BBCのモスクワ特派員ステーブ・ローゼンバークが「いったいあれはなんだったんだ、と言うしかない」と言っていましたが、まったく同感です。
「ワグネルの乱」は武装蜂起を呼びかけ、モスクワに200キロと迫りながら、元の鞘に収まってしまいました。
あれだけ口汚く罵っていたのですから、いつかやるとは思っていましたが、結局このザマですか。
竜頭蛇尾、尻切れとんぼ、頭でっかち尻つぼみ、有頭無尾 。

降伏ではなく再契約だそうです。ウソに決まっているでしょうが。
いったん武器を手放したらオシマイだよ、ワグネル戦闘員諸君。

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【ロシア】ワグネル撤収、プリゴジン氏亡命へ-米も事前に情報把握か - Bloomberg

「(CNN) ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団に対し、民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏との間で結ばれたモスクワへのワグネル部隊の進軍中止に関する合意の詳細を明かし、希望する者はロシア国防省と契約することになると述べた。
ペスコフ氏は「これは進軍に参加しなかった者に関するもので、実際そのような部隊はいた。最初期から考えを変えて戻っていった。いつもの陣地へ戻るため交通警察などの支援による護衛まで要請した」と述べた。゛ペスコフ氏は、ワグネルの戦闘員が進軍に参加したことで法的措置を受けることはないとも語った。大統領府はウクライナの前線での「彼らの英雄的な行動にいつも敬意を払っている」とした」
(CNN6月25日)
ワグネルの戦闘員、基地に戻り軍と契約へ ロシア大統領府 - CNN.co.jp

ワグネルの指導者のブリゴジンは、ベラルーシに逃亡したようで、罪に問わないとのことです。
ベラルーシのルカシェンコが暗躍したとされていますが、彼にはそんな政治力はないはずです。
たぶん、ルカシンコを中に入れてのプーチンとの直接交渉のはずですが、予定調和の匂いがプンプンします。
まるで立て籠もり強盗が、カネを懐にして要求どおりヘリで外国に逃げるみたいなもので、自分の私兵を「武装蜂起」に駆り立てた反乱軍の頭目すら、罪に問われないというのですから失笑します。

なんというご都合主義。結果オーライの人治の国であることよ。

ロシアが戦勝記念日を設けたといまだに言っている「ファシズム国」日本において、2・26事件では決起した皇道派将校17名全員が銃殺、加担した民間人2名も死刑に処されています。
その間、陛下の御意志によりいかなる司法取引も行われませんでした。

ところがブリゴジンは、にこやかに南部軍管区司令部から退出して、ベラルーシに逃亡遊ばしました。
かつてソ連崩壊時にクーデターを起こして、エリツイン政権を打倒しようとした共産党保守派ですら自殺してるのと対照的です。
なにが取引されたのか知りませんが、ブリゴジンの要求であったショイグもゲラシモフも無傷です。
初めからそんな「要求」は見せかけだったのかもしれません。

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BBC
「ワグネル」プリゴジン氏、モスクワへの前進中止を発表 ベラルーシ大統領が仲介とロシア報道 - BBCニュース

ブリゴジンはテレグラムで、この中止を説明していますが、だれもよく理解できないでしょう。

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ブルームバーク


「「彼らはPMCワグナーを解体しようとしていた。我々は6月23日、正義の行進に参加した。一日でモスクワから200キロ近く離れたところまで歩いた。この時、我々は戦闘員の血を一滴も流さなかった」 「今、血が流れるかもしれない瞬間が来た。だからこそ、一方の側にロシアの血を流した責任を理解し、我々は計画に従って軍団を引き返し、野営地に戻るつもりだ」https://twitter.com/wartranslated/status/1672658620671041540 」

なにを言っているのやら。
「われわれ戦争員の血を一滴も流さなかった」って言っても、ロシア軍ヘリを7機も落としているのですから、それだけでも充分に重罪です。
「ロシアの血を流した責任を理解」するなら、直ちに原位置のドネツクに戻り、武装解除を受け、司令官以下の将校は出頭するか、ロシア軍憲兵に拘束されるのが筋です。
実際に、ワグネルはロシア軍が無抵抗のまま南部軍管区司令部のあるロストフ・ドヌーを実効支配してるので、そのまま北上すればモスクワの外周に接近するはずでしたが、謎の中止でした。
それにしてもドネツクからロストフまでヘリの抵抗だけで車列を作ったワグネル部隊がまかり通るとは、呆れてモノが言えません。
この国の国境警備はどうなっているのでしょうか。
OSINTtechnicalT-90S and BMP-2 on heavy equipment transporters. https://t.co/lnFF0S4R3i」 / Twitter

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西日本新聞
ロシア・ロストフ州、ロストフナドヌー、ボロネジ州、リペツク州、ワグネルの動き - 「正義の行進だ、モスクワに向かう」 ワグネル反乱、プリゴジン氏の主張 - 写真・画像(2/2)|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

そもそも、プーチンはこの「ワグネルの乱」が起きた時点でこう言っているはずです。

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プーチン大統領、ワグネルを「裏切り」と緊急演説で非難 プリゴジン氏は「死ぬ覚悟」 - BBCニュース

「プーチン大統領はテレビ演説で「われわれが直面しているのはまさに裏切りだ。過度な野心と個人的な利害が反逆につながった」と非難。反乱を組織し、準備し、仲間に対して武器を取った者たちは、ロシアを裏切ったのであり、その罪を償うことになると述べ、「このような脅威から祖国を守るためのわれわれの行動は厳しいものになる」と訴えていた」
(ブルームバーク6月24日)
【ロシア】ワグネル撤収、プリゴジン氏亡命へ-米も事前に情報把握か - Bloomberg

これは6月24日午前の時点の演説ですが、「われわれロシアの背中を刺した裏切り者」という最大級の表現でワグネルを非難し、「罪を贖え。われわれの行動は厳しいぞ」と警告しています。
つまり、これ以上の武装蜂起」を続けるなら、ロシア軍を使って鎮圧し、首謀者は銃殺刑だという意味です。
ある意味、当然の対応で、内乱罪はどの国おいても死刑以外ありえません。

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【フォト】ワグネル、モスクワ進軍停止 衝突回避、ベラルーシヘ - 産経ニュース (sankei.com)

ブリゴジンと2万5千の兵は、それを百も承知で「武装蜂起」という最終手段に訴えたのですから、いったん始まった以上、完遂するしか選択肢はないのです。
蜂起という戦略概念はもてあそぶには熱すぎ、口から出るや、それを最後まで引受けねばならないのです。
ですから、このプーチンの演説に対してブリゴジンがこう答えたのは至極当然です。 

「この演説後にプリゴジン氏は、ワグネルが降伏することはないと断言。ワグネルに対する攻撃はプーチン氏の「深刻な誤り」で、「大統領の要求に応じて投降する者は誰もいない」と主張。ワグネルは政府の求めに応じてウクライナでの戦争に加わった「愛国者」であり、ロシアが「汚職と欺瞞(ぎまん)、官僚主義にまみれた」国であり続けてほしくないと語っていた」
(ブルームバーク前掲)

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Oryx Blog - ジャパン: シェフズ・スペシャル:2023年「プリゴジンの乱」で各陣営が喪失した兵器類(一覧) (spioenkopjp.blogspot.com)

ところが、ご承知のようにブリゴジンが要求していたショイグもゲラシモフも更迭されたという報道はありません。
ワグネルは再契約すると言っていますが、そんなことをするほどプーチンがお人好しとは思えません。
主要メンバーは、調査と称して収容所送りとなるか銃殺されるはずです。
すくなくともそれがいままでのロシア流だったはずです。

鶴岡路人氏はこう感想を述べています。

「ひとたび化けの皮が剥がれ、王様が裸だとバレてしまうと、再びそれを隠すのは難しいのでしょうね。プーチンは「強い指導者」のはずだったのに、実は「弱い指導者」なのだと分かったことが、今回のプリゴジンの一件の最大の成果か」
Michito Tsuruoka / 鶴岡路人(@MichitoTsuruoka)さん / Twitter

ブリゴジンは「恩赦」をもぎとったことで、軍事的敗北、政治的勝利と総括するのでしょう。
一方、プーチンの政治的敗北は確定的で、マッチョなプーチン象は粉々に砕け散りました。
プーチンが強い指導者ならば、南部軍管区のロシア軍を総動員してでも反乱軍を徹底殲滅したはずですし、仮に南部軍管区が使い物にならないとしてもカディロフのチェチェン人部隊が付近にいたはずです。
ロシアはこのふたつの傭兵部隊を戦わせることで、ブリゴジンの野望を阻止し得たはずでした。
しかしこれもしない。
ドネツクからまったくほぼ無抵抗で南部軍管区を落とされてしまうというのは大失態です。


とはいえ、この冷酷漢は、ベラルーシにその「長い手」を伸ばして惨めな死を与えるでしょう。
独裁者を裏切った人間に安逸な日はおとずれないのです。

なお、ウクライナ戦争との関係は次回にします。

 

2023年6月25日 (日)

日曜写真館 けふや切らんあすや紫陽花何の色

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あぢさいや花と露との重みにて 正岡子規

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息ありやあり紫陽花いろに夜は明けて 能村登四郎

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いくらでも水気ほしげに紫陽花は 細見綾子

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あじさいの滴り青く雨の旅 飴山實

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さけば降るもののあじさいの長梅雨 荻原井泉水

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思ひ出して又紫陽花の染めかふる 正岡子規

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思ふ事紫陽花の花にうつろひぬ 内藤鳴雪

 

※たまげたことにブリゴジンの野郎が本気で「反乱」を起こしたようです。
にわかに信じられませんでしたが、英国国防省が確認し、映像も多くでています。
モスクワまで進撃するとか。すでに首都は事実上の戒厳令下にあるようです。
常識的に見てこの「反乱」が成功してしまう可能性は限りなく少ないですが、ウクライナ反転攻勢の時期とぴったり合致していますので、仮にプーチン政権が鎮圧してもウクライナ戦争の局面に大きな影響を与えるでしょう。

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渡部悦和 Yoshikazu WATANABE
プリゴジンのクーデターは、呆気なく終わったようだ。 ルカシェンコの提案を受け、モスクワ手前200kmのところで進軍を止め、ワグネルの部隊を元の基地に戻すという。 如何なる提案を受け入れたかは分からないが、プリゴジンの妥協は多くの人達を失望させるだろう。 ワグネルの要員はこれで満足か?

詳細は整理して明日に。
それにしてもこんなマンガのような展開ってあるんですね。

 

2023年6月24日 (土)

さぁ日本の出番だ、ウクライナ復興プラン

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ウクライナ復興会議(URC23 )が始まりました。
戦争しながら復興を考え、かつ、その一部を推進するといういままでにない形になるようです。

「ロシアの軍事侵攻で甚大な被害を受けているウクライナの復興支援について各国政府や企業などが話し合う会議が21日、イギリスで始まり、オンラインで参加したゼレンスキー大統領は、ロシアに対抗するためにも復興事業を推し進める重要性を強調しました。
会議では、林外務大臣が演説し、日本が戦後の荒廃から発展を遂げ、東日本大震災などの自然災害を乗り越えてきた経験や知見をいかし、官民をあげて復旧・復興を後押ししていく考えを強調しました。 「ウクライナ復興会議」は、ウクライナとイギリスの両政府の主催でロンドンで2日間にわたって開かれ、日本を含む60か国余りの政府関係者や世界銀行などの国際機関、それに民間企業も参加します」
(NHK6月21日)
ウクライナ 復興会議始まる 大統領 “具体的な事業 推進を” | NHK | ウクライナ情勢

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ウクライナ復興会議 NHK

世界銀行の復興事業の見積もりがでています。

「世界銀行はことし3月、ウクライナの復興にかかる費用は4110億ドル、日本円でおよそ58兆円に上るという試算を発表していて、民間企業の直接投資を促すことが今回の会議の大きな課題となっています。
イギリスのスナク首相は、38か国の400を超える企業がウクライナの復興に向けた投資に関心を示しているとした上で、さらなる投資を促すため、今回の会議で新たな戦争保険の枠組みを立ち上げる考えを示しました」
(NHK前掲)

なぜ、戦争を続けながら復興を開始するのかといえば、ロシアの侵略による大規模破壊によってウクライナの国民のみならず、経済やインフラが激しく傷ついており、このままでは戦争の継続もできなくなるのが目に見えているからです。
国民の生活や
経済が破壊され尽くせば、ロシアに降伏するしかありませんからね。
だからこそ、戦争の終結を待つことなく、ウクライナの破壊された民生部門を再建しようとするのがこの復興計画です。
いわば、先の大戦の復興プランのマーシャル・プラン(欧州復興計画)を先倒しして行おうとするものです。

これは初めての戦争中の復興計画だという理由です。
そもそも戦争がいつ終わるかわからないのです。
ウクライナの勝利となればよし、5年、10年と膠着状態が続くかもしれません。
しかも、たとえば橋を架け直おしたそばから破壊されることもありえます。
また、ロシア軍はいまやダム破壊という大規模環境破壊も厭わなくなっており、ザポリージャ原発も最後の切り札に使うつもりか、占領を続けたままです。
発狂したプーチンが原発を破壊したらなどと、考えたくもありません。

しかし、自由主義陣営はウクライナに巨大な支援をおこなっており、もう下がることは許されません。
ウクライナ戦争は、民族と民族の戦いを超えて、人類の未来をかけた戦いとなっているからです。

このウクライナ戦争は、人類が決して負けるわけにはいかない戦いなのです。

実はこの分野において、日本はやや先行した取り組みをしています。
先日のG7に先行して開かれた農業相会合において、日本は破壊されたウクライナ農業支援を呼びかけています。

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読売

「先進7か国(G7)の農相会合が22日、宮崎市で開かれ、焦点の食料安全保障では生産拡大に向けた連携強化を確認した。ウクライナへの農業生産支援でも一致した。G7の労働雇用相会合も岡山県倉敷市で始まり、いずれも23日に議論の成果を踏まえた文書を発表する予定だ。(略)ウクライナは世界有数の穀物輸出国で、侵略で多くの農地や関連施設が被害を受け、途上国の食料事情にも悪影響を及ぼしている。野村農相はオンライン参加したウクライナのミコラ・ソルスキー農業政策・食料相に対し、被害を受けたかんがい施設などの再建を日本として支援する方針を伝えた。G7各国もウクライナの農業復興に向け支援を強化することを確認した」
(読売2023年4月22日)
ウクライナかんがい施設再建、日本が支援へ…G7が農業復興で一致 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)  

特に日本がすぐにでもウクライナに転用できる技術としては、農業再生技術があります。
東日本大震災において、宮城の沿岸部は津波によってことごとく灌漑施設が破壊され、農地には震災がれきが山積しました。
放射能による被害も重なり、風評被害がそれに被るという三重苦を跳ね返した経験が、ウクライナの今後に生かせるはずです。

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ウクライナ高官ら 東日本大震災被災地視察 “農業復興参考に” | NHK | ウクライナ情勢

「18日には、視察団の5人が交流館を訪れ、仙台市の担当者から被災当時の状況について説明を受けた。津波による塩害で当初は沿岸部では10年近く農業ができない可能性があるとされていたが、排水施設の改良で塩を取り除き、3年後には8割近くの農地が回復したという。市の担当者は「安全な住まいと農業など産業の復興があれば、次の一歩を踏み出せる」と話した」
(朝日2023年4月19日)
ウクライナの視察団、宮城の農地を回る 「震災復興の経験学びたい」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

またウクライナ側からはこのような質問があったそうです。

「これに対して、ウクライナ側からは▽被災した農家が行政からどのような支援を受けたかや▽農業の経営がどう変わったかなどを質問していました。
視察団を率いるウクライナ農業食料省のドミトラセビッチ次官は取材に対して、被災地では水利施設などの農業施設がどのように復旧したかに関心を持ったとした上で「非常に高い技術で復興を成し遂げたという印象を受けた」と述べました。
そして「水利のシステムや管理などの取り組みについて、重要な情報も得ることができた」と述べ、高い技術力を生かすとともに、行政と農業者が一体となって復興を進めた日本の取り組みを参考にしたいという考えを示しました」
(NHK4月19日)
ウクライナ高官ら 東日本大震災被災地視察 “農業復興参考に” | NHK | ウクライナ情勢 

水利システムの再建と管理もまた日本のお家芸です。
ぜひ日本農業界が全力をあげて支援してほしいものです。
日本ならできるし、その実力を持っています。

また、ウクライナには数さえわからない無数の地雷が埋められています。
これらはがれきの下に入っているものもあり、まずこれを除去しないとインフラ再建ができません。

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NHK

「ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで、処理されないままとなっている不発弾や地雷が復旧の妨げとなるなか、G7広島サミットを前に来日しているウクライナ政府の高官などが千葉県にある施設を視察し、建設機械を遠隔で操作できる装置などを見学しました。
来日しているのは、G7広島サミットを前に日本政府が招いた、ウクライナ政府の高官や自治体の関係者合わせて10人で、東日本大震災など数々の災害から復旧や復興を進めてきた日本の経験のうち主に技術の面で学びたいと訪れています」
(NHK5月16日)
ウクライナ政府高官など 復旧や復興の技術を施設で視察 千葉 | NHK | ウクライナ情勢

このような復興だけではなく、ウクライナに製造拠点を移転するのも有益です。
ウクライナは教育の行き届いた優秀な労働者の宝庫であり、かつヨーロッパへの域内輸出の拠点になりえます。
EUに入っていたら言うことなしでしたが、仕方がない。

「ウクライナの労働賃金は、戦争前の時点では多くの中国の都市と同水準だった。中長期的に見れば低コストの生産拠点として、そして、欧州市場により近い拠点として、日本の製造業にとっても理想の生産拠点になり得る」
(ブルースストーク 2023年5月16日)
日本がG7をリードすべき“pay-to-play”のウクライナ復興イニシアチブ:ブルース・ストークス(Bruce Stokes) | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

残念ながら、ウクライナは一帯一路の参加国で、戦争前までは中国経済圏に半ば飲み込まれていました。
いまでもゼレンスキーは中国への幻想が捨てきれないでいます。
西側の投資が貧弱だったことが、中国に押しやったのです。

復興においても、中国は大規模投資を提示しています。

「「中国機械設備工程(CMEC)」は、欧州3位の規模が見込まれる太陽光発電施設計画を提示していた。「中国建材(CNBM)」は、すでに10基の太陽光発電所をウクライナに建設済みだ。これは、ウクライナの既存の太陽光発電容量の半分に及んでいる。こうした中国の、明確な投資意欲に対し、日本政府は、国際的な戦争保険の仕組みづくりをリードすることによって、 中国との競争で一歩先んじ、将来の日本企業の商機を拡大することが必須だ」
(ブルース・ストーク前掲)

太陽発電は特に技術などいりませんが、送電インフラ、発電インフラなどの修復は日本が得意とする分野です。
つまり、ウクライナ復興は、崇高な人類史的理念においても、また商機においてもこれ以上ない対象なのです。
さぁ、いまこそ出番です。

 

 

 

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ロシア軍、ウクライナ南部で目立つ進軍 北部は「停滞」 米国防総省 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月23日 (金)

ウクライナダム爆破、ロシア軍真っ黒確定

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カホフカダム崩壊の原因として考えられるのは3ツです。

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中央日報

①自然崩壊説。土を盛り上げて護岸しただけのアースダムのために脆弱だったため、満水に耐えられずに崩壊した。
②ウクライナ軍攻撃説。もっぱらロシアが主張しているもので、ウクライナ軍のハイマース攻撃によって破壊された。
③ロシア軍爆破説。ロシア軍によるダム内部からの爆破。
この他、①と②の組み合わさった、ウクライナ軍の攻撃で痛んでいたダムが、満水状態に耐えきれずに決壊したという説もある。

消去法で考えてみます。
①はアースダムがもろいという証拠はありません。
越水という説もありましたが、それだけでこれだけ巨大なダムが崩壊することは考えられません。

②のウクライナ軍がハイマースで破壊したという説ですが、そもそもロケット弾やミサイルていどの攻撃ではダムの構造体は決壊しません。
ハイマースで攻撃してよい部分は特定されていますが、それをしっかりとわかった上でウクライナ軍はハイマース攻撃をしたのは事実です。
破壊されたのは、ダムの上に走る道路部分で、下にはなにもないことが動画で確認できます。
Video of damage to the bridge next to the Nova Kakhovka power plant.
t.me/hueviyherson/2

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Rob Lee
破壊してよい橋梁部分をJSF氏が下図に図示しています。
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JSF
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「ウクライナ側はカホフカ・ダムの構造体(堤体や水門)を傷付けずに橋の部分のみを破壊しようと試みます。HIMARSの誘導ロケット弾の驚異的な命中精度がそれを可能としました。
ウクライナがHIMARSで狙ったカホフカ・ダムの橋の部分は、コーナーで橋の部分のみが離れている箇所を集中的に叩かれています。他にもう一カ所の橋の部分のみの箇所があり、この二カ所は勢い余って貫通してしまっても真下は何も無く、ダムの構造体には影響が出ませんでした」
(JSF 2022年11月22日) 
カホフカ・ダムを壊さず橋の部分のみを破壊したウクライナ軍とロシア軍(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース


これで①②は消去されて、必然的に③のロシア爆破説が有力になります。
不思議なことには、ロシアは常にウクライナをディスり続けていますが、ことダム決壊についてはウクライナが爆破したとは言っていません。
このダムがハイマース如きの攻撃では、仮に堤体に当たってもなんら問題がないことを一番よく知っているのは作った本人、つまりロシアだったはずなのにおかしいですね。
ロシア軍にはダムを決壊させる動機が充分にありました。
当時、ロシア軍はウクライナ軍の激しい追撃にあっていたからです。
ロシア軍は、ヘルソン州のドニプロ川右岸から左岸に逃げようとしていたために、ダムを上の橋ごと破壊し、さらに決壊させて洪水を引き起こすことでウクライナ軍の動きを封じようとしたのです。
爆破は、ロシア軍が占領したときから計画的に仕込まれていたと思われます。
ダムの構造体は外部からの攻撃には強靱ですが、堤体内部からの爆破には膳弱です。
それを証拠づけるように、様々な検証が始まっています。

「[18日 ロイター] - 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ウクライナのロシア支配地域にあるカホフカダムが今月破壊されたことを巡り、ロシアが仕掛けた爆発物によるものであることを示す証拠があると伝えた。
同紙は16日、複数のエンジニアと爆発物の専門家の話として、調査の結果、ダムのコンクリート基盤を通る通路の爆発物が爆発したことを示唆する証拠が見つかったと報道。「この証拠はダムが、これを管理する側であるロシアが仕掛けた爆発物によって損傷したことを明確に示している」とした。
これとは別に、ウクライナの検察当局を支援する国際的な法律専門家チームは16日、初期段階の調査で、ダム決壊はロシア側が仕掛けた爆発物によって引き起こされた可能性が「非常に高い」と表明した」
(ロイター6月18日)
ロシアが爆発物仕掛ける、カホフカダム破壊で証拠発見=NYT(ロイター) - Yahoo!ニュース

ニューヨーク・タイムズは6月16日、カホフカダムの構造図と崩壊前後の映像、衛星写真、地震波分析、専門家証言の意見などを総合すると、ロシア軍が仕掛けたダム基盤部の内部通路に設置された爆発物が原因である可能性が非常に大きい、と結論づけました。
カホフカダムの図面と2005~2018年にドニプロ川水資源管理局副局長として働いたエンジニアの証言によれば、このダムの基盤部の構造物は水面下にあるコンクリート防壁で、 厚さ40メートル、高さ約20メートルの巨大な防壁を持っています。
このコンクリート防壁は、内部の中心部を貫通するギャラリーと呼ばれる高さ2.5メートルのメンテナンス用通路があります。
この堤体の下を貫通している通路こそが、この巨大ダムの唯一のアキレス腱だとこのエンジニアは述べています。
ソ連時代に作られたこのダムについて、ロシアは詳細な見取り図を持っており、どこを破壊すれば全体が崩壊するかよく知り得た立場でした。

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NYT

カホフカ ダムの破壊された映像を見ると、水門だけでなくコンクリート防壁の上部まで完全に破壊されたことが確認でき、これはダムの基盤部分が下方から突き上げられたように破壊されたことを物語っています。
専門家らは、カホフカダムをこの程度まで破壊するには防壁中心部の通路に爆発物を設置して爆破する以外に他の方法はほとんどないとみています。20230622-051941

NYT

NYTは、ダム内部通路で起きた爆発によりコンクリート防壁の一部が破壊され、残りの部分は水の圧力で崩れたと判断されるとし「これが唯一の説明」としています。

藤原かずえ氏はこう説明しています。

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藤原かずえ(@kazue_fgeewara)さん / Twitter

「実はコンクリートダムの最も脆弱な部分は堤体ではなく、堤体と基礎岩盤の接着部あるいは基礎岩盤です。この近傍に位置する監査廊を爆破すると脆弱部分に新たな亀裂が形成され、ここに貯水池から供給される地下水が浸透することによってダムを浮かせる間隙水圧である揚圧力が発生します。
一定以上の揚圧力が作用すると、接着部あるいは基礎岩盤のせん断摩擦抵抗が低下してせん断破壊が発生し、ダムが下流方向に押し流されることになります。これは重力ダムの工学的弱点を知っているダムの専門家が関与した爆破、すなわち国家が関与した攻撃と考えるのが妥当です」(藤原かずえツイート)

なお、ロシア軍に対して決壊30分前に退避命令が出ていこともわかっています。

「ウクライナの情報総局長は南部のダム決壊をめぐり“決壊30分前にロシア側部隊に対し避難命令があった”と指摘、決壊がロシア側の関与によるものだと強調しました。
南部へルソン州のダムの決壊をめぐっては、ウクライナ政府はこれまでに21人が死亡したと発表、ロシアメディアはロシア側支配地域で38人が死亡したと報じています。
決壊の原因についてロシア・ウクライナ双方が相手側の攻撃によるものだと非難していますが、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は20日、「決壊30分前に現地にいたロシア側部隊に避難するよう命令があった」と指摘しました。“ロシア側の関与を示すものだ”としています」
(TBS6月21日)
ダム決壊前にロシア兵へ“避難命令” ウクライナ情報総局長がロシア関与を強調 ロシアはクリミア半島攻撃に警告 | TBS NEWS DIG (1ページ) 

このようにロシアは、いまや逃げきれないまでに追い詰められています。

 

 

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砲撃には慣れたが洪水は「悪夢」 ダム決壊で被害のウクライナ南部 写真20枚 国際ニュース:AFPBB News

ウクライナに平和と独立を

 

2023年6月22日 (木)

ブリンケン訪中

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ブリンケンが訪中しました。
中国側の出迎えはサバサバしたもんだったようです。
こういう時出迎えにだれがでてくるのか、赤カーペットが敷かれたのかで訪問国の対応があらかじめ読めてしまうのですが、今回は出迎えは局長クラス、赤カーペットは出ず終いでした。
中国側出迎え要員、中国外務省のヤン・タオ北米・オセアニア局長のふたりだけ。
いやー、さっぱりしたもんですな。
これだけで中国のスタンスがよくわかります。いつもながら共産国家というのはわかりやすい。
あまり寂しいせいか、駐中国米国大使のニコラス・パーンズが顔を出しました。

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米国務長官、北京に到着 バイデン政権の閣僚による訪中は初…中国外交トップらと会談へ - ライブドアニュース (livedoor.com)

「アメリカに住んで12年になる中国出身の人権活動家ジェニファー・ツェンは、ツイートでこう指摘した。「空港でブリンケンを迎えたのは、アメリカの大使と共産党ではかなり下のレベルの中国外務省ヤン・タオ北米・オセアニア局長だけだった。レッドカーペットもない。歓迎の群衆も、鼓ひとつの演奏もない。これは、中国の基準と文化によれば、意図的な辱めだ」
(ニューズウィーク6月19日)
レッドカーペットも高官の出迎えもなし、中国がやってくれたブリンケン米国務長官への辱め(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

通常の外交儀礼は訪問客と同格の者を迎えにだすのが常識です。
ブリンケンは国務長官ですから、この場合秦剛外交部長が行くのが筋。
それをあえて格下の局長クラスに行かせて、お前の訪問なんか、オレらなんとも思っていないからと空港からプレッシャーをかけるのが共産党流のようです。

エマニュエル・マクロンが訪中した時のものと較べてみましょう。
もう赤カーペットは敷くし、儀仗兵は並ぶわで、下にも置かない歓迎ぶりでした。
なんせ習近平がつききっきりで接待旅行までしたくらいですからね。

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「世界の多極化へ重要な存在」 マクロン氏訪中に透ける中国の思惑 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

裏返せば、フランスとて自由主義陣営の指導的立場の一員であるのですから、独裁国家にこれほど歓待されるってナニと思わなければならないはずですが、マクロンは舞い上がってしまいました。

近々王毅(外交担当政治局員)が訪米をするそうなので、今度は自分がこんな雑な出迎えをされるわけてで、ちっとは考えたらよさそうなものです。
外交は相互主義、やったことはやられます。

中国と密約をしに行ったのだなんて気を回す人もいるようですが、ありえません。
そもそもブリンケンは今年2月に行くはずが、例の北米を縦断したスパイ気球を米国が撃墜したことで延期になっていたのです。

その間、米中関係は大氷河期に突入し、昨今は中国艦艇が米艦艇に体当たりをかけてくるところまで悪くなっていました。
米国からすれば、来年1月の台湾総統選の前に過度の緊張は緩めておきたかったようです。

「ブリンケンは48時間だけ中国に滞在し、早々に中国を離れた。秦剛と会談したほか、王毅・政治局委員(中央外事弁主任)と会談した。
米国側は簡単なメディアブリーフで、ブリンケンの訪中で得た成果について「重大な問題のいずれについても大きな突破口はひらけなかった」と述べた。
米国にとってこの会談の最も重要なテーマは「会うこと」だった。この会談で、双方ハイレベルは対面で会ったという事実をつくった。台湾の淡江大学国際事務戦略研究室黄介正副教授は「この会談で少なくとも気球事件に代表される対立から一ページ進んだ。」と指摘」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.819 2023年6月19日)

「進んだ」といっても関係改善の道が開かれたというわけではなく、当面はパイプだけは通しておこうね、ていどのことです。
米ソ冷戦の時も、こういう緊張の高まり→やや弛緩→また緊張勃発→弛緩という周期を繰り返しましたが、こうやってだましだまし戦争に至らないようにする手練手管について、米国は経験を踏んできています。
「今出来の超大国」とは経験が違うのです。

今回もそのテクニックの応用で、特に議題がなくて成果がなかろうと、根本的解決が見いだせなかろうと、侮辱的扱いを受けようと、「自分の立場を主張しに行く」のは緊張緩和の外交的手段なのです。
だから密約をしに行ったなどは、考えすぎもいいところです。

中国で習近平体制が続く限り、軍拡は続き、周辺国は脅威におののくでしょう。
一方それを抑えるべき米国はといえば、バイデンにはリーダーシップが致命的に欠落しており、議会はより強硬になって米国はまとまりきれません。

こういった中では戦争などできないし、今の戦争と戦争との間の戦間期をできるだけ引き延ばして、米国にマトモな指導者が登場し、習近平が国民の不満を外に向けないように適当に圧力緩めたりしながら、この状態を続けるしかないのです。
いわば弁の開け閉めの期間です。

その意味で、ブリンケン訪中はいかにもアングロサクソン流で、対話を通じて互いの違いを認識するというやり方です。
うちの国の自称リベラルのように、外交とは話合い一般だと思い、あらかじめ相手との妥協線を忖度するのではなく、懸念は懸念として歯に衣を着せずにそのまま伝え、双方にとって協力できる分野を残して次回に繋ぐというものです。

そもそも秦剛はこの会談前にブリンケンと電話会談していますから、今さらナニをお互いに会って言い合うのかははっきりとわかっていました。
中国側は、台湾問題は中国の核心的な利益であり、国内問題だから内政干渉するなというのが立場ですし、米国は台湾が中国領だと認めた覚えはない、台湾海峡の安定の実力による変更は許さない、といったところでしょう。
中国側に、「台湾独立は支持しない」というひとことを切り取られましたが、そんなことは歴代政権どおりであって、なにを今さらです。
台湾民進党も、政権につくまでは独立を口にしていましたが、政権与党になった瞬間封じています。

もちろん米国は、中国との対立が一朝一夕に起きたものではなく構造的です。
中国が世界の覇権国家になろうとする野望のプロセスで起きたことだと理解しています。

「宋国誠(台湾政治大学国際関係センター研究員)は「米中間はやはり構造的に対立している」と強調する。グローバルリーダーの地位を争う関係にあるからだ。中共はアジアの覇権を奪おうと狙っており、米国の軍事的プレゼンスをアジアから駆逐しようとするほか、米国のグローバルリーダーの地位にとってかわろうと狙っている。
 「中国の野心にまったく変化はなく、世界平和の建設者の役割ではなく、世界最高指導者の役割を担いたいのだ。中共が最終的にはグローパル覇権をとりたいという意図になんら変化がなく、米国がグローバルリーダーの地位を放棄する意思がないなら、両者の相克が変化するわけがない」
(福島前掲)

したがって、中国は半導体規制等制裁の解除を求めていますが、それは中国にとって中国の時間稼ぎに利するので協議の余地はありません。
今回も議題に出たでしょうが、冷やかに対応したはずです。
米国はロシアが制裁によって電子部品や半導体不足で苦しんでおり、ロシアにそれを第三国経由で中国が流していることも知っています。
だから絶対に中国に対する半導体規制は緩めることはありえないのです。

習近平がブリンケンと「謁見」している写真がでてきました。
ブリンケンは習近平皇帝に拝謁しているかのようです。
わかりやすいなぁ、19世紀の清朝皇帝さながらですぜ。

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東京

「20日付の中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は、向かい合った長テーブルに並ぶ米中双方の閣僚の間に、習氏が議長役のように座った写真を掲載した。中国要人との会談では、相手との距離や位置関係などが両者の関係性を意味する場合があり、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と習氏が16日に会った際には隣り合わせに座って親密さをアピールした」
(東京6月20日)
習近平氏、ブリンケン国務長官を「格下」扱い 席位置で中国とアメリカの関係性示す?:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

習近平はガタイはでかくても気弱な男なんでしょうね。
だからいつもブスっとしていて笑えない。

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習近平氏とビル・ゲイツ氏、北京で会談 - 産経ニュース (sankei.com)

こんなエラソーな態度をするだけで清朝末期の皇帝じみてくるので、かえってアングロサクソンにはなめられるのにね。
ま、ゲイツに合うのは儲かる話だからにこやかに対応しても、ブリンケンはハッキリとモノを言うので、会うのが憂鬱だったのかもしれません
気弱で孤独な独裁者クンです。
さぞかし外交畑の連中はハラハラしたことでしょう。

ブリンケンさん、帰国すると共和党が弱腰外交してきおって、と議会に呼び出すそうですので、ご苦労様です。

 

 

2023年6月21日 (水)

自由主義陣営の韓国が帰ってきた

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先日の6月7日、韓国政府は「国家安保戦略」で北朝鮮を「最大、最優先の安保脅威」とし、戦略の土台に米韓、日米韓の協力強化を改めて位置付けました。

「3大目標として「国家主権・領土守護と国民安全の増進」「朝鮮半島の平和定着と統一未来の準備」「東アジア繁栄の基盤づくりとグローバル役割拡大」を掲げた。
また、米中間戦略競争の深化、北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化及び新安保イシュー(サプライチェーンリスク、気候変動、パンデミック、サイバー攻撃など)の浮上など、急変している安保環境を評価し、このような安保環境の変化に対応するための戦略基調、分野別課題を具体的に提示した」
(Koreaネット6月8日)
大統領室「尹錫悦政権の国家安保戦略」公開 : Korea.net : The official website of the Republic of Korea

まず外交分野では、韓米同盟や韓米日協力を強化することに集中したいという方針を示しました。
いやー、やっとまともな国になったか、韓国。

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Koreaネット

「韓米同盟は「グローバル包括的戦略同盟」の実現にを目指し、「地理的外延を、グローバル規模の範囲まで拡大させていく」とした。特に、今年4月に発表された「ワシントン宣言」について、「韓米軍事同盟は、核兵器を含め、新しいパラダイムの軍事同盟へと深化することになった」と評価した」
(Koreaネット前掲)

さらっと書くとあたりまえに書いていますが、この部分は重要です。
比較するとわかります。ムン・ジェイン政権の時の安全保障戦略はこうでした。

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Koreaネット

「韓国政府は20日、外交や安全保障に関する政策指針「文在寅(ムン・ジェイン)政府の国家安保戦略」を公開した。
指針書には、北朝鮮核問題の平和的解決、韓半島における恒久的な平和定着、北東アジアや世界の平和・繁栄に寄与、国民の安全と生命を保護する安心社会作りなどの国家安保の目標が含まれている。
特に、「平和を守る」ことを越えた「平和を作る安保」の実現に重点を置いた。これに向けて、韓国の「主導的役割」を強調した」
(Koreaネット2018年12月21日)
韓国、文政権の安保戦略指針を公開 : Korea.net : The official website of the Republic of Korea

当時のムン政権にとっての北朝鮮とはひたすら南北会談などを通じて融和の対象であり、その「主導的役割」として自国を位置づけ、離米反日外交を続けました。
「平和を作る安保」という名の下に韓国軍を骨抜きにしていく過程であり、「バランス外交」と自称した二股外交でした。

当時のアジア情勢は、中国の巨大な台頭と後退を続ける米国、停滞に陥った日本という構図でした。
ムン政権時の中国市場は、毎年8%から9%という驚異的勢いで発展してしいたために、韓国人には中国が蜜と乳が流れるパラダイスに見えたようです。

21世紀は中国の世界で決まりだ、そう韓国は見たのですね。
そして半島国家の伝統芸である典型的な勝ち馬乗りをします。
米国から中国に乗り換えたのです。

国内市場が貧弱で輸出が頼りの韓国にとって中国とは間違っても悪い関係になりたくないので、当時の米政府が始めていたアジア回帰政策は実は困ったことだったのです。
韓国にとって米国は、亭主元気で留守がいいではありませんが、米韓安保があっても実態はスカスカがいちばん好ましかったのです。

そして韓国はお家芸の二股外交を始めます。
中国から弾道弾迎撃ミサイルを撤去しろと命じられれば、はい仰せのとおりにと丸飲みします。
日米豪印のクアッドは中国包囲網だから、あんな奴らとくっつくんじゃないぞ、と命じられれば、アイアイ、マスター。
世に名高い「三不の誓」がこれです。

ムンジェインはノムヒョンの生まれ変わりとまで評されていますが、このノムヒョンが北の核開発をどのように捉えていたのか、言行録から見てみましょう。 


・「北が核開発をするのは、先制攻撃用ではなく防御用だ」(2006年5月30日)
・「(核実験について)こんな小さな問題」(2006年10月10日)
・「北朝鮮はカンウォンドのどこかでハムギョンプクドに向かってミサイルを打ち上げている。そのミサイルが韓国に飛んでこないのは明白な事実ではないか。戦争は起きないという話だ」(2006年12月22日)
・「(北が弾道ミサイル実験をするのは)米国に譲歩を要求する政治的行為であり、それは世界中が知っている」(2007年7月15日)

このようなノムヒョンとその弟子のムンジェインの北融和政策に助けられて、とうとう北は弾道ミサイルを完成させてしまったのです。 
毎日新聞(2018年9月18日) など「非核化の進展なるか」なんてタイトル打っていますが、真逆で、ムンジェインは「民族の防衛兵器」たる核を兵器開発を手助けに行ったのです。
ムンの夢は、韓国の作った戦略原潜に北の核ミサイルを積むことでした。

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文大統領、平壌到着 金委員長がハグで歓迎 : Korea.net : The official website of the Republic of Korea

こういった中で起きたのが、韓国艦艇によるレーダー照射事件でした。
韓国が反論動画として出した画像の中に映り込んでいたのが北の工作船でした。

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産経https://www.sankei.com/world/news/190104/wor190104

下写真は同じ時刻に日本側から撮ったものです。
北の「漁船」と韓国艦艇が接舷せんばかりで、ゴムボートが往復しています。

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北の「漁船」と称する船には漁船に不要ないくつものアンテナが林立しており、たぶん日本近海で見られる不審船と呼ばれるものです。
それがベタ凪の中で接近し、なにやらやっていたので、海自哨戒機が接近したのです。
推測の域をでませんが、韓国海軍と北はなんらかの瀬取りをしていたと思われます。
見られたくないものを、こともあろうに「敵」の日本に見られた、それで逆上しFCレーダーで追い払おうとしたのでしょう。
ここまで軍の腐敗は進んでいたのです。

それがいまやユン政権は日本をこう位置づけています。

「日本に関しては「自由民主主義や市場経済という普遍的価値を共有し、安保・経済など多様な分野で協力する近しい重要な隣国だ」と明記。共通の利益や価値に合わせ、協力を強化していく対象と位置づけた」
(産経2023年6月7日)
韓国が安保指針 日本は「協力強化」へ180度転換 - 産経ニュース (sankei.com)

まさにムンの描いた「夢」とやらのテーブル返しです。
そのうえで、北朝鮮を改めて「真の脅威」と呼び、国防に力を注ぐと言明しました。

南北(韓国と北朝鮮)関係に対する尹政権の国家安保戦略は、北朝鮮の核と大量破壊兵器(WMD)を「安全保障上最優先の脅威」と定義し、「北朝鮮の脅威に対応する画期的な力量を備えなければならない」と表明した。具体的には、キルチェーン(Kill Chain)、韓国型ミサイル防御(KAMD)及び大量反撃報復(KMPR)を含めた韓国型3軸体系能力の確保や戦略司令部の新設、情報監視偵察能力の強化などを挙げた」
(Koreaネット前掲)

けっこうなことです。
やっと少し眼が醒めましたか。
そしてこのような韓国の国防強化を担保するように、国軍改革を開始しています。

「大統領はこれに先立ち、自らが委員長を務める国防革新委員会の副委員長に「北朝鮮を震え上がらせた軍人」として知られる筋金入りの強硬派、金寛鎮(キム・グァンジン)元国防相(73)を抜擢(ばってき)し、韓国軍を「圧倒的な戦闘軍」に立て直す「第2の創軍」を行う指針を示した。文在寅(ムン・ジェイン)前政権で緩んだ韓国の国防は、一気に引き締めと革新の時代を迎えた」
(久保田るり子 
【久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ】韓国の国防改革、中心は「北朝鮮を震え上がらせた軍人」 - 産経ニュース (sankei.com)

ムン政権によって軍と情報機関は徹底的な骨抜きを図られました。
須田慎一郎氏はそれについて、このように指摘しています。

「韓国の軍隊にしても情報機関にしても、今はアノミー状態(=社会の規範が弛緩・崩壊することによる無規則状態)、つまり統制が取れていない状況に入って来ているとのことでした。その方も退役されたのは、同僚が例えば逮捕起訴されたり、あるいはパージされたりする中で、今の文在寅政権ではやってられないということで、辞表を叩きつけて辞めている方なんです。
今、韓国の軍隊や情報機関においてもそういう現象が続出している。特に国情院、大韓民国国家情報院については4年以内に組織を解散するという話が持ち出ていて、やる気を失ったひと達が多い」
(ニッポン放送飯田浩司のOK! Cozy up! 2018年12月24日) 

韓国は、全身をくまなく従北派に支配されて、北朝鮮の傀儡国家となってしまっていたのです。
あともう1期極左政権が続いていたら、韓国は北に「高麗連邦」の一部として吸収されていたかもしれません。
ユン大統領は、「国防革新委員会」を作り、その責任者に金寛鎮(キム・グァンジン )を任命しました。
キムは陸軍士官学校出身のドイツ留学組で、ゴルフもせず軍一筋の野戦の硬骨軍人で、合同参謀本部議長を最後に08年に退役していますが、その後国防大臣、国家安保室長を経て、ユン政権で国軍改革の責任者に就任することになります。
敵への反撃を語るときの強い語調と鋭い眼光から、ついたあだ名は「レーザー・キム」。

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金寛鎮国防革新委員会副委員長
金寛鎮 - Wikipedia

「委員長である大統領の意志を具体化する副委員長に「北朝鮮を震え上がらせた軍人」として知られる金氏を任命した。
この人事は韓国内だけでなく、米国など関係国の耳目も集めた。金氏が北朝鮮に対していかに強硬か、その実績が米韓両軍で知られているからだ。
金氏が2010年の国防相時代、強硬策で北朝鮮の挑発を止めた事案はワシントンで「金寛鎮効果」と言われた。北朝鮮では、金氏の仮面をかぶせた人形を的に射撃訓練を行い、北から金氏に暗殺予告の脅迫状が届いたこともある」
(久保田るり子前掲)

北はキム・グアァンジンの写真を的にして射撃訓練をしたそうな(笑)。分かりやすい連中。
キムが有名になってのは、例の2010年11月に起きた延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件後にとった強硬策でした。
彼は当時のイ大統領に国防長官に使命されるや、「北朝鮮の気を折らなければやられる」という考えの下に、軍事訓練をしかけてきた北に対して実弾を搭載した戦闘機を出撃させ、「戦闘機にはミサイルを搭載した」と宣言したそうです。

またパク・クネ政権時代には、国防相から国家安保室長に就任し、非武装地帯に仕掛けられた北朝鮮の地雷で韓国軍兵士2人が負傷し、さらに射撃を受けた時には、155ミリ榴弾砲を29発を撃ち返したそうです。
このようなやられたら即座に10倍にしてやり返す、譲歩はしないというキムの対応におそれをなした北は、渋々譲歩して南北高官級会談で遺憾の意を表明したといいます。

かつてキムがムンに睨まれて起訴された時、中央地検の検事長だったのがユンでした。
このとき、ユンはキムの硬骨漢ぶりに眼を止めたようです。

「実は尹氏と金氏には因縁がある。金氏は17年、軍刑法違反容疑でソウル中央地検に逮捕されたことがある。軍のサイバー司令部にネット上で革新系野党を非難させた政治工作の疑いで、このときの中央地検の検事長が尹氏だった。対北強硬派だった金氏は文政権ににらまれ捜査対象となった。裁判は最高裁まで争われ、現在は判決差し戻しの状態。だが、金氏は尹氏の要請に「役に立つなら力を貸す」と快諾したという」
(久保田るり子前掲)

やっと自由主義陣営に帰ってきた韓国には、彼のような頑固者が必要なのです。
ユンの権力は薄氷であり、今後、このまま平坦な道が拓けているとは思えません。
またムン・ジェインのような狂った極左の時代が来る可能性も充分あります。
振り幅が極端なのが、この国だからです。
だからこそ、仮に再び権力が極左に移動しようとも、簡単に清算に走らせないような「レンガ積み」をしておかねばなりません。

 

2023年6月20日 (火)

自衛官候補生の乱射事件は防ぎようがありません

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自衛官候補生が、自衛官を2名射殺し、1名に重傷を負わせました。
実にイヤな事件です。
お亡くなりになった2名の自衛官のご冥福をお祈りします。

「14日、岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場で18歳の自衛官候補生が指導にあたっていた隊員に小銃を発砲した事件では、菊松安親1等陸曹(52)と八代航佑3等陸曹(25)の2人が死亡し、別の25歳の3等陸曹も全治3か月の大けがをしました。
この候補生は、左側前方にいた八代3曹を撃ったあと、右側後方にいた菊松1曹に近づいて1発を発砲し、さらに近づいた上で、菊松1曹に2発目を撃ったとみられることが関係者への取材で分かりました。
候補生は、射撃の順番を待っている際に銃撃したとみられるということです」
(NHK6月16日)
自衛官候補生 銃撃事件 教官に発砲後さらに近づき2発目か | NHK

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陸上自衛隊高等工科学校ツィッター…実弾射撃訓練膝撃ち | 日々これ平安 (ameblo.jp)

上の写真が実弾の射撃訓練の模様です。
自衛隊はこのような不祥事を起こしにくい実弾射撃訓練をおこなっています。
赤色は射手に指導する指導係、青色は安全管理係、黄色は弾薬を交付したり射場を警戒警備する弾薬・警戒係です。

陸上自衛隊高等工科学校のツイッターによれば、このような手順です。
陸上自衛隊 高等工科学校(@JGSDF_HTS_pr)さん / Twitter

まず、黄色の弾薬係から弾を受領し、弾数を確認し、銃の照準の微調整を行います。

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自衛隊工科学校

赤色の指導係の指示で射座(撃つ場所)に移動しますが、この時点で指示に従って初めて弾倉を装着します。

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陸上自衛隊第10師団第35普通科連隊 公式Twitter

ここで赤色が掲げている赤旗が、実弾を銃に装填してあるから危険だという表示です。
緑旗掲示だと、実弾は銃に装填されていません。

通常なら、経験豊富な陸曹の教官が2名つききっきりで射手についているために少しでも銃口が他方に向くだけで、ましてや人に銃口を向けようものなら問答無用で押さえ込まれます。
ちなみに演習で銃を携行する場合も、絶対に引き金には触らないように所持し、銃口は下を向けているのが世界の軍隊の常識です。
今回は制止を聞かずに、弾を勝手に装填して近くの教官を撃ったようですが、あえて言うならここで殴り倒してでも制止するべきでした。
教官は、おそらくよもやこの練習生が引き金を引くとは思いもよらなかったのでしょう。
撃たれるまで教官は信じられなかったはずです。
それほど自衛隊の仲間意識は強く、強い信頼をもとにして結ばれています。

この事件はひとりの精神に異常を来した男の発作的犯行であって、自衛隊のミスはありません。
私たちがよく使うセルフの給油所で、いきなりホースを他人に向けて火をつけるようなものです。

セルフはこんな狂人はいないことを前提に作られていますが、自衛隊の射撃訓練も同様なのです。

「容疑者は、事件発生当時、次に射撃するグループの一員として待機場所にいました。射座についてからやるはずの弾倉の装填を始め『動くな』と叫びました。いち早く制止しようとした八代3曹が最初に撃たれました。そして、男は的とは真逆の後方に進み、菊松1曹に向かって発砲。さらにこれを制止しようとした原3曹にも発砲し、再び菊松1曹に発砲しました。教育隊長らが男を取り押さえましたが、なおも男は数発発砲したようです。弾倉を取り外されても、それを拾って再び撃とうとするなど狂気じみた犯行でした」
(文春6月17日)
自衛官候補生による発砲事件の詳細 18歳容疑者は執拗に発砲を続けたか|ニフティニュース (nifty.com)

つまり制止しようとした教官を撃ち、次いで指導教官を撃ち、別の教官も撃つ、弾倉を外されてもなお撃つ、完全な狂人の所業です。
弾薬を配ったのが射撃線から10メートル離れていたというミスを指摘する意見もあるようですが、相手がこのような精神状態ならどこで渡そうと一緒です。 
したり顔で自衛官の質の低下を嘆く意見もあるようですが、隊員の待遇改善とこのような事件は別次元です。
部谷直亮氏という人は、今回の事件についてこんなことを言っていました。

「自衛官候補生の質の悪化は近年ずっと問題視されています。最近は募集枠の半分程度しか集まらず、なりふり構わない採用になっている。前科があるとさすがに無理ですが、万引きの前歴程度や名前がちゃんと書けなくても採用されることも」
(文春前掲)

「名前が書けなくても採用」とは、よくこんなことを口にできるものです。
まさに一昔前にサヨク団体が流していた自衛官差別そのものが蘇ったようなものです。
たしかに2022年度に採用された「任期制自衛官候補生」、今回の乱射犯がこれに相当しますが、計画の半分以下だったことは事実です。
その理由は任期が短いからです。
任期制自衛官は18~32歳、任期は2~3年という短期間で、任期満了後に自衛隊に残るためには難関といわれる曹昇任試験に合格しなければなりません。
一回では通らない場合もあって、落ちると自衛官を続けたくてもやめざるを得ません。

「任期自衛官」は高卒の若者を対象にした制度ですが、2年間任期が不評で親が反対するということも聞かれます。
そりゃそうでしょう。世間は人手不足で給料は上がっているのに、自衛隊だけはあいかわらずなのですから。
ですから、この仕組み自体を変えていく必要があります。
安心して長期で働ける職場に変えていかないと、部谷氏のような自衛隊蔑視の人間はなくならないでしょう。

しかし、それは自衛隊の問題であるより、むしろ政治の問題です。
政治家がこの問題に取り組まねばどうにもなりません。
ただしそうは言っても、いくら待遇をよくしても今回のような乱射犯はなん十万人にひとり紛れこむのです。


あらためてお亡くなりになった自衛官に哀悼を表します。


 

 

2023年6月19日 (月)

LGBT法が通過したが

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後味がよくない法案だったので、早めに書いてしまいます。
LGBT法が通過しました。

「9日の衆院内閣委員会で可決されたLGBTなど性的少数者への理解増進法案の与党修正案は、日本維新の会と国民民主党の法案の要点を取り込み、自民内の議論で表出した懸念点を払拭する形を取った」
(産経6月9日)
LGBT法案、維新・国民案丸のみで保守系取り込み - 産経ニュース (sankei.com) 

私も一回だけ記事にしましたが、まったく書く気ならないテーマでした。
賛成か反対かと二分法で聞かれれば、そりゃ反対です。
ただそれで新党まで作る気にはなれないだけです。
反対理由は、うちの国ではわざわざ国論二分させて作る必然性がないのです。
法律は少ないほどいい、社会的規制は少ないほどいい、というのが私の主義です。

ただしそれ以上ではありませんから、この先あるいは必要な社会になるかもな、ていどには思っていました。
たとえば、現実にLGBTであることによって深刻な社会的差別を受けたような事例が発生した場合です。
その時は作ればいい。
しかし、そんなものはどこにもありません。
日本は欧米のキリスト教社会とは違って、ソドミー法なんかなかった社会なのです。
西欧ではソドミー、つまり同性愛は罪悪でした。

「西洋社会においてソドミー法の規制が最も大きかったのは、聖書が成立してキリスト教の世界観が生まれてからのことになる。新約聖書ではソドミーを批難する記述がある」
ソドミー法 - Wikipedia

日本にはそんな禁忌はありません。
たぶん岸田さんもそう思っていたはずで、だから選挙公約には乗りもしませんでした。
それを拙速も拙速、たいした説明もなく何の必然性もない法案をG7まで通すなんて言い出すから、多くの人が疑問に感じてしまったのです。

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ラーム・エマニュエル駐日米国大使 Twitter

とくに駐日米大使のエマニュエルという人は、LGBT法の宣教師となってしまいました。
大使が、赴任した国で自分で球を奪って、ゴールに蹴り込んでしまってはいかんでしょう(苦笑)。
こんな馬鹿大使初めて見た。
そのうえに言うに事欠いて、「日本はこれで進化した」とのご託宣ですから、お前はGHQのホイットニーGS局長かつうの。
こんな内政干渉をするから、保守系の日本人たちをカンカンにさせることになります。

エマニュエルは、大使としてはまるで不適任で、日本国政府は日米同盟に亀裂を入れかねないこの大使に、謹んでペルソナ・ノン・グラータを通告すべきでした。
この人物は、米議会での民主党と共和党のバトルを日本に持ち込んで点を稼げると勘違いしているのです。

わかっていませんね。そういう米国式「善意」の押しつけが、グローバルサウスで米国が嫌われるいちばんの原因になっているのですよ。
ブッシュ・ジュニアが民主主義制度は、日本も受け入れたからイラクでも成功するさ、みたいなことを言っていました。
彼の日本認識はこんなレベルです。

「第二次世界大戦前の日本について「民主主義は日本では決して機能せず、日本人もそう思っているといわれてきたし、実際に多くの日本人も同じことを信じていた。民主主義は機能しないのは、日本の国教である「神道」があまりに狂信的で、天皇に根ざしていることから、民主主義は日本では成功し得ないという批判もあった」
(2007年8月22日 米カンザスシティーで行った演説)

信じがたい無知。度し難い有色人種差別。
当時日本と半世紀も「世界で一番安定している同盟」を組んでおきながら、この傲慢な口ぶりはいったいなに?
いやったらしい上目線は何者?
本当に米国人は「日本」を、いやアジアを知らない。
私が、エマニュエルやブッシュの口ぶりや、戦後憲法から受けるいかがわしさはここにあるのです。
日本人の中に眠る欧米を「普遍」だと崇め奉る卑屈な感性と、それにつけ込んで政治的野心を遂げようという米国人の打算の嫌らしさ。

それをいちばんよくわかっていたのが故安倍氏でした。
安倍氏の最終目標は、戦後レジームの脱却だったのですが、これはこのような卑屈なる日本人の精神を捨て去ることでした。
ブッシュのような世迷い言を言わせない、対等の同盟者として独自の国際戦略を策定した上で、改めて同盟を再構築する。
それがセキュリティ・ダイヤモンドであり、その発展形としてのFOIPであったことはいうまでもありません。
日本人が発した最初の国際戦略の提示であり、米国をこちらから巻き込んでいったのです。
それを絶妙のバランス感覚で現実化したのが安倍氏でした。

岸田氏はそれに乗っているだけのこと。
宏池会特有の米国への従属意識が、今回のLGBT法の動機です。

こんな「アジア」に対する度し難い無知をわからないまま「反テロ戦争」を行い、イラクに投票箱を持ち込んだら大火傷するのは目に見えています。
開けてビックリ。
投票箱は盗まれるわ、投票所にはロケット弾飛んでくるわ、そもそも有権者がどれだけいるのかさえわからない。

あのね、ブュシュさん、日本は先の大戦までズッと民主主義国家でした。
だから日本人にとって、民主主義はなじんだ制度で珍しくもなんともなかった。
そもそも独裁国ですらない。
東條はヒトラーじゃなかったし、権力欲こそあったが、ただの軍テクノクラートにすきず、彼のために兵隊はただのひとりも死のうなんて思っていませんでしたよ。
つまり、米国は自分の戦時プロパガンダに自分でだまされていたにすぎないのです。

自分の国ですら実現していないことを、日本にやらせなさんな。
マニュエルさん、そんなにLGBT法を作りたいなら、まずはじぶんの国を巡ってきなさい。
 米国では、50州のうち実に49州で反LGBTQ法、つまり「性的少数者」に対する権利制限をする法律が可決するか、提出されています。

なんのこたぁない、自分の国じゃぜんぜんLGBT法が通る可能性なんかないのです。
マニュエルさん、テキサスにでも行って「お前らの進化のためにLGBT法を作れ」と演説してみることです。
いのちの保証はしないけど。

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産経

さて、LGBT法は、維新と国民という優秀な野党のおかげで悪くいえば骨抜き、よくいえば修正されました。
一番反対派が問題視していたのは、次の2点です。
ひとつは、トイレとか更衣室に「オレは女だもん」というの人物が入ってきたら、女性が保護されないのではないかという不安。

もうひとつが、理念法ゆえの人権教育にかこつけて、例の公金チューチューの人権屋さんらがたかるのではないかという危惧。

まず初めのトイレや更衣室ですが、修正をかけられてこうなりました。

「修正案は女性の安全や権利保護に配慮するため、維国案にあった「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意」との文言を盛り込んだ。その上で、政府に対し「その運用に必要な指針を策定する」と明記した。急進的なLGBT条例が各地で制定される状況を念頭に、国として一定の指針を設ける狙いがある」
(産経前掲)

このLGBT法の議連ができた2年前には、現実には「オレ、実は女なんだ」という自称女性(or 男性)による侵害行為はなかったのです。
ところが、現実に米国では複数トランスジェンダー選手が登場し、肉体は男性なので女性大会て優勝をかっさらっていくなんてこともおきました。
もちろん男性器をぶらさげて女風呂にはいったりするのは、立派な性犯罪ですから別途に取り締まればいいのですが、現実に人権屋団体から「差別だ」と騒がれると行政や警察は弱い。

実際、歌舞伎町の某ホテルのようにジェンダーフリートイレなんぞというお先走りをするところもでるし、行政にも追随する所が出たようです。
たぶんアッチ系の首長がいる自治体では、大いに忖度して公共トイレは皆ジェンダーフリーなんてやりかねません。
これに対して「必要な指針を策定する」としたことで、今後明確な運用指針が議論になるはずです。
というか、作ってもらわねば困ります。

次にむらがってくるであろう公金チューチューのヤカバラについての対策としてこうあります。

「与党案の「民間の団体等の自発的な活動の促進」との表現は削除した。特定の団体が行政からの補助金を受け続けるといった事態を防ぐ狙いがありそうだ。
与党案は、学校でLGBT教育を促進する条文も問題視された。幼少期に「性の多様性」を教えることで、法案の本来の目的であるいじめの防止などとは別に性観念が不安定な子供を混乱させかねないためだ」
(産経前掲)

これはいわゆる「人権教育」とか「平和教育」の名で自治体レベルでなにが行われてきたのかをみれば、「民間団体の自発的啓蒙活動」なんて一項をいれたらどうなるかわかりそうなものです。
手ぐすね引いて待っていた立憲共産党や社民がもっとも怒ったのは、この部分を封じられたからです。
ま「LGBT教育」なんて、自らの2次性徴してもいない児童に教えることではないでしょうに。
常識で考えろの範疇です。

というわけで、維新と国民の修正案を丸飲みしたおかげでLGBT法は成立しました。
いい野党は持つものです。維新と国民が修正をかけねば、自民原案ではヤバかったのです。
使える野党は、不出来な与党に優る。

2年前に成立を逃したLGBT理解増進法案。現在直面している深刻な分断と諸課題について | 音喜多駿 公式サイト (otokitashun.com)

それにしても、これで岸田さんは解散ができなくなりました。
支持率が一気に12ポイントも下がりゃ、できるはずもなし。
岸田さんが保守岩盤層をみくびった祟りです。


 

2023年6月18日 (日)

日曜写真館 たちまちに大夕焼の天くづれ

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ぐんぐんと夕焼の濃くなりきたり 清崎敏郎

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あらたまの夕焼小焼つつ抜けに 角川照子

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しづかなる時経て夕焼身に至る 桂信子

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いくたびも山彦かへす夕焼かな 吉武月二郎 

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いわし雲もことし豊作の今日も夕焼 荻原井泉水

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うすけれど夕焼けし雲東にのみ 篠原梵 

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てのひらが夕焼けている叛かれる 三谷昭

 

 

 

2023年6月17日 (土)

プーチンの耳はロバの耳

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プーチンの耳は王様の耳ではないのか、と思い始めてかなりの時がたちます。
たぶんこの男は、ウクライナ侵攻のほんとうの状況を知らされていないようです。
プーチンとまともに口をきけるのは国防省のセルゲイ・ショイグだけだといわれていますが、彼すらウソ報告をしまくったおかげで、ソッポを向かれてしまいました。

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<動画>弱いロシア軍に不満?プーチンが露骨にショイグをシカトする衝撃映像|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

「プーチンは包帯やギプスで痛々しい負傷兵の間を回って勲章を授けた後、前で見ていたショイグの隣りに戻った。ショイグがプーチンのほうに身体を向けて何か言おうとしたときだ。プーチンはショイグにくるりと背を向けた。突然、露骨な辱めを受けたショイグは気まずい表情で立ち尽くした」
(ニューズウィーク6月14日)
<動画>弱いロシア軍に不満?プーチンが露骨にショイグをシカトする衝撃映像(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

 これは独裁者が罹る典型的な「ロバの耳」症候群です。

「テレグラムチャンネル「VChK-OGPU」は6月4日付の投稿で情報筋の話を引用し、「この戦争に関する悪い知らせ」はプーチンに報告されていないと伝えている。悪い知らせは同大統領を「激しくいらだたせる」からだという。
プーチンに悪いニュースを伝えた者は「西側のプロパガンダ」に毒されていると叱責される。良いニュースを伝える者だけが、プーチンに「常時面会」できる地位を維持しているという」
(ニューズウィーク2023年6月6日)
プーチンはもうロシア軍の惨状を知らされていない!?(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

独裁者は極度に情報を統制しようとするために、自由な発言を許しません。
自由な言論は侮辱であり、闊達な意見交換は自らの権力に対する紊乱なのです。
側近の数は限られた上に、独裁者に快いことしか言わなくなります。
すると現実に進行している状況との乖離がどんどんと拡がり、決定的なことを報告しようものなら雷のような罵声がふりかかってきます。

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ニューズウィーク

罵声だけならともかく、下手をすると粛清されることもしばしばありますから、まさに生命がけです。

下の写真はショイグがプーチンに報告している時のものですが、さぞかし冷や汗まみれのことでしょう。
プーチンは、まったくショイグの言うことなど信じていないという醒めた顔をして聞いています。
トップがこの調子ですから、下部の将校や情報機関はなおさらグッドニュースしか報告しなくなります。

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ニューズウィーク

そのうえこの男は、部下の指揮官を信用していませんから前線の戦術指揮まで首を突っ込みます。
アソコの部隊をここに投入しろ、ここを死守しろ、いついつまでにココを落とせと命令を乱発します。
そのための補給や部隊再編などといった実務はできませんから、一本道で補給部隊が鈴なりになるという状況が各地で現れ、ウクライナの格好の標的となりました。
下の写真は一本道で64㎞の渋滞をしている補給部隊の衛星写真です。

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当然、こんなていたらくでは失敗を続けて損害の山を築きますが、それは指揮官の無能と断ぜられます。
そんな烙印を押されないために司令官レベルは行くべきではない前線視察に出かけては、ウクライナ軍に続々と討ち取らていきます。
侵攻後3カ月後の2022年6月の時点で将官が12人、佐官以上が152人というすさまじい戦死者を出し、2022年6月の調査によれば4010人の戦死者のうち、188人が上級将校(将官、佐官)で、リスト全体の17%に当たる689人が将校でした。
ベトナム戦争は「大尉の墓場」と呼ばれたそうですが、ウクライナでは「将軍の墓場」とでも言われるのでしょうか。
2022年ロシアのウクライナ侵攻で死亡したロシア軍高級将校の一覧 - Wikipedia

この現象を、BCCはロシア軍の命令システムによるものだと見ています。
戦場において一番部隊の状況を把握しているのは軍曹以下の下士官です。
米軍やNATO軍はそれを知っていますから、戦場での問題解決は将校の命令を待たず、軍曹や伍長などの裁量に委ねられています。
一方、ロシア軍では下士官はただの使い走り扱いで軍用品、兵器類の管理が主要な任務で、戦場の指揮権は任されていません。
するとロシア軍では、たとえば上級司令部からここの高地を落とせと命じられると、佐官クラスが最前線で部隊の戦闘を直接指揮することが多くなります。
この垂直命令型システムが、ロシア軍に司令官、上級将校の戦死者が異常に多い原因です。

ウクライナ軍は、この垂直型命令システムを改めて柔軟なNATO型に切り換えて成功しています。
今の反攻においても、敵の厚い防御ラインに当たると、柔軟に退却したり迂回したりする判断をしていますが、これがロシア軍なら同じパターンの攻撃を墨守して全滅を続けます。
このように民主国家と独裁国の軍隊では、指揮命令系統の体質そのものが違うのです。

また独裁者の政治的配慮を優先するために、シベリアやブリヤートなどのアジア地域に偏った動員を行いました。
ヨーロッパ部分は政治的にプーチンの権力を支えているために動員を避けたのです。

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BBC

「死亡した将兵の出身地域を見てみると、もっとも多いのはコーカサス地方のダゲスタン出身者で、侵攻が始まってからの4カ月で218人の死者を出している。続いてシベリアのブリヤート出身が174人、ウクライナに近いクラスノダール134人、ボルゴグラード124人、中央アジアのバシコルトスタン119人、シベリアのザバイカル107人の順だ。
いずれも辺境の地で、現金収入が乏しい、アジア系少数民族の住む地域だ。人口の圧倒的に多いモスクワ州では46人、レニングラード州では33人の戦死者を数えるのみだ。
地図からも明らかなように、シベリア、中央アジア、コーカサスが、最前線へ投入する兵士の供給源になっていることがわかる」
(BBCロシア語版2022年6月30日)
ロシア軍志願兵の戦死者、45歳以上が4割 多くは地方出身 最大の懸案は消息不明者 (tv-asahi.co.jp)

こんな戦場に駆り出された兵士は脱出しようとすると容赦なく督戦隊に射殺されます。
督戦隊の存在は捕虜などから伝わっていましたが、未確認ですがドローン映像も出たようです。
これが21世紀の軍隊のやることかと思います。

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ロシア軍の督戦隊が逃亡する自軍兵士を射殺する様子が撮影される│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

また戦争冒頭でキーウを陥落させ、全土掌握をするという政治的野望を抱いたために、空挺部隊やスペツナズ、FSB特殊部隊アルファなどのロシア軍精鋭を投入しました。
これは普通の部隊の連度が低いために、仕方なく虎の子部隊をつっこんだのですが、見事に裏目に出て彼らは戦争初期で壊滅的損害を受けて、後にはこれらの精鋭部隊は登場しなくなります。
かくして、いまや激戦地の先鋒部隊はワグネルとチェチェン人部隊が担っています。
どこの国に傭兵がそんな役割をする国がありますか。

このように独裁者の思いつきは惨憺たる結果を生みました。
当然のことながら、誰が好き好んでこんな奴のために死ねるのか、という空気が支配していきます。
だから冗談のように聞こえますが、プーチンはキーウこそ落とせなかったが、うまくいっている、ゼレンスキーは西側に支えられているだけで、西側もやがて厭戦気分が横溢し奴に妥協を迫るだろうから、最終的に勝つのは自分だ、と本気で考えているかもしれません。
いや、そう考えなければ辻褄が合わないことばかりやっています。

西側を団結させないためには、4州の併合などという悪手の極みはするべきでないのに、それを強行してしまいました。
戦線は延びきり、補給すら途絶えがちなのにバフムトに全兵力を傾けんばかりに入れ込み、砲撃の支援もなく先鋒を担わされたワグネルのプリコジンから罵詈雑言を浴びることになりました。

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ワグネル創設者、ロシア軍から攻撃受けたと主張 内紛激化か - WSJ

しかし、そういった小手先の軟着陸が通用する段階はとうに過ぎ、いまや戦争による決着しかない段階に至りました。
王様の耳の代償はおおきかったのです。

 

 

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ウクライナ軍、南部で前進「かなり速く強力」…ロシア軍はハルキウ州から「ほぼ完全撤退」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
ウクライナに平和と自由を

 

 

2023年6月16日 (金)

やせ細ったロシア極東軍事力

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G7やウクライナ反攻の陰に隠れて、あまり目立たないのですが、中国とロシアが組んで日本近辺を荒し回っています。
まずは航空機のほうから。

「防衛省によると、中国のH6爆撃機2機とロシアのTU95爆撃機2機が6日、日本海から東シナ海を飛行した。航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)して対応し、領空侵犯はなかった」
(ロイター2023年6月7日)
日本周辺での中ロ爆撃機による共同飛行、重大な懸念=官房長官 | ロイター (reuters.com)

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中国H6爆撃機

また日本近海での中露共同演習も継続すると言っています。
下の写真は去年のものですが、今年もやりたいですと。

20230615-060855

日経

「中国国防省の譚克非報道官は30日の記者会見で、ロシアとの海空上の共同訓練の定期化に意欲を示した。「軍事的な相互の信頼をさらに深め、共同で国際的な公平と正義を守る」と述べた。
21日の習近平(シー・ジンピン)国家主席とプーチン大統領の会談を「両国関係発展の新しいビジョンの青写真を描いた」と評価した。「中国軍はロシア軍と戦略的な意思疎通と協力を強め、定期的に海と空の共同巡航、共同訓練を実施したい」と語った」
(日経2023年3月30日)
中国国防省、ロシアと海空共同訓練の定期化に意欲 - 日本経済新聞 (nikkei.com) 

中露は東シナ海で、2022年12月21日から27日まで合同軍事演習をやったことがあり、今年も定期化するとみられています。
では、ロシアの極東艦隊はどんな状況なのでしょうか。

「ロシア国防省は5日、太平洋艦隊(司令部ウラジオストク)が日本海とオホーツク海で同日に演習を開始したと発表した。期間は20日まで。艦艇60隻以上、航空機約35機、兵員1万1000人以上が参加するという。
太平洋艦隊は、所属の海軍歩兵旅団が2月にウクライナ侵攻で大損害を被ったと伝えられ、4月中旬に「緊急点検」名目で2万5000人以上が参加する演習を行ったばかり。責任論が浮上していたアバキャンツ前司令官は「定年」を理由に退任しており、4月下旬に後任に就いたリイナ司令官の下で初の大規模な演習となる。」
(nippon com2023年6月5日) 
ロシア太平洋艦隊が演習開始=日本海などに60隻超 | nippon.com

20230615-100531

nippon com

4月半ばには、ロシア軍はオホーツク海を舞台として大演習を行っています。
ロシア国防相によれば、演習には兵員2万5000人、艦船167隻(うち潜水艦12隻)、航空機89機などが動員されたというから、ウクライナ戦争の真っ最中にどこにこんなカネがあるんだと世界を呆れさせました。

見た目はスゴイ規模のようにみえますが、巡洋艦クラスは1隻のうえに老朽化が激しく、近代化が進んでいるのはコルベット艦や通常動力の潜水艦だけで、主力となるべき駆逐艦や巡洋艦の近代化は遅れています。
ちなみにこのお宝のスラヴァ級巡洋艦ヴァリャーク(上写真)は、去年、黒海でウクライナに撃沈された「モスクワ」と同型艦です。

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巡洋艦「モスクワ」、沈没直前とされる画像が浮上 黒煙上げ傾く - BBCニュース

改めてロシア極東艦隊の内実をおさえておきましょう。
巡洋艦は1隻だけで、あとは駆逐艦が5隻、さらに小さいコルベットが6隻、ミサイル艇が11隻です。
コルベット級はフリゲート級より小さい沿岸警備艇であり、ミサイル艇に至ってはハナクソです。
この陣容で日本の自衛艦隊と米第7艦隊に対決しようとすることなど純粋な自殺行為だということは、自分でもわかっているはずです。
戦闘艦はこんな陣容です。

・第36水上艦艇師団スラヴァ級ミサイル巡洋艦ヴァリャークソヴレメンヌイ級駆逐艦:ブールヌイ、ブィーストルイ
・第44対潜艦旅団クウダロイ級駆逐艦:アドミラル・ヴィノグラードフ、アドミラル・パンテレーエフ、アドミラル・トリブツ、マルシャル・シャーポシニコフ
・第11水域警備艦大隊:グリシャ型コルベット:MPK-17ウスチ・イリムスク、MPK-64メーティエリィ、MPK-221、MPK-222コリェエツ
・第38独立水域警備艦大隊:グリシャ型コルベット:MPK191ホルムスク、MPK-214ソヴェツカヤ・ガヴァニ
太平洋艦隊 (ロシア海軍) - Wikipedia

特にロシア軍が力を注いでいるのが戦略原潜です。
今年秋から戦略原潜が2隻配備されます。

「ロシアがアジア太平洋をにらんで核弾頭の配備を急いでいる。弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)2隻を新たに極東に展開し、対立する国々に核戦争が勃発した際の「壊滅的な報復措置」を示唆する。東西冷戦が終結し、ソ連崩壊から30年を経た今、ロシアは再び核抑止論へと走りだした」
(東京2022年1月12日)
核抑止論へ走りだしたロシア…太平洋にらみ核弾頭配備 最新型原子力潜水艦を異例公開、見学ルポ:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) 

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フォーサイト

「太平洋艦隊には、戦略核抑止という重要な役割が存在している。その担い手となるのがカムチャッカ半島を母港とする弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)で、米国から先制核攻撃(第一撃)を受けた場合の報復攻撃(第二撃)を確実に行うことを任務とする。ロシア海軍を構成する4つの艦隊と1つの独立小艦隊のうち、SSBNを運用しているのは太平洋艦隊と北方艦隊だけ、と言えばその重要性が理解できるだろう」
(小泉悠2023年5月19日)
強化される「オホーツクの要塞」――極東ロシア軍の実像と日本の安全保障:小泉悠 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

こんな核ミサイルをぶっ放なせるようなモノ騒がせな戦略原潜は、ウククライナ戦争にはお呼びではありません。
米国との核抑止のバランスを取るには必要ですが、核を封じられたウクライナ戦争には、カネだけ食う無用の長物でしかありません。
というか、極東艦隊全体がいかにポンコツ艦隊であっても、旗艦を沈められた黒海艦隊を助けに行かねばならないはずですが、NATOが管理するボスポラス海峡とダーダネルス海峡を通過できないので、あってもなくてもどーでもいい余剰兵力となってしまっています。

演習では、北方領土にわが国が攻撃を仕掛けた場合の反撃もシミュレーションされたようですが、おいおい、うちの国には戦力投射能力がないから北方領土の実力奪還なんかできんがな。
しかしロシア極東艦隊の揚陸艦の厚みは海自など及びもつきません。
海自は、仮に北方領土奪還を命じられても、兵員を揚陸する能力が欠落しています。
民間船をチャーターしようにも、危険すぎて断られることでしょう。

それに較べて、ロシアは極東艦隊に過剰なほど揚陸艦を配備しています。
実に、大小合わせて8隻です。

第100揚陸艦旅団 ロプーチャII型戦車揚陸艦ペレスヴェート、ロプーチャI型戦車揚陸艦:アドミラル・ネヴェルスキー、オスリャービャ
タピール級揚陸艦:ニコライ・ヴィルコフ、デュゴン型汎用揚陸艇:イヴァン・カルツォフ、セルナ型汎用揚陸艇:DKA107、オンダトラ型機動揚陸艇:DKA57、DKA70

この陣容を見ると、ロシア軍はかつてのソ連時代にはかなり真剣に北海道に侵攻するオプションを検討したことがうかがえます。
そしてソ連崩壊後は、違法に占拠している北方領土を、「日本軍」が取り返しに来ることを恐れているようてす。

しかしあいにく、いまや大規模な揚陸艦隊に乗せるべきロシアの極東の陸上戦力は壊滅状態です。
基幹となるはずの第155海軍歩兵旅団や北方領土に駐屯する陸軍第18機関銃砲兵師団は、地獄のウクライナ戦線送りにされてしまいました。
もはや極東のロシア陸上戦力はカラッポ、備蓄した砲弾や戦車なども、一緒にウクライナに送られたようです。
ちなみにこの精鋭の第115海軍歩兵旅団は、ウクライナであえなく全滅してしています。

「(ウクライナ国防省は)「第155旅団は3回人員を補充しなければならなかった。最初が(首都キーウ近郊の)イルピンとブチャの後、ドネツク近郊で敗北したときが2度目。そして今回、ブフレダール周辺で旅団のほぼ全体が破壊された」と話した」
(朝日2023年2月13日)
ロシア軍、精鋭の旅団5千人を東部での戦闘で失った可能性 米サイト [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

この第115海軍歩兵旅団全滅の報を聞いた時、年配の自衛官は、「あいつが北海道に来襲する先鋒だったはずなのに」と感慨に耽ったそうです。
ついでに「モスクワ」級ともガチンコ勝負を覚悟していたので、コイツが撃沈された時もショックだったそうな。
とまれ、冷戦期に作り上げた世界最強の軍隊の遺産がどんどんとすり潰されていったのが、このウクライナ戦争だったことは確かでしょう。
つまりロシア軍の極東勢力は、海軍はあっても小型艦と補助艦ばかりで役に立たず、陸軍と海軍歩兵はウクライナ方面に抽出されて全滅、残るは威風堂々の戦略原潜艦隊ばかりなのです。

では、こんな大演習をする理由はなんなのでしょうか。
一言で言えば、ウクライナ支援を続ける日本に対しての恫喝と、中国に対する「見栄」です。

「太平洋艦隊は、太平洋地域におけるロシアのパワー・プロジェクション(戦力投射)能力に必要な戦闘力が不足しているようだ。そうであれば、日本にとっての真の脅威となるような姿勢を見せたり、対等な軍事大国であることを中国に確信させたりすることは難しい」と、ISWは主張している」
(ニューズウィーク2023年4月17日)
北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

ロシアは、ウクライナ戦争を経て、極東で一大勢力を張れるほどの能力を急速に失いつつあります。
なにかしようにも、中国の「大海軍」に共同作戦を組んでもらうしかありません。
しかし極東を失うことは、同時にロシア戦略原潜艦隊の存立に関わることですから、中国にすがってでも日米に対抗したいようです。
そのためには、中国と対等の勢力であることを誇示せねばならないために、このような無意味な軍事演習を繰り返して、中国との共同演習に臨もうというのです。

北朝鮮がまた弾道ミサイルを撃ち、日本のEEZ内に落下しました。

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北朝鮮が少なくとも2発の弾道ミサイル発射 EEZ内に落下か…岸田総理「北朝鮮に厳重抗議」 “衛星”とは別か(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

「北朝鮮が、少なくとも2発の弾道ミサイルを発射しました。日本のEEZ=排他的経済水域の内側に落下したとみられます。
防衛省によりますと、15日の午後7時台に北朝鮮の西岸付近から、少なくとも2発の弾道ミサイルが発射されました。
ミサイルは変則軌道で飛翔した可能性があり、それぞれ石川県の北北西およそ250キロの日本のEEZ内に落下したと推定されるということです」
(TBS 6月15日)

まさにやりたい放題ですが、それは周辺国の中露がベタベタに正恩坊やを甘やかし、核兵器や弾道ミサイル技術を漏洩してきたからです。
今度も常任理事国の中露はさらなる制裁に反対するでしょう。

なんせ議長国がロシアですから。

 

 

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反転攻勢で「きわめて激しい戦闘」=ウクライナ国防次官 - BBCニュース
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月15日 (木)

ウクライナ軍の反撃軸とは

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プーチンがこんなことをのたもうています。

「ロシアのプーチン大統領は13日、ウクライナはロシア軍に対する大規模反転攻勢で、欧米から供与された兵器の25〜30%を失う「破滅的な損害」を受けたと述べた。モスクワでロシアの軍事記者らと会談した」
(共同6月14日)
ウクライナ軍に破滅的損害 プーチン氏、優勢を強調(共同通信) -

プーチンはダムを壊したのは、ウクライナなんだーいと言っているようですが、国際的調査が入るようですから今のうちだけ吠えていなさい。
共同はこんなつまらないことを報じていないで、前線に特派員送って自分の眼で記事書かせなさいよ。
ロシアは「西側供与の3割の破滅的損害」の証拠として、レオパルド戦車の破壊された映像を出してきましたが、あいにくですがアレは破壊されたのなら爆風を逃がすブローバックパネルが吹き飛ぶはずです。
白煙も、たまたま砲塔の発煙弾発射装置に命中したためにオーバーに見えるだけのことで、下の写真のようにこの壊れたレオパルドは戦車回収車で後方の修理基地に運ばれたことかわかっています。もちろん乗員も無傷です。
とはいえ、無傷でロシア軍に勝利できるはずもありませんから、やられる場合もありますので、西側兵器の神格化はやめましょう。

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とまれ6月7日から始まったウクライナ軍の総反撃を、元陸将・陸上自衛隊東北方面総監の松村五郎氏の分析を参考にさせていただいて整理してみます。
始まったウクライナ軍の反転攻勢、元自衛隊幹部が作戦を徹底分析 作戦の全体像把握から見えてきた5つの作戦軸 | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

一気に全領土を奪還できればよいのですが、もちろんそんなことは夢想です。
まずやるべきは、ロシア軍を分断して互いの補給や支援の連携を断つことから始めねばなりません。
ですから東のロシア内地からドネツクを経て、アゾフ海沿いのマウリポリからメリトポリ、ザポリージャ、ヘルソン、そして西の端にあるクリミア半島というロシア回廊を分断することから始めねばなりません。
攻撃側のウクライナ軍はどこからでも攻撃できますが、ロシア軍はどこから来ても守れるように全兵力を薄く長くのばさざるをえません。

さて、ウクライナ軍の攻撃の方向(「攻撃軸」)は3~5方面です。

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渡部悦和 Yoshikazu WATANABE(@WatanabeKansha)

上図で西(画面左)からトクマク軸、ベリカノボシルカ軸、バフムト軸ですが、最も重要なのが中央のベリカノボシルカ軸です。
この攻撃軸の正面にはマリウポリ、ベルジャンシクがあります。
トクマク軸はメリトポリへの最短軸ですが、ロシア軍陣地は堅牢だと言われています。

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松村五郎氏による

①②④⑤の攻撃軸(青)、③の攻撃軸(紫)は、それぞれ作戦の目的が異なっています。
もっとも重要な攻撃軸は、③のバフムトからマウリポリに至るラインです。

「③の攻撃軸は、ドネツク州とザポリージャ州の境界沿いにマリウポリ一帯を目標に攻撃するものである。必ずしもマリウポリの街を陥落させる必要はなく、マリウポリの東西どちらかでアゾフ海まで進出することができ、南北の帯状の地域を安定的に確保できれば、東部と南部のロシア軍を分断することができる。
そうなれば、南部のザポリージャ州、ヘルソン州一帯に展開しているロシア軍の補給路は、クリミア半島経由に限定されることになる」
(松村前掲)

①と②は親露派の根城である東部地域の孤立化であり、④はザポリージャからメリトポリへと南下し、⑤はヘルソンからドニエプル川を渡河してクリミア半島の付け根一帯を奪回することです。
ただし、6月6日のカホフカダムの破壊により⑤の作戦行動は難しくなったので、他方面に転じただろうと思われます。

一方、ロシア軍の防衛戦と称するものの正体がバレてしまいました。
ウクライナ軍が防衛線の塹壕に近づくと、実態はこんなものだったようです。

戦闘前に撮られた上空からの衛星写真では、このように報じられていました。

20230614-064132

ロシアの守備、衛星画像で明らかに ウクライナによる反撃を前に - BBCニュース

「トクマクの北側に塹壕が2本の線状に掘られているのが分かる。ウクライナの攻撃が予想される方向だ。
これらの塹壕の背後では、街を囲むように要塞が配置されている。下の拡大した衛星画像では、守備が3層になっているのがはっきりと見て取れる」
(BBC5月23日)

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NOELREPORTS 

ところが近寄ってみればただの浅い溝(笑)。たぶん戦車なら簡単に超越できるでしょう。
全部が全部こうではないでしょうが、それにしてもこんな浅い溝で待ち構えているロシア兵も哀れです。

では③の攻撃軸によって、マウリポリのラインでロシア軍が分断された場合、どうなるのでしょうか。

「軍の補給品には、燃料や食糧も含まれるが、重量でも体積でも最も多い量を占めるのは弾薬であり、これが絶たれると、大砲、戦車、ライフル等の装備があっても戦うことができなくなる。
 クリミア半島は、ロシア本土とクリミア大橋一本で繋がっているだけであり、ウクライナ側の半島の付け根も主要な道路2本を除いてほぼ湿地帯である」
(松村前掲)

現代戦では補給が命です。補給が途絶えた瞬間、その軍は死に直面します。
補給が必要なものは、食料、医薬品、燃料など数ありますが、なかでも重要なものは砲弾、しかも「155mm砲弾」と呼ばれるものです。

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韓国「155mm砲弾」30万発を米軍に貸与、ウクライナに回る?(ニュースソクラ) - Yahoo!ニュース

このウクライナ戦争では、いままで考えられていたのをはるかに上回る砲弾が必要とされました。
それは双方共に優秀な対空ミサイル網を持っているために、共に航空優勢が取れないでいるからです。
西側の常識では、戦闘前に徹底した空爆を行うのですができないし、それはロシアも一緒だったようです。
そのために空軍は思うような攻撃参加ができず、24~30キロ離れた長距離から相手に致命的打撃を与える長距離砲が戦場の主役になりました。

M777 155mm榴弾砲 - Wikipedia

ひとくちで射程30キロといいますが、東京大手町の皇居あたりに155㎜砲を据えて東に向けて撃つと、柏市や八千代市まで飛ばすことができます。
撃たれたほうは遥か遠くからの砲弾で、なにがなんだか分からない内にやられてしまいます。
しかもミサイルとは違って砲弾は無誘導なので、電波妨害したりして逸らすことかできません。

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にゃんこそば🌤データ可視化さんはTwitterを使っています: 「東京駅から30km圏はこんな感じ。 https://t.co/nRtCXmGxZ4」 / Twitter

ちなみに自衛隊は、かつてソ連が攻めてきた場合、自衛隊は弾薬を「空自が3時間、海自が3日、陸自が3週間」で撃ち尽くすと言われていました。
冷戦終結で貧弱な防衛費がさらに削減され、ある試算によると、今の備蓄量では南西諸島における有事の際に2ヶ月弱持てばいいほうだと言われています。
トマホークもけっこうですが、こういう地味な155㎜砲の砲弾備蓄をしっかりやらないと、台湾-南西諸島有事に対応できません。

そはさておき、米国防総省は、ウクライナ軍だけで1日に約3千発の155mm砲弾が使用されていると発表しています。
侵攻からの過去1年間で100万発以上消費したという推計さえあります。たぶんそれ以上消費しているはずです。
米国はすでに100万発以上をウクライナに送ったものの、天下の米軍ですら余剰在庫が底を突き、すぐさま生産もできない状況のようです。
日本が弾薬の資材を輸出するという話すら持ち上がっています。
また韓国は備蓄砲弾を送ったと言われています。

一方ロシア軍は、前大戦において証明された大砲という「戦場の女神」をことのほか愛し、ウクライナ軍の10倍、つまり1日3万発、1年間で実に1千万発もの砲弾をウクライナ軍の頭上に打ち込んできました。
ウクライナ兵士は、一発撃つと10発返ってくるとぼやいていました。
これがロシア軍が簡単に崩壊しない最大の理由であり、さすがにロシアも砲弾が枯渇しかかって、いまや世界最貧国の北朝鮮に砲弾を提供を要請しているほどです。 

互いに砲弾が切れかったために、戦線が膠着していました。
ですから、ロシア軍の補給路を断ってしまえば、ロシア軍は各方面で孤立し包囲されていくしかないのです。

これらの攻撃軸はロシア回廊を分断し、アゾフ海沿いに展開している南部地域全体のロシア軍をクリミア半島への追い込み、、さらにクリミア大橋をストームシャドウで破壊し孤立化にさせようとしています。
遠くからウクライナ軍の活躍を祈っています。 

2023年6月14日 (水)

共和党候補はウクライナ戦争をどう見ているか

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昨日のトランプの体たらくを見ていて急に心配になったので、もう少し続けましょう。
米国はウクライナを今後も支援し続けていく気持ちがあるのだろうか、ひょっとして政権が変わればウクライナ切りをするのではないか、という危惧です。

実は共和党内でも、民主党のリベラル政策についての反対は共通していますが、ことウクライナ支援に対しては大きく立場に違いが見られます。
いやそれどころか、ウクライナ政策こそが共和党の候補者選びの最重要テーマといってよいほどです。

「2024年米大統領選で野党共和党からの出馬が取り沙汰される南部フロリダ州のロン・デサンティス知事が、ウクライナ戦争への関与は米国にとって重要な国益ではないとの認識を示した。これにより、共和党の大統領選指名候補獲得争いは、ウクライナ支援の是非を巡る外交政策が争点になるとの見方が専門家の間で広まっている」
(ロイター2023年3月16日)

アングル:24年米大統領選、共和党はウクライナ戦争関与が争点に | ロイター (reuters.com)

実は、共和党は20年前のブッシュ政権がイラク戦争やアフガニスタン戦争を主導した結果、国力の疲弊を招いてしまったことへの反動があるようです。
民主党のベトナムの泥沼、共和党のイラク・アフガンという悪夢です。
20年間で戦費が880兆円、州兵までイラクやアフガンに投入し、8千人もの戦死者を出しながら戦線は膠着し勝てない戦争になってしまったことに対するやり場のない憤りが、トランプの「アメリカファースト」という新孤立主義を受け入れることになったのです。

「米ブラウン大の研究チームは1日、米国の「9・11」後の20年間で、一連の対テロ戦争の費用が8兆ドル(約880兆円)にのぼるとする報告をまとめた。(略)
内訳は、アフガニスタンパキスタンでの費用が2・3兆ドル(約250兆円)▽イラクシリアでの費用が2・1兆ドル(約230兆円)▽退役軍人への療養費2・2兆ドル(約240兆円)などだった。

死者は米兵が7052人▽敵対した兵士が30万人前後▽市民が36万~38万人▽ジャーナリストらは680人だったという」
(朝日2021年9月20日)
対テロ戦争費用は20年間で880兆円 死者90万人、米大学が報告 [アフガニスタン情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

FOXテレビのタッカー・カールソンが今年3月13日に、共和党の候補者や立候補の可能性のある人物を対象に実施したウクライナ戦争に関する質問の回答を見ると、共和党の外交政策がきわめて内向きになっていることに驚きさえ覚えます。

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BBC   ディサンティス候補

たとえば、トランプに猛追すると言われているフロリダ州知事デサンティスは、このFOXのアンケートに答えてこのようにに答えて、ウクライナ政府を慌てさせました。


「米フロリダ州のロン・デサンティス知事(44、共和党)は14日、ロシアによるウクライナ侵攻は「領土紛争」であり、アメリカの「重大な国益」ではないと発言した。これを受け、ウクライナ外務省報道官はデサンティス氏に、ウクライナを訪問するよう呼びかけた。
2024年の米大統領選への出馬が有力視されているデサンティス知事は、共和党候補と目される人物に対する米FOXニュースの質問に答えるかたちで、ウクライナ侵攻に言及した。
デサンティス氏はロシアによるウクライナ侵攻は「領土紛争」であり、アメリカよるウクライナ支援の継続は、同国の「重要な国益」には含まれないなどと述べた。
米政府にとってウクライナ支持は不可欠かどうか問われると、「不可欠ではない。欧州にとってはそうだが、アメリカにとってはそうではない」と述べた。こうした発言は、デサンティス氏が大統領に就任した場合にウクライナへの援助を縮小する可能性があるこ
とを示唆している」
(BBC2023年3月16日)
ロシアの侵攻は「領土紛争」と米フロリダ州知事 ウクライナが訪問を提案 - BBCニュース


もっとも現実のトランプ政権は、優秀な外交スタッフに恵まれて、引きこもりにならず中東やアジアで着実に布石を打ってきました。
昨日山路さんが、「トランプが大統領時代に上手く行ったのは、ポンぺオがいてナヴァロ、ピルズベリーやニッキーヘイリー、ある時期のボルトン、ペンスや優秀な娘婿、日本の安倍晋三が周りを固めていたからです」という指摘は正鵠を射ています。
トランプの功績はこれら「チームトランプ」のものなのです。

NATOとだけは終始ギクシャクしていましたが、それはむしろウクライナ戦争前のNATOの問題であってトランプだけの責任ではありません。
ただし、トランプやディサンティスは、ウクライナ支援に力を注ぐ今のNATOの現住所をきちんと理解しているとは思えません。
ゼレンスキーにとってNATOなき戦いはかんがえられもしないでしょう。
ディサンティスはこのトランプの欠陥だけ強調してしまっています。

実はこのディサンティスの外交政策は、あのマクロンと瓜二つです。
「わが国には多くの重要な国益があるが、ウクライナとロシアの領土紛争にこれ以上巻き込まれることは、国益にはあたらない。欧州にとってはそうだが、わが国にとっては違う」というディサンティスの発言は、マクロンの発言だとしても少しも違和感がありません。

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習近平氏 マクロン仏大統領を異例の厚遇 EUの対中包囲網の切り崩しに躍起:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

ウォールストリートジャーナルは、このマクロン訪中をこう評しています。

「中国は長い間、西側諸国との地政学的な競争において米国と欧州を分断しようとしてきた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が先週、欧州は中国に対する米国の姿勢には従わないと宣言したことで、中国の戦略は成果を上げたように見えた。
しかし、見かけは当てにならない。実は欧州連合(EU)はこの1年で中国に対する姿勢を決定的に変えた。欧州の人たちは米国人よりも穏やかな言葉を使い、中国との経済関係について「デカップリング(切り離し)」ではなく「デリスキング(リスクの低減)」を望むと話す。
ただ実質的には、欧州のデリスキングと米国のデカップリングはほぼ同じように見える。欧州は中国に対して経済的な防衛策を構築しつつあり、その中には米国よりもさらに踏み込んだものもある」

(ウォールストリートジャーナル2023年4月20日)
マクロン発言は気にするな 欧米の対中見解は一致 - WSJ 

いまやマクロンは、NATOが東京に連絡事務所を開設することにすら反対し、NATOは北大西洋地域に焦点を当て続けるべきだと主張しています。
ま、その一方でフリゲート艦をアジアに派遣してバランスをとろうとするんですがね。
つまりマクロンに言わせれば、台湾が中国と八重山に同時侵攻しようと、ヨーロッパの利害には無関係だということです。
この嬉しい応援に中国は気をよくし、5月12日の汪文斌報道官は、「関係方面がいわゆる地政学的利益を求めて地域の平和と安定を破壊しないよう望む」と応じています。
なにが「地域の平和と安定」だ。ひとり破壊しているのは自分だろうに。

20230613-043738

マクロン仏大統領、ロシアでコロナ検査を拒否 ロシア政府認める - BBCニュース

マクロンは、国際社会の安定に責任を持つべき国家が中露に追従し、ロシアをテロ国家と指定する国連総会の決議にも反しています。
おもえば、マクロンはウクライナ侵略が起きた直後も、ロシアの声を聞け、停戦協議を行なえと主張して無意味に終わったモスクワ詣でに精を出したものでした。
マクロンがなかりせば、西側陣営、EUの対ロシア結束ははるかに早かったはずです。

マクロンは深く勘違いしているようですが、NATOをアジアに関わりさせたくないのなら、ロシアにへつらうのではなくウクライナを早く勝たせることです。
早く終われば終わるほど中国は関与できなくなるからです。
またお友達の習近平に、心から台湾侵攻や尖閣・八重山侵攻をするなと忠告すべきでしょう。
とまれ、マクロンさん。ド・ゴール主義はド・ゴール御大のようなカリスマ的人物がやってこそサマになるのであって、あんたのような軽いキャラがやっても座興に終わるのは目に見えています。

ただし、マクロン訪中と同時した欧州委員のフォンデアライエン氏は、既定の西側の外交路線そのものでした。

「欧州の中国に対する新たな考え方を理解するためには、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長が、マクロン氏とともに中国を訪問する直前の3月30日に行った演説原稿を読むといい。その一部は、米バイデン政権の国家安全保障会議(NSC)が書いたと言っても違和感がない。
フォンデアライエン氏は「中国共産党の明確な目標は、世界秩序の体制を中国中心のものに変えることだ」と述べた。「われわれは、自国企業の資本・専門技術・知識が、体制上のライバルでもある諸国の軍事・情報収集能力の強化に利用されることがないよう注意する必要がある」
(WSJ前掲)

ヨーロッパ内部も説得できないで、ワンマンプレーやっているんじゃないよ、マクロン。

しかし、米国内にマクロンと同じ考え方が生まれ、それが大統領となったらどうでしょうか。
欧州のマクロンのゴーリズム(ドゴール主義)と米国流「アメリカファースト」が大西洋を隔てて登場したら、状況は大きく変わります。
ウクライナはロシアに屈し、台湾と八重山は侵攻を受けるでしょう。

このようなディサンティスは、トランプのひな型であり、彼に次ぐ共和党候補なのですから憂鬱になります。

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米フロリダ州知事、大統領選への出馬表明 「偉大な米国の復活導く」 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

これに対して他の共和党候補が、即座に反論したことは救いでした。

「ヘイリー氏は14日の声明でウクライナへの支持を改めて表明。「米国にとってウクライナの勝利ははるかに良いことだ」と述べた。
いずれも大統領候補指名争いをしたことがあるフロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員、リンゼー・グラム上院議員も共和党内の孤立主義を批判。グラム氏はロシアのプーチン大統領について「遅かれ早かれ代償を支払うことになる」とツイッターに投稿した。
シンクタンクのアトランティック・カウンシルに籍を置く元外交官のダン・フリード氏は「デサンティス氏のコメントは、第二次世界大戦前の共和党の伝統的な立場である孤立主義、つまり欧州の安全保障に対する無関心を極めてほうふつとさせる」と述べた」
(ニューズウィーク2023年3月16日)
来年の米大統領選、共和党内はウクライナ戦争への関与が争点に|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

では、候補者を選定する党員はどうでしょうか。
今年2月に実施したロイターとイプソスの世論調査では、党員の55%が、民主的でない国から攻撃された場合、米国は民主的な国を支援すべきだと回答していますが、同時に米国はウクライナに武器を送り続けるべきかとの問いには、賛否が真っ二つに分かれてしまっています。
つまり共和党中央委員会のキャビネスが言うように、党員は外交政策には関心をもっているが、これまで約束した分は供与してもさらなる支援となると尻込みしてしまう、ということのようです。

言い換えれば、共和党員の態度は決まっていないのです。
ですから指導者のイニシャチブしだいで、どちらにでも傾くということになります。

一方、その他の候補者はここを攻め口だと考えたようです。
元国連大使だったヘイリー、前副大統領だったペンス、前国務長官のポンペオなどの候補者は、外交政策での経験を有権者へのアピールポイントとしてトランプやディサンティスの非干渉主義に対抗しています。
これらの人々は、トランプ政権の外交を作り出してきた人々でした。

仮にトランプやディサンティスが大統領となっても、この人たちと組んでくれるなら救いはあるのですが。

トランプは秘密文書を大量に持ち出して、フロリダの別荘の風呂場に置いておいたそうです。
その中には核戦略や核爆弾に関する機密解除されていない文書もあったとか。
そして御大は来客に、オレはこんなスゴイもの持っているんだぜ、とばかりに自慢したとも伝えられています。
まったく愛想が尽きます。子供か。
共和党はペンスやマルコ・ルビオなどのような保守政治家を大統領候補に据えるべきでしょう。

 

2023年6月13日 (火)

トランプの危ないウクライナ戦争観

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米国大統領選とウクライナ戦争の行方は、相互に強い関係を持っています。
バイデン政権は、ロシアが全面的な侵攻を開始して以来、ウクライナに安全保障面で370億ドル(約5兆1800億円)以上の支援を供与しており、さらなる軍事援助を約束しています。

私からみれば老人の小水のように五月雨的であり、航空機供与を拒否するなど恐露病もいい加減にしてほしいもんだと思います。

一方、トランプは5月の演説では、ウクライナ支援をぼやかした上で、その代わりオレなら24時間で終結させてみせるとタンカを切っています。

「2024年の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領は10日、米CNN主催のイベントに登壇した。ロシアによるウクライナ侵攻について「私が大統領なら、24時間以内に終わらせる。勝ち負けではなく、どう決着をつけるかという問題だ。人が殺されるのを止めるのだ」と主張し、ウクライナへの支持を明言しなかった」
(毎日2023年5月11日)

「私なら24時間以内に戦争終わらせる」 ウクライナ巡りトランプ氏 | 毎日新聞 (mainichi.jp)


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米大統領選 トランプ氏に対抗する共和党候補を一本に絞るべき(ニッポン放送) - Yahoo!ニュース

例によってのビッグマウスなのか,北朝鮮の正恩を首脳会談に引っ張りだして事実上の核凍結に持ち込んだようなディールをしたいのか、それとも輝かしい米国外交の金字塔であるアブラハム合意のような正統派外交をしたいのか、いずれにしてもその具体的方法については言及せず、こういった言い方をするだけでした。
もう少し彼の肉声を聞いてみましょう。

「トランプ氏は「(ロシアもウクライナも)両国とも弱みと強みがある。終わらせるには(米国の)大統領の力が必要だ」と強調した。プーチン露大統領については「大きな過ちを犯したが、頭が良く、ずる賢い人物だ」と評価。「(彼は)戦争犯罪人か」との質問には「戦争犯罪人だと言えば、問題解決のためのディール(取引)がずっと難しくなる。後で議論されるべきだ」とかわした」
(毎日前掲)


「頭がよく狡賢い人物」ですって?冗談も休み休み言っていただきたい。
プーチンはピョートル大帝を崇拝し、ウクライナを国としてすら認めない狂人です。
なぜなら、プーチンは19世紀の世界に住んでいるのです。
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「プーチン氏「奪い返しただけ」 ウクライナ侵攻を18世紀の戦争になぞらえ
【6月10日 AFP】ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、ウクライナ侵攻について、スウェーデンに勝利した1700~21年の北方戦争になぞらえる発言をした。
北方戦争では、ピョートル1世(大帝、ピーター・ザ・グレート)率いるロシアがスウェーデンに勝利を収め、バルト海沿岸を手中に プーチン氏はモスクワで開かれたピョートル大帝生誕350周年を記念する展覧会を視察した後、若手企業家を前に「彼(ピョートル大帝)がスウェーデンとの戦いで何かを奪ったかのような印象を受けるかもしれないが、何も奪っていない。奪い返しただけだ」と語った」
(AFP 2022年6月10日)
プーチン氏「奪い返しただけ」 ウクライナ侵攻を18世紀の戦争になぞらえ  
こういう男を相手にして、トランプは「オレなら和平を仲介できる」なんて考えているんじゃないでしょうね。
だとすれば、トランプには大統領になるべきではありません。
これについてゼレンスキーは、珍しくチクリとこう言っています。

「支援を受けている現在のような状況下では誰であれ、変化を恐れるものだ」と同氏。「正直に言って、政権交代となれば、私は他の誰もが感じるのと同じことを感じる。それは、良い方向に変わることを望むが、その逆になる恐れもあるというものだ」
ゼレンスキー氏は、24時間で戦争を終わらせるというトランプ氏の主張について、理解できないと語った。ロシアが既にクリミア半島とウクライナ東部の一部地域を占領していた時点で、当時大統領だったトランプ氏がこうした主張通りのことを実現できなかったからだ」
(ウォールストリートジャーナル2023年6月5日)
ゼレンスキー氏が語る反転攻勢・米大統領選・中国 - WSJ

ゼレンスキーは、2014年以降のクリミア占領や、東部2州の傀儡国家が既成事実化していったことに対して、トランプがなにひとつ動かなかったことを指摘しています。
そしてここまで国際的支援が積み上がり、国際的包囲網が狭まる中で、プーチンを「頭がいい」と言ってしまうトランプの感性に怒りを隠していません。
もはやトランプ流のディールなど入り込む隙間はないのであって、共和党全国委員会のキャビネスが言うように、これまでの民主党政権の支援を踏まえてなにがなきるのか、なにをつけたすべきなのかという問題なのです。

「アイオワ州共和党中央委員会のトゥルーディ・キャビネス氏は「人々は外交政策に関心を持っているが、ウクライナへの資金援助については少し複雑だと思う。私が(党員から)聞いたのは、これまで約束した分は供与して、次に進まなければならないという意見だ」と話す」
(ニューズウィーク2023年3月16日
来年の米大統領選、共和党内はウクライナ戦争への関与が争点に|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

方や、バイデンはウクライナには心理的負い目があります。
ドラ息子のハンター絡みの利権構造がある上に、こともあうにプーチン会談の後に「ウクライナが戦争になっても米軍は介入しない」なんて言ってしまったのです。

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産経

「バイデン米大統領は10日、ロシアがウクライナに侵攻した場合、同国内にとどまる米国民の退避のために米軍を派遣する考えはないと言明した。その理由として「米国とロシアが互いに発砲を始めれば世界戦争になる」と述べ、何らかの形で米露の衝突に発展するリスクを避ける考えを強調。ウクライナ国内の米国人はすみやかに退避するよう求めた。米NBCテレビのインタビューで語った」
(産経2022年2月11日)
バイデン氏、ウクライナ退避で「軍派遣しない」明言 - 産経ニュース (sankei.com)

バイデンは馬鹿ですか。
コト次第ではわからんぞ、侵略は許さん、とと含みを持たせておけばよいものを、ここまであからさまに身に染みついた恐露病をみせれば、プーチンにさぁ侵略してくださいといわんばかりではありませんか。

「ゼレンスキー氏は、ジョー・バイデン大統領にはウクライナへの思い入れがあり、それがバイデン政権のウクライナ支援を支えていると語った。その一方で、トランプ氏が大統領だったのはロシアの全面侵攻前のことだと指摘し、全面侵攻時に大統領だったら「トランプ氏がどう対応していたかは定かではない」と述べた」
(WSJ前掲)

欧州やわが国などの同盟諸国も、米国のこうしたウクライナ支援に追随しています。
したがって、米国が態度を変えた場合、これらの支援が大きな打撃を受けることは明白です。
だから困る。
バイデンも困るが、しょせん今の支援策の延長だから読めます。
それ以上にトランプはもっと困る。
おそらくいままでの西側同盟の支援をぶっ壊しかねません。

ことウクライナに関してはという限定付きでいえば、トランプを次期大統領にしてはいけないでしょう。
まぁ、脇にポンペオがついていれば多少安心感がありますが。

とまれこの両者で争われるとなると、ゼレンスキーは大統領選までに決着を付けねば後がコワイな、と思ったことでしょう。

※改題しました。

 

 

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露、マリウポリ「完全制圧」 ゼレンスキー氏「絶対悪」と非難 - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和と独立を

 

2023年6月12日 (月)

ウクライナの反攻始まる

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ゼレンスキーは慎重な言い回しながら、反攻が開始されたと述べました。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、長く予想されてきたロシア軍に対する反転攻勢を開始したことを認めた。
反撃・防衛行為が行われている」と、ゼレンスキー氏は述べた。
しかし、反転攻勢がどのような段階、あるいはどのような状況にあるのかについては詳細は語らないとした。
ウクライナの南部と東部で戦闘が激化し、広く予想されてきたウクライナ軍の前進がみられるとの指摘が相次ぐ中、ゼレンスキー氏は反転攻勢を開始したことを認めた。
ウクライナ部隊をめぐっては、東部バフムート近郊や南部ザポリッジャ近郊で前進し、ロシア軍の標的を長距離砲で攻撃しているとの報告があがっている」
(BBC6月11日)
ウクライナの反転攻勢は「始まっている」、ゼレンスキー氏が認める 詳細は語らず - BBCニュース


対するプーチンは反撃が始まっていると断言しています。
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、そう考えているようだ。「ウクライナの反撃が始まったと、我々は断言できる」と、プーチン氏は9日にメッセージアプリ「テレグラム」で公開したビデオインタビューの中で語った」
(BBC66月10日)
ウクライナの反転攻勢、ついに開始か 数カ月の準備経て - BBCニュース

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ウクライナ反攻開始か 国防次官「攻撃的行動に移行」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

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ウクライナは、傍受された通話がロシアがノバカホフカダムを爆破したことを証明していると主張している (nypost.com)

また、英国防省もこう述べています。

「英国防省は10日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が過去48時間に、同国の東部と南部で大規模な作戦を実施したとの分析を公表した。「いくつかの地域では前進し、ロシアの第1防衛線を突破した可能性が高い」とした。
ゼレンスキー大統領はロシアに対する反転攻勢が始まっていることを認めており、戦況は新たな局面を迎えている。
ウクライナメディアによると、ウクライナ軍東部方面部隊の報道官は10日、東部ドネツク州の激戦地バフムト周辺で「1日に最大1400メートル前進できた」と述べた」
(産経6月11日)
ウクライナ軍、ロシア第1防衛線を突破か 英国防省分析 - 産経ニュース (sankei.com)

続いてISW(戦争研究所)です。

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Chuck Pfarrer | Indications & Warnings |(@ChuckPfarrer)さん / Twitter

「ウクライナ軍は前線の少なくとも4つの地域で反撃作戦を実施した。
ロシアの情報筋は、ビロホリフカ近くのルハンシク州でのウクライナの活動を報告した。
ウクライナ東部軍グループのスポークスマン、セルヒイ・チェレヴァティ大佐は、ウクライナ軍がバクムット戦線の不特定の地域で最大10㎞前進し、ロシアのミルブロガーがウクライナの前進を報告したと述べた。
ロシア国防省(MoD)と他のロシアの情報筋は、ウクライナ軍がドネツク-ザポリージャ州の国境地域、特にヴェリカノボシルカ地域で局地的な攻撃を行ったと主張した」
(ISW6月11日)
戦争研究所 (understandingwar.org)

このような第1防衛線を突破したという報告もある一方で、ロシア側はウクライナ軍のレオパルド戦車などを撃破したと得意そうに報じています。

「ウクライナ軍は今月5日、第23機械化旅団と第31機械化旅団を投入して南ドネツク(ヴェリカ・ノボシルカ方面)で反撃を開始、ノヴォダリエフカやノヴォドネツキーを奪還したものの反撃を受けて後退、ドネツク人民共和国の作戦部隊「OBTF Kaskad」は今月5日頃の攻撃に関する視覚的証拠を公開して「ウクライナ軍はロシア軍のUAVと砲撃による攻撃で多くの装備を失った」と主張しているが、ロシア側情報源はウクライナ軍が攻撃を再開したと指摘している」
(航空万能論6月11日)
南ドネツクの戦い、ウクライナ軍が攻撃を再開して約4kmほど前進か (grandfleet.info)

このレオパルド2破壊のロシア情報は、写真付きで出たので、ロシアンラバーは、それ見たことかとばかりに、随喜の涙を流しておりました。
たしかにこの攻防戦で、ロシア軍は一部の戦線でウクライナ軍のレオパルド戦車とブラッドレー歩兵戦闘車を破壊し撃退したのは事実のようですが、単にロシア軍の戦線に強弱があるだけのことです。

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ウクライナ軍のレオパルド2A6

渡辺悦和元陸将はこうツイートしています。

宇軍のザポリージヤ攻勢に伴い失った兵器
3x Leopard 2A6 (破壊1 , 放棄2)
4x M2 Bradley (放棄)
1x VAB APC (放棄)
1x Oshkosh M-ATV MRAP (放棄)
More losses will be added tonight (including ~six more M2 Bradleys).

この程度は想定内だ。 露軍陣地の強点ではなく弱点を狙え!

まさにそのとおりで、ウクライナのハンナ・マリアール国防副大臣(国防次官)もこうツイートしています。

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マリアール国防副大臣

「戦争には損失がないわけではありません。最もひどいが避けられない損失は人です。そして残念ながら、破壊できない軍事装備はまだ作成されていません。しかし、今日の戦争は、現実と情報の2つの次元で行われます。情報戦も同様に熾烈です。 (略)
たとえば、正当化や反論を奨励することによって。これを行うために、私たちが憤慨して反論し始め、それらへのデータまたは間接的な参照を提供し始めることを期待して、非常に膨らんだ数字が私たちに投げられます 」
Dénes Törteli 🇪🇺🇭🇺🇺🇦

マリアール国防副大臣が言うように「破壊できない軍事装備はない」以上、西側から供与された装備も破壊されるでしょう。
チャレンジャーだろうとレオパルドであろうとやられる時はやられます。F16だろうと落ちる時は落ちる。
損害のない戦争などありえないのですから、われわれのほうがこのようなロシア情報にそのつどパニックにならないことです。

これはマリアール副大臣が指摘するように情報戦でもあるのです。

なおマリアール副大臣は、この反撃作戦とダム破壊についてこのように言っていますので、双方共に大きな戦略修正が行われたようです。

「ウクライナのマリャル国防次官は11日、南部ヘルソン州カホフカ水力発電所のダム決壊は「明らかにウクライナ軍がヘルソンで攻撃を開始するのを阻止する目的で行われた」と述べ、ロシアが意図的に爆破したとの見解を示した。通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
 マリャル氏は、ロシアは自陣営の損失などからウクライナとの戦線を「縮小」させる決定を下したと主張。ウクライナ部隊を洪水対応に向けさせ、自分たちは部隊を南部ザポロジエや東部バフムトに展開させることも狙ったと説明した」
(時事6月11日)
攻撃阻止がロシアの目的=ダム決壊でウクライナが見解|ニフティニュース (nifty.com)

反撃しているのは、多くの軍事専門家が予想したとおりクリミア半島を扼するザポリッジャでした。

「ハンナ・マリャル国防次官は、ザポリッジャから約65キロ南東のオリヒフ村周辺でロシア軍が「積極的に防衛している」と思わせぶりな発言をした。テレグラムでマリャル氏はそのほか、さらに東のヴェリカ・ノヴォシルカ周辺でも戦闘が続いていると認めた。
オリヒフとヴェリカ・ノヴォシルカの2つの村はおそらく、ロシアが徹底防御する長い前線の西と東の端なのだろう。この前線をいずれウクライナは突破しようとするはずだと、多くのアナリストは予想している。
「南部に集中する敵軍への補給路となっている陸の回廊を断ち切ること。これが我々の主な目標の一つだというのは、秘密でも何でもない」と、前出のクザン氏は言う」
(BBC前掲)

小泉悠氏の意見。

「ニェスクチュナとブラホダトネはウクライナ軍が取ったらしく、戦闘の焦点がマカリウカのあたりに移ってきたっぽいぬ。このままウクライナ軍がもう5-6km前進してスタロムリニウカあたりまで取れると、いよいよロシア軍の大規模な要塞線に接触する感じか 」
ИРО法人全裸中年男性理解促進センター(@OKB1917)さん / Twitter

まだ反撃は始まったばかりです。ロシアとロシアンラバーは大量のフェークニュースを流布しています。
落ち着いて情報を収集することにしましょう。

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

2023年6月11日 (日)

日曜写真館 あじさいに ひとりびとりの思いの丈

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あじさいに 絞り下ろしの 水絵具 伊丹三樹彦

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ありなしの色から育つ あじさい これ 伊丹三樹彦 

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傲慢の花紫陽花の紅毬は 山口誓子

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あじさいの始終と過し 稿百枚 伊丹三樹彦 

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水色の夢見確約 紫陽花は 伊丹三樹彦

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あじさいに意図あるがごと 晴曇雨 伊丹三樹彦

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紫陽花に雲払いきる 午後のあり 伊丹三樹彦

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あじさいに降り 有彩の 雨の糸 伊丹三樹彦

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紫陽花に雲払いきる 午後のあり 伊丹三樹彦

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七変化にてとどまらぬ 花の色 伊丹三樹彦

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太陽に 色を惜しまず あじさい苑 伊丹三樹彦

2023年6月10日 (土)

爆破説の確定と被害拡大

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カホフカダム破壊事件で、人為破壊説か自然発生説かについて決定的ともいえる情報が出てきました。
ノルウェーの核実験禁止監視機関NORSARは、地震信号から6月6日午前2時54分にカホフカ・ダムで爆発があり、マクネチュード1~2の振動を記録していました。
カホフカダムが決壊した時刻が6日午前2時54分ですから、偶然ではありえません。
これはドーンという音が聞こえたという住民の証言と重なります。
米国の偵察衛星も爆発を捉えていたようです。
ウクライナの情報機関によるロシア軍電話傍受もありますが、やや信憑性に欠けます。

「6月7日午後(日本時間・同日深夜)、地震波と核実験の観測網データをまとめているノルウェーの研究機関「NORSAR」が、初めて興味深い情報を出してきました。ダム決壊と同じ時間に、マグネチュード1~2に相当する爆発に特有の集中的なパルスの痕跡をダム付近で検出したというのです。それはつまり「誰かによって人為的に破壊された」ことを示しており、自然崩壊説を退ける初めての情報となります。
 厳密に言えば、地震計の検知位置は数十kmの誤差があり、ピンポイントでダムでの爆発だとの特定は難しいようなのですが、その周囲での爆発はほとんど起きていないので、時間の偶然の一致の可能性はきわめて低いと言えます」
(黒井文太郎6月9日)
地震観測網がカホフカ・ダム決壊時に「爆発」を検出 自然崩壊説はなくなったか(黒井文太郎) - 個人 - Yahoo!ニュース

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NORSARの地震計記録
Michito Tsuruoka / 鶴岡路人(@MichitoTsuruoka)さん / Twitter

これによってロシア軍説が決まったわけではありませんが、外堀は埋まったようです。
仮にロシア軍がしたのなら、これだけ大きな破壊工作ですから、この指令はプーチン自身から出ているはずです。

さて、カホウカダムの決壊による被害は甚大なものになりそうです。
これだけの大災害を目の当たりにしながら、国際社会は「戦場における大災害」のためか救援をこまねいています。

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産経

「ウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川に架かるカホフカ水力発電所のダムの決壊で、ロシアの占領下にあるドニエプル川東岸地域の小都市オレシキのルイシチュク市長は7日、決壊に伴う洪水により住民3人の死亡が確認されたと明らかにした。ダム決壊による死者の報告は初めて。ルイシチュク氏によると、犠牲者数は今後さらに増える恐れがある。ウクライナメディアが伝えた。
ヘルソン州の併合を宣言したロシアが一方的に任命したサリド「知事代行」は7日、州内の35集落が浸水し、住民4000人超が避難したと交流サイト(SNS)で表明。ロシア側はまた、住居1万5000戸以上が浸水の被害を受けたとも発表した。ドニエプル川東岸地域の状況を指すとみられる。
一方、ドニエプル側西岸地域を保持するウクライナの緊急事態当局は7日、20集落で2600戸以上が浸水し、住民1700人以上が避難したと発表した」
(産経6月8日)
ダム決壊で初の死者 ウクライナ南部 1万7000戸超浸水か - 産経ニュース (sankei.com)



衛星からの写真で、洪水の凄まじさがわかります。
BBCは衛星画像を使って被害の大きさを検証しています。
衛星画像は、カホフカダムから西に約75kmのヘルソン市まで水が広がっていることを示しています。
まずは洪水前のものです。

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BBC

同じ地点の洪水後のものです。

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BBC

「近くで見ると、ヘルソンからわずか数マイルのロシアが支配する川の側にあるオレシキーの町のほとんどの建物の屋根に水位が到達し、多くが完全に水没しているのがわかります」
(BBC6月8日)
ウクライナのダム:地図と前後の画像が災害の規模を明らかにする-BBCニュース

洪水はロシアが支配するドニエプル東岸が大きいようです。
ロシアが占領しているドニエプル川左岸(東岸)のオレシュキ市(ドニエプル川左岸:東岸)も水没しており洪水で住民3名が死亡したと報告されています。
このことは衛星写真でも確認できます。

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BBC

リシチュク市長(ロシアの任命)は、公共放送局でこう訴えています。

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Прокудін Олександр - Офіційна сторінка

「オレシュキの家屋は屋根の下あたりまで水位があがっており、通りの水位は3メートルに達している。同時にロシア占領政権は住民の避難を行っておらず、また自発的に町を去ることも認めていない」
ロシア軍がヘルソン地域のカホフカ水力発電所を爆破した—サスピルネノーボスチ (suspilne.media)
救難活動が活発な西岸と対照的に、ーチンは大規模な救援を約束していますが、ロシア占領地区の東岸での救援活動は現時点で確認されていません。
それどころか、救援活動中のウクライナ側に攻撃をしかけて、負傷者すら発生しています。

「(CNN) ダムの決壊で洪水が拡大しているウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市では8日、市民の避難が続く中、ロシア軍の砲撃で少なくとも9人が負傷した。ウクライナ当局者が明らかにした。
ウクライナが任命したヘルソン州軍政当局トップ、オレクサンドル・プロクジン氏によると、負傷者には国家非常事態庁の職員2人、警官、医師、ドイツからのボランティアらが含まれる。男性1人が重傷を負い、集中治療を受けているという」(CNN6月9日)
洪水で避難中の市民に砲撃、9人負傷 ウクライナ南部 - CNN.co.jp

また、ウクライナ農業省はダム決壊により農地約1万ヘクタールの冠水が総意されるとしています。
しかもこの数字はあくまでウクライナが奪還したドニプロ川右岸のみのものであって、さらに被害が深刻な左岸ではこの数倍以上の規模になるだろうと推定されています。
ダムからは汚染物質が大量に放出されており、その汚染被害も重なると考えられます。
カホウカダムの喪失により、ヘルソン州の灌漑システムはすでに94%の水源を失い、農業省によれば中南部ザポリージャ州で74%、中部ドニプロペトロウスク州で30%喪失になるだろうと考えられています。
土壌冠水や汚染除去について、日本は東日本大震災時の経験と技術を持っています。
ぜひ、日本はこの技術を資金と共に提供してください。

ウクライナ軍によるザポリージャ州オレホボ周辺での攻撃は8日午前3時頃に始まり、ノヴォダニリウカの南からロボタイン郊外で激しい戦闘が始まっているようです。
これが反攻なのかどうか、今の時点ではわかりません。
詳細は次回に。

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ウクライナに平和と独立を

2023年6月 9日 (金)

ダム決壊で得をするのは誰か?

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カホフカダム決壊について、いくつかの意見がでています。
大雑把に分けると、可能性の高い順から並べると、①ロシア軍説、②自然崩壊事故説、そして③ウクライナ軍説となるでしょうか。
実は、まだ事故調査がはじまってもいないので、決定的証拠がありません。
したがって状況証拠を積み上げて、蓋然性と消去法でかんがえるしかないわけです。

まず大雑把に、人為的破壊工作か、自然発生的なものかを考えてみます。
自然発生的事故説は地質学者の藤原かずえ氏がツイートしておられます。

「河川幅が3kmある中での堤高30m程度のダムの部分破壊であったため当初の被害は限定されたと推察しますが、見たところ、バットレスで保護されているとはいえ、基本的にアースダムであるため、パイピングによる浸透破壊により洪水吐を除いたダム全体の堤体破壊が予想されます。
浸透破壊が急激に進行したようです。ロック材で補強された日本のロックフィルダムとは異なり、アースダムは力学的に脆弱であるため、ひとたび材料の流出が始まると簡単に崩壊します。すべての有効な貯水が流出するまで待つしか方法はありません」
藤原かずえ(@kazue_fgeewara)さん / Twitter

藤原氏の説明を補足します。
ロックフィルダムとアースダムとの違いは、ダムを積み上げる外壁(遮水壁)がコンクリートであるか、土で作るかの違いです。

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短足おじさんの一言 ラオスのダム崩壊に思う事 (fc2.com)

カホフカダムはアースダムです。

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カホフカ水力発電所 - Wikipedia

カホフカ発電所の貯水量18.18立方キロメートル世界48位ですが、日本最大の奥只見ダムと比較してみましょう。

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奥只見ダム - Wikipedia

カホフカダムは奥只見ダムの約40倍の貯水量を持ちますが、堤高は5分の1です。
しかも奥只見ダムはアースダムよりはるかに堅牢な重力式コンクリートダムです。
カホフカダムはソ連時代の1950年にできたもので、堤は低すぎ、遮水壁はただの土でした。

昨日山形さんがコメントされたように、ウクライナのアースダムは地震がない平原に作られており、表面も浸透を防ぐコンクリーで守られていたので適切な工法だった、という指摘はそのとおりです。
しかし決壊時の動画を見ると、カホフスカダムは満水状態であったことがわかっています。
これは非常に危険な状況で使用されていたことを現しています。
いつ水が堤防を超えて越水してもおかしくはなかった。
いや、すでに一部では越水が始まっていたという説もあります。
越水とは、川の水位が上昇し越水すると、土でできた川裏法尻(のりじり)が崩れて堤が崩壊を始め、やがて堤の川裏側が崩れる現象のことです。

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川の水が溢れる前から危ない 堤防決壊の危険  - ウェザーニュース (weathernews.jp)

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大貫剛🇺🇦🇯🇵З 

この越水があったとするのが、サイエンスライターの大貫剛氏です。
氏は去年11月以降水門管理がされていなかったために、満水状態となり、越水したことが崩壊の原因ではないかと推測しています。
大貫氏のツイートです。

・カホフカダムは、越流を想定した洪水吐を備えていなかった
・昨年11月に一部の水門を開けたが、その後は水門の操作をしていなかった
・崩壊直前には貯水池の水位が水門を大きく超え、激しく越水していた
といったことは、観測的事実として確度が高そうに思う。
大貫剛🇺🇦🇯🇵З УкраїноюTwitter

これらの自然崩壊事故説をとりあげて、これでロシアは無罪確定だとばかりに、手をうって喜ぶ者もいるようです。困った人たちです。
たとえばクラタマ氏がそうです。
この人は9条フェチでしたが、いまやとうとうロシアンラバーになってしまったようです。

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なにが、ハハハだ、ハハハはあんたのほうです。
いいでしょうか、倉田さん、老朽化でダムが壊れたなんてどこで聞きかじったんですか。
大貫氏は老朽化で崩壊したなどとひとことも言っていませんよ。

越水を想定した排水管理をしていなかった管理の問題だと言っているだけです。

しかもこのカホフカダムは、去年からロシア軍の軍事支配下にあり、管理は彼らが行っていました。
ロシアが意図的に越水の危険性を知りながら満水状態に置いたのですから、自然崩壊だろうと人為的破壊工作であろうと、ロシアの責任は免れないのです。

また老朽化崩壊説に至ってはナンセンスです。
山形氏の指摘どおり、ダムはまともに作れば、アースダムだろうとなかろうと、なんの問題もなく100年くらい平気で持ちます。
鴨緑江にある水豊ダムができたのは1944年の大戦中で、カホフカダムの前ですが、いまだ北朝鮮の最大の電力源としてバリバリの現役です。
ですから、このカホフカダムもいくら堤高が低かろうと、アースダムだろうと、管理さえ適切になされていれば崩落事故など起きる道理がないのです。

ただ一点気にかかるのは、このカホフカダムがすでに11月の戦闘でダムの上の橋が損傷を受けておりそれが影響しているかどうかです。
ロシア側は、盛んにウクライナ軍のハイマースがダムを破壊したとプロパガンダしているようです。
しかしフィナンシャルタイムスはその可能性は低いと見ています。

「ロシアの関与の可能性は、来たるウクライナの反撃に対する懸念を指摘していると、タフツ大学フレッチャー法外交大学院の客員研究員であるパベル・ルジンは述べた。
彼は、ダムの建設(圧縮された土で作られたアースフィルダム)は、それが内側から爆破されるだけで、砲撃によってほとんど損傷を受けなかったことを意味したと言った。
「彼らは5月中ずっと、より多くのミサイル攻撃で攻撃を阻止しようと努力した。それはうまくいかなかったので、彼らは発電所を爆破することに決めました」とルジンは言う」
軍事ブリーフィング:ロシアはウクライナのダム決壊から最も利益を得る |フィナンシャル・タイムズ (ft.com) 

満水状態で越水があった上に、なんらかの破壊活動が加わったことが原因と考えるほうが自然ではないでしょうか。
破壊活動に動機があるとかんがえるのは、よりにもよってウクライナが総反攻に移ろうかというこの時期に起きていることです。
ロシア軍にはこのカホフカダムを壊したい動機があります。
下の写真で列柱の上に乗っているのが、ドニエプロ川の両岸を結ぶ橋です。
ドニエプル川の東と西を結ぶ数少ない渡河橋で、戦略的要衝です。

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Гребля і Каховська ГЕС 19 - カホフカ水力発電所 - Wikipedia

ウクライナ軍が、ヘルソン州から上流のザポリージャ州を奪還しようとすると、ぜったいにこの橋を渡らねばならないのがこのカホフカダムの橋なのです。

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ウクライナ国防次官が訴える“領土奪還”の重要性 | 日曜スクープ | BS朝日 (bs-asahi.co.jp)

川というのは攻める方が難しく、守る方が守りやすい地形ですから、ウクライナとしてはこの川を渡るのかどうかというのは一つのポイントになります。
ですから、ウクライナ戦争では橋を巡ってたくさんの戦闘が繰り広げられてきました。
ロシアから見れば、おそらくウクライナの次の反攻はこのカホフカダムの上の橋を渡ってウクライナ軍が来ると想定しています。
この橋を渡られると、ドニプロ市、ザポリージャ市辺りから南下して一気にメリトポリに進撃されてしまいます。
ですからロシアには、このカホフカダムを破壊したい強い動機が存在し、逆に、ウクライナ軍はダム橋を破壊されてしまうと、大変に困るのです。

また洪水によって下流域は水没し、戦車どころか自動車すら交通できない状況です。
これによってISWは、ウクライナ軍がとり得る戦略的選択肢が狭まったと見ています。

iSW(国際戦争研究所)はこう書いています。

「ISWはさらに、対照的に、ロシアは洪水を利用してドニプロ川を広げ、すでに挑戦的な水の特徴全体でウクライナの反撃の試みを複雑にする可能性があると評価した。ロシアの情報筋は、ウクライナが川を渡って東岸ヘルソン州に反撃する準備をしている可能性について、強烈かつ明白な懸念を表明している。ロシアのミルブロガーによる主張によって裏付けられた入手可能な映像は、洪水がドニプロ海岸線近くのウクライナの陣地を洗い流し、ウクライナの部隊を避難させたことを示唆している」
ウクライナ紛争の最新情報 |戦争研究所 (understandingwar.org)

したがって、冒頭の①ロシア軍説、②自然崩壊説、③ウクライナ軍説の問いに答えれば、③は動機が欠落しているため消去すべきで、②と①のあわさったものではないかと思います。
小泉悠氏のツイートです。
この人のヘンなユーモア感覚にはついていけないけど(笑)。

「ウクライナ軍の攻勢が始まったことはおそらく確定だと思うのだが、そうなるとやはりカホウカのダム破壊も偶然ではなかったのだろうか。ロシアとしてはヘルソンを水浸しにして通行不可能地帯を作り、ドニプロ左岸の兵力をザポリージャ正面に集中する、といった戦略であったのかもしれないぬ 」
ИРО法人全裸中年男性理解促進センター(@OKB1917)さん / Twitter

しかし、この洪水は皮肉にもロシア軍も苦しめています。

「しかし、ロシアの立場は長期的にはウクライナの立場よりも深刻な影響を受ける可能性が高いと彼は付け加えた。「水は数日で流れ去り、氾濫しているのは左岸のロシアの陣地である」
軍事ブリーフィング:ロシアはウクライナのダム決壊から最も利益を得る |フィナンシャル・タイムズ (ft.com)

ロシア軍はダムごと橋を破壊しましたが、それによって引き起こされた奔流は皮肉にもロシア軍が守るドニエプロ川左岸により多く氾濫し、こ個に作った守備陣地ごとロシア軍を押し流してしまったようです。
ちなみに、ロシア軍はヘルソン州をロシア領として「併合」したと称していますが、いまだ数千の避難民を救助せずに放置したままです。
ウクライナ側救助隊を銃撃したとも伝えられています。
これが彼らの「併合」の真実の姿です。

 

 

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ヘルソンのダム決壊で地雷が下流に、赤十字が警告 - BBCニュース
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月 8日 (木)

中国はサンフランシスコ条約を認めていないそうです

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中国は、火遊びをしたいのでしょうか。
このところあまりにも軍を使った挑発行為が多すぎます。

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ニューズウィーク

「アメリカインド太平洋軍(USINDOPACOM)は6月3日、カナダ海軍のフリゲート艦モントリオールとともに台湾海峡を北上し、「航行の自由」作戦を実施していた米海軍のミサイル駆逐艦チャンフーンの近くで、中国艦船が「危険な操縦を行った」ことを発表した。
3日の夕方、スタブリディスは、米中の艦船が接近遭遇した映像を投稿し、中国人民解放軍海軍をツイッターで非難した。
「同じような米軍駆逐艦の艦長を務めたことがある者として、この映像には心臓が止まりそうになった。これは中国海軍の極めてプロ意識に欠ける挑発行為だ。戦争はまさにこのような事件から始まる。人民解放軍海軍よ、恥を知れ」とスタブリディスは書いている。
米軍によると、中国艦船は「チャンフーンの左舷を追い抜き、船首から約140メートルの距離を横切った」が、米駆逐艦は衝突を防ぐために速度を落とさなければならなかった。中国船はその後、「もう一度チャンフーンの船首を右舷から左舷に約1800メートルの距離を横切り、チャンフーンの左舷船首の先で停まった」
(ニューズウィーク6月5日)
元米駆逐艦長が「心臓が止まるかと」思ったほど危機一髪だった中国艦船の急接近(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース 

もちろん国際海洋条約において、台湾海峡は公海ですから航行してもなんの問題もありません。
しかし中国だけは国際法の枠外に自分がいると思っているようで、接近阻止・領域拒否(A2AD)という勝手な戦略を作って、他国の接近を阻んでいます。なんせ国際法など紙屑だと言ってのけた国ですから。
これは大変にアブナイ戦略で、米軍が勝手に自分の縄張りだと主張する海域や空域に入ると、これを阻むために軍や戦闘機をぶつけようとしてとします。
接近阻止・領域拒否 - Wikipedia

いわば、国道にポンポン勝手にロードコーンを立てて、ここオレんちのものなんで通らせないから、通るとうちのダンプぶつけるから、と言っているようなもんです。
領海も公海の区別もないヤクザなやり口ですが、この方法で南シナ海全域を中国の内海にしてしまいました。
と、こんなことをすれば、当然のこととして軍事的緊張が高まり、リスクが増大するに決まっていますが、中国はこの子供っぽい戦略に固執し続けています。

では、自分がやって欲しくないことは、他国にはやらないかといえば大間違い。
宮古海峡をこれみよがしに空母艦隊で通過して見せたり、公船は領海侵犯を常習とし、戦闘機や爆撃機は日本の防空識別圏に年中行事のように侵入しています。
ダブスタの極みですが、自分がやられたくないことを、他人にやるべしというのがチャイナの作法のようです。

一方空のほうは、去年暮れに中国軍戦闘機が、米国の偵察機に対して異常接近しました。

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CNN

「中国海軍のJ11戦闘機は「安全性に欠ける機動」(米軍)を行い、約30人を乗せていた非武装の米偵察機RC135の機首まで約6メートル以内に接近。米インド太平洋軍の先月28日の声明によると、RC135は衝突を避けるために回避機動を強いられた」
(CNN1月4日)
米中軍用機の接近、両国が動画公開 リスク浮き彫りに - CNN.co.jp

中国は米軍機が突然危険な機動をしたのだ、という言い方をしています。

「中国人民解放軍南部戦区は軍の公式サイト上で異なる解釈を提示し、米軍機の側が「突然飛行姿勢を変え、中国機を左に追いやった」と主張。「こうした危険な接近により、中国軍機の飛行の安全性に深刻な影響を与えた」としている」
(CNN前掲)

いや、絶対にありえません。
元オーストラリア空軍将校で現在はグリフィス大学アジア研究所に所属するピーター・レイトン氏は、「RC135が飛行していたのが公海上空で、しかもRC135は大型で動きの遅い機体だと指摘した上で、機動性に乏しい航空機が高速かつ機動性の高い小型機に対して危険な機動をする道理がない、としています。

そして昨今、習近平はテンションが上がりぱなしなようで、こんなトンデモのことまで言い出しています。
なんと日本は独立国じゃねぇぞ、というのですからすさまじい暴言です。

「中国は1951年のサンフランシスコ講和条約を最初から認めていない」。5月26日の日経フォーラム「アジアの未来」で、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長が唐突に話し始めると、会場の聴衆はけむに巻かれたような表情をみせた。(略)
たしかに、中国はサンフランシスコ講和会議に招かれておらず、条約を「最初から認めていない」のは歴史的な事実だ。だとしても、いまなぜそれを改めて持ち出すのか。
同じセッションに参加した九州大学の益尾知佐子教授が「発効から70年たったサンフランシスコ条約を認めないというのは、中国が現在の国際秩序を打破しようとしているように聞こえる」と指摘すると、楊氏は「古いから合理的だというのは間違いだ」と開き直った。口を滑らせたわけではない。周到に準備した発言だ」
(日経6月4日)
習近平政権が軽んじる日本 「民衆が火の中に」発言は本気か - 日本経済新聞 (nikkei.com)

言うも言ったり、どういう顔をして聞いたらいいのか困るような暴言です。
益尾氏がその場で反論したように、そのときサンフランシスコ条約に出席できなかったのはそちらの事情。
だからサンフランシスコ条約が定めた日本の独立を否定してしまたったら、「法の支配」「国境の実力による変更」を言い出したものだと解釈されます。

サンフランシスコ講和条約はその名に「講和」とついているように、日本の戦後処理を定めた国際条約です。
日本国との平和条約 - Wikipedia

  • 日本と連合国との戦争状態の終了(第1条(a))
  • 日本国民の主権の回復(第1条(b))

この条約を否認してしまうと、中国は日本といまだ「戦争状態」にあると認識し、日本は主権の存在しない国だということになってしまいます。
おいおい、となると日中友好条約なんてどーなるの(笑)。あんたの国は独立国でもない国と条約締結してたの。
サンフランシスコ条約否定すると、その後が全部狂ってきゃうんですよ。

楊伯江はこうも言っていたようです。
楊は、2022年にRCEPが発効したことはいいことだ、これで中国の経済圏に入ったのだ、と評価しつつ、こうも言っています。

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人民網 中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長

「日本の戦略的主体意識が高まり、地政学的思考が復活し、軍事的要素が国家戦略目標達成に向けたアプローチの選択肢として顕在化してきた。日本は大国間の戦略ゲームに積極的に加わり、様々な二国間・多国間安全保障協力を強化している。
これは明らかに中国を牽制する意味合いがあり、台湾海峡問題への関心と介入も強めている。日本の戦略的主体性の高まりは、各方面に複雑な影響をもたらすが、現在および中期的には、日米関係への試練よりも中日関係への打撃の方が大きいことは間違いない」
(人民網2022年1月13日)
専門家「日本が大国間ゲームに参加すれば中日関係は複雑で厳しいものに」--人民網日本語版--人民日報 (people.com.cn)

要は、日本がG7で見せたような、独自の外交手腕を発揮してウクライナと台湾を結びつけ、NATOと日米同盟を連結しようという外交戦略が気に食わないのでしょう。
岸田氏がマクロンのようにNATO日本事務所開設に反対していれば、覚えめでたかったのでしょう。

シャグリラ・ダイアローグでも、中国国防相が堂々と台湾を軍事的に侵攻してやると宣言しています。

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朝日

「中国の李尚福国務委員兼国防相は4日、シンガポールで開催中の「アジア安全保障会議シャングリラ・ダイアローグ)」(英国際戦略研究所主催、朝日新聞社など後援)で演説した。台湾問題について、中国から分裂させるような動きがあれば「少しの迷いもなく、必ず主権と領土を守る」と述べ、名指しを避けつつも台湾問題で対立を深める米国を強く牽制した」
(朝日6月4日)
台湾独立の動きに「中国軍はいかなる犠牲も払う」 中国国防相が演説 [アジア安全保障会議]:朝日新聞デジタル (asahi.com) 

言っている意味がわかって言っているのですかね、この男。
「中国から分裂させるような動き」という表現は、香港に押しつけた国家安全法の23条にも出てくる表現です。

●国家安全基本法第23条がもくろんだ違反行為
①中央政府転覆の意図をもって中国と交戦する外国の武装部隊に参加
②武力によって中国の安定に危害を与える
③扇動的な文書を出版する

スゴイでしょう。「中国政府転覆の意志」にしても「中国の安定」という概念にしても、どうとでも解釈可能です。
これは香港に対して作られた安基法ですが、出先の香港行政府が「これは中国の安定を損なう」と判断すれば、いくらでも拡大解釈が可能で、しかもその範囲は「煽動的な文書の発行」という言論・結社の自由まで否定することができてしまいます。
すでに大陸は類似の法によって支配されていますが、これを台湾にも適用しようということです。
そのためには「少しの迷い言いもなく必ず領土を守る」というのは、ためらわずに軍隊を使って「武力による現状変更」をする、ということです。

「李氏は台湾問題に関し、「中国の核心的利益中の核心」であるとの立場を改めて表明した上で、「(台湾与党の)民進党と外部勢力が、台湾海峡の現状を変更する最大の要因だ」と批判。「平和的統一に向けて最大限の努力を尽くす」とする一方、台湾独立などの試みに対しては「中国軍は、いかなる多くの犠牲をも払う」と語気を強めた」
(朝日前掲)

民進党と名指ししていますので、来年の総統選でここに入れやがったら攻めてやるぞ、ということのようです。おお、こわ。
朝日は「米欧を中心とした国際秩序への不信感を隠さなかった」なんて、まるで中国がグローバルサウスに属するみたいな書き方をしていますが、これってかつての「ワレは第三世界の指導国なり、世界の被抑圧民族よ、団結せよ」(天安門にデカデカと書いてある、アレですが)という毛沢東の時代に逆戻りしたようなことを書いています。
かつての兵隊がサンダル履きだった時代とは違って、たらふく核兵器を持ち、強大な軍隊を持つ国が同じこを言い出したら危ない、危ない、本当の戦争になります。
今回のようなアブナイ艦船や戦闘機の接近をしていると、やがてほんとうに衝突して偶発的勃発が起きるかもしれません。

いずれにしても、侵略の意図を隠さない国は、餌食と定めた国を必ず「国ではない」と呼びます。
プーチンにとってのウクライナがそうであったように、習近平にとっての台湾、そして日本もまたそのようです。

 

 

 

 

2023年6月 7日 (水)

カホフカダムが破壊される

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急遽記事を差し替えました。

ウクライナ軍は、ロシア軍がヘルソン州にあるカホフカ水力発電所(ノーバ・カホフカ水力発電所)のダムが破壊されたと発表しました。
BBCが詳しい報道を出しています。

「ウクライナ軍は6日、南部ヘルソン州でドニプロ川に設置されているカホフカ水力発電所のダムがロシア軍によって破壊されたと発表した。
この地域は現在ロシア軍の占領下にあるが、ダムが被害を受けたことで下流の住宅数千棟が浸水。水は同日午後、ヘルソン市内にも達した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はメッセージアプリ「テレグラム」で同日午後、政府と公共サービスは「人を救うために最大限の努力をしている」と書いた。80以上の町村が被害にあう恐れがあると明らかにすると共に、「危険地域」に暮らす人たちには緊急避難命令が出たことを確認した。
大統領府はさらに、ダム破壊によってドニプロ川は150トン分の工業用潤滑剤で汚染されたと明らかにした」
(BBC6月6日)
ウクライナ南部ヘルソンのダム破壊、住民避難 ウクライナはロシアを非難 - BBCニュース

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Geoff Brumfiel Twitter

下水域の地域や畑は大量の水をかぶり、洪水は既にヘルソン市にまで及んでいます。

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https://twitter.com/i/status/1666050733773299714

またダムからの水には大量の工業用潤滑油が含まれており、二次汚染が拡がるだろうと見られています。

「ウクライナ国会がSNSに投稿した洪水現場の動画では、建物が増水した川に流される様子や、冠水で取り残された犬を救助する様子が映っている。RBCウクライナ通信によると、下流域では住民の避難が始まり、国営ウクライナ鉄道が避難列車の無料運行を始めた。ヘルソン州のドニプロ川西岸の一部地域には、約1万6000人が取り残されているという」
(読売6月6日)

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https://twitter.com/i/status/1666050733773299714

ダムの位置は、ウクライナ南部のヘルソン州ドニプロ川のカホフカ水力発電所のダムです。
サポリッジャ原発が上流にあり、カホフカ貯水池がの水位が著しく低下した場合、原発の冷却水が危険にさられます。

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BBC

去年10月、ゼレンスキーは、ロシア軍がこのダムを破壊しようとしていると警告したことがありましたが、現実になってしまったわけです。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、彼の軍隊が戦争の最も重要な戦いの1つでモスクワの軍隊をヘルソンから押し出す準備をしているときに、ウクライナ南部の帯を氾濫させる巨大なダムを爆破することを計画しているとしてロシアを非難した。
金曜日遅くのテレビ演説で、ゼレンスキーは、ロシア軍がウクライナ南部の大部分を支配する巨大な貯水池を抑える巨大なノヴァカホフカダム内に爆発物を仕掛け、それを爆破することを計画していると述べた」
(アルジャジーラ2022年10月21日)
ウクライナのゼレンスキーは、ダムを破壊する計画でロシアを非難します|ロシア・ウクライナ戦争ニュース |アルジャジーラ (aljazeera.com)

この地域はロシア軍支配地域です。
ウクライナ軍の攻撃によりロシア軍はヘルソン市内からは撤退しましたが、その際10万といわれる市民をロシア国内に拉致しました。
そしてロシア軍は市内の生活インフラであるテレビ放送施設、通信施設、ボイラー、火力発電施設や給水施設、そしてダムすら破壊の対象としました。
この時、ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムの一部が破壊されたことは、下の当時衛星写真で確認できています。

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このヘルソンのダム破壊を当初、ロシアはウクライナの仕業だといっていましたが、偽旗作戦です。
今回もまたロシアが迫り来るヘルソン州やクリミアへの攻撃を遅らせるための焦土作戦だと思われます。
いうまでなく国際法違反です。
「ダム、堤防及び原子力発電所」の「危険な力を内蔵する工作物及び施設」についても、たとえそれが「軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない」(ジュネーヴ条約第1追加議定書 )
(『国際法から見たロシアによるウクライナ侵攻⑥』 2022年4月23日)

ロシアはウクライナの仕業だといっていますが、無視してかまいません。
ウクライナ外相が言うように、情報とプロパガンダを並べて報じるな、です。

プーチンは俗にいう息を吐くほど平気で嘘をいう連中です。
いまやロシアはサイコパス国家と成り果てました。

今回の破壊について小泉悠氏は、この爆破はダム構造物の相当下部で爆破しないと起こらないと指摘しています。

「カホフカダムはかなり巨大な構造物なので、あれをミサイル何発かでふっ飛ばすのは極めて難しい。つまりダムの深いところまで潜って爆薬を仕掛けないと、あれだけの結果にはならない気がする。ロシアがやったと考えるのが現状では説明がつきそうだが、何のためにそれをしたのかなかなか見えにくい。恐らくロシア軍の陣地も相当水に流されてしまう」
(日テレ6月7日)
“タイミング悪い事故”可能性も? ロシア占領下のダム決壊…考えられることは(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

小泉氏の疑問は分からないではありませんが、ロシアが好む伝統的焦土作戦のように見えます。
ウクライナのメリットは皆無です。国土を荒廃させ、進軍を遅らせます。
またクリミア半島の水源を断つという目論見だという者もいるようですが、クリミアはロシア本土と直接クリミア大橋でつながっているために、渇くのはウクライナ人だけです。
そもそも独裁者は民が飢えようと渇こうと関心がありません。
ロシア軍の目的は、今、始まった様子の総反撃の矛先をクリミア半島に向けさせないことです
そのためにはヘルソン州を水浸しにして戦車やトラックなどの軍用車両を足止めにしてしまうと同時に、ヘルソン市民の救助にも力を分散させることが考えられます。

「BBCのポール・アダムス外交担当編集委員は、ウクライナが反撃時にダムを使ってドニプロ川を越えてくることをロシア側はおそらく懸念していたと思われるため、それゆえにダムを破壊したと考えるのが最も論理的な説明だと指摘する」
(BBC前掲)

ダムが去年の損傷によって、水圧に耐えられず自然破壊したという説もありますが、ダムはロシアが管理していたはずです。
そして当時満水状態でした。
本来なら適時排水すべきをそんな危険水域まで溜め込むこと自体、なんらかの故意があったと見るべきでしょう。

とまれ、とんでもないことをしてくれたものです。

 

 

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ヘルソン解放 「まだ戦争が終わったわけではない」とウクライナ政府  - BBCニュース
ウクライナに平和と独立を

 

2023年6月 6日 (火)

インドネシアの悪い冗談のような和平案

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このところウクライナ軍の大反攻目前という噂のせいか、和平案がいくつかでてきました。
まぁ、膠着状態のうちに和平に持ち込めということのようです。
これから紹介するように、和平案は、親中国や親露国、あるいは国内では左翼陣営からでています。
彼らは口を揃えて「人命が失われてはならない」と言いますが、仲介案はいずれも実現性がなく、要はロシアに勝ち目がなくなっていることから、見ていられなくなって飛び出したということのようです。

たとえば、ロシアは占領している4州を自国領土の組み入れましたが、外からはウクライナ軍の反撃、内からは常にレジスタンスに怯えており、とうてい安定統治できるとは思えません。
極東地域は大規模な徴兵のためにいっそう荒廃が進んでいます。
ロシア国民がもっとも恐れているのは、プーチンの総動員命令だそうです。

極東ロシア軍は半分がウクライナ戦線に投入されており、軍の空洞化が進んでいます。
ロシア軍で健在なのは空軍くらいなもので、主体となっている陸軍の戦死傷者は最大で27万人(うち戦死者は6万人)、失われた戦車は3千両といわれ、これはロシア軍保有戦車の3分の2に相当します。

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兵力で劣るウクライナ軍、ドローンと携帯式ミサイル駆使し奇襲攻撃…露軍の主要都市攻略阻む : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

そしていまやロシア国内、それもモスクワまでがロシア反乱軍の活動エリアとなってしまいました。
このまま戦争が泥沼化すれば、西側からの支援が途切れないウクライナと違って、ロシア軍は砲弾すら枯渇するありさまです。
戦争の長期化が進めば、ロシアの経済的孤立はいっそう深まり、建て直しが不可能になることでしょう。
このようなロシアとそれを支援する中国の窮状を見ての和平提案なのです。
ほんとうに助けたいのは、ウクライナ国民の命ではなくプーチンのロシアなんです。

さてひとつめはなんとインドネシアのもので、今のウクライナにDMZ(非武装中立地帯)を作れ、という悪い冗談のような提案です。

「シンガポールで開催中の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」で3日、インドネシアのプラボウォ国防相が登壇し、ロシアによるウクライナ侵攻について「停戦し、非武装地帯(DMZ)を設けるべきだ」と提案した。
プラボウォ氏は、韓国の国防相と欧州連合(EU)の高官によるセッションで、「ロシアとウクライナに平和交渉を促す、『シャングリラ宣言』を提案する」と発言。その内容について、「まず停戦。そして、ロシアとウクライナの間に非武装地帯を設け、国連が監視する」と説明した」
(朝日6月3日)
ウクライナ停戦へ「DMZ設けるべき」 インドネシア国防相が提案(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース 

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インドネシアのプラボウォ国防相  朝日

インドネシアは、この会議の「シャングリラ・ダイアローグ」(アジア安全保障会議)として「シャングリラ宣言」をだそうと提案しています。

「プラボウォ氏は、韓国の国防相と欧州連合(EU)の高官によるセッションで、「ロシアとウクライナに平和交渉を促す、『シャングリラ宣言』を提案する」と発言。その内容について、「まず停戦。そして、ロシアとウクライナの間に非武装地帯を設け、国連が監視する」と説明した」
(朝日前掲)

なんか、日本でも大量に発生している「まずは停戦」論にそっくりですが、ウクライナが受諾する可能性がゼロですから、国際社会でウクライナに圧力をかけて依怙地な態度をあらためさせ、現状凍結を認めさせろ、ということです。

ウクライナ戦争に関して、ASEANはひとことで言えば日和見です。
彼らの頭には、コロナで疲弊した経済の回復しかなく、軒並みにマイナス成長になってしまった経済を回復することしか頭にありません。
そのような中、ウクライナ戦争という世界史的大事件が発生してしまい、われ関せずというわけにもいかず、かといって「民主主義と自由を守る」などということを素直に信じられるほどナイーブでもないというところでしょう。

彼らには中国やロシアサイドから、ウクライナ軍は遠からず崩壊する、今ウクライナを信じたら身の破滅だ、という情報でも得ているのでしょう。
戦争はヨーロッパに任せておけ、われわれ東南アジアは無関係だ、というのが彼らの本音です。

そしてなにより、中国の存在です。
ASEANは一見自由主義陣営にいるような顔をしていますが、現住所は中国経済圏に完全に取り込まれています。
そんな彼らにとって、ロシア非難し、西側に加担したなら中国様のお怒りに触れる、そうなったら経済再建どころか中国市場から追い出されるかもしれない、ブルブル、という恐怖があるようです。

そこで言い出したのが、「まず停戦」案です。
国連がDMZを作り、維持管理するという朝鮮半島型休戦をやったらどうかということです。
インドネシアは漠然と「国連管理のDMZ」と言っていますが、朝鮮戦争型「国連軍」を作るか、あるいPKF型平和維持軍を作るしかないのです。
前者は100%無理ですし、後者も安保理決議を中露が妨害するでしょうから、まるで無理。
そもそも、本来は国際平和を担うべき安保理常任理事国がまっさきに侵略をしているのだから、話になりません。

このように実効性のない「まず停戦」案とは、侵略している側はいいとして一方的に国土を蹂躙され、国民を殺され続けている側にとって現状固定とはいかなる意味をもつのか、少し考えればわかりそうなものです。
それは侵略軍占領の永久固定化なのです。

この提案は、「平和」とか「和平」などいう聞こえのいい言葉で装飾されていますが、なんのことはないただの領土分割案です。

このインドネシア案は、中国の12カ条の和平提案の劣化コピーにすぎません。
ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場 (fmprc.gov.cn)

●ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場
2023年2月24日
1すべての国の主権を尊重する。
2.冷戦の考え方を放棄する。
3.敵対行為をやめる。
4.和平交渉の再開
5.人道危機の解決(略)
6.民間人と捕虜(POW)の保護
7.原子力発電所の安全を守る。
8核戦争は戦われてはならない。

9.穀物輸出の促進
10.一方的な制裁の停止
11.産業チェーンとサプライチェーンを安定させます。
12.紛争後の復興を促進する。

中国は「平和」、「寛容」、「連帯」などという言葉を散りばめていますが、中国共産党政権が「平和」という言葉を使用した場合は、「中国共産党による平和」であり、「寛容」とは支配が完了した後の抑圧的管理体制のことで、「連帯」とは法の支配を守らないならず者国家同士の「連帯」を意味します。
「主権の尊重」とは、プーチンにとっては今のウクライナ占領地は、住民の要請に従って既にロシアに編入されて「神聖なロシアの国土」である以上、なんの問題もなく、ロシアは賛成するでしょう。

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ワシントンポスト

そもそも、プーチンのロジックに従えば、ウクライナなどという国は存在しないのですから、主権蹂躙には当たらないのです。
中国はそれを充分に理解したうえで、和平提案第1条にデカデカと「主権尊重」と書き込み、西側の気のいい愚か者らが喜ぶことを書き込んだのです。
そして「敵対行為の停止」に至っては、ウクライナ戦争はプーチンが昨年2月24日、ロシア軍を侵攻させたことから始まったという厳然たる事実を完全に無視しているのですから話になりません。
仮に和平案があるとすれば、第一条は、ロシアのウクライナ侵略を認めないことから書き起こさねばなりません。

要は、中国やインドネシアの和平案は、ウクライナに領土分割を認めさせ、そこに住むウクライナ国民に永久にロシアの牢獄にいることを強要することです。
そしてロシアに対する「一方的制裁」を止めさせる、まことにロシアにとってだけ意味のあるすんばらしい「平和」です。
もちろんそんなことをウクライナ側は百も承知ですから、シャングリラ対話に出席していた、ウクライナのレズニコフ国防相はにべもなく拒否しています。

「ウクライナのレズニコフ国防相は3日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)に登壇した。ロシアによる侵略を巡って、中国が停戦の仲介に乗り出していることについて、「必要ない」と述べた。
レズニコフ氏は、停戦の仲介役として複数の国が名乗りを上げているが、「ほとんどはロシアの利益のためのようだ」と述べた。その上で、「法の支配ではなく、力の支配が広がってもいいのか」と強調し、国際社会に戦闘継続に向けた支援を呼びかけた」
(産経6月3日)
ウクライナ国防相、中国の停戦仲介「必要ない」 - 産経ニュース (sankei.com)

ハンガリーも独自の「和平案」を出しています。

「ハンガリー政府は、ロシア・ウクライナ戦争の当事者に停戦を呼びかけ、クリミアが記載されていないウクライナの地図を公開しました。対応するビデオがYouTubeのデバイスの公式チャンネルに表示されました。

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閣僚会議が投稿したビデオでは、戦争が「簡単にグローバルになる可能性がある」ため、敵対行為の終結を求めるナレーションが行われています。政府は「平和の時が来た」と信じており、「命を救う」ために当事者間の交渉を要求している。(略)
多くのメディアがウクライナの地図(赤でマーク)のフレームに注目を集めました。スクリーンショットは、ビデオの作者がクリミアをキエフが支配する領土に帰していないことを明確に示しています。
ウクライナを取り巻く領土全体が1色でマークされているため、半島がロシアに「帰属」されたかどうかを地図から明確に言うことは不可能であることに注意することが重要です」
ハンガリー政府は、クリミアのないウクライナの地図を示した戦争の終結を求めるビデオを公開しました (svtv.org) 

なるほど確かにクリミア半島は入っていていようですので、ハンガリー案はドンバスと南部占領地域の放棄を提案しているようにも見えます。

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War Mapper(@War_Mapper)さん / Twitter

とはいえ、まぎれもない自国領土割譲を前提とした「和平案」にはウクライナは乗れないし、ドンバス放棄を前提としてはロシアも乗れないでしょう。
いずれにしても親露国か親中国が出した観測気球といったところでしょう。

よく武器を支援するな、「外交」で解決しろという平和愛好家が、わが国には佃煮ができるほどいます。
しかし、それを国内でマウントするためだけで言っているぶんにはただの人畜無害の観念論ですが、いったんリアルな外交の場でやれば、つまるところ中国かインドネシアのようなことを言うだけのことです。

 

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【ウクライナ危機 侵攻「新局面」】㊤自由の精神 恐れた独裁 プーチン氏、国民性見誤る - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和と独立を

 

 

2023年6月 5日 (月)

香港弾圧の原型・天安門事件

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いまから34年前の1989年4月、100万人を超える学生や労働者たちが民主化を求め、北京の天安門広場を占拠しました。
当日の天安門を目撃したニューヨークタイムズ記者のニコラス・クリストフは、こうツイートしています。

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Nicholas Kristof(@NickKristof)さん / Twitter

民主化デモは、約1カ月半にわたって続き、北京だけではなく中国各他の都市や大学にも拡大しました。
彼らの要求は、共産党による独裁体制の打倒、言論結社の自由、インフレ対策の実施、賃金の上昇、住宅事情の改善などでした。

これを弾圧することに決めた共産党は、1989年6月3日夜、天安門広場に軍の戦車と部隊を出動させました。
これは地元の軍ではなく、遠くの地区から連れて来られた「よそ者の軍隊」でした。

彼らは、4日の朝にかけて丸腰の市民に向けて無差別の発砲を繰り返す、という大量虐殺事件を引き起しました。

これは正規軍が無辜の自国民に銃を向けた事件でした。

その虐殺数は記録に残されておらず、幅がありますが、数百から1万人の間だと見られています。

「英国で新たに公開された外交文書によると、中国当局が民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件で、中国軍が殺害した人数は少なくとも1万人に上ると報告されていることが明らかになった。
「1万人」という人数は、当時のアラン・ドナルド駐中国英国大使が1989年6月5日付の極秘公電で英国政府に報告した。大使は、「中国国務院委員を務める親しい友人から聞いた情報を伝えてきた」人物から入手した数字だと説明している。
国務院は中国の内閣に相当 し、首相が議長を務める。
天安門事件の死者数はこれまで、数百人~1000人以上と、様々に推計されていた。」(BBC2017年12月26日)
https://www.bbc.com/japanese/42482642

中国治安当局は後日、発砲による死者はゼロだと主張しましたが、それを信じるものはひとりもいません。
時系列で見ます。

中国が歴史から葬り去ろうとしている天安門事件、30枚の写真 | Business Insider Japan

1989年4月21日 民主化に理解を示した胡耀邦・元総書記の死を追悼する学生たちが自然発生的に集まりました。
それがやがてみるみるうちに民主化要求運動として各地に拡大することになります。

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Business Insider Japan

5月21日、数万の学生と市民が北京の中心地にある天安門広場に集まった全国の学生や市民は百万人とも言われています。
しかし指導部は、学生に限られており、いくつもの系統にわかれ、政府と交渉する代表もいない状態でした。
このような混沌とした状態が、エネルギーを生むと同時に、後に出てくる趙紫陽との交渉にあたって統一した対応を取れない欠陥も持っていました。

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Business Insider Japan

一方、当時の共産党の党内は分裂していた。
趙紫陽は胡耀邦と共に、中国はやがて民主化するべきであるという考えを持っていましたが、それは分裂を招くとするのが鄧小平の考えでした。
党内闘争で胡耀邦と趙紫陽が勝利していたら、今の習近平の刑務所帝国はなかったでしょう。

鄧小平は趙紫陽に混乱の原因があるとし、北京市内に軍を展開し、戒厳令を敷き武力弾圧に踏み切ることを決断しました。
抵抗するなら殺せ、これが後に開放改革路線を取ることになる鄧小平の決意だったのです。
趙紫陽は戒厳令の発動を拒否しましたが、鄧小平は李鵬、楊尚昆、喬石といった最高指導部を味方につけて彼らに戒厳令の責任者を命じます。
5月19日、追い詰められた趙紫陽は、学生との対話でなんとか妥協点を見いだそうとしますが、拒否されます。そして失脚。

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「血の流れが川のよう」銃声響く天安門、撤退決めた一瞬:朝日新聞デジタル (asahi.com)

李鵬首相が戒厳令を宣言し、5月20日、人民解放軍は北京に向かい始めました。
彼ら兵士の多くは、地方から駆り集められていました。
学生たちは北京に侵攻する兵士に必死に支持を訴えかけました。
当時はまだ「解放軍は人民を守る」という幻想が残っていたのです。

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天安門事件、「弾圧ではない」と中国政府 - CNN.co.jp

 学生たちは広場の占拠を1週間続けました。
天安門広場は権力の前庭から、初めて国民が自由な討論を楽しめる空間に変容したのです。
ニューヨークの自由の女神に模した「北京版自由の女神」がやさしく彼らを見守っているようでした。
たった1週間でありながらも、初めて中国国民は「自由」の空気を吸ったのでした。

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Business Insider Japan

6月2日、鄧小平は「首都に秩序を取り戻す」と述べ、武力弾圧を命じます。
警察力を行使せずに、いきなり軍隊に武力鎮圧と排除を命じれば、いかなることになるのか、愚劣、凶暴の極みです。

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天安門事件の元学生リーダーら47人、軍・警察に書簡「民衆に発砲してはならない」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

6月3日 第54軍、27軍、38軍の 約2万5000人の兵士の動員が始まり、6月4日午前1時に広場に入り、午前6時までに群衆を排除することが命じられました。
複数の外国メディアや大使館からの公電によれば、解放軍の進行は一旦は数で勝る民衆によって阻止されたものの、これらの部隊は市街地で民衆に対して無差別発砲を許されていました。
午後10時、天安門広場の西、約5kmで市民に対する最初の発砲が報じられた、とABCが伝えました。
軍は6月4日午前1時30分に広場に到着し、装甲兵員輸送車が学生たちの列を突入し、広場に入ろうとして学生たちに発砲しました。
それも威嚇ではなく、水平に銃を向けて撃ったのです。

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天安門事件の死者を忘れるな」真実を知るために戦う中国90年代生まれの若者たち | 裁判の記録も消されている | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

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天安門事件30年、未公表写真を入手 ひざまずく市民:朝日新聞デジタル (asahi.com)

その虐殺の夜について、初代産経新聞中国総局長だった古森義久記者はこう書いています。
長文ですが、引用します。

「1989年6月4日午前1時、北新華街の片隅でも1・6キロも離れた民族飯店周辺から初めての銃声が聞こえてきた。西長安街ではバスやトラックが転覆、放火されて、オレンジ色の炎が道路沿いに広がった。
 銃声がさらに大きくなり、人民解放軍の装甲車のヘッドライトが東に向けて動くにつれ、群集の間の怒りが高まった。年配の女性が「なぜ中国人が中国人を撃つのか」と叫んだ。若い男が「われわれは中国人だが、彼らは違う」と声をあげ、中南海を指さして「彼らは悪者なのだ」と叫んだ。
 1時10分。群集の後方から腹に響く音が聞こえてきた。炎に包まれた装甲車が疾走してきた。装甲車の車輪に向け、群集は大きなコンクリート片を投げつけ、停止させた。怒った群集は装甲車を取り囲み、古い木材を積み重ねて火を放った。数分後、車の扉が開き、兵士が1人、飛び出した。群集は彼を捕まえて殴り、殺してしまった。
 1時20分。後続の装甲車隊が群集を銃撃しながら北新華街に次々に到着した。弾丸が飛来し、群衆のなかに血まみれになって倒れる人間が続出した。デモ参加者は兵士たちが空砲でもゴム弾でもなく実弾を撃っていることを知り、恐怖に駆られて天安門方向や脇道へと逃走した。
 1時45分。さらに新たな部隊が天安門に着き、装甲車隊が長安街に面して一定間隔で展開し、人民大会堂の東正面にも達した。装甲車隊は東長安街の約1万5000人の抗議者らにヘッドライトの光をあて、不動の態勢をとった。
 2時9分。毛沢東主席の肖像画の前に並んだ将兵と装甲車隊は長安街の大群衆に対し発砲した。群集は東の北京飯店の方向へと、どっと避難した。多数の人間が銃弾を浴びて倒れ、苦痛の悲鳴が起きた。報告者に向かって「なんとかしてくれ! あなたがた外国人に助けて欲しい!」と叫んだ男は次の瞬間、額の真ん中に銃弾を受けて倒れた。
 2時30分。約100人の解放軍兵士は歴史博物館隣の道路の向かい側に腹ばいで布陣し、ライフルを40メートルほど東のデモ隊に狙いを定めていた。
2時40分、兵士たちが狙撃をするたびに、デモ隊はばらばらとなり、遮蔽物を求めた。
数分後には街路に戻り、仲間の死体を輪タクに乗せ、元の場所に集結した。
次に再び銃撃が起きると、10~15人のデモ隊の人間たちがまた倒れた。
 4時27分。天安門の照明は同3時30分に消えていたが、また点くと、装甲車、戦車、トラックなどが果てしないほど並んだ兵器集団が姿をみせた。照明は広場の北端近くの「民主の女神」の残骸を照らし出した。人民英雄記念碑の周囲からは煙が上がっていた。広場での銃撃は学生たちが人民解放軍への武器のない対決で、希望を失いながら殺されていったことを意味していた。
 5時30分。装甲車、戦車、トラック合計約50台から成る軍の第2の隊列が轟音をあげながら東長安街を通って、天安門広場に入った。民主活動家たちが怒りの声をあげると、解放軍将兵はジープに装備した機関銃2丁を撃ち始め、15分ほども銃撃を続けた。この大虐殺が中断されたとき、天安門広場と北京飯店の間の東長安街の路上には25~30の人間の体が横たわり、その一部はもがき、他は動かなかった。活動家たちはその道路ににじり寄り、死傷者を輪タクに乗せ、人民解放軍の狙撃手の列とまた対決する構えをとった。
 6時20分。装甲車、戦車、トラック合計約40台の軍の第3の隊列が東長安街を東から驀進し、広場に入った。人民解放軍将兵は民主活動家ら群集に向けまた10分ほど機関銃の激しい射撃を続け、多数の死傷者を出した。
 この2回の虐殺の間、天安門の政府拡声器からは奇妙に優しくなめらかな声が流れ、「北京の友人たち」に「混乱は終わり、秩序が回復され、乱暴者たちは鎮圧されました」という鎮静の言葉が伝えられ続けた。
 7時30分。拡声器が静かになって数分後、聞きなれた勇ましい中国国歌が流れて、周囲の空気を圧した。だが国歌の吹奏はその途中で歴史博物館の背後から響いてくるライフル発射の音と東長安街でのデモ参加者にまた発射された機関銃の連続音とに抑えつけられた。国歌が終わると、ソフトな女性の声が流れた。「同志たち、おはようございます。幸いにも反革命分子は粉砕されました。私たちの愛する天安門広場に平和が回復されました」と」

また駐中国アラン・ドナルド英大使の秘密解除公文はこう伝えています。

鎮圧にあたったのは山西省を主力とする第27軍」「1時間の退去期限を通告したが、実際には5分後にはAPC(装甲兵員輸送車)による攻撃が始まりひき殺され、大多数は広場から離れる途中で犠牲に遭った」「学生たちは腕を組んで対抗しようとしたが、兵士たちを含めてひき殺されてしまった。そしてAPCは何度も何度も遺体をひき、『パイ』を作り、ブルドーザーが遺体を集めていった。遺体は焼却され、ホースで排水溝に流されていった」「負傷した女子学生4人が命乞いをしたが、中国軍銃剣で刺されてしまった」
六四天安門事件 - Wikipedia

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・流血の後、広場の学生は排除された。当時、党は兵士を含む241人が死亡し、7000人が負傷したと発表した。イギリスの外交官は1万人と書き残した。多くの死者は広場の外で発生した。

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Business Insider Japan

・北京は軍の戒厳令下に置かれ、数千人が逮捕され、秘密に処刑された。天安門事件は中国の歴史書から消され、いまだに検索すらできない。

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さて、ニコラス・クリストフの事件25周年にあたってのコラムをご紹介します。
これが1989年6月3日の夜、に起きた中国軍による自国民虐殺の夜の出来事です。概説よりもより心に響きます。
ニューヨークタイムスの北京支局長だったクリストフは、第2次天安門事件(六四天安門事件)に関する報道で、1989年のピューリッツア賞を受賞しました。

私はクリストフがこのコラムで書くような、経済の発展が中産階級を生み、彼らが民主化を求めていくことによって、一党独裁国家からゆるやかに民主国家に生まれ変わっていくとする考え方は、残念ながら幻想だと思っています。
一般的には、多くの国はそのコースを辿りましたが、中国は世界唯一の巨大な例外として変化を拒んでいます。
それはあの事件から30年間変わらなかったし、今後30年間変わらないかもしれません。
なぜなら、飯がたらふく食える間は民主化要求は二の次にされるからです。

そして今や中国共産党は、ジョージ・オーウェルが描く「1984年」もかくやと見紛うような超管理社会を作り出しました。
ビッグブラザーたる中国共産党は、30年前のように人民解放軍を使うことなく、ITによって14億人を支配できると考えています。

唯一の民主化の「希望」が残るとすれば、経済が右肩上りの発展を止めた時に、どうなるかです。
その意味で、米国が仕掛ける経済戦争は、米国による「民主化要求戦争」の側面も持っています。
以下、クリストフ記者の記事を紹介します。

「フランスの田舎から世界を見ると土野繁樹の21世紀探訪」様から転載させていただきました。ありがとうございます。
写真は引用者がいれたもので、改行を施しています。

わたしが生きている限り、決して忘れない光景がある、それは、戒厳令軍に撃たれた重傷の学生を病院に運ぶ、人力車の車夫のほおから流れていた涙である。その人力車の車夫は勇気のある人だった。わたしより上等な男だった。

1989年6月3日の夜、われわれ(外国人記者とカメラマン)は天安門広場に隣接する長安街にいた。中国人民解放軍は学生の民主化運動を粉砕しつつあった。
あの夜、解放軍はまるで外国軍のように首都周辺の各所から北京に侵攻し、動いているものはかたっぱしから標的にした。天安門広場からはるか離れた場所で、わたしの友人の弟は自転車に乗って職場へ向かう途中で射殺されている。解放軍の侵攻がはじまると、わたしは自転車に飛び乗り天安門広場へ駆けつけた。長安街では学生を守ろうとする群衆が撃たれた。

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6月4日未明の惨劇のなかで、最も英雄的だったのは人力車の車夫たちだった。いつもは、彼らは三輪自転車の荷台に品物をのせて運搬するのだが、その夜は射撃が停まり次の射撃が始まる前に、彼らは兵士がいる方向に人力車のペダルを漕ぎ、殺された学生と傷ついた学生を拾い上げていた。

学生の遺体と負傷した学生を収容しようとする救急車にも、兵士たちは情け容赦なく銃撃していたが、車夫はそれをもろともせず救出作業を続けた。彼らの勇気ある行動は、わたしの心を激しく揺さぶった。
なぜなら、その春、外国人と中国人官僚から「民衆の教育レベルも洗練度もまだ十分ではない中国では、まだデモクラシーは機能しない」と繰り返し聞かされていたからだ。

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わたしが目撃した一人の車夫のことを、いまでも鮮明に覚えている。Tシャツを着たたくましい体格をしたその人は、高校卒でさえなかっただろう。だが、なんという勇気の持ち主であったことか。彼は倒れている若い男の方に向かった。

わたしは彼が射殺されるのではないかと思い、息を呑んでその姿を見ていた。彼は若い男の体を抱えて荷台に置き、ペダルを踏んで生きたままわたしたちの所に戻ってきた。彼のほおには涙が流れていた。

その人は外国人であるわたしと目を合わせると、三輪車の向きを変えゆっくりとこちらの方に近寄ってきた。わたしに政府がやったことの証人になってもらいたかったからだ。その夜の体験は戦慄すべきものだったから、彼の言葉を正確には覚えていない。
しかし、彼が言いたかったのは、あなたはここで起こったことを世界に伝えるべきだ、ということだった。その人はデモクラシーを定義できないかもしれない。しかし、彼はデモクラシーのために命を賭けていた。

中国が過去4半世紀で巨大な進歩を遂げたこと事実である。収入は飛躍的に増え、住宅環境も向上した。人力車の車夫だったあの人には選挙権はないが、彼のこどもは大学に通っているかも知れない。その進歩は議論の余地がない。

しかし、人間の尊厳はライス(パン)だけでは保たれない。人権をも必要とする。中国の偉大な作家、魯迅は「筆で書かれた虚言は、血で書かれた事実を隠すことはできない」と言っている。

中国の繁栄が続き、教育ある中産階級社会になると、彼らは政治参加への要求を強めるだろう。わたしはポーランドから韓国まで世界のデモクラシー運動を取材してきた。その体験からすると、いずれ天安門広場であの夜殺害された人々を追悼する式典が行われるだろう。

わたしはそれを確信している。そして、その式典の記念に人力車夫の像が建てられることを願っている。

 

※記事を差し替えました。

 

2023年6月 4日 (日)

日曜写真館 夏きたるかの堀切の菖蒲も見む

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あかつきは襞ひらく音の白菖蒲 能村登四郎

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君来る菖蒲真青に雨そそぎ 山口青邨

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村雨の菖蒲分け行く田舟かな 内藤鳴雪

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簷晴れてさや~青き菖蒲かな 日野草城

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美しき呼び名の菖蒲花いまだ 角川源義

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紫の白へ流れて白菖蒲 林翔

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莟いまだ孕まず菖蒲風にそよぐ 山口青邨

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白波のごとくはるかに白菖蒲 山口青邨

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菖蒲刀砥水の沼に茂りけり 調古

 

 

 

2023年6月 3日 (土)

北朝鮮、ロシアに大砲の弾出して、小麦をもらう

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北朝鮮にロシア産小麦が大量に入っているようです。

「各地からは深刻な飢えの状況が伝えられている。子どもたちは学校にも行けず、家族のために毎日山に入って山菜採りを余儀なくされる事態に。
一方で当局は、穀物輸入を盛んに行っていると伝えられている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、5月中旬から新義州(シニジュ)一帯で中国から輸入されたと見られる小麦粉が多く出回っていると伝えた。
2キロ入りの袋で、表面にはロシア語と中国語の表記がある。製造はロシアのノボクズネツク小麦粉工場、輸入は泰和翔(大連)供給鍵管理有限公司となっている。中国経由で輸入されたロシア産の小麦粉で、賞味期限は生産日から12カ月となっているが、日付は記載されておらず、どれほど古くなったものかわからないと情報筋は述べた」
((デイリーNK2023年6月1日)
餓死者発生の北朝鮮に大量流通し始めた「ロシア産小麦粉」|ニフティニュース (nifty.com)

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北朝鮮、今年の食糧不足は過去5年間で最悪 : 政治•社会 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

かつて金正日は金日成が「人民が白米と肉の入った汁を食べ、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにならなければいけないと言ったが、わが国はまだこの目標を達成できていない」と言ったそうですが、その原因は金王朝の国是である核武装道楽が原因ですから、だれも恨めません。

毎年のように相当数の餓死者を出し、北朝鮮と別ちがたくある飢餓イメージはこの農業を省みない国策から来ています。
北朝鮮は自国民の飢餓を恥じるどころか、「崩壊カード」として国際的な援助を得るために切りまくってきたというスットコドッコイの歴史があります。
積極的に水害や天災をアピールし、まるで不可抗力の天災によって痛めつけられている可哀相なボクたちを助けて、と宣伝しました。

もちろんそうではなく、農業政策が根本からまちがっていたために、このような飢餓国家が生まれたのですし、国際食糧機関などを通じて送られた食糧援助の大部分は軍人の腹の中に消えていきました。

ところで、この飢餓農業が変わるチャンスは、ただ一回だけありました。
それは2代目正日が死んで、正恩の叔父である張成沢(チャンソンテク)が正日が残した幹部をことごとく処刑して実権を掌握した2016年のことです。

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産経

「張成沢は、李英浩を排除するとともに、経済立て直しに全力を傾ける。企業や農民が生産物の一部を自由に扱えるようにした「6・28措置」や、民間が蓄えた外貨をはき出させるため、住宅売買を合法化する措置を取る」
(産経2016年4月26日)
【秘録金正日(73)】後見人、張成沢処刑の真相 正恩「地球上から痕跡なくせ」 最期に「わずかな時間でいい。妻に会わせて…」(2/5ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

中国型開放改革に乗り出す気マンマンでした。
張は農産物の一部自由化を進め、2016年には50人を超える代表団を率いて訪中し、経済特区の共同開発と10億ドルの緊急借款と投資拡大を中国に持ちかけます。
その時、張が持ち出したオファーは驚くべきものでした。

「通訳だけを介し、1時間以上行われた胡との密談で、成沢は「場合によっては、核を放棄することもできる」と表明。金正恩に代えて異母兄の金正男(ジョンナム)を擁立する可能性にも言及したとされる」
(産経前掲)

つまり張は核放棄と正恩を排除して正男を据えるというのです。
核は米国にだけ向けられているわけではありません。
核ミサイルはグルリと照準を変えれば、北京も射程に入れられますから、中国への牽制でもあったのです。
いやどちらかと言えば、そちらのほうが強いでしょうね、金一族は中国が大嫌いですから。
だからこそ、張の核放棄の意味は大きかったのです。

しかも、この二国は相互依存関係にあるからややっこしいのです。
憎悪しながらもたれ合う、軽蔑しながらたかる、この辺境の極貧国めと罵りつつメンドーを見る、核についてもすこしだけ教えてやる、・・・そういう不思議な仲なのです。
その証拠に、中国の北朝鮮への輸出は国連制裁決議にしたがっていれば減らねばならないはずが、むしろ順調に推移しています。

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上のグラフで2015年に北の対中国貿易の伸びが落ちたのは、経済制裁とは関係なく、中国経済の減速が原因です。
中朝両国の貿易関係は、北が極端なまでに中国に依存している構造が成立しています。それを示したのが下のグラフです。 

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上のグラフを見れば、北朝鮮貿易は2015年には実に9割までが中国に依存しているのかわかります。 
中国は北への石油パイプラインのコックを締めれば、北の経済が崩壊してしまい、自国の金融機関が振り出した巨額の融資が一気に焦げつくのを恐れています。
いわば中国にとって北朝鮮は不良債権なのです。
ここに「唇と歯の血盟」などという共産主義イデオロギーとは無関係の、中国と北の経済における相補関係、いや共犯関係ができ上がっています。

中国は本心から言えば、張事件ではしなくも露呈したように、北朝鮮を傀儡国家にしてしまいたいと考えているでしょう。
そうすれば、半島半分まで勢力圏を伸ばせることは外交的に大きい。
そこで張に極秘でに手を伸ばし、核を手放し、正恩を殺せとそそのかした、正男はただの軽い神輿。
張は中国の傀儡政権の事実上のボスとなったことでしょう。
成功していたなら、今頃平壤には高層ビルか立ち並んで、高級スポーツカーに乗った党幹部のどら息子たちが闊歩していたかもしれません。ああ、おぞましい。
ただし農業も自由化で、息をつけました。

しかしこのクーデター計画は漏洩し、張と正男が悲惨な最後を迎えたことは知ってのとおりです。
張は高射砲でバラバラにされ、正男は外国で暗殺されました。
私は中国型農業改革を評価しませんが、飢餓農業よりもましではあったでしょう。
張が失脚したことで、北朝鮮の農業が変革されるチャンスは奪われました。

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北朝鮮 張成沢氏 写真特集:時事ドットコム (jiji.com)

とまれ、この張のクーデターによる中国流開放改革路線は頓挫し、正恩は権力の座から追放される恐怖から経済の自由化を止め、軍と党の力はを強化する方針に回帰しました。
後にトランプは米朝直接会談という大胆なディールを仕掛けて、核放棄・自由化を迫りました。
一気に西側に取り込む腹づもりだったのです。
正恩もだいぶ心は動いたようですが、張事件がトラウマで最後までうなづかなかったようです。

とはいえ、飢餓が解消されたわけではないので、北朝鮮は中国から2019年には中国から年間16万トン超のコメを輸入しましたが、それもコロナで国境封鎖したために途絶え10年1月末に開放されるまで中国からのコメ輸入は2年以上停止した状態でした。
今年3月に再開し、10月の約1万6450トンを含め、同月までに計約2万7350トンを輸入しているようです。
なんと言って支援を引き出したんですかね、また「崩壊しちゃうぞ」でしょうか。
おっといけない、今日は中国ではなくてロシア相手の話でした。

さて正恩は新たな食糧調達先としてロシアにすがりました。
この中露両天秤は金家の伝統芸なうえに、今回あろうことかあの傲慢なプーチンのほうから砲弾分けてくれやと言ってきたのですから、笑いが止まりません。

いままでは小僧っこ扱いで鼻もひっかけてもらえなかった正恩は、たっぷりと恩に着せたことでしょう。
プーチンにとって何万発かの砲弾は高い買い物についたわけです。

[ワシントン 2日 ロイター] - 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2日、北朝鮮がロシアに対し、ウクライナ戦争に使用する砲弾を「相当数」、密かに供給していることを示す情報があると述べた。
北朝鮮は中東や北アフリカの国々を経由することで、ロシアへの武器輸送を隠しているという。
カービー氏は、北朝鮮が供給した砲弾が実際に受け取られたかどうか監視するとし、供給の責任を巡り国連と協議すると述べた。ただ、北朝鮮による砲弾の供給が戦争の行方を左右するとは思わないとした。
北朝鮮は9月、ロシアに武器や弾薬を提供したことはなく、その計画もないと表明している」
(ロイター2022年12月3日)
北朝鮮、ロシアに「相当数の」砲弾を供給=ホワイトハウス | Reuters 

すでに砲弾は4月末から5月初めの間に 北朝鮮北東部・ラソン(羅先)の豆満江駅からロシア沿海州のハサン駅を経由して、極東ウラジオストクまで輸送されたという情報もあります。
おそらく様々なルートで砲弾を中心としてロシアに提供しているはずで、今回のロシア産穀物はその見返りだと考えられています。

ちなみに、正恩は睡眠不足だそうで、かえって太ってしまってナント140キロ台だそうです。相撲取りか。

「国家情報院の5月31日の国会報告によると、39歳とされる正恩氏は最近、目の下のくまが目立ち、アルコールや喫煙によるニコチンへの依存度が高まっている。北朝鮮は4月、海外で「最高位級の人物の不眠症治療のため」として睡眠導入剤「ゾルピデム」を購入し、医療情報を集めた」
(読売6月1日)
金正恩氏が「睡眠障害」、体重140キロ台か…目の下にくま・腕にひっかき傷(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

このロシア産小麦の供給がいつまでつづくかわかりませんが、行くところまで行くつもりでしょう。

 

 

2023年6月 2日 (金)

愚者が招いた北朝鮮の水害と干ばつ

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私にはひとつの国家を見る時に、定点とでもいうものがあります。
実にシンプルなもんで、要は「国民に飯を食わせることができているかどうか」に尽きます。 
飯を国民に食わせられないような国は、国としての存在理由がありません。
そんなもんは、ただの監獄、ないしは兵営です。

人間が「国家」という装置を作った目的は、煎じ詰めれば「民を外敵から守り、民に飯を食わせる」ことです。
オレは国家だ、などえらそうな顔をしていても、食わせてナンボなのであって、「民に飯を食わせるために」国防があり、治安があり、法律や税などの諸制度があるのであって、「民に食わせられない」ような国家など国民を閉じ込めておくただの収容所でしかありません。

この意味において、北朝鮮は核兵器を持とうが持つまいが、言葉の正しい意味で「破綻国家」、あるいは「失敗国家」そのものです。 
いくら核兵器を持ち、大量の兵士と戦車があろうと、「民を食わせられない」ような国家には自暴自棄の戦争すら起こす力はありません。  
そのようなものは軍服を着た餓死予備軍であり、戦車などさっさと鉄クズにしてトラクターにするか、鋤鍬に変えたほうがいい。

この国の経済の崩壊のきっかけは1991年のソ連崩壊でした。 
初代金日成は、中ソを手玉に取るようにして、旧社会主義圏全体からまんべんなく支援を受けることで存続してきましたが、ソ連圏崩壊のマグマの奔流に巻き込まれるようにして、一気に国内生産を瓦解させていきます。
ソ連の衛星国はことごとくタナボタ独立してしまい、キューバは化学肥料・農薬の極端な不足から有機農業に道を求めました。
北朝鮮もその影響をまともに食らいます。

食料生産が崩壊に向かったのが、このソ連崩壊の1991年以降です。下の表をご覧ください。 

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※UNDP(国連開発計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の農業復興・環境保護に関する円卓会議(Thematic Roundtable Meeting)-農業の基本的発展』(1998年5月)と、FAO (国連食糧農業機構)およびWFP(国連世界食糧計画)による『朝鮮民主主義人民共和国の作物収穫と食糧供給に関する特別報告書』による。

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  北朝鮮における食糧事情の推移とその要因 022187 渡部 慎 (utsunomiya-u.ac.jp)

ソ連崩壊前まで800万トンを超えた生産高が、もっとも落ちた96年には200万トンと4分の1にまで下落していまい、現在は300~400万トンていどで推移していると思われますが、なにぶん統計数字がいい加減です。
食糧生産が下落した直接的原因は、ソ連など社会主義圏から供給されてきた石油・化学肥料・農薬などが断たれたからですが、それ以上に国民にとって災厄だったのは、2代目の金日成の常軌を逸した軍事路線への傾斜でした。
国の富のすべてが「先軍政治」の名の下に、軍事部門に傾斜投入された結果、農業や水利事業は見捨てられました。

米国はGDP(国内総生産)の4%が軍事費、ロシアも4%、中国は1.7%(他の項目に入れてゴマかしていますが)ですが、北朝鮮はなんとGDPの25%が軍事費です。
この世界最貧国が、平時で国庫の25%を軍事費に入れ続ければ治水や灌漑などの農業部門に予算がいくわけはないのです。

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North Korea - The Craziest Country in the World
http://www.onlineschools.org/blog/the-craziest-country-in-the-world/

さらに北朝鮮は5000トンの生物兵器と化学兵器を所有、核兵器もロシアの1万2000個、アメリカの9400個と比べると少ないのですが、10個持っていると言われています。   

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デイリーNK

上の写真はたまたま撮られた北朝鮮の耕作風景ですが、この写真が100年以上前に撮られたといわれても納得してしまうでしょう。 
今なお牛を使っているのはともかくとして、骨が浮きだしてガリガリ、電柱らしきものはただの木の枝です。 
土壌は乾燥しきり、地味は詳しい分析をするまでもなく貧困なことがうかがえます。 
そしてなんといっても土壌が渇ききっていることから、極端な水害の多さと干ばつが、くり返し襲っていることが分かります。 

事実、水害は毎年のように北朝鮮を襲っています。

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AFP

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AFP  出典UNOCHM

上図は、北朝鮮北東部の洪水被害について示したUNOCHM(国連人道問題調整事務所)が作ったものですが、赤い部分が水害の影響が深刻な地域です。
この原因は、北が言うような異常気象にあるのではなく、この国には農業生産の根幹であるまともな水利・治水システムがないことによって起きています。
痩せ牛が渇ききった土を耕す風景のメダルの裏側にあるのがこの水害なのです。
こんな見捨てられた土に種を撒いても、絶望的な収量しか得られないでしょう。 

わが国においては、治水と灌漑は一体のもとして進められて来ました。

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『流域治水』は地域力の結集で取り組む|積算資料アーカイブ|建設資材ポータルサイト けんせつPlaza (kensetsu-plaza.com)

たとえば、旧民主党政権が「コンクリートから人へ」などと言って、目の仇にしたダムは治水と灌漑の要です。

「ダムは、河川上流の山間部につくられる人工の湖で、周囲の山からの湧き水(河川の源流)や雨水が集められています。
ダムに雨水を溜め込むことで下流の流量を抑制します(治水)。そのほか水力発電や灌漑などにも用いられます(利水)。
大雨時、ダムの貯水率が100%に近くなると、水を抜くため大規模な放流が行なわれ、下流の河川が急激に水位上昇するため注意が必要ですが、それまでは下流の流量抑制のためふんばってくれます」
治水システム | つもりTech (tsumori-tech.com) 

ダムは可動堰や遊水池と組み合わさって、流域の農地を潤し、また水害から人と農地守っています。
堤防は最後の砦です。

これらの水利事業に投資しないで、ミサイルと核開発にばかり奔走したのが金王朝です。
そして3代目の正恩もまた異常気象に悩まされ続けています。

北朝鮮の国土は、今年もまたお約束のように春に深刻な少雨に、夏には猛暑や大雨と異常高温とその後の異常低温に悩まされ、農業は壊滅的なダメージを受けました。

「平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内でも山間地にあたる价川(ケチョン)、陽徳(ヤンドク)、北倉(プクチャン)を中心に、異常気象による果樹栽培の被害が深刻だ。
中でも北倉が最も深刻で、价川でもほぼすべての農場の果樹作業班が被害を受けたとの報告がある。
3月の異常高温で開花時期が例年に比べて早まったのに、4月には異常低温が到来した。韓国気象庁の気象資料開放ポータルによると、陽徳では4月初旬には最高気温が25度に達したが、その後には最高気温が10度、最低気温は氷点下まで下がった」
(デイリーNK2023年5月23日
北朝鮮農業にまた暗雲…気温の乱高下で果樹の落花相次ぐ|ニフティニュース (nifty.com)

果樹は貴重な輸出品なので、またまた経済に打撃を与えるはずです。
そして目の前に迫る梅雨ではまたお定まりの水害が発生することでしょう。

「まもなく到来する梅雨では極端な大雨が降ることが予想されている。東シナ海の海水温が高く、それが黄海に流れ込むことで低気圧が発生し続ける「線状降水帯」ができ、韓国のソウル首都圏、北朝鮮の黄海道(ファンヘド)、平安道(ピョンアンド)に何日も続く集中豪雨を降らせる。
防災インフラの整っている韓国でも大きな被害が発生するが、それが不足している北朝鮮では、さらなる被害が予想される。ゼロコロナ政策による深刻な食糧不足が未だに解決できていない状況だが、もし今年も異常気象が続けば、北朝鮮の人々は、さらに飢えに耐え忍ぶことになる」
(デイリーNK前掲)

そして今の5月は、前年の収穫の蓄えが底をつく「ポリッコゲ」(春窮期)です。
目前の中央委員会総会の議題は農業だそうです。

正恩はなにを話すのやら。あんたが「指導」すればするほどおかしくなるのですがね。
そもそもこんな状況で、国民の数カ月分の食料を買えるミサイルを、夏祭の花火大会よろしく打ち上げているのが正恩なのです。

 

2023年6月 1日 (木)

北朝鮮、弾道ミサイル実験をしくじる

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どうやら北朝鮮は今回の弾道ミサイル発射をしくじったようです。
まずは第1報。

【ソウル聯合ニュース】韓国軍合同参謀本部は31日、北朝鮮が同日午前6時29分ごろ、北西部の平安北道・東倉里付近から南方向へ、北朝鮮が主張する「宇宙発射体」を発射したと発表した。北朝鮮が衛星を搭載したとする飛翔体を打ち上げるのは、2016年2月7日の「光明星」以来、約7年ぶり。(略)
軍当局は機種や飛行距離など詳細の分析に当たっている。

合同参謀本部によると、この飛翔体1発は朝鮮半島西側の黄海にある白ニョン島西の沖上空を通過した。
 軍消息筋は、飛翔体が落下予告地点に達せず、レーダーから消えたと伝えた。軍は飛翔体が空中爆発したか海上に墜落するなど、失敗した可能性も念頭に分析を進めているもよう」
(聯合5月31日)
北朝鮮が「宇宙発射体」発射 韓国軍は失敗の可能性含め分析中 | 聯合ニュース (yna.co.kr)

北朝鮮は、軍事偵察衛星「マンリギョン1」、運搬ロケットは「チョンリマ1」と称しています。
ここで日本Jアラートを沖縄県に発令しました。

ちなみに琉新などのメディアは、PAC3が予定地に展開できなかったことを捉えて「混乱を拡大した」などとわけのわからないことを言っているようです。
理由は簡単で、石垣島が大型台風の直下だったからで、予定地では強風のために発射装置の倒壊の危険があったからです。

「自衛隊が北朝鮮のミサイル発射に備えて石垣駐屯地(沖縄県)へ派遣した地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)が31日朝、予定地で展開していなかったことがわかった。台風による強風で迎撃ミサイルの発射機が倒れるのを懸念したとみられる」
(日経5月31日)自衛隊PAC3、石垣予定地に展開せず 台風で倒壊懸念か - 日本経済新聞 (nikkei.com)

仮に無理に立てて倒壊でもしたら、「自衛隊また事故を連発」などと叩くのでしょうね。
台風直下、迎撃準備に奮闘する隊員たちにねぎらいの言葉の代りにこれかい、と思います。
品性下劣。

今回GSOMIAが日韓米で統合されたためか、情報の受け渡しがスムーズでした。
日韓関係正常化のポジティブな効果でした。
しかし大型台風と重なって県民の皆様は、心配されたと思います。

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ただし、北朝鮮はこの打ち上げに失敗したようです。
朝鮮中央通信が伝えていますので、間違いないでしょう。
恐ろしくあっさりと認めたものです。

「北朝鮮は31日朝、北西部から軍事偵察衛星を搭載したロケットを打ち上げ、異常が発生して墜落したと発表しました。失敗の原因を調査し、可及的速やかに2回目の打ち上げを行うとしています。
北朝鮮は国営の朝鮮中央通信を通じて、31日午前6時27分、北西部にあるソヘ衛星発射場から軍事偵察衛星「マルリギョン1号」を搭載したロケット「チョルリマ1型」を打ち上げたと発表しました。
それによりますとロケットは、1段目を分離した後、2段目のエンジンの異常で推力を失い、朝鮮半島西側の黄海に墜落したということです。
朝鮮中央通信は「軍事偵察衛星の打ち上げ時に事故が発生した」と伝えていて国家宇宙開発局の報道官が「ロケットの新型エンジンシステムの信頼性と安定性が落ち、使用された燃料の特性が不安定であったことに事故の原因があると見ている」と明らかにしたとしています」
(NHK5月31日) 
北朝鮮国営メディア“異常発生し墜落 できるだけ早期に2回目” | NHK | 北朝鮮 ミサイル

落ちたと見られるペンニョンド島の位置はここです。

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白翎島/ペンニョンドの地図(マップ) | 観光-ソウルナビ (seoulnavi.com)

これは予定されていた飛行コースから見れば、打ち上げて短時間で爆発して墜落したことになります。
韓国領海の可能性もあります。
米韓は深海サルベージしてでも、ロケットの残骸を手に入れたいでしょう。
これを分析すれば、弾道ミサイル技術の水準がわかるからです。

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「体制の命運かけた一大イベント」北朝鮮“弾道ミサイル”発射を通告 人工衛星打ち上げと称し…(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

朝鮮中央通信によれば、2段目ロケットの点火失敗による推力不足で、軌道に達しなかったようです。
1999年11月、わが国もH2・8号機の事故で、偵察衛星2機を同時に失っています。
日本はこの事故機を小笠原海中3000メートルの海中からLE-7エンジンを回収し、文部科学省宇宙開発委員会技術評価部会が調査を行い、事故原因をシンリンダーのひとつまで徹底的に検証しています。
その間、宇宙開発は停滞を余儀なくされました。
失敗事例 > H-2ロケット8号機打ち上げ失敗 (shippai.org)

一方、北朝鮮は直ちに2回目の発射をすると息巻いているようです。なぁに言ってんだか。
しかし常識的には、失敗原因の特定だけで年単位、そしてロケットと偵察衛星を再度作り直すにはさらに数年かかるはずです。

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産経

「北朝鮮は「最優先課題」として、軍事偵察衛星の開発を急ピッチで進めてきた。事実上の弾道ミサイル発射である31日朝の偵察衛星の打ち上げでは、早々に「失敗」を発表したものの、今後、早期に2回目の発射を行うとしており、偵察衛星保有にかけた強い意思に揺らぎは見られない。「絶対に放棄することも変えることもできない必要不可欠な先決的課題」。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は4月、「軍事偵察衛星1号機」を開発してきた国家宇宙開発局を現地指導した際、こう強調した。
北朝鮮は2021年の党大会で国防5カ年計画の五大重点目標の一つに偵察衛星開発を掲げた。米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)など多様な攻撃手段を開発してきたが、標的となる米韓両軍の動きを正確に把握する「目」の役割をする観測手段を持っていなかったからだ」
(産経5月31日)
偵察衛星保有にかける金正恩氏、2回目の発射へ 中露も援護か - 産経ニュース (sankei.com)

この辺のセンスが、さすがは北朝鮮、さすがは正恩です。ぶっ飛んでいます。
墜落原因を調査しなくていいんですかね。
この国のことですから、2、3人処刑して「調査」は終わりなのかもしれませんがね。

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あ、韓国軍が引き上げると言っていますので、急がないと。
おーと、もうすでに引き揚げは始まっているようです。

デイリーNKの高英起氏は、北朝鮮の政治的背景について述べています。
正恩はこの「軍事偵察衛星」の成功を、6月上旬の中央委員会総会の弾みにする予定でした。
というのは、「正体不明の熱病」が再び蔓延していますが、正恩はコロナは去年8月までの「非常防疫戦」で勝利したと総括してしまっていますから、これをコロナとはみとめておらずうやむやにしようとしている真っ最中でした。

農や工業は著しく生産性を低下させて、いっそう国民は疲弊していますから、こういう時こそ景気づけに軍事偵察衛星の打ち上げを成功させて独裁者としての求心力を回復したかったのかもしれませんが、見事にとん挫しました。

「6月上旬の開催が予告されている朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会である。党中央委員会政治局は28日に発表した、総会招集の決定書で、「2023年度上半期の党および国家行政機関の活動状況と人民経済計画実行の実態を総括して対策を立て、われわれの革命発展において重要な意義を持つ政策的問題を討議する」としている。
総会では軍事偵察衛星の打ち上げ成功が「偉大な成果」として誇示されると見られていたが、失敗は果たしてどのように総括されるのだろうか」
(デイリーNK5月31日)
「踏んだり蹴ったり」の金正恩、いよいよ危機的状況に(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース 

今回、華々しく「人口衛星」発射を事前通告してみせたことが仇となり、もう逃げようがありません。
どんな顔で、目前の中央委員会総会を乗りきるのかがやや楽しみです。

 

 

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