ウクライナ軍の反撃軸とは
プーチンがこんなことをのたもうています。
「ロシアのプーチン大統領は13日、ウクライナはロシア軍に対する大規模反転攻勢で、欧米から供与された兵器の25〜30%を失う「破滅的な損害」を受けたと述べた。モスクワでロシアの軍事記者らと会談した」
(共同6月14日)
ウクライナ軍に破滅的損害 プーチン氏、優勢を強調(共同通信) -
プーチンはダムを壊したのは、ウクライナなんだーいと言っているようですが、国際的調査が入るようですから今のうちだけ吠えていなさい。
共同はこんなつまらないことを報じていないで、前線に特派員送って自分の眼で記事書かせなさいよ。
ロシアは「西側供与の3割の破滅的損害」の証拠として、レオパルド戦車の破壊された映像を出してきましたが、あいにくですがアレは破壊されたのなら爆風を逃がすブローバックパネルが吹き飛ぶはずです。
白煙も、たまたま砲塔の発煙弾発射装置に命中したためにオーバーに見えるだけのことで、下の写真のようにこの壊れたレオパルドは戦車回収車で後方の修理基地に運ばれたことかわかっています。もちろん乗員も無傷です。
とはいえ、無傷でロシア軍に勝利できるはずもありませんから、やられる場合もありますので、西側兵器の神格化はやめましょう。
とまれ6月7日から始まったウクライナ軍の総反撃を、元陸将・陸上自衛隊東北方面総監の松村五郎氏の分析を参考にさせていただいて整理してみます。
始まったウクライナ軍の反転攻勢、元自衛隊幹部が作戦を徹底分析 作戦の全体像把握から見えてきた5つの作戦軸 | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
一気に全領土を奪還できればよいのですが、もちろんそんなことは夢想です。
まずやるべきは、ロシア軍を分断して互いの補給や支援の連携を断つことから始めねばなりません。
ですから東のロシア内地からドネツクを経て、アゾフ海沿いのマウリポリからメリトポリ、ザポリージャ、ヘルソン、そして西の端にあるクリミア半島というロシア回廊を分断することから始めねばなりません。
攻撃側のウクライナ軍はどこからでも攻撃できますが、ロシア軍はどこから来ても守れるように全兵力を薄く長くのばさざるをえません。
さて、ウクライナ軍の攻撃の方向(「攻撃軸」)は3~5方面です。
渡部悦和 Yoshikazu WATANABE(@WatanabeKansha)
上図で西(画面左)からトクマク軸、ベリカノボシルカ軸、バフムト軸ですが、最も重要なのが中央のベリカノボシルカ軸です。
この攻撃軸の正面にはマリウポリ、ベルジャンシクがあります。
トクマク軸はメリトポリへの最短軸ですが、ロシア軍陣地は堅牢だと言われています。
松村五郎氏による
①②④⑤の攻撃軸(青)、③の攻撃軸(紫)は、それぞれ作戦の目的が異なっています。
もっとも重要な攻撃軸は、③のバフムトからマウリポリに至るラインです。
「③の攻撃軸は、ドネツク州とザポリージャ州の境界沿いにマリウポリ一帯を目標に攻撃するものである。必ずしもマリウポリの街を陥落させる必要はなく、マリウポリの東西どちらかでアゾフ海まで進出することができ、南北の帯状の地域を安定的に確保できれば、東部と南部のロシア軍を分断することができる。
そうなれば、南部のザポリージャ州、ヘルソン州一帯に展開しているロシア軍の補給路は、クリミア半島経由に限定されることになる」
(松村前掲)
①と②は親露派の根城である東部地域の孤立化であり、④はザポリージャからメリトポリへと南下し、⑤はヘルソンからドニエプル川を渡河してクリミア半島の付け根一帯を奪回することです。
ただし、6月6日のカホフカダムの破壊により⑤の作戦行動は難しくなったので、他方面に転じただろうと思われます。
一方、ロシア軍の防衛戦と称するものの正体がバレてしまいました。
ウクライナ軍が防衛線の塹壕に近づくと、実態はこんなものだったようです。
戦闘前に撮られた上空からの衛星写真では、このように報じられていました。
ロシアの守備、衛星画像で明らかに ウクライナによる反撃を前に - BBCニュース
「トクマクの北側に塹壕が2本の線状に掘られているのが分かる。ウクライナの攻撃が予想される方向だ。
これらの塹壕の背後では、街を囲むように要塞が配置されている。下の拡大した衛星画像では、守備が3層になっているのがはっきりと見て取れる」
(BBC5月23日)
ところが近寄ってみればただの浅い溝(笑)。たぶん戦車なら簡単に超越できるでしょう。
全部が全部こうではないでしょうが、それにしてもこんな浅い溝で待ち構えているロシア兵も哀れです。
では③の攻撃軸によって、マウリポリのラインでロシア軍が分断された場合、どうなるのでしょうか。
「軍の補給品には、燃料や食糧も含まれるが、重量でも体積でも最も多い量を占めるのは弾薬であり、これが絶たれると、大砲、戦車、ライフル等の装備があっても戦うことができなくなる。
クリミア半島は、ロシア本土とクリミア大橋一本で繋がっているだけであり、ウクライナ側の半島の付け根も主要な道路2本を除いてほぼ湿地帯である」
(松村前掲)
現代戦では補給が命です。補給が途絶えた瞬間、その軍は死に直面します。
補給が必要なものは、食料、医薬品、燃料など数ありますが、なかでも重要なものは砲弾、しかも「155mm砲弾」と呼ばれるものです。
韓国「155mm砲弾」30万発を米軍に貸与、ウクライナに回る?(ニュースソクラ) - Yahoo!ニュース
このウクライナ戦争では、いままで考えられていたのをはるかに上回る砲弾が必要とされました。
それは双方共に優秀な対空ミサイル網を持っているために、共に航空優勢が取れないでいるからです。
西側の常識では、戦闘前に徹底した空爆を行うのですができないし、それはロシアも一緒だったようです。
そのために空軍は思うような攻撃参加ができず、24~30キロ離れた長距離から相手に致命的打撃を与える長距離砲が戦場の主役になりました。
M777 155mm榴弾砲 - Wikipedia
ひとくちで射程30キロといいますが、東京大手町の皇居あたりに155㎜砲を据えて東に向けて撃つと、柏市や八千代市まで飛ばすことができます。
撃たれたほうは遥か遠くからの砲弾で、なにがなんだか分からない内にやられてしまいます。
しかもミサイルとは違って砲弾は無誘導なので、電波妨害したりして逸らすことかできません。
にゃんこそば🌤データ可視化さんはTwitterを使っています: 「東京駅から30km圏はこんな感じ。 https://t.co/nRtCXmGxZ4」 / Twitter
ちなみに自衛隊は、かつてソ連が攻めてきた場合、自衛隊は弾薬を「空自が3時間、海自が3日、陸自が3週間」で撃ち尽くすと言われていました。
冷戦終結で貧弱な防衛費がさらに削減され、ある試算によると、今の備蓄量では南西諸島における有事の際に2ヶ月弱持てばいいほうだと言われています。
トマホークもけっこうですが、こういう地味な155㎜砲の砲弾備蓄をしっかりやらないと、台湾-南西諸島有事に対応できません。
そはさておき、米国防総省は、ウクライナ軍だけで1日に約3千発の155mm砲弾が使用されていると発表しています。
侵攻からの過去1年間で100万発以上消費したという推計さえあります。たぶんそれ以上消費しているはずです。
米国はすでに100万発以上をウクライナに送ったものの、天下の米軍ですら余剰在庫が底を突き、すぐさま生産もできない状況のようです。
日本が弾薬の資材を輸出するという話すら持ち上がっています。
また韓国は備蓄砲弾を送ったと言われています。
一方ロシア軍は、前大戦において証明された大砲という「戦場の女神」をことのほか愛し、ウクライナ軍の10倍、つまり1日3万発、1年間で実に1千万発もの砲弾をウクライナ軍の頭上に打ち込んできました。
ウクライナ兵士は、一発撃つと10発返ってくるとぼやいていました。
これがロシア軍が簡単に崩壊しない最大の理由であり、さすがにロシアも砲弾が枯渇しかかって、いまや世界最貧国の北朝鮮に砲弾を提供を要請しているほどです。
互いに砲弾が切れかったために、戦線が膠着していました。
ですから、ロシア軍の補給路を断ってしまえば、ロシア軍は各方面で孤立し包囲されていくしかないのです。
これらの攻撃軸はロシア回廊を分断し、アゾフ海沿いに展開している南部地域全体のロシア軍をクリミア半島への追い込み、、さらにクリミア大橋をストームシャドウで破壊し孤立化にさせようとしています。
遠くからウクライナ軍の活躍を祈っています。
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プーチンは意外に多弁で、現在の苦境を認めるかのような発言さえしていた印象です。それはまぁ、モスクワ人にとっての戦争はまるで他人事なのでイライラしてもいるし、それらの国民に対する啓蒙の一種だったんじゃないでしょうかね。
プリコジンが毛嫌いするモスクワのエリートの特権意識と似たようなもので、総力戦に転換したい上での国家の構造的な弱さを露呈しているようにも感じられます。
一方のゼレンスキーは政治的には終始かなり優位に立っていると思います。和平ラインや停戦ラインを公式には全土解放一本に置いて、機会主義とも思えるような言動をあえて取っているようにも思います。
作戦においてもそうで、仮にマリウポリまでいったん突き抜ければ、ロシア軍の総崩れを見られるかもわかりません。その状況でクリミア大橋を叩けばいいわけで、戦果を焦らず段階的にジワジワ行く方が自軍の損失も少ない。
いろいろ見立ては出来ますが、ウクライナはかなりクレバーな闘い方をしているんじゃないでしょうか。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年6月15日 (木) 13時48分
紫の③、ここだけはロシア防衛線が第二までしか無いそうです。
ここがメインのような気がします。
ウクライナ軍は各所で砲陣地、対空陣地、弾薬の集積所を攻撃してますが、ロシアは空爆を増やして対抗してます。
地雷原もあるので前回の反攻作戦のようなスピードは出せず、ジワジワを防衛線を突破していくしかありません。
長い長い防衛線、小さな綻びが広がることでしょう。
投稿: 多摩っこ | 2023年6月16日 (金) 21時08分