ブリンケン訪中
ブリンケンが訪中しました。
中国側の出迎えはサバサバしたもんだったようです。
こういう時出迎えにだれがでてくるのか、赤カーペットが敷かれたのかで訪問国の対応があらかじめ読めてしまうのですが、今回は出迎えは局長クラス、赤カーペットは出ず終いでした。
中国側出迎え要員、中国外務省のヤン・タオ北米・オセアニア局長のふたりだけ。
いやー、さっぱりしたもんですな。
これだけで中国のスタンスがよくわかります。いつもながら共産国家というのはわかりやすい。
あまり寂しいせいか、駐中国米国大使のニコラス・パーンズが顔を出しました。
米国務長官、北京に到着 バイデン政権の閣僚による訪中は初…中国外交トップらと会談へ - ライブドアニュース (livedoor.com)
「アメリカに住んで12年になる中国出身の人権活動家ジェニファー・ツェンは、ツイートでこう指摘した。「空港でブリンケンを迎えたのは、アメリカの大使と共産党ではかなり下のレベルの中国外務省ヤン・タオ北米・オセアニア局長だけだった。レッドカーペットもない。歓迎の群衆も、鼓ひとつの演奏もない。これは、中国の基準と文化によれば、意図的な辱めだ」
(ニューズウィーク6月19日)
レッドカーペットも高官の出迎えもなし、中国がやってくれたブリンケン米国務長官への辱め(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
通常の外交儀礼は訪問客と同格の者を迎えにだすのが常識です。
ブリンケンは国務長官ですから、この場合秦剛外交部長が行くのが筋。
それをあえて格下の局長クラスに行かせて、お前の訪問なんか、オレらなんとも思っていないからと空港からプレッシャーをかけるのが共産党流のようです。
エマニュエル・マクロンが訪中した時のものと較べてみましょう。
もう赤カーペットは敷くし、儀仗兵は並ぶわで、下にも置かない歓迎ぶりでした。
なんせ習近平がつききっきりで接待旅行までしたくらいですからね。
「世界の多極化へ重要な存在」 マクロン氏訪中に透ける中国の思惑 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
裏返せば、フランスとて自由主義陣営の指導的立場の一員であるのですから、独裁国家にこれほど歓待されるってナニと思わなければならないはずですが、マクロンは舞い上がってしまいました。
近々王毅(外交担当政治局員)が訪米をするそうなので、今度は自分がこんな雑な出迎えをされるわけてで、ちっとは考えたらよさそうなものです。
外交は相互主義、やったことはやられます。
中国と密約をしに行ったのだなんて気を回す人もいるようですが、ありえません。
そもそもブリンケンは今年2月に行くはずが、例の北米を縦断したスパイ気球を米国が撃墜したことで延期になっていたのです。
その間、米中関係は大氷河期に突入し、昨今は中国艦艇が米艦艇に体当たりをかけてくるところまで悪くなっていました。
米国からすれば、来年1月の台湾総統選の前に過度の緊張は緩めておきたかったようです。
「ブリンケンは48時間だけ中国に滞在し、早々に中国を離れた。秦剛と会談したほか、王毅・政治局委員(中央外事弁主任)と会談した。
米国側は簡単なメディアブリーフで、ブリンケンの訪中で得た成果について「重大な問題のいずれについても大きな突破口はひらけなかった」と述べた。
米国にとってこの会談の最も重要なテーマは「会うこと」だった。この会談で、双方ハイレベルは対面で会ったという事実をつくった。台湾の淡江大学国際事務戦略研究室黄介正副教授は「この会談で少なくとも気球事件に代表される対立から一ページ進んだ。」と指摘」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.819 2023年6月19日)
「進んだ」といっても関係改善の道が開かれたというわけではなく、当面はパイプだけは通しておこうね、ていどのことです。
米ソ冷戦の時も、こういう緊張の高まり→やや弛緩→また緊張勃発→弛緩という周期を繰り返しましたが、こうやってだましだまし戦争に至らないようにする手練手管について、米国は経験を踏んできています。
「今出来の超大国」とは経験が違うのです。
今回もそのテクニックの応用で、特に議題がなくて成果がなかろうと、根本的解決が見いだせなかろうと、侮辱的扱いを受けようと、「自分の立場を主張しに行く」のは緊張緩和の外交的手段なのです。
だから密約をしに行ったなどは、考えすぎもいいところです。
中国で習近平体制が続く限り、軍拡は続き、周辺国は脅威におののくでしょう。
一方それを抑えるべき米国はといえば、バイデンにはリーダーシップが致命的に欠落しており、議会はより強硬になって米国はまとまりきれません。
こういった中では戦争などできないし、今の戦争と戦争との間の戦間期をできるだけ引き延ばして、米国にマトモな指導者が登場し、習近平が国民の不満を外に向けないように適当に圧力緩めたりしながら、この状態を続けるしかないのです。
いわば弁の開け閉めの期間です。
その意味で、ブリンケン訪中はいかにもアングロサクソン流で、対話を通じて互いの違いを認識するというやり方です。
うちの国の自称リベラルのように、外交とは話合い一般だと思い、あらかじめ相手との妥協線を忖度するのではなく、懸念は懸念として歯に衣を着せずにそのまま伝え、双方にとって協力できる分野を残して次回に繋ぐというものです。
そもそも秦剛はこの会談前にブリンケンと電話会談していますから、今さらナニをお互いに会って言い合うのかははっきりとわかっていました。
中国側は、台湾問題は中国の核心的な利益であり、国内問題だから内政干渉するなというのが立場ですし、米国は台湾が中国領だと認めた覚えはない、台湾海峡の安定の実力による変更は許さない、といったところでしょう。
中国側に、「台湾独立は支持しない」というひとことを切り取られましたが、そんなことは歴代政権どおりであって、なにを今さらです。
台湾民進党も、政権につくまでは独立を口にしていましたが、政権与党になった瞬間封じています。
もちろん米国は、中国との対立が一朝一夕に起きたものではなく構造的です。
中国が世界の覇権国家になろうとする野望のプロセスで起きたことだと理解しています。
「宋国誠(台湾政治大学国際関係センター研究員)は「米中間はやはり構造的に対立している」と強調する。グローバルリーダーの地位を争う関係にあるからだ。中共はアジアの覇権を奪おうと狙っており、米国の軍事的プレゼンスをアジアから駆逐しようとするほか、米国のグローバルリーダーの地位にとってかわろうと狙っている。
「中国の野心にまったく変化はなく、世界平和の建設者の役割ではなく、世界最高指導者の役割を担いたいのだ。中共が最終的にはグローパル覇権をとりたいという意図になんら変化がなく、米国がグローバルリーダーの地位を放棄する意思がないなら、両者の相克が変化するわけがない」
(福島前掲)
したがって、中国は半導体規制等制裁の解除を求めていますが、それは中国にとって中国の時間稼ぎに利するので協議の余地はありません。
今回も議題に出たでしょうが、冷やかに対応したはずです。
米国はロシアが制裁によって電子部品や半導体不足で苦しんでおり、ロシアにそれを第三国経由で中国が流していることも知っています。
だから絶対に中国に対する半導体規制は緩めることはありえないのです。
習近平がブリンケンと「謁見」している写真がでてきました。
ブリンケンは習近平皇帝に拝謁しているかのようです。
わかりやすいなぁ、19世紀の清朝皇帝さながらですぜ。
東京
「20日付の中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」は、向かい合った長テーブルに並ぶ米中双方の閣僚の間に、習氏が議長役のように座った写真を掲載した。中国要人との会談では、相手との距離や位置関係などが両者の関係性を意味する場合があり、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と習氏が16日に会った際には隣り合わせに座って親密さをアピールした」
(東京6月20日)
習近平氏、ブリンケン国務長官を「格下」扱い 席位置で中国とアメリカの関係性示す?:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
習近平はガタイはでかくても気弱な男なんでしょうね。
だからいつもブスっとしていて笑えない。
習近平氏とビル・ゲイツ氏、北京で会談 - 産経ニュース (sankei.com)
こんなエラソーな態度をするだけで清朝末期の皇帝じみてくるので、かえってアングロサクソンにはなめられるのにね。
ま、ゲイツに合うのは儲かる話だからにこやかに対応しても、ブリンケンはハッキリとモノを言うので、会うのが憂鬱だったのかもしれません
気弱で孤独な独裁者クンです。
さぞかし外交畑の連中はハラハラしたことでしょう。
ブリンケンさん、帰国すると共和党が弱腰外交してきおって、と議会に呼び出すそうですので、ご苦労様です。
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米国が一歩引いてデカップリングからデリスキングに変化した、というような解説が随所で見られますが、全然違いますね。
米国の姿勢はバイデン・習のシンガポール会談以降、一貫しています。
労働集約型の製品など中国で作るのも輸出されるのも全然かまわず、半導体関連や軍事技術周辺などは与えない。
まぁ、デリスキング=部分的なデカップリングという事ですね。
中共の中身のない皇帝ばりのハッタリ演出には、ほとほと飽きが来ましたが、中国人はそういうのを喜ぶのでしょう。
しかし、ブリンケンの訪中を受け入れた事自体に中共の哀訴性があって、ブリンケンはただレッドラインを確認しに行った役割をしただけです。「不測の事態を回避するために、連絡だけは取り合おうね」って事でOK。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年6月22日 (木) 09時29分
> ブリンケンさん、帰国すると共和党が弱腰外交してきおって、と議会に呼び出すそうです
厚遇されても冷遇されても文句や揶揄が降ってくるので、全く気にせず動いている。そんな様子に、バイデン政権の足腰の強さを見ています。
最近スパム対策に弾かれまくってて書けてないのですが、すわ米中手打ち!とか買いている論者の他の発信をも、定期的にツイートなど巡り見て、自分が過去に引っ掛けられたり一時つられたことを振り返るようにしています。
心底色々、がっかりしますよ。アーカイブが残るというのは貴重ですね。普通にテレビや雑誌を流し見した時代にどれだけやられてたのか。
投稿: ふゆみ | 2023年6月22日 (木) 12時32分
敬称役職名省略にて。
外信や中共メディアを見ると王毅は、中米関係が最低なのは米国のせい、台湾問題で妥協と譲歩の余地は無い、中国の発展への抑圧をやめろ、などとブリンケンに話すも、具体的進展無しとのことで、両者わかりきった塩対応をしながら衝突を避ける、という感じですかね。
中共では何事も習が決めるのですから、習と話さないとならない中で、自分が有利でない進展は欲しくない習が向き合うか否かは如何に。
蛇足ですが。
「米国は台湾独立を支持しない」は「解決を平和的手段でなく軍事力でやるなら米国は介入する」とセットだというのを、中共側は知っているから態とキリトリ宣伝をしているわけですが、我が国には、「支持しない」だけを喜んで鵜呑みにした上、「米国は台湾独立を支持しない=台湾有事は起きない」という、論理・繋がりがまったく謎な主張をぶち上げて、「台湾有事は日本有事と吹き上がっていたみなさんは退場ください」(とある落語家)、「中国は戦争など望んでいない、防衛産業支援をやめろ」(とある新聞記者)、このようにナチュラルにドヤってしまえる人たちがいて、それこそが今ここまで、対中共抑止が効いている状態が続いている証左でもあるなぁと思います。
台湾の大多数の方々も我が国も米国も、望んでいるのは「現状維持」であり、その現状を何時如何なる理由をつけて武力を以て変更するかを決めるのは侵略側たる中共だけである、それはプーチンがはっきりと示した、従って我々が「台湾有事は起きないから抑止力は要らない」と決めつけることはできない、という現実から導かれる認識を、まるっと抜き落としたままで好きなことを言って暮らせているのですから、有り難くも幸せなことです。
抑止力と言葉のみの応酬(それで本音や地力を窺い知り、知られる)、両方等しく大事ですね。
投稿: 宜野湾より | 2023年6月22日 (木) 13時12分