プーチンの耳はロバの耳
プーチンの耳は王様の耳ではないのか、と思い始めてかなりの時がたちます。
たぶんこの男は、ウクライナ侵攻のほんとうの状況を知らされていないようです。
プーチンとまともに口をきけるのは国防省のセルゲイ・ショイグだけだといわれていますが、彼すらウソ報告をしまくったおかげで、ソッポを向かれてしまいました。
<動画>弱いロシア軍に不満?プーチンが露骨にショイグをシカトする衝撃映像|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
「プーチンは包帯やギプスで痛々しい負傷兵の間を回って勲章を授けた後、前で見ていたショイグの隣りに戻った。ショイグがプーチンのほうに身体を向けて何か言おうとしたときだ。プーチンはショイグにくるりと背を向けた。突然、露骨な辱めを受けたショイグは気まずい表情で立ち尽くした」
(ニューズウィーク6月14日)
<動画>弱いロシア軍に不満?プーチンが露骨にショイグをシカトする衝撃映像(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
これは独裁者が罹る典型的な「ロバの耳」症候群です。
「テレグラムチャンネル「VChK-OGPU」は6月4日付の投稿で情報筋の話を引用し、「この戦争に関する悪い知らせ」はプーチンに報告されていないと伝えている。悪い知らせは同大統領を「激しくいらだたせる」からだという。
プーチンに悪いニュースを伝えた者は「西側のプロパガンダ」に毒されていると叱責される。良いニュースを伝える者だけが、プーチンに「常時面会」できる地位を維持しているという」
(ニューズウィーク2023年6月6日)
プーチンはもうロシア軍の惨状を知らされていない!?(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
独裁者は極度に情報を統制しようとするために、自由な発言を許しません。
自由な言論は侮辱であり、闊達な意見交換は自らの権力に対する紊乱なのです。
側近の数は限られた上に、独裁者に快いことしか言わなくなります。
すると現実に進行している状況との乖離がどんどんと拡がり、決定的なことを報告しようものなら雷のような罵声がふりかかってきます。
罵声だけならともかく、下手をすると粛清されることもしばしばありますから、まさに生命がけです。
下の写真はショイグがプーチンに報告している時のものですが、さぞかし冷や汗まみれのことでしょう。
プーチンは、まったくショイグの言うことなど信じていないという醒めた顔をして聞いています。
トップがこの調子ですから、下部の将校や情報機関はなおさらグッドニュースしか報告しなくなります。
ニューズウィーク
そのうえこの男は、部下の指揮官を信用していませんから前線の戦術指揮まで首を突っ込みます。
アソコの部隊をここに投入しろ、ここを死守しろ、いついつまでにココを落とせと命令を乱発します。
そのための補給や部隊再編などといった実務はできませんから、一本道で補給部隊が鈴なりになるという状況が各地で現れ、ウクライナの格好の標的となりました。
下の写真は一本道で64㎞の渋滞をしている補給部隊の衛星写真です。
当然、こんなていたらくでは失敗を続けて損害の山を築きますが、それは指揮官の無能と断ぜられます。
そんな烙印を押されないために司令官レベルは行くべきではない前線視察に出かけては、ウクライナ軍に続々と討ち取らていきます。
侵攻後3カ月後の2022年6月の時点で将官が12人、佐官以上が152人というすさまじい戦死者を出し、2022年6月の調査によれば4010人の戦死者のうち、188人が上級将校(将官、佐官)で、リスト全体の17%に当たる689人が将校でした。
ベトナム戦争は「大尉の墓場」と呼ばれたそうですが、ウクライナでは「将軍の墓場」とでも言われるのでしょうか。
2022年ロシアのウクライナ侵攻で死亡したロシア軍高級将校の一覧 - Wikipedia
この現象を、BCCはロシア軍の命令システムによるものだと見ています。
戦場において一番部隊の状況を把握しているのは軍曹以下の下士官です。
米軍やNATO軍はそれを知っていますから、戦場での問題解決は将校の命令を待たず、軍曹や伍長などの裁量に委ねられています。
一方、ロシア軍では下士官はただの使い走り扱いで軍用品、兵器類の管理が主要な任務で、戦場の指揮権は任されていません。
するとロシア軍では、たとえば上級司令部からここの高地を落とせと命じられると、佐官クラスが最前線で部隊の戦闘を直接指揮することが多くなります。
この垂直命令型システムが、ロシア軍に司令官、上級将校の戦死者が異常に多い原因です。
ウクライナ軍は、この垂直型命令システムを改めて柔軟なNATO型に切り換えて成功しています。
今の反攻においても、敵の厚い防御ラインに当たると、柔軟に退却したり迂回したりする判断をしていますが、これがロシア軍なら同じパターンの攻撃を墨守して全滅を続けます。
このように民主国家と独裁国の軍隊では、指揮命令系統の体質そのものが違うのです。
また独裁者の政治的配慮を優先するために、シベリアやブリヤートなどのアジア地域に偏った動員を行いました。
ヨーロッパ部分は政治的にプーチンの権力を支えているために動員を避けたのです。
BBC
「死亡した将兵の出身地域を見てみると、もっとも多いのはコーカサス地方のダゲスタン出身者で、侵攻が始まってからの4カ月で218人の死者を出している。続いてシベリアのブリヤート出身が174人、ウクライナに近いクラスノダール134人、ボルゴグラード124人、中央アジアのバシコルトスタン119人、シベリアのザバイカル107人の順だ。
いずれも辺境の地で、現金収入が乏しい、アジア系少数民族の住む地域だ。人口の圧倒的に多いモスクワ州では46人、レニングラード州では33人の戦死者を数えるのみだ。
地図からも明らかなように、シベリア、中央アジア、コーカサスが、最前線へ投入する兵士の供給源になっていることがわかる」
(BBCロシア語版2022年6月30日)
ロシア軍志願兵の戦死者、45歳以上が4割 多くは地方出身 最大の懸案は消息不明者 (tv-asahi.co.jp)
こんな戦場に駆り出された兵士は脱出しようとすると容赦なく督戦隊に射殺されます。
督戦隊の存在は捕虜などから伝わっていましたが、未確認ですがドローン映像も出たようです。
これが21世紀の軍隊のやることかと思います。
ロシア軍の督戦隊が逃亡する自軍兵士を射殺する様子が撮影される│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)
また戦争冒頭でキーウを陥落させ、全土掌握をするという政治的野望を抱いたために、空挺部隊やスペツナズ、FSB特殊部隊アルファなどのロシア軍精鋭を投入しました。
これは普通の部隊の連度が低いために、仕方なく虎の子部隊をつっこんだのですが、見事に裏目に出て彼らは戦争初期で壊滅的損害を受けて、後にはこれらの精鋭部隊は登場しなくなります。
かくして、いまや激戦地の先鋒部隊はワグネルとチェチェン人部隊が担っています。
どこの国に傭兵がそんな役割をする国がありますか。
このように独裁者の思いつきは惨憺たる結果を生みました。
当然のことながら、誰が好き好んでこんな奴のために死ねるのか、という空気が支配していきます。
だから冗談のように聞こえますが、プーチンはキーウこそ落とせなかったが、うまくいっている、ゼレンスキーは西側に支えられているだけで、西側もやがて厭戦気分が横溢し奴に妥協を迫るだろうから、最終的に勝つのは自分だ、と本気で考えているかもしれません。
いや、そう考えなければ辻褄が合わないことばかりやっています。
西側を団結させないためには、4州の併合などという悪手の極みはするべきでないのに、それを強行してしまいました。
戦線は延びきり、補給すら途絶えがちなのにバフムトに全兵力を傾けんばかりに入れ込み、砲撃の支援もなく先鋒を担わされたワグネルのプリコジンから罵詈雑言を浴びることになりました。
ワグネル創設者、ロシア軍から攻撃受けたと主張 内紛激化か - WSJ
国防総省の元報道官だったジョン・カービーは、「プーチンが正確な情報を知らされていないのであれば、和平交渉を通じてこの戦争を終わらせることに誠意を持って取り組むとは考えにくい」と述べています。
プーチンははるか手前の時点で一方的停戦を宣言してしまえば、自由主義国には「侵略されても生命が大事」というヤカバラは掃いて捨てるほどいるし、マクロンのような太鼓持ちに斡旋させれば、ひょっとしたら「和平」という名の領土分割を西側諸国がゼレンスキーに押しつけられたかもしれません。
新ミンスク合意という悪夢です。
これで10年は稼げたかもしれません。
しかし、そういった小手先の軟着陸が通用する段階はとうに過ぎ、いまや戦争による決着しかない段階に至りました。
王様の耳の代償はおおきかったのです。
ウクライナ軍、南部で前進「かなり速く強力」…ロシア軍はハルキウ州から「ほぼ完全撤退」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
ウクライナに平和と自由を
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つい先日もプーチン容疑者は「ゼレンスキーはユダヤ人ではない」とかのたまってましたね。根拠は知り合いのユダヤ人からの話らしい。
これがロバ耳系無知ゆえなのか、あえてバカなフリをしているのか分かりませんが、少なくも陰謀論的な親露派日本人へのプロパガンダには使えているようです。
〉「独裁者は極度に情報を統制しようとするために、自由な発言を許しません。自由な言論は侮辱であり、闊達な意見交換は自らの権力に対する紊乱」
ここがキモで、独裁者を頂く専制主義国家の最大の弱点。
それにしても、督戦隊だけはやめて欲しいです。あれは辺境の奴隷化であって、本当に悲惨にすぎます。
安穏として無関係を気取る都市住民と、辺境の少数民族への差別が痛々しすぎます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年6月17日 (土) 14時45分
動員の多い州は、それこそ独立運動してくれたら一気に形成が動くのに、と期待します。
独立した州には核ミサイルが怖いですが、中国などとの国境付近に落としたりはしないと思います。
投稿: プー | 2023年6月17日 (土) 18時33分