レオパルト戦車が破壊されたくらいで騒がないでください
どうも世の中にはすぐに結果がでないと失敗だ、破綻したと叫ぶ手合いで溢れています。
いえ、なに、ウクライナの反攻作戦のことです。
本物かどうかわかりませんが、プーチンはこんなことを言っていました。
「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの反転攻勢に関し「われわれの防御を突破しようとする敵の試みは全て失敗に終わった」と主張した。ロシア国営テレビが16日、インタビューを放送した。
6月上旬の反攻開始から約1カ月半たっても、ウクライナが奪還したのは全土のうちわずかな面積とされており、ロシアが事前に構築した強固な防衛網に自信を示した格好だ。
ロシアは反転攻勢を受け、ドイツ製戦車レオパルトなど西側諸国が供与した兵器を破壊したり、奪取したりしている。プーチン氏は「(分解して設計などを研究する)リバースエンジニアリングという言葉がある」と説明。奪った兵器で北大西洋条約機構(NATO)諸国の軍事技術を解析し、ロシアがコピーする考えを示唆した」
(日経2023年7月17日)
ウクライナ反攻は「失敗」 プーチン大統領 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
おいおいプーチンさん、いやしくも一国の元首がおおっぴらに西側兵器を分解してパクってやるなんて言っちゃだめでしょうが。
そりゃあ、どちらもネンネじゃないんだからやっているに決まっています。
英国は鹵獲したロシア軍兵器を徹底して調べ上げていることを認めています。
装甲の厚さ、動力系、照準系、砲の性能などなど丸裸にされているはずです。
「スカイニュースの報道によれば英国国防参謀長である海軍のトニー・ラダギン提督はウクライナで鹵獲または回収したロシア軍の装備を分解し、将来の攻撃に対する防御方法を詳しく調べていることを認めた。「我々はNATOの一員であるため、将来、我々にとって大きな脅威となる可能性のあるロシアの装備を入手した際に、その知識を共有することが非常に重要だ」と述べた。
提督は装甲車を例に挙げ、「我が国の科学者は法医学レベルでロシアの装甲車両を解体分析している。ロシアの装甲車両がどのように機能するのか、どうやれば倒せるのか、装甲の強化はどうなのか、どうやって通信を妨害するのか、 どうやって彼らの防御を突破するのか。分析はこういったことに役立つ」とも述べた。NATOの仮想敵国はロシアであり、これらの分析したデータは同盟国間に共有される」
(ミリレポ7月20日)
ウクライナは戦闘実験室!英国、鹵獲したロシア製兵器の分析を認める│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)
西側はロシア製兵器が使われた戦争があるたびに鹵獲品を手に入れて、部品の隅々まで徹底的に調べ上げていますが、それって常識でしょう。
米国はそのための研究センターすら持っていて、膨大な数の鹵獲兵器を有しています。
たとえば、戦争初期の去年3月にはこともあろうに「クラスハ4」電子戦指揮司令部を丸ごと進呈してしまっていますし、同じく9月にはロシアの最新鋭戦車T-90Mを無傷で進呈してしまっています。
戦車はともかく電子戦司令部は痛かったはずで、このあと大きな電子戦の変更を迫られたはずです。
(21) ウクライナ軍に鹵獲されたロシア軍の最新鋭戦車T-90M、損失は3両目 - YouTube
西側兵器もレオパルト2A6戦車とM2ブラッドレーが損傷した状態で鹵獲したとロシアは発表しています。
鹵獲された戦車「レオパルト2」 ロシアにどのように調べられるのか - 2023年6月17日, Sputnik 日本 (sputniknews.jp)
ロシアは懸賞金まで出していましたから、いかに西側兵器に恐怖していたかわかろうというもんです。
まぁ、あたりまえです。兵器というのは使ってナンボ、使い倒して意味があるので、お大事と大事で前線に出さなければないのと同じです。
ロシアはいまだ最新鋭の「アルマータ」を出していませが、たぶん現場では未完成すぎて使い物にならんからだろうと見られ始めています。
T-90の方は出すやいなや鹵獲されてしまいました。しかも無傷ですから痛い。
ロシアは鹵獲したレオパルトやブラッドレーを徹底的に調べているんでしょうが、学ぶんだったら人命尊重思想が徹底しているのが西側兵器だということを勉強しなさいな。
西側戦車は、ロシア軍の(ウクライナ軍も同じですが)T-72のように「びっくり箱」爆発しません。
ビックリ箱爆発とは、砲塔全体が吹き飛んでしまうような爆発のことですが、戦車は完全に破壊され、戦車兵の命は失われます。これがロシア軍戦車には実に多い。
逆に言えば、同じT-72を使っているウクライナ軍にも多かったわけです。
まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは(2/3) - CNN.co.jp
これは砲塔の乗務員室の下に弾薬庫がある構造のためで、BMD歩兵戦闘車などの装甲車両も同じです。
「ドラモンド氏によると、弾薬の爆発はロシアが現在ウクライナで使用するほぼすべての装甲車両で問題を引き起こしている。特に搭乗員3人に加えて兵士5人を輸送する歩兵戦闘車「BМD4」は、同氏に言わせると「動く棺桶」であり、ロケット弾が命中すれば「全滅する」。
こうした欠陥について、西側の軍隊は1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争を通じて察知していた。当時イラク軍が配備したロシア製の「T72」戦車の多くは前述のような末路をたどった。対戦車ミサイルが命中すると、砲塔は車体から吹き飛んだ。
ロシアがT72の後継型として1992年に投入した「T90」は、装甲こそアップグレードされたものの、砲弾の装填システムは従来型を踏襲したため、弱点はそのまま残ったという」
(CNN2022年4月29日)
ロシア兵の士気が低いのも、いままで無敵だと思っていた戦車が次々と破壊され、戦車兵が大量に戦死したからです。
このようなロシア軍の非人道的な設計思想を目の前で見せられれば、士気が上がるわけはありません。
ウクライナ軍が西側戦車を切望するのも、同じ理由です。
一方、レオパルト2がロシア軍に破壊された動画では戦車は誘爆は起こさずに停車しており、その間戦車兵が脱出している様子が写っています。
ブラッドレーも兵士を載せていたようですが、全員退避しています。
ロシア軍、独製主力戦車「レオパルト」など破壊と発表 | ロイター (reuters.com)
これは西側の人命尊重思想で戦車が作られているからです。
弾は防護壁で仕切られた砲塔後方に納められており、一発ずつ取り出して砲に装填しています。
その砲弾も燃えても爆発しません。
「米国および一部の同盟国の軍隊が使用する戦車「М1エイブラムス」はより大型で、カルーセル式の装塡を採用していない。4人目の搭乗員が壁で隔てられた弾薬庫から砲弾を取り出し、主砲へ装填する。弾薬庫にはドアが設置され、搭乗員はそのドアを開閉しながら個々の砲弾を発射していく。つまりたとえ戦車が被弾しても、砲塔内でむき出しになっている砲弾は1発のみとなる公算が大きい。
「敵弾が正確に命中すれば戦車は損傷するが、必然的に搭乗員まで死亡するわけではない」(ベンデット氏)
また打ち込まれるミサイルから生じる高温で砲弾が燃えることはあっても、爆発はしないという」
(CNN 前掲)
そしてこのレオパルトは戦車回収車がレッカーして後方の修理工場に持って行きました。
戦車回収車もウクライナにセットて供与されています。
乗員は保護し、損傷した戦車は回収という設計哲学を前提で考えられているからです。
一方、ロシアはソ連時代からの伝統で、大量にそこそこの性能の兵器と全滅覚悟の兵士でスチームローラーのようにひた押ししてきます。
こういう戦法を取るから、西側兵器の前に膨大な物的人的損害を出します。
こんな戦法をとらされたのが、バフムトにおけるワグネルの囚人部隊で、小銃一丁で支援砲撃もまばらな中に突撃を繰り返し数万と言われる死傷者の山を出したそうです。
これがプリゴジンの怒りに火を着けて乱に及ぶわけです。
ところで、西側の兵器群はすでに使用され始めていますし、当然戦争なのですから損失が生じています。
レオパルトは雨のような敵砲弾を跳ね返す不死身の戦車だと思っていたのでしょうか、残念ながらそんな兵器は世界に実在しません。
前述したように破壊されにくい戦車や、仮に破壊されても乗員を保護できる戦車はありますが、対戦車地雷を踏めば壊れますし、砲塔直上から対戦車ミサイルを食えばアウトです。
車体底部や砲塔の上まで万全に装甲しようとすると、今度は重くなりすぎて機動性がなくなるからです。
だからやられる時にはやられます。そんなわかりきったことでワーワー言わないでください。
ウクライナ軍総司令官ザルジニーはこう言っています。
「レオパルト戦車はパレードで走ったり、政治家や有名人に写真を撮らせるためにきたのではない。彼らは戦争のためにここに来たのだ」
ウクライナの最高将軍、ヴァレリー・ザルジニーは、砲弾、飛行機、そして忍耐を望んでいます-ワシントンポスト (washingtonpost.com)
戦争ですから、必ず一定の鹵獲は生みます。
ロシアは調べあげて絶望するだけのことです。
ロシアにパクれる技術水準が備わっていないからです。
大戦末期、日本は米軍の近接信管やターボチャージャーを鹵獲しても、コピーできませんでした。
工業技術の基盤が違いすぎたからです。
たとえばレオパルト2A6のような第4世代戦車は高度なネットワーク機能を持って友軍部隊と連携しますが、歩兵の部隊間交信さえスマホを使っていたようなロシア軍にマネできますか。
あるいは、レオパルトは地雷防護や路傍爆弾(IED)の強靱な備えがありますので、仮に地雷で擱坐することはあっても乗員は無事です。
これがロシア系戦車ならばどうなるかわかって、改めて絶望するでしょう。
そして旧ソ連系戦車を使っていた東欧諸国からロシア系戦車は一掃されて、二度とロシア系戦車が主力戦車に返り咲くことはないはずです。
そして中東アフリカにまでそれは広く及ぶでしょう。
ウクライナ戦後(いつのことかわかりませんが)ロシア製兵器を買う国は、よほどカネがない国か怪しげな私兵集団しかなくなるでしょうね。
いいんですか、武器か原油、小麦くらいしか売るものがない国が。
プーチンがああ言っているのは、レオパルトを供与した国を脅かしているのです。
レオパルトなんてチョロイもんだから、いくらそんなモンを供与しても無駄だ、待ってろウクライナが片づいたらお前らの番だからな、といいたいのです。
ここでワーワー騒ぐのはロシアンフレンドだけ。
彼らのプロパガンダに負けちゃダメです。
反攻初期において苦戦を強いられたことについては次回に回します。
「俳句は感情をまひさせる手段」 戦場の現実詠む防人、ウクライナ軍大尉の三行詩:中日新聞Web (chunichi.co.jp)
ウクライナに平和と独立を
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