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2023年7月

2023年7月31日 (月)

レオパルト戦車が破壊されたくらいで騒がないでください

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どうも世の中にはすぐに結果がでないと失敗だ、破綻したと叫ぶ手合いで溢れています。
いえ、なに、ウクライナの反攻作戦のことです。

本物かどうかわかりませんが、プーチンはこんなことを言っていました。

「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの反転攻勢に関し「われわれの防御を突破しようとする敵の試みは全て失敗に終わった」と主張した。ロシア国営テレビが16日、インタビューを放送した。
6月上旬の反攻開始から約1カ月半たっても、ウクライナが奪還したのは全土のうちわずかな面積とされており、ロシアが事前に構築した強固な防衛網に自信を示した格好だ。
ロシアは反転攻勢を受け、ドイツ製戦車レオパルトなど西側諸国が供与した兵器を破壊したり、奪取したりしている。プーチン氏は「(分解して設計などを研究する)リバースエンジニアリングという言葉がある」と説明。奪った兵器で北大西洋条約機構(NATO)諸国の軍事技術を解析し、ロシアがコピーする考えを示唆した」
(日経2023年7月17日)
ウクライナ反攻は「失敗」 プーチン大統領 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

おいおいプーチンさん、いやしくも一国の元首がおおっぴらに西側兵器を分解してパクってやるなんて言っちゃだめでしょうが。
そりゃあ、どちらもネンネじゃないんだからやっているに決まっています。
英国は鹵獲したロシア軍兵器を徹底して調べ上げていることを認めています。
装甲の厚さ、動力系、照準系、砲の性能などなど丸裸にされているはずです。

「スカイニュースの報道によれば英国国防参謀長である海軍のトニー・ラダギン提督はウクライナで鹵獲または回収したロシア軍の装備を分解し、将来の攻撃に対する防御方法を詳しく調べていることを認めた。「我々はNATOの一員であるため、将来、我々にとって大きな脅威となる可能性のあるロシアの装備を入手した際に、その知識を共有することが非常に重要だ」と述べた。
提督は装甲車を例に挙げ、「我が国の科学者は法医学レベルでロシアの装甲車両を解体分析している。ロシアの装甲車両がどのように機能するのか、どうやれば倒せるのか、装甲の強化はどうなのか、どうやって通信を妨害するのか、 どうやって彼らの防御を突破するのか。分析はこういったことに役立つ」とも述べた。NATOの仮想敵国はロシアであり、これらの分析したデータは同盟国間に共有される」
(ミリレポ7月20日)
ウクライナは戦闘実験室!英国、鹵獲したロシア製兵器の分析を認める│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

西側はロシア製兵器が使われた戦争があるたびに鹵獲品を手に入れて、部品の隅々まで徹底的に調べ上げていますが、それって常識でしょう。
米国はそのための研究センターすら持っていて、膨大な数の鹵獲兵器を有しています。
たとえば、戦争初期の去年3月にはこともあろうに「クラスハ4」電子戦指揮司令部を丸ごと進呈してしまっていますし、同じく9月にはロシアの最新鋭戦車T-90Mを無傷で進呈してしまっています。
戦車はともかく電子戦司令部は痛かったはずで、このあと大きな電子戦の変更を迫られたはずです。

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(21) ウクライナ軍に鹵獲されたロシア軍の最新鋭戦車T-90M、損失は3両目 - YouTube

西側兵器もレオパルト2A6戦車とM2ブラッドレーが損傷した状態で鹵獲したとロシアは発表しています。
鹵獲された戦車「レオパルト2」 ロシアにどのように調べられるのか - 2023年6月17日, Sputnik 日本 (sputniknews.jp)

ロシアは懸賞金まで出していましたから、いかに西側兵器に恐怖していたかわかろうというもんです。
まぁ、あたりまえです。兵器というのは使ってナンボ、使い倒して意味があるので、お大事と大事で前線に出さなければないのと同じです。
ロシアはいまだ最新鋭の「アルマータ」を出していませが、たぶん現場では未完成すぎて使い物にならんからだろうと見られ始めています。
T-90の方は出すやいなや鹵獲されてしまいました。しかも無傷ですから痛い。

ロシアは鹵獲したレオパルトやブラッドレーを徹底的に調べているんでしょうが、学ぶんだったら人命尊重思想が徹底しているのが西側兵器だということを勉強しなさいな。
西側戦車は、ロシア軍の(ウクライナ軍も同じですが)T-72のように「びっくり箱」爆発しません。
ビックリ箱爆発とは、砲塔全体が吹き飛んでしまうような爆発のことですが、戦車は完全に破壊され、戦車兵の命は失われます。これがロシア軍戦車には実に多い。
逆に言えば、同じT-72を使っているウクライナ軍にも多かったわけです。

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まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは(2/3) - CNN.co.jp

これは砲塔の乗務員室の下に弾薬庫がある構造のためで、BMD歩兵戦闘車などの装甲車両も同じです。

「ドラモンド氏によると、弾薬の爆発はロシアが現在ウクライナで使用するほぼすべての装甲車両で問題を引き起こしている。特に搭乗員3人に加えて兵士5人を輸送する歩兵戦闘車「BМD4」は、同氏に言わせると「動く棺桶」であり、ロケット弾が命中すれば「全滅する」。
こうした欠陥について、西側の軍隊は1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争を通じて察知していた。当時イラク軍が配備したロシア製の「T72」戦車の多くは前述のような末路をたどった。対戦車ミサイルが命中すると、砲塔は車体から吹き飛んだ。
ロシアがT72の後継型として1992年に投入した「T90」は、装甲こそアップグレードされたものの、砲弾の装填システムは従来型を踏襲したため、弱点はそのまま残ったという」
(CNN2022年4月29日)

ロシア兵の士気が低いのも、いままで無敵だと思っていた戦車が次々と破壊され、戦車兵が大量に戦死したからです。
このようなロシア軍の非人道的な設計思想を目の前で見せられれば、士気が上がるわけはありません。
ウクライナ軍が西側戦車を切望するのも、同じ理由です。

一方、レオパルト2がロシア軍に破壊された動画では戦車は誘爆は起こさずに停車しており、その間戦車兵が脱出している様子が写っています。
ブラッドレーも兵士を載せていたようですが、全員退避しています。

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ロシア軍、独製主力戦車「レオパルト」など破壊と発表 | ロイター (reuters.com)

これは西側の人命尊重思想で戦車が作られているからです。
弾は防護壁で仕切られた砲塔後方に納められており、一発ずつ取り出して砲に装填しています。
その砲弾も燃えても爆発しません。

「米国および一部の同盟国の軍隊が使用する戦車「М1エイブラムス」はより大型で、カルーセル式の装塡を採用していない。4人目の搭乗員が壁で隔てられた弾薬庫から砲弾を取り出し、主砲へ装填する。弾薬庫にはドアが設置され、搭乗員はそのドアを開閉しながら個々の砲弾を発射していく。つまりたとえ戦車が被弾しても、砲塔内でむき出しになっている砲弾は1発のみとなる公算が大きい。
「敵弾が正確に命中すれば戦車は損傷するが、必然的に搭乗員まで死亡するわけではない」(ベンデット氏)
また打ち込まれるミサイルから生じる高温で砲弾が燃えることはあっても、爆発はしないという」
(CNN 前掲)

そしてこのレオパルトは戦車回収車がレッカーして後方の修理工場に持って行きました。
戦車回収車もウクライナにセットて供与されています。
乗員は保護し、損傷した戦車は回収という設計哲学を前提で考えられているからです。

一方、ロシアはソ連時代からの伝統で、大量にそこそこの性能の兵器と全滅覚悟の兵士でスチームローラーのようにひた押ししてきます。
こういう戦法を取るから、西側兵器の前に膨大な物的人的損害を出します。
こんな戦法をとらされたのが、バフムトにおけるワグネルの囚人部隊で、小銃一丁で支援砲撃もまばらな中に突撃を繰り返し数万と言われる死傷者の山を出したそうです。
これがプリゴジンの怒りに火を着けて乱に及ぶわけです。

ところで、西側の兵器群はすでに使用され始めていますし、当然戦争なのですから損失が生じています。

レオパルトは雨のような敵砲弾を跳ね返す不死身の戦車だと思っていたのでしょうか、残念ながらそんな兵器は世界に実在しません。
前述したように破壊されにくい戦車や、仮に破壊されても乗員を保護できる戦車はありますが、対戦車地雷を踏めば壊れますし、砲塔直上から対戦車ミサイルを食えばアウトです。
車体底部や砲塔の上まで万全に装甲しようとすると、今度は重くなりすぎて機動性がなくなるからです。
だからやられる時にはやられます。そんなわかりきったことでワーワー言わないでください。

ウクライナ軍総司令官ザルジニーはこう言っています。

「レオパルト戦車はパレードで走ったり、政治家や有名人に写真を撮らせるためにきたのではない。彼らは戦争のためにここに来たのだ」
ウクライナの最高将軍、ヴァレリー・ザルジニーは、砲弾、飛行機、そして忍耐を望んでいます-ワシントンポスト (washingtonpost.com)

戦争ですから、必ず一定の鹵獲は生みます。
ロシアは調べあげて絶望するだけのことです。
ロシアにパクれる技術水準が備わっていないからです。
大戦末期、日本は米軍の近接信管やターボチャージャーを鹵獲しても、コピーできませんでした。
工業技術の基盤が違いすぎたからです。

たとえばレオパルト2A6のような第4世代戦車は高度なネットワーク機能を持って友軍部隊と連携しますが、歩兵の部隊間交信さえスマホを使っていたようなロシア軍にマネできますか。
あるいは、レオパルトは地雷防護や路傍爆弾(IED)の強靱な備えがありますので、仮に地雷で擱坐することはあっても乗員は無事です。
これがロシア系戦車ならばどうなるかわかって、改めて絶望するでしょう。

そして旧ソ連系戦車を使っていた東欧諸国からロシア系戦車は一掃されて、二度とロシア系戦車が主力戦車に返り咲くことはないはずです。
そして中東アフリカにまでそれは広く及ぶでしょう。
ウクライナ戦後(いつのことかわかりませんが)ロシア製兵器を買う国は、よほどカネがない国か怪しげな私兵集団しかなくなるでしょうね。
いいんですか、武器か原油、小麦くらいしか売るものがない国が。

プーチンがああ言っているのは、レオパルトを供与した国を脅かしているのです。
レオパルトなんてチョロイもんだから、いくらそんなモンを供与しても無駄だ、待ってろウクライナが片づいたらお前らの番だからな、といいたいのです。
ここでワーワー騒ぐのはロシアンフレンドだけ。
彼らのプロパガンダに負けちゃダメです。

反攻初期において苦戦を強いられたことについては次回に回します。

 

 

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「俳句は感情をまひさせる手段」 戦場の現実詠む防人、ウクライナ軍大尉の三行詩:中日新聞Web (chunichi.co.jp)
ウクライナに平和と独立を

 

2023年7月30日 (日)

日曜写真館 どうやらあるけて見あげる雲が初夏

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初夏の椋鳥高鳴くは何の木ぞ 飯田龍太

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酔うて候 鋲のごとくに星座は初夏 楠本憲吉

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記憶も初夏どぶ泥なする道のはた 金子兜太

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夏初めわが山鳥は生きられぬ 佐藤鬼房

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わが初夏や吾子抱く妻の肩を抱く 渡邊白泉

 

※初夏としたので、かんかん照りで、しかも季句じゃないぞとお叱りを受けました。
すいません。写真に合わせました。ご勘弁を。

 

2023年7月29日 (土)

日本人には、ヨーロッパのような移民受け入れは出来ない

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岸田氏が言ったのは極端なカタールなど湾岸国を例示して、そさを枕にだから大丈夫、「日本らしい共生」というレトリックです。
しかもテキストから削除し、動画を見ないと言ったことすらわからなくしました。
この台詞が一人歩きしたら政権に打撃になるからでしょが、姑息な。
比較対象を誤って立論すれば、本論も狂うのは当然です。
日本人はヨーロッパ人にはなれないし、まして砂漠の王族のようにはなれないのです。

結局、いま激増している不法滞在者を解決できないうちに、移民対象を家族帯同にまで拡げ、永住権を与えてしまえば「日本らしい共生」もナニもありません。ただの移民と一緒です。
中身も、外国人人材派遣業者が言うように、待遇改善、就労前の語学教育、スキルの向上支援、就労後の評価制度の明確化ていどのことで、んなことは先進国ならどの国もすでにやり尽くしています。

たとえばフランスは「社会統合政策」と銘打ってこのような取り組みをしています。

「社会統合政策の内容は多岐にわたり、フランス語教育を含む職業訓練、住宅状況の改善、社会的文化的適応のための援助活動等であるが、サルコジ氏が推進している社会統合政策の象徴的なものは、移民に「受入れ・統合契約(CAI)」を義務化し、契約内容としてフランス語習得、フランスの社会文化の共通原則の理解、そのための市民教育講座への出席を義務化する一方で、就職、教育等に対する支援を行うというものである」
(平出重保『フランスの移民政策の現状と課題』)
Taro-20090601003.jtd (sangiin.go.jp) 

フランス文化を学ばせることを義務化までしていますが、いったん移民したらたぶんそんなものには出ません。
ましてや2世3世になれば推して知るべしです。

そして不満を募らせた「郊外」の3世4世の若者らが、まるで祭のような暴動を頻繁に起こしています。

ではひるがえって、日本は移民受け入れに際して、日本文化を学ばせることができますか?
あるいは、日本国への忠誠を誓わせることができますか?
仮に不幸にも出身国と戦争になった場合、日本人として戦うことを誓わせられますか?

たぶん無理でしょう。

逆にむしろ日本国民に向かって、外国語を学べ、イスラムの習俗を学んで許容しろ、差別をするな、ヘイト禁止、公教育は多言語でやれ、というふうになるでしょうね。
そしていとも安易に参政権を与えてしまう自治体が出現し、それをメディアがはやし立てる。
そんな移民に免疫がないゆるい国がうちの国です。
岸田氏が政治家ならば、「日本らしい共生社会」などというお菓子のようなことを言っていないで、自国民を移民からどう守のか、どのように日本社会に同化させていくのかを考えるべきです。

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多文化共生とはなんだろうか? – SKYグローバルリンク|三重県四日市市【公式サイト】 (sky-gl.com)

どころが岸田氏のようなリベラル脳の持ち主は極端な性善説ですから、麗しく共存していくと思っていらっしゃる。
ヨーロッパのナニを見てそう思えるのか、不思議な人たちです。
奴隷に依存する国家であるカタールに行って、9割外人でも国が回るんだと妙な感心した人ならば当然かもしれません。

ただし、一定の移民は不可避の必要悪としているでしょう。
それは私は農業研修生制度が完全に定着しているのを見てきました。
このような仕組みは他の分野でも多く見られ、この方法ならいつでも制限をかけたり、退去させることが可能です。
家族をもたないためにコロニーが作りにくくなります。

矛盾は多々ありますが、特に賃金が安い問題も大幅に改善されました。
長年に渡って運用してきているために改善点もあぶりだされて、よりよい形になってきています。

それをなぜ今になって家族帯同可という本格的移民に道を開くのでしょうか。

それはおそらく財界がより安く働く労働力を大量に欲しているからです。
長年に渡って財界は移民の解禁を政府に強く働きかけていて、まるで悲願のようです。
それは20年間も続いたデフレで、財界は自国の勤労者の賃金を上げる方向で解決せずに、移民で代替するという安易な道をあたりまえだと勘違いしました。

本来なら、労働条件の改善と無人化などで乗り切るべきだったのです。
しかし深くデフレ脳に犯されていた財界は、もっとも安易な外国人移民に解決を求めました。

今頃になって人手不足でオタオタしている始末です。
この醜態を朝日新聞などリベラル勢力は「開かれた多元社会」「多文化共生社会」というキラキラネームをつけて、まるでヒューマニズムの運動であるかのように囃し立てました。
オーストラリアに住む雁屋某のように「多元文化社会」を新たな人類史の発展だくらいに説く者も現れました。
馬鹿だね。移民国家のオージーと一緒にするんじゃないよ。

もちろん、移民の本音はセコイ財界の欲求にすぎません。
どういうわけか、それをヒューマンでカッコイイことと勘違いしたのが岸田氏のようです。困った人だ。
なぜ彼には、移民が国柄にとって本質的変更をもたらすことがわからないのでしょうか。

この人たちは、まるで移民受け入れを発展途上国の支援くらいに勘違いしています。
豊かな日本は、西アジアや東南アジアの人々に門戸を開いて失業で苦しんでいる人々を雇用で救済せねばならない。
これは発展途上国に恩恵を与える行為なのだ。
そして受け入れることで、閉鎖的島国根性がはびこる日本社会も、ヨーロッパ並に開かれた多元文化社会となるであろう、チャンチャン♪

「新しい資本主義」という社会民主主義的な言い方といい、岸田氏はこういう歯が浮くリベラルみたい言い方が文化的だと思っているようです。
彼が米国に生まれていたら民主党の左派になったでしょうね。
だから就任1年間はヒダリ側の人たちは妙な仲間意識めいた視線で岸田氏を見ていたようですが、安倍氏の政策の延長であるクアッド、防衛予算2%から疑問を感じ始め、いまや異次元の増税で完全に裏切られたと思い始めました。

これなら、かつての移民受け入れ期のフランスのように、うちの国は露骨に人が足りない、ヒューマニズムなんかお呼びじゃない、安い外国人労働者が欲しいんだ、と言ったほうがいっそ清々しい気さえします。

「第一次世界大戦以降、人口が急激に減少したフランスは、積極的に移民の受入れを行ってきた。特に、第二次世界大戦後、いわゆる「栄光の 30 年」(1945 年から 75 年までの間はフランス経済史上最大の経済成長期)には、安価で大量の労働力が必要となり、炭坑や自動車工業の労働者としてスペイン、ポルトガル、マグレブ等から大量の外国人労働者の受入れを行った。当時の移民として受け入れた外国人労働者の多くは、家族を連れず、男性1人で入国してくるのが普通であった」
(平出前掲)

たしかに移民導入は、フランスにとって一時は経済のカンフル剤となりました。
ただし巨大な副作用が後に到来し、それは70年間つづくフランスの不治の病と化してしまいましたが。

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フランスの暴動がさらに深刻化:移民たちの不満は国家を破壊するのか | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

とまれ安い労働力を確保したフランスは国際競争力で優位となり、戦後の繁栄期を迎えることになります。
ただし、他のヨーロッパ諸国は右へ倣えで、大量移民に踏み切りましたからそうそう続きませんでした。

いろいろな移民トラブルが続出しましたが、本質的な変化は受け入れたフランス人の側に起きました。
先進国がいったん外国人を受け入れると、逆に外国人労働力に強く依存する構造が生まれてしまうのです。
まずは製造業やサービス産業、農業から始まり、やがてその依存構造は社会全般に及びます。
すると外国人労働者がいないと、社会システムが動かない、都市が機能しないという状況が発生します。
フランスに住んでいた饗庭孝男氏は、いまから36年も前にパリ滞在のエッセイにこう書いていました。

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パリ エスニックタウン・マップ|世界のエスニックタウン|e-food.jp

「私の住んでいる5区は、12区や14区、18区、20区、あるいは郊外ち較べると、比較的少ないとはいえ、外国人労働者もあるていど住んでいる。彼らはパリの人口の14%の比率である。ちなみにパリ以外は7%である。
黒人やアルジェリア人、モロッコ、,チュニジア、中近東の人たちは、メトロや清掃の従業員、小売店、それに区役所の下級官吏に多く、ポルトガル、スペイン、イタリア、ポーランドの人たちは、ホテルのボーイ、夜勤、門番、タクシーの運転手、床屋に多い。(略)
だからパリの階級構造は、下から言えば底辺を中近東、黒人、アルジェリア人、モロッコ、チュニジア人らか支え、第2の階層はポルトガル、スペイン、イタリア人たちがいて、その上部構造がフランス人ということになる」
(饗庭孝男『パリの一隅から』1987年11月)

このようにフランスでは、人種・宗教・出身地によって固まって住んでコロニーを作り上げ、まるでパイ皮のような階層社会を作り上げています。
それでもあいかわらずフランスは、魅力的で文化的であれるのです。少なくとも表向きは。
それを可能としているのはフランス人に「礼儀正しい冷淡さ」があるからです。
階級や階層によって「自然に差別」できる階級社会の伝統が背後にあるからです。

では日本人に同じマネができるでしょうか。
受け入れた、タイ人、ベトナム人、バングラディシュ人、中国人、韓国人、パキスタン人らが居住区をわけて、上層中層下層に分かれて暮らし、日本人のみが社会の上に「上級国民」として君臨することができるでしょうか。
ヨーロッパ人のように、このような所与の人種、階層を前提にして、眉ひとつ動かさず「自然に差別」して生きていける人だけが、外国人移民を賛成と言える資格があります。

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都道府県別外国人研修生・技能実習生数

私は農業研修生という名の外国人労働者が多い地域に住んでいます。
現行の研修生というがんじがらめの制度でも多くのフリクションをうみました。
確実に治安の乱れが各所で起きました。
彼らは家族を帯同できないから、この程度で済んでいるというのが現実です。
そして彼らなくしては生産続行か難しくなるような体質に日本農業は内側から急速に変わっていきました。
「特定2号」で大規模に移民を導入すればどうなるか・・・、ほぼみえてきます。
一部の人たちのようにゼノフォビアで移民問題を語ってはなりません。
むしろ移民で日本人がどのように変わってしまうのか見据えて議論すべきでしょう。

 

 

2023年7月28日 (金)

離島シェルター実現へ一歩

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遅まきながらですが、松野官房長官が八重山を訪れ、やっと離島のシェルターが現実化のプロセスに向かっています。

「台湾に近い八重山諸島では、台湾有事が勃発した場合、中国の標的になるのではという懸念が高まっている。松野博一官房長官は就任後初めて八重山を訪問し、石垣市、竹富町、与那国町の3市町長から、有事の際、住民の避難施設となるシェルター整備の要請を受けた。
 官房長官自ら現地を訪れ、首長から意見を聞くのは、政府が有事の可能性を真剣に考慮し、離島の国民保護に本腰を入れ始めた表れだと受け止めたい。国、県、市町村は今後、有事を見据えた対応の検討を加速させなくてはならない」
(八重山日報7月26日)
【視点】離島の国民保護 検討加速を | (yaeyama-nippo.co.jp)

何度か書いてきていますが、台湾有事において八重山・宮古・与那国は必ず巻き込まれます。
台湾東側を攻撃する中国軍機は台湾軍機と空戦した場合、わずか数分で日本領空に達します。
あるいは、中国軍は台湾周辺水域と空域を封鎖するでしょうが、東岸の封鎖海域・空域の間に与那国島がかかっています。
これは2022年8月に、中国軍の「重要軍事演習行動」を でとった布陣をみればわかります。

これは台湾侵攻の際に取るであろう中国の会場・空域封鎖を示唆しています。

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中国、台湾包囲し軍事演習 弾道ミサイル11発、5発は日本のEEZ内に|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

与那国と波照間が、中国軍の包囲ラインの真上にかかっているのがわかるはずです。
現実に2022年8月4日、この「重要軍事演習行動」の一環として弾道ミサイル11発を発射し、そのうち半分ちかい5発が波照間付近のEEZに着弾しています。

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西日本新聞

これは偶然ではありません。露骨な警告です。
台湾有事には必ず宮古・八重山、与那国を狙うという意思表示の表明です。
その場合、これらの島々の住民は、まず弾道ミサイルの乱射に見舞われ、その後着上陸してくる中国軍は自衛隊を掃討した後、軍政を敷いて住民と観光客を人質とするでしょう。

「事態がそこまで切迫している以上、日本政府や八重山の自治体が、国民保護のために何もしないことは有り得ない。
 有事の際、八重山の住民は島外避難が基本になるが、観光客も含め数万人が即時に避難できるわけではない。島のインフラや秩序維持のため当面、職務として島に留まる人や、避難せず島に残る選択をする人が出ることも予想される。
 八重山では現在、そうした人たちを収容できるシェルターが事実上存在しない。このため竹富町は新築する西表島の大原庁舎、与那国町も新築する町役場の地下に、シェルターを整備する計画を立てている。
宮古島市も市総合体育館新築の際、地下にシェルターを整備する方針のようだ」
(八重山日報前掲)

まず危険な兆候が見えた段階で住民非難を始めねばなりません。

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沖タイ

「有事における住民避難に関し、沖縄県は16日、民間の航空機や船舶の輸送力を全て確保した場合、宮古、八重山の先島地方から県外へ移動できる1日当たりの人数は最大約2万500人、平時の約9300人の倍以上になるとの試算を初めて示した。避難先は鹿児島県や福岡県など九州7県を想定している」
(沖タイ2022年12月17日)
有事の住民避難、1日最大2万500人 宮古・八重山から九州へ 沖縄県が初の試算 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

これにかかる日数は約10日です。

「県は宮古、八重山を合わせた先島地方の全住民(11万2548人)を九州に避難させるまでに1日当たり約2万5千人の輸送で9~10日かかるとも試算する。
16日の総務企画委員会で県の担当者は「石垣、宮古では9~10日かかる。民間の航空機、船舶を利用する形になるが、どう最大化するかも意見交換会で実施している」と説明した」
(八重山毎日2022年12月22日)
1日1万人、完了に10日 八重山住民避難で県試算 | 八重山毎日新聞社 (y-mainichi.co.jp)

宮古・八重山、与那国の3市町は、住民の島外避難のために港湾や空港の拡張整備も国に要請しています。
これは平時においては観光インフラの拡充であり、台湾有事においては住民避難のためのインフラとなるでしょう。
また、今回のシェルターは最後まで島に残らねばならない自治体職員用ですが、島民も利用できるものを各所に設けるべきです。

 

2023年7月27日 (木)

カタールをまねすべきではない

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もう少し外国人労働者について続けます。
この岸田氏のカタール発言ですが、ふゆみさんからテキストにはないというご指摘がありましたが、動画でしゃべっている中にあります。
動画の1分20秒あたりからしっかり言っているので、どうぞご覧になって確認ください。

さて少子化になっているのはヨーロッパも一緒ですが、原因は外国人労働者を無原則に導入したからです。

「日本の少子化のロジックは簡単である。若者は、「自分たちの親より生活水準が落ちるリスクがあるような結婚、出産はしようとしない」ということである。そして1990年ごろから、親世代の生活水準が高まると同時に、若者がその親より生活水準が落ちるリスクが高まり続けている。いまでは、自分たちが享受している中流生活から転落する(生活が貧しいなかで子どもを育てる)リスクを回避するために、結婚や出産を控える。いや、結婚だけではない。ある女子学生は母親から、結婚すると苦労するから「奨学金を借りている人とはつきあってはいけません」といわれたそうである。現在、大学生の約半数は、奨学金を借りているのだ。奨学金の返済負担の重さが、恋愛関係で絶食化が起きる背景要因の一つだと考えている」
(山田昌弘Voice』2020年12月号)

欧米モデルの少子化対策から脱却せよ | 政策シンクタンクPHP総研

まだ本格的に外国人労働者を入れていない現在ですらそうなのに、令和臨調とやらで岸田政権は「共生社会の実現に向けた語学教育や相談体制の強化」のロードマップを作ろうとしています。
これは具体的にはこういうことです。

「国内外で外国人労働者の派遣事業を展開しているnmsホールディングスの小野文明社長は「労働市場として日本の魅力は低下してきている」と指摘し、「待遇改善はもとより、就労前の語学教育、スキルの向上支援、就労後の評価制度の明確化などより総合的な態勢整備に取り組むべきだ」との考えを示した。
「他の先進国と同様、日本には各種の就労ビザが設定されているが、長期就労が限定的で家族を呼び寄せて定住するような働き方は難しいのが実情だ。なかでも技能実習制度は、国際貢献を目的に途上国などから外国人を受け入れ、日本で技能を習得してもらうのが建前だが、就労期間は1年から最長でも5年と短く、賃金も低いうえ基本的に転職もできないなど、働き手に不利な要素が多かった。また、途上国側の募集組織が就労希望者から多額の保証金を徴収するといった実態も見受けられ、普通に働いていたら返済不可能な債務を背負った状態で渡航してくる例もあった。これでは不法就労のタネを蒔いているだけだ」
(産経7月24日)
待遇改善が急務、外国人労働者の積極活用[Sponsored] - 産経ニュース (sankei.com)

ここで海外派遣業者の小野氏は、日本が労働市場として魅力がなくなってきている理由は
①就労期間が短く、家族を呼べない。
②出す側の国の募集組織のピンはね。
③多額の保証金が債務となっている。

円安もあっていっそう日本市場に魅力がなくなって来ているようでまことに慶祝の至りですが、②、③については日本側がどうこうできることではなく、悪質な相手国募集組織側の問題ですが、問題は①の就労期間が短く、家族を呼べないという問題です。
この「家族」がキイワードです。
移民は、いかなる手段で入国しようと、必ず恋愛をして家族を作ろうとします。
これは人間の自然な情なので、人道的には誰もそれを止められませんが、ここから定住化が始まるのだと思って下さい。
定住化とは、外国人労働者が同族、同宗教で集まって閉鎖的エスニックコロニーを作ることです。

いま起きている川口市のクルド人問題のようなことが全国化するのは避けられません。

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埼玉県川口市、外国人の迷惑・不法行為是正に自民党動く – with ENERGY(ウィズエネ)

移民労働者が多く住むのは世田谷の高級住宅地に住む上流家庭ではなく、実際に彼らと接するのは工業地帯の庶民階級です。
口先でヒューマニズムを唱えているだけでいい人たちと違って、外国人が多数徒党を組んで徘徊し、夜な夜な乱闘をくりひろげる街になっていくのに怯えるのは庶民階級です。
川口市のクルド人問題を追ってきた石井孝明氏はこう書いています。

「今問題になっているのは、トルコ国籍のクルド人と見られる人たちの住民の生活圏での異様な行動だ。特に、交通ルール違反と危険運転だ。またクルド人は、国際テロ組織のPKKの旗などを市内で掲げ、反トルコの行動をしている。国際的な紛争が埼玉、日本に持ち込まれかねない。
また彼らによる法律に関係しない迷惑行為がある。具体的には騒音、深夜のたむろ、にらみつけ、放尿、女性への声がけやナンパなどのセクシャルハラスメントだ。
ところが、現地では、「差別」という批判を恐れてか、人々が積極的に批判の声を上げず、政治家も行政も動かなかった。また実際に日本国内の一部政治勢力が、問題を解決しようとする人々を攻撃していた」
(石井孝明 2023年6月14日)
埼玉県川口市、外国人の迷惑・不法行為是正に自民党動く – with ENERGY(ウィズエネ) 

派遣業が政府に要求しているのは、就労期間を長くしろ、できるなら家族を呼び寄せて永住させろ、ということです。
実は同じことを政府も考えているようで、「特定2号」がこれに相当します。

「人手不足の分野で外国人労働者を受け入れる在留資格「特定技能」について政府は24日、在留期間の更新に制限がなく、家族も帯同できる「2号」を現行の2分野から11分野に拡大する方針を自民党に示した。与党内の了承を経て、6月の閣議決定を目指す。
1号には飲食料品製造、産業機械など製造、農業、介護などの12分野があり、「相当程度の知識または経験」が求められる。在留期間の上限は5年で、家族は帯同できない。

1号からのステップアップを想定した2号は「熟練した技能」まで必要で、現場統括ができる知識などが要る。在留期間の更新に制限はなく、家族帯同も可能だが、人手不足が特に深刻な建設と造船・舶用工業の2分野に限られていた」
(朝日2023年4月24日)
「特定技能2号」大幅拡大へ 外国人労働者、永住に道 政府方針:朝日新聞デジタル (asahi.com)

この特定2号の枠を大幅に拡大すれば、立派な移民制度が誕生します。

さて、岸田氏は比較対象を間違えています。
日本は作ろうとして出来た国ではありません。
たとえば移民を募って送りこんだ米国やオーストラリアとも違うし、シンガポールや香港のような都市国家とも違います。
ましてや砂漠の王族国家とは真逆の存在です。
いわば自生の国なのです。

岸田氏が「外国人9割、自国民1割」といったカタールやサウジ、UAEともまったく違います。
あれらの国は建国以来、自国民に働かせない、汗水流して働くのは外国人労働者だけと決めているような国です。
財源は砂漠を掘ったら出てくる石油。
そして政体は王族による専制支配です。
わが国と重なる部分は一点もありません。

カタールの人口200万人のうち、カタール人はたった1割の20万人強で、それ以外の9割が出稼ぎ労働者です。
外国人は、ごく一部の特殊技能を持つ知的労働者や外国企業から派遣された駐在員、投資家などに限定され、9割以上が過酷な建築現場で働いている単純労働者です。

カタール人は一切働きません。
働くと罪悪だくらいに思って思っています。

官庁や経営者をしているカタール人の多くは王族とつながりを持っていて、石油の収益で富豪生活を送っています。
ちなみに英国で教育を受けた王族の女性たちは、各国大使館職員や企業の経営陣に参画して(といっも自分の一族がオーナーなのですが)キャリアを積んでおり、おかげで世界女性地位ランキングでは日本よりはるかに上位です。

彼らは超高層のインテリジェントビルで働き、暑さなど知りません。
真夏の盛りにいい歳したオンチャンがドカチンをして、働かないとお天道様に笑われると言われるような国、稼いだカネを女房に恵んでもらって汚い居酒屋で一杯のビールを飲む、それがうちの国です。

一方、カタールには事実上の奴隷階級が存在します。
熱波の建設現場で汗水流すのは全員が外国人の出稼ぎ労働者たちで、人権もクソもありません。
家族も連れていくことはできません。
彼らは街から離れた宿舎に住んで、フランスの「郊外」を形成しています。

固定した住居ではなく、貸し与えられている寮にすぎず、身体を壊したり女性が妊娠したりすると直ちに国外追放です。

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カタールへの外国人労働者が語った ワールドカップ 不都合な現実 | NHK

これらの現代の奴隷階層がいなければ、カタールでは建設プロジェクトはおろかビルひとつ立たなかったでしょう。
カタール人はカネを出すだけで、建築技術もなければ現場管理能力もない、生まれながらの支配するだけの階級です。
カタール人がなにもしないので、モチベーションが低い出稼ぎ労働者を働かせるためには、強権的な手段がもちいられているようです。
奴隷階層の反抗を恐れてか、カタール警察は大変に強力です。
軍隊もピカピカの最新型戦闘機を配備していますが、自分では整備できずに外国人技術者を丸抱えしています。

このようなカタールの実態があからさまになったのが、先日のワールドカップ・カタール大会でした。
首都ドーハ中心部は、植えたばかりの芝生や木々が道路脇を美しく飾り、高層ビル群には有名選手を起用した巨大な看板が並び、大会ムードが高まっていました。
しかしこれらの美観を作るために使った大会総額が30兆円という「史上最も高額なW杯」で、そしていつしか「最も死を招いた大会」と言われるようになりました。
炎天下の過酷な労働に低賃金、そして安全を無視した突貫工事が、多くの外国人労働者の死を招いたのです。

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PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

「ホスト国への選定を受け、カタールは建築ラッシュに沸いた。完成を急ぐ7つのサッカースタジアムをはじめ、ホテルや空港など国内各所の建設現場に多くの移民が動員され、多数が命を落としている。「史上最も死者を出したW杯」といわれるゆえんだ。
ドイツ国営放送のドイチェ・ヴェレは、「人権活動家、政治家、ファン、そしてメディアは、このサッカー大会に関連していると疑われる死亡例が6500件、ひいては1万5000件あると語っている」と報じている。(略)
国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは2021年8月、「(カタール政府の)公式な統計によると、2010年から2019年までのあいだに、1万5021人の非カタール人が同国で死亡している」と指摘している。 」
(青山やまとプレジデント・オンライン)
6500人の移民労働者が死亡した…W杯カタール大会が「史上最も死者を出した大会」と呼ばれている理由 灼熱の炎天下に「時給125円」でスタジアムを建てた | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

こんな国はわが国がまねしていいような国ではありません。

※なぜかコメント欄を締めていました。明けます。すいません。

 

 

 

2023年7月26日 (水)

岸田氏、外国人労働者が少子化対策だって?

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またまた(以下略)岸田氏の支持率が落ちたそうです。やれやれ。
読売は、元来はナベツネと岸田氏が開成の先輩後輩というくだらない理由で、発足当初はヨイショしていましたが、いまやこんな感じです。

「読売新聞社は21~23日、全国世論調査を実施した。岸田内閣の支持率は前回(6月23~25日調査)から6ポイント下落し、2021年10月の内閣発足以降最低の35%となった。不支持率は52%(前回44%)で、22年12月に並び、最高となった。マイナンバーカードを巡る問題が収束していないことなどが要因とみられる」
(読売7月23日)
岸田内閣支持率35%、6ポイント下落し発足以降最低…読売世論調査 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

あいかわらず、マイナカードが原因なんて書いていますが無視します。
一番の問題は、本来ここまで落ちたら起動するはずのテッパン保守層が雲散霧消してしまい、ズブズブの底無し沼にはまってしまったからです。
それは彼の国家観が危うい軟弱地盤の上に立っているからです。

たとえばそれがよくわかるのは、岸田氏の肝入りで作られた令和臨調の中のこの発言です。

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日経

「民間有識者による政策提言組織「令和国民会議(令和臨調)」は22日、都内で発足1周年大会を開いた。出席した岸田文雄首相(自民党総裁)は人口減少を踏まえて「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」と語った。
首相は人口減少へ少子化対策とデジタル化を両輪に対応していくと述べた。そのうえで効果が出るのに時間がかかるため「外国人受け入れの問題も大きな課題」だと指摘した。

政府がまとめた共生社会の実現に向けたロードマップに触れ、語学教育や相談体制の強化などを推進していく考えを示した。「日本の現実にあった共生社会を考える」と強調した」
(日経7月22日)
岸田文雄首相「外国人と共生社会」、人口減にらむ 令和臨調で講演 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

岸田氏は外国人労働者を入れる理由は少子化だと言っています。
その上でこうも言っています。

「基本的には、外国人と共生する社会を考えていかなければならないと思います。共生する社会と言っても、これ、共生の仕方は世界においてさまざまだと思います。つい先日、私は中東の3カ国、サウジアラビアと、アラブ首長国連邦と、カタールの3カ国に行ってきたが、特にアラブ首長国連邦は人口1000万ですが、自分の国の国民は100万しかいないんです、900万人の外国人と共生している国です。そして、カタールも人口300万人ですが、自分の国の国民は30万人しかいないわけです。その残り全体の9割の外国人と共生している、こういった国も世界にはあるわけです」

岸田氏は、日本をカタールのように外国人9割、日本人1割の「外国人と共生する社会」にしようということのようです。
私としては、むしろ舌が滑ったということにしたいくらいの暴投ですが、正気ですか、岸田さん。

人口減少現象は、結婚できない青年層が多くいるから生じます。
あたりまえじゃないですか。
少子化というとすぐに出てくるのが、保育所の少なさとか、働きつつ子育てする難しさのみが論じられてきましたが、ちょっと待って下さいよ。
それは少子化ではなく、子育て問題ですね。
結婚して子供が出来た、婚外子もありえますが、基本は結婚して子供が生まれるのが順番です。

その結婚がしずらい、若者が結婚できないのですから、子供が増える道理がありません。
典型的な例はロスジェネ(ロストジェネレーション)階層です。
就職氷河期において、青年層にはゴソっと就職できない階層が生まれました。
法事で親戚の甥っこたちの会話を聞くともなく聞いていると、オレは20社受けたが内定がとれないんだ、なんて話が飛び交っていた事期です。

「氷河期世代の給与が前後の世代に比べて低い傾向にあることのほか、就業希望の無業者や長期失業者が30万人を超える実態を提示した。氷河期世代の苦境は、超就職難から20年ほどが経過した今も続いており、深刻な世代問題であることが改めて浮き彫りになった。(略)
氷河期世代はバブル経済が崩壊し、景気が極度に落ち込んだ90年代半ばから00年代前半に社会へと出た。企業はこの頃、人件費の削減を目的に新卒採用の枠を絞った。その結果、大卒就職率は50%台まで低下。正社員としての就職は難しくなり、非正規の職に就く人も増えた。
 産業構造の変化も非正規を増やす要因になったとされる。リクルートワークス研究所の豊田義博主幹研究員は「雇用ポートフォリオの7‐8割を非正規が占めるサービス産業が急拡大し、非正規の需要が増えた」と指摘する」
(ニューススイッチ2019年3月15日)
“2040年危機”招く「ロスジェネ」の苦境に救済策はあるか|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 (newswitch.jp)


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日刊工業

ロスジェネが社会に出た90年代末から2000年代にかけての失業率推移を見てみましょう。
90年代半ばから2000年代にかけて、急激に失業率が増加しているのがわかります。
右3分の1の山が高くなっている部分が、1990年代から2000年の時期で、これが就職氷河期と呼ばれた時期でした。

 

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総務省統計局「労働力調査 長期時系列データ」
完全失業者数・率の推移 (ritsumei.ac.jp)

では、どうしてロスジェネが生まれたのでしょうか。理由は簡単。デフレだからです。
この先どこまでもデフレのトンネルは続く、まともな就職もできない、好きなこがいても結婚は無理、相手は待ってくれない、なんて思ったら将来は闇です。
この世代の特徴は優秀でも、異常に非正規労働者が多いことです。

このロスジェネ世代はいま40代から50代半ばに達していますが、生涯結婚未婚率(男性50代)が4人にひとりという高い率に達しています。

「50才時点で結婚歴がない人の割合を指す「生涯未婚率」は上昇を続け、2015年の「国勢調査」では、50才男性の4人に1人(23.37%)、50才女性の7人に1人(14.06%)が未婚、つまり一度も結婚していなかった。1990年の生涯未婚率は男性5.6%、女性4.3%だったことから考えると、25年間で激増している」
マネーポストWEB (moneypost.jp)

この失業者の増加現象の始まりと少子化現象は正の相関関係にあります。
下図は少子化の推移をみたものです。
1990年代末から2000年代にかけて歯止めがかからなくなっています。
とうとう2019年には統計市場最低の出生数90万人割れをきたしました。
これは中核都市が一個が毎年減ることと同じです。

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マネーポストWEB (moneypost.jp)

「出生数から死亡数を差し引いた、日本の全人口の減少数は51万2000人で、これは人口55万人の鳥取県とほぼ同数となる。この事態に東京工業大学准教授で社会学者の西田亮介さんは、インターネット報道(AbemaTV)で「中核市クラスの自治体がまるごと消えてなくなるイメージ。中期にわたる人口減少はほぼ避けられない」と警鐘を鳴らしている。このまま人口の減少が続けば、税収が減り、社会保障制度の崩壊の可能性すら囁かれている」
少子化の背景に「少婚化」問題、結婚で失われる利益は大きく… | マネーポストWEB (moneypost.jp)

これでどうして子供ができるのか、岸田さんにお聞きしたいものです。
これを解決するには、景気をよくして結婚適齢期の青年層の失業率を下げるしか方法はありません。

それをわかっていたのが安倍氏でした。
彼が打ち出したアベノミクスは劇的に失業率を改善しました。

20230725-053903

日刊工業

失業率は重要な経済指標として、米国FRBは取り入れられています。
なぜなら失業率が高止まりしている社会ではさまざまな社会矛盾が吹きだすからです。
移民が多い西欧社会では暴動が起き、日本では少子化が歯止めなく進行しました。
少子化を食い止める根幹は経済の活性化と失業率の改善にあります。

どこぞの知事のように、5万上げるから子供作ってなんて甘言で釣っても、職がなければ結婚もできませんからね。

少子化を言うなら、まずは青年層に活気が戻るように景気をよくすること、失業率をとことん下げて人手不足ぎみにすること。
景気がよくなれば人手不足から賃金が上昇トレンドに乗りますから、ここで国も税負担や社会負担をエッと思うくらい下げて見せたらどうですか。
なんなら結婚、子育て期の年齢層は負担ゼロくらいやってみたらいい。
それを国民負担率がいまや五公五民に達し、もっと取る気だとだなどと政府は言い出すのですから、馬鹿ですか。

そのうえやるに事欠いて、人手不足だから外国人を入れるですって、呆れてモノが言えない。
朝日新聞よろしく「外国人と共生する社会づくり」をして大々的に外国人労働者を受け入れるとは、真逆でしょうが。
少子化対策を言うなら、外国人労働者を制限し、国内の勤労者を保護するのが正道です。

外国人労働者は、日本人労働者の下にもう一層下の階層を作るということを意味します。
彼らはより安い賃金、より厳しい労働条件を承知で入ってきますから、とうぜん日本人勤労者、特に若年層と競合関係になります。

すると、日本人勤労者の賃金はなんやかやと理由をつけて切り下げられていくことになるでしょう。
外国人労働者を受け入れるとは、少子化を加速化する原因になるでしょう。
日本を9割外国人にしようとは、ブラックジョークですか、岸田さん。



 



 

2023年7月25日 (火)

プーチン、主戦派を粛清

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プーチンが今度は極右を拘束し始めました。
バリバリの主戦派であるイーゴリ・ガルキンを逮捕したのです。

「ロシアの複数のメディアは21日、政権を批判してきた強硬派のイーゴリ・ギルキン氏が首都モスクワで拘束されたと伝えました。国営のロシア通信によりますと、ギルキン氏はインターネット上で過激な活動を呼びかけた疑いがもたれ、最長で5年の禁錮刑を科される可能性があるということです。
ギルキン氏は9年前、ウクライナ東部で親ロシア派の武装勢力の軍事部門を率いていました。そして2014年7月、オランダ発のマレーシア航空機が撃墜され乗客乗員298人が死亡した事件に関与したとして去年、オランダの裁判所から終身刑の判決を言い渡されています。
ギルキン氏は、ロシアによる軍事侵攻を支持する一方で、進め方が効果的でないとしてプーチン政権やロシア国防省などを批判してきました」
(NHK7月22日)
プーチン政権批判の強硬派ギルキン氏拘束 “最長で禁錮5年も” | NHK | プーチン大統領

この男もプルゴジンと一緒の裏街道男です。
元KGB将校にして、ウクライナ人でもないのに「ドネツク人民共和国」の国防相。
そして「国防相」時代には、ドネツクの上を通りかかったマレーシア航空MH17便を撃墜したのもこの男。
いまはオランダの裁判所から終身刑を言い渡されて、ヨーロッパに行くと即刑務所行きとなるお尋ね者。

このマレーシア航空17便撃墜事件とは、2014年7月17日に、マレーシア航空機がウクライナの東部ドネツク上空を飛行中に撃墜された事件です。
乗客283人と乗組員15人の全員が死亡しましたが、この犯人はすぐに堂々と「戦果」として名乗り出ています。
それがこのイーゴリ・ギルキンです。

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ロシアでギルキン氏拘束 ウクライナ情報機関がコメント (ukrinform.jp)

ギルキンは、落としたのは民間航空機ではなく、ウクライナ軍のAn-26だと主張したようですが、すぐに残骸から民間航空機だと判明しました。
彼らが撃墜された残骸から乗客の貴金属を略奪したこともわかっています。
バレるやいなや、ギルキンは、いやオレはまったく関与していないからと主張を翻しました。
なんと腐敗した遺体を自動操縦で飛ばして落とした西側のインボーなんだそうです(笑)。

「航空機には腐敗した遺体が予め載せられ、自動操縦で飛行していた。そのため生きている人々は航空機に乗っていなかった」
Putin's Media Lives in an Alternate Reality | Opinion”. The Moscow Times. 2014年8月1日

臆面もない陰謀論ですが、これがロシア政府の国営放送から流れた公式見解なのですから二度ビックリです。
犠牲者の多くがオランダ人であることから、オランダ司法当局と国際調査チームが発足し、2019年6月19日、オランダ検察庁は航空機の撃墜に関連してギルキンらロシア人工作員ら4人を殺人罪としてし終身刑を宣告しました。
もちろん殊勝に出頭するようなタマではないので、被告人なし裁判ですが。
この者たちは、ウクライナ東部の工作に当たっていたロシア情報機関ばかりでした。
マレーシア航空17便撃墜事件 - Wikipedia

ギルキンらは、ロシアの暗部をもっともよく知る男で、プリゴジンがロシアのアフリカ・中東政策の暗部を熟知しているのに対して、この男はクリミアと東部ドネツクの工作を知り尽くしています。
ただしプリゴジンは、経済活動に片足を置いた傭兵業者でしたが、ギルキンは同じ裏街道ながらもロシア軍連邦軍参謀本部情報総局(GRU)大佐でした。
退役した後は、FSBともつながって、ウクライナ各地で破壊・宣撫工作をしていました。

ギルキンは2014年の東部ドネツク州の併合工作の主要な責任者のひとりで、ロシアの傀儡国家の「ドネツク人民共和国」の自称「国防相」でした。

「2014年4月26日・27日の週末、分離主義者でドネツク人民共和国(DPR)の政治指導者アレクサンドル・ボロダイ(モスクワ出身のロシア人、ギルキンの長年の友人)は[28] 、ドネツク全域の全ての分離主義勢力戦闘員の統制権をギルキンに譲渡した。(略)
ドネツク人民共和国の全ての軍隊、治安部隊、警察、税関、国境警備隊、検察官およびその他の準軍組織の最高指揮官である」
イーゴリ・ギルキン - Wikipedia

このド人共和国は、建前ではウクライナのネオナチからの防衛のためのロシア語系住民の分離独立運動でしたが、もちろん嘘八百で、実体はロシアから資金、武器、人員まで丸ごと面倒を見てもらう傀儡運動でした。
そしてドネツクにロシアから送られてきたのがこのギルキンでした。
ギルキンがやったことは、ドネツク州内部で親露派を指揮し、併合反対派を沈黙させることでした。

ギルキン自身もインタビューでこう述べています。

「ロシアのメディアが描いたクリミアのロシアとの併合に関する圧倒的な国民の支持は作り話であり、実際は代議士に対してロシアと併合するために投票するよう強制しなければならなかったと語った。ギルキンの指揮下で、投票させるために反乱軍は代議士を会議所に集めている。法執行機関、統治機構および軍隊の大多数は「ロシアの自衛」を支持していなかった。それでも併合に投票されたのはクリミア内にロシア正規軍が存在したからであり、ロシア正規軍が全てを機能させた」
I. Strelkov vs N. Starikov debate”. Neuromir TV  2015年1月22日

つまり2014年前後の時期からロシア正規軍がクリミアや東部に浸透しており、ロシア情報機関がその指揮をとっていたわけです。
その責任者の地位にいたのがこのイーゴリ・ギルキンでした。

ギルキンはウクライナ戦争が敗色濃厚になるや、テレグラムにプーチン批判を繰り返すようになりました。
これは昨年から執拗に続けられていました。

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CNN  イーゴリ・ギルキン

「(CNN) ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する自称「ドネツク人民共和国(DPR)」の親ロ派、イゴール・ガーキン氏はSNSのテレグラムで、ロシア軍司令部の「プロ意識の低さ」を痛烈に批判した。
ガーキン氏はウクライナ軍が同州東部リマンのロシア軍を実質的に包囲したことに触れ、「我が軍の士気に大きな打撃となる一方、ウクライナ軍にとっては大きな士気向上につながる」可能性があると指摘した。ガーキン氏は2014年の紛争時にDPRの「国防相」だった人物で、現在は親ロ派の宣伝要員や軍事アナリストを務める。
ガーキン氏は、ウクライナ軍の兵力はロシアや親ロ派の部隊の3~4倍に上ると指摘。火力や航空戦力ではロシアが優勢だが、樹木に覆われた険しい地形では役に立たないとの認識を示した。
さらに「なぜ『回廊』の維持や撤退支援に必要な部隊を投入して、前もってリマンからの撤退を確保しなかったのか、私には答えが見当たらない」と指摘。もしロシア軍がリマンから撤退できなければ、「比較的小さな戦術的敗北」にとどまらず、ウクライナ軍の「大きな士気向上」につながりかねないと述べた」
(CNN2022年10月1日)
ウクライナ軍、東部リマンを包囲 親ロ派がロシア軍司令部を批判 - CNN.co.jp

結局、ハルキウ州に続いてこのリマンも陥落しました。
4州併合を宣言してすぐのことです。

また「プリゴジンの乱」翌日の6月25日には、プリゴジンを批判しつつこう言っています。

「ウクライナ戦争の戦い方に関して、プーチンをたびたび批判している元ロシア軍司令官のイーゴリ・ギルキンは「クーデターの試みが進行している」と述べている。
「今回の騒動がフェイクでなければ(その可能性は排除できない)、軍事クーデターが始まったと言える」と、ギルキンはテレグラムの投稿で見解を示した。
「国防省とワグネルの対立は、もはやコントロール不能ということになる。大統領が直ちに介入しなくてはならない。大統領がまだ権力を掌握していればの話だが......」(ニューズウィーク6月26日)
「プリゴジンの乱」収束...元ロシア軍司令官イーゴリ・ギルキンの見解は(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

そして返す刀でプーチンに対してこう言っていました。

「もしプーチンが戦争即応体制の創出にリーダーシップを発揮する用意がないのであれば、そうした厳しい仕事を遂行できる誰かに適法な形で権力を譲る必要がある」

さらに7月18日には、プーチン大統領を「取るにに足らない人物、ごろつき、卑劣な凡庸(臆病な凡才)」と呼び捨てています。
ギルキンはいつまで「特殊軍事作戦」なんて生ぬるいことを言っているんだ、戦時国家体制を作り出し、総力戦で戦わねば勝てんゾと言いたいようです。

ギルキンは、ウクライナでの4州併合までの裏工作を取り仕切った人物です。
いまはSNSでガナっているだけに見えますが、ロシア国内の極右グループのリーダーのひとりと目されてきました。
プーチンに余裕があれば、元々は自分の手先だったのですから、あるていど野放しさせてガス抜きを計ったことでしょう。
しかしそんな大人の対応は、今のプーチンには出来ないようです。
プリゴジンやギルキンの批判を許さないほど、今のロシアは追い詰められているともいえるのかもしれません。
ただ「プリゴジンの乱」が市民の大歓迎を受けたように、ギルキンが法廷で言いたい放題をしゃべれば 彼への人気が逆に高まることが容易に予想されます。

プーチンにとって前門のNATO、後門のギルキンということのようです。
ISW(国際戦争研究所)は、クレムリン内の抗争だろうと見ているようです。

「元ロシア将校で熱心な超国家主義者のイゴール・ガーキン(ストレルコフ)の逮捕は、おそらくガーキンが務めていたロシア連邦保安局(FSB)に損害を与えるために、クレムリン派閥間の勢力均衡の変化の公の現れである可能性があります
戦争研究所 (understandingwar.org)

いずれにしても、プリゴジンの乱以降続くクレムリン内部のバランスをめぐる闘争を、求心力を急速に失いつつあるプーチンがうまく乗り切れるか見物です。

 

2023年7月24日 (月)

ボケたか、プーチン

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プーチンはボケ始めているようです 。
認知症の初期症状が出ています。
心ここにあらずか、質の悪い影武者を使っているのか、どちらです。

私は去年亡くなった母で経験しているので実感で分かりますが、プーチンから表情が消え、関係のないことを言う場面をいくたびも目撃されています。
特徴的なのは、かつてこの男を特徴づけていたマッチョな雰囲気が消え失せ、まるで引退した老人のように活気がなく、相手を見ずに「天井をみながらゆっくりつぶふくようにしゃべる」、しかもまったくトンチンカンな会話しかできないこともたびたび出てきました。
そのくせ当人はまったくボケていないないと信じているのですから、まったくタチが悪い。
そのうえ、サンクトペテルブルクの裏町に住むウラジミール爺さんなら無害ですが、戦争を起こしたあげく処置に窮している張本人ですから、困ったもんです。

ニューズウィークはこのように報じています。

「7月19日に行われた市民のビジネスアイデアの開発を支援する非営利団体「ロシアは可能性の国」の会合で撮影された映像だ。(略)
プーチンはシュトックマンの話に感銘を受けたようで、「ただ素晴らしい」と発言。「最終的にあなたは、この探求において最も重要なこと、この国への献身にたどり着いた」「結局は、これは私たちの子供たちとあなたの子供たちの未来のための闘いなのだ」と述べた。
その後、プーチンはシュトックマンの子供たちの年齢を尋ね、シュトックマンは「一番下は9歳」で、「最年長は23歳」だと答えた。ところがプーチンは、その直後に「あなたの一番下の子どもは3歳」と言う。
プーチンの脳内の混乱を示すようなやりとりを収めた動画を見た人々の間では、大統領の精神状態についての憶測が飛び交う事態となった。年齢を間違えるシーン以外にも、全体的に「天井を見上げながら」ゆっくりつぶやくように話すプーチンの様子も「異常だ」とするコメントや、「彼には人の声がまったく聞こえていない」という意見も出ている」
(ニューズウィーク7月23日)
相手の発言中に上の空、話し方も...プーチン大統領、「会談中の異変」を受けて「認知症」説が再燃(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

この自分が置かれている場の認識ができない症状を、「見当識障害」と呼びます。
記憶障害と共に、認知症初期に出てくる症状です。
やがて「理解・判断力障害」へと症状が悪化していくことになります。

「見当識とは、自分が置かれている状況を正しく認識する能力です。認知症になると時間→場所→人の順でわからなくなります。
やがて
理解・判断力障害となっていき、考えるスピードが遅くなり、判断にも支障が出てきます。
一度に処理できる情報量が減るため、複雑なことについて理解したり、記銘したり、反応することが困難になります。複数のことが重なったり些細な変化で混乱しやすくなります」
認知症の症状にはどんなものがある? |朝日生命 (asahi-life.co.jp)

たとえば、今の相手の子供に歳を聞いて答えたが、見当違いの返事をしてしまう、相手を見ずに天井を見てつぶやくに至っては心ここにあらず、というより会話そのものが成立しない見当識障害の症状が出始めているということになります。
こんな例もあったそうです。

「プーチンは今週、イルクーツク州のイーゴリ・コブゼフ知事との会談でも、ウクライナでの兵士の死について「薄い反応」を示したとして物議を醸したばかりだ。コブゼフがウクライナで死亡した同州の兵士について語ったのを受けて、プーチンは「彼らによろしく伝えてくれ」と答えたのだった」
(NW前掲)

相手が戦死した兵士についてしゃべっているのに、「彼らによろしく」はないもんです。
理解・判断力障害が起きていると見られます。

たぶん私の経験から見ると、俗にいう「まだらボケ」です。
頭脳がスポンジ状になってしまい、しっかりしている部分と完全に欠落してしまった部分がまだらになってしまっています。
しかもえてしてその人物のいい部分が脱落し、抑制されてきた悪しき性格が表にでてくることが多いようです。
また感情的になりやすく、すぐに激高するかと思えば、次には無関心な状態に移行します。

ロシア・ウォッチャーである高橋杉雄夫と小泉悠氏はこう首を傾げています。

「高橋 私が最近気になるのが、プーチンのバイタリティが低下したように見える雰囲気です。明確な何かがあるわけではないのですが、なんとなく受け身じゃないですか?
 小泉 すごく分かります。僕が知っているプーチンって、ほとんどヤクザの親分のような人間なんですよ。自分のメンツを潰されるようなことがあれば、「タマとったる!」くらいの勢いで、人前で激しいことを言わないと気が済まない。
 ところが最近は、戦争について具体的なことを何一つ言わなくなりました。発言の場があっても「最後に我々が勝つ」と抽象的な言葉ばかりで、あれはロシア人から見ても、「プーチン老いたな」と思わざるを得ないみたいですね」
《「タマとったる!」から一転》小泉悠・高橋杉雄が感じ取った「プーチンの弱気」(文春オンライン) - Yahoo!ニュース

このプーチンという男は過剰にマッチョを演出する人でした。
下写真はもちろんクソコラですか、自己演出したいイメージはこんなかんじ(笑)。

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jp.quora.com

ついでにこんなのもあります。こちらはホンモノでプーチンカレンダーとして3年ほど前に出ていたものでけっこう売れたそうです。
国家元首が半裸になって、ライフル握っている写真をカレンダーにして毎年国民に配る国など、この国以外に聞いたことありません。
70少し前にしてはいい身体ですが、国民に配るようなモンかね。

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campingcarboy.hatenablog.com

下は直近の6月9日に撮られた写真です。
顔全体のたるみ、目つきにご注目下さい。

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プーチン氏「ウクライナの反攻始まった」…迎撃態勢は万全と強調 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

いきなり老けこんだなという印象で、まさに高橋氏のいう「バイタリティが低下したように見える雰囲気」「なんとなく受け身」という印象そのものです。
けだるそうなやる気のなさ、自分の役割をやっと「演じている」という空気がまとわりついています。

「演じた」といえば、影武者である可能性もあります。
「プリゴジンの乱」直後、国民を慰撫するために精力的に全国を飛び回っていましたが、ことごとくAI顔認識でニセモノ判定されています。
有名な例では、3月23日にマウリポリ視察に行ったプーチンは、現地の市民からもニセモノと言われてしまいました。
あごの形がまるでちがい、しぐさも違うそうです。

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ウクライナ占領地に現れたのはプーチンの“替え玉”?「全部芝居なのよ」削除された女性の怒鳴り声|FNNプライムオンライン

ウクライナ側も先刻承知で、ウクライナの内務大臣顧問のアントン・ヘラシチェンコ氏はこう述べています。

「ロシアのウラジミール・プーチン大統領は少なくとも3人の替え玉を使っている。プラスチック整形でプーチン大統領そっくりに手術されている。この3人についてはたびたび登場するので分かっている。
後何人か替え玉がいるはずだか我々には分かっていない。一つだけ替え玉を知る方法が背丈だ。こればかりはビデオや写真でも違いがわかる。あとは身振り手振りで判断もできる。人の癖はなかなか修正できないものだから」
(FNN前掲)

ウクライナの情報機関である対外情報庁は、ロシア連邦保安局などと元々同じKGBでしたから、旧ソ連圏のやり口を熟知しています。
共産圏のトップは暗殺を恐れて影武者だらけなのは有名な話です。
習近平にもいます。
ですから、ああ、また影武者つかってんな、という認識はすぐに出てくるようです。

というわけで、プーチンは認知症の初期症状が出始めています。
今回のプリゴジンの乱の朝令暮改ぶり、乱が起きたと聞くやサンクトペテルブルクに逃げる弱腰ぶり。
クレムリンがドローン攻撃されても沈黙、ダムが爆破しても沈黙、おいおいです。
長年プーチンを観察してきた高橋杉雄氏の弁。

「プーチンはこれまである種の「ピカロ(悪漢)」として君臨していたわけですが、ここに来て指導者としての陰りを感じます」
(月刊文春前掲)

まぁ、バイデンといい勝負ですが、独裁者が老いる時ほど、国や世界も道連れにしかねないので気をつけねばなりません。
幸い米国には大統領のボケや暴走を止める民主的仕組みがありますが、そのようなものが欠落している専制国家では独裁者の体力・知力の衰えがそのまま反映されます。

 

 

 

2023年7月23日 (日)

日曜写真館 ひらきゆく蓮の吐きたる虚空かな

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かたなりに花吹きこほす蓮哉 正岡子規

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あの世にて逢ふ人あまた蓮ひらく 林翔

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桃色は弁天様のはちすかな 正岡子規 

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いまが死にごろか白蓮花ひらく 桂信子

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一花一仏傾くもあり蓮の花 山口青邨

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わりなしや薄紅させは蓮の花 正岡子規

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丈凌ぐ蓮の茂みに 隠れんか 伊丹三樹彦

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おのづから鄙めく恋や野に蓮咲き 伊丹三樹彦

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折蓮 水溜り しんじつ古び男の顔 伊丹三樹彦

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咲き進む刻をとどめず蓮の花 稲畑汀子

 

 

記事を書くのはけっこうしんどいのですが、この写真と俳句を選んでいるときが一番心休まります。

写真も俳句も、心に残るある一瞬を捉えているのでよく似ています。

2023年7月22日 (土)

ロシア、黒海に機雷を仕掛ける

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ロシアが執拗にオデーサをミサイル攻撃しています。
3日目となる18日夜にも、オデーサ港湾施設が狙われました。
特に積み出しターミナルを狙っており、そこには黒海穀物輸出合意の下、60日前に中国へ輸送する予定の農産物6万トンが保管されていましたが、空爆で燃えてしまいました。

「[キーウ 19日 ロイター] - ウクライナのソルスキー農業政策・食料相は19日、黒海沿岸にある南部オデーサ州のチョルノモルスク港が夜間にロシアの攻撃を受け、穀物輸出施設が大きな被害を受けたほか、貯蔵されていた大量の穀物が失われたと明らかにした。
ロシアは17日、トルコと国連が仲介した黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)を延長せず、履行を停止すると表明。ウクライナは、ロシアによる港湾施設への空爆は意図的で計画的なものだと非難している。
ソルスキー農業相によると、夜間の空爆で失われた穀物の量は6万トン。黒海穀物輸出合意の下、60日前に出荷されるべき穀物だったという。被害を受けた施設の完全な修復には少なくとも1年かかるとし、穀物輸出施設に対するロシアの攻撃は 「ウクライナに対するものではなく、全世界に対するテロ行為だ。世界の食料安全保障が再び危険にさらされている」と非難した。
ソルスキー氏によると、ウクライナ最大のヒマワリ油生産・輸出業者のカーネルの施設などが大きな被害を受けた」
(ロイター7月19日)
ロシア、黒海沿岸の港湾を空爆 6万トンの穀物失われる | ロイター (reuters.com)

下写真は、破壊される前のオデーサの積み出しターミナルです。

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ロシアのミサイルによって破壊された60,000トンの農産物が中国に送られることになっていた–ゼレンスキー|ウクライナ・プラウダ (pravda.com.ua)

攻撃後の積み出しターミナルです。

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ロイター

ロシア外務省は、7月17日、世界的食糧危機をもたらすという国際的非難に対して、ウクライナ産穀物はEUなどの豊かな国に向けたものだ、貧困国むけではない、と居直っています。
イスタンブール協定に関するロシア外務省の声明-ロシア連邦外務省 (mid.ru)

「黒海イニシアチブは、イスタンブール協定の署名からわずか1週間後に開始された。す早く海上人道回廊が特定され、参加船舶の登録と検査のためにイスタンブールに共同調整センター(JCC)が設立され、2022年に最初の乾貨物船「ラゾーニ」がオデッサを出港た。これは、協定の当事者としての義務を果たすためのロシアの代表の良心的で責任あるアプローチを明確に確認した。
しかし、協定の人道的目標に反して、ウクライナの食品の輸出はほぼ即座に純粋に商業的基盤に移され、最後の瞬間まで、キエフとその西側の学芸員の狭い利己的な利益に奉仕することを目的に変わった。
事実と数字は彼らの真実を語るだろう。
黒海イニシアチブの運用中に、合計32,8万トンの貨物が輸出され、そのうち70%以上(26,3万トン)がEUを含む高中所得国に送られました。最貧国、特にエチオピアイエメンアフガニスタンスーダンソマリアは3%未満で、合計922,092トンにすぎなかった」
(ロシア外務省声明前掲)

これはほんとうでしょうか。
このロシア外務省の言い分は、都合の悪いことを隠しています。
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授・服部倫卓氏はこう述べています。
ロシアは「最貧国」という範疇を都合よく解釈し、ここからこの協定のもっとも大きな受益国のバングラデシュを意図的に排除しています。
服部氏はこう書いています。

「ここで問題なのは、ロシア外務省が「最貧国」からLDCのバングラデシュを除外していることである。実はLDCでウクライナ産農産物を最も多く受け入れているのはバングラデシュなので、それを入れるのと入れないのとで、印象がだいぶ違ってくる。世銀分類にもとづいた私の集計では、LDCの比率は5.8%となる」
(服部倫卓ブログ7月18日)
黒海穀物イニシアティブ:ロシア外務省の言い分は正しいか? : ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪 服部倫卓ブログ (hattorimichitaka.net)

これによってロシアは「裕福なEUがウクライナの食料を吸い上げている」という構図を作り出しています。
いうまでもなく、これはロシアの的がEUあるいはNATOだからですが、実はもうひとつの極めて大きな受益国のある国を除外しています。
それが中国です。

「単独の国としては最大の受益国である中国のことに触れない点である。ロシアは、ウクライナの穀物はスペインでイベリコ豚の餌になっているといったことばかりを強調するが、それ以上に中国の養豚団地の餌になっているということには沈黙を貫く」
(服部前掲)

その観点で、服部氏がウクライナ穀物の輸出先を再構成したのが下図です。

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服部ブログ

ロシアは協定から離脱しただけではなく、ウクライナ船の航路に機雷でをばらまくだろうと言われています。

「ワシントン 19日 ロイター] - 米国家安全保障会議(NSC)のホッジ報道官は19日、ロシアが黒海で民間船舶を攻撃する恐れがあると述べた。
ホッジ氏はロシアがウクライナの港に通じる航路に機雷を設置したとの情報を米当局は把握しているとし、「これは黒海における民間船舶への攻撃を正当化し、その責任をウクライナになすりつけるための組織的な動きだと考えている」と述べた。
ロシアは黒海海域のウクライナの港に向かう全ての船舶を軍事貨物の運搬船と見なすと表明しているとし、米当局の情報はロシアがウクライナの港に向かう航路に新たな機雷を設置したことを示していると説明した」
(ロイター7月19日)
ロシア、黒海で民間船舶を攻撃する恐れ=米ホワイトハウス | Reuters

公海上に機雷を撒くのですから、ヤクザもどきではなくヤクザそのものです。
仮にこのロシアの敷設した機雷に第三国の艦船が触雷した場合、その国の海軍はだまってはいないはずですからどうなることやら。
それにしてもこのプーチンの愚かさは底無しです。どこまで堕ちていくのか。

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

 

 

2023年7月21日 (金)

マイナカードのなにが悪いのでしょうか

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このところのマイナカード報道を眺めていると、またぞろメディアが揃って確証バイアスをしているという印象です。

「仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことで、認知バイアスの一種。また、その結果として稀な事象の起こる確率を過大評価しがちであることも知られている」
確証バイアス - Wikipedia

ね、日本のメディアが年中やっていることでしょう。
モリカケサクラで視聴率がとれると思ったら、それしか報じない、仮にあっても無視するから、社会がワイドショー化されてしまいます。
しかもテレビしか見ない人がいるから、けっこう支配的空気を作り出します。
それを延々3年近くやって恥じません。
つくづくわが国のメディアは愚劣というより、むしろ害悪だとさえ思います。
今ならマイナカード問題がそれです。朝から晩までこればかり。
ヒモがついたのつかないの、他人口座に入ったからどーのこーの。
あーうるさい。まなじり決するようなことか。

岸田政権の支持率は、またまた下がってNHKの世論調査では38%となりました。
この人はなにもしていと6割の支持率をキープし続け、なにかするといきなりコレです。

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NHK

「NHKの世論調査によりますと、岸田内閣を「支持する」と答えた人は、先月の調査より5ポイント下がって38%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は4ポイント上がって41%でした」
(NHK7月10日)
岸田内閣支持率 5ポイント減の38% 「支持しない」41% | NHK | 選挙

政党支持率のほうは34%ですから、青木率第1法則に換算すると38%+35%で73%ですから危険ゾーンの60%台まで一歩、政権が持たないといわれる50%台まではまだあるという感じです。
ジタバタする必要はありませんが、パッとしませんね。
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その原因を、NHKはマイナカードのトラブルだと言っています。
NHKは反マイナカードに力を入れていたメディアですが、とうとう滑りました。

NHKのツイートです。
20230720-111615
このツイートだけ読むと、マイナカード取得者の4割が自主返納したような勘違いを起こします。

というか記事なんかツイートしか読まない人に、そういう印象誘導をさせたかったんじゃないですかね。

NHKは元記事のほうでは、こう書いていますので比較してみましょう。
「マイナンバーカードが廃止された理由を調べるため、総務省が全国12の市と町を抽出して調査したところ、先月の1か月間に本人の希望などを理由に廃止されたおよそ250件のうち、4割近くが自主返納だったことが明らかになりました」
(NHK7月19日)
マイナンバーカード 本人希望で廃止のうち自主返納は4割近く | NHK | マイナンバー
そうです、「4割返納」の分母は登録者全体ではなく、本人の希望などを理由に廃止されたカード247件が分母なのです。
ツイートの新しい機能で直ちにこう噛みつかれています。
20230720-111635
したがって、「4割返納」ではなく登録者230万人のうち97件で返納率は0.004%にすぎません。
ほとんどノイズの数です。
「4割返納」なら92万ですからえらい違いです。
ただし、ほとんどの人は元記事と比較しないので、「4割返納」だけが刷り込まれる仕組みです。

そもそも240人が返したからって、だからナンだって言うんでしょうか。
情弱者がメディアに踊らされてカード返しちゃった、バカだねぇというだけのこっちゃないです。
返納した人はこう言っています。

「メリット、デメリットについて正確に、まずわれわれに伝えるべきですし、運用手続きにしても、あちこちでマイナカードの使い方が周知されていませんし、進めるのであればもっと制度を熟成させて告知のしかたも工夫すべきだと思う」
(NHK7月13日)「(支持率)続落要因の一つはマイナンバーカードを巡る混乱だ。現行の健康保険証を来年秋に廃止してマイナカードに一本化する政府方針に76・6%が延期や撤回を求め、74・7%が政府による総点検では「解決しない」と答えた」
(NHK前掲) 

東京新聞は社説まで使って、このマイナカードの不手際が支持率下落の原因だと言っています。

「(支持率)続落要因の一つはマイナンバーカードを巡る混乱だ。現行の健康保険証を来年秋に廃止してマイナカードに一本化する政府方針に76・6%が延期や撤回を求め、74・7%が政府による総点検では「解決しない」と答えた。
 国民の不安を顧みず、首相は一本化に固執し、制度を見直そうとしない。河野太郎デジタル相はマイナカード返納の動きを「微々たる数」と切り捨てたまま長期の外国訪問に出かけた。こうした言動は、制度への不信を深める国民や総点検の実務を担う地方自治体にどう映るのだろうか」

(東京社説2023年7月19日)
<社説>内閣支持率続落 国民の不安見えぬのか:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

すごいね、「国民の反対と不安に耳を貸さないキシダ」というわけです。
東京新聞の世論調査によれば、政府の点検は信じられん人が74%で、76%の人が紙の健康保険証とマイナカードの一体化に反対ということのようです。
やれやれ、政府がなにをやっても腐すことしかしない煽りメディアがあるからこうなるんだろうと思いますが、ま、いいか。

それにしてもマイナカードで支持率が落ちたってホントかね、ホントにそう思って岸田さんが次の内閣改造なんか考えていたらアホです。
支持率落ちは、自民党を支えてきた鉄板の保守層が離れてしまったことです。
この鉄板支持層とは、故安倍氏がモリカケサクラで叩かれまくっても支持しつづけた約3割の層です。
宗教団体などをベースとした組織票ではないので、かならずしもいつも自民党を支持しているわけではありません。
自民がおかしいなと気かがつくと、早々に離れていってしまいます。かくいう私もそれに近い。

特に問題なのが、消費税をにはさすがに手をつけられないのか、様々な名目で増税と負担を増やしていることです。
気がつけば国民負担率が47%、もう5割目前です。

「国民負担率は、個人や企業が稼いだ国民全体の所得に占める税金や社会保険料の負担の割合を指す。税金には所得税や法人税、消費税などが、社会保険料には年金や医療、介護保険などの保険料が含まれる。式で表せば、分子に租税負担と社会保障負担、分母に国民所得がくる。公的な負担の重さを国際比較する際の指標の一つとされる。
財務省によれば、2022年度の国民負担率の実績見込みは47.5%。1970年度から公表されている統計を見ると、過去最大となった2021年度の48.1%(実績)をやや下回るものの、それでも国民所得の半分近い」
(読売2023年3月23日)
国民負担率とは…若者の稼ぎの半分、税金や社会保険料に? ベテラン記者が解説 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

これが国民、特に若者の怨嗟の的となっている「五公五民」です。
まぁこの言い方自体が会社負担などもあるのでオーバーですが、実感としてはなにか新しいことを政権がしようとするたびに、やれ防衛増税、こんどは子育て支援増税という気分にはなるかもしれません。
そのうち詳しく書きますが、いくら景気がよくなって税収が前年度に比べ6%増の71兆1373億円で3年連続過去最高を記録しても増税したがります。
まさにリクツ抜きの増税フェチが岸田政権です。

そのうえ国家観が疑われるようなLGBT法案のごり押しなんぞをすれば、経済もダメ理念もダメのダメダメです。
この層に帰ってきてほしくば、なにかあるたびに「異次元の増税」と揶揄されるようなマネはやめるんですな。

話を戻します。
マイナカードで言われている不備は素人じみた単純ミスです。
人が介在するかぎり必ずミスが発生する。しかも初期には多発するだけのことです。
ミスは直せばいいだけ、修正は早いところすればいい、仮にヘマっても全体におよばないようなフェールセーフを備えておけばよいのです。

時事通信は「マイナ対応で本部設置 ひも付けミス、カード誤交付も―続くトラブル、収束見えず」(6月20日)なんて大げさに騒いでいますが、どれも致命的な制度的欠陥によるものではなくケアレスミスにすぎません。
まちがって紐付けされても、知らない人間に自分の保険証を使われよりズっとマシじゃありませんか。
初歩的ミスを連発するのは役人の気の弛みとして大いに批判されるべきですが、発生件数がひと桁でしかも修正することも容易です。
制度的欠陥ではありません。
紐付きの間違いがそんなに気になって、政府のオペレーターを信用できないなら、飯田泰之氏が提唱するように国民に自分の紐付き一覧を送付して自分で確認して返送してもらってもいいのです。

ちゃんとメリット、デメリットが伝えられていないのは確かでしょうし、長いあいだ紙の保険証に慣れきった高齢者がとまどうのはわかるとしても、どうしてここで返してしまうのが理解に苦しみます。
ラサール石井のような上滑りしたサヨク芸人なら、ただのネタづくりですからわかりますけど。

いいですか、マイナンバー制度を中止するという選択肢はありませんよ。
一定の周知期間を置いて併用くらいはあるかもしれませんが、いずれ遅かれ早かれ紙の保険証は予定どおり廃止されます。
そうなったら面倒なのは自分のほうです。

第一、返納しても国民に割り振られたナンバーは残るわけですから 、困るのは当人です。
地デジと同じことで、デジタル化しないテレビを持っていても見えなくなるだけです。
サヨクメディアに踊らされて返納をするとあとで困るだけですから、ご注意ください。

そもそも紙の保険証ってそんなに安心できるようなシロモノだったのでしょうか。わきゃないでしょう。
あんな電磁的ネットにも接続されておらず、しかも写真も貼っていない紙切れが、健康保険証や時にはIDカード代わりに堂々と通用してきたことのほうが驚きのです。
自慢じゃないが、こんな牧歌的なアナログな先進国って日本くらいですよ。

長年「総背番号制ハンタ~イ」と言ってきた共産党の小池氏は、「不正利用なんて聞いたことがありませんね」とTwitterしていましたっけね。
「総背番号制」などと書くと、まるで管理社会の極致のように聞こえますが、一説で年間3000億円近くが不正利用されているとされるという疑いが消えない紙の健康保険証が廃止され、より確実な本人確認が可能になる顔写真付きやICチップの入ったマイナカードに移行することのどこがいけないのでしょうか。

中国のように個人の思想傾向やデモに行ったかどうかまでがカードに記録されて、減点制度になっている国とは根本的に違うのです。

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WSJ 上海の監視カメラ。中国は世界一の国民監視網を構築している。

ところで中国は文句なく世界一の監視国家です。
すでに中国では、スマホを利用したアリババ系のアリペイ、テンセント系ウィチャットペイなどの電子決済システムを利用しないと、市民が買い物ひとつできないまで浸透しています。
笑い話のようですが、乞食までが電子マネーでお恵み下さいという札をぶら下げていたとか。
すでに山間僻地を除いて7割の10億人の国民が使用を事実上義務づけられており、国民はこの電子決済システムを利用しなければなりません。
この電子決済システムを利用するためには、現預金、預金以外の資産、交通違反まで含む一切の刑事罰履歴、交友関係まで登録せねばなりません。

つまり中国政府当局は、10億人の財布の中身、どこでなにを買ったのか、どこへ行ったのか、なにを食べたのか、誰とつきあっているのかにいたるまで一切合切を掌握でき、それを随時ビックデータに収めることをしているというわけです。
そしてそれらをもとにして、AIが「社会スコア」と呼ばれる点数をつけていき、罰則を犯したり、政府が好まない発言をしたりすればようしゃなく減点していきます。
逆に政府が好むことをすれば、加算されて海外旅行のWI-FIがタダになったり、無担保でカネを借りられるといった特典がつきます。
こうしてスマホを通して完全な市民監視が可能な支配ツールが、電子決済システムなのです。
こんなもんを日本が作ると思いますか?

国民に割り振られた社会保険番号があれば、不正利用やなりすましなどの詐欺行為を事前に防止することに大いに役立ちます。
たとえば紙の健康保険証は、なんにでも使える万能カードですよね。

一番使うのは病院の窓口でしょうが、本人確認のために運転免許証のような顔写真が貼ったものを、一緒に提示することを求められたことがありますか。
ありませんね。もし悪心を抱いた者が他人の健康保険証を借りて医療を受けてもチェックできません。
とんでもない性善説のカードなのです。

また、紙の健康保険証はID代わりに使えますから、本人確認書類として使うことができました。
今は相当に制限されてきましたが、これを暴力団などの反社会的勢力が見逃すはずがありません。
もともと反社会的勢力は暴力団排除条例によりスマホの新規契約ができませんが、他人になりすまして契約するしか逃げ道がなく、いったん手に入れたスマホは特殊詐欺で多く使われるようになりました。

私はいろいろなカードや証書を持っているのはしんどい。
健保、年金、税金、自動車免許などなど、全部一括してマイナカードになれば嬉しい限りです。

 

 

2023年7月20日 (木)

ウクライナ産農産物の輸出協定、 ロシア延長せず失効か?


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ウクライナの農産物輸出協定を延長しないと、ロシアが言ってきました。
食糧を武器に使う卑劣な攻撃です。
EUのジョセフ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は直ちに、「考えられない決定だ。飢餓を武器に使用してはならない」と語気を強めてプーチンを批判し、国連も同様の対応をしています。

「ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定は、トルコ時間18日午前0時(日本時間同午前6時)、ロシアが延長しなかったため、失効した。西側諸国は、ウクライナの穀物が届かなければ世界で最も貧しい人々にとって打撃となると批判していた。
ロシア政府は同日、国連とトルコ、ウクライナに対して、延長反対を通知。西側諸国が協定上の取り決めを履行していないことを理由として、西側が要求に応じれば協定に復帰する可能性を示した。
ロシアはこれまで、協定にもとづき、黒海に面するウクライナの支配地域にあるオデーサ、チョルノモルスク、ユージネ・ピヴデンニの港からの穀物出荷を認めていた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はかねて、ロシア産の食料や肥料も輸出品に含めるという協定内容が順守されていないと不満をあらわにしていた。さらに、ウクライナ産の穀物は貧しい国に運ぶという協定の条件も守られていないと主張していた」
(BBC2023年7月18日)
ウクライナ産農産物の輸出協定、 ロシア延長せず失効 - BBCニュース ウクライナ産農産物の輸出協定、 ロシア延長せず失効 - BBCニュース

ロシアがウクライナ産穀物輸出再開の条件として上げたのが、ロシア産肥料、穀物輸出に関連する金融制裁解除です。
ロシア国有農業銀行がSIFT決済を使えるようにしろ、ということのようです。
なにに不満があったのか自分で紛争を作り出し、町内会から制裁を食らうと、食糧積んだ船は武器と見なして通さん。
オレの言うこと聞けばフネ通してやる、とまるでヤクザ。

「西側諸国がロシアが提示する5つの重要な要求を満たせば、同合意に直ちに復帰するとの見解を改めて表明した。プーチン氏が挙げた要求は、1)ロシア農業銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT )決済システムへの再加盟、2)ロシアへの農業機械とスペア部品の輸出再開、3)ロシアの船舶と貨物に対する保険と港湾施設へのアクセス制限の撤廃、4)ロシアのトリヤッチとウクライナのオデーサをつなぐアンモニア輸出パイプラインの復旧、5)ロシアの肥料会社の口座と財務活動の遮断解除。
プーチン氏は「これらの条件が全て満たされ次第、ロシアは直ちに黒海イニシアティブに復帰する」と述べた」
(ロイター2023年7月20日 )
ロシア、条件満たされれば黒海穀物合意に復帰=プーチン氏 | ロイター (reuters.com)

寝言は寝て言え。
そんなに制裁を解除してほしくば、法の支配に従うことです。
すなわち、全占領地から撤退しなさい。それしか解決はありません。
侵略は続ける、占領地は1メートルも手放さない、占領地の人々は虐げ続けるし、ロシアに移送する、穀物倉庫は爆破する、そのうえ決められたウクライナの農産物は禁輸してやる、しかし制裁は解除しろ、こんなムシのいい話が通用するはずがありません。

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BBC

ゼレンスキーは負けじと、「ウクライナは自国で穀物の輸出をオデーサ、ユシュネ、チョノモルスクの3湾から黒海経由で世界に輸出する考えがある」と言っていますが難しいでしょう。
協定が切れると黒海は無条約状態となり、ロシア海軍の攻撃を受ける可能性がありますから、船舶保険が下りないか、下りても急騰するはずです。

「 [モスクワ/ロンドン 19日 ロイター] - ロシア国防省は19日、モスクワ時間20日午前0時(日本時間同日午前6時)から、黒海沿岸のウクライナの港に航行する全ての船舶を軍事物資を運搬している可能性のある船舶と見なすと表明した。黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の履行停止に伴う措置としている」
2023年7月20日

ロシア、ウクライナに向け航行の全船舶「軍事運搬船」と見なすと警告 | ロイター (reuters.com)

そこまでして輸送に応じる船舶会社は少ないと見られています。
ウクライナは2022年7月の協定締結以来、約3300万トンの穀物を輸出し、約80億ユーロの収益を得てきましたが、最悪それを失うことになります。
また安価なウクライナ産穀物を使っていたグローバルサウスの国々は食糧危機になるかもしれません。

ただしそうならない可能性も残されています。
ロシアの延長拒否は、ただのブラフで終わるかもしれません。

ウクライナの穀物を大量に買っている最大の輸入国は実は中国です。
中国がそんなことを許さないからです。

既にガッチリと中国経済圏に組み込まれたロシアに、ノーは言えないはずです。

ウクライナとロシアにとって、共に中国が大きな市場です。
図をご覧ください。

「2020年の国際穀物市場での全取引において小麦は41%(605億ドル相当)を占め、最も多く取引された主要穀物である。次いで、トウモロコシが29%(426億ドル)、コメ18%(263億ドル)、大麦7.5%(111億ドル)と続いた。(略)
小麦市場は限られた供給国と多数の需要国から成立していることがわかる。2020年は、ロシア・カナダ・米国・フランス・ウクライナ・オーストラリアの6か国が全供給の約3分の2を占めた一方で、エジプト(全輸入の10%)や中国(同7%)、トルコ(5%)を始め、多くの諸国が輸入国となった」
(井堂有子 日本国際問題研究所 2022年4月13日)

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JIIA -日本国際問題研究所

国際穀物市場の輸出大国は限られており、逆に大輸入国も限られているという偏った構造があります。
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ロシアとウクライナは穀物輸出の好敵手同士:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

上図を見れば、米国が図抜けていますが、それに続く2位の地位をウクライナ(オレンジ線)、ロシア(グレイ線)が争っているのがわかります。
そしてこの両国が重要な輸出国としている共通の国があります。
それが中国です。

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JIIA -日本国際問題研究所

中国は極端に輸入穀物にシフトした穀物爆買い王国です。
中国の食糧の爆買いと軍事膨張はメダルの表裏: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
日本は常に買い負けているために、高い飼料を買わされるハメとなっています。

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(231)中国の穀物輸入「激増」と「健康な食事」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】|グローバルとローカル:世界は今|コラム|JAcom 農業協同組合新聞

中国の食糧自給率は低く、輸入穀物なしでは国民に豚肉や麺、饅頭を食わせることができません。
国民が腹をヘラしたら爆食王国は崩壊して、共産党政権はもちません。

豚や鶏の飼料となるトウモロコシ輸入は、2010年を境に急増しています。
当初は、ほとんどが米国産であったが、2013年以降経済援助の現物返済としてウクライナ産が急増し、2016年の総輸入量は317万トンに達しました。
  

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中国の穀物需給動向|農畜産業振興機構 (alic.go.jp)

上図を見ると、2016年には中国のトウモロコシ輸入量の3割弱をウクライナが占めています。
ここから推測できることは、ロシアがウクライナ産穀物の輸出を強権的に止めた場合、アフリカ諸国もさることながら、もっとも打撃を食うのが中国なのです。

先日の記事でも見たように、ロシアは中国経済圏に入ってしまいました。
同格ではなく、下目の舎弟となってしまいましたから、中国経済、しかも国民の食に直結する飼料を輸入を妨害するかのようなマネを中国が許すはずがありません。
ロシア、中国経済圏に向け直滑降: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

この両国は国際穀物輸出市場において競合相手です。
ロシアにとってのウクライナ侵略は、領土拡大という意味と、競合するウクライナ農業に打撃を与え、有利な地位に着きたいという野望かあったはずです。
だからロシアはウクライナの穀物貯蔵倉庫を攻撃し続けました。
去年9月4日には、ウクライナ南部ミコライウ州オチャキウの穀物貯蔵施設を破壊し、数千トンの穀物が失われました。

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ロシア、ウクライナ東部の穀物貯蔵施設を攻撃=米高官 | Reuters

「【ワシントン共同】ロシアによる戦争犯罪の証拠を収集する米国務省の関連団体「紛争監視団」は15日、ウクライナ国内の穀物貯蔵施設のうち15%程度が被害を受けたとの推計を発表した。このうち約8割が港や線路などの輸送インフラ付近に集中。ロシアや親ロ派勢力が意図的に狙った疑いもあるとしている」
(共同2022年9月11日)
穀物貯蔵施設、15%に被害 米推計、ロシアが意図的攻撃か(共同通信) - Yahoo!ニュース 。 

また穀物の略奪も白昼堂々と行われました。

「農業専門家がCNNに語ったところによると、ロシア軍の侵攻が始まる前日の時点で、600万トンの小麦と1500万トンのトウモロコシがウクライナから輸出できる状態にあり、その大半が南部で保管されていた。
ウクライナ国防省は5日、これまでに推定40万トンの穀物が盗まれたと発表した。
ヘルソン州やザポリージャ州の農家などは、具体的な略奪の状況を証言している。ヘルソン州のマラ・レペチカ村では4月下旬、ロシア兵が1500トンの穀物を、クリミア半島のナンバープレートが付いたトラックで貯蔵庫から持ち去ったという。翌日には同じトラック(全部で35台)が戻って来て、ドニエプル川の対岸にあるノボラジスクの大型穀物貯蔵施設を空にして行った」
(CNN2022年5月6日)
ウクライナ農家、ロシア軍が大量の穀物を略奪と証言 飢餓の歴史再来の懸念(1/2) - CNN.co.jp 

昨日、ロシア軍は2夜連続でオデーサの穀物倉庫と港湾施設をミサイル攻撃しました。
クリミア大橋に対する攻撃の報復だと称しているようですが、艦艇からも発射したようです。

「CNN) ロシア軍は19日未明、前日に続きウクライナ南部の都市オデーサへの空襲を実施した。
同市軍政当局の報道官は、ウクライナ側の防空システムがこれらの攻撃を撃退していると説明。SNSテレグラムへの投稿で、巡航ミサイル「カリブル」が黒海から複数発射されたのを記録したと述べた。
オデーサにいるCNNの取材班は、港湾の方向近くで防空システムからの集中砲火が続いているのを確認した。少なくとも3度の大規模な爆発音も耳にした」
(CNN7月19日)
ロシア軍、2夜続けてオデーサを空襲 - CNN.co.jp

中国のバカなまねは止めろ、コッチの迷惑も考えろ、と言う声は届いているはです。
中国がなにもしないなら、国際艦隊が食糧運搬船を護衛するのですね。


 

 

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2023年7月19日 (水)

クリミア大橋再攻撃、もう一息です

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クリミア大橋に二度目の攻撃があったようです。失敗したのを入れれば3回目です。
ウクライナのSNSで、道路部分の崩落が映像や動画で確認されています。

クリミア大橋はロシア内地とクリミア半島を繋ぐ唯一の陸上ルートです。

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水上無人艇の夜間攻撃で損傷したクリミア大橋、道路橋の一部橋桁が崩落 (grandfleet.info)

クリミア大橋には鉄道が走っています。
ロシア軍は補給の多くを鉄道に依存しており、ここを落とされると重量のある戦車や大砲、砲弾、燃料などを補給できなくなります。
海路ではごくわずかしか代替できませんから死活問題です。
ロシア軍は1日2万発の砲弾を使うといわれていますが、重量にして一発が47㎏として1日で940t、1カ月で2万8200tにも達します。
たぶんじっさいにはこれ以上使ったと推測されますから、これだけの弾薬だけで膨大な補給量が必要となります。
これらの大部分は鉄道で補給拠点まで運ばれました。
ロシア軍はクリミア大橋を落とされると、ロシア本土からクリミア半島を抜け、南部占領地域へと続く補給の大動脈を断ち切られたことになるのです。

今回の攻撃では、残念ながら鉄道部分は損傷を受けていないので、軍事兵站線としては生き残っているようです。
とはいえ道路のほうには大きな影響が出ていますから、遅滞は避けられないでしょう。

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水上無人艇の夜間攻撃で損傷したクリミア大橋、道路橋の一部橋桁が崩落 (grandfleet.info)

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同上

「ロシアの情報・治安機関の横断組織「国家反テロ委員会」は17日、ウクライナ南部クリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア大橋」(全長約19キロ・メートル)が同日午前3時5分頃、ウクライナの水上無人艇2隻によるテロ攻撃を受け、道路橋が一部損傷したと発表した。
ウクライナの複数メディアはウクライナ海軍と情報機関「保安局」(SBU)の合同作戦だったと報じた。タス通信によると露大統領報道官は17日、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出に関する合意が17日で失効することに関し、「合意は停止した」と述べ、延長に応じない意向を表明した。
プーチン氏は一時的な離脱を警告していた。クリミア大橋への攻撃を新たな口実にする構えだ。SBUの報道官は17日、ウクライナ国営通信に対し「詳細はロシアへの勝利後に明らかにする」と述べ、関与を否定しなかった。道路橋と鉄道橋が並行するクリミア大橋はウクライナに侵略する露軍の主要な補給ルートになっている。SNSでは爆発で橋桁の一部が崩落した映像が拡散している5
(読売7月17日) 
クリミア大橋の損傷を示す映像…爆発で橋桁の一部が崩落 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

ロシア側も損傷を認めています。
プーチン大帝はテロだなんて言っていますが、民間住宅やスーパーを狙ってミサイルを撃っているヤカバラがどの口で。
そもそもクリミア半島は勝手にロシアがロシア領だといっているだけのことでウクライナ領です。
それを奪還する攻撃は純然たる軍事攻撃であって、テロではありません。

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「 ロシアのプーチン大統領は17日、ロシア南部とクリミアを結ぶ橋が爆発により損傷したことについて、ウクライナによる「テロ行為」との見方を示し、ロシアは報復すると表明した。 プーチン氏は、クリミア橋はウクライナで戦うロシア軍に補給するためには何カ月も使われていなかったとし、橋への攻撃はウクライナによる無分別で残酷な行為だと非難。国防省が対応案を準備していると述べた。 プーチン大統領はクリミア橋の爆発の影響を評価するための当局者との会合を開き、会合のもようがテレビ放映された。 フスヌリン副首相は同会合で、損傷した橋は11月1日までに完全に修復されるとの見通しを示した 」
(ロイター7月17日)
クリミア橋爆発はウクライナの「テロ行為」、ロシアは報復=プーチン氏 (fmworld.net)

またウクライナの国防次官も、7月8日に昨年10月の爆発がウクライナ軍がやったことだとようやく認めましたが、今回は隠すそぶりもないようです。
攻撃方法は明らかにされていませんが、今回はウクライナ海軍と保安局の合同作戦だとされていて海軍が絡んでいるので、無人自爆艇(USV)が使われた可能性があります。

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ウクライナ海軍、世界初の無人艇艦隊創設へ、USV購入のため資金を募る│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

「10月29日にクリミア半島のセヴァストポリに停泊するロシア黒海艦隊の新しい旗艦であるフリゲート艦のアドミラル・マカロフ。そして、掃海艇のイヴァン・ゴルベッツを含む3隻の艦船が攻撃を受けて損傷します。この攻撃はウクライナ側の無人の小型高速ボートによる自爆攻撃になり、その様子の一部始終を撮影したボート目線の映像も公開されました」
(ミリレポ2022年11月14日)

もともと貧弱な海軍力しか持たなかったウクライナですが、2014年のクリミア侵攻と今回の戦争初頭に主要な大型・中型艦がことごとく破壊、自沈、鹵獲されるなどしてしまいました。
クリミア侵攻の時など、司令官クラスがロシアに寝返っています。
損耗率、実に80%。

また西側の支援を受けたくとも、黒海に繋がるボスポラス海峡の軍艦の通過がトルコによって禁止されたために受けられないでいる状況です。
新たに建造しようにも、建造ドックがロシア軍が占領しているアゾフ海沿いにあるためにできません。
仮に出来たとしても数年かかります。

ですから、ウクライナ戦争では死闘を続ける陸軍とは違って海軍の出る幕が極端に少なかったのですが、この「無人艇艦隊」の登場で面目を一新したようです。
日本にも実は「震洋」という有人自爆ボートが戦争末期作られました。
やりきれない特攻兵器でしたが、このUSVは無人です。
現実に実験的に使われたと思われる動画を見ると、数隻で対象を囲むようにして攻撃しているようです。
そもそも現代戦において、大型艦相手に大型艦は特に必要ではありません。
対艦ミサイルの発射母体となるなら小型のボートでもかまいませんし、自爆ドローンならなおさら人を乗せないので小型化が可能です。

またウクライナにとって有利なことは、黒海が閉鎖された水域だということです。
ロシア軍が母港として利用できるのはセバストポリしかありません。

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ロシア、ウクライナ産の穀物輸出合意への参加停止 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

ですから、危機を感じて対艦ミサイルの射程外に逃れようと外洋に出ていても必ずセバストポリに戻ってきますから、そこを標的にすればよいのです。

また無人自爆艇(USV)はともかく安い。
1隻あたり25万ドル(3500万円)ほどで、「モスクワ」を撃沈した対艦ミサイルハープーンが1発150万ドルと較べれば100万ドル以上も安上がりです。

そのうえ軽量で移動が簡単ですから、沿岸部のドックで建造する必要がなく、内陸部の町工場でも作れてしまいます。
しかも製造期間は短く、大量生産に向いています。

ウクライナは攻撃方法については戦争が終わってから公表するとしているのでUSVが使われたかどうかはわかりませんが、空からのスタンドオフミサイルなども含めてさまざまな手段でクリミア大橋は攻撃され続けることでしょう。

 

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「ウクライナに平和を。」多言語メッセージ及びロシア軍によるウクライナに対する軍事侵攻に抗議する代表声明 | NPO法人メタノイア (metanoia.or.jp)

 

2023年7月18日 (火)

海洋放出、想像の放射能に怯えるのではなく、現実を直視しろ

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今の海洋放出反対運動は、かつての震災瓦礫搬入阻止運動に酷似しています。
リアルな科学的計測を行わない、非科学的なプロパガンダだけの運動です。
中身はただの妄想ですが、繰り返し繰り返したたき込まれれば、多くの人が影響を受けます。

この煽動にメディアは狂奔しました。
彼らはいつい最近まで「汚染水の海洋放出」という表現をなんのためらいもなくとっていたはずです。
結果がこれです。
メディアにかかると、内閣支持率の低下の原因はまるで海洋放出の「説明不足」にあるようです。

「共同通信社が14~16日に実施した全国電話世論調査によると、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に関する政府の説明について「不十分だ」との回答が80.3%に達した」
(共同7月16日)
原発処理水、説明不十分80% マイナ総点検74%解決せず(共同通信) - Yahoo!ニュース

風評拡散に果たした己の力を誇示できて、さぞかし満足でしょう。
放射能の風評被害においてメディアが果たした役割は大きく、客観的報道をかなぐり捨てていました。
特に東京、毎日、朝日はまさにバイアス報道そのものでした。
当時、私はマスコミなどないほうがよほどいいと思ったほどです。それくらいひどかったのです。
そしていまも何一つ反省することなく、このていたらくです。

かつて巨大な風評と戦っていた時期の記事を再掲載いたします。
整理してダイジェストしようかとも思いましたが、あえてそのまま転載いたします。
このほうが当時の実感がわかるはずです。

                  ~~~~~~

福島事故から1年後。事故当初、反原発の側に立っていた私は、この震災瓦礫搬入阻止運動に衝撃を受けます。
かくも非科学的で、かくも醜悪な「闘争」など見たことがなかったからです。

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今までの左翼運動にとりあえずあった理想主義的な香りは消え失せ、「震災など知ったことか。放射能ゴミを持ってくるな」という地域エゴが剥き出しになっていました。
反原発運動は、いかにして原発を減らしていくのか、という冷静な議論とは無関係な「脱原発」に名を借りる放射能マスヒステリーに様変わりしていたのです。

たとえばそれは、学童に対する「放射能いじめ」の原型です。
避難してきた級友を「放射能が来た」としていじめたように、当時のいい年をした大人たちが、「被災地瓦礫を持ち込むと放射能が移る」と言って騒いだのです。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201701/20170128_73035.html

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私はそんな下品な言い方をしませんが、あの辛淑玉氏ふうに表現すれば、りっぱな「被爆地ヘイト」です。
その差別的空気に便乗したというか、煽って火の手を拡げたのが、共産党と社民党、自称「市民団体」、そしてメディアでした。
彼らは実際に被曝していようがいまいが、被災地すべての瓦礫は全部放射能汚染しているという、耳を疑うような非科学的なことを叫んでいたのです。

先日、自主避難した人らしい人物が、こんなコメントを入れてきました。
「九州の方たちだって、がれき処分や食の流通で悩まれてる方は多いです」
いまなおこの「放射能瓦礫」デマを信じている人がいるということのほうに、改めて驚きを感じます。
6年たってもこの調子ですから、福島事故1年目は凄まじい騒ぎでした。

彼らは一切の震災瓦礫はケガレているとして、身体を張って受け入れ拒否するという「反原発闘争」を全国で展開します。

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当時被災地では、膨大な震災瓦礫が被災自治体の処理能力を越えていました。
処理できない瓦礫は被災地に山を成して積み上がり、支援物資を運ぶ道路すら開通できない地域すら出ました。
これを被災しなかった自治体が引き受けていこうとする被災地支援に反対したのが、彼らの運動でした。
反対運動は、「核のゴミの全国処理をゆるすな」と叫びました。「核のゴミ」とは原発から出る低レベル廃棄物、あるいは使用済み燃料などのことであって、震災瓦礫のことではありません。
それを反対派は、「核のゴミ」という過激な表現で煽って、人々に恐怖心を植えつけていました。

一方、反対運動を恐れて尻込みする全国の自治体の中で、東京都の石原知事は率先して受け入れを表明し、それに励まされるようにして全国各地の自治体が続きます。
石原氏の美質である「男気」が出た場面です。
今、豊洲で「安全だが、安心ではない」という珍妙なリクツで風評を煽ってしまった小池氏ならできないまねでしょう。
それはさておき、受け入れた自治体の処分場の入り口には、反対派が阻止線を張り、車両の下にまで飛び込むといった「市民」の狂態がそこここで繰り広げられました。

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このあたりは、後の高江紛争のオリジナル・バージョンを見るようです。
まぁ、同じような人たちがやっているので、同じようなやり方になってくるということにすぎないのかもしれませんが。
この震災瓦礫反対運動には、後の彼らの運動の特徴が凝縮されています。
ひとことで言えば、デカイ声で大げさに叫べば人が動かせると思っている愚民主義です。

①「被災地瓦礫は全部放射能瓦礫」とするような、客観的事実を検証しない非科学的態度
②「核のゴミ」と震災瓦礫を混同してみせるような、誇大なプロパガンダ主義
③搬入トラックの下にもぐり込むような、暴力を厭わない実力主義

また受け入れた後も、延々と処理場周辺の住民に鼻血が出た、頭痛が絶えないという流言蜚語が流されました。
下のまんがは例の雁屋哲の『美味しんぼ・福島の真実』のひとこまですが、「市民団体」が流したデマをそのまま真実に祭り上げてしまって拡散しています。

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雁屋哲『美味しんぼ・福島の真実』

そして雁屋哲は、厳かにこのように結論づけます。
「福島には住めない。逃げるのが勇気だ」と。

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雁屋哲『美味しんぼ・福島の真実』

このように瓦礫礫搬入反対運動の果たした役割は、瓦礫うんぬんではなく、被災地復興阻止だったのです。       

一方、ありもしない放射能の幻影に怯えて瓦礫搬入反対を叫ぶ人たちと違って私たち「被曝地」農業者は、この1年有余、日常的に放射能と向き合ってきました。
彼らと違って、「あるかもしれない」ではなく、私たちの場合は間違いなく「ある」からです。だから、いやでも向き合わざるをえなかったのです。
瓦礫反対を叫ぶ人たちで一体何人が、自分の生きる土地に責任をもって、どれだけ汚染されたのか、あるいはされていないのかを「見える化」したのでしょうか。
瓦礫が怖いと大騒動を起こしながら、彼らの中で自ら宮城や岩手に赴き、汗をかいて震災瓦礫を測定をした人が何人いますか。
その上に立って発言している反対論者は、私が知る限り一名もいません。被害者づらして、噂と想像にだけに頼って被災地の人々を平気で傷つけているだけです。

あげくはデモ隊に妊婦がいるにもかかわらず、警官隊と激突するような行為を働き、「妊婦を襲う警官隊」といったキャンペーンを張るのですから、正気を疑います。
私が彼らに言いたいことは、調査なくして発言なし。想像の放射能に怯えるのではなく、現実を直視しろ、ということです。

一方、私たちは茨城大学と共同して、霞ヶ浦流域の畑、水田、ハス田と自然植生帯の測定会を行っていました。
これは5年間、10年間のスパンでひとつの定まった地点で、定期的に測定をし、放射能汚染がどのように変化していくのかを調べる調査活動です。

これにはいくつかの目的があります。
まず第1に、放射能とリアルに向き合うために正確な放射能汚染数値の推移をデータベース化することです。

そして第2に、そのデータの集積の上に立って放射性物質の移行が少ない農法や、除染の方法を確立することです。
よく誤解されるのですが、今年から始められた測定活動は、去年段階のように農家が「農産物は安全です」とアピールするためにやることではありません。
農産物の測定も未だ継続されていますが、1年たった今、更に地域の各所に定点を設けて、それを中長期的に継続的測定をすることの必要性がでてきました。
チェルノブイリ以降、欧州の広範な地域が汚染されましたが、その影響は長く残りました。

畑や果樹園は、比較的早く除染作業の効果が現れて放射線量は着実に減少しますが、耕さない山林は現状維持、湖底、あるいは海底には放射性物質が蓄積され続けて、年を経てむしろ増大する可能性があります。

南ドイツでの知見では、約5年間、放射性物質の検出は続き、山林では初期被曝時のままでの状態が続き、湖沼などではむしろ累積し蓄積するために放射線量は増大することが知られています。

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      (図表 茨城大学農学部フィールドサイエンス教育研究センター・小松崎将一准教授による)

現実の例を撮って放射性物質の推移のパターンをカテゴリー分けしてましょう。グラフは千葉県におけるミカン山と一般の畑、そして冬季に水を溜めて耕耘しない水田の三箇所を比較したものです。
数値より分布パターンに注目してください。

一番表土から5㎝まで、5~10㎝、10~15㎝、15~30㎝という各層で計測して、放射性物質がどのような拡散分布をするのかを調べています。赤がセシウム134、青が137です。(上図参照))

●カテゴリー1[山林・固着タイプ] 左端のミカン山ですが、山のために地表を耕耘できません。すると、この場合、表土下5㎝までにセシウムの大部分が蓄積されて層を作っています。これが山林に共通する特徴です。
放射線量も比較的高めですが、これは果樹の背が高いために、空中の放射性物質をトラップしてしまうからです。これと同じ現象は、竹林のタケノコでも発生しました。

●カテコリー2[平地・畑・漸減タイプ] 中央のグラフにある平地の畑の例です。先の山林と違いトラップする樹木がないために放射線量自体が少ない上に、耕すことで各層に均一に希釈化されているのがわかります。
このように畑地は耕すたびに、粘土質や腐植物質、あるいは地虫や植物に吸着されて線量は減少の一途を辿ります。

●カテゴリー3[平地・未耕起・固着タイプ] 右端の耕していない平地の水田ですが、未耕耘なためにミカン山と一緒で地表下5㎝にがっちりしたセシウム層ができてしまっていて、線量は低下しにくい構造になっています。
耕耘しないとこのセシウム層は壊れないのです。
未耕起の平地の多くがこの状態だと推測されます。ただしこの場合は、平地のために放射線量は比較的少なめです。
ここにはありませんが、耕さない水田と違い耕した水田は2番目の畑と同様の均一化された放射線量分布になります。

●カテゴリー4[湖底・沿岸海底・漸増タイプ] 湖底や海底はバックデータが不足していますが、徐々にセシウムが堆積されて増加すると予測されています。南ドイツの例では、5年目くらいまでは増加し、以後減少していきます。

このように、放射性物質は、その場所の条件によってでまったく違う挙動をするのであって、一律に空間線量を計測して、増えた減ったと言ってみても仕方がないのです。
測定器材は下のようなものを使用します。Photo_2

左に見える筒がコア・ボーリングといって地下にポールをねじ込み、その中に溜まった土を採取して、105度で乾燥させて粉末化し、右のゲルマニウム半導体計測器でカウントします。
あたりまえですが、オモチャのようなガイガーカウンターとは精度がまるで違います。

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上写真で水田にねじ込んでいるのがこのコアというポールです。水田は楽ですが、畑や、耕耘していない土地は堅くて大変でした。ほんとうにご苦労さまでした。
このように、私たちは「放射能があること」と真正面から向き合ってきました。
「あるものをない」と言うのではなく、また逆に「ないものをある」というでもなく、リアルに放射能とつきあっています。
それが私たち農業者の作法だからです。

 

 

 

 

2023年7月17日 (月)

福島県漁連が海洋放出に反対なわけ

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福島県漁連と全漁連が、処理水の海洋放出に反対しているのはご承知のとおりです。

「西村康稔経済産業相は14日、東京都内の全国漁業協同組合連合会(全漁連)で坂本雅信会長と面談した。東京電力福島第1原発から出た処理水の海洋放出計画について、国際原子力機関(IAEA)が国際的な安全基準に合致しているとの包括報告書を先にまとめたことを説明し、放出に理解を求めた。坂本氏は面談後、「(放出に)反対であることは現時点では変わらない」と述べた。
面談は、冒頭を除き非公開で行われた。IAEAが4日に報告書を公表したのに続き、原子力規制委員会は7日、放出設備の使用前検査に合格したことを示す「終了証」を東電に交付。設備や安全規制の面で放出準備が整ったことを受け、西村氏が全漁連を訪ねた」
(時事2023年07月14日)
全漁連会長「反対変わらず」=東電福島原発処理水の海洋放出|ニフティニュース (nifty.com)

KOBAさんからこんなご意見をいただいています。コメントありがとうございます。

「ここまで懇切丁寧に説明がなされてるのに地元の漁協は未だ放出に反対の姿勢を崩してません。IAEAの科学的根拠よりマスゴミや放射脳パヨクの言い草を信じるその思考回路が理解できません」

 KOBAさんは、漁連に、「IAEAに対する見解を漁協にはコメントして欲しいモノ」ともおっしゃっています。
漁連はIAEAについての公式見解をしないか、してもぼやかしたことしか言わないと思います。
なぜでしょうか。

最大の理由は福島第1事故による風評被害が、余りに巨大だったことが根にあります。
事故当初の2011年、今と違ってALPSで処理されていない高濃度の汚染水が海洋に漏洩しました。
これは現在の、タンク群に貯まった処理水ではなく、事故の結果漏洩してしまった文字通りの汚染水でした。
当時のセシウム(Cs)の分布状況をみてみましょう。
2011当時の原発周辺水域の3000Bq(ベクレル)の赤色が数年で減少に転じ、2015年は濃度が高い所でさえ100Bq以下にまで下がっているのがわかります。
放射性物質は海洋に拡散し、一部は海底の泥に吸着したのです。

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Geo. Soc. Jpn., 55(4): 159-175 (2021) (jst.go.jp)

2011年には、県が行ったモニタリング検査でも、基準値100Bq/㎏を超えた魚は39・9%に登り、政府の出荷制限を受け、県内水域の操業は1年あまり停止せざるをえませんでした。
2012年6月から試験操業を始め、リスクの低い海域や魚から徐々に試験操業の対象を広げてき、今では操業自粛の原発10キロ圏を除き、出荷自主制限中のクロダイなど7品種以外の海水魚をとることができるようになりました。
制限されている理由は、検体数が少なかったこと、かつて高い数値を出したホットスポットだったことによります。
2019年の海産魚介類モニタリングでは、不検出が99%に達しています。

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日刊水産経済新聞

「福島県沿岸の海産魚介類に対しては、東日本大震災から8年経過した今も、県の公的検査(モニタリング)と漁協による自主検査(スクリーニング)の両建てで放射性物質の測定を行い、慎重に安全性を確保しながら試験的な操業を続けている。このうち毎週150検体ずつ実績を上積みして計5万7000検体の検査を行ってきた県のモニタリングは2018年、検体数に占める不検出の割合が初めて99%台に到達した」
(日刊水産経済新聞 2019年3月11日)
日刊水産経済新聞 |THE SUISAN-KEIZAI DAILY NEWS (suikei.co.jp)

直近の2023年7月13日のモニタリング結果です。

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水産物(R5年6月27日-7月9日採取分)

このようにモニタリングでは安全が確認されているにもかかわらず、水揚げ高は低迷し続けています。
しかし流通を慎重に広げてきたこともあり、漁獲高は事故前の2割未満にとどまっています。
考えていただきたい、収入がいきなり8割奪われたのです。

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遠い、福島県の漁業復興 : 水揚げ震災前の2割以下 | nippon.com

「福島県海面漁業漁獲高統計によると、震災前の2010年に3万8600トンだった水揚げは、2011年に激減。その後、漁港などハード面の復興が進んでも水揚げ量は足踏みが続き、2018年は約5900トンと震災前の約15%の水準にとどまっている。金額ベースでも、2010年の109億5900万円に対して、18年は7億9600万円と7.3%水準だ」
(NIPPON.com 
遠い、福島県の漁業復興 : 水揚げ震災前の2割以下 | nippon.com

理由ははっきりしています。風評被害です。
反原発原理教と化した「市民団体」と、メディアが流した「汚染水」報道が煽ったためです。

それに対して福島漁連は地道なモニタリングを続け、県魚連の漁獲再生計画では2024年に6割にまで回復させたいとしています。
コメの全袋検査といい、風評がどれだけ生産者に打撃を与えたことか。

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 毎日新聞 (mainichi.jp)

「東京電力福島第1原発事故の影響で海域や漁獲を制限して試験操業を続ける福島県漁業協同組合連合会(県漁連)が本格操業に向け、水揚げ量の目標を掲げた復興計画を初めて策定した。まずは主力の相馬地区の沖合底引き網漁を対象に、原発事故前(2010年)の23%にとどまる1隻当たりの水揚げ量を24年に61%に回復させる。県漁連の野崎哲会長は「計画は福島の漁業再生への切り札。底引き網漁が先行して目標を達成し、他の漁法にも広げたい」と話している」
(毎日2019年9月11日)
東日本大震災8年半 福島県漁連 相馬水揚げ、6割回復目標 流通再生、人材育成 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

とうぜんのことながら、このような水揚げでは漁業者の生活は賠償で維持されている部分が大きくなりました。
たとえば、福島県漁連は2011年 3月、4月の2カ月間の損失補填だけで14億円を東電に請求しています。
単純計算で年間84億に達します。

相馬双葉漁業協同組合(福島県相馬市)の組合長 はこう言っています。

「「廃炉は早く進めてほしいし、処理水のタンクの設置に限界があるのもわかる。悩ましいが、漁業者の生活を守るためにも基本的には海洋放出に反対だ」
(毎日前掲)

漁業者は処理水タンクに限界があること、それをクリアしないと廃炉作業が行き詰まること、そして海洋放出しか手段がないことは百も承知しています。
漁業者はそんじょそこらの「放射脳」の学者などより遥かに海洋の放射能汚染の実態に熟知しており、状況を正確に把握しています。

にもかかわらずこのような口ごもった言い方になるのは、今回の海洋放出でまたもや風評が起きる可能性があるからです。
私は国内では風評はミニマムに抑えられると考えていますし、また抑えねばなりません。
抑えられねば、科学が風説に敗北することになります。
その意味でも、韓国と歩調を合わせて風評を煽っている立憲、れいわ新撰組、社民党などは強く批判されねばなりません。
もっとも彼らの影響力はいまやミニマムだとかんがえられますし、メディアもやっと「汚染水」と呼ぶことを止めたようです。
しかし残念ながら、中韓香港は日本の海産物の主な輸出先ですが、激減することは避けられないでしょう。

このような可能性が残る以上、福島漁連が建前として反対を続けるのはあたりまえであって、それはIAEAの報告書ウンヌンとは別次元です。
前述したように漁連は放射能について熟知していますから、中韓の反対とまったく次元が違います。
彼らは単に反日カードとして利用しているにすぎませんし、一部野党やメディアは政権を叩きたいだけのスケベ心で騒いでいるのとはまったく違います。

漁連は現時点で妥協したくともできないのです。
今、妥協したことは海洋放出を「承認」したと同義だと捉えられます。
いったん承認してしまえば、この後に風評被害が起きた場合、あるべき利得を失ったことによる損害補填を要求する根拠が希薄になりかねません。
仮に風評被害が起きた場合、このような結果を分かっていたから、あんたらはあの時承認したのだろうというロジックが成立しかねないのです。
そんなことはない、われわれはかつての大きな風評被害から、今回もまた風評が起き得ることを予見していたと言わねばなりません。
そのためにはここで安易に賛成にまわれないのです。

私は東日本大震災時に農業生産団体の代表をしていました。
その後に来た放射能の風評被害には徹底的に苦しめられました。
その時に受けた「東日本の農業や漁業は滅びればいい。止めることが復興だ」という差別に満ちた言葉をいまでもしっかり覚えています。
3年ぶりで思い出した2011年夏のリンチの血の味: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
私が原子力を呪いつつ脱原発派と一線を画した理由: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
「被災地瓦礫」の拒否運動は、「脱原発運動」に分断を持ち込みます: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

こんなことを叫んでいたのは、放出反対を言い続けているれいわ新撰組の山本太郎や社民党などの反原発運動のひとたちです。
このひとたちについては、いくら時間が経過しようと、水に流す気はありません。
現在もいまだなんの反省の色もなく、10年一日のように同じ馬鹿げたことを言っている彼らを見ると吐き気がします。
この人らが海洋放出反対などと言っているのは、風評を煽る反社会的行為以外なにものでもありません。
ですから、今、私が福島漁連の立場だとしたとしても、いささかでも風評被害の可能性が残り続ける限り海洋放出反対と言い続けるかもしれません。

一方、国のほうもその辺の漁連の心理はよくわかっていますから、最後の最後まで説得しましたがご理解いただけないので涙を飲んで放出いたしました、という形を作るためにギリギリまで説得活動をし続けるでしょう。
だから中韓には筋論で応じますが、漁連には筋論では通用しないので、もっとリアルな補償の話をしているはずです。
このへんは阿吽の呼吸としかいいようがありません。

 

2023年7月16日 (日)

日曜写真館 帰省して母の白髪を抜きにけり

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さすらひの果のごとくに帰省しぬ 井沢正江 

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帰省子を迎へて母や落着かぬ 日野草城

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水打つて暮れゐる街に帰省かな 高野素十

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帰省子に凛々たるは茄子胡瓜 山口青邨

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水打つて暮れゐる街に帰省かな 高野素十

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これからをどうすると言ふ帰省かな 辻 直美

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老猫の声なく啼きぬ帰省子に 山口青邨 

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隣家に大声あれは帰省の子 林翔

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黍を吹く風に帰省の夜々の夢 水原秋櫻子

 

2023年7月15日 (土)

IAEA事務局長、韓国で殴られる以外すべてをやられた

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中国が、「核汚染水」の海洋放出に反対で、「海は下水道ではない」そうです。
あんたにゃ言われたくないよ、と思いますが、こんなことを言っています。

「この報告書は日本側が海洋放出する通行証にはならない。海洋放出が汚染水を処置する為の最も安全かつ信頼性のある唯一の選択であることも証明できない」
「原発汚染水の海洋放出を頑なに決定し、太平洋を下水道と見なしている」と批判し、海洋放出計画を停止するよう求めました」
(福島テレビ7月7日)
原発処理水問題 中国は「太平洋を下水道とみなしている」と批判【福島県】(福島中央テレビ) - Yahoo!ニュース

一方韓国は与党はともかく、最近まで政権党だった「共に民主党」はあいかわらずです。

「【ソウル=上野実輝彦】処理水放出の妥当性を認めたIAEAの報告書を巡り、韓国内では冷静な対応を呼びかける与党と反発を繰り返す野党の反応が分かれた。与党「国民の力」の報道官は報告書が発表された後「今まで以上に冷静な対応が必要になる」と表明。「最高の専門家で構成されたIAEAの作業チームが2年間調査した結果であり、謙虚に受け止めねばならない」と求めた。
処理水を「核廃水」と呼び、放出に反対する野党「共に民主党」に対し、与党側は「科学的根拠なく政争のために扇動しても国際的に恥をかくだけだ」と批判し、「『怪談政治』をやめて国民の安全のため知恵を絞るべきだ」と主張した」
(東京7月4日)
「核汚染水」「核廃水」 原発処理水の海洋放出に中国や韓国が反発:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
説明のために韓国を訪れたIAEAのグロッシ事務局長に対しては度はずれた攻撃をしかけました。
さすがの中央日報も、「IAEA事務局長を国会に呼んでおきながら…韓国最大野党、怒号・デモ・暴言」と、眉をしかめているようです。
グロッシ事務局長の、共に民主党議員を見る表情にご注目を。
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「韓国最大野党「共に民主党」の一部権利党員と野党に同調する複数のユーチューバーが9日、民主党の招待で韓国国会を訪問した国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長に対して面談会場の外で「グロッシ、Go Home」を叫びながら激しい抗議デモを行った。面談会場内の状況もこれと別段変わりはなかった。汚染水放流に反対し、断食座り込み中の禹元植(ウ・ウォンシク)議員はグロッシ事務局長の面前で「セルフ検証、日本オーダーメード型調査」とし「日本に飲用水として飲めと言え」と猛非難した」
(中央7月7日)
IAEA事務局長を国会に呼んでおきながら…韓国最大野党、怒号・デモ・暴言(1)(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース
呼びつけて、ゴーホームもないもんです。
彼が帰るまでほとんどリンチ、いやほんとうのリンチ。
もう二度とこんな幼稚でクレージーな国に来るもんか、とグロッシさんは思ったことでしょうね。
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質問といっても科学性のあるものは皆無で、「いくらカネもらったんだ」というようなものばかりでした。
「グロッシ事務局長は同日、共に民主党との懇談会を終えて出国した。7日に韓国入りしたグロッシ事務局長の2泊3日間の訪韓日程中はデモ隊が常について回っていた。ある野党系メディアの記者は、グロッシ事務局長の訪韓前に日本に行き、「ワン・ミリオン(100万)ユーロ?」と質問した。
「IAEAは日本政府から100万ユーロ(約1億5600万円)を受け取り、福島原発汚染水の海洋放出が安全だという報告書を書いた」という陰謀説に基づく質問だった。グロッシ事務局長は不愉快そうな表情で「何も受け取っていない。とんでもない」と答えた」
(中央7月10日)
暴行以外のあらゆる攻撃を受けたIAEA事務局長…多事多難だった2泊3日の韓国訪問-Chosun online 朝鮮日報
そして2時間もキンポ空港に足止めしたことを「大勝利」と総括しているそうです。
バカですか、バカですよ。
「同事務局長がエレベーターから降りようとした瞬間、デモ隊が駆け寄り、もみ合いになった末、脱出した。結局、同事務局長は2時間以上も空港内部に足止めされ、翌日午前0時50分になってようやく貨物用通路から空港を後にすることができた。一部の野党系勢力は入国妨害の過程を「金浦大捷(たいしょう=大勝利の意)」と呼んだ」
(中央前掲)
韓国では、処理水はまだ放出されてもいないのに「水産物の売れ行きが激減」だそうです。
どう「放射能」と関係あるのか、塩の買い占め騒ぎまで起きているそうです。
この人らじぶんの国の空間線量知っているのかしら。
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ソウルは福島と同じか、高いのですよ。東京の4倍。
あるいは漁港で有名なプサンのすぐそばには、古里(コリ)原発がありますが、毎年50兆ベクレルのトリチウムを排出していますがご存じかな。
福島第1の「汚染水」は放出の最大値が22兆ベクレルで、これは数十年にわたるもののトータルですから、一年にすると1兆ベクレルに届くかどうかといったところです。
しかもソチラはすぐそばですが、いいんでしょうかね。

なお、この共に民主党に合流してオダを上げていた日本の野党議員がいます。
立憲とれいわの議員は、ごていねいにも韓国にまででかけて、「共に民主党」とデモまでやったそうです。
もういっそうこの2党は「共に民主党」で名称統一しちゃったらどうでしょうか。
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TBS
この馬鹿たれ議員の名前をご記憶ください。
日本側は、記載順に近藤昭一(立憲)、篠原孝(同)、 原口一博(同)、 阿部知子(同)、櫛渕万里(れいわ)、大河原雅子(立憲)、福島瑞穂(社民)、大椿裕子(同)の8議員です。
自分の国が外国から風評被害攻撃を受けているのに、それに加担するとは呆れ返った輩です。
また韓国野党が韓国国会前ですわり込み断食をしており、それに社民党が相乗りしています。
それに対する中央日報の寸評が手厳しい。
「韓国の野党は「日本の国会議員も汚染水放流に反対している」と主張し、韓日間の国際的な連帯を示したかったようだ。日本の社民党は韓国国民に「日本の有力政党」と認識されているからだ。しかしそれは文字通り過去の話だ。社民党の前身の日本社会党は自民党と共に戦後の日本政治を引っ張った有力政党だった。40年以上にわたりリベラルの看板野党として君臨し、連立政権では首相も送り出した。その社民党は今465議席ある衆議院で1議席、248議席の参議院で2議席しか持たない。この2人いる参議院議員のうちの1人が大椿氏だ」
(中央7月7日)
日本で3議席しか持たない没落野党・社民党と手を組んだ韓国167議席の第1党・共に民主【記者手帳】-Chosun online 朝鮮日報
中央日報の言うとおりで、たった2議席しか国民に支持されていないような社民なんかと一緒に「日韓連帯」なんかするんじゃないよ、ということです。
いつから中央日報さん、こんなに賢くなっちゃったのという感じです。
結局のところ、共に民主党の反「汚染水」騒動は、指桑罵槐(しそうばかい)です。
桑の木を指して、槐(えんじゅ)の木を罵る、つまり「ある人を非難しているように見えるが、実際は、それにかこつけて、遠回しに別の相手を非難するコト」です。
この場合、桑の木は日本の「汚染水」のように見えますが、真の標的は尹錫悦(ユン・ソンニョル)であることはいうまでもありません。
なんのこたぁない、親日に走るユンを叩いて政局化したいスケベ根性です。

ちなみにEUは日本の輸入食品に対する規制を8月一杯で解除するとのことです。
「欧州連合(EU)は13日、日本産食品に課している輸入規制を完全に撤廃すると正式に発表した。加盟する27カ国が福島県産の水産物などを対象に続けてきた規制が8月をめどになくなる」
(日経7月13日)

EU、日本産食品の輸入規制8月めど撤廃 正式発表 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ほんとうに国柄があぶり出されます。

2023年7月14日 (金)

エルドアンがゴネればナンでも通るのか

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トルコがゴネ続けたおかげで延び延びになっていたスウェーデンのNATO加盟を、やっとトルコが承認したようです。

「トルコのエルドアン大統領は、NATOに加盟するスウェーデンの入札を支持することに同意した、と軍事同盟のチーフイェンス・ストルテンベルグは述べた。エルドアンは、トルコの指導者がスウェーデンの入札をアンカラの議会に転送し、「批准を確実にする」と述べた」
(BBC7月12 日)
トルコはスウェーデンのNATO加盟を支持-BBCニュース

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今さらナニ言っていやがるといった感じですが、この男が議会に送れば通過するかもしれません。
とはいえ、トルコが条件にしているEU加盟交渉が渋滞したら、議会が批准なんかせんよ、といいだしかねませんが。
なおEU加盟はできっこないはずですので、まだなんともいえません。
トルコはそのくらいのちゃぶ台返しは平気でやる国ですので、スウェーデンさんお気をつけて。
まだハンガリーも批准を終えていませんが、オルバン首相はスウェーデンの加盟には問題はないと述べているので、こちらのほうはなんとかいくかもしれません。
とまれこれでいちおうは、スウェーデンはNATO32番目の加盟国となることが決定です。おめでとうございます。
スウエーデンは輝く永世中立の国だからすんばらしい、日本も日米安保を廃棄してスウエーデンに学べ、と言っていた皆様、スウエーデンも集団安保しかないと思い定めたようで、残念でした。

これもひとえにプーチン大帝の悪逆の御業の賜物です。
プーチンのウクライナ侵攻口実は、NATOが国境まで攻めてきている、ロシアは包囲されているんだぁ、というものでしたが、NATO拡大を阻止することはおろか、フィンランドとスウェーデンの北欧2カ国が数十年にわたる中立を放棄して加盟してしまい、かえってNATOを増やしてしまう結果になりました。悪いけど笑っていいかなプーチン。

今回スウェーデンの加盟を認めた会場が、ロシアの隣国であるリトアニアの首都ビルニュスだったというのも象徴的です。
橋を渡った場所にロシアの飛び地カリーニングラードがあります。
ここがバルチック艦隊の母港です。

思えばリトアニアは1990年、ソ連帝国から独立を回復した最初の国でした。
2004年にNATOに加盟し、ほぼ同時にEUにも加盟しました。
このようなリトアニア人は、ウクライナ侵略のようなことは自国にいつ降りかかってきてもおかしくはないと考えています。

「ウクライナで起きているすべてが、リトアニアの過去の出来事に非常に似ています。同じく旧ソ連時代を経験したから、ウクライナは私たちにとって身近な存在です。ウクライナの次はわれわれになるのかもしれません」
(FNN7月10日)
ロシアの“隣国”リトアニアでNATO首脳会議 今もソ連時代のトラウマ…リトアニア人の思い 現地報告(関西テレビ) - Yahoo!ニュース

「法の支配」を犯して他国を侵略するような国家に対しては、集団で互いに守るしか方法がないというのが、いまや世界の常識となっています。

このようなことを知りながら、この切迫した状況の中で、スウェーデンに嫌がらせまがいのことをしてきたのが、エルドアンという人物のエグサです。
NATO加盟には全加盟国の同意が必要で、一国でも反対すれば加盟することはできない。

トルコはその拒否権を握りしめて、スウェーデンのNATO入りを阻んできました。
同盟国からこぞって嫌われるのですから、さぞかし居心地が悪いはずですが、そんなことは馬耳東風、馬の耳に念仏、蛙のツラになんとやら。
気にするような繊細なタマではありません。

エルドアンが反対理由としたのは以下です。
第1に、トルコがテロ組織としているクルド労働者党(PKK)やYPG関係者のスウェーデンが受け入れを認めたことの取り消し。
このことについては、背に腹は変えられないスウェーデン政府は、トルコの要求に応えようとして、憲法を改正して新たなテロ対策法を成立させました。
また、トルコで起訴されている数人のトルコ人の身柄引き渡しにも同意しました。
しかし、いまだ大部分の身柄をの引き渡しは、スウェーデンの裁判所が拒んでいるために未定です。
これにて一件落着にする気だと見られています。
そりゃそうでしょうとも。これはスウェーデンの内政の干渉にほかならないのですから。

次に、今年の初めにスウェーデンでコーランを破ったり燃やしたりする「デモ」が行われました。
実はこれをやったのは元イスラム教徒だった移民がしたことですが、エルドアン政権は待ってましたとばかりにこれに噛み付き、こんな宗教差別をするような国をNATOに入れるわけにはいかない、もう永遠に批准を期待するな、と言ってのけました。
これで交渉自体が座礁してしまい、一時は加盟は絶望的だと見られていました。

ところが今年2月6日、トルコで5万人が亡くなる大地震が起きたうえに、ロシアの敗色が濃厚になってきたあたりからエルドアンは微妙にブレ始めます。
なんとまぁ、いきなり条件闘争に切り換えたのです。
トルコはスウェーデンの加盟批准を認めて欲しくば、アメリカにF16を寄こせと迫ったのです。
いつもどおり、この2者はなんの関係もありません。

単に交渉のカードとして加盟問題を弄んでいるだけだとしっかりバレますが、そんなことは頭から無視しています。
こういう図々しさを、いつもいい子でいたいうちの国の首相は少し学んだほうがいいかもしれません。ま、無理ですが。

「ワシントン=坂口幸裕】バイデン米大統領は5日、トルコの反対で難航しているスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を早期に実現するよう自ら関与していくと明言した。加盟を認める代わりにF16戦闘機の売却を米国に要求するトルコの条件を受け入れるため、売却に慎重な米連邦議会の説得に向けた調整を続ける構えだ」
(日経7月7日)
トルコにF16売却探る - 日本経済新聞 (nikkei.com)

また、今回のリビュス会議直前まで、これを呑まねぇなら、スウェーデンなんか永久に入れてやんねぇからなとど、言っていました。
そして条件闘争の上乗せで言い出したのが、オレもEUに入れろという、これまた筋違いな要求です。

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ロイター

「[イスタンブール 10日 ロイター] - トルコのエルドアン大統領は10日、同国の議会がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する前に、欧州連合(EU)はトルコのEU加盟に道を開くべきだと述べた。
リトアニアで開催されるNATO首脳会議への出発を控えた大統領は、スウェーデンの加盟は昨夏の首脳会議で合意した内容の履行にかかっているとし、トルコの譲歩を期待すべきでないと述べた」
(ロイター7月10日)
トルコ大統領、EU加盟を要求 スウェーデンNATO加盟巡り | Reuters

おいおい、EU加盟とスウェーデンのNATO加盟がどう関係があるつうの。
F-16を寄こせというのも、そもそも米国としこった原因は、トルコがロシアから対空ミサイルシステムS400を導入しようとしたことが発端です。
こんなものを入れられたら、米国製の航空機の撃墜方法を教えているようなものだとして、F-35の引き渡しを拒否しました。

「【「4月2日 AFP】米国は1日、トルコがロシアから地対空ミサイルシステム「S400」を調達する姿勢を崩していないことから、トルコへの最新鋭戦闘機「F35」の引き渡しと、F35の開発・配備計画をめぐる同国との共同事業を凍結すると表明した。トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、米国と同盟関係にある。
米国はロシアからS400を購入するとのトルコの決定に数か月前から警告を発しており、米国防総省は、トルコ側の判断はF35計画への参加を続ける姿勢とは相いれないと指摘した」
(AFP2019年4月2日)
米、トルコをF35計画から締め出し ロ製ミサイル購入受け 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

現代において、その国の最先端の武器体系を「買う」という意味は、軍事的な従属化、あるいは系統下に入ることを意味します。
国防の最新の秘密情報を開示してもらえるわけですから、それが代償となります。
小は自動小銃から大はこのような高性能ミサイルシテスムまで、大国はそうやって小国の安全保障の根幹を支配し、自らの陣営を作ってきました。
日本が海自のイージスシステムを導入できたのも、日本が米国ときわめて緊密な軍事同盟を結んで一体化しているからです。

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ロシア兵器導入で米制裁の恐れ 「クアッド」一角のインド:時事ドットコム (jiji.com)

このS-400の場合、複雑なシステムを動かすには、トルコ側からロシアへ訓練に行き、ロシアからは操作と整備のための技術要員を派遣し合わねばなりません。
そこから人脈が生まれ、政治的なパイプができ、その国の中に勢力を築き上げ、やがて準同盟関係に、そして本格的同盟関係へと発展していきます。
その動きはトルコ内部で既に始まっているはずですが、このようにその国の高度の軍事システムを移植することは、その国に長い期間の「つながり」を作ってしまうことを意味します。
いわばトルコはNATOの一員でありながら、敵から武器を売ってもらうという二股をかけたわけです。

で、米国が怒るまいことか。報復として、直ちにF-35の供与を中止してしまいました。
もちろんS-400の中でF-35を飛ばしたら、そうとうなことまでステルスの秘密が暴露されてしまうからです。
そしてそれ以上に、ロシアのNATO分断策に乗ったトルコを制裁しないわけにはいかなかったのです。
かんじんのNATOはおとがめなしというところが、ルトワック翁がいう偽薬となってしまったNATOの情けなさでした。
当時のメルケルNATOは、ロシアを敵と考えなくなりつつあったのです。

ただし面白いのは、かといってトルコがロシアの従属国家になったわけではないという点です。
ロシアが旧ソ連圏のしゃもない独裁国に作らせた、CSTO(集団安全保障条約機構)に属する、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどとは違って、いちおうNATOに属する「主権国家」の立ち位置を持っています。
そのうえこれら旧ソ連圏諸国は正規軍が1万人ていどの弱小ですが、トルコは人口6千万人に対して65万人のNATO第2の兵員数ですから堂々たる軍事強国です。

このCSTOについて小泉悠氏は、その性格をこう説明しています。

「ロシアにとってのCSTOとは、特定の驚異に備える同盟ではなく、ロシアへの忠誠度を示すインディケーター(尺度)なのです。ロシアの同盟に入ると「親藩」扱いとなり、譜代や外様よりも忠誠度が高いとみなされるわけです」
(小泉悠『ロシア点描』)

ロシアから見た、国際社会の色分けはこのようなものです。
ロシアにとって、米国というスーパーパワーと半世紀以上の戦いを続けてきたということの自負は大変なもので、冷戦の中で育ち、その終了期に青年期を終わったプーチンという男にとって、冷戦は決定的体験でした。
ソ連が崩壊したの後にロシア国内に生まれたのは、プーチンから見れば一斉に雪の下から割って出たような民主主義、協調外交という悪しき西側思想にかぶれた芽でした。
だから政権を握ったプーチンがとったのは「大国への回帰」という方法で、ソ連ではなくロシア帝国を復活する道でした。

国力が回復しない前には爪を隠して西側と協調してみせ、原油の高騰によって棚からぼた餅風に大国にふさわしい軍備が回復するやいなやロシアをリーダーとするCSTOという「ロシア勢力圏」を作り、米国とNATOに対峙させようとしました。

小泉氏によれば、この国際社会の階層をプーチンはこう見ています。
第1のグループは超大国です。米国、ロシア、中国などは強大な核を持つ国家で、かれらだけが真の意味での「国家主権」を持ちます。
第2は、これらの選ばれし超大国に追随する従属国グループです。このグループには核を持つ「半主権国」英仏と、それ以外の非核同盟国が属し 連枝、親藩から外様まで幾階層に分かれています。

ちなみに、わが日本はこのグループに属し、アメリカ幕府の親藩待遇です。
連枝としては英国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系ファイブアイズが位置します。
ですから、いくら安倍氏が「ウラジミール、きみと私は同じ未来を見ている」と叫んでも、馬鹿か、こいつはとプーチンはせせら笑ってていただろうと小泉氏はシビアです。
私も安倍氏唯一の外交の失敗は、この北方領土交渉だと考えています。

第3のグループは、インドやトルコのような反米意識をもつ主権国家で、「友好国」としてケースバイケースで協調したり反目できるゲーム相手という扱いになります。これが協商関係国家です。

「協商は互いに心を許していなからこそ成り立つということです。
むしろ、互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからないという恐怖心があるからこそ、相手を完全に怒らせないように気を使いあう。
マフィアのボス同士がよほどのことがないかぎり相手のシマを犯したり、メンツを潰さないように配慮し合うことに似ています」
(小泉前掲)

ロシアにとって、トルコが他のNATO諸国と区別されていることにご注意ください。
たとえば2017年以降、米国はロシア製武器を買った国には制裁を科すとしており、多くの国が制裁を恐れてロシア製武器の購入を手控えたのですが、例外が2国現れました。それがトルコとインドです。
インドは、ロシアからの兵器買いを止めず、ウクライナ侵攻に際して表だっての非難はせずに、ロシア産原油の輸入量はむしろ8倍にはねあがったほどです。

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NATO加盟「同意せず」 トルコ、北欧2カ国に不満:時事ドットコム (jiji.com)

トルコもインドに似ています。
トルコは、ロシアから武器を導入してみたり、今回北欧2国のNATO加盟について拒否権を発動するというトンデモをやって我を張っています。
トルコは、ひとりが君臨する権威主義国家(全体主義国家)として、ロシアと親和性を持ち、かつてのトルコ帝国の復権の野望を持つ点で、プーチンとエルドアンはよく似ています。
今回も「仲介」という言葉を使って、エルドアンはプーチンにすり寄りました。

しかもプーチン共々、決して安定した基盤を持つ独裁者ではありません。
プーチンは小国と侮って戦争をしかけて大火傷を受けてしまい、エルドアンは大地震で多くの死傷者が出た責任を問われて、楽勝だったはずの大統領選挙で苦戦しました。
よもや決戦投票で僅差になるとは当人も思っていなかったでしょう。

共に、スカッとした指導者ぶりをみせねば政権が持ちません。
ここでエルドアンとしては、米国やNATO加盟国との交渉の最前線に立っている強力な指導者の姿(←自分ではそう思っている)を国民に見せる必要があったのです。

結局、NATO議長は、トルコがスウェーデン加盟を認める見返りとして、スウェーデンはトルコの欧州連合(EU)加盟申請の再活性化を支援する、NATOは新たに「テロ対策特別調整官」を設置するということで折り合いました。
EU加盟やF-16供与など、1年前の申請時にはにひとつ触れなかったのに、途中で「永久に認めない」とゴネて追加したのですから、たいしたタマです。
トルコは、NATOがすべて加盟国の一致を必要とすることをいいことに、NATOを中露が拒否権を乱発する安保理常任理事国と同じにしてしまったのです。

本来、価値観でいえば、トルコはNATOは加盟を許されるべき国ではありませんでした。
しかしソ連の弱い下腹を扼し、かつ黒海の首根っこであるボスポラス海峡を持つ戦略的要衝に位置したが故に、半ば成り行きでNATOに加わることを認められてしまいまし。
いまもなおトルコは、ロシアの黒海艦隊を封じ込めることにおいて、重要な軍事的要衝であり続けています。
本来はウクライナを加盟させ、トルコに出ていってもらうべきなのです。

ちなみに、トルコが親日だなんてことをあいかわらずお大事にしている人がいますが、なに言ってんだか。
エルトゥールル号遭難事件は、1890年ですから140年前のこと。まだトルコ帝国の頃の話です。
そんな美談などアチラ様はとっくにお忘れですよ。
何回政体が変わったと思っているんでしょうか。

 

 

2023年7月13日 (木)

ワグネルから見る「プリコジンの乱」

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もう少し、ワグネルを見ていきましょう。
ワグネルはいわばロシアの現在そのものの部分があって、ワグネルがなにものなのかを知ることで、ロシアがもう少し鮮明に見えてきます。

まず、エフゲニー・プリゴジンとは何者なのでしょうか。
この男についてはまだ謎が多いのですが、わかっているのは1961年、当時レーニングラードと呼ばれていたサンクトペテルブルクの生まれのようです。

私はロシア人の年齢をみる尺度として、1991年12月のソ連帝国崩壊時を起点にして見ることにしています。
すると、プリゴジンは当時30歳、チェリノブイリとアフガン戦争によってと混迷した末期共産帝国で青春を過ごしたようです。

といってもプリゴジンは、帝国の崩壊時には刑務所にいました。
1979年11月にレニングラードで窃盗罪で執行猶予付きの判決、2年後には懲りずに強盗、詐欺罪で12年の懲役刑を受け、9年間壁の向こうにいたからです。
よくショイグに「お前は軍服を着ているが軍歴がないだろう」と馬鹿にしていますが、自分も軍歴はありません。
ちなみにG8の晩餐会でプーチンにサーブしていたために「プーチンのシェフ」などという褒めすぎなニックネームをもらっていますが、なんせホットドックしか作ったことがないのですから、料理人の修行もしていません。

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日経

一方、ウラジミール・プーチンは1952年生まれ、プリコジンと同じレーニングラード生まれですが、彼のほうはロシアきっての名門レーニングラード大学法学部の出身です。
帝国崩壊時は39歳で、東ドイツのドレスデン駐留のKGB中佐という上級エージェントでした。

「2017年6月、プーチン氏はKGB時代の任務が「違法な情報収集」に関係していたと明らかにした。プーチン氏はロシア国営テレビに対し、KGBのスパイは「特別な資質、特別な信念、そして特別な人格」を持った人々だったと語った」
(BBC2018年12月12日)

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プーチン氏の秘密警察身分証、ドイツで発見 旧東独シュタージ用 - BBCニュース

帝国崩壊後は、ボリス・エリツィンに接近し、KGBの後身であるFSB長官を経て連邦安全保障会議事務局長を経て、首相に抜擢され、権力会談を駆け上がります。

プリゴジンはオリガルヒ(新興財閥)であることはたしかですが、この経歴でわかるように「遅れて来たオリガルヒ」でした。
オリガルヒは、いかに早く、政府に食い込んで元共産党官僚から、帝国の国有財産を払い下げてもらうかで決まります。
資本主義が根付かなかったロシアでは、新生ロシアにおける資本の原初的蓄積は、共産党幹部と組んだ政商たちの分捕り合戦が決めたのです。
帝国崩壊時にはムショから出たばかりのホットドック売りのプリゴジンには、こんな天上の争いなど無縁だったのです。

鉄鋼王とよばれるロシア有数の資産家のアレクセイ・モルダショフは、世界鉄鋼生産者協会の副会長も務め、2020年のロシアメディアが発表した億万長者ランキングでは堂々の1位を獲得した人物です。
モルダショフの1100億ルーブル、日本円でおよそ1550億円という巨万の富は、国有チェレポヴェツ製鉄所を安値で買収し、自分の「セベルスターリ 」としたことから始まっています。

プリゴジンが出世の糸口をつかんだのが、レストランにやって来たプーチンと顔見知りになったことがきっかけだという伝説があります。
当時彼は、食品販売やレストラン経営を手がける企業のオーナーとなる成功をつかんでいましたが、たぶん初めて政府の要人と知己を得たのが、他ならぬプーチンだったようです。
このホットドック売りは、とんでもない大当たりのクジを引いたものです。

ただしプーチンの知己を得たといっても、この時期は経済の基幹産業のおいしい部分は、既にモルダショフのようなオリガルヒ先行組に食われてしまっていたために、新たなオリガルヒが入り込む隙間はまったくありませんでした。
プリゴジンはクレムリン宮殿御用達のケータリングサービスを運営利権をもらったりしていましたが、やがてさまざまな分野に展開していきます。

その資産は146億ルーブル、日本円でおよそ206億円に及びますが、鉄鋼王・モルダショフには遥かに及びません。

このレストラン業が象徴するように、プリゴジンがプーチンとのコネができた時代には、基幹産業などに食い込む余地はまったくてなかったのです。
彼の立場は、ひととで言えば「日陰者」、あるいは「新参者」でした。
ロシアの暗部、政府が表だって見せたくないもののトラブルシューターでした。
それがはっきりするのが、2014年のワグネル(グルッパ・ヴァグネラ )の設立です。
ワグネル結成が、2014年というクリミア侵略の年だというのは象徴的です。

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ワグネル・グループ - Wikipedia

ワグネルは2014年にクリミア侵攻で登場し、さらにルハンスクにおける分離親露派の支援をしました。
今回の反乱においてプリゴジンはSNSで「ウクライナはロシア系民間人を迫害なんぞしていねぇぞ」と言っていましたが、これは当時ワグネルがロシアの裏部隊としてドンバスの親露派として参戦していたから知っていたのです。

ワグネルが重宝がられたのは、「ロシア軍がウクライナ領内で活動していない状況を作るため」でした。
つまり、表だってロシア政府は「ウクライナ国内では活動していない」ように見せたいが、実はしっかりしているというグレイゾーンを必要としていました。
それは東部2州の親露派武装組織と独立政府がウクライナに攻撃されてい支援を要請しているから、ロシア軍が「特別軍事作戦」をするのだという体裁をとりたかったからです。

「ロシアのペスコフ大統領報道官は23日、ウクライナ東部2州で「独立国家」として承認した地域の親ロ派武装勢力トップが、プーチン大統領に軍事支援を要請したと明らかにした。タス通信などが伝えた。
 親ロ派は支援要請文で、東部2州の支配地域が「ウクライナ軍の攻撃にさらされている」と主張。反撃のためロシア軍の支援が必要だと訴えた。ウクライナ政府は攻撃を否定している」
(東京2022年2月24日)
ウクライナ東部2州の親ロシア派武装勢力、プーチン大統領に軍事支援を要請:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) 

この謀略に満ちた場所、ロシアの裏側の顔、それこそがワグネルに与えられた場所だったわけです。

その性格がよりはっきりするのは、翌2015年、シリアのアサド政権がロシアに軍事支援を要求したあたりです。
元々、中東やアフリカには2010年頃からロシア刑の民間軍事会社が数社進出していたのですが、その性格が非軍事的であったに対して、ワグネルは軍事の裏介入を目指していました
この時期にワグネルは、チェチェンで残虐な作戦を遂行した経験を持つ元GRU特殊部隊中佐ドミトリー・ウトキンを指揮官に据えています。
ウトキンは退役軍人で作った民間軍事会社「モラン・セキュリティ・グループ」で働き始め、世界中で警備や訓練任務に携わり、海賊に対する警備を専門にしていました。
ちなみにこの男は強烈なナチス信者で、この人物のつながりで西欧の極右とワグネルとの関係ができあがったようです。

シリアのアサド政権は、反政府派によって劣勢に立たされると、2015年にロシアに軍事支援を要求しました。

「元々、中東・アフリカにはロシアの幾つかの民間軍事会社が進出していたが、ワグネルとしては15年、ロシアがシリアのアサド政権を救うため軍事介入してから本格化した。プーチン氏との親密な関係をテコにワグネルをロシア軍の別動隊として拡大させていったのが今回の反乱の首謀者であるプリゴジン氏だ。内戦や紛争につけ入って独裁者らの警備を担当し、時には反政府勢力の掃討作戦に参加し、数百人規模の虐殺にも加担したと非難されてきた」
(佐々木伸  7月4日)
ワグネル反乱で影響必至の中東・アフリカ情勢(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

ロシア政府は空軍を派遣し、反政府派都市の無差別爆撃を行います。
この指揮をとったのが、「アルマゲドン将軍」ことプリゴジンの盟友であるスロビキン将軍です。
投入する連邦軍が空軍だけだったのは、国際世論の批判を受けた場合、陸軍と違ってさっさと逃げることが容易だったからです。
ワグネルは、この陸軍の代替としてシリアに送られて、油田警備や反政府派との戦闘に投入されました。

当時のワグネルは、囚人などで水膨れしたウクライナ戦争の今と違って、特殊部隊出身者が多くいたようですが、チェチェンでスペツナズが見せたような残虐行為を平気で働いたようです。
この時期に、ショイグとの確執の芽が生まれます。

「ワシントン・ポストなどによると、18年2月、数百人規模のシリア政府軍とワグネルの部隊が北東部のガス・油田地帯にある「コノコ・ガスプラント」を包囲、このプラントをISに占領されないよう守っていた米軍小部隊と衝突した。
戦闘は4時間にも及んだが、米軍は戦闘機やB52爆撃機、ドローンなど空軍力を動員して政府軍とワグネル部隊を壊滅させた。100人以上が殺害されたが、米軍には死傷者はいなかった。
戦闘の最中、プリゴジン氏はロシア軍に空軍の応援を何度も要請したが、ショイグ国防相らに無視され、結果として多くの犠牲者が出た。この時の恨みがロシア軍との軋轢につながったという」
(佐々木前掲)

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ワグネル統制強化、中東・アフリカで懸念高まる - WSJ

またアフリカにもワグネルは進出しました。
ソ連時代、冷戦期にアフリカを二分したロシアの勢力は衰退しきっていましたが、プーチンはアフリカを帝国再興の足掛かりとしたかったのです。

1990年代以降、アフリカはチャイナマネーの草刈り場で、当時、アフリカ各地では中国人労働者がコロニーを作り、中華料理店がはびこるようになっていきました。
中国は現地政府にワイロを送って取り込むと、ふんだんに武器を売りさばくようになっていきます。
その見返りとして鉱山やエネルギー資源を押さえたのです。

経済では中国に対抗しようもないロシアがとった方法が軍事力の提供でした。
しかも正規軍ではできないダーティな汚れ仕事を引き受けることで、現地政府に食い込んだのです。 
この手先に使われたのがワグネルで、ここでも持ち前の残虐行為を多く働いた痕跡が残っています。

「ニューヨーク・タイムズなどによると、昨年3月、政府軍がマリ中央部のモウラでイスラム過激派の掃討作戦を展開したが、約400人の住民が虐殺された。軍はヘリコプターからの無差別乱射や住民らの処刑、略奪などを5日間にわたって続けた。政府軍にはワグネルの戦闘部隊も参加していたことが目撃者の証言から明らかになっている。(略)
中央アフリカでもワグネルの蛮行が明らかになった。国連の調査団によると、ワグネルは18年にトゥアデラ大統領の警備のため契約を結び、イスラム勢力との戦闘に加わった。ある時にはワグネルの戦闘員がモスクに侵入し、祈っていたイスラム教徒住民らをその場で射殺したという」
(佐々木前掲)

ところで、ロシア政府は公式にはワグネルの存在自体を認めていません。

「その一方、ロシア政府は傭兵業を違法であるとする刑法の規定を変えようとせず、ワグネルもその他の民間軍事会社も存在しないと言い張ってきた。プリゴジン自身もワグネルとの関わりはおろか、その存在さえ認めていなかった」
(小泉悠2023年6月30日)
「プリゴジンの乱」は「プーチンの終わりの始まり」のようには見えない:小泉悠 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

ワグネルには表に出せない仕事をやらせる、公式には民間軍事会社そのものを法的には認めない、というのがプーチンの考えでした。
このように誕生の時からワグネルはロシア政府が表に出られない時に便利な日陰者、汚れ仕事をさせるちうってつけの重宝な請負人だったのです。

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BBC

この身勝手なプーチンのワグネルへの考えが露骨に出たのが、今回のウクライナ戦争でした。
ワグネルは、ウクライナ軍の反転攻勢が始まった昨年秋などから戦線に投入されていたようで、プリゴジンは公然と軍高官の戦略の不手際を激しく批判して注目を集めました。
この時期、プリコジンは公然とSNSで自らがワグネルのオーナーであることを公表し、みずから刑務所を回って囚人をリクルートしていくようになります。
受刑者だけで4万人をリクルートしたといわれています。

今年に入っても、1月に東部の要衝バフムト近郊のソレダルの制圧を巡って、ロシア国防省が連邦軍の手柄だと発表したことに怒って、戦功はワグネルにあると強くアピールしました。
このようにプリコジンは、民間軍事会社が非合法であることを逆手に取って、SNSで言いたい放題をすることで、国内世論を見方につけていきます。
結果、国防省がプリコジンの主張を認めて訂正に追い込まれる、という前代未聞の失態を犯します。
この時点で連邦軍とワグネルは互いに相いれない仲になって行くようになります。

ワグネルは昨日も述べたように小銃ひとつの軽歩兵部隊です。
「反乱」では戦車もどこからか調達したようですが、重火器はあたえられず、武器弾薬、負傷兵の後送などは、連邦軍の兵站に頼っていました。
この独自のロジスティクスがないことが、正規軍との決定的違いでした。
結局、最後は正規軍に頼らないと軍事力が発揮できないことが、今回の「反乱」の途中でガス欠で挫折ということにつながったようです。
もちろんそれはプリコジンもわかっていて、バフムトではありとあらゆる放送禁止用語を駆使して「弾はどこだ」と弾薬を要求し続けましたが、結局実に2万名に及ぶ戦死者をだしてしまい、ワグネルは半減してしまいました。

そして怒り狂ったプリゴジンを「反乱」にまで追い込んでのが、6月10日、ショイグが7月1日までにワグネルの兵士に国防省と契約を結ぶよう命令を出したことでした。
つまりはワグネル兵を一般の志願兵として再登録しろ、指揮は国防省から受けろ、ということですからそれはワグネルの解体を意味していました。

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ワグネル反乱で影響必至の中東・アフリカ情勢 (Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

「ショイグの命令から1週間後、プリゴジンは数名の部下とともにロシア国防省に乗り込み、2枚から成る書簡をショイグに手渡そうとした。国防省の傘下に入る代わりに、弾薬と重装備を必要なだけ供給することや運営資金の半分を国防省が出すことなどを要求したもので、要は国防省の下でも一定の独立を保つための条件闘争に移ったのだろう。
しかし、プリゴジンの文書は受け取りを拒否された。それどころか、ショイグをはじめとする国防省高官とさえ会うことができず、郵便窓口のようなところで金網越しに手紙を渡そうとしたところ、窓口自体をピシャリと閉められてしまうという「超塩対応」であった」
(小泉前掲)

この事件によって、ワグネルは「反乱」に追い込まれたと見るべきでしょう。

「自らの存立そのものが脅かされているという危機感がプリゴジンを駆り立てたことは間違いないだろう。ワグネルの兵士が国防省と契約し、連邦軍の傘下に入るということは、プリゴジンにとっては社会的な抹殺を意味する。ワグネルを連邦軍とは独立した存在として守り、自らの存在意義を維持するために起こした権力闘争が、今回の反乱だったと言えるだろう」
(小泉前掲)

プリゴジンは6月23日夜、自称2万5000人のワグネル兵士にモスクワへの「正義の行進」を行うようSNS上で呼び掛けました。
こうして「プリゴジンの乱」が始まったのです。

 

 

 

 

2023年7月12日 (水)

難しい「プリゴジンの乱」の後始末

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他ならぬクレムリンの報道官であるペスコフが言っているのですから、ほんとうでしょう。
「プリコジンの乱」直後の6月29日、プーチンはモスクワでプリゴジンとワグネルの指揮官30人と会談していたようです。

「ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、プーチン大統領がプリゴジン氏とモスクワのクレムリンで面会していたと発表しました。
ペスコフ報道官によると、面会はプリゴジン氏の反乱が終結した後の先月29日、3時間にわたって行われたということです。
面会にはプリゴジン氏やワグネルの部隊指揮官ら35人が出席し、プーチン大統領はワグネルの前線での働きや先月の反乱についての見解を伝えました。
一方、ワグネル側の出席者は「国家首脳や最高司令官の熱烈な支持者、兵士であり、祖国のために戦い続ける用意がある」と表明したということです」
(日テレ7月11日)
プーチン大統領 プリゴジン氏と面会していた 反乱後に直接(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

呆れたことには、ベラルーシでプリコジンで合流するといわれていたワグネル部隊も解体されないどころか国内に残留しているようです。
御大に至っては、どうやらもサンクトペテルブルクにいるとのこと。
このペスコフの言うことを信用するなら、なんらかの手打ちがあって元の鞘に収まったようです。

小泉悠氏が冷静な分析をしています。
氏の分析をベースにして、この「プリゴジンの乱」を整理していきます。
「プリゴジンの乱」は「プーチンの終わりの始まり」のようには見えない:小泉悠 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

小泉氏は、プーチンが「プリゴジンの乱」の後始末として、反乱罪に問わず特赦したことは確かだと見ているようです。

「ロシア国営放送が26日に流したプーチンの演説を見ると、プリゴジンは許さないが、進軍を停止したワグネルの兵士は「愛国者」と位置付け、国防省などの機関と契約する、ベラルーシへ行く、除隊して家族のもとへ帰るという3つの選択肢が提示されている。ルカシェンコも27日、プリゴジンがベラルーシに到着したことを明かし、ワグネルの兵士が望むならプリゴジンに合流できるとした」
(小泉前掲)

ただし、プリコジン個人はお咎めなしでそのまま特赦してしまっては、プーチンは自分が行った演説で「プリゴジンは許さん」といったこととの整合性がとれません。
たぶん29日の密談でなんらかの妥協が計られたとしても、プリゴジンがそのままワグネル軍のオーナーてい続けることは難しいはずです。
またプリコジン個人の責任をまったく問わないとなると、今回の「武装蜂起」(もどき)でヘリとお宝の空中指揮管制機まで落とされた連邦軍のメンツが立ちません。
軍は厳正な処罰を望んでいるでしょうし、軍トップのショイグなどは生命を狙われたと思っているはずですから、絶対にプリゴジンをそのままにする後始末には反対するはずです。

「乱が収束した当初、下院国防委員長のアンドレイ・カルタポロフは「ワグネルは非難されるようなことは何もしなかった」などと発言したが、同じ国防委員会の中からは「友軍殺しの責任を取らせるべきだ」という発言が出るなど、ワグネルの扱いには溝が見られる」
(小泉前掲)

力の信者であるプーチンにとって軍は絶対的存在です。
今回の「反乱」が正規軍でなかったのがせめてもの救いで、プリゴジンに南部軍管区の軍が同調していれば政権のみならず、国家崩壊意の可能性すらありました。
というのも、ロシアは歴史上2回も軍の内部対立と、クーデターの失敗で国を潰している珍しい国だからです。

一回目は、第一次世界大戦初期の1914年8月のことです。
タンネンベルクの戦いでロシア軍はドイツ軍に指揮官の反目で屈辱的大敗を喫しました。
それがきっかけでどんどんと戦況は不利になり、ロシア帝国は政治・経済の混乱のカオスとなり、それを共産党のクーデターに突かれて国家崩壊を招きました。
ソ連を生み出した10月革命は赤色テロによる軍事クーデターでした。

そのソ連も1991年、ゴルバチョフの失脚を狙った共産党左派によるクーデターが失敗したことで国家崩壊に至りました。
ソ連の国家崩壊により、ソ連圏と呼ばれる東欧、中央アジア諸国は分離独立しました。
この時、軍の介入を止めたのがエリツィンで、さらに彼に押し上げられたのがプーチンです。
当時、このふたりは「民主化の旗手」という称号を奉られていましたが、プーチンの本質は今ご覧になっているとおりです。
とまれ、2回の国家崩壊後のロシアは失敗国家そのもので、厳しい道を長期間歩むこととなりました。

それ故、プーチンは軍の起源を取ることについて誰よりも熱心で、軍を強化し続けました。
特に戦略ロケットについては膨大な予算を割いています。

その反面、陸軍の近代化はおざなりになっており、それが今回のウクライナ戦争で露呈しています。
それはさておき、プーチンは常に軍トップの国防相、参謀長には腹心を当てているおり、今回も彼がもっとも注目したのは、軍の動向だったはずです。
軍がプリゴジンにつかないことが明らかになったから「特赦」に踏み切ったのでしょう。

ただし、ここで強い姿勢なのはあんがい軍だけで、全体的にはワグネルを失うには惜しいという議論がなされているようです。
小泉氏はこのところのロシア国内の論調が、「子供は親に責任を持たない」というヨシフ・スターリンの言葉がよくでてくることを指摘しています。
「子供」つまりワグネル部隊は、「親」つまりプリコジンには責任はないとするもので、この両者を分けて考えろ、「プリゴジンには責任を取らせないといけないがワグネルの隊員たちはその限りではない」という議論です。
前述の下院国防委員長のカルタポロフはこう言っているそうです。

「歴戦のワグネルを解体すればNATOとウクライナにとってこれ以上ない贈り物になってしまう」とも述べ、軍事組織としてのワグネルはなんとか存続させてやりたいという思惑が滲む。そこで出てくるのが「法律できちんと位置付けよう」
(小泉前掲)

カルタポロフはワグネル軍の指揮官を別な人物にして、法律で位置づけろと言っているようです。
たしかにここで強く出て全体を処罰的に解体してしまい、プリコジンを牢屋に入れてしまうと、再び元の木阿弥で反乱を計画してしまうかもしれません。
ワグネルには現にバフムトでウクライナ軍と激闘を演じており、いちおう「勝った」ことになっています。
そのような経験は、逃げまどって塹壕に閉じこもった経験しかない、ロシア連邦軍にはないものです。

20230711-054945

プーチン政権に寄り添う中国、ワグネル反乱「打撃は少ない」…国内世論への飛び火も懸念 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

ワグネルは、腰抜けの連邦軍とは違って自分たちは直接にウクライナ軍と白兵戦を戦ってきたぞ、そして勝ったぞ、シリアで戦ったのもオレらだ、という強い自信を持っています。

「バフムト制圧に関して連邦軍ばかりが脚光を浴び、ワグネルの手柄が無視されているとして、プリゴジンは公然と軍への不満を口にするようになった。依然としてワグネルは非合法組織なので国防省が彼らに言及できないことは当然なのだが、ともかく前線で一番血を流してきたのは自分たちなのだ、という自負がプリゴジンにはあるのだろう。
こうした不満はシリアに送られたワグネル傭兵の手記にも出てくるものであり、日陰者であるが故のフラストレーションが組織的に溜まっていたような感じがしないでもない」
(小泉前掲)

20230711-055134

「10日以降にバフムトから撤退」 ワグネルのトップが表明 - 産経ニュース (sankei.com)

にもかかわらず、あいも変わらない軽歩兵として使い勝手よく使われてきました。
連邦軍はとうに大隊戦術群(BTG)という諸科連合となっているのに、ただの小銃ひとつの歩兵。
バフムトでは、戦車や榴弾砲、あるいはミサイルの重装備を与えられず、小銃ひとつで戦わされ、大砲の支援も乏しく、小銃の弾も満足にない、戦傷者の後送もされないので2万人も戦死してしまう、そんな憤りがワグネル軍全体にたちこめていたわけです。
その戦功もろくに称賛されずに、お前らは6月イッパイで解体だ、連邦軍の一部隊になれという命令をショイグから受けて切れたのでした。

「法律できちんと位置づける」とかんたんに言いますが、これが先日の国防省の指揮下に入れだと同じだとおもわれたら、断固としてワグネルはそれに従わないでしょう。
かといって一度「反乱」を犯した者を野放しにもできない・・・、小泉氏も「頭が痛いところだ」と言うように、プーチン自身決められないのが実相に近いのかもしれません。

 

 

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ロシアがマリウポリの市民を強制収容所に連行、南東部併合への住民投票画策か 米国大使が指摘:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

 ウクライナに平和と独立を

 

2023年7月11日 (火)

どうしてクラスター弾がウクライナに必要なのか

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ウクライナが求めていたクラスター弾について、米国がその要求に答えたことを、日本メディアはこういうトーンで伝えています。

「【ワシントン=浅井俊典】米政府は7日、殺傷力の高いクラスター弾をウクライナに供与すると発表した。ロシアに占領された領土奪還のため反転攻勢を続けるウクライナ軍を後押しする狙い。クラスター弾は民間人にも被害を及ぼす非人道兵器として100カ国以上で使用が禁止されており、人権団体は米政府の決定を批判している。(略)
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、ロシア軍とウクライナ軍の双方が昨年、クラスター弾を使用して民間人の死者を出したと指摘。米国の供与に反対していた。

クラスター弾を巡っては、使用などを全面禁止するオスロ条約に日本を含めた100カ国以上が加盟しているが、ロシアやウクライナ、米国は加盟していない。
(東京2023年7月8日9
アメリカがウクライナにクラスター弾を供与へ 民間人の死傷事例多数、人権団体は批判:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

これだけ読むと、まるで米国が非人道兵器を供与する悪魔の国のように見えます。
東京新聞は問題を人道問題にすり替えています。
そして米国ともっとも強い絆を持つ英国がクラスター弾の供与に難色を示したことで、鬼の首をとったような気分のようです。

「【ロンドン・ロイター時事】スナク英首相は8日、米政府がウクライナにクラスター弾を供与する方針を決めたことについて「英国はクラスター弾の生産や使用を禁じる条約の締結国だ」と述べ、反対する姿勢を示した」
(時事7月8日)
クラスター弾供与に反対 英首相(時事通信) - Yahoo!ニュース

ちなみに、NATO加盟国の反応は様々で、ドイツのピストリウス国防相は「オスロ条約に署名しているため、我々にその選択肢はない」と言い、フランス外務省も「我々はクラスター砲弾を製造せず、使用せず、その使用を阻止することを誓約しているが、オスロ条約に署名していない米国やウクライナは同条約に拘束されない」とも付け加えています。
共通するのは、2008年に締結されたオスロ条約に加盟しているために、物理的にも廃棄してしまったために供与できないが、米国の立場は理解できるというものです。
いわばわれわれの国はやりたくてもできないので、米国の供与は条約上は反対だが、気持ちはよくわかるというものてす。

さて、ここで問題を整理しておきましょう。

クラスター弾がオスロ条約で禁止されたのは、ひとえに子爆弾の一定割合が不発となって、濡れた地面や柔らかい地面に着弾した場合、不発弾として地雷のようて効果をしてしまうからです。
軍事的には、面制圧兵器といって、点を攻撃する通常爆弾と違って、塹壕や要塞化した軍事拠点を「面」として攻撃するためのものです。

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BBC

クラスター弾が空中で炸裂すると、そこから子爆弾が散布され目標一帯に降り注ぎます。
そのことによる効果も絶大で、まさに現在の南部や東部戦線でウクライナ軍が直面しているロシア軍の塹壕地帯に対する攻撃にうってつけです。
民間地域に落下すると悲劇をうみますが、一定のわりあいが不発弾として地雷化するために、それを撤去しない限り、その地点の移動すら困難となります。

ウクライナはこのような軍事目標以外使用しないと、米国に確約しています。
ここが重要です。ウクライナは「クラスター弾は民間人にも被害を及ぼす非人道兵器」として使用する気はないと言っています。
それは当然です。
ウクライナは自分の国の領土内で戦っており、領土外で戦う気はないのが大前提ですから、民間人にも被害を及ぼす場所で使用する可能性はゼロです。
だからオスロ条約ウンヌンは、供給するNATO側にクラスター弾がないから言っているのにすぎないのです。

今日の総額8億ドルのパッケージの装備品の中には、155mmクラスター砲弾M483A1と内蔵M42/M46子弾を含む155ミリ榴弾砲弾薬や105ミリ後継榴弾砲弾薬が含まれています。
ひとくちにクラスター爆弾といっても、あくまでも榴弾砲の砲弾が主で、自由な場所に投下できる航空機搭載型ではないことにも米国の配慮が現れています。

それを日本のメディアは、NATOの反対理由をクラスター弾が「非人道兵器だから反対している」にすり替えてしまいました。
つまり、今ウクライナが直面している南部と東部の要塞地帯に対する面制圧で極めて有効なことをNATOもよく知っているので、条約の手前賛成とはいえないが、真から反対というわけではありません。

そもそも地雷やクラスター弾の廃棄運動の向かう方向がまちがっていました。
これはカンボジアでの戦後まで残った大量の地雷が多くの民間人を傷つけて復興を遅らせたことによりますが、大量に国土に地雷をばらまいたのはポルポト軍などの共産勢力で、使用された地雷も中国製とロシア製が主でした。
自由主義陣営の軍隊が地雷を使う場合、たとえば自衛隊は設置した場所を精密に地図に残し、作戦終了後は撤去していきます。
しかし自由主義陣営は米国を除いて禁止条約を締結し、廃棄してしまいました。

禁止条約にも加わらず、兵器で民間地帯にばらまくようなロシアは非締結国として使い続けているのにです。
米国が廃棄条約を締結しないのは、中露が使い続けているからです。
核兵器禁止運動もそうですが、まずは盛大に使っているロシアを禁止させてからにしろよ、と言いたくなります。
対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約 - Wikipedia

また、今直ちに供給しないとダメだという理由があります。
反撃に出たウクライテが、思わぬ苦戦を強いられていることです。

防衛研究所防衛政策研究室・高橋杉雄室長はこう言っています。

「反転攻勢がロシア側の非常に強固に作られた陣地を攻めていく形なんですけど、その陣地を上からクラスター弾で攻撃をする形でないとなかなか突破できない状況になってきたと、クラスター弾1発で200mぐらいの範囲を制圧できるんですけど、弾薬を有効利用するためにはクラスター弾の方がいいという判断ではないかと思いますね」
アメリカの法律では、クラスター弾の不発率が1%を超えるものを他国に提供することを制限していますが、今回は大統領権限で供与が可能になったと言います。
「とにかく異例な措置ではありますね。アメリカ側とすれば、何も望んでわざわざ法律をバイパスして(クラスター弾を)送る必要なんかないわけですから、戦況がそれだけ切迫しているという判断があるのでないかと思います」
(FNN7月9日)
【クラスター弾供与】ウクライナ兵歓迎も欧州各国は批判的 米国なぜ“禁じ手”決断? (tv-asahi.co.jp)

このようなことは、NATOはよく理解しています。
今なぜ、反撃が停滞しているのか、1日数メートルしか進撃できないのか、その理由は航空優勢をロシアに握られていることと、それを制圧するだけの砲弾が不足していること、そしてなにより地雷源と要塞網に手を焼いているのです。

もうひとつ日本のメディアが報じないことは、ロシアは非締結国であることをいいことに、すでに民間の住宅地域であろうと、病院であろうと無制限に大量使用していることです。

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ロシア製クラスター弾  FNN

「ロシアがウクライナ北東部の都市ハルキウで、広く禁止されているクラスター弾を使い、無差別な砲撃で何百人もの民間人を殺害しているとする調査報告書を、人権団体アムネスティ・インターナショナルが13日、公表した。
アムネスティは報告書で、ロシア軍が9N210型または9N235型のクラスター爆弾と「散布型」兵器を繰り返し使用している証拠をつかんだとした。散布型兵器は、時間差で爆発する小型地雷を飛散させるロケット弾のこと」
(BBC2022年6月13日)
ロシア、クラスター弾をウクライナで使用か 人権団体が「証拠」報告 - BBCニュース


下の写真は、ハルキウで撮られたと思われる住宅地域におけるクラスター弾による被害状況です。
児童公園やアパートが並ぶ地域に、ロシア軍が平然とクラスター弾を投下していたことがわかります。
ロシアが民間人に対してクラスター弾を使用していることについては、アムネスティの報告書があります。
ウクライナ:「誰でもいつでも死んでもおかしくない」:ウクライナ・ハリコフでロシア軍による無差別攻撃 - アムネスティ・インターナショナル (amnesty.org)

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BBC


「空爆時に住宅棟の前にいたタティアナ・アハイェヴァさん(53)は、「いきなりあちこちで大量の花火の音がした」とアムネスティーに話した。「地面に伏せて、何かに隠れようとして。近所の家の息子、16歳のアルテム・シェヴチェンコはその場で即死した。胸に直径1センチの穴が開いていた。彼の父親は腰骨が砕け、破片が脚に刺さっていた」という。
ハルキウ中心部の病院の医師たちによると、爆撃の犠牲者の腹部、胸部、背中には貫通の傷が見られ、9N210型か9N235型のクラスター弾と一致する金属片が出てきたという。アムネスティは、約700平方メートルの範囲への爆撃で、少なくとも民間人9人が死亡、35人が負傷したとした。
市内の別の集合住宅では、建物の入り口が被弾し、高齢の女性2人が死亡し、1人が両脚を失う重傷を負った。特徴的な破砕の痕跡が、入り口と近くの廊下で見て取れたという。

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アムネスティは2週間かけ、ハルキウであった41回の空爆について調べた。その結果、少なくとも62人の市民が死亡、196人が負傷したことがわかったという。また、クラスター弾や無誘導ロケットが、買い物をしている人、食料援助の列に並んでいる人、通りを歩いていただけの人の命を奪った証拠を発見したとした」
(BBC6月13日)
ロシア、クラスター弾をウクライナで使用か 人権団体が「証拠」報告 - BBCニュース  

ここで問題となるのは不発弾の率です。

「ロシア製クラスター弾の不発率は40%だとされている。つまり、多くの小型爆弾が危険な状態で地面に放置される。それに対して平均的な不発率は20%近くだという。
米国防総省は、アメリカ製のクラスター弾の不発率は3%未満だと推計している」
(BBC前掲)

ロシア製は品質が粗悪なのか、あるいは民間地域を爆撃して子爆弾を地雷化することで社会不安を煽ろうという意図なのか、ケタ違いの不発弾の多さです。

ことの本質をズラしてクラスター弾の供給を遅らせるべきではありません。

 

 

 

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市民の反戦抗議にゴム弾 ロシア掌握のウクライナ・ヘルソン - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和を


2023年7月10日 (月)

ロシア、中国経済圏に向け直滑降

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ロシアのその名も「経済発展省」が景気のいいことを発表しています。なんとGDPが伸びるんだそうです。
こんなコロナ明けで、しかもウクライナ戦争の敗色濃厚な時期にすばらしいことです。
ただしほんとうならね。

「ロシア経済発展省は4月10日、2024年から2026年までの主要経済指標予測「2024~2026年におけるロシア経済機能化のシナリオ条件および社会経済発展見通しの基礎変数」を発表した(添付資料表参照)。外需では中国の経済回復やいまだに比較的高く推移するエネルギー資源価格を背景に、また内需では輸入代替の進展などによる製造業の回復から、実質GDP成長率は2023年が1.2%、2024年以降は2%台のプラス成長が可能だとしている」
(JETROビジネス短信)
経済発展省、2023年はプラス1.2%成長と予測(ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)

理由は、「低い失業率で安定的に推移する労働市場」と「政府の支援により製造業での民間投資は回復すると予測されている。また、輸入相手国が対ロ制裁に加担しない友好国や中立国にかわり、輸入代替が進展することで、対ロ経済制裁への一定の適応が進む。中国の経済回復もプラスに働く」(ロシア経済発展省)のだそうです。

それを受けてプーチンは「ロシア経済は順調である」と豪語してきました。
西側の制裁はまったく効いておらんゾ、国内は安定しておるゾ、頼みとする中国経済は回復するので順調であるゾ、ということのようです。 いえいえプーチン閣下お気をつけて。それは今まで水面下で既に起きていることが、表に現れていないだけのことかもしれませんよ。

たとえば、今、ロシアの主要銀行はドル・ユーロを中心とした国際的な銀行間決済システムSWIFTから排除されていますね。
しかしロシアは西側の経済制裁を受けても、モロともしないと言っていられるのはなぜでしょうか。

国際決済ができなけりゃ、いくら原油・天然ガスを売っても代金決済ができないじゃないですか。

その不思議は、ひとえに人民元建ての国際決済システムであるCIPS(Cross-Border Interbank Payment System )が国際決済しているおかげです。

「ロシア中央銀行のデータによると、人民元で代金が支払われた輸出の割合は、ウクライナ侵攻以前は、全体のわずか0.4%だったが、昨年9月には14%にまで上昇した。(略)
ロシアの貿易決済で人民元の利用が拡大するのを支えているのは、中国独自の国際的銀行間決済システムCIPSの存在だ。中国は2015年に、ドル、ユーロといった主要通貨での国際銀行間決済をほぼ支配するSWIFTに対抗する目的でCIPSを立ち上げた。
長らくその利用は広がりを欠いていたが、先進国による対ロシア金融制裁をきっかけに、流れが変わってきたのである。CIPSの今年1月の取引件数は、1日平均で2万1,000件と、侵攻前の約1.5倍になったという(日本経済新聞)「対ロシア金融制裁は、人民元の国際化を促し、国際決済における人民元の存在感を高める役割を果たしているのである」
(木内登英2023年3月3日)
ウクライナ侵攻後に中国人民元への依存が一気に進んだロシア経済 | 2023年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)


木内氏が言うように、ロシアが中国にベッタリと頼ったことは中国にとっても渡りに舟で、SWIFTに比して日陰の花に甘んじていた中国版SWIFTであるCIPSが陽の目をみることができたのです。
そしてその結果なにが起きたのかといえば、ロシアは原油や天然ガスの輸出先の過半を中国に振り向けただけではなく、代金支払いの半分を人民元建てにしました。
なんのことはない、ロシア経済の「人民元化」が急速に進んでしまったというわけです。

このロシア経済の人民元建てが進行していることは、ロシア企業の社債にも現れています。

「ロシア企業が相次ぎ中国通貨、人民元建ての社債を発行している。ウクライナ侵攻で米欧がロシアに科した制裁に参加しない中国との元建て決済が増えているためだ。ロシア政府も元建ての国債発行を検討し始めた。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は14日、中央アジア2カ国歴訪を始める。ロシアのプーチン大統領とも会談する見通しだ。両国の連携は金融面でも一段と強まりそうだ」
(日経2022年9月13日)
ロシア企業、相次ぎ人民元建て債 米欧の制裁を回避 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

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日経

中国向け原油輸出けだけではなく、インド向け原油も同じく人民元建てになりました。

「インドのバーラト石油とヒンドゥスタン石油は取引通貨の選択肢を広げるため、ロシア産原油の代金を中国人民元で支払うことを検討している」
(ブルームバーク7月4日)
インドの国営石油会社、中国人民元でロシア産原油の購入検討-関係者(Bloomberg) - Yahoo!ニュース

国際決済を人民元建てにしたことにより、原油輸出はロシアが豪語するように減少していません。
なるほどロシアの言い分にも一理あって、原油海上輸送量が、下図のように侵攻以降も減っていないのは事実です。

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NHK

それは西側に対する輸出を埋める分を中国、インド、トルコが買ったからです。
パキスタンも追随するようです。

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NHK

「侵攻開始直後の2022年3月、アメリカやイギリスなどがロシア産原油の禁輸を発表。その後、5月にはG7=主要7か国がロシア産石油の輸入禁止を発表した。先進各国の間でリスクを避けようとロシア産原油などを“買い控える”動きが見て取れるのだ。
ではなぜ輸送量全体は大きく変化しなかったのか。それは輸送量が大きく増えている国があるからだ。それが、インドや中国、トルコなどだ。データからもはっきり表れている」
(NHK2023年3月2日)
ロシア 原油タンカーを追跡せよ!なぜ制裁は効かないのか? | NHK

こういう原油市場情勢をみて、日本のメディアはよく「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大しかえって潤った」という報じ方をしていますが間違いです。
輸出が減らなかったのは買い増した国があったからで、そのために安売りして収益率はダダ下がりです。
それはロシア財務省の発表でも確認できます。

「ロシアの2022年国家予算は期首予算案1.33兆ルーブルの黒字案でしたが、実績は3.31兆ルーブルの赤字になりました。
期首想定油価(ウラル原油)バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば1.33兆ルーブル以上の大幅黒字になるはずが大幅赤字です。(略)
今年5月度の石油・ガス関連税収は5,707億ルーブルとなり、前月4月度と比較して▲12%、前年同期比▲36%。
一方、今年1~5月度の国家財政赤字は3.4兆ルーブルを超えました(予算案▲2.9兆ルーブル)。
露国家歳入の骨格たる石油・ガス関連税収は前年同期比半減、企業の利潤税(日本の法人税相当)は▲15%です」
(木内前掲)

なんのことはない、いくら売っても薄利多売で、しかも決して多売とはいえないために儲かってはいないのです。
しかも決済が人民元なので、ドルと較べて利用幅が大幅に限られます。

ではなぜ、ロシア産原油をこれらの国が買い増したのでしょうか。
人民元建てにしたことで、国際決済が可能になっただけではありません。
なおのこと、ロシアのウクライナ侵略に共鳴し、買い支えようとしたからでは毛頭ありません。
むしろ中国など、冬季五輪期間中に通告なしでやられて不愉快だったことでしょう。
理由は簡単。ロシアがエネルギー資源の輸出をバナナのたたき売りよろしく大バーゲンしたからです。
さぁ持ってッた、持ってッた、ウラル原油の大安売りだよ、つい去年までドイツや北欧で売ってたモンだ、買わなきゃソンソン!ただしお支払いは人民元でね。

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NHK

上図は、国際的な原油取引の指標の1つである北海ブレント原油の先物価格(青線)と、ロシア産であるウラル原油の価格(赤線)を示したものです。
国際相場から20~30ドル/バレル安い価格で、ロシアが売っていることがわかります。
なんのことはない期末特価ならぬ、戦争セールス価格で売っているから買い手がついたのです。

買い手は安いロシア産原油を買い込んで、石油加工品、たとえば軽油やプラスチック、合成ゴムに加工して高く売れるのですから坊主丸儲けです。
この超安値のロシア産原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して売って膨大な利ざやを稼いだのがインドです。

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出所:米EIA統計資料と他資料より筆者作成/黒色縦実線は2022年2月24日/赤色横実線は露政府想定油価
杉浦敏広 ジェイビープレス (ismedia.jp)

そしてこの代金をロシア原油輸出業者は人民元で受け取り、その中から税金として政府に納め、ロシアの政府ファンド「国民福祉基金」にプールされます。

そしてこの政府ファンドは、ドル資産を保有せずに人民元建てで60%運用するというのです。
この政府ファンドこそがロシアの戦争資金の供給元で、今年1月には、戦費捻出に苦しむ政府のために同ファンドから人民元を売却しています。
同時によほど窮したのか、金も3.6tほど売却したようです。
本来は福祉目的ファンドですから、戦費には転用できませんでしたが、ロシア政府は昨年、「緊急目的のため支出可能」とする修正法案を成立させ、戦費に転用していました。

ロシアの財務状況は火の車です。
ロシア財務省が先日の6月6日に発表した今年1~5月度の国家予算案遂行状況は、2022年国家予算が期首予算案1.33兆ルーブルの黒字案のはずが実績は3.31兆ルーブルの赤字 3.3兆の大幅赤字でした。

では、国債でも出しますか。いえ不可能です。
日本なら内国債ですからいくらでも刷ればいいのですが、ロシアは去年6月にデフォールトをしていますから、既にロシア政府に対する海外投資家の信用は失墜しきっています。
海外におけるドル建て国債は発行できず、ルーブル建て国債を募って誰が買いますか。
戦争を支える財政支出に国内資金が吸い取られる形で、消費や設備投資といった民間経済活動が打撃を受けていっています。
これがプーチンが「ロシア経済は安定している。むしろ成長している」と言うトリックの裏側です。

たぶんあの男は経済がまったくわからないんじゃないでしょうかね。

しかし内実は中国の舎弟に落ちぶれただけのことです。
財務内容も、いままで手つかずだった政府ファンドを流用して凌いでいる始末。
ただ強いだけが取り柄でしたがそれも化けの皮がはがれ、経済はメタメタ、子飼いの「武装蜂起」も起きるでは、国際勢力図もいつのまにか大きく縮小してしまいました。
国境を接する旧ソ連領の中央アジア諸国のロシア離れはもはや決定的です。

どこの国が、いままでさんざん威張り散らしてきたロシアの鼻息をうかがう必要があるのでしょうか。
このようにプーチンの版図拡大・巨大ロシア圏の夢は破れ、残ったものは軍事的にも政治的にも、そしてもちろん経済的にも中国の属国と化した惨めなロシアの姿でした。

言い換えれば、いままでの西側と広範なエネルギー貿易をしており、一時はEUの首根っこを掴んでさえいたロシアが、いまやチャイナ経済の枠内でしか動けない国になってしまったわけです。
これでは「経済発展省」ではなく「経済縮小省」です。

よくメディアはロシア人は戦争に耐え忍ぶ、困窮しても政府を支えるなどと言っていますが、それは祖国防衛戦争だからです。
あきらかな侵略であることをロシア国民が知り、それによる戦死者が死傷者18万9500─22万3000人、うち3万5500─4万3000人が戦死という恐るべき現実を知ったら、「安定した国内情勢」などと言っていられるどうか。
これを回避する唯一の道は、全占領地から撤退して経済制裁を解除してもらうことしかありませんが、ま、聞く耳をもたないでしょうが。

 

 

2023年7月 9日 (日)

日曜写真館 華やかに鏡の裡の朝ぐもり

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朝曇午後は灼くべし頭のほてり 石塚友二

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河はモネの彩得つつあり朝ぐもり 林翔 

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黒猫に小さき牙ある朝曇 田中巻子

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酒臭きわれは瓜なり朝ぐもり 三橋敏雄 

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炊き上る飯の香甘し朝曇 伊藤京子

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水口は人の顔浮く朝ぐもり 宇多喜代子

 

2023年7月 8日 (土)

西のマクロン、東のデニー

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デニー氏の訪中日程が終わったそうです。
デニー氏の「独自外交」はカクカクたる成果を揚げたようで、ありがたくももったいなくも李強首相と面会がかない、習近平閣下がかつて治めて、中央への足掛かりとした福建省にまで足を伸ばしたそうです。
いわば習のホームグランドにわざわざ出かけたということです。
そして行ったのが「琉球館」という、かつて朝貢に使われた建物です。
デニー知事にとって「友好」とは朝貢のことのようです。

「玉城氏は、周氏との会談後、「交流をさらに続けていく責任がある」と発言。明朝から清朝時代にかけて、中国へ貢ぎ物を献上するため派遣された琉球人らが拠点としていた「琉球館」を視察した。
峯村氏は「琉球館は、琉球王国の領事館の役割を果たし、朝貢貿易の象徴的な施設だ。中国側は沖縄トップを招いて『ひざまずかせた』ようなかたちで、かつて『琉球は朝貢していた国』だったと印象付ける目的があった。人民日報の1カ月後、玉城氏が訪問したことで、中国側にとっては『満額回答』を得られた。玉城氏が意識していたかは別にしても、中国の『沖縄帰属論』を今後盛り上げようという世論戦、宣伝戦に利用されかねない」と語った」
(ZAKZAK7月7日)
玉城デニー知事、かつての朝貢貿易の拠点・福建省「琉球館」訪問 中国の「沖縄帰属論」宣伝に利用されかねない - zakzak:夕刊フジ公式サイト 

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沖縄県知事、尖閣に触れず 訪中団が李氏と会談 - 産経ニュース (sankei.com)

「中国を訪問中の沖縄県の玉城デニー知事習近平国家主席ともゆかりの深い福建省を訪れ今回の訪中日程を終えました。
 3日から、日本の財界関係者らと中国を訪問している玉城知事は北京で李強首相らと会談を終えた後、琉球王国ともゆかりの深い福建省福州市を訪れました。
 福建省で17年間勤務した習近平国家主席は先月末、沖縄と福建省の関係の深さに言及するなど、知事の訪中に対し歓迎する姿勢を見せていました。
 沖縄県・玉城デニー知事:「当時の琉球と福建省との深い強い絆が琉球王国を支えていた一つの力になっていたと思うと、将来世代のために今できることをやりましょうと新たな気持ちになった」
(テレ朝7月7日)

沖縄・玉城デニー知事「習近平ゆかりの地」福建省へ(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

超大国と自認する国の首相が、外国の一地方の知事に面談することは、外交慣例ではありません。
格が違いすぎて、プロトコルが成立しないからです。
しかしそれを百も承知で格下と面談してやって貸しを作ってやり、丸め込もうとする、これが中国の宣撫工作です。

今、沖縄県が中国と会談を持つなら、ひとつしかテーマはないはずです。
毎週のように領海付近に侵入し、沖縄県民の漁船を追いかけ回している中国海警局の船の侵犯行為を即座に止めよ、以外なにがあるでしょうか。
デニーさん、いいでしょうか、今、中国海警がしているのはただの領海侵犯ではありませんよ。
尖閣水域を自国領海とした「パトロール」行為です。
侵略が来る、来ないではなく、すでにその一部は終わっているのです。

だから中国は主権の行使である警察活動をしているのであって、たまたま領海に入ってしまったということとは次元が違うのです。

にもかかわらず、どの世界に自分の県の領土領海を奪った相手国とヘラヘラ笑って「友好」する馬鹿がいるのでしょうか。
デニー知事は、まず自分が責任を持っている石垣漁民の立場でモノを言いなさい。
中国首相と面談ができたのなら、沖縄県の立場で毅然とものを言えとおもいます。
それが県知事の職責です。
それをしないのは沖縄県民に対する裏切り行為です。

ところで眼を転じれば、フランス領ポリネシアが揺れています。
大仏帝国がいよいよ終焉に近づいているようで、それは太平洋にも波及しています。

これは、今年5月の自治政府大統領選挙で、仏領ポリネシアが独立派が勝利しました。

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フランス領ポリネシアの新行政長官に選出されたモエタイ・ブロテルソン氏 AFP

「【5月13日 AFP】南太平洋のフランス領ポリネシアの議会(57議席)で12日、新行政長官を選ぶ投票が行われ、独立派のモエタイ・ブロテルソン氏が選出された。
得票数は、ブロテルソン氏が38、残留派の現職エドアルド・フリッチ氏が16だった。
先月の議会選で独立派勢力が勝利したことで、フランス当局に独立の是非を問う住民投票を働き掛けることが可能になった。
フランスのジェラルド・ダルマナン内相兼海外領土相は、住民が「変革を求めて投票した」ことを認めた。太平洋地域で大国としての影響力確保を目指すエマニュエル・マクロン政権にとっては痛手となった。
ブロテルソン氏は、「10〜15年後」には住民投票を行いたいとしている。
フランス領ポリネシアはニュージーランドの北東に位置し、人口は約23万人」
(AFP2023年5月13日)
仏領ポリネシア、新行政長官に独立派 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

この趨勢ならば、仏領ポリネシアは独立の方向に向かうでしょう。
この大仏帝国の揺らぎにつけ込んだのが中国です。

「フランスは太平洋でニューカレドニアのほか、仏領ポリネシアでも中国の接近工作に直面した。
ポリネシアのムルロア環礁は1996年までフランスの核実験場として使われ、住民には中央政府への反発が強く残る。そこに中国人富豪が経済進出し約10年前、近海に魚の巨大養殖場を設置する計画を発表。雇用創出を約束した。
2015年にポリネシア自治政府トップが訪中した際には、李源潮・国家副主席(当時)が会談。破格の待遇で迎え、巨大経済圏構想「一帯一路」に基づく経済協力を約束した」
(産経2023年7月5日)
 仏、太平洋領土への中国接近警戒 ニューカレドニアと沖縄「代表例」 - 産経ニュース (sankei.com)

マクロンの無能さはここでもいかんなく発揮されました。
ポリネシアの島民たちが独立へ向かう理由のひとつが、フランスの度重なる核実験です。

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1970年8月24日フランスがムルロワ環礁でおこなった核実験

「3月11日 AFP】フランスが1966年から1996年にかけて太平洋で行った核実験では仏領ポリネシアの「ほぼ全人口」が被ばくしたものの、同国は同地域がさらされた放射線量を隠蔽(いんぺい)していたとする報告書を、調査報道機関ディスクローズ(Disclose)が9日、公表した。
報告書は1974年7月に行われた核実験「サントール」について、「被ばく量の科学的再評価に基づき私たちが計算したところ、当時のポリネシアのほぼ全人口に相当する約11万人が汚染されていた」と結論。

また調査結果を裏付けるため、核実験で生じた有毒な雲をモデル化した結果、「仏当局が50年以上にわたり、核実験がポリネシアの人々の健康に与えた真の影響を隠してきた」ことが判明したと説明。住民の甲状腺被ばく線量について「私たちの推定値は、2006年に仏原子力庁が出した値の2倍〜10倍高い」とした」」
(AFP2021年3月11日)
仏核実験、ポリネシアの「ほぼ全人口」被ばく 調査報告書 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

そもそも、地上核実験をすること自体が非常識の極みです。
そんなにやりたきゃ、フランス本土でやりなさい。
一番押しつけやすい仏領ポリネシアに持ってきて138回も地上核実験をすれば、多くの被爆者が出ても当然です。
謝罪するしないの問題ではなく、フランスがポリネシアをどう見てきたかということの証になってしまっています。
そしていまだ補償の話はしても頭を下げないのですから、マクロンがポリネシアで嫌われるのも分かろうというものです。

そしてもうひとつのポリネシアを怒らせている原因が、フランスの経済支配の道具である「CFPフラン」(パシフィックフラン)の存在です。

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フランス領ポリネシアの通貨パシフィック・フランが可愛すぎ!お土産にもピッタリ!|TapTrip

え、フランスは1999年からユーロじゃないの、だから海外県でも一緒でしょう、ましてやもう西ヲフリカ諸国は独立しているんだからヘンだよ、と思ったら大間違い。
フランスはそんななま優しい支配者ではありません。
植民地(海外県)はもちろん旧フランス植民地でも「ご当地フラン」を使わせています。

この「ご当地フラン」が曲者で、ユーロとCFAフランの交換レートはフランスが決定することになっているのです。
たとえば形式的には独立している旧フランス領で使わせているCFAフランの1ユーロとの交換レートは655.957CFAフランです。
つまり交換レートは、ガッチリとユーロ安・CFPフラン高の水準で固定されています。
西アフリカは通貨主権がないのです。

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アフリカの旧フランス領

西アフリカは鉱物資源の宝庫で、ヨーロッパに多くの天然資源を輸出していますが、CFAフラン高に設定されているために価格競争力を常に削がれています。
日本で円高になると輸出企業がダメージを受けるのと同じ理屈です。
逆にユーロ高になればCFAフランも高くなるため、CFAフランを使用する国々は輸出が低迷して経済が疲弊します。
個々の国の経済状況を判断してレートを決定せずに、フランス本国の都合で決定したのですから、当然こうなります。
元来は世界基準の変動相場制にするのが筋で、固定相場を押しつけていることのほうがオカシイのです。
これが悪名高き植民地フランを利用した新たな収奪システムです。

それだけではありません。
植民地各国は、保有する資産の半分をフランス国庫に外貨準備として預ける仕組みになっています。
じぶんの国の富を半物預けさせてどないすると思いますが、こういうことを平気でやるのが大仏帝国です。
この収奪システムがあったおかげで、フランスは先進工業国の経済力を誇示できました。

「中央銀行が保有する資産の50%をフランス国庫に預けなければならないという現制度は、本来、アフリカの経済振興に使うべき資産をフランスに召し上げられてしまっていることを意味します。
アフリカの経済活動で得られる、年間約5000億ドル(約54兆円) 以上もの資金がフランス国庫に献上されているということです。
これに関して、フランスはアフリカを失うと経済力が第三世界レベルにまで下落すると以前シラク大統領が言及したことからも窺えます」
(economiston line2020年10月17日 )
立沢賢一 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

しかし、この仕組みを変えたくても、旧フランス領が作った西アフリカ中央銀行(BCEAO )には全員一致での採決という決まりがあり、うち2名のフランス人を常に理事にしておかねばなりません。
だから変えたくても、変えられなかったのです。

そこで、アフリカ各国はCFAフラン圏を脱して通貨主権を確率するために、 15カ国が加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を作りました。
2019年6月には、ナイジェリアの首都アブジャでECOWASの首脳会議が行われ、2020年までに共通通貨の導入を目指すことで合意し、その共通通貨の名称を「ECO」にすると決定しました。

この西アフリカのフラン圏からの離脱に際してマクロンは、2019年12月、預金の50%をフランス国庫に預託する制度の廃止、2名のフランス人理事の撤退の2点を妥協しつつ、最後の海外フランとユーロの固定相場制だけは譲らないという妥協案で切り崩しました。
結局、フランス版新ECOで落ち着いたようです。
このようにフランスはアフリカの既得権益をいまだ手放してはおらず、時代錯誤の植民地支配を続けています。

しかしそれは面倒をみてくれる超大国がなかった時の話。
西アフリカのフランス離れのすきまにロシアと中国が手を突っ込んでいます。
このような世界のフランス植民地の揺らぎの中で、仏領ポリネシアにおいて独立派の勝利が起きたわけです。
フランス領ポリネシアは、オーストラリアを扼する地理的関係もあって、中国圏に取り込もうと中国が画策しています。

このような時に、あろうことかマクロンは中国に抱きついてしまいました。
スットコドッコイにもほどがあります。

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【社説】対中抑止力を弱めるマクロン氏 - WSJ

「フランスのマクロン大統領は、米中の対立が激しくなっている台湾問題をめぐり、欧州の利益を最優先で検討し、単に米国に追従するべきではないとの考えを示した。仏紙レゼコー(電子版)などが9日、マクロン氏の訪中時のインタビューとして報じた。(略) 
レゼコーによると、台湾問題について問われたマクロン氏はまず、「欧州人としての関心事は(欧州の)統一だ」とし、中国に欧州の団結を示すためにフォンデアライエン氏と訪中したと説明。「中国も自分たちの統一を重視しており、彼らの見地からすると台湾もその一部だ。中国の考え方を理解することは重要だ」と述べた。 」
マクロン氏、台湾問題「米国に追従すべきでない」 戦略的自立を主張(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース 

こんな状況でフランスが中国に抱きつくというのは、仏領ポリネシアを差し上げましょう、という意味です。
鈍いマクロンはわかっていないかもしれませんが、習はそうとりました。
だから習近平は赤絨毯を敷いてお出迎えしたのです。

マクロンがすべきだったのは、真逆です。
太平洋、オセアニア、インド洋にまたがる西側同盟であるザ・クアッドに協力し、中国の触手から太平洋全域を守ることです。
西のマクロン、東のデニー、共に底無し沼の阿呆です。

仏領ポリネシアが置かれた状況は必ずしも沖縄とは重なりませんが、中国はフランスや日本の統治が緩んだとみるや、かならずその裂け目に手を伸ばして中国圏に引きずり込もうとします。
それは西アフリカでも南太平洋でも、はたまた東シナ海でもまったく一緒なのです。

 

2023年7月 7日 (金)

中国、処理水の海洋放出「IAEAは支持するな」だってさ

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中国が福島第1原発からの処理水の海洋放出に反対だそうです。

「北京=田島如生】中国外務省は3日、国際原子力機関(IAEA)に東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を認めないよう要求した。汪文斌副報道局長が記者会見で「核汚染水を海に流すという日本の間違った行為を支持してはいけない」と述べた。
汪氏は海洋放出について「核汚染のリスクを世界に転嫁するのは不道徳であり違法だ」と述べ、改めて反対を表明した。「日本が自分たちのやり方に固執するならば必ず非難され、代償を払うことになるだろう」と主張した」
(日経7月3日)
中国、原発処理水の海洋放出「IAEAは支持するな」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

なにが「核汚染水」だ。じぶんの国だってたっぷり出しているでしょうに。
毎度毎度のポジショントークといえばそれまでですが、まがいなりとも一国がここまで非科学的、かつ攻撃的なことを言うのですから、日本政府はきちんと反論しておかねばなりません。
その意味で、松野官房長官のコメントは結構でした。

「松野官房長官は5日の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出を巡り、中国が国際原子力機関(IAEA)への批判を強めていることについて「中国は事実に反する内容を発信している」と述べた。「科学的見地に基づいた議論を行うよう強く求めている」とも訴えた」
(読売7月5日)
「処理水」放出巡り中国がIAEA批判、松野官房長官「事実に反する内容発信」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)  

中国は対抗措置まで言い出していますから、しっかりと白黒をつける時です。
国際原子力機関(IAEA)は7月4日に、福島第1原発の処理水の海洋放出計画について「国際的な安全基準に合致する」と、科学的な妥当性を認める包括報告書を公表しています。

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経済産業省

■1.IAEA包括報告書の要旨
1)包括的な評価に基づき、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東電、原子力規制委員会及び日本政府による関係する活動は関連する国際的な安全基準に整合的であると結論付けた。
2)包括的な評価に基づき、IAEAは、東電が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論付けた。
2.また、IAEAは、同要旨の中で、放出前、放出中及び放出後もALPS処理水の放出に関し日本に関与することにコミットし、追加的レビュー及びモニタリングが継続予定であることは、国際社会に追加的な透明性及び安心を提供するものであると述べています。
経済産業省2023年7月4日

IAEAが東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書を公表しました (METI/経済産業省)

このIAEAの報告書は、IAEAタスクフォースが2年間かけて作成したものですが、この中には中国、韓国も含む11か国の原子力安全専門家が含まれています。
ですから、ただの恣意的なレポートではなく、世界的な海洋放出の基準として認められています。

ここでIAEAが強調していることは、ただ安全ですよと言っているのではなく、透明性がいかに確保されているのかどうか、という点です。
IAEAはこう述べています。

「IAEAは国際社会に透明性を提供し続け、すべての利害関係者が検証済みの事実と科学に依存して、プロセス全体を通じてこの問題の理解を知らせることを可能にします」と彼は言いました。
IAEAの安全審査は、排出段階の間も継続されます。エージェンシー(代行機関)はまた、継続的なオンサイトプレゼンス(現場状況把握)を持ち、排出施設からウェブサイトでライブオンラインモニタリングを提供します。
「これにより、日本政府と東京電力が定めた数十年にわたるプロセスを通じて、関連する国際安全基準が引き続き適用されることが保証されます」とグロッシ事務局長は述べています。
「IAEAは、包括的な評価に基づいて、日本が講じたALPS処理水の排出に対するアプローチと活動は、関連する国際安全基準と一致していると結論付けました」とIAEA事務局長のラファエル・マリアーノ・グロッシは報告書の序文で述べました。
「さらに、IAEAは、東京電力が現在計画し評価しているように、処理された水の海への制御された段階的な放出は、人々と環境への放射線学的影響はごくわずかであると指摘しています」と彼は付け加えました」
IAEA、福島の海に処理水を放出する日本の計画は国際安全基準に合致すると判断 |国際原子力機関

つまり、これまで日本は透明性を持って放出計画を進めてきており、今後放出が始まった後もIAEAは現場でモニタリングし、ライブでそれを公表し、最後の一滴まで責任を持つ」とまで言っています。
このような積み重ねについてIAEAは自身をもってこう言い切っています。

「過去2年間で、タスクフォースは日本に5回のレビューミッションを実施し、6つの技術報告書を発行し、日本政府およびFDNPSオペレーターである日本の東京電力(TEPCO)と何度も会い、数百ページの技術および規制文書を分析しました」
IAEA前掲)

これだけのプロセスを経ての結論な以上、中国一国が「IAEAは放出を認めるな」と叫んだところで、結論は変わらないのです。
仮に変わるとすれば、中国が科学的実証的データーに基づいて、結論をくつがえすに足る証拠を提出すること以外にありません。
それがないところで、大声で騒いで「対抗措置」をしたところで、そんなものはただの感情論ちすぎません。
「安全安心」とか言って科学的に立証された「安全」を、情緒的「安心」とすり替えられるのは東京都知事くらいなもので、国際原子力機関相手には通用しないのです。

そもそも海洋放出以外どんな方法があるのでしょうか。反対する人、教えて。
たとえば立憲の枝野幹事長、あんた福島第1事故の時の官房長官だった人じゃないですか。
その人がシャラとしてこんなことを言っていました。

「政府は、東京電力福島第一原子力発電所の敷地内に貯まり続けるトリチウムなどを含むALPS処理水の海洋放出を4月13日に決定した。生命と環境の安全に最大限配慮した復興を目指す我が党として、断じて容認することはできない」
(2021年4月13日)
【談話】ALPS処理水の海洋放出決定について - 立憲民主党 (cdp-japan.jp)

いままで何度も書いてきたので今さらですが、海洋放出はまったく合法的処理方法です。
別に放射性物質を含んだ処理前の排水を、そのまま海洋放出するわけじゃありませんし、原発は止めていようと廃炉工程に入っていようと、冷却し続けねばなりませんから、とうぜん排水として汚染水は出続けます。
それを本来はさっさとALPSを通して国際基準にまで浄化し、取りきれないトリチウムだけを海水放出して希釈すれば済んだことです。
現在の人類の科学では、水に含まれるトリチウムを除去する技術はありません。

水から水を取り除くようなものだからです。
ですから、トリチウム以外の核種を取り除いたのが「ALPS処理水」、あるいは単に「処理水」と呼ばれます。

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ALPS処理装置装置 東電

これを日本のメディアが悪意を込めて「原発汚染水」とか「放射性汚染水」なんて非科学的な呼び方をするから風評被害が生まれてしまいました。
ま、中国は「核汚染水」ですからさらに上をいきますがね。

福島県漁協が反対しているのは、風評を恐れているからです。

またIAEAも「周辺国に配慮しろ」とは言っていますが、はて、「周辺国」とはどの国でしょうか。
福島第1付近の海流をみてみましょう。

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気象庁 | 海水温・海流の知識 海洋の循環 (jma.go.jp)

福島近辺の海流は亜寒帯海流(上図青線)といって、日本本土から北太平洋を横断して北米大陸の米国とカナダ沿岸からアリューシャン列島から千島列島へと南下してきます。
したがってこの場合の近隣国とはカナダ、米国を指しますが、北太平洋を横断するうちに元来放出地点ですら、40倍に海水で希釈してあるのですから、検知不能になっているはずです。

この「近隣国」である米国カナダはこの海洋放出について2021年4月13日野時点で、早々とこう言っています。

「日本の決定について、米国務省は13日、「透明性を保ち、世界的な原子力安全基準に沿った手法を採用した」との見解を示している」
(ロイター2021年4月4日)

ところがムン・ジェイン政権は、「地理的に近く日本と海を共有する国として、今回の決定には大きな懸念がある」(ロイター前掲)そうで、国際海洋裁判所に提訴するぞと息巻いていました。
ムン閣下は北太平洋の海流の動きを調べもしないで言っているようで、ソチラの国のほうにはまったく行きません。
「韓国民の健康や安全、海洋環境に潜在的な脅威を及ぼし得る」(韓国外相)と言っている韓国のコリ原発は、漁業と観光の街である釜山のすぐそばです。
しかもその量もハンパではなく50兆ベクレルで、福島第1で想定されている最大排出量の倍以上です。
しかしこの自分で馬鹿を証明しているような反対も、ユン政権になって完全撤回されました。

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原発処理水、中韓も海洋放出 釜山は海産物が観光資源 - 産経ニュース (sankei.com)

同じくまったく無関係な上に自分も大量に出している中国は、対抗措置をとってやるとまで言って大騒ぎしているのは前述のとおりです。
中国は、「報告書では日本側の海洋放出の正当性と合法性は説明できない」「IAEAは、核汚染水による海洋環境や生物の健康への長期的影響を評価するのに適した機構ではない」とまで言っているのですから、その科学的証拠を対置するべきです。

まぁ、本気でやるなら、まずIAEAを脱退し、自分でグローバルサウスの舎弟たちをかき集めて新IAEAでもでっち上げることです。

世界一の親中政党である公明党は、北京のヒラメですから、今回もがこんな反対論を展開していました。

「公明党 山口那津男代表
「客観的にこの安全性を周知していくということが大事であり、国内はもちろんでありますが、国際社会に対しても、こうした評価・認識を周知していく努力が必要であります。そうしたことをやるためには一定の時間も必要なわけでありますから、例えば、いわき市の海開きは、もう7月15日からでありますので、少し時間が不足しているのではないかという趣旨で申し上げました」
(TBS2023年7月4日)
【速報】公明・山口代表「時間が不足している」 原発処理水の海洋放出開始”海水浴シーズン避けるべき”発言めぐり説明(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース  

もうとっくに海洋放出せねばならなかったのです。
ここまで引っ張るだけ引っ張ってきて、処理水貯蔵タンクが満タンが目前にきています。
なにが「時間が足りない」だ。
公明は与党であるにもかかわらずなんの具体的解決策も出さずに、海開きをはずせとは、よほど中国様のお怒りがこわいのでしょうかね。
そんなことをしたら、政府が危険だと言っているようなものです。
かえって風評は拡がってしまいます。ホントに馬鹿ですか。
政府は黙殺して放出計画に取り組んで下さい。

科学が風評に負けてはならないのです。


 

2023年7月 6日 (木)

フランス暴動がイスラム差別だって?

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フランスの暴動を伝える日本メディアのトーンが引っ掛かります。
この暴動の原因をすべて「植民地支配と移民差別」あるいは「イスラム差別」にしてしまっていることです。
ほんとうにそうでしょうか。
たとえばNHKはこうしたり顔で述べています。

「「郊外」が抱える課題は、フランスの植民地支配の歴史と密接につながっています。帝国主義の時代、フランスはイギリスなどと競い、中東やアフリカも侵略して、広大な植民地を支配しました。なかでも、なかなか手放さなかったのがアルジェリアで、アルジェリアは8年に及ぶ激しい独立闘争を余儀なくされました。しかし、独立後も、フランスと旧植民地の経済格差は深刻で、多くのアラブやアフリカの人たちがフランスに仕事を求めてやってきました。こうした人が多く移り住んだのが「郊外」です。
死亡した17歳の少年もアルジェリア系でした。
「少年はアラブ系だから殺されたのではないか」という人種差別への怒りや、「郊外」での苦しい生活に対する不満が、人々の抗議行動の背景にあるのです 」

(NHK7月3日)
フランス 警察への抗議活動が暴動に 背景は - キャッチ!世界のトップニュース - NHK

フランスが、大都市郊外に移民が多く住んでいる移民の街を作り出してしまったというのは事実です。
また、この移民らの待遇が低いのも事実でしょう。

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NHK

傲慢と言われることを承知であえて尋ねたいのですが、だからどうしたというのでしょうか。
「植民地出身だから差別されている」とNHKは言っていますが、移民は本国の労働者より待遇が低いのを百も承知でフランスに来たのではありませんか。
それでも出身国よりもずっと待遇はよかったから移民をしたはずですので、なにをいまさらです。

本来、移民は労働者階級の下にもう一層下層階級をつくることです。
そもそも差別的制度なのです。
虐げられて当然だとは思いませんが、それを知って招いたのであり、それを承知で入ってきたはずです。
しかしそれが移民2世3世になると階級が固定されているようにみえて反発が起きる、当然のことです。
だから、そもそも移民はその場しのぎの発想ではダメで、10年、20年先を考えて入れなければならないのです。
一度移民を大規模に受け入れてしまって国籍を与えたならば、必ず家族を作って増殖していきます。
しかも多くは同一言語・同一習俗・同一宗教を求めて同じ場所に住み、排外的エスニックコロニーを作ります。
これがフランスでいう「郊外」で、日本にも数カ所あります。
これは当然すぎるほど当然の人の営みで禁止するわけにはいきません。
シンガポールのように外国人女性労働者が妊娠したら国外退去などは先進国ができない以上、移民制度の必然的流れです。
まだ引き返し可能なのはわが国のような場合だけで、フランスのようにもう半世紀以上たってしまった国は、移民を元の国に返すことなど不可能です。
第一、そんなことをしたらほんとうの差別ですから、大暴動くらいでは済みませんよ。

では、法的に移民が「別の国」、即ち外国人待遇のままとまで言われれば、明確に違うと思います。
彼らは国籍を所有するフランス人です。

「国が違う」という表現を使うことで、NHKは法律的にも差別があり、社会慣習的にも宗教的にも差別が存在するから「格差」があるのだというロジックを使っています。
これでは暴徒たちがイスラム教徒だから差別されたから火を着けて回っているのだ,という暴動の肯定につながってしまいます。
この暴動を伝えるリベラルメディアのトーンの基層にあるのは、「暴動へのシンパシー」です。
暴徒は正しい怒りで商店や自動車が焼いているのだ、警察署や図書館が炎上するくらいなんだ、フランスはそれを許すべきだ、といわんばかりです。

では、ほんとうにイスラム差別がフランスにあるのでしょうか?
いやそもそも、フランスには宗教差別自体が存在しません。
フランスは、「ラシイテ」( laïcité)と呼ばれる極端な無宗教政策を実現している社会で、これほど徹底した宗教と社会・政治の分離は世界でもこの国くらいでしょう。
フランス革命は「自由・平等・友愛」という標語を掲げましたが、ここでいう「自由」とは日本人が考える一般的自由ではなく、「宗教からの自由」を指します。
たとえばハトさんは「博愛」がモットーだそうですが、そんてな甘ったるい子供のお菓子ではまったくありません。

下の写真は、「自由・平等・博愛」という革命スローガンに書き換えられた寺院の正面玄関のものです。

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寺院はことごとく破壊され、キリスト象は撤去されました。
焼けてしまってマクロンが再建を誓ったノートルダム寺院は「理性の神殿」と名前を替えられて、キリスト像、聖母マリア像は共に撤去されて、代わりに安置されたのが「マリアンヌ」という正体不明の革命の女神でした。
今は観光地として名高いモン・サン・ミッシェル修道院は牢獄となり、ヨーロッパ最大だったクリュニー修道院は他の建造物の石材供給源となってしまいました。
僧侶は見つかり次第ギロチン送りとなりました。

その破壊のすさまじさは、まさに宗教弾圧そのものでしたが、これがフランス考える「自由」です。
ここまでしてフランスは宗教と手を切ったのです。
したがってこの「自由」、正確に言えば「宗教からの自由」こそが、フランス共和制の社会規範の大前提であって、スローガンの残りふたつの「平等・友愛」は、これを理解した者に対してのみ平等と友愛を保障します、という意味にすぎません。

これが先日もふれましたがフランス革命の実相であって、フランス共和制は紆余曲折がありながらもフランス革命を継承していることを自らのレジティマシー(正統性)としています。
7月14日の革命記念日を、「パリ祭」と言いなおして浮かれているマスコミ人士には、このフランスの「自由」の意味する苛烈さがまったく理解できていないでしょう。

移民の父母や祖父母の世代は、フランスに移民をする際にこの「宗教からの自由」を理解して宣誓したはずです。
宣誓せねば帰化は認められません。
ですから、今、暴れている暴徒たちも、2015年にシャルリエブドを襲撃して多数を殺害したイスラム教テロリストの兄弟も、両親が帰化する際してこの宣誓をしてフランス国民となったはずです。

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仏シャルリ・エブドなど襲撃事件、被告14人に有罪判決 - BBCニュース

ラシイテは徹底しています。
たとえば、学校でイスラム女性がつけるマフラー(ヒジャーブ)が禁止された時、すわ、イスラム差別だと日本のメディアは騒ぎましたが、それ以前に学校ではキリスト教のロザリオの着用すら禁止されていたのです。

いや、社会ではイスラム教徒は「差別」されているはずだという見方もあるようですが、そうではありません。
宗教を侮辱する権利を認めるのもラシイテなのです。
平等にすべての宗教を批判し揶揄する「自由」を認め、他者が自分の宗教を批判する「自由」を苦しみながら許容する受忍が大前提なのです。

たとえばイスラム過激派に襲撃されたシャリルエブドは過激な風刺マンガ雑誌ですが、イスラムをおちょくるのと同じだけの情熱をかけてキリスト教もクソミソに風刺しています。
たとえばキリスト教などこんなふう。アップするのをためらったほど下品。

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むしろイスラムには手ぬるいくらいで、襲撃の原因となったのはムハンマドを描いたからだそうです。

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トルコ、仏紙のムハンマド風刺画再掲載を強く非難 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

このような、信徒にすれば侮辱以外なにものでもないとしても、これがフランス共和制が求める「自由」とは「非難と冒涜まで含む自由」であって、それと一対となった「寛容」を求めているのです。

では、今のフランスがこの「宗教からの自由」を貫徹できるのかといえば、そうでもありません。
実際にイスラム教を侮辱すれば、シャリルエブドのように皆殺しの目に合うわけですし、2020年にはこの事件に連鎖したと思われるパティ殺害事件が置きました。
サミュエル・パティという高校教師が斬首されたのです。

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「私たちは恐れていない」 教師殺害に仏各地でデモ 写真18枚 国際ニュース:AFPBB News

「10月16日の夕方に流れたニュースは、フランス中を震撼させた。パリ郊外のイブリヌ県で中学の歴史教師サミュエル・パティさん(47歳)が首を切断されて殺害されたのだ。殺害したとされる容疑者はロシア国籍で18歳のチェチェン系難民の男性。その後、容疑者はすぐに駆け付けた警官に射殺された。
容疑者の行った殺害方法も残虐であったが、実はこの事件は、教師が担当した「表現の自由」の授業において「シャルリー・エブド」に掲載されたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を使ったことが原因になっており、そのことは、さらに多くの人にショックを与えた。そう、この事件は「シャルリー・エブド」の風刺画に起因していたのだ」
(ジャパン・インデプス2020年10月19日)
仏、18歳が中学教師の首切断 | "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] (japan-indepth.jp)

ところがこのテロ事件には続きがあって、なんと告発した生徒は嘘をついていたのですから、まったくやりきれません。「

「実はサミュエル・パティ事件は、「表現の自由」を教える授業でムハンマドの風刺画を見せたとし、一人の生徒が親に訴えたことから大きく発展した事件だ。しかし、その生徒は実際はその授業には出席していなかったのだ。実は、出席していなかったことは最初の時点で他の生徒の証言で知られていた。だが、本人は授業に出席していたと警察には言っており、事件が起きてから約1か月も経った11月20日にようやく嘘をついていたと告白したのである」
(ジャパン・インデプス2021年3月11日)
仏教師斬首、発端は生徒の嘘 | "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス] (japan-indepth.jp) 

さらには女性との嘘を親が聞いて広め、それをSNSで知った者がパティを殺害する計画を練っていることを多くの者が知っておりながら誰ひとりも警告を発さず、現場でパティを探し回るテロリストたちにあいつがパティだと教えた者までいたというのですからやりきれません。
以後、現実の学校現場ではイスラム教を非難することはおろかふれることすら恐怖する空気が生まれました。
さて、どちらが「宗教差別」をしているのでしょうか。

このように、私はこのフランス暴動をイスラム差別のせいだという解説に極めて懐疑的です。
この大暴動の原因は、明らかにフランスの移民政策の失敗にあり、それ以外ではありません。

 

 

 

2023年7月 5日 (水)

伏魔殿のワグネル帝国

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あれから「反乱軍」ワグネルはどうしているのでしょうか。
結論からいえば存続していますし、プーチンは体面を保つためにアレコレ捜査させてはいますが、潰す気はないようです。
いくつか理由は考えられますが、ひとつはいくら舎弟扱いにしていたとはいえルカシェンコに頼んで手打ちを済ましてしまったことです。
身柄も主力もベラルーシに移動してしまっては、簡単には解体できません。

ふたつめには、プリゴジンが多くのプーチンの秘密を知っている人物だということです。
後述しますが、プリゴジンはアフリカ・中東地域におけるプーチンの「代理人」でした。
これだけプーチン帝国の暗部を知る人物といったら、プーチンの暗殺指揮官だった宿敵ショイグしかいないでしょう。
ワグネルは表向きには介入していないといっている地域で、シリアのように正規軍ができないダーティなことをやって現地の腐敗政権とねんごろになり、マリのように鉱山などの経済的利権を押さえて、いざとなればアレはロシア政府とは無関係ですとシラを切れる、そういう便利な役割をしていました。
ですから、もし彼が今回、米国大使館に逃げ込んだら赤ジュータンで迎えられるはずです。

そして三つ目には、現実的にワグネルという伏魔殿を解体するのは大変に困難だからです。
ウォールストリートジャーナルは、「大英帝国にとっての東インド会社のようなものだ」と言っているくらいです。

「プーチン氏はワグネルに渡った資金に関して汚職の有無を調査する方針を示した一方、ワグネルの解体には言及しておらず、今後もワグネルを一定規模で存続させる意向だとみられる。
実際、露メディアによると、ワグネルは反乱後も露各地で人員募集を継続。政権側の了承がなければ、こうした活動は不可能だ。
プーチン氏はワグネル戦闘員について、露正規兵になるか、プリゴジン氏とワグネルの受け入れを表明したベラルーシに行くかは自由だと説明。規模は不明だが、一定数の戦闘員がベラルーシに向かう見通しだ」
(産経7月2日)
露、ワグネルの存続を容認 反乱1週間、なお利用価値と判断 - 産経ニュース (sankei.com)

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ロシアの「ワグネル」、反乱後も戦闘員を募集 BBCが確認 - BBCニュース

信じがたいことに、いまでもワグネルはすべての募集センターで戦闘員を募集しています。
BBCが一軒一軒電話をして確認していますが、現在なんの変わりもなく営業中のようです。
おいおい、反乱起こした組織がただ今営業中でいいんかい、と思いますが。(笑)

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BBC

そしてこの募集センターには、武道トレーニングセンターやアスレチッククラブが併設してあります。
名称もかならずしも「ワグネル」を使っておらず、「スパルタ」や「ヴァイキング」といったマッチョな名前で営業しているところもあるようです。
当然、ワグネルのルーツであるレストランもあり、汗をかいてウォトカでもやりながらリクルーターの話を聞くという寸法なのかもしれません。
なんせ戦闘員の給料は素晴らしいので、これでは不景気なロシアの昨今わらわらと集まるはずです。

まぁ、バフムトだけで2万1千人も死んでは気楽に入隊というわけにはいかないかもしれませんが。
とまれこれだけの給料を出せ、しかも全国各地に漏れなく募集センターを設置し、最盛時は5万とも言われる軍団を持て、大砲や戦車、歩兵戦闘車といった重装備まで持てたのは、もちろん政府が支援していたからです。

「ロシアのプーチン大統領は27日、露大統領府で開いた露軍兵士との会合で、反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」を国防省などの予算で全面的に支援していたと明らかにした。また、ワグネル創設者のプリゴジン氏が手がける食品販売・飲食店運営会社「コンコルド」にも、露軍との取引で約800億ルーブル(約1350億円)を支払ったと述べた。ロシア当局は、プリゴジン氏の周辺で資金を巡る不正が無かったかを調査する方針」
(毎日6月28日)
プーチン大統領、ワグネルを「国家予算で全面的支援」認める | 毎日新聞 (mainichi.jp)

この政府支援金の1350億円はあくまでもワグネルのごく一部でしかない食品販売、レストラン経営に対してにすぎまはん。
本業の傭兵、アフリカ、中東へのプーチンの名代としての活動は別ですから、この数十倍に達してもおかしくはありません。

このようにあまり知られていませんが、ワグネルは大帝国です。
日本でおなじような武力クーデターを計画したオウム真理教など、足元にもおよばない大企業集団なのです。

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サンクト・ペテルブルグのワグネル・センター
ワグネル・グループ - Wikipedi

ワグネルは「コンコルド」と呼ばれる持ち株会社が管理する100社にも登るグループ企業で、企業帝国を成しています。
今、わかっているだけでも、傭兵業、食品販売、ジム、SNS、メディア、そしてアフリカ・中東のロシア権益確保工作です。
欧米メディアはプリゴジンに「企業家」という表現を使っていましたが、あながち大げさではありません。

「ワグネルはロシアが国際的な影響力を高め、資金集めをするための手段であり、プリゴジン氏の持ち株会社「コンコルド」が全てを管理していた。プーチン氏は自らの支援で形成された企業モンスターを今、支配下に置こうとしている。西側諸国・中東・アフリカの当局者やロシアからの亡命者の話、ワグネル傘下企業100社余りの詳細を記した文書からその実態が見えてきた」
(ウォールストリートジャーナル7月3日)
プーチン氏、ワグネル乗っ取りの難事業 - WSJ

スポーツジムから傭兵までという世界に類例のないモンスター企業でありながら、いったい傘下企業はいくつあるのか、各企業はなにをしているのか、保有資産はどれだけあるのか、財務状況はどうなのか、一切つかめていません。
当局もこの反乱後に、FSBが複数のコンコルドの子会社を捜索し、やっと傘下企業100社の詳細な文書を手に入れられたていどですから、まだ解明には時間がかかるはずです。
というか、プーチンはこれ以上の捜査をやらせないでしょう。
こんな「国家内国家」のような治外法権を許していたのは他ならぬプーチン自身ですし、巨額のキックバックをもらっていたと考える方が自然だからです。

これらの「業務」でもっとも闇に包まれているのが、アフリカ・中東諸国での動きです。

「プリゴジン氏は大統領府内での信頼が失墜するまでに、世界有数の複雑な構造を持つ、説明責任を負わない企業体を作り上げた。ロシアやその他の地域で何百もの企業がクモの巣状に根を下ろし、大勢の労働者や雇い兵、料理人、採掘地質学者、ソーシャルメディアのトロール(荒らし)に大抵は現金で報酬を払っていた」
(WSJ前掲)

たとえばマリでは、親仏政権を倒した暫定政権は10年近く続いてきたPKO部隊を追い出し、ワグネルに治安維持を丸投げしてしまいました。
この契約はブリゴジン自身が結び、その見返りの鉱物資源や巨額のマネーは不正な方法で第三国に持ち出されていました。

「仏紙ル・モンドによると、マリ軍関係者に対して拷問など違法な尋問の方法を教えているとの疑惑もある。ワグネルは親露政権を支援するために派遣された中央アフリカでも人権侵害を非難され、露軍が侵攻中のウクライナ東部でも活動していると英国防省が確認している」
(WSJ前掲)

米国は、暫定政権がワグネルに2億ドル(約290億円)超を支払ったと述べています。
ワグネルがアフリカ・中東諸国に傭兵を送るシステムはいまだ解明されきっていませんが、他のセワ・セキュリティー・サービシズ などの傭兵斡旋企業と連携していると考えられています。

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 WSJ   アフリカにおけるワグネル系と思われる傭兵

傭兵業だけではなく、ワグネル傘下の6社を超える企業が採掘事業を手がけており、同じく傘下の供給・物流企業ネットワークがこれと連携しています。

「中央アフリカ共和国では、ワグネル傘下のミダス・リソーシズが「ンダシマ金鉱山」の生産の大部分を掌握。米政府によると、未開発資源は推定で10億ドルにもなるという。また、ワグネルが同国で採掘する金やダイヤモンドは、プリゴジン氏が保有する別の会社ディアムビルを通じてアラブ首長国連邦(UAE)や欧州の市場に輸出されている」
「シリア最大のガス田の警備を担う軍事会社エブロ・ポリス(ガス田事業の利益の最大25%を受け取っていると西側当局は推測)は、人材派遣会社「サービスK LLC」と結びつく企業グループに組み込まれている。マリではイスラム過激派の反政府組織から国を守るため、同国政府がワグネルの傘下企業に2021年末から2億ドル余りを支払った、と国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は30日に述べた」
(WSJ前掲)

これら複雑にからみあった「軍産業複合体」であるワグネルを、プーチンは丸のまま奪おうとしているとみられています。
どうやるのかは皆目わかりませんが、米国流に切り刻んで部門ごとに分割することから初めて、やがてその一部を忠誠を誓ったオリガルヒに分け与えるのかもしれません。
ただプリゴジンがおとなしく引き下がるとは思えませんし、ウクライナ戦争が負けようものならもはやそれどころではないでしょう。

 

 

 

2023年7月 4日 (火)

フランスの暴動病の根源は

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フランスでまたまた全国規模の大暴動です。
鎮静化しつつあるという人がいる一方で、いっそう過激化し銃器が出現したという情報もあります。

「フランスの内務省によると、6月30日夜から7月1日未明にかけて警察官ら4万5千人を動員。拘束された数が29日夜より増えたほか、79人の警察官らが負傷した。ただ内務省は、暴力のレベルは前夜よりも低下したとしている。
フランスメディアによると、1350台の車両が放火され、学校や政府庁舎を含む266の建物が焼失または損壊したという。特に被害が大きかったのは南部マルセイユやリヨンで、商店の略奪などが発生した」
(ロイター7月2日)
フランス暴動、1300人超拘束 | Reuters

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毎年やっていますな、この国は。
フランスは民主主義の誕生した自由博愛の国なんて甘ったるいことを言っている人もいますが、本当にそうでしょうか。
よく共産主義はユダヤ人のマルクスが考え、レーニンのロシア革命で実現したと思っている人が多いのですが、間違いです。
共産主義の生まれた国はフランスで、創始者はフランス人の革命家フランソワ・ノエル・バブーフです。

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フランソワ・ノエル・バブーフ
フランス革命 – イラストストック「時短だ」 (jitanda.com)

バブーフは法律上の平等ではなく、実体としての平等を求めました。
そして実質的平等に達する唯一の方法は、私有財産を廃絶、生産手段の共同を唱えました。
そしてバブーフの描く社会では、各人の才能によって仕事をえることができ、その成果を現物で共同保管所に保管し、分配の管理を打ちたてることででした。
ね、まるっきりマルクス主義の共産主義社会そのものでしょう。

そしてその実行手段は、少数の反乱委員会の蜂起による権力掌握でした。
これが後に「バブーフの陰謀」と呼ばれるのですが、共産主義の開祖はこのフランス人でした。
後に出てくるレーニンなどのロシア人革命家は、そっくりこれを学んだだけのことです。
つまり、フランス革命の鬼っ子として誕生したのが共産主義なのです。
ですから、フランス共和制は暴力革命で成立した政権の末裔ですので、暴力を否定しれないのかもしれません。

英国人のエドモンド・バークは『フランス革命の省察』でこう言っています。

「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は抜本的であればあるほど良い、と見なす考え方と規定しうる。ここからは当然、「正しい目標をめざすかぎり、社会の変化は急速であればあるほど良い」という結論も導かれよう。
かくして成立するのが、いわゆる急進主義の理念にほかならない。フランス革命が真に重要なのは、「自由・平等・博愛」を謳ったことや、人権宣言を採択したことにあるのではなく、急進主義に基づく史上初の大規模な革命だったことにあるのだ」

バークはフランス革命のような4万人がギロチンで首をはねられ、200万人が殺され、多くの社会施設が焼かれた社会的動乱が続けば、さらに過激な急進主義思想を生み、行き着くところは極端な中央集権的軍人支配だとしています。
バークがこの本を書いたのは、ナポレオン登場の前のことですから炯眼です。
バークの見通しどおり、フランス革命はロベスピエールを経てバブーフを生み、ナポレオンに行き着きました。
そしてこのような急進主義、暴力容認体質はしっかりとフランスに根付いてしまったようです。

この急進主義は、裏返せば法の支配と秩序遵守意識が甘いということです。
目的が正しければ法を無視してよい、怒りが正当ならば社会を破壊しても許される、なぜなら被支配者は権力に抵抗する権利を持っているからだ、ということに容易になりかねません。
平たい話、なんせ国歌のラ・マルセーエーズからしてリフレインがこうなんですから。

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武器を取るのだ、我が市民よ!
隊列を整えよ!
進め!進め!
敵の不浄なる血で耕地を染めあげよ!

武器をとれと、子供に歌わせるか、って外国人は思いますが、まぁ熱いというと聞こえがいいですが過激な国柄なのです。
ワールドカップで優勝したといえばパリで大規模デモ、年金改革で取り分が減れば即暴動、移民の子が警官に撃たれたといえば全国で内戦まがいのデモをして図書館まで焼く。

どうにかしています。まともじゃありません。

「【パリ=梁田真樹子】フランスのパリ郊外でアルジェリア系の少年が警察官の発砲で死亡した事件を受けて仏各地に広がった暴動は、1日夜から2日未明にかけて続いた。収拾のめどは立っておらず、マクロン大統領は1日、暴動への対応を理由に、2日から予定していたドイツへの国賓訪問の中止を決めた。
パリ中心部のシャンゼリゼ通りで車が放火されるなどしたほか、南部のリヨンやマルセイユなどでも暴徒と警察官らが衝突し、仏内務省によると、719人が逮捕された。仏当局は対応に当たる警察官らを4万5000人に増員した」
(読売7月2日)
フランス各地で暴動、マクロン大統領はドイツ訪問中止…パリ中心部シャンゼリゼ通りでも:写真 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

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新たな拘束者719人に 仏抗議デモ 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

マクロンは力でねじ伏せようとしているようで、警官労組(そんなモンがあるんだ)までもが徹底的に「社会の害虫」をやっつけるんだ、と息巻いています。

「警察官労働組合の「Alliance Police Nationale」と「UNSA Police」は「きょう、警察官が最前線にいるのは戦争状態にあるからだ」「こうした野蛮人の群れを前にして、平静を呼び掛けるだけでは不十分であり、無理やりでもおとなしくさせなければならない」として、極右勢力の主張を唱えた。
エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領は、暴動が起きている地域に緊急事態を宣言していないが、代わりに警察官の増員を約束した。
両組合は「今は労働争議の時ではなく、こうした『社会の害虫』と戦う時だ」と主張する一方、警察官の法的保護の強化と増員が実現されない場合、「あすにでも抵抗を始める」としている」
(AFP7月1日)
暴徒は「社会の害虫」 仏警官労組 写真10枚 国際ニュース:AFPBB News

知りませんよ、こんな表現使っていると、警官労組の発言は政府の発言と同等ですからね。
子供を射殺した警官は、遺族に謝罪し殺人罪に問われるそうです。
しかしこれに対して、おかしいじゃないか、職務を果たしただけだろう、制止しているのに逃げれば撃たれる、とする声も上がっています。

【7月3日 AFP】フランスで先週、交通違反の取り締まり中に17歳の少年が射殺された事件で、発砲した警官を支援する募金が3日までに98万6000ユーロ(約1億5600万円)超に上った。事件に対する抗議デモを発端に、仏全土で暴動が起きている。(略)
警官のために集まった額は、死亡したアルジェリア系のナエル・Mさんの遺族のために集まった募金18万9000ユーロ(約3000万円)を大きく上回っている」
(AFP7月4日)
17歳射殺の警官支援の募金、1.5億円超 仏 写真16枚 国際ニュース:AFPBB News

一方、マクロンは原因をSNSとゲームだと言ってのけました。

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フランスの大暴動でマクロン大統領が記者会見を開いて批判したモノ:それはビデオゲームとSNSだった。しかしポーランド首相の見解は全く違った【元NHK特派員 石川雅一のYOUTUBEシュタインバッハ大学】 - YouTube

正気ですかね、この人物。
本気でこの大暴動の原因がSNSとゲームだと考えているのなら、いったんは力でおさえつけてもまたなにかをきっかけにして再爆発を続けます。
原因は、いみじくもポーランド首相が指摘しているとおり、いままでの過大な移民政策のツケなのです。

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フランス、怒りの抗議暴徒化で警官4万人動員-少年射殺の警官は訴追 - Bloomberg

「検問中の警官が17歳のアルジェリア系移民2世の少年を射殺した事件を機に広がった今回の暴動は、移民出身者の格差や差別是正の問題が進んでいないことを浮き彫りにした。
05年、パリ郊外で移民出身の若者の暴動が続いたとき、当時のシラク大統領は「教育や雇用の格差解消に取り組む」と約束した。05年の暴動は、アフリカ系の若者が警察に追われ、逃げ込んだ変電所で感電死したのが発端だった。
民間団体の調査によると、アラブ系や黒人住民が警察に職務質問される確率は白人の約20倍。17年の法改正で、警官の発砲要件が緩和されたことが少年射殺の遠因になったとの批判もある。検問中の警察による射殺事件は、昨年だけで13件にのぼった」
(産経7月3日)
仏暴動、市長宅放火で妻と子供負傷 1年後のパリ五輪へ募る不安 - 産経ニュース (sankei.com)

殺されたのが少年ならば、今回逮捕された2千人(!)の平均年齢は17歳だそうです。

「暴動は、移民層の多いパリ郊外や南仏マルセイユなど都市部で頻発。打ち上げ花火で役場を攻撃したり、商店を襲撃したりなど、手法が大胆になっている。フランスで今春続いた年金制度改革への抗議デモと異なり、略奪横行が著しい」
(産経7月2日)
フランス、暴動と略奪やまず 10代の移民層の「反乱」 社会の分断浮き彫り(産経新聞) - Yahoo!ニュース

暴動はフランス社会に構造化しています。
処置なしです。
暴徒の少年たちは「武器を取るのだ、我が市民よ!敵の汚れた血で耕地を染めよ」とか歌いながら、火をつけて回っているのでしょう。

 

2023年7月 3日 (月)

日韓通貨スワップ協定再開

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日韓通貨スワップ協定が、100億ドル規模の再開で合意したそうです。

「日本と韓国の両政府は29日、通貨下落などの緊急時にドルなどを融通し合う「通貨スワップ協定」を約8年ぶりに再開することで合意した。日韓関係の悪化で再開に向けた議論は長らく中断されたままだったが、両政府の関係改善が経済面にも波及している。
 鈴木俊一財務相と韓国の秋慶鎬(チュギョンホ)・経済副首相兼企画財政相が財務省内で会談し、100億ドル(約1兆4400億円)分の融通枠を再開させることで合意した。金融危機などによって韓国が要請すれば日本の持つ米ドルと韓国のウォンを、日本が要請すれば韓国の持つ米ドルと日本の円を、それぞれ交換する仕組みだ。
日本も韓国も足もとでは十分な外貨準備があるため、協定再開は金融協力の「象徴」としての意味合いが強い」
(朝日6月29日)

日韓通貨スワップ、8年ぶり再開合意 融通枠100億ドル、関係改善:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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時事

このニュースを聞いてカッカされている方も多いようですが、神経を逆撫でするようで恐縮ですが、私は仕方ないじゃないの、と思っている方です。
外交というものにも緩急の「流れ」みたいなものがあって、ムンジェイン政権時のコリアはほとんど準「敵国」でしたが、今は再び準同盟国として認識してもいいかな、というところに来ています。
まだ完全に信頼しきれていませんが、いくつかの良い兆候と、あいかわらずの所が入り交じっている段階です。
このようにスッキリしないのは、ユン・ソンニョル大統領の側が、完全に韓国国内で勝ちきったとはまだいえないからです。
ならば、勝たせねばなりません。

だいたい100億ドルていどでナニができるんですか。
思い出してほしいのですが、かつての1997年12月にキムデジュン(金大中)政権下でIMF管理に陥った時、韓国はIMF、アジア開発銀行、そして日米政府からいくら借りたか覚えていますか。
緊急融資だけで210億ドル、総額550億ドルでした。

1997年のデフォルト(債務不履行)危機の直接の原因は、タイバーツの下落から始まるアジア通貨危機でした。
貨幣価値の下落に危機感を覚えた外国人投資家らは先を争って短期資金を回収し、通貨危機につながったのです。
一方、当時韓国は、経済協力開発機構(OECD)加盟のために資本市場の自由化を進めていました。

短期資本を簡単に借りられるようにしたために各、韓国の市中銀行は海外から低金利の1年未満の短期資金を借りてきて、企業の財務状態を考慮せずに高金利で融資しました。
このため、外債規模が1991年の391億ドルから1996年には1047億ドル、1997年1208億ドルへと3倍ほどに急増し、しかもうち6割弱が短期債務でした。

こんなことをしている矢先のアジア通貨危機ですから、いきなり短期資金が恐ろしい勢いで回収され始めればどうなるのか目に見えています。
韓国は1997年12月には外貨準備高が39億ドルまで下がり、デフォルトの危機に直面しました。
そしてIMFによる緊急支援と、その後のIMF改革が始まったわけです。

このIMFはかつてのGHQのようなもので、支援と引き換えに激烈な構造改革を行いました。
財政再建、金融機関のリストラと構造改革、通商障壁の自由化、外国資本投資の自由化、企業ガバナンスの透明化、労働市場改革などとウムを言わせぬ「改革」をしていきます。
主権国家の持つ金融、貿易の保護政策をすべて撤廃させられた韓国人は、これを日本による植民地化に続く「第2の国恥」と呼んだのだそうです。
当時日本は大規模な支援をしているのですから、日本統治と並べるなよ、と思いますが。

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12月でIMF管理から25年目の韓国、再び高まる経済不安 企業の体質は改善したが、家計負債が急増(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

具体的に国民を直撃したのは、財政再建の名の下に行われた極端な財政金融引き締めでした。
結果、韓国の失業率は瞬く間にハネ上がり、多くの財閥が解体された結果、多くの韓国人が職を失い、いまだに「IMF」という名は韓国人のトラウマを刺激するようです。

では、あれから20数年たった現在はどうでしょうか。
鈴置氏は、ムンジェイン政権下では危険な兆候があったと言っています。

「実際、外国人が株を売り、資本逃避が起き始めています。
しかし、いざという時にドルを貸してくれていた日本や米国との関係が極度に悪化しました。韓国は北朝鮮の核武装を幇助する裏切り者と見切られたのです。
政府がこの危さに気付き、経済や外交政策を根本から変えれば何とかなるかもしれない。しかし文在寅(ムン・ジェイン)政権は唯我独尊。経済政策の失敗で失業率が上がろうが、異様な対北接近で米国や日本との関係が悪化しようが、全く気にとめませんでした」
(日経ビジネス2018年12月15日)
IMF危機を思い出す韓国人:日経ビジネス電子版 (nikkei.com) 

このままゴリゴリの極左従北派のムンが政権に居すわっていたなら、あるいはユン大統領に代わってイ・ジェミョン(李在明)が大統領にでもなっていたら、日本はまた韓国経済に危機に落ち込もうが、知ったことかと突き放したことでしょう。

しかしユン大統領の登場で、風向きは変わりました。
ユンは本気でムンジェイン政権の悪弊を一掃する気です。
これはわが国の国益にも沿うことです。
そもそも今回のスワップは友好復活のお印の手拭いのようなもので、大騒ぎするような額ではないし、またムンのような極左が政権に戻ってくれば、考え直せばいいのです。

ですから、当然のこととして「ホワイト国」復帰もワンセットです。

「政府は27日の閣議で、輸出手続きを簡素化する「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を復帰させる政令改正を決定した。7月21日に施行する。韓国・尹錫悦政権との間で関係改善が進む中、2019年夏に実施した厳格な輸出管理は全面解除され、約4年ぶりに正常化する」
(時事6月27日)
韓国、来月「ホワイト国」復帰 輸出管理、全面正常化―政府:時事ドットコム (jiji.com) 

これも実際はとうに韓国輸入企業は輸出管理規制をクリアしていたのですから、特にワーワーいうことでもないでしょう。
米国が口出ししたからイヤだ、LGBTと一緒だ、などと言う人がいますが神経質にすぎます。
安倍氏の時にもそうでしたが、同盟国間が極度にいがみあっていたらハブになっている米国がいいかげんにしろよと口出しされても仕方ありません。
米国の日米韓の三カ国連携が、北と中国への押さえになっているという認識は正しいのですから、それに対してあまり神経質に対応するのもいかがなものかと私は思いますがね。

相手に外交的インパクトを与えたい時には、チビチビ出すよりまとめてやるほうがメッセージがよく伝わるものなのです。
いまのうちの国の韓国へのメッセージは、ムン・ジェインによって破壊し尽くされた日韓関係の修復と発展にユン大統領が邁進するのなら、協力することにやぶさかではない、というものです。 
ムンジェインの極度の反日政策にうんざりして反韓的気分になってしまったのはわからないではないのですが、ユン大統領はムンの後継と戦いこれを征して、ムンの後始末の大掃除をしているところであることをお忘れなく。


 

2023年7月 2日 (日)

日曜写真館 思はずに臭木の花とよばれけり

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水懈く臭木の花を浮べをり 轡田 進

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つい霽れぬ空のにごりや花臭木 角田独峰 

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炎天の香なり臭木の香にあらず 相生垣瓜人

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遠くより臭木の花を見て通る 川原 程子

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紫の苞そりかへり常山木の実 拓水

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虹たつや常山木に顫ふ烏蝶 飯田蛇笏 霊芝

 

 

 

2023年7月 1日 (土)

プーチンの粛清が始まる

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プーチンの粛清が始まりました。
未確認ですが、スロビキン将軍が拘束されて査問を受けていると報じられています。

「米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は27日、米政府高官の話として、ウクライナでのロシアの軍事作戦副司令官であるセルゲイ・スロビキン氏が、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱計画を事前に知っていたと報じた。 同紙によると、この件に関する米情報当局の情報について説明を受けた政府高官らは、スロビキン氏がプリゴジン氏の計画を支援したかどうかを把握しようとしているという。 また、他のロシア軍指揮官らがプリゴジン氏を支援した可能性も示されているという。 ロイターはこの報道を独自に確認できていない。 米国防総省はロイターのコメント要請に応じていない」
(ロイター6月28日)
ロシア軍指揮官、プリゴジン氏の反乱計画を事前に認識=米紙 (fmworld.net) 

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スロビキン上級大将

またワグネルの会員となっていた軍高官30人が、事前にこの「武装蜂起」を知っていたとの報道もあります。

「プリゴジン氏の露軍人脈について、英拠点の調査研究機関「ドシエセンター」は28日、事前に反乱計画を知っていたとされるウクライナ侵略の露軍副司令官セルゲイ・スロビキン上級大将ら約30人がワグネルの名誉会員になっていたと明らかにした。スロビキン氏は反乱後に拘束されたと報じられており、露当局が今後、他の高官の粛清に乗り出す可能性がある」
(読売6月30日)
モスクワ進軍、プリゴジン氏は直前に決断か…当初の計画には含まれず(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

プリゴジンがあっさりと敗北を呑んだのは、ロシア正規軍との本格的な交戦に入れば勝ち目が無いことが分かっていたといわれていますが、それ以上にガス欠だったからです。
ワグネル先鋒部隊がボロネジの給油施設を破壊前に押さえていれば、そのままモスクワにまで数時間の距離でした。
モスクワに到達すれば、どう状況が展開したか予測がつきません。
南部軍管区は早々に降伏しましたが、これはかねてからワグネルの駐屯地がロストフ州にあったよしみだからで、モスクワ市街地で国家親衛隊と戦闘状況になれば、寝返る部隊が出る可能性がありました。
先日も書きましたが、プリゴジンが明確にクーデターと自らの行動を規定して綿密に計画を策定していれば、このようなガス欠で蜂起途中取りやめなどという醜態をさらさずにすんだはずです。

とはいえ、おそらく決起前後から、プリゴジンは各方面に決起を要請をしていたはずで、そのひとりに盟友のスロビキンがいたと思われます。
この人物が地上軍か、国家親衛隊のボスならば違ったのでしょうが、あいにく空軍でした。
しかも空軍はスロビキンがなにを命じたのかしりませんか、唯一ワグネル軍を攻撃し、大きな損害をうけた部隊です。

ところで、プーチンは片手でショイグのロシア連邦軍を使い、片手でプリゴジンのワグネルを操ってきました。
ちょうど広域暴力団プーチン組に、若頭ショイグ組と舎弟プリゴジン組があるようなもので、ちょうどナチスの国防軍と武装親衛隊のような構図です。
とうぜん、双方はプーチンの寵愛と武器補給を巡って仲がよいはずがありません。

ただし受け持ち分野が違っていました。
ショイグは軍服こそ着ていますが、軍歴はありません。政治家です。
ウクライナ侵攻が緒戦で失敗するまでプーチンの次に人気がある政治家だったほどです。
2014年のクリミア侵攻が成功した時は後継者はこの男をおいていないとすら言われていました。

ショイグは、力の信奉者であるプーチンの力の源泉である「軍」を仕切る国防相を任され、それを情報で支えるGRU(軍参謀本部情報総局)のトップでした。
ショイグが指揮を執ったGRUがやったのが暗殺政治でした。
2018年に英国ソールズベリーで起きた毒殺事件、2020年にシベリアで起きた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイの毒殺未遂事件、そして多くの亡命オリガルヒを暗殺しまくったのは、この人物の仕業です。
このようにプーチンのダークサイドを仕切っていたのが、ショイグでした。


ウクライナ戦争前まで、もしプーチンが誰かひとり側近を選ぶとすれば、長年の腹心のショイグしかいませんでした。
ウクライナを非武装化し、ロシアを西側の「軍事的脅威」から守る、というプーチンの主張を、そっくりそのままなぞってきたのがこの男だからで、この人物の失敗は実はプーチンの失敗なのです。
プライベートでも見事にタイコ持ちを努めており、プーチンのシベリアへの狩猟や釣りの旅に同行してきました。
ウクライナ戦争がこのような形でハチャハチャになる前には、唯一プーチンが意見を聞く男されていました。

しかしいまや下の写真をご覧下さい。

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BBC


この写真は、キーウ攻撃が失敗に終わった開戦3日目に撮影されたものです。
この写真はプーチンがショイグをさらし者にして罰するために撮らせたものなのでしょう。
ショイグ、お前がこれ以上失敗するなら、お前はクビだ、そうプーチンは言ったはずです。

そしてさらに戦局が思わしくなくなると、もう一方の片腕であり、ショングとは別のダークサイドを任せていたプリゴジンの出番となります。それまでワグネルはアフリカやシリアで表に出せないロシアの権益を拡大する役目を担っていました。
彼らは正規軍ではないので、他人に言えないような外国での汚い仕事を任せていました。
仮にバレても、あれは民間軍事会社がしたことで、ロシアは関知しないと言い張れるからです。

「ワグネルは何を言われても、いくらでも否定できる。そうした組織の性質がプーチン氏に気に入られ、プリゴジン氏は自らの権力基盤を構築できるようになった。そしてこの1年間で、ロシア軍や、ロシアを支配する安全保障分野のエリートたちに匹敵する存在になった」
(BBC6月26日)
ワグネル、プリゴジン氏、プーチン氏、ショイグ氏……激しい対抗意識がロシア政府への反乱招く - BBCニュース

シリアやマリにおける大規模な市民虐殺は、このワグネルがしたものです。
ウクライナで非道行為を重ねるロシア民間軍事会社、北朝鮮から兵器を入手か 正規ロシア軍をも従わせる「ワグネルグループ」とは(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

「民間軍事会社」と称していますが、もちろん100%ロシア政府がそのカネを出して育成した「影の軍隊」です。

「ロシアのプーチン大統領は27日、露大統領府で開いた露軍兵士との会合で、反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」を国防省などの予算で全面的に支援していたと明らかにした。また、ワグネル創設者のプリゴジン氏が手がける食品販売・飲食店運営会社「コンコルド」にも、露軍との取引で約800億ルーブル(約1350億円)を支払ったと述べた。ロシア当局は、プリゴジン氏の周辺で資金を巡る不正が無かったかを調査する方針」
(毎日6月26日)
プーチン大統領、ワグネルを「国家予算で全面的支援」認める(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

ロシア正規軍を信用できなくなったプーチンは、ウクライナ戦線でワグネルを前面に出します。いままでワグネルはアフリカ、中東以外ルハンシクなどの親露派の支援をしていました。
ワグネルを辞めた元兵士はこう証言します。

「「初めてルハンシクに派遣された時は、私も、現地にはナチスやファシストがいると信じ込んでいました。しかし現地で見たのは、親ロシア派勢力がまるでロシア革命での赤軍兵士のように、権力を奪取しコントロールしていた。実質、軍事クーデターのようでした。
私たち(ワグネルの兵士)は、契約書にサインし、『自分たちは存在しない』ということを受け入れました。お金さえ払ってくれればそれでよかったのです。
しかし、しばらく時間が経ってから、私は自国の人材をそのように扱ってはならないと感じるようになりました。その後、2018年の終わり頃には、これは異常な状況であり、社会にはびこっている非常に重い病気、ロシア社会の病気の結果、こうなっているのだと考えるに至りました」
(NHK2022年9月28日)

ワグネルは当初元特殊部隊出身者を雇っていましたが、やがて膨張するにしたがいそれでは間に合わなくなって囚人や精神疾患の患者を「徴兵」する権限を与えられました。
最盛時には5万(5個師団規模)の強力な軍隊になり、バフムト戦線では助っ人ではなく主力を任されていました。

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その名は「ワグネル」 ロシアの傭兵集団”とは?元メンバーが語る - クローズアップ現代 - NHK

彼らは損害を省みることなく突撃を命じられ、文字通り鉄砲玉としてすり潰されました。
このバフムトだけで2万人近く戦死したと言われています。

このプリゴジンがウクライナ侵攻司令官として押し込んだのが、「ハルマゲドン将軍」ことゼルゲイ・スロビキンでした。
プリコジンは、シリア内戦で市民虐殺をしていた時に、空軍現地司令官のスロビキンと緊密なつながりを持ったようです。

プーチンは去年10月18日にクリミア大橋がウクライナの攻撃で破壊されると、プリゴジンの推薦を得たスロビキンを最高司令官に任命しました。

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セルゲイ・スロビキン将軍
ム破壊計画もその一環、露軍、ヘルソン州ドニプロ川右岸から「撤退」準備へ ロシアの「ハルマゲドン将軍」

スロベキン将軍は別名「ハルマゲドン将軍」と呼ばれ、2017年にシリアでロシア軍を指揮している間、アレッポへの無差別爆撃を指揮した人物です。

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「ここは地獄」、変わり果てたアレッポの街 シリア内戦(1/3) - CNN.co.jp

「(スロベキンは)1990年代のタジキスタンやチェチェンでの紛争、そして最近では2015年にロシアがアサド政権側に付いて介入したシリア内戦に参加した。空爆作戦の経験がないにも関わらず、ロシア航空宇宙軍の司令官として、シリア北部アレッポの大部分を消滅させた空爆を指揮した。
英イーストアングリア大学のウォルドロン教授は、ロシアはシリア内戦に介入し、無制限の空爆と民間人への攻撃を繰り広げたと指摘する。ロシア軍の攻撃の責任者だったスロヴィキン氏は、「必要などんな手段も使う用意があるのは明らか」だったという。
米ワシントンを拠点とするシンクタンク「中東研究所」のシリア・プログラム責任者、チャールズ・リスター氏は、スロヴィキン氏は「敵に対して絶対的に容赦ない態度」をとり、戦闘員と民間人を同一視していると話す。
スロヴィキン氏の指揮のもと、ロシア部隊は神経ガス「サリン」の使用隠ぺいに関与したと、リスター氏は言う。 シリア北西部ハーン・シェイフンで80人以上が死亡した化学攻撃が起きる数分前に、シリアの航空機にサリンが積み込まれるのをロシア部隊が目撃していたのだという」
(BBC2022年10月13日)
あだなは「アルマゲドン将軍」 ウクライナ侵攻の新総司令官、スロヴィキン将軍とはどんな人物か - BBCニュース

プーチンからスロビキンが命じられたことは、全力を上げてウクライナの電力網、ダム、通信、水道、下水処理場、火力発電所を徹底的に破壊し尽くすことでした。
電力網は、開戦以来すでにロシアの主要な攻撃目標でしたが、さらにスロビキンに与えられたのは、発電所を稼働させ続けるためにに必要な燃料供給プラント、送電網、そして市民を冷蔵庫と闇に投げ込む街の集中暖房施設でした。
スロビキンは高価な精密誘導兵器を使って、病院や住宅、電力インフラを攻撃し続けたのです。

そしてこの人物もまた、プリゴジンの乱に連座して粛清されるようです。
ショイグは無能、プリゴジンは反乱、スロビキンはそれに内通、さてさてプーチンは誰を信じてよいものやら。
こうしてプーチンの周囲に「そして誰もいなくなった」、となる日は近いようです。

 

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

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