どうしてクラスター弾がウクライナに必要なのか
![S-007_20230710023601 S-007_20230710023601](https://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/images/s-007_20230710023601.jpg)
「【ワシントン=浅井俊典】米政府は7日、殺傷力の高いクラスター弾をウクライナに供与すると発表した。ロシアに占領された領土奪還のため反転攻勢を続けるウクライナ軍を後押しする狙い。クラスター弾は民間人にも被害を及ぼす非人道兵器として100カ国以上で使用が禁止されており、人権団体は米政府の決定を批判している。(略)
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、ロシア軍とウクライナ軍の双方が昨年、クラスター弾を使用して民間人の死者を出したと指摘。米国の供与に反対していた。
クラスター弾を巡っては、使用などを全面禁止するオスロ条約に日本を含めた100カ国以上が加盟しているが、ロシアやウクライナ、米国は加盟していない。
(東京2023年7月8日9
アメリカがウクライナにクラスター弾を供与へ 民間人の死傷事例多数、人権団体は批判:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
これだけ読むと、まるで米国が非人道兵器を供与する悪魔の国のように見えます。
東京新聞は問題を人道問題にすり替えています。
そして米国ともっとも強い絆を持つ英国がクラスター弾の供与に難色を示したことで、鬼の首をとったような気分のようです。
「【ロンドン・ロイター時事】スナク英首相は8日、米政府がウクライナにクラスター弾を供与する方針を決めたことについて「英国はクラスター弾の生産や使用を禁じる条約の締結国だ」と述べ、反対する姿勢を示した」
(時事7月8日)
クラスター弾供与に反対 英首相(時事通信) - Yahoo!ニュース
ちなみに、NATO加盟国の反応は様々で、ドイツのピストリウス国防相は「オスロ条約に署名しているため、我々にその選択肢はない」と言い、フランス外務省も「我々はクラスター砲弾を製造せず、使用せず、その使用を阻止することを誓約しているが、オスロ条約に署名していない米国やウクライナは同条約に拘束されない」とも付け加えています。
共通するのは、2008年に締結されたオスロ条約に加盟しているために、物理的にも廃棄してしまったために供与できないが、米国の立場は理解できるというものです。
いわばわれわれの国はやりたくてもできないので、米国の供与は条約上は反対だが、気持ちはよくわかるというものてす。
さて、ここで問題を整理しておきましょう。
クラスター弾がオスロ条約で禁止されたのは、ひとえに子爆弾の一定割合が不発となって、濡れた地面や柔らかい地面に着弾した場合、不発弾として地雷のようて効果をしてしまうからです。
軍事的には、面制圧兵器といって、点を攻撃する通常爆弾と違って、塹壕や要塞化した軍事拠点を「面」として攻撃するためのものです。
BBC
クラスター弾が空中で炸裂すると、そこから子爆弾が散布され目標一帯に降り注ぎます。
そのことによる効果も絶大で、まさに現在の南部や東部戦線でウクライナ軍が直面しているロシア軍の塹壕地帯に対する攻撃にうってつけです。
民間地域に落下すると悲劇をうみますが、一定のわりあいが不発弾として地雷化するために、それを撤去しない限り、その地点の移動すら困難となります。
ウクライナはこのような軍事目標以外使用しないと、米国に確約しています。
ここが重要です。ウクライナは「クラスター弾は民間人にも被害を及ぼす非人道兵器」として使用する気はないと言っています。
それは当然です。
ウクライナは自分の国の領土内で戦っており、領土外で戦う気はないのが大前提ですから、民間人にも被害を及ぼす場所で使用する可能性はゼロです。
だからオスロ条約ウンヌンは、供給するNATO側にクラスター弾がないから言っているのにすぎないのです。
今日の総額8億ドルのパッケージの装備品の中には、155mmクラスター砲弾M483A1と内蔵M42/M46子弾を含む155ミリ榴弾砲弾薬や105ミリ後継榴弾砲弾薬が含まれています。
ひとくちにクラスター爆弾といっても、あくまでも榴弾砲の砲弾が主で、自由な場所に投下できる航空機搭載型ではないことにも米国の配慮が現れています。
それを日本のメディアは、NATOの反対理由をクラスター弾が「非人道兵器だから反対している」にすり替えてしまいました。
つまり、今ウクライナが直面している南部と東部の要塞地帯に対する面制圧で極めて有効なことをNATOもよく知っているので、条約の手前賛成とはいえないが、真から反対というわけではありません。
そもそも地雷やクラスター弾の廃棄運動の向かう方向がまちがっていました。
これはカンボジアでの戦後まで残った大量の地雷が多くの民間人を傷つけて復興を遅らせたことによりますが、大量に国土に地雷をばらまいたのはポルポト軍などの共産勢力で、使用された地雷も中国製とロシア製が主でした。
自由主義陣営の軍隊が地雷を使う場合、たとえば自衛隊は設置した場所を精密に地図に残し、作戦終了後は撤去していきます。
しかし自由主義陣営は米国を除いて禁止条約を締結し、廃棄してしまいました。
禁止条約にも加わらず、兵器で民間地帯にばらまくようなロシアは非締結国として使い続けているのにです。
米国が廃棄条約を締結しないのは、中露が使い続けているからです。
核兵器禁止運動もそうですが、まずは盛大に使っているロシアを禁止させてからにしろよ、と言いたくなります。
対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約 - Wikipedia
また、今直ちに供給しないとダメだという理由があります。
反撃に出たウクライテが、思わぬ苦戦を強いられていることです。
防衛研究所防衛政策研究室・高橋杉雄室長はこう言っています。
「反転攻勢がロシア側の非常に強固に作られた陣地を攻めていく形なんですけど、その陣地を上からクラスター弾で攻撃をする形でないとなかなか突破できない状況になってきたと、クラスター弾1発で200mぐらいの範囲を制圧できるんですけど、弾薬を有効利用するためにはクラスター弾の方がいいという判断ではないかと思いますね」
アメリカの法律では、クラスター弾の不発率が1%を超えるものを他国に提供することを制限していますが、今回は大統領権限で供与が可能になったと言います。
「とにかく異例な措置ではありますね。アメリカ側とすれば、何も望んでわざわざ法律をバイパスして(クラスター弾を)送る必要なんかないわけですから、戦況がそれだけ切迫しているという判断があるのでないかと思います」
(FNN7月9日)
【クラスター弾供与】ウクライナ兵歓迎も欧州各国は批判的 米国なぜ“禁じ手”決断? (tv-asahi.co.jp)
このようなことは、NATOはよく理解しています。
今なぜ、反撃が停滞しているのか、1日数メートルしか進撃できないのか、その理由は航空優勢をロシアに握られていることと、それを制圧するだけの砲弾が不足していること、そしてなにより地雷源と要塞網に手を焼いているのです。
もうひとつ日本のメディアが報じないことは、ロシアは非締結国であることをいいことに、すでに民間の住宅地域であろうと、病院であろうと無制限に大量使用していることです。
ロシア製クラスター弾 FNN
「ロシアがウクライナ北東部の都市ハルキウで、広く禁止されているクラスター弾を使い、無差別な砲撃で何百人もの民間人を殺害しているとする調査報告書を、人権団体アムネスティ・インターナショナルが13日、公表した。
アムネスティは報告書で、ロシア軍が9N210型または9N235型のクラスター爆弾と「散布型」兵器を繰り返し使用している証拠をつかんだとした。散布型兵器は、時間差で爆発する小型地雷を飛散させるロケット弾のこと」
(BBC2022年6月13日)
ロシア、クラスター弾をウクライナで使用か 人権団体が「証拠」報告 - BBCニュース
下の写真は、ハルキウで撮られたと思われる住宅地域におけるクラスター弾による被害状況です。
児童公園やアパートが並ぶ地域に、ロシア軍が平然とクラスター弾を投下していたことがわかります。
ロシアが民間人に対してクラスター弾を使用していることについては、アムネスティの報告書があります。
ウクライナ:「誰でもいつでも死んでもおかしくない」:ウクライナ・ハリコフでロシア軍による無差別攻撃 - アムネスティ・インターナショナル (amnesty.org)
BBC
「空爆時に住宅棟の前にいたタティアナ・アハイェヴァさん(53)は、「いきなりあちこちで大量の花火の音がした」とアムネスティーに話した。「地面に伏せて、何かに隠れようとして。近所の家の息子、16歳のアルテム・シェヴチェンコはその場で即死した。胸に直径1センチの穴が開いていた。彼の父親は腰骨が砕け、破片が脚に刺さっていた」という。
ハルキウ中心部の病院の医師たちによると、爆撃の犠牲者の腹部、胸部、背中には貫通の傷が見られ、9N210型か9N235型のクラスター弾と一致する金属片が出てきたという。アムネスティは、約700平方メートルの範囲への爆撃で、少なくとも民間人9人が死亡、35人が負傷したとした。
市内の別の集合住宅では、建物の入り口が被弾し、高齢の女性2人が死亡し、1人が両脚を失う重傷を負った。特徴的な破砕の痕跡が、入り口と近くの廊下で見て取れたという。
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アムネスティは2週間かけ、ハルキウであった41回の空爆について調べた。その結果、少なくとも62人の市民が死亡、196人が負傷したことがわかったという。また、クラスター弾や無誘導ロケットが、買い物をしている人、食料援助の列に並んでいる人、通りを歩いていただけの人の命を奪った証拠を発見したとした」
(BBC6月13日)
ロシア、クラスター弾をウクライナで使用か 人権団体が「証拠」報告 - BBCニュース
ここで問題となるのは不発弾の率です。
「ロシア製クラスター弾の不発率は40%だとされている。つまり、多くの小型爆弾が危険な状態で地面に放置される。それに対して平均的な不発率は20%近くだという。
米国防総省は、アメリカ製のクラスター弾の不発率は3%未満だと推計している」
(BBC前掲)
ロシア製は品質が粗悪なのか、あるいは民間地域を爆撃して子爆弾を地雷化することで社会不安を煽ろうという意図なのか、ケタ違いの不発弾の多さです。
ことの本質をズラしてクラスター弾の供給を遅らせるべきではありません。
市民の反戦抗議にゴム弾 ロシア掌握のウクライナ・ヘルソン - 産経ニュース (sankei.com)
ウクライナに平和を
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条約に加盟してない国の話だから問題無し!NATO加入問題では取り上げられるかもしれないけど。その前に使い切るでしょう。
とはいってもアメリカも既に「条約準拠」した弾頭しか生産していないので、今回ウクライナに供給されるのは在庫処分。155ミリ榴弾砲なら子弾は88個です。航空機から落とすヤツなら400個。
ウクライナとしても国内で塹壕戦の面制圧に使うので何の問題もありません。ロシアが市街地にバカスカ撃ち込んだのとは訳が違います。
また、制限条約にしても子弾を10個までにして確実に爆発するように改良するという内容で、クラスター弾だから何でも悪いみたいに書くマスコミもおバカですね。
むしろ日本は条約は流れると見ていたんですが、制限反対派だったドイツがメルケル政権下で裏切りやがった!と。
特に日本のような島国は他国から着上陸されるような(かつての想定はソ連)状況なら海岸線で迎撃するのに最適な兵器ですから。
毎日新聞のカメラマンがシリアだったかで取材した帰りに現地土産感覚で2個がワイヤーで繋がってるのをブツが何かも知らずにアメリカンクラッカーよろしくカチャカチャやって(現地のガキかよ)大丈夫だったので持ち帰ろうとしたら、空港の手荷物検査で爆発して職員が死亡した!なんてアホ過ぎる事件もありました!
投稿: 山形 | 2023年7月11日 (火) 06時07分
「五味ボマー」の事ですね。「戦場から安易にモノを持ち帰ってはいけない」と言う鉄則を無視して無関係の空港職員を死傷させた外道でした。
20年経って変態新聞ではこの事実は「無かった事」になってるんでしょうね。
投稿: KOBA | 2023年7月11日 (火) 10時29分
少し前は劣化ウラン弾でギャーギャー騒いでた
「汚染水」と同じように「怖そうな名前」で真偽とか気にせずに批判しやすいもんね
記事自体はまあ、事実の歪曲と印象操作の目的に則って書いてるだけだし存在自体はもう仕方がなんだろうけど、乗っかる方の読者はもうちょっと考えたりしないのだろうか
投稿: しゃちく | 2023年7月11日 (火) 11時43分
あー、シリアじゃなくイラクだったか。
投稿: 山形 | 2023年7月12日 (水) 05時58分