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2023年7月 5日 (水)

伏魔殿のワグネル帝国

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あれから「反乱軍」ワグネルはどうしているのでしょうか。
結論からいえば存続していますし、プーチンは体面を保つためにアレコレ捜査させてはいますが、潰す気はないようです。
いくつか理由は考えられますが、ひとつはいくら舎弟扱いにしていたとはいえルカシェンコに頼んで手打ちを済ましてしまったことです。
身柄も主力もベラルーシに移動してしまっては、簡単には解体できません。

ふたつめには、プリゴジンが多くのプーチンの秘密を知っている人物だということです。
後述しますが、プリゴジンはアフリカ・中東地域におけるプーチンの「代理人」でした。
これだけプーチン帝国の暗部を知る人物といったら、プーチンの暗殺指揮官だった宿敵ショイグしかいないでしょう。
ワグネルは表向きには介入していないといっている地域で、シリアのように正規軍ができないダーティなことをやって現地の腐敗政権とねんごろになり、マリのように鉱山などの経済的利権を押さえて、いざとなればアレはロシア政府とは無関係ですとシラを切れる、そういう便利な役割をしていました。
ですから、もし彼が今回、米国大使館に逃げ込んだら赤ジュータンで迎えられるはずです。

そして三つ目には、現実的にワグネルという伏魔殿を解体するのは大変に困難だからです。
ウォールストリートジャーナルは、「大英帝国にとっての東インド会社のようなものだ」と言っているくらいです。

「プーチン氏はワグネルに渡った資金に関して汚職の有無を調査する方針を示した一方、ワグネルの解体には言及しておらず、今後もワグネルを一定規模で存続させる意向だとみられる。
実際、露メディアによると、ワグネルは反乱後も露各地で人員募集を継続。政権側の了承がなければ、こうした活動は不可能だ。
プーチン氏はワグネル戦闘員について、露正規兵になるか、プリゴジン氏とワグネルの受け入れを表明したベラルーシに行くかは自由だと説明。規模は不明だが、一定数の戦闘員がベラルーシに向かう見通しだ」
(産経7月2日)
露、ワグネルの存続を容認 反乱1週間、なお利用価値と判断 - 産経ニュース (sankei.com)

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ロシアの「ワグネル」、反乱後も戦闘員を募集 BBCが確認 - BBCニュース

信じがたいことに、いまでもワグネルはすべての募集センターで戦闘員を募集しています。
BBCが一軒一軒電話をして確認していますが、現在なんの変わりもなく営業中のようです。
おいおい、反乱起こした組織がただ今営業中でいいんかい、と思いますが。(笑)

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BBC

そしてこの募集センターには、武道トレーニングセンターやアスレチッククラブが併設してあります。
名称もかならずしも「ワグネル」を使っておらず、「スパルタ」や「ヴァイキング」といったマッチョな名前で営業しているところもあるようです。
当然、ワグネルのルーツであるレストランもあり、汗をかいてウォトカでもやりながらリクルーターの話を聞くという寸法なのかもしれません。
なんせ戦闘員の給料は素晴らしいので、これでは不景気なロシアの昨今わらわらと集まるはずです。

まぁ、バフムトだけで2万1千人も死んでは気楽に入隊というわけにはいかないかもしれませんが。
とまれこれだけの給料を出せ、しかも全国各地に漏れなく募集センターを設置し、最盛時は5万とも言われる軍団を持て、大砲や戦車、歩兵戦闘車といった重装備まで持てたのは、もちろん政府が支援していたからです。

「ロシアのプーチン大統領は27日、露大統領府で開いた露軍兵士との会合で、反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」を国防省などの予算で全面的に支援していたと明らかにした。また、ワグネル創設者のプリゴジン氏が手がける食品販売・飲食店運営会社「コンコルド」にも、露軍との取引で約800億ルーブル(約1350億円)を支払ったと述べた。ロシア当局は、プリゴジン氏の周辺で資金を巡る不正が無かったかを調査する方針」
(毎日6月28日)
プーチン大統領、ワグネルを「国家予算で全面的支援」認める | 毎日新聞 (mainichi.jp)

この政府支援金の1350億円はあくまでもワグネルのごく一部でしかない食品販売、レストラン経営に対してにすぎまはん。
本業の傭兵、アフリカ、中東へのプーチンの名代としての活動は別ですから、この数十倍に達してもおかしくはありません。

このようにあまり知られていませんが、ワグネルは大帝国です。
日本でおなじような武力クーデターを計画したオウム真理教など、足元にもおよばない大企業集団なのです。

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サンクト・ペテルブルグのワグネル・センター
ワグネル・グループ - Wikipedi

ワグネルは「コンコルド」と呼ばれる持ち株会社が管理する100社にも登るグループ企業で、企業帝国を成しています。
今、わかっているだけでも、傭兵業、食品販売、ジム、SNS、メディア、そしてアフリカ・中東のロシア権益確保工作です。
欧米メディアはプリゴジンに「企業家」という表現を使っていましたが、あながち大げさではありません。

「ワグネルはロシアが国際的な影響力を高め、資金集めをするための手段であり、プリゴジン氏の持ち株会社「コンコルド」が全てを管理していた。プーチン氏は自らの支援で形成された企業モンスターを今、支配下に置こうとしている。西側諸国・中東・アフリカの当局者やロシアからの亡命者の話、ワグネル傘下企業100社余りの詳細を記した文書からその実態が見えてきた」
(ウォールストリートジャーナル7月3日)
プーチン氏、ワグネル乗っ取りの難事業 - WSJ

スポーツジムから傭兵までという世界に類例のないモンスター企業でありながら、いったい傘下企業はいくつあるのか、各企業はなにをしているのか、保有資産はどれだけあるのか、財務状況はどうなのか、一切つかめていません。
当局もこの反乱後に、FSBが複数のコンコルドの子会社を捜索し、やっと傘下企業100社の詳細な文書を手に入れられたていどですから、まだ解明には時間がかかるはずです。
というか、プーチンはこれ以上の捜査をやらせないでしょう。
こんな「国家内国家」のような治外法権を許していたのは他ならぬプーチン自身ですし、巨額のキックバックをもらっていたと考える方が自然だからです。

これらの「業務」でもっとも闇に包まれているのが、アフリカ・中東諸国での動きです。

「プリゴジン氏は大統領府内での信頼が失墜するまでに、世界有数の複雑な構造を持つ、説明責任を負わない企業体を作り上げた。ロシアやその他の地域で何百もの企業がクモの巣状に根を下ろし、大勢の労働者や雇い兵、料理人、採掘地質学者、ソーシャルメディアのトロール(荒らし)に大抵は現金で報酬を払っていた」
(WSJ前掲)

たとえばマリでは、親仏政権を倒した暫定政権は10年近く続いてきたPKO部隊を追い出し、ワグネルに治安維持を丸投げしてしまいました。
この契約はブリゴジン自身が結び、その見返りの鉱物資源や巨額のマネーは不正な方法で第三国に持ち出されていました。

「仏紙ル・モンドによると、マリ軍関係者に対して拷問など違法な尋問の方法を教えているとの疑惑もある。ワグネルは親露政権を支援するために派遣された中央アフリカでも人権侵害を非難され、露軍が侵攻中のウクライナ東部でも活動していると英国防省が確認している」
(WSJ前掲)

米国は、暫定政権がワグネルに2億ドル(約290億円)超を支払ったと述べています。
ワグネルがアフリカ・中東諸国に傭兵を送るシステムはいまだ解明されきっていませんが、他のセワ・セキュリティー・サービシズ などの傭兵斡旋企業と連携していると考えられています。

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 WSJ   アフリカにおけるワグネル系と思われる傭兵

傭兵業だけではなく、ワグネル傘下の6社を超える企業が採掘事業を手がけており、同じく傘下の供給・物流企業ネットワークがこれと連携しています。

「中央アフリカ共和国では、ワグネル傘下のミダス・リソーシズが「ンダシマ金鉱山」の生産の大部分を掌握。米政府によると、未開発資源は推定で10億ドルにもなるという。また、ワグネルが同国で採掘する金やダイヤモンドは、プリゴジン氏が保有する別の会社ディアムビルを通じてアラブ首長国連邦(UAE)や欧州の市場に輸出されている」
「シリア最大のガス田の警備を担う軍事会社エブロ・ポリス(ガス田事業の利益の最大25%を受け取っていると西側当局は推測)は、人材派遣会社「サービスK LLC」と結びつく企業グループに組み込まれている。マリではイスラム過激派の反政府組織から国を守るため、同国政府がワグネルの傘下企業に2021年末から2億ドル余りを支払った、と国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は30日に述べた」
(WSJ前掲)

これら複雑にからみあった「軍産業複合体」であるワグネルを、プーチンは丸のまま奪おうとしているとみられています。
どうやるのかは皆目わかりませんが、米国流に切り刻んで部門ごとに分割することから初めて、やがてその一部を忠誠を誓ったオリガルヒに分け与えるのかもしれません。
ただプリゴジンがおとなしく引き下がるとは思えませんし、ウクライナ戦争が負けようものならもはやそれどころではないでしょう。

 

 

 

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コメント

 「大英帝国にとっての東インド会社のようなもの」と言うのは、よくよく得心が行きますね。
家宅捜索で押さえていた100億ルーブル(140億円)の現金を代理人を介してプリコジンに返却したとか、中々プーチンの思うように行かないようにも見えます。
ただ、ベラルーシで力をつけ、キーウに攻め込む機会を狙っているかも知れず、何を考えているのか分からない海坊主は未だ危険な存在です。

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