海洋放出、想像の放射能に怯えるのではなく、現実を直視しろ
今の海洋放出反対運動は、かつての震災瓦礫搬入阻止運動に酷似しています。
リアルな科学的計測を行わない、非科学的なプロパガンダだけの運動です。
中身はただの妄想ですが、繰り返し繰り返したたき込まれれば、多くの人が影響を受けます。
この煽動にメディアは狂奔しました。
彼らはいつい最近まで「汚染水の海洋放出」という表現をなんのためらいもなくとっていたはずです。
結果がこれです。
メディアにかかると、内閣支持率の低下の原因はまるで海洋放出の「説明不足」にあるようです。
「共同通信社が14~16日に実施した全国電話世論調査によると、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に関する政府の説明について「不十分だ」との回答が80.3%に達した」
(共同7月16日)
原発処理水、説明不十分80% マイナ総点検74%解決せず(共同通信) - Yahoo!ニュース
風評拡散に果たした己の力を誇示できて、さぞかし満足でしょう。
放射能の風評被害においてメディアが果たした役割は大きく、客観的報道をかなぐり捨てていました。
特に東京、毎日、朝日はまさにバイアス報道そのものでした。
当時、私はマスコミなどないほうがよほどいいと思ったほどです。それくらいひどかったのです。
そしていまも何一つ反省することなく、このていたらくです。
かつて巨大な風評と戦っていた時期の記事を再掲載いたします。
整理してダイジェストしようかとも思いましたが、あえてそのまま転載いたします。
このほうが当時の実感がわかるはずです。
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福島事故から1年後。事故当初、反原発の側に立っていた私は、この震災瓦礫搬入阻止運動に衝撃を受けます。
かくも非科学的で、かくも醜悪な「闘争」など見たことがなかったからです。
今までの左翼運動にとりあえずあった理想主義的な香りは消え失せ、「震災など知ったことか。放射能ゴミを持ってくるな」という地域エゴが剥き出しになっていました。
反原発運動は、いかにして原発を減らしていくのか、という冷静な議論とは無関係な「脱原発」に名を借りる放射能マスヒステリーに様変わりしていたのです。
たとえばそれは、学童に対する「放射能いじめ」の原型です。
避難してきた級友を「放射能が来た」としていじめたように、当時のいい年をした大人たちが、「被災地瓦礫を持ち込むと放射能が移る」と言って騒いだのです。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201701/20170128_73035.html
私はそんな下品な言い方をしませんが、あの辛淑玉氏ふうに表現すれば、りっぱな「被爆地ヘイト」です。
その差別的空気に便乗したというか、煽って火の手を拡げたのが、共産党と社民党、自称「市民団体」、そしてメディアでした。
彼らは実際に被曝していようがいまいが、被災地すべての瓦礫は全部放射能汚染しているという、耳を疑うような非科学的なことを叫んでいたのです。
先日、自主避難した人らしい人物が、こんなコメントを入れてきました。
「九州の方たちだって、がれき処分や食の流通で悩まれてる方は多いです」
いまなおこの「放射能瓦礫」デマを信じている人がいるということのほうに、改めて驚きを感じます。
6年たってもこの調子ですから、福島事故1年目は凄まじい騒ぎでした。
彼らは一切の震災瓦礫はケガレているとして、身体を張って受け入れ拒否するという「反原発闘争」を全国で展開します。
当時被災地では、膨大な震災瓦礫が被災自治体の処理能力を越えていました。
処理できない瓦礫は被災地に山を成して積み上がり、支援物資を運ぶ道路すら開通できない地域すら出ました。
これを被災しなかった自治体が引き受けていこうとする被災地支援に反対したのが、彼らの運動でした。
反対運動は、「核のゴミの全国処理をゆるすな」と叫びました。「核のゴミ」とは原発から出る低レベル廃棄物、あるいは使用済み燃料などのことであって、震災瓦礫のことではありません。
それを反対派は、「核のゴミ」という過激な表現で煽って、人々に恐怖心を植えつけていました。
一方、反対運動を恐れて尻込みする全国の自治体の中で、東京都の石原知事は率先して受け入れを表明し、それに励まされるようにして全国各地の自治体が続きます。
石原氏の美質である「男気」が出た場面です。
今、豊洲で「安全だが、安心ではない」という珍妙なリクツで風評を煽ってしまった小池氏ならできないまねでしょう。
それはさておき、受け入れた自治体の処分場の入り口には、反対派が阻止線を張り、車両の下にまで飛び込むといった「市民」の狂態がそこここで繰り広げられました。
このあたりは、後の高江紛争のオリジナル・バージョンを見るようです。
まぁ、同じような人たちがやっているので、同じようなやり方になってくるということにすぎないのかもしれませんが。
この震災瓦礫反対運動には、後の彼らの運動の特徴が凝縮されています。
ひとことで言えば、デカイ声で大げさに叫べば人が動かせると思っている愚民主義です。
①「被災地瓦礫は全部放射能瓦礫」とするような、客観的事実を検証しない非科学的態度
②「核のゴミ」と震災瓦礫を混同してみせるような、誇大なプロパガンダ主義
③搬入トラックの下にもぐり込むような、暴力を厭わない実力主義
また受け入れた後も、延々と処理場周辺の住民に鼻血が出た、頭痛が絶えないという流言蜚語が流されました。
下のまんがは例の雁屋哲の『美味しんぼ・福島の真実』のひとこまですが、「市民団体」が流したデマをそのまま真実に祭り上げてしまって拡散しています。
雁屋哲『美味しんぼ・福島の真実』
そして雁屋哲は、厳かにこのように結論づけます。
「福島には住めない。逃げるのが勇気だ」と。
雁屋哲『美味しんぼ・福島の真実』
このように瓦礫礫搬入反対運動の果たした役割は、瓦礫うんぬんではなく、被災地復興阻止だったのです。
一方、ありもしない放射能の幻影に怯えて瓦礫搬入反対を叫ぶ人たちと違って私たち「被曝地」農業者は、この1年有余、日常的に放射能と向き合ってきました。
彼らと違って、「あるかもしれない」ではなく、私たちの場合は間違いなく「ある」からです。だから、いやでも向き合わざるをえなかったのです。
瓦礫反対を叫ぶ人たちで一体何人が、自分の生きる土地に責任をもって、どれだけ汚染されたのか、あるいはされていないのかを「見える化」したのでしょうか。
瓦礫が怖いと大騒動を起こしながら、彼らの中で自ら宮城や岩手に赴き、汗をかいて震災瓦礫を測定をした人が何人いますか。
その上に立って発言している反対論者は、私が知る限り一名もいません。被害者づらして、噂と想像にだけに頼って被災地の人々を平気で傷つけているだけです。
あげくはデモ隊に妊婦がいるにもかかわらず、警官隊と激突するような行為を働き、「妊婦を襲う警官隊」といったキャンペーンを張るのですから、正気を疑います。
私が彼らに言いたいことは、調査なくして発言なし。想像の放射能に怯えるのではなく、現実を直視しろ、ということです。
一方、私たちは茨城大学と共同して、霞ヶ浦流域の畑、水田、ハス田と自然植生帯の測定会を行っていました。
これは5年間、10年間のスパンでひとつの定まった地点で、定期的に測定をし、放射能汚染がどのように変化していくのかを調べる調査活動です。
これにはいくつかの目的があります。
まず第1に、放射能とリアルに向き合うために正確な放射能汚染数値の推移をデータベース化することです。
そして第2に、そのデータの集積の上に立って放射性物質の移行が少ない農法や、除染の方法を確立することです。
よく誤解されるのですが、今年から始められた測定活動は、去年段階のように農家が「農産物は安全です」とアピールするためにやることではありません。
農産物の測定も未だ継続されていますが、1年たった今、更に地域の各所に定点を設けて、それを中長期的に継続的測定をすることの必要性がでてきました。
チェルノブイリ以降、欧州の広範な地域が汚染されましたが、その影響は長く残りました。
畑や果樹園は、比較的早く除染作業の効果が現れて放射線量は着実に減少しますが、耕さない山林は現状維持、湖底、あるいは海底には放射性物質が蓄積され続けて、年を経てむしろ増大する可能性があります。
南ドイツでの知見では、約5年間、放射性物質の検出は続き、山林では初期被曝時のままでの状態が続き、湖沼などではむしろ累積し蓄積するために放射線量は増大することが知られています。
(図表 茨城大学農学部フィールドサイエンス教育研究センター・小松崎将一准教授による)
現実の例を撮って放射性物質の推移のパターンをカテゴリー分けしてましょう。グラフは千葉県におけるミカン山と一般の畑、そして冬季に水を溜めて耕耘しない水田の三箇所を比較したものです。
数値より分布パターンに注目してください。
一番表土から5㎝まで、5~10㎝、10~15㎝、15~30㎝という各層で計測して、放射性物質がどのような拡散分布をするのかを調べています。赤がセシウム134、青が137です。(上図参照))
●カテゴリー1[山林・固着タイプ] 左端のミカン山ですが、山のために地表を耕耘できません。すると、この場合、表土下5㎝までにセシウムの大部分が蓄積されて層を作っています。これが山林に共通する特徴です。
放射線量も比較的高めですが、これは果樹の背が高いために、空中の放射性物質をトラップしてしまうからです。これと同じ現象は、竹林のタケノコでも発生しました。
●カテコリー2[平地・畑・漸減タイプ] 中央のグラフにある平地の畑の例です。先の山林と違いトラップする樹木がないために放射線量自体が少ない上に、耕すことで各層に均一に希釈化されているのがわかります。
このように畑地は耕すたびに、粘土質や腐植物質、あるいは地虫や植物に吸着されて線量は減少の一途を辿ります。
●カテゴリー3[平地・未耕起・固着タイプ] 右端の耕していない平地の水田ですが、未耕耘なためにミカン山と一緒で地表下5㎝にがっちりしたセシウム層ができてしまっていて、線量は低下しにくい構造になっています。
耕耘しないとこのセシウム層は壊れないのです。
未耕起の平地の多くがこの状態だと推測されます。ただしこの場合は、平地のために放射線量は比較的少なめです。
ここにはありませんが、耕さない水田と違い耕した水田は2番目の畑と同様の均一化された放射線量分布になります。
●カテゴリー4[湖底・沿岸海底・漸増タイプ] 湖底や海底はバックデータが不足していますが、徐々にセシウムが堆積されて増加すると予測されています。南ドイツの例では、5年目くらいまでは増加し、以後減少していきます。
このように、放射性物質は、その場所の条件によってでまったく違う挙動をするのであって、一律に空間線量を計測して、増えた減ったと言ってみても仕方がないのです。
測定器材は下のようなものを使用します。
左に見える筒がコア・ボーリングといって地下にポールをねじ込み、その中に溜まった土を採取して、105度で乾燥させて粉末化し、右のゲルマニウム半導体計測器でカウントします。
あたりまえですが、オモチャのようなガイガーカウンターとは精度がまるで違います。
上写真で水田にねじ込んでいるのがこのコアというポールです。水田は楽ですが、畑や、耕耘していない土地は堅くて大変でした。ほんとうにご苦労さまでした。
このように、私たちは「放射能があること」と真正面から向き合ってきました。
「あるものをない」と言うのではなく、また逆に「ないものをある」というでもなく、リアルに放射能とつきあっています。
それが私たち農業者の作法だからです。
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中国国営新華社通信が昨日出したイラスト入り解説記事が酷い!わざとALPSという「処理工程」が皆無で海に汚染水を垂れ流す日本だそうです。。
全くの悪質な捏造記事ですけど、あれで騙される人もいると思うのか?とも思いますけど、一定数はいるんですね。愚民化政策が大好きなのが独裁国家ですから。。
投稿: 山形 | 2023年7月18日 (火) 06時57分
瓦礫問題といえば、福島から遠く離れた陸山高田市の高田松原の枯れ木の御札を数枚大文字焼きでお焚き上げして供養しようとしたら···こちらのコメント欄で京都生協のなんとかって人が大反対したなんてことがありました。ほんっと腐れ左翼の放射脳は手がつけられないバカっぷりですが、何せ声がデカければ勝ち!くらいにしか考えない連中には論理的説明など通じないでしょう。そして視聴率取りたいマスコミも煽りまくるし。
マトモに反論しても聞く耳持たないのはどうしようもないので···それが「風評被害」というヤツで、農業者や漁業者に実害として降りかかります。そういう物なのだと学びました。
政治家で同調してるようなのはさっさと辞めろと言いたいですが、民主主義の国なので国民がバカだと当選します。
震災直後に東京の金町浄水場で一時期200bq/リットルになって大騒ぎしてましたけど、それって60年代の米ソ核実験時代の日常と同じレベルの水道水です。
数年前に地元の道の駅で売られていたキノコやコシアブラから300bq/Kg検出されて全国的記事になったり、ネットでは史上最悪の毒キノコなんて書かれたりしました。
だれがキノコやコシアブラを何キロも食うんだ?という。もう苦笑するしかありませんでした。。
投稿: 山形 | 2023年7月18日 (火) 07時16分