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2023年7月14日 (金)

エルドアンがゴネればナンでも通るのか

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トルコがゴネ続けたおかげで延び延びになっていたスウェーデンのNATO加盟を、やっとトルコが承認したようです。

「トルコのエルドアン大統領は、NATOに加盟するスウェーデンの入札を支持することに同意した、と軍事同盟のチーフイェンス・ストルテンベルグは述べた。エルドアンは、トルコの指導者がスウェーデンの入札をアンカラの議会に転送し、「批准を確実にする」と述べた」
(BBC7月12 日)
トルコはスウェーデンのNATO加盟を支持-BBCニュース

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今さらナニ言っていやがるといった感じですが、この男が議会に送れば通過するかもしれません。
とはいえ、トルコが条件にしているEU加盟交渉が渋滞したら、議会が批准なんかせんよ、といいだしかねませんが。
なおEU加盟はできっこないはずですので、まだなんともいえません。
トルコはそのくらいのちゃぶ台返しは平気でやる国ですので、スウェーデンさんお気をつけて。
まだハンガリーも批准を終えていませんが、オルバン首相はスウェーデンの加盟には問題はないと述べているので、こちらのほうはなんとかいくかもしれません。
とまれこれでいちおうは、スウェーデンはNATO32番目の加盟国となることが決定です。おめでとうございます。
スウエーデンは輝く永世中立の国だからすんばらしい、日本も日米安保を廃棄してスウエーデンに学べ、と言っていた皆様、スウエーデンも集団安保しかないと思い定めたようで、残念でした。

これもひとえにプーチン大帝の悪逆の御業の賜物です。
プーチンのウクライナ侵攻口実は、NATOが国境まで攻めてきている、ロシアは包囲されているんだぁ、というものでしたが、NATO拡大を阻止することはおろか、フィンランドとスウェーデンの北欧2カ国が数十年にわたる中立を放棄して加盟してしまい、かえってNATOを増やしてしまう結果になりました。悪いけど笑っていいかなプーチン。

今回スウェーデンの加盟を認めた会場が、ロシアの隣国であるリトアニアの首都ビルニュスだったというのも象徴的です。
橋を渡った場所にロシアの飛び地カリーニングラードがあります。
ここがバルチック艦隊の母港です。

思えばリトアニアは1990年、ソ連帝国から独立を回復した最初の国でした。
2004年にNATOに加盟し、ほぼ同時にEUにも加盟しました。
このようなリトアニア人は、ウクライナ侵略のようなことは自国にいつ降りかかってきてもおかしくはないと考えています。

「ウクライナで起きているすべてが、リトアニアの過去の出来事に非常に似ています。同じく旧ソ連時代を経験したから、ウクライナは私たちにとって身近な存在です。ウクライナの次はわれわれになるのかもしれません」
(FNN7月10日)
ロシアの“隣国”リトアニアでNATO首脳会議 今もソ連時代のトラウマ…リトアニア人の思い 現地報告(関西テレビ) - Yahoo!ニュース

「法の支配」を犯して他国を侵略するような国家に対しては、集団で互いに守るしか方法がないというのが、いまや世界の常識となっています。

このようなことを知りながら、この切迫した状況の中で、スウェーデンに嫌がらせまがいのことをしてきたのが、エルドアンという人物のエグサです。
NATO加盟には全加盟国の同意が必要で、一国でも反対すれば加盟することはできない。

トルコはその拒否権を握りしめて、スウェーデンのNATO入りを阻んできました。
同盟国からこぞって嫌われるのですから、さぞかし居心地が悪いはずですが、そんなことは馬耳東風、馬の耳に念仏、蛙のツラになんとやら。
気にするような繊細なタマではありません。

エルドアンが反対理由としたのは以下です。
第1に、トルコがテロ組織としているクルド労働者党(PKK)やYPG関係者のスウェーデンが受け入れを認めたことの取り消し。
このことについては、背に腹は変えられないスウェーデン政府は、トルコの要求に応えようとして、憲法を改正して新たなテロ対策法を成立させました。
また、トルコで起訴されている数人のトルコ人の身柄引き渡しにも同意しました。
しかし、いまだ大部分の身柄をの引き渡しは、スウェーデンの裁判所が拒んでいるために未定です。
これにて一件落着にする気だと見られています。
そりゃそうでしょうとも。これはスウェーデンの内政の干渉にほかならないのですから。

次に、今年の初めにスウェーデンでコーランを破ったり燃やしたりする「デモ」が行われました。
実はこれをやったのは元イスラム教徒だった移民がしたことですが、エルドアン政権は待ってましたとばかりにこれに噛み付き、こんな宗教差別をするような国をNATOに入れるわけにはいかない、もう永遠に批准を期待するな、と言ってのけました。
これで交渉自体が座礁してしまい、一時は加盟は絶望的だと見られていました。

ところが今年2月6日、トルコで5万人が亡くなる大地震が起きたうえに、ロシアの敗色が濃厚になってきたあたりからエルドアンは微妙にブレ始めます。
なんとまぁ、いきなり条件闘争に切り換えたのです。
トルコはスウェーデンの加盟批准を認めて欲しくば、アメリカにF16を寄こせと迫ったのです。
いつもどおり、この2者はなんの関係もありません。

単に交渉のカードとして加盟問題を弄んでいるだけだとしっかりバレますが、そんなことは頭から無視しています。
こういう図々しさを、いつもいい子でいたいうちの国の首相は少し学んだほうがいいかもしれません。ま、無理ですが。

「ワシントン=坂口幸裕】バイデン米大統領は5日、トルコの反対で難航しているスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を早期に実現するよう自ら関与していくと明言した。加盟を認める代わりにF16戦闘機の売却を米国に要求するトルコの条件を受け入れるため、売却に慎重な米連邦議会の説得に向けた調整を続ける構えだ」
(日経7月7日)
トルコにF16売却探る - 日本経済新聞 (nikkei.com)

また、今回のリビュス会議直前まで、これを呑まねぇなら、スウェーデンなんか永久に入れてやんねぇからなとど、言っていました。
そして条件闘争の上乗せで言い出したのが、オレもEUに入れろという、これまた筋違いな要求です。

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ロイター

「[イスタンブール 10日 ロイター] - トルコのエルドアン大統領は10日、同国の議会がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する前に、欧州連合(EU)はトルコのEU加盟に道を開くべきだと述べた。
リトアニアで開催されるNATO首脳会議への出発を控えた大統領は、スウェーデンの加盟は昨夏の首脳会議で合意した内容の履行にかかっているとし、トルコの譲歩を期待すべきでないと述べた」
(ロイター7月10日)
トルコ大統領、EU加盟を要求 スウェーデンNATO加盟巡り | Reuters

おいおい、EU加盟とスウェーデンのNATO加盟がどう関係があるつうの。
F-16を寄こせというのも、そもそも米国としこった原因は、トルコがロシアから対空ミサイルシステムS400を導入しようとしたことが発端です。
こんなものを入れられたら、米国製の航空機の撃墜方法を教えているようなものだとして、F-35の引き渡しを拒否しました。

「【「4月2日 AFP】米国は1日、トルコがロシアから地対空ミサイルシステム「S400」を調達する姿勢を崩していないことから、トルコへの最新鋭戦闘機「F35」の引き渡しと、F35の開発・配備計画をめぐる同国との共同事業を凍結すると表明した。トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、米国と同盟関係にある。
米国はロシアからS400を購入するとのトルコの決定に数か月前から警告を発しており、米国防総省は、トルコ側の判断はF35計画への参加を続ける姿勢とは相いれないと指摘した」
(AFP2019年4月2日)
米、トルコをF35計画から締め出し ロ製ミサイル購入受け 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

現代において、その国の最先端の武器体系を「買う」という意味は、軍事的な従属化、あるいは系統下に入ることを意味します。
国防の最新の秘密情報を開示してもらえるわけですから、それが代償となります。
小は自動小銃から大はこのような高性能ミサイルシテスムまで、大国はそうやって小国の安全保障の根幹を支配し、自らの陣営を作ってきました。
日本が海自のイージスシステムを導入できたのも、日本が米国ときわめて緊密な軍事同盟を結んで一体化しているからです。

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ロシア兵器導入で米制裁の恐れ 「クアッド」一角のインド:時事ドットコム (jiji.com)

このS-400の場合、複雑なシステムを動かすには、トルコ側からロシアへ訓練に行き、ロシアからは操作と整備のための技術要員を派遣し合わねばなりません。
そこから人脈が生まれ、政治的なパイプができ、その国の中に勢力を築き上げ、やがて準同盟関係に、そして本格的同盟関係へと発展していきます。
その動きはトルコ内部で既に始まっているはずですが、このようにその国の高度の軍事システムを移植することは、その国に長い期間の「つながり」を作ってしまうことを意味します。
いわばトルコはNATOの一員でありながら、敵から武器を売ってもらうという二股をかけたわけです。

で、米国が怒るまいことか。報復として、直ちにF-35の供与を中止してしまいました。
もちろんS-400の中でF-35を飛ばしたら、そうとうなことまでステルスの秘密が暴露されてしまうからです。
そしてそれ以上に、ロシアのNATO分断策に乗ったトルコを制裁しないわけにはいかなかったのです。
かんじんのNATOはおとがめなしというところが、ルトワック翁がいう偽薬となってしまったNATOの情けなさでした。
当時のメルケルNATOは、ロシアを敵と考えなくなりつつあったのです。

ただし面白いのは、かといってトルコがロシアの従属国家になったわけではないという点です。
ロシアが旧ソ連圏のしゃもない独裁国に作らせた、CSTO(集団安全保障条約機構)に属する、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどとは違って、いちおうNATOに属する「主権国家」の立ち位置を持っています。
そのうえこれら旧ソ連圏諸国は正規軍が1万人ていどの弱小ですが、トルコは人口6千万人に対して65万人のNATO第2の兵員数ですから堂々たる軍事強国です。

このCSTOについて小泉悠氏は、その性格をこう説明しています。

「ロシアにとってのCSTOとは、特定の驚異に備える同盟ではなく、ロシアへの忠誠度を示すインディケーター(尺度)なのです。ロシアの同盟に入ると「親藩」扱いとなり、譜代や外様よりも忠誠度が高いとみなされるわけです」
(小泉悠『ロシア点描』)

ロシアから見た、国際社会の色分けはこのようなものです。
ロシアにとって、米国というスーパーパワーと半世紀以上の戦いを続けてきたということの自負は大変なもので、冷戦の中で育ち、その終了期に青年期を終わったプーチンという男にとって、冷戦は決定的体験でした。
ソ連が崩壊したの後にロシア国内に生まれたのは、プーチンから見れば一斉に雪の下から割って出たような民主主義、協調外交という悪しき西側思想にかぶれた芽でした。
だから政権を握ったプーチンがとったのは「大国への回帰」という方法で、ソ連ではなくロシア帝国を復活する道でした。

国力が回復しない前には爪を隠して西側と協調してみせ、原油の高騰によって棚からぼた餅風に大国にふさわしい軍備が回復するやいなやロシアをリーダーとするCSTOという「ロシア勢力圏」を作り、米国とNATOに対峙させようとしました。

小泉氏によれば、この国際社会の階層をプーチンはこう見ています。
第1のグループは超大国です。米国、ロシア、中国などは強大な核を持つ国家で、かれらだけが真の意味での「国家主権」を持ちます。
第2は、これらの選ばれし超大国に追随する従属国グループです。このグループには核を持つ「半主権国」英仏と、それ以外の非核同盟国が属し 連枝、親藩から外様まで幾階層に分かれています。

ちなみに、わが日本はこのグループに属し、アメリカ幕府の親藩待遇です。
連枝としては英国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系ファイブアイズが位置します。
ですから、いくら安倍氏が「ウラジミール、きみと私は同じ未来を見ている」と叫んでも、馬鹿か、こいつはとプーチンはせせら笑ってていただろうと小泉氏はシビアです。
私も安倍氏唯一の外交の失敗は、この北方領土交渉だと考えています。

第3のグループは、インドやトルコのような反米意識をもつ主権国家で、「友好国」としてケースバイケースで協調したり反目できるゲーム相手という扱いになります。これが協商関係国家です。

「協商は互いに心を許していなからこそ成り立つということです。
むしろ、互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからないという恐怖心があるからこそ、相手を完全に怒らせないように気を使いあう。
マフィアのボス同士がよほどのことがないかぎり相手のシマを犯したり、メンツを潰さないように配慮し合うことに似ています」
(小泉前掲)

ロシアにとって、トルコが他のNATO諸国と区別されていることにご注意ください。
たとえば2017年以降、米国はロシア製武器を買った国には制裁を科すとしており、多くの国が制裁を恐れてロシア製武器の購入を手控えたのですが、例外が2国現れました。それがトルコとインドです。
インドは、ロシアからの兵器買いを止めず、ウクライナ侵攻に際して表だっての非難はせずに、ロシア産原油の輸入量はむしろ8倍にはねあがったほどです。

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NATO加盟「同意せず」 トルコ、北欧2カ国に不満:時事ドットコム (jiji.com)

トルコもインドに似ています。
トルコは、ロシアから武器を導入してみたり、今回北欧2国のNATO加盟について拒否権を発動するというトンデモをやって我を張っています。
トルコは、ひとりが君臨する権威主義国家(全体主義国家)として、ロシアと親和性を持ち、かつてのトルコ帝国の復権の野望を持つ点で、プーチンとエルドアンはよく似ています。
今回も「仲介」という言葉を使って、エルドアンはプーチンにすり寄りました。

しかもプーチン共々、決して安定した基盤を持つ独裁者ではありません。
プーチンは小国と侮って戦争をしかけて大火傷を受けてしまい、エルドアンは大地震で多くの死傷者が出た責任を問われて、楽勝だったはずの大統領選挙で苦戦しました。
よもや決戦投票で僅差になるとは当人も思っていなかったでしょう。

共に、スカッとした指導者ぶりをみせねば政権が持ちません。
ここでエルドアンとしては、米国やNATO加盟国との交渉の最前線に立っている強力な指導者の姿(←自分ではそう思っている)を国民に見せる必要があったのです。

結局、NATO議長は、トルコがスウェーデン加盟を認める見返りとして、スウェーデンはトルコの欧州連合(EU)加盟申請の再活性化を支援する、NATOは新たに「テロ対策特別調整官」を設置するということで折り合いました。
EU加盟やF-16供与など、1年前の申請時にはにひとつ触れなかったのに、途中で「永久に認めない」とゴネて追加したのですから、たいしたタマです。
トルコは、NATOがすべて加盟国の一致を必要とすることをいいことに、NATOを中露が拒否権を乱発する安保理常任理事国と同じにしてしまったのです。

本来、価値観でいえば、トルコはNATOは加盟を許されるべき国ではありませんでした。
しかしソ連の弱い下腹を扼し、かつ黒海の首根っこであるボスポラス海峡を持つ戦略的要衝に位置したが故に、半ば成り行きでNATOに加わることを認められてしまいまし。
いまもなおトルコは、ロシアの黒海艦隊を封じ込めることにおいて、重要な軍事的要衝であり続けています。
本来はウクライナを加盟させ、トルコに出ていってもらうべきなのです。

ちなみに、トルコが親日だなんてことをあいかわらずお大事にしている人がいますが、なに言ってんだか。
エルトゥールル号遭難事件は、1890年ですから140年前のこと。まだトルコ帝国の頃の話です。
そんな美談などアチラ様はとっくにお忘れですよ。
何回政体が変わったと思っているんでしょうか。

 

 

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