不良債権を明示できない中国という国
巨額の不良債権問題が発生した場合、日本のような自由主義経済の国においては、その全容の監査と開示から始めねばなりません。
公金投入を前提にしているのですから、当然です。
日本の場合は、銀行が今に至るも営々と不良債権を処理していますが、自力で処理した不良債権額だけで実に100兆円に達します。
これはGDPの2割に達しました。
「不良債権の処理の結果は自明である。銀行の自己資本が尽き、最後は債務超過となる。銀行の破綻である。
末尾の年表に平成時代の主だった銀行の破綻と再編の概要を示した。銀行関係者や金融当局者たちが「金融恐慌寸前、日本経済最大の危機」と語るのが、1997年11月の北海道拓殖銀行の破綻と山一証券の自主廃業の時である。この直前に三洋証券が資金繰りで破産。これをきっかけに急速に短期金融市場が縮小し、拓銀と山一証券を直撃した。破綻は連鎖する。98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が一時国有化される形で看板を下ろし、多くの地方銀行も立ち行かなくなった」
平成―バブル崩壊の後始末とデフレ対策に追われた金融界 | nippon.com
この20年間にいかに多くの銀行が消滅し統合されていったのかはすさまじいばかりで、大手銀行で旧社名が残っているものがないほど、日本の銀行業界に逆風の嵐を巻き起こしました。
不良債権問題の処理にてこずった日本では景気低迷が体質化し、不良債権を抱えていなかった製造業まで倒産の波にさらわれました。
日本の主力産業である電機や機械、輸送用機器メーカーまで倒産したり、倒産寸前にまで追い込まれる企業が相次いだのは、この時代です。
そのうえに白川日銀がデフレ容認政策というトンデモ金融政策をとったために、延々とデフレトンネルを20年間も歩むことになってしまいました。
これが日本国民に塗炭の苦しみを与え、国家の体力を著しく奪ったのです。
救われたのは2013年にアベノミクスが登場してからのことです。
もちろんこの間、政府は指をくわえていたわけではなく、統廃合への資金提供や、預金保険機構を通じて公的資金を注入し続けました。
その資本注入額は累計で13兆円、これ以外に金銭贈与19兆円、不良債権の買い取り6兆円、合計38兆円もの巨費を投入しています。
山一証券、日債銀に投入した日銀特融の損失だけで、約2000億円にも上っています。48兆円負債 恒大集団が破産申請 中国“危機”日本への影響不可避(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
では、中国が日本と同じ不良債権問題で救済を発動するには、どこから始めたらよいのでしょうか。
日本の不良債権の規模がおおよそ100兆円超規模なのに対して、中国は融資平台(LGFV )だけでその9.4倍、民間デベロッパーや銀行の不良債権までくわえたらどれほどの規模になるのか見当もつきません。
本来なら中国政府は直ちに政府資金を投入して全力でこれを救済しないと、空前の不況と信用縮小に陥ることは明らかです。
そのためには公金投入をどれだけしたらいいのかを確定せねばなりません。
中国のすべての企業に財務情報を一点の曇りもなく開示させ、その開示に基づき金融機関の不良債権を認定することです。
これが出来ないと、いくら不良債権があるのか、いくら資金注入したらよいのか、どれだけ信用不安が拡がっているのか、といったかんじんなことがわからず救済策の設計ができません。
ところが、ここに共産中国特有の壁が立ちはだかります。
中国がソ連から学んだ極度の情報の隠蔽体質です。
それを可能にさせてしまう共産党国家の強権体質が横たわっているからです。
だから、共産党は不良債権があること自体を認めません。
高橋洋一氏は、石平氏との共著『断末魔の数字が証明する中国経済崩壊宣言』の中でこのように述べています。
「不動産バブルを維持することは可能です。銀行のほうで不動産開発業者にずっとカネを貸し続ければよい。中国では銀行は国有です。だから国有銀行がずっと貸し続ければバブルは維持できます。(略)
不良債権があっても中国政府が『不良債権など一切ない』と言い、銀行も』不良債権はない』と言い切るのであれば砂上の楼閣がずっと続いていくはずです。(略)
だからバブルが弾けたとしても中国政府はなにも言わない」
たぶん、今回も共産党はなにも言わないでしょう。
不良債権は一部の企業の不祥事だとしてないことにして、国有銀行には不良債権など一元もないとシラっとして言ってのけるはずです。
ただしそれが民間企業の債務不履行ていどならば、ですが。
というのは不良債権によるデフォルト危機は、不動産デベロッパーにとどまらず、すでに地方政府にまで及んでいるからです。
いままでさんざん中国経済バラ色論を展開し、日本企業に中国進出を推奨してきた日経新聞さえ、どこで宗旨がえしたのかこう書いています。
「中国の地方財政が厳しさを増している。地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。
金融不安への飛び火を防ぐには債務圧縮が不可欠だ。ただ地方経済の発展モデルが崩れ、中国景気の重荷になるリスクも高まる」
(日経2023年6月14日)
中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
なにが「中国景気の重荷」だって、もうすでに多くの地方政府財政は破綻していますって。
その原因は、先日来再三登場する不良債権の本丸「融資平台」の積み上げた不良債権の山のためです。
融資平台は、リーマンショック時、中国政府が4兆元(当時のレートで60兆円規模)に及ぶ財政出動を行うことで、リーマンショックの影響を吸収するという処置を実行したことから始まります。
当時、中国政府にはこんな規模の財政投入を行う財政的な裏付けがありませんでした。
隠れ債務665兆円、経済対策は安全運転 (3ページ目):日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
そこで中央政府がとったのは、この財政投入を地方政府に押し付けることでしたが、予算法によって地方政府には赤字予算が認められないために債券発行ができませんでした。
やむをえず地方政府がやったのは、融資平台と呼ばれる投資会社を設立させ、地方政府に帰属する土地を担保にして資金を借り入れる裏技でした。
新幹線や高速道路網、ダムなどの公共インフラ整備をするという名目で、巨額のカネを貸し付けたのです。
融資平台はタテマエは民間企業としましたが、当然ながら地方政府の暗黙の保証があるものだと考えられて、ジャブジャブと銀行は資金供給したのです。
そしてこの融資平台への資金調達として作ったのが、銀行の別働隊としての「影子銀行」(シャドーバンク)でした。
シャドーバンクは一般市民に理財商品と呼ばれる高利回りの金融商品を販売し、広く資金調達を行いました。
たとえば、今経営破綻している中植企業集団などがシャドーバンクです。
【13-010】影の銀行問題を考える(その4) | SciencePortal China (jst.go.jp)
これがなまじうまくいってしまい、不動産バブルが大きく中国GDPを押し上げて世界2位のキンキラ経済大国となってしまっために、かえって修正が困難になってしまいました。
なんせ習近平に「中国の夢」を見させてくれたのは、このおかげですから、修正かけられるはずがないじゃないですか。
もちろん融資平台の債務が膨張する背景には、制度の欠陥に便乗している銀行や地方政府の幹部がいて、中央政府に欠かさずワイロを送り続けてからです。
かくしていまや融資平台の累積債務残高は900兆円、いや2800兆円にも達するだろうという観測もありますが、なんせあの国のことですからほんとうのところはわかりません。
かつての共産党の大ボス朱鎔基・元首相の息子はこう言っています。
「朱鎔基・元首相の息子で中国の金融界の実力者である朱雲来氏は、2018年に行われたクローズドの会合で、中国の総債務は2017年末の段階で669兆元(1京2000兆円)に達すると述べていた。ただしこの総債務は中国政府、企業、個人の債務の総合計であり、中国政府だけの債務ではない。
朱雲来氏は中国の債務が年率16.6%で増えてきたことを指摘しているので、仮に同じ割合で2017年末から2021年末の4年間でも増え続けているとすれば、なんと1236兆元(2京2000兆円)まで膨れ上がっていることになる」
(朝香豊 2022年1月20日)
地方財政は完全に破綻…中国経済が「崩壊過程」に入ったと言えるこれだけの理由(朝香 豊) | 現代ビジネス |
当然、地方政府の財政はとっくに破綻していますが、中央政府が「そのようなものはない」と言い切れるかどうかです。
おそらく今中国人民銀行がしている景気刺激策の金融緩和でお茶を濁し、なおそれでも民衆が騒ぎたてれば、反スパイ法を使うかもしれません。
反スパイ法には、これらの破綻した企業の財務状況の開示が含まれているからです。
「スパイ行為の範囲の不明確性が挙げられます。保護の対象として「国家の安全と利益に関する文書、データ、情報及び物品」が今回の改正で新たに追加されたものの、この中には政治の安全や文化の安全が含まれる可能性もあり、その具体的な範囲が明確ではありません」
中国、反スパイ法(スパイ防止法)の改正と留意点 - 明倫国際法律事務所 (meilin-law.jp)
恒大など巨大企業集団から甘い汁を吸っていた共産党幹部は掃いて捨てるほどいますから(だから2年間も破産処分をペンディングしていたわけですが)、彼らが反スパイ法を楯にして開示をさせない可能性が大いにあります。
不良債権を開示できなければ、処理は何一つ始まりませんから、具体的な不良債権処理は冒頭から頓挫します。
これをクリアできれば、次が不良債権処理のための整理回収機関を作る段階となります。
「整理回収機構の業務は、破綻した金融機関等から買い取った債権を回収・処分すること、金融機関の保有する回収困難債権を買い取り・回収・処分すること、金融機関等の資本増強等に当たることなどである。 そのほか、事業再生支援、金融機関等の破綻に関与した者の責任追及等も行なっている」
整理回収機構とは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産:三井住友信託銀行グループ (smtrc.jp)
日本の場合、整理回収機構を作り、不良債権を引き取り、銀行のバランスシート上の損失を確定させ、開いた損失には公的資金が注入されました。
これをするのが中央銀行の役割で、通貨をジャブジャブ発行するしか方法はありません。
当然人民元は暴落しますが、元安を輸出増大につなげられたら光明があるってもんです。
ただ、習近平にこれができるでしょうか。
買った不動産はジャンクになり、景気は低迷し、失業率が大卒で4割を超えるような今の中国でこれをすれば、どうなるのでしょうか。
特に考える必要もなく、中国人が選挙できないかわりに年中行事でやっている暴動の勃発です。
だから習近平は威信にかけてやりません。
自分がやった「共同富裕」やゼロコロナ政策が引き金となったのは明白ですしね。
習は騒ぎ立てる消費者の一部は救済するかもしれませんが、不動産業界は絶対に救いません。
金融機関は国有ですから、現状維持を続けて彌縫策でズルズル引っ張るでしょう。
そして国民の不満を外に逸らすことを、真剣に考え始めることでしょう。
不満を逸らすとは、すなわち台湾侵攻をすることです。
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今の中国では債務超過に陥って数年たっても、破産法の適用が成されない企業が恒大以外にゴロゴロあります。
ダメな企業は早めに精算し再スタートを切らないと、それこそダメージが数倍になる。しかし、それが出来ないのが中国共産党です。
よりにもよって、自ら進んでダークサイドに突っ込んばかり行く習政権は、最終的に袁世凱になるより仕方ないのではないか。
しかしまだ日本にも日経新聞みたいな強力な味方があるみたいだし、放っておいても我が国金融業界はほぼ無傷です。いまだに中国から抜けきれない企業は早めに損切りすべきで、その余りは自己責任って事になりましょうか。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年8月23日 (水) 07時43分
日立など日本の大手も足抜けの動きですけど、みんな損切り急いだ方が良いかと。元々「安い労働力と巨大な人口」しか魅力が無かっただけですし。
山路さんの意見には同意です。
さらに地方政府の債務超過なんてもう想像を絶するレベルですよね。あの有名な「金持ち村(成金村)」ですらとんでもない債務ですからね。経済システム自体がどんだけ歪んでたんだよ!?と。
あんなのを礼賛していた日本のマスコミもどうかと思いますがね。結局は10年も前から「中国経済はバブル崩壊する!」とあちこちから否定されながら言い続けてた方が正しかったというオチ。
現在BRICKS首脳会談(プーチンはリモート参加)が南アフリカで行われていますが、主要議題が「ドルに依存しない経済体制」ですと。言いたいことは分かるんだけど、じゃあ現在大暴落の人民元やルーブルが基軸通貨になりえるのか?否てすね。もちろんドルが昔より弱まってるのは確かですけど。
かつて中国のWTO加盟を強力に後押しし、財務大事時代には「人民元の国際決算が出来る中央銀行の創設を」と働き掛けていた麻生太郎の先見性が、今更ながら凄いですね。
結局は共産党支配ばかり進めたあちらの国には通用しなかったようですけど。。歴史の分かれ道をリアルタイムで見ている状態です。。。
投稿: 山形 | 2023年8月23日 (水) 09時36分
国際与信に関して、今年の3月末における日本の対外与信は約4兆8千億ドル。
そのうち中国に対するものは約825億ドル、全体の1.73%。
145円で換算すると約12兆円、12兆は少なくない数字ですが、全体からすると大した額ではなく、焦げついたとしても日本の金融機関なら上手いこと処理できるレベルかと。
徐々に減らしてきたのかも知れませんが、中国との結びつきってテレビでいうほどのこともなく、希薄な感じですね。
これがアメリカだったら影響はかなり強いですが、中国なので影響は弱く火の粉程度のような。
軍事費を毎年上げていますが、それをバブルの不良債権処理へ充てていれば少しはマシだったでしょう。
中国政府は福島の処理水放出について国民の命と健康を考え日本からの輸入を一部制限するとか吠えてますが、都市を水没させたり、不良債権放置など国民のことなど何も考えてないくせによく言うわ。
中国は赤い貴族が私腹を肥やすだけですね。
投稿: 多摩っこ | 2023年8月23日 (水) 13時51分
多摩っこさんお久しぶり。
軍事費(防衛費)を無くして社会保障費に当てろというのは、日本共産党の定例句です!
半世紀前ならともかく元々金額が圧倒的に違うのに、何をバカいってんの?という話。未だに志位さんは主張変えないもんね。どこの回し者だよ!という。
我が国の防衛費なんてGDPの1%をデフレ経済の中でも頑なにこの30年のスルメじゃない雀の涙てすよ。
彼の国ては軍事費を30年間毎年10%アップですからとてつもないですね。それこそ民需に回していたら「共同富裕」できたかもです。だって、あいつらは政治的思惑で台湾を取りたいというだけで無茶しすぎ。現在の中国領土を侵略される恐れなど皆無なのに世界に脅威を撒くというバカやりすぎ。
スルメイカは今年も不漁か。
あまりの猛暑続きで、庄内浜鼠ケ関の一夜干しもいつもの半分のたった3時間ほどで終わりという異常な暑さでゲンナリしてます。今日も38℃予報。
ユーロファイター·タイフーン(イカ一夜干し)を七輪の網に載せて炭火で炙って、くるっと反る所に醤油をちょろっとかけて···食いてぇー!!ビールに最高!!!
投稿: 山形 | 2023年8月24日 (木) 09時32分
山形さん、こんにちは
中国の軍事費が日本円にして30兆を超えましたもんね、直近10年の軍事費の半分でも毎年使って経済の立て直しを図っていればこんなに膨らまずに済んだでしょう。
岩礁埋め立てたり航空母艦を建造してる場合じゃねーっつーの。
不透明な会計では悪化の一途、日本の悪いお手本から何も学んでない。
仮に台湾を手に入れようと軍事行動に出れば経済的にも良くない方向へ拍車がかかります。
何もせずとも破綻するかも知れませんが、私腹を肥やした連中は私財を持って海外逃亡。
一夜干しがそんなに早く完成とは、38度じゃ東京より暑いですね、お気をつけてください。
投稿: 多摩っこ | 2023年8月24日 (木) 14時39分