とうとうやって来た、中国不動産バブルの完全瓦解
ひさしぶりに通常更新に戻ります。
いや、暑い。あまりの暑さにボーとしているうちに、半死半生だった中国不動産大手、中国恒大集団が17日、米国で破産申請してしまいました。
中国経済界は、いまや空前のデフォルトラッシュに襲われています。
不動産業界だけで、碧桂園、遠洋、中植系ホールディングス、中融信託などが破綻しています。
このことで中国経済の減速が改めて確かめられた形です。
「中国の不動産開発会社、中国恒大集団は17日、外国企業による米国内保有資産の保全を可能にする米連邦破産法15条の適用をニューヨークの連邦破産裁判所に申請した。法廷文書で明らかになった。米国内資産を保全し債権者からの差し押さえなどを回避しながら、米国外での債務再編に取り組む。
連邦破産法15条の適用により、米国内資産が保全される一方、米国外の場所では債務再編策が練られることになる。国際的な債務再編では、取引を最終的に取りまとめる過程で同条の適用申請が必要になることがある」
(ブルームバーク2023年8月18日 )
中国恒大集団、NYで連邦破産法15条の適用申請-米国内資産保全 - Bloomberg
朝日
負債額も50兆と、小国の予算規模に匹敵するほど巨大です。
「不動産不況の象徴となった恒大は22年末時点で負債総額が2兆4374億元(約49兆円)に達し、負債が資産を上回る債務超過に陥った。負債総額は21年6月末時点の1兆9665億元(約40兆円)から2割超増えていた。21、22年の2年間の最終損失は単純合計で約5800億元(約11・5兆円)となった」
(朝日2023年8月18日)
中国の「不動産神話」崩れる 米で恒大破産申請、続く負のスパイラル:朝日新聞デジタル (asahi.com)
恒大は目下、香港、ケイマン諸島、英領バージン諸島などで事業再編取引に向けた交渉を模索中と公表しており、債権人は今月、事業再編取引に対して投票を行い、9月一週目には香港とバージン諸島の裁判所で批准されるであろうと言っています。
米国破産法第15条に基づき、米国破産裁判所は外国企業の破産および債務再編プロセスを承認し、債権人が米国において訴訟を起こしたり、資産を凍結したりすることを防ぐとことができます。
したがって、これは破産そのものを意味せず、「米国における資産を債権者の強制差し押さえなどから保護することが目的で、事業再編取引を行うための措置」にすぎない、というのが恒大の言い分です。
ならばなぜ、中国企業が中国で破産保護を申請しなかったのでしょうか。
福島香織氏はこう見ています。
「破産の危機に直面してきた中国恒大集団が17日に米国マンハッタン破産裁判所で破産保護を申請した。多くの人は、なぜ中国で破産申請しなかったのか?と思うだろう。
理由は簡単だ。中国当局は恒大が破産することを許さなかったのだ。だが、恒大を救済しようと積極的でもなかった。負債総額1.8兆元、救えるわけがない。かといって倒産させることもできない。習近平は許家印に対し、私財をなげうって負債の穴埋めをしろ、追い詰めていた。
そんな状況で、半殺し状態で放置されていた恒大としては、米国での破産保護申請は、最悪の中での唯一の選択肢。グループの中で唯一、生き残りの可能性がある新エネ自動車企業の恒大汽車に一縷の望みをかけて、債務再編を進める」
(中国趣聞NO.858:恒大問題:不動産市場救済は失敗?それとも、わざと?)
中国政府は社会的影響が大きいために恒大を破産させたくても出来なかったし、かといって習近平の後述する「共同富裕」政策を受けて救済する気もなかった、つまり2年前から実質経営破綻しているゾンビー企業なのに半殺し状態のままいて欲しかったということのようです。
恒大はあえて規模が小さいドル建て負債がある米国で破産処理をして事業再編を行い、恒大企業集団で数少ない成長産業の電気自動車に賭けてみようということのようです。
この企業再編で延命させた恒大汽車をドバイのニュートン集団に売り払うことで、汽車の株価をあげました。
ちなみに、14日にこのニュートン集団の新株引受に関する公告がでると、恒大汽車の株価が一気に45%爆上りし、それに合わせたように創業者の許家印が離婚しました。
もちろん爆上がりして得たカネを別れた妻に名義にして、財産を持ち逃げする企みなのでしょう。
バブル紳士たちがよくやった手口です。
米国破産法は日本の民事再生法に相当するもので、チャプター7、チャプター11、チャプター15といつくかありますが、そのうちのチャプター15です。
2008年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻がで適用されたのがチャプター11で、あのリーマンショックの震源地となりました。
破産法の基本的な姿勢は、再建をめざさず清算のみを行うチャプター7以外は、企業を消滅させるのではなく、事業を継続しながら再建を進めるというものです。
恒大が米国での破産法適用を選んだのは、ドル建債権が少ないことから、本体の元建て債権での交渉を有利に運ぶためだと見られています。
ただし恒大が経営破綻状態なのは2、3年前から知れ渡って市場は折り込み済みであり、破産法を適用を要請した以上、いくら経営破綻ではないと言い繕っても無駄でしょう。
ロイター
中国最大手の民営不動産デベロッパーの碧桂園は、私募債の償還延期を要請しました。
「かつて財務的に健全と考えられていた同社の苦境は、住宅購入者や金融会社にも影響を与える可能性があり、当局の支援が近いうちに実現しなければ、より多くの民営デベロッパーが転換点に近づくことになる。
中国不動産セクターは2021年後半以降、売り上げの落ち込み、流動性の逼迫、一連のデベロッパーのデフォルト(債務不履行)に見舞われており、中国恒大集団が債務危機の中心となっている。
投資家心理に新たな打撃を与える動きとして、中国の上場企業2社が週末、満期を迎えた投資商品の返済を中融国際信託から受けていないと発表した」
(ロイター8月14日)
アングル:中国不動産業界の資金繰り悪化、当局の対応求める圧力強まる | ロイター (reuters.com) 。
中国不動産業界の瓦解は、この恒大や碧桂園に終わらず中栄国際信託にも飛び火します。
「 中国の上場企業2社は週末、中栄国際信託から満期を迎えた投資商品の代金を受け取っていないと発表した。
この情報開示は、中栄国際と少数の上場企業を支配する中国のコングロマリット、中智企業集団の健全性に対する市場の懸念を深める可能性がある。
ナシティ・プロパティ・サービス・グループは金曜日の取引所提出書類で、8月8日を期限とする中栄の管理する信託スキームに3000万元(415万ドル)を投資したが、元本と利回りを受け取っていないと述べた。
別の上海上場企業であるKBC Corpは、中栄が管理する2つの信託商品に6000万元を投資したが、満期後に支払いを受けていないと発表した。(略)上場株主の京威紡織機械有限公司は6月29日の年次報告書で、不動産市場の低迷が一部のデベロッパーのデフォルトを引き起こしたため、中栄の事業は「前例のない挑戦」に直面したと明らかにした」
(ロイター8月14日)
中国企業は中栄信託から支払いを受け取っていないと述べている |ロイター (reuters.com)
そしてデベロッパーだけではなく、中国不動産市場に資金を供給していた巨大金融機関の中植企業集団が経営破綻に陥っています。
「(ブルームバーグ) -- 1995年に製材業として設立された中植企業集団は、1兆元(約20兆円)以上を運用する金融コングロマリットに成長した。その中植企業集団が今、中国金融界の巨人の中で最も新しい破綻企業になる危険性をはらんでいる。
地元メディアから「中国のブラックストーン」と呼ばれることもあるこの観測レーダー外の金融業者は、かつて隆盛を極めた中国のシャドー・バンキング(闇の銀行)市場の中心で事業を展開しており、2017年以降、規制当局がその取り締まりに乗り出している。同社は現在、関連会社が一部の投資商品の支払いを滞らせたことで、中国市場全体に警鐘を鳴らしている」
(ブルームバーク8月14日)
中国の20兆円規模の「影の銀行」に危機、習近平政権に新たな困難[ブルームバーグ] (axion.zone)
まがうことない日本人がよく知っている不動産バブルの崩壊の開始です。
不動産事業の不振が投資商品に波及し、不良債権の山を築いて、やがて自壊するという光景です。
どうしてこんなことになったのでしょうか。
中国は、GDPを上げるための個人消費が低迷していました。
一般の先進国における個人消費のGDに締める割合は50~60%ですが、中国はわずか38.7%にすぎません。
第1部 第1章 第6節 (1)家計消費、物価の動向 | 消費者庁 (caa.go.jp)
個人消費の内訳は、教養娯楽や住居、外食等の「サービスへの支出」が42.4%、食料や光熱・水道等の「財(商品)への支出」は57.6%です。
つまり文化的に豊かな暮らしを支えているのが個人消費なのです。
そしてこの個人消費こそが、自由主義経済ではGDPの6割を支える大黒柱なのです。
だから増税すれば自動的に景気は落ち込みます。
中国政府が低迷する個人消費の穴埋めに考えたのが、大規模な不動産投資でした。
その結果、中国全土にアジア人全員の34憶人相当分の住宅建設済みという空前の不動産バブルが発生してしまいました。
この不動産バブルこそが中国の「繁栄」を支えていたのです。
「しかも中国での不動産開発は「プレセール(事前販売制)」といわれる、住宅の完成前に代金の一部を支払う形態が一般的です。
開発業者は回収した資金をすぐ次のプロジェクトの開発に回していった結果、実際の需要を投資が大きく上回るような構造が存在していました。そして不動産が売れ続けることで地価も高騰し、値上がりを見込んで投資も更に加速する、という相乗効果の中で中国の住宅市場は長らく好調を維持していました。
しかしこれは一種の自転車操業であり、非常に危ういバランスの下で成り立っているシステムでした」
リビンマッチコラム (lvnmatch.jp)
この事前販売制がクセモノで、着工前にカネを取ってしまい、この土地を担保にして次の物件を買い、尺取り虫よろしく事業を拡大していきます。
かつてのダイエーがやった手口で、順調にいくうちはいいのですが、なにかあるとこの自転車操業のペダルが止まってしまい大ココケすることになります。
中国人がわれもわれもと投機目的で銀行借入をしてまで複数のマンションを購入した結果、個人・家庭部門が膨大な負債を抱えてしまいました。
いまや個人・家庭の負債額はGDPの1.65倍の200兆元、家計の負債比率137.9%にまで膨らんでいます。
しかし考えてみれば、土地の所有を認めない社会主義国家が不動産バブルというのは珍妙な話で、日本でいう不動産所有権とは違い「使用権」にすぎませんので、仮にマンションを買っても住めるだけなのですが。
それでも不動産バブルが発生したのは、投機目的も多くあったということです。
これが2年前に崩壊しました。
経済オンチの習近平が、2021年8月に「共同富裕」政策をぶち上げたからです。
ゴリゴリの毛沢東崇拝者の習は、急速な経済発展のもとで後回しにされてきた所得格差を力付くで是正しようとしました。
その中で共産党への信認を高めようというのが目的です。
共産党にやり玉に上がったのが不動産開発、学習支援、ITの三つの産業でした。
学習塾は2021年9月までに18万社、IT産業でも反トラスト法違反の罰金や権利保護に伴い、業績が悪化する企業が目立ちましたが、本丸は不動産業でした。
2020年8月、習近平は「三道紅線(三本の赤線)」という規制強化の方針を打ち出したからです。
これは財政状況に不安のある不動産開発企業に対する銀行融資を規制するもので、過剰な不動産投機を抑制し、格差を是正することを目的としたものでしたが、これにより総負債比率等の基準に抵触した企業への融資規制強化のために30社を超える不動産開発企業が次々と債務不履行に陥り、384社が破産に追い込まれ、
中国を代表する巨大企業であった恒大集団は、こうしてデフォールトに追い込まれました。
ちょうど1年前に真壁昭夫氏はこう述べています。
中国、不動産バブル懸念 民間債務、かつての日本超す | マンション投資・資産運用のおすすめ情報サイト Liv Plus (リヴプラス) (liv-plus.jp)
「主因は不動産バブル崩壊だ。共産党政権の厳格な融資規制は、人々のリスク許容度を急低下させた。債務問題は悪化している。
加えて、ゼロコロナ政策は建設活動を停滞させている。他方、成長期待の高いIT先端企業の規制強化が先行き懸念をさらに高める。それらの結果として、若年層を中心に失業者が急増。ローンの返済を拒む住宅購入者も急増している。
地方政府の財政悪化も鮮明だ。債務返済の延期を銀行に求める地方政府まで、出現しはじめた。
中国の不動産バブルの後始末は拡大するだろう。今後、大手不動産デベロッパーの資金繰りはさらに行き詰まる可能性が高い。ゼロコロナ政策も続き、個人消費は減少基調で推移する」
中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化、習近平政権は正念場に | 今週のキーワード 真壁昭夫 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
さらに不動産融資規制が強化される中、追い打ちをかけるように習近平のゼロコロナ政策によって不動産の建設には待ったがかかりました。
不動産開発は融資に頼っています。
自己資金だけでは足りず、巨大な債務を起こして、土地を買ったり建物立てたりします。
中国の事前販売制により、顧客から前金が入ってしのげたからです。
これさえあれば返済が可能ですから、いくら不良債権を抱え込んでいようと、なんとかやっていくことができたのですが、これがゼロコロナで止まってしまったのですから目も当てられません。
それが突如政府によって融資を制限され、本業の建設も資金が足りなかったり、コロナでできなくなったとしたら、一気に支払わねばならない返済がのしかかってきます。
この瞬間工事は中止、作っていたマンション群は不良債権のジャンクとなってしまいます。
誰も住んでいない構想マンション群「鬼城」(グェイチョン)
ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
しかもこれは不動産業にとどまりませんでした。
これらの大手不動産デベロッパーは、ヘルスケア、新エネルギー開発、自動車、金融など手広く事業を展開していていたのです。
特にこの金融業が地雷源でした。
信託、資産管理、保険、先物などは、すでに金融商品として販売されており、市場にファンドの一部としてバラまかれていました。
かつてリーマンショックで、とうてい不動産を買うことが不可能な貧困層にまで金融商品を売りつけたことがリーマンショックにつながったのと同じ構造です。
これが金融証券用語でカウンターパーティーリスクと呼ぶ現象です。
「取引相手の信用リスクのこと。
外国為替取引やデリバティブ取引で、相手先の金融機関のことを「カウンターパーティー」と呼びます。取引所を介さずに直接取引を行うことから、カウンターパーティーがデフォルト(債務不履行)に陥ると、損失が発生する可能性があります。このため相手先の信用度が取引に絡むリスクになるとされています」
カウンターパーティーリスク | 金融・証券用語解説集 | 大和証券 (daiwa.jp)
今回間違いなく、すでにこれらの不動産企業集団は利払いにすら窮しているわけですから、他の企業集団にも飛び火させることでしょう。
そしてさらには金融商品として広くバラ撒かれていると思われます。
中国経済の終わりの始まりが来たのです。
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管理人さんのインナー・ジャーニー的なもの、楽しかったです。
さて中共。
昨今米国は過度のインフレを抑制するために金利を下げていますが、今の中共には、自国の金利をそこに合わせていく余裕は無いようです。既に諸国はチャイナ・リスクに気付いているのですから、ますます資金は逃げますね。
参考:朝鮮日報8月18日「ドルに取って代わると豪語していた人民元の凋落」
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2023/08/18/2023081880022.html
日本の失敗の轍を、中共は順調に踏んいるわけですが、ただ、恐らくなりふり構わずしぶとさと厚かましさを発揮しようとするであろう中共経済を無事看取ろうとすれば、我が国社会も金利政策の変化を受け入れる時が来るでしょうか。
投稿: 宜野湾より | 2023年8月21日 (月) 16時37分
本当に中国が不況の坂を転がり落ちていくのか?
もうすぐ答え合わせがされますね。
解禁された中国人の団体旅行者数がどれほどのものになるかです。
投稿: しゅりんちゅ | 2023年8月21日 (月) 23時15分
周近平中共政府は独特の社会主義政策もって、不良不動産会社の破綻をソフトランディングさせられると考えたのでしょうかね。
日本のように一気に処理して、早めに立ち上がる方向を見据える事が出来ない事情はメンツゆえか。
ただ、不動産販売に依拠していた地方財政にも途方もない負債があって、これまた破綻状態にして税収の見込みがありません。
出口がない独裁政権が取り得る手段は一か八か、戦争への道を開く選択をするのかどうか? ここがやはり心配です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年8月21日 (月) 23時27分
山路さんのおっしゃるとおりの懸念を自分も強く感じます。
中国がどうしても外に打って出なければという事情に対して西側諸国は、
「台湾はダメだけど、ロシアを食えばいいじゃない?」
と持ちかけるのはアリではないか、と思いました。
投稿: プー | 2023年8月22日 (火) 11時34分