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2023年9月

2023年9月30日 (土)

ロシアが日本水産物を禁輸だって(笑)

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ロシアが面白いギャクを飛ばしています。
なんでも「放射能汚染」した日本産海産物を禁輸したいんですと。
ガハハ、どうぞどうぞおやり下さい、
痛くもかゆくもありません。むしろ勧めたいくらいです。

[26日 ロイター] - ロシアは日本産の水産物の輸入を禁止することを検討しており、この問題について日本に協議を要請した。ロシアの食品安全監視機関ロセルホズナゾールが26日、明らかにした。
日本産の水産物を巡っては、中国が東京電力福島第1原子力発電所の処理水の放出開始に反発する形で、輸入を8月24日から全面的に停止している。
ロセルホズナゾールは声明で「放射能汚染の可能性を巡るリスクを踏まえ、日本からの水産物の供給について、中国が実施している制限に(ロシアが)加わる可能性を検討している」と表明。日本との交渉後に最終的に決定するとした。
ロセルホズナゾールは日本政府に書簡を送付し、協議の必要性を伝えたほか、輸出向けの水産物のトリチウムなどの放射性物質に関する検査の情報を10月16日までに提供するよう要請したとしている。
ロシアの年初からの日本産の水産物の輸入量は118トン。」
ロイター2023年9月27日
ロシア、日本産水産物の禁輸を検討 中国の措置に参加=食品安全当局 | ロイター (reuters.com)

初めロシアは「汚染水」についてまるで関心がなく、ニュースの扱いも小さなものでしたが、「盟友」中国が火のついたような大騒ぎを始めると、いきなり「連帯の挨拶」を始めたようです。
実にわかりやすい反応ですな。
プーチンという男は、マウントできると思えばパチカン法王ですら待たせる、安倍氏など何時間待ったことか。
正恩の訪露にはあらかじめ待っていました。
立場が弱くななると、ささっと先に行って待っていらっしゃるんですね、この「光の戦士」は。
貧すれば鈍する、とはよくいったもんです。

ウクライナ戦争までは、ロシアはあからさまに中国を舎弟あつかいにしました。
そもそも中国共産党はソ連が作ったもんだ、だからソ連時代にはズっと兄貴分だった、みたいな伝統的歴史観があったのでしょう。

合同大規模軍事演習も、ロシアが中国を招待する形でしたし、海軍合同演習も、中国に教えてやるという気分マンマンだったものです。
ロシア軍と中国軍の将校レベルの交流は強化されましたが、これも中国軍将校が4千人規模てロシア士官学校に送り込んでいたものです。
また、中国が進めているミサイル防衛システムも、ロシアの防空システムを習ったもので、プーチンは教えてやらんでもないという鷹揚な態度をしていたものです。

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中国とロシア、深まる軍事交流 なぜ日本の警戒感は薄いのか:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

このような流れは中露相互防衛条約にすすむのでは、と思わせる観測を呼びましたが、いきなりブレーキがかかったのが、皮肉もロシア軍のあまりの惰弱な内実を暴露することになったウクライナ戦争でした。
兵士の戦意はゼロ、戦車はポンポンと景気よく砲塔を吹き飛ばされ、黒海艦隊の旗艦はあえなく撃沈、頼みの大砲は砲弾の備蓄がショートし、いまや世界最貧国の北朝鮮にすがりつくありさま、おまけに厳しい経済制裁を食らっている、こんな奴に「連帯」なんぞして二次制裁をもらったらたまらんとチャイナは思ったのでしょうな。
そしてじわーと距離を置き始めました。

そもそも軍事同盟とは、強い相手とするもので、ヘタレといくら同盟を結んでも無意味ですらかね。
ロシアは経済はないに等しいのですら、軍事力で強くってナンボのものなのです。
それがああ弱くちゃね。

そうなると、ロシアは兄貴分の顔を投げ捨て、腹をだしてシッポを振る犬よろしくほんとうはどうでもいいと思っている「汚染水」問題でも中国と共闘すると言い出したのです。
要するに、ご機嫌とりです。
馬鹿だねぇ。禁輸は、一定の規模があるから有効なのであって今の日露貿易関係で、海産物を禁輸したからどーだっていうんでしょうか。

ところで、巨大な規模の対中国とはうって変わって、日露貿易関係は実に寒々としたものです。
だって、ロシアから買うものは原油と石炭くらいなもので、売るものは自動車くらいだからです。
かんじんの禁輸すると言っている日本産魚介類はたった2億円規模、タワマン一部屋くらいの規模です。
逆にロシアからの海産物は、今年1月から7月だけで682億円に達しています。
完全な日本の入超ですから、日本産海産物を禁輸して、日本が対抗措置としてロシアが178億円も輸出しているカニを禁輸でもしたら、目も当てられないのはロシアのほうです。
今、制裁で喉から手がでるほど欲しい外貨収入がいっそう細ります。
こういうことを、世間では天に唾すると呼びます。セルフ制裁ですね。

一般社団法人ロシアNIS貿易会の服部倫卓氏はこう述べています

「日本側の統計にもとづいて、最新の2017年の日本の対ロシア輸出・輸入の商品構造を示すと、上の図のようになっています。輸出では、自動車関係(青で示した部分)が全体の55.4%を占めています。
輸入では、石油・ガス・石炭というエネルギー(濃い赤で示した部分)が全体の69.3%を占め、残りは金属(アルミニウム、パラジウム等)、魚介類、木材といった資源・素材系の品目がほとんどです」
(朝日2018年7月31日) 
正念場を迎える日本とロシアの経済関係:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

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朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

一方、ロシアへの輸出は自動車とタイヤや部品くらいなもので、中古車が大きな割合を占めているのはご愛嬌です。
シベリアでなんとか保育園とか、なんじゃら温泉と書いた中古車が元気に走っているのを見たか方も多いようです。

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同上

全体規模を見ても輸出入共に1%にも満たない屁のような規模です。

・対露輸出額は2908億円で日本の輸出額全体(56兆0781億円)・・・0.52%
・対露輸入額は6207億円で日本の輸入額全体(63兆1088億円)の0.98%
・対露貿易額は9115億円で日本の貿易額全体(119兆1868億円)の0.76%

ロシアから日本への輸出は6割が天然ガス、これに続いて多いのが非鉄金属(パラジウムやアルミニウムなど)そして三番手が魚介類です。
ウクライナ戦争までは、日本もロシアを有力な天然ガスの輸入先のひとつとして考えていました。

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石油から再エネまで、あまり知らないロシアと日本のエネルギー協力|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

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同上

日本は、輸入原油のうち約6%を、輸入天然ガスのうち約9%をロシアから輸入しています。
輸入だけではなく、現地生産プロジェクトにも直接投資していました。

「サハリン1」「サハリン2」というロシアのサハリンにおける石油・天然ガス開発プロジェクトからは、原油と天然ガスが輸出されています。また、東シベリアでも、探鉱段階から日本がイルクーツク石油と協力してザパド鉱区を掘りあてて、2016年から原油の生産が開始されいます。
これらはウクライナ戦争がなければ一般的な国際貿易として進展したのでしょうが、ロシアは自らの手でこれを壊してしまいました。

このように、日本が海産物禁輸で受ける被害は皆無です。
困るのはロシアですので、ぜひおやり下さい。

 

 

2023年9月29日 (金)

ウクライナの敵となってしまったトランプ

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トランプには失望しました。彼はいまや「ウクライナの敵」に転落してしまったようです。
ゼレンスキーはこう述べています。

「ウクライナのゼレンスキー大統領は米国のトランプ前大統領に対し、ウクライナとロシアの戦争終結に向けた自らの和平計画を公表するよう強く求めた。ただ、ウクライナが領土をあきらめる内容であれば、いかなる和平計画も受け入れられないと警告した。
19日のCNNとのインタビューで述べた。
この前には国連総会で一般討論演説も行ったゼレンスキー氏は、「彼(トランプ氏)は自らの考えを今、公表すればいい。時間を無駄にすることはない。人命も失ってはならない。自分の解決策はこうだと言えばいい。戦争を止め、あらゆる悲劇に終止符を打ち、ロシアの侵攻を阻止する方法はこれだと宣言すればいい」と述べた。
一方で「それでももしその考えが、我が国の領土の一部を取り上げてプーチン(ロシア大統領)に与えるという内容なら、それは平和の解決策ではない」と付け加えた」
(CNN9月20日)
ウクライナ大統領、トランプ氏に和平計画の公表を要求 ロシアへの領土割譲は拒否(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

トランプは今年6月の自身のウェブサイトに、来年の大統領選に勝利すればウクライナでの戦争を終わらせ、ロシアとの対立に終止符を打つとともに「私の政権で始めたNATOの目的の根本的な見直し作業を完成させる」と約束しました。
自由主義陣営がロシアと全力で対峙している時に、「根本的見直し」ですって。冗談ではない。
まったく利敵行為で、どっちの味方だトランプ、と言いたくなります。
ウクライナ支援も、オレが大統領になったら直ちに終わらせるそうで、正気の沙汰ではありません。
しかもこの人物はTPPのように、ほんとうにやってしまった過去があるのでコワイ。

ちなみにロイターによれば、2番手につけるデサンティスはトランプと同じですが、かつてのトランプ外交を支えた立役者たちである、元国連大使ニッキー・ヘイリー、前副大統領マイク・ペンス、元国務長官だったマイク・ポンペオなどは揃ってウクライナ支援派です。
また有力な共和党保守のマルコ・ルビオも同様のようです。
アングル:24年米大統領選、共和党はウクライナ戦争関与が争点に | ロイター (reuters.com)

現実にありえることなので、議会は新たにケイン-ルビオ法を作って、NATO脱退については上院の同意を条件づけました。

「米上院は7月末、ホワイトハウスにトランプ氏が戻ってくる可能性に備え「NATO脱退には上院の同意が必要」という国防権限法(NDAA)の条項=ケイン・ルビオ修正案を68対28で可決、この動きはトランプ氏が再び「分担金(GDP2.0%相当の国防支出)の支払いを加盟国が滞納するようならNATOから脱退する」と言及したことに関連しており、もしトランプ氏が再選して上院の同意なく「NATO脱退手続き」を開始しても、ケイン・ルビオ修正案によって「脱退手続きに必要な資金供給の制限を受ける」という寸法だ」
大統領復帰を目指すトランプ氏、米製品を購入しない国から軍を撤退させる (grandfleet.info)


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アベマニュース

「2024年大統領選で共和党候補の指名争いの首位を走るトランプ氏は、自分ならゼレンスキー氏とプーチン氏に協定を結ばせ、ウクライナでの戦争を24時間以内に終わらせることができると語っている。17日に出演したNBCの番組で協定の結果プーチン氏は手にした領土を維持するのかどうか問われると、トランプ氏は否定的な見解を示唆。誰にとっても公平な協定にする意向を表明した」
(CNN前掲)

ゼレンスキーが言っているのは、トランプが言う「ゼレンスキーとプーチンが協定を結び、24時間以内に戦争を終結させる」というのは、いかなるプランなのか説明しろ、という至極もっともな指摘です。
そんな都合いい「協定」なんてありゃしません。

出てくるとすれば、現状凍結、ありていに言えばロシア軍の支配地域をそのままウクライナが休戦ラインとして認めて、事実上の「国境」として半永久的に固定化することです。
それでなくてはプーチンが「24時間以内に戦争を終結する」はずがありません。
これはロシアの侵略行為の肯定、ウクライナに対しての許し難い裏切りです。
そして「力による国境の変更」、「法の支配」の否定です。
つまり、トランプはたんなる和平案うんぬんの次元ではなく、自由主義のルールそのものをを否定しようと言っているわけです。
こんな人物を大統領にしてはなりません。

トランプは、ディープステート陰謀論に染まっていました。
例のQアノンというカルト信仰です。
説明するのもうんざりしますが、「Qアノン」という匿名の人物は、政府の最高機密に触れられる「Qクリアランス」を持っていると主張し、SNSで信徒を増やしました。
「アノン」とは「名無し」(Anonymous)たちのことです。

Qアノンらは、世界は小児性愛者(ペドフィリア)の集団によって支配されており、悪魔の儀式として性的虐待や人食い、人身売買に手を染めている。彼らは陰で世界中の政府、メディアを操って「ディープステート」(影の政府)を作っている、と主張しています。
さらに彼らにはアイコンがあって、トランプはデープステートと戦う「光の戦士」だとしています。
笑えることには、プーチンも「光の戦士」とやらで、ネオナチの悪党が支配するウクライナの解放のために戦っているというストーリーのようです。
なんでも、マウリポリの鉄工所はバイオハザードのアンブレラ社で、そこでウィルス兵器を製造していたので、プーチンがそれを阻止するためにネオナチ軍団のアゾフ連隊と戦ったのだとか。
もうここまで来ると、お大事にね、いちど伊良部先生に診てもらいなさい、としかいいようがありません。

「前政権下では、トランプの考えている同氏が非常に特異で頻繁に変わる世界観を持っていても、実際の政策は相当な経験を持つ高官によって米国のパートナーのためになるように修正されたり、解釈されたりして事なきを得てきた。
だがトランプ氏が大統領に返り咲いた場合、そうした展開は全くあり得なくはないとしても、実現する可能性はより小さくなっている。同氏とその取り巻きは「ディープステート(闇の国家)の破壊」を基本路線として選挙戦に乗り出しており、ディープステートには国務省や国防総省、各情報機関が含まれているからだ」
(ロイター2023年6月17日)
コラム:トランプ氏「返り咲き」なら外交予測不能に、同盟国警戒 | ロイター (reuters.com)

ロイターが言うように、トランプ政権下では、マティスやペンス、あるいはボルトン、ポンペオなどがガッチリと脇を固めて、トランプ御大の暴走を食い止めていました。
そして外交の師である安倍氏が、おかしな方角に突っ走らないように手綱を握っていたのも幸いしました。

それらから解き放たれた素のトランプは先祖帰りしてしまいました。
いやただ戻ったのではなく、大統領選の怨念によってさらにハワーアップしておかしくなってしまったのです。やれやれ。

「ディープステート批判は、トランプ氏が機密文書持ち出し問題で起訴されて以来、一段と熱を帯びてきた。今週のロイター/イプソス調査で共和党員の8割余りが、この起訴が少なくとも部分的には政治的動機に基づくとの見方を示したこともあり、党員支持率で圧倒的な優位に立つトランプ氏が党の正式な大統領候補指名を獲得すれば、反既成政治と孤立主義の主張をさらに強めるだろう。そして、何十年にもわたって積み重ねられてきた米国の外交軍事政策に未曾有の影響をもたらしかねない」
(ロイター前掲)

トランプの影響を受けて、共和党はペンスなどの一部を除いていまやウクライナ支援反対に染まりつつあります。

「米国からウクライナへの軍事支援は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年2月以降、計430億ドル(約6兆3500億円)を超える。米FOXニュースの8月の世論調査によると、ウクライナ支援を「増やすべきだ」との回答は21%で、「減らすべきだ」との回答が36%と上回った。特に共和党の支持層では56%にのぼり、「支援疲れ」が顕著だ。
背景には共和党のトランプ前大統領が掲げる「米国第一」主義があり、同氏は国内政策を優先するべきだと主張する。これに同調する強硬派議員たちはウクライナ支援に反対するなどし、米政府の新会計年度が10月1日に迫るものの予算が編成できない状況だ」(東京9月22日)
ゼレンスキー氏と「面会拒否」した下院共和党 支持層に広がる「支援疲れ」と保守強硬派の反対:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
支援継続を訴えているのは、トランプの仇敵マッカーシーら主流派だけで、共和党の下院議員の一部は、ウクライナに向けた今後一切の追加支援への反対を公言しています。
困ったもんです。
バイデンは弱腰、トランプは逆走、処置なしの米国政治です。
まともな保守政治家がいないのか、この国は。
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ウクライナプラウダ
ゼレンスキーはこういう西側陣営の足並みの乱れに対して釘をさすように、こう決意を語っています。

「世界で何が起こっても、外部条件が何であれ、私たちは覚えておく必要があります。私たちの条件、ウクライナ、自由、そして私たちの目標に対する私たちの内部の態度だけが、私たちがいつ目標を達成するかを決定します。主な目標。ウクライナの勝利。
ウクライナの強さには選択肢がありません。そして、国家を強化するすべての人、強くなるすべての人、そして敵と戦い、ウクライナのために結果を達成するのを助けるすべての人–すべてが私たちの目標を近づけます」
ゼレンスキーは、この秋に来るウクライナを強化するための真剣な措置を発表します|ウクライナ・プラウダ (pravda.com.ua)

これは総力戦を決意した言葉と取るべきです。
ウクライナは東部戦線の進撃、クリミアへの手厳しい攻撃など苦しみの中から勝利をもぎとろうとしています。
新たな武器も揃いつつあります。
各国に派遣されていた訓練も徐々に帰国し戦力に加わっています。
こういう時期に支援を引き上げるとは、なんというミーイズム。

トランプは落とすべきです。

 

 

2023年9月28日 (木)

プーチン政権の「生命線」クリミア

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昨日からの続きです。
これまで私は、なぜ米国が射程300キロの長距離地対地ミサイルATACMS(エイタクムス) ブロック1Aを供与しないのか不思議に思っていました。
おそらく現代の地対地ミサイルの最高のひとつで、これが配備されれば前線のはるか後ろから目標を狙えるので、弱小のウクライナ空軍の劣勢をおぎなってあまりあるものだからです。

たとえば、今回のセバストポリ司令部攻撃作戦は、MiG-29やSu-27がストーム・シャドウを搭載したSu-24を護衛して実施されたと伝えられています。
この作戦のリスクは、ストームシャドウ/SCALPの射程が250キロであるために、セバストポリは射程外だという点です。
また、ロシア空軍のMiG-31BMなどとの空戦によって撃墜される危険も高いでしょう。
ですから、ウクライナ空軍は護衛編隊をつけ、ギリギリまで接近してからミサイルと一緒に多数のデコイ(囮)を放出しています。
そのために10機を超える大編隊となり、攻撃を事前に発見される可能性も高まります。
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ATACMSは射程が実に300キロ超もありますから、ケルソンやドンバスあたりからクリミア半島全域が攻撃可能となります。
このことは決定的な意味を持ちます。
その理由は、クリミア半島の重要性が単に黒海艦隊の母港セバストポリにあるだけではなく、ロシア侵攻軍の策源地だからです。
策源地とは、人員・物資などの補給物資を貯蔵し、破壊された戦闘車両を整備回収し、傷病兵の医療を行い、それらの輸送を行う後方基地のことです。
いうまでもありませんが、敵の攻撃を受けることがない安全地帯であることが絶対条件です。
クリミア半島はこの後方支援基地の役割を担っています。

下の南部のロシア軍占領地の鉄道ネットワーク地図をご覧いただくと分かると思いますが、ロシア本土からの物資はほぼすべてが鉄道で運ばれています。
補給物資はクリミア大橋を経てクリミア半島に入り、さらに各地の前線に届けられます。
この大部分は鉄道を利用しており、とくに重量物の砲弾、燃料、戦闘車両などは鉄路がなくては運べません。
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クリミア大橋についてプーチンは「破壊されたら核を使う」と公言しています。
クリミア半島とロシアのクラスノダール地方のタマン半島とを繋ぐ唯一の陸路であり、ロシアにとってクリミア支配のみならず、侵攻軍の補給を担うまさに生命線です。
逆に言えば、クリミア大橋が完成したからプーチンはウクライナ侵攻に踏み切れたのです。
この生命線を断ち切るべくウクライナが再三攻撃しているのは、ご承知のとおりです。
ここがATACMSによって、すっぽり射程に入ります。
さぞかしプーチンはゾッとしたことでしょう。
クリミア大橋を通過すると,半島中央のジャンコイをハブとして三つに別れます。
ひとつは半島北端にあるセバストポリ軍港へ、もうひとつは西のヘルソンへ至る西側ルート、そして三番目はメリトポリからさらに東部に至る東側ルートです。
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BBC

たぶんセバストポリの次に攻撃対象となるのは、入口に当たるクリミア大橋とハブ駅のジャンコイでしょう。
この2カ所に打撃を与え、そして鉄道の付近に点在する弾薬庫、車両基地などをしらみ潰しに撃破していけば、クリミアの策源地としての機能は停止します。

ところで、NHKがウクライナのポドリャク大統領府顧問のインタビューを取っていて、大変に興味深いものでした。
ポドリャク顧問は、ウクライナの攻撃には3つの狙いがあると述べています。

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NHK

「1つ目のねらいについてポドリャク氏は「クリミアの空を穴だらけにすることだ」と述べ、効果的に攻撃を進めるためにもまずは、クリミアにあるロシア軍の防空システムを破壊することが重要だと指摘しました。
そしてポドリャク氏は、ロシア軍はクリミアに200以上の備蓄倉庫などを持ち、前線への供給の80%がクリミアを通じて行われているとした上で「補給路を破壊することでロシアの戦闘能力も大幅に引き下げられる」と述べクリミアからの補給路を断つことが2つ目のねらいだとしています。
3つ目のねらいについては、ウクライナ産の農産物輸出に欠かせない黒海の制海権をロシアから取り戻すことだとした上で「われわれの無人艇は、ロシアの黒海艦隊を非常に効果的に脅かしている。今後も脅威は増す」と述べ攻撃は続くと強調しました」
(NHK2023年9月23日)
ウクライナ “クリミア ロシア黒海艦隊へ攻撃成功”狙いは? | NHK | ウクライナ情勢

第1の目的は、このクリミアは各種の備蓄基地が200カ所以上あるといわれています。
これらは多種多様で、クリミア大橋を経て運ばれた弾薬、戦闘車両の備蓄基地、予備兵力の待機基地、整備、医療の基地群からなっていると見られています。
これらの補給基地群と、それを結ぶ鉄道網とハブ駅を破壊し、兵站を枯渇させねばなりません。
第2の目的は、クリミアに展開する多種多様な防空システムを破壊することです。
とくに重要目標は、射程240キロのS-400です。
このS-400はクリミアのみならず、南部戦域全体をカバーしています。
すでに2基のS-400が破壊されているといわれています。
この防空システムが破壊されれば、ポドリャク氏の表現を借りれば、「クリミアの空は穴だらけ」になり、容易に攻撃可能となります。

第3の目的は、黒海の海上優勢をロシアから奪うことです。
もうすでに黒海艦隊はそうとうにガタがきていますが、さらに追い詰めてロシア本土に追い払わねばなりません。
そのことによって、ロシアによるウクライナ産穀物輸出が安全に航行ができるようなります。
このように補給路を断ち、空と海のロシアの支配権を奪うことで、やがてなされるであろう地上軍の進撃への道を拓きます。
そして第4に、ポドリャク氏はこう言っています。


「一方、クリミアへの攻撃が増えた背景についてポドリャク氏は「ウクライナには、クリミアにあるロシアのすべての違法な軍事施設を攻撃する権利があると民主主義の国々がようやく理解したためだ」と述べ、クリミアへの攻撃に欧米側から支持が得られたことを挙げました。そして「クリミアが解放され始めればロシアは間違いなく国内で重大な政治的な問題に直面する」として作戦の意義を強調しました」
(NHK前掲)

クリミアはロシアにとって海軍の黒海艦隊が駐留する戦略的に重要な拠点であるとともに、プーチン大統領にとってはみずからの威信を誇示するシンボル的な土地です。
つまりクリミアは単なる土地ではなく、プーチン政権の生命線なのです。

「 政権内でも強硬派として知られる安全保障会議のメドベージェフ副議長はことし3月、ウクライナがクリミア奪還に向けて重大な攻撃を行う場合を念頭に「核抑止力の原則に規定されたものを含むあらゆる防衛手段を使う根拠になる」と述べ、核戦力を使用する可能性に触れけん制しています。
プーチン政権に近い、政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」の会長をつとめたアンドレイ・コルトゥノフ氏もことし3月、NHKの取材に対して「クリミアを奪還する試みはロシア指導部にとってはもちろんレッドラインだ」と指摘しています」
(NHK前掲)

メドベージェフがクリミアを奪回しようとするウクライナの試みは「レッドラインであり、核攻撃の対象だ」と大見得を切るのは、このような理由からなのです。
このロシアの核の脅迫が、バイデンをしてクリミア攻撃が可能なATACMS供与をためらわせたことは間違いありません。

 

 

 

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ロシアの小型ドローンでウクライナの戦闘機損傷か 航続距離伸び脅威増す | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
ウクライナに平和と独立を

2023年9月27日 (水)

黒海艦隊司令部の破壊、黒海艦隊司令官死亡か

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なんというのか、かんというのか、ここまで必中だと、すげぇとしか言いようがありません。
ウクライナ軍が、1週間前にドックで2隻を使用不能に追い込んだセバストポリ軍港に対して22日、場所もあろうに黒海艦隊司令部をピンポイント爆撃し、司令官、参謀長を含む数十人を死傷させました。
日本でいえば、横須賀の自衛艦隊司令部で幹部会議を開いていたところにミサイルが3発も壁をブチ破って全員病院送りになった、というようなものです。
このようなことは世界の海軍の歴史でも稀です。

ウクライナ軍特殊部隊によれば、攻撃時、司令部では最高幹部会議が行われており、この攻撃によってアレクサンドル・ロマンチュク大将とオレグ・ツェコフ中将が重傷を負ったとされ、この他にも数十人の高級将校が負傷したとされます。

ウクライナ国防情報長官キリロ・ブダノフは攻撃で少なくとも9人が死亡、16人が負傷、死者の中にはアレクサンドル・ロマンチュク大将も含まれるとされていますが、未確認です。
ロマンチュク大将は、黒海艦隊だけではなく、ザポリージャ周辺に展開するロシア軍全体のの司令官です。

ロシア側は死亡説を否定していますが、とうぶんの間は病院送りのはずです。

「ウクライナ軍は23日、クリミアのロシア黒海艦隊司令部に対する前日のミサイル攻撃について、ロシア海軍当局者の会合に合わせて実施したと説明した。クリミアでは23日も攻撃が続いた。
ウクライナ軍は短い声明を発表。22日の攻撃でロシア側は「黒海艦隊の幹部を含む数十人が死傷した」と主張した。詳細は明らかにしなかった。

ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は、ロシア軍司令官2人が重傷を負ったと述べた。ウクライナ軍関係者は、攻撃にはイギリスとフランスから供与されたミサイル「ストームシャドウ」を使ったとBBCに話した」
(BBC9月24日)
ロシア黒海艦隊司令官ら重傷、海軍会合に合わせクリミアを攻撃=ウクライナ軍 - BBCニュース

ロシア国防省も、26日、ソコロフ大将が参加する会議の映像を公開して、ウクライナ側の発表を否定しています。
ただしウクライナは、この映像は静止画の貼り付けにすきず「映像に映るソコロフ大将は全く動かない」と指摘しています。
これだけの攻撃でまったくの無傷というのもおかしな話ですし、かといって死亡が確認されたわけではありません。

少なくとも3発以上のミイルが司令部に着弾し、司令部は黒煙を上げ、中心部分が完全に破壊されたことが確認されています。
攻撃には英仏から供与された巡航ミサイル「ストームシャドウ/SCALP」が使用されました。

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ストームシャドウ/SCALP

ストームシャドーは、重量1300キログラムで2段式のタンデム弾頭を搭載し、1段目がコンクリートの外壁を打ち抜き、2段目が内側に突入し爆発します。
艦隊司令部は分厚いコンクリート製の建造物でしたが、このタンデム弾頭により完全に内部まで破壊されてしまったようです。

ロシア軍は一週間前に大規模なミサイル攻撃を受けた事で防空網を強化していたはずですが、司令部もろとも吹き飛ぶという失態を許してしまった形です。

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この作戦は、22日金曜の午後一時に開始されました。
作戦名は伝えられる所によればCrab Trap、つまり「カニを捕まえる罠」です。
ウクライナにとって1週間前のドック攻撃は前菜のようなもので、これは艦隊司令部を一網打尽にするための罠だったようです。
通常、ロシア軍海軍司令部は地下にもぐっていると見られていましたが、軍港の大打撃に際して艦隊首脳は必ず一同に会して会議を持つとウクライナは読んでいたようです。
この日時、場所、さらには部屋のありかまでウクライナは察知していました。

攻撃を受けた当時、セバストポリは十重二十重のレーダーや地対空ミサイルシステム、対空砲を多数配備していました。
世界有数の対空ミサイルシステムであり、約240キロメートル射程を持つS-400地対空ミサイルシステムを少なくとも4基、短射程のパーンツィリ、ブークなど計50基がひしめくように配置されていたはずでした。
これを突破するのは不可能だと思われていましたし、西側もそう思っていたはずです。

ウクライナ空軍は、この黒海艦隊司令部攻撃の二日前の20日にも大規模なミサイル攻撃をセヴァストポリに向けて行っています。
ストームシャドウ/SCALPを搭載した11機のSu-24M戦闘爆撃機は、ヘルソン州との州境に近いオチャコフまで飛行した後、8発のミサイルと3発のスタンドオフデコイジャマーのADM-160 MALDを発射しました。
ジャマーとは囮ミサイルのことで、防空システムをこちらに引きつける仕事をします。
しかし5発は途中、ロシア軍の短射程防空ミサイルシステムによって迎撃され、残りの3発はセヴァストポリ近郊で迎撃され、攻撃は失敗に終わりました。

今回の司令部攻撃も、この失敗を修正して実施したものだと思われます。
そもそもウクライナ空軍は弱小であり、機体は古く旧ソ連製の機体には西側のストームシャドーは搭載できないといわれていました。

それを可能にしてしまったウクライナ空軍と特殊部隊に敬意を表します。
どのような作戦だったかは不明ですが、作戦の目的は達成されました。おめでとう。

なお米国はATACMS(エイタクムス)の供与を決定したようです。

「ワシントン 22日 ロイター] - バイデン米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に対し、米国はウクライナに長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」を供与すると伝えた。米NBCニュースが22日、複数の米政府当局者と議会関係者の話として報じた」
(ロイター2023年9月23日)
米、ウクライナに長距離ミサイル「ATACMS」供与へ=報道 | ロイター (reuters.com)

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ATACMS ブロック1Aは射程距離最大306キロにも及ぶ長距離ミサイルで、前線のはるか後方にある指揮統制センターや防空施設、兵站施設などの攻撃に利用できます。
ひとくちに射程300キロといいますが、東京から愛知県豊橋あたりというとてつもない遠距離に相当します。
これが使用できるようになると、今回のように航空機で決死的作戦を遂行することなく、はるか後方からセバストポリを完全に射程範囲に収めることが可能になります。
もはやセバストポリは、ロシア海軍にとって安住の地ではなくなったようです。

 

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露メディア、ウクライナ軍はSu-24でストーム・シャドウを運搬している (grandfleet.info)

ウクライナに平和と独立を

2023年9月26日 (火)

もし「核兵器のないジャパンチェア」が出来たら

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昨日の続きで、仮に岸田氏の提唱する「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」が開催されたとして考えてみましょう。
岸田氏は、「核保有国と非保有国との話し合い」と言っていますが、核保有国はたぶんP5(常任理事国)+印パていどで考えているのでしょう。
では非保有国はというと、あの核兵器禁止条約締結国になるのかしら。
たぶんこういう括り方をすると、もっとも重要なグレーゾーンの国々がこぼれ落ちますよ。

では北朝鮮やイラン、あるいはイスラエルを、保有国、非保有国いずれの枠に入れるのでしょうか。
北朝鮮は断固としてオレ様は核保有国だ、と言うでしょうが、米国は認めません。
再突入を確認できなきゃ、ただのロケットだと言うでしょうね。
イランはシラっとして民生用開発はしているが、核兵器開発の意図はないと言い放って、ウソつけ、ウランを60%まで濃縮したという事実をどう説明するんだと欧米からどなられるはずです。
イスラエルもシラっとして、核兵器は持っているかもしれないし、持たないかもしれない、ナンとも申し上げられませんから出席は辞退します、というかもしれません。

とまぁこんな具合に、岸田氏が思うほど「核兵器国と非核兵器国の間」はあいまい、かつ混沌としています。
北のように完成間近ならば自分から核兵器保有国だと言うでしょうし、まだいくつかハードルがある国はイランのようにシラっとして民生用ですというでしょう。
すでに持っていても黙っているほうが賢明で、凄味があると思っているイスラエルはシラを切り通しますが、万人が保有国扱いにしています。
したがってジャパンチェアは、その枠組みづくりから暗礁に乗り上げるでしょう。

ところで岸田氏は、先日イランを訪問しました。

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外務省

  1. 岸田総理大臣から、イランとの長年にわたる伝統的友好関係に基づき、中東地域の緊張緩和と情勢安定化に向けて外交努力を継続する考えである旨述べました。これに対して、ライースィ大統領から、日・イラン関係を様々な分野で拡大していきたい旨述べました。
  2. 両首脳は、イラン核合意をめぐる状況について率直な意見交換を行いました。岸田総理大臣から、日本としてイラン核合意を一貫して支持している立場から、国際原子力機関(IAEA)との共同声明の完全かつ無条件の実施を含め、イランの建設的な対応を求めました。両首脳は、引き続き緊密な意思疎通を継続していくことで一致しました。
    日・イラン首脳会談|外務省 (mofa.go.jp)

この「伝統的友好関係」という言葉は、耳にタコができるほど聞いてきたけれど日章丸事件っていつのことだったんでしょうか。
もう70年前のことです。当時の政権は親西側で、イランはイスラム原理主義政権に変わって久しく、とっくに時効です。
イランにとって中国や北朝鮮、ロシアとの「伝統的友好」のほうが、日本なんぞより100倍大事なはずです。
いつまでこんな不確かな情緒にすがっているのでしょうか。
日本のタンカーを革命防衛隊に攻撃させたのはどこの国だったか、思い出して下さい。

核合意についてイランは復帰する意志がないからこそ、核濃縮を60%の兵器級濃縮に引き上げたのです。
ですから、いまさら核合意に戻れといっても無駄です。
今、イラン首脳と会って「率直な意見交換」できるとすれば、もう時間がないぞ、やめないなら次はマーベリックの出番だぞ、ということを友情を込めて忠告してあげることくらいです。
あるいはイランが核武装すれば、サウジも核武装も止められないし、イスラエルも公然と核保有を宣言するという中東世界全体を巻き込んだ核の連鎖が起きるゾ、と警告することです。
イランが核を持ち、サウジが対抗核を持った場合、他の中東諸国はどちらの核の傘に入るか判断を迫られます。
中立はありえません。

ちなみにサウジは「イランが核保有した翌日にこちらも持つ」ことを明言しています。

「イランが核兵器を入手する可能性とそれがサウジアラビアにとって何を意味するかについて尋ねられたとき、皇太子は再び言葉を細かく刻まず、イランがそのような兵器を入手した場合、サウジアラビアは「安全保障上の理由から、力のバランスをとるために核兵器を入手しなければならない」と明確に述べた。
「私たちは、核兵器を手に入れる国があれば心配しています。それは悪いことであり、悪い動きです」と彼は言いました。核兵器は使えないから、彼らは核兵器を手に入れる必要はない」
ブレット・ベイヤーがサウジ王子にインタビュー:イスラエルの和平、9/11の関係、イランの核攻撃の恐れ:「別の広島を見ることができない」 |フォックスニュース (foxnews.com)

よくメディアはイランとサウジが接近したなんて言っていますが大嘘。これが実態です。
まぁイランの制裁原油はまとめて日本が買うたるくらいの土産を持って行けば、ちっとは考えてくれたかもしれませんが、そんなマネしたら日本が2次制裁国になってしまいます。
というわけで、こんなイランが「岸田チェア」に出てくるわけがありません。

一方北朝鮮は、「非核は人類共通の理想」なんて岸田氏の演説には大賛成と言いそうですが(実際、かつてムン・ジェインに非核化推進なんてリップサービスしていたことがあります)、彼らの言う「非核化」とはICBMの実戦配備ができあがるまでの時間稼ぎ、出来た後はせいぜいが「核軍縮」ていどのことしか意味しません。
そしてこのまま推移すれば今年中に追加の核実験をして、完全に核保有のチェクメイトを宣言するはずです。

ではそれ以降、北はどうするつもりでしょうか。
正恩は核兵器を核実際の国際政治の場で交渉カードとして使い倒すかもしれません。
非核化=核兵器禁止条約なんていうのは、
自分が核兵器で攻撃を受ける心配のない国か、「市民団体」の言うことで、非核化とはすなわち核軍縮のことです。
これは国際社会の共通理解ですから、とくに驚くべき考えではありません。
核軍縮は、双方が核兵器を段階的に削減していくことですから、正恩はできたばかりで実戦配備中のICBMを削減のカードをこの核軍縮のテーブルに投げます。
もちろんタダではありません。
米国に見返りとして、北を核保有国として承認すること、朝鮮半島への核兵器持ち込みを禁止すること、などを求めるでしょう。
この核軍縮交渉に、岸田さん好みのネーミングをすれば「朝鮮半島非核化チェア」というわけです。
軍縮の前段としてIAEAの査察が必須なので、これを受け入れたら、ホンモノです。

ところが実はこの「核軍縮」というのはクセ球で、「段階的削減」である以上、長距離核は削減しても、中距離核は削減対象にならないのです。
つまり日本を標的にしたノドンは丸ごと生き残ります。

実は、なんと米国内にもこの北朝鮮の思惑に共鳴するプランが存在します。
ロバート・ゲーツ元国防長官は、ウオールストリート・ジャーナルとのインタビューで、こう述べたとされています。

「中国が依然としてカギを握るだろう。
中国に対して
①旧ソ連とキューバ危機を解決したときと同様に、北朝鮮の体制を承認し、体制の転換を狙う政策の破棄を約束する用意がある。
②北朝鮮と平和条約を締結する用意がある。
③韓国内に配備している軍事力の変更を検討してもいい
と提案する。
この見返りに、米国は北朝鮮の核・ミサイル開発計画に対して強い制約、つまり基本的には現状での凍結を要求し、国際社会や中国自身が北朝鮮にこれを実施させることを求める必要がある」

これは「現状凍結」路線とでも言うべきものです。
ではどの段階で「現状凍結」するのでしょうか。
このゲーツ案は長距離核の火星シリーズが頻繁に実験される前に出されたものですから、長距離核開発を止めればその時点で「現状凍結」を認めるということになります。
そしてこれを条件にして直接協議しようというのです。

「レックス・ティラーソン国務長官とジム・マティス国防長官がこの計画を中国に示し、中国が支持すれば、その時初めて北朝鮮との直接協議が始まる」

おいおい、日本を向いた中距離核をお忘れか、といいたくなります。
中距離核は米国も保有していないので、まさにがら空き。
対抗抑止がない状態で、北と手打ちしてもいいということになります。
冗談ではありません。

このようなプランに米国が乗った場合は、日米同盟は形だけは残るでしょうが、日本は米国に対して根深い不信を持つでしょう。
そして日米同盟は、中露朝の歓声に包まれながら、もろくも内側から瓦解していくことになります。
そして日本国内には、いままで机上の空論の域を出なかった独自核武装が、初めて現実味を帯びて台頭するでしょう。
こんなことを米国が安易にするとは思えませんが、むしろ共和党系にはこういう日本切り捨てを辞さない考えの流れもあるのです。

つまり、非核化=核軍縮は、国によって意味することは大きく違い、その違いは話しあいなどでは埋まらないのです。
そして非核化は、やり方によっては極めて危険な選択であることをお忘れなく。

非核と名がつけばなんでも「人類の尊厳」だなんていう情緒的脳味噌の人にはお分かりにならないでしょうが。

 

 

2023年9月25日 (月)

優等生フミオ君の国連演説

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岸田氏の持論は「外交は官邸主導でやる。安倍外交だってそうだった。外交は総理大臣がメッセージを出していくものだ」だそうです。
まぁ、岸田氏は安倍氏の外相として4年8カ月もやってきたわけですから、そのスタイルだけはしっかり踏襲しています。
だから林外相を改造ではずすというマネもできたようです。
外相のような対外的に重要な大臣職はよほどのことがないかぎり変えないというのが不文律なのですが、それを岸田氏はやったわけです。
林氏の対中外交に対しては多くの批判があったところなので、それ自体はいいのですが、ではなんのためにということです。
派閥の仕事がどうのということがいわれているようですが、決定的理由がわかりません。

ところで、岸田氏の外交の師であった安倍氏は、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)という国際的枠組みを提唱し、米国すら動かしてそれを実体化してしまいました。
「アメリカをもう一度強い国に」と叫んで大統領になったのはいいのですが、トランプにはこれといって外交戦略がありませんでした。
内政については民主党に対する有象無象の批判はあっても、コレという外交戦略など勉強してこなかったからです。

トランプにとってラッキーだったのは、太平洋の向こうのカウンターパートに安倍氏が居たことです。
そして人たらしの安倍氏はたちまちトランプとポン友となってしまい、なにかというと電話をかけてきては「シンゾー、あれどう思うよ」と聞いてくる仲にまでなってしまったほどです。
ですから、安倍氏が生きているうちは、トランプは見事な外交を展開しました。

しかしシンゾーを失った後のトランプは、迷走につぐ迷走を始めました。
元のモンロー主義の地が出てきたのです。
ウクライナ支援には尻込みし、バイデンの尻を叩くどころか逆に支援なんぞやめろと言って足をひっぱる始末です。
彼に引きずられてか、共和党はウクライナに背を向けようとしています。

トランプはウクライナに力を削がれると中国との対峙がおろそかになると考えているのでしょうが、勘違いもいいところです。
ウクライナを勝利させることこそが、中国に対する最大の抑止なのです。
中国がどうして今のようにロシア支援をおおっぴらにできないのか、考えてみればわかります。
中国は、ロシアと同じように国際的制裁を食うのはまっぴらだから、ロシア寄りの仲介案なんかを出してお茶を濁しています。

バイデンの出し遅れウクライナ支援ですらそうなのですから、本気で支援をしていたら中国は一言も口を突っ込まなかったでしょう。
そのくらい中国は、米国の対ウクライナ支援を恐怖の眼で見ているのです。
台湾侵攻をした時、あの規模の支援を送られたらどなうする、1年、2年ではあの島を落とせないかもしれない、ということです。
泥沼になったら地獄はむしろ中国です。

国境の現状変更がいかに代償を支払わねばならないか、今のロシアを見てチャイナも身に沁みてわかったはずです。
だからここで万が一にもウクライナが負けることがあれば、「法の支配」なんて力の前には無力だという教訓になってしまいかねない。
わかっていないのは、むしろ自由主義陣営の一部です。
ウクライナに対する支援が先細り、ゼレンスキーは頭が固い、もっと和平を考える指導者がウクライナには必要だ、という手合いが西側陣営に増えることをロシアと中国は望んでいます。

ゼレンスキーが次の大統領選で破れ、朝鮮半島型和平が現実味を帯びると、台湾の総統選と連動して侵攻も現実の日程に入ってきます。
だからここで対中抑止の意味も込めて、ロシアを徹底的に叩いておかねばならないのです。
ウクライナを支援することは対中抑止と同義であり、それは台湾侵攻を防ぐことであり、同時に日本の平和を守ることなのです。

岸田氏は、そのへんのつながりをトータルにわかって外交戦略を構築しているのでしょうか。
私は岸田氏は安倍氏から官邸主導のスタイルだけを盗んだだけで、外交を戦略的に考えてはいないと思っています。
それが改めて露になったのが、先日の国連総会演説でした。

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ロイター

「岸田文雄首相は19日(日本時間20日)、米ニューヨークで国連総会の一般討論演説を行った。ウクライナに侵攻するロシアについて「国際法、法の支配を蹂躙している」と非難。国連の機能強化に向け安全保障理事会の改革を訴えた。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出には触れなかった。政府関係者によると、中国による日本産水産物の輸入停止撤廃に向け、中国を過度に刺激するべきでないと判断した。
首相はロシアによる侵攻に関し「力または威圧による一方的な現状変更は認められない。人権侵害の状況を一刻も早く是正し、核の威嚇をやめるべきだ」と強調した」
(ロイター2023年9月20)
首相、処理水放出触れず | Reuters

「中国を刺激すべきではない」ですって?呆れてものが言えない。
ではなぜ親中派の林外相を改造ではずし、米国民主党に近い上川陽子氏を据え、さらに防衛相に台湾とのパイプを持つといわれる木原稔氏に替えたのでしょうか。
この改造人事はとりようによっては、日本は中国に簡単な譲歩はしないというシグナルとなりますが、ただの派閥の事情だったようです。

この相手の気に障るようなことは言わない、揉め事になるようなことはあらかじめ封じる、というのは戦後自民党外交の伝統でした。
相手を刺激しさえしなければ、敵が生まれず、平和に暮らしていける、という砂丘に首を突っ込むダチョウのような体質でした。
したがって国家意思はないに等しく、なにかやるにしてもそれは「米国にいわれたから」という体面を作ることで凌いできました。

その結果が、中国や韓国ムン・ジェイン政権の卑日、侮日、反日政策を生んだのです。
彼らは、いかに日本を蔑もうと、ジャパンディスカウントに奔走しようと、必ずまぁまぁなぁ、大人の対応で、と取りなす自民内部の親中・親韓派がいることを知って甘えていたのです。

さて、処理水について「刺激するのを恐れて」一言も言わなかった岸田氏が、積極的に主張したのはやっぱり非核でした。
どうも非核こそが、人類共通の至上の理想であるとでも考えているようです。

「「人間の尊厳」を守り・強化するための国際協力の一つとして、核軍縮の流れを確実に進めていくこと、カットオフ条約(FMCT)への政治的関心を再び集めること、核兵器国と非核兵器国の間の議論を促進すべきこと等の重要性を訴えつつ、新たに30億円を拠出して「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」を設置することを表明しました」
第78回国連総会における岸田総理大臣による一般討論演説|外務省 (mofa.go.jp) 

プっプーとコーヒーを吹きそうになりました。
なんなんですか、「この人間の尊厳」って。(苦笑)
よくこんな大仰な言葉持ち出したもんです。
これでは核保有国はもちろん日本が庇護してもらっている米国まで含めて「人類のソンゲン」とやらを汚しているみたいです。
高邁すぎて卑俗な頭脳しか持ち合わせていない私には、とんと理解できません。
「ニンゲンの尊厳」なんていえば、総会に居並ぶイランの指導者も、ロシア、中国も、そして米国も、ははぁ、キシダお前はえらいとでも言ってくれるとでも思ったのかしら。
わきゃありません、なにをキレイゴトを言っているんだ、ここは生徒会の会長演説しゃないんだぞ、と心の中で毒づかれるだけのことです。

「核兵器保有国と非保有国の間の議論を促進」だそうです。
たとえば米国と北朝鮮やイランがナニ話すの。核武装を止めろ以外ないじゃないですか。
そんなテーブルを作ったら、日本はお前米国の核のかさに入っていながらナニいうとんねん、といわれないか、少しは考えなさい。
リベラル特有の話しあえば万事解決するさ、というノーテンキです。
馬鹿だね、するわきゃないしょ。こういうタイプの人を見ると、あたしゃ、人生の修行がたりないな、と思っちゃいます。

イランの核武装がチェックメイトの段階に入り、イランの核武装は自動的にサウジの核武装化を引き起し北朝鮮の核武装の完成は韓国のリアクションを呼ぶというこの今の今、それを具体的にどう阻止するかではなく、「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」とやらを作ろうというのですから、脳ミソのねじが2、3本抜けています。
椅子だか机だか知りませんが、荒れた学級で、「人間のソンゲンを守って話あえばきっといい社会ができるさ」、と言っている優等生の子みたいなもんです。

本気で呼ぶなら、必ずウクライナを呼ぶべきです。
米露はブタペスト覚書において、当時ウクライナが保有していた核兵器を「ウクライナの領土保全ないし政治的独立に対して脅威を及ぼす、あるいは武力を行使することの自重義務を再確認する」と確約して取り上げました。

そして米露はこの確約をあっさりと反故にしたのです。
その結果が、2014年のクリミア侵攻であり、2022年のウクライナ侵略でした。

この優等生フミオ君に対しての中国の応えは、まことに分かりやすいものでした。
日中中間線を超えて石油掘削リグを移動させたのです。

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日テレ

「中国当局が日本時間23日までに天然ガスなどを掘削する作業装置を沖縄県尖閣諸島の周辺海域に運ぶことがわかりました。一帯は「日中中間線」から日本側に大きく入り込んだ海域にあたり、日本政府関係者は危機感を示しています。
中国の海事局は日本時間の21日午後6時から天然ガスなどを掘削する作業装置「勘探8号」を船でえい航して東シナ海の目標海域に運ぶと発表しました。指定された目標海域は沖縄県尖閣諸島の大正島から北東におよそ140キロの海域で、23日午後6時までに到達する予定を示しています。この海域は日中中間線からも大きく日本側に入り込んだ場所にあたります。
日中中間線は日本と中国との間に位置していて、日本政府はこのラインを基にEEZの境界を定めるべきとの立場です。
これに対し、中国は今回の目標海域を含む沖縄トラフまでを自国の排他的経済水域などと一方的に主張しています。中国はこれまでも日中中間線の付近で一方的にガス田などを開発、日本政府も中止を求めてきましたが、今回は中国側がさらに強硬な措置に打って出てきたかたちです。
日本政府関係者は「従来に比べてはるかに大胆だ。外交問題に発展するだろう」と危機感をあらわにしています」
(日テレ9月21日)
中国 掘削装置を尖閣周辺にえい航へ 日中中間線を大きく越える海域…政府関係者が危機感「外交問題に発展するだろう」(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース

あーあ、まったくなめられたものです。
海産物禁輸という横紙破りにも沈黙し、米国の核の傘に守られていながら非核を唱える、なんて奴にはやりたい放題がお似合いだぜ、とでも思われてしまったようです。
抗議すべき時にニタニタ笑ってやり過ごせば、より大きな災厄を招き入れるなんてあたりまえじゃありませんか。
「法の支配」を拒否するならず者たちにお話あいをしましょう、では話にもなりません。
麻生さんはフミオ君を評して「誠実そうに、リベラルそうに見える顔が世のなかに受けている」なんて持ち上げていますが、中国には大受けしたようです。
どうやったらならず者にルールを守らせることができるのか、それを言わないでキレイゴトだけ言っているフミオ君は、国際社会では誰からも相手にされません。

 

 

2023年9月24日 (日)

日曜写真館 くれなゐの冠いただき曼珠沙華

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いとどしき朱や折れたる曼珠沙華 中村草田男

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いつぽんのまんじゆしやげ見ししあはせに 山口誓子

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お前さん どこへ行くんじや 彼岸花 伊丹三樹彦

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この世ともあの世とも曼珠沙華の中 中村苑子

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さきほどの陽が総退場 彼岸花 伊丹三樹彦

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かへり観れば行けよ行けよと曼珠沙華 中村草田男

 

やっと秋です。

 

2023年9月23日 (土)

セバストポリ攻撃によってロシアがクリミアにこだわる理由がなくなった

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やや旧聞になりますが、去る9月13日、クリミアのセバストポリ軍港のドックがドローンによる爆撃を受け、造船所にあったロプーチャ級揚陸艦「ミンスク」とキロ級潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」が大破しました。
修繕は不可能なようで、2隻共に廃艦となるようです。

これでいままでのロシア海軍の損失の累計はこのようになります。

・巡洋艦モスクワ、ネプチューン対艦ミサイルで撃沈
・揚陸艦サラトフ、トーチカU弾道ミサイルで大破着底 ※停泊時
・外洋曳船ヴァシリー・べフ、ハープーン対艦ミサイルで撃沈
・揚陸艦ミンスク、ストームシャドウ/SCALP-EG巡航ミサイルで大破 ※入渠時
・潜水艦ロストフ・ナ・ドヌ、同上
・2022年2月24日の開戦以降ロシア黒海艦隊が喪失した大型艦・・・5隻(小型高速艇などは除く)
JSF氏による

 決して強力とはいえないものの、黒海の海上優勢を握っていたロシア黒海艦隊は半身不随に追い込まれつつあるようです。

さて、13日夜の攻撃は大きな火災を引き起こしていたことが、遠景からも確認できます。

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RBCウクライナ

英国国防省は直ちに衛星写真を公開していますが、ドックが精密な爆撃にあったことがわかります。

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揚陸艦ミンスクと潜水艦ロストフ・ナ・ドヌは復帰が困難な大損害(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

潜水艦の被害写真が漏洩し、施設だけではなく停泊していた艦船にも損傷が出たようです。

20230922-051644

JSF

ロシア国防省の発表。

「ロシア国防省は、今夜、セヴァストポリのオルジョニキーゼ造船所で10発の巡航ミサイルによる攻撃と、3隻の無人ボートがあった発表し、この攻撃についてウクライナを非難している。声明はまた、防空システムによる7発のミサイルの撃墜し、および占領者の巡視船ヴァシルビコフによってウクライナ軍のUAVの破壊したとしている。
しかし、「敵の巡航ミサイルの攻撃の結果、修理中の2隻の船が損傷した」とロシア国防省は述べた」
セヴァストポリへの攻撃-ロシア国防省は2隻の艦船の損傷を発表した|RBCウクライナ

ロシア側の発表では、巡航ミサイル10発と自爆無人水上艇(UAV)3隻の攻撃を受けたようです。
うち、巡航ミサイル7発とUAV3隻を撃破したが、巡航ミサイル3発が防空網を突破しました。
どうやらウクライナ軍は、ストームシャドウ巡航ミサイルとSCALP-EG巡航ミサイルの両方を使用したようです。
セバストポリ軍港は、ロシア軍の最重要軍事施設として防空されていたはずですが、西側の提供した長距離巡航ミサイルが3割の高い確率で防空網を突破したことになります。

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ストームシャドウ/SCALP」を搭載したSu-24M戦闘爆撃機 ウクライナ国防省

またウクライナ海軍はセバストポリ翌日の14日早朝、巡航ミサイルと無人機を使用してクリミア半島東部エフパトリヤ近郊のロシア施設を攻撃し、S-300とS-400からなる複合防空システムの破壊に成功しました。
攻撃にはウクライナ国産の巡航ミサイル「ネプチューン」と自爆ドローンが使用され、攻撃ではまず、自爆ドローンによって防空システムの目となるレーダーとアンテナを破壊し、止めを刺すようにミサイルの発射装置もネプチューンによって破壊しました。
これで南部ヘルソンやクリミア半島に重点的に配置されていたS-400は、わずか1カ月で2基破壊されたことになります。
22日には、艦隊司令部がウクライナ軍によるミサイル攻撃を受け、少なくとも兵士1人が死亡したと、ロシア側が発表しました。

南部戦域は、S-400を搭載した広域防空艦の巡洋艦モスクワが、去年4月にウクライナ軍の地対艦ミサイルで撃沈されたことで黒海上空の航空優勢の確保が困難になったままです。
このためにズミイヌイ島(蛇島)のウクライナによる奪還を許し、島の周辺では外洋曳船ヴァシリー・べフが地対艦ミサイルで撃沈されています。
黒海の要衝であったズミイヌイ島を奪還されたために、黒海の海上優勢の維持は非常に難しくなりました。
もはやロシア黒海艦隊は、かつてのようにウクライナ沿岸に不用意に近寄ることすらできなくなっているのです。
そして黒海艦隊の聖地とでもいうべきクリミア半島最北端のセバストポリまで今回攻撃を受けたことに、ロシア海軍は深刻な衝撃を受けたはずです。

これで決定的になったことは、ロシアにはもはやオデーサを攻略する能力を喪失したということです。
セバストポリに停泊していた揚陸艦の任務は、オデーサ攻略時に海からの海軍歩兵の揚陸をしかけて助攻することでした。
しかし、陸上部隊がドニエプロ川の左岸に撤退してしまい、これ以上の西進ができないうえに、海上からの揚陸艦は損傷を受けてエスコートするはずの残存艦隊がウクライナに接近すらできないようでは、もはやオデーサ侵攻は断念するしかありません。

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クリミア半島 (y-history.net)

ロシア海軍は、ウクライナの長距離ミサイルの射程内に入ってしまって、もはや安全地帯ではなくなったセバストポリから黒海艦隊をロシア本土のノヴォロシスク港に移動させるでしょう。
つまりクリミアを支配し続けることは、少なくとも軍事的には無意味になりつつあるということを意味します。

クリミアは、農業に不適で、水すらウクライナ側から給水されているような無価値な土地です。
民族的にも、ロシア語系、ウクライナ語系、クリミアタタール人などがいて複雑です。
わざわざ国連制裁を受けてまで略奪する土地ではなく、ロシアはセバストポリの使用権をウクライナから得ていたのですから、どうして傀儡国家まで作って侵攻する必要があったのかさえ疑問です。

ですからクリミア半島の価値は、あくまでセバストポリ軍港があってのものなのです。
セバストポリとそこを母港とする黒海艦隊があってこそのクリミア半島に侵攻した意味があったわけです。
セバストポリが危険地帯となり、停泊していた艦船が破壊されたり、修理もできなくなるとすれば、港だけあっても無意味です。
さっさと施設や器材、人員まで含めてノヴォロシスクに移動するほうが賢明かもしれません。

こうしてみると、クリミア半島をロシアが支配し続ける意味は、純粋に政治的なものになります。
クリミアの放棄は、プーチンの政治的な挫折を意味します。
一方ウクライナ側からも、逆の意味で同じです。
ウクライナからすれば、米国が言ってくるクリミア放棄した朝鮮戦争型和平案を実態で蹴ってみせることを意味します。

ウクライナは、東部と南部の国土の20%を占領しているロシア軍を追い出すことを目標にしています。
しかし、欧米はロシア軍がウクライナ領土から完全に撤退することを停戦・和平交渉の条件としている限り、ウクライナ戦争は長期戦となり、消耗戦となることが避けられない、と見ています。

消耗戦となった場合、戦争経済に再編可能な専制体制のロシアに対して、欧米諸国からの武器供与に依存するウクライナは不利だと考えています。
やっと1年間たって戦車や戦闘機、長射程ミサイルの供与が決まりましたが、ウクライナ側から見ればそれは西側陣営の腰が引けているからであり、欧米からすればゼレンスキーが強硬すぎるからだということになります。
この亀裂は今はわずかですが、明らかに欧米は支援疲れしつつあります。

そこで調停案として出てきたのが、この朝鮮戦争型和平案です。
2022年2月24日侵略開始時点の線を休戦ラインとして、停戦に入るとする案です。
ゼレンスキーはこの案に強く反対しています。
ひとつは、2014年に奪われたクリミアがロシア領土として固定化されてしまうことで、おそらく二度とクリミアはウクライナの懐に帰る日はないはずです。
そうなった場合、クリミア半島のウクライナ国民を見捨てたということになります。
そしてふたつめは、仮にこの案を呑むとしても守られる保証がなにもないからです。

ゼレンスキーが、再三に渡って「われわれはミンスク合意の過ちを繰り返さない」と述べているのは、2015年2月に結ばれた停戦条約である「ミンスク合意」がまったく守られなかったという苦い経験があるからです。
ミンスク合意は、ドイツとフランスの2国を調停役として交えていたはずですが、ロシアはドネツクなどにロシア兵を浸透させて、親露派政権を作ってしまいました。
この狡猾なロシシの動きを傍観していた西側陣営に対する不信感がウクライナにはあります。

どうしてもウクライナを朝鮮半島型和平に導きたいのなら、ウクライナをNATOとEUに加盟させて担保とするしかありませんが、むしろ欧米側にその度胸があるか、です。

このような中で、ウクライナが見せたセバストポリ攻撃は、朝鮮半島型和平に対する回答でもあるのです。

 

 

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ウクライナに平和と独立を

 

 

 

2023年9月22日 (金)

デニー知事の度し難い翁長コンプレックス

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デニー氏が国連人権理事会なる所で演説したそうです。
かつての翁長氏の時には大きな注目を浴びたものですが、今回は本土メディアの扱いもわずかで、ネットも完全に無視。
どこかで誰かがナニかを言っている、ていどの扱いです。
実は私もこんなデニー演説はスルーしようと思っていたのです。
理由は簡単。こんなテンプレで書いたような演説など死ぬほど退屈だからです。
ChatGPTに書かせたほうがはるかにいい出来だったでしょう。

魂はこもらず、かといって冷徹な戦略もない。
翁長氏にはあった、オレの背中に沖縄の戦後70年を乗せてやるという気迫もない。
デニーさん、あなたわざわざジュネーブに道化をしに行ったのですか。

本土紙では、デニー氏の天敵のはずの産経が論評ぬきで丁寧に報じています。

「(略)玉城氏は18日、国連人権理の本会議場で開催された「国際秩序」の会議に出席した。演説で「沖縄は日本の総面積の0・6%しかないが、日本にある米軍基地の70%がこの小さな島に集中している」と指摘。「米軍基地が集中し、平和や意思決定への平等な参加が脅かされる沖縄の状況を世界中から関心を持ってもらうために、私はここにきた」と訴えた。
また、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に関する平成31年(2019年)の県民投票に触れ、「民主的に行われた県民投票で沖縄の有権者が明確に反対したにもかかわらず、埋め立て工事は進んでいる」と言及。「私たちは軍事力の増強が日本の周辺地域の緊張を高めることを恐れている」とした上で、「沖縄県民の平和を希求する思いとは相いれない」との見方を示した。
「私たち沖縄県民は、2016年の国連総会で採択された『平和への権利』を私たちの地域において具体化するよう、関係政府による外交努力の強化を要請する」とも述べた。
沖縄県知事が国連人権理に出席し、発言するのは2回目。15年には翁長雄志前知事が辺野古移設反対を訴え、「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている。自国民の自由、平等、人権、民主主義、そういったものを守れない国が、どうして世界の国々とその価値観を共有できるだろうか」とスピーチした。
国連の理事会にNGOが意見表明する会合があり、関係者によると玉城氏はNGOの発言枠を譲り受ける形で演説した」

(産経9月19日)
 沖縄知事「平和脅かされている」 国連で辺野古「反対」演説(産経新聞) - Yahoo!ニュース

なにが辺野古移設が「軍事力の増強で周辺地域の緊張を高める」でしょうか。
翁長氏の頃はまだそんなことを言っても通用しましたが、いまここまで台湾有事が現実化している中で、同じことを平気で言える神経の粗雑さがたまらない。
こんな台詞を聞いて、そうだ、日本こそがアジアの緊張を高めているんだ、なんて感じる人って、今何人いますか。
ウクライナ戦争の後は、いまや中坊でもだまされませんよ。

翁長演説の時は、英文テキストまで手に入れて論じたもので、翁長氏の反基地闘争は長期に渡って論じ尽くしました。
しかしこの2代目翁長の劣化コピーなんぞ、ただひたすら寒いだけです。

ついに国連人権理事会で「民族自決権」を主張し始めた翁長氏と、それをブロックした我那覇真子氏: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
沖縄県民は「先住少数民族」ではない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

デニー氏の目的は、オレはこれだけのことをやっているんだという内向きの演説にすぎませんから、平気で手垢のついたことをくりかえしてはばかりません。

たとえば、臆面もなく「米軍基地70%集中論」ですか、もう飽き飽きします。
沖縄の人々も薄々感じておられるように「70%」という数字は虚構です。
これは日米共同使用施設を排除した数字だからです。

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出典不明

もしそんな算定方法が許されるのなら、普天間や嘉手納、キャンプ・ハンセンに小規模でもいいから自衛隊を配備すればよくなってしまいます。
現にキャンプ ハンセン共同使用は、かつて在沖海兵隊司令官が口にしたことがありますし、陸自の水陸機動団の一部が前進配備される可能性はあります。
嘉手納基地も、那覇基地は非常に手狭ですから、その一部の機能を移転することは可能でしょう。
そもそも接受国の日本が民間共用で、提供されるほうの米軍が広々っていうのもヘンなのです。
こんなふうに日米共同使用施設が沖縄で増えると、基地負担70%説はどうなるんでしょうかね。
実態は変わらなくても、数字のトリックを根拠にしているからおかしくなるのです。

面積でいえば、北部訓練場が大きな面積を占めていたために負担が多く見えましたが、ここも面積の過半に相当する4千ヘクタールが既に返還されています。
その時、返還に大反対して、防衛施設庁職員リンチ事件まで引き起こしたのはいったい誰でしたかね。

「0.6%の沖縄に」という面積比率の言い方もさんざん聞きました。
では、人口比率ではどうなんでしょうか。
私は神奈川県の厚木基地の近くで育ちましたが、神奈川を中心として国道16号線沿いの1都3県には、日本の人口の実に約3割弱、約3千600万人が住んでいます。 
もし、沖縄が0.6%の面積比率にというならば、人口比率の約3割も見なければ公平さを欠くというものではありませんか。

そこで、神奈川県だけに限って米軍基地をみてみましょう。
その多さと面積の大きさに驚くはずです。 
まさに沖縄並です。
しかもその重要度において沖縄とは比較になりません。
神奈川県こそ、米国の世界戦略の根幹の一部であって、沖縄は前進基地にすぎないのです。

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出典不明

簡単に神奈川の米軍基地群を見てみましょう。
国道16号線の起点近くには米海軍横須賀基地があり、ここには2008年9月から原子力空母が母港としています。
沖縄にも那覇軍港(現在は移動)やホワイトビーチがありますが、輸送船や潜水艦などの停泊地にすぎません。

横須賀基地の巨大さを理解するには、単に軍港施設に限らず付随する膨大な付随する施設群をみねばなりません。
第7艦隊の補給を受け持つ弾薬貯蔵施設(秋月、広、川上、嘉手納)の貯蔵能力は実に12万トンを越えます。 
米国防総省が自ら「ペンタゴン最大のオイルターミナル」と呼んだのは、在日米軍燃料タンク施設(鶴見、佐世保、八戸)です。
鶴見オイルターミナルは国防総省管内のうち米本土まで含めて第2位の備蓄量、第3位は佐世保で、八戸(航空燃料)と合わせると1107万バレルを備蓄しています。 
これは米海軍最強の第7艦隊全体の10回分の満タン量に相当します。米海軍は日本における高い技術力と、本土に蓄えられた燃料・弾薬、装備に支えられて初めて展開可能なのです。

沖縄が過剰な基地負担で苦しんでいるのは事実ですが、沖縄だけが、沖縄だけがくるしんでいる、本土は基地負担していないと叫ぶのはお止しなさい。
デニー氏のように、あたかも沖縄だけが米軍基地を引き受けて苦吟しており、本土はそのうえにあぐらを書いているという言い方はいいかげんお止めなさいということです。
「0.6%の土地に70%の米軍基地が集中」という言い方は、正確でないばかりか沖縄と本土を隔てる壁だからです。

次に、やっぱり言うだろうなと思っていたら言ったことは「2019年の民主的に行われた県民投票で沖縄の有権者が明確に反対したにもかかわらず」という言い方です。
この言い方は、「オール沖縄」の定番ですが、ただの数字のトリックにすぎません。
得票率は52%にすぎず、さらに移設反対は5割の投票率のうちの7割ですから、実体は約35%にすぎません。
しかもその「反対」は県内の別の地域・水域案も含めた数字ですから、オール沖縄のように「あらゆる県内移設反対」となると、さらにそれから割り引いて考えねばなりません。
たぶん県民のうち3割前後が「オールl沖縄」の真水といわれていますから、彼らが精一杯動員をかけててこの数字ということなのです。
ところがこの「移設に県民の7割が反対」というプロパガンダに利用してしまいました。
これも数字のトリックです。

こんなプロパガンダを宣伝しにわざわざジュネーブくんだりまで行ったのは、デニー氏の根深い翁長コンプレクスのためでしょう。
翁長テープなるモノによって「後継指名」されたことが唯一の知事選出馬の根拠だったデニー氏にとって、翁長氏のやったことをそのままカーボンコピーするしかなかったようです。
デニー氏は言い方の隅々まで翁長師匠のデッドコピーそのもの、新たに付け加えたものはなにひとつありません。
国への非協力と訴訟合戦、そして惨敗という軌跡までそっくり踏襲してしまっています。
デニー氏が、移転阻止運動になにかひとつでも新しく付け加えた頁がありますか。
たぶんなにひとつない。
実務能力もなければ、政治的能力もない。
そしてなにより覚悟もない。あるのはスタンドプレーだけ。
この人は本当に空虚な人です。

 

 

 

2023年9月21日 (木)

北朝鮮はすでに砲弾を供与していた

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先日お伝えした北朝鮮のロシアへの砲弾供与についての続報です。

「金正恩氏が豊富に保有しているものの一つは武器であり、特にウクライナの前線で復活の兆しを見せている20世紀の粗末な大砲である。北朝鮮は、国際戦略研究所の推定によると、21,600門以上の大砲からなる兵器庫を供給するための計り知れない弾薬を保有しており、この部隊が数十年にわたりソウルをマリウポリのような荒廃の脅威にさらし続けてきた。
「北朝鮮は老朽化した旧軍需品の在庫を大幅な値上げで処分する機会を両手で掴むだろう」と武器専門家のジュースト・オリマンス氏は語った」
北朝鮮はロシアへの武器販売から重要なライフラインを得ることができる - ジャパンタイムズ (japantimes.co.jp)

正恩にとって、プーチンの砲弾供与要請は渡りに船だったようで、すぐさま飛びついたようです。
昨今、北は仮想通貨窃盗業が仮想通貨取引所の閉鎖によって窮地に追いやられていたところだったからです。

「ソウルの韓国銀行によると、北朝鮮経済は2021年の成長に失敗し、昨年(2022年)は不透明な見通しに直面した。韓国銀行は同国の見通しを定期的に評価している数少ない機関の一つだという。一方、金氏の仮想通貨窃盗への一見儲かる事業は、デジタル資産取引所FTXの破綻を受けて窮地に直面している可能性がある」
(ジャパンタイムス前掲)

窃盗業が国家財政を支えているなんていう国は世界でも珍しいですが、この国はサイバーテロに関しては世界有数の人員を擁しています。
国民が食えなくても、こういうこそ泥、サイバーアタック、誘拐などの反社行為だけは世界一流です。

北にすれば、突然大きなマーケットができたようなものです。
155ミリ砲弾の単価は装薬や信管を合わせて新品でせいぜいが4万円ていどですが、パーフェクトな売り手市場ですから、狡猾な正恩が安く売る道理がありません。
砲弾だけではなく発射機までおつけするとこのていどになりますかな、パチパチ。(算盤を弾く音)
もちろんお支払いはドルでお願いします、ルーブルは一切お受けできません、ゴミですから。なんなら原油でもけっこうですよ、バレル40ドルていどが妥当かと、なんてね。

実はもう既に北朝鮮製砲弾は、イランや北アフリカ諸国に輸出すると見せかけてロシアに手渡され、戦場で使用されている、と米国は見ています。

「新たに機密解除された諜報機関によると、米国は、北朝鮮がウクライナ戦争のためにロシアに砲弾を密かに供給し、それらが輸送されている場所を隠すことによって非難している。
米国当局は、ロシアがイランから入手した無人機やその他の兵器とともに、北朝鮮の密かに輸送されたことは、モスクワの通常兵器でさえ8か月の戦闘中に減少したさらなる証拠であると信じています。北朝鮮は、弾薬が中東または北アフリカの国々に送られているかのように見せることによって、貨物を隠そうとしている、と諜報機関は言う。
最近の諜報機関は、米国の諜報機関が、ロシアが戦場で使用するために北朝鮮から数百万発のロケットと砲弾を購入する過程にあると述べてから約2か月後に行われた」
CNNで最初:米国は北朝鮮がロシアへの弾薬の出荷を隠そうとしていると非難している|CNN


ウクライナ軍は、北朝鮮製のBM-21多連装発射車両を鹵獲しているようです。
この原型は大戦中の「スターリンのオルガン」にまでさかのぼる古式ゆかしい兵器です。
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「ウクライナ国防省情報総局のキリル・ブダノフ長官は13日に現地メディア「ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ」の取材に「ロシアはすでに1カ月ほど前からロケット弾など北朝鮮製の兵器を使っている」と明らかにした。ブダノフ長官によると、1カ月半ほど前に北朝鮮とロシアは協定を結び、この時から北朝鮮製兵器の輸入が始まったという。これは7月22日にロシアのショイグ国防相が6・25戦争休戦協定70周年に北朝鮮を訪問し、武器や砲弾の供給を要請した時期と合致する」
(朝鮮日報9月15日)
ロシアに引き渡される予定の北の砲弾を奪ったウクライナ「ほとんどが1980~90年代製」「たまに変な所に飛ぶ」 -Chosun online 朝鮮日報 

ただし鹵獲したウクライナ軍指揮官の話では 、北朝鮮製の砲弾や発射装置の品質は非常に劣悪で不発弾だらけのうえに、どこに飛ぶかわからないので、できたら使いたくないシロモノだそうです。
こわくて北朝鮮製の発射機に近づけないそうです。(笑)
こんなもんを使わされるロシア軍も哀れ。

「ウクライナ軍のルスランと名乗る砲兵指揮官はフィナンシャル・タイムズの取材に「北朝鮮製の砲弾はほとんどが1980年代か90年代に製造された」「不発の割合が高いのであまり使いたくはない」と述べていた。また別の砲兵も「砲弾は信頼性が非常に低く、たまに変なところに飛ぶので、発射台に近づいてはならない」と注意を呼びかけた」
(朝鮮日報前掲)

どうやら北朝鮮の砲弾保管の状態が極めて劣悪だったみたいですね。
砲弾の寿命はかなり長く。ロシア軍も米軍も冷戦時代の砲弾をいまも備蓄していますので、とくに北が80年代から90年代のモノを供与したとしてもそれ自体は驚きではありませんが、メンテが悪かったようです。
米軍も自衛隊も、空調つきの専用弾薬保管所を作って長期保管しています。
155mmりゅう弾砲を長期保管するために調達している倉庫 会計検査院 (jbaudit.go.jp)

あまり長期保管になった砲弾は、炸薬を詰め替えての再利用が可能です。
ロシアの数万台あるゾと豪語していた戦車の備蓄も、倉庫から取り出してみればボロボロでスクラップ同然の状態、電子部品はとっくに盗まれて売られているといった具合で、使い物になるのはごく少数でした。
メンテナンスや安全管理は一番めだたないので、真っ先に予算から削られるのです。

また21世紀型戦争は航空機やミサイルの対地攻撃が主で、砲撃の重要性は低いと思われていました。
実際に、米海兵隊の新シフト(フォースデザイン2030)では、戦車と砲兵を全廃しています。
kaiheitai-kaikaku-watanabe.pdf (goyuren.jp)

しかし、現実にウクライナに侵攻してみると、航空機攻撃は対空ミサイル網によって互いに封じられ、結局モノを言ったのは第1次大戦型の砲撃と塹壕でした。

ロシア軍は2022年2月末のウクライナ侵攻後、昨年1年間だけで1000万~1100万発を使ったとみられていますが、おそらくは砲弾備蓄はとうに使い切っているはずで、命知らずのロシア砲兵がやけくそでこの「どこにとぶかわからない」ような備蓄品を使っているようです。
もちろんロシアは全力で砲弾生産をしていますが、それでも砲弾の生産能力は年間100万~200万発で、必要量の10分の1でしかありません。
北は推定で2万1千門の大砲を持っていると言われていますから、品質はともかく砲弾の備蓄は佃煮にするほどあるはずです。
これを売り手市場でさばけ、対価として原油がもらえるかもしれないとすると、なんてすんばらしい話でしょうか。
こうしてロシアと北による「反帝同盟」(笑)が突如誕生したわけです。

 

 

2023年9月20日 (水)

自分で仕掛けたEVの罠にはまった欧州

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EUはEV(電気自動車)の導入に異常なほど熱心でした。
なかでもその音頭を取っていたのがドイツです。
建前は「地球に優しく」ですが、もちろん下心はありました。

そのドイツが思わざる展開に、方針転換を迫られています。

そもそも、有体に言えばEV推進の目的はトヨタ潰しでした。
EUは地球環境を守るふりをして、トヨタの生み出した画期的環境負荷低減エンジンをであるハイブリットをゼロ・エミッションカーに入れない、というトンデモの決定をしました。
おいおい、クルマの中に内蔵した発電所を持つハイブリッドほど優れたエコカーはないんじゃありませんかね。
しかしハンブリッドカーはエコカーにあらずというEUの決定で、トヨタは大きな打撃を受けました。
ハイブリッドカー - Wikipedia

つまり、EUはEVのだけが唯一のエコカーであると宣言することで、事実上の「日本外し」を露骨に行ったのです。
うわぁぁ、セコ。
自動車発祥の地のヨーロッパ人らしいプライドの高さですが、ご想像どおりEU盟主ドイツのあのWがふたつつく企業のごり押しでしょう。
世界の自動車業界の盟主の座を奪われたことが、よほど悔しかったとみえます。

一方トヨタは太っ腹にもハイブリッドの特許を公開して普及を図っていたのですから、そちらを世界基準にすればよいものを、なんとしてでも日本に屈するのだけはイヤだったんでしょう。
気分はわからないでもありませんが、大きな眼で見れば自分で墓穴を掘ったのです。

欧州は、内燃機関からEVへの乗り換え促進のために、手厚い購入補助金と、大幅な減免税政策を導入し、その結果、EVの世界販売台数は、2020年に200万台、2021年に440万台、2022年は700万台と、毎年2倍に近い勢いで増え続けています。
また、ネックだった世界の公共のEV充電器も、2022年末時点で250万ヶ所を超えたといわれています。
かくして、いままでハンチクなクルマだと思われていたEVが、一気に自動車業界の帝王の座を狙う位置につけたのです。
ノルウェーのエコミーイズム: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

ただし、これによってうたい文句どおりCO2が削減できたかといえば、これがはなはだ疑問です。
たしかにEVは走行中のCO2は排出はありませんが、もっと広い眼でみたライフサイクルではどうでしょうか。
ライフサイクルCO2排出量とは、自動車の製造時から運転・廃棄時までを含めて計算したCO2の量のことです。
これについては、スウエーデンのボルボが行った研究があります。
Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf (volvocars.com)

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電気自動車(EV)は本当に環境にやさしいのか | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

上図がその結果ですが、縦軸が20万キロ走行時のCO2排出量。
一番左が同等な内燃機関車(ICE)。残り3つがEVであるC40で、発電の構成によって結果が異なっているのがわかります。
左から順に、世界平均(Global electricity mix)、EU平均(EU electricity mix)、そして全て風力で賄った(wind electricity)場合、としている。

本来、環境負荷は廃棄までのライフサイクルと稼働や設置による負荷まで含めて比較すべきものであり、EVの場合でいえば電源、電池の廃棄にかかわる負荷、発電負荷などが適正に判断されていないと、正当な判断はできません。
上図のスウエーデンの研究を見ると、EVは製造原料、リチニウムイオンバッテリーの生産に関わるCO2排出量が内燃機関の倍近くになっています。

そしてなによりEVの燃料に当たる電気の発電のために発電所において日常的にCO2を発生させています。
え、太陽光発電だからエコだろうですって。

そう簡単なもんじゃないのはいままで何回も説明しましたが、不安定な再エネのために必ず火力や原子力がバックアップに入っているのです。
風が止まって風車が動かないた、雨になって太陽光が使えないという時に、一瞬で化石燃料発電に切り替わる仕組みなのです。
つまり、EVを走らせるためには電気が必要であり、その電気を作るためには化石燃料が必要であるという夢のない話にになるのです。
なんのこたぁないEVを動かすためには発電量をふやさねばならず、その結果さらに多くのCO2を排出せねばならず、普及すればするほど電気消費量が増えてCO2も増えるという仕組みです。
お分かりでしょうか、再エネがそうであるように、EVもまた偽薬なんです。

このEVが持つ根本矛盾を、バカではないのでEUもわかっちゃいるのです。(と思いたい)
ただ、今の温暖化阻止の波を利用して、なんとしてでも究極の内燃機関を作り上げてしまった憎きトヨタを叩き潰したいのです。
だから内燃機関車をEU市場から完全に排除して、ハイブリッドという優れた環境負荷低減技術まで葬ろうとしたのです。
ですから、電気自動車の本質的矛盾、すなわら普及すればするほど電力消費が増えてCo2が増えてしまうという笑えない矛盾については、見えません見えません、いつか誰かが解決してくれる未来を信じて先送りにしましょう、という「賢者の知恵」(なのかよ)がEUの考えでした。


 

2023年9月19日 (火)

ユン大統領、統一省に解体のメスを入れる

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ユン・ソンニョル大統領は、着々とムン・ジェイン政権の後始末をしているようです。
ユンは、親北派の司令塔だった民主労総に打撃を与え、元慰安婦には一円のカネも渡さずすべて私物化していた挺対協代表ユン・ミヒャン(尹美香)を裁判に追い込み、ムン政権与党だった「共に民主党」の代表イ·ジェミョン(李在明 )は「ユン・ソンニョル政府の暴走を防ぐ」として始めた断食を国民の支持を得られないまま病院送りで中断しています。
やれやれ、しょーもない人たちばかりだ。

そして政府に巣くう親北派の牙城である統一省にもメスが入りました。

「ソウル 2日 ロイター] - 韓国の尹錫悦大統領は2日、対北朝鮮関係を担当する統一省について、これまでの過度な援助重視の姿勢を改める必要があるとの見解を示した。
尹大統領は先月末、新たな統一相に保守派の政治学者で北朝鮮の人権問題を積極的に批判している金暎浩・誠信女子大学教授(63)を指名したばかり」
(ロイター9月2日)
韓国統一省、北朝鮮支援重視を修正へ 尹大統領「変革の時」 | Reuters

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金暎浩(キム・ギョンホ )統一相
Chosun Online | 朝鮮日報

指名されたキム・ギョンホ新統一相は、このような施政方針を示しています。

「金氏は就任に際し「価値と原則に基づいて統一・対北朝鮮政策を推し進めていくことが、朝鮮半島問題を最も正しく解決し、統一を早める近道だ」と表明。冷却している南北関係を踏まえ組織改編に着手する考えを明らかにした。
 韓国メディアによると、統一省は「交流協力局」や「南北会談本部」といった南北交流・協力に関する部署を一つに統合する計画。職員の15%に当たる80人以上の人員削減に取り組み、8月下旬にも改編が完了する見込みという」
(時事8月4日)
尹政権、統一省改革を推進 「北朝鮮支援省」から転換―韓国:時事ドットコム (jiji.com)

振り返れば、2018年9月にムン・ジェインは訪朝し、正恩と抱擁しあっているという気持ち悪い写真を世界に流しました。
米国が、対中第3次関税制裁を発動しようとするその時に、ピョンヤンに言って抱き合っていたわけです。 

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https://www.youtube.com/watch?v=cEWYjNMmoAA

正恩の千代丸のような腹がつかえて、がぶり寄りみたいになっています(失笑)。
旧ソ連圏では、ヤニ臭いオヤジたちが頬ずりしてキスまでしていましたが、その朝鮮バージョンです。
この訪朝をムンは「完全な非核化を得るためだ」だと言い繕いました。
もちろん見え透いたウソで、ムンの本心は北の核武装を助け、南北統一の道筋を果たすことでした。


「ソウル=水野祥】韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は18日、北朝鮮の首都平壌(ピョンヤン)で、金正恩キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と今年3回目の南北首脳会談を行った。会談は19日も行われる。北朝鮮が表明している「完全な非核化」について、文氏が正恩氏から具体的な措置を引き出せるかどうかが焦点となる。
 会談は平壌の朝鮮労働党本部で、18日午後3時45分から2時間行われた。平壌共同取材団によると、正恩氏は会談冒頭、「文大統領の絶え間ない努力で北南(南北)関係、朝米(米朝)関係が良くなった。歴史的な朝米会談のきっかけを見つけてくれた」と語り、6月に行われたトランプ米大統領との首脳会談を成果と強調した。「朝米間で、さらに進展した結果が出せると思った」とも述べた。
 これに対し、文氏は「新しい時代を開こうとする金委員長の決断に謝意を表する。豊かな結果を残す会談とし、全世界の人に平和と繁栄の成果を見せたい」と応じた」
(読売2018年9月18日) 

核問題の専門家は同行せず、経済使節団として財界トップを200名総ざらいで連れていったそうで、もうハナっから国連制裁決議破りする気ムンムンでした。
恍惚とした表情のムンには気の毒ですが、何を「合意」しようと、北の非核化の進展には何の関係もありませんでした。
そもそも当時、トランプが投げたエサである米朝直接交渉が進行していたのですから、パシリのようなムンに非核化の言質など与えるはずがありません。
そしてこの訪朝でムンは勝手に朝鮮戦争終結宣言まで出してしまいました。
「陸・海・空のすべての空間で一切の敵対行為中断」などと寝言を言っていますが、在韓国連軍や米韓同盟はいつ相談をうけたのでしょうか。
朝鮮戦争は終結したから、在韓国連軍、つまりは在韓米軍にはさっさと撤退してくれ、ということのようで、米朝間でなにも決まらないうちから、米韓合意もないままの「敵対行為終結宣言」ですから、米朝双方から交渉のノイズ扱いされました。

いままで左翼系の韓国大統領は、おなじような失敗を繰り返して、その都度カネをむしりとられてきました。
キム・デジュン(金大中)の時は、巨額の裏金が直接に2代目に手渡されたことが明らかになっています。
これが暴露されたために、金大中はノーベル平和賞はカネで買ったものと韓国国内で叩かれることになります。


「金大中政権時では、引退後の処遇を恐怖する金大中氏が、当時5億ドルの秘密支援を北に行い、南北首脳会談を実現してノーベル賞の権威付けによってこの恐怖を逃れた。秘密支援は3年後に暴露された。この時北は10億ドルを要求したという」
(産経2月10日 古田博司)

http://www.sankei.com/column/news/160210/clm1602100004-n1.html

正恩が南北会談をした目的は、韓国のムンが喜びそうなことを言ってやることで、米韓日の結束を分断し、核武装のための時間稼ぎをすること、そしてもうひとつは韓国から支援のカネをむしり取ることでした。 
たぶん、ムンもキム・デジュンを上回る数倍の現ナマを政府専用機で運んだはずです。
北からすれば、核兵器の開発までの時間稼ぎができたうえに、カネまで貰えるというひと粒で二度おいしい南北会談でした。
え、韓国ウォンで持っていったのかって、わけないしょ。
北は「帝国主義マネー」のドル以外受け取りませんよ。 

ところで新統一相のキム・ギョンホは、ムン政権時代には異端の保守論客でした。
在野時代のキムの著作を、ハンギョレが紹介しています。

「著書『米中覇権戦争と危機における大韓民国』の中で、北朝鮮は我々の存在そのものを脅かす実存的な敵であると主張した。 「韓国の自由民主主義とその敵」という本の中で、彼は南北関係は敵対的であり、北朝鮮は全体主義であり、どんな種類の宥和政策も無効であると述べました。 南北と北朝鮮の関係は、死ぬか生きてみないと終わらせられない「敵対関係」であり、北朝鮮との対話、協力、共存を求めることは、その本質を曖昧にする「詐欺」です」
(ハンギョレ 2023年7月20日)
北朝鮮は「味方」か「敵」かのどちらかだと主張する韓国統一閣僚候補の金浩鎬:政治と社会:漢民日報 (hani.co.kr)

まったく異論の余地はありません。ドストライクの正論です。
そして当時のムン政権に対してはこう切り捨てています。

「2018年の著書『韓国の自由民主主義とその敵』では、ロマンティック・ナショナリズム(南北和解の追求)に基づく「金国モデル」は、南北関係が敵対体制間の実際の敵対者であることを人々が認識することを妨げていると主張している。(略)
ろうそくデモをしている議員の行動が大韓民国の自由民主主義システムを弱体化させ、全体主義を支持する結果につながった 」
(ハンギョレ前掲)

韓国の東京新聞であるハンギョレは、キムの思想はネオナチだ、極右だと言っていますが、この新聞からそう言われるということはフツーの保守ということです。
とまれ、北との関係に自由主義の価値観を据え、北の人々が「自由民主主義の価値観のために立ち上がるべきだ。統一が両国国民により良い、より人間らしい生活をもたらすべきだ」としたことは、画期的なことです。

したがってキム統一相にとっての「統一」とは、正恩ひとり独裁体制が打倒され、北朝鮮国民が専制と服従から解放されることなのです。

具体的には、統一省を大幅縮小し、交流部門も廃止しました。
そして北朝鮮関係の情報収集や拉致担当を親切しました。

「韓国政府は8日、北朝鮮政策の中核官庁である統一省の人員を617人から536人に大幅に削減し、南北対話・交流協力部門を「南北関係管理団」に統廃合した。その一方で、北朝鮮関連の情報を収集分析する機能や、韓国人拉致問題対策は強化。拉致被害者対策の担当組織を新設した」
(ロイター前掲)

そして目玉人事として、脱北者の元北の外交官を補佐官に登用しました。

【ソウル=桜井紀雄】韓国で対北朝鮮政策を統括する金暎浩(キム・ヨンホ)統一相は6日、北朝鮮情報の分析などを担当する統一相直属の特別補佐役を新設し、北朝鮮外交官出身の高英煥(コ・ヨンファン)氏(70)を任命した。脱北者が韓国の国会議員になるケースはあったが、対北政策に関わる特別ポストに就任するのは異例だ。
金統一相は、任命に際し、高氏が北朝鮮の全体主義と韓国の民主主義という2つの体制を熟知する点を挙げ、「高氏の専門性が加われば、統一省の政策能力を画期的に強化できる」と強調した」
(産経9月6日)
韓国、北朝鮮元外交官を統一相特別補佐に任命 1991年に亡命 - 産経ニュース (sankei.com)

じっくりとユン大統領とキム統一相の仕事ぷりを拝見しましょう。

 

 

2023年9月18日 (月)

落ちぶれたくありませんね、プーチン閣下

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ロシアと北朝鮮が「軍事協力」をするそうです。

「ロシアのプーチン大統領は、極東を訪問している北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記と13日にも首脳会談を行うとみられます。ウクライナ侵攻で兵器や武器の不足が指摘されるなか、ロシアの外交筋は、プーチン大統領がキム総書記との間で、軍事技術協力の拡大などで合意する見通しだと明らかにしました。
北朝鮮のキム・ジョンウン総書記を乗せた専用列車は12日、国境を越えてロシアに入った後、北上していて、ロシアの鉄道関係者によりますと、列車は、極東のアムール州に向かうということです。
一方、ロシアのプーチン大統領は、アムール州にあるボストーチヌイ宇宙基地を訪問すると明らかにしていて、13日にも宇宙基地で首脳会談が行われるのか関心が集まっています。
この首脳会談について、ロシアの外交筋は、NHKの取材に対して、プーチン大統領がキム総書記との間で包括的な枠組みを通して軍事技術協力を拡大することで合意する見通しだと明らかにしました」
(NHK9月13日)
ロシア 北朝鮮と軍事協力拡大などで合意へ きょうにも首脳会談 | NHK | ロシア

このNHK記事のタイトルは「ロシア 北朝鮮と軍事協力拡大などで合意へ きょうにも首脳会談」ですが、ここだけ見ると、そうかプーチンは北に軍事支援をする気だなと思っちゃいますね。
いままでそういう力関係でしたし、ロシアは北なんぞ肉体労働者の供給地くらいにしか思ってこなかったはずです。
そもそも、ソ連軍大尉だったキム・イルソンを、ソ連軍のジープに乗せて帰国させて朝鮮民主主義なんじゃら共和国をデッチ上げたのもソ連でした。
だから初めからロシアにとって、北なんぞ貧乏な衛星国でしかなかったのです。


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13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌ…:宇宙基地を訪問するロ朝首脳:時事ドットコム (jiji.com)

そういう隠微な関係だったために、ロシアはこっそりと北の核兵器開発を支援してきましたし、まがいなりとも核兵器保有国にしてしまったのは、ロシアと中国です。
その意味で、ロシアこそが北の核開発の核の共犯者です。
そしていまやその中露にすらコントロール不能になってしまったのが、正恩の北です。
このままだと、ロシアの技術を得て最期のハードルを超えて、行くところまで行くでしょう。
そうなったら、さすがの米国も手が出せなくなるからです。

止めることができるのは、あえていえば米国がピンポイントでICBM関連と核関連施設を潰すことくらいでしょうが、絶対にバイデンはしません。
正恩が核のカードを握っている可能性があるからです。
せいぜい痛くもかゆくもないB-1を飛ばしてアリバイ作りをするくらいで、すっかり足元を見られています。
どうせなにもできまい、バイデンのいるうちに核開発を完了しておくのだ、と正恩にタカをくくられてしまっているのです。
作ってしまえばこちらのもの、というわけです。
だからどこにこんなミサイルの在庫があるんだ、と驚くほど惜しげもなくポンポンと撃ちまくっています。

長距離のアレが一発あれば国民が腹一杯食えるというのにね、なんて常識を言ってもムダです。
この「米帝と戦っている」というポーズがあるから支援を取り付けられるので、いわばビジネスのようなもの。
今回の訪露に際しても正恩は、「私たちは帝国主義との戦いで共にあり続けると、確信している」 なんて、いまや誰も信じていないマルクス主義の死語まで持ち出してその意義を盛っています。
な~に言ってるんだか、現代でバリバリ現役の帝国主義国家はロシアと中国でしょうが。
ついでに国の富の大部分を軍備に投じるっていう軍国主義をやらかしているも、あんたの国です。
とはいえ、初代からかれこれ70年間も使っているビジネスモデルですから、手脂でヌラヌラと黒光してもう変更できません。

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火星17号
侮ってはならない北朝鮮の弾道ミサイル、日本の備えは不十分 イスラエルは国民に化学防護キット配布したことも、日本はヘルメットすら……(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)


実は、核による脅迫に対しての対応はひとつしかありません。
かつてのシンガポール米朝首脳会談直前に北のチェ・ソンヒ外務次官が「核対核で対決するぞ」という核脅迫発言をしたことがありました。

この核脅迫に対するトランプの対応。


「あなたは自分の核戦力について語るが、米国の核兵力はあまりにも大規模で強力で、私はそれが決して使われずに済むことを神に祈っている」
(トランプ書簡) 
「われわれと会談場で会うか、『核対核の対決』で会うかは、全面的に米国の決心と行動に懸かっている」
(ペンス発言)

やるならやれ、米国はやりかえすぞ、そして勝つぞ、いいのかという意味です。これが正解。
北はこういう分かりやすい言語で語ってやらねばならない国なのです。
すなわち核脅迫に対しては核で応えるといういう話法で臨まないと、正恩は状況を正しく理解できません。
この正恩の瀬戸際外交、言い換えればマッドマンセオリを見抜いたのがトランプでした。

おまえがマッドマンのふりをするなら、オレの方がはるかにほんとうのマッドマンだ、試してみるかいと言い、軍事的圧力と制裁をかけ続けたのです。

そしてトランプに尻を炙られるようにして正恩は狸穴から引きずり出されましたが、会談の席上でも北はゴネまくって、あっさりボルトンに見抜かれて交渉の席を蹴られてしまいました。
その直後、正恩はプーチンと会談するのですか、プーチンから冷淡な対応をされるというオマケをもらいます。

この核脅迫はウクライナ戦争でロシアも用いました。
バイデンは始めからロシアの核に恐怖していることを公言する人物でしたからこの脅迫に引っ掛かって、戦争冒頭から米国は介入しないなんて言ってしまってロシアを歓喜させ、その後ウクライナ支援も五月雨的にするという度し難い失敗をしてしまいました。
本当にケンカ下手な人物です。

さて、いまや朝露の力関係は逆転しました。
ロシアが喉から手が出るほど欲しいのは、武器、なかんずくローテクの大砲の砲弾です。
ショイグ国防相は、今年7月、北朝鮮がコロナのパンデミックにより国境を封鎖して以来、初めての外国高官として北朝鮮を訪問しました。
米国務省は、このショイグは正恩に弾薬の供与を要請し、両国での合同軍事演習の実施も打診したと述べています。
今回、正恩はこのショイグとも会談しています。

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ロイター

「[ウラジオストク(ロシア) 16日 ロイター] - ロシアを訪問している北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は16日、ウラジオストク郊外でショイグ国防相の出迎えを受け、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機や極超音速ミサイル「キンジャル」を視察した。
金氏は戦略爆撃機の「Tu─160」、「Tu─95」、「Tu─22M3」を視察。ショイグ氏はこのうちの1機について「モスクワと日本の間を往復できる」と説明した。
金氏は爆撃機からどのようにミサイルを発射するのかと質問。ロシアの当局者は、こうした戦略爆撃機がロシアの核戦力部隊の柱の一つになっていると述べた。
金氏はその後、ウラジオストクでロシア太平洋艦隊の艦船を視察した」
(ロイター2023年9月17日)
金正恩氏、戦略爆撃機や極超音速ミサイル視察 ショイグ氏が案内 | ロイター (reuters.com)

ロシアは正恩に、プーチンはロケットを見せ、ショイグは戦略爆撃機と超音速ミサイルと艦隊を見せたというわけで、実に分かりやすいメニューを開陳したものです。
どうだ、坊や大砲の弾をくれたらこいつらの一部をわけてやってもいいんだぜ、というわけです。

というのは、今、ロシアは深刻な大砲の弾不足に陥っていますが、国内生産はパンクしており、供与してくれる外国はいません。
ロシアはウクライナに軍事侵攻し、大量の武器を消費していますが、経済制裁を受けているため、思うように国内で武器弾薬の製造できないのです。
中国がとばっちりを恐れているために、ロシアに軍事協力しているのは、世界で唯一イランですが、それも戦闘用ドローンに限っています。
核開発完成寸前のイランも、この時期西側と不必要にもめたくはないからです。

いままでロシアがかろうじて戦線を均衡できたのは、「戦場の女神」と呼ばれる大砲とその砲弾のストックを潤沢にあったからです。
ウクライナ軍が1発撃つと10発返ってくるといわれたほどの砲撃力の差は、ひとえにこの弾薬の備蓄にありました。

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「ワシントン(ロイター)-ロシアは今後数年間で砲弾の生産を年間約2万発に増やすことができる可能性があり、モスクワのウクライナ戦争のニーズにはまだ遠く及ばない、と西側当局者は金曜日に述べた。
匿名を条件に語った当局者は、ロシアが昨年ウクライナで10万から11万発の発砲をしたと推定した。

「昨年10万発を費やし、戦いの真っ只中でありながら年間2万発しか生産できない場合、それはそれほど強力な立場ではないと思います」
(ロイター9月9日)
ロシアは大砲の生産を増やしているが、まだ不十分であると西側当局者は言う|ロイター (reuters.com)

一方、いまや遅まきながら米国は大増産にとりかかっており、155mm砲弾の生産量は2025年までに月産9万発に到達する予定で、国防総省の調達担当者は「155mm砲弾の増産ペースは予定よりも早く進んでいる」と述べています。
というのは、さすがの米国もひと頃、深刻な155ミリ榴弾の在庫が不足してしまい、その代替としてたっぷり抱えている(300万発)クラスター弾の供与で凌いだからです。
NATOの約束した砲弾生産量(年間100万発)の状況は不透明なものの、月8万発程度の砲弾供給量を欧州企業が確保すれば2025年に月18万発のウクライナへの供給体制が見えてきます。

この西側のそ胡散体制が本格化した場合、もはやロシアは唯一の頼みの砲撃力で完全逆転されてしまい、永遠に戦場での優位を回復できないでしょう。
そこで、プーチンは恥も外聞もなく正恩の足元にひざまずいたというわけです。
世界最強を誇ったロシアが、世界最貧国にひれ伏す、嗚呼、落ちぶれたくはないものです。

残るは、支払い条件ですが、イランはロシアとの取引でルーブルでの受け取りを拒否しているようで、米ドルかゴールドでの支払いを要求していると言われています。
ロシア国内でしか使えないような紙屑はいらんということで、実にドライです。
おそらく北も同じことを言うはずですので、おそらくバーター決済になるか、原油払いとなるでしょう。
ほんの1年半までは、こんな屈辱的なことは想像もつきませんでしたね、プーチン閣下。

 

2023年9月17日 (日)

日曜写真館 おぼろなる仏の水を蘭にやる

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カトレアの花ふさはしきたたずまひ 長谷川櫂

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つと入や蘭の香にみつ一座敷 松瀬青々

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カトレアを置きし出窓や湖光る 島田愃平

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雨しぶく書齋の椽や蘭の鉢 蘭 正岡子規

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月落ちてひとすぢ蘭の匂ひかな 大江丸

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星空も生者の側に蘭溢れ 花谷和子

 

私的トラブルで神経を削られるようなこの1カ月でした。
なんとか解決のほうに向かっていますが、心身ともに疲弊しきりました。
なんとか光明をみつけています。
ああ、いくつになっても生きるってしんどいもんですな。

 

2023年9月16日 (土)

「汚染水」などという手合いには損害賠償訴訟をすべきだ

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再稼働をめぐっては全国各地で30を超える原告団が結成されて、各地の地裁で「勝利判決」が出ています。
たとえば、2016年3月に大津地裁運転差し止め判決がありました。
こんな判決です。


「関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)は安全性が確保されていないとして、滋賀県の住民29人が再稼働差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁は9日、関電に運転差し止めを命じる決定を出した。山本善彦裁判長は「過酷事故対策などに危惧すべき点があるのに、安全性の確保について関電は主張や証明を尽くしていない」と判断した。仮処分決定は直ちに効力が生じるため、関電は運転中の3号機を10日に停止させる。
 高浜3、4号機の差し止め決定は昨年4月の福井地裁に続き2件目。運転中の原発を止める仮処分決定は初めて。
 関電は決定を不服とし、異議と執行停止を申し立てる。3号機は10日午前10時から出力を落とす作業を始め、同日午後8時に停止する予定。
 山本裁判長は決定で「東京電力福島第1原発事故の原因究明は道半ばだ」と指摘。事故を踏まえた新規制基準の過酷事故対策について、「関電の主張や証明の程度では、新規制基準や(原子力規制委員会が審査で与えた)設置変更許可が、直ちに公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない」と述べた」
(時事2018年3月9日)

なにが「原因究明は道半ばだ」っての。

大津地裁運転差し止め判決 その1 山本裁判官の「法の名の下の無法」: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
大津地裁運転差し止め判決 その2 電力会社は今後の抑止のために損害賠償訴訟をすべきだ: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
大津地裁運転差し止め判決 その3 日仏原子力規制を比較してみると: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

これを原告団は「画期的判決」などと歓喜していましたが、確かにこの人らとは真逆の意味で「画期的」なことには違いありません。

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http://news.ameba.jp/20160309-632/

山本善彦裁判官はたった4回の審理で、ろくに専門家も呼ばないまま安全基準の検証などきれいさっぱりスルーして出した判決がこの再稼働差し止め仮処分命令でした。
いやー、専門家が何年もかかって再稼働を認めたものを、一瞬で覆せるってわけで、この裁判官神の如き人ですな。
そもそも仮処分などは金銭債権者が倒産しそうな債務者の財産を急いで差し押さえる時になど使われる法律です。
あくまでもその本旨は経済案件に使うもので、仮処分というから仰々しいのでなんのことはない倒産、夜逃げ、ローン破産などで使ってきた法律なのです。
それを社会のエネルギーインフラの稼働の可否に適用するというのですから、筋違いも甚だしいんじゃありませんか。
裁判官も法曹なら、こんな勘違いなことを裁判所に訴えるな、とたしなめるべきなんですが、運動家と一緒になってワッショイ、ワッショイ、原発再稼働をゆるさないぞぉ、なんてやっているんですから、困った君です。

これでは原子力安全行政の権限を持つはずの原子力規制委員会の頭越しに、裁判所が原発の運転の可否を決めていることになります。
原子力規制委員会は、会計検査院と同等の独立性を担保された国家機関なことをお忘れか。
規制委員会は、「内閣からの独立の地位」を与えられて原子力の規制・監視を しているわけです。
言い換えれば「政治からの独立」がなければ、原子力の規制監視は素可能なのです。

ところが、この大津地裁判決は脱原発派への政治的従属を選んでしまいました。
まるで裁判官は、原発の再稼働権限をただの裁判官の個性や思想に左右される属人的なもののように扱っています。 
つまりこの大津地裁判決は、再稼働について唯一権限を与えられた原子力規制委員会の独立性に対する著しい侵害なのです。
まるで司法はスーパーバワーをもって、三権の上に超越しているとでも思っているのでしょうか。

原子力規制委員会の決定は、政府はおろか、国会ですら取り消せないことを思い出して下さい。ん
それほど規制委員会は専門家を結集し、専門家を集めて原子力施設の安全性を徹底検証しているのであって、その厚みを知らない者のみが、たった4回の短期審理で専門家不在のまま判決をデッチあげられるのです。

福島事故の時の、素人政治家の事故処理介入による混乱を反省して、政府は任命権者であっても、指導することはできない独立した機関を作ったのです。
このような行為を、越権行為、あるいは「法の名の下の無法」と呼びます。
山本裁判官は、原子力規制委の独立性を侵害することで、せっかく出来た福島事故を総括して生まれた規制委員会の新安全基準など「緩やかにすぎて合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない」と簡単にひねり潰したのです。
唖然とするような傲慢さと無知です。

しかし、わが国では司法の構造上できてしまいます。
そしていったん放射脳の裁判官にあたったら最期、いくつも出て、その都度再稼働は動いては泊まり、止まっては動くを繰り返すことになります。
その結果、電力は恒常的に不足し、どこか一カ所の狩意句発電所が停止したりすれば、2018年の北海道大停電のような事態を引き起します。

今回の海洋放出についても同じことが起きないとは言えません。
海洋放出についてどこかの「市民団体」が放出停止の仮処分命令を提訴した場合、オカシナ者がゴマンといる地裁判事で同調して仮処分命令を出さないともかぎりません。

どうしたらよいのでしょうか。
電力会社と政府が唯々諾々と訴訟を待っているのではなく、「汚染水」あるいは「汚染海産物」などと発言した団体を提訴することです。
この大津地裁差し止め判決によって、関西電力は原発停止による1日5億5千万円といわれる損害を被り、管内の電気料金値下げは不可能に追い込まれました。
このような「基準外的圧力」による原発停止に対しては、電力会社はその失われた損失の対価を原告団に請求すべきです。

こんなことが司法にできるのならば、沖縄米軍基地使用差し止め仮処分、自衛隊職務執行差し止め仮処分なんかも可能かもしれません。(もちろんできませんので念のため)
こういう法を借りた無法行為を起こさせないために、風評をばらまく団体やメディアに対して法的措置で臨むべきです。

 

 

2023年9月15日 (金)

偽薬としての再エネ

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事故直後には幅広い層に共感をもたれていた脱原発運動ですが、いまはかつてのような勢いは完全に失せています。
その理由は色々ありますが、代替エネルギーについてリアルな提案ができなかったこともあるでしょう。
現実には9割弱が化石燃料に依存する国になっているにもかかわらず、初めからその代替は再生可能エネルギーで「決まり」だからです。
現状日本は9割、化石燃料依存ですぞ。それを太陽光で決まり、みたいに言われてもねぇ。

下の2枚のグラフを見てください。紫の原子力がグラフ右端では消滅して、替わりに火力のピンク色が激増しているのがわかりますね。
これが、「原発ゼロ」の現実です。

 

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 (図電源別発電電力量構成比 - 電気事業連合会

同時に、電力会社は燃料コストの増加によって、電力料金を値上げせざるをえなくなっています。

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                             (図 東電HP)

このシビアな現実をいつまで続けていくつもりなのでしょうか。電気料金の値上がりは、2011年から消費税5%分に等しいと言われています。
まちがいなく、この電力高騰と薄氷の電力供給態勢は、日本のデフレ脱却の足をモーレツに引っ張っています。

Photo                   (写真 日本全国、どこもかしこもメガソーラーだらけ)

このたいへんな状況に対する偽薬が、再エネです。
電力は、原子力だろうと、火力だろうと、はたまた再エネだろうと、消費者にとって、要は電力を安く安定供給してくれることが一番なはずなのに、電源選択こそが至上の命題であるかのような錯覚を作ってしまいました。
この無関係なふたつを強引に結合させてしまったのが、「東電悪玉論」、あるいは「東電戦犯論」と呼ばれる東電バッシングです。
つまり、飯田哲也氏あたりにいわせると、こういうロジックになります。


「東電という極悪な会社が、政府から原発と引き換えにして、まるで幕藩態勢のような地域独占を与えられて肥え太り、競争相手がいないのをもっけの幸いにしてクソ高い電気料金を課し、そのくせ原発の安全に注意しなかったためにフクシマ事故を起こしてしまった」

こんな東電は潰してしまえ。そして独占を解体して、市民参加の出来る再エネにチェンジしよう、そのためのロケットブースターがFIT(全量固定価格買い取り制度)だ、と言うわけです。

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これを分解してみると、こんな論理パーツで成り立っています。


(1)電力制度批判
①電力会社は地域独占体制で利益を貪っている(電力会社幕藩体制論
②電力会社は総括原価方式でコストを電力料金になんでも転嫁できるので原発を国の言うままに量産しまくった(総括原価方式特権論

(2)東電バッシング
③電力会社は事故を未然に防げたにもかかわらず、対策を怠ったために大事故を起こした(福島事故事前防止可能論
④事故に際しては現場から撤退を図った(東電撤退論

(3)原発再稼働反対
⑤全原発も直ちに廃炉にするべき (再稼働阻止

(4)再エネ普及のためのFIT推進
⑥原子力がなくとも、省エネと安全・安心な再エネがあるので大丈夫だ(再エネ代替論
➆再エネ普及のためのFIT推進

(5)電力自由化
⑧電力会社の特権を剥奪し、電力市場を開放しろ(電力自由化

スッと読むと納得しそうですが、こうして区切ってみるとまったく別の次元の論議が雑然と積み重なっているのが分かるでしょう。
最後の電力自由化論に至っては、原発とはなんの関係もありません。
それを強引に接着しているセメダインが、「東電憎し」「東電極悪論」です。
だから、反原発派にとって、ナニガなんでも、福島事故は極悪の東電が安全を怠ったために起きた人災でないと困るのです。

念のためにお断りしておきますが、再エネ自体が間違った技術だと言っているわけではありません。むしろ非常に面白いし、はまる所にはまれば大変に有力な電源です。
ただし、それは以下の条件が必要です。

①水量が豊か、風が強いなどの自然条件に合った地域特性が利用できる場合
②長い送電網を通して消費地に送るという送電ロスがなく、地場で費消できる条件
③発電の不安定という宿命的な欠陥を補うための蓄電設備

これらの条件が揃えばいいのですが、現実には実現が難しい。
ですから、再エネに対する過度な思い入れによって、まるで原子力にすぐに取って替われるというような幻想は持たないことです。
再エネは、使い方を間違えねば、漢方薬のように社会の体質を変えるいい薬ですが、世界トップクラスの工業国のベースロード電源になるような代物ではまったくありません。
今の反原発派が主張するように、ベース電源全部を再エネに入れ換えるといったやり方をすれば、ただの偽薬となって、かえって症状を悪化させるだけです。

そしてこのような脱原発運動は、急速に国民大衆から離れてただの左翼運動に転落していきました。
つまり党派の囲い込みとドグマ化です。 
山本太郎はこう述べています。


「脱原発派だけどTPP賛成というのは嘘つき」「TPP推進派は『向こう』に行ってくれたらいい。逆に『こちら』の空気を醸し出しながら中立を装うのが一番怖い。それでは第2、第3の自民党だ」
(ニューズウィーク 2014年2月11日号同) 

このような自分の主張のみが正しいとするカルト化傾向に対して、運動初期の指導者だった飯田哲也氏はこう警告しています。


「挙げ句の果てに運動の『セクト化』が進み、互いを罵る悪循環に陥った。まるで革命を目指しながら、内部分裂と暴力で崩壊した連合赤軍のようだ」
『最初はみんな熱く盛り上がるが、熱が冷めて自分たちが少数派になるにつれ、運動が純化し極論に寄ってしまう』」
(ニューズウィーク2014年2月11日)

あるいは、福島県出身の社会学者・関沼博氏の表現を使えば、もっと手厳しくこのように述べています。


「あたかも宗教紛争のようだ。
脱原発派科学者の筆頭だった飯田でさえ自然エネルギーの穏やかな転換をとなえただけで隠れ推進派として攻撃される。
「事故当時は女子中学生で、運動参加者から脱原発アイドルと呼ばれる藤波心も『なぜか原発推進派』と批判されたことがある。『こだわりすぎて自分の活動に酔いしれるだけでは原発はなくならない』と藤波は指摘する」
(ニューズウィーク前掲)

ここで出てくる藤波氏というのは、当時脱原発アイドルだった藤波心さんのことですが、彼女を誹謗した人たちは、「原発はなくならない」ということなどということは、とうに折り込み済みなはずです。  
なぜなら、原発がなくならない限り運動対象は不滅だからです。 
原発がなくならない以上、永遠に脱原発運動も組織も存在する理由があり、運動の中心にいる左翼政党はそれによって党勢拡大の手段にできると思っているからです。

もし、本気で原発をなくしたいのなら、デモなどするより、原子力に替わるエネルギー源の開発のための研究を真面目にしたほうが、よほど現実的なはずです。
そして、その代替エネルギーが実用化するまで電力会社が体力を維持できるように暫定的に安全性を規制委員会から認められた少数の原発を稼働してつないでいくというのが、現実的な選択なはずです。 
しかし、この脱原発運動家たちは、本気で原発をなくすつもりがないとみえて、街頭で「再稼働反対」と叫ぶことが、ただひとつの脱原発の道だと信じているようです。 

そして、自分ひとりが叫ぶだけならまだしも、徒党を組んで、時間をかけても本気で原発をなくそうと考えるような人間たちは「原発推進派だから向こう側」であり、つまりは「敵」であり、フンサイ対象なのです。
なんと不毛なことでしょうか。 

 

 

 

2023年9月14日 (木)

福島第1は地震で壊れていない

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えー、いつまで12年前の福島事故をやっているんだ、とお叱りを受けそうですが、これでも当人はハショっているつもりです。(汗)
1週間でも語り足りないくらい。
この福島事故をきちんとおさえておけば、今の海洋放出問題なんか軽い軽い。

さて、福島事故の原因をはっきりさせておきましょう。
結論から言えば、津波による電源水没による全交流電源喪失です。
今言うと、そんなことあたりまえだろうと思われるかもしれませんが、紆余曲折ありました。

当初、一時は国会事故調のみが地震説を出していたので、事故調の結論が混乱していましたが、2014年7月に原子力規制委員会が事故原因中間報告書の中で、地震説をバッサリと否定して完全に決着済みです。
東京電力福島第一原子力発電所 事故の分析 中間 ... - 原子力規制委員会(Adobe PDF) 

改めて福島事故の原因を押さえておくことにします。
事故報告書は、4種類(独立、国会、政府、東電)ありますが、この中で唯一、「じつは地震で壊れていたんだぜ」と述べているのは国会事故調のみです。

理由は簡単で、国会事故調で主導権を握ったサイエンスライターの田中三彦委員が、ゴリゴリの反原発論者だったからにすぎません。
この人は広瀬隆と波長のあった対談をしている人で、完全にアチラの人です。
あまりにも無責任すぎる!原子力規制委員会の正体――広瀬隆×田中三彦対談<中篇> | 東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命 |

このようなどう見ても公平性を欠く人物が主導権を握ったのが、この国会事故調でした。
naiic_honpen.pdf (mhmjapan.com)

それはさておき、この国会事故調こそがよく流布されている、反原発原理主義者の地震破壊原因説のルーツです。
国会事故調はこう書いています。


「基準地震動に対するバックチェックと耐震補強がほとんど未了であった事実を考え合わせると、本地震の地震動は安全上重要な設備を損傷させるだけの力を持っていたと判断される」
(同報告書)

国会事故調がいうには、耐震補強ができていなかったので、重要施設が破壊され、「津波到達前に格納容器から数十tの冷却剤が流出して、これが炉心融解・損傷につながった」というものです。
とうてい工学系の人が書いたものとは思えません。
事故後に結果論として「こうすべきだった」論ならナンでもいえますが、事故調が求められているのは「なぜ事故が起きたか」という冷厳な事故分析なのです。

たとえば橋が崩落したという場合、だから橋を補強しておけばよかったんだなんてことなら誰にでも言えますが、事故原因を探る上ではなんの意味もありません。
どうしてなにが故に橋が崩落したのか分からねば、そんなものは事故調査報告書たりえないからです。

福島事故の場合、なぜ冷却系が停止してしまったのかがわからねばなりません。
こここそが事故原因を探る上での最大のポイントなのですが、この原因を国会事故調査は「冷却材の流出」としています。
つまり冷却剤、要する炉心を冷却する水が、おそらくは格納容器が人によって亀裂が入って流れ出たのだ、と国会事故調は言いたいようです。

この国会事故調の意見について、政府見解を統一するべく最期に出た事故報告書の決定版である規制委員会事故調査報告はバッサリとこのように否定しています。
東京電力福島第一原子力発電所事故に係る調査・分析|原子力規制委員会 (nra.go.jp)

「『基準地震動に対するバックチェックと耐震補強がほとんど未了』であったことは事実である。しかし、そのことをもって、「本地震の地震動は安全上重要な設備を損傷させるだけの力を持っていたと判断」できる訳ではなく、損傷させる可能性があると考えることが妥当」

 規制委員会事故報告書は補強が未了だったということと、実際にそれが事故原因であったのかを切り分けています。
そのうえで、ほんとうに地震が原発施設を「損傷させるだけの力を持っていた」かはたんなる可能性にすぎないとしています。
そしてその後の本文の中で、明快に「冷却材地震流出」説を否定しています。

では、国会事故調の主張する格納容器からの冷却材流出はあったのでしょうか。 
下図は規制委中間報告書にある、地震の震度と発生時刻です。
15時31分~40分にかけて震度2~3です。
意外に震度が低いのに、驚かされます。
漠然と震度5以上あったのではないか、それによっておおくき器機が破壊されたのではないかというのは思い込みです。

 

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                                               規制委員会中間報告書

この15時31分~40分にかけて、もし地震で原子炉圧力容器が破壊されていたのなら、国会事故調が言うように、地震発生とほぼ同時に格納容器に亀裂が走り、そこから大量の冷却材が漏れだしたというシナリオも成り立ちます。 
次のグラフは、原子炉圧力容器の圧力を示すグラフです。 
地震発生から津波到達までの45分間は(非常用)電源が生きていたのでメーターの記録があります。
それを見ると配管破断を示すような圧力ロスや、原子炉水位の変化はありません。
つまり、地震によって原子炉に亀裂は入っておらず、冷却系も正常に作動していたのです。

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                                              同上

 これについて規制委員会はこう説明しています。 


「地震発生から津波到達までの原子炉圧力容器の圧力の測定値は、原子炉スクラム後に一旦約6.0 MPa まで低下した後に上昇し、非常用復水器(IC)起動後に5.0 MPa以下まで急激に低下した後、IC の起動・停止に応じて約6~7 MPa の間で増減が繰り返されている。」
この期間に炉心の露出・損傷に至らしめるような冷却材の漏えいはなかった。」
(前掲)

また国会報告書は、風聞を収集した週刊誌的報告書にすぎず、はじめからあった思い入れだけで書いています。
ですから、格納容器の破損説の根拠は、現場にいた作業員が地震発生後、津波が来るまでの間に「ゴーッという音」を聞いた程度のことにすぎず、各種計測装置によるパラメーターを提出していません。

もし仮に、国会事故調が言うように、既に津波到達前の45分前の地震発生時に格納容器が破壊されて冷却水が流れ出すようなことがあれば、とうぜん放射能の漏洩が発生していなければならないはずで、それは所内の放射線モニタリングに記録されているはずです。 
そのような放射能の検出記録はないと規制委員会は述べています。


「地震発生から津波到達までは直流電源及び交流電源が利用可能であったことから、地震により原子炉圧力バウンダリから原子炉格納容器外の原子炉建屋内への漏えいが生じれば、プロセス放射線モニタ、エリア放射線モニタ等の警報が発報すると考えられるが、これらの警報は発報していない。」
(前掲)

ではなぜ、冷却系が停止したのでしょうか。
これも時系列でモニタリングされていました。
津波が到達する時刻は、波高計により第1波襲来15 時27分頃、第2波襲来15時35分頃です。
この二つの津波が到達したのが、「15 時35 分59 秒~15 時36 分59 秒までの間で、この瞬間に原子炉の電圧は、ほぼ0 V に低下して、その後は電力供給ができない状態に至った」(前掲)わけです。 

Img_3838
                                      同上

上のグラフの右隅の緑色枠内の時刻、つまり津波到達と同時に全交流電源が停止しています。
その結果、原子炉が冷却不能となったのです。

この電源停止について、国会事故調はこう言っています。


「国会事故調報告書では、「ディーゼル発電機だけでなく、電源盤にも地震により不具合が生じ、その不具合による熱の発生などによって一定時間経過後に故障停止に至ることも考えられる。」としている。」
(前掲)

 国会事故調査は、津波だけではなく電源の基盤も地震で損傷していたのだと言っていますが、そのようなデーターはありません。
規制委員会中間報告書は、これについても震度2~3の揺れていどでの損壊はありえないと否定しています。 


「非常用交流電源系統は、本震が発生してから約50分間は正常に機能しており、これが震度1~2 の揺れの影響により損傷したとは考え難い。したがって、余震によってD/G1A受電遮断器を開放させるような不具合が発生したとは考え難い。」
(前掲)

それにもかかわらず、いまでも地震でフクイチが破壊されたという言説があとを断ちません。
おかしな地裁判事が「想定以上の地震が来て、原発が爆発する。仮処分で止めてやる」などという判決を出すのですから困ったものです。
この人たちはきっと受信機が地震によって壊れていて、脳内冷却剤が流出しているのでしょう。 
ちゃんと規制委員会事故報告書を読みなさい。

反原発派は意図的に危険を煽っています。
たとえば朝日のアエラ(2018年9月6日)の記事です。 
こちらはタイトルからして、『震度2で電源喪失寸前だった北海道・泊原発「経産省と北電の災害対策はお粗末』ですから、朝日がどのような印象に読者を誘導したいのか初めから察しがついてしまいます。 
登場するのは電力や原子力とはなんの関係もない地震地質学者の岡村真・高知大名誉教授ですが、アエラはこの畑違いの地震学者にこんなことを言わしています。 


「2011年の東京電力福島第一原発事故による大きな教訓は、大規模災害が起きても「絶対に電源を切らさないこと」だったはずだ。それがなぜ、わずか震度2で電源喪失寸前まで追い込まれたのか。
「泊原発には3系統から外部電源が供給されていますが、北電の中で3つの変電所を分けていただけと思われる。北電全体がダウンしてしまえばバックアップにならないことがわかった。今回の地震で、揺れが小さくても外部電源の喪失が起きることを実証してしまった。『お粗末』と言うしかありません」
(アエラ前掲)

https://this.kiji.is/410223450683638881

なにが「お粗末」ですか。お粗末なのはあなた方です。
岡村氏が言う 「電源喪失」はブラックアウトのことですか、それともステーション・ブラックアウトのことですか。
「電源喪失」を言うならば、きちんと概念規定してから言って下さい。
この人が悪質だと思うのは、たぶん岡村氏は知って言っています。それは後段で「外部電源」と言っているからです。
だったら「電源喪失寸前」などという、どちらにでもとれる表現は使うべきではありません。
その「寸前」という中に、ブラックアウトとステーション・ブラックアウトの大きな落差があるからです。

そこにこそ決定的な福島第1事故と泊原発との違いがあるにもかかわらず、肝心のそれを意識的にボカして、まるで福島事故のようなことが起きる寸前だったかのような印象を与えるようにしゃべっています。
岡村氏がブラックアウトとステーション・ブラックアウトを意識的か、無知なる故か知りませんが、積極的に混同して危機を叫び、アエラはこれを意識的に増幅しています。

いうまでもなく、3系統あった外部電源が失われた原因は、(多重防護の観点からそれはそれで追及されるべきですが)それはただのブラックアウトにすぎません。
それを岡村氏はわざわざ「福島第1の教訓」とやらを持ち出して、「絶対に電源をきらさないことだ」などと言っているようですが、これは正確ではありません。 
正しくは「ステーション・ブラックアウト(全交流電源停止)とならないようにする」ことが福島第1の教訓です。
いかに非常用電源の確保が重要かは、規制委員会が出した原発安全対策で上げられた項目を見ていただければ理解出来ると思います。  

 ■原子力規制委員会の原発安全対策
①大津波の被害が及ばぬ高台に非常用原子炉冷却施設
②同じく高台に非常用電源
③放射性物質フィルター付き排気施設
④放水砲をもった車両を配置
⑤防波堤の嵩上げ
⑥防水扉の設置
⑨原子炉施設本体の耐震性の強化
⑩テロ対策 

下の図は規制委員会の安全対策に従って立てられた中国電力島根原発の安全対策ですが、防波堤が高く改善され、非常用電源が高台に移されているのが分かります。

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島根原子力発電所の安全対策について - 中国電力

ご覧のとおり、規制委員会の原発についての新安全対策は徹底して津波対策、特に「非常用原子炉冷却施設」に絞られ、特に福島事故の原因であった非常用ディーゼル電源の確保に重きが置かれています。 

なんども述べているように、原発は外部電源がブラックアウトしたとしても、非常用電源のいずれか(多くは3系統)が起動しさえすれば電源は確保されて、燃料棒や使用済み燃料プールは冷却され続けるからです。
今回の泊原発は午前3時25分に外部電源が喪失しましたが、直ちに非常用電源が起動しています。また外部電源も当日の午後1時までに復旧しました。
運転していなかったからだと言う人もいますが、仮に燃料棒が入っていて運転していたとしても確実に自動緊急停止(スクラム)されます。
原子炉スクラム - Wikipedia
大地震があってもそれが起動することは、福島第1でも実証済みです。
そして外部電源が切断されると同時に、発電所内の非常用電源が起動します。これが非常時における「正常」な流れです。

道化者の共産党小池氏は、泊原発時にこんなツイートをしていました。

Photo

もう解説しなくていいですね。
小池氏は出来の悪い小学生レベルです。
こういう共産党の小池氏のような人たちが、原発ゼロなんて言っているのですから、困ったものです。

ところで今回の処理水放出は、事故そのもののとは違って単純です。
処理水はすでにALPSによってトリチウム以外が除去されており、しかもそれを海水で希釈して基準以下の濃度にして放出しています。
どこが問題なのか教えてほしいくらいです。
いまだ「汚染水」といっているような無知蒙昧な輩は別にして、原子力を当たらず触らず臭いものに蓋のような扱いをしてきた政府の側にも問題があります。

 

 

2023年9月13日 (水)

福島事故 カン首相と吉田所長の抗命

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菅直人元首相(←珍しくキチンと呼んであげました)の緊急対応そのものに対しては、今では肯定する人のほうが少数派です。
彼の主張の核心だった、「東電の全面撤退をオレが止めた」という主張は、朝日新聞・木村英照記者の『官邸の100時間』で拡散され、さらに彼が書いたスクープ記事として増幅していき、ひと頃は反原発運動の「定説」にまでなっていました。 
しかしこの東電撤退説は、吉田調書の公開と朝日の謝罪と共に完全に否定されてしまいました。 

しかし、その間反原発派が流布させてきた、「福島事故は人災」あるいは「地震で原発が壊れた」というのは半ば定説と化してしまいました。
また東電は人災説の主犯とされ、「事故時に逃亡を企てていた極悪卑怯な奴ら」という負のイメージは、訂正されないままに漠然とした「印象」として定着し続けているようです。 
この東電悪玉論は、事故対処のみならず、事故原因そのものまでも地震によるものだと決めつけています。 

この福島事故地震原因説は、国会事故調のみが匂わせているにすぎず、政府事故調は明解に否定しています。
政府事故調によれば、福島第1は、地震発生直後、新福島変電所からの外部電源が送電鉄塔の倒壊により途絶したにもかかわらず、定期点検中だった4号機A系(海水冷却)を除いてすべての非常用DG(ディーゼル発電機)は起動しています。 
これによって、1号機から6号機までの非常用M/C(金属閉鎖配電盤)の電圧は正常に復帰しています。 

これによって原発は自動的に停止モードに入りました。おそらく地震のみの衝撃だったのならば、福島第1は完全に耐えたと結論づけることができます。 
しかしそこに、津波が襲来したのです。政府事故調報告書は、こう書いています。 


「津波到着後、1号機から6号機に設置されていた13台の非常用DGのうち、2号機B系(空気冷却)、4号機B系を除いたすべての非常用DGが機能を停止したと推認できる」
(政府事故調報告書)

つまり非常用ディーゼル発電機が機能したか否かこそが、この福島事故の核心的問題であって、それは地震に耐えて起動したが、津波によって停止した、これが事故の運命の分岐点だったのです。 
今の規制委員会の余りに地震のみにシフトした規制の流れは、この事故の原因の本質からはずれたもので、後にいろいろ出てくる地裁レベルの判決もこの空気に便乗したものにすぎません。

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出典不明

そもそも菅氏が「海水注入停止命令をしただろう」という批判に反論して、「いやそれをしたのは東電だ」という弁明から始まったことです。
そしてそれはやがてお定まりの東電バッシングへと変化していきます。

さて、菅氏の主張が正しかったのかどうか、一連の東電、保安院、安全委員会も巻き込んだきしみに、幕を下ろしたのは、この吉田昌郎所長でした。

これを周囲は、海水注入停止命令と受け止めたのが、連絡官として官邸に詰めていた武黒一郎フェローです。
この人物の経歴を見るとまさに原子力畑一直線なのが分かります。東電のまさにエリート中のエリートです。

そして、この武黒フェロー(副社長待遇)が、注水停止を命じた相手が、私たちもよく知る吉田昌郎所長でした。 
東電のような国家官僚機構を思わせる牢固な組織で、武黒氏は、吉田の5年先に入社し、組織系列上も上司に当たります。
ほぼ絶対的指揮権を持つと言っていいでしょう。 
下に政府事故調が作成した、緊急対策時の組織系統図を載せておきます。 

Photo
以下のやりとりは、朝日新聞木村英昭記者が、『官邸の100時間』という本の中で記録しています。
木村記者は、宮崎知巳記者と共に、東電撤退問題を描いた『官邸の5日間』『東電テレビ会議49時間』、あるいは『福島事故タイムライン』などの著作を書いています。 
宮崎記者は、鼻血風説の源流である、『プロメテウスの罠』第6シリーズのデスクです。
木村、宮崎両記者は取材源の菅氏に接近しすぎたためか、あるいは、そもそも考え方に親和性があったためか、菅氏に大いに入れ揚げました。
そして、東電逃亡撤退説や、海水注入東電説彼などを流布させ、それはたちまち反原発派の定説と化しました。

あげく、菅からリークされたと思われる「吉田調書」をネタ元とする、「所長命令に背いて所員は逃亡」という捏造スクープを放ち、朝日を社長謝罪の窮地に追い込んだことは、記憶に新しいことです。 
朝日特有の「角度」をつけすぎたようです。

では、船橋洋一氏『カウントダウン・メルトダウン』と、木村英昭氏『官邸100時間』をソースにして、以後の状況を再現します。

Yjimagehtu4e3x1  国会証言する武黒フェロー。彼は菅氏の圧力に全面屈伏して、吉田所長に注水を止めるように指示してしまった。           

官邸・武黒から吉田所長への携帯電話  
2011年3月12日午後7時過ぎ。官邸から携帯で吉田に電話。
武黒「おまえ、海水注入は」
吉田「やってますよ」
武黒「えっ、おいおい、やってんのか、止めろ」
吉田「なんでですか」
武黒「おまえ、うるせぇ。官邸がグジグジ言ってだよ」
吉田「何言ってんですか」(電話を切る) 

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国会証言では紳士的な口調で、冷静に語る武黒氏を知る者にとっては、仰天するような乱暴な調子です。 
もちろん、同じ東電内部の会話で、しかも上司・部下の関係ですからわからないではありませんが、いかに武黒氏が動転しパワハラまがいを働いていたのかわかります。
武黒氏は、もはや原発事故に立ち向かう技術者としてではなく、ただの菅氏のご機嫌を取り結ぼうとする道化と化してしまっていたのです。 
斑目氏に次いで、、余りにも無残なテクノクラートの姿がそこにあります。 
事故に当たったっての彼らの素人政治家への屈伏は、日本の原子力安全文化の最終的崩壊を示すものでした。 

海水注水を止められて驚愕した吉田所長は、テレビ電話で清水正孝社長に直訴します。

Av01c0o清水社長。福島事故において、「嵐になれば現場にみんな駆けつける」モットーは守られなかった。

吉田 テレビ会議で本店の武藤副社長に海水注入の必要を訴える。
東電本店「官邸の了解が得られていない以上、いったん中断もやむをえない」
・吉田、納得せず
東電清水社長「今はまだダメなんです。政府の承認が出てないんです。それまでは中断するしかないんです」
・吉田「わかりました」

 

O0480036012226679272         (※テレビ会議画像 http://matome.naver.jp/odai/2134425146053938201

吉田氏は、政府事故調への証言の中でこう述べています。 

「指揮系統がもうグチャグチャだ。これではダメだ。最後は自分の判断でやるしかない」
(政府事故調)

この吉田氏の決意こそが、この事故における「灰の中のダイヤモンド」でした。
本来最前線で戦う吉田氏をサポートすべき政府官邸、保安院、東電本店はことごとく将棋倒しのように倒壊し、彼の敵と化していたのです。
そして吉田昌郎と69名の人々、後に外国メディアから「フクシマ・フィフテーン」と称賛された現場職員と、現場支援で駆けつけた自衛隊、警察などの現場力の肩に、日本の命運は託されていたのです。

さて、武黒フェローから、電話で注水停止命令が来た直後、吉田はそれを「分かりました」と切った後に、清水社長からも同様の停止命令が下ります。
吉田は、テレビ電話に聞こえるように大きな声で、制御室にいた所員全員にこう言い渡しました。


「海水注入に関しては、官邸からコメントがあった。一時中断する」

そして、テレビカメラに背を見せて注水担当に対して、こうしっかりと指示を出します。


「本店から海水注入を中断するように言って来るかもしれない。しかし、そのまま海水注水を続けろ。本店が言ってきたときは、おれも中断を指示するが、しかし絶対に水を止めるな。わかったな」   

抗命です。組織社会においては、厳罰を以て処分されるべきことには違いません。
しかし、吉田の指示こそが正しく、この指示がなければ、東日本は長きに渡ってノーマンズランドを強いられたはずです。

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 東電の事故直後の2011年5月26日の東電プレスリリースはこう記述しています。


<3月12日の主要な時系列>
(略)
18:05頃  国から海水注入に関する指示を受ける
19:04頃  海水注入を開始
19:06頃  海水注入を開始した旨を原子力安全・保安院へ連絡
19:25頃  当社の官邸派遣者からの状況判断として「官邸では海水注入について
首相の了解が得られていない」との連絡が本店本部、発電所にあり、      本店本部、発電所で協議の結果、いったん注入を停止することとした。
しかし、発電所長の判断で海水注入を継続。(注)

(注) 関係者ヒアリングの結果、19:25頃の海水注入の停止について、発電所長の判断(事故の進展を防止するためには、原子炉への注水の継続が何より
も重要)により、実際には停止は行われず、注水が継続していたことが判明しました。

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出典不明

以上でお分かりのように、狭い意味で、吉田所長に注水停止を「命じた」のは東電本店から官邸に派遣された武黒フェローであり、彼からの「吉田は頑として言うことを聞かず注水を継続している」という報告に動転した、東電本社の清水社長でした。 
しかしそれは、この状況の流れを見ればわかるとおり、武黒フェローに強要したのが誰だったのか、ということです。 
それは、周囲の保安院の専門家に、「お前、水素爆発はないと言ったじゃないか」と不信を募らせていた人物。
安全委員会の斑目委員長の、「今、水を入れなきゃいけないんです。海水で炉を水没させましょう」という提案を、海水だから再臨界を迎えるという間違った素人考えで、「もっと検討しろ」と、議論を断ち切ったまま退出してしまった人物。 
東電・武黒フェローをして吉田所長に電話させ、「まだ注入しているのか、止めろ!」と言わしめた人物。  
そして東電清水社長から吉田所長に、「官邸の了解が得られていない」と言わせた人物。 
そう、それは菅直人内閣総理大臣閣下、その人でした。

彼の犯した失敗の本質は、海水注入停止命令を出したか出さないか、という具体事象だけの問題ではなく、むしろ緊急対応時の指揮権を私的に掌握してしまったことにあります。 
首相はただの対策本部長であっていわば調整役にすぎません。
事故対応の現場指揮に介入する権限はなかったのです。
つまり、菅氏の言う、「注水停止を命令させたのは武黒と清水だ」という主張は、「嘘は言っていないが、かといって、ほんとうのことは何ひとつ言っていない」という虫のいいものにすきません。 

むしろ問題は菅氏批判にとどまらず、このような素人に最高指揮権の私的掌握を許す余地がある原子力安全政策そのものでした。 
この反省から事故後は、現場指揮権は規制委員会に一元化されています。

Photo

さて吉田所長の最期に残された遺言とも言うべきビデオメッセージがあります。
この直後、吉田はまるで戦死するかのように死去しています。
やや長文ですが、一部を引用させていただきます。

「覚悟というほどの覚悟があったかはよくわからないが、結局、我々が離れてしまって注水ができなくなってしまうということは、もっとひどく放射能漏れになる。そうすると5、6号機はプラントはなんとか安定しているが、人もいなくなると結局あそこもメルト(ダウン)するというか、燃料が溶けることになる。 

そのまま放っておくと、もっと放射能も出る。福島第2原発も一生懸命、プラントを安定化させたが、あそこにも人が近づけなくなるかもしれない。そうなると非常に大惨事になる。そこまで考えれば、当然のことながら逃げられない。 
そんな中で大変な放射能、放射線がある中で、現場に何回も行ってくれた同僚たちがいるが、私が何をしたというよりも彼らが一生懸命やってくれて、私はただ見てただけの話だ。私は何もしていない。実際ああやって現場に行ってくれた同僚一人一人は、本当にありがたい。 

私自身が免震重要棟にずっと座っているのが仕事で、現場に行けていない。いろいろな指示の中で本当にあとから現場に話を聞くと大変だったなと思うが、(部下は)そこに飛び込んでいってくれた。本当に飛び込んでいってくれた連中がたくさんいる。私が昔から読んでいる法華経の中に地面から菩薩(ぼさつ)がわいてくるというところがあるが、そんなイメージがすさまじい地獄のような状態で感じた。

現場に行って、(免震重要棟に)上がってきてヘロヘロになって寝ていない、食事も十分ではない、体力的に限界という中で、現場に行って上がってまた現場に行こうとしている連中がたくさんいた。それを見た時にこの人たちのために何かできることを私はしなければならないと思った。そういう人たちがいたから、(第1原発の収束について)このレベルまでもっていけたと私は思っている」

吉田昌郎とは、このように心の深い人でした。
同じ時代を生きた私が英雄と呼べた数少ないひとりです。
合掌。

 

 

2023年9月12日 (火)

放射能パニックは原発事故直後の情報発信の失敗により起きた

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福島事故当時、政権にいた民主党は、あらゆる局面で失敗を繰り返していました。 
ズブの素人である菅氏が、原子力事故の現場指揮に介入し、海水の注入を止めるように「命じた」かと思えば、避難指示は猫の目のように変わり、逃げた先のほうがより線量が高かったりする悲劇が頻発しました。
一方、女房役の枝野官房長官は、伝えるべきSPEEDIによる放射性物質拡散情報を隠蔽したうえに、「直ちに健康被害を及ぼすものではない」という言い方を再三にわたってテレビで繰り返しました。 

当時、枝野氏による「直ちに健康被害を及ぼすものではない」という台詞を、テレビで毎日のように聞かされたものです。
絶句する表現です。 おおよそ専門知識を持った人間が言うことはではありません。

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このように政府から言われれば、国民は「そうか、時間が立つと放射能の毒が拡がって、病気になるのだな」と、晩発性障害の可能性があると政府が言ったと受け取ります。 
実際に、多くの国民がそう理解して、東日本の食品を拒否し、ミネラルウォーターや西日本の農産品に走りました。 
そして、終わることのない数年間に及ぶ「風評被害」が始まるのです。
きっかけを作ったのは、この「今は問題ないが、後になったら知らないぞ」といわんばかりの枝野氏の言葉でした。

もっとも重度の放射能バニックに罹った人たちの中からは、自主避難者がでます。

・県外自主避難者数・・・23,000名(約半数)
・県内自主避難者数・・・18,000名(避難区域でない市町村からの避難者数)
・計      ・・・約41,000名

以後3年間もの長き間、東日本の住民は無明地獄をさまよい続けることになります。

これは事故後のリスクコミュニケーションの問題としてとらえ返されるべきです。 

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                    『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』

ここにひとつの原発事故を総括した、優れた報告書があります。 
スウェーデン政府はチェルノブイリ事故発生直後の1年間の社会的混乱を総括して、一冊の報告書にまとめました。
これは、スウエーデンの防衛研究所、農業庁、スウェーデン農業大学、食品庁、放射線安全庁が1997年から2000年までに行った合同プロジェクトで、「どのように放射能汚染から食料を守るか」という報告書にまとめ上げられています。 
『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』(合同出版)という邦訳もあります。 

この報告書の完成は、事故後10年まで待たねばなりませんでしたが、その報告の範囲は食料だけにとどまらず実に広範で、事故対応、放射能規制、広報のあり方、食品規制、農業対応、そして防衛研究にまで及ぶものです。 
わが国の事故調が技術的解明に終始し、一部においては「だから日本人は」というような安直な文明批評に陥ったことと較べると、その徹底した総括に対する態度に感銘を覚えます。 

これを手にしてみると、スウェーデンでも事故直後、多くの問題が発生していたことがわかります。
チェルノブイリ事故以後、北欧は深刻な放射能汚染にさらされました。  

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 チェルノブイリ事故だのヨーロッパのセシウム137分布図
(ネーチャー誌2011) 

スウェーデンは、事故後の風向きの下流に位置したために、スウェーデンの一部は、福島における40㎞地帯に相当する被曝を受けました。
また、放射性物質を吸着しやすいキノコ類や、またトナカイやヘラジカを好んで食べる食習慣があったことも、より問題を複雑にしました。 
スウェーデン政府は率直に、この社会的混乱の原因を分析しようと試みています。 

■スウェーデンの原発事故処理の教訓1 
バニックは事故直後の情報発信の失敗により起きる  

実は、スウェーデンも事故発生直後の1年間は、日本と変わらない社会混乱が起きていました。これについてスウエーデンは、一冊の報告書を政府が発行しています。 

報告書冒頭でスウェーデン当局は、このようにみずからの対応の失敗を省みています。


「チェルノブイリ原発事故によって被災した直後のスウェーデンにおける行政当局の対応は、『情報をめぐる大混乱』として後々まで揶揄されるものでした。(略)
行政当局は、ときに、国民に不安をあたえることを危惧して、情報発信を躊躇する場合があります。
しかし、各種の研究報告によれば、通常、情報発信によってパニックの発生を恐れる根拠は無く、むしろ、多くの場合、十分に情報が得られないことが大きな不安を呼び起こすのです。とりわけ、情報の意図的な隠蔽は、行政当局に対する信頼を致命的に低下させかねません。(略)
行政当局が十分な理由を説明することなく新しい通達を出したり、基準値を変更したりすれば、人々は混乱してしまいます」
(『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』)

このようにスウェーデン政府は、情報の隠蔽と二転三転する説明こそが、国民に混乱を与える最大の原因だとしています。 
スウエーデン政府が自戒を込めて、ここで「行政当局はときに国民に不安を与えることを危惧して、情報発信を躊躇する場合がある」と述べていることに注目してください。 
このような大事故の場合、政府の危機管理能力を簡単に超えてしまうことが往々にあります。 
というか、チェルノブイリや福島第1クラスの原子力事故では、対応マニュアルを超えて当然なのです。

リスク・コミュニケーションの失敗です。わが国も取り返しのつかない失敗をしていることは記憶に新しいことです。
わが国の2011年に起きたことを思いつくままに挙げてみましょう。

①メルトダウンを否定するなどの事故状況の隠蔽
②放射性物質拡散状況(SPEEDI)情報、「最悪シナリオ」の隠蔽
③避難地域の二転三転。当該自治体への連絡の不備
④食品規制の朝令暮改
⑤「今直ちに健康被害はない」という政府発表が食品による晩発障害を示唆
⑥汚染マップ作成の遅滞
⑦工程表と冷温停止宣言の欺瞞 

まだまだありますが、スウエーデンでも同種のことが起きたことを深刻に総括しています。
原子力事故対策において、最初のボタンである汚染の拡大状況、事故状況、食品規制の三つのボタンをかけ間違えれば、それは「政府情報を一切信じない」、「まだなにか隠しているに違いない」という国民の不信に直結します。 

■スウェーデンの教訓2 農業対策をしっかり立てて農家と消費者に伝える 

国土の放射能汚染は、農業生産の危機に繋がります。スウェーデンにおいても農産物生産-流通で深刻な混乱があったことを認めています。
第3章 「放射性降下物の影響」では、農作物への影響が記述されています。
放射性物質にある地域の土壌や水が汚染された場合、地域の農作物に影響がでます。 
これが食品を通しての二次汚染に連鎖していくことをスウェーデンの例を通して説明しています。 
これは、政府が明確な食品規制の考え方を農家と消費者双方に説明しないと、かえって混乱を増幅する可能性があることを示しています。 
たった3回の会議で農業側の意見を聞き取りせずに決めた食品新基準値づくりなどは、まさにこの轍を踏んでいることになります。 

また、スウェーデンでは移行係数を消費者にも明示して、わかりやすく農産物への放射能移行を説明しています。 
これも、ただやみくもにゼロベクレルを要求する消費者の流れに対して考えさせられるものがあります。 

■スウエーデンの教訓3 食品検査は過剰でも過少でもいけない 

第2章「 放射線と放射性下降物」では健康への説明と、スウェーデンの2000年時点での検査体制が説明されています。 
ある意味、意外な感がしたのは、スウェーデンでは、牧草、野菜、肉などの農作物は、サンプリング検査しか行われていません。
かなりはっきりとした調子で、全量検査体制をすることは無駄だと言い切っています。 
それは、検査費用が膨大になって農産物価格にしわ寄せされてしまうこと、農家の負担が大きすぎ続かないこと、そしてなによりそれに見合った効果がないということのようです。 

この時に、政府は国民や民間企業の協力なくして収拾することは不可能です。そしてこの協力を得る近道は正しい情報の発信です。 
いかなる事態が起きて、今どのような状況なのかについて、隠し立てすることなく、明解に意思疎通すべきです。
何をあたりまえなことを、と思われるかもしれませんが、現実に多くの企業や行政が、大規模な事故においてやりがちなことは、この「情報隠し」なのです。
今起きている事故の状況で手一杯なのに、正しい情報なんか与えればいっそうこの混乱が広がてしまうと考えて腰が引け、いつしか出しそびれてしまい、隠蔽してしまい、週刊誌などにスッパ抜かれてさらに政府の信頼を傷つけるというパターンです。

当時、わが国の政府が最初に国民に伝えるべきは、いうまでもなく危険情報の基本中の基本である放射性物質拡散図でした。
これはSPEEDI情報として、官邸は持っていました。
しかし官邸はこれを握りつぶしてしいまいます。

Photoスピリッツ 右ページが早川マップ

そしてその後、火山学者の早川由紀夫が、上図の不正確な拡散シミュレーション図を週刊現代に暴露することで、いっそうパニックに輪をかけてしまうことになります。
この早川はカルト的デマッターに「成長」していきますが、当初このようなセンセーショナルな登場をしたために、多くの信奉者が多く出ました。
上の画像は事故から既に2年以上たった時期に出たおなじみの『美味しんぼ・福島の真実』のひとこまですが、この時期には政府の詳細な拡散図がでているにもかかわらず、雁屋はあいかわらず早川マップを使用しています。
いかに早川が、反原発運動に強い影響を与えたのかわかるでしょう。
かくして、火山ガスのシミュレーションにを使っただけの杜撰なもので、一切の計測をしていないこの早川マップによって事態は鎮静化するどころか、いっそう拡がっていくことになります。

そもそもこんな基本的情報は政府が直ちに発表するのかあたりまえなのです。
カルト学者が週刊誌にリークしてしまうこと自体が、度し難い政府の無能ぶりと国民に対する愚民視を表しています。 

スウェーデン政府は三つの情報は正確に直ちに伝達すべきだとしています。


①汚染の拡大状況
②事故状況
③食品規制

政府が、この三つのリスク・コミュニケーションに失敗すると、国民は「政府情報を一切信じない」、「まだなにか隠しているに違いない」という根深い不信感に直結していくことになります。 
そして以後、政府がなにを言おうと信じようとせずに、ネット空間の情報や週刊誌、テレビからのバイアスのかかった情報だけを信じる層が生まれてしまうことになります。

そして基準づくりについてもこのように述べています。

■スウエーデンの教訓4 事故直後は緊急の防護基準を作り、徐々に強化していく 

チェルノブイリ事故によって、スウェーデンにおいても食品をめぐる動揺が社会的に拡がりました。 
第4章「食品からの内部被ばくを防ぐ有効な対策」では、スウェーデン政府の放射能食品安全基準と、家庭の安全対策を紹介しています。
スウェーデンでは、事故前まで1mSv(ミリシーベルト)の射線量の防護基準を採用していましたが、事故直後からの1年間は5mSvの被曝も許容しました。

これは事故直後において、いきなり平時の放射線防護基準を適用することが不可能であり、無理にそうすることによる社会的な摩擦のほうが大きいと考えるからです。いわば緊急時基準です。
これは空間線量や食品基準値に適用されますが、このとき政府の説明がいいかげんだとかえって混乱を深めてしまいます。

■スウエーデンの教訓5 緊急時基準の引き上げの説明に失敗すると社会的混乱を招く

わが国においては、暫定規制値がこのスウェーデンの1986年基準値に相当するわけですが、満足な説明もなくそれを出したために、「輸入食品基準値よりなぜ高いのか、こんなものを食べて大丈夫なのか」、などの憤激の声が多く国民から上がりました。
そしてさらにアホな政府が「レントゲン1回分より低い」などという次元の違う比喩を使ったために、多くの消費者が東日本の農産物の買い控えに走りました。

一方日本では、福島事故直後に年間被曝基準を1mSvから20mSvに引き上げました。
まさにスウエーデンが言っていることの逆をやらかしたのです。
緊急時においては緊急時基準ということを説明して、平時基準を下げねばならないのです。
そしてまとめとしてこのように整理しています。

■スウェーデン政府の放射能対策一般原則 
➊現行法や国際的な取り決めに反した対策は行わない。
❷急性の深刻な健康被害を防ぐために、あらゆる努力を行う。
❸対策は正当性のあるものでなければならない。
➍講じる対策は、なるべく良い効果をもたらすように最適化する。
➎対策の柔軟性が制約されたり、今後の行動が制約されることはできるだけ避けるべきである。
❻経済的に費用が高くなりすぎない限り、農作物・畜産物は生産段階で汚染対策を行う。
❼一般的に大規模な投資の必要がない汚染対策を実行すべきである。

日本においても平易に書かれたこのような本を作るべきでしょう。
なんなら、スイスの『民間防衛』のように各家庭に一冊配布してもいいくらいです。

 

2023年9月11日 (月)

自主避難というディストピアを自ら選んだ人たち

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日本はサッカーもラグビーもツヨイ!

さて、原発事故で自主避難者たちが各地で訴訟を起こしました。
左翼政党の支援をもらって訴訟団を結成し、一部では勝訴したようです。

「東京電力福島第1原発事故を受け、福島県などから京都府への自主避難者ら57世帯174人が国と東電に計約8億5000万円の損害賠償を求めた訴訟で、京都地裁は15日、国と東電の責任を認めるとともに、自主避難については新たな基準を示した上で、避難を相当と認め、賠償するよう命じました。
原発避難者の集団訴訟は全国で約30件。国の責任を認めたのは、昨年3月の前橋地裁、同10月の福島地裁判決に続いて3件目。関西での判決は初となります。 」
(しんぶん赤旗 2018年3月31日)

この訴訟団には、福島県内ならいざ知らず、神奈川、東京などの人も含まれていているそうです。
賠償額はおおよそ平均数百万から1500万円で、本来彼らが受け取るべき補償額の一部だとのことです。
つまりは、こんなものはごく一部で新たに新法を作って自主避難者に政府が設けた避難区域の避難者ベースの補償金を寄越せということのようです。

これを初めに聞いた時、神奈川だということに脱力しました。
神奈川で逃げたんだったら、福島の隣のわが茨城県なんぞ全県丸ごと避難だ、とね。
その多くは四国、九州、沖縄に脱出しています。

20230910-090636

自主避難者の賠償認める―京都地裁、国の責任を三度断罪 | JCP京都: 日本共産党 京都府委員会 (jcp-kyoto.jp)

当時の私の取引先の担当者(それも2名!)は、仕事を辞めて家族で安全圏と見定めた地方に逃げています。
だいたいが奥さんの主導で、婦唱夫随のようです。
幸せに暮らしていればよいのですが。オーイ、どうしてるんだーい。

脱出など念頭になく、測定することで正しく脅威を知ることで放射能と戦っていた私なんぞ補償金など要求しようなどとは夢にも思いませんでした。
田畑、住居、森林、河川、湖沼、そして農産物などをことごとく計測して、脱出の必要がないことはを確信していたからです。
家屋はドブや雨樋まで測りました。こういう下水系は放射性物質がたまりやすいのです。
それを知っているグリーンピースなどは、福島で計測するときは必ず側溝で計っているくらいです。

しかし当時いくら私が声を枯らして、説得しても彼女たちは聞く耳を持たなかったことでしょう。
なんせ彼女たちの恐怖の対象は、前回にも登場した「低線量被曝による多臓器障害」という悪質なデマだったからです。
ほんの少しの放射線も許さないのですから、理性的議論が成立しません。

なるほど当時、私たちの頭上を2011年3月15日、22日に通過した放射能雲は、いかなる飛散をして、どこにどれだけ降下したかさえ分かりませんでした。 
事故当時私は野外にいました。おそらく目に見えない禍々しい雲が影のように過ぎ去っていったことでしょう。 
過ぎ去った視線の先には松戸、柏、東葛地域があり、そこで雨が降ったのです。大量の放射性物質と共に。
しかし、当時の私はもちろん、国民の誰ひとりそれを知りませんでした。
その理由は、政府の許すべからざるSPEED((緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム )情報の隠ぺいにあります。
いや、隠蔽ではなく、その価値を官邸の誰も知らなかったのです。
後の調査報告で、官邸には着信しても、ほったらかしになっていたとか。
本来、現場指揮をとるべき原子力安全委員会が、半ば狂人と化したカン首相のパワハラで機能不全になっていたためです。

その時、私たち自主測定運動にかかわった者たちを駆り立てたのは、消費者や監督官庁であるはずがない。 
自分の家族を守ること。自分の地域を自分で守ること、ただそれだけです。 
だから私たちは、「政治」に期待することなく、自分たちで大学の研究室の扉を叩き、教えを乞い、大学教員と共に地域の農家有志と共に自主的測定運動をしたのです。 
風評被害で潰れかかった自分の農業経営もそっちのけにしたために、後からえらい目に合いましたが(苦笑)。

なぜ私たちが自主的にならざるをえなかったのでしょうか。それは端的に、自治体を含めて「政治」があまりにも無能だったからです。 
地元自治体は県の指示待ち、県は国の指示待ち、そして国家官僚は「政治主導」の号令の下で去勢されていました。
あの2011年3月下旬に、東日本で測定車を走らせてリアルタイム線量を記録していたのは米海軍しかいなかったのです。そして福島第1を上空から撮影したのもまた米軍でした。 
地元自治体や地元農業団体の多くは、なまじ独自測定して高線量が出たら大変なことになると及び腰となり、県は国の指示待ち、その国は政府の指示待ちですから話になりません。 
そして政府はカン暴風雨で崩壊していました。

国民に正しい情報を的確に与えないと、非常時にどうなるか肝に命じましょう。
国民は政府の公の情報を信じなくなり、閉ざされたSNSのサークルの情報だけを信じるようになります。
そしてこの放射能系SNSはありとあらゆるデマのごみ箱でした。
いわく、「福島県警の警察官3名が急性白血病で死亡」「福島の妊婦、7人中5人がダウン症や奇形児、流産の恐怖」「秋田で震災がれき作業員7人が死亡:放射能被曝で」「福島で新生児7人中5人がダウン症や奇形児」「地井武男さん死去は散歩で放射性物質吸いすぎたかから」などなど。まさにカルト。
これをモロに信じた人たちが自主避難者の群れとなりました。

この人らが逃げ出した、当時の神奈川の線量を見てみましょう。

・神奈川県の2011年6月18日午前9時~19日午前9時まで

                      ・・・0.056マイクロシーベルト
・同  事故後の最大値            ・・・0.069

こんな線量では、いかなる障害も人体には及ぼしません。
にもかかわらずパニックになって石垣島まで飛行機で逃げたとすれば、石垣島まで飛行機で約2時間かかるとして11.6マイクロシーベルトの線量を浴びることになります。
神奈川でジッとしていればいいのに、脱出したおかげでいっぺんにその200倍も浴びることになったのです。
ちなみこの航空機の飛行中の放射線量は、飛行機のクルーの要請で計測されたものですが、年がら年中飛行している彼らに特にガンが多いというデータはありません。

では、福島事故から半年後の2011年9月の東日本の放射線量を振り返ってみましょう。

●東北、関東の空間放射線量(2011年9月4日午前9時~5日午前9時)
・福島県浪江(避難区域)         ・・・15.5マイクロシーベルト
・福島県福島市             ・・・1.2
・茨城県            ・・・0.083
・千葉県              ・・0.043
・東京都              ・・0.056
・神奈川県            ・・・0.049 

ここまでが、福島と南方にあたる関東の数値です。
東京、神奈川に行くと、福島より100分の1にまで放射線量が下がることが分かります。
では、福島県の北方にあたる東北各県はどうでしょうか。 

・宮城県           ・・・0.061
・岩手県           ・・・0.023 

比較のために大阪の空間線量はといえば

大阪府           ・・・0.076マイクロシーベルト 

面白いことには、大阪市は東北より高いのです。
大阪市民の皆さん、自主避難しなくていいんでしょうか。
ついでにもうひとつ。日本の農水産品を放射能が危ないと言って輸入禁止にした韓国・ソウルの線量をは東京の倍です。

・ソウル           ・・・0.14

大阪とソウルが高いのは原発事故とは無関係で、地盤に花崗岩が多くあるからで、ウランやトリチウムも多く含まれています。
ちなみに花崗岩、つまり御影石でできた国会議事堂外壁をシンチエーション・サーベイメータで測ると0.29マイクロシーベルトあります。
地表から1メートルで0.18μSvです。 
福島市庁舎前地表1mで.0.17μSvですから、それより高い線量だといえるわけです。
おいおい、国会は福島現地より線量が高いのですか。
通年国会などという提案があるようですが、その場合の年間放射線量がどうなるかといえば、1年換算にするには「8.766」という係数をかけます。
すると、累計で2..54ミリシーベルト(mSv)となってしまいます。
タイヘンだぁ、1ミリシーベルトの除染基準の2倍だぁ。国会を除染しなくっちゃ! 
山本太郎サン、いいんですか、大阪で10円ハゲができたなら、議事堂にいたらツルッパゲになりまっせ。(笑)

そのため、花崗岩が広く分布している西日本では大地放射線が多く検出されますが、人体には無害です。
大阪を中心として、後に震災瓦礫ハンタイ闘争なるトンデモ紛争が勃発するのですが、あんたら自分の地域の放射線量知ってやってんですか、と思いましたね。
改めて言う必要もありませんが、福島県をのぞいては、事故後半年で通常の空間線量に戻っています。

もっともこう書いたところで、自主避難に走った人たちは、バンダジェスフスキーやトンデルの「低線量内部被曝で心筋梗塞になったり、小児ガンになる」という俗説を妄信しているのですから、どんな低くてもダメなんでしょうが。
避難区域を除いてまったく避難する必要はありません。
自主避難は、まったく必要がないのにデマに乗せられて避難したにすぎないのです。

こんな自主避難まで補償をする法律ができれば、首都圏、東北の数千万人規模の住民すべてに適用せねばなりません。
そうしなければ悪平等だからです。
そりゃそうでしょう。勝手に自主避難したことによる精神的苦痛があるなら、逃げなかったことによる「精神的苦痛」だってあるわけですからね。
たとえばかく言う私のように馬鹿な煽動には踊らされず、「被曝」地に踏みとどまって放射能の計測を続け、放射能と戦う活動をした者たちの「精神的苦痛」などはどうカウントすればいいのでしょうか。
故郷や地域の仲間をさっさと捨てて、逃げる必要がまったくないのに遠く九州、沖縄まで逃避して家庭崩壊したのが賠償対象になるなら、はるかに「危険」な場所で持ちこたえて戦った私たちはどうなるんですかね。
必要がないパニックになった者には現金補償、留まって戦った者はにはナンもなし。へ~、たいしたもんだ。

少なくとも私は金で報われようとは思いません。住んでいる地域を微力でも守れたことの充足感だけで充分です。
だから、逃げた連中が金を要求する精神が分かりません。身勝手に逃げておいて金をくれ、冗談じゃない!これが「残った」私たちの本音です。
この人たちは単に武田邦彦などの悪質なデマッターに騙されて、不必要な避難を自己選択したにすぎません。

石垣島へ逃げた自主避難者歌人俵万智氏の一句。
「子を連れて 西へ西へと 逃げてゆく 愚かな母と 言うならば言え」(俵万智)

そのとおり。
あなたは自分で地獄をえらんだのです。しかも家族を巻き込んで。

 

2023年9月10日 (日)

日曜写真館 こんとんと秋は夜と日がわれに来る

 

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影の木に影の蛇巻く秋は来にけり 高柳重信

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月は秋は物思へとの何んのかの 道立

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水を行く秋は命の数を書き 津根元潮

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ものゝ音秋は露さへしぐるゝか 加舎白雄

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秋はれたあら鬼貫の夕べやな 広瀬惟然

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秋はいま露おく草の花ざかり 飯田蛇笏

 


今日は奇怪な蘭ばかりを集めました。
華麗にして清楚なものも蘭、これも蘭です。
俳句のほうは秋で選びましたが、苦し紛れですので、ご容赦。

2023年9月 9日 (土)

1ミリシーベルト除染という愚行


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1ミリシーベルト除染という愚行がありました。
過剰な除染活動は、住民の帰還を大幅に遅らせ、避難地域を著しく荒廃させました。

ではなぜ、「1ミリシーベルト」なのでしょうか。
これは民主党政権時に定めた規制値でした。
この背景には、当時世間を覆っていた放射能への過剰反応による、「1ベクレルでも低線量被曝して多臓器疾患を起こす」「事故前はゼロだったんだからゼロに戻せ」というような脱原発派の「民意」がありました。 
これにおびえたのが当時の民主党政権でした。民主党政府は、事故収束に失敗しただけではなく、情報を隠匿したり、朝令暮改の発表をしたあげくリスクコミュニケーションに失敗しました。

その結果、国民にいらぬ動揺を与えてしまい、生み出されたのが「ゼロベクレル主義」と私が呼んでいる過剰に放射能の被害を恐怖する心身症でした。
首都圏を中心としてあらゆる地域に子供を持つ若い母親たちのサークルができます。

シーベルトは、外部被曝や内部被曝で実際に人体が影響を受ける放射線量を表す単位として、「1時間あたり1ミリシーベルト」のような形で用います。
ベクレルは本来持っている放射線量の量であることに対して、シーベルトはそれかどれだけ人体に影響のあるのかを示した数値を表しています。
「1ミリシーベルト」は1シーベルトの1000分の1です。 

ではこの1シーベルトはどのていどに危険な数値かといえば、急性被曝による吐き気などの症状がではじめる数値です。
この倍の2シーベルトになると、5割の人が死亡します。
下の『美味しんぼ・福島の真実』で、あの雄山が「福島から逃げろ」とトンデモを言っていますが、確かに2シーベルト以上なら正しいのですが、あいにく単位はその1000分の1でした。

Photo

スピリッツ

雄山こと雁屋哲が「放射線の知見はない」と言っていますが、ないどころかこれほどハッキリと知見がある分野は珍しいほどです。
それはともかく、逆に半分の500ミリシーベルトでは、リンパ球の減少が見られ、100ミリシーベルトあたりからグラデーションのように、喫煙・暴飲暴食などの生活習慣による健康被害と混じり合って、これが放射能被害だと言えなくなります。 
放射線防護ではこの100ミリシーベルト以下を、「わからなく」なるが、「ないともいえない」ということで、そのまま「いちおうあるかもね」ていどのニュアンスで考えています。 

というのは、100ミリシーベルト以上までは、鉄板の臨床記録があるのです。 
放射能障害が分かっているというのは、悲しいことですが、わが国は広島・長崎の被爆という悲劇を通じて大規模疫学調査である寿命調査(LSS・Life Span Study)がなされたからです。 
これはいわば被曝の巨大データ・バンクで、責任ある広島大学医学部研究機関による、実に20万人以上の、しかも40年間という被曝者の終生に渡る追跡調査です。
これは被爆者手帳によって、その方が亡くなられるまで健康状況を追跡したもので、世界でこれを凌ぐ疫学記録は存在しません。 

この広島・長崎LSSの調査の結果、以下のような放射能の影響があることがわかっています。   
障害は被曝後数週間で発生する急性障害と、数か月から数十年の潜伏期間を経て発症する後障害(晩発障害)に分けられます。  

これは受けた放射線量によります。


100ミリシーベルト           ・・・・吐き気、倦怠感、リンパ球の激減
250ミリシーベルト以下        ・・・・臨床症状が出ないが、後障害
250ミリシーベルトを短時間に受けた場合・・・・早期に影響が出る
500ミリシーベルト           ・・・・リンパ球の一時的減少
1500ミリシーベルト    ・・・・半数の人が放射線宿酔(頭痛、吐き気など)
2000ミリシーベルト          ・・・・長期的なは血球の減少(白血病)
3000ミリシーベルト          ・・・・一時的な脱毛
4000ミリシーベルト          ・・・・30日以内に半数の人が死亡
(「放射能と人体」1999年による) 

広島・長崎では500ミリシーベルト以上被曝した場合、その線量によってガン発生率が増大することがわかっています。  
1時間に年間許容限度の放射能を浴びてしまうと、人体はDNA損傷を修復できなくなってしまいます。それがガンなどの原因になる可能性があります。

またもや『美味しんぼ』で恐縮ですが、福島で山岡こと雁屋氏は「たまらない倦怠と鼻血が出た」といっていましたが、これは100ミリシーベルト以上を一気に浴びた急性被曝症状です。
ホントなら、雁屋氏はとっくに死んでいるか、高い確率でガンを発症したはずです。
雁屋氏が死んだとか、ガンになったという噂は聞かないので、こういう類の話は、世間では「幽霊は見たがる人にのみに見える」と言っています。

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スピリッツ

放射線はその量と時間によって、大量に一時期に被曝すれば活性酸素を発生させてDNAに損傷を与えます。 
逆に言えば、少量の放射線を浴びても、人体はよくできているもので、切断されたDNAを自己修復してしまいます。
これをグラフで表したのが、福島事故以来一躍有名になったLNT仮説(閾値なし仮説・Linear-No-Threshold )というものです。 

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100ミリシーベルト(mSv)以上の被曝についてはAのライン(赤実線)のように、被曝線量に比例して発がん率が上昇しました。 
ここまでは、さきほどお話したように広島・長崎の鉄板記録があって『美味しんぼ』のようなヨタ話ではなく事実です。 
しかし、100ミリシーベルト以下については、疫学データーが存在ません。 
しかし、リスク評価としては「ないとも言い切れない」ということで、この部分をグラフで点線で描いていますが、「100ミリシーベルト以下も線量に比例する」と叫びたい人たちは、実線で書いています。 

しかし、立ち止まって考えてみましょう。
放射性物質という目に見えない無味無臭の物質だから恐怖心が募りますが、これがアルコールだったらどうでしょうか。 
アルコールによる健康被害をこのLNT仮説に置き換えると血中アルコール濃度が0.4%を越えると、約50%が死亡するから0.04%を越えると、約5%が死亡する恐れがあるということになります。
0.04%とは、ビール1本分ていどです。

わきゃないでしょう。だって常識的に考えて、大量摂取すれば危険ですが、少量摂取すれば百薬の長になるかもしれないわけです。
ちなみに酒には強い弱いの体質がありますが、放射能に強い体質などはありません。
ただし、80ミリシーベルトあたりで逆に健康になるという、眉唾なホルミシス効果説もあります。
ラドン温泉などの薬効というやつですね。ただし、科学的に解明されておらず、いまのところは異端の説となっています。

このLNT仮説の危なさは、このような大量摂取した時の危険性を、そのまま比例して見積もったことにあります。
ただし、ビール1本をゲコが宴会で、無理やり一気飲みさせられたというケースもあることを考えて、ICRP(国際放射線防護委員会)は、このLNT仮説を否定していません。

おそらく現実にはあえて100ミリシーベルト以下を書くとすると、開米瑞浩氏によればこんな感じではないかとのことです。

Photo_2

開米瑞浩氏 による

■参考資料 LNT理論に関する論争 原子力技術研究所 放射線安全研究センター
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/20080604.html

しかし、この科学者がデータがないから「わからない」と言っていることを逆手にとって、「わからないから判明していないだけで、ほんとうは危ないのだ」という人がゴッソリ発生しました。
科学者が言う「わからない」は、一般人が使う「わからない」とは意味が違います。
先ほど漫画の中で雄山は、「知見がないことはわからないことだ」なんてバカを言っていますが、知見はありますが、疫学的に他の健康障害の中に紛れ込んでしまっているから「わからない」のです。
したがって、1ミリシーベルトていどの低線量被曝の健康被害は、「疫学データがないために科学的根拠がない」という意味てのです。

ではまったく低線量被曝の疫学データが「ない」のかといえば、そんなことはありません。
南相馬病院の坪倉正治医師と、東京大学の早野龍五氏によるホールボディカウンター(WBC)の測定と分析結果かあります。
南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです。

この調査の時にも実は4名の高齢者が1万ベクレルという高い線量を持っていました。この原因もわかっています。
この方たちは、避難区域の原木からとったキノコ類を食べていたということです。
キノコ類はもっとも後まで放射能が測定されたものです。

なお、このキノコによる放射性物質の過剰摂取は、ベラルーシでも観測されています。
ベラルーシで長年被曝に対しての研究と指導を続けている、ベルラルド放射能安全研究所のウラジミール・バベンコ氏は、「基準値の100~200倍あった」と話しています。
おそらくこの被曝原因物質が、乾燥きのこだとすると、25万bqから50万bqという気が遠くなるような線量です。これを5bqですら恐怖する方々はなんと評するでしょうか。

このきのこ類による子供たちの被曝は深刻でした。下図がベラルーシ児童の被曝数グラフです。

075_2

ベルラルド放射能安全研究所による

これを見ると、白くハイライトした部分が飛び抜けて高いのが分かります。
2003年11月、2004年11月、2006年11月・・・すべて秋のきのこ収穫期にあたっています。
特にきのこに大きく食生活を依存する貧しい家庭では小児ガンなどが多発したようです。

秋のきのこを食べたこと、これがベラルーシの児童被曝が今に至るも続く最大の原因です。
このベラルーシ特有の原因を押えることなく、「ベラルーシでは、事故後10年、25年経つ今でも小児ガンなどが発症している」ということを平気で書く人がいるので困ります。

では福島に戻って、事故後の子供の被曝状況はどうでしょうか。
坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)
6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。

基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。
子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。

「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、排出されるのも早いです」

このように福島事故の後も、放射能による有意な健康障害は確認されていません。
1ミリシーベルトという民主党の規制値がいかに現実ばなれしているか、おわかりになったでしょうか。
民主党政権は原発事故終息に失敗し、その反動で起きた国民の放射能パニックを、本来ならば正しい情報を与えて、「冷静になれ」とクルーダウンすべきなのを、逆に煽ってしまったのです。

 

 

 

 

2023年9月 8日 (金)

繰り返される小児甲状腺ガンデマ

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去年、TBS報道特集が炎上しました。

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福島在住の林智浩氏は、報道特集の問題点をこう要約しています。

「1)国際的なコンセンサス、科学的知見や事実に真っ向から反している
2)この問題を議論する上で必要不可欠な先行研究や専門家・当事者を無視したり、恣意的な切り貼りをしている
3)被害当事者の救済と被害拡大抑制に逆行する
まず最初に、1)について。番組で金平茂紀キャスターは「それまでの平和な日常が、ある日突然破壊されるのは今のウクライナのような何も戦争だけではない。11年前の東電福島第一原発事故による放射線被曝。福島県で暮らしていた子供たちがその後、甲状腺がんで苦しんでいる」と語った。
番組中でも「原発事故と甲状腺がん 関係は?」とテロップを付けつつ「原発事故がなければ私は癌には絶対ならなかった」という、不正確な発言を肯定的に流していたのだ」
TBS報道特集「原発事故と甲状腺がん」炎上問題、偏向報道の代償はどこに降りかかるのか(林 智裕) | 現代ビジネス | 講談社(2/5) (gendai.media) 

番組中でも裏取りを一切けせず、先行する研究成果をまったく無視して、「原発事故と甲状腺がん 関係は?」とテロップを付けつつ「原発事故がなければ私はガンには絶対ならなかった」という、訴訟団体の発言を一方的に流していました。
林氏も福島事故を肌で知っているひとりとして、こういう懲りることなく繰り返される左翼メディアの「報道」の名で行われるプロパガンダ宣伝こそが福島をさらに深く傷つけ、復興を遅らせていることにに対する怒りがあったと思います。

福島の甲状腺がんについては、科学的にすでに完全に決着がついています。

「「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」は2013年に福島第一原発事故の報告書を公表し、その後も、新たに発表された論文や調査結果を反映した白書を、2015、2016、2017年と3回公開してきた。2021年3月には事実上の結論となる報告書を公開したが、その内容は次の2点に大きく集約される。
【 福島第一原発事故後、福島の住民に放射線被ばくによる健康影響は見られていない。将来的にも予想されない 】
【 原発事故後の福島で行われている甲状腺検査(原発事故当時18歳以下だった子どもや若者を対象にした甲状腺がんスクリーニング検査)で見つかった多数のがんについては、過剰診断(検査で見つからなければ一生症状を出したり死亡につながったりしなかったがんを見つけてしまうこと)が起きている可能性がある 】
なおUNSCEARは公平な立場を担保するため2020/2021年報告は、日本人は補助的な役割に徹し、主たる執筆には関わっていない。利害関係のない他国の科学者=第三者の考えに基づいて書かれている」
(林前掲)

一般の日本人は、権威ある国連の科学者集団である国連科学委員会が、「放射線被ばくによる健康被害はない」とする報告を知らないでしょう。

保守系新聞以外、まったく報道されていないからです。
福島原発事故で放射線被ばくの影響があったかどうかは極めて重要な関心事のはずですが、メディアは「影響があった」という危険な話なら大々的に報じても「影響がない」報告は無視してきました。
露骨に福島にとって「悪いニュース」のみを取り上げ、「いいニュース」は載せないという姿勢は、事故以来意12年間不変でした。


東京新聞は、国連科学委員会の報告書はスルーしたまま、2022年8月21日に福島県いわき市で開かれた意見交換会の模様を報じましたが、特定の反原発の研究者らの意見だけを取り上げて、国連科学委員会の報告書や大部分の研究者の意見は頭から無視しました。
まるで国連科学委員会などこの世になかったかのようにです。

そして彼らは福島で甲状腺ガンが増えていると唱え、「被ばくを過小評価している。国連科学委員会の報告書には誤ったグラフやデータが複数ある。科学的な報告書とは程遠い」と書き立てました。
また甲状腺がんを発症した患者の声として、「報告書の結論は、(甲状腺がんを発症した)患者や家族への差別や偏見を助長しかねない。初期被ばく線量の十分なデータがない中、因果関係がないと決めつけられ、苦しい」と批判的に報じています。

今回の海洋放出でも、「結局うそをつかれた」と叫ぶいわき市の漁師新妻竹彦氏のみを登場させています。
いまやメディアに頻繁に登場する漁師は、この「有名な」新妻氏くらいです。
辺野古地区の大部分の住民のことは一行も報ぜず、外からデモにだけやって来る反対派だけを報じて「現地の怒りの声を聞け」と書いているようなものです。
彼ら左翼メディアは、こういう極端に偏った報道姿勢を「被害者の苦しみや苦悩に寄り添っている」と美化して、ナルシズムに耽っています。
自らは絶対に追及されない安全地帯で高給を食みながら、「常に弱者に寄り添う良心的ジャーナリスト」という仮面をかぶって説教を垂れていられるのですから、まことにいい商売です。

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さて福島県で、小児甲状腺ガンが「激増」していると言う者がいます。
確かに福島県の小児甲状腺ガンは、数値上は「増えて」います。
福島島県の県民健康調査では、事故発生時に18歳以下の37万人を定期的に調査していますが、受診した約30万中86人で甲状腺ガンが見つかっています。「疑い」を含めると109人になるそうです。

こういうことが発表されると、必ず反原発原理主義者の人達は、お約束でなぜか嬉しげに「福島はガンだらけになっている。政府はもっと悪いデータを隠しているんだ。福島はもう人間が住めない。逃げろ!」と絶叫します。
こういう人達に、落ち着いてこの数値を考えてみたら、といっても無駄です。もはや一種の「信仰」と化してしまっていているからです。
さきほどの約30万人中86人という数値が、福島第1の事故と関係あるのならば、その事故時の被曝線量と相関関係していなければなりません。
被曝線量が高ければ、沢山ガンが発症し、少なければ発症が少ない、という関係が成り立ちます。
あたりまえですよね。相関関係が認められれば、このガンは原発事故が原因なのです。

避難区域、浜通り地方(いわき市)、中通り地方(福島市)では、いずれも35人で推移しています。
はい、このとおり相関関係はありません。増えたというのは、検診の頻度が増えた為にすぎず、専門医が「自然発生型」に分類するタイプです。
これは、原発事故とは関係なく、成人になってからも発症する可能性があったものが、早期に「発見」されてしまっただけのものです。
事故後の過剰なスクリーニングのために、通常ならわからなかったものまであぶりだされた結果です。

たとえば、小児甲状腺ガンが「激増」していると言う者がいます。確かに福島県の小児甲状腺ガンは、数値上は「増えて」います。
これは、福島のガンのタイプの遺伝子変異のタイプを見ると裏付けられます。
チェルノブイリでは小児癌が多発しましたが、その遺伝子タイプと、この福島の検診で見つかったガンの遺伝子タイプに相似性があれば、原発事故との関連が疑われるからです。

調査した福島医科大学は、検診で見つかったガンは、大人の甲状腺ガンと同じタイプだと結論づけました。
つまり、自然発生型なのです。

甲状腺がんは、若い世代に多いのが特徴です。高校生くらいでも見つかるのは珍しくありません。
年寄りには、検診すればほぼ全員がなんらかの甲状腺ガンを持っているといわれますし、別に手術して取り除かなくてもいい自然快癒するケースが大部分です。
むしろ慌てて切除すると、以後一生甲状腺ホルモンを飲む必要が出てしまいますから、医師は切らないで、自然消滅を待つ選択をすることも多いそうです。
ちなみに、韓国は、日本の農水産品を輸入禁止にしていますが、自分の国では1993年から2011年までに甲状腺ガン患者が15倍に激増しています(笑)。
ひと頃ネットでは、韓国のケンチャナヨ原発がとうとうボンっといっていたのを隠していたからかと騒がれました。
そうであっても、ちっとも不思議じゃないのですが、そうではなくて、原因は韓国で予算がついたので検診回数と調査母集団を増えたからにすぎません。
福島と同じ構造です。
ね、このように統計数字というのは、その背景を知らないと、印象操作の道具になってしまうという一例です。

小児ガンの5年後生存率は100%です。
膵臓ガンの生存率が2%なのに対して、いかに大騒ぎする必要がないガンなのか分かりますね。
福島県は県民健康調査で、2011年から3年間の新生児の先天性奇形やダウン症、早産、低体重を調査しましたが、全国の発生率と変わりがありませんでした。

同じく、県内の地域ごとのばらつきもありませんでした。
もし放射能の影響ならば、事故の影響がなかった会津地域と中通り地域が同じはずがないのです。

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..                        (図 東海村ガン検診資料)

 

放射能によるガンは、4年から5年以上たたないと発生が見られません。
もちろんそのような有為な小児甲状腺ガンの増加は見られませんでした。

つまり、福島の小児甲状腺ガン増加というのは、事故前まで通常の地域と同じていどの検査しかしなかった福島県で、事故後の不安にこたえて徹底的な検査をしたために増加したように見えた幻影にすぎませんでした。
検査数自体のケタがちがうのですから当然です。
それを国連科学委員会が、あえて客観性を保つため日本人を含まず膨大なデーターを徹底検証し、何回かに渡る報告書にまとめあげて「増加の事実はない」と結論づけたのでした。

このようなことを一切無視して、事故後10年たって「増加している」と騒いだのが報道特集だったのです。

 

 

 

2023年9月 7日 (木)

リアルな自然の仕組みを知らない人たち

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忌まわしい2011年夏、私がやっていたのは、自分の住む地域の森林、河川や湖沼の放射能測定でした。
風評に対しては、データーを積みあげるしかないからです。

結果としては大いに勉強になりましたが、風評を流す手合いには馬の耳に念仏、カエルのツラになんとやら。
そんな客観データなんか見向きもしないで、「東日本は全滅だぁ。40万人死ぬぞ。奇形児が出たぁ」ですもんね(苦笑)。
それも関西方面が特にひどく、「被曝」していない地域のくせに騒ぐ、騒ぐ。もうマスヒステリー。
震災瓦礫からの放射能で鼻血が出た、ハゲになったと言っていましが、鼻血が出たり頭髪が抜けるのは急性被曝の症状ですから、今、生きているのかな、この人ら。

放射線被曝による鼻血の発症は、日本保健物理学会の『専門家が答える 暮らしの放射線Q&A』 によれば、1000ミリシーベルト以上の放射線を、一度に浴びたことによる骨髄障害による血小板減少が原因です。

「福島第1原発事故による被曝の実態が明らかになりつつありますが、どんなに過大に見積もっても、お子さんにこれほど高い被曝を受けたとはかんがえられません。
今回の事故による被曝は、身体の一部に限定したものではなく、全身被曝です。
放射能の影響だとすれば症状が鼻血だけに限定されることはなく、そもそも、全身が数千ミリシーベルトの被曝を受けています。
その場合、生死に関わる様々な症状が現れます。そしてお子さんだけではなく、大人にも症状が出るはずです。
今回の福島事故の放射線量では、どんなに過大に見積もってもありえません」
(日本保健物理学会の『専門家が答える 暮らしの放射線Q&A』)

さて大物デマッターの雁屋哲は『美味しんぼ』の中で、福島大学の現役教員である荒木田岳氏に、河川から海に放射能汚染が拡がるということを言わしています。
河川を除染しろとか、海に出るの阻止しろとか言っていますが、実際に河川や海の放射能汚染は当時どうだったのでしょうか。

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スピリッツ『福島の真実』

たしかに当時、その危険性は唱えられていたんです。
ならば、実測せにやわからんということで、霞ヶ浦の環境保全に関わる団体や地元大学の専門家と共に霞ヶ浦や付近の河川や水田などを実測調査したことがあります。
その結果は詳細な報告書にまとめてありますので、よろしかったらご覧ください。

霞ヶ浦放射能汚染の実態その1  河川流域が短いほど汚染濃度が高い: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com) 6回連載

実測してわかったのは、河川で有意な放射線量が測定されたのは事故直後だけで、それは静かに移動して湖や海に流出していたのです。
では、荒木田氏のいうように、「河川を除染して海に拡がるのを阻止する」必要があるのでしょうか。
ありません。それは水系の仕組みをみれば理解できます。
荒木田氏などが考えているように山や街に降った放射性物質が、一気に河川を経て海に流れ込むわけではないのです。
山に降った放射能は、水田に流れ込み、用水路を経て河川に流れ込みます。
その過程のひとつひとつで放射能は減衰していくからです。

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座間市HPより

順を追ってご説明していきます。
できるだけ専門用語を使わずに、図表を使って平明に解説します。
荒木田氏は「いくら街を除染しても、すぐに山から汚染水が流れてくる」と言っていましたが、山は除染作業ができないので放射能の供給源さえと思われていました。
荒木田氏のように怯えているだけじゃ話にならぬと考えた研究者たちによって、山系に降った放射能汚染の実態調査がなされました。
もっとも多く放射性物質の降下があった阿武隈山系に分け入り、樹木や地層を丁寧に調べたのです。

まずは、もっとも初期の11年9月には、福島県山木屋地区標高600mの福島第1原発側斜面で、新潟大学・野中昌法教授が行なった土壌に対するセシウムの沈着状況の計測結果が存在します。

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『放射能に克つ農の営み-ふくしまから希望の復興へ』より 

すると山の地層7センチまでに放射能がたい積していることがわかりました。


●山木の土壌の放射性物質分布
・A0層(0~7㎝)・・・・98.6%
・A1層(7~15㎝)・・1.4 (2011年9月測定) 

このように、放射性物質は微生物が分解中のその年の腐植層(A0層)に98.6%存在し、その下の落ち葉の分解が終了した最上部(A1層)には達していないことが分かりました。 
事故後、福島の山間部では、この森林に降下したセシウムが、A0層とA1層の間にある地中の水道(みずみち)を通って雪解け水となって流れ出していったと推測されます。 
セシウムは、葉と落ち葉に計71%が集中しており、それは地表下7㎝ていどに99%蓄積されていました。 
畑以上に表土に結着した量が多いようです。これは山の表土がトラップに有効な腐食土に覆われているためだと思われます。
言い換えれば、山は畑以上に有機質の腐葉土の固まりですから、トラップ力が強いようです。

さて、この山からの汚染水は谷津田を経て用水へ、用水から河川へと流れこみます。
では、この河の汚染状況はどうでしょうか。

Plaza阿賀野川 http://www.hrr.mlit.go.jp/agano/kangaeru/tushinbo/2009/places/06_g-agmzpl.html

これについても゛新潟県が2011年に調査したデータがあります。
http://www.pref.niigata.lg.jp/housyanoutaisaku/1339016506464.htmlリンク切れ
ほぼこの底土、護岸部分にトラップされたために水質自体の汚染は非常に低く、河口での線量は著しく減衰しているのがわかります。


阿賀野川放射性物質調査結果 2011年新潟県
1 阿賀野川の河川水
  5月29、30日に、上流~下流の7地点の橋で採取した河川水から、いずれも放射性セシウムは検出されませんでした
これまでの阿賀野川水系の淡水魚の測定結果
8魚種で検査を実施 不検出~49ベクレル/kg
2 阿賀野川の底質(泥等)(別紙1参照)
  5月29、30日に、上記7地点の橋から採取した川底の泥、砂等の10検体を分析し、最大68ベクレル/kg湿の放射性セシウムを検出しました。
3 阿賀野川岸辺の堆積物
  5月29日に、川岸3地点で試料を採取し分析したところ、中流の岸辺で表面から深さ30~40cmの層で採取したものから最大232ベクレル/kg湿の放射性セシウムを検出しました。

河川水からは検出されず、川土や川岸からのみ検出されています。
これはセシウムの特性が水に溶けにくい性格のためです。これは農水省飯館村除染実験時の調査記録にも記されています。

下の計測図を見ていただくと、表層の粘土がもっとも多くセシウムをトラップし、その下のシルト(粘土が混ざった層)はそれにつぎ、砂質になるとまったくといっていいほどトラップしなくなるのがわかります。

だから、セシウムは地表5㎝前後の部分に多くあったわけです。

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http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-09.pdf

この農水省飯館村除染報告書はこう述べています。


「放射性セシウムは農地土壌中の粘土粒子等と強く結合しており、容易に水に溶出しない。一方、ため池や用水等、水の汚染は軽微である。」

つまり、放射性物質は河川に流出したとしても、底土、岸が吸着してしまい、水に流れ込むのは少量なのです。
これが新潟県の阿賀野川の計測結果で水質汚染がなかった理由です。

これから分かることは今回のトリチウムも、放出された地点からそう拡散することなく、海底の泥や年度に吸着されることでしょう。
今後の福島沖の海底サンプリングをせねば決定的なことはいえませんが、太平洋全域に拡がる、などという中国の主張は科学的にありえないのです。

わが国でも、中国に加担するように一部の左翼政党やメディアは科学的事実をねじ曲げ、過度な恐怖を助長しようとしています。
彼らが口にするのは、いわく「漁業者の不安に寄り添いたい」、「政府は情報を公開しろ」などともっともらしいことを言っていますが、情報は完全に公開され、いつでも読むことが可能です。

「寄り添う」といいながら虚偽情報を拡散し、不安を煽るようなメディアや政党と、冷静な調査と分析に基づいた発言と、どちらがほんとうに「福島漁業者の味方」なのでしょうか。
日本人は2011年には風評に完敗しました。

しかし今回、日本人の大部分は極めて冷静です。

「東北の魚介類を売る最重要拠点といえる豊洲市場の東京魚市場卸協同組合は、「どこの海で取れた魚も公正に扱う。そこに風評は介入させない」「魚のプロである自分たちが被災3県の魚を積極的に売る姿を示し、消費者の不安を払拭する」と宣言してくれた。
大手スーパーや流通などの数社も放出開始直後、「科学的根拠に基づき、これまで通り福島産、三陸産の海産物を扱う」と表明。香港のすし店でも、「日本産の生の魚介類を食べることに不安はない」と、普段と変わらぬ長蛇の列ができた。福島県いわき市の「海の駅」の鮮魚コーナーは応援の言葉とともに売り上げが増え、同市へのふるさと納税額は急増しているという」
(鈴木英里9月6日)

心強いかぎりです。
真実でデマを囲い込んでいきましょう。

2023年9月 6日 (水)

最高裁判決下る、いつまでやっているゾンビー闘争

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辺野古訴訟で沖縄県の敗訴が確定しました。

「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、国が設計変更申請を承認するよう是正指示をしたことは違法だとして、沖縄県が指示の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が4日、最高裁第1小法廷であった。岡正晶裁判長は「申請を承認しない県の対応は違法だ」として、県の請求を棄却した福岡高裁那覇支部の判決を支持し、上告を棄却。県の敗訴が確定した。
(略)
同小法廷はまず、今回の承認手続きは、本来は国が行う事務を県が代わりに担う「法定受託事務」だと指摘。「都道府県の処分を取り消す裁決に従わないことが許されれば、紛争の迅速な解決が困難になる」と述べた。この事務で都道府県が裁決に従わなければ違法になるとの初判断を示し、国交相による国の是正指示は適法だと結論付けた。
 判決で県は変更申請を承認する義務を負ったが、移設阻止のため、従わない可能性もある。その場合、国は県に代わって変更申請を承認する「代執行」の手続きに入ることができる」
(読売9月5日)
普天間飛行場の辺野古移設巡る訴訟、沖縄県の敗訴確定…最高裁棄却で工事再開へ調整 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

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読売

特に驚くような要素はなにもありません。
すでに同種の訴訟を翁長前知事がやり、最高裁判決が下っています。

さてここで改めて、公水面埋め立て承認についての県の権限について押えておきます。
よく県には、公水面工事の承認の可否を決定する権限があるかのように地元紙が報道してきましたし、今回もデニー知事はこんなことを言っています。

「沖縄県の玉城デニー知事は4日、名護市辺野古の新基地建設に伴う設計変更の不承認をめぐる訴訟で、県の敗訴が同日確定したことを受けてコメントを明らかにし、「(最高裁判決は)地方公共団体の主体性や自立性、憲法が定める地方自治の本旨をないがしろにしかねないもので、深く憂慮せざるを得ない」と批判しました。県庁内で会見し発表しました」
「しんぶん赤旗9月5日)
辺野古 最高裁が不当判決/新基地断念求め続ける 「県民の意思変わらず」/デニー知事が会見 (jcp.or.jp)

なにが「地方自治の本旨をないがしろ」ですか。
もともとそんな権限を県が持っていないことは明白なのに、無理やり政治闘争をこじつけてきたのでしょう。
そもそも、最高裁判決が言うように、公水面埋め立て承認は、ないしはそれに付随する設計変更は、国から地方自治体に対する単なる委託業務でしかありません。
これを「法定受託事務」と呼びます。 


●法定受託事務
または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、国または都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法令で特に定めるものをいう」
法定受託事務 - Wikipedia

今回の辺野古埋め立てで沖縄県に与えられた権限は、国道の管理と並ぶ「第一号法定受託事務」に属します。 
簡単にいえば、「本来は国の仕事だが、あまり細かいので当該県に委託している」ていどの事務処理にすぎません。 
承認する権限はあくまでも国にあり、その一部の業務(事務)を県に代行させているのです。

ですから、国道の回収と一緒で、デニー知事が言うような「地方自治の本旨」などではまったくありません。
ただの国からの受任業務です。
本質的には、辺野古案件も国道の補修も地方自治法に鑑みれば同等です。

よく沖縄県が言うような、「辺野古移設の必要性・合理性との関係」など審査しろとは、ひとことも地方自治法は言っていません。
したがって、国は、自治体が違法な手続きをしたと考えれば、それを取り消すことも可能な権限を与えられています。 
それが地方自治法第245条にある、「是正の勧告と必要な措置」であり、さらには当該自治体に代わって代執行する権限すら与えています。


「●地方自治法第245条
ハ 是正の要求 普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害しているときに当該普通地方公共団体に対して行われる当該違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことの求めであつて、当該求めを受けた普通地方公共団体がその違反の是正又は改善のため必要な措置を講じなければならないものをいう。
ト 代執行(普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は当該普通地方公共団体がその事務の処理を怠つているときに、その是正のための措置を当該普通地方公共団体に代わつて行うことをいう」※http://www.houko.com/00/01/S22/067.HTM#s2.11.1.1

よく使われる県の「承認」と称されるものは幻想です。
県には承認の可否を行う裁量権そのものがないのです。
あくまでも国から業務の一部を代行しているにすぎず、したがって、法令の規定に県が違反した場合、国はその代執行まで含んだ、「是正、または改善のために必要な措置」を取れるのです。
今回もこのまま県が抵抗し続けるなら、代わって国が代執行をするはずです。
なぜなら、沖縄県が地方自治法を侵害しているからです。

よく地元2紙が叫ぶ「30万票」も「80%の反対アンケート」も、この承認事務手続には、影響を及ぼしません。
かつて2015年に「有識者会議」なるものを翁長知事が作りましたが、その中で審査に加わった県の担当職員は審問会でこう言っています。


「知事の政治的考えや選挙公約は審査の前提条件でもない。なぜなら審査基準にそういうものがないからだ」
(産経2015年7月20日)

政治的当否や選挙公約は審査基準にはないのです。
デニー知事はこんなことも言っています。

「玉城氏は、厳しい表情を浮かべて会見に臨んだ。「移設阻止を求める県民の意思は変わらない」と話し、公約で訴えた自らの政治姿勢に変わりはないと強調した」
(時事9月4日)
玉城氏、表情厳しく「対応検討」=宜野湾市長「判決尊重すべきだ」―辺野古訴訟|ニフティニュース (nifty.com)

「県民の意志」が変わろうと変わるまいと、法の立場は厳然としています。
デニー知事のやっていることは地方自治法違反であって最高裁判決が2本も出た今、法的に勝利する可能性はゼロです。
その頼みの「移設阻止を望む県民の意志」とやらも、いまや、オール沖縄からは財界人がとうに離れ、むき出しの左翼政党の運動と化して久しい状況です。

受託したわけでもない審査外のことを問われて、それこそが「地方自治の本旨」だとうそぶく、もはや滑稽であり醜悪です。
もうとっくに終わっていたことが、最高裁からあらためて念押しされたにすぎません。
何度やろうと、何百回繰り返そうと結論は変わりません。 デニー知事がすべきは、実効不可能なことを公約として当選したことを県民に率直に謝罪し、設計変更を承認した後に潔く辞任することだけです。

 

2023年9月 5日 (火)

小学4年の「希釈」を知らない大学教授

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宮台真司さんが炎上しているようです。
まぁ、こんな中学生レベルの動画をあげてれば、炎上するでしょうな。
典型的文科系お馬鹿さん。
東大卒ってこんなレベルなのね。

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この宮台氏という人は、山上某を持ち上げたところ、自分もテロで殉難するところだったというまことに天唾なお人です。
こんなバスクリン実験でなにがわかるんでしょう。
ホンキでバスクリン実験やるならこの人の家のユニットバスじゃなくて、霞ヶ浦6個くらいのサイズのお風呂に耳掻き一杯くらいを薄めてみて測定してみなけりゃ意味がありません。
結論は目に見えていますが、検出限界値のそのまた下の下、つまりなにも出ない。

いやあのバスクリン実験は我ら愚民にも分かりやすく「本質を概念化したもの」、いわばたとえ話ですと言いそうですが、そもそもこのヒト「本質」とやらがわかっておられないから困るのです。
この人の言いたいことは、いくらトリチウムを海水で希釈しても、トリチウムの総量は同じだから、希釈して放出しても欺瞞だということのようです。
要は、「トリチウムが魚の体内で生体濃縮される」ということを言いたいご様子で、だから「濃度じゃなくて総量だ」と言っているようです。
う~ん、そもそもこの人、「濃度」や「希釈」の意味がわかっていないんじゃないかな。

となると、そこからですかですが、私は親切なのでそこから行きましょう。
「希釈」は小学4年生の理科で習うそうですから、宮台さんはいったん小4に戻って下さい。

希釈とは「小学生でもわかる希釈の意味とは」によれば
希釈の意味とは?計算・倍率の簡単な考え方【小学生でも分かる】 (unchi-co.com)

希釈とは「あるもの」に「何らかのもの(一般的に水)」を加えることで
・薄める
・濃度や純度を下げる
・弱める

たとえばめんつゆを2倍の水で薄めるという時に、いやめんつゆの総量は変わらないのだから希釈なんかしても意味ないぜ、なんて言ったら辛いまま喰いなさいって話です。
放射性物質ならば水で薄めて「弱める」のです。

水で薄めれば、生物が利用できる量が減り、より適切な環境だといえるのです。
わかりきった話ですね。

だから福島の海洋放出基準がトリチウムをWTOの飲料水基準の7分の1未満まで薄める、ということに重みがあるのです。
問われているのは、あくまでも「濃度」であって「総量」なんかじゃありません。

この宮台氏の生体濃縮説については、まだ言ってる奴がいるよ、という類のレトロな議論で、とっくに12年前に論破されています。
結論、生体濃縮はしません。
それは実証的に証明されています。

復興庁のHPに載っています。

「トリチウムは、大部分が水の状態で存在し、水と同じように体外へ排出され、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています。
トリチウム水として体内に入った場合は、新陳代謝により10日程度、たんぱく質などの有機物に結合したトリチウム(有機結合型トリチウム)が体内に入った場合でも、多くは40日程度で、半分が排出され最終的にはすべてが排出されます」
復興庁FAQページ | トリチウムは魚に濃縮され、魚を食べると危険ではないのか? (reconstruction.go.jp)

トリチウムは要するに「水」です。厳密に言えば三重水素。
だからいかな優秀なALPSでも「水の中から水を抜く」ことができなかったのです。
弱いベーター線を発しますが、体内にはいると約10日間で体外に排泄されます。

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日本放射線影響学会 放射線災害対応委員会編「トリチウムによる健康影響」p.7

半分はオシッコで体外に出てしまいます。

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前掲

体内濃縮すると仰せですが、体内濃縮するにはタンパク質のような有機物と結合せねばなりませんが、あいにく有機結合型トリチウムも40日程度で排出されますから体内濃縮されることは限りなくゼロです。
実際に東電は、海洋生物を処理水の中で飼育してデーターを取っています。

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海洋生物の飼育試験 | 東京電力 (tepco.co.jp)

結果はわかりきったことですが、海洋生物の中では生体濃縮は起こりません。
宮台氏のような人は、こういうのを見ても、政府はなにか隠しているんだぁ、と思うんだろうな。
2011年夏には、政府がナニか隠しているぅ、という人がイナゴのように拙ブログに押し寄せましたっけね。
その人らに言わせると、フクシマ(なぜかあの人たちはカタカナ表記)では、「東北大学に被爆者が搬送されており、すでに700名近くが死亡」「東京都内の多くの病院に被爆者が隔離されている」悪いギャグのような風評がまことしやかに流されていました。

宮台さん、東電や福島県の迅速速報が信じられないならば、自分で福島沖に行って魚釣って毎月調査するか、対置できるオープンソースを持ってくるしかありません。
あなたの主張する、「汚染水」を薄めても総量は変わらないのだから、生体濃縮されるのだという仮説を立証するためにはバスクリン実験ではどーにもならんのですよ。
ここが言いっぱなしでオーケーの文系とは違うんです。
これは思考実験ではなく、現実のことで、漁民を初めとして多くの人が実生活で影響を被りますからね。
科学が科学たりえるためには、実証されねばなりません。
宮台氏が「海洋放出された汚染水は危険」という仮説を提起したいなら、実測データーを以て検証可能なことを立証しなければならないのですが、ポストモダンの宮台先生にはそこがわからないようです。

このバスクリン宮台のやっていることを聞いていると、1997年の年の瀬に起きたニューヨーク大学のアラ ン・ソーカルの「悪戯」を思い出してしまいました。
彼がしかけた「悪戯」は、『境界線を侵犯すること・量子引力の変形解釈学へ 向けて』という謎めいたタイトルをつけた、長大かつ難解な論文を書いて、当時大流行だったポスト・モダン思想と自然科学の領域においてまで 客観的な外界や普遍的な真実の存在を否定するというものでした。
要するに、いつも難解なことをダラダラともったいぶってしゃべっているポストモダンの学者さんたちに、知能テストをしかけたのです。

ソーカルはれっきとした物理学者でしたが、デタラメな知見をパッチワークして価値相対主義を「立証」してみせました。
いわく、「物理学的『現実』は社会的『現実』と同様に、基本的 に、言語学的・社会的構築物である」なんて、わざわざ物理学を少しでも知っていたら嘘八百とわかるようなことを、堂々と書いたのです。意地悪いね。
この内容たるや、物理の学部生でもすぐウソだとわかるような内容ことばかりでした。

今回のバスクリン実験みたいなもんね。
これがなんと、当時全盛だった宮台先生のようなポストモダン派が無検証に丸飲みしたたけではなく、科学の側からも価値相対主義が立証された、みたいな大喜びを演じるのです。
つまりポストモダン派は、このソーカルの知能テストに全員落第しちゃったんです。

後にソーカルはこの「悪戯」で意図したことをこう語っています。

「こうした批判の真意は、思想家が数学や物理学の用語をその意味を理解しないまま遊戯に興じるように使用していることへの批判だった 」
ソーカル事件 - Wikipedia

結局、ポストモダン派が生囓りの最新科学概念をひ けらかす衒学者であることが暴露されました。
ところが東洋の島国ではまだ生き延びていたんですな。
彼らの科学の、というか理科の知識はご覧のとおりのお粗末さでした。

9月3日現在の水産物迅速放射性物質データーは、毎日リアルタイムで水産庁がアップしています。

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水産物の放射性物質調査の結果について:水産庁 (maff.go.jp)

ご覧のように検出限界値以下です。

仮に海洋に広く散らばってしまったとしても、放射性物質は海底の泥や粘土の分子構造の中に封じ込めてしまいます。
それについては次回。

 

 

2023年9月 4日 (月)

ウクライナ軍、ザポリージャ戦線で前進

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ウクライナ軍がザポリージャ戦線で、ロシアの防衛線を突破したようです。

「ホワイトハウスで安全保障問題を担当するカービー報道官は1日「過去72時間にザポリージャ州で顕著な進展が見られた。彼らはロシア軍の第二防衛ラインに対して一定の成功を収めた」と明かし、匿名当局者による反攻作戦への批判についても「参考にならない」と述べて「この反攻作戦を客観的に観察する者ならウクライナ軍が前進したことを否定することは出来ないだろう」と主張した」
U.S. Sees ‘Notable Progress’ By Ukraine’s Forces In In South As Russian Missiles Hit Two Cities

ISW(国際戦争研究所)はこう述べています。

「ウクライナ軍は31月5日、ドネツク州バクムット近郊とザポリージャ州西部で反撃作戦を継続し、前線の両セクターで前進したと伝えられている。
ウクライナ軍参謀本部とウクライナ国防副大臣ハンナ・マリャルは、ウクライナ軍がバクムットとメリトポリ(ザポリージャ州西部)の方向で攻撃作戦を継続し、ザポリージャ州西部のノボダニフカ-ノヴォプロコピフカ(オリヒウの南13kmから1km)の方向に不特定の成功を収めたと報告した。マリャルはまた、ウクライナ軍がバクムット方向で不特定の成功を収めたと述べた
参謀本部ミサイル部隊および砲兵および無人システムの主要局長であるセルヒイ・バラノフ准将は、ウクライナ軍はロシア軍と対砲兵砲撃能力において同等に達したと述べた」
ウクライナ紛争の最新情報 |戦争研究所 (understandingwar.org)

この地点は「ベルベーヴ方向とノヴォプロコピフカ方向の前進」を指していると考えられています。
常に慎重な航空万能論氏もこのように述べています。

「もうベルベーヴ方向に2本設定された防衛ラインの1本目は部分的に破られている(もしくは機能していない)のは確実で、ロシア軍が投射火力量で押され始めたという話が本当に思えてくる。
複数の子弾を内包したクラスター砲弾は「1発で制圧できる地表の範囲」が単一弾頭の砲弾と比較して「5発分以上」と言われており、ウクライナ軍の砲兵部隊による面制圧の効率が向上していることも攻勢の勢いに関係しているのかもしれない。

因みにエストニア軍情報部のマルゴ・グロスベルグ大佐も「ウクライナ軍はロボーティネ周辺の防衛ラインに到達し、少なくとも1ヶ所で突破してベルベーヴ西郊外に到達した」と述べている」
カービー米報道官、ウクライナ軍がザポリージャ州で顕著な進展を見せた (grandfleet.info)


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カービー米報道官、ウクライナ軍がザポリージャ州で顕著な進展を見せた (grandfleet.info) 

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視覚映像でも、戦況図を徒歩で通過し、破壊されたロシア軍T-72戦車2両の横を妨げられることなく、南に向かうウクライナ軍兵士の様子が見られます。

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ロシアンラバーはいうに及ばず、西側メディアはこぞってウクライナ軍の「反撃作戦の失敗」を連呼しづけてきました。
いわく、「ウクライナ軍は大損害を出し撤退。西側供与兵器は役に立たず。ロシア軍のマニューバ防御が成功。ロシア軍強い。早く和平交渉をしろ」と、まぁこんな調子でした。
逆にお聞きしたい。
あなた方はウクライナ軍が西側の戦車を供与されたくらいで、航空支援がないところで一気にアゾフ海までロシア軍を押し戻し、南部とクリミアをつなぐ「ロシア回廊」を断ち切れるとでも思っていたんでしょうか。

渡部悦和元陸将が口酸っぱく言ってきているようにウクライナ軍が今ここでしているのは本格反攻のために、どこの防衛ラインがもっとも脆弱かを調べていたのです。

そのためには実際にウクライナ部隊を限定的に攻撃させる必要があったために、各地でロシア軍との小規模戦闘が始まりました。
これが本格攻撃ではなかったのは、9個の西側兵器で固められた最強部隊を投入しなかったことでもわかります。
これが過剰な期待をする西側メディアに、反攻が膠着状態に陥ったかに見えたのです。
                                                                         ※
しかし残念なことに、ウクライナ軍部隊は現代戦の常識である、航空優勢を獲得し、そのカバーの下での前進ができませんでした。
もしこれがウクライナ軍ではなく米軍なら、1週間ほど航空機で防衛陣地を叩きに叩いた後、近接航空支援つきで前進したはずです。
そんな贅沢はウクライナ軍には許されませんでした。

むき身の機甲部隊と歩兵で、強固に固められたロシア軍陣地に向けて前進するしかなかったのです。

なぜでしょうか。
その理由はひとえに米国の支援姿勢にあります。
バイデンは口では勇ましいことを言いつつ、実際には支援を逐次投入し続けたのです。
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NHK
150㎜砲を与えても、ハイマースは与えず、ようやく与えても射程300キロ以上のATACMS(エイタクムス )ミサイルは拒むという具合に、支援を小出しにしました。
地雷源破壊のためにクラスター弾を要求しても拒む。
言い方は悪いが、死なせぬように、生かさぬようにです。
その理由は、
ウクライナはNATOに加盟していないので、米国に防衛義務がないのだ、ということを平然と言っています。
ウクライナは再三再四にわたって加盟を申請しても却下されました。
却下理由は紛争国だからだと言うのですから、ふざけないでほしい。
クリミア侵略を傍観して、形ばかりの制裁でお茶を濁し、ウクライナを紛争当事国にしてしまったのはNATO各国の御身大事のせいではなかったのですか。

御身大事の欧米は、米軍やNATO軍の直接関与はおろか、ウクライナが本当に勝ってしまうような兵器は与えたくなかったのです。
ウクライナ軍がかくも勇敢に戦って持ちこたえなければ、その勇気が世界を感動させなければ。

米国の判断では、ここでウクライナがロシアに占領されようと、米国自身の安全保障に直結するものではない、という身勝手な見方があるのです。
これが自由主義陣営の盟主のとるべき態度かと思いますが現実はそうだった、いやいまでもそうなのです。


いやそれどころか、ロシアをここで刺激するとロシアとの軍事衝突を招く、それは第3次世界大戦につながりかねないことにばかりを心配していたのです。
ですから、ウクライナがどんなにウクライナ上空を飛行禁止区域とし、ロシアからの攻撃を禁じて欲しいと懇願してもまったく受け入れませんでした。
米国からすれば、飛行禁止措置を受け入れると米軍が戦闘当事者となってしまうからです。
F-16も射程300キロ以上のミサイルも与えなかった理由も一緒です。
供与すれば、ウクライナがクリミア半島まで解放してしまうからです。
未確認情報では、米国は先日、ウクライナにバーンズCIA長官を密使として送り、米国はクリミア半島までの奪還を望まない、クリミアの線で朝鮮半島型和平を築いたらどうかという提案をしたと言われています。
つまり2014年のクリミア侵攻後の線で和平交渉を結びたいということです。
おそらくバイデンは、ロシアと内々にそんなバックドアの交渉をしているのかもしれません。イヤーな気分にさせられます。

もちろんゼレンスキーは直ちに拒否したそうですが、米国の腹が分かります。

米国がこのような姿勢であるために、重要なゲームチェンジャーであるF-16に関しては、頑として供与を拒んだのです。
NATO諸国がいつでも供与可能だ、すぐにでもウクライナに送りたいと米国に要請しても、バイデンは拒否し、供与させませんでした。
米国製兵器は、他国に供与する場合、製造国の承認がいるからです。
ウクライナは去年から供与を求めていたのですが、ロシアとの直接対決を心配したバイデンが供与を拒否していたからです。

F-16を単体の航空機として考えないで下さい。
この機体は、米国製の各種ミサイルの発射プラットホームですから、機体がないとこれらは全部使用できないのです。
NATO諸国がいつでも供与可能だ、すぐにでもウクライナに送りたいと米国に要請しても、バイデンはにべもなく拒否してきたのです。
米国製兵器は、他国に供与する場合製造国の承認がいるからです。
ウクライナは去年から供与を求めていたのですが、ロシアとの直接対決を心配したバイデンが供与を拒否していたからです。
F-16を単体の航空機として考えないで下さい。
この機体は、米国製の各種ミサイルの発射プラットホームですから、機体がないとこれらは全部使用できないのです。
NATO諸国がいつでも供与可能だ、すぐにでもウクライナに送りたいと米国に要請しても、バイデンはにべもなく拒否してきたのです。

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「F16戦闘機」「長距離ミサイル」求めるウクライナ 欧米の対応は - 国際報道 2023 - NHK
米国製兵器は、他国に供与する場合製造国の承認がいるからです。
ウクライナは去年から供与を求めていたのですが、ロシアとの直接対決を心配したバイデンが供与を拒否していたからです。
ウクライナ戦争は「航空戦力で圧倒していたはずのロシア軍が航空優勢の確保に失敗した」という予想外の展開で推移しています。
これはウクライナ軍側の防空システムが適切な陣地転換を行いながら生き残り戦い続けたので、ロシア側は防空網制圧に失敗し、戦闘機が地対空ミサイルによって多数撃墜されて損害があまりに多くなり、脅威を避けるように活動が抑制された結果です。

戦闘機同士の空中戦によって勢力が拮抗したのではなく、互いの防空システムの地対空ミサイルが空を支配し田溜めに、共に航空優勢がとれないという奇妙な状況となったのです。ウクライナ空軍は、ロシア防空システムの脅威を避けるように飛ばざるを得ない状態で、ほとんど対地支援に活用できませんでした。
一方、ロシア軍は軽微な損害で、ウクライナの10倍といわれる航空機を残しながらも、対地支援はヘリに任せるありさまでした。

この隙間を埋めたのが、無人攻撃ドローンでした。
ウクライナ戦争は、正規の空軍同士の空中戦がないところで、無人攻撃ドローンがその代役をし、いまや「ドローン戦争」とまでいわれています。
もちろん限界がありますが、超安価な上に無人ですから膨大なドローンが使われました。

この状況では、戦闘機は防空システムの射程圏内ではレーダーに探知され難いように超低空を飛行することを強いられます。
高空を飛ぶ場合は防空システムの射程圏外からの攻撃(射程の長い空対地ミサイルや滑空爆弾によるスタンドオフ攻撃)によって発射母機の安全を確保して戦わなければなりません。
本来ならばF-35ステルス戦闘機を供与できればいいのでしょうが、落とされた場合の秘密の暴露を恐れて供与できず、大量に保有し、しかも豊富な対地攻撃オプションを持つF-16となったようです。

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ウクライナ軍は露戦闘機を55機撃墜、AGM-88投入で局地的な制空権も確保 (grandfleet.info)

F-16は、射程の長い空対地ミサイルや滑空爆弾によるスタンドオフ攻撃が可能です。
たとえば、ロシア軍は優秀な防空システムS-300、400を保有して、占領地域をカバーしています。

この防空網を潰すためには、対空ミサイルの出すレーダー波を追跡して破壊する対レーダーミサイル(anti-radiation missile、ARM)が必要ですが、発射母機すらないのですからお手上げでした。
対レーダーミサイル - Wikipedia

「敵の防空システムのレーダーを破壊すれば防空網の制圧となり、地対空ミサイルの脅威を排除できます。味方航空機が自由に行動できる道が開けて、戦局を打開できる可能性が見えてきます。敵防空システムを制圧し、敵航空機を味方の防空システムで牽制すれば、味方航空機による空爆を敢行しやすくなるでしょう」
ウクライナに対レーダーミサイルを供与したことが確定、ゲームチェンジャーとなる可能性(JSF)
去年8月、AGM-88対レーダーミサイルの破片が見つかり大騒ぎになりましたが、ウクライナ空軍が運用する旧ソ連機では使用できないはずなので、謎を呼んでいました。
ウクライナ得意の魔改造で使用したのでしょうが、いずれにしても全面的に使用するためには数が決定的に足りません。
しびれを切らしたゼレンスキーがG7でバイデンを捕まえて直接談判してやっと腰が上がりましたが、それでもパイロット訓練には通常では1年かかります。
侵略初期に供与を決断していれば、まったく戦況全体が違ったでしょうに。
ウクライナ軍総司令官・ヴァレニー・ザルジニー将軍は静かな怒りを込めてこう述べています。
「ザルジニーは、彼の最大の西側支援者は制空戦闘機なしで攻撃を開始することは決してないだろうが、ウクライナはまだ近代的な戦闘機を受け取っていないが、占領中のロシア人から領土を急速に取り戻すことが期待されている。
つい最近約束されたアメリカ製のF-16の供与は、最良のシナリオでも秋まで到着する可能性は低いだろう。
ウクライナ軍は限られた資源のために、ロシアから時々10倍に撃たれている」
ヴァレリー・ザルジニーは、砲弾、飛行機、そして忍耐を望んでいます-ワシントンポスト

こういうバイデンの決断の遅さと鈍さが、ウクライナ軍の損害を大きくしているのです。
また米国が実はウクライナの勝利を臨んでいない、ウクライナ支援から手を引きたがっている、というロシアンラバーの風評が出てくる元となるのです。

とまれ、航空優勢なきところでウクライナ軍は地道に前進し、ザポリージャでようやく突破の一点を見いだしたようです。

 

 

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乗り物ニュース
ウクライナに平和と独立を!

2023年9月 3日 (日)

日曜写真館 名を知らぬ晩夏の花たてまつる

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あひびきす晩夏の草に胸没し 伊丹三樹彦

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どれも口美し晩夏のジャズ一団 金子兜太

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晩夏なり鳥獣疎み無為無策 金子兜太

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ひとすぢの晩夏のひかり扉を細め 野見山朱鳥

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逃れえずここも鏡に晩夏の日 野澤節子 

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晩夏とてありやうや脱ぎすてしもの 細見綾子

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晩夏光シャワーに集ふ少年たち 草間時彦

 

 

 

2023年9月 2日 (土)

海洋放出を国際法で読む

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中国は、海洋放出を国際紛争にしたいようです。
日本がこれしか現実的方法がないのだ、などといっても国際関係では無意味です。
当該国の必然など誰も聞いていないからです。
こういう時は、この海洋放出を国際法に照らしてみましょう。
日本は国際法に忠実に海洋放出したことがわかるはずです。

海洋放出関連の国際法は三つあります。

●海洋放出について定めた国際法

海洋法に関する国際連合条約
海洋法に関する国際連合条約 (doshisha.ac.jp)
いわゆる国際海洋法と呼ばれるもので、これが基本となっています。
1972年ロンドン条約
ロンドン条約及びロンドン議定書|外務省 (mofa.go.jp)
「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」
1996年ロンドン議定書

「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」
a.pdf (mofa.go.jp)

ただし、①は一般的な海洋全般を取り扱っており、②は③へとバージョンアップされていますから、事実上③の1996年ロンドン議定書が当該の国際法となります。

●主要な規制事項
(ア)廃棄物その他の物の船舶からの海洋投棄を禁止。

(注3):しゅんせつ物,下水汚泥,魚類残さ,船舶・プラットフォーム,不活性な地質学的無機物質,天然起源の有機物質等
(イ)附属書Iに掲げる廃棄物その他の物の投棄は,附属書II(廃棄物評価枠組み(Waste Assessment Framework)といわれるもの)に基づく許可を必要とする。
(ウ)廃棄物その他の物の海洋における焼却を禁止。
(エ)内水における議定書の規定の適用または内水における効果的な許可及び規制のための措置をとることを義務づける。
(オ)予防的取組の適用及び汚染者負担原則の促進について規定。

つまり、議定書によれば、廃棄物は船舶や航空機から投機してはならないということです。
ですから、コメンテーターの処理水をマンンモスタンカーに乗せて日本周辺に分散して捨てろという思いつきは議定書違反となります。
あくまでも地上からの投機に限定されます。
また廃棄物については「廃棄物評価枠組み」に準じた評価が要求されます。

72年議定書は放射性廃棄物全般の投機を禁じていましたが、96年議定書は廃棄物評価枠組みに基づいて投棄の基準を定めています。
今回のトリチウム海洋放出の場合、審査とモニタリング機関はIAEAです。
審査の結果、「国際原子力機関によって定義され、かつ、締約国によって採択され僅少レベル」だと認められています。

「一般 WAG(廃棄物評価枠組み )の手続の要点
附属書Ⅰの品目に合致し、海洋投棄せざるを得ない廃棄物であって、その量が最小化できているものについて、潜在的影響の評価を行い、その結果が適切であれば個別の許可を発給する。また、投棄後の監視(モニタリング)の実施についても規定がある」
今後の廃棄物の海洋投入処分等の在り方について(案) (env.go.jp)

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今後の廃棄物の海洋投入処分等の在り方について(案) (env.go.jp)

ロンドン議定書の「廃棄物評価枠組み」によって、IAEAの評価が必要となりました。
IAEAは長期間かけて検証した結果、今年7月、「ALPS処理水の海洋放出は、「国際安全基準に合致」し、「人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである」という報告書を公表しました。

「IAEAは原子力分野について専門的な知識を持った権威ある国連の関連機関(安全基準を策定・適用する権限を保有)であり、専門的な立場から第三者としてレビュー(検証)を実施
○レビューの結果として、ALPS処理水の海洋放出は、「国際安全基準に合致」し、「人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである」といった結論が盛り込まれた包括報告書を本年7月4日に公表
○IAEAは、放出前のレビューだけではなく、放出中・放出後についても長年にわたってALPS処理水の海洋放出の安全性確保にコミット
○グロッシーIAEA事務局長は「この包括報告書は、国際社会に対し、処理水放出についての科学的知識を明確にした」、「処理水の最後の1滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる」とコメント」
IAEAがALPS処理水海洋放出の安全性を確認|ALPS処理水(METI/経済産業省)

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IAEAがALPS処理水海洋放出の安全性を確認|ALPS処理水

日本は、このような国際法と国際機関の審査の段階を踏んで海洋放出をしているのです
同様のロンドン議定書を遵守して、IAEAの査察と指示に従って世界各国の主要原発もトリチウムを海洋放出しています。

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100193104.pdf (emb-japan.go.jp)

上図によれば

・フランス・ラ・アーグ再処理施設・・・  1京1460兆㏃(液11400+気60) 2018年
・カナダ・ブルースA,B原発       ・・・1750兆㏃(液756+気994) 2018年
・英国セラフィールド再処理施設    ・・・  479兆㏃(液423+気56) 2019年
・カナダピッカリング1-4原発   ・・・ 440兆㏃(液140+気300) 2015年
・カナダ・ダーリントン原発        ・・・ 430兆㏃(液220+気210) 2018年
・英国・ヘイシャムB原発(英国) ・・・398兆㏃(液396+気2.1) 2019年
・ルーマニア・チェルナヴォーダ1原発・・・ 292兆㏃(液140+気152) 2018年
・中国・泰山第三原発                ・・・238兆㏃(液124+気114) 2019年
・中国・紅沿河原発      ・・・(液体:87兆Bq+気体:1.9兆Bq ) 2019年
・中国・寧徳原発       ・・・(液体:98兆Bq+気体:1.0兆Bq)2019年
・中国・陽江原発       ・・・(液体:107兆Bq+気体:1.2兆Bq)2019年
・韓国・月城原発                       ・・・ 141兆㏃(液31+気110) 2019年
・韓国・古里原発(韓国)・・・(液体:91兆Bq+気体:23兆Bq)2019年

世界各国が日本の海洋放出について批判できないのは自らもこれだけ出しているからです。
みずからもしていることで、他国を批判することはフツーやらないんですがね。
その世界唯一の国が中国でした。おっと、ロシアもいたっけか。

 

2023年9月 1日 (金)

岸田氏、二階氏に訪中要請だとさ

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岸田氏が二階氏に訪中を要請し、国交の正常化を依頼したとか。
ほんとうなら、アジャパー。

岸田総理大臣は30日、自民党本部で二階元幹事長と会談し、中国が反発している福島第一原発処理水海洋放出を念頭に、事態打開に向けて二階氏に中国訪問を要請したことがテレビ東京の取材で分かりました。
関係者によりますと、会談で岸田総理は「中国側と話せるのは二階元幹事長しかいない。ぜひ中国を訪問してほしい」と要請したということです。二階氏は中国との間に独自の人脈を持つことで知られ、安倍政権においても数千人規模の民間人らを伴って中国を訪問して習近平国家主席ら要人と会談を重ね、政府間の関係正常化を後押ししました」
(テレ東8月30日)
(【独自】岸田総理が二階氏に訪中要請(テレ東BIZ) - Yahoo!ニュース 

岸田氏は堂々と海洋放出をしたゾと胸を張っていましたが、日本人学校に卵を投げ入れる、無言電話をかけてくる、中国外交部がくだらん抗議をしてくる、そして海産物の全面禁輸といった反撃に遭遇し、たちまち白旗を上げてしまったようです。
おいおい岸田さん、こんなモンはほんのジャブですぜ。
いままでオージーや台湾はどれだけの「制裁」を食らってきてもめげなかったか、知りなさい。

オージーが、コロナの発生源について厳しく中国に問い詰めたことに怒った中国は、銅や石炭、ワイン、小麦などに禁輸をしてきました。
しかし毅然として一歩も譲らなかったオージーに屈する形で、中国は禁輸解除しています。

「習近平国家主席は石炭を巡る対立に終止符を打つことで、経済成長よりも政治的イデオロギーや支配を優先してきた政策に柔軟性を持たせていることを印象付けた。この対立は、オーストラリアが新型コロナウイルスの起源調査を求めたことに対する中国政府の感情的な反応に端を発したものだった」
(ウォールストリートジャーナル2023 年1 月12 日 )
中国、豪州産石炭の禁輸を事実上解除 関係修復へ - WSJ

そう、これが大正解です。
中国の不当な言いがかりには安易な妥協をしないこと、毅然としていること、これが対中外交の大原則です。
一時の打撃には、耐えて国際社会の支持を得ること以外ありません。
今回、中国は海洋放出で太平洋諸国や東南アジアと反日包囲網を作るつもりでしたが、見事失敗。
G7は完全に日本支持で、いままでしていた海産物輸入制限を完全撤廃してしまいました。
つまり、中国はこぶしを振り上げて後ろを見たら、ついて来るのは誰もいなかったのです(笑)。
安倍氏が遭遇した慰安婦問題の時とはえらい違いです。
振り上げたこぶしをの腕がしびれるまで待っていればよいだけのことです。

そして日本の場合、たかだかと言えば言える、海産物の対中輸出にすぎません。
水産庁のHPには、日本の水産物の輸出入データが載っていますが、それによれば19年の輸入総額は1兆7404億円、輸出総額は2872億円であり大幅な入超。対中国では輸入が3150億円(18.1%)、輸出が486億円(16.9%)を占め、香港へは輸出が主で856億円です。

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(4)水産物貿易の動向:水産庁 (maff.go.jp)

対中輸出のうちホタテが268億、カツオ・マグロ類が15億、対香港は真珠が329億、ナマコ調整品が208億、ホタテが32億、カツオ、マグロ類が14億。実にホタテの67.2%、真珠の86.6%、ナマコ調整品の90%が中国・香港向けです。
他にホタテガイ調整品76億、ナマコ41億あるがこれも多くが中国・香港向けです。

対処方法としては、王道は中国とのデカップリングの推進しかありません。
政治的な駆け引きで貿易を圧力手段に使うような国とは縁を切るべきです。
イカはベトナム・タイ・ペルーからの輸入に切り替えるような措置が必要です。
1兆円規模ですから、税金の上ブレ分を使って国費投入すれば、なんなく買い上げられる規模です。

福島で大きな魚屋を営む「おのざき4代目」氏のツイートです。

「・(ALPS処理水の)海洋放出はせざるを得ないと思う
・処理水の安全性は科学的に示されているし、第三者機関(IAEA)にもお墨付きを得ているのに、なぜ騒ぐの?
・処理水の放出反対を言い続けている人は、何か他の代替案はあるの?
・処理水の放出反対活動をするよりも、風評を起こさないような活動をして力を貸していただけないか?
・自然災害は防げないけども、風評被害は未然に防げるよね。
・風評が起こっ“たら”、等のたられば論で未来の不安を煽ることが新たな風評に繋がるであろうことにまだ気づかない?
・福島だけの問題ではなく、日本国全体の問題だと思う。だからこそ、みんなで手を取り合って前向きな発信しませんか?
・ふくしまの魚は「常磐もの」(じょうばんもの)と呼ばれており、最高に美味いです。
・東日本大震災直後は、福島沖で漁ができなかったので我々鮮魚店は、福島“以外”の魚を売るほかありませんでしたが、その時に気付きました。“やっぱ福島の魚ってうまかったんだな”って」
Xユーザーの小野崎雄一/おのざき4代目さん

岸田氏よ、この小野崎氏の覚悟の爪の垢でも煎じなさい。

そもそも政府の最初のボタンからかけ間違っています。
日本人学校に投石があったのは、8月24日の山東省の日本人学校、翌25日の江蘇省の日本人学校に卵が投げ込まれる事件です。
そのときの外務省の27日お対応。
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外務省HP

なになに「日本語を使うな」「スマホで撮るな」、つまりは日本人であることを隠して、証拠の写真も撮るなという意味です。
こんなことは対策にもなっていません。
なんなのですか、このおざなりな対応は。

こんな「注意喚起」はただの外務省小役人のやってる感を出すための言い訳にすぎません。
今後日本人が暴行を受けても、いやあたしらの省は注意喚起を呼びかけていたのですが、どうもそれを守って頂けなかったなかったようで、日本語を使っちゃたんですよ。ウチのせいじゃありませんからね、プルプル。
ま、こんなかんじで、在留邦人をまもろうという気概がどこにもありません。
第一、日本人学校の入り口から出てくれば日本人に決まっているので、襲いたい放題です。
どうやって日本人は自分を守ったらよいというのでしょうか。
いっそ日本人ではないことを偽装するためにヒジャブでも被るか、防石ネットとヘルメットでも買い込みますか。
仕事をしろ、外務省!

そして今度はとうとう奥の手の登場です。
なんと世界一の親中派のボスの二階翁を訪中させて、王毅に泣きついて来いとのことのようです。
王は二階さん、なんか手土産持って来たの、放出は止めるか、少なくともコッチのメンツを忖度して一時停止くらいはすんだろうねと尋ねるでしょう。
もし、そんな手土産を持たせたら、岸田政権の支持率は20%を切ることでしょうし、なかったら現状はすこしも変わらずかえって悪化するだけのことです。

そんな時、無能で有名な野村農水大臣が「汚染水」と言ってしまいました。

「野村農相は31日、東京電力福島第一原子力発電所から海洋放出されている処理水のことを「汚染水」と発言し、「言い間違えた」として謝罪、撤回した。 野村氏は同日、岸田首相と首相官邸で面会した後、「汚染水のその後の評価などについて情報交換した」と記者団に答えた。 これを受け、首相は「発言は遺憾だ」と首相官邸で記者団に述べ、謝罪して撤回するよう指示したことを明らかにした」
(読売8月31日)
野村農相、処理水を「汚染水」と発言…岸田首相は「全面的に謝罪と撤回」指示 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

担当大臣のひとりの野村大臣のこの発言は、ただの言い間違いではすみません。
福島の水産物を風評被害からどう守っていくのかが問われている時に、行政側の責任者が自ら率先して風評を起こしたのですから言い訳は効きません。
即刻解任すべきです。

 

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