福島第1は地震で壊れていない
えー、いつまで12年前の福島事故をやっているんだ、とお叱りを受けそうですが、これでも当人はハショっているつもりです。(汗)
1週間でも語り足りないくらい。
この福島事故をきちんとおさえておけば、今の海洋放出問題なんか軽い軽い。
さて、福島事故の原因をはっきりさせておきましょう。
結論から言えば、津波による電源水没による全交流電源喪失です。
今言うと、そんなことあたりまえだろうと思われるかもしれませんが、紆余曲折ありました。
当初、一時は国会事故調のみが地震説を出していたので、事故調の結論が混乱していましたが、2014年7月に原子力規制委員会が事故原因中間報告書の中で、地震説をバッサリと否定して完全に決着済みです。
東京電力福島第一原子力発電所 事故の分析 中間 ... - 原子力規制委員会(Adobe PDF)
改めて福島事故の原因を押さえておくことにします。
事故報告書は、4種類(独立、国会、政府、東電)ありますが、この中で唯一、「じつは地震で壊れていたんだぜ」と述べているのは国会事故調のみです。
理由は簡単で、国会事故調で主導権を握ったサイエンスライターの田中三彦委員が、ゴリゴリの反原発論者だったからにすぎません。
この人は広瀬隆と波長のあった対談をしている人で、完全にアチラの人です。
あまりにも無責任すぎる!原子力規制委員会の正体――広瀬隆×田中三彦対談<中篇> | 東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命 |
このようなどう見ても公平性を欠く人物が主導権を握ったのが、この国会事故調でした。
naiic_honpen.pdf (mhmjapan.com)
それはさておき、この国会事故調こそがよく流布されている、反原発原理主義者の地震破壊原因説のルーツです。
国会事故調はこう書いています。
「基準地震動に対するバックチェックと耐震補強がほとんど未了であった事実を考え合わせると、本地震の地震動は安全上重要な設備を損傷させるだけの力を持っていたと判断される」
(同報告書)
国会事故調がいうには、耐震補強ができていなかったので、重要施設が破壊され、「津波到達前に格納容器から数十tの冷却剤が流出して、これが炉心融解・損傷につながった」というものです。
とうてい工学系の人が書いたものとは思えません。
事故後に結果論として「こうすべきだった」論ならナンでもいえますが、事故調が求められているのは「なぜ事故が起きたか」という冷厳な事故分析なのです。
たとえば橋が崩落したという場合、だから橋を補強しておけばよかったんだなんてことなら誰にでも言えますが、事故原因を探る上ではなんの意味もありません。
どうしてなにが故に橋が崩落したのか分からねば、そんなものは事故調査報告書たりえないからです。
福島事故の場合、なぜ冷却系が停止してしまったのかがわからねばなりません。
こここそが事故原因を探る上での最大のポイントなのですが、この原因を国会事故調査は「冷却材の流出」としています。
つまり冷却剤、要する炉心を冷却する水が、おそらくは格納容器が人によって亀裂が入って流れ出たのだ、と国会事故調は言いたいようです。
この国会事故調の意見について、政府見解を統一するべく最期に出た事故報告書の決定版である規制委員会事故調査報告はバッサリとこのように否定しています。
東京電力福島第一原子力発電所事故に係る調査・分析|原子力規制委員会 (nra.go.jp)
「『基準地震動に対するバックチェックと耐震補強がほとんど未了』であったことは事実である。しかし、そのことをもって、「本地震の地震動は安全上重要な設備を損傷させるだけの力を持っていたと判断」できる訳ではなく、損傷させる可能性があると考えることが妥当」
規制委員会事故報告書は補強が未了だったということと、実際にそれが事故原因であったのかを切り分けています。
そのうえで、ほんとうに地震が原発施設を「損傷させるだけの力を持っていた」かはたんなる可能性にすぎないとしています。
そしてその後の本文の中で、明快に「冷却材地震流出」説を否定しています。
では、国会事故調の主張する格納容器からの冷却材流出はあったのでしょうか。
下図は規制委中間報告書にある、地震の震度と発生時刻です。
15時31分~40分にかけて震度2~3です。
意外に震度が低いのに、驚かされます。
漠然と震度5以上あったのではないか、それによっておおくき器機が破壊されたのではないかというのは思い込みです。
規制委員会中間報告書
この15時31分~40分にかけて、もし地震で原子炉圧力容器が破壊されていたのなら、国会事故調が言うように、地震発生とほぼ同時に格納容器に亀裂が走り、そこから大量の冷却材が漏れだしたというシナリオも成り立ちます。
次のグラフは、原子炉圧力容器の圧力を示すグラフです。
地震発生から津波到達までの45分間は(非常用)電源が生きていたのでメーターの記録があります。
それを見ると配管破断を示すような圧力ロスや、原子炉水位の変化はありません。
つまり、地震によって原子炉に亀裂は入っておらず、冷却系も正常に作動していたのです。
同上
これについて規制委員会はこう説明しています。
「地震発生から津波到達までの原子炉圧力容器の圧力の測定値は、原子炉スクラム後に一旦約6.0 MPa まで低下した後に上昇し、非常用復水器(IC)起動後に5.0 MPa以下まで急激に低下した後、IC の起動・停止に応じて約6~7 MPa の間で増減が繰り返されている。」
「この期間に炉心の露出・損傷に至らしめるような冷却材の漏えいはなかった。」
(前掲)
また国会報告書は、風聞を収集した週刊誌的報告書にすぎず、はじめからあった思い入れだけで書いています。
ですから、格納容器の破損説の根拠は、現場にいた作業員が地震発生後、津波が来るまでの間に「ゴーッという音」を聞いた程度のことにすぎず、各種計測装置によるパラメーターを提出していません。
もし仮に、国会事故調が言うように、既に津波到達前の45分前の地震発生時に格納容器が破壊されて冷却水が流れ出すようなことがあれば、とうぜん放射能の漏洩が発生していなければならないはずで、それは所内の放射線モニタリングに記録されているはずです。
そのような放射能の検出記録はないと規制委員会は述べています。
「地震発生から津波到達までは直流電源及び交流電源が利用可能であったことから、地震により原子炉圧力バウンダリから原子炉格納容器外の原子炉建屋内への漏えいが生じれば、プロセス放射線モニタ、エリア放射線モニタ等の警報が発報すると考えられるが、これらの警報は発報していない。」
(前掲)
ではなぜ、冷却系が停止したのでしょうか。
これも時系列でモニタリングされていました。
津波が到達する時刻は、波高計により第1波襲来15 時27分頃、第2波襲来15時35分頃です。
この二つの津波が到達したのが、「15 時35 分59 秒~15 時36 分59 秒までの間で、この瞬間に原子炉の電圧は、ほぼ0 V に低下して、その後は電力供給ができない状態に至った」(前掲)わけです。
上のグラフの右隅の緑色枠内の時刻、つまり津波到達と同時に全交流電源が停止しています。
その結果、原子炉が冷却不能となったのです。
この電源停止について、国会事故調はこう言っています。
「国会事故調報告書では、「ディーゼル発電機だけでなく、電源盤にも地震により不具合が生じ、その不具合による熱の発生などによって一定時間経過後に故障停止に至ることも考えられる。」としている。」
(前掲)
国会事故調査は、津波だけではなく電源の基盤も地震で損傷していたのだと言っていますが、そのようなデーターはありません。
規制委員会中間報告書は、これについても震度2~3の揺れていどでの損壊はありえないと否定しています。
「非常用交流電源系統は、本震が発生してから約50分間は正常に機能しており、これが震度1~2 の揺れの影響により損傷したとは考え難い。したがって、余震によってD/G1A受電遮断器を開放させるような不具合が発生したとは考え難い。」
(前掲)
それにもかかわらず、いまでも地震でフクイチが破壊されたという言説があとを断ちません。
おかしな地裁判事が「想定以上の地震が来て、原発が爆発する。仮処分で止めてやる」などという判決を出すのですから困ったものです。
この人たちはきっと受信機が地震によって壊れていて、脳内冷却剤が流出しているのでしょう。
ちゃんと規制委員会事故報告書を読みなさい。
反原発派は意図的に危険を煽っています。
たとえば朝日のアエラ(2018年9月6日)の記事です。
こちらはタイトルからして、『震度2で電源喪失寸前だった北海道・泊原発「経産省と北電の災害対策はお粗末』ですから、朝日がどのような印象に読者を誘導したいのか初めから察しがついてしまいます。
登場するのは電力や原子力とはなんの関係もない地震地質学者の岡村真・高知大名誉教授ですが、アエラはこの畑違いの地震学者にこんなことを言わしています。
「2011年の東京電力福島第一原発事故による大きな教訓は、大規模災害が起きても「絶対に電源を切らさないこと」だったはずだ。それがなぜ、わずか震度2で電源喪失寸前まで追い込まれたのか。
「泊原発には3系統から外部電源が供給されていますが、北電の中で3つの変電所を分けていただけと思われる。北電全体がダウンしてしまえばバックアップにならないことがわかった。今回の地震で、揺れが小さくても外部電源の喪失が起きることを実証してしまった。『お粗末』と言うしかありません」
(アエラ前掲)
https://this.kiji.is/410223450683638881
なにが「お粗末」ですか。お粗末なのはあなた方です。
岡村氏が言う 「電源喪失」はブラックアウトのことですか、それともステーション・ブラックアウトのことですか。
「電源喪失」を言うならば、きちんと概念規定してから言って下さい。
この人が悪質だと思うのは、たぶん岡村氏は知って言っています。それは後段で「外部電源」と言っているからです。
だったら「電源喪失寸前」などという、どちらにでもとれる表現は使うべきではありません。
その「寸前」という中に、ブラックアウトとステーション・ブラックアウトの大きな落差があるからです。
そこにこそ決定的な福島第1事故と泊原発との違いがあるにもかかわらず、肝心のそれを意識的にボカして、まるで福島事故のようなことが起きる寸前だったかのような印象を与えるようにしゃべっています。
岡村氏がブラックアウトとステーション・ブラックアウトを意識的か、無知なる故か知りませんが、積極的に混同して危機を叫び、アエラはこれを意識的に増幅しています。
いうまでもなく、3系統あった外部電源が失われた原因は、(多重防護の観点からそれはそれで追及されるべきですが)それはただのブラックアウトにすぎません。
それを岡村氏はわざわざ「福島第1の教訓」とやらを持ち出して、「絶対に電源をきらさないことだ」などと言っているようですが、これは正確ではありません。
正しくは「ステーション・ブラックアウト(全交流電源停止)とならないようにする」ことが福島第1の教訓です。
いかに非常用電源の確保が重要かは、規制委員会が出した原発安全対策で上げられた項目を見ていただければ理解出来ると思います。
■原子力規制委員会の原発安全対策
①大津波の被害が及ばぬ高台に非常用原子炉冷却施設
②同じく高台に非常用電源
③放射性物質フィルター付き排気施設
④放水砲をもった車両を配置
⑤防波堤の嵩上げ
⑥防水扉の設置
⑨原子炉施設本体の耐震性の強化
⑩テロ対策
下の図は規制委員会の安全対策に従って立てられた中国電力島根原発の安全対策ですが、防波堤が高く改善され、非常用電源が高台に移されているのが分かります。
ご覧のとおり、規制委員会の原発についての新安全対策は徹底して津波対策、特に「非常用原子炉冷却施設」に絞られ、特に福島事故の原因であった非常用ディーゼル電源の確保に重きが置かれています。
なんども述べているように、原発は外部電源がブラックアウトしたとしても、非常用電源のいずれか(多くは3系統)が起動しさえすれば電源は確保されて、燃料棒や使用済み燃料プールは冷却され続けるからです。
今回の泊原発は午前3時25分に外部電源が喪失しましたが、直ちに非常用電源が起動しています。また外部電源も当日の午後1時までに復旧しました。
運転していなかったからだと言う人もいますが、仮に燃料棒が入っていて運転していたとしても確実に自動緊急停止(スクラム)されます。
原子炉スクラム - Wikipedia
大地震があってもそれが起動することは、福島第1でも実証済みです。
そして外部電源が切断されると同時に、発電所内の非常用電源が起動します。これが非常時における「正常」な流れです。
道化者の共産党小池氏は、泊原発時にこんなツイートをしていました。
もう解説しなくていいですね。
小池氏は出来の悪い小学生レベルです。
こういう共産党の小池氏のような人たちが、原発ゼロなんて言っているのですから、困ったものです。
ところで今回の処理水放出は、事故そのもののとは違って単純です。
処理水はすでにALPSによってトリチウム以外が除去されており、しかもそれを海水で希釈して基準以下の濃度にして放出しています。
どこが問題なのか教えてほしいくらいです。
いまだ「汚染水」といっているような無知蒙昧な輩は別にして、原子力を当たらず触らず臭いものに蓋のような扱いをしてきた政府の側にも問題があります。
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冷却剤は冷却材が正しい用語になります。
なお、外部電源喪失は、原発の設計で想定する運転状態分類では運転状態Ⅱ(異常な過渡変化時)になっており、想定頻度は10E0~10E2/炉年です。即ち、毎年1回起きるという想定です(勿論、実際とは異なります)。
投稿: 杉並の老人 | 2023年9月14日 (木) 10時34分
ありがとうございます。冷却材に修正しました。
投稿: 管理人 | 2023年9月14日 (木) 13時13分