自分で仕掛けたEVの罠にはまった欧州
EUはEV(電気自動車)の導入に異常なほど熱心でした。
なかでもその音頭を取っていたのがドイツです。
建前は「地球に優しく」ですが、もちろん下心はありました。
そのドイツが思わざる展開に、方針転換を迫られています。
そもそも、有体に言えばEV推進の目的はトヨタ潰しでした。
EUは地球環境を守るふりをして、トヨタの生み出した画期的環境負荷低減エンジンをであるハイブリットをゼロ・エミッションカーに入れない、というトンデモの決定をしました。
おいおい、クルマの中に内蔵した発電所を持つハイブリッドほど優れたエコカーはないんじゃありませんかね。
しかしハンブリッドカーはエコカーにあらずというEUの決定で、トヨタは大きな打撃を受けました。
ハイブリッドカー - Wikipedia
つまり、EUはEVのだけが唯一のエコカーであると宣言することで、事実上の「日本外し」を露骨に行ったのです。
うわぁぁ、セコ。
自動車発祥の地のヨーロッパ人らしいプライドの高さですが、ご想像どおりEU盟主ドイツのあのWがふたつつく企業のごり押しでしょう。
世界の自動車業界の盟主の座を奪われたことが、よほど悔しかったとみえます。
一方トヨタは太っ腹にもハイブリッドの特許を公開して普及を図っていたのですから、そちらを世界基準にすればよいものを、なんとしてでも日本に屈するのだけはイヤだったんでしょう。
気分はわからないでもありませんが、大きな眼で見れば自分で墓穴を掘ったのです。
欧州は、内燃機関からEVへの乗り換え促進のために、手厚い購入補助金と、大幅な減免税政策を導入し、その結果、EVの世界販売台数は、2020年に200万台、2021年に440万台、2022年は700万台と、毎年2倍に近い勢いで増え続けています。
また、ネックだった世界の公共のEV充電器も、2022年末時点で250万ヶ所を超えたといわれています。
かくして、いままでハンチクなクルマだと思われていたEVが、一気に自動車業界の帝王の座を狙う位置につけたのです。
ノルウェーのエコミーイズム: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
ただし、これによってうたい文句どおりCO2が削減できたかといえば、これがはなはだ疑問です。
たしかにEVは走行中のCO2は排出はありませんが、もっと広い眼でみたライフサイクルではどうでしょうか。
ライフサイクルCO2排出量とは、自動車の製造時から運転・廃棄時までを含めて計算したCO2の量のことです。
これについては、スウエーデンのボルボが行った研究があります。
Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf (volvocars.com)
電気自動車(EV)は本当に環境にやさしいのか | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)
上図がその結果ですが、縦軸が20万キロ走行時のCO2排出量。
一番左が同等な内燃機関車(ICE)。残り3つがEVであるC40で、発電の構成によって結果が異なっているのがわかります。
左から順に、世界平均(Global electricity mix)、EU平均(EU electricity mix)、そして全て風力で賄った(wind electricity)場合、としている。
本来、環境負荷は廃棄までのライフサイクルと稼働や設置による負荷まで含めて比較すべきものであり、EVの場合でいえば電源、電池の廃棄にかかわる負荷、発電負荷などが適正に判断されていないと、正当な判断はできません。
上図のスウエーデンの研究を見ると、EVは製造原料、リチニウムイオンバッテリーの生産に関わるCO2排出量が内燃機関の倍近くになっています。
そしてなによりEVの燃料に当たる電気の発電のために発電所において日常的にCO2を発生させています。
え、太陽光発電だからエコだろうですって。
そう簡単なもんじゃないのはいままで何回も説明しましたが、不安定な再エネのために必ず火力や原子力がバックアップに入っているのです。
風が止まって風車が動かないた、雨になって太陽光が使えないという時に、一瞬で化石燃料発電に切り替わる仕組みなのです。
つまり、EVを走らせるためには電気が必要であり、その電気を作るためには化石燃料が必要であるという夢のない話にになるのです。
なんのこたぁないEVを動かすためには発電量をふやさねばならず、その結果さらに多くのCO2を排出せねばならず、普及すればするほど電気消費量が増えてCO2も増えるという仕組みです。
お分かりでしょうか、再エネがそうであるように、EVもまた偽薬なんです。
このEVが持つ根本矛盾を、バカではないのでEUもわかっちゃいるのです。(と思いたい)
ただ、今の温暖化阻止の波を利用して、なんとしてでも究極の内燃機関を作り上げてしまった憎きトヨタを叩き潰したいのです。
だから内燃機関車をEU市場から完全に排除して、ハイブリッドという優れた環境負荷低減技術まで葬ろうとしたのです。
ですから、電気自動車の本質的矛盾、すなわら普及すればするほど電力消費が増えてCo2が増えてしまうという笑えない矛盾については、見えません見えません、いつか誰かが解決してくれる未来を信じて先送りにしましょう、という「賢者の知恵」(なのかよ)がEUの考えでした。
ところが、思わざる伏兵が現れました。
EVを作るのに、特に新しい技術はいらないのです。
EVはしょせん日用品(コモディティ)であって、大量生産される電池とモーターが付いたプラットフォームに、外観の違うボディを乗せただけのものにすぎません。
部品数はたかだか1万~2万ていどにすぎませんから、いわばアルミの一体型のダイキャストに内装を載せたゴーカートみたいなものです。
ハッキリ言えば、こんなていどのものは自動車後進国でもすぐにできてしまいます。
一方、現代に通用する内燃機関車を作るには、特許だらけの設計に基づいて精密加工技術、冶金技術がモノをいう世界で、部品数だけでもEVの2倍の3万いるといわれています。
トヨタの副社長が、叩き上げのエンジン鍛造工場の親方であるのは知られた話です。
だから世界でも、優秀な自動車エンジンは日本とドイツ、そしてスウエーデンくらいしか出来なかったのです。
これをEVだけが善玉、ハイブリッドまで含めて内燃機関車は悪玉、EU域内では内燃機関車は売らせないとしてしまったらなにが起きるでしょうか。
自動車生産後進国が、なかんずく世界一の低品質自動車生産国の中国が押し寄せて来るに決まっているじゃありませんか。
しかも中国は、新規参入にあたって必ずえげつないダンピングを仕掛けてきます。
徹底的に安く売りさばき、,その生産力とバカ安で市場を制圧するのです。
典型例は太陽電池パネルです。
太陽光パネルは、世界各国で作っていましたが、いったん中国が市場に参入するやいなやダンピング価格によって世界市場は瞬く間に支配されてしまいました。まさに侵略。
このEVでも、中国はやっぱりやらかしてくれました。
「独メディアのドイチェ・ヴェレは2023年9月14日、EUが中国の電気自動車(EV)に対してダンピング調査を実施することについて、EUに「太陽光発電と同じ轍は踏まない」との意図が見えると報じた。
記事によると、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は中国のEVに対する調査開始を発表した際、数年前に欧州の太陽光発電産業が崩壊した例に言及。「EUは中国の不公正な貿易手段がわれわれの太陽エネルギー産業にどのような影響を与えたかを忘れていない。このようなことはEVで繰り返してはならない」と強調した。
記事は、「中国の太陽エネルギー産業が欧州市場に進出した際、その巨大な生産力と価格の安さが欧州企業を苦しめ、2011年からわずか数年の間に欧州企業の倒産が相次いで発表された。2013年5月、EUは中国製の太陽光パネルに懲罰関税を課すと発表。一方、中国はEU産の化学製品やワインなどへの反ダンピング調査で応じ、貿易戦争に懸念が高まった」と説明した」
中国製EVにダンピング調査、EUの危機感「太陽光発電と同じ轍は踏まぬ」―独メディア (recordchina.co.jp)
やっぱりね。
EUは中国の太陽光パネル産業が欧州市場に進出した際、たちまちその巨大な生産量と安さ故に欧州の太陽光産業を完全に駆逐してしまった教訓を忘れたようです。
2011年からわずか数年間で、欧州の太陽光エネルギー産業は壊滅し、2013年5月になってようやくEUは中国製の太陽光パネルに懲罰関税を課すことにしたのですが、時に遅し。
だって、地場の太陽光産業はなくなっていたんですから。
そのうえこのEUの出し遅れた制裁に対しても、もちろん中国は大喜びで乗りました。
だって報復関税かけるリッパな口実になるじゃないですか。
わが国はダンピングなどしていないにも関わらず、不当な不利益を被ったかわいそうなボク,というわけです。
中国はEU産の化学製品やワインなどへの反ダンピング関税を課してました。
なんで自動車関税に対してワインかよ、と思いますが、ご承知のようにそういう国なんです、あの国は。
彼らにとって貿易もまた「戦争」なのです。
無理が通れば道理が引っ込む。不正がまかり通り、間違いが堂々と行われる世の中では、筋違いなことでも押し通せる。
経済を制圧してしまえば政治は自ずとついてくる、政治と経済を押さえれば支配したのも同然だ、それが彼らのセオリです。
この轍を、きっちりEUは再び踏もうとしています。
日本をはずしたら中国が来た、しかもこいつにはルールが通用しないというわけです。
遠からず欧州市場は中国製EVに蹂躙されることでしょう。
その時の相手は、おとなしく定められたルールに従う日本ではなく、自動車に対してワインでやりかえすことなど屁とも思わない中国なのです。かくしてEUは、日本を落としたつもりだった「EVの罠」に自分で落ちてしまいました。
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この前段階にて。
ドイツメーカーは2000年代に最新のコモンレール式ディーゼルこそがCO2対策や排ガスで環境に優しいと喧伝してハイブリッドなんか相手にしてなかったのに、VW「排ガス不正」通称ディーゼルゲートという大事件を起こして、ドイツで一定の人気のあったマツダはスカイアクティブDなんて画期的なモノを出してくるし、一気にEV転換を図ろうとしてトヨタが邪魔になった!
懲りない奴らですね。
また、需要の細るバスは日本メーカーは合弁が進んでEVバスは既に中国BYDが入って来てますね。塗料から重金属が出たとか。
日本が50年前に通った道です。
70年代前半ののスポーツモデルにはイエローやオレンジの塗装が多かったけど、カドミウムとか入ってて禁止されました。
投稿: 山形 | 2023年9月20日 (水) 05時41分
それでも「日本と中国どちらを取るか」を欧州に迫ったら後者じゃないですかね?中国は酷いそして汚い、だけど日本に占められる方がもっと嫌だと。
投稿: 守口 | 2023年9月20日 (水) 08時31分
本音と建て前は日本人の専売特許かと思っていましたが、どこの民族でも、バリバリ本音と建て前の世界ですね。欧州の方々は、片方では平等を歌いながら、本音では、黄色い野蛮人どもがと綿々と思い続けておられるのでしょうね。彼らにとっての世界とは、ヨーロッパ大陸であり、極東の島国など自分たちの世界とは異なる世界だし、そこの住むものなど自分たちと同じ人間ではないという思いは綿々と続いているのでしょう。遥か昔、地続きのアジアの野蛮人が攻め込んできたことがあったが、結局は我々が勝った。その思いが今も綿々とある気がします。
表に出ない差別の心は、悲しいかな今もある気がします。
投稿: 一宮崎人 | 2023年9月20日 (水) 09時20分
新発見や新技術があるからといって、世界を速やかに、ドラスティックに変えられるわけではないし、己の考える利益に沿うだけの答えを以て「正解はこれだけ!」とやっても、また教条的にやっても、世界を変えられるわけではない、ということですね。
そして、半端に形振り構わないやり方をすれば、もっと形振り構わないヤツに喰われる、あまりに形振り構わないでいると、結局どうなるか…という話でもあり。
では、非情な世界で生き残りながら、どう最適解を求めていくか。
ご参考のひとつに、今年2月トヨタイムズ掲載、トヨタチーフ・サイエンティストであるギル・プラット博士の、経団連モビリティ委員会でのお話を。
「多様性は力」科学者が説く日本らしい脱炭素
https://toyotatimes.jp/toyota_news/committee_on_mobility/003.html
投稿: 宜野湾より | 2023年9月20日 (水) 13時11分