北朝鮮はすでに砲弾を供与していた
先日お伝えした北朝鮮のロシアへの砲弾供与についての続報です。
「金正恩氏が豊富に保有しているものの一つは武器であり、特にウクライナの前線で復活の兆しを見せている20世紀の粗末な大砲である。北朝鮮は、国際戦略研究所の推定によると、21,600門以上の大砲からなる兵器庫を供給するための計り知れない弾薬を保有しており、この部隊が数十年にわたりソウルをマリウポリのような荒廃の脅威にさらし続けてきた。
「北朝鮮は老朽化した旧軍需品の在庫を大幅な値上げで処分する機会を両手で掴むだろう」と武器専門家のジュースト・オリマンス氏は語った」
北朝鮮はロシアへの武器販売から重要なライフラインを得ることができる - ジャパンタイムズ (japantimes.co.jp)
正恩にとって、プーチンの砲弾供与要請は渡りに船だったようで、すぐさま飛びついたようです。
昨今、北は仮想通貨窃盗業が仮想通貨取引所の閉鎖によって窮地に追いやられていたところだったからです。
「ソウルの韓国銀行によると、北朝鮮経済は2021年の成長に失敗し、昨年(2022年)は不透明な見通しに直面した。韓国銀行は同国の見通しを定期的に評価している数少ない機関の一つだという。一方、金氏の仮想通貨窃盗への一見儲かる事業は、デジタル資産取引所FTXの破綻を受けて窮地に直面している可能性がある」
(ジャパンタイムス前掲)
窃盗業が国家財政を支えているなんていう国は世界でも珍しいですが、この国はサイバーテロに関しては世界有数の人員を擁しています。
国民が食えなくても、こういうこそ泥、サイバーアタック、誘拐などの反社行為だけは世界一流です。
北にすれば、突然大きなマーケットができたようなものです。
155ミリ砲弾の単価は装薬や信管を合わせて新品でせいぜいが4万円ていどですが、パーフェクトな売り手市場ですから、狡猾な正恩が安く売る道理がありません。
砲弾だけではなく発射機までおつけするとこのていどになりますかな、パチパチ。(算盤を弾く音)
もちろんお支払いはドルでお願いします、ルーブルは一切お受けできません、ゴミですから。なんなら原油でもけっこうですよ、バレル40ドルていどが妥当かと、なんてね。
実はもう既に北朝鮮製砲弾は、イランや北アフリカ諸国に輸出すると見せかけてロシアに手渡され、戦場で使用されている、と米国は見ています。
「新たに機密解除された諜報機関によると、米国は、北朝鮮がウクライナ戦争のためにロシアに砲弾を密かに供給し、それらが輸送されている場所を隠すことによって非難している。
米国当局は、ロシアがイランから入手した無人機やその他の兵器とともに、北朝鮮の密かに輸送されたことは、モスクワの通常兵器でさえ8か月の戦闘中に減少したさらなる証拠であると信じています。北朝鮮は、弾薬が中東または北アフリカの国々に送られているかのように見せることによって、貨物を隠そうとしている、と諜報機関は言う。
最近の諜報機関は、米国の諜報機関が、ロシアが戦場で使用するために北朝鮮から数百万発のロケットと砲弾を購入する過程にあると述べてから約2か月後に行われた」
CNNで最初:米国は北朝鮮がロシアへの弾薬の出荷を隠そうとしていると非難している|CNN
この原型は大戦中の「スターリンのオルガン」にまでさかのぼる古式ゆかしい兵器です。
「ウクライナ国防省情報総局のキリル・ブダノフ長官は13日に現地メディア「ニュー・ボイス・オブ・ウクライナ」の取材に「ロシアはすでに1カ月ほど前からロケット弾など北朝鮮製の兵器を使っている」と明らかにした。ブダノフ長官によると、1カ月半ほど前に北朝鮮とロシアは協定を結び、この時から北朝鮮製兵器の輸入が始まったという。これは7月22日にロシアのショイグ国防相が6・25戦争休戦協定70周年に北朝鮮を訪問し、武器や砲弾の供給を要請した時期と合致する」
(朝鮮日報9月15日)
ロシアに引き渡される予定の北の砲弾を奪ったウクライナ「ほとんどが1980~90年代製」「たまに変な所に飛ぶ」 -Chosun online 朝鮮日報
ただし鹵獲したウクライナ軍指揮官の話では 、北朝鮮製の砲弾や発射装置の品質は非常に劣悪で不発弾だらけのうえに、どこに飛ぶかわからないので、できたら使いたくないシロモノだそうです。
こわくて北朝鮮製の発射機に近づけないそうです。(笑)
こんなもんを使わされるロシア軍も哀れ。
「ウクライナ軍のルスランと名乗る砲兵指揮官はフィナンシャル・タイムズの取材に「北朝鮮製の砲弾はほとんどが1980年代か90年代に製造された」「不発の割合が高いのであまり使いたくはない」と述べていた。また別の砲兵も「砲弾は信頼性が非常に低く、たまに変なところに飛ぶので、発射台に近づいてはならない」と注意を呼びかけた」
(朝鮮日報前掲)
どうやら北朝鮮の砲弾保管の状態が極めて劣悪だったみたいですね。
砲弾の寿命はかなり長く。ロシア軍も米軍も冷戦時代の砲弾をいまも備蓄していますので、とくに北が80年代から90年代のモノを供与したとしてもそれ自体は驚きではありませんが、メンテが悪かったようです。
米軍も自衛隊も、空調つきの専用弾薬保管所を作って長期保管しています。
155mmりゅう弾砲を長期保管するために調達している倉庫 会計検査院 (jbaudit.go.jp)
あまり長期保管になった砲弾は、炸薬を詰め替えての再利用が可能です。
ロシアの数万台あるゾと豪語していた戦車の備蓄も、倉庫から取り出してみればボロボロでスクラップ同然の状態、電子部品はとっくに盗まれて売られているといった具合で、使い物になるのはごく少数でした。
メンテナンスや安全管理は一番めだたないので、真っ先に予算から削られるのです。
また21世紀型戦争は航空機やミサイルの対地攻撃が主で、砲撃の重要性は低いと思われていました。
実際に、米海兵隊の新シフト(フォースデザイン2030)では、戦車と砲兵を全廃しています。
kaiheitai-kaikaku-watanabe.pdf (goyuren.jp)
しかし、現実にウクライナに侵攻してみると、航空機攻撃は対空ミサイル網によって互いに封じられ、結局モノを言ったのは第1次大戦型の砲撃と塹壕でした。
ロシア軍は2022年2月末のウクライナ侵攻後、昨年1年間だけで1000万~1100万発を使ったとみられていますが、おそらくは砲弾備蓄はとうに使い切っているはずで、命知らずのロシア砲兵がやけくそでこの「どこにとぶかわからない」ような備蓄品を使っているようです。
もちろんロシアは全力で砲弾生産をしていますが、それでも砲弾の生産能力は年間100万~200万発で、必要量の10分の1でしかありません。
北は推定で2万1千門の大砲を持っていると言われていますから、品質はともかく砲弾の備蓄は佃煮にするほどあるはずです。
これを売り手市場でさばけ、対価として原油がもらえるかもしれないとすると、なんてすんばらしい話でしょうか。
こうしてロシアと北による「反帝同盟」(笑)が突如誕生したわけです。
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https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1a6dd9aeff2dcf06f77e81e86d5094e6eac2fa3e
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/69b9a7ae7ca4a518f91b2c00ac48a7a05caade4b
この2つの記事を読むと、北朝鮮の人々はやっぱりちゃんとしたうるち米が食べたいのだろうなぁと想像できます。
己が食べるものは満ち足りているらしい独裁者には、そんなん知ったことか、なんですかねぇ。
投稿: 宜野湾より | 2023年9月21日 (木) 18時28分