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2023年11月

2023年11月30日 (木)

イスラエル軍の「病院空爆」はデマでした

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ああ、やっぱりそうでしたか。
イスラエル軍の「病院空爆」はデマでした。
当時、どう報道されていたか、見てみましょう。

イスラエル軍による爆撃が続くパレスチナ自治区ガザ地区の保健省は17日、「ガザ市にあるアフリアラブ病院が同日夜に空爆され、患者や医療従事者、避難民ら、少なくとも500人が死亡した」と発表した。現時点で、詳しい状況はわかっていない。バイデン米大統領は18日、イスラエルを訪問するが、ヨルダン行きは延期した。エジプトのシーシ大統領らとは電話で協議するという。
保健省は声明で「イスラエル軍が大虐殺を行った」と非難した」
(朝日10月18日)
ガザの病院で爆発、患者ら500人以上が死亡 イスラエルは空爆否定 [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com) 

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ガザの病院空爆で500人死亡 | 時事通信ニュース (jiji.com)

申し訳ていどにイスラエルの反論も載せていますが、イスラエルが空爆で500人殺害したと断定しています。
これが決定的となり、それからはとめどなくガザで起きているのはイスラエルの大虐殺だ、「快楽殺人」だということになっていったのです。
ちなみに「快楽殺人」などというような反ユダヤ意識に満ちたことを口にしただけで、社会的生命はオシマイです。

ところが、先日人権団体のヒューマンライツウォッチ(HRW)がこの事件の詳細な報告書を出しました。
HRWはリベラル系団体ですが、こういう一本筋が通っているところが欧米リベラルの美質です。

冒頭でHRWはこう結論づけています。
ガザ地区:10月17日、アル・アハリ病院爆発事件の調査結果 |ヒューマン・ライツ・ウォッチ (hrw.org)

「(エルサレム)-2023年10月17日、ガザ地区のアル・アハリ・アラブ病院で多数の民間人が死傷した爆発は、パレスチナ武装勢力が一般的に使用しているようなロケット推進式弾薬が病院の敷地に着弾したことが原因である、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた」

そしてガザ保健省(ハマスですが)がなんの調査もなしに出してきた500人死亡説についてもHRWはこう書いています。

「同日午後6時59分、ヒューマン・ライツ・ウォッチが決定的に特定できていない種類の弾薬が、病院の敷地内の舗装された場所、駐車場と、イスラエルの攻撃から身を守るために多くの民間人が集まった景観のある地域に着弾した。ガザ保健省は、471人が死亡し、342人が負傷したと報告した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この数字を裏付けることができなかったが、この数字は他の推計値よりも著しく高く、死者数と負傷者数の比率が異常に高く、現場の被害状況と不釣り合いに見える」
(HRW前掲)

 このハマス保健省が出した500人説は、数十倍に盛った数字だということは当時から言われていました。
この爆発物はあまり人がいない駐車場に落下し、小さいクレーターを作っただけです。

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Xユーザーのネイサン・ルセル  X (twitter.com)

近寄るとクレーターの小ささに驚きます。

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Live updates: Israel-Hamas war rages as President Biden arrives in Tel Aviv (cnn.com)

このクレーターについてHRWは「長さ約90cm、幅約60cm、深さ約30〜40cm」と計測していて、ちいさな爆発であったとしています。
メディアはハマスの発表どおり「病院空爆」と報じましたが、病院の建物にはまったく影響を及ぼしていません。

HRWは事故直後にこの現場を訪れていますが、ハマス保健省はこの爆発物の残骸を隠匿しました。
しかし多くの物証からこの爆発物はハマスが多用しているロケット弾だとしています。

「爆発に先立つ音、それに伴う火球、クレーターの大きさ、それに隣接する飛び散りの種類、クレーターの周囲に見える破片の種類とパターンは、すべてロケットの衝突と一致している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが入手した証拠は、イスラエルがガザ地区で広範囲に使用したような大型空中投下爆弾の可能性を極めて低いとしている」
(HRW前掲)

またこのとき起きた大規模な車両火災は、ロケット弾の燃料が車両に引火したために起きたとしています。

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「病院の駐車場の車への大規模な火災被害は、高性能爆薬弾頭の爆発単独と矛盾する。火災は、ロケット推進剤の燃焼によって引き起こされ、それが敷地内に存在する燃料やその他の可燃性物質に広がり、発火したと思われます」
(HRW前掲)

また呆れたことに、ハマス保健省はこの証拠を当初は公開するとしながら、今にいたるも公開するどころかこんなことを言い出す始末です。

「ハマスの高官は、残骸は「間もなく世界に公開される」と述べた。事件から1ヶ月以上経った今でも、このようなことは起こっていません。ハマス幹部で、ハマス主導のガザ統治機構の副大臣であるガジ・ハマドは、10月22日、メディアに「ミサイルは水に塩を溶かしたように溶けた。気化しています。何も残っていない」ヒューマン・ライツ・ウォッチは、弾薬のかなりの部分が爆発しても、たとえ弾薬の一部がバラバラになるように設計されていて、熱損傷によって認識できなくなる可能性があるとしても、通常は爆発に耐えられると指摘した」
(HRW前掲)

なんと証拠物件は溶けたんだってさ(爆笑)。
このようないいかげんなハマスの発表を鵜吞みにしてセンセーショナルに「イスラエル病院を空爆、500人死亡」というデマを、西側メディアやグテーレス事務総長までが騒ぎ立てて「事実」としてしまいました。
そして一気にイスラエルのに対する同情は消え失せ、イスラエルに対する憎悪の嵐が吹き荒れます。
まさにそれに点火したのが、この「病院空爆」だったのです。

常に冷静な客観性を忘れないJSF氏このように述べています。

「病院爆発」はイスラエル軍の仕業ではなかったとしても、結果として国際社会のイスラエル批判の声はその後、急速に高まっていった。その意味で、「病院爆発」はガザ情勢でゲーム・チェンジャーとなったともいえるわけだ。ただし、そのゲームチェンジャーは事実に基づいて生じたというより、偏見と誤報によって生じたといえるわけだ。換言すれば、戦況も政治情勢も時には誤報と偏見によって大きく動かされることがあるわけだ。事実が判明した後、「当時の情報は間違っていた」と謝罪しても、名誉回復には少しは貢献するかもしれないが、状況を元返しにすることはできない。
 もし10月17日の「病院爆発」の直後、パレスチナ人武装勢力が発射したロケット弾の誤射によるものだということが分かっていたならば、ガザ地区のパレスチナ人はどのように反応しただろうか。ひょっとしたら、ハマス批判の声が飛び出したかもしれない。そうなれば、ガザ紛争はまったく現在の状況とは異なった展開となったかもしれない……。」
10月17日のアル・アハリ病院爆発はガザ側のロケット弾の発射失敗:国際人権団体HRWの調査報告(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

まことにそのとおりです。
イスラエルに濡れ衣をきせることでまんまとハマスは世界世論を味方に着けることに成功したのです。
そして今は、この病院の下にハマスのトンネルは「なかった」「あっても使っていなかったか、イスラエルが掘ったものだった」ということになるようです。
ちょっと待って、そりゃ早いでしょう。
まだなにも第三者調査はなされていないのですよ。
「病院空爆」と断定して国際世論をミスリードしたように、「トンネルなどなかった」というのは早すぎはしませんか。
しかしいまや、こんなことを言うだけで「限界右翼」とレッテルを貼られる始末です。

とまれ「イスラエル軍が空爆した」という印象は確実に刻み込まれたのです。
この「印象」は巨大です。
そう言えば、かつて新型コロナの時にテキトーなことを言っていた人は大勢いましたね。

毎日出てきたあのおばさんとか、なんとかクリニックの医者とか、国民全員にPCRしろと叫んで政府を追及した野党やキャスターなど、終わると自分が言ったことなどキレイサッパリ忘れて、新たな「疑惑」を追及しているようです。
あれは正しかったのか、誤って世論をリードしてはいなかったのか、と一度立ち止まればよいのですが、彼らにらはフィードバック機能がないようです。

今回も状況が自分の理念や好みに合うと大喜びで、ろくにわかってもいないうちから騒ぎ立てる輩が大勢出ました。
それが大学教授や専門家で、中東はオレが一番知っていると自称している連中だから困ります。
彼らは批判されると逆上して暴言を吐き散らし、訴えてやると言い出しています。
言論を法的訴訟にすり替えること自体、言論の敗北なのですがわかっていないのでしょう。

彼らには、Keep Calm and Carry On と言ってあげましょう。

 

 

2023年11月29日 (水)

人質交換続くいまこそ本格的停戦に入る時期です

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人質の返還が少しずつ進んでいます。

「イスラエルとイスラム組織ハマスは27日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘休止を2日延長することで合意した。仲介役のカタール政府が明らかにした。当初合意の4日間の戦闘休止は24日午前7時(日本時間同日午後2時)に始まり、28日が丸4日で期限が迫っていた。イスラエル軍は27日夜、ハマスが拘束する人質のうち、第4弾としてイスラエル人11人が解放されたと明らかにした。
戦闘休止後、イスラエル側に引き渡された人質は計69人となった。イスラエルも交換で、拘束するパレスチナ人の女性や未成年者33人を新たに釈放、これまでに釈放されたのは計150人になった」
(産経11月28日)
ハマス、第4弾はイスラエル人11人解放 ガザ戦闘休止2日延長合意 - 産経ニュース (sankei.com)

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産経

「ハマスとの休戦は4日間の予定で始まった。これまでに3回の人質釈放が実施され、イスラエル人39人が帰国した。まだ183人がガザに残っているとみられている。一方釈放されたパレスチナ囚人は、117人。今夜で最終日を迎える。
今日、ハマスは、11人(合計50人ちょうど)のイスラエル人を解放する予定で、イスラエルは朝8時にそのリストを受け取っている。午後4時(日本時間午後11時)にはまた11人が戻ってくると予想される」
3回目イスラエル人14人解放:パレスチナ囚人39人釈放 2023.11.26 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

イスラエルは人質を返すなら、休戦を延期しても良いといっています。
またガザに人道的支援のトラック200台が入りました。

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IDF

「本日(11月24日金曜日)、人道支援物資を積んだトラック200台がラファ交差点を経由してガザに入り、ガザ地区南部で活動する国際援助団体に届けられました。
動画には、保安検査後のトラックの車列が映っています。人道支援の継続的な流れは、米国と合意し、カタールとエジプトが仲介した人質解放の枠組みの一部として、イスラエル政府によって承認されました」
プレスリリース 人道支援物資を積んだトラック200台がラファ検問所を経由してガザに入り、国際援助機関に届ける |イスラエル国防軍 (www.idf.il) 

このような状況の反面、イスラエル側の要求も厳しく、ハマスの人質解放の履行の遅れを許しません。
何月何日何時までに何人という約束が守られなければ、イスラエル側からは容赦なく「〇〇時前に履行しなかれば戦闘を再開する」という通告がでるのだそうです。
イスラエルのことですから、ブラフではなくほんとうに戦闘が再開するでしょう。

イスラエル型交渉術は日本と真逆で、片手にこん棒を握ったままで休戦交渉をします。
軍事的裏付けの優位性があって初めて交渉が成立すると考えています。
これについては、ハマスも合わせ鏡で同様の認識を持っています。
いま彼らが人質を返還に合意しているのは、4人いたハマスの軍事指揮官のうちすでに3人が戦死してしまい、継戦能力を喪失しかかっているからです。

ネタニヤフがガザ地区にイスラエル現職首相として初めて入って前線で戦うイスラエル軍を激励しましたが、その時彼が述べたのは、「人質全解放とハマスの壊滅という2つの大きな目標は変わらない」と強調することでした。
つまりネタニヤフに言わせれば、この休戦は停戦でもなければ終戦でもないということです。

「ネタニヤフ首相は、交渉で可能性として合意していた延長について、ハマスの出方次第で、人質10人解放につき休戦を1日延長(最大100人)し、パレスチナ囚人1人につき39人釈放する用意があると発表。ただし、10日間が限度であり、10日後からは、ハマス殲滅にむけた攻撃を再開すると発表した。これにより、コマはハマス側にある形となっ」
3回目イスラエル人14人解放:パレスチナ囚人39人釈放 2023.11.26 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

ただしネタニヤフも、人質が返還されるたびに喜びにわく国民を無視するわけにもいかないために、ハマスの人質解放次第で変化することはありえそうです。
またハマス以外にもイスラム聖戦が人質を押さえているようです。

「休戦での懸念はハマスのほか、イスラム過激テロ組織イスラム聖戦の動きだ。10月7日のテロはハマスと共に実行していた。彼らも人質を取っている。だから、ハマスがイスラエル側と休戦に合意しても、イスラム聖戦が納得しなければ、休戦合意が破棄される危険性が出てくる。ちなみに、人質解放初日にはイスラム聖戦が拘束していたイスラエル人の人質が1人含まれていたというから、現時点ではハマスの命令のもとに動いていることが確認されている」
(CNN11月28日)
ハマス以外が拘束の人質、40人以上 - CNN.co.jp

とまれ、私はここでイスラエルに武器を置いて、本格的停戦交渉に入ることを呼びかけます。
ここで休戦を本格的停戦にまで進めないと、たぶんこの紛争はこぶしの降ろし所を失います。

すでにガザ地区の大部分は、イスラエル軍のコントロール下にあります。
そしてハマスは軍事的能力の過半を喪失しています。
その意味で復仇はなったのです。
これ以上の戦闘は南部への侵攻を伴い、さらなる悲惨な犠牲とイスラエルの国際的孤立、そしてさらにはイスラエル社会の分裂をもたらす結果となるでしょう。
いったん武器を4日間でも置いた、置くことができたということを大事に思い、これ以上戦う意味を問う時ではありませんか。

 

2023年11月28日 (火)

中国発の感染症、再び発生か?

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まだ詳細はわかりませんが、中国で新たな感染症が発生した可能性があります。


「中国メディアはここ数日、病院が飽和状態にあると報じている。
WHOは22日の声明の中で、メディアや世界的なアウトブレイク監視システム「ProMed」が報告する「中国北部の子供における未診断の肺炎のクラスター感染」について、より詳しい情報を中国に求めたと述べた。
肺炎は、肺の感染や炎症を指す一般的な医療用語。さまざまなウイルスやバクテリア、菌類が原因となる。
中国国営・新華社通信はこれを受け、国家衛生健康委員会(NHC)高官の話として、呼吸器疾患のある子供たちの診断と治療に細心の注意を払っていると報じた」
(BBC11月24日)
中国で子供の肺炎増加、「新たな病原体は報告されていない」=WHO - BBCニュース

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Mystery Child Pneumonia Reported in China Hospitals | China In Focus - YouTube

また、WHOもこのように言っています。

 「世界保健機関(WHO)は2023年11月22日、中国北部の北京と遼寧省で、診断されていない呼吸器疾患の蔓延が報告され、小児病院が心配する親や病気の子供で包囲されていることを受け、中国政府に詳細な報告を求めた。
同機関は、インフルエンザ、SARS-CoV-2、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、マイコプラズマ肺炎など、流通しているすべての病原体について知ろうとしている。また、国内での肺炎の突然の発生による医療システムの現在の負担についても詳細な情報を求めた」
謎の肺炎のような病気が中国を襲い、パンデミックの恐怖を呼び起こす (downtoearth.org.in)

ただし、前回の武漢から発生したCOVID-19の時にそうであったように、今回もまたWHOは妙に中国に対して無警戒です。
WHOは他の国でもCOVID-19の制限解除時には同じことが起きるし、患者の収容能力にも問題がないさ、と異様に楽観的です。

中国は新型コロナを作った「指紋」をそこら中につけていた: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
WHO武漢調査は中国の強要だった、調査団長の証言: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
武漢株生物兵器説と超限戦: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
WHOの武漢「見学会」終わる: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

「WHOは11月23日、中国疾病予防管理センターと北京小児病院の保健当局と電話会議を開催し、国家衛生健康委員会と国家疾病管理予防管理総局の司会を務め、肺マイコプラズマによる小児の外来受診と入院が増加していることを示した5月から肺炎、10月からRSV、アデノウイルス、インフルエンザウイルス。これらの増加の一部は、歴史的に経験したよりも早い時期に発生しているが、他の国でも同様に経験したように、COVID-19の制限が解除されたことを考えると、予想外ではない」
(WHO疾病発生ニュース11月23日)
小児の呼吸器疾患の急増:中国北部 (who.int)

しかし、WHOが電話会議で済ませてしまった相手の中国疾病予防管理センター(CIC)は、名うての情報隠蔽機関であり、現地調査をする前からWHOがこの言い分を丸飲みすること自体解せません。
世界感染病監視ネットワーク「ProMED」は、過去の感染症で中国がとった一貫した情報隠蔽から、今回もまた情報隠しをしていると考えています。

「11月21日に報告された感染症の流行を世界規模で報告する公開監視システム「ProMED」は、中国が過去に透明性を欠いていたことから、当局が流行を隠蔽しているのではないかと疑問を呈した」
謎の肺炎のような病気が中国を襲い、パンデミックの恐怖を呼び起こす (downtoearth.org.in)

たとえば、WHOは現地における実態調査もせずに、中国当局のいうがままにこう言っています

「呼吸器疾患の増加は、患者の収容能力を超える結果にはなっていない」
(WHO前掲)

一方、ProMEDはこう述べています。

「北京小児病院は過密状態にあると報告されています。子どもたちは高熱と肺モジュールを発症したと、ある市民が話したとProMEDは報じた。中国の首都から約800キロ離れた遼寧省の大連小児病院では、病気の子どもたちが点滴を受けているのが目撃された。病院のスタッフは、患者が救急外来で2時間も並ばなければならなかったと不満を漏らした。
WHOによると、10月中旬以降、この地域では過去3年間の同時期と比較してインフルエンザ様疾患が増加していると報告されている。
しかしこれほど多くの子どもたちがこれほど早く罹患するのは珍しいため、この流行がいつ始まったのかは明らかではない、とProMedは述べた」
(downtoearth.org.in)


WHOは、COVID-19の発生初期の2019年12月末の時点で、パンデミックを知りながら、特別の措置も移動制限もするような警報を出すことを拒みました。
「中国当局からWHO中国事務所に対して武漢におけるCOVID-19感染症によるクラスターの発生が初めて報告されたのは、2019年12月31日であり、WHOは翌日には新型コロナ危機対応グループを立ち上げた。2020年1月10日には、国際的な旅行と貿易に関する指針を発した。
この指針の中では、現時点ではヒトからヒトへの重大な感染は発生しておらず、また医療従事者の感染も発生していないと評価、旅行者には一般的な健康管理上の注意を呼びかけつつも特別の措置を推奨せず、移動の制限にも触れていなかった。
貿易についても制限は出されなかった。12日付のWHOの感染症発生情報(Disease Outbreak News)によれば、WHOは、現在武漢で行われている調査と取り組み対策の質、定期的な情報共有に関する中国のコミットメントに不安はなく、現時点では医療従事者の感染はなく、ヒトからヒトへの感染の明らかな証拠もない、との評価であった」
JIIA -日本国際問題研究所-

まだ真相はわかっていませんが、ProMEDが指摘するように、中国のニュース報道をまとめただけで、北京を含む中国北部の病院が「不明の肺炎」で訪れた子供たちであふれていることはまぎれもない事実ですし、この感染症の急速な拡大は「異常」です。
中国当局に情報の透明化を要求するしかありません。

 

 

2023年11月27日 (月)

第1回人質返還

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ハマステロ紛争をめぐって初めて人質が返還されました。

「イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘休止は25日、2日目を迎え、解放された子どもたちがイスラエルに戻り、家族と対面した。
50日間拘束されていた8歳と12歳の少女は、軍の施設で家族と再会し、安堵(あんど)の表情を浮かべている。
ハマスが解放したのは、イスラエル人の女性5人と子ども8人に加え、外国人4人のあわせて17人の人質で、ハマスが襲撃した際の影響か、松葉づえを使って歩く女性や車で横たわる人の姿も確認できる」
(FNN11月26日)
家族と再会 ハマス50日拘束の少女 - Yahoo!ニュース

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FNN

一方、イスラエルも収監しているパレスチナ人39人を釈放しました。
返還された人質を迎えるイスラエル側が抑えた出迎えだったのに対して、パレスチナ側はまるで英雄の帰還のような歓迎風景でした。
すぐに政治集会が始まって、イスラエルの警備当局と小競り合いが始まっています。
ハマス側はこの人質解放を人道措置としてではなく、政治利用する気マンマンです。

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FNN

イスラエルの解放された人々がすべて無辜の拉致被害者たちであったのに対して、パレスチナ側の釈放者はテロに関わった受刑者たちでした。

「釈放されることになっていたのは、24人の女性と、15人の未成年テロリストたち(最年少は14歳)、計39人である。女性や未成年とはいえ、イスラエル人に対して、ナイフで殺そうとした者など、殺意をもってイスラエル人を襲った人々である。(略)
たとえば、24人の女性の一人、ナファズ・ハマッド(16)は、2021年に東エルサレムのシーカー・ジャラで、隣人だったイスラエル人モリア・コーヘンさんを後ろから刺して負傷させた。12年の実刑を受けていた。
イスラエルには、こうした未然に防いだテロで逮捕したパレスチナ人が7000人以上いるという。単独犯もいるが、ハマス、ファタハ、イスラム聖戦と関係があるテロリストたちが多い」
パレスチナ囚人39人を西岸地区ラマラへ釈放:パレスチナ人は大祝い 2023.11.25 – オリーブ山通信 (mtolive.net) 

いわばテロリストを野に放ってしまったわけで、イスラエル当局にとって忸怩たるものであったと思われます。
イスラエルが拘束していたパレスチナ人は7000人で、そのうち冤罪で捕らえられた者や正式に刑事訴追されないまま拘留延長された者もいるとBBCは伝えています。
これはイスラエルの民主主義のあり方として問題視されるべきでしょうが、いかに多くのテロや暴動が日常的にイスラエル国内で行われてきたかを物語っています。

また、民主主義などかけらもない古代世界的なハマスと、現代世界の民主主義を受け入れているイスラエルの非対称性があります。
これはこの戦争全般にいえることで、ハマスは国際法の枠外で好き放題のやり方ができますが、イスラエルは武力紛争法や国際人道法の枠内で戦うことを求められます。
ですから、ハマスは病院からあるいは避難民の列の中からイスラエル兵を攻撃しても問題視されませんが、イスラエルがそれに反撃しようものなら厳しく批判されます。

「囚人の多くはハマス、ファタハ、パレスチナのイスラム聖戦に所属しているが、中にはどの組織とも関係がない者もいる。
CNNによると、囚人たちが有罪判決を受けた罪状で最も多いのは、投石と「地域の治安を害した」ことだ。

その他の容疑としては、テロ組織支援、違法な武器使用の容疑、扇動などがある」
パレスチナ人女性24人、未成年者15人が刑務所から釈放され、ガザの人質をめぐる最初の取引が始まりました |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

イスラエル当局は、この中から比較的罪が軽いと考えられる300人の名簿を作成し、今回第1次として39人を釈放しました。
うち74人は東エルサレム住民です。

今年1月と2月には連続して東エルサレムでテロが起きています。

「東エルサレムで28日夜、ユダヤ教のシナゴーグ(会堂)が銃撃され、7人が死亡、少なくとも3人が負傷した。現地報道によると、東エルサレムに住むパレスチナ人男性による犯行という」
(BBC1月28日)
エルサレムのユダヤ教会堂で銃撃、7人死亡 - BBCニュース

そして2月には同じく東エルサレムで自動車によるテロで子供が亡くなっています。
イスラエル国内のテロは、このように銃器を使わずに車やナイフなどで殺傷する形が多いようです。
今回釈放された女性は、なんの恨みもない隣人のイスラエル人女性を背中から刺しています。
このような者はただの殺人犯として遇するべきでしょうが、パレスチナはこれを「民族の英雄」として迎え入れたわけです。

エルサレムで10日昼、車がバス停付近に突っ込み、6歳の子どもを含む2人が死亡、数人が負傷した。運転していた男は射殺された。イスラエル警察は、テロ事件として捜査を始めた。AP通信などが報じた。
 救急隊などによると、事件は10日午後1時半ごろに起きた。「バス停で複数の人が車にひかれた」との通報があったという。地元紙タイムズ・オブ・イスラエルによると、男は東エルサレム在住とみられる。
 パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの報道官は、この攻撃を「英雄的な作戦」と称賛したが、関与については触れなかった」
(朝日2月11日)
バス停に車が突っ込み2人死亡 イスラエル警察、テロとして捜査:朝日新聞デジタル (asahi.com) 

今後、不可避に東エルサレムや西岸地域で暴動やテロが活発化することでしょう。
またこの休戦を利用して、ハマスには戦闘員を南部に撤収させ、逆に民間人を北部に戻そうとするといった態勢を整える時間を与えられます。
そして最大限プロパガンダに利用し、西側メスディアはこれを受けて、「人道的ハマス、悪玉のイスラエル」という単純な図式で報じることになります。

これが人質返還の代償です。

それをよく理解した上でネタニヤフは人質解放交渉に望んだようです。

「ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、最終的に、この取引に伴うリスクを受け入れることを選んだのは、「彼らが得ている利益、つまり、人々が家族と再会する人々の信じられないようなイメージ、その人間性、達成感、そして、より多くの、そして最終的には、すべての人質が帰国する可能性と約束のために、」と彼はNBCの「ミート・ザ・プレス」に語っている」
米国は、より多くの人質を解放するために停戦が「もう1日、2日、または3日」延長されることを望んでいると述べています|タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

私はこの政治家をまったくといっていいほど評価していませんが、この言葉には説得力があります。

 

 

2023年11月26日 (日)

日曜写真館 山茶花に ほうほうの声憚らず

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一樹満白の山茶花 添水音 伊丹三樹彦

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山茶花に 生死大事の声ひびく 伊丹三樹彦

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山茶花に 対座の背骨立て直す 伊丹三樹彦

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山茶花に 声呑む仲間 良しとする 伊丹三樹彦

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山茶花に 娶らず逝きし子規のこと 伊丹三樹彦

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山茶花に 陽のうつろいの 永座り 伊丹三樹彦

 

 

 

2023年11月25日 (土)

中国、BRICS会議でイスラエル叩きを煽るも不発

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お見舞い、ありがとうございます。
なんとかシャキっとした合間に書いてしまおうとしております。

さて、このところめっきり政治力を落としている習近平が、今の反ユダヤ、反イスラエルの風に便乗して勢力拡張に勤しんでおられます。
あ、そうそう、イスラエルバッシングに夢中の皆さん、叩くべきはハマスなんでしょうか、それともイスラエルなのでしょうか。
いまや、イスラエル憎しの地金むき出しの方も大勢おられますね。

それはさておき、習近平の盟友はまたまたプーチン大帝。
ふたり共に手をとって、BRICS会議を使ってイスラエルとその後ろ楯である米国を叩こうとしたようです。

朝日はこう報じています。

「臨時会議は今年の議長国の南アが呼びかけた。BRICS首脳が特定の国際問題でこうした会合を開くのは異例。出席者は「非常に時宜を得たものだ」(プーチン・ロシア大統領)などと南アに賛辞を送った。
 BRICSは来年1月から拡大される予定で、AP通信によると、今回の会合には新たな加盟国であるエジプトサウジアラビア、イランなど6カ国の高官らも参加。8月の首脳会議で拡大を主導した中国の習近平(シーチンピン)国家主席は「我々がこの問題で立場をすりあわせ、行動を起こすことは、拡大後のBRICSによる協力関係のすばらしいスタートになる」と称賛した」
(朝日11月22日)
ガザ情勢めぐりBRICS首脳が特別会議 米欧と違う影響力アピール [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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朝日

それにしても習近平、いつもつまんなそうな顔しているね。むくんでるし。
正代といい勝負。
議長国南アの呼びかけとなっていますが、習近平のごり押しでしょう。
朝日はこのBRICSを主導しているのが中国だと思いたいとご様子で、この書きようにはその切ない気持ちが現れています。

「ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成される新興5カ国(BRICS)は21日、イスラエルパレスチナ情勢をめぐる臨時の首脳会議をオンラインで開いた。米欧が情勢の悪化を防ぐための建設的な役割を果たせないなか、グローバルサウスを代表する勢力としての存在感をアピールした。」
(朝日前掲)

「米欧が情勢の悪化を防ぐための建設的な役割を果たせないなか、グローバルサウスを代表する勢力としての存在感をアピールした」ですか。
朝日さんはあっさりと「米国が建設的役割を果たせないから」と言っていますが、いまどこの国の斡旋で人質釈放が可能となかったのかお忘れでしょうか。
中東諸国とイスラエルの両者と外交交渉ができる国は、世界ひろしといえど米国しかいないんですよ。
よもやイランなんていうんじゃないでしょうね。

ですからなんやかやで中東で圧倒的「存在感」を見せているのは、よくも悪しくも米国です。
イスラエルにたずなをつけるのも、イランを抑止するのも、タカールに話をつけたのも、全部米国の仕事です。
だからイスラエルが暴走すれば米国も批判されるのです。
存在感があるぶん失敗すればダメージを受けます。
中国なんて、アンタどこにいたの、ってていどの端役にすぎませんから、外野で勝手なことを言えるだけのことです。
中国がいなくても中東政治は回りますが、米国がいないとまったく回らないのが、今回よく分かったでしょう。

ほほう、いつから中国がBRICSを代表したのでしょうか(笑)。
そもそも、中国がオレ様ワールドと吹聴したい時に都合よく使われる「グローバルサウス」っていったいナニ?
概念規定すらあいまいです。
それをあいまいにしたままで、G7先進諸国と対置させようというのですからムリがありすぎます。
いやあいまいだから、朝日のように妙な思い込みができるのです。

かつて毛沢東時代にさんざん使われた「第3世界」のようなものなのかしら。
毛時代はこの「第3世界」を指導するのはオレ様だ、と露骨に言っていましたもんね。
いまでもその名残が、天安門のにバカでかく書いてある「世界人民大団結万歳」に残っています。

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【動画】天安門楼上、人民服の習氏 “毛沢東氏と並び立つ指導者”|【西日本新聞me】 (nishinippon.co.jp)

近隣諸国を侵略しまくって、あげくは南シナ海まで奪っておいて「世界ジンミンは団結せよ」もないもんですが、あのスローガンは毛の見果てぬ夢、世界はオレ様中国の膝下にひざまずけという意味です。
そしてこれをまんま継承したのが、ミニ毛沢東の習近平でした。
彼は経済の力を使って一帯一路で、世界に中国経済圏を作ろうとしましたが、哀れカンジンの中国経済の大失速で座礁。

かつての毛時代と違うのは、毛はソ連の平和共存政策を「社会帝国主義」と呼び、戦争も辞さない構えでしたが、今は違います。
なんとロシアは中国の経済圏に取り込まれ、政治的にいまや弟分。
今回もプーチンは、習近平に調子を合わせてこんなヨイショをしています。

[モスクワ 21日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は21日、オンライン形式で開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議で、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突の政治的な解決を呼びかけ、BRICSはこうした解決の実現に貢献できるとの考えを示した。
プーチン大統領は、米国の外交政策の失敗により中東危機が引き起こされたと改めて非難。「事態の緩和、停戦、イスラエル・ハマス紛争の政治的解決に向け、国際社会が共同で取り組むことを求める。この地域の国々のほか、BRICS諸国もこの取り組みに重要な役割を果せる」と述べた」
(ロイター11月21日)
BRICS、ガザ危機の政治解決に貢献可能=ロシア大統領(ロイター) - Yahoo!ニュース

プーチンがこのハマス紛争は「米国の外交政策の失敗」にあると言っている所から、そもそも間違いです。
米国がやってきたのはオスロ合意から始まり、アブラハム合意を経て、サウジのイスラエルとの国交回復まで一貫してこの地域の安定でした
米国の中東外交のキイワードは、民主、共和を貫いて一貫して「2国家共存」です。
パレスチナとアラブ諸国には、非現実的な「イスラエル消滅」路線を捨てさせ、一方イスラエルにはパレスチナ国家を認めさせました。
そして両者に普通の国家間の外交関係を取り戻させる、というのが米国の考えです。
たぶんこれ以外解決の方法はありません。

これを「米国の外交政策の誤り」と呼ぶなら、もはや残るのは戦国時代を思わすケイオスの復活で、イランが言う「イスラエルの消滅」しかなくなりますから、どこまでも戦争と緊張は続くことでしょう。
いやそのほうがいい、戦争はズっと続いてくれたほうが嬉しい、中東がテロと戦争の巷であるほうがありがたい、なぜなら中露が中東の政治地図に割り込めて世界の覇権を握れるから、というのがプーチンと習近平の思惑です。

ちょっと前に米国でシェールオイル生産が本格化した時、日本の経済評論家は口を揃えて、これで米国は中東に関心がなくなる、関与もしなくなると言っていましたが、そうはなりませんでした。

また、米国にとって最大の敵は中国だから、中東はお荷物なのだ、という人もいました。
同じ論法はウクライナでも使われましたが、それは逆なのです。
中東やウクライナで、自由主義陣営の盟主としての筋を通せば、中国はなにもできないし、無力なら中国が図に乗るだけです。

ですからいまも、地中海に空母打撃群を張り付けており、いざとなれば今のように空母2隻体制で中東ににらみを効かせています。
国務長官など、10月7日以降、ほとんど中東に現住所を移してしまいました。
こんなマネを中国ができるんだったら、「中国は存在感をアピールした」といえるんですがね。
このハマステロの時、王毅はどこでなにをしていたのか思い出して下さい。

では、せめて外野席にいるBRICSの中でくらい「中国がグローバルサウスで存在感を見せた」のでしょうか。
お気の毒ですが、ナッシングです。
だってBRICSは、「ぜったいにまとまらない集まり」にすぎないから。
BRICSは当初から、発展途上国からテイクオフしかけている国の漠然とした集合体でしかないからです。
綱領もないし、決まった行動規範もありませんから学級委員会のほうがまだましです。

ところでBRICSはこんな国々で構成されています。
まずはオリジナル版は、中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ。
経済崩壊一歩手前のロシアや、いまや経済絶賛大失速中の中国がリーダーヅラしているのはご愛嬌です。
ブラジルと南アは強インフレに悩み、いぜん元気の元太郎はインドくらいなもの。

BRICS拡大版は以下の13ヵ国で、アルジェリア、アルゼンチン、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、セネガル、ウズベキスタン、カンボジア、エチオピア、フィジー、マレーシア、タイですが、経済がメタメタな国がかなり混ざっています。
笑えることには、このBRICSという闇鍋をかき混ぜると、中東を不安定化させる便所のスリッパならぬイランも出てくることです。
これでまとまるわけはありませんが、習近平に言わせると、2022年6月のBRICSの会議でこう定義しています。

①BRICS陣営は人類85%の非西側諸国(発展途上国と新興国)を代表する。
②米国は、利己的な安全保障を求めて軍事同盟を拡大し、他国に陣営の対立を強要し、他国の権利と利益を無視しようとしている。
③米国は、閉鎖された小さなグループを作っている。
④一部の国は「長い腕の干渉」を通して一方的に他国を制裁し、科学技術の独占、封鎖、障壁を通じて、他国のイノベーションと発展を妨害し、自らの覇権を維持しようとしている。

この意味は説明する必要もありませんが、米国が「長い腕」を伸ばして、遠くからアジアや中東に干渉しているのはけしからん。
そして米国が「閉鎖された小グループ」、つまり日米豪印のクアッド、あるいは米英豪のオーカスのような軍事同盟を作るのはけしからん、というわけです。

もうすでにこの米国を中心とする対中枠組みにインドが入っているのが中国にとってなんとも腹立たしいところで、なんとしてでもBRICSの磁場に引き寄せたいところでしょう。
なんせ人口では既に中国を抜き、GDPでも急成長が著しく、来年には日本を抜くとまで言われているインドですから。
議長国の南アのラマポーザ大統領が、イスラエルは大虐殺をしていると盛んに煽ったのですが、インドはこの危機の発端が「10月7日のテロ攻撃にある」として譲りませんでした。

インドメディアによれば、ガザ情勢に対してインド代表はこう述べたとのことです。

「[ニューデリー]ナレンドラ・モディ首相は火曜日、イスラエルとガザに関するBRICS-Plus会議を欠席した。ジャイシャンカル外務大臣は、首相の代理としてバーチャルで会議に出席し、西アジアにおける差し迫った危機は10月7日のテロ攻撃によって引き起こされたと述べた。
「テロリズムそのものが懸念されるところでは、われわれの誰一人として、テロリズムに妥協すべきではないし、妥協することもできない。人質を取ることも同様に容認できず、容認できません。その後の展開は、大規模な民間人の死傷者と人道危機を目の当たりにする中で、私たちの懸念をさらに深めています。民間人の死を強く非難する」と述べた。
インドは、ガザ地区で進行中のイスラエルとハマスの紛争は、民間人、高齢者、女性、子供を含む計り知れない人的被害をもたらしていると述べた。
「我々は、緊張緩和に向けた国際社会のあらゆる努力を歓迎する。現在、人道支援と救援が効果的かつ安全にガザの人々に届くようにすることが急務です。また、すべての人質の解放も不可欠だ」と述べた」
(インディアンエクスプレス11月22日)
テロに対するゼロトレランスは、BRICSの会合でEAMは言う-ニューインディアンエクスプレス (newindianexpress.com)

というわけで、中東を米国の覇権の失墜と捉え、BRICSを後ろにつけていると思いたい中国が主導権を奪うという目論見はあえなく費えました。

 

 

2023年11月24日 (金)

ハマス、人質の一部を解放

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ハマスが人質を解放することを条件に、イスラエルが4日間の休戦に同意したようです。
カタールによれば、イスラエルとハマスの戦闘の休止は、24日午前7時(日本時間同日午後2時)から始まります。

「(CNN) イスラエル政府によると、同国の内閣はパレスチナ自治区ガザ地区から人質少なくとも50人の解放を実現する取引を承認した。解放されるのは女性と子ども。この取引により、イスラエルとガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの戦争が先月始まってから初の継続的な停戦が実現するとみられる。紛争拡大を防ぐ大きな一歩にもなる可能性がある。
人質の解放と引き替えに、イスラエル側はガザ地区での空と地上での作戦を4日間停止する。イスラエル政府の声明には、国内の拘禁施設にいるパレスチナ人の解放への言及はない。
これとは別の22日の声明によれば、ハマスはイスラエルで拘束されているパレスチナ人150人が合意の一環として解放されることを明らかにした。今回解放されるのは18歳以下の女性と子ども」
(CNN11月22日)
イスラエル、ハマスと人質解放の取引に合意 4日間の停戦 - CNN.co.jp

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ガザ戦闘休止 24日午後2時に開始 - Yahoo!ニュース

イスラエル側の報道はさらに詳しい報道をしています。

「イスラエルの内閣が詳述したように、木曜日から展開される予定の取引は、合計50人の生きているイスラエル人人質と引き換えに、4日間の戦闘の小康状態と、最大150人のパレスチナ人女性と未成年の囚人の釈放というものだった。
また、休止期間中のガザへの燃料や人道支援物資の流入も可能になる。もしハマスが、未成年者や非戦闘員の女性である人質を解放する追加で見つけることができれば、人質10人解放ごとに戦闘を1日余分に停止し、取引を最大10日間まで延長することができる。人質が解放されるごとに、さらに3人のパレスチナ人囚人が解放される。 」

拉致された女性と子どもの解放が木曜日の午前10時から開始 – イスラエル当局者 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

ニューズウィーク(11月22日)がこの交渉の舞台裏を報じています。
イスラエルとハマスによるガザ人質解放合意 米当局者が明かした緊迫の交渉の舞台裏|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

この間、米国はイスラエルに自制を呼びかけ、その一方舞台裏ではエジプトやタカールを間に立てて人質交渉をしていたようです。
時系列で追っていきます。
ハマスはぬらりくらりと人質を解放しないこともないと気を持たせつつ、具体的な人質の名前や解放する人数には沈黙するという引き延ばし策をとっていました。

一方、イスラエル側は、地上進攻にこれ以上の待ったはかけられないとしてジレていたようです。
本来ならば電撃的に反撃に移る必要があったのですが、この交渉待ちの焦燥が初期の猛爆を生み出したようです。

当然イスラエルは、これはハマスの地上進攻を遅らせるための時間稼ぎだと見ていました。
この足止めの期間を利用して、ハマスは守備部隊を残して4万ともいわれる戦闘員の主力と幹部を南部に逃亡させていました。
たぶん人質も南部に連れ去られているでしょう。

今後も、ハマスは戦闘状況が不利になるつど、人質釈放を持ち出してくることはまちがいありません。
そして最期の最期まで兵士らは釈放しないことでしょう。
ハマスは子供や女性を人道的理由から先行して解放しているのではなく、手がかかるからそうしているだけのことです。
実に池内恵氏らが言うように見事な「政治的アクターぶり」です。

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CNN

10月24日、 米国にハマスが人質解放の条件に同意したとの情報が入りましたが、イスラエルは人質が生きているという証拠を求めます。
これは当然の要求で、ハマスは音楽祭を襲撃し200名以上を虐殺した際に、血だらけになった重傷者や子供を拉致し去りましたが、この人たちの生存情報がありません。
そもそもハマスに人質解放の意志があるとしても、その規模がわからないのです。

「バイデン氏はその後3週間にわたり、具体的な協議を行った。その間、人質解放に向けた提案が交錯、ハマスに人質のリストとその身元情報、解放の保証を要求し、ワシントン、ドーハ、カイロ、ガザと連絡を取り合うという時間も手間もかかる作業が続いた。
やがて人質の段階的解放という構想が浮上し、バイデン氏はカタール首相と電話会談した。
構想は、第一段階としてハマスが女性と子どもの人質を解放し、それに応じる形でイスラエルが拘束しているパレスチナ人を解放するという内容だった」
(NW前掲)

つまりハマスの言い分は、イスラエルが押さえているパレスチナ人の釈放とバーター取引で、人質を返すということのようです。
しかもハマスは狡猾にも、「50人解放する」としながらも、人質の生存情報や身元などを開示しませんでした。
11月9日、バーンズCIA長官は合意案づくりのために、ドーハでカタール首脳やモサドのバルネア長官と会っています。
この時点での最大の障害は、ハマスが人質情報を出さないことでした。
11月12日、バイデンはカタールのタミム首長に直接電話し、50人の人質の名前、年齢、性別、国籍などの明確な身元情報を要求しました。
その後まもなく、ようやくハマスは第一段階で解放する50人の人質の詳細情報を開示しました。

11月14日、バイデンはネタニヤフに電話でこの合意案で受諾するようにと話し、ネタニヤフも同意しました。
11月18日、最終合意案として、第一段階で女性と子どもを解放するとしたうえで、全員の解放をにらみ、さらなる解放の見通しも盛り込む形の案がまとまりました。
11月19日、米国はカイロでエジプト情報当局のカミル長官と面会し、ハマス幹部が前日ドーハで策定された合意事項のほぼ全てを受け入れたとの報を伝えられました。

これに対するイスラエルの対応ですが、イスラエルでも議会ではわずかですが、反対がでました。

「カタール、エジプト、アメリカが仲介して出てきたハマスとの人質解放に関する提案について、イスラエルの閣議(連立政権の議員たち)は、火曜夜から徹夜で審議し、22日(水)早朝、採択をとった。結果、賛成35、反対3でこれを受け入れることで可決したと発表した。
反対したのは、極右政党のベングヴィル氏と、シオニスト政党のスモトリッチ氏らで、「休戦はハマスに回復の時間を与えることになる。一部の人質は戻っても残りが戻らない可能性がある。結局、ハマスへの継続した圧力こそが人質全員の解放につながる。」と熱く反対意見を出していた。
しかし、ネタニヤフ首相とリクード、国民統一党、ユダヤ教政党、イスラエル軍、シンベト(国内諜報機関)、モサド(諜報機関)も賛成票を投じたことから、交渉を受け入れる形になったということである」
イスラエルが人質解放取引に応じることで可決 2023.11.22 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

そしてイスラエルの具体案はこうです。

「イスラエルの首相官邸は声明を発表。少なくとも50人の人質(女性と子供)が4日間にわたって解放され、その間に戦闘が休止されるとした。また、追加で人質10人が解放されるごとに、戦闘休止が1日延長されるとした。その上で、「イスラエル政府、IDF(イスラエル軍)、治安部隊は、人質全員を帰還させ、ハマス壊滅を完了させ、ガザからイスラエルへの新たな脅威がなくなることを確実にするため、戦闘を継続する」とした」
(BBC11月22日)
人質一部解放と4日間の戦闘休止へ イスラエルがハマスとの合意案を承認 - BBCニュース

初回は女性、子供を中心にして人質50人を4日間に分けて解放し、その間は戦闘を休止させる。
そして以後追加で10人解放するごとに1日延長させる、というものです。
ただし、これで戦闘を停止するわけではなく、ハマス壊滅まで戦いは継続するということのようです。
ハマス指導部や主力が南部に逃げた以上、致し方ないのかもしれません。

テロ攻撃を受けたのが10月7日、そして地上進攻は11月3日。
実に一カ月間、イスラエル地上軍は地上進攻を見送っていたことになります。
この人質問題がなければ、テロ攻撃をしかけられた翌日に侵攻して叩き潰せたものを。
そして地上部隊だけの攻撃によって、空爆を抑制することも可能だったはずです。
この歯車の狂いが、イスラエルにジェノサイドという汚名をかぶせてしまいました。

この流れを見ると、イスラエルはかなり譲歩しています。
ハマスの要求を飲む形での展開であり、今回の釈放は200人といわれる人質の4分の1でしかありません。
しかしここでひとりでも人質を取り返さねば、というイスラエルの苦しい選択でした。

 

蛇足
風邪をひきました。喉は痛み、頭はグラグラ、鼻水はでっぱなし、全身はかったるいし、もうヨーこんなもん書いているなと我ながら思っております。明日休んだらごめんね。

 

 

 

 

2023年11月23日 (木)

北弾道ミサイル実験、失敗か?

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多くの日本人がそうであるように、私も怒るきにもなりませんが、北朝鮮がまたまたまた(以下略)弾道ミサイル実験をしました。
これまた言う気にもなりませんが、弾道ミサイル実験はもちろん国連制裁決議違反です。

「北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の立ち会いのもと、21日夜、北西部の「ソヘ(西海)衛星発射場」で行われた、軍事偵察衛星の3回目の打ち上げのもようを捉えた写真を22日放送しました。
写真からは、白い塗装で北朝鮮の国旗の下にハングルで「朝鮮」と表記され、一日に千里を駆けるとされる伝説の馬「チョルリマ(千里馬)」などがデザインされた新型ロケットが、オレンジ色の炎を吹き出しながら上昇していく様子が確認できます」
(NHK11月22日)
北朝鮮 “軍事偵察衛星” 打ち上げの写真公開 成功アピール | NHK | 北朝鮮 ミサイル

あ~、ばかばかしい、破ってしまって居直れば済むという程度が国連制裁決議人1695、1718、1874で、国連もずいぶんと馬鹿にされたものです。
まぁ、馬鹿にされて仕方がありませんね。

北からすればさらなる制裁強化を米国が提案しても、安保理で中露が拒否権を必ず出してくれますから、やりたい放題です。
そもそも紛争を起こしているのが常任理事国の中露ですから、永遠にナニも決まりません。
ないほうがまし。

一方、開かれていたG7外相会議は即座に非難声明を出しました。

「先進7カ国(G7)外相は22日、北朝鮮による軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げを受けて共同声明を発表し、弾道ミサイル技術を使用した発射を最も強い言葉で非難した
(産経11月22日)
G7外相が声明 北朝鮮の偵察衛星発射を強い言葉で非難 - 産経ニュース (sankei.com)

今回のイスラエルの一件といい、もはや国連は機能不全を通り越して、ないほうがましとなっている中、G7を核にしてあらたな国際的枠組みを作る必要があるようです。

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NHK

どうやら今回も失敗したようです。

「防衛省関係者によりますと、22日午前の時点でも地球の周回軌道への衛星の投入は確認されていないということで、防衛省が引き続き情報を詳しく分析しています。
防衛省によりますと、21日午後10時43分ごろ、北朝鮮の衛星発射場がある北西部のトンチャンリから、衛星の打ち上げを目的として弾道ミサイル技術を使用したものが発射されました。
発射されたものは複数に分離し、このうち1つは沖縄本島と宮古島の間の上空を通過したあと、小笠原諸島の沖ノ鳥島の南西およそ1200キロの太平洋に落下したと推定されていて、22日未明の時点で地球の周回軌道への衛星の投入は確認されていないとしています。
防衛省関係者によりますと、衛星が軌道に投入された場合は一般的にはおよそ1時間半ごとに地球を1周しますが、22日午前の時点でも軌道への投入は確認されていないということです」
(NHK前掲)

「複数に分離した」というのは分解してしまったということです。

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北朝鮮発射 “地球周回軌道への衛星投入 確認されず” 政府 | NHK | 北朝鮮 ミサイル

おそらく前回5月と同じように2段目、ないしは3段目の推力不足により、分離に失敗して爆発して分解したようですが、まだ詳しいことはわかっていません。
また、軍事偵察衛星ならば、かならず必要になる地上との交信は確認されていないようです。

日本政府は失敗したとしています。

「松野官房長官は午前の記者会見で「北朝鮮が衛星の打ち上げに成功したと発表していることは承知しているが、現時点で地球周回軌道への衛星の投入は 確認されていないと認識している」と述べました」
(NHK前掲)

※追記
どうやら成功したようです。

「夕方になり北朝鮮の朝鮮中央通信は「偵察衛星がグアム島のアンダーセン米空軍基地の撮影に成功、12月1日より本格運用開始」と報告、そして韓国軍は北朝鮮の偵察衛星の軌道投入を確認、アメリカ宇宙軍も衛星軌道上に二つの新しい物体(衛星および第3段ロケットと推定)が乗ったことをカタログに記載しました。北朝鮮は今年2回の失敗を経て3回目にして、遂に初めて偵察衛星の軌道投入に成功したのです」
(JSF11月22日)
北朝鮮が偵察衛星の軌道投入に成功(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

米宇宙軍が確認していますから、間違いないと思われます。

 

え、なになに、今回は偵察衛星だから弾道ミサイルじゃないだろうって。
同じです。弾道ミサイルと人工衛星ロケットの運搬体は共通、使う技術もまったく同じ。
違いは、「なにを載せているのか」だけです。
弾道ミサイルは核弾頭ですが、軍事偵察衛星は偵察衛星だということになっています。

ただし、弾道ミサイルの方はいったん宇宙空間に出て、楕円軌道を描いてから地上に再突入しますが、北がこの再突入という難関をクリアしたという証拠はありません。
ですから、北の火星ナンジャラは、現在はただのロケットにすぎません。

一方、軍事偵察衛星人工衛星運搬体は低高度の軌道に載せなければならないので、ほとんど水平に飛ばし、高度約500kmの低空軌道へ投入します。
これは低空でなければ、地上を監視できないからです。

軍事情報を常時収集するつもりだ、と軍事委員会は述べています。

「北朝鮮の朝鮮中央通信は30日、朝鮮人民軍を統括する李炳哲(リ・ビョンチョル)朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長が29日、「軍事偵察衛星1号機を6月にすぐ発射することになる」と表明したと伝えた。李氏は、他にも多様な偵察手段を実験予定だとし、「米国とその追従戦力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視し、軍事的準備態勢を強化するのに不可欠だ」と主張した」
(産経2023年5月30日)
北軍首脳が偵察衛星を6月発射と表明 「米の軍事行動を即時監視」 - 産経ニュース (sankei.com)

低く飛べば解像度が高い画像が得られる代わりに監視できる範囲は必然的に狭まります。
ですから、偵察衛星は同一の軌道を周回するのではなく、少しずつ軌道を変えて飛行して広域をカバーするか、多数の衛星がペアになって監視するようにしています。

北朝鮮が欲しい軍事情報は朝鮮半島における米韓軍の動きと近海における米空母の動向でしょうが、1基偵察衛星が上がっただけではほとんど無意味です。
よく安易に「北や中国は米空母の位置情報を知ろうとしている」などという人がいますが、バカ言っちゃいけない。
米海軍の空母の位置は最高ランクの秘密ですから、大洋に撒いたゴマ粒のような艦船を発見するには、どれだけの衛星が必要なのかわかって言ってほしいものです。

というのは地球周回軌道にうまく乗せたとしても、衛星はすぐに必要とされる地上目標の上空を通過してしまうからです。
また偵察衛星は地上を監視する性格上、人工衛星としてはギリギリまで低い1000キロで飛行せねばなりません。
一般的に、衛星は4日で同じ位置に回帰するため、地球上の任意地点を毎日最低1回は観測可能となるように、数基がペアで飛行します。

軍事偵察衛星で遅れをとった日本の場合でも、2組計4機の体制を構築することから始まり、2003年以来、高性能化のための18機(うち2基は技術実証衛星)の衛星が打ち上げられ、2023年1月現在は8機が稼働しています。

日米韓にとって、北朝鮮が軍事偵察衛星にうつつを抜かすことはいいことです。
役に立たない軍事偵察衛星を実験し続ければ、本命のICBMやIRBMの開発と増産を圧迫してしまうからです。



 

2023年11月22日 (水)

フーシ派の船舶乗っ取りを「拿捕」と言うな

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イエメンのフーシ派が、紅海において日本郵船が運用している自動車運搬船を乗っ取りました。
イエメンのホデイダ港へ連れて行かれたようです。

「アラビア半島西側の紅海で、日本郵船が運航していた自動車運搬船がイエメンの親イラン武装組織フーシ派により乗っ取られた。
運搬船はバハマ船籍で英国企業の所有だ。日本郵船がチャーターしてトルコからインドへ向かっていた。
捕まった乗組員25人の国籍はブルガリア、ウクライナ、フィリピンなどで、日本人やイスラエル人はいなかった。イスラエルメディアは、イスラエルの実業家が船の所有に関係していると報じた」
(産経11月21日)
貨物船乗っ取り 紅海での航行の自由守れ - 産経ニュース (sankei.com)

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イスラエルタイムス

この船の権利関係は複雑です。

「乗組員は、ブルガリアやフィリピンなど、様々な国籍を持つ25人。拿捕された時点で積荷はなく、日本人もイスラエル人も乗船していなかった。非常にややこしいことに船はイギリスの旗印で、日本郵船がチャーターしていた。しかし船の所有者はイスラエル人ビジネスマンと関連があるとのことである」
フーシ派が拿捕した日本郵船関連の船:世界の海運に懸念 2023.11.21 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

つまりパナマ船籍、英国所有、日本が運行、乗組員は多国籍ということのようです。

ちなみに、ことイラン絡みになると腰が引ける日本政府は、これを「拿捕」と呼んでいました。
松野さんは前回は「他のG7諸国は人質がいるがウチはいないから共同声明に乗らない」と突き放してみせ、今回はフーシ派をまるで主権国家扱いです。

[東京 20日 ロイター] - 松野博一官房長官は20日の閣議後会見で、日本郵船(9101.T)が運航する自動車運搬船が紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシ派に拿捕されたことについて、断固非難するとしたうえで、関係国と連携し、船舶と船員の解放に取り組んでいると語った」
(ロイター11月20日)
日本郵船の運航船拿捕を非難、早期解放に取り組む=官房長官 | ロイター (reuters.com)

「拿捕」とは主権国家がなす海洋警察行為のひとつです。

軍艦が、敵国や中立国の船舶支配下におくこと。戦時中では禁制品輸送封鎖侵破といった理由で行われた」
拿捕 と は – jupontyi.jettysuites.com

国連海洋法条約では、公海上の臨検と拿捕についてこのように例示しています。
もちろんこのどれにも該当しません。

「公海上で(軍艦・公船を除く)外国船舶への臨検が認められる旗国主義の例外にあたる場合として、当該外国船が①海賊行為、②奴隷取引、③無許可放送のいずれかに従事している場合」
202012.pdf (mod.go.jp) 

今回、この乗っ取りを働いたフーシ派は、イエメン内乱の当事者であり、勝手に「イエメン政府」や「イエメン軍」を名乗っているテロ組織です。
ハマスやヒズボラと一緒で、イラン革命防衛隊コッズ部隊の「作品」です。

いかなる意味でも主権国家ではなくテロリスト団体にすぎませんから、フーシ派には国家格はありません。
むしろ主権国から、海賊行為として臨検を受け、拿捕されるべきなのはこのフーシ派のほうです。
官房長官は海保の所轄である国交省のレクを受けなかったみえます。

また官房長官は、「断固非難する。関係国と連携して船舶および船員の早期解放のため取り組んでいる」と述べていますが、いったい誰に「乗組員と船舶の解放に全力を尽くしてもらいたい」と頼んでいるのでしょうか。
よもや「特別な友好関係にある」イランじゃないでしょうね。
たぶんそうだろうから、いやーな気分になります。

フーシ派はヘリまで使った大作戦をしていますが、笑えることにはこの船は荷を降ろしたあとの空船で、次の寄港地に向かう途中でした。
つまり空船。船員はウクライナ人などです。

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フーシ派、イスラエル船を「正当な標的」と発言、世界の海運への脅威が高まる |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

「イスラエルの船は、どこにいても我々にとって正当な標的だ。そして、我々は行動を起こすことを躊躇しない」と、フーシ派の軍幹部であるアリ・アル・モシュキ(自称「少将」)は、グループのアル・マシラ・テレビ局に語ったそうです。
彼らのテレビ局の公式な宣言です。
「イエメン軍」とありますが、これは前述のとおりフーシ派の私兵です。

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アル・マシラー・ネット:イエメン軍:我々は、敵組織の旗を掲げている、またはシオニスト企業によって運営または所有されているすべての船舶を標的にします (masirahtv.net)

●フーシ派の要求
①イスラエル企業によって運行されている船舶は標的。
②イスラエル企業が所有するあらゆる船舶は標的。

③以上の船舶に乗る乗組員を世界の政府は撤退させよ。

要するに、イスラエルと関わったら全部「拿捕」するということのようです。
目的は、パレスチナ「国旗」と彼らの旗を「拿捕」した船に掲げたことから分かるように、紅海で外国船籍の船をハイジャックすることが「ガザ虐殺を止める」方法だと思っているようです。

内容的にはむちゃくちゃで、公海上を航行する船舶は、国連決議で禁止された国や物資に抵触しないかぎり、どこの国のなにを運ぼうと自由です。
これは国際海洋法の大原則である「航行の自由」で保証されています。
また、紅海における度重なるイランの船舶攻撃に対して「国際海洋安全保障構成体」が存在します。
これはる1980年代に繰り広げられたイラン・イラク戦争においてイラクを支援していたクウェート、サウジのタンカーがイランからの攻撃に晒されるようになり、海軍を持たないクウェートやサウジが米国に対して自国のタンカーの護衛を要請していたことから始まっています。
いまもなお続く紅海でのタンカー攻撃に対して米海軍が中心となって作られたのがこのIMSC︓International Maritime Security Construct)です。

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「IMSCは当初,米,英,豪,バーレーンの4カ国で開始されたが,現在はアルバニア,バーレーン,エストニア,リトアニア,ルーマニア,サウジアラビア,セーシェル,UAE,英,米,ラトビアの11カ国が参加する枠組みに成長している」
中東情勢分析_中東地域における海洋安全保障を巡る米中競合の実態 (jccme.or.jp)

このような枠組みが実在するにもかかわらず、親イラン政策に足をとられて日本は参加していません。
海洋安全保障を共同で担う国際的役割から逃げていたら、じぶんの国の運用する船舶が攻撃されてしまったという悲喜劇です。
いいかげん、日本政府も分かりなさいよ。イランは日本との「特別な友好関係」なんぞみじんも感じていないのですよ。
むしろ米国の犬くらいに蔑んでいます。

もし親イラン政策を取り続ける理由を「原油輸送の安定」にあるというなら、真逆です。
イランはアラビア半島を挟んで2カ所、チョークポイント(狭まった場所)を押さえています。
西がフーシ派のバブ・アル・マンダブ海峡、東がイランのホルムズ海峡です。
原油輸送を妨害している最大の敵はイランとその眷属なのです。

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世界経済の脅威となったフーシ派のドローン攻撃 原油価格高騰を招くサウジアラビアの地政学リスク(4/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

彼らは今まで頻繁に通過する船舶を攻撃してきました。
そしてすぐ近くには海自がアデン湾の海賊対処行動で、航空機や艦船を派遣しており、目の前のジブチには基地まであります。

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2 海賊行為への対処 (mod.go.jp)

ですから、日本政府がその気にさえなれば、直ちに海自をバブ・アル・マンダブ海峡やホルムズ海峡に派遣できる能力があるのです。

そもそもこういう恥ずかしい状況で、いったい誰に「協力を要請する」のでしょう。
イランですか、それともIMSCでしょうか。
仮にイランに要請したなら、広域暴力団に2次団体とのトラブルの仲介を頼むようなものです。

しかし中東学会の「権威」池内恵東大教授はこう言っています。

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はーい池内先生、日本も頼りにならない米国を捨てて、イランに「頭を下げて歩み寄りましょう」。
その代償に、イランからはイスラエルのガザ侵攻への制裁、あるいはイスラエルとの断交くらいは要求されるしょうし、日米同盟は瓦解するかもしれませんが、なんちゃことありません。
イランとそのバックにいる中国とロシアに着いていけばいいだけのことですから。

 



 

2023年11月21日 (火)

トンネルの証拠は見つからなかっただって?

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どうも世の中では、ガザのシファ病院からはトンネルは見つからなかったということになっているようです。
いつのまにか、かつては中東学会の古い左翼体質を体現していた高橋和雄氏と、かつてはその批判者だったはずの池内恵氏が、仲むつまじくこんな交換日記を交わす異様な光景が見られます。
そして篠田氏と池内氏を師と仰ぐお調子者の上念氏までが、病院にはナンの証拠もなかったと決めつけています。
ちなみにこの人、初めはテッテイ的にやれと言ってたんですが、師の意見を聞くや180度旋回。

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中東学者らがこの調子ですから、サヨク業界の皆さんは早くも「ガザジェノサイド」という呼び、イスラエルに輸出している商社まで死の商人と呼んで抗議行動をするように呼びかけています。
なんでも「軍拡阻止」だとか。よろずすべてが安全保障をぶっ壊したい欲求に繋がる人たちらしいですね。
商売繁盛でけっこうなことです。

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『ウィーン発コンフィデンシャル』の長谷川良氏が「加害者と被害者の逆転現象」だと嘆いていました。
同感です。

「パレスチナ自治区のガザ地区を2007年以来実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」が先月7日、イスラエルとの境界網を破り、近くで開催されていた音楽祭を襲撃し、キブツ(集団農園)に侵攻して多数のユダヤ人を虐殺したテロ事件が報じられると、世界はその残虐性に衝撃を受け、ユダヤ人犠牲者に同情心や連帯感が寄せられたが、時間の経過に連れてその同情心、連帯感は薄れ、中東紛争でこれまでよく見られた「加害者」と「被害者」の逆転現象が起きている」
「加害者」と「被害者」の逆転現象 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

加害者がいつのまにか被害者にすり替わり、ジェノサイドを止めろと叫び、「ガザを人が住めない土地にするな」と言う、それに世界の空気が共鳴してしまう、まったくやれやれです。
「平和構築学者」までが、ハマスと声を揃えて「快楽殺人国家」と呼ぶのですから、もう末世ですね。

ひとつお聞きしたいのですが、この人たちは一回くらいは片方の当事者であるイスラエル国防軍(IDF)の公式チャンネルくらいはご覧になったことがおありでしょうね。
この人らの情報は、制圧初期の先週末で止まったままです。
その後決定的ともいえる今回の情報が開示されたのですが、たぶん修正はしないでしょう。
一回印象づけたら勝ち、その後に都合が悪い証拠がでても黙殺、これが彼らの流儀ですから

修正するくらいの柔軟性があったら、こうも簡単に「トンネルの証拠はなにも見つからなかった」と言ってのけて、高橋氏のように「捜し物はなんですか♪見つけにくいモノですか♪」なんて楽しげに歌えるはずがありません。

私はこういう情報が錯綜している場合、当事者の1次情報に当たります。

イスラエルのシファ病院捜索についてメディアは「イスラエル軍はあったと主張しているけどね」というだけで、具体的にはあまり報じられていません。

イスラエル軍の公式サイトはこのシファ病院のトンネル施設について2本の動画を上げています。
IDFの記事と動画を重ねてご紹介しておきます。
暴露:シファ病院の地下にある要塞化されたテロトンネル |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
videoidf.azureedge.net/b9216285-5630-44f4-87a0-7f8f543de11f
videoidf.azureedge.net/95c68ff8-19f4-47ce-aeee-fe08589192cf

まず、シファ病院全体の見取り図はこのようになります。
赤い部分がテロリストの武器が見つかったり、トンネルなどの施設です。
idfanc.activetrail.biz/ANC191120236846486486

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「イスラエル国防軍とISAの諜報情報に基づき、イスラエル国防軍はシファ病院の地下10メートルにある長さ55メートルのテロトンネルを暴露した。深い階段を上るとトンネル立坑の入り口に通じており、防爆扉や発射孔など様々な防御手段で構成されている。
この種のドアは、ハマスのテロ組織が、イスラエル軍が司令部やハマスの地下施設に入るのを阻止するために使用している」

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このトンネルの立坑は、RPG、爆発物、カラシニコフライフルなど多数の武器を積んだ車両と並んで、病院の小屋の下のエリアで発見されました。
病院と武器を積んだ車両との位置関係はフェンスから縦穴までわずかの距離でした。

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この武器を積んだ車の内部にあった武器類です。

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自動車のそばの縦穴は下に10m下り、そこから横に5m行ってから50メートル下り、爆風防止扉に行き着きます。
トンネルについて、ニューズウィークはこう述べています。

「報道や研究、イスラエル・ハマス双方の情報から判断すると、ガザに要塞化された複雑な「地下都市」が存在するのは間違いないだろう。
ガザのハマス政治部門指導者ヤヒヤ・シンワールに言わせれば、同地区の地下に建設したトンネルは最大で総延長500キロに及ぶ。ハマスの人質や捕虜は、今回拘束された人々も含めて、巨大な地下施設に収容されたと証言した。
コンクリートで補強されたハマスの地下通路は「恐怖の地下都市」であり、国際社会がガザ住民支援のために寄付した建設資材を盗用したものだと、イスラエル軍は主張する。国連もハマスが人道援助物資を流用していると申し立てたが、後に撤回している。
イスラエル側によれば、多くのトンネルの入り口は「学校やモスク(イスラム礼拝所)や病院など、民間人施設の間に隠されて」いる。イスラエル軍は2014年、パレスチナ人の住宅にある洗濯機がトンネルの入り口になっていたケースも報告している」
(ニューズウィーク11月20日)
ガザ攻防「地下戦」研究者が語るイスラエル特殊部隊の実力、全長500キロの要塞への入り口は洗濯機にも!?|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

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内部は暗く、コンクリートで塗られたトンネルが続きます。

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これは縦穴の底から数m横に行った部分です。
さらに斜面を下るとこのようになります。

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また、シファ病院の監視カメラからは、タイ人とネパール人が病院に拉致されている様子が記録に残されていました。

「日曜日、イスラエル国防軍は、ハマスのテロリストが、10月7日にイスラエルから拉致されたネパール人とタイ人の市民をガザ市の医療センターに連れてきて、パレスチナのテロ組織がそこで誘拐されたイスラエル兵を殺害したと非難している様子を映したシファ病院の監視カメラ映像を公開した」
イスラエル国防軍:人質はシファで殺害された。10月7日、ハマスが2人の人質を取った映像 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

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IDF: Hostage was killed in Shifa; clip shows Hamas take 2 other hostages there on Oct 7 | The Times of Israel

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以上がイスラエル軍が現時点で開示している証拠映像です。
証拠があがらなかったどころか、トンネルは出てくるわ、武器を積んだ車両は見つかるわ、人質の拉致現場を撮った監視カメラ映像まで飛び出すわ、なんですが、あ、これはプロパガンダで自作自演なんでしたっけね。
まぁ「快楽殺人国家」が行っていることなど信じられるか、というのなら、どうぞご勝手にというしかありません。
いつまでも捜し物はなんですか♪と季節外れの盆踊りを踊っているがいい。

イスラエルに対して批判するのはけっこうです。
私も過剰な空爆や民間人被害を批判してきました。
しかし、それをジェノサイドと称したり、ガザを人が住めなくなる土地に変えるのが目的だとまで言うのはバランスを欠いていませんか。
そしてこういう偏った言辞は、なにがイスラエルの対ハマス作戦の目的なのかをわからなくします。

また、この紛争のもう一方のハマスの責任を免罪します。
多くの人が言うように確かに民間人被害はが多いことは胸が痛みますが、ガザ市内からイスラエルに5000発ものロケット弾を発射し、イスラエル領に侵入して1200名以上もの人を虐殺し、200人以上の人質をガザ市内に連れ込んだのは誰なのでしょうか。

ハマスをまるで一国の「軍隊」のように説明する人がいますが、ならば「軍隊」としての最優先任務は自国民保護です。
「国民」を避難をさせず、むしろ意図的に戦場に放置したのは誰なのでしょうか。
いや守るどころか、市民の住む民間施設から発砲し、病院を武器庫や司令拠点にしたのはいったい誰だったのか。
公然とハマスの指導者が人間の楯で守ると言っていたとおり、犠牲者は積み上がったのです。
そのことに対する責任を問わずして、イスラエルがジェノサイドを働いているとまで言うならば何をかいわんやです。

 

 

 

 

2023年11月20日 (月)

イラン提案すべて否決

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イランは中東諸国の中で異端の地位に甘んじています。
アラブ諸国がスンニ派であるに対してイランはシーア派であり、なおかつアラブ人ではなく、ペルシャ語を話すペルシャ人だからです。
そしてなによりイランは中東諸国の王政を打倒するために、イスラム過激派を各国に送り込んできました。
ガザのハマス軍事部門「カッサム旅団」、「パレスチナ・イスラム聖戦」、紅海でタンカーを襲撃しサウジを攻撃する「フーシ派」、レバノンの「ヒズボラ」、イラクの「バドル機構」、「アサイブ・アフル・ハック)「カタイブ・ヒズボラ」などなど両手両足の数より多いテロリスト団体の元締めがイランであり、その実行部隊がコッズ部隊です。
世界一のテロ支援国家であることだけは間違いありません。

ハマスはいうまでもなくヒズボラも参戦し、フーシ派は19日、日本郵船の貨物船を乗っ取りました。
シーア派武装組織フーシ派、紅海で日本郵船の貨物船乗っ取りか(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

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【ディープ解説】参戦はあるのか? イランから見たイスラエル・ハマス戦争 - 政治・国際 - ニュース|週プレNEWS (shueisha.co.jp)

これだけ手広く湾岸各国にテロを仕掛ければ、孤立して当然です。
こんな国と「伝統的友好」がある、と誇らしげにいうどこかの国の政府の気持ちがわかりません。
まるで中露と「独自のパイプ」があると言って民間外交をしまくっていた故池田大作氏みたいなものです。
それとも北朝鮮に対する中国にでもなった気分なのでしょうか。
あいにく、あちらは「友情」などかけらもないようですが。

そのイランが大きな顔ができる機会はメッタに来ません。
「アラブの大義」を振りかざして、いまぞイスラエル人を地中海に追い落とせ、と叫べる今のような時期だけです。
他のアラブ諸国のイスラエルと普通の外交関係を持とうとする路線が動揺している今を除いて、イランの影響力を拡大する時期はないからです。
イランは積極的な外交攻勢に乗り出しました。

さっそく10月17日には、イランと「歴史的友好関係」を誇る日本からは川上外相が電話をかけてきて、ハマスに働きかけて調停してほしいと要請されました。

「さらに、上川大臣から、ハマス等に対してイランからも働きかけ、事態の沈静化に向けた役割を果たすよう求めました」
日・イラン外相電話会談|外務省 (mofa.go.jp) 

G7議長国から、なんとか仲介の労をとってくれと言われれば、悪い気はしませんね。
もちろんハマスのクリエーターは他ならぬイランですから、内心は笑いこけていたことでしょうが。
まぁ、どうせ言っちゃナンですが日本の中東での影響力などゼロです

前述したようにイランは手下であるフーシ派を使って日本郵船の貨物船を乗っ取りましたが、上川大臣、どうしますか。
またまたイランに「仲介」をお願いするのでしょうか。
それとも日本籍船舶だが、日本人がいないのでまた「被害者の中には日本人はいなかったから関係ない」とスルーするんでしょうか。
もういいかげんイランの正体に気がつきなさい。

米国はすでに紅海におけるホルムズ海峡の兵力増加を決定し、ここを通過する民間船舶に米軍を搭乗させる計画を立ててます。
米海軍のパトロールもこの事件を受けて始まるでしょう。
たぶん遠からず、海賊対策でジブチに派遣されている海自に派遣要請が来ることでしょう。
そういう時になって、まだ「伝統的友好関係」が大事、非西欧で唯一のイランの理解者などと言うつもりだとしたら心底嘲笑を浴びるはずです。

日本の中東への影響力などゼロですから放っておいてもいいのですが、ここぞと中東諸国のリーダーシップを握ろうとしました。 それはさておき、イランにとって「ガザ住民を救え」は、アラブ諸国が反対できない絶好のネタでした。

「イラン国営放送IRNA通信は13日、「アラブ諸国とイスラム諸国を動員し、シオニスト政権の犯罪に対する国際社会の関心を集めるイランの外交努力は成功している」という長文の記事を掲載している。ナセル・カナニ外務省報道官(Nasser Kanaani)は13日の記者会見で、「イスラエル・ガザ戦争の開始以来、イランは戦争を止め、封鎖を解除し、沿岸地域に人道支援の回廊を直ちに開くことなどを重点に外交努力を重ねてきた」と説明している」
長谷川 良 「ウィーン発 コンフィデンシャル」
イランが自国の外交を自負する時 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

そして11月11日、アラブ連盟と、イスラム協力機構が、サウジアラビアを議長国として、その首都リヤドに集まり、ガザ問題を協議しました。この枠組みを使うと、シーア派、スンニ派の枠を超えられて、イランも顔を出せるのです。
ちなみにアラブ連盟は大戦中にできた老舗ですが、盟主だったエジプトが79年に和平条約を締結したために追放されています。
いまはエジプトも復帰していますが、現在の加盟国はイラン含まない21カ国です。

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アラブ連盟の枠組みではイランはお呼びではありませんが、もうひとつのイスラム協力機構(OIC:Organization of Islamic Cooperation)は1969年に出来た全世界を網羅するイスラム教国57カ国、オブザーバー国5カ国、8組織からなる巨大組織です。
これだけ巨大だということは、内容がない社交場だということですが、とまれここにはイランやパレスチナ自治政府も含まれていますから、堂々とイランが顔を出せるというわけです。
本来性格が違うこのふたつの会議を同時開催すること自体がオカシイのですが、ガザ問題が巨大化したために一緒に開くことになったようです。

かくして、イランのライシ大統領、シリアのアサド大統領、トルコのエルドアン大統領、エジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドラ国王、パレスチナ自治政府のアッバス議長などを含む、57カ国のイスラム諸国首脳が勢揃いするというゴージャスな会議となりました。
とくにイスラエルに接近する路線を取り始めていたサウジとイランの首脳は、初の顔合わせとなるそうです。

とうぜんのこととして総論賛成、各論決まらずになるのはやむをえないことでした。
とりあえず決まったことは以下です。

①イスラエルの自衛戦争を否定。
②パレスチナ人に対して行われた犯罪の責任は、イスラエルにある。
③今後について、イスラエルへの武器販売禁止。
④ガザ地区とヨルダン川西岸地区の解決がないイスラエルとパレスチナの和平交渉は受け入れない。

正直言って、イスラエルは痛くもかゆくもないでしょうね。
そうですか「共存関係」を止めますか、ならば元々孤立は馴れていますから、元に戻るだけのことで、やがて時間が解決するていどに思っているはずです。なんせ旧約聖書の民ですから。
池内恵氏はイスラエルの若者は変化しているといいますが、民族性は百年やそこらでは変わりません。

西岸ぬきに和平交渉はしないというのは、ある意味でネタニヤフなどのイスラエル右翼にとって好都合な話しで、イスラエルリベラルが進めてきたパレスチナ国家との「2国家共存」路線を、向こうから拒否したという口実を与えるだけのことです。
米国がどう「戦後」を考えているかはわかりませんが、ハマスを追い出してパレスチナ自治政府を強化して当事者能力を持たせるという流れが厳しくなったことは確かでしょう。
イスラエルは西岸地区に限定してパレスチナ自治政府との交渉を進めていましたがこれも頓挫するわけで、ならば現状維持でいいやということになります。
これって、パレスチナにとっていいことなんでしょうか。

ところでイランはこのように主張しました。

①イスラエルをテロ組織に指定せよ。
②紛争の根本的な解決は、ヨルダン川から、海までをパレスチナの国にすることであるから、イスラエルを抹殺せよ。
③イスラエルと関係を持つ国々への石油禁輸政策をせよ。

いやすごいというか、馬鹿じゃないかというか、こんなもんが通ると思っている現状認識がぶッ飛んでいるというか。
①は、イランこそ世界に冠たるテロ国家なことは、中東諸国はみんなわが身で思い知っていることで、せいぜいイスラエルを人道的に批判するのが精一杯なのです。
②のイスラエル抹殺に至っては、中東戦争をまた一から始めろということです。
おいおい、イランは歴史を1948年まで巻き戻したいのでしょうか。
今まで4回も死ぬ思いをしてイスラエルと全面戦争したアラブ諸国にとって、そこまで言うならお前はその時ナニしてたってもんでしょう。

イランは口では勇ましいものの、イスラエルと本気の戦争をしたことは過去一度もないのです。

③が通ったら、日本も欧米も全部まとめて石油禁輸になって第2次石油ショック勃発で世界は大不況突入は必至です。
本気で言っているなら狂気の沙汰です。
まぁ当然のことながら、こんなエキセントリックな主張は、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコ、モーリタニア、ジブチなどの反対ですべて完膚なきまでに否決されました。

エドワード・ルトワックはこう言っています。

「イスラム教徒は西洋を批判するときは一緒に叫ぶが、シーア派とスンニ派は、心底連携しようとしない。戦いに不可欠な団結や結束のようなものは持ち合わせていないのだ」
(週刊文春11月16日号)

まことにそのようです。

 

 

 

2023年11月19日 (日)

日曜写真館 吹くからに薄の露のこぼるるよ

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のさ~と里のそだちや花薄 荻子

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ひら~と朝霧乾くすすきかな 鈴木道彦

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どちら吹風の名利や散薄 游刀

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上る露薄ゆら~と動けり 三宅嘯山

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星くそといふものひろふ尾花哉 長翠

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招かれてまたゝき重き薄哉 仙化 

 

 

 

 

2023年11月18日 (土)

国連安保理、米英拒否権使わず

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安保理がガザの停戦決議を通しました。

「国連安全保障理事会は15日、緊急会合を開き、パレスチナ自治区ガザにおける戦闘の「緊急かつ人道的な一時休止」を要請する決議案を採択した。国際人道法の重要性を強調した上で、子どもたちの保護を繰り返し求めた。民間人の犠牲が増え続ける中、機能不全が指摘されていた安保理がようやく一致した対応に乗り出す。
決議案は非常任理事国のマルタが提出した。フランスや中国、日本など12カ国が賛成した。拒否権を持つ常任理事国の米国と英国、ロシアは棄権した。拘束力のない国連総会決議とは異なり、イスラエルも含めて国連加盟国は安保理決議に従う義務がある」
(日経11月16日)
国連安保理、ガザ「戦闘休止」を要請 5回目で初採択 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

米英は拒否権を行使せず、事実上の満場一致です。
ここは重要で、米国ですら許容の限界を超えたと判断したのです。
これが国際社会の意志です。

総会決議と違って、加盟国には法的拘束力があるのでイスラエルはここでいったん戦闘を休止せざるをえなくなりました。
イスラエルは残念ですが、ガザ侵攻初期の空爆によって国際社会の「同情」という最大の資産を失いました。


今後、初期の空爆 のような戦闘を続ければ、イスラエルはぬぐってもぬぐいきれない悪名を永遠に被ることとなるでしょう。
その意味で、ここで民間地域における戦闘は即時停止べきです。
イスラエルにとってハマス殲滅の目標は達せられませんが、民間地域における戦闘はいかなる理由であれ、国際社会は許しません。

イスラエルは民主主義国家であり、自由主義陣営に属する以上、これ以上の民間人被害を積み重ねるわけにはいかないのです。
ここでいったん「シーズファイア」(Cease fire 撃ち方止め)を命じる時です。

またこれは「戦闘の一時休止」にすぎず、停戦ではないことにご注意ください。
Cease fireの意味には「撃ち方やめ」という意味だけでなく、一時的な「停戦」「休戦」を意味します。
しかしこれは敵対する両国・組織による正式合意ではなく、ガザという戦場単位の狭義で限定された一時的停戦・休戦でしかありません。
したがって病院に充分な燃料、医療用品、スタッフが入り、人道上の危機が終わったという状態をイスラエルが見極めれば、あるいはハマスが攻撃を仕掛けてきたのなら、戦闘再開もありえます。
とくに後者の可能性は高いと思われます。
そもそもテロ集団と停戦合意などありえない以上、停戦交渉相手にならないのであって、誰が「パレスチナ側」に立つのか明確にせねばなりません。
いずれにしても、ハマスに実効支配を奪われ、これ以上無力な存在はなかった自治政府を建て直すしかないようです。
南部へ逃亡したハマスの部隊や、彼らが共に連れ去った人質については、今後の問題になります。

※後半は別のテーマなので切り離しました。

 

 

2023年11月17日 (金)

アル・シファ病院に突入

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ご承知のように、15日、アル・シファ病院にイスラエル軍が突入しました。
イスラエル国防軍のプレスリリースです。

「イスラエル国防軍の地上部隊は現在、シファ病院の特定のエリアでハマスに対する正確かつ的を絞った作戦を実施している。この特定地域における活動は、作戦上の必要性と、ハマスのテロ活動が当該地域から指示されていることを示す諜報情報に基づいている。
イスラエル国防軍は突入に先立ち、爆発物やテロリスト集団に遭遇し、テロリストを殺害する交戦が始まった。
さらに昨日、イスラエル国防軍の地上部隊は、テロ・トンネル・シャフト、教室、諜報資料、ロケット弾や装填されたRPGを含む数十種類の武器を含むハマスの訓練キャンプを発見した。 さらに、イスラエル国防軍の無人偵察機は、ガザ地区北部の対戦車ミサイル発射所のある建物から出たテロリスト集団を特定した」
イスラエル国防軍プレスリリース ガザ地区におけるイスラエル国防軍の地上作戦は継続中。シファ病院の特定エリアにおけるハマスに対する標的作戦 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

アル・シファ病院はガザ最大の病院で、ハマスの司令部があると目されていました。
シファ病院に対する攻撃をWHOなどは批判していますが、病院施設自体を攻撃することは国際人道法違反です。
ただし病院保護については、ハマスが病院を司令部や武器の保管庫にしていたり、患者を人間の楯に使っていた場合は異なります。
イスラエル軍はこのように述べています。
ここ数週間、イスラエル国防軍は、ハマスがシファ病院を軍事利用し続けることは、国際法上の保護状態を危うくするものであり、この違法な病院への乱用を止めるのに十分な時間を与えたと、繰り返し公に警告してきた。昨日、イスラエル国防軍はガザ地区の関係当局に対し、病院内での軍事活動は12時間以内に停止しなければならないと改めて伝えた。残念ながら、そうではなかった」
XユーザーのIsrael Defense Forcesさん


「イスラエル軍は「ハマスのテロリスト全員」の投降を求めている。同軍によると、兵士たちは病院に突入する際、多数のハマス戦闘員と交戦し殺害したという。
国際人道法は、紛争の当事者は病院を攻撃したり、医療機能の遂行を妨げたりしてはならないと定めている。ただし、紛争当事者が病院を利用して「敵に有害な行為」を行った場合は、病院が保護対象ではなくなることもある」
(BBC11月16日)
ガザ病院で「武器発見」、イスラエル軍が映像公開 院内が破壊されたと医師 - BBCニュース

イスラエル軍は、シファ病院付近で戦闘をしていますが、病院内では軽微な抵抗しかなかったといわれており、「病院を利用して敵に有害な行為」をしたかどうか、後の判断に委ねられます。
またハマスが患者を人間の楯としたかどうかは、状況証拠としては濃厚にその疑いがありますが、現時点では決定的なことは言えません。

ただしアル・クッズ病院では、ハマスの一団が、患者や、避難民もいるこの病院からイスラエル軍に戦車砲を撃ち込み、この攻撃で戦車1台が破損し、イスラエル軍は反撃しました。
またイスラエル軍によると、この戦闘の中で、市民たちが逃げようとするのが目撃され、別のビルから出てきたハマスが市民の間から、イスラエル軍に攻撃してきました。
そしてハマスはイスラエル軍への攻撃後に、病院に逃げ込みました。
あきらかに病院を盾にしています。

「国際刑事裁判所は「人間の盾」について「ある地点、地域、または軍事力を軍事攻撃の対象外とさせるべく、民間人またはその他の保護された人の存在を利用すること」とし、これは戦争犯罪だとしています」
(飯山陽note)
地下司令部があったかどうかについては、武器庫らしきものは発見されたようですが、トンネルはいまだ未発見です。
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XユーザーのEmanuel (Mannie) Fabianさん: 「IDF releases evidence of Hamas weapons found inside Shifa Hospital's MRI center, during the raid by the elite Shaldag unit and other forces of the 36th Division inside the medical center today. https://t.co/HrtzHmpELR」 / X (twitter.com)

「イスラエル軍は同日夜、同病院でハマスの「司令センター」を発見したと発表。あわせて、ハマスのものだとする武器や装備の映像を公開した。
映像は7分間で、イスラエル軍のヨナタン・コンリクス報道官が、カバーがかけられていた監視カメラや、MRI機器の後ろに隠されていたAK47ライフルを発見したとしている。
防弾ベスト数着、手投げ弾3個、CD数枚、拳銃1丁、ノートパソコン1台、リュックサック1個、ナイフ数本も映っている」
(BBC前掲)

イスラエルは病院とコミュニケーションを持ち、医療品や燃料を提供してきました。
この突入前にハマスに降伏を呼びかけています。
突入部隊にはアラビア語のスタッフと医療班が同行しています。

シファ病院がハマスの拠点とされ、拷問などの非人道的行為がなされていたことは、アムネスティも確認しています。

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ガザ地区:2014年の紛争でパレスチナ人がハマス軍に拷問され、即決で殺害される - アムネスティ・インターナショナル (amnesty.org)

なお、イスラエル軍は、シファ病院突入前日、子供病院であるランティシ病院に突入しました。
この病院地下にあったハマス拠点は映像で公開されています。

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病院地下には深い垂直のトンネルがあり、その奥にはいくつか部屋がありました。
兵士はイスラエル軍のハガリ報道官です。
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おそらく人質の子供が捕らわれていたと思われる子供部屋があります。
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2023年11月16日 (木)

ガザ人道危機へのイスラエルの対応

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シファ病院にイスラエル軍が突入したようです。

[ガザ 15日 ロイター] - イスラエル軍は15日、パレスチナ自治区ガザ最大のシファ病院内でイスラム組織ハマスに対する作戦を実行していると発表、病院内にいるハマスの全戦闘員に投降を呼びかけた。
ガザの保健省報道官はこの1時間ほど前、イスラエル側がシファ病院に数分以内に突入すると通達してきたと語っていた。
イスラエル軍は「シファ病院内の特定エリアで、ハマスに対する精密かつ的を絞った作戦を実施している」と発表した。
また、部隊には特別な訓練を受けた医療チームも加わっており、民間人には危害を加えないとしている」
(ロイター11月15日)
イスラエル軍、ガザ最大シファ病院に突入 ハマスに投降呼びかけ(ロイター) - Yahoo!ニュース

医療チームがついた突入部隊だそうです。
いかにイスラエル軍が神経を使っているかわかります。
願わくば、ひとりの人間の生命も奪われませんように。
仮にそれがハマスだとしてでもです。
詳報が入りましたら、明日にお伝えします。

さてガザの人道状況について、日本ではこのように報じられています。

「安全な場所など存在しなくなってしまったガザ地区。北部では地上戦が激化し、すべての病院で機能が停止しました。イスラエル軍の戦車は、すでにシファ病院の目の前まで到達したとの報道もあります。
そんななか、公開された1枚の写真。写っているのは、シファ病院で発電用の燃料が切れてしまったため、保育器から出された新生児たちです。停電により、これまでに新生児6人を含む15人が亡くなりました
シファ病院に残る国境なき医師団・オベイド医師:「新生児が亡くなりました。保育器を動かす電力がないからです。ICUにいた成人患者も電力がないため、人工呼吸器が止まり、失命しました。患者の安全な退避を誰かに保証してほしい。37~40人いる新生児の避難が重要なのです」
病院の入り口には、100以上の遺体袋が並び、病院とはもういえません。そして、退避もできません。
『CGTN』ハラジーン特派員:「シファ病院から退避を試みる市民や患者ですら、イスラエル側の銃撃にさらされてしまいます」
(ANN11月13日)
「軍は精度の高い情報得ているはず」地下はハマスの拠点?シファ病院に迫る地上部隊(2023年11月13日) - YouTube

これなど比較的ましな方で、イスラエル軍が病院を攻撃している、燃料と電気を遮断している、病院は死体の山だ、新生児が多く死んだ、避難する人をイスラエル軍が撃って妨害しているということまで言うメディアがあります。
イスラエル軍が避難者を撃っている、とまことしやかに言っているのは「CGTN」(中国国際電視台中国環球電視網)ですからなんともかとも。
CGTNはイランとハマスの黒幕と目される中国共産党のプロパガンダ機関です。
こういう報道を日本メディアはそのまま裏もとらないで報じています。
こんな反イスラエル・反ユダヤの「空気」に乗って、某国際政治学者は「イスラエルは快楽殺人をする国である」というアンチセミティズム(反ユダヤ主義)と見紛うような憎悪発言を言ってのけました。
この篠田という人物が米国人なら、学者生命をなくすような発言でしょうね。

では、いまイスラエルはこのようなガザへなんの支援もせずに、ひたすら「快楽殺人」のような攻撃ばかりしているのでしょうか。
まったく違います。
日本では希少なイスラエルからの情報を伝えてくれる石堂ゆみ氏の「オリーブ山通信」を参考にしてお伝えします。
イスラエルが実施しているガザへの人道危機への対応 2023.11.14 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

なお、私の立場は無色透明中立ではないことをお断りしておきます。
私はテロと戦うイスラエルを応援する立場に立っています。
テロと被害者の戦いにおいて「中立」はありえません。
被害者を支援するか、テロリストの側につくか、いずれの2択しかないと考えます。

ですから私はこの紛争に関して、批評家的な傍観者的視点は排除し、被害当時者の1次的情報発信を重視します。
今回ならば、イスラエル国防軍公式サイト、各種イスラエルメディア、そして貴重な日本語情報を届けている石堂ゆみ氏の「オリーブ山通信」を情報ソースとしています。
ハマスに関するイスラエル国防軍のプレスリリース - イスラエル戦争 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
エルサレムポスト (jpost.com)
タイムズ・オブ・イスラエル |イスラエル、中東、ユダヤ世界からのニュース (timesofisrael.com)
オリーブ山通信 – イスラエルを中心とした中東・世界のニュースをエルサレムから (mtolive.net)

なお、石堂氏は緊急帰国して報告会を開催されるようです。ぜひご参加ください。
ハイメール通信「緊急特別集会:石堂ゆみ氏特別セミナーのお知らせ」|B.F.P.Japan (bfpj.org)

ちなみに、私は今回の紛争において西側メディアの報道にも大きな疑問を持っています。
そもそもハマスが国境フェンスを破って侵入した映像をどうして西側メディアがその場にいて撮影できたのでしょうか。
よく見る、破壊されたメルカバ戦車の前で踊るパレスチナ人の映像は、ハマスが出したものではなく西側メディアが自分で撮ったものです。
どうして突入箇所が事前に分かったのでしょうか。
考えられるのは、ハマスから事前にこの場所に来るように言われていたか、西側メディアの現地スタッフがハマスだからです。
つまり西側メディアは、あらかじめハマスとツーツーだったのです。
おっと、長くなりそうですので、このことについては別の機会に。

さて、まずイスラエル軍の妨害によって病院から避難ができないという根拠ない噂についてですが、イスラエル軍は、病院とその周辺からの避難者に積極的に避難を要請しています。

もう口酸っぱくというくらい何百回も、チラシ、SNSを通じて避難ルートを示し続けています。

イスラエル軍はガザ市民とハマスをはっきりと分けて考えており、一部の中東専門家の言うようにガザを根絶やしにするなどとは考えていません。
そんなことをすれば戦後処理がいっそう困難になるだけで、イスラエルを支援する米英が許すはずがありません。
あくまでもイスラエル軍が戦っているのはハマス、それもその戦闘員だけです。

イスラエルが力を入れているのは、ふたつの避難回廊を設置し民間人を戦闘区域から脱出させることです。
すでに20万人が北部に脱出しました。

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「シファ病院へ踏み込むためには、できるだけ民間人がいない状態にしなければならない。イスラエル軍は、シファ病院から南部への避難の誘導を続けているが、相変わらずハマスの妨害にあっているとのこと。シファ病院の他、ランティシ病院、ナセル病院からの避難も促進している。
北部から南部へ向かうサラハディン通りは、人道回廊として、12日も朝9時から16時まで開放された。10時から14時までは、人道物資を搬入するための別のルートも開放した。(IDFのHPより)この数日で、あらたに20万人が南部へ避難したとみられている」
ガザ北部戦闘でイスラエル兵7人戦死:シファ病院で起こっていること 2023.11.13 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

また、これもまったく世界に報じられていませんが、イスラエルはガザ地区に世界各国でもっとも多くの支援物資を入れています。

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「人道支援物資搬入:トラック850台・救急車12台がガザへ。
また、イスラエル軍報道官によると、国際機関とも協力し、10月7日以前にしていたように、定期的な人道支援物資の搬入を行なっている。イスラエル軍によると、食糧や水、医薬品を乗せたトラック850台がガザに入ったとのこと」

(オリーブ山通信前掲)



病院が燃料がないために患者や新生児が続々と死んでいるということは、メディアだけではなくWHOのテドロスまでもが叫んでいます。
これについては燃料をガザ地区全体に供給することを許せば、大半をハマスが力ずくで取り上げて軍事物資としてしまうのは目に見えているために、イスラエルは搬入を拒否しています。

しかしイスラエルは病院に燃料を緊急に300リットル提供するために、戦闘中にもかかわらず病院前まで搬入しようとしました。
ハマスはこれを阻止してしまい、病院内に運ばれることはなかったようです。
これについては動画が残っています。

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XユーザーのEmanuel (Mannie) Fabian

また救急車は、戦闘初期にハマスが移動に使っているために(これも「イスラエル軍、救急車を攻撃」と報じられましたが)、エジプト経由でクエートから救急車12台がガザに入っています。
また、イスラエル軍のCOGAT(協力部門)は、シファ病院との対話を維持しています。
下の通信記録は、病院にいる子供の患者の脱出を支援することや、必要な物を聞いている会話の様子。保育器37台と子供用人工呼吸器4台を病院の前に置いておくと約束しています。
jpost-ideo.wcdn.co.il/out/v1/6d0cb24b4f614a4daba6f1ed9033fd6d/30dd0cd81b144fd987f6ee8c945cdd15/1fff52e72b674e389480eee373c377d5/index.m3u8

ここで注目すべきは、イスラエル軍は病院の中には入っていないということ、そして病院側とコミュニケーションがあるということです。www.jpost.com/israel-news/article-773115

このシファ病院側とイスラエル軍協力部門との会話が録音されています。

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・イスラエル「私たちは、あなたが子供や患者を避難させたいと望むあらゆる支援を提供する準備ができています。私たちはあなたにどんな支援も提供する準備ができています。保育器も用意します。他に何か必要なものはないか」
・シファ病院事務局長「酸素を必要としている子供たちのために人工呼吸器が必要だ」
・イ「必要な装備を確保するためにできる限りのことをする。どんな困難があっても、何でもいい。私にできることは何でもします。負傷者や患者を守るお手伝いをします 」
・病「わかりました。それと医療スタッフも」
・イ「もちろんです」

これらすべてをイスラエルのプロパガンダにすぎない、ということはやさしいことです。
しかしそのようにいうなら「ガザ保健当局」が言うことも同様です。
要は、そのとき自分が寄って立つ「立場」にすぎません。
このような修羅場の中で客観的事実はないのです。
なにが正しく、なにが誤っていたか、なにが真実でなにがプロパガンダだったのか、おそらく神ならぬいまの私たちにはわかりません。
だからこそ、いま私の立場で伝えられることを伝えようと思います。

とまれ、これだけは言えるでしょう。
イスラエルはハマスとだけ戦っているのであって、ガザ市民を敵だとは考えていません。

ガザ市民の脱出を助け、病院に対しては戦闘中にもかかわらず医療物資や燃料を搬入しています。

 

 

2023年11月15日 (水)

人種的偏見によるイスラエル批判が始まる

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12日、イスラエルのヘルツォグ大統領が、ガザで発見されたヒトラーの『わが闘争』を手にこのように語っています。

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「イスラエル軍が、ガザのハマス拠点の上にあった子供部屋で発見したという、アラビア語によるアドルフ・ヒトラーの「我が闘争」をイギリスのBBCを通じて、世界に向けて発表した。この本は、ヒトラーが、ホロコーストを実行に移す前に書いた本である。イギリスでは、この週末、これまでで最大の30万人が参加する反イスラエルのデモが発生していた。
ヘルツォグ大統領は、「私たちイスラエル人は通常、平和を愛する楽観主義者だ。しかし、今は、言い知れない脅威を感じている。これを読んでいるような組織、しかも10月7日の市民への拷問、虐殺とその映像公開を平気で行うような敵と、だまって共存することはできない。」ということを訴えた」
ヒトラーに学んでいたハマス:イスラエルが直面する現実的な脅威 2023.11.13 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

ヘルツォグが危惧するように、いまや「反戦」に名を借りた反ユダヤの動きが頭をもたげて巨大化しようとしています。

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BBC

「英ロンドンで21日、パレスチナを支持する大規模な集会が行われた。ロンドン警視庁によると、デモ行進には10万人が参加。行進は首相官邸近くまで続いた。
また、バーミンガムやカーディフ、サルフォード、ベルファストなどでも、同様のデモが行われた。
ロンドンのデモには、警官1000人以上が出動した。花火の使用や公共の秩序を乱す行為、緊急サービス職員への暴力などで10人が逮捕されている。参加者の中には、ヨルダン川と地中海の間のすべての土地をパレスチナ人が支配するべきだというスローガンを唱える者もいた。この地域にはイスラエルも含まれている。
この「川から海までパレスチナを自由に」というスローガンについてスエラ・ブラヴァマン内相は、イスラエルの破壊を求めるものだと指摘している」
(BBC10月22日)
ロンドンで親パレスチナデモに10万人参加、英各地でも - BBCニュース

この英国内相が指摘する「ヨルダン川と地中海の間のすべての土地をパレスチナ人が支配するべきだ 」という意味は、イスラエルを消滅させろ、ユダヤ人を海に追い落とせという意味です。
つまりこれは反ユダヤ主義の主張そのもので、事実ハマスはそう主張してこのテロを行っています。

日本でも国際政治学者の一部はこのようなツイートを平然と出し始めました。

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篠田氏に言わせると、「世界の圧倒的多数」がイスラエルは「快楽殺人」だと考えているそうです。
またヨルダン側西岸に「狂喜して入植準備している」というのも一部を極大化した物言いで、事実はそのような動きは限られています。

快楽殺人(lust murderer )とはこのような意味です。

「快楽殺人とは、殺人自体が快楽で、殺人により快楽を得る目的で行う殺人のことである。殺人だけでなく遺体の損壊も含めて快楽を得るために、殺人と遺体損壊を行う場合もある」
快楽殺人 - Wikipedia

篠田氏はイスラエルがサディスティックな性的快楽を求めてガザ市民を殺しまくっていると、「世界の大多数」が思っていると言っています。
いつからあなたは「世界の大多数」となったのでしょうか。
米国ではユダヤ人を守れというデモも起きているのですいます。

「米首都ワシントンで14日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突をきっかけに広がる反ユダヤ主義への大規模な抗議集会が催された。イスラエルのヘルツォグ大統領もビデオ中継を通じて参加し、ユダヤ教徒の団結を求めた」
(日経11月15日)
米首都で親イスラエル派が大集会 反ユダヤ主義に抗議 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

篠田氏はイスラエル軍に過剰な反撃はやめよ、といえば済むことを、あえて「快楽殺人者」と呼ぶとは、呆れた「平和構築」学者です。
これでは国際政治分析でもなんでもない、ただの憎悪表現です。
言葉の過剰な修辞は、学者として厳に慎むべきことではなかったのでしょうか。
私は憲法解釈などで篠田氏の知見の影響を強く受けましたが、今後はもうないでしょう。

いつ篠田氏が「世界大多数」を代表するようになったのか知りませんが、彼の見方はもはやハマスそのものです。
音楽祭で銃を乱射して250人もの人々を殺し、骨折した女性を引きずって拉致するような行為こそを「快楽殺人」と呼ぶべきですが、このとき氏は「快楽殺人」だと呼びましたか。
レイム音楽祭虐殺事件 - Wikipedia

この人物は、「イスラエル兵」をまるでモンスターのように考えています。
では、具体的に「イスラエル兵」とはどんな人たちなのでしょうか。

「10日、シファ病院から車で30分ぐらいのところにあるベイト・ハヌン地域のモスクに続く地下トンネルにしかけられていた罠で、イスラエル兵5人が戦死した。
5人のうち4人は代551旅団の697部隊隊員だった。モシェ・ヤディディヤ・レイテル少佐(39)は医学生で衛生兵。3ヶ月の子供含む6人の子供の父親だった。
ヨシ・ハシュコヴィッツ軍曹(44)は高校の校長。マタン・メイア軍曹(38)は、多数の賞を受賞したテレビ「ファウダ」のプロデューサー、セルゲイ・シュメルキン軍曹(32)、ネタネル・ハルシュ軍曹(34)は、10月7日を機にイスラエルに帰国して従軍していた」
ガザ北部戦闘でイスラエル兵7人戦死:シファ病院で起こっていること 2023.11.13 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

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ヨシ・ハシュコヴィッツ軍曹

イスラエルタイムスによれば、この亡くなった兵士のひとりだったヨシ・ハシュコヴィッツは、過去に、ニューヨークのユダヤ人デイスクールであるSARアカデミーの教師として、また、現代正教会の米国のサマーキャンプであるキャンプモシャバの教育者としても働いていました。
温厚で明るい指導者であり、妻、サダスと5人の子供を持っています。

マタン・メイア(38)は、ゴラン高原のオデム出身のテレビプロデューサーで、ガザ地区を舞台にした受賞歴のあるイスラエルのテレビ番組「ファウダ」の仕事で最もよく知られているそうです。
セルゲイ・シュメルキン軍曹(32)、ネタネル・ハルシュ軍曹(34)は、10月7日に祖国の危機を知ってイスラエルに帰国して従軍していました。

篠田氏よ、校長が、テレビのプロデューサーが、あるいは外国に住んでいた者たちが、祖国の急を知って戦場に赴いたのは「快楽殺人」をするためだったのでしょうか。
欧米においてこのような安易、かつ偏見に満ちたレッテリングは反ユダヤ主義と認識されます。
イスラエルは常にこのような 言い方にさらされてきました。
今回も、イスラエルのガザ作戦を批判することは自由です。
私も批判を留保していますが、このようなイスラエルを「快楽殺人」と呼ぶようなレイシズムの批判は許されません。

 

2023年11月14日 (火)

ハマスを作ったイラン革命防衛隊

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ほんとうに不思議です。
イランと「伝統的友好」を保つことが、日本の安全保障につながるという岸田氏の「バランス外交」です。
これは日本こそが、非西欧諸国と違ってG7とイランの仲介役になれるという錯覚にあるようです。
この考え方は日本の中東屋と国際政治学者のほぼ全部の考え方のようで、外務省のアラブ語スクールもその一部です。
岸田氏当人は、このアラブ語スクールと英語スクールの間で右往左往しています。
この間の日本政府の対ハマス対応の右往左往はこのためです。

はっきり言ってあげましょう。幻想にもほどがあります。
10月7日のテロ攻撃以降、真っ先に疑いの目を向けられた国はどこだったでしょうか。

イランです。イランこそがハマスを作ったのです。
今回のハマスの越境作戦は、イランの支援なくしては考えられませんでした。

黒井文太郎氏はこう述べています。
ハマス・ヒズボラを支えるイランの危険な謀略機関「コッズ部隊」:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

「そもそも10月7日にハマスともう一つのガザの民兵組織「パレスチナ・イスラム聖戦」(PIJ)がイスラエルを奇襲したことが原因だが、奇妙なことがある。
ハマス軍事部門「カッサム旅団」は、もともとそれほど戦闘力の高い集団ではなかった。かつては完全な地下組織で、せいぜい少数メンバーがイスラエルに潜入して自爆テロを行うくらいだったし、ハマスがガザを支配するようになって部隊化した後も、イスラエル軍の追撃を回避するため常設の軍隊とはならず、身元を秘匿した数人の「細胞」を最小単位に編成する秘密組織スタイルがとられた。
組織的な戦闘訓練はさほど行われず、大人数の部隊単位で緻密な作戦を遂行するような体制も作られなかった。侵入してきたイスラエル軍と戦う際も、せいぜい地下トンネルを駆使したゲリラ戦を個別の小部隊が行う程度で、緻密な作戦に則った統制のとれた戦いはできなかった」
(黒井前掲)

ハマスは「福利厚生機関」であり「国連職員」だという解説をいやというほど聞かされたと思いますが、半分は事実です。
事実゛彼らの多くはふだんは「国連職員」であり民間人の顔をして暮らしているハマスの民兵です。
そしていまのような時になると銃でイスラエル兵を撃ってきます。
一方、彼らの恒常的な軍事部門は「アル・カッサム旅団」です。
いま、シファ病院付近でイスラエル軍と戦っているのがこの連中です。

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ガザで交戦するハマス戦闘員 アル・カッサム旅団が映像公開(AP通信) - Yahoo!ニュース

いま日本のメディアはイスラエル軍がシファ病院を直接攻撃しているかのように報じていますが、明らかな誤報です。
まだイスラエル軍はその前哨地点の掃討をしている段階です。
それはハマスの公開した上の動画でも明らかです。

「最終的には、シファ病院での戦闘が鍵とのことだが、実際には、まだ周辺にあるハマスやイスラム聖戦の拠点の一掃が終わっていないのである。イスラエル軍は、病院周辺だけでなく、学校やモスク、民家周辺で、ハマスやイスラム聖戦の拠点やトンネル、武器庫数十ヶ所が摘発・破壊する作業が続けている」
ガザ北部戦闘でイスラエル兵7人戦死:シファ病院で起こっていること 2023.11.13 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

このアル・カッサム旅団は、もともと訓練された戦闘員ではなく、彼らにできるのは個人の過激な人物がイスラエルに潜入して自爆攻撃を仕掛けるにとどまっていました。
少数のローンウルフ型テロリストの集まりであって、今回の大規模な作戦は不可能でした。
それがわずかの数年で今回の越境攻撃を実施する力を持つまでに成長します。

今回テロは実に巧妙で、複雑な軍事行動をとっています。

「たとえばイスラエル側の盗聴を逆手にとって、故意に相手を油断させるような会話を聞かせるなど、徹底した偽装工作で自分たちの作戦の準備を隠した。イスラエル側の警備の弱点を研究し、奇襲と同時にイスラエル側の電話通信施設をドローンで破壊し、隔離壁を監視する無人カメラや遠隔操作機関銃を封じた。壁の爆破から襲撃、制圧、人質拉致などの手順も事前に充分に訓練されていた。2年前までのカッサム旅団とは違い、戦術レベルが大きく向上していたのだ」
(黒井前掲)

このハマス強化をしたのがイランのイスラム革命防衛隊の対外工作機関「コッズ部隊」でした。
コッズ部隊こそが、イランの対外政策の要です。
コッズ部隊は、正規軍とはまったく違う指揮系統を持ち、人員、予算、装備のすべてがイランのトップからでる仕組みになっています。
このコッズ部隊の司令官こそがソレイマニでした。

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https://www.sankei.com/world/news/190612/wor190612...

では、イランは誰が対外戦略を決めているのでしょうか?
最終的な決定権者は、政治と宗教の権力がひとつのこの国ではこのもちろんハメネイというイスラム坊主です。
ハメネイがトップに君臨し、その直系の指揮下にあるのがイスラム革命防衛隊であり、対外工作期間のコッズ部隊です。
このコッズ部隊こそ、イランのイスラム革命の牙とでもいうべきもので、これまで長年にわたって多くの外国の武装勢力を支援してきました。

国軍と革命防衛隊は、比喩が正しいかどうか分かりませんが、ナチスドイツにおける国軍と親衛隊の関係に似ています。
革命防衛隊はナチス親衛隊(SS)から発展した武装親衛隊(Waffen-SS) のようなもので、国軍並の装備と兵員を抱えています。
このいかにも革命国家らしい組織は、イラン革命の時に故ホメイニ師の親衛隊として発足しました。
ナチスで言えば初期の突撃隊(SA)時期に革命の荒事を一手に引き受け、1979年に権力を握った後は反ホメイニ狩りの急先鋒として親衛隊化しました。

そしてイラン・イラク戦争(1988年~88年)で、前線に国民を動員する働きをし、優先的に予算を与えられて国軍をしのぐ軍事勢力として武装親衛隊化しました。
実はイラン革命の指導者たちは国軍がパーレビのものだったためにまったく信用しておらず、革命防衛隊を対抗勢力に仕立て上げて、国軍の監視をさせるつもりだったようです。
この関係はいまだに変わらず、国軍と革命防衛隊はいまでも水と油、犬と猿の仲です。
現在この革命防衛隊は、ハメネイ最高指導者が君臨する「最高指導者室」の直系です。

コッズ部隊は、ハマスやフーシ、ヒズボラなどの過激派にただ資金や武器を渡すのではなく、テロや戦闘の訓練をし、組織拡大の手法などまで細かく指導しました。
この訓練の過程で、各国のテロリストはイランを崇拝し、自国でもイスラム革命を起こそうと決意するようになります。

2020年度の米国務省報告書によると、イランはハマスやパレスチナ・イスラム聖戦、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)といった過激派組織に年間約1億ドルを提供していました。
2022年、ハマスの指導者イスマイル・ハニヤは公の場で、同年イランから約7000万ドルを受け取り、それをロケット弾製造に使用したと述べています。

今回の越境作戦に当たって、ハマスがコッズ部隊に指導や協力を求めなかったとは考えられません。
おそらく水面下でハマスの作戦に関与し、指導し、武器資金を提供していたとみるのが妥当です。
ただしそのことをイランの表の顔であるイラン外相に聞いても知らないと答えるでしょう。
命令系統が違いますから。

このようなあきらかな共犯者であるイランと「伝統的友好関係」を結んでいる、わが国はイランとG7の架け橋になるのだと言っているのですから、なんともかとも。

 

2023年11月13日 (月)

どうしてガザの病院が機能停止するのか?

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ガザでイスラエル軍が病院を攻撃して患者が死に始めているという報道があります。
こういった報道に反応して、日曜日には何十万単位の反イスラエルデモが各国で行われたようです。

「ガザのシファ病院の院長は、最後の発電機の燃料が尽きたため、完全に電力を失ったと言います。
イスラエルは、シファ病院がハマスの主要な司令部であると述べ、テロリストはそこで民間人を人間の盾として利用し、その下に精巧な掩蔽壕を設置したと付け加えた。ここ数日、ガザ北部の戦闘地域にあるシファや他の病院の近くでの戦闘が激化し、物資が底をついている。
「電気がない。医療機器が停止しました。患者、特に集中治療室にいる患者が死に始めた」と、シファのモハメド・アブ・セルミア所長は、銃声と爆発音を聞きながら電話でAP通信に語った」
(イスラエルタイムス11月11日)
ガザのシファ病院が燃料を使い果たしたと院長が語る |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com) 

イスラエル軍は、ガザ市を包み込む包囲環を作った後、ハマス司令部があると思われるシファ病院に向けて行動中であり、ハマス兵と激しい戦闘になっています。

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ガザ地区のシファ病院が機能を停止、集中治療室の患者が死に始める (grandfleet.info)

では、どうしてこのような悲惨な状況が起きているのでしょうか。
メディアは、原因がイスラエル 軍が病院を攻撃して、世界中でイスラエルの虐殺を止めろというデモが起きていると報じています。

確かにイスラエル軍は、先週9日木曜から10日金曜夜にかけてシファ病院とその北部にあるアル・シャティ難民キャンプにかけて、IDF第401師団とハマス兵が激しい銃撃戦を繰り広げました。
それに先んじてイスラエルは、シファ病院敷地内周辺に避難していた5~6万人(ベッド上2500人)のガザ市民に南部へ移動するよう再三に渡って指示していました。
戦闘のじゃまだからです。
ハマスは市民に隠れて銃を撃ち、住宅地や学校などの民間施設からロケット砲を撃ってきます。
ですから、イスラエル軍は市民の巻き込まれを防ぐために膨大なチラシを撒き、避難路を教え続けてきました。

しかし避難は始まっているものの遅々として進まず、いまだ戦闘地域に多くの市民が取り残されたままです。
この避難の遅れの原因として考えられる理由は、イスラエル軍が病院から避難する人を攻撃して逃がさないか、ハマスが病院から避難している人を逃がさないかのいずれかです。
メディアはイスラエル軍が避難を妨害しているように報じていますが、それはほんとうでしょうか。
両者はこう主張しています。

「イスラエル軍はシファ病院への攻撃も包囲も否定していて、12日には、シファ病院から南部に続く道への安全な避難経路を示して退避を呼びかけました。命の危険があるとされる乳児を避難させる支援を行うともしています。
これに対し、ガザ地区保健当局の報道官は12日、シファ病院にいる650人の患者を避難させることは絶対に不可能だと訴えました」
イスラム組織「ハマス」が人質解放交渉を中断 イスラエル軍のシファ病院への攻撃理由に~ロイター通信

「ガザ地区保健当局」とはハマスのことです。
どちらかが嘘をついていることになりますが、ガザ病院協会のツイートに病院から避難する人々の動画がアップされているので、ご覧になって下さい。

リアルなガザの現場がわかるはずです。
XユーザーのAssociation of Hospitals 

下のガザ病院協会の動画には、病院から逃げようとする人々が白旗を掲げて行進しているのが見えます。

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続いて二枚目、当然に銃声が響いて人々は逃げまどって追い返されます。

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上の動画は、このシファ病院から避難しようとする人々を撃って逃がさないようにした者がいることを示しています。
それは誰でしょうか。
シファ病院に民間人がいて欲しい者たち、彼らを最期まで避難民を人間の楯にしておきたい者たちです。それはハマスです。

また病院が燃料不足のためにICUが機能停止し、子供の患者が亡くなったと報じられ、これもイスラエルの仕業だとされています。
痛ましいことですが、ではどうして燃料がないのでしょうか。
これもイスラエル軍が燃料の搬入を拒否しているためだと報じられていますが、しかしよく考えて見てください。

ハマスは当然イスラエル軍がガザに侵攻してくることを想定しており、トンネルに籠もっての籠城戦を準備していました。
そのための燃料、食糧、医薬品などの備蓄を数カ月分を保有していました。
1年前の報道にこのようなものがあります。
このクーリエが紹介した中東当局者によれば、ハマスは数十万ガロン備蓄して3、4カ月戦えるといいますから、おおよそ40万から50万ℓは保有していたはです。

「アラブや西側諸国の政府関係者らによれば、ハマスが食料や燃料などの物資を備蓄しているというイスラエルの主張には真実味があるという。ハマスが何年もかけて建設してきたガザの地下トンネルに、長期戦に必要なほぼすべての物資をため込んでいるというのだ。
具体的には、車両やロケット弾の燃料が数十万ガロン、弾薬や爆発物、そうした武器を作るための材料、そして食料や水、医薬品などだ。
レバノンの高官によれば、ハマス(戦闘員数は3万5000~4万人と推定される)には、補給なしで3、4ヵ月は戦い続けられるだけの備蓄があるという」
(クーリエ2023年10月31日)
ハマスが長期戦に備えて、地下トンネルにたんまり「備蓄しているもの」 | 3、4ヵ月は戦い続けられる | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

なんとハマスは50万ℓもの石油備蓄を難民キャンプ内に持っていたようです。
地下トンネルを稼働させるために、大型換気ファンを回したり照明のために大量の電気を必要とするからです。
当然、こんなことはこのキャンプの管理責任者である「国連」UNRWAがいちばんよく知っているはずです。
トンネルにしてもそうですが、「国連」UNRWAはハマスのこの戦争準備を知り得たはずです。
「国連職員100名死亡」なんて記事がでていますが、UNRWA職員の9割はハマスで、戦闘で戦死しただけのことです。

このハマス備蓄タンクは、現時点で破壊されたという情報はありませんので、いまもたっぷりと石油を持っているはずです。
ハマスはガッチリと軍事用で抱え込んでおきたいので、民生用には分け与えない、だから民生用が枯渇するのです。

「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がパレスチナ自治区ガザに燃料が搬入されなければ25日夜に人道支援業務を停止せざるを得なくなると発表したことを受け、イスラエル軍は24日、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに燃料を分けてもらうのがいいと投稿した。
イスラエル国防軍はUNRWAによる警告に関して再投稿し、ハマスがガザ内のタンクに50万リットル以上の燃料を持っていると指摘。「ハマスに燃料を分けてもらえるか聞けばいい」と投稿した。
ガザには21日以降、食料品や水、医薬品などの支援物資が限定的ながら到着しているが、燃料は、ハマスが使用することをイスラエルが懸念しているため、搬入が認められていない」
(ロイター10月25日)
ハマスから燃料調達を、イスラエル軍がガザ国連拠点に向け投稿 | ロイター (reuters.com)

イスラエルはそれを知っているから燃料の通過は許さない、ハマスからもらいなさいと言う、メディアはそれをイスラエルの冷血と報道します。
 結果、病院の機能が停止して患者が亡くなったとしても、世界に対して人道キャンペーンを張れて、反イスラエルプロパガンダに利用できます。

またイスラエル軍がR9Xというヘルファイアの改造ミサイルを病院に撃ち込んだという報道もなされました。
流しているのは、カタールのアルジャジーラで、イスラエル軍が「悪魔の実験をした」と報じています。
ちなみにカタールはハマスのボスの豪邸がある国で、アルジャジーラは一貫してハマス寄りの報道をしてきました。

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JSF氏はこの残骸から照明弾の殻だと分析しています。

「この写真の右は155mm榴弾砲の照明弾の殻です。弾帯(driving band)を確認できます。R9X(ヘルファイア対戦車ミサイル対人用体当り型)ではありません」
R9Xがガザの病院に撃ち込まれた根拠無し。現場で発見された兵器の残骸は155mm榴弾砲の照明弾の殻(JSF)

それ以前にはイスラエルが「悪魔の兵器である白燐弾を使用し、多数の火傷が出ている」というパレスチナ側の報道がありましたが、これもただの白煙を出すスモーク弾にすぎませんでした。

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パレスチナ医療救援協会(PMRS)による即時停戦の要求(2023.10.21)|日本国際ボランティアセンター (ngo-jvc.net)

これがいま流されている西側メディアの「ガザの患者や子供がイスラエルの攻撃で死んでいる」という報道の内幕です。
戦争というのは元々錯誤と誤認の渦ですが、このガザの戦闘はわずかの期間に多くの意図的な流言飛語が流され、それが一方の側のプロパガンダに使われています。

 

 

 

2023年11月12日 (日)

日曜写真館 さからはぬ薄は草の柳哉

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あきのたつ日より芒は水のうヘ 成田蒼虬

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ともかくも風にまかせてかれ尾花 千代尼

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地にあらば薄や星のみだれ髪 鬼貫

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ひらつきて日をさそひたる薄哉 野坡

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どちら吹風の名利や散薄 游刀

 

 

間違って昨日朝にアップしてしまったので、出たりひっこんだりしています(汗)。
いい薄の原がないので(というか腕)まだまだです。

 

 

2023年11月11日 (土)

日本政府の右往左往

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日本政府の今回のハマステロ対応について、私はまったく支持できません。
というのは、抜けかかった奥歯よろしくグラグラだからです。(←今の私)
これではメシは食えません。
岸田外交の最大の欠点である「芯」がないのです。
増税メガネと揶揄されれば、慌てて税の増収分を国民に還元すると言いながら蓋を開けば羊頭狗肉でグニャグニャ。
経済学の知識がないからです。

唯一得意なはずの外交は、上っ面は安倍外交をトレースしているようでも、やはり外交の芯が見えません。

今回のハマステロでそれが露になりました。
時系列で見ます。
【更新・わかる解説】日本政府の対応は イスラエル・パレスチナ情勢 岸田総理大臣・上川外務大臣は? | NHK政治マガジン

まずこのテロが勃発した8日の岸田氏の対応です。

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NHK

岸田氏は、ハマスのことをメディアのように「パレスチナ武装勢力」と呼んでいます。
他のG7諸国のように、「テロ組織」と呼ぶべきです。
ハマスが公安調査庁のテロ団体リストに載るような団体だということは、すぐにわかったはずです。
ハマス(HAMAS) | 国際テロリズム要覧について | 公安調査庁 (moj.go.jp)

したがってここで岸田氏に問われたのは、「テロとどう戦うか」という命題でした。
「哀悼の意を表する」という誰でも口にするような儀礼的修辞ではなく、日本政府がどう考え、どう対処するのか、だったはずです。
岸田政治に一貫する理念の欠落はここでも露になってしまいました。

この時点でこういう御愁傷様的な儀礼で済ませ、政府のイスラエルの自衛権について見解を避けたのです。
イスラエルに自衛権を認めるか否かが、今後のイスラエルのテロとの戦いをどうかんがえるかで極めて重要だったにもかかわらずです。
ここをあいまいにしては、テロとの戦いはありえません。

一方、G6は勃発時からこれをテロと断定し、イスラエルの自衛権を認めています。
つまりイスラエルのハマスとの戦いは主権国家の自衛戦闘であり、とうぜん支持すべきものだという意味を含んでいます。

そのうえに立って民間人保護を含む国際人道法を遵守することを求めています。

ところがわが国はこのG7議長国でありながら、リーダーシップを発揮するどころか、ただ一国この共同声明から脱落し、しかもあろうことかその言い訳を松野官房長官は「6カ国は、誘拐や行方不明者などの犠牲者が発生しているとされる国」だとしたことです。
こういう言辞を国辱と呼ぶのでしょうか。赤面します。
よくヌケヌケとこんなことを恥ずかしくもなく言えるものです。
ならばわが国の拉致被害者について国際社会の協力などいっさいあてにせず、G6諸国に「うちの国からは拉致被害者はでていないから」と言わせることです。

それを「同胞に被害がなければ関わりません」というエゴ丸出しの態度は破廉恥でさえあります。
イスラエル政府によれば、今回ハマスが人質にとった220人のうち、外国人は138人、うち国籍別で最多はタイの54人で、彼らは介護をしたり、キブツで農業労働に勤しんでいました。
ふゆみさんがおっしゃる「アジアで出来ることをしている」ならば、どうしてこういうアジア人からの多くの拉致被害者が出たことに沈黙をしていられるのでしょうか。
日本は常に、常々G7で唯一のアジアから出席している国家ということを重く語り、「アジア諸国とG7の橋渡し役」を自任していたはずなのに、それがこういう修羅場となるといきなり「うちの国から拉致は出ていない」と言うのですから一国主義外交に逆戻りです。
そのくせ自国民の脱出だけは国際協力を要請しているのですから、もうなんとも恥ずかしい。
今はまだアジアの国は黙っていますが、のちのちこういうミーイズムは響いてくるはずです。

そして外務省英語スクールがG6の共同声明から脱落したことを米国から叱責されたためか、そのわずか3日後の11日になって日本政府は、初めて「テロ攻撃」という表現に転換します。
外務省関係者はこう言っているそうです。

「音楽祭で無差別攻撃をするなど残虐な行為が明らかになってきたため、テロ攻撃と呼ぶことにした」(外務省関係者)」
(NHK前掲)

なにを寝ぼけたことを。音楽祭で200名以上を殺害したことは事件当初からあきらかになっており、いまさら「残虐な行為が明らかになった」もないものです。
遅ればせ「テロ」と呼んでも、この時点ですらイスラエルの自衛権については言及していません。
主権国家が大規模テロに遭遇した場合、国家としての自衛権が成立するのは常識です。
問題は反撃の範囲であって、それをどう考えるのかということですが、そもそもテロと呼ばず、自衛権も認めていない者に、イスラエルはとやかく言われたくはないはずです。
つまり、冒頭の対応の失敗によって、日本はいくら外務大臣が電話会談をしてもはかばかしい答えは得られませんでした。
それも9日もたってからの電話会談ですから、まるで気の抜けたビールです。

「17日夜には、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり、G7=主要7か国の外相が電話で会談。
この中で、議長を務める上川大臣は「深刻な懸念を持って注視しており、G7メンバーの精力的な外交努力に感謝する」と述べ、みずからも中東諸国などに事態の沈静化を働きかけていることを説明した」
(NHK前掲 太字NHK)

G7共同声明からひとり脱落しておきながら、いまさらのように「外交努力に感謝する」はないものです。
そしてこの同じ17日に、外相はイランにこう電話しています。

「一方、上川大臣はイスラム組織ハマスを支援してきたイランのアブドラヒアン外相とも17日午後、電話で会談している。
この中では、「ハマスなどのパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃を断固として非難する。罪のない多くの一般市民が 犠牲となっていることに大変心を痛めており、人質が一刻も早く解放されることや事態を沈静化することが重要だ」と述べた上で、ハマスなどに働きかけ事態の沈静化に向けて役割を果たすよう求めた」
(NHK前掲太字NHK)

もし、外務省がハマスとイランの関係を外相に教えていないのならどうかしています。
ハマスはイランの傀儡テロ組織であることは、中東を知ろうとする者には常識中の常識で、外務省のアラブ屋たちはこのことを知って外相に電話させたのでしょうか。

そして同じ17日に、世界の空気を一変させたあの病院「空爆」事件が起きます。
これについての外務省コメント。

10月17日(現地時間)、ガザ地区ガザ市にあるアル・アハリ病院が攻撃され、多数の死傷者が発生しました。罪のない一般市民に多大な被害が発生したことに、強い憤りを覚えます。病院や一般市民への攻撃は、いかなる理由でも正当化されません。犠牲者の方々に哀悼の誠を捧げ、御遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げます。
我が国は、これ以上一般市民の死傷者が出ないよう、全ての関係者が国際法を踏まえて行動することを求めます。また、一般市民の安全を確保し、事態を早期に沈静化するよう、各国と連携しつつ、更に尽力していきます。
(参考)概要
 10月17日(現地時間)、ガザ地区ガザ市にあるアングリカン・アル・アハリ病院(又はバプティスト病院)で爆発が発生し、避難していた市民少なくとも500人以上が死傷。
ガザ地区における病院への攻撃について (外務大臣談話)|外務省 (mofa.go.jp)

この日本政府声明は、名指しこそしていませんが、当時の空気の中で暗にイスラエルの「空爆」を非難したととられても致し方ありません。
たぶんこれを描いた外務官僚も、イスラエルの空爆説を信じていたはずです。
もし疑問の余地があるなら、一行でもよいから「原因は不明である」と書くべきでした。
死傷者数についても後日、500名は過大な数字たという批判がでていますし、事実関係がなにも明らかにならないうちにこういうコメントを出すのは、当時の反イスラエル感情に乗ったということになります。
この反イスラエル感情はハマスが作った情報戦であって、日本政府はまんまとそれに乗ったのです。

ここに至っても日本は、イスラエルの自衛権行使についてスルーすることで暗黙に否定し続けています。
このような煮詰まった状況の中で、「少しも触れない」ということは否定と同義語です。
G6は共同声明で明確に「自衛権行使を支持する」とし、イスラエルに対してやみくもに「自制」を求めるのではなく、ハマスのとの戦いを支持しました。
日本は奥歯にモノの挟まったようにイスラエルの「空爆」だけを非難し、「事態の早期沈静化」を呼びかけています。
最初にイスラエルの自衛権をに対して限りなく否定的対応をしたために、ハマスとの戦闘も早期鎮静化してほしいという願望に終わっています。

こんな「願望」によってイスラエルがハマスとの戦闘を終結するとでも思っていたらその能天気ぶりに驚嘆します。
逆に、ハマスがはいはい終わりにしましょうね、言うとでも思っているのでしょうか。
そしてこのようなリアリズムから浮き上がった日本の「願望」など、見向きもせずにG6はG7外相会談の共同声明で「自衛権支持」を改めて強調しました。

日本がやろうとしたことは、日本独自というと聞こえがいいですが、ひと頃のムン閣下のコウモリ外交を思わす対応を他のG7諸国に押しつけることでした。
どっちにもなぁなぁ、まぁまぁ、どちらも良くてどちらも悪い、喧嘩両成敗、だから双方反省して仲良く握手すればいいんだ、といういかにも悪い意味での日本的感性丸出しの外交でした。

とうぜん古代社会に生きているイスラエルやアラブ諸国はこんな「いかにも日本人」の言いぐさなどに耳も貸さず、またリアルな現代に生きているG7各国はほとんど議長国の日本を置いてきぼりにして先に進んでしまいました。
かくて、わが国はアジアを代表するG7国家ではなく、ただのイラン贔屓であることを国際社会に教えてしまったのです。

 

 

2023年11月10日 (金)

ネタニヤフ、永遠にガザを治安維持すると発言

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イスラエルと米国はすでに「戦後」について話あっているようです。
アンソニー・ブリンケンは驚異的な馬力で中東各国を周り、イスラエルと話し合いをした後、日本でG7外相会談に出ています。
G7外相会談での、テロについての共同声明。

100578333.pdf (mofa.go.jp)

「我々は、2023年10月7日に始まったイスラエル各地に対するハマス等によるテロ攻撃及び現在も続くイスラエルに対するミサイル攻撃を断固として非難する。我々は、イスラエルが再発を防ごうとする中、国際法に従って自国及び自国民を守るイスラエルの権利を強調する」
「我々は、ガザにおいて悪化する人道危機に対処するための緊急の行動をとる必要性を強調する。全ての当事者は、食料、水、医療、燃料及びシェルターを含む一般市民のための妨害されない人道支援並びに人道支援従事者のアクセスを可能としなければならない。我々は、緊急に必要な支援、一般市民の移動及び人質の解放を促進するための人道的休止及び人道回廊を支持する。
外国人が出域を継続することも認められなければならない。我々は、一般市民の保護及び国際法、特に国際人道法の遵守の重要性を強調する」

当初、ハマスのテロをテロと呼ばず、イスラエルのみの自制を求めた岸田政権の対応がいかにズレていたかわかるでしょう。
とまれ、一部の国際政治学者に期待されていた「バランス外交」の破綻です。
日本は欧米が作った中東の戦後枠組みに距離があったとしても、一貫してそれを支持して日米同盟を維持してきたのです。
そんなどちらにもいい顔をするような選択はありません。
どちらからも軽蔑されるだけです。
結局、今回もG7議長国という立場でしかモノをいうことはできませんでした。
腹を据えてG7と走るしかないのです。

さて、中東歴訪の中で、ブリンケンはイスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領との会談でこう言っています。


「ブリンケン氏はまた、イスラエルが安全保障を確保するにはパレスチナ国家の樹立しかないと述べた。
アメリカのが長年主張している「2国家共存構想」を繰り返したブリンケン氏は、「二つの民族に二つの国家。これがユダヤ人と民主主義的なイスラエルに恒久的な安全保障をもたらす唯一の方法だ」とした。
その上で、イスラエルには「自国を防衛し、10月7日の出来事が二度と起こらないようにする権利と義務がある」と述べた」
(BBC11月4日)
イスラエル首相、人道的休戦の訴えを一蹴 米国務長官との会談後 - BBCニュース

ブリンケンの言うとおりで、ふゆみさんがおっしゃるように、この「二国家共存」、すなわち1993年のオスロ合意の線以外に恒久的な解決はないと私も考えます。

オスロ合意とは

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 Wikipedia

①イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として、相互に承認する
②イスラエルは占領地域から暫定的に撤退し、自治政府による自治を5年間認める。その5年の間に今後の詳細を協議する
オスロ合意 - Wikipedia

このオスロ合意は「2国家共存」へ道を拓く画期的なものでしたが、合意に不満なヒズボラが2006年イスラエルをロケット弾攻撃し多数の死者を与えた上に国境を審判しイスラエル兵を殺害し、人質として拉致したことによりイスラエルは反撃、レバノンに空爆と侵攻をしています。
いまはアラブ諸国もイスラエルも、オスロ合意は消滅したと考えているようです。
今回と同じパターンで、緊張緩和すると双方にそれを破壊したい勢力が生まれて、紛争に発展します。
レバノン侵攻 (2006年) - Wikipedia

今回も解決はオスロ合意の復活しかないとわかっていても、問題はそれが現在可能かどうかです。
そうとうに難しいでしょう。

今回もブリンケンにそれを振られたヘルツォグ大統領は、回答を避けた印象があります。
今の立場では答えられないのでしょう。


「ブリンケン氏と共に記者会見に臨んだイスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、ガザ地区に投下された、北部の戦場から離れるように告げるビラを掲げながら、イスラエルはガザ市民に非常に長い間、空爆を警告していると述べた」
(BBC前掲)

ヘルツォグはイスラエルリベラルの労働党の出身で、この党はオスロ合意を作った勢力ですから、「二国家共存」以外、イスラエルに平和は来ないと思っているはずです。
しかし労働党単独では政権をとれず、いったん中道カディマと連合を組んだものの3年間で破綻、結局ネタニヤフの右派政党リクードとの連立しその解消の後にいまネタニヤフと組んで大統領に就任しています。
たぶん、実権はネタニヤフでしょうから、挙国一致内閣の中で祭り上げられている存在だろうと憶測できます。
ですから、ヘルツォグはブリンケンの言うことを聞きながら、内心はそうでしょうとも、そうでしょうとも、しかいま閣内ですら言えないのがわが国の空気なのですよ、と思っていたことでしょう。
イツハク・ヘルツォグ - Wikipedia

まったく同じ内容をブリンケンはパレスチナ自治政府のアッバス議長と話しています。

「ブリンケン米国務長官は5日、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの将来について、パレスチナ自治政府が中心的な役割を果たすべきとの見方を示した。
同氏はヨルダン川西岸のラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、その後イラクを訪問。バグダッドで記者団に、ガザの将来を巡る会話ではパレスチナ人の声が中心にあるべきだと述べた」
(ロイター11月6日)
ガザの将来、パレスチナ自治政府が中心的役割を=米国務長官 | ロイター (reuters.com)

ヘルツォグと同じようにアッパスがどう思ったか知る由もありませんが、ガザの中で「二国家共存」をぶち上げられるような雰囲気かどうか。
そもそもオスロ合意を壊したのは、パレチチナ側内部にもいたのですから。

そのうえ今のパレスチナ自治政府は、まったく無力で腐敗し、看板だけの存在です。
「実効支配」しているハマスは「国連」UNRWAの仮面をつけています。
つまり、パレスチナには当事者能力をもった当事者がいないのです。
方や極右、方や受け皿なし、これでオスロ合意が復活するはずがないではありませんか。
しかしこれが現実なのです。

そしてそのうえ今や国際世論の空気が大きく変化してしまいました。
たしかにイスラエルの空爆は苛烈でしたが、それを報じる西側メディアはまるでイスラエルによる「大虐殺」がガザで進行しているようなはしゃぎぶりでイスラエルを叩きに叩きまくりました。
ここまでイスラエル悪玉論が拡散されてしまえば、そんな悪人どもと手を結ぶのかという声が圧倒するに決まっています。
西側メディアの皆さん、あなた方の「ガザには子供の死臭で溢れている」的報道は、平和を呼び寄せるのではなく、逆に「2国家共存」の道を断ってしまったのですよ。

それはさておき、ブリンケンが「二国家共存」を落とし所どころに考えているのは明白で、その努力を正しく評価すべきですが、そのための大前提である、パレスチナ側とイスラエル側双方が歩み寄りがなければなりません。
具体的には、パレスチナ側はハマスのような跳ね上がりの原理主義過激派を自ら力で一掃し、一方イスラエル側も右派が今までやってきた西岸入植のような膨張主義政策を改めて、ガザとヨルダン川西岸は完全に自治政府の領土として認めることです。
つまり双方が両極端を切り、中庸を知ることです。
残念ですが、いまはその両極端であるハマスとネタニエフが情勢を支配しています。

そんな中、ネタニヤフはこんな愚かなことを放言しました。

「6日、ネタニヤフ首相は、バイデン大統領と電話会談の後、アメリカのABCニュースのインタビューに答えて、ガザとの戦争が終わったあとは、イスラエルが永遠に治安維持の責任を負わなければならないだろうと語った。
その理由として、「これまでそうしてこなかったので(2005年にイスラエルはガザから完全撤退)、ハマスかここまでの想像を超えるスケールにまで成長してしまったのだ。」と語った。

これについては、バイデン大統領が強く反対していることであり、イスラエルも、戦後のガザについては、なんの責任も負わないとして、さっさと引き上げる旨を主張してきたことである」
ガザ地上戦進行中:“戦後イスラエルが治安維持“ ネタニヤフ首相発言で物議 2023.11.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

本気でネタニヤフが、ガザの治安維持を永遠にイスラエル軍がやるというなら、それは領有化となんら変わりません。
つまりハマスはおろか、パレスチナ自治政府の存在すら認めずに半永久的にガザを軍事支配に置くという意味です。
私はイスラエルは、一時的に軍事占領し、将来的にはガザとイスラエルの境界を二重三重のフェンスで囲み地雷源を設置して朝鮮半島型DMZとし、いまは許容しているガザからの出稼ぎも禁じる程度はやると思っていましたが、よもや「永遠に治安維持をする」ですか、呆れてモノが言えません。

米国は直ちに拒否したようです。

「米国家安全保障会議のカービー報道官はCNNの番組で「大統領は依然、イスラエル軍によるガザ再占領は良くないと考えている。イスラエルにとっても、イスラエル国民にとっても良くない」と指摘した。
そのうえで「ブリンケン国務長官が中東で行っている協議のひとつが『紛争後のガザはどうなるのか。ガザの統治はどうなるのか』という問題だ」と説明。どうなるにせよ、ハマスが統治していた10月6日の状態に戻ることがあってはならないとの認識を示した。(略)
バイデン氏は米CBSテレビとの先月のインタビューで、イスラエルがガザを占領すれば「大きな過ち」になると発言。イスラエルのヘルツォグ駐米大使は当時、CNNに対し、紛争終結後にガザを占領する意図はないと述べていた。 」
(CNN11月8日)
米政権、イスラエルはガザ再占領すべきでないと警告 ネタニヤフ氏の発言受け - CNN.co.jp

こういうことを言うから、イスラエルはどさくさにまぎれて今までやりたかったことを一気にするつもりだろうと勘繰られるのです。
まぁ、ネタニヤフら右派は本気でやりたいのでしょうがね。

 

2023年11月 9日 (木)

UAEの画期的医療支援とは

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グテーレスが過激な演説をしています。

「パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム組織ハマスが運営する保健当局は6日、先月7日に始まったイスラエル軍の攻撃で同地区で殺害された人が1万人を超えたと発表した。イスラエル軍の空爆や地上作戦は北部を中心に激しさを増しているもようで、国連事務総長は同日、ガザの状況を「子どもたちの墓場」と表現した」
(BBC11月7日)
ガザの死者「1万人超えた」とハマス 国連総長は「子どもたちの墓場になりつつある」(BBC News) - Yahoo!ニュース

グテーレスは元の社会主義インターの議長に先祖帰りしてしまったようで、ハマステロを横に置いて口を極めてイスラエルを非難しています。
こんなテロリストのハマスと被害者のイスラエルを対等に並べた言い方をするなら、国連事務総長なんかいりません。
いっそ日曜日に世界各地であったデモ隊を連れてきて、演壇を占拠させてシュプレッヒコールでもさせたらいいのです。
はっきりいいますが、今の国連は無能な上に馬鹿です。

これで、解任要求まで出したイスラエルと国連の関係は収拾不能の状態なりました。
今後、国連を使った仲介作業はできなくなるということです。いいのかな。
まぁ、ガザ現地のUNRWAがハマスの手先になり下がっているのを、今までズっと放置してきたテロ加担の責任を問われたくないのでしょうか。
もし、本気で「ガザの子供を救え」と思うなら、演壇で叫んでばかりいないで、少しは実効性のあることをしたらいかがでしょうか。

いくつか方法はあります。
まず、戦闘がないガザ南部にガザ市民を退避させることです。
ハマスに甘いBBCの報道でも、南への避難民は増えているようです。
では、どうしてイスラエル軍がガザ市内を制圧したら、避難民が増えたのでしょうか。

理由は簡単です。
いままで有形無形にガザ市民の避難を妨害してきたハマスの支配力が、急速に弱まったからです。
イスラエルは避難を奨励していました。というか、さっさとガザ市内から出て行ってほしかったのです。戦闘のジャマですから。
そりゃそうでしょう。ハマスの最大の楯は市民の「人間の楯」なんですから。
イスラエルは、数百万回の電話とショートメール、数百万枚のビラによって何度も退避を要請し、退避ルートを確保し、それをビラで図示しました。
そもそもガザ地区の攻撃が数週間も遅れたのは、ガザ市民を退避させるためだったのです。

なになにイスラエル軍が妨害するって。
そんな事実はないはずですが、それでも民間人に被害が出るというなら、「国連」はUN印の白い車に国連旗をはためかせて、避難民の先頭にたって南部に誘導すればいいではありませんか。
なぜ、こんな簡単なことを「国連」ができないのでしょう、いっそそのほうが不思議です。

次に南部に避難民が滞留して、南部の人口が倍ほどになり、食料や燃料などを巡って混乱が起きているといいます。
これもイスラエルの「戦争犯罪」のような言われ方をしていますが、なんでもかんでもイスラエルのせいにするんじゃないよ。
これなど解決は簡単。ガザ地区とエジプトとの境界にあるラファ検問所を開ければいい、それて解決です。
開かないのは、エジプトが難民を助けたくないからです。

難民がくれば飯を食わせて住居を与えねばなりませんし、なにより難民と一緒にハマスが大量にエジプトに流入するかもしれません。
エジプトはハマスを「イスラム組織」などではなく、凶悪なテロ組織に認定していますから、今までせっせと追放措置をとってきました。
それがドっと入国して、「パレスチナ難民キャンプ」なんぞ作られたら、そこもまたガザにいくつもある「難民キャンプ」と同じ運命を辿ります。
それは過激派の軍事拠点
化です。

ガザにいくつかある難民キャンプは避難民のためのキャンプではなく、ただの市街地です
先日の爆撃された映像は「ナンミンキャンプ」でしたが、テントなんかで暮らしていなかったでしょう。
しかしUNRWAを介して巨額のカネが世界から入って来るために、いまでも「難民キャンプ」と名乗っているだけのことです。
ですから、キャンプというからテント暮らしかと思うと大間違い。
「天井のない牢獄」どころか、街路があり、商店があり、ビルが立ち並ぶフツーの街です。
ひとたび握った難民利権を、ハマスがぜったいに手放さないので「難民キャンプ」の看板はつけたっきりです。

それはさておき、難民の中に紛れ込んだハマスは、その過激な思想をエジプト国内に再び拡散するでしょう。
なにせエジプトは、イスラム原理主義者の発祥の地で、ハマスの母体である「ムスリム同胞団」が生まれた土地だからです。
今のエジプト大統領エルシーシ大統領がエジプトを統治する前には、ムスリム同胞団出身のムルシが務め、エルシーシはその後遺症に苦しみ、同胞団をテロ組織に認定して追放しました。
また、息を吹きかえされたらたまったもんじゃない、それがエジプトの本音です。

一方こんな方法もあるということを、2020年のアブラハム合意以降、イスラエルと国交正常化を開始したUAE(アラブ首長国連邦)が教えてくれました。

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UAEは、ガザのパレスチナ人を治療するための野戦病院を設立すると発表 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

「11月6日、ガザに野戦病院を設立すると発表。病院は150床で外科、整形外科、小児科、婦人科、歯科、精神科、内科をカバーする。
すでに医療機器などを載せた飛行機5機がアブダビを出発した。これについては、イスラエルとも合意の上とのことだが、詳細は不明。
ハマスが病院を拠点に使っているので、それとは別に野戦病院ができて、パレスチナ市民たちがそちらに行ってくれたら、ハマスへの攻撃もしやすくなる。UAEは、ハマスが病院を拠点に使っていることを非難して、この動きに出たと言っている。
UAEは他のアラブ諸国とは違い、ハマスが、イスラエル市民に対して行った残虐な殺戮と人質240人をとっていることを非難している。同時にパレスチナ人への人道支援の必要性から、野戦病院を設立し、2000万ドル(30億円)を計上したと発表した。さらに、ガザで負傷した子供と園家族1000人を国内へ連れて行って治療すると発表した。
エジプトも、ラファ国境から15キロの地点で、エジプトとガザの中間地点に野戦病院を設立中である。これをフランスが助けているとのこと」

中東諸国それぞれの反応:UAE(アラブ首長国連邦)がガザ内部に野戦病院を設立へ 2023.11.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net)www.timesofisrael.com/uae-says-it-will-establish-field-hospital-to-treat-palestinians-in-gaza/

エジプト、レバノン、ヨルダンも、避難するパレスチナ人難民を収容しようとする動きはない中で実に建設的です。
ハマスのフロント組織がやるような病院ではなく、UAEが作った病院を受診できれは、イスラエルもありがたいし、ガザ市民にも吉報です。
「ガザを救え」と言っている皆さん、こういう実効性があることをしましょうよ。
グテーレスさん、こんな病院づくりこそ国連が真っ先にやる分べきことだったんじゃありませんか。


 

2023年11月 8日 (水)

イスラエルはこの先どう考えているのだろうか

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イスラエルのガザ侵攻が本格化し、ガザは大きく南と北で分断され、北部の中心であるガザ市は完全に包囲されました。
今後イスラエル軍は、ハマスの拠点であるガザ市をじっくりと攻め続けることになります。

よくガザでの戦いは泥沼化するというひとがいますが、長期化はしても泥沼化はしないでしょう。
なぜなら、ハマスには泥沼化させるための必須条件である陸続きの策源地を欠いているからです。
かつて北ベトナムが長期の泥沼戦争を戦い抜いて米国に勝利し得たのは、中国、さらにソ連から無制限に補給を受けられたからです。
北ベトナムはなまじ重工業をもたなかったために国内で武器を自足できず、爆撃によって武器・弾薬の補給が断たれることはありませんでした。
そして大量の補給物資を毛細管のように張りめぐらされたホーチミンルートで、前線の部隊戦に届けたのです。
だからいくら長期戦となっても継戦可能でした。

一方、ハマスにはこの継戦の条件があるでしょうか。
結論から言うと、まったくありません。
ハマスが立て籠もったガザ市は既にイスラエル軍の包囲の環が締まっており、従来あったエジプトとガザ南部を結ぶトンネルから補給を受けることさえ不可能です。

現在一部ではハマス兵によるゲリラ戦が行われていますが、これはイスラエルが望むところで、ハマスの出撃拠点を特定でき、かつ武器弾薬を枯渇させることに大いに役だっています。
ゲリラ戦闘はまだ続くでしょうが、森林もないような開けた地形のガザで戦ってしまっては、老練なイスラエル軍にかなうはずがありません。
つまり、ハマスはやればやるほど自分の首を締めているのです。

すると残るは地下トンネルを巡っての戦いだけに絞られます。

今回のガザでの戦闘が、従来の市街戦と異なるのは、大部分のハマス兵が地下トンネルに潜っていることです。
ハマス兵はビルに立て籠もれば、まちがいなくピンポイントの空爆でビルごと撃滅されてしまうために、いやでもトンネルに潜るしかないのです。
イスラエル軍は市街地の外に補給基地を設置し、市内を市街地を区分して、ひとつひとつのグリッドを潰していくでしょう。

具体的には、ハマスのこもるトンネルを徹底的に探し出して周囲を封鎖し、特殊戦闘工兵がトンネルに潜って人質とハマス兵を捜索します。
歩兵の手に負えなければ、地中貫通型爆弾で破壊します。

ところでこの捜索が本格化するにつれ、ハマスがどういった場所にロケット弾発射基地を作っているのかわかってきました。
日本ではまったく無視されているイスラエル国防軍(IDF)の公式サイトから見てみましょう。
日本のメディアには絶対に乗らないような情報がぎっしり詰まっています。
ハマスに関するイスラエル国防軍のプレスリリース - イスラエル戦争 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

これは子供用プール施設のすぐ脇に隠してあったロケット弾発射拠点です。
こういう場所からロケット弾をイスラエルに発射して、反撃されて民間人に被害が出ようものならイスラエルの非道を叫ぶという筋書きです。
民間人を(しかも子供を)人間の楯に使うというのが、ハマスのやり方です。

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05.11.2023 イスラエル国防軍、ハマスによる子どもを含む民間人の搾取をテロ目的で暴露 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

この地下は動画で見ることができます。

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IDF公式サイト

ジャバリア難民キャンプの地下トンネルにはハマスの司令部が隠されていました。
イスラエル兵のヘルメットマウントカメラの動画が公開されています。
videoidf.azureedge.net/977317e6-9002-4638-a7d2-5b2616b230e9

ここではガザの大きな地図と文書が見つかっています。

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03.11.2023 ジャバリヤのハマス拠点で発見された戦闘計画、地図、通信機器 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

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03.11.2023 イスラエル国防軍とISAがハマスのサブラ・テル・アル・ハワ大隊司令官を解任 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

モスクの地下には大規模なトンネル司令部も発見されています。
videoidf.azureedge.net/55026323-5f14-446d-a2aa-591f26338da2

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22.10.2023, 03:04 イスラエル国防軍、アル・アンサール・モスクの地下テロリスト施設を空爆 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

またハマス兵との戦闘も報告されています。
たとえば11月2日夜には、ゴラニ旅団第13大隊と第53大隊の機甲部隊が、ガザ地区内でハマス兵と戦闘を行い、ハマスは対戦車ミサイルを発射し、路肩爆弾も使用したようです。
ハマス兵は戦闘車両に近寄って爆弾をしかけようとして阻止されました。
このようにイスラエル軍はひとつひとつのトンネルを潰していき、燃料や食糧を断たれてあぶり出されるようにして地上に出てきたハマス兵は容易に撃滅が可能です。

ではこの兵糧攻めによってなにが起きるでしょうか。
それはハマスと民間人の食糧、燃料をめぐる対立です。
すでにこの食糧暴動は始まっています。
暴徒の標的は、皮肉にもハマスのフロント団体である「国連」UNRWAの倉庫です。

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BBC

「イスラエルの空爆が続くパレスチナ自治区ガザ地区で28日、市民が支援物資の倉庫に押し入り、物資を奪った。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が29日、発表した。UNRWAは、「治安が乱れ始めた悪い兆しだ」としている。
また、中部や南部の他の保管施設でも同様に、物資が奪われたという。
UNRWAによると、ガザ地区中部デイル・アル・バラフにある倉庫に多くの住民が押し入り、小麦粉や小麦、衛生用品といった生活必需品を奪った。国連が運営する倉庫としては2番目に大きく、国連が運び込んだ人道支援物資が保管されている」
(BBC10月30日)
ガザ住民が支援物資を倉庫から奪う 「みな必死で、飢えている」と国連高官(BBC News) - Yahoo!ニュース 

この対立によってハマスと「国連」が市民の敵となり、市民は助かるためにハマスが誘拐した人質をイスラエル軍に引き渡す可能性が高くなります。
実際にイスラエル軍は、人質の場所を教えれば安全を保証するというビラをガザ全域に撒いています。

このような作戦が完了するまでイスラエルは「停戦」はしないでしょう。
人質の解放なきところでの「戦闘中断」すらイスラエルは拒否しています。
イスラエルの主張は極めてシンプルで、テロの下手人であるハマスの完全殲滅と、人質の解放です。
それを阻害する「停戦」はハマスの延命にすぎないと考えています。
イスラエルは日本と違って「孤立」馴れしているので、なんと謗られようと孤立を甘受して淡々とガザ掃討作戦を継続するはずです。

またハマスの指導部は、ガザの外で優雅な富豪生活を送って、そこからプライベートジェットに乗って指令を出しています。

「イスラエルは、ガザのハマスを殲滅すると言っているが、実際のところ、ハマスの司令官たちは、ガザの外にいるのであり、その者たちはどうするのかという問題がある。
ハマスのややこしいところは、政治部門、軍事部門など様々なオフィスが、様々なところにあり、その高官もいったい誰が一番上かということも分かりにくいという点である。 現在、ハマスのオフィスは、ガザ、ヨルダン川西岸地区、レバノン、トルコ、カタール、そしてイランとなっている。 (IDF諜報部調べ)
こういう外からガザへ指令が飛んでいるということである。
最高司令官とみられるのは、イスマエル・ハニヤ(61)ハニエはドーハ在住で資産40億ドル、サレハ・アル・アロウリ(57)、ハレッド・マシャアル(58)このマシャアルは、資産50億ドルとみられている。 イスラエルは一度暗殺を試みたが失敗している。 この他にも多数が海外にいる」
ガザ地上戦進行中:“戦後イスラエルが治安維持“ ネタニヤフ首相発言で物議 2023.11.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

イスラエルは彼らの引き渡しを求めるでしょう。
すくなくとも、ハマスに司令部を与えているイラン、トルコ、レバノン、カタールにはイスラエルを非難する資格はないのです。

ハマスはできるかぎり世界の世論を動かしてイスラエルを孤立させ撤退、ないしは最低でも「停戦」に追い込むしか勝機はありません。
そのためにイスラエルの後ろ楯から米国を引きはがそうとしています。

「ブリンケン氏はヨルダンの首都アンマンでサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ヨルダンの外相と会談。その後の記者会見で、ヨルダンのサファディ外相は「われわれは今、この戦争を停止する必要がある」と訴えた。
ブリンケン氏は、和平の必要性とガザの現状を続けるわけにはいかないという点で全員の見解が一致していると述べたが、双方に意見の相違があることも認めた。
「今停戦すれば、ハマスが残り、再結集して(イスラエルを奇襲攻撃した)10月7日にやったことを繰り返すことを可能にするだけだ」と強調した」
(ロイター11月6日)
米とアラブ諸国、ガザ停戦巡り隔たり | ロイター (reuters.com) 

今のところ米国は、民主党左派のバーニー・サンダースまで含めてこのブリンケンの線ででまとまっていますが、大統領選で民主党の票田であるリベラル層票が逃げていく可能性があります。
イスラエルではなく、米国がどこまでそれに耐えられるかがでしょう。

 

 

2023年11月 7日 (火)

イスラエル、核使用をほのめかす

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国連が、イスラエルを「戦争犯罪」として批判するまでに対イスラエル感情は悪化しています。

「(CNN) 国連人権高等弁務官事務所は1日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区のジャバリヤ難民キャンプを空爆したことについて、戦争犯罪に相当する可能性があるとの見解を示した。
同事務所はSNSへの投稿で、「イスラエルのジャバリヤ難民キャンプ空爆によって死傷した民間人の多さや被害規模の大きさを考えると、これが戦争犯罪に相当しうる不釣り合いな攻撃であるとの重大な懸念を抱いている」と指摘した」
(CNN11月2日)
国連人権機関がイスラエル非難、「戦争犯罪に相当の可能性」 - CNN.co.jp

ガザからの情報の出所の大部分は、ハマスそのものの「ガザ保健当局」か「国連」です。
では、
この爆撃を受けたガザの難民キャンプは、いったいどこの管轄下にあったのでしょうか。
このジャバリア難民キャンプは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の管理下でした。
その「国連」がこの地下になにが作られていたかまったく知らなかった、などととぼけられては困ります。

この地下司令部は1日や2日で出来たものではなく、おそらく10年単位でハマスが作ってきたものです。
その間、「国連」はなにも見ませんでした、なにも聞きませんでしたとでもいうのでしょうか。
「国連」は地下で極めて大規模な地下司令部や弾薬庫が建設されていたのを知っていながら止めもせずに地表で市民を暮らさせ、あげくここからハマスがテロに出撃しても知らんぷりでした。
そしてここを爆撃したイスラエルには「戦争犯罪だ」と言っているのですから、なんだかなぁです。

ならばここにテロ組織が基地を作っているのを知っていなから放置してきたことは、なんと呼べばいいのでしょうか。
テロ加担罪でしょうか。

とまれ、ガザ爆撃問題でひんぱんに登場する「国連」は著しく中立性を欠いています。
口を開けば「国連」は「停戦しろ」と言っていますが、同じことをハマスに言っているのでしょうか。
なぜか「国連」は、ハマスというテロ組織にはひどく寛容です。

先日来、「国連」は燃料がないと騒ぎ立てています。
いや大量にハマスが持っているのだから「国連」はハマスからわけてもらえ、とイスラエルは言っています。

「[24日 ロイター] - 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がパレスチナ自治区ガザに燃料が搬入されなければ25日夜に人道支援業務を停止せざるを得なくなると発表したことを受け、イスラエル軍は24日、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに燃料を分けてもらうのがいいと投稿した。
イスラエル国防軍はUNRWAによる警告に関して再投稿し、ハマスがガザ内のタンクに50万リットル以上の燃料を持っていると指摘。「ハマスに燃料を分けてもらえるか聞けばいい」と投稿した」
(ロイター10月25日)
ハマスから燃料調達を、イスラエル軍がガザ国連拠点に向け投稿 | ロイター (reuters.com)

イスラエルが言うように、ハマスはしこたま燃料も食糧も医薬品も備蓄していますが、それを市民に分け与えないだけのこと。
「国連」はハマスと交渉する努力を払うべきですが、「国連」はハマスの民生部門にすぎないのでできないようです。

ところで、イスラエルはガザ地下のハマス司令部を攻撃したと発表しています。
それはイスラエル空軍の撮影した動画を見ると、爆煙が大きく拡がるのではなく地中にすぼまるように吸引されているのを見るとわかります。

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【ガザ地区の難民キャンプ空爆】“地下の司令官殺害”イスラエル軍報道官が主張 - YouTube

これは地表の写真をみても、爆発の威力に対してクレーターが小さく、しかも中心が深く穿たれているように見えます。

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CNN

おそらく米国から供与された地中貫通型爆弾を使ったのだと思われます。
これは地下30mまで地下を穿って、そこで爆発します。
ここまで深い地下で爆発すると、地表には大きな被害は出にくいので、たぶん火薬庫にでも誘爆したのかもしれません。

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イスラエルのガザ侵攻で地上戦が急速に拡大中。「非非対称戦」がハマス制圧のカギになる!! -

二見元陸将補は、イスラエルはガザを南北に分断し、北部に関しては徹底したトンネル潰しをするだろうとして、こう述べています。

「まず、ガザ地区中央部に幅2~3kmで東西に貫く回廊を作ります。そして、その回廊の南北の地下要塞地域を地下40mまで達する地中貫通爆弾(バンカーバスター)で徹底的に潰していきます。続いて、中央部分には155mm榴弾砲に遅延信管を入れた砲弾を打ち込んで破壊する。こうして、その回廊部分のトンネルなどの地下施設を確実に破壊していきます」
|週プレNEWS (shueisha.co.jp)

また、イスラエルの閣僚が「核使用」をほのめかしました。

「[エルサレム 5日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相は5日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘を巡り、核兵器使用が選択肢の一つだと発言したアミハイ・エリヤフ遺産相を職務停止処分にした。
極右政党に所属するエリヤフ氏の発言は非難を呼んでおり、首相府は声明を出して「現実に基づいていない」と釈明。イスラエル政府は核保有を正式に認めていない。
アラブ連盟は声明でエリヤフ氏の発言が「核兵器保有を認めた」ものだとし、イスラエルによるパレスチナ人差別の実態を裏付けていると非難した。
米国務省高官も「明らかに好ましくない発言」と語った」
(ロイター11月6日)
イスラエル閣僚、ガザへの核使用「選択肢」発言が波紋 停職処分に | ロイター (reuters.com)

うへぇ、とうとう言っちゃったという類の放言だと思います。
ネタニエフは言った当人をすぐに解任しましたが、これでイスラエルが即投入可能な核兵器を相当量保有していることが初めて明らかになりました。
いずれにせよ、いまままで米国のメンツを立てて、持っているようないないようなぬらりくらりとしたあいまい戦略は今後もうできないということになります。
中東諸国は「核保有を認めた」と騒いでいますが、あんたらよーく知ってたでしょう、そんなこと。
ブリンケンは頭を抱えてゴミ箱のひとつも蹴り飛ばしたかもしれません。
米国が汗水かいて中東を走りまわっているのになんてこと言いやがるんだって感じでしょうか。
これで湾岸諸国をなだめるのは相当に厳しくなりましたが、核保有を宣言したイスラエルを軍事的に攻撃する国はひとつもなくなりました。
イランですら、自分の息がかかったテロ団体にミサイルのひとつも撃たせるでしょうが、それ以上はしないはずです。

ところでたぶんイスラエル軍内部では、核使用のオプションを検討しているはずです。
仮にカザで核を使用したとしても、地表はほぼイスラエル軍が確保しているはずですから、地下に潜ったハマスには無意味です。
地下70メートル以下にあるといわれるハマスの指令中枢を破壊するには通常の地中貫通型爆弾では足りず、より深震度で爆発するためには核を取り付けた「核バンカーバスター」のようなものが必要です。

不確実ですが、シリアから供与された疑いがあるハマスの生物兵器に対しても、核は爆発による熱と放射線で無害化できるといわれています。

「(イラク戦争)この戦争の後,米国の軍事戦略家は地中深くに隠蔽された堅牢な攻撃目標を破壊する方法について検討を進めていた。彼らは,地下バンカーや地下武器貯蔵庫への攻撃を成功させるのが難しいことを十分に認識していたようだ。さらに恐ろしいことは,地下爆撃によって,地中に隠蔽された化学剤や生物剤を迂闊にも周辺地域に撒き散らしてしまい,致命的な結果を招きかねないという問題だ。
国防戦略家が検討した1つの解決策は,爆発力を抑えた地中貫通型の核弾頭を配備することだ。この特殊弾頭は地中に貫通した後に爆発することで破壊力を増し,そのうえ放射性降下物(死の灰)の放出を少なくするものと期待された。原理的には,化学・生物剤がバンカーから漏れ出して近隣住民に危害を及ぼす前に,爆発による熱と放射線によって破壊できる」
地下攻撃核ミサイルに異議あり - 日経サイエンス (nikkei-science.com)

米国が「核バンカーバスター」を検討しているのは、北朝鮮の地下施設を攻撃するためですが、同じ懸念をもたれているハマスの地下施設に対しての検討はあるはずです。
ただしいかなる方法であれ、核を選択したなら、その政治的反動は測り知れません。
イスラエルは深刻な国際的孤立を代償に支払わねばなりません。
絶対に核に手をつけるのはお止めなさいと忠告します。

 

2023年11月 6日 (月)

ただの呼び方では済まない

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東海大学国際学部教授アルモーメン・アブドーラ氏が、面白い記事をニューズウィークに書いていますのでご紹介します。
アブドーラ氏はエジプト人ですが、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務め、元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザーの肩書をもってきることからわかるように、立場は「アラブ」側です。
そのアブドーラ氏が、日本メディアのハマステロについての言葉の使い方について疑問を呈しています。

アブドーラ氏はこう述べています。

「パレスチナとイスラエルとの武力衝突について、日本のメディアは真逆の意味を伝えている。問題を言語的に表現していく上で、客観を主観から切り離さず当事者視点を重視しない傾向がある。わざとではないと思いたいが、多くのニュースや報道番組に使用される言葉を見て、意図的に事実を曲げて伝えているとしか思えない」
(ニューズウィーク11月4日)
イスラム組織、イスラム勢力、イスラム聖戦...日本メディアがパレスチナ報道に使う言葉を言語学的視点から考える|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) 

実は私はこの冒頭の一文を読んだ時、もう読むのを止めようかと思いました。
「イスラエルとハマスの武力衝突」ではなく、「ハマスのテロに対するイスラエルの反撃」とすべきですし、ここで氏がハマス=パレスチナと一括りにしているのも引っかかりましたが、ま、いいかと読み進めるとこれがなかなか面白い。

まずアブドーラ氏はメディアがひんぱんに使う言葉の「力」をこう定義します。

「テレビやラジオ、ネット配信動画などを通じてそれぞれの国民に実情を語りかける。そこで最大の武器となるのは、言葉である。言葉には、出来事に対する人の意識や認識を誘導する力がある」
(NW前提)

いやまったくそのとおり。日本のメディアはろくにその歴史背景も実態も調べずにテキトーと言葉をつなぎ合わせて枕言葉に使い回して、あらぬ方向に印象操作しています。
これについては、先日、私も噛みつきました。
ハマスはパレスティナとイコールではない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

アブドーラ氏もこれはおかしいと感じたようです。

「イスラム組織、ハマス、大規模攻撃、実効支配、拉致、軍事衝突、ガザ地区、イスラエル軍、カッサム旅団、戦闘員、人質、テロ行為、流血、越境攻撃、地上侵攻 など」
(NW前掲)

氏は「言葉の意味というのは、主観的視点と観点が織り交ざってできるものである。つまり客観的で一般的な意味から出発して考えるのではなく、個人的で主観的な意味から出発して考えようとするものだ」としています。
日本のメディアの場合、主観が混入した言葉を使って状況を伝えようとするから、全体が狂ってきます。

たとえば、ハマスについて頻繁に使われる接頭語は「イスラム組織」です。
まぁアブドーラ氏はエジプト人ですから、ハマスの母体はエジプトから発生した「ムスリム同胞団」だと知っているはずですから、「イスラム組織」と一般化されるのはいい迷惑だという気分はわかります。
「イスラム組織」は世界全体で19億人いるといわれるムスリムの世界には星の数ほどあるわけで、揃って19億ハマスなわきゃありません。
それはない、とアブドーラ氏は言います。

「そもそも、ハマスの正式名称はアラビア語で「イスラム抵抗運動」であり、その頭文字から構成されたものだ。「情熱」という意味の単語にもなる。ところが、日本のメディアは活動内容を示す最も重要な部分である「抵抗運動」をとり、代わりに「組織」を当てている。
そもそも「イスラム組織」という表現は造語だ。(略)
造語にはメリット・デメリットの両面があるが、その言葉で伝えたい意味が見えなければ、かえって理解を阻むことになる。イスラム組織やイスラム聖戦、イスラム勢力などのように「イスラム●●」と安易につなぎ合わせて新しい言葉を作り出すのは避けるべき」
(NW前掲)

そう、「イスラム組織ハマス」という枕詞は、日本メディアの造語なのです。
「イスラム」という宗教概念と「ハマス」を勝手に接着してしまったもので、どうしてもイスラムをつけたいなら正式名称である「イスラム抵抗組織(ハマス)」とでもいうしかありません。

長いって。いえ、ひと頃まで「朝鮮民主主義人民共和国」なんてジュゲムジュゲムの国名を使っていたことを忘れましたか。
いまやただの「北朝鮮」か、あるいはさらに短縮して「北」と呼んでいます。
北の本質はなにひとつ変わらないのに呼び方だけ変わったのです。
なぜでしょうか。認識が変化したのです。

かつて産経を除くすべてのメディアは、揃いも揃って北を「地上の楽園」と絶賛し、拉致などないものとして扱いました。
だから「日朝友好」のためには、批判的含意がある「北」などと呼んではならなかったのです。
「地上の楽園」を侮辱するな、というわけです。いまから見るとなんとも珍妙ですらありますが、当時は高級インテリの皆さんが全員引っかかりました。
しかし北が拉致を認め、3代目が狂ったような核開発に邁進し、内情が分かるに連れて、やっと遅ればせでその正体に気がつきました。
いま「イスラム組織ハマス」「福利厚生組織のハマス」と呼んでいるメディアが、何年か後になんと呼ぶのか見てみたいものです。

もしメディアにテロに対して反対の意志があるなら、ここは「テロ組織ハマス」と言うのが正解ですが、日本政府と一緒で「アラブ世界」全体を敵に回しそうでコワイ。
いや、「イスラム組織」と一般化するほうが、ムスリムはみんなテロリストだというようなもんでよほど危ないんですがね。

アブドーラ氏はこうも言っています。

「処理する情報が複雑で難解であればあるほど、より多くの注意力や集中力、認知的労力が必要になり、それ以外の情報に注意を向けることは困難となる。そのため、メディアが伝えようとしているメッセージを理解するのを途中で放棄してしまうことが多い。例えば、意味不明な言葉「イスラム聖戦」や「イスラム組織」などのような視点や観点が強い言葉を理解するのには、認知的労力が必要となる」
(NW前掲)

まったくそのとおりなんですが、氏は言語学者なのでたいそう分かりにくい文章なうえに、氏のスタンスは「アラブ」ですから、理解するのに「認知的労力」が必要です。
とうぜん、私のように「反テロリズム」「イスラエル原則支持」を明確にしている立場とはかなり異なっています。
氏はハマスのテロも「レジスタンス」と呼ばず、なぜウクライナをそう呼ぶのかおかしいと言っていますが、イスラエルはパレスチナを占領していませんが、ロシアはしていることをお忘れでしょうか。
ハマスを「レジスタンス」と呼んでしまえば、イスラエルがガザを軍事占領していることになってしまいます。
イスラエルは9年前にガザから撤退していて、現在は軍事支配の事実はありませんが、メディアにはいままで一貫してガザを軍事占領していたような報じ方がたびたび出てきます。

さて、改めて私の立ち位置を表明しておくと、私は一貫してこのハマスのテロに関してテロリズムに反対する立場から批判しています。
したがって、中東学者が言うような「テロにも理がある」などという立場には立ちません。
このような立場は、実はハマスの代理人、ないしは代弁者であることを自分から物語っていますが、日本のメディアは平気でしゃべらせています。

なんせTBSに至っては、テロの女王であった重信を礼賛する娘を番組に出して、中東情勢を「解説」させるようなところですからね。
これなんかBPOものですよ。

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“天井の無い監獄” ガザ地区に目を伏せた世界の“ダブルスタンダード”【報道1930】 | TBS NEWS DIG (2ページ)

ハマスなるテロ団体は一掃されるべきであって、「ハマスを攻撃してもまた蘇る。暴力の連鎖が始まる」などとしたり顔をしても仕方がありません。
いま彼らの暴力を一掃できないなら容認したも同然だからです。

このように日本のメディアの姿勢はハマス側に偏っており、登場する中東専門家たちはハマスとパレスチナを故意に一体的にとらえて、「弱者パレスチナ人と支配者イスラエルの対立」という構図でしゃべっています。
そしてそこから出るお約束のキャンペーンは、「ガザの子供を救え」という「人道」であり、イスラエルの支援をしている米国への非難です。
これはメディアの一貫した反米姿勢と相性がよいとみえて、いつの間にかイスラエルと米国への糺弾劇にすり替わっています。

ハマスが犯した罪はしっかり償わせるべきです。
彼らが「イスラム軍事組織」だというなら、そのテロに使われる軍事力をもぎ取るべきです。
ハマスに武器弾薬、資金、アジトを提供していた国であるイランとカタールは糺弾されるべきです。
「ハマスはガザの福利厚生組織」だというなら、ガザから一掃して正常な行政が執行すべきです。
「ハマスがガザの国連機関を担っている」というなら、国連はハマスの影響を完全に断つべきです。
今の「国連」、とくにUNRWAや国連人権高等弁務官は、ガザがハマスのテロの温床となるのを放置し続け、いまやハマスの代弁者に成り下がっています。

一方、いかなるテロリズムも批判されるべきであるからこそ、それはイスラエルに対してもあてはまります。
したがって、国際人道法に反するガザ市民への過剰な攻撃は、強く批判されるべきです。
私はイスラエルを「原則として支持」と言っているのは、是々非々で批判すべきは批判するという立場に立つからです。
この間のイスラエルの空爆は明らかに行き過ぎた反撃であることは紛れもなく、地下にハマスのテロ司令部があるとしても、このような一区画まるごと廃墟とするような爆撃を合理化できません。
これを許すと、イスラエル市民に対してのテロもどっちもどっち、死んだ数はガザのほうが多い、という今の世界の風潮に抵抗できなくなります。

 

2023年11月 5日 (日)

日曜写真館 ひら~と朝霧乾くすすきかな

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こは夢か夢路の霧にむせ倒る 土芳

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いづる日の外にものなし霧の海 井上士朗

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帆柱にならぶや霧の向ひ島 北枝

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帆柱にならぶや霧の向ひ島 北枝

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薄霧は傘屋もしらぬ袂哉 西鶴 

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朝霧や湖水に配る茶の姻 露川

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朝霧の此方もひろし鳰の海 去来

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あきのたつ日より芒は水のうヘ 成田蒼虬

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漁船出づ酷寒の湖おしひらき 鷲谷七菜子

 

 

2023年11月 4日 (土)

ハマスの地下トンネル


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ガザ市の包囲環が閉じました。

「イスラエル国防軍のスポークスマン、ダニエル・ハガリ少将は、地上部隊がガザ市を完全に包囲したと述べている。
「わが軍は、ハマスの活動の中心地であるガザ市の包囲を完了した」とハガリは記者会見で述べた。
カタール在住のハマス指導者イスマイル・ハニヤは、プライベートジェットでイランを訪問する予定だという」
イスラエル国防軍:ガザ市は包囲され、停戦は交渉のテーブルに載っていない |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

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「ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、短期間の人道的停戦を求める米国の要請を検討していると、ヘブライ語のKan Newsが報じている。
イスラエル当局者は、数時間の停戦は可能だと述べている。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は明日イスラエルを訪問し、停戦などについて話し合う予定だ」
ネタニヤフ首相は短期間の停戦を秤にかけたと報じられるが、これは米国の主要な要求 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)




これはイスラエルが、米国の圧力にだけは反応するということを証明しています。
当初、いまよりはるかに早い段階で、イスラエルはガザを取り囲んで猛攻をかける予定でした。
しかし米国の人道上の配慮要請のために、地上進攻はより遅れて慎重で精密なものに変更されました。
空爆は悪名高いものですが、これも標的となった建造物の下にハマスの地下司令部ないしは地下ロケット発射基地があることを確認してからの空爆です。
先だってのガザキャンプへの攻撃は、地下70mにある司令部をバンカーバスターと呼ばれる地中貫通爆弾を使用したと思われます。
イスラエル空軍が保有するGBU-28は地下30mまで破壊可能ですが、これだとハマスのトンネル地下司令部を破壊するには限定的効果しかありません。
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NHK
バンカーバスターだけではなく、ガザ市内に突入した部隊がしらみ潰しにトンネルに入って潰していくしか方法はないでしょう。
ところでイスラエル軍は北部海沿い方向、ベイトゥ・ハノウン方向、ジュホル・アド・ディク方向の3方向からガザ地区周辺に展開し、南部との交通線を遮断した模様です。


2023年11月 3日 (金)

イランとハマスの米国孤立化作戦

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「(CNN) 国連人権高等弁務官事務所は1日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区のジャバリヤ難民キャンプを空爆したことについて、戦争犯罪に相当する可能性があるとの見解を示した。
同事務所はSNSへの投稿で、「イスラエルのジャバリヤ難民キャンプ空爆によって死傷した民間人の多さや被害規模の大きさを考えると、これが戦争犯罪に相当しうる不釣り合いな攻撃であるとの重大な懸念を抱いている」と指摘した」
(CNN11月2日)
国連人権機関がイスラエル非難、「戦争犯罪に相当の可能性」 - CNN.co.jp

イスラエルを支援する米国務長官のブリンケンは、議会の公聴会で傍聴人のデモ隊に「血がついた手」を挙げられました。
これを多くのメディアは、ここでも米国は孤立している、という報じ方をしました。

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Xユーザーのian bremmerさん: 「quite the shot from today’s hearing. https://t.co/aD7HTzeZUo」 / X (twitter.com)



2023年11月 2日 (木)

中国の中東での動き

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実はサウジはすでに「参戦」しています。
どちらかって?決まっているでしょう、イスラエル側です。ただし間接にですが。

「17~24日イランに支援された武装集団がイラクの米軍基地に10回、シリア南東部の米軍基地に3回ドローン(無人航空機)やロケット弾攻撃を行った。イエメンではイランに支援されたイスラム教シーア派武装勢力フーシ派がイスラエルに向けイラン製巡航ミサイル5発、ドローン約30機を発射した。
このフーシ派が発射した5発の巡航ミサイルのうち4発は、紅海北部で活動していた米海軍のミサイル巡洋艦が撃ち落とし、5発目はサウジアラビアが領空を守るために迎撃した 」
(ウォールストリートジャーナル10月24日)

イスラエルにミサイルを撃ったこのフーシー派は、イランが育成して武器と資金を与えているハマスのイエメン版のような存在です。
彼らはハマスの今回のジハドの呼びかけに狂喜乱舞して、祝砲よろしくイスラエルに巡航ミサイルをぶッ放した馬鹿者たちです。
それを紅海北部で待機していた米国のイージス艦とサウジで撃ち落としたというわけです。
これでサウジはイスラエルの防衛に一役買ったことになります。

サウジは、このイエメン北部に巣くうフーシ派と長年に渡ってバトルを展開してきました。
フーシ派はサウジに執拗なミサイル攻撃をしかけてきており、その供給源はイランです。
したがって、サウジにとって最大の敵はこのフーシ派とそれを裏で操っているイランの革命防衛隊ということになります。
中国はサウジとイランを仲介して、反イスラエル勢力を拡大させ、米国を追い込もうと画策していました。

そしてその「友好」の最大のイベントが、10月2日のイランでのサッカーアジアチャンピオンズリーグにおけるサウジ対イランの一戦となるはずでした。
サウジは大枚のカネを叩いてクリスチアノ・ロナウドを獲得していたので、大いに見せびらかしたかったはずですが、あるものを見た瞬間凍りついて帰ってしまいました。なんでしょうか。
サウジを激怒させたのはこれです。

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読売

「【テヘラン=吉形祐司】イラン中部のイスファハンで2日夜、サッカーのクラブチームによるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のイラン・セパハン―サウジアラビア・アルイテハド戦が直前で延期となった。両国の国交正常化を象徴する試合だったが、サウジ側が、スタジアム内に飾られたイランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」の元司令官の胸像に反感を示し、試合を拒否したとみられる」
(読売10月3日)
イランのサッカー場に「革命防衛隊」元司令官の胸像…サウジのクラブが試合拒否か:写真 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

サウジが出場を拒否した理由は、サウジ選手の通るスタジアムの通路にサウジが憎んでも憎みきれない仇敵の革命防衛隊司令官スレイマニの胸像が恭しく飾ってあったからです。
スレイマニはイランのテロ組織の総元締めのような男で、サウジはこれまで何度もひどい目にあってきました。

イランは、世界をイスラム原理主義が支配することを目指す革命輸出国家だと自認しています。
そのための対外工作をするのが革命防衛隊・クドゥス部隊で、その司令官だったのがソレイマニです。
ソレイマニはサウジの王政を打倒することを命じられており、その手先がフーシ派です。
フーシ派はミサイルでサウジの石油施設を爆撃したこともあります。

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ロイター

「[リヤド 25日 ロイター] - イエメンの親イラン武装組織フーシ派は25日、サウジアラビアのエネルギー施設への攻撃を開始したと発表した。一方、サウジ主導の連合軍はジッダにある国営石油会社サウジアラムコの石油関連施設が攻撃を受け、貯蔵タンク2つで火災が発生したと発表。ただ死傷者は出ていないという。
フーシ派の軍事報道官は、フーシ派が25日にジッダにあるアラムコの施設にミサイルを、ラスタンヌーラとラービグの製油所にドローンを発射したと述べた。首都リヤドの「重要施設」も標的にしたという」
(ロイター2022年3月26日)
フーシ派がサウジアラムコ石油施設を攻撃、火災発生 死傷者なし | Reuters

いちおう表面的にでも握手しようとしたら、相手がソレイマニと書いたピンを手に隠して刺したというわけです。
そうか、オレたちにコイツを見せたということは、今後もイランは「革命の輸出」をして、オレらの国を攻撃する気なんだなとサウジはピンっときたのです。

これで、中国が仲介しようとしたイランとの友好関係の樹立は御破算になりました。
いままでどおり米国と安全保障関係を維持することとなりました。
ま、米国が安全保障から手を引けば、米国製で占められているサウジの軍隊は動かなくなる、というのもあるんですがね。

ところでいちばんがっかりしたのは、誰よりも中国だったはずです。
今まで中東にはナニも足掛かりがなくロシアの独壇場だったのを、どうにか自分の影響力を扶植できると思ったのですが、残念。
今回、王毅外相はハマスを批判せずに、「イスラエルの行動は自衛の範囲を超える。ガザ住民への集団的懲罰は避けるべきだ」とイスラエルだけ非難しました。

おーい、秦剛、どこに行ったんだーい。王毅は本来外相ではなく、共産党の外務担当ですから兼務です。
外相なしの国なんて珍しい。
ついでに李尚福国防相もいなくなってしまいました。
最重要ポストの外相と国防が欠員というめずらしい国です。
そんな中、胡錦濤に後を託された李克強の唐突な死、当然立つのが暗殺の噂。
なにかが宮廷内部で起きているのでしょうが、いずれにしても細かな外交工作をやるなんて余裕はないでしょう。
せいぜいできるのは軍隊を動かすだけ。

それはさておき、中国としてはなんとしてでも「イスラエル・パレスチナ紛争」にして、イスラエルを軍事支援する米国が危機を拡大させていると責任を追及したいと考えています。
中国の思惑としては、いままでのBRICSにアルゼンチンを加え、さらに中東にまでウィングを伸ばしてエジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEを加わえて、世界にまたがる一大勢力圏を作り、それを牛耳るつもりでしたが、今回のハマスのテロで改めてバラバラの烏合の衆だということがわかってしまいました。
日本には米国に対抗する一大経済圏ができたぁ、なんてことを言う者もいましたが、なにを言っているのやら。
ゆるやかな経済連携がせいぜいで、共通通貨など夢のまた夢。
基軸になる通貨がない、自由貿易圏に向けての様々な実務的すり合わせもない経済連携なんて絵に描いた餅ですから、仲良しクラブ以上の関係になる可能性はありません。
第一、リーダーになりたい中国の経済が失速していますしね。

今回も、海賊対処国際活動でドバイに派遣している6隻の艦隊を、今回のハマスのテロ事件を理由に、中東に展開させたいようです。

[ロンドン発]イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム武装組織ハマスの戦争で地域の緊張が高まる中、ソマリア沖・アデン湾で半年近い護衛任務を終えた中国人民解放軍海軍の第44次部隊が第45次部隊と交代、10日にオマーンに到着後、同国海軍と合同演習を行い、18日には5日間の親善訪問のためクウェートに寄港した。(略)
中東でプレゼンスを誇示しているのは米軍だけではない。中東諸国がイスラエルとハマスの戦闘激化を固唾を飲んで見守る中、中国海軍の艦船もペルシャ湾とオマーン湾を航行している」
中東への影響力を拡大する中国、「軍艦6隻を中東に展開」報道に噛みつく 中東重視に舵切り替えた米国、「仲介外交」にシフトしはじめた中国はどう動く(5/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

だからなんだつうの。中国のプレゼンス拡大?ご冗談を。
米国のほうが外交も軍事も数十倍動き回っていますよ。
チャイナは近くにいた海賊対処艦隊を中東に寄り道させただけでしょうが、なんの戦略性もありません。
中国の主観としては、米海軍の2個空母打撃群の向こうを張ってと堂々の艦隊派遣でイラン・ハマスを支援、ということなのかもしれませんが、海軍力の展開というにはあまりに貧弱です。
なにもできないのはみんな知っていますから、だからナニていどのお話です。

というわけで、今回ハマスの影にはイランがあり、そのまたお仲間には中露や北があるといっても彼らの影は薄いのです。

 

2023年11月 1日 (水)

反ユダヤ人暴動起きる

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大変に危険な兆候がうまれています。
ユダヤ人排斥の動きです。
ハマスの煽動に乗って世界各国で反イスラエルの大規模デモが起きています。

ハマスのテロの目的は「ガザ難民救済」ではありません。
それは彼らの野望の一部で、真の目的は世界の秩序を転覆するイスラム原理主義革命を起こして、世界中をイランのような国家にすることです。
イスラム版世界革命といっていいでしょう。

だから世界中のイスラム教徒に、イスラエルと戦え、ユダヤ人を追放しろ、これはジハードだと呼びかけています。
このハマスの呼びかけに連動して、ヒズボラ、アルカイダ、フーシ派、そしてISが世界中で「決起」しています。

この呼びかけに応えて、ロシアでは反ユダヤ暴動に発展しました。
ロシアはポグロム(ユダヤ人虐殺)の歴史があります。

「日曜日の夕方、何百人もの人々がロシアのダゲスタン地方の主要空港に乱入し、イスラエルからの飛行機に乗っていたユダヤ人の乗客に立ち向かおうとして着陸場に押しかけた。ガザ地区におけるイスラエルとハマスの戦争のさなかに勃発したイスラム教徒が大半を占める地域での暴力は、イスラエルがロシアに自国民の保護を求めるきっかけとなった。
ソーシャルメディアやロシアのRTやイズベスチヤ・メディアに投稿された動画によると、抗議者の多くは「アッラーフ・アクバル(神は最も偉大なり)」と叫び、ドアや障壁を突き破り、一部は滑走路に飛び出した」
暴徒がロシア・ダゲスタンの空港を襲撃し、イスラエルからの航空機に搭乗したユダヤ人を捜索 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

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XユーザーのNEXTAさん: 「#Dagestan 年、テルアビブからの飛行機からユダヤ人を探すために、群衆がマハチカラ空港の建物に押しかけました。https://t.co/TaBvakBKIE」 / バツ (twitter.com)

この日、ロシア航空会社のレッドウイングスが、テルアビブを出発し、このマハチカラ空港に午後7時に到着し、2時間のトランジットを経て、モスクワへ向かう予定になっていました。
この飛行機には、イスラエルで医療処置を受けたダゲスタン人の子供たちが乗っていたようですが、これを群衆はユダヤ人と誤認して殺害しようとしました。
暴徒はパレスチナ国旗を持ち、「お前はユダヤ人か」と言いながら乗客の中からイスラエル人を探し出そうとしました。

この反ユダヤ人暴動に先立つ29日には、建設途上にあるダゲスタンのユダヤセンターが放火され、「ユダヤ人に死を」という文字が壁に書かれていました。

「タス通信によると、ダゲスタン共和国と同じ北コーカサス地方にある露南部カバルダ・バルカル共和国の首都ナルチクでは、建設中のユダヤ人センターが放火された。ロシアではイスラム教徒が多い地域で反イスラエル感情が高まっているとみられる」
(読売10月30日)
ロシア南部の空港で群衆が暴徒化、イスラエルからの乗客標的か…当局が60人拘束(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

ところで、ロシアにはユダヤ人虐殺を意味する「ボグロム」という暗黒史があります。

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「ポグロム(погром、パグローム)とは、ロシア語で「破滅」、「破壊」を意味する言葉である。特定の意味が派生する場合には、加害者の如何を問わず、ユダヤ人に対し行なわれる集団的迫害行為(殺戮・略奪・破壊・差別)を言う。
歴史的にこの語は、ユダヤ人に対して、自発的計画的に広範囲に渡って行われる暴力行為と、同様な出来事について使われる。ポグロムは標的とされた人々に対する物理的な暴力と殺戮を伴っている。
ロシアには、歴史的に反ユダヤ主義があり、社会の問題の吐口として、ユダヤ人たちを虐殺した「ポグロム」という土壌がある。ダゲスタン共和国の首都マハチカラでは、昨年、ウクライナ侵攻を続けるロシアからの30万人招集令を受け、暴動にまで発展していた」
ポグロム - Wikipedia 

このポグロムは、帝政ロシア政府が社会的な不満の解消先をユダヤ人排斥主義に誘導したことによって生まれましたが、今、プーチンはロシア内のイスラム圏共和国に過大な徴兵を強いています。
この反ユダヤ人暴動が起きたロシア・ダゲスタン共和国からは、多くの兵士が徴兵されてウクライナ戦線に投入されており、すでに300人を超える戦死者が出ています。
プーチンは政治基盤に直結するサンクトペテルブルトやモスクワなどの大都市近辺からの徴兵を見合せ、その代わりに辺境のイスラム圏から多くの動員をかけるという歪んだ徴兵政策をとりました。
今回のタゲスタン反ユダヤ暴動の背景には、プーチンが30万人ものさらなる大動員を命じたことが背景にあります。

「このダゲスタン共和国からはすでにウクライナ侵攻に大勢の兵士が派遣されているもよう。BBCロシア語による最近の分析では、ロシアの他のどの連邦構成主体よりも、ダゲスタン出身の兵の戦死が多い。戦死広報などをもとにした今月初めの集計によると、ダゲスタンから派遣された兵士301人がウクライナで死亡している。これはモスクワ州の10倍にあたる。実際の死者数は、これよりはるかに多いものと考えられている」
(BBC9月26日)
ロシア南部ダゲスタンで動員令に抗議 警察と衝突 - BBCニュース

ロシアにおける1903年、1906年にかけての度重なるユダヤ人殺戮は、ユダヤ人の自衛運動としてのシオニズム運動を作り出しました。
ユダヤ人は、ポグロムをこう総括しました。
「武器を持って戦わなかったから、我々民族が絶滅しかけたのだ」

このポグロムやホロコーストにおいても、いやそれ以前の長い歴史の中でもユダヤ人は武器をもって戦ったことがありませんでした。
ユダヤ人は迫害と殺戮の中で、生存の権利さえ奪われても耐え忍ぶことで生き延びようとしてきたのです。
この受忍の歴史を根本から変えたのがシオニズムであり、それから生まれたのがイスラエルなのです。
このポグロムの歴史を知らないで、イスラエルという国を語れません。

この忌まわしいポグロムが、ふたたびハマスによって世界中に蘇ろうとしています。
ユダヤ人が多く住む米国でもこのような動きが出ています。

「アメリカのユダヤ人団体は、この3週間でアメリカ全土でのユダヤ人への嫌がらせや暴力などが、去年の同じ時期に比べて4倍近く増えたと公表。
世界の都市で最も多くのユダヤ人が暮らすニューヨークでもヘイトクライムは急増し、現地当局によると、ニューヨーク州でユダヤ人を標的にした犯罪は30件を超えているということです。
この礼拝所も、「イスラエルは毎日ガザで子どもを殺している」などと落書きされていました」
(2023年10月31日 17時02分TBS NEWS DIG
全米でユダヤ人への嫌がらせ・破壊行為・暴力が急増 NYの礼拝所では落書きも…「世の中は“善人か悪人か”というシンプルなストーリーを求めているがそんな単純な話ではない」|ニフティニュース (nifty.com)

一方、このような声もあります。
ハマス創設者の息子であるモサブ氏はこう言っています。

「モサブ氏は、もしハマスが取り除かれたら、ガザのパレスチナ人が祝いをするのを見るだろう。パレスチナ人たちは、まずは、イスラエルに感謝し、ハマスが永遠にいなくなったことを喜ぶと確信する。さらには、イスラエルを否定するという思いを永遠に持たなくなると思うと語った。
ハマスを支援する人々はハマスの犯罪に加担していると知るべき
モサブ氏は、純粋なパレスチナ人として言わせてもらうが、海外から何をすればいいか言ってもらう必要はない。私たちはハマスに乗っ取られたのだ。その犯罪者のハマスを支援するということは、ハマスの犯罪に加担しているということだ。

ガザの市民が死んでいるのは、ハマスが、彼らを盾にしているからだ。ハマスは、イスラエルの警告で避難しようとする市民を妨害している」
世界で広がる大規模反イスラエルデモ:ハマスの息子がパレスチナ人として激怒 2023.10.31 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

また、国連のイスラエル大使は胸にホロコースト時代にユダヤ人に貼られた黄色のダビデの星をつけて出席しました。

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オリーブ山通信

「イスラエルのエルダン国連代表は、ホロコーストの時代にユダヤ人を識別する目的で徴用を強制したダビデの星のバッジをつけて、30日の国連安保理に出席。
エルダン氏は、自らの祖父一家が住んでいたルーマニアの村にナチスが来て、叔父一家はじめ全ての人を虐殺し、村を絶滅させたことを証した。あの「2度と起こらない」はずのことが、今起こったのだと訴えた」
黄色ダビデの星装着のエルダン国連代表:イスラエルは残虐なナチスと共存しない 2023.10.31 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

世の中は単純ではありません。
イスラエルも頭を冷やさねばなりませんが、世界も冷静にならねばなりません。

 

 

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