ネタニヤフ、永遠にガザを治安維持すると発言
イスラエルと米国はすでに「戦後」について話あっているようです。
アンソニー・ブリンケンは驚異的な馬力で中東各国を周り、イスラエルと話し合いをした後、日本でG7外相会談に出ています。
G7外相会談での、テロについての共同声明。
100578333.pdf (mofa.go.jp)
「我々は、2023年10月7日に始まったイスラエル各地に対するハマス等によるテロ攻撃及び現在も続くイスラエルに対するミサイル攻撃を断固として非難する。我々は、イスラエルが再発を防ごうとする中、国際法に従って自国及び自国民を守るイスラエルの権利を強調する」
「我々は、ガザにおいて悪化する人道危機に対処するための緊急の行動をとる必要性を強調する。全ての当事者は、食料、水、医療、燃料及びシェルターを含む一般市民のための妨害されない人道支援並びに人道支援従事者のアクセスを可能としなければならない。我々は、緊急に必要な支援、一般市民の移動及び人質の解放を促進するための人道的休止及び人道回廊を支持する。
外国人が出域を継続することも認められなければならない。我々は、一般市民の保護及び国際法、特に国際人道法の遵守の重要性を強調する」
当初、ハマスのテロをテロと呼ばず、イスラエルのみの自制を求めた岸田政権の対応がいかにズレていたかわかるでしょう。
とまれ、一部の国際政治学者に期待されていた「バランス外交」の破綻です。
日本は欧米が作った中東の戦後枠組みに距離があったとしても、一貫してそれを支持して日米同盟を維持してきたのです。
そんなどちらにもいい顔をするような選択はありません。
どちらからも軽蔑されるだけです。
結局、今回もG7議長国という立場でしかモノをいうことはできませんでした。
腹を据えてG7と走るしかないのです。
さて、中東歴訪の中で、ブリンケンはイスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領との会談でこう言っています。
「ブリンケン氏はまた、イスラエルが安全保障を確保するにはパレスチナ国家の樹立しかないと述べた。
アメリカのが長年主張している「2国家共存構想」を繰り返したブリンケン氏は、「二つの民族に二つの国家。これがユダヤ人と民主主義的なイスラエルに恒久的な安全保障をもたらす唯一の方法だ」とした。
その上で、イスラエルには「自国を防衛し、10月7日の出来事が二度と起こらないようにする権利と義務がある」と述べた」
(BBC11月4日)
イスラエル首相、人道的休戦の訴えを一蹴 米国務長官との会談後 - BBCニュース
ブリンケンの言うとおりで、ふゆみさんがおっしゃるように、この「二国家共存」、すなわち1993年のオスロ合意の線以外に恒久的な解決はないと私も考えます。
オスロ合意とは
①イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として、相互に承認する
②イスラエルは占領地域から暫定的に撤退し、自治政府による自治を5年間認める。その5年の間に今後の詳細を協議する
オスロ合意 - Wikipedia
このオスロ合意は「2国家共存」へ道を拓く画期的なものでしたが、合意に不満なヒズボラが2006年イスラエルをロケット弾攻撃し多数の死者を与えた上に国境を審判しイスラエル兵を殺害し、人質として拉致したことによりイスラエルは反撃、レバノンに空爆と侵攻をしています。
いまはアラブ諸国もイスラエルも、オスロ合意は消滅したと考えているようです。
今回と同じパターンで、緊張緩和すると双方にそれを破壊したい勢力が生まれて、紛争に発展します。
レバノン侵攻 (2006年) - Wikipedia
今回も解決はオスロ合意の復活しかないとわかっていても、問題はそれが現在可能かどうかです。
そうとうに難しいでしょう。
今回もブリンケンにそれを振られたヘルツォグ大統領は、回答を避けた印象があります。
今の立場では答えられないのでしょう。
「ブリンケン氏と共に記者会見に臨んだイスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、ガザ地区に投下された、北部の戦場から離れるように告げるビラを掲げながら、イスラエルはガザ市民に非常に長い間、空爆を警告していると述べた」
(BBC前掲)
ヘルツォグはイスラエルリベラルの労働党の出身で、この党はオスロ合意を作った勢力ですから、「二国家共存」以外、イスラエルに平和は来ないと思っているはずです。
しかし労働党単独では政権をとれず、いったん中道カディマと連合を組んだものの3年間で破綻、結局ネタニヤフの右派政党リクードとの連立しその解消の後にいまネタニヤフと組んで大統領に就任しています。
たぶん、実権はネタニヤフでしょうから、挙国一致内閣の中で祭り上げられている存在だろうと憶測できます。
ですから、ヘルツォグはブリンケンの言うことを聞きながら、内心はそうでしょうとも、そうでしょうとも、しかいま閣内ですら言えないのがわが国の空気なのですよ、と思っていたことでしょう。
イツハク・ヘルツォグ - Wikipedia
まったく同じ内容をブリンケンはパレスチナ自治政府のアッバス議長と話しています。
「ブリンケン米国務長官は5日、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの将来について、パレスチナ自治政府が中心的な役割を果たすべきとの見方を示した。
同氏はヨルダン川西岸のラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、その後イラクを訪問。バグダッドで記者団に、ガザの将来を巡る会話ではパレスチナ人の声が中心にあるべきだと述べた」
(ロイター11月6日)
ガザの将来、パレスチナ自治政府が中心的役割を=米国務長官 | ロイター (reuters.com)
ヘルツォグと同じようにアッパスがどう思ったか知る由もありませんが、ガザの中で「二国家共存」をぶち上げられるような雰囲気かどうか。
そもそもオスロ合意を壊したのは、パレチチナ側内部にもいたのですから。
そのうえ今のパレスチナ自治政府は、まったく無力で腐敗し、看板だけの存在です。
「実効支配」しているハマスは「国連」UNRWAの仮面をつけています。
つまり、パレスチナには当事者能力をもった当事者がいないのです。
方や極右、方や受け皿なし、これでオスロ合意が復活するはずがないではありませんか。
しかしこれが現実なのです。
そしてそのうえ今や国際世論の空気が大きく変化してしまいました。
たしかにイスラエルの空爆は苛烈でしたが、それを報じる西側メディアはまるでイスラエルによる「大虐殺」がガザで進行しているようなはしゃぎぶりでイスラエルを叩きに叩きまくりました。
ここまでイスラエル悪玉論が拡散されてしまえば、そんな悪人どもと手を結ぶのかという声が圧倒するに決まっています。
西側メディアの皆さん、あなた方の「ガザには子供の死臭で溢れている」的報道は、平和を呼び寄せるのではなく、逆に「2国家共存」の道を断ってしまったのですよ。
それはさておき、ブリンケンが「二国家共存」を落とし所どころに考えているのは明白で、その努力を正しく評価すべきですが、そのための大前提である、パレスチナ側とイスラエル側双方が歩み寄りがなければなりません。
具体的には、パレスチナ側はハマスのような跳ね上がりの原理主義過激派を自ら力で一掃し、一方イスラエル側も右派が今までやってきた西岸入植のような膨張主義政策を改めて、ガザとヨルダン川西岸は完全に自治政府の領土として認めることです。
つまり双方が両極端を切り、中庸を知ることです。
残念ですが、いまはその両極端であるハマスとネタニエフが情勢を支配しています。
そんな中、ネタニヤフはこんな愚かなことを放言しました。
「6日、ネタニヤフ首相は、バイデン大統領と電話会談の後、アメリカのABCニュースのインタビューに答えて、ガザとの戦争が終わったあとは、イスラエルが永遠に治安維持の責任を負わなければならないだろうと語った。
その理由として、「これまでそうしてこなかったので(2005年にイスラエルはガザから完全撤退)、ハマスかここまでの想像を超えるスケールにまで成長してしまったのだ。」と語った。
これについては、バイデン大統領が強く反対していることであり、イスラエルも、戦後のガザについては、なんの責任も負わないとして、さっさと引き上げる旨を主張してきたことである」
ガザ地上戦進行中:“戦後イスラエルが治安維持“ ネタニヤフ首相発言で物議 2023.11.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
本気でネタニヤフが、ガザの治安維持を永遠にイスラエル軍がやるというなら、それは領有化となんら変わりません。
つまりハマスはおろか、パレスチナ自治政府の存在すら認めずに半永久的にガザを軍事支配に置くという意味です。
私はイスラエルは、一時的に軍事占領し、将来的にはガザとイスラエルの境界を二重三重のフェンスで囲み地雷源を設置して朝鮮半島型DMZとし、いまは許容しているガザからの出稼ぎも禁じる程度はやると思っていましたが、よもや「永遠に治安維持をする」ですか、呆れてモノが言えません。
米国は直ちに拒否したようです。
「米国家安全保障会議のカービー報道官はCNNの番組で「大統領は依然、イスラエル軍によるガザ再占領は良くないと考えている。イスラエルにとっても、イスラエル国民にとっても良くない」と指摘した。
そのうえで「ブリンケン国務長官が中東で行っている協議のひとつが『紛争後のガザはどうなるのか。ガザの統治はどうなるのか』という問題だ」と説明。どうなるにせよ、ハマスが統治していた10月6日の状態に戻ることがあってはならないとの認識を示した。(略)
バイデン氏は米CBSテレビとの先月のインタビューで、イスラエルがガザを占領すれば「大きな過ち」になると発言。イスラエルのヘルツォグ駐米大使は当時、CNNに対し、紛争終結後にガザを占領する意図はないと述べていた。 」
(CNN11月8日)
米政権、イスラエルはガザ再占領すべきでないと警告 ネタニヤフ氏の発言受け - CNN.co.jp
こういうことを言うから、イスラエルはどさくさにまぎれて今までやりたかったことを一気にするつもりだろうと勘繰られるのです。
まぁ、ネタニヤフら右派は本気でやりたいのでしょうがね。
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NHKなので日が経つと消えてしまうかもですが、フラットに日本政府の対応を時系列列挙しているので追加資料として貼らせていただきます。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/102944.html
私は改めて日本政府の今回の動き方は妥当だと認識しました。
G7の中で唯一のアジア国である。そして国土や人口では中印より激少なんだが自国に似合う覇権ではない存在感と価値を目指すのが日本の道だと考えるからです。
イランとイスラエルの間でバランスをとっているというよりアジア(サッカー予選の対戦国とほぼ同じ範囲)で出来ることをしているのではないでしょうか。
あと、最初から足並みを揃えていたら、実質蚊帳の外なのに、いちいちネタニヤフ政権の暴走についてまるで日本がガザで殺してるかのように国内で糾弾され続けてたのではとも思います。
タイはイスラエル側がタイ人殺しの映像を一方的に公開した事を国連で非難しました。
これくらいの場としての価値はあります。
中小国には他で発言の機会すらないですからね。
大きな事がもう何ひとつ決められないが1番加盟国が多い組織で、汚職や人道ハラスメントや半ば現地テロ支援をする職員がいて、今回かなりの職員が爆殺されました。
組織の長としてはあの発言に説得力はあるかもしれません。
冷凍機能が壊れてるが野菜室とかまだ冷やせる世界で唯一の冷蔵庫を、氷作れない!って電源抜いて解体する時期ではないなあと、暗いながらも思いながらニュースを見ています。
投稿: ふゆみ | 2023年11月10日 (金) 08時57分
10.7にハマスが越境テロを始めて少なくとも1,400人死亡させたことを以て、ハマスが排除されるのは当然です。
あのテロ攻撃の動機と実行を予期できなくとも、ハマスがテロ組織であることはみんなとっくに知っていた。
そしてイスラエルの報復が10倍返しでは済まないことも、それによって子供がたくさん死ぬことになるのも、イスラエルが再占領を言い出すことも、誰にとってもあの日以降から全部わかっていたことです。
ゆえに取り扱いが難しい。
今更「子供の墓場がー」というメディアだって知っていたはず。知っていたから大義だの歴史解釈だのを言い募る。もし知らなかったのなら、この私以上に知識が無い最低以下の致命的な欠陥を持っていることになる。
報復のために巻き添え死者が何人あろうともそれは必要なコストであるとネタニヤフ政権が考えていることも、みんな最初からわかっていたことです。
極端側には与しない人々と、ハマスと無関係の人々、それぞれが平穏を望む限り、2カ国共存が最善であり(というかそれしかない)、そのための障害はどちらも始末する必要があります。
テロ組織の方は実力排除で止む無しとして、イスラエル極右勢力の方はどう始末をつけることになるでしょうか。(小耳に挟んだだけの話ですが、合衆国議員の中には、イスラエル極右と親しい人たちもあるといいます)
排除すべきを排除し、2カ国の平和的共存を実現し、これを書いている時点で約11,000人といわれ、最終的に何人になるかわかりませんが、巻き添えの死者をその平和構築事業に避けられないコストにした、或いは己のイデオロギーを守り躍進させるためのコストにした、そのことについてどの国もが、(少なくとも無辜の当事者以外の)誰もが、己の裡の非情さと共に自覚する、そうであったらいいのに。
極右排除後のイスラエルを担う可能性のある者の中にも、テロ組織から解かれたパレスチナを担う可能性のある者の中にも、優れた人物が潜在していてほしい。
そして、イスラエル、ハマス双方側からの情報、それを基にした報道、それらにおける虚実の検証がきっちり為される、そうであったらいいのに。
この先、違法行為の解釈と認定、法を捻じ曲げることの是非、何を何処まで正当化できて何を正当化できないとするか、それらの規定、線引きについての、改善や進化を伴う再確認になる、法の支配と各自の国益なり面目なりをかけた闘いになる、というかなって当然と考えます。
投稿: 宜野湾より | 2023年11月10日 (金) 13時34分
リベラル色の強い欧州人にとってハマスとは、「ガザという文脈における民主主義的な抵抗運動」と捉えられていました。
イスラエルの穏健派政府においても、「未来についての考えを持つ組織であり、より責任を持つ者」と考えられ、ハマスのガザ統治に協力しさえしました。
ネタニヤフですら、小さなテロには「はねっ返りはどこにもいる」と言った体で大きな問題にしてこなかった。
ところがイスラム国よりひどい残虐行為を目の当たりにし、「やはり、テロ組織はテロ組織だった」し、ハマスは「殺害され、破壊しつくされるべきだ」というのがイスラエルの大概の現在地でしょう。
問題は国連であれ、どの国であってもガザ地区を統治する意思と能力の両方を持つ者がない事です。
熟柿が落ちるようにイスラエルの統治下に入るのかもと思えましたが、この世論の下で、むしろ逆張りして「永久統治」とまで言うとは思いもしなかったです。
エルサレム戦略研究所アミドラーは、「本当の試練があった時、イスラエルは代償を払う用意があり、闘う用意があり、違いを生み出す用意がある事を示す。サウジアラビアだけでなく、中東の人々からもっと評価されるようになるだろう。逆にイスラエルの反応が十分でないならば、中東での支持を失うかもしれない」としています。
私たちの常識では理解不能かもしれませんが、こうした考えに基づく中東の事実が存在することも顧みないわけにはいかないのではないでしょうか。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月10日 (金) 15時48分
山路さんの示された情報の元記事はイスラエル発のインタビュー番組から紐解いた、ニューヨークタイムズから東洋経済他ヤフーなどへの転載記事ですね。昼間の地上波では得られない生々しい考察記事でした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4814bf154d76f0e9c004e7b3ab87a6b97a377ee2?page=1
ただ、建国の戦いから参加している元高官アヴィネリ氏や中高年層のイスラエル人と若年層とくに中東戦争以降生まれの世代ではここ数年の現状認識も国家背景への向き合い方も、戦いの歴史の知識すらもかなりの差が生まれているとも聞きます。
彼らにとってイスラエルは勝ち取ったというより生まれた時から当然在るものであり、パレスチナ人は端っこにいて出稼ぎに来る、イスラエルのインフラにぶら下がっている民で、その中に恩知らずなテロリストがいるのだと思うのでしょう。
それは、上記のイスラエル中枢の国家観とベーシックな擦り合わせのないまま今回のテロでクルッと輪に繋がり、それを池内氏達は危惧しています。
更に、最後に記されている力を示すことによる中東からの支持というのはあくまでイスラエルからの視点であり、示された力の理解は中東の他国ではまた様々なのは頭に置いておくべきだと考えます。
投稿: ふゆみ | 2023年11月10日 (金) 22時53分
イスラエル(アミドラー氏)のいう「中東の支持」が、あまねく中東の国々全部を示しているのではない事は当たり前です。なんせ、イランだって中東ですから。
また、現時点では「支持」というのは我田引水すぎるとしても、中東における影響力といった面では格段にアップするでしょう。
ふゆみさんの言う「示された力の理解」という狭い理解に限らず、湾岸諸国はイラン革命に対して格別の危機感を抱いていた経緯を忘れてはならないです。
王家存続のために世俗に流れた湾岸諸国諸国に、テロをつうじて革命を輸出する事がイラン政府の目標であって、湾岸諸国はイランの最終的なターゲットです。
そのサウジがイランとの国交正常化に舵を切った意味はアメリカの影響力低下と中国の台頭、サウジ政府の両天秤・日和見政策などのせいです。間髪を入れずにイスラエルとの国交正常化交渉開始を発表し、それがハマステロの原因の一つになったのです。
今度はそれが凍結され、戦後は速やかに再開されるとしたサウジの態度は注視すべきものです。
主要な湾岸諸国はハマスを支持していません。
つまり、テロは中東のガンで、その事を湾岸は身を持って知っています。そのハマスを徹底的に叩き、それを排除する事が出来たとすれば、その事自体においては「支持」される事になるのは当然でしょう。
よって、「イスラエル側からの見方」などと簡単に切って捨てられるものではありません。
同時に同胞を巻き添えにされる痛みも当然ある。しかし、地域的特性というか、人権とか人道というものの考え方や軽重は西側諸国とは違います。それはそれとしても、同胞を盾とするハマスのやり方・汚さは湾岸職にどう響くのか、歴史的に表立って支持しずらいのは当然としても、影響力は確実に増す事になるでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月11日 (土) 06時36分