イランとハマスの米国孤立化作戦

今、世界でイスラエルが袋叩きに合っています。
まるで悪辣な戦争犯罪国家イスラエルが、一方的にガザの住民を殺しまくっている、という図柄です。
わかりやすすぎる「絵」です。
国連人権高等弁務官事務所までが、こんなことを言う始末です。
というか、いまや「国連」はハマスの代理人の態を成していますが。
なんでも戦争犯罪に相当する、そうです。
「(CNN) 国連人権高等弁務官事務所は1日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区のジャバリヤ難民キャンプを空爆したことについて、戦争犯罪に相当する可能性があるとの見解を示した。
同事務所はSNSへの投稿で、「イスラエルのジャバリヤ難民キャンプ空爆によって死傷した民間人の多さや被害規模の大きさを考えると、これが戦争犯罪に相当しうる不釣り合いな攻撃であるとの重大な懸念を抱いている」と指摘した」
(CNN11月2日)
国連人権機関がイスラエル非難、「戦争犯罪に相当の可能性」 - CNN.co.jp
イスラエルを支援する米国務長官のブリンケンは、議会の公聴会で傍聴人のデモ隊に「血がついた手」を挙げられました。
これを多くのメディアは、ここでも米国は孤立している、という報じ方をしました。
ちなみにこの「血がついた手」を 、ガザ爆撃での犠牲者に対しての抗議と説明しているようですが、飯山陽氏によれば、ほんとうはそんなヒューマンなものではないそうです。
上の動画で血塗られた手を掲げている男は、アズィーズ・サルハというパレスチナ人で、彼はイスラエル兵2名をリンチして殺した犯人で収監されていました。
サルハはイスラエル兵を拉致してリンチにかけて殺害しました。
そしてこのイスラエル人の「血がついた手」を群衆にふりかざして、もっとユダヤ人を殺せと叫んだのだそうです。
したがってこの「赤い手」が意味するものは、サルハに続いてユダヤ人を殺せという意味になります。
デモ隊は、ブリンケンがユダヤ人であることを承知で、このようなテロ予告ともとれるパーフォーマンスをして見せたようです。
さて、情勢は極めてイスラエルに厳しいものになっています。
イランが描いたとおりのシナリオ展開になりつつあります。
イランは、ハマス如きチンピラテロ集団が世界最強とまでいわれるイスラエル軍と真正面から戦って勝てる道理がないことを充分承知しています。
ならばどうやってイスラエルに勝つか、たぶんベトナム戦争で北ベトナムが勝った故事に習ったのでしょう。
それは米国の国際社会での孤立です。
北は自由主義国の弱い脇腹を蹴り続けました。
それは「人命」であり、「人権」であり、「平和」です。
ここを攻められると、自由主義先進国は抵抗できず、手もなく追い込まれていきます。
映画『ランボー』の最初の巻の舞台を覚えていますか、アフガンでもなくベトナムでもない米国国内でしたね。
帰還兵ランボーは、帰国するや「赤ん坊殺しめ」というデモ隊の罵声を浴びせられ、行く先々で帰還兵というだけで差別を受けます。
1970年代初めの米国は反戦で煮えたぎっていました。
その空気を作ったのが、北ベトナムとそのシンパサイザーたちであり、意図的に米国を厭戦に導く世論誘導だったことは後に分かります。
しかし、西側メディアがこの罠に引っかかりました。
そして、なぜこのベトナム戦争が始まったのかを見落としました。
ベトナム戦争は北ベトナムの南ベトナムへの浸透によって始まりました。
当時、ベトナムには南北ふたつの主権国家があったのであり、「統一」以外の解決方法があったにも関わらずです。
浸透した北ベトナムは南にベトナム民族解放戦線を作りましたが、様々な抵抗人士の集まりというのは見せかけで、実はベトナム労働党(共産党)によって作られたフロント組織にすぎませんでした。
実態は北が支配していたのです。
それをメディアは「ベトナムの人々の独立と統一への願い」とか「強大な米国に抵抗する人々」という美しい言葉で描きました。
ちょうどハマスを「福利厚生のための組織が抵抗のために武器をとらざるをえなかった」という話のようにです。
今、イランがしようとしているのが、柳の下の2匹目の泥鰌、米国孤立化作戦です。
彼らはイスラエルが「いかに孤立しようと生き残る」という根性があることを充分に知っています。
だからイスラエルが簡単に厭戦気分になることはないと見ています。
まして今回はこれだけ多くの無辜の市民を殺されイスラエル建国以来の未曽有の危機を迎えているのですから、撤退などということは話の外です。
ではどうするのでしょうか。イスラエルの最大の支援国であり、最大の影響力を持つ米国を落とすのです。
米国の反イスラエル感情に火を着けて、イスラエルを支援することは「ガザの子供殺しに助けることだ」という印象を広めます。
メディアはいまや反イスラエル一色ですから、たやすくこんな世論操作は可能です。
泣き叫ぶガザの子供たちと女性、大きく開いたクレーター、瓦礫と化した難民キャンプをこれでもかとテレビで市民にみせれば、厭戦気分はたちまち拡がります。
そしてなぜこのようなことが起きているのか、ということを忘れてくれます。
ハマスは、あえてもっとも人口稠密な難民キャンプのど真ん中の地下に司令部を作っています。
たまたまハマスが空き地があったから作ったなどというものではなく、初めからキャンプの下に作ったのです。
ハマスの指導者は、身内の気安さからかロシアのメディアでこう言ってのけています。
「ロシア・トゥデイTVで放映されたハマス政治局のメンバーであるムーサ・アブ・マルズークは、ガザのトンネルは民間人ではなく、ハムスの戦闘員を空爆から守るために建設されたと述べた。彼は、ハマスはトンネルの中からイスラエルと戦っていると付け加えた。
インタビュアー: 「500キロのトンネルを建設したのに、なぜ爆撃時に民間人が隠れられる防空壕を建設しないのか、と多くの人が尋ねています」
ムーサ・アブ・マルズーク:「私たちがトンネルを建設したのは、標的にされたり殺されたりすることから身を守る方法が他にないからです。これらのトンネルは、飛行機から私たちを守るためのものです。私たちはトンネルの内側から戦っています」
ハマス政府高官:民間人ではなく戦闘員のために建設されたトンネル |MEMRI(メムリ)
ここに出てくるアブ・アブ・マルズークはハマス政治部門のトップですが、まさにこの男が言っているように無数に掘られたトンネルは「民間人ではなく戦闘員を守るために作られた」のであって、地表のキャンプは人間の楯なのです。
そう見ると、なぜハマスがガザ北部からの避難を執拗に妨害してガザから逃げられないようにしている理由がわかるはずです。
ハマス戦闘員にとって、ガザ住民は生きている楯である以上、逃げてもらっては困るからです。
最新ハマスのトンネル内は?イスラルの攻撃は?今後どうなる? | NHK
したがって、彼らがイスラエルに対してあれだけ多数の市民を殺せば、必ずイスラエルはその司令部を爆撃することを百も承知だったわけです。
ハマスはこのガザキャンプ爆撃時に司令官はいなかったと言っていますから、とうに爆撃を想定し、市民を避難させずに爆撃をさせたのかもしれません。
その結果が、今のメディアのイスラエル悪逆論の蔓延です。
このプロパガンダは、イスラエルと米国は「人道」で責めますが、ハマスには大甘という非対称にできています。
これこそ、イランとハマスがこの情報戦で狙った米国孤立化作戦でした。
今回のガザ爆撃の一件でのイスラエルと米国の鬼の首をとったような騒ぎには気をつけましょう。
専制主義国家が民主国家を攻める定番の戦法なのですから。
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てすと。
ココログに何故か弾かれるわ。
この記事と同時刻に残念ながらイスラエル軍は本格的侵攻を表明しました。
世界中を敵にしても生き残るのがイスラエル!
ランボーシリーズは3作目の露骨な対ソ連プロパガンダ映画の怒りのアフガンは論外でその前ならいくらでも語れます。
投稿: 山形 | 2023年11月 3日 (金) 11時21分
おっ、ココログにはいつもの「スパムの恐れ」でストップされずに入りましたね。
めっちゃ簡素化しただけだし、世界中のメディアがハマスに踊らされていると書いたら弾かれたのよ。何度も。
投稿: 山形 | 2023年11月 3日 (金) 11時25分
イスラエル側の視点に立てば
「退避に必要な期間は充分に与えたのだからそれでもなお拠点周辺にいる人間はハマスの協力者とみなす」
これに尽きるわけで、テロリストに混ざって生活をするというリスクを自覚せずにいざ巻き込まれたら被害者を演じるというのもどうかと感じるところもあります。
民間車両を攻撃しているという報道や動画が上がってきてますが、戦車などがなんでもない地区に配備されている訳がないのでハマスの拠点という超危険区域にノコノコ入り込んできた側にも非はないとは言えません。
とはいえやられる側からしたら自己責任なんて微塵もないでしょうし「イスラエル憎し」がより深まって行くだけでしょう、今回の人質奪還&殲滅作戦がある程度の成果をあげようが次の世代のハマスが生まれるだけ。
イスラエル問題が徐々に風化していくそうな雰囲気があっただけに残念でなりません。
これだけでもハマスは目的達成です。
あとはアメリカがこれ以上深入りしないことを願うばかりです。
投稿: しゅりんちゅ | 2023年11月 3日 (金) 12時09分
アメリカは「(ハマス側が求める)「停戦」はハマスの思うツボになる」という正しい見方をしていて、停戦ではなく「一時休戦」をして、避難回廊を作り「さらに人道に配慮すべき」とイスラエルに求めているのが現状です。
しかしこれは分かりづらく、世論に全くアピールしていません。
だいいち、エジプトが避難民を受け入れる気がなく、ハマスは盾をなくす気もないので、想定したカタチでの実現は難しいでしょう。
ベトナム戦争との類似性は多岐に渡っていると思います。
加えるなら、アメリカを内側から食い破る力が相当働いていると思われます。例えばジョージ・ソロスの財団は、長くハマスを支えてきた胡散臭い団体に支援を行っており、ハマスの資金源の一つとなっています。
ソロス氏の従来の考えでは、「アメリカやイスラエルはアッバスとのみ交渉しているが、中東和平を実現させるためにはハマスとの交渉の扉を開いて、ハマスを表舞台に立たせるべき」としていました。
革命志向が強いソロスらしい意見ですが、反体制主義です。
こういう意見に類似した社会科学の論理がアメリカには多数あって、それが多様性とかマイノリティ主義とかと結びついて、アメリカを内部から食いつぶしている最中です。
ソロスもそうですが、ハマスにはヒューマニティの欠片もありませんから
、むしろヒューマニティは民主主義社会の欠点で、利用する価値しかないと考えた結果です。ヒューマニズム云々を言っていては、フランス革命は成り立たないワケなので。
それでもイスラエルにはなるべく自重してもらいたいと思う私ですが、宣戦布告時の「ハマスの非軍事化」の所期目標はかならず達成せねばならないでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月 3日 (金) 14時51分