日本政府の右往左往
日本政府の今回のハマステロ対応について、私はまったく支持できません。
というのは、抜けかかった奥歯よろしくグラグラだからです。(←今の私)
これではメシは食えません。
岸田外交の最大の欠点である「芯」がないのです。
増税メガネと揶揄されれば、慌てて税の増収分を国民に還元すると言いながら蓋を開けば羊頭狗肉でグニャグニャ。
経済学の知識がないからです。
唯一得意なはずの外交は、上っ面は安倍外交をトレースしているようでも、やはり外交の芯が見えません。
今回のハマステロでそれが露になりました。
時系列で見ます。
【更新・わかる解説】日本政府の対応は イスラエル・パレスチナ情勢 岸田総理大臣・上川外務大臣は? | NHK政治マガジン
まずこのテロが勃発した8日の岸田氏の対応です。
NHK
岸田氏は、ハマスのことをメディアのように「パレスチナ武装勢力」と呼んでいます。
他のG7諸国のように、「テロ組織」と呼ぶべきです。
ハマスが公安調査庁のテロ団体リストに載るような団体だということは、すぐにわかったはずです。
ハマス(HAMAS) | 国際テロリズム要覧について | 公安調査庁 (moj.go.jp)
したがってここで岸田氏に問われたのは、「テロとどう戦うか」という命題でした。
「哀悼の意を表する」という誰でも口にするような儀礼的修辞ではなく、日本政府がどう考え、どう対処するのか、だったはずです。
岸田政治に一貫する理念の欠落はここでも露になってしまいました。
この時点でこういう御愁傷様的な儀礼で済ませ、政府のイスラエルの自衛権について見解を避けたのです。
イスラエルに自衛権を認めるか否かが、今後のイスラエルのテロとの戦いをどうかんがえるかで極めて重要だったにもかかわらずです。
ここをあいまいにしては、テロとの戦いはありえません。
一方、G6は勃発時からこれをテロと断定し、イスラエルの自衛権を認めています。
つまりイスラエルのハマスとの戦いは主権国家の自衛戦闘であり、とうぜん支持すべきものだという意味を含んでいます。
そのうえに立って民間人保護を含む国際人道法を遵守することを求めています。
ところがわが国はこのG7議長国でありながら、リーダーシップを発揮するどころか、ただ一国この共同声明から脱落し、しかもあろうことかその言い訳を松野官房長官は「6カ国は、誘拐や行方不明者などの犠牲者が発生しているとされる国」だとしたことです。
こういう言辞を国辱と呼ぶのでしょうか。赤面します。
よくヌケヌケとこんなことを恥ずかしくもなく言えるものです。
ならばわが国の拉致被害者について国際社会の協力などいっさいあてにせず、G6諸国に「うちの国からは拉致被害者はでていないから」と言わせることです。
それを「同胞に被害がなければ関わりません」というエゴ丸出しの態度は破廉恥でさえあります。
イスラエル政府によれば、今回ハマスが人質にとった220人のうち、外国人は138人、うち国籍別で最多はタイの54人で、彼らは介護をしたり、キブツで農業労働に勤しんでいました。
ふゆみさんがおっしゃる「アジアで出来ることをしている」ならば、どうしてこういうアジア人からの多くの拉致被害者が出たことに沈黙をしていられるのでしょうか。
日本は常に、常々G7で唯一のアジアから出席している国家ということを重く語り、「アジア諸国とG7の橋渡し役」を自任していたはずなのに、それがこういう修羅場となるといきなり「うちの国から拉致は出ていない」と言うのですから一国主義外交に逆戻りです。
そのくせ自国民の脱出だけは国際協力を要請しているのですから、もうなんとも恥ずかしい。
今はまだアジアの国は黙っていますが、のちのちこういうミーイズムは響いてくるはずです。
そして外務省英語スクールがG6の共同声明から脱落したことを米国から叱責されたためか、そのわずか3日後の11日になって日本政府は、初めて「テロ攻撃」という表現に転換します。
外務省関係者はこう言っているそうです。
「音楽祭で無差別攻撃をするなど残虐な行為が明らかになってきたため、テロ攻撃と呼ぶことにした」(外務省関係者)」
(NHK前掲)
なにを寝ぼけたことを。音楽祭で200名以上を殺害したことは事件当初からあきらかになっており、いまさら「残虐な行為が明らかになった」もないものです。
遅ればせ「テロ」と呼んでも、この時点ですらイスラエルの自衛権については言及していません。
主権国家が大規模テロに遭遇した場合、国家としての自衛権が成立するのは常識です。
問題は反撃の範囲であって、それをどう考えるのかということですが、そもそもテロと呼ばず、自衛権も認めていない者に、イスラエルはとやかく言われたくはないはずです。
つまり、冒頭の対応の失敗によって、日本はいくら外務大臣が電話会談をしてもはかばかしい答えは得られませんでした。
それも9日もたってからの電話会談ですから、まるで気の抜けたビールです。
「17日夜には、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり、G7=主要7か国の外相が電話で会談。
この中で、議長を務める上川大臣は「深刻な懸念を持って注視しており、G7メンバーの精力的な外交努力に感謝する」と述べ、みずからも中東諸国などに事態の沈静化を働きかけていることを説明した」
(NHK前掲 太字NHK)
G7共同声明からひとり脱落しておきながら、いまさらのように「外交努力に感謝する」はないものです。
そしてこの同じ17日に、外相はイランにこう電話しています。
「一方、上川大臣はイスラム組織ハマスを支援してきたイランのアブドラヒアン外相とも17日午後、電話で会談している。
この中では、「ハマスなどのパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃を断固として非難する。罪のない多くの一般市民が 犠牲となっていることに大変心を痛めており、人質が一刻も早く解放されることや事態を沈静化することが重要だ」と述べた上で、ハマスなどに働きかけ事態の沈静化に向けて役割を果たすよう求めた」
(NHK前掲太字NHK)
もし、外務省がハマスとイランの関係を外相に教えていないのならどうかしています。
ハマスはイランの傀儡テロ組織であることは、中東を知ろうとする者には常識中の常識で、外務省のアラブ屋たちはこのことを知って外相に電話させたのでしょうか。
そして同じ17日に、世界の空気を一変させたあの病院「空爆」事件が起きます。
これについての外務省コメント。
10月17日(現地時間)、ガザ地区ガザ市にあるアル・アハリ病院が攻撃され、多数の死傷者が発生しました。罪のない一般市民に多大な被害が発生したことに、強い憤りを覚えます。病院や一般市民への攻撃は、いかなる理由でも正当化されません。犠牲者の方々に哀悼の誠を捧げ、御遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げます。
我が国は、これ以上一般市民の死傷者が出ないよう、全ての関係者が国際法を踏まえて行動することを求めます。また、一般市民の安全を確保し、事態を早期に沈静化するよう、各国と連携しつつ、更に尽力していきます。
(参考)概要
10月17日(現地時間)、ガザ地区ガザ市にあるアングリカン・アル・アハリ病院(又はバプティスト病院)で爆発が発生し、避難していた市民少なくとも500人以上が死傷。
ガザ地区における病院への攻撃について (外務大臣談話)|外務省 (mofa.go.jp)
この日本政府声明は、名指しこそしていませんが、当時の空気の中で暗にイスラエルの「空爆」を非難したととられても致し方ありません。
たぶんこれを描いた外務官僚も、イスラエルの空爆説を信じていたはずです。
もし疑問の余地があるなら、一行でもよいから「原因は不明である」と書くべきでした。
死傷者数についても後日、500名は過大な数字たという批判がでていますし、事実関係がなにも明らかにならないうちにこういうコメントを出すのは、当時の反イスラエル感情に乗ったということになります。
この反イスラエル感情はハマスが作った情報戦であって、日本政府はまんまとそれに乗ったのです。
ここに至っても日本は、イスラエルの自衛権行使についてスルーすることで暗黙に否定し続けています。
このような煮詰まった状況の中で、「少しも触れない」ということは否定と同義語です。
G6は共同声明で明確に「自衛権行使を支持する」とし、イスラエルに対してやみくもに「自制」を求めるのではなく、ハマスのとの戦いを支持しました。
日本は奥歯にモノの挟まったようにイスラエルの「空爆」だけを非難し、「事態の早期沈静化」を呼びかけています。
最初にイスラエルの自衛権をに対して限りなく否定的対応をしたために、ハマスとの戦闘も早期鎮静化してほしいという願望に終わっています。
こんな「願望」によってイスラエルがハマスとの戦闘を終結するとでも思っていたらその能天気ぶりに驚嘆します。
逆に、ハマスがはいはい終わりにしましょうね、言うとでも思っているのでしょうか。
そしてこのようなリアリズムから浮き上がった日本の「願望」など、見向きもせずにG6はG7外相会談の共同声明で「自衛権支持」を改めて強調しました。
日本がやろうとしたことは、日本独自というと聞こえがいいですが、ひと頃のムン閣下のコウモリ外交を思わす対応を他のG7諸国に押しつけることでした。
どっちにもなぁなぁ、まぁまぁ、どちらも良くてどちらも悪い、喧嘩両成敗、だから双方反省して仲良く握手すればいいんだ、といういかにも悪い意味での日本的感性丸出しの外交でした。
とうぜん古代社会に生きているイスラエルやアラブ諸国はこんな「いかにも日本人」の言いぐさなどに耳も貸さず、またリアルな現代に生きているG7各国はほとんど議長国の日本を置いてきぼりにして先に進んでしまいました。
かくて、わが国はアジアを代表するG7国家ではなく、ただのイラン贔屓であることを国際社会に教えてしまったのです。
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むしろ内閣改造で全く期待していなかったまさかの上川さんは良くやってる方だと思ってます。期待値ゼロでしたから。
一応テロの胴元の所に「人質返すように説得」した訳ですから、ちょっとはやるじゃんと。御本人がどこまで理解してらっしゃるのか知らんけど。
岸田総理もこんな動乱期じゃなかったら(例えば80年代前半あたり)、そこそこ良い宰相だったんでしょうけど。でも実例ではその時代には中曽根さんがいたから乗り切ったわけで、岸田のポジションはその前の善幸さんクラスの評価になったでしょうけど、現財務大臣の親父で岩手県山田町出身。箸にも棒にも掛からないって感じの総理でしたね。
岸田も2年前の総選挙でせっかく「フリーハンドの3年間」というスペシャルなポジションで総理になったのに、コロナ禍というネガがありましたが全く無為に2年以上消費してしまいました。
安倍さん菅さん時代と違って、色というかデザインが見えないんだよね。いつも後手後手のまま中途半端で場当たり的対応。角栄さん後は中曽根以外93年の自民党下野政変までにゴロゴロいた弱い短期政権そっくりです!
投稿: 山形 | 2023年11月11日 (土) 08時31分
最初は「双方に自制を求める」でしたが、ピントがズレていて眩暈がしました。ちなみにこれは中国の初動声明と同じです。
続いてパレスチナとハマスを混濁。
夢見るパレスチナへのうるわしい誤解と、長年多額の支援金を無駄に溶かして来た省庁の事情もあったと思います。
ハマスのテロを非難する事の二重の意味を解せないばかりか、中東の内奥にも見識不足でした。
それでもおっとり刀でハマスのテロを認定、さらにようやくイスラエルの自衛権も認めると言う反射神経の鈍さ。
国連での棄権、11/8の外相声明で、ようやく他の先進国と平仄が合いましたが、日本外交の「芯」もなければ、スタンスもあってなきに等しいのがバレバレのドタバタ劇でした。
私も山形さん同様に、岸田さんにも上川さんにも最初から全く期待していないので、さして腹も立ちません。最近ではフィリピンとの関係を強化するなど、いいところもあります。
けど、中国は「本当には他国を見ていない日本」を常に見ています。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月11日 (土) 10時19分
> ふゆみさんがおっしゃる「アジアで出来ることをしている」ならば、どうしてこういうアジア人からの多くの拉致被害者が出たことに沈黙をしていられるのでしょうか。
イランやイスラエルへ交渉に奔走しているタイ政府が自分達は中立だと表明していますから、表でタイと言わねば何もしてないというのは酷ではないでしょうか。
バンコク週報には短信ですがタイ政府の動静が載っているので最近チラチラと読んでいます。
投稿: ふゆみ | 2023年11月11日 (土) 11時31分
酷いものです
外相声明までG6にならなくて本当に良かった
少しは正気に戻ったんでしょうか
本件に独自路線で行く余地などハナから無い
先日の記事も興味深く読ませて頂きました
与太話ですがついでに
我々平和な世界の傍観者の感覚からすると2国家共存は当たり前すぎる結論なんですが、当事者達との断絶はすさまじいですね
イスラエルはまだ政権交代の可能性があるのでマシですが
国家どころか自治区としても機能しない状態のパレスチナはどうすればいいのやら
私は何日か前にハマス一掃後のガザにまっとうな統治者が必要だなんて書きましたが、一体どこの誰が出来るんだって話になるんですよね、
ひょっとしてイスラエルが永遠に統治するくらいなら一掃までせずに抵抗する力を根こそぎ奪うだけのほうが結果的に良かったりします?
パレスチナの治安維持ってテロ組織かイスラエルの二択なんですかね、誰か他に面倒見る国は無いの?アラブの盟主さんとかさあ
投稿: しゃちく | 2023年11月11日 (土) 17時11分