イラン提案すべて否決
イランは中東諸国の中で異端の地位に甘んじています。
アラブ諸国がスンニ派であるに対してイランはシーア派であり、なおかつアラブ人ではなく、ペルシャ語を話すペルシャ人だからです。
そしてなによりイランは中東諸国の王政を打倒するために、イスラム過激派を各国に送り込んできました。
ガザのハマス軍事部門「カッサム旅団」、「パレスチナ・イスラム聖戦」、紅海でタンカーを襲撃しサウジを攻撃する「フーシ派」、レバノンの「ヒズボラ」、イラクの「バドル機構」、「アサイブ・アフル・ハック)「カタイブ・ヒズボラ」などなど両手両足の数より多いテロリスト団体の元締めがイランであり、その実行部隊がコッズ部隊です。
世界一のテロ支援国家であることだけは間違いありません。
ハマスはいうまでもなくヒズボラも参戦し、フーシ派は19日、日本郵船の貨物船を乗っ取りました。
シーア派武装組織フーシ派、紅海で日本郵船の貨物船乗っ取りか(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
【ディープ解説】参戦はあるのか? イランから見たイスラエル・ハマス戦争 - 政治・国際 - ニュース|週プレNEWS (shueisha.co.jp)
これだけ手広く湾岸各国にテロを仕掛ければ、孤立して当然です。
こんな国と「伝統的友好」がある、と誇らしげにいうどこかの国の政府の気持ちがわかりません。
まるで中露と「独自のパイプ」があると言って民間外交をしまくっていた故池田大作氏みたいなものです。
それとも北朝鮮に対する中国にでもなった気分なのでしょうか。
あいにく、あちらは「友情」などかけらもないようですが。
そのイランが大きな顔ができる機会はメッタに来ません。
「アラブの大義」を振りかざして、いまぞイスラエル人を地中海に追い落とせ、と叫べる今のような時期だけです。
他のアラブ諸国のイスラエルと普通の外交関係を持とうとする路線が動揺している今を除いて、イランの影響力を拡大する時期はないからです。
イランは積極的な外交攻勢に乗り出しました。
さっそく10月17日には、イランと「歴史的友好関係」を誇る日本からは川上外相が電話をかけてきて、ハマスに働きかけて調停してほしいと要請されました。
「さらに、上川大臣から、ハマス等に対してイランからも働きかけ、事態の沈静化に向けた役割を果たすよう求めました」
日・イラン外相電話会談|外務省 (mofa.go.jp)
G7議長国から、なんとか仲介の労をとってくれと言われれば、悪い気はしませんね。
もちろんハマスのクリエーターは他ならぬイランですから、内心は笑いこけていたことでしょうが。
まぁ、どうせ言っちゃナンですが日本の中東での影響力などゼロです
前述したようにイランは手下であるフーシ派を使って日本郵船の貨物船を乗っ取りましたが、上川大臣、どうしますか。
またまたイランに「仲介」をお願いするのでしょうか。
それとも日本籍船舶だが、日本人がいないのでまた「被害者の中には日本人はいなかったから関係ない」とスルーするんでしょうか。
もういいかげんイランの正体に気がつきなさい。
米国はすでに紅海におけるホルムズ海峡の兵力増加を決定し、ここを通過する民間船舶に米軍を搭乗させる計画を立ててます。
米海軍のパトロールもこの事件を受けて始まるでしょう。
たぶん遠からず、海賊対策でジブチに派遣されている海自に派遣要請が来ることでしょう。
そういう時になって、まだ「伝統的友好関係」が大事、非西欧で唯一のイランの理解者などと言うつもりだとしたら心底嘲笑を浴びるはずです。
日本の中東への影響力などゼロですから放っておいてもいいのですが、ここぞと中東諸国のリーダーシップを握ろうとしました。 それはさておき、イランにとって「ガザ住民を救え」は、アラブ諸国が反対できない絶好のネタでした。
「イラン国営放送IRNA通信は13日、「アラブ諸国とイスラム諸国を動員し、シオニスト政権の犯罪に対する国際社会の関心を集めるイランの外交努力は成功している」という長文の記事を掲載している。ナセル・カナニ外務省報道官(Nasser Kanaani)は13日の記者会見で、「イスラエル・ガザ戦争の開始以来、イランは戦争を止め、封鎖を解除し、沿岸地域に人道支援の回廊を直ちに開くことなどを重点に外交努力を重ねてきた」と説明している」
長谷川 良 「ウィーン発 コンフィデンシャル」
イランが自国の外交を自負する時 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)
そして11月11日、アラブ連盟と、イスラム協力機構が、サウジアラビアを議長国として、その首都リヤドに集まり、ガザ問題を協議しました。この枠組みを使うと、シーア派、スンニ派の枠を超えられて、イランも顔を出せるのです。
ちなみにアラブ連盟は大戦中にできた老舗ですが、盟主だったエジプトが79年に和平条約を締結したために追放されています。
いまはエジプトも復帰していますが、現在の加盟国はイラン含まない21カ国です。
アラブ連盟の枠組みではイランはお呼びではありませんが、もうひとつのイスラム協力機構(OIC:Organization of Islamic Cooperation)は1969年に出来た全世界を網羅するイスラム教国57カ国、オブザーバー国5カ国、8組織からなる巨大組織です。
これだけ巨大だということは、内容がない社交場だということですが、とまれここにはイランやパレスチナ自治政府も含まれていますから、堂々とイランが顔を出せるというわけです。
本来性格が違うこのふたつの会議を同時開催すること自体がオカシイのですが、ガザ問題が巨大化したために一緒に開くことになったようです。
かくして、イランのライシ大統領、シリアのアサド大統領、トルコのエルドアン大統領、エジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドラ国王、パレスチナ自治政府のアッバス議長などを含む、57カ国のイスラム諸国首脳が勢揃いするというゴージャスな会議となりました。
とくにイスラエルに接近する路線を取り始めていたサウジとイランの首脳は、初の顔合わせとなるそうです。
とうぜんのこととして総論賛成、各論決まらずになるのはやむをえないことでした。
とりあえず決まったことは以下です。
①イスラエルの自衛戦争を否定。
②パレスチナ人に対して行われた犯罪の責任は、イスラエルにある。
③今後について、イスラエルへの武器販売禁止。
④ガザ地区とヨルダン川西岸地区の解決がないイスラエルとパレスチナの和平交渉は受け入れない。
正直言って、イスラエルは痛くもかゆくもないでしょうね。
そうですか「共存関係」を止めますか、ならば元々孤立は馴れていますから、元に戻るだけのことで、やがて時間が解決するていどに思っているはずです。なんせ旧約聖書の民ですから。
池内恵氏はイスラエルの若者は変化しているといいますが、民族性は百年やそこらでは変わりません。
西岸ぬきに和平交渉はしないというのは、ある意味でネタニヤフなどのイスラエル右翼にとって好都合な話しで、イスラエルリベラルが進めてきたパレスチナ国家との「2国家共存」路線を、向こうから拒否したという口実を与えるだけのことです。
米国がどう「戦後」を考えているかはわかりませんが、ハマスを追い出してパレスチナ自治政府を強化して当事者能力を持たせるという流れが厳しくなったことは確かでしょう。
イスラエルは西岸地区に限定してパレスチナ自治政府との交渉を進めていましたがこれも頓挫するわけで、ならば現状維持でいいやということになります。
これって、パレスチナにとっていいことなんでしょうか。
ところでイランはこのように主張しました。
①イスラエルをテロ組織に指定せよ。
②紛争の根本的な解決は、ヨルダン川から、海までをパレスチナの国にすることであるから、イスラエルを抹殺せよ。
③イスラエルと関係を持つ国々への石油禁輸政策をせよ。
いやすごいというか、馬鹿じゃないかというか、こんなもんが通ると思っている現状認識がぶッ飛んでいるというか。
①は、イランこそ世界に冠たるテロ国家なことは、中東諸国はみんなわが身で思い知っていることで、せいぜいイスラエルを人道的に批判するのが精一杯なのです。
②のイスラエル抹殺に至っては、中東戦争をまた一から始めろということです。
おいおい、イランは歴史を1948年まで巻き戻したいのでしょうか。
今まで4回も死ぬ思いをしてイスラエルと全面戦争したアラブ諸国にとって、そこまで言うならお前はその時ナニしてたってもんでしょう。
イランは口では勇ましいものの、イスラエルと本気の戦争をしたことは過去一度もないのです。
③が通ったら、日本も欧米も全部まとめて石油禁輸になって第2次石油ショック勃発で世界は大不況突入は必至です。
本気で言っているなら狂気の沙汰です。
まぁ当然のことながら、こんなエキセントリックな主張は、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコ、モーリタニア、ジブチなどの反対ですべて完膚なきまでに否決されました。
エドワード・ルトワックはこう言っています。
「イスラム教徒は西洋を批判するときは一緒に叫ぶが、シーア派とスンニ派は、心底連携しようとしない。戦いに不可欠な団結や結束のようなものは持ち合わせていないのだ」
(週刊文春11月16日号)
まことにそのようです。
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バーレーンのサルマン皇太子が明確にハマス批判にカジを切りました。イランの地域での影響力は極めて限定的で、今後はさらに孤立化して行くしかないでしょう。
なんせ、イスラエルにただの一項目の制裁を課さないのが中東の総意で、その事が正しく報道されていないのが非常に残念です。
イラン革命時、「世界中の虐げられたイスラム教徒の開放」などを看板としたホメイニのプロパガンダに未だに騙されているのが「いわゆるイスラム左翼」ですが、そんなのホメイニが目指しているはずもなく、イスラム教の教義ですらありません。
弾圧されるウイグル人に冷淡で、あまつさえ中共と結んで米国に挑戦しようとしている現実をこそ見るべきです。
成功したイラン革命はイスラム教を悪用したローカルなものでしたが、王族を頂く湾岸諸国に「革命の伝搬」は恐怖と嫌悪の対象でしかありません。そこを言う日本の中東研究者ってのは、ほとんどいません。
ちなみに、高橋和夫氏やその弟子の池内恵は「イスラム左翼」とは言えませんが、ここのところの言説は非常におかしい。
記事のようなイランへの見方、歴史観を認めておらず、「日本人のイランへの誤解」として、イランを美化する傾向が顕著です。
池内はついに、「米・イラン戦争がはじまったら、日本はイラン側につくべき」と言い始めました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月20日 (月) 16時55分