イスラエルはこの先どう考えているのだろうか
イスラエルのガザ侵攻が本格化し、ガザは大きく南と北で分断され、北部の中心であるガザ市は完全に包囲されました。
今後イスラエル軍は、ハマスの拠点であるガザ市をじっくりと攻め続けることになります。
よくガザでの戦いは泥沼化するというひとがいますが、長期化はしても泥沼化はしないでしょう。
なぜなら、ハマスには泥沼化させるための必須条件である陸続きの策源地を欠いているからです。
かつて北ベトナムが長期の泥沼戦争を戦い抜いて米国に勝利し得たのは、中国、さらにソ連から無制限に補給を受けられたからです。
北ベトナムはなまじ重工業をもたなかったために国内で武器を自足できず、爆撃によって武器・弾薬の補給が断たれることはありませんでした。
そして大量の補給物資を毛細管のように張りめぐらされたホーチミンルートで、前線の部隊戦に届けたのです。
だからいくら長期戦となっても継戦可能でした。
一方、ハマスにはこの継戦の条件があるでしょうか。
結論から言うと、まったくありません。
ハマスが立て籠もったガザ市は既にイスラエル軍の包囲の環が締まっており、従来あったエジプトとガザ南部を結ぶトンネルから補給を受けることさえ不可能です。
現在一部ではハマス兵によるゲリラ戦が行われていますが、これはイスラエルが望むところで、ハマスの出撃拠点を特定でき、かつ武器弾薬を枯渇させることに大いに役だっています。
ゲリラ戦闘はまだ続くでしょうが、森林もないような開けた地形のガザで戦ってしまっては、老練なイスラエル軍にかなうはずがありません。
つまり、ハマスはやればやるほど自分の首を締めているのです。
すると残るは地下トンネルを巡っての戦いだけに絞られます。
今回のガザでの戦闘が、従来の市街戦と異なるのは、大部分のハマス兵が地下トンネルに潜っていることです。
ハマス兵はビルに立て籠もれば、まちがいなくピンポイントの空爆でビルごと撃滅されてしまうために、いやでもトンネルに潜るしかないのです。
イスラエル軍は市街地の外に補給基地を設置し、市内を市街地を区分して、ひとつひとつのグリッドを潰していくでしょう。
具体的には、ハマスのこもるトンネルを徹底的に探し出して周囲を封鎖し、特殊戦闘工兵がトンネルに潜って人質とハマス兵を捜索します。
歩兵の手に負えなければ、地中貫通型爆弾で破壊します。
ところでこの捜索が本格化するにつれ、ハマスがどういった場所にロケット弾発射基地を作っているのかわかってきました。
日本ではまったく無視されているイスラエル国防軍(IDF)の公式サイトから見てみましょう。
日本のメディアには絶対に乗らないような情報がぎっしり詰まっています。
ハマスに関するイスラエル国防軍のプレスリリース - イスラエル戦争 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
これは子供用プール施設のすぐ脇に隠してあったロケット弾発射拠点です。
こういう場所からロケット弾をイスラエルに発射して、反撃されて民間人に被害が出ようものならイスラエルの非道を叫ぶという筋書きです。
民間人を(しかも子供を)人間の楯に使うというのが、ハマスのやり方です。
05.11.2023 イスラエル国防軍、ハマスによる子どもを含む民間人の搾取をテロ目的で暴露 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
この地下は動画で見ることができます。
IDF公式サイト
ジャバリア難民キャンプの地下トンネルにはハマスの司令部が隠されていました。
イスラエル兵のヘルメットマウントカメラの動画が公開されています。
videoidf.azureedge.net/977317e6-9002-4638-a7d2-5b2616b230e9
ここではガザの大きな地図と文書が見つかっています。
03.11.2023 ジャバリヤのハマス拠点で発見された戦闘計画、地図、通信機器 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
03.11.2023 イスラエル国防軍とISAがハマスのサブラ・テル・アル・ハワ大隊司令官を解任 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
モスクの地下には大規模なトンネル司令部も発見されています。
videoidf.azureedge.net/55026323-5f14-446d-a2aa-591f26338da2
22.10.2023, 03:04 イスラエル国防軍、アル・アンサール・モスクの地下テロリスト施設を空爆 |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
またハマス兵との戦闘も報告されています。
たとえば11月2日夜には、ゴラニ旅団第13大隊と第53大隊の機甲部隊が、ガザ地区内でハマス兵と戦闘を行い、ハマスは対戦車ミサイルを発射し、路肩爆弾も使用したようです。
ハマス兵は戦闘車両に近寄って爆弾をしかけようとして阻止されました。
このようにイスラエル軍はひとつひとつのトンネルを潰していき、燃料や食糧を断たれてあぶり出されるようにして地上に出てきたハマス兵は容易に撃滅が可能です。
ではこの兵糧攻めによってなにが起きるでしょうか。
それはハマスと民間人の食糧、燃料をめぐる対立です。
すでにこの食糧暴動は始まっています。
暴徒の標的は、皮肉にもハマスのフロント団体である「国連」UNRWAの倉庫です。
BBC
「イスラエルの空爆が続くパレスチナ自治区ガザ地区で28日、市民が支援物資の倉庫に押し入り、物資を奪った。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が29日、発表した。UNRWAは、「治安が乱れ始めた悪い兆しだ」としている。
また、中部や南部の他の保管施設でも同様に、物資が奪われたという。
UNRWAによると、ガザ地区中部デイル・アル・バラフにある倉庫に多くの住民が押し入り、小麦粉や小麦、衛生用品といった生活必需品を奪った。国連が運営する倉庫としては2番目に大きく、国連が運び込んだ人道支援物資が保管されている」
(BBC10月30日)
ガザ住民が支援物資を倉庫から奪う 「みな必死で、飢えている」と国連高官(BBC News) - Yahoo!ニュース
この対立によってハマスと「国連」が市民の敵となり、市民は助かるためにハマスが誘拐した人質をイスラエル軍に引き渡す可能性が高くなります。
実際にイスラエル軍は、人質の場所を教えれば安全を保証するというビラをガザ全域に撒いています。
このような作戦が完了するまでイスラエルは「停戦」はしないでしょう。
人質の解放なきところでの「戦闘中断」すらイスラエルは拒否しています。
イスラエルの主張は極めてシンプルで、テロの下手人であるハマスの完全殲滅と、人質の解放です。
それを阻害する「停戦」はハマスの延命にすぎないと考えています。
イスラエルは日本と違って「孤立」馴れしているので、なんと謗られようと孤立を甘受して淡々とガザ掃討作戦を継続するはずです。
またハマスの指導部は、ガザの外で優雅な富豪生活を送って、そこからプライベートジェットに乗って指令を出しています。
「イスラエルは、ガザのハマスを殲滅すると言っているが、実際のところ、ハマスの司令官たちは、ガザの外にいるのであり、その者たちはどうするのかという問題がある。
ハマスのややこしいところは、政治部門、軍事部門など様々なオフィスが、様々なところにあり、その高官もいったい誰が一番上かということも分かりにくいという点である。 現在、ハマスのオフィスは、ガザ、ヨルダン川西岸地区、レバノン、トルコ、カタール、そしてイランとなっている。 (IDF諜報部調べ)
こういう外からガザへ指令が飛んでいるということである。
最高司令官とみられるのは、イスマエル・ハニヤ(61)ハニエはドーハ在住で資産40億ドル、サレハ・アル・アロウリ(57)、ハレッド・マシャアル(58)このマシャアルは、資産50億ドルとみられている。 イスラエルは一度暗殺を試みたが失敗している。 この他にも多数が海外にいる」
ガザ地上戦進行中:“戦後イスラエルが治安維持“ ネタニヤフ首相発言で物議 2023.11.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
イスラエルは彼らの引き渡しを求めるでしょう。
すくなくとも、ハマスに司令部を与えているイラン、トルコ、レバノン、カタールにはイスラエルを非難する資格はないのです。
ハマスはできるかぎり世界の世論を動かしてイスラエルを孤立させ撤退、ないしは最低でも「停戦」に追い込むしか勝機はありません。
そのためにイスラエルの後ろ楯から米国を引きはがそうとしています。
「ブリンケン氏はヨルダンの首都アンマンでサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ヨルダンの外相と会談。その後の記者会見で、ヨルダンのサファディ外相は「われわれは今、この戦争を停止する必要がある」と訴えた。
ブリンケン氏は、和平の必要性とガザの現状を続けるわけにはいかないという点で全員の見解が一致していると述べたが、双方に意見の相違があることも認めた。
「今停戦すれば、ハマスが残り、再結集して(イスラエルを奇襲攻撃した)10月7日にやったことを繰り返すことを可能にするだけだ」と強調した」
(ロイター11月6日)
米とアラブ諸国、ガザ停戦巡り隔たり | ロイター (reuters.com)
今のところ米国は、民主党左派のバーニー・サンダースまで含めてこのブリンケンの線ででまとまっていますが、大統領選で民主党の票田であるリベラル層票が逃げていく可能性があります。
イスラエルではなく、米国がどこまでそれに耐えられるかがでしょう。
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今回(も)、カタールは人質解放の仲介で役割を期待され、NHKによれば、米、英、仏、加やタイ、ネパールがカタールと対話、連絡を持っているといいます。
それとは別にタイは、イランへ代表を送りハマスとの直接交渉も行い、イスラエルにも協力要請をしたようです。
カタールは、自己利益を求めながら、いつ誰からも尊重されるように図る狡猾な安全保障戦略としてやっているのでしょうが、人命被害をよしとしない、戦争にはなりたくないのはだいたいみんな同じなのだから、多くの国々が、狡くても嫌でも使える者と時は使うのだと考えます。
しかしながら様々なリアリズム外交を駆使しても、イスラエルとハマス双方が人道優先で一致して互いに我慢ができる、というイメージは全く持てない…
平気で他人を盾にできる人非人の手法と、その場所を諸共に爆撃しながら人質を解放しろという被害者の手法、このどうにもならなさ。
人質、そして若年人口が多い他の中東諸国と似て、人口の4割強が14歳以下といわれるガザの人々にとって、殊更に痛ましいことです。
中東を深く知るわけでもない私個人の今の悲観的なイメージも、先についての黒い考えも、実現しないでと思いながら、見るしかできないです。
投稿: 宜野湾より | 2023年11月 8日 (水) 14時42分
当然にパレスチナの人々は、故国と呼べるような自分たちの国家を希求しています。
イランはハマスをテコにしてパレスチナ宗教原理主義の狂った国家を樹立したい。それが不可能でもハマスの金満幹部らにとっては屁でもなく、闘い続ける事さえ出来れば国際支援金やマネロンにかかわる既得権益を保持し続ける事が出来る。
アッバス議長やファタハなど穏健派はイスラエルと妥協してもよく、それがかつてのオスロ合意でした。
しかし、支援金でほとんどを賄っているパレスチナ財政は支出などが不明朗で、支援物資の横流し、汚職と賄賂は幹部の既得権益となり果てています。新しい国家を樹立しようとする体制にありませんし、そうした熱意も実のところ冷めているのではないか。
ガザ地区をハマスに武力で奪われた穏健派は、再びハマスと戦う気力もないでしょう。
この問題で常に置き去りにされているのはパレスチナの一般人です。方策としての第一歩はハマスと一般人を切り離す以外にありません。そのうえでアッバス議長ら穏健派に力をつけてもらうより、パレスチナの人々を救う道はないと思います。
もしイスラエルの今やっている事がハマスと一般人を分ける事だとすれば、それは戦後にも生きて来る可能性があります。
テロさえなくなれば、パレスチナとイスラエルの関係性は改善します。
少なくとも、オスロ合意の地点までは回復するでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月 8日 (水) 17時06分
>テロさえなくなれば、パレスチナとイスラエルの関係性は改善します。
>少なくとも、オスロ合意の地点までは回復するでしょう。
だと本当に良いですね。
私には星に願いをかけるような文言に思えるほど遠い未来像なのですが。
ガザは当分瓦礫の住めない地区となり、テロをなくす大義を掲げて西岸地区の虫食い入植の面を更に大きく広げる。
力を無くしたまま自治区は消滅し、西岸地区に住むのはパレスチナ系イスラエル人になれば良い。
それを望まない者は即ちテロ組織の一員。
というのがイスラエル側の到達点なのではと私は思っています。
そうではない、共存の道がある。
ネタニエフ後にこそ。
そういう指導者が出てきたとして、オスロ合意時点まで入植地をイスラエルがパレスチナに戻すとは考えられないです。
現時点でガザ情報については確かめようのないデマ合戦になっていますが、数年来の西岸地区入植と迫害行為は歴然としています。
彼らは入植地はイスラエルだと認識しているはずです。退きませんし彼らの命を守るためにずっと軍が駐留する。
戻る地点は線を引き直された半占領下のパレスチナ地区で、
順番に諦めた人からイスラエル人になって生きれば助けてやる。という人道マインドなのだと思いますよ。
投稿: ふゆみ | 2023年11月 8日 (水) 20時51分
ふゆみさん
テロさえなくなれば、パレスチナとイスラエルの関係性は劇的に改善しますよ。それこそ、当然の事です。それが速やかに無くなるかどうかは別として。
パレスチナ人の支持を失っているアッバス議長は交渉の相手方としての主体性を回復するでしょうし、譲歩し易くなります。
オスロ合意の失敗は合意がパレスチナ人の支持を得られず、ハマスの台頭をゆるしてしまった事から発しています。ハマスはスポイラーとしての役割から、テロでしかパレスチナの自己実現はないと判断して今に至っているのです。
また、ふゆみさんのいうネタニヤフ後の「共生の道」とか言うのがどういうものか具体的にはわかりませんが、それこそ私には「星に願いをかけるような文言に思えるほど遠い未来像」ですね。
ネタニヤフはトランプ政権時代、パレスチナとの和解のため領土的譲歩にまで踏み込んでいます。
それは「エリアA(パレスチナの自治、治安維持担当地区)を倍増する」とかいうしょぼいものでしたが、アッバスは条件闘争にすら乗り出しませんでした。話し合いに乗る事自体がファタハにとっては自滅的で、さらなるハマスの台頭を許す危険性があったからです。
また、知っておられると思うけれど、ネタニヤフがいようといなかろうと、(野党代表(たしか、ラピドだったか)のインタビューなどでもわかるとおり)、ハマスやテロ組織の壊滅という点では一致しています。
投稿: | 2023年11月 9日 (木) 10時40分
共生の道がネタニエフ後などにあるのかということについて、ほぼない、パレスチナは事実上無くなるという意味で書きました。
読みにくくてすみません。
投稿: ふゆみ | 2023年11月 9日 (木) 12時04分
上の名無しの投稿は山路です。
あわてていて、失敬いたしました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2023年11月 9日 (木) 13時24分