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今年最終記事まで、この憂鬱なものになりました。
イスラエルがイラン・コッズ部隊の司令官を空爆で殺害しました。
当然ですが、これは暗殺です。
「(CNN) イランと各地の親イラン武装勢力は25日、同国の精鋭部隊、革命防衛隊(IRGC)の幹部が隣国シリアでイスラエル軍に殺害されたと主張し、報復を宣言した。イラン国営通信(IRNA)は革命防衛隊の声明として、イスラエル軍が25日、シリアの首都ダマスカス郊外に対する空爆で、IRGC司令官のラジ・ムサビ氏を殺害したと伝えた。
IRNAによると、ムサビ氏はシリア軍の顧問も務めていた。CNNはイスラエル軍にコメントを求めたが、回答は得られていない。IRGCは「イスラエル政権がこの犯罪の代償を払うことは間違いない」と述べ、報復を宣言した。
またイランのアブドラヒアン外相は、イスラエルに「厳しい秒読み」を覚悟するよう警告。外務省報道官も、イラン側には対抗措置を取る権利があると主張した」(CNN12月26日)
イスラエルが「軍幹部を殺害」 イランが報復宣言 - CNN.co.jp
そしてイランに対する初めての報復です。
おそらく米国に厳重に忠告されていたのでイランには手を出していませんでしたが、今回その禁を破ったことになります。
それにしてもシリアに居たムサビを見つけ出し、ピンポイントで爆撃して抹殺できる能力があるなら、もう少しガザ攻撃を丁寧にやれよ、といいたくなります。
一方イランは「代償を払わせる」と言っていますが、報復がどのていどのものになるかはわかりません。
それ次第で、以後の状況は左右されます。
「軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「イランは本国を攻撃されない限り、直接イスラエル攻撃には踏み切らないだろう。ただ、今後、ヒズボラなどを間接的に使ってイスラエル北部での戦闘を強化したり、海外にあるユダヤ人施設やイスラエル大使館を標的にしたりする可能性はあるだろう」と分析した」
イラン軍事顧問のムサビ氏を殺害、イスラエル 住居にミサイル3発、大統領の声明〝代償〟の意味へ懸念 - zakzak:夕刊フジ公式サイト
ところでエジプトの調停案は、イランというこの戦争の影の主役を登場させないことで成り立っていました。
イラン側報道では、イスラエル空軍機がムサビ氏の住居をミサイル3発で攻撃したと報じていますから、ターゲットにした可能性が高いと思われます。
意図的にされたとすると(たぶんそうでしょうが)、調停の可能性は当分なくなります。
ラジ・ムサビとガセム・ソレイマニ ムサビ腹出すぎ AFP
ムサビはコッズ部隊の実質的最高指揮官でした。
コッズ部隊とはこのような組織です。
「この部隊はもともと1980年代のイラン=イラク戦争時の革命防衛隊の特殊部隊を母体に、同戦争終結時の1988年に設立された。任務は海外での秘密工作で、具体的には海外でのテロ工作と、外国にイスラム革命を広げる「革命の輸出」である。後者の具体的な活動が、外国のイスラム主義者の人脈をリクルートし、組織化し、武器を与えて訓練し、武力闘争を指導することだった」
(黒井文太郎2023年11月7日)
ハマス・ヒズボラを支えるイランの危険な謀略機関「コッズ部隊」:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)
ムサビはソレイマニの後任として、ハマスの武装化に力を注ぎました。
ハマスは90年代まで、当時の資金源である湾岸諸国や在外パレスチナ人の寄付で成り立つ微温的組織でした。
よく中東専門家が、「ハマスは福利厚生団体だ」などとトンチンカンなことを言っていますが、それはこの時代のものです。
しかしハマスは政治部門をシリアに移すと、アサド政権と同盟関係にあったイランの影響下に入ります。
「イランがハマスの最大の支援国になった。現在ではハマスの唯一の後ろ盾がイランと言っていいほどで、とくにカッサム旅団への軍事支援はほぼすべてがコッズ部隊とヒズボラによるものになっている」
(黒井文太郎2023年11月7日)
ハマス・ヒズボラを支えるイランの危険な謀略機関「コッズ部隊」:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)
イランの影響下に入ったハマスの構成員の中には、元々イラン国内のコッズ部隊が運営するテロリスト養成所やヒズボラのベッカー高原での訓練所などで訓練された者たちがいました。
彼らは「カッサム旅団」と名乗って、ハマスの軍事部門を作るようになります。
一方イランのテロリストを作る流儀は徹底していて、武器の提供だけに止まらず、パレスチナに帰ってからの組織拡大の方法まで習得させます。
典型的な「革命の輸出」です。
中東諸国の大部分は、イランによって統治を脅かされてきたわけですから、イランを敵視するのは当然です。
「その対象には同じシーア派のヒズボラや、サウジアラビアのシーア派グループもいたが、シーア派以外にもアルジェリア、エジプト、パレスチナ、シリア、ヨルダン、リビア、スーダン、トルコなどのイスラム系過激派人脈もいた。いずれ“手駒”として使えるとの判断だ」
(黒井前掲)
こういうことを考える国のやることは決まっているとみえて、かつてのソ連のやり方とそっくりです。
かつてコミンテルンは、各国の共産党員をロシアに集め、破壊工作から組織拡大まで教え込んで、武器と資金を持たせて国に返しました。
帰国した共産党員たちは、母国でロシアの党のクローンを作って増殖し、やがてテロに走りますが、大部分は自滅して壊滅していきます。
同様にハマスが起こした今回の大規模テロも、極めて長期間に渡って周到に準備されたもののはずです。
「2年にわたる奇襲作戦の準備期間中も、コッズ部隊はカッサム旅団を支えたはずである。コッズ部隊はこれまで長年にわたって多くの外国の武装勢力を支援してきたが、単に武器や資金を渡すだけというやり方はしない。テロや戦闘の訓練をし、組織拡大の手法などまで指導するのだ」
(黒井前掲)
「約2年をかけて入念な作戦を立て、秘密裡に準備を行ったのだ。たとえばイスラエル側の盗聴を逆手にとって、故意に相手を油断させるような会話を聞かせるなど、徹底した偽装工作で自分たちの作戦の準備を隠した。イスラエル側の警備の弱点を研究し、奇襲と同時にイスラエル側の電話通信施設をドローンで破壊し、隔離壁を監視する無人カメラや遠隔操作機関銃を封じた。壁の爆破から襲撃、制圧、人質拉致などの手順も事前に充分に訓練されていた。2年前までのカッサム旅団とは違い、戦術レベルが大きく向上していたのだ」
(黒井前掲)
エジプトが、前向きな調停案を出してきました。
「イスラエル当局者は日曜日、いくつかのヘブライ語メディアに対し、エジプトがハマスとの戦争の停戦と、ガザに拘束されているイスラエル人人質の解放に関する新たな提案をテーブルに載せたことを認め、エルサレムは草案を全面的に拒否しておらず、交渉につながる可能性があると示唆する者もいる。
先週、カイロで行われたエジプトとテロ集団との会談に参加した情報筋を引用したサウジアラビアのニュースサイト「アシャルク」によると、エジプトのイニシアチブは、敵対行為を終わらせ、残りの人質全員を3段階で解放する計画だという」
(イスラエルタイムス12月24日)
エジプト、人質解放、戦争終結、ガザ地区にパレスチナ自治政府・ハマス政権樹立の提案を提出 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
考えてみれば、エジプト以外に調停ができる立場の国はありません。
調停できるのはイスラエル、ハマス双方にパイプを持ち、かつ中立性がある国です。
エジプトは米国とは緊密に連絡していながら、ハマスの指導者ハニエを招いて協議するというまねができる希有な国です。
しかも地理的には遠からず近からず、ガザとはゲートひとつ隔てて準当事国です。
調停案を出すなら、エジプトをおいて他に存在しないでしょう。
停戦の妨げとなっているのは、①人質の解放、②戦後処理、③この地獄の釜の蓋を誰が開けたのかという開戦責任などです。
以上が明確にならないかぎり、イスラエルが協議に乗る可能性はありません。
ただし、③の開戦責任に関しては、ここにこだわりすぎると調停自体が成立しません。
第1に、いかにしてまだ解放されていない135人もの人質を解放させるのか、ハマスからすればこの貴重な人間の楯を失いたくないでしょうから、人質の解放と停戦が同時に行われなくてはなりません。
これをハマスに飲ませるためにはハマスの弱点を知り尽くしており、なおかつハマス支持に偏った国でないことが大事です。
第2に、いまイスラエルの最大の支援国である米国とイスラエルの間で意見が大きく異なるのが戦後処理です。
既報したとおり、イスラエルは現在のファタハ政府も、ましてやハマス政府も強く拒否しています。
米国は自治政府に刷新しろといっていますが、ファタハはしがみついています。
第3に、国連安保理決議に一貫して米国が拒否権を発動して抵抗しているのは、いまやこの戦争がイスラエルのジェノサイドであるかのような歪曲がまかり通っていることです。
あくまでもこの戦争が始まった原因は、ハマスの民間人虐殺がきっかけであって、これに対してイスラエルの自衛戦争が始まったのです。
この戦争責任の所在が明確にならないかぎり、イスラエルは矛を収めないでしょう。
では、この難問にエジプトはどう応えたでしょうか。
エジプトはいくつかの段階にわけてこの難問を解こうとしています。
「エジプトの計画の第一段階は、40人の人質(女性、未成年者、高齢男性、特に病気の男性)の解放と引き換えに、延長可能な2週間の戦闘停止である。その見返りとして、イスラエルは120人のパレスチナ人治安部隊の囚人を釈放する。この間、敵対行為は停止し、イスラエルの戦車は撤退し、人道支援物資はガザに入るだろう」
(イスラエルタイムス前掲)
40人規模の人質を2週間かけて解放させ、一方イスラエルは120人のパレスチナ人囚人を解放します。
この間戦闘は停止します。
これは第3段階の全員解放を前提としたいわば信頼醸成段階です。
おそらくイスラエルはその解放される人数の少なさと、停戦期間の長さに異議を唱えるでしょう。
そして第2段階。
「第2段階では、パレスチナの諸派閥(主にファタハ党が支配するパレスチナ自治政府とハマス)間の分裂を終わらせ、ヨルダン川西岸地区とガザ地区にテクノクラート政権を樹立し、パレスチナの議会選挙と大統領選挙への道を開くことを目的とした、エジプトが後援する「パレスチナ国民会議」が行われる」
(イスラエルタイムス前掲)
この部分こそがエジプト案の核心部分です。
エジプトは、いまある自治政府を一回完全に解体して、新たなテクノクラート(専門知識を持つ技術官僚)のパレスチナ政府を作ってみてはどうかと提案しています。
つまり、自治政府からファタハとハマスの党派色を消してやり直せということです。
そのために議会選挙と大統領選挙を行えと言っています。
これを担保するのは、エジプトが後見人となった「パレスチナ国民会議」です。
この「国民会議」の正体がよくわかりません。
ファタハとハマスから自治政府を解放するという視点は現実性があります。
ハニエとアッバスに権力を握らせておくかぎり、パレスチナが復興することはおろか、調停協議がまとまることさえありえませんから。
問題は公正な選挙の実現方法です。
公正な選挙が行われるという保証が必要です。
本来ならPKOが入ってもいいような場面ですが、国連はあまりにもハマスに偏りすぎました。
エジプトなどからなる選挙監視団がガザと西岸に入らないとむずかしいかもしれません。
そして最終段階の第3段階です。
「第3段階は、包括的な停戦、ハマスとパレスチナのイスラム聖戦テロ集団と関係のあるイスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人治安部隊の囚人(10月7日以降に逮捕された者や、重大なテロ犯罪で有罪判決を受けた者を含む)の未定のパレスチナ人治安囚の解放と引き換えに、兵士を含む残りのイスラエル人人質の解放を含む。
この段階では、イスラエルはガザ地区の都市から軍隊を撤退させ、飛び地の北部から避難したガザの住民が故郷に帰れるようにするだろう」
(イスラエルタイムス前掲)
たぶん第2段階と並行することになるのでしょうが、ここで残りの人質の解放とガザ住民の北部への帰還が開始されます。
おそらくこの案に、米国は乗るでしょう。
そしてイスラエルの意見を聞いた上で、いくつかの修正を経て一定の調停案が誕生するかもしれません。
米国防総省が、イランによって日本タンカーが攻撃を受けたと発表しました。
「米国防総省は23日、インド沖約370キロのインド洋でリベリア船籍の日本のタンカーが、イランからの無人機による攻撃を受けたと明らかにした。火災が起きたが鎮火し、負傷者はいないとしている。
国防総省などによると、攻撃を受けたのは化学薬品を運ぶタンカーで、日本の会社が所有し、オランダの会社が運航。インドに向かって航行中で、国防総省は「連絡を取り続けている」とした」
(産経12月25日)
イラン無人機が日本船攻撃 インド洋、けが人なし - 産経ニュース (sankei.com)
イラン無人機 日本船攻撃 インド沖 負傷者なし【モーサテ】(2023年12月25日) - YouTube
攻撃を受けたのは、MVケム・プルートで、日本企業の所有ですが、リベリア籍で、オランダ企業が運航していたそうです。
攻撃を受けた地点は、ホルムズ海峡ではなく、そこからインド洋に沿岸から200海里(約370キロ)の地点です。
この攻撃に対応して、インド海軍は支援要請を受けて出動し「航空機1機を同船上空に派遣し、船および乗員の安全を確保しました」と発表しています。
こういったイランやフーシー派の船舶攻撃が、中東諸国だけではなく沿岸のインドにまで及んでいるのがわかります。
同上
このような攻撃は恒常化しており、実に14-5回を数えるまでになっています。
「さらに別件では、23日に米国のミサイル駆逐艦「ラブーン」が、「イエメンのフーシ派支配地域から飛来した」攻撃ドローン4機を撃墜したと国防総省の米中央軍が元ツイッターのXに投稿し、怪我人および被害はなかったと報告した。
さらに米中央軍によると、攻撃ドローン1機がノルウェー籍のタンカー「MVブラーマネン(Blaamanen)」に接近、さらにインド籍のタンカー「MVサイババ(Saibaba」が「片道攻撃ドローンの攻撃を受けたが、怪我人は報告されていない」という。
他方で、フーシ派反政府組織は23日に紅海に向けて対艦弾道ミサイル2発を発射したが、「影響を受けたという船舶からの報告は上がっていない」と米中央軍は述べた。
米中央軍によると、「これらの攻撃は、10月17日以降のフーシ派過激派組織による商用船への14、15回目の攻撃」だという」
日本所有のタンカーに対し「イランから飛来した」ドローン攻撃が発生|ARAB NEWS
ところで、問題となるのはイランやフーシー派が攻撃理由としているのが「イスラエルと関係ある」という部分です。
商船三井の社長はこう言っています。
「基本としては紅海や東地中海にはしばらくイスラエル関係船は近づけない。船を差し替えてイスラエル関係船は太平洋航路に転換し、別の船を紅海や地中海から配船する。オペレーションの範囲内でできる限りのことをするということに尽きる。差し迫ったリスクがあると判断される間は、その地域にはイスラエル関係船は近づけないというのはもうマストだ」
「イスラエル関係船以外の全ての船まで喜望峰回りするなどの対応をすれば大変なことになる。ただフーシやハマスの攻撃対象がイスラエル関係船に限定されているという限りにおいては、通常よりも注意深く運航しなければならない。今でも危険地域は運航しないよう、最短距離でなくても注意して航路選定することは当然、各船に指示している」(日経12月25日)
商船三井社長「中東情勢緊迫、車輸送船の需給さらに逼迫」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
この商船三井のコメントを聞くと、陰湿、かつ暴力的なイランの攻撃の意図がわかります。
「イスラエル関係船以外の全ての船まで喜望峰回りするなどの対応をすれば大変なことになる。ただフーシやハマスの攻撃対象がイスラエル関係船に限定されているという限りにおいては、通常よりも注意深く運航しなければならない」(商船三井)ということは、「イスラエル関係」の船は喜望峰回りにせざるをえないということです。
当然、その喜望峰航路は10日も余分にかかるためにコストは増大するでしょうし、燃料、人件費、そして保険料も増大し、商船会社を圧迫します。
いま、すでに既報のように「イスラエル関係」のコンテナ船やタンカーが、喜望峰航路を選択せざるをえないところまで逼迫しています。
必然的に商船会社はイスラエル便を忌避するようになるでしょう。
イランは露骨に反イスラエルにつけと、世界各国に命じています。
イスラエルポストはコウイランの最高指導者ハメイニの言葉を伝えています。
イラン最高指導者ハメイニ イスラエルポスト
「インド西部でイスラエル系船が攻撃されたという報告を受けて、イランの指導者アリ・ハメネイ師は、フーシ派の脅威に対処するために設立された国際部隊に参加している国々に、それに参加しないよう呼びかけた。
「イスラエルへの石油、燃料、物資の輸送を阻止するのはイスラム諸国の義務だ」と彼は指摘した。
彼は、軍に参加しているアラブ諸国を「レジスタンスを支援することは義務であり、イスラエルを支持することは犯罪であり、反逆である」と攻撃さえした」
ハメネイ師が経済ボイコットを呼びかけ、イランの将軍が封鎖を脅す-エルサレム・ポスト紙 (jpost.com)
ハメイニは、「イスラエルへの石油、燃料、物資の輸送を阻止するのはイスラム諸国の義務だ」とまで言っています。
この「イスラム諸国」には、フーシー派が実効支配するイエメンやヒズボラが力を持つレバノンまで含むのでしょう。
これでイランこそが一連のフーシー派の海上テロ攻撃を指令していることが明確になりました。
ここまでイランの海上テロに対しての関与が明確になっているにもかかわらず、いまだ「石油ルートを確保するため」と称して親イラン政策を続ける日本政府は正気の沙汰ではありません。
ほんとうに書きたくない、ならば書くなといわれそうなのが「安倍派裏金」問題です。
毎日毎日、アベ、アベってうるせぇよ。
非業の死を遂げた人の名を毎日うれしそうに連呼すんじゃねぇよ。
安倍さんが首相官邸に化けて出ますぞ。
さて、今回もホント、とことんメディアの印象報道です。
メディアは、同じ言葉を連日連夜使い続ければ、あら不思議、実体のようなものが、国民の中に形勢されるマジックをよーくご承知です。
言葉の使い方や表現ひとつで、情報の受け手の印象をクルクルと操作できるんですからたまらないでしょうな。
この問題は政治資金報告書の「不記載」問題です。
要は透明性のコンプライアンス問題です。
ですから「不記載があった」と書けば済むところを、なぜか安倍派だけは「裏金ウン億円」と書き立てるわけですからタチが悪い。
朝日は2月14日の一面トップで「安倍派裏金」とデカデカと書き立てましたが、小さく「岸田派、不記載は3年で2千万円超か 販売議員不明のパー券収入除外」という記事を載せています。
両派とも、なんのことはない同じ内容ですが、なぜか岸田派は「不記載」で、安倍派だけは「裏金」という書き分けをされています。
「岸田文雄首相が会長を務めていた自民党派閥「宏池政策研究会」(岸田派)が政治資金パーティーの収入の一部を政治資金収支報告書に記載していなかったとされる問題で、不記載額は2018~20年の3年間で2千万円余りとみられることが、関係者への取材でわかった。所属議員の誰が販売したパーティー券か不明な分を、会計責任者が除外していたという」
(朝日12月14日)
岸田派、不記載は3年で2千万円超か 販売議員不明のパー券収入除外:朝日新聞デジタル (asahi.com)
おいおい、使い分けしなさんな。安倍派は裏金という金権腐敗の匂いが立ち込める表現を使っておきながら、宏池会の方は「不記載」ですか。
「裏金」という表現にはカネと政治にまつわる疑獄事件に印象させようという意図が見え見えです。
そもそもこのパー券問題は、企業からカネをもらったという疑獄事件ではありません。
正当な資金集めの手段でしたが、収支報告書に不記載が見つかったという事件にすぎません。
特捜が全国から2千人だかの検事を集めて叩きまくるものではないのです。
検察は彼らの官僚の利害で安倍派を叩きたいたけのことで、2000人の検事を集めたというのも裏を返せば彼らの焦りです。
その理由は、責任はあくまでも収支報告書を作る会計の事務方の問題で、政治家との関わりを立件することは困難だからです。
元東京地検特捜部の高井康行弁護士はこう言っています。
「政治資金規正法では、責任を問われるのは政治家ではなく、原則的には収支報告書を作成する会計責任者になります。そのため、事務総長など派閥幹部や国会議員本人を立件する場合、会計責任者との共謀が認められなければなりません。
高井弁護士:「会計責任者については、故意があるかどうか。その次の問題は、会計責任者と議員の間に共謀があったかどうか。大きく言えば、この2点です」
高井弁護士:「故意が成立するためには、問題になっている資金が、政治資金パーティーの収益の一部であること。これが客観的要件。次に主観的要件として、収益の一部だと当事者たちが認識していること。それに連なって、その金は収支報告書に記載すべき金だと認識していること。にもかかわらず、意図的に記載しなかったこと。意図的に不記載にした報告書を提出したこと。これらが要件になります」
高井弁護士:「客観的に、派閥開催の政治資金パーティーの収益の戻りだという認識があったかどうか。今までの報道によると、客観的には収益の戻りのようですねと。次に、会計責任者が収益の戻りだと認識していたのかどうか。それについては『政策活動費だと思っていた』『制作活動費は記載する義務がないので、記載しなかった』と言っています」
【報ステ】焦点は“共謀”元特捜検事に聞く…議員の立件可能?安倍派・二階派強制捜査 (tv-asahi.co.jp)
特捜はたぶん政治家を立件できないことをわかっています。
大山鳴動ネズミ一匹となるのは目に見えています。
しかし、それではメンツがたたないので、おそらく得意の情報リークをしまくって印象操作をするでしょう。
一方、その政治資金パーティにはもっと別の問題がかくされていました。
たとえば宏池会政治資金パーティーには、一帯一路の責任者以下ゾロゾロと中国政府関係者が御出席あそばされているそうです。
「派閥パーティー疑獄は安倍派に非難集中。だが“巨悪”は寧ろ在日中国人団体の主要メンバーが勢揃いする岸田派(宏池会)。昨年5月18日東京プリンスH“宏池会と語る会”には一帯一路促進会会長の中国人などオールスター。総裁とその派閥が外国勢力にパー券売って彼らに便宜を?まさか…罪のレベルが桁違い」
Xユーザーの門田隆将さん
ま、そのとおりです。不記載と外国人からの政治資金供与とは次元が違う問題です。
下の宏池会パーティーの写真を見ると、安倍派の降ろされた松野官房長官に替わった林官房長官が入り口でお出迎えしていますが、その客には中国政府関係が多く混ざっています。
青山繁晴氏は、外国人がこのパーティー券を大量に買い占めることについてこう述べています。
「自民党派閥の政治資金パーティー券疑惑で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)の疑いで安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)の事務所を家宅捜索した。
「裏金」問題の全容解明とともに焦点となるのが政治資金規正法の改正だ。岸田文雄首相は「選択肢として否定しない」と言及、規制強化や厳罰化などが検討対象となるが、そこで見逃してはならないのが「外国人によるパーティー券の購入問題」だ。外国人献金を禁じた規正法の「抜け穴」となっている疑いがある。自民党で無派閥の青山繁晴参院議員(71)は「裏金作りと並ぶ非常に深刻な問題で、必ず法改正されなければならない」と訴える」
(ZAKZAK12月20日)
政治資金パーティーにおける「不記載」という会計処理上の問題と、外国人からの資金供与の方の抜け穴となっていることのいったいどちらが日本の政治にとって大事でしょうか。
特捜はどう見ても国家の重大事を勘違いしています。
外国人からの資金供与は厳罰の対象で、カン政権の外相だった前原誠司氏はこれで失脚しています。
「外国人献金問題は前原氏が4日の参院予算委員会で自民党の西田昌司氏からの追及を受けて表面化した。前原氏は6日の会見で、在日外国人から2005~08年と10年にそれぞれ5万円ずつ計25万円の寄付を受けていたことを明らかにした」
(日経2011年3月7日)
前原外相が辞任、外国人献金で引責 就任半年 菅政権に打撃 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
前原氏の場合、たかだかといってはナンですが、もらったのはたった25万です。
今回明らかになった宏池会の場合、1枚2万円でそれを団体ごとにまとめ買いをしていきます。
それを名がでないように、ひとつの団体が20万円以下にして複数買い占めていくわけです。
「一般的に、こうした講演会やパーティーの参加チケットは、企業がまとめ買いするケースが多く、1枚2万円が相場とされます。政治家団体の収支報告書では、20万円以下ならば公表する必要がなく、その匿名性から「政治家や政治団体に資金提供しやすい」として、企業での購入が多いようです」
政治資金パーティー チケット代は通常「寄付金」 | 町田・相模原の税理士ヴィジョン・サポート (vision-support.jp)
こういう外国人からの政治資金供与こそ「外国からの裏金」として厳しく指弾されるべきなのに、安倍派がすべったのころんだの、となにかと「安倍」に強引に結びつけて懐かしのアベガーの大復活です。
これについて安倍総理番を長く務めた元NHK記者の岩田明子氏が、「安倍元総理は派閥のキックバックに激怒し、すぐに止めることを命じた」という記事を書いたところ、今度は「アベをかばうな」とアベガーの諸君は怒り狂いました。
あのね、安倍さんは岸田氏と違って首相になってから派閥を離脱しているの、辞めてしらなくなるわずか6カ月間しか派閥の長ではなかったの。
そして、ひさしぶりに派閥に戻った彼はこの事実を知り直ちに修正することを命じたようです。
これについては産経がまず報じ、さらになんとあの朝日までが事実と認めざるを得ませんでした。
しかしそこはさすがはころんでも朝日、本来なら見出しは「安倍氏修正を指示」と書くべきところを「安倍派幹部、裏金還流把握か 22年、廃止決定後に撤回 パー券事件」と書いています。
「自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)が政治資金パーティー収入の一部を裏金化したとされる事件で、安倍派の会長や事務総長ら中枢幹部が、2022年のパーティー開催に際して、所属議員側に裏金をキックバック(還流)する運用を取りやめる方針をいったん決めていたことが、関係者への取材でわかった。決定は約4カ月後に撤回され、従来通り還流されたという」
(朝日12月23日)
安倍派幹部、裏金還流把握か 22年、廃止決定後に撤回 パー券事件:朝日新聞デジタル (asahi.com)
このような安倍派叩きに乗ったのが、岸田氏であり、メディアであり、検察のようです。
やれやれまた宿病がでましたか。
日本はもはや痛くもかゆくもありません。
こんなものを日本に請求しようと、それは自動的に韓国政府が作った財団が支払うという取り決めがユン政権と結ばれているからです。
「元徴用工らの訴訟で韓国最高裁が判決を出すのは、2018年以来5年ぶり。韓国外務省は21日の判決を受け、尹錫悦政権の問題解決策に基づき、賠償金相当額と遅延利子を政府傘下の財団から原告らに支給すると表明した。
日本政府は、1965年の日韓請求権協定で問題は解決済みとの立場だが、最高裁は原告らの日本企業への慰謝料請求権に関し、協定の適用対象に含まれていないとした18年の判決を踏襲。原判決通り、原告1人当たり1億~1億5000万ウォン(約1100万~約1600万円)を支払うよう命じた。
最高裁は「18年の判決までは客観的に権利を事実上行使できない障害事由があった」と認定し、権利を消滅させる時効が成立するという日本企業側の訴えを退けた。他にも係争中の元徴用工訴訟は少なくとも60件あり、原告は1000人を超える。同様の最高裁判決が今後も続く可能性がある」
(時事12月21日)
(再び日本企業の賠償確定 元徴用訴訟で韓国最高裁、18年に続き判決―政府財団から支給方針:時事ドットコム (jiji.com)
時効はない、後1000人待っているゾですって、うへぇ~。
ならば妥協はいっさいしないことです。
エドワード・ルトワックは韓国人の歴史心理についてこう言っています。
(hanada 2019-12月号)
日経12月18日https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39094660Y8A211C1FF2000/
日韓問題が外交では解消できない、韓国民族固有の心理的問題であり、それは日本民族に対して「恨」を抱き続けているからである。
その原因は、一度も日本とまともに戦ったことがないというコンプレックスが原因だとしています。
ルトワックは、この韓国人の「恨」心理を、ドイツと戦った国と戦わなかった国の心理と重ね合わせています。
戦わずナチスドイツにむしろ「従僕のようにドイツに協力した」国、たとえばスウェーデン人オランダ人が「超がつくほどの反ドイツ感情を保持している」のと同じ心理構造だとしています。
戦後生まれの韓国人からすれば、かつて日本に従順だった父親や祖父の世代を「恥」だと思っていて、消し去りたい過去だと考えています。
この屈折心理が、日本とは交戦関係にあったという「1911年独立政府」というファンタジーを生み出したわけです。
「1911年独立政府」説とは、韓国最高裁の理論的根拠とでもいうべきもので、要するに韓国は1911年以来ズっと一貫して独立国であった、したがって日帝(コリアの呼称)の韓国統治は違法であるというものです。
ここで韓国が言っている「独立政府」(自称「大韓民国臨時政府」)の実体は、テロリストらの海外の集まりでしかなく、日本と戦うよりも互いの権力闘争による殺し合いに夢中になるありさまでした。
たとえば、臨時政府」の第13から15代の「大統領」だった金九は、数々のテロ事件の首謀者でしたが、彼が殺されたのは戦後で、しかも韓国人によってでした。
金九 - Wikipedia
「「上海に成立した大韓民国臨時政府は派閥抗争が激しく、また無差別なテロリズムの性質が強く独立運動の実態に乏しい。臨時政府が第二次世界大戦中に行った宣戦布告は連合国からは承認されていない。また日本軍と直接対決に至る以前に日本の降伏によって大韓民国として独立を迎えており、大韓民国臨時政府が独立したわけではない。1951年(昭和26年)に連合国諸国と日本との間に締結されたサンフランシスコ平和条約によって朝鮮の独立を承認した」
韓国併合 - Wikipedia
「臨時政府」は統治した実体もなく、亡命政府として連合国に認められてもいないような存在にすぎませんでした。
彼らの脳味噌の中では、韓国は大戦中に日本と戦っていたというファンタジーになるようです。(笑)
もちろん韓国人は日本兵として戦っていたのです。
ホンモノの韓国の独立は、決して彼らがファンタジーするような民族独立闘争の結果ではなく、大日本帝国の崩壊によって連合国によってもたらされた棚ボタ独立でした。
彼らは日本が敗北した後にしゃしゃり出て来て、われわれに統治させろと連合国に要求しましたが、相手にされていません。
連合国は、敗戦後しばらくは日本に統治を任せていたのです。
そののち独立に一滴の血どころか汗すらかかなかった李承晩が、米国の傀儡として堂々と大統領の椅子に収まったのですが、弾一発撃たず、米国からお下渡しされた独立でした。
李承晩は、自らの力で勝ち得た独立でないだけに戦後政権の正統性に固執しました。
独立に際して、日本と併合条約を締結した当事国であった大韓帝国の復活という選択肢もありえたのですが、そうなっては困るために2011年に建国された臨時政府が日本統治時代に一貫して存在していたことにしたのです。
そしてその実質的指導者だった金九を暗殺してしまいました。
独立後、韓国は日本と分断されてために世界の最貧国へ没落していました。
かつての日本統治時代のほうが、はるかに治安も経済も安定していたからです。
李承晩ときたひには、ガバナンスの実務経験も経済も知らないのですから、それを隠蔽するには日本時代が地獄だったことにするしかなかったのです。
こういう中から、反日思想は生まれました。
ここがルトワックが言うように、自力で独立した気概を持つインドの独立とかけはなれた点です。
これが韓国の戦後の出発点でした。
連合国側は、この韓国の独立を当時構築されつつあった戦後秩序の枠組みの中に組み込みました。
それが日韓基本条約です。
したがって韓国の独立は、インド、アルジェリアなどのような植民地独立に伴うものではなく、連合国の戦後処理の産物でしかありませんでした。
サンフランシスコ条約の各論に当たるのが日韓基本条約を成しており、平和条約という名称にならなかったのは、戦時中韓国は日本国だったからで日本は韓国と戦争などしていないからにすぎません。
実際、サンフランス条約締結が1951年(昭和26年)9月8日、日韓交渉開始はその翌月の10月20日でした。
あくまでも日韓条約は、この大きな国際的枠組みの中で成立した戦後処理としての二国間条約でした。
近代法は時効概念を持ちます。
戦争処理の場合は、戦後に結ばれる平和条約を以て以後いかなる遡及もしない、これで「完全かつ最終的に解決した」、即ちこれを以て時効とするのが、戦後処理のルールでした。
このことを認識すれば、韓国最高裁のように「日本軍国主義の不当な支配」という果てしなく過去に遡及する態度が、いかに「平和条約」の理念から大きく逸脱した妄執かわかるでしょう。
パククネなど、2013年3月1日の三・一独立運動記念式典で、もはや両国関係を二度と修復する意志はないと聞こえることを言い出す始末です。
「日本と韓国の加害者と被害者という歴史的立場は、1000年の歴史が流れても変わることはない」
(産経2013年3月1日)
このような流れを見ると、わが国が韓国に過度に宥和的になろうなるまいと無関係に、韓国が一方的に原因を作っている以上、彼らの政権次第でいつまでも反日をループし続けるはずですが、韓国の「謝罪と賠償」論は、ふたつの意図的誤解に基づいています。
ひとつめは賠償です。これについて少し説明しておきましょう。
日本と韓国の請求権は、1952年から1965年まで続く実に13年、7次に渡る日韓基本条約において決められています。
まず日本は、GHQ試算(1945年8月15日時点1ドル=15円)で総資産891億2千万円、現在の価格に換算すれば16兆9千3百億円相当といわれる膨大な国家財産と私有財産を朝鮮半島に保有していました。
これについて日本は、1945年12月の「米軍政法令第33条帰属財産管理法」によって、米国政府に帰属し、さらに韓国政府に引き渡されたことを確認することをもって、すべて放棄したとしました。
一方、韓国側は、「対日債権」という言い方で、韓国人となった朝鮮人の日本軍人軍属、官吏の未払い給与、恩給、その他接収財産を賠償するように求めました。
この時に、ここを注目していただきたいのですが、日本側は「韓国側からの徴用者名簿等の資料提出を条件に、個別償還を行う」と提案しています。
え、日本は個人補償を提案しているのかと驚かれる方もいるでしょうし、朝日などの左翼メディアは個人補償をしたドイツを見習えとエンドレステープのように言い続けてきました。
ところが、実際には、個人補償を拒否したのは韓国側で、韓国政府は「個人への補償は韓国政府が行うので、日本は韓国政府へ一括して支払って欲しい」として現金合計21億ドルと各種現物返還を請求しています。
つまり、戦後における個人補償を提案したのは日本政府で、それを蹴ったのが韓国政府だということです。
韓国政府は、個人補償を含めて全額を国家の経済建設に注ぎ込みたかったが故に、個人補償は後から韓国がするからとして個人補償に蓋をしてしまいました。
そしてそれを国民にまったく伝えませんでした。
なんのことはない、自称「徴用工」らが騒いでいるのは韓国政府が国民に教えなかったからでしかないために、日韓基本条約の法解釈で勝ち目がない韓国最高裁は日本統治無効論を持ち出したのです。
ロバート・シャピロ元米商務省次官はパククネにこう言ったそうです。
「日本は韓国人戦争犠牲者に8億ドルを支払ったが、機密解除された文書によると、当時の朴正煕政府が慰安婦と呼ばれる被害者たちに伝えていなかった。古傷が治癒しない理由がここにある」
(1月8日 韓国日報)
結局、日本は韓国政府へ賠償金ではなく「独立祝賀金」と「発展途上国支援」という名目で巨額のカネを支払っています。
賠償としなかったのは日本の統治は正当に国際社会で承認されたものであって完全に合法だから賠償する理由がないからです。
こういうどうしようもない反日症候群のぶり返しは半永久的に続くことでしょうし、止めろといえばいっそう図に乗るでしょうから、日本はいっさい相手にしないしか方法はありません。
紅海において、フーシ派のテロ攻撃がいっそう激しくなっています。
それを受けて、各国の石油大手は紅海を避けて、喜望峰周りにする会社が増えてきています。
「イギリスの石油大手BPは18日、イエメンの武装組織フーシ派による船舶への攻撃が続く紅海でのタンカー運航を停止すると発表した。
紅海ではこのところ、イランが支援するフーシ派がイスラエルへ向かうとみられる船を標的にしている。攻撃が続くなか、多くの海運会社が運航を見合わせている。
BPは、この海域での「悪化が進む安全状況」を批判。「検討を続ける中で(運航の)予防的な一時停止を」継続し、この海域を監視していくと述べた。
BPの発表の後には、アメリカが紅海を航行する船舶を守るために国際的な合同海上作戦を主導すると発表した」
(BBC12月19日)
英石油大手BP、紅海でのタンカー運航を一時停止へ フーシ派の攻撃続く中 - BBCニュース
石油大手だけではなく、コンテナ輸送大手も喜望峰周りに切り換えました。
「[16日 ロイター] – コンテナ船大手のスイスMSCと仏CMA CGMは16日、紅海でイエメンの親イラン武装組織フーシ派による商業船への攻撃が相次いでいることを受け、スエズ運河の航行を見合わせると発表した。
フーシ派はパレスチナ自治区ガザでの紛争を受けて同海域で船舶への攻撃を強めている。
紅海とアデン湾を隔てるバブ・エル・マンデブ海峡では15日、リベリア船籍の船舶2隻がフーシ派の攻撃を受けた。
1隻はMSCの船舶でドローン(無人機)が衝突し火災が発生した。MSCは、負傷者の報告はないが、船舶が火災の被害を受け、運航を停止したと明らかにした。
もう1隻は独ハパックロイドの船舶で発射されたミサイルが命中した」
(ロイター12月16日)
コンテナ船大手、スエズ運河航行回避へ 紅海での攻撃受け | ロイター (reuters.com)
座礁のコンテナ船が離岸 スエズ運河、再開時期は不明:朝日新聞デジタル (asahi.com)
このようにフーシ派のテロ攻撃は、いまやイスラエルに関わるか否かを問わず無差別攻撃になってきています。
紅海が重要な海路なのは、スエズ運河と連結しているからで、ここを安全に航行できないとスエズ運河経由の航路が使用不可能となり、深刻な影響を及ぼします。
スエズ運河の最大の役割はショートカット(近道)です。
しかもスエズ運河は、欧州とアジアを結ぶチョークポイントで、ここ一カ所しかないという独占力を持っています。
「インド洋北西部のアラビア海からイギリス・ロンドンの航行距離は、スエズ運河を通るルートなら、アフリカの喜望峰回りに比べ約8900kmを短縮でき、約半分になる。これによって航行日数を約1週間短くし、燃料コストも約半分に抑えることができる。また、スエズ運河から地中海を進む航路には、貨物の積み下ろしのために寄港できる港も数多くあるので、利用する船が多い。このように、スエズ運河は世界的な交通の要衝となっている」
(松田琢磨『スエズ運河事故から学ぶ世界海運の最新事情』2021年4月23日)
スエズ運河事故から学ぶ世界海運の最新事情 | nippon.com
2021年に日本の正栄汽船が所有し、台湾のコンテナ会社が運航していたエバーギブン号がスエズで座礁事故をおこしたことがありました。
わずか1隻の座礁によりスエズ運河が1週間使用不能となったために、これによる被害総額は巨大なものになりました。
スエズ運河の座礁船、離礁に成功と 前日から積み荷下ろして軽量化 - BBCニュース
「国際貿易開発会議(UNCTAD)のヤン・ホフマン氏(前国際海運経済学会会長)の試算によると、世界の貿易に与える影響額は22億ドル~36.6億ドル(日本円で約2400億円~4000億円)。この計算を日本に当てはめると貿易への影響額は51.5億円から85.8億円になる。
さらに今回の事故は、世界海運の「運賃上昇」にも影響している。
「最近、コンテナ不足や運賃が高い状況が続いていたが、座礁事故の影響でコンテナの回転がさらに遅滞し、欧州をはじめとした港湾で船舶が混雑している。このため、大西洋方面や欧州方面へのコンテナ運賃が一時的に上昇しており、正常な状態に戻るのを遅らせることになった」
(松田前掲)
1869年に開通し手以来、スエズ運河はその後何度かの拡張工事を重ね、一部のマンモスタンカーやばら積み船(梱包されていない穀物・鉱石・セメントなどを船倉に入れて運送する貨物船)を除き、世界の船のほとんどはこの運河を通航できます。
超大型空母がスエズ運河を通過!】世界一交通量の多い重要水路を航行する圧巻映像! - YouTube
米海軍の空母すら通過しているほどで、米海軍にとって大西洋から中東、インド洋、アジア方面に展開する場合、スエズ運河の存在は欠かせない軍事的意味を持つのです。
このスエズからの航路にたちふさがったのがフーシ派です。
早くも、原油先物チャートは上昇を開始しています。
「[ベンガルール 19日 ロイター] - 米国時間の原油先物は約1ドル上昇した。イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」による紅海での船舶攻撃で海上貿易が混乱し、船舶の迂回を余儀なくされる企業が増えたことを受けた。
清算値は、北海ブレント先物が1.28ドル(1.6%)上昇の79.23ドルと12月1日以来の高値を付けた。米WTI先物1月限は0.97ドル(1.3%)上昇の1バレル=73.44ドルと2週間超ぶりの高値となった」
(ロイター12月20日)
原油先物1%高、フーシ派による紅海での攻撃巡る懸念で(ロイター) - Yahoo!ニュース
このように今やフーシ派は世界経済の敵となりつつあるのです。
フーシ派の宗主国イランの世界原油市場に対する影響はたかがしれていますが、スエズ運河を遮断しかねないこのテロ攻撃は極めて悪質です。
そしていま米国と共にガザ紛争の調停に乗り出そうとしているエジプトにとって、スエズ運河こそがこの国の動脈なのです。
エジプトはハマス側をなだめ、米国がイスラエルをなだめるという構図です。
「【フランクフルト=林英樹】イスラム組織ハマス指導者のハニヤ氏は20日、仲介役を務めるエジプトを訪れた。ロイター通信によると、パレスチナ自治区ガザの過激派「イスラム聖戦」の指導者も数日以内にエジプトを訪問し、停戦について協議するとみられる。ただイスラエル政府は一時的な戦闘休止にしか応じない構えをみせており、隔たりは大きい」
(日経12月21日)
ハマス指導者がエジプト訪問、イスラエルとの停戦協議か 過激派幹部も - 日本経済新聞 (nikkei.com)
エジプトもスエズという自国の経済にかかわる生命線がかかわているだけに必死です。
ちなみにわが国はここに至ってもイラン大事で腰を上げないですから、太平楽なものです。
米国を中心とする航行の自由作戦には知らんぷりを決め込み、そのくせこれでまたなにかテロが起きればだから米国もアテにできない、イランを国際的安全保障に引き込まねば、といってさらにイランに媚びへつらうのですからヘルプレスです。
こういう言説で外務省中東課に大きな影響を与えているのが中東専門家たちです。
福岡高裁那覇支部が、沖縄県に承認の命令を下しました。
「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、国が移設に反対する県に代わって工事の設計変更を承認する「代執行」に向けた訴訟の判決で、福岡高裁那覇支部(三浦隆志裁判長)は20日、沖縄県に判決送達の翌日から3日以内の承認を命じた。設計変更の承認を巡っては9月の最高裁判決で不承認とした県の敗訴が確定しており、玉城デニー知事の今後の対応が注目される。
玉城知事が承認に応じなければ、斉藤鉄夫国土交通相が代わりに承認し、工事を再開できる。その場合、地方自治法に基づき、国交相は知事にあらかじめ日時や場所を通知してから代執行を行う。同法は上告期限を判決の1週間以内としており、県側は上告できるが、最高裁で県側が逆転勝訴するまで代執行を止めることはできない。
翁長雄志前知事時代の平成27年にも国が代執行に向けた訴訟を起こしているが、和解が成立し、代執行が見送られたため、今回、代執行に至れば初のケースとなる」
(産経12月20日)
辺野古移設「代執行」訴訟、沖縄県に承認命じる 知事の対応注目 - 産経ニュース (sankei.com)
当然のながれです。
というか、いつまでやってんのか、とっくに死んだウォーキングデッドが「訴訟」の型をとってフラフラ歩いているようなもんです。
もういいかげん、現実と向き合ったらどうですか。
たぶんウォーキングデッドの皆さんもお分かりだと思うのですが、最高裁判決が2本でています。
ひとつはつい最近の23年9月に出た最高裁判決です。
「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、国が設計変更申請を承認するよう是正指示をしたことは違法だとして、沖縄県が指示の取り消しを求めた訴訟の上告審判決が4日、最高裁第1小法廷であった。岡正晶裁判長は「申請を承認しない県の対応は違法だ」として、県の請求を棄却した福岡高裁那覇支部の判決を支持し、上告を棄却。県の敗訴が確定した。
(略)
同小法廷はまず、今回の承認手続きは、本来は国が行う事務を県が代わりに担う「法定受託事務」だと指摘。「都道府県の処分を取り消す裁決に従わないことが許されれば、紛争の迅速な解決が困難になる」と述べた。この事務で都道府県が裁決に従わなければ違法になるとの初判断を示し、国交相による国の是正指示は適法だと結論付けた。
判決で県は変更申請を承認する義務を負ったが、移設阻止のため、従わない可能性もある。その場合、国は県に代わって変更申請を承認する「代執行」の手続きに入ることができる」
(読売2023年9月5日)
普天間飛行場の辺野古移設巡る訴訟、沖縄県の敗訴確定…最高裁棄却で工事再開へ調整 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
はい、これで最終的、かつ不可逆的に沖縄県の辺野古移設不承認訴訟はジ・エンドです。
悔し紛れにデニー氏は「地方自治の本旨をないがしろにした。」などと言っていましたが、それは沖縄県の方です。
「沖縄県の玉城デニー知事は4日、名護市辺野古の新基地建設に伴う設計変更の不承認をめぐる訴訟で、県の敗訴が同日確定したことを受けてコメントを明らかにし、「(最高裁判決は)地方公共団体の主体性や自立性、憲法が定める地方自治の本旨をないがしろにしかねないもので、深く憂慮せざるを得ない」と批判しました。県庁内で会見し発表しました」
「しんぶん赤旗9月5日)
辺野古 最高裁が不当判決/新基地断念求め続ける 「県民の意思変わらず」/デニー知事が会見 (jcp.or.jp)
元々地方自治法では、地方自治体に対して、最高裁判決が言うように公水面埋め立て承認は、ないしはそれに付随する設計変更は、国から地方自治体に対する単なる委託業務、法的受託事務と位置づけられています。
これが「地方自治の本旨」です。
●法定受託事務
「国または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、国または都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法令で特に定めるものをいう」
法定受託事務 - Wikipedia
今回の辺野古埋め立てで沖縄県に与えられた権限は、国道の管理と並ぶ「第一号法定受託事務」に属します。
簡単にいえば、「本来は国の仕事だが、あまり細かいので当該県に委託している」ていどの事務処理にすぎません。
承認する権限はあくまでも国にあり、その一部の業務(事務)を県に代行させているのです。
ただの国からの受任業務なのことを、極大に歪曲解釈して「辺野古移設の必要性・合理性との関係の審査」にすり替えたのが、沖縄県です。
ですから、国は、自治体が違法な手続きをしたと考えれば、それを取り消すことも可能な権限を与えられています。
それが地方自治法第245条にある、「是正の勧告と必要な措置」であり、さらには当該自治体に代わって代執行する権限すら与えています。
これが今回の福岡高裁那覇支部の県に対しての1週間以内の承認することを命じ、それに反した場合には国が代わってそれを行う代執行判決です。
デニー氏がまたグダグダと承認しなければ、別にかまいません。
国がやるだけのことです。
かつてデニー知事はこんなことを言っていました。
「玉城氏は、厳しい表情を浮かべて会見に臨んだ。「移設阻止を求める県民の意思は変わらない」と話し、公約で訴えた自らの政治姿勢に変わりはないと強調した」
(時事9月4日)
玉城氏、表情厳しく「対応検討」=宜野湾市長「判決尊重すべきだ」―辺野古訴訟|ニフティニュース (nifty.com)
「県民の意志」とやらが変わろうと変わるまいと、法の立場は厳然としています。
うーん、けっこう恥ずかしい。
度重なるフーシ派の紅海でのテロ攻撃に対して、米国を中心にして多国間安全保障体制ができました。
ところが、最初にフーシ派に標的にされた国のくせにわが国は不参加です。
【ワシントン=坂本一之】米国のオースティン国防長官は18日、スエズ運河とアデン湾を結ぶ国際海運の主要ルートである紅海でイエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」による攻撃が相次いでいることを受け、紅海周辺で商船を護衛する多国籍部隊を発足させると発表した。
多国籍部隊は、米軍主導の海洋安全保障の枠組み「連合海上部隊(CMF)」の傘下に位置付けられ米英仏やカナダ、ノルウェー、バーレーンなど複数国が参加。紅海南方やアデン湾で共同対処する。取り組みは「繁栄の守護者作戦」と名付けられた。
オースティン氏は声明で、フーシ派の弾道ミサイルや無人機による攻撃から商船を守るために「団結しなければいけない」と強調。紅海は重要な商業航路だと指摘し、「フーシ派の無謀な攻撃がエスカレートしている」と非難した。「航行の自由を確保し、地域の安全」に取り組む。
発表された多国籍部隊にはオランダ、イタリア、セーシェル、スペインも名を連ねた。CMFには日本も参加しているが、今回の発表には含まれていない」
(産経12月19日)
米、紅海で多国籍部隊発足 フーシ派攻撃から商船護衛(産経新聞) - goo ニュース
米国はその名も「繁栄のガーディアン」というテンションの高い名をつけて、紅海における航行の自由を守ろうとしています。
国防総省のコミュニケです。
「イエメンを端発するフーシ派の無謀な攻撃が最近エスカレートしていることは、商業の自由な流れを脅かし、罪のない船員を危険にさらし、国際法に違反している。紅海は、航行の自由にとって不可欠な重要な水路であり、国際貿易を促進する主要な商業回廊である。
航行の自由という基本原則を守ろうとする国々は、合法的に公海を航行する多くの国の商船に弾道ミサイルや無人航空機(UAV)を発射するこの非国家主体がもたらす課題に立ち向かうために団結しなければならない。
これは、集団的な行動を必要とする国際的な課題である。それゆえ、本日、私は、紅海の安全保障に焦点を当てた統合海上部隊とそのタスクフォース153のリーダーシップの傘下における重要な新しい多国籍安全保障イニシアチブである「繁栄ガーディアン作戦」の設立を発表する」
紅海における航行の自由の確保に関するロイド・J・オースティン3世国防長官の声明 > 米国国防総省>発表 (defense.gov)
IMSC
この国防総省のプレスリリースに登場するタスクフォース153とは、紅海における船舶の安全を守る多国間の仕組みである国際海洋安全保障構成体(IMSC)を基にして作られていますが、ここにもわが国は不参加を決め込んでいます。
海賊対処には参加してドバイに前進拠点まで作っているにもかかわらず、ことイランの逆鱗に触れそうなことになると腰が極度に引けてしまいます。
いやむしろ、危険水域だからイランを怒らせないことこそが重要だと考えているのです。
フーシ派はイランのコッズ部隊によって作られて、いまも武器や資金の提供を受けていることは知られた事実です。
フーシ派が暴れると、日本はイランに頭を下げてなんとか穏便にと懇願しています。
2次団体が暴れて、困った町内会が町内パトロールをしようと言うと、イヤオレのうちはボスの広域暴力団と長年義兄弟の契りを結んでいるからと拒否しているようなもんです。
たとえば先日の12月2日の日本-イラン首脳の電話会談ではこうです。
日・イラン首脳電話会談|外務省 (mofa.go.jp)
「現地時間12月2日午後6時30分(日本時間同日午後11時30分)から約40分間、COP28「国連世界気候行動サミット」に出席のためアラブ首長国連邦・ドバイを訪問中の岸田文雄内閣総理大臣は、セイエド・エブラヒーム・ライースィ・イラン・イスラム共和国大統領(H.E. Ayatollah Seyyed Ebrahim RAISI, President of the Islamic Republic of Iran)と電話会談を行ったところ、概要は以下のとおりです。
1岸田総理大臣から、ガザ情勢に関し、戦闘休止、人質の解放及び人道支援物資のガザ地区への搬入増大を歓迎していたが、今般、戦闘が再開されたことは残念であり、合意への復帰や事態の沈静化が重要である旨述べました。さらに、全ての当事者が、国際人道法を含む国際法を遵守しなければならず、また、実際の軍事行動においては、民間人の被害を防ぐべく、実施可能なあらゆる措置を講じる必要がある旨述べました。
2その上で、岸田総理大臣から、更なる人質の解放及び事態の沈静化に向け、イランに役割を果たすよう求めました。また、岸田総理大臣から、日本企業が運航する船舶がホーシー派により「拿捕」された行為を断固非難するとともに、イランからも船舶・乗組員の早期解放及び今後このような行動をとらないようホーシー派に働きかけるよう要請しました。
3これに対して、ライースィ大統領から、現在の状況に関するイラン側の立場についての説明があり、両首脳は引き続き意思疎通を継続していくことで一致しました。
岸田氏は、ハマス-イスラエル紛争で「イランに役割を果たすことを要請した」そうです。
なんのことはない、イランがハマスに「影響力」を持つことをわかっていて頭を下げていることになります。
こういうのを反社会的勢力へのおもねりというんじゃないですかね。
また同じようにフーシ派(外務省はホーシ派と呼称)のシージャックテロについても、フーシ派に「働きかける」ことを頼んでいます。
2次団体が暴れたら、広域暴力団にとりなしをお願いしに走るようなものです。
もちろんイランがウンと言うはずもないわけで、「現在の状況についてのイランの立場」をレクチャーしてもらってオシマイです。
これが、日本が誇る「イランとの長年の友好関係に基づく特別な関係」です。
つまりまったく無意味なばかりか、日本がすべき中東水域の安全保障をしない言い訳に使われています。
フーシ派の跳梁跋扈による中東水域のテロだけでこれだけあります。
いうまでもなく日本政府は、紅海において航行の自由がを守る仕組みが必要なことくらいよくわかっています。
防衛省から中東航路の重要性を説明してもらいましょう。
中東地域における⽇本関係船舶の安全確保に関する政府の取組 (mod.go.jp)
防衛省
防衛省
Q.なぜ自衛隊を中東地域に派遣する必要があるのでしょうか?
A.中東地域の平和と安定は、我が国を含む国際社会の平和と繁栄にとって、極めて重要です。また、世界の主要なエネルギー供給源であり、我が国の原油輸⼊量の約9割を依存する中東地域において、⽇本関係船舶の航⾏の安全を確保することは非常に重要です。
中東地域において緊張が⾼まる中、船舶を対象とした攻撃事案が⽣起し、2019年6⽉には⽇本関係船舶である「コクカ・カレイジャス」号の被害も発⽣しています。このような状況に鑑み、各国は、同地域において艦船、航空機などを活⽤した航⾏の安全確保の取組を強化しています。
この防衛省がこんなことが起きるから各国が航行の自由作戦をしているのだという例に出したコクカ・カレイジャス号事件とは、日本のタンカーが吸着式爆雷を仕掛けられ大破した事件のことです。
2019年6月ホルムズ海峡タンカー攻撃事件 - Wikipedia
では、日本のタンカーに爆雷を仕掛けたのは誰でしょうか。
もちろん、イラン以外ありえません。
この攻撃があった当日、直ちにポンペオはイランを名指しで批判しました。
「事件の当日、米国務長官マイク・ポンペオはイランがこの攻撃に責任を負っていると述べた。ポンペオはこの評価を「諜報、使用された武器、専門家の意見」および「船舶に対するイランの最近の同様の攻撃」に基づいて行ったとした」
Wikipedia
そしてサウジ、英国も同様のコメントを出しています。
しかしこのような重大なテロを受けながら、わが国はイランに忖度するあまりIMSCには参加しませんでした。
そして今度はフーシ派から公然と日本船を標的にしてシージックを仕掛けられても、まだ重い腰をあげないのですから呆れてモノが言えません。
そして今回の繁栄のガーティアン作戦にも不参加を決め込みました。
つまり、われわれは外国海軍に守ってもらって繁栄をするのだ、という意思表示です。
もし親イラン政策を取り続ける理由を「原油輸送の安定」にあるというなら、真逆です。
イランはアラビア半島を挟んで2カ所、チョークポイント(狭まった場所)を押さえています。
西がフーシ派のバブ・アル・マンダブ海峡、東がイランのホルムズ海峡です。
原油輸送を妨害している最大の敵はイランとその眷属なのです。
日本がイランを中東外交の中軸に据え続けるかぎり、このようなことは何度も何度も引き起こされるはずです。
戦後処理をめぐって米国とイスラエルが対立しています。
ネタニヤフは「ハマスタンにもファタハスタンにもしない」という姿勢を明確に打ち出しました。
「イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの「戦後統治」を巡り、同国のネタニヤフ政権とバイデン米政権に亀裂が生じている。「2国家共存」に向けた和平プロセスの再起動を目指す米国は、パレスチナ自治政府による統治復活を志向。ネタニヤフ首相はこれを拒否する姿勢を鮮明にしている。
ネタニヤフ氏は12日の演説で「ガザは『ハマスタン』にも『ファタハスタン』にもならない」と語った。ガザをハマスだけではなく、自治政府の主流派ファタハにも渡さない-という意味だ」
(産経12月17日)
ガザ戦後統治 イスラエル、米と亀裂鮮明 世論半数近く「再占領」容認 - 産経ニュース (sankei.com)
これはバイデンが提唱するオスロ合意の失敗を繰り返すつもりはない、と退けた上での発言です。
つまり「二国共存」路線であるオスロ合意を正式に廃棄し、ガザは継続して軍によって実効支配するのだと宣言したわけです。
この強気の発言は、現在のイスラエル世論がネタニヤフを支持しているからです。
なんと世論調査で恒久的残留を支持46%にも達しており、パレスチナ自治政府の当地を支持するのはわずかに1割にとどまっているからです。
「イスラエルの民放テレビが戦後処理の方式に関して11月中旬に行った世論調査によると、「イスラエルが恒久的に残留しユダヤ人入植地を再建」すべきだと考える人が32%に達した。「イスラエル軍が恒久的に駐留」(14%)と合わせると、半数近くが何らかの形での再占領を容認していることになる。
このほか30%が「国連の信託を受けた第三国の統治」を望むと回答。「自治政府による統治」が望ましいとの声は10%にとどまった」
(産経前掲)
パレスチナ自治政府は、いちおう国際的に認められた合法政府ということになっています。
何度も書いてきているように、しかしこの合法政府の実体はかぎりなく希薄で、かろうじてガザの飛び地である西岸の一部を実効支配しているにすきません。
しかもいまやハマスの大規模テロ直前の9月のパレスチナ政策調査研究センター(PSR)とドイツのコンラート・アデナウアー財団の調査では、ヨルダン川西岸地区で、ハマスの支持率はほぼ半数の44%に達しています。
「ヨルダン川西岸地区を統治するパレスチナ自治政府(PA)の与党「ファタハ」の支持率は、9月には26%だったが、今回の調査で16%に落ち込んだ。西岸地区では9月には「支持勢力なし」という回答が52%だったが、今回は35%に大幅に減った。支持勢力のなかった人たちがハマス支持に転じていることが分かる」
ヨルダン川西岸地区でハマス支持率が急上昇…自治政府との連合の議論も(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース
ガザ地区ではパレスチナ自治政府ことファタハは実力でハマスに追い出されており、いまさら瓦礫と化したガザの統治と復興をする力量も意志もないでしょう。
米国は、自治政府に「刷新しろ」と言っていますが、ファタハはかつてのボスのアラファトの1兆円蓄財でわかるように骨の髄まで腐りきってパレスチナ人に見放された「昔の支配者」でしかありません。
産経
「エルサレム 14日 ロイター] - 米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は14日、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区とガザ地区は「刷新され、活性化された」パレスチナ自治政府が統治する必要があると述べた。
イスラエル訪問中のサリバン氏は地元のテレビ局チャンネル12とのインタビューで、「最終的にはヨルダン川西岸とガザの統治を結び付ける必要があり、刷新され活性化されたパレスチナ自治政府の下で、結び付けられる必要がある」と述べた。
それが何を意味するのかという質問に対しては「イスラエル政府だけでなく、まずパレスチナ側との集中的な協議が必要ということだ。しかしそれには改革が必要で、パレスチナ自治政府の統治への取り組み方を刷新する必要があるだろう」と応じた」
(ロイター12月14日)
ガザとヨルダン川西岸、「刷新された」パレスチナ自治政府が統治すべき=米高官 | ロイター (reuters.com)
パレスチナ問題の悲劇は、ガザと西岸を支配する力をもっている勢力が、凶暴なハマスとイスラエルしか存在しないことなのです。
ハマスの抵抗は続いていますが、あと長くとも数カ月で終結するでしょう。
ハマスの戦闘員主力は壊滅寸前で投降が相次いでおり、ガザ地区の最高指導者で、大規模テロの計画者であり最高指揮官だったヤヒヤ・シンワルは草の根を分けても探しだされようとしています。
「(CNN) 米政府高官は16日までに、イスラエルが行方を追って抹消(まっしょう)を狙うパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」の最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏について、「彼の余命は残りわずか」との見方を示した。
「彼の命は尽き始めていると言ってもよい。(捕まえるのに)長くかかろうと問題ではない」と断じた。「シンワル(氏)には天罰が下るだろう」とも続けた。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がイスラエルを訪れ、政府当局者と会談した後に述べた」
(CNN12月16日)
追跡するハマスのガザ最高指導者の「余命あとわずか」、米政府高官 - CNN.co.jp
ヤヒヤ・シンワル CNN
仮にハマスが抵抗を止めたとしても、まだ脅威はなくなったわけではありません。
ハマスの後ろ楯にいるイランが考えているのは、多方面からイスラエルをテロ組織によって包囲することです。
イスラエル・ハマス衝突、なぜ今? 歴史や今後の展開は - 日本経済新聞 (nikkei.com)
そのためにガザからはハマスに、レバノンからはヒズボラに、そしてイエメンからはフーシー派に攻撃を命じました。
国境を接していないイエメンのフーシ派はドローンを使ったり、紅海を航行する船舶を襲撃したりし続けて攪乱攻撃を続けています。
米海軍はフーシ派のドローンを撃墜しています。
「フーシ派は2014年にイエメン政府を倒して以来、同国の一部を支配している。引き起こした内戦は、現在も続いている。イランが支援するイスラム組織ハマスとイスラエルがガザ地区で戦争状態にあるため、フーシ派は最近、イスラエルと関係のある船を紅海で標的にしている」
(BBC12月14日)
米軍艦、紅海でイエメン・フーシ派のドローン撃墜 - BBCニュース
ヒズボラ指導者、3日に演説 10月のハマス・イスラエル衝突以来初 | ロイター (reuters.com)
問題は国境を接するレバノンのヒズポラ(「神の党」)です。
イスラエルが恐れているのは、レバノンのヒズボラが10月7日のハマスの大規模テロ攻撃と同じことをやることです。
ヒズボラは、イランの革命防衛隊によって育成され、その指令によって動いているとされています。
またシリアのアサド政権も後方補給拠点や訓練施設、要人の自宅などを提供しており、イランから空路で到着した物資や人員はいったんシリアのダマスカスからベイルートを経てヒズボラに供給されていると言われています。
ヒズボラは、レバノン国軍に勝る軍事力を持ち、レバノン政府の施設も使用してしているようです。
そしてハマスと同じように、レバノンの国政にも議席を得ており、これもハマスとおなじように学校と病院も運営しています。
「ヒズボラは一般に過激派組織と見なされているが、パレスチナの過激派ハマースのように選挙に参加している政治組織である。独自の議会会派「レジスタンスへの忠誠」を結成して、議会選挙では1992年8議席、1996年7議席、2000年12議席と議席を毎回獲得し、2005年7月には連立内閣に参加した。近年の議会選挙では、2018年に71議席を獲得したが2022年には(128議席中)62議席程度にとどまり過半数割れしている。また、貧困層への教育・福祉ネットワーク(2002年のデータで、学校9校、病院3か所、診療所13か所を運営)を作っており、それ故に貧困層からの支持は厚い」
ヒズボラ - Wikipedia
ヒズボラはイスラエルに侵攻トンネルを掘削しており、ハマスにトンネル技術を教えたのも彼らだといわれています。
ハマスのテロの教師がヒズボラなのです。
「2018年、イスラエルは、ヒズボラがレバノンからイスラエル領内に向けて地下トンネルを掘っており、その破壊作戦を実施すると発表した。同年9月27日の国連総会において、ネタニヤフ・イスラエル首相は、イランの指揮下で、ヒズボラは低精度のミサイルを命中精度10m以内の高精度のミサイルに作り変える転換工場を、ベイルート国際空港の周辺3箇所に設けていると、衛星写真のパネルを提示して説明し、「ヒズボラに告ぐ。イスラエルはおまえたちが何を、何処でやっているのか、全て知っている。イスラエルはおまえたちの好きなようにはさせない。」と名指しで非難する演説を行っている」
Wikipedia
まだ小規模のロケット弾攻撃しかなされていませんが、戦況次第ではヒズボラが「第2の10月7日」を引き起こす可能性は充分にあります。
イスラエルは、10月7日以後直ちにレバノン南部に強力な軍を配備しています。
「レバノン国営通信(NNA)によると、レバノンとパレスチナの境界地帯にイスラエル軍が展開、厳戒態勢を敷いている。また、カタールメディアのアルジャジーラなどによると、10月10日にレバノン側からイスラエルに対し再度攻撃が行われたという」
レバノン南部でイスラム武装勢力とイスラエル軍の戦闘発生(レバノン、パレスチナ、イスラエル) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)
もしこのようなヒズボラのテロ攻撃があった場合、イスラエルはかつてのようにベイルートを攻撃し、レバノン南部を長期間にわたって保証占領するかもしれません。
ひさしぶりに朗報です。
ウクライナ戦線は膠着してしまうし、イスラエルはヤメロと言うのにやり過ぎるし、安倍派は自爆するし、ろくなことがないこの間でしたもんね。
懸案だったウクライナのEU加盟が大きく前進しました。
「EU=ヨーロッパ連合の加盟国は首脳会議を開き、ウクライナとの加盟交渉を始めることで合意しました。EUはロシアによる軍事侵攻が続くウクライナにEU加盟への道を開くことで、今後も支える姿勢を示した形です。
EUは14日ベルギーで首脳会議を開き、ウクライナとの加盟交渉を始めることで合意しました。
加盟交渉を始めるには全会一致の決定が必要で、首脳会議の直前までハンガリーのオルバン首相が「ウクライナはまだ前提条件を満たしていない」と述べるなど反対していました。
記者団の取材に応じたアイルランドのバラッカー首相によりますと、交渉開始の決定は、オルバン首相が一時的に会議場から退出し残る26か国の首脳によって決める異例の形で行われたということです」
(NHK12月15日)
EU首脳会議 ウクライナと加盟交渉開始で合意 ハンガリー首相は会議場から退出「この決定に加わりたくない」 | NHK | EU
「オルバン氏はその後、フェイスブックにビデオメッセージを投稿。「ウクライナのEU加盟は悪い決定だ。ハンガリーはこの悪い決定に参加したくないので、今日の決定から離れた」と述べ、他の首脳らから距離を置いた」
(BBC12月15日)
EU、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉開始へ ハンガリーは採決を棄権 - BBCニュース
なんでもズっと反対をしてきたハンガリー首相が今回もオレはハンタイだからねとうるさくいうので、議事の前にドイツ首相から「なら、出ていったら」と言われたのだそうです。
EU加盟動議に関しては、既存の加盟国は拒否権をもっています。
ちょうどNATOと同じで、スウエーデンとフィンランドの加盟にトルコ一国が拒否権を行使したためにエライことになったのと一緒です。
今回、ショルツドイツ首相が「ならば出なければ」といったのは、ただの厭味ではなくハンガリーが拒否権を行使することを恐れたからです。
すると、ほんとうに出ていっちゃったというお笑いの一席です。
オルバンが自分の口で、出て行ったと言っているのですからほんとうでしょう。
いっそEUやNATOからも出ていったほうがスッキリするんじゃないでしょうか。
いったん出ると、いかに集団的安全保障体制というものが安心・安全の要であるかしみじみするでしょうから。
ドイツはウクライナ支援で男気を見せています。
「ドイツのショルツ首相は13日、独連邦議会での演説で、ウクライナに対し、2024年に80億ユーロ(約1兆2500億円)の軍事支援をすることを明らかにした。独メディアによると、支援額は当初計画に比べて2倍の規模になるという」
(朝日12月14日)
ドイツ、ウクライナに1.2兆円 首相表明、軍事支援を倍増:朝日新聞デジタル (asahi.com)
そしてデンマークもドイツに追随して支援パッケージを作っています。
パチパチ、実は米国が共和党のうすらバカの反対のおかげでウクライナ支援予算が組めなくなって来年に持ち越し、プーチンはゲタゲタと下品に喜んでいたのです。
「ワシントン=坂本一之】米国のウクライナ軍事支援予算を巡るバイデン大統領と野党・共和党の攻防が激しさを増している。バイデン氏はウクライナのゼレンスキー大統領を米国に招いて追加予算の必要性を訴えたが、反対する共和党は強硬姿勢を崩していない。来年11月に大統領選や上下両院選を控える中、安易な妥協を有権者に露呈したくない双方の対立は着地点の見えない膠着(こうちゃく)状態が続く。
共和党はこれまで歳出抑制と不法移民対策の強化を強く求めていて、追加予算でも同じく主張。手厚いウクライナ支援に反発する世論を背景に強気の姿勢だ」
(産経12月13日)
米共和党、ウクライナ支援予算反対で態度硬化 世論の反発を背景に - 産経ニュース (sankei.com) 。
これを聞いて、プーチンが喜ぶまいことか。
これで終わりだ、ゼレンスキーよ、もう米国からは武器もカネも来ないぞ、ざまぁみろと演説しました。
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日の演説でウクライナをあざけり、西側の支援はもう限界だと主張した。「下品な言い方で申し訳ないが、ウクライナに持ち込まれる何もかも、おまけ、無料の景品みたいなものだ。しかし、もらえる景品もいつかは尽きるかもしれない。実際、徐々になくなりつつあるようだ」と、プーチン氏は語った」
(BBC前掲)
プーチンが下品なことを言うから、西側陣営はここでオレらヨーロッパ勢がウクライナを支えねば誰がやるという危機感をもったようです。
それがドイツの思い切った支援案でした。
かつてトランプはなにかといえば、NATOを敵視して「米国のカネと若者でお前らを守ってやっているのに、お前らヨーロッパはそれにただ乗りしていやがる」と毒づいていました。
当時のNATOやEUは仲良し学級委員会で、なんとなくかたまっていれば第5条(自動参戦条項)があるから安全だべぇと思っているフシがありましたが、ウクライナ戦争以降はシャッキリしました。
米国の安全は同盟国が守り、そして守られているのですが、こんな簡単な理がわからないのがトランプ御大でした。
安倍氏や補佐するポンペオなどががこまかくレッスンして破綻しないように指導しないと、危うく脱線するところでした。
しかし、いまも共和党トランプ一派は変わらずに同盟軽視です。
それはさておき、反攻作戦の不調で内憂外患状態だったゼレンスキーも、ひさしぶりに晴れやかな顔になっています。
EU、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉開始へ ハンガリーは採決を棄権 - BBCニュース
ゼレンスキーは、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ。動機を与え、活力を与え、強さを与える勝利だ」と述べましたが、実感でしょう。
そもそもロシアがウクライナの政治に介入し始めたきっかけは、EU加盟がきっかけでしたからね。
※追記
性悪のハンガリーがやはり拒否権を発動したようです。
「欧州連合(EU)首脳会議(サミット)は14日夜、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援について採決を行ったが、ハンガリーが拒否権を発動したため、否決された。サミットでは数時間前、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉開始が決まったばかりだった。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相はサミット後、「今夜の仕事の概要は、ウクライナへの追加資金を拒否したことだ」と述べた。
ウクライナは、ロシアとの戦争でEUとアメリカの資金に大きく依存しているが、追加支援の確保に苦慮している。
EU首脳らは、支援をめぐる交渉を年明けに再開するとしている」
ハンガリー、EUの対ウクライナ支援パッケージで拒否権発動 約7.8兆円 - BBCニュース
こういう事件が起きると、絶対にナニか言うと思っていた奴が、河野太郎氏です。
タローちゃんは、ちょっと期待する部分があったんですが、今回、こんなことを言っています。
「河野太郎デジタル相は10日のフジテレビ番組で、自民党安倍派の政治資金パーティー裏金問題を巡り「きちんとうみを出し切ることが大事だ」と述べた。同派幹部がパーティー券販売ノルマを超えた売り上げからキックバック(還流)を受けたとされる疑惑に関し「(政治資金収支報告書に)記載していないのは法律に違反する。申し開きできない」と指摘した。
自身が所属する麻生派の資金管理については「特に問題はないと聞いている」と説明。「国民の政治不信が高まる中、ルールに基づいて政治資金を取り扱うのは最低限のことだ」と語った」
(産経12月10日)
河野氏「うみ出し切れ」 自民安倍派の裏金問題 - 産経ニュース (sankei.com)
ウミを出し切れ、ですか。
たぶんこんなことを言えるのも、彼が属する麻生派がパーティ券の入金に際して議員別の売り上げ口座を作り、すべて銀行取引で記録を残す形で処理していたからだといわれていますが、まだわかりませんよ。
「お前が始めたんだろ」発言は真っ当なのか…河野太郎氏の言い分を検証した マイナ制度のトラブル批判に反論:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
一般論ならともかく、今年に入って2回も解散しそこなった岸田内閣の閣僚が言うこっちゃないやね。
自民党は全身「ウミ」だらけでしょう。
ほとんど中国のエージェントのような議員もいたし、韓国の意向を忖度することが仕事のような人もいましたね。
かつては北朝鮮から金塊をもらって帰国したという金丸のような人もいましたっけね。
こういう人らは、スパイ防止法が検討されるたびに潰しにかかっていました。
国外に限らず、国内のもろもろの団体から資金を提供されて、ロビイストになっている議員などたくさんいます。
タローちゃんが深く関わっている再エネ関係などまさに利権の巣窟で、風力発電汚職で舎弟の秋本真利が逮捕されましたが、タローちゃんは知らんぷりです。
いいんでしょうか、秋本案件などまさにドンピシャの利益供与ですが。
たぶん太陽光や風力にまつわる利権は根深いはずですので、ぜひ「ウミを出し切って」ほしいものです。
自分の中国ビジネスについても、ウミを出し切ってから言って下さい。
繰り返しますが、この事件ってそんなに騒ぐことなの。
「政治とカネ」といっても、かつての角栄さんが河川敷で何億ものカネをもらったの、ロッキードに有利に進める見返りでピーナッツを何粒たべたのという時代ではありません。
料亭の黒塀の裏で、業者に酌をさせながら小判入り菓子折りを貰って帰るなんていう牧歌的金権時代はとっくに終わっています。
今回の問題でひとり1000万なんて聞くと、こりゃ濡れ手に粟だと一般国民は感じるわけですが、月にすれば百数十万です。
こんな程度の額で政治生命をかけるわきゃないしょ。
政治家はもうからない商売です。
議員の歳費では、東京と地元の議員事務所、スタッフを維持するのにやっと。
議員にとって大事なのは地元の事務所で、ここがしっかりしていないと後援会も維持できませんし、選挙区の陳情にも対応できません。
そのうえどんどんと合区が進んで選挙区が広くなる一方ですから、選挙区に複数の事務所を持つ議員は珍しくありません。
となると、それに合わせて多くの私設秘書も入り用です。
後援会の会報だけで、一部当たり切手代も入れれば約100円、それを当選に必要な一選挙区の票数3万人に配れば、これだけで300万。
これらのコストは純然と議員負担であって、とてもじゃないが私腹を肥やすどころか、議員の個々の持ち出しとなっています。
タローちゃんがウミを出し切れなんてキレイゴトを言えるのは、彼が先祖代々の「ジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)」があるからです。
だから派閥からの支援がなければ議員活動が成立しないために、政治資金パーティーを開いて集金し、議員に配るわけです。
ここまではなんの違法性もありません。
パーティ券の売り上げがノルマ以上になったから、議員に還元しようとどうしようとこれも問題ありません。
昨日も書きましたが、そもそも政治資金を集めるためにやっているパーティーなんですから。
問題があるとすれば、その還元分が政治資金収支報告に記載されていないことと、議員が私的に流用した場合です。
後者がでてくればアウトですが、前者の場合、個人の議員にどこまで責任があるかです。
だってこれは派閥側の会計処理の責任であって、個人の議員は慣例に従っていただけですから。
もちろん収支報告書無記載は罰則対象ですが、そこに悪質性があるかどうか、金額的にそこまで突っ込める事案なのかといえば、どうなんでしょうか。
私は首相候補に擬されているような政治家が揃って政治生命を失うようなことではないと思います。
それでもなおかつタローちゃんが言うように「ウミを出し切る」のが大事だというなら、再エネ利権のウミを出し切ってから言いなさい。
私の関心がガザに行っている間に、くだらないことが国内政治で起きているようです。
なんでも、政治パーティ収益のうちノルマ超過分が議員にキックバックされていて、それが政治資金収支報告書に報告されていなかったんですと。
閣僚と党執行部から安倍派を一掃したようです。
スゴイね、電光石火。
こういう時はいつもは決められない岸田さんが、人が替わったように迅速です。
「首相が安倍派所属の閣僚、副大臣、政務官全員を交代させる意向を固めた。松野博一官房長官が1千万円の裏金を受け取っていた疑いが浮上し、更迭必至とみられていたが、その後、「5人衆」と言われる松野氏を含む同派幹部全員や、その他の所属議員に疑惑が拡大。もはや派閥全体を切り離さなければ収拾できないという判断だろう。
安倍派出身の閣僚は4人、副大臣は5人、政務官は6人。通常の組閣や内閣改造以外で、これほど多くが一斉に政府を去るのは異常事態である。任命した首相の責任は極めて重い」
(朝日社説 2023年12月12日)
(社説)安倍派一掃 切って終わりではない:朝日新聞デジタル (asahi.com)
はい、朝日さんの言うように「首相の責任は重い」ですね。
ただし、自民党総裁でありながら安倍派を楯に使ってトカゲのシッポ切りを図ろうとしたことに対する「責任」ですけど。
要はこのパー券問題、政治資金報告書不記載、あるいはデカくとっても虚偽記載ていどの話じゃありませんか。
事務処理のミスにすぎないことを、どうして「裏金」と言い切ってしまうのか、そちらのほうがわかりません。
だって裏金にしていたかどうかなんては、今後の調査によらねばわからないわけで、初めからなにか後ろめたいことがあって裏金にしていたような言い方です。
このカネが、政治的便宜供与のために議員に渡したというならリッパな収賄ですが、このパーティーって政治資金パーティと名付けられているように、派閥が資金を集めるために支持者らを集めて開くものですから、議員にカネが渡すこと自体が目的です。
初めから議員に使って欲しいために開くパーティーで集めたカネの一部が、議員に渡ってなにか不都合があるのでしょうか。
それが仮に「裏金」に、つまりは非常時に緊急に使われる不透明な資金になったとしても、だからなに?
そもそも政治ってそんなにクリーンなもんだったの、「裏金」を一銭も持たないほうがいいの、と言いたくなります。
政治資金なんじゃら報告書に記載されていなかったのなら、派閥の事務方が修正報告すれば済むことで、官房長官以下内閣の重鎮らが打ち首獄門されるようなことではありません。
清和会の場合、惰性で政治資金報告書に記載しないで、議員に対して、ノルマ分以上の売り上げを還付していたようです。
そしてそれを派閥の収支報告書に記載していないので、その整合性をつけるために議員にも記載しないように指示していたということです。
しかし、2021年に首相を辞めた安倍氏が派閥に復帰し、その事実を知って怒ったという報道もあります。
そして安倍氏は「適正に処理するように」指示しました。
ですから、今回出てきたのは、それ以前のものです。
「関係者に取材すると、細田博之前衆院議長がトップだった細田派時代(2014~21年)、現金で還流した分を政治資金収支報告書にどう記載するかについて、派として統一方針が提示されることはなかったという。
派内からは「このままでいいのか」と疑問の声が上がっていたが、細田氏側からは明確な指示は示されなかった。
安倍元首相が21年11月に初めて派閥会長となった後、翌年2月にその状況を知り、「このような方法は問題だ。ただちに直せ」と会計責任者を叱責、2カ月後に改めて事務総長らにクギを刺したという。
22年5月のパーティーではその方針が反映されたものの、2カ月後、安倍氏は凶弾に倒れ、改善されないまま現在に至ったようだ」
(岩田明子 さくらリポート)
安倍元首相は激怒、会計責任者に「ただちに直せ」自民パー券疑惑、岩田明子氏が緊急取材「裏金」は細田派時代の悪習だった(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース
私は、こういう政治における青臭い「正義」がそうとうに嫌いです。
メディアのコメンテーターの皆さんのご意見を聞いていると、国民の政治不信が拡がるなんていう人がいますが、ウソコケってなもんです。
今どきそんなウブな国民がいません。
政治資金規制法がザル法だというのは、国民に知れ渡っていることですし、そんなに社会隅々までクリーンな社会がお好きですか。
私はイヤダな。
多少腐っている部分もある自由な社会のほうがいい。
法に抵触したからといって、その軽重を問わず官房長官、政調会長といった政権の重鎮を追放しましたが、その中には西村氏や萩生田氏のような首相候補も含まれています。
岸田さんが、来年の総裁選の前に対抗馬を消しておきたかった、なんて下世話なことを言われてもしかたがありません。
こういう行為を陶片追放(オストラシズム)といいます。
前6世紀頃のギリシャで行われた権力者追放の仕組みですが、陶器のかけらで追放の決をとったので陶片追放と言います。
気に食わない権力者を政治的に抹殺する「民主的方法」ということになっていますが、かぎりなく村八分に酷似しています。
使われた追放者名が書かれた陶片(オストラコン)。6千集まると国外追放された。前回アップした絵は正確ではないので差し替えました。
http://415100.blog50.fc2.com/blog-entry-1774.html
現代で陶片追放に似た方法をとれば、法的に瑕疵があろうとなかろうと、司法が判断する以前に結論が出せてしまうというまことに便利にしてお手軽な、疑似直接民主主義です。
今回は、この陶片追放の指揮をとったのが、こともあろうに首相でした。
一気に政権を担う重要政治家を5人打ち首にしたのですから、そうとうなもんです。
古代ギリシャはこれで有能な政治家を追放しまくったために、衆愚政治に陥り、やがてアテナイ自身の衰退を招くことになります。
告発したのは共産党系の大学教員ですが、おそらくは元ネタは財務省筋のリークでしょう。
仮に財務省が漏洩したなら、財務省の意図が見えすぎています。
安倍派潰し以外なにが目的にあるのでしょうか。
そういえば故安倍氏は、財務省にとって最大の敵でしたっけね。
岸田派の政治的思惑があったのは否定するほうが難しいでしょう。
私は安倍派は故安倍氏の遺志を継承しているとは思っていないので、常々解体するならしてしまえと常々思っているのですが、こういうわけのわからない解体され方では困ります。
朝日は嬉しげに、安倍派だけでは終わらないぞ、と書いています。
「それにしても、首相には、安倍派だけの問題だという確信があるのだろうか。政治資金パーティーをめぐり、政治資金収支報告書の不記載・虚偽記載の疑いで刑事告発されているのは、安倍派を含む5派閥である。ノルマ以上のパーティー券を売った所属議員へのキックバックは、他の派閥でも取りざたされている」
(朝日前掲)
そのとおり、たぶん他の派閥も間違いなく同じようなことをしているはずで、県連単位でもパーティはやっていますから岸田派だって無事で済むはずがありません。
あ、法の番人たる小泉法相もやっチャイましたね。
「小泉龍司法相は12日の参院法務委員会で、所属する自民党二階派の政治資金パーティーを巡り「パーティー券に一定の目安があり、派閥から、それを超えた分に見合う支出は受け取っている」と述べた。ノルマを超えたキックバック(還流)の受領を認める趣旨の発言。政治資金収支報告書には「記載している」と説明した」
小泉龍司法相、還流受領認める パーティー券、報告書記載と説明(共同通信) - Yahoo!ニュース
小泉法相は二階派ですが、知りませんよ岸田さん、あなたのところで出たらどうするんです。
問答無用、即刻打ち首獄門でしょうか。
しなかったら他派閥からナンといわれることやら。
他派閥でも「裏金」はあると、産経はこのように報じています。
産経
「自民党の派閥のパーティーを巡り、最大派閥・安倍派(清和政策研究会)を除く主要4派閥がパーティー券の販売ノルマを超過した分に応じて5年間で10億円弱を所属議員の2~7割にキックバック(還流)していたと推計されることが11日、政治資金収支報告書の分析で分かった。 (略)
各派から所属議員の関連団体に支出された寄付金のうち、金額も時期も毎年一定のいわゆる夏の「氷代」、冬の「モチ代」は除外した上で、パーティー開催後、数カ月以内に関連団体ごとに異なる金額で一斉に支出されたものを議員側への還流分と推計、算出した。
これによると、麻生派は所属議員の4~7割、茂木派は2~3割、岸田派は3~5割、二階派は5~7割の関連団体に、それぞれ還流分とみられる支出を記載。総額は5年間で約9億9千万円に上った。同時期の安倍派を除く主要4派閥のパーティー収入は総額40億2953万円で、パーティー収入の約4分の1が還流されたとみられる計算になる。一方、安倍派の収支報告書には氷代、モチ代の記載はあったが、還流分とみられる記載はなかった。 」
(産経12月12日)
<独自>安倍派、数十人が不記載か パーティー収入、他派閥は2~7割還流記載(産経新聞) - Yahoo!ニュース
わ、はは、他派閥も同じじゃないですか。
岸田さん、ワイドショー世論に押されて瞬時に安倍派を5人切ったで、幕引きだと思ったら大間違い。
今後ドンドン出るでしょう。
そして、たぶん似たようなことは野党もやっているでしょうね。
得意のブーメラン劇をまた見られることでしょう。
こんなことでミソつける方もつける方ですが、囃す方も囃す方、そしてなにより岸田さんの致命的結果の危機に際してひ弱な体質がまたもやむき出しになりました。
岸田氏が一番恐れているのは、ワイドショーなのです。
ワイドショーで叩かれたくない、メディアに磔にされたくない、ボクはクリーンで善人のリベラルなんだ、叩くなら右翼の安倍派を叩けよ、と声を枯らしたいのかもしれませんね。
例の旧統一教会問題でも、ワイドショーで騒がれるや、持ちこたえられず、少しでも政治家の側に接点があれば大問題にしてしまいました。
あんなことは、政治家は呼ばれればどこにでも行きます、で終わりにすればいいことでしたが、自分で大騒ぎしたあげくとうとう解散請求という憲法の根幹にふれる大問題にまで発展させてしまいました。
これこそ安倍氏暗殺犯が狙っていた目的でしたから、政府がテロリストに屈したのです。
このほうが政治資金なんじゃら法よりよほど重大です。
最大多数派の安倍派を完全に敵にまわしてしまった以上、よもや岸田氏は政権運営や総裁選で安倍派の支持をえられるなんて楽天こいてはいないでしょうね。
岸田さんは、党内最大派閥を党内野党にしてしまったツケを、支持率20%台で引き受けねばならなくなります。
そうそう、立憲が内閣不信任を出すそうですが、いつもはただのやってる感を支持者に見せるだけのくだらないセレモニーにすぎませんが、今回はわかりませんよ。安倍派が賛成票投じてしまうという可能性がありますもんね。
閣僚ポストや執行部に人質にとられていたらなにもできませんが、なんせ全員そろってクビですからね、党議拘束がかかろうとなんの義理もありませやね。
なんならいっそ全員離党しますか。
充分に野党第1党になるだけの力量がありますし、国民や維新と組んで連合政権を作ってもいいでしょう。
ま、ほんとうにケンカに弱い人を首相にしてはいけません。
この人、やっぱり外相までの人だったようです。
今日は少し気楽に。
ユダヤ民族について少し考えてみます。
まず、ユダヤ教徒というのは「ユダヤ人」ということを指します。
したがって、イスラエル国籍とは関係なく、血統的に母親がユダヤ人であることを求められます。
キャッツ邦子さんという日系ユダヤ人女性の、『スカースデール村から』というブログを参考にしていくことにします。
ユダヤ教に改宗するまで (scarsdalemura-kara.com)
彼女はユダヤ人男性と結婚したのですが、彼女はアメリカ人と結婚したという意識であって、ユダヤ人と結婚したという意味をあまり考えていなかったようです。
子供が生れるまで四季折々のユダヤ教の儀式には参加していましたが、あまり関心がなかったそうです。
その夫が子供が生れて、3歳になった時とつぜん、「やっぱりユダヤ人のアイディンティティを教えないといかん」と言い出しました。
さてここからが、大変な道のりでした。
スカースデール村に越したことを機に、その土地のユダヤ教会(シナゴーグ)に行こうとするのですが、なんと2つの教会から拒否されてしまいます。
その理由は、「非教徒の母親から生まれた子供たちはユダヤ人ではないという理由」だったそうです。
はい、出てきました。これがユダヤ教の大原則のひとつである、「母親がユダヤ人でなければ、ユダヤ人とは呼ばない」です。
ユダヤ教はかつては異教徒と結婚すると、勘当した時代があったそうです。
それもただ出て行けではなく、葬式まで出して死んだと思うということまでしたのですからハンパないですね。
これには理由があります。
2000年前、ユダヤ民族はディアスポラとして父祖の地を追われ、諸国に離散していきました。
ディアスポラ - Wikipedia
ディアスポラとは「まき散らされた種」というヘブライ語ですが、現代の難民と違うのは故郷の地に二度と戻れない境涯になったということです。
ユダヤ民族の故郷の地とは、ユダヤ人が「カナン」と呼んだパレスチナです。
パレスチナ - Wikipedia
この地に戻り再び離散したユダヤ民族が集まって、国家を作ろうとする運動のことをシオニズム運動といいます。
シオニズム - Wikipedia
いうまでもなく、その闘争の結果生れたユダヤ人国家が、今のイスラエルです。
これを潰そうとする周囲のアラブ諸国との戦争が延々と続き、その和平の道として生れたのがオスロ合意です。
さて離散したユダヤ民族は西欧、東欧を中心にして定住していき、そこでユダヤ・コミュニティを作っていくわけですが、その結束の中心となったのがユダヤ教でした。
ユダヤ教 - Wikipedia
ユダヤ教はアブラハム(ユダヤ民族の始祖)の宗教として、キリスト教と同じルーツをもちますが、大きな違いは、ユダヤ教には「布教」あるいは「宣教」という概念自体がないことです。
ちなみに、同一のルーツからいちばん遅く分離したのが、イスラム教です。これも説明しだすと長くなるので省きます。
日本は男系社会ですが、ユダヤ民族は完全な女系主義です。
これも、ユダヤ民族の血脈を絶やさないという意味があったようです。
ニューヨークのシナゴーグ
ですから、子供が生れてその子供をユダヤ教会に入れようとしたキャッツ邦子さんは、思いもしなかった壁にぶつかることになります。
まず訪れたのが保守派の教会でしたが、あっさりと拒否されます。
「子供が生まれる前に改宗をしなかった私が保守派の教会を訪ねたことは明らかに私たちの勉強不足でしたが、密かに子供たちをユダヤ系アメリカ人に育てるための環境作りに尽力していると自負していた当時の私にとってかくもあっさりと断られたことはショッキングな出来事ではありました」
(前掲)
母親がユダヤ人でないとユダヤ教徒にはなれない、逆に言えば母親がユダヤ人ならば父親が他宗派でも子供はユダヤ人とみなされるというわけです。
日本国籍の血統主義の女系版だと思うと分かりやすいでしょう。
ただし、改革派教会はもう少し柔軟な対応をしてくれました。
「次は改革派の教会へ行ったところ、ここでは両親の一方がユダヤ人で家庭でユダヤの習慣を取り入れているのであればもちろん子供はユダヤ人と言われ、大手をあげて歓迎されました。それ以来我が家はこの教会のメンバーとなり、子供たちは13歳の成人の祝い(バル・ミツバとバット・ミツバ)もここで受け、高校を卒業するまでユダヤ教を勉強しました」
(前掲)
子供たちを立派な「ユダヤ人」として育てた彼女は、子供を送り出して夫ふたりの食事をしている時に、こう言います。
「安息日の準備など既に私の生活の一部になっていることに気づいたのです。子供たちのためと思っていた様々なユダヤ教の習慣が今ではいつの間にか自分のものになっていたのでした。夫と結婚して既に26年が経っていましたが、改宗する時が来たと思いました。
『あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です』、」ある安息日の夜二人で食事をしているとき私は笑いながらルツ記の一部を夫に暗誦してみせました。(略)
夫は突然のことで何のことか分からず、怪訝そうにしていましたので、「改宗することにしたのよ。」と言ったら、「え、君はまだユダヤ人じゃなかったけ?」と驚き、しばらくして「ようこそ!」と嬉しそうに叫びました。
それからラビと相談してあらためて改宗のための勉強をして、教会での式では夫や子供たちだけでなく、教会のメンバーにも祝ってもらいました」
いい話です。夫婦愛と子供への思いが26年たって、ようやく彼女をひとりの「ユダヤ教徒」にしたのです。
このように他宗派はその宗教に信仰を持って、その教えどおりに生活を送れば改宗できますが、ユダヤ教だけは血統主義なので、そうとうにハードルが高いと思います。
やるとすれば、ユダヤ教徒の女性と結婚し、子供をユダヤ教徒として育ててユダヤ教の戒律を守り、よきユダヤ人となったことを周囲のユダヤ人から認められれば可能かもしれません。
しかし男性の場合、もうひとつの「正式なプロセス」である宗教儀礼を受ける必要があります。
これもがなんとあの割礼です。そう、割礼は男性器の包皮を切り取る儀式のことです。 ゾゾっ。
他宗派にはばかげてみえますが(※)、ユダヤ民族の始祖であるアブラハムとの契約として定められている重要な儀式です。
※ムスリムにも割礼の儀式はあります。
米国においてはユダヤ教への改宗者はかなりいますが、キャッツ邦子さんのようにいずれも夫がユダヤ教徒、つまりはユダヤ人であるケースです。
日本にも改宗者はいますが、こちらもほぼすべて夫がユダヤ人です。
たまにユダヤ教に関心をもってなりたいという人もいるようですが、ラビに相談すると大方「止めなさい」と言われるようです。
グテーレスが出した停戦案が安保理で否決されました。
米国が拒否権を発動したためです。
「即時停戦を求める決議案は、UAE(非常任理事国)がアラブ諸国を代表する形で作成し、パレスチナ自治政府の国連代表が、15の理事国それぞれに送付するという流れであった。このため、決議案は、明らかにアラブ諸国の意向のみが反映するものであり、10月7日にイスラエルで行われた大虐殺への非難が含まれていなかった。
イスラエルは、10月7日の残虐性が想像できないレベルであったことや、死者1万7000人のうち、民間人がどのぐらい含まれているのか、明確ではないと訴えている。少なくとも5000人は武装ハマスであること。また1000人は、10月7日にイスラエル領内へ侵入していて殺されたテロリストであると主張した。
しかし、8日の投票で、これに反対票を投じたのはアメリカ1国のみ。日本を含む13カ国がこれに賛成票を投じた。イギリスは、ハマスへの非難が含まれていないことをあげ、棄権票を投じた」
国連安保理で即時停戦決議:アメリカ1国のみ反対・拒否権発動で否決 2023.12.9 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
米国、ガザ地区の即時停戦を求める国連安保理決議に拒否権を発動 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
これで、イスラエル-ハマス戦争の政治的解決は不可能となりました。
ハマスという狂信者らはガザ市民を人間の楯にし、彼らに殉教を求めている以上、妥協することはないでしょう。
イスラエルもハマスの完全殲滅まで突き進むつもりのようです。
結局ガザ市民は、後ろからはハマスに銃を突きつけられ、前からはイスラエル軍が撃ってくるという十字砲火の状態に追い込まれています。
「パレスチナ人は、必死のハマスと断固たるイスラエル軍の中間で、十字砲火を浴びている。現在の危機に対するいかなる解決策においても、パレスチナ人を意思決定の中心に置かなければならない。パレスチナ人には、被害者の立場を抜け出し自分たちの人生の設計者になる機会が与えられなければならない」という、ジョン・フェッファー(John Feffer)米外交政策フォーカス所長が述べている」
[寄稿]ガザ地区の惨状 : 社説・コラム : hankyoreh japan (hani.co.kr)
唯一の政治的解決はガザ市民が生存のために立ち上がることですが、率直に言って絶望的です。
ガザで市民がハマス、あるいは「国連」に異議を唱えることは、即座に死を意味するからです。
したがって今や焦点は、いつ終わるかではなく、戦争が終了した後の戦後処理に移っています。
米国はここに至っても世界からの孤立を恐れずイスラエルを唯一支える友好国です。
しかしそれは今の段階までで、戦後処理をどうするかについては、ブリンケン国務長官自身も、イスラエルと意見が違っていることを認めています。
米国はオスロ合意以降、一貫してパレスチナ自治政府が主体となって、ガザを管理すべきだとしています。
この延長で、戦後も自治政府が治安維持を担うべきだというのが、米国の考えです。
建前としては正しいものの、自治政府は倒壊しかかって看板だけ残っているアバラ屋であって、実態がありません。
治安維持(恐怖政治の別名ですが)はハマスが握っており、自治政府に任せるということはハマスに任せると同義語です。
そもそも自治政府はハマスの存在を容認しています。
内ゲバでファタハが負けただけで、自治政府の閣僚にはシュタイエ首相以下多くのハマス政治部が絡んでいるのは公然の秘密です。
ハマスを切除することは、自治政府にできません。
ですから自治政府は、将来のガザの管理にハマスも含まれることを米国との当然の前提にしています。
これではイスラエルにとって、将来のテロの温床を温存するようなもので、とても受け入れられるものではありません。
だからイスラエルが治安管理の責任を負うというのがネタニヤフの言い分ですが、これを認めると恒久的な軍事占領につながりかねません。
イスラエルの宗教右派は、ガザの属領化を目指していますから、とうぜんその腹でしょう。
ブリンケンはこの部分をあいまいにしたまま自治政府やイスラエルと交渉をしているようですが、これでは両者が納得するはずがありません。
このようなことになるのは、米民主党政権の中東政策がパレスチナ自治政府内のハマスや、その後ろ楯であるイランに対してはっきりとした姿勢を持たないからです。
米国は倦むことなく中東の安定化に尽力しており、それが結実したのがトランプ時代のアブラハム合意でした。
アブラハム合意は中東和平の合意であると同時に、イラン包囲網の形成でした。
イスラエルとアラブ首長国連邦が国交正常化に合意し、それにバーレーンも加わり、これをエジプトも歓迎し、ヨルダンも平和交渉の前進につながると発表しました。
このアブラハム合意とオスロ合意の大きな違いはイスラエルとパレスチナとの合意を拡大して、イスラエルとサウジやUEAなどの湾岸諸国との経済や社会交流を通した包括的友好関係を進めるとしたことでした。
これは脱産油国を目指すムハンマド皇太子が率いるサウジにとって、世界屈指の技術大国であり、金融にも強いイスラエルとの共存は願ったり叶ったりだったようです。
そしてイランが背後にいるフーシ派のテロ攻撃に手を焼いているサウジにとって、イランを厳しい包囲下に置くことになんの依存もなかったはずでした。
そしてもうひとつのオスロ合意との違いは西岸問題でした。
まず2017年12月、トランプはエルサレムをイスラエルの首都として認めると発表し、さらに19年11月には、イスラエルの占領地区の入植地を国際法違反とは認めない、と方針転換しました。
そして20年1月29日、満を持して中東和平案を発表しましたが、その骨子としてパレスチナを独立国家として承認する一方、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地でイスラエルの主権を認め、エルサレムをイスラエルの首都として認める、というものでした。
世界が注目! サウジアラビアで頭角を現す、若き皇太子の素顔 | Business Insider Japan
トランプは当時こう述べていました。
「今日、イスラエルは平和に向けて大きく一歩前進した。私のビジョンは、両者にとってウィンウィンとなるものだ。パレスチナ国家が成立してもイスラエルの安全を脅かさないようにする、現実的な二国家共存策だ」
(BBC 2020年1月29日)
後にバイデンがこの合意を反故にすることでわかるのですが、実に巧妙に考えられた合意案でした。
これをパレスチナ自治政府のアッバスが呑めば、パレスチナ紛争は終わり、自動的にイランからサウジまでを支配してきた「パレスチナの大義」の旗印は事実上消滅してしまいます。
ちなみに「パレスチナの大義」とは、イスラエルの完全否認であり、ユダヤ人を海に追い落とすまで永遠に戦い続けるという意味で、ハマスはこれを忠実に実行しています。
この非現実的が故にウルトラ過激な「パレスチナの大義」幻想は、イランによって温存され、その手先のハマスはロケット弾テロを飽きずに繰り返しています。
そしてなにか合意がまとまりそうになると、イランから武器と資金をもらったハマスが、エルサレムや西岸で無差別テロを行い、それに対してイスラエル軍が報復し、時には侵攻するというパターンが飽きずに演じられます。
西岸の隔離壁もこの産物でした。
このように見てくると、イランを徹底的に封じ込めねばパレスチナ問題の解決はないということがわかります。
しかしトランプに2期目は訪れず、替わったバイデン政権によってイラン融和政策である核合意が再建されてしまい、イスラエルに対してのテロ攻撃が激化していくことになります。
ブリンケンはこのハマステロ以降、精力的に中東を歴訪していますし、パレスチナ自治政府のアッバスにもなんどとなく「イスラエルと独立したパレスチナ国家が平和的に共存する「2国家解決」の支持を表明」(朝日2023年 2月1日)しています。
しかしブリンケンは、パレスチナとイスラエルの二国間だけでこの問題を解決できると本気で思っているのでしょうか。
ひどく遠いことのような気がしますが、実際に2014年を最期に交渉は途絶えており、今回のハマスのテロで解決は絶望的となってしまいました。
迂遠な道ですが、西岸問題に辿りつくには、もう一回アブラハム合意をビルドアップするしかありません。
そしてその中で、今回のハマスのテロを知りながら防げなかったネタニヤフ率いる右派政権を厳しく追及し、政権から引きずり降ろすしかないでしょう。
それが可能かどうかについて、私はなんとも言えません。
常連コメンターのふゆみさんからこんなコメントを頂いております。
「ハマスを裁くべきはガザ難民であるという意見があるならば、より生存権を保証された中で、西岸地区への入植者を引き上げさせるべきはイスラエル国民であるとも言うべきだと私は考えます。
裁判所が裁定を下したとか、それを覆す政府にデモをしているとかでなく、入植者を直接非難できない国内情勢があるならば、その原因は何なのか。イスラエル国民自身が見つめなくてはならないでしょう」
脱稿後に新しいふゆみさんの投稿を拝見しました。
100%私の気持ちと一緒です。
もう見たくないと思いながら、毎日書いている私です。
ただし仰せのとおり、イスラエルが西岸からの撤退するべきなことはそのとおりですが、ではそれが可能でしょうか。
今、イスラエルは圧倒的に戦闘では勝っているのですよ。
勝利しつつある国が、その遠因に胸に手を当てて自分の国の国内政治の間違いに気がつくとは思えません。
むしろさっそくにでも考えねばならないのは、ネタニヤフを戦後処理において戦勝内閣気分にさせないことです。
彼らがやろうとしているガザの軍事占領の恒久化を阻止せねば、永久にパレスチナ問題は解決されません。
これを阻まないことには、西岸問題自体が俎上に乗りません。
イスラエルリベラル勢力が、ガザの軍事支配放棄と西岸問題を一気に片づけられる力があるとは思えません。
ふゆみさんがおっしゃるイスラエル側の問題を併記したというのは理解できますが、今そこまで突っ込むことは不可能だと思います。
むしろ順番としては、ガザからの早期撤退と復興計画に重点を置いた方がいいように思えます。
これだけでもうんざりするほど大きな課題ですから。
ところで、西岸問題はイスラエルの宿痾でした。
15万人と呼ばれるイスラエルの入植者の多くは農業を営んでおり、入植から既に30年以上経過し根が生えてしまっています。
彼らはパレスチナ側からみれば「侵略者」ですが、入植者からみれば手つかずの荒野を切り開いたたとのどこが悪いということになります。
ですから、イスラエルに対して「新たな」入植の禁止はありえても、既存の入植者の撤収はかぎりなく難しいのは事実です。
上の写真で丘の上にあるのがイスラエルの入植者集落で、谷に向けてパレスチナ人の集落が広がっています。
2002年以降、頻発するテロに手を焼いて、イスラエル領土と西岸の間に巨大な隔離壁が建設しました。
そしてその隔離壁は徐々に延長され、1949年の停戦ラインを超えてイスラエル人専用の道路や入植地とつながり、 パレスチナ自治区を飛び地状態にしている地域すらあります。
西岸問題を農業の視点で詳細にレポートしたものとしては、下記のものがありますので参考にしてください。
●参考資料
世界の農業農村開発67号-REPORT & NETWORK 土地と水を巡る紛争 ~イスラエル占領下のパレスチナの農業~ (jiid.or.jp)
なおこの分離壁については、国際司法裁判所からイスラエルの違法の裁定がでています。
「イスラエルがヨルダン川西岸パレスチナ占領地で建設を進めている分離壁について、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ、ICJ)は9日、「占領地での分離壁建設は違法にあたり、中止・撤去すべきだ」との勧告的意見を言い渡した。パレスチナ人に対する補償措置も求めるなど、イスラエル側の「全面敗訴」といえる内容だ」
(2007年1月12日)
asahi.com : ニュース特集
また、イスラエル最高裁も分離壁に関係する土地収用を違法としています。
「イスラエルがパレスチナ人の土地を強制収用して分離壁を建設することが妥当かどうかが争われた裁判で、イスラエル最高裁は30日、収用決定の一部を取り消し、建設ルートの再考を政府と軍に命じた。ルートを決めるにあたってパレスチナ人住民への人道上の配慮が不足しており、違法と認定した。モファズ国防相は同日、これを受け入れると語った。
イスラエル政府の分離壁計画責任者によると、これまでに分離壁をめぐる係争は40件近くあったが、収用決定が取り消されたのは初めて。最高裁は「通行ゲートの設置などでパレスチナ人にも配慮している」という政府の主張を明確に否定したうえで「ルートを変更することで安全の程度が下がるとしても、人道配慮のためには甘受すべきだ」とも指摘した」
(朝日。
asahi.com : ニュース特集
現実に西岸で深刻なのは水争いです。
イスラエルが進める果樹栽培は、水資源を多用し、灌漑などの方法で水を独占するために、パレスチナ側には水が来ない時期すらあるようです。
西岸問題とは、宗教対立ではなく水利権の問題なのです。
イスラエルは水を必要とする果樹栽培が主であり、パレスチナ側は放牧とオリーブ栽培です。
そのために放牧可能地域は年を追うごとに減少しています。
一方、イスラエル入植者からみれば、パレスチナ人がする放牧などは土地を荒廃させるだけで有効な土地利用とはいえない、オレたちがこの土地を肥やしているのだという意識があるのかもしれません。
そして西岸から撤退しろといわれても数十年にわたって整えてきた農業基盤を捨てることはありえない選択です。
このように西岸問題は、複雑に問題が入り組んでおり軍隊と違って、水利権に深く関わる農業というもっとも動かすのが難しいのが対象なのです。
ご承知のように、西岸は1993年9月のオスロ合意でパレスチナ自治政府に帰属することで合意されています。
同時にこのオスロ合意は西岸からのイスラエル軍の撤退、ガザ地区からの撤退、パレスチナ自治政府の承認にも合意しています。
一瞬でも「二国共存」という道筋が見えた時期でした。
しかしイスラエル社会には、宗教右派を中心としてヨルダン川西岸のできるだけ多くの土地を併合したいと考える人々が多く存在します。
彼らは入植者と違って農業とは関係なく、宗教的信念でモノを考えています。
宗教右派はこのような聖書の一句を文字どおり解釈しています。
「主はアブラムに仰せられた。『さあ、目を上げて、あなたがいる所から北と南、東と西を見渡しなさい。わたしは、あなたが見渡しているこの地全部を、永久にあなたとあなたの子孫とに与えよう。』」
(創世13:14-15)
これが「神が与えたもうたカナンの土地」という聖書的約束ですが、ここには西岸のみならずガザ地区も含まれています。
頑迷な彼らがこの考えを修正するのは戦争で負けるか、選挙において反右派が過半数を握るかしかありません。
※後半は別テーマなので明日にまわしました。
11月19日に、ユニークなコメンターであるアホンダラさんがこんなことを投稿してくれました。
「それに民間人(ここではガザ市民)にも、「テロリストに少しでもかかわっていると、白黒関係ナシに攻撃されてしまう、テロリストは追い出せ!奴らは死神だ、失せろ!」というような、自らぜひマトモな新自治政府を作ろうとする気概が生まれやしないかと想像するからです。
カタギを平気で射殺するような日本で一番凶悪といわれた九州の暴力団K会が弱体化していくキッカケは、公権力もさることながら、カタギ衆が危険にさらされてもテッテ的にミカジメ料などの支払いを拒否して関係を断ったからですわ。
関係したテロリストトップ層の斬首作戦はもちろんとして、民間人を盾にしたところで屍越えて地の果てまでテロリストを追い詰めていくという先例を一度作ってしまえば、ワザワザ足手まといになる民間人を盾にするという作戦は廃れてしまうハズですわ。世界中の甘っちょろい世論を黙らせてしまうような、民間人を盾にして自分達は生き残ろうとする無慈悲で残酷なテロ犯罪者丸出しのハマスの決定的な証拠を掴むまで作戦を継続させて欲しいですわ」
このコメントにはずっと心に残り続けましたが、どこかで返事を書かねばと思いつつここまで来てしまいました。すいません。
仰せのことはたいへんよくわかります。
たぶんイスラエルは今でもそう考えていることでしょう。
ハマスを今、徹底的に叩かねばハマスは人間の楯を止めない、したがってガザ市民は救われない、と。
いまやある意味、問題は「ガザ住民」に移っています。
彼らがただただ追い詰められる家畜のような存在なのか、人間としてもうたくさんだ、死体はもう見たくない、これ以上家族が死ぬのを見たくない、家が焼かれるのを見たくない、と「誰に向かって」叫ぶかです。
今までのようにイスラエルに対して言ったとて、彼らは考えを変えないでしょう。
なぜなら、今のネタニヤフ政権を牛耳っている宗教右派が生きているのは、旧約聖書の時代なのですから。
一民族が潰し潰された古代に、彼らの脳内はまだ生きているのです。
だから彼らは、ガザ市もカンユニスも聖書にあったエリコのように人もろとも焼き尽くさねばならないくらいに思っています。
しかし、時代は違う、今は今なのです。
今ここに現実に存在する国家としてのイスラエルは、宗教右派が考える「イスラエル」ではなく、現実に多様な文化と人種をはらんだ国家なのです。
このことは昨日も書きましたが、長谷川良氏もこう書いています。
「このように説明すると、「イスラエル」と「ユダヤ民族」はほぼ同じ意味と受け取れるが、1948年に建国したイスラエルの人口構成をみると、3つの異なった出自がある。2022年5月のイスラエル中央統計局によると、①ヤコブの血統引く生粋のユダヤ人(約74%)、②アラブ系でイスラエル国籍を有する国民(約21%)、③キリスト教徒など少数派(5%)で、全人口は約950万人だ。だから、たとえ、ユダヤ人が全体の4分の3を占めているといっても、イスラエル=ユダヤ民族というわけにはいかないわけだ」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)
よく誤解されるようにイスラエルは一枚岩でもなければ、ユダヤ教を国是とする宗教国家ではありません。
イランとは根本的に違うのです。
イスラエルは、多様なアラブ民族まで含んで国家として成立しています。
イスラエル国民のアラブ系国民は「アラブ統一リスト」という政党さえ持ち、宗教右派である「宗教シオニスト」とほぼ勢力を拮抗しています。
彼らを法の下に平等に扱うためにも、イスラエルには民主主義が必要だったのです。
ですから、ガザでの戦闘によるこれ以上のアラブ系民間人被害者は、イスラエル国内にアラブ系国民との間に断絶を生むのでしょう。
話を戻します。アホンダラさんのコメントを読んで、「カタギ衆が危険にさらされてもテッテ的にミカジメ料などの支払いを拒否して関係を断つ」時は来ないと思っていました。
来て欲しいとは思いますが、絶望していました。
ガザ住民がハマスに抵抗するなどありえないと思っていました。
シファ病院の「空爆」誤報の時でさえ、正しく「ハマスのロケット弾の誤射」と報じられても、当時のガザ市民が「支払いを拒否して関係を断つ」ことができたかどうか、私はそれを危ぶみました。
しかしアホンダラさんの意見が現実のものとなるなら、今をおいてはないでしょう。
今、ガザの市民が立ち上がって、彼らを長期に渡って支配し、殴りつけ、収奪し続けてきたハマスを自主的に叩き出すことができるのは今をおいてありません。
その兆候はあります。
12月6日には、ガザにおいて民間人たちが、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の食糧保管庫から食料を取ったことが報じられています。
ガザレポートによれば、住民たちはUNRWAの食料配布に疑問を持っており、深刻な食糧難を見ながらなぜUNRWAはそれを倉庫から出さないのかと訴えています。
「国連」名乗っていてもほんとうにガザ住民のために食糧を配給したか疑っているのです。
ガザ内務省(ハマス)がスピーチしている後ろの住民が、傷ついた腕をふるいながら「神のさばきがハマスの上にあるように!」と叫んでいるのが写り込んでいる動画がアップされました。
こういうハマス非難の声が出るのは、ガザ住民が受難の限界に達したからです。
北部から逃れてきた民間人と、カンユニス住民はさらに南のラファへ脱出しようと試みています。
「イスラエルの北部南部への攻撃で、ガザ市民の80%に当たる187万人が自宅を追われることとなった。ガザ全土で激戦となり、特にガザ北部には、食糧も燃料もいっさい届かなくなっている。
南部へ避難してきた人は、イスラエルが安全地帯と約束するアル・マワシに避難した人もいたが、とうてい187万人全員が入れるものではない。イスラエル軍は、今のカンユニスへの攻撃の前に、ラファへ避難するように指示している。ガザの人々は移動に次ぐ、移動で疲れ切っている。
しかもどこへ行っても十分な資源も食糧もなく、避難所では、子供も大人も数万人がぎゅうぎゅうに雑魚寝状態で、気温も下がって、伝染病が拡大している。医療システムもほぼ崩壊している」
(石堂ゆみオリーブ山通信12月7日)
カンユニスでのシンワルに迫るか:ガザ市民はもはや限界の様相 2023.12.7 – オリーブ山通信 (mtolive.net) 。
「(CNN) 米国のブリンケン国務長官は6日、CNNの番組でインタビューに答え、パレスチナ自治区ガザ地区南部で攻勢をかけるイスラエルについて、複数の「重要な手順」を踏み、民間人の保護を強化しているとの認識を示した。
チャールズ・バークレー氏とゲイル・キング氏が司会を務める番組でのインタビューで、広範な話題に言及した。この中でブリンケン氏は、イスラエル軍が自身の呼びかけを聞き入れていると示唆。具体的にはイスラム組織ハマスとの戦闘において、ガザ北部とは異なる作戦を展開するよう求めていると説明した」
(CNN12月7日)
イスラエルはガザ南部の民間人保護を強化 米国務長官が指摘 CNN EXCLUSIVE - CNN.co.jp
国連のグテーレス事務総長は国連憲章第99を発動し、国連事務総長として即時停戦を命じることを目的に、国連安保理の開催を要請すると発表しました。
「パレスチナのガザ地区の情勢をめぐり、国連のグテーレス事務総長は、国連憲章の99条に基づいて、安全保障理事会に対し人道的な停戦を求めるよう要請しました。2017年の就任以来、グテーレス事務総長がこの条項に基づいて安保理に要請を行うのは初めてで、これを受けて安保理では8日に新たな決議案の採決が行われる見通しとなりました。(略)
歴代の事務総長でも99条に基づいて要請を行うと明言したケースはほとんどなく、グテーレス事務総長としては一歩踏み込んだ措置をとったものです。
国連の外交筋によりますと、事務総長の要請を受けて国連安保理では8日に緊急会合が開かれることになり、新たな決議案の採決が行われる見通しとなりました」
(NHK12月7日)
国連事務総長 安保理に停戦求めるよう要請 国連憲章99条基づき | NHK | イスラエル・パレスチナ
この異例の事務総長動議に安保理常任理事がどのように判断するかが注目されます。
米国としては、イスラエルが拒否するのが目に見えているだけにどうするのか悩ましいところです。
私は米国がこの動議に賛成し、いったんここで停戦をイスラエルに強要する可能性もあると見ています。
なお、イスラエル国連大使は、即座に、グテーレスの解任を要求しました。
イスラエルは、ろくな調査もしないうちからシファ病院を爆撃をイスラエルになすりつけたグテーレスの所業を忘れてはいません。
しかしそういった国際社会の動きとは別に、ガザ市民たちは崖っぷちに立たされています。
今後、どのように展開するのか私にはわかりませんが、ガザ住民が切所に立たされて判断を迫られる時期に置かれていることだけは確かです。
それにしても、このネタニヤフの不器用さはどうでしょうか。
10月7日から地上進攻まで1カ月も時間があったのなら、ゼレンスキーのようにG7や、湾岸諸国を回って支援要請くらいしなさい。
当時イスラエルは1200人もの市民を虐殺されたという外交上のゴールデンカードがあったのですから、G7諸国なら議会演説くらいできたでしょうし、いまや冷戦関係に戻ってしまった湾岸諸国からさえ同情の言葉とハマステロは許さんくらいの言質を引き出せたはずです。
初動で同情票を固めておけば、後の展開もまるでちがったはずですが、それを作ろうともせずにナニをしていたんですか。
当時、せっせとやっていたのは、盲爆とさえ言われた空爆でしたが、そんなに大慌てでやるような話ではなかったはずです。
自衛権行使については国際法上容認されていたのですから、地上軍を入れてからその指示に基づいてピンポイントで潰していけばよかったのです。
この初動で、ネタニヤフは外交ができない男だということがバレてしまいました。
NHKエルサレム支局長のエルサレム支局長・曽我太一氏によれば、先日亡くなったキッシンジャーには「イスラエルに外交政策はない、国内政治だけだ」と喝破されていたそうです。
ホントそうですね。こういうイスラエル建国以来最大のテロを受けた時ですら、ネタニヤフの念頭にあったのは己が政権の護持と、「エリコ文書」を握りつぶした失態を隠しおおせることだけだったのでしょう。
そもそも、なんでこんなときに限ってネタニヤフなんでしょう。イスラエルには人材がいないのか。
シッチャッカメッチャカな小党乱立のあげく過半数をとれる政党がなく、なんと8政党で連合政権を作ったあげく、こんな極右と右翼が作った政権をまとめられるのはこの男だけだったというのですから、イスラエルの不幸と言うべきでしょう。
「6月30日、イスラエル議会が解散し、ことし11月1日に総選挙が行われることになりました。
イスラエルで総選挙が行われるのはこの3年半で実に5回目です。
イスラエルでは2021年6月、8つの党による新たな連立政権が発足。しかし、与野党の勢力がきっ抗して議会はこう着状態に陥り、政権運営に行き詰まったベネット首相は議会の解散を決意したのです。
連立政権が毎回、過半数ギリギリで成立しているため、政権運営が不安定になるのです」
(NHK2022年7月1日)
なぜ イスラエルでまた選挙? 3年半で5回のわけは | NHK
悪い時には悪いことが重なるというマーフィーの法則よろしく、この極右の闇鍋政権ができたやいなやハマスのテロです。
現在のイスラエル議会には13もの政党や政党連合があります。
朝日が好きそうな多元主義の花盛りです。
元来ユダヤ人はひとり一党のような民族気質のところに、世界各国から様々な考えの持ち主が集まり、ユダヤ人といっても民族的にも多様で、地元のパレスチナ人が21%もいます。
イスラエル基礎データ|外務省 (mofa.go.jp)
ですから、なにをして「イスラエル人」と呼ぶのかというスタンダードが見いだせない国です。
そこがまたこの国の活力ともなっているのですが、いかんせんやりすぎです。
最も多いネタニヤフが率いるリクードでも29議席しかなく、とうてい過半数61議席には及びません。
次いで、反ネタニヤフが大嫌いなはずのイェシュアティドが17議席と続き、残りの11政党はいずれも10人以下といったどんぐりの背比べ状態です。
NHK
ちなみに2021年の前政権の時も小党乱立で、このような連立となっていました。
FOCUS:8党寄り合い イスラエルで12年ぶりの政権交代=坂本正樹 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)
前政権のほうがましに見えますが、それは置くとして、結局大混乱の果てにまたまたネタニヤフに6回目の政権が転がり込んだのです。
こういう小党乱立状態で政権を作るとどうなるのでしょうか。
目に見えていますね、なにも決まらないか、極端に過激なことを言う奴が出て、「イヤなら出て行くがいいのか」と脅し、それに力弱きトップが追随するというパターンです。
この「極端に過激なことを言う連中」とは、イスラエルの場合は宗教右派です。
「2022年11月1日に行われた総選挙で最も注目された点は、宗教シオニズムを掲げる極右政党の連合「宗教シオニズム/ユダヤの力」が、前回選挙(2021年3月)より議席を倍以上に増やしたことだった。
宗教シオニズムはユダヤ人による「約束の地(イスラエルの地)」に対する支配の強化がメシアの到来を早めるという宗教解釈に立脚したシオニズムの一形態であり、政治的にはヨルダン川西岸の併合や入植活動の推進、さらに国内政治でもユダヤ人の権利拡大などを主張している」
(NHK前掲)
宗教右派がやりたかったことは、いままで極端な政策に歯止めをかけてきた司法に対しては司法改革をして黙らせる、西岸にはじゃんじゃん移民を行って領土化を既成事実化する、パレスチナ自治政府なんて金輪際認めない、という具合にイケイケドンドンの極右政策です。
そして案の定、自らの首相返り咲きを最優先したネタニヤフは、連立交渉の過程で各党の要求を次々に受け入れ、極右政党などが主張している極端な政策の実行に乗り出しました。
もっとも危険なポストである占領地や警察行政に係る閣僚ポストを手にしたのは宗教極右でした。
彼らは宗教的信念に基づいて信仰を実現しようとしました。
つまり現有のイスラエル領土のみならず、パレスチナ全域は神がユダヤ民族に与えたもうた約束の地だという信念です。
こういう思想的信念は信仰という心の内の問題としているぶんには無害ですが、現実化しようとすると「実力による現状変更」ということになります。
「宗教シオニズム」の党首であるスモトリッチ党首は財務相と兼務で、国防相とは別に国防省内に新設された「第2国防相」という正体不明のポストに就任しました。
この結果、従来は国防相が一括して掌握してきたヨルダン川西岸の占領行政に関する権限のうち、入植地関係など民生事項をスモトリッチが担うことになり軍は大混乱です。
しかも司法から出ている入植地の撤去命令をスモトリッチは勝手に停止し、さすがに見かねて司法命令の実施を求めたリクードのギャラント国防相と衝突しました。
この西岸入植の強行が、パレスチナ問題の解決をどれだけ妨げていることか。
もう一つの極右政党「ユダヤの力」の党首イタマール・ベングビールは、新設の国家安全保障相に就任しました。
このポストは警察行政に関し従来の公共治安相よりも強い権限を持ち、なおかつ従来は国防相の指揮下にあった西岸の警察業務も所掌するというなんとも危険なポジションです。
こんな地位に宗教極右を据えたらどうなるかわかりそうなものですが、ペングビールは就任からわずか5日後の1月3日、エルサレム旧市街地内の聖域「神殿の丘」(ハラム・シャリフ)に入場し、祈祷しようとしました。
このエルサレムは宗教的に極めてデリケートな場所で、1967年にイスラエルは軍事占領して実効支配しているものの、他宗派に配慮して入場はするが祈祷はしないということで折り合ってきていました。
当然のこととして、湾岸諸国は勝手な現状変更として激怒しました。
このような宗教右派は、ユダヤ教の聖典どおり政治をしなけりゃ夜も陽も明けない連中ですから、外交もクソもありません。
オスロ合意なんてとっくに失効、アブラハム合意など知ったことかということになりました。
これではいくら米国が、湾岸諸国と友好関係を結ばせて、ハマスを干上がらせようとしても無駄です。
内政にかまけて外交が吹き飛ぶ、というイスラエルの宿痾が丸出しとなりました。
こんな連中を率いてか、率いられてか、戦時内閣首相をやっているのがネタニヤフです。
石堂ゆみ氏がこのような旧約聖書の一句を引用しています。
主よ。あなたが贖い出された御民イスラエルをお赦しください。罪のないものの血を流す罪を、御民イスラエルのうちに負わせないでください。彼らは血の罪を赦される。
(申命記21:8)
イスラエル軍が南部侵攻した後のことを考えてみましょう。
「FTは情報筋を引用し、イスラエルが高強度地上作戦をした後、「転換・安定化」のために低強度軍事作戦をする多段階戦略を構想していると伝えた。高強度地上作戦には、イスラエル軍がガザ地区南部まで深く進入してハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフ、マルワン・イッサの3人を殺害する暗殺作戦も含まれた。
高強度地上作戦に数カ月かかるという見方があるが、米国とイスラエルの対話に詳しいある人物は「数週間しかかからないだろう」と予測した」
「イスラエル、1年以上の長期戦計画」…2地域を集中攻撃へ(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース
10月7日、ガザからイスラエル南部のアシュケロンなどに対して、5000発とも8000発とも言われるロケット弾攻撃が行われました。
そしてハマスは重火器で武装してイスラエルに侵入し1200人を虐殺し200人を連れ去りました。
これら大量のロケット弾を製造し、武器、弾薬の貯蔵施設があるのが南部です。
そしてこの南部には、ハマスがエジプトなどの外部から資材を搬入する地下トンネルが延びています。
これらを一掃するのが、今回のイスラエル軍の掃討作戦の目的ですが、この南部も北部に劣らずイスラエル軍にとって難しい作戦となります。
理由は同じように、ハマスが市街地などでゲリラ戦を挑んでくることと、これらの地下工場や武器庫が病院の地下などに設けられているためです。
またそれだけではなく、北部から南部地域に逃げて膨れ上がったパレスチナ民間人200万人の保護を考えねばなりません。
これは想像するまでもなく、北部以上の困難さをともなうことでしょう。
イスラエル、ガザ南部の地上作戦を強化 地図示し避難指示 - BBCニュース
BBCによれば、イスラエル軍は民間人保護について神経を使っており、戦闘が予想される地域に対して市民に避難を呼びかけるQRコード付きの地図がついたビラを投下し、より安全な地域に誘導しています。
BBC
このようにこれから攻撃する地域を明示することは、作戦計画をハマスに教えてしまうことになるのでイスラエルのギリギリの住民保護策です。
ただし、このような対応をしたとしても、ハマスが市民を人間の楯として利用し続けている以上、限界があるでしょう。
この南部のハマス掃討作戦が終わった後に来るのが、転換・安定化段階です。
「安定」というと聞こえがいいですが、これはイスラエルのための安定であって、すなわち力による軍事支配です。
「これは2024年末まで続くが、時期は明確でない。これはガザ地区をハマスが存在しない新しい秩序に対応させる過程だ。あるイスラエル高官は以前の軍事作戦や戦争とは違い、今回は確実な終末点がないことを示唆したと、FTは伝えた」
(中央日報前掲)
つまりは、ガザ全域に軍政を敷き、民主主義は極端に制限すると言うことになります。
そしてもちろんパレスチナ自治政府は、その存在さえ許されないことになります。
「二国共存」など話にもなりません。
ネタニエフは、イスラエルの横にパレスチナ国家があることにさえ耐えられない極右なのです。
これは考えるだけで憂鬱な、すさまじく不毛で残酷なプロセスです。
世界からのイスラエルに対する支持は消え失せ、同情すら消え失せることでしょう。
では、このような武力だけが解決方法なのでしょうか。
私はそうは思いません。
あまり報道されていませんが、ガザにはこれといった産業がありません。
つまり自立した国民経済を回せない地域なのです。
これを親ハマスの人たちは「天井がない牢獄」などと呼んで、まるで貧困の責任がイスラエルにあるとでもいうように言っていますが、そうではありません。
その責任はパレスチナ自治政府と事実上の支配者であるハマスが、経済を知らないからです。
知らないというより、経済には関心がないのです。
なぜなら、彼らにとって「経済」とは貰うことだからです。
ガザにあるパレスチナ自治政府と国連パレスチナ難民救済事業機関(
資金だけでなく、生活物資は水までイスラエルから輸入し、毎朝イスラエルに出稼ぎに行く多くのパレスチナ人労働者で検問所は満杯でした。
もう一方の外部との接点であるエジプトは、ハマスを支援すれば国内のイスラム過激派を勢いづけるために消極的です。
ハマスがエジプトとのトンネルに資材輸入を頼っているのはそのためです。 の財源は、アラブ各国と先進国からの難民支援で成り立っています。
語弊がある言い方をすれば、ガザの主要産業は「難民」だけでした。
よくガザの大半が貧困だと親ハマスの人たちは言っていますが、これは支援される資金の大半をハマスの指導者が吸い上げて富豪生活を送っているからです。
ハマス全体の総司令官と政治部門のトップを兼ねている、イスマイル・ハニヤは5000億円もの資産を持ち、カタールで大富豪の生活をおくりながらテロを指令しています。
かつてのパレスチナ解放機構(PLO)に君臨していたアラファトは、1兆円もの資産を持っていました。
反米の旗を掲げ、パレスチナ建国とイスラエル抹殺を謳いながら、彼らは骨の髄まで腐り切っていたのです。
そして中東にお定まりの独裁政治に浸りきっていました。
それもそのはず、パレスチナ問題が「アラブの大義」でいるうちは、PLO各派はイスラエルと戦っているふりさえ続けさえすれば、膨大な支援をえることができたのですから、ある種のビジネスでした。
たまにアリバイ作りでテロをしてみせればお褒めに預かってカネを貰えるのですから、腐って行って当然。
しかしやがてパレスティナ自治政府に居すわったPLOは戦うふりすら嫌うようになり、送られてくる援助を血縁で独占するようになります。
この腐敗の頂点にいるとされているのがアッバス大統領で、彼への反発がハマスへの支持につながって、ハマスの権力掌握につながっていきます。
しかしそのPLOにとって替わったハマスも体質的には同根ですから、指導部は王侯貴族化していき、ガザ住民はあいかわらず貧困に置かれていくことになります。
ただしハマスが巧妙なのは、国連などを介して入ってくる巨額資金を「福利厚生」に当てたことです。
病院や学校をせっせと作り、見た目にはちょっとしたミニ福祉国家であるかのようなモノを仕立て上げたのです。
しかしテロリストの悲しさで、経済を興すことなど眼中にないために、あいかわらず経済は崩壊状態でした。
最近のハマスは、政治的に追い詰められていました。
今までハマスを支えていた周辺のアラブ諸国の資金援助は、サウジがイスラエルとの国交正常化に向けた接触を行うことにみられるように細る一方で、大勢としてイスラエルと友好関係を結びつつあったからです。
産油国からハイテク産業立国を目指すサウジからすれば、中東最大の技術立国であり、かつ成長センターのイスラエルと共に共通の経済圏を作るほうが、「パレスチナの大義」などという手垢のついたボロ旗よりはるかに現実的であり、魅力的だったのです。
それでもなお富豪暮らしと独裁政治が止められないハマスの指導者たちに対してガザの内部では、2023年7月末には数千人が集まる大規模な反ハマスデモが発生しています。
腐敗しきったハマス体制に対する、ガザ住民の不満は爆発寸前でした。
これらがハマスをイチかバチかの10月7日の大バクチを打たせたのでしょう。
つまり、ガザはイスラエルなくしては自立できない地域なのです。
このように考えると、ハマスの資金源を断つことにもっとも有効なのは、湾岸諸国とイスラエルが友好関係を持ち国交を正常化することなのです。
そう考えてくると、今回のネタニヤフのとった武力一辺倒の方針は悪手でした。
自衛権に基づく反撃まではいいとして、それは抑制的でなければなりませんでした。
長谷川良氏の「ウィーン発コンフィデンシャル」はこのようなイスラエルの歴史学者ハラリの言葉を伝えています。
「イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は10月27日の英国の著名なジャーナリスト、ピアス・モルゲン氏のショー(Uncensored)の中で、「歴史問題で最悪の対応は過去の出来事を修正したり、救済しようとすることだ。(略)
歴史で傷ついた者がそれゆえに他者を傷つけることは正当化できない。そして『平和』(peace)と『公平』(justice)のどちらかを選ぶとすれば、『平和』を選ぶべきだ。世界の歴史で『平和協定』といわれるものは紛争当事者の妥協を土台として成立されたものが多い。『平和』ではなく、『公平』を選び、完全な公平を主張し出したならば、戦いは続く」と説明していた」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)
ガザ駐屯イスラエル軍は、まるでアフガンの米軍のようにように周囲を敵意をもったパレスチナ人に囲まれていきます。
イスラエルはこのために常に強力な軍隊を常に送り続けねばならず、多くのイスラエルの青年とパレスチナ人の生命を無駄に費やすことでしょう。
そしてそれが、イスラエルの安全に寄与するかというと、まったくないのです。
イスラエル情報機関「シンベト」元長官 アミ・アヤロンはこう言っていることに、ネタニヤフは耳を傾けるべきです。
「ハマスとは、イスラム教の、非常に過激な原理主義者の集団です。
しかし、ハマスとは軍事部門だけではなく、イデオロギーそのものでもあります。イデオロギーを破壊することはできません。軍事力を使いすぎると、逆にイデオロギーに力を与えてしまうこともあります。人々の意思を抑圧することはできないのです。ハマスの軍事部門を壊滅することはできるでしょう。私が理解するところでは、これが今回の戦争のイスラエル政府の目的です。
イスラエル、パレスチナ双方に非常に大きな痛みを伴いますが、達成することは可能です。
しかし、政治的、イデオロギー的な組織であるハマス、そして多くのパレスチナ人が支持しているハマスを打ち負かすには、人々によりよい選択肢を提示するしかありません。
ハマスと戦う唯一の方法は、2つの国家という政治的地平をパレスチナ人に提示することだと思います。
国際決議に従って、イスラエルの隣に国家を持ち、2つの民族のための2つの国家を実現するのです。
1990年代、パレスチナ人の80%がオスロ合意を受け入れていました。
それは「シオニズム運動に賛同した」ということではなく、パレスチナ人はパレスチナ人の国家を望んでいた、占領が終わる日を待ち望んでいたということなのです。
今回の戦争の政治的な目標は、イスラエル人とパレスチナ人、双方にとってよりよい現実をつくることであるべきです。
私たちは今こそ、イスラエルとパレスチナという、2国家共存を実現させなければならないのです」
イスラエル情報機関元トップが語る「ハマスを怪物にしたのは?」 | NHK
私もこのアヤロンの言葉に深くうなずきます。
もう遅すぎることを承知で言うのなら、イスラエル軍はいまこの時点で停止すべきです。
これ以上の南部への深追いはパレスチナの市民にぬぐい難い虐殺の記憶として残り続け、イスラエル自身を深く傷つけることでしょう。
イスラエル軍が南部に侵攻を開始しました。
「[ガザ/カイロ 3日 ロイター] - イスラエル軍は3日、地上部隊がパレスチナ自治区ガザ全域で活動していると明らかにした。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、南部の都市ハンユニスから約2キロの地点でイスラエル軍と衝突したと述べた。
イスラエル軍のハガリ報道官は「ガザ全域でハマスの拠点に対する地上攻撃を引き続き拡大している」と述べ、南部で地上攻撃を開始したことを示唆した。
ガザ南部にはこれまでの戦闘を逃れてきた住民も多く、新たな地上攻撃の開始を懸念する声が聞かれた」
(ロンター12月4日)
イスラエル軍、地上部隊がガザ全域で活動と表明 南部侵攻を示唆 | ロイター (reuters.com)
イスラエルの今後の長期作戦計画を、英国フィナンシャルタイムズ(FT)が12月1日付けで報じています。
たぶんこの情報も、先日の「エリコ文書」と同様に、米国政府からのリークだと思われます。
そうだとすると、米国政府はこのネタニヤフの長期戦戦略を支持していないということになりますが、今の時点では確かなことは言えません。
昨日も書きましたが、米国政府はここでいったんイスラエルは矛を収めて、長期停戦交渉に移るべきだと考えているのに対して、イスラエルはハマスの徹底殲滅を目指しています。
この辺の現地政府と米国との考え方の違いは、実はウクライナにも出ています。
バイデン政権は、ウクライナが領土からすべてのロシア軍を追い出すまで戦うことには賛成していません。
そのようなことになると、1年2年では終わらず、先が見えないような長期戦となるからです。
この違いが、現地政府からは米国の日和見に見え、米国からは国際情勢の温度を知らない猪武者に見えるということになります。
イスラエルは、というよりネタニヤフがというべきかもしれませんが、目指すのはハマスというテロの病根を根こそぎ除去し、後顧の憂いを断ち切ることです。
もちろん、自分のテロの先制攻撃をまともに受けてしまった自分の失態を隠したい気分はあるでしょう。
彼は、この際ハマスの主力と指導部を徹底的に壊滅させようとしています。
そのために新たにハマス幹部の暗殺専門部隊「ニリ」を創設したほどです。
「イスラエルの諜報 機関シンベットとモサドは、パレスチナ自治区ガザからの越境攻撃に携わったイスラム主義組織ハマス幹部や戦闘員を捕らえて殺害するための特殊部隊「ニリ」を新設した。イスラエル紙エルサレム・ポストなどが伝えた。
ニリ設立は、「ホロコースト以来の悲劇」(地元紙ハアレツ)とされるユダヤ人の虐殺に報復するのが狙いだ。第1次世界大戦中にオスマン帝国に対抗したユダヤ人地下組織にちなみ、ニリと名付けられた」
(読売10月23日)
イスラエル諜報機関、報復へ特殊部隊「ニリ」新設…越境攻撃携わったハマス戦闘員の殺害図る : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
これはミュンヘン五輪でPLOのテロによってオリンピック選手を殺害された報復と同等の暗殺でハマス指導部を追跡するというものです。
「FTは情報筋を引用し、イスラエルが高強度地上作戦をした後、「転換・安定化」のために低強度軍事作戦をする多段階戦略を構想していると伝えた。高強度地上作戦には、イスラエル軍がガザ地区南部まで深く進入してハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフ、マルワン・イッサの3人を殺害する暗殺作戦も含まれた。
高強度地上作戦に数カ月かかるという見方があるが、米国とイスラエルの対話に詳しいある人物は「数週間しかかからないだろう」と予測した」
「イスラエル、1年以上の長期戦計画」…2地域を集中攻撃へ(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース
北部ガザを細かいグリッドで分けて、グリッドごとに徹底したトンネル捜索を行い、見つけ次第潰します。
グリッドごとに市民には避難指示を出して、市民の脱出ルートを明示しているようです。
ですから、よくいわれるような無差別攻撃というのはあたりません。
ただし、この地図でしっかり避難ルートが理解されるかどうかは別で、住民はこれではわからないという声が多く上がっているようです。
シファ病院のトンネルも塞がれましたが、それは見せたくないからではなく、基本的にイスラエルのトンネル対策はブルドーザーで潰して、コンクリートで入り口を封鎖してしまうことだからです。
硫黄島で懲りた米軍が、沖縄戦でとった戦法です。
イスラエル国防軍は公式サイトでこう言っています。
「良いアイデア」:イスラエル国防軍の司令官、軍がガザのトンネルを海水で氾濫させる可能性を示唆 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
「ガザ地区での地上作戦が始まって以来、イスラエル国防軍の兵士たちは、ハマスの地下トンネルに通じる800本以上の立坑を突き止めた。約500のトンネル立坑が、爆薬やブロックなど、さまざまな操作方法で破壊されている。
トンネルシャフトの一部は、地下トンネルネットワークを介してハマスの戦略的資産を接続していた。さらに、何マイルにもわたるトンネルルートが破壊された。
トンネルの立坑は民間地域にあり、その多くは学校、幼稚園、モスク、遊び場などの民間の建物や構造物の近くまたは内部にあった。
イスラエル国防軍の兵士は、いくつかの坑道の中に大量の武器を発見した。これらの調査結果は、ハマスがガザ地区でのテロ活動の隠れ蓑として、民間人やインフラを意図的に利用していることをさらに証明している」
プレスリリース 戦争が始まって以来、ガザには800以上のトンネルシャフトが設置されています。これまでに500台が破壊された |イスラエル国防軍 (www.idf.il)
イスラエル軍はこの北部掃討作戦には自信を持っているようで、そんなに時間はかからないだろうと見ているようです。
イスラエル、ガザ南部に侵攻 全土に戦闘拡大 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
元・陸自中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補は、南部と北部の性格の違いをこう説明します。
「北部は、ハマスがトンネルで待ち受ける戦闘地下要塞エリアです。分断した南部はハマスの司令部、地下工場、兵站施設があります」
(shueisha.co.jp)
南部地域への攻撃はハンユニスとラファの両地域に集中すると、FTは報じています。
すでにイスラエル軍地上部隊は、ハンユニスに侵攻しているようです。
「国軍はまた、ハマス指導部の多くが潜伏しているとみられるハーンユニスへの地上攻撃の拡大も推し進めた。
火曜日の午後遅く、イスラエル国防軍は、部隊がガザ南部最大の都市ハンユニスの中心部に到達したと発表した。南部軍司令官のヤロン・フィンケルマン少将は、部隊は1カ月以上前に地上侵攻が始まって以来、最も激しい戦闘に巻き込まれていると述べた」
イスラエル国防軍:ハーンユニス中心部で戦闘、ジャバリヤのハマス治安本部を襲撃 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)「パレスチナ自治区ガザ南部に地上侵攻を拡大したイスラエル軍は5日、南部の最大都市ハンユニスの「中心部にいる」と発表し、部隊のハンユニス入りを認めた。部隊の規模は不明。軍は4日にハンユニスへの空爆や砲撃を強化していた。ハンユニスでの空爆は戦闘開始以降、最大規模とみられる」
(産経12月6日)
イスラエル軍、ガザ南部の最大都市入り 空爆も強化 - 産経ニュース (sankei.com)
ハンユニスはガザ地区で2番目に重要な都市であるだけではなく、ハマスガザ地区の軍事部門トップであるヤヒヤ・シンワルの故郷です。
イスラエルは、10月7日の攻撃を首謀したのがシンワルだと断定して、必ず殺害すると明言しています。
「イスラエル側は、同国史上最悪の襲撃事件となった10月7日の攻撃を首謀したのがシンワル氏だと断定し、同氏を「死刑囚」と呼んでいる。奇襲があった同日以降、姿を見せていない」
イスラエル奇襲を首謀か ハマスのガザ地区指導者シンワル氏 AFP
いまもシンワルがハンユニスにいるとは思えませんが、解放された人質は南部で彼を見かけたと証言しています。
もうひとつのラファはエジプトとの国境地域にある街で、ガザ地区-エジプト国境と地下密輸トンネルが多く張りめぐらされています。
このふたつ地域の地下には、大規模なハマスの軍事施設や工場、倉庫があり、それはトンネルで結ばれていると考えられています。
大規模施設には大型排気口が必ずありますから、イスラエル軍はこれを赤外線センサーで見つけて、バンカーバスターでしらみ潰しにしていくことでしょう。
そしてこの南部への攻撃は地獄の蓋を開けることになるのです。
人質が捕らえられていた状況が少しずつわかってきました。
7回目休戦延長についてはぎりぎりまで揉めていましたが、最終的に、昨夜は8人のイスラエル人の人質が、2回に分けて解放されたようです。
「結局深夜直前(日本時間今朝早朝)に6人が、イスラエル人3人の遺体とともに解放された。
これにより、解放されたイスラエル人は81人。イスラエルが子供と定義していた人は、最年少のクフィルちゃん(10ヶ月)とその兄アリエルちゃん(4)以外は、全員帰還したことになる。
クフィルちゃんとアリエルちゃんについては、その母シリ・ビバスさん(32)が、2人を抱えて悲壮な表情でハマスに拉致される様子が、ビデオに残っていた家族である。父親のヤルダンさんは家族とは別に拉致されている。一家はイスラム聖戦に引き渡されたとか、母と2人の子供は既に死んだなど、まさに神経を逆撫でするような情報が出てくるだけで、まだ真実はわかっていない。
外国人で解放された人は24人。今もまだガザにいる人質は、イスラエル人、外国人含め137人と推測されている」
7回目人質計10人帰還:パレスチナ囚人30人釈放 2023.12.1 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
人質はまだ入院加療が必要な状況で、おかれていた状況を語るにはまだ時間がかかりそうです。
しかし家族との会話から、一部がわかってきました。
子供たちは、拉致されるとき、足がバイクの排気口に位置するように縛られてその部分が火傷するようにされていました。
これは人質の子供に目印をつけるためです。
またおそらくは意識を混濁させる投薬もなされていたようです。
「子どもたちは私たちのところに戻ってきて、ガザでの経験の悲惨な話をしてくれました」と叔父は語った。
「私を震撼させたのは、ハマスに捕らえられた子どもたちが、オートバイに乗せられたことです。彼らは子供の足を自転車の排気管に押し付け、火傷を負わせました。これは、子供たちが逃げようとしたり、救助されたりした場合に、子供たちの身元を確認するために行われました。薬を飲まされ、ひどい扱いを受けましたが、少なくとも今は私たちと一緒にいます」
ハマスは子供たちに薬を飲ませた。識別のための排気口で焼けた脚 - エルサレムポスト (jpost.com)
彼らが閉じ込められていたのは、やはりトンネルでした。
「85歳のヨチェベド・リフシッツは、帰還後に捕虜が拘禁された状況を詳細に説明した。彼女は、イスラエルからガザへ向かう途中、棒で殴られ、トンネルにたどり着き、蜘蛛の巣のような湿った土の中を何キロも地下を歩いたことを話した。(略)
金曜日に釈放されたアディナ・モシェさん(72)の義理の兄弟、エヤル・ヌリさんは、叔母は数週間、真っ暗闇の中で過ごした後、日光に順応しなければならなかったと語った。
彼は、彼女が日光に慣れていない地面に目を向けて歩いていると説明しました。彼の証言によると、彼女は地下5階建ての場所に監禁されていた」
Starvation, whispering and psychological terror: Life of captives in Gaza (ynetnews.com)
何キロもある細い土のトンネルを抜けると地下5階の大規模なトンネルがあり、イスラエル軍の奪還作戦でハマスが追い詰められていくに従って、地上の民間人の住宅に監禁場所を変えたようです。
そこでの待遇は50日以上もの間、シャワーは一回も与えず、食事はピタパン(※中東の種なしパン)など最小限で、空腹のあまりトイレットペーパーを食べた人質もいたほどです。
全員の体重は激減し、暗闇の中でいいたために眼が見えなくなり、外に出てきても順応するまで時間がかかった者もいました。
寝るのはベッドではなく、椅子の上などで毛布もありませんでした。
子供たちはハマスのプロパガンダビデオを見せられたりし、会話は禁じられました。
子供たちは拉致される時に、オートバイの排気管を足にあてられて火傷を負わされていました。
これは逃亡した場合に識別するためです。
子供たちはたちは酩酊状態に置くためか投薬をされていました。
また2人の人質は、ガザ地区の最高責任者のヤヒヤ・シンワルにあったようです。
会った場所はガザ南部でした。
ガザ地区のハマストップ、地下トンネルで人質たちの前に姿を現す [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
「少なくとも2つの証言によると、その答えは肯定的である。釈放された捕虜の一人は、戦争の初期にガザ地区の南部に連れて行かれたと語った。
その後、ハマスの指導者ヤヒヤ・シンワルが入ってきて、彼らのヘブライ語の名前に興味を示したという。その後、彼は彼らに何も起こらず、彼らは安全であると言って彼らを安心させました。彼は彼らに言った、「こんにちは、私はヤヒヤ・シンワールです。あなたはここで最も保護されています。お前には何も起こらない」
今週、ヨチェベド・リプシッツもシンワールに遭遇したと言った」
Starvation, whispering and psychological terror: Life of captives in Gaza (ynetnews.com)
まだ大部分の人質は加療が必要な状況ですが、追々人質生活の内情が伝えられて来ると思われます。
なんかニュースを見ているとハマスの人道的措置のようなトーンがありますが、民間人を人質にとって監禁し、交渉材料にすることは国際人道法や戦時国際法でどうなるんでしょうかね。
残念ですが、ガザで戦闘が再開されました。
「(CNN) イスラエル首相府は2日、カタールで続いていたイスラム組織ハマスとの交渉が行き詰まり、代表団を引き揚げたと発表した。
内容に詳しい関係者がCNNに語ったところによると、イスラエルがハマスに人質の女性らを全員解放するよう引き続き要求し、ハマスがこれを拒否したため、話し合いは2日に決裂した。
ハマスは決裂後、戦闘が1日に再開した責任はイスラエルと米国にあるとの声明を発表。イスラエルは「犯罪的な侵略」の再開を事前に決めていたと非難した」
(CNN12月3日)
イスラエル、交渉団を引き揚げ ガザの400カ所以上を攻撃(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
この人質をめぐるハマスとの交渉は常に難航したようです。
ハマスは合意を守らずに解放する数を減らしたり、解放時期を遅らせることを続け、とうとう休戦合意期限直前にはロケット弾をイスラエルに撃ち込みました。
ハマスの本心は「ガザの平和」などではなくイスラエルの文字通りの抹殺ですから、戦争をここで終わりにしてもらっては困るのです。
米 ブリンケン国務長官“戦闘一時停止 イスラエルと引き続き協議” | NHK | イスラエル・パレスチナ
一方中東を回っていたブリンケンは、戦闘が再開されることを望んでいませんでした。
米国はイスラエルの自衛権は認めつつも、イスラエルがパレスチナの市民を保護するための「具体的な措置」をとる保証をイスラエル政府に求めてきました。
たとえば燃料や食糧などの供給、病院施設への攻撃停止などがそうです。
しかしネタニヤフはハマスの殲滅こそ最優先だとして、この米国の要求を一蹴してきたのです。
ちなみにブリンケンはユダヤ人です。
ブリンケンの祖父はロシアでのポグロム(ユダヤ人大虐殺)を生き延び、養父はナチス・ドイツの強制収容所から生還しました。
今回の戦闘再開は、米国は自制しろという忠告をイスラエルがまったく聞かなくなった、ネタニヤフ政権はコントロール不能になりつつあるとブリンケンはとらえることでしょう。
これは言い換えれば、イスラエルが米国という最大の後ろ楯を失う可能性が出たということです。
かねてから、米国は厳しい戦略の修正をイスラエルに求めていました。
ブリンケンとタッグを組んで外交-安全保障を担当するオースティン国防長官は先日このようなことをスピーチしています。
「オースティン米国防長官は2日、パレスチナ自治区ガザでの民間人の犠牲拡大についてイスラエルが警告に耳を傾けなければ、イスラム組織ハマスと再開した戦闘で「戦略的敗北」を喫する危険があると語った。
オースティン国防長官はカリフォルニア州シミバレーで行ったスピーチで、「私はイスラエルの指導者らに対し、民間人の犠牲を回避し、無責任なレトリックを避け、ヨルダン川西岸での入植者による暴力を止めるよう直接働き掛けた」と発言した。
オースティン氏や他の米指導者らは、イスラエルを引き続き支持すると明言してはいるが、民間人の犠牲が増え続ければ、支持継続が困難になりかねないと懸念している」
(ブルームバーク12月3日)
イスラエル「戦略的敗北」も、ガザ犠牲巡り警告無視なら-米国防長官 - Bloomberg
つまり米国の危惧は、イスラエルがこのまま突き進めば「戦闘には勝っても戦争には負ける」だろうということです。
ベトナム戦争において、米国は個別の戦闘では勝利していますが、国際世論から孤立し、国内世論もまた分裂し戦争に破れました。
グレッグ・カールストロムのツイートによれば、ネタニヤフはこうブリンケンに「パレスチナ自治政府認めさせたいならオレが辞めた後だ」と 言ったそうです。
ネタニヤフ政権の即時退陣要求=モービルアイCEO | ロイター (reuters.com)
「イスラエルのチャンネル12によると、アメリカは戦後のシナリオとして強く求めているが、ネタニヤフは昨日の戦争閣僚会議でブリンケンに、パレスチナ自治政府は私がこの椅子に座っている限りガザには戻らないだろうと語った」
XユーザーのGregg Carlstromさん
この情報の真偽は定かではありませんが、もし真実ならネタニヤフは阿呆か狂人です。
この男にイスラエルを任せておくことは、イスラエルにとって不幸以外なにものでもありません。
ネタニヤフがハマスの襲撃計画を事前に知り得る立場にあったことが、ニューヨークタイムスによって報じられています。
「(CNN) 10月7日に発生したイスラム組織ハマスによるテロ攻撃を巡り、米紙ニューヨーク・タイムズは11月30日、イスラエル当局が襲撃の1年以上前にハマスの戦闘計画を記した文書を入手していたと伝えた。文書やメール、インタビューをもとに報じた。
文書の翻訳を調査したタイムズ紙によると、約40ページの文書に襲撃の日付は記されていないものの、ハマスが10月に実行したようなイスラエル侵入作戦の概要が項目立てて記述されている。
イスラエル軍と情報当局者は、ハマスが実行するには難度が高すぎるとの判断から、この計画を重大視しなかったという。
イスラエル当局が文書に付けた暗号名は「エリコの壁」。ガザ地区周辺の防御壁の突破、イスラエルの都市の制圧、主要軍事基地の狙い撃ちといった襲撃の内容を詳しく記述している。タイムズ紙によると、ハマスは10月7日、この計画に正確に従って襲撃を行ったという」
(CNN12月1日)
イスラエル当局、ハマスの攻撃計画を1年以上前に認識 米紙 - CNN.co.jp
NYTは、「エリコの壁」の文書はイスラエル軍や情報機関の指導者の間に広く出回っていたが、ネタニヤフをはじめとする政界の最高指導層が目にしたかは不明だ」としていますが、軍人上がりで、人質救出作戦に参加した経験さえあるネタニヤフが知らなかったと思うほうが不自然です。
推測の域を出ませんが、たぶんネタニヤフは「エリコの壁」文書を読んでいましたが、過少に評価し、むしろ小規模のテロならやらせてから叩く口実に使ったほうがよいと考えたのでしょう。
またこの時期に「エリコ文書」がNYTにリークされたのは、米国がネタニヤフに見切りをつけたということなのかもしれません。
いまやイスラエル国内では、従来の支持層からもネタニヤフ解任の動きが始まっているようです。
「シャシュア氏は、ネタニヤフ政権が、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスから7日に奇襲攻撃を受けて以来、数々の失敗や足並みの乱れ、無能さを露呈した罪は重いと糾弾した。
さらに「われわれは、迅速に『損切り』をしなければならない。イスラエルが現在置かれている状況を打開する唯一の道は政権交代で、今すぐ行われるべきだ」と訴えた。
シャシュア氏によると、ネタニヤフ政権は国益よりも自分たちの政治的な延命に関心が向いている様子で、今の国会議席の枠組みでも新たな連立を形成し、選挙を経ず混乱を最小限に抑える形での交代は可能だという」
(ロイター10月30日)
ロイター (reuters.com)
ネタニヤフはイスラエルを世界から孤立させ、泥沼の戦争に引き込むことでしょう。
それでなにか解決するのでしょうか。いや、まったくなにも解決せずに、ハマスの萌芽はそこら中に飛び散るだけです。
まるでネタニヤフの背中を押すように、ハマスがロケット弾を発射しました。
こういうのを阿吽の呼吸とでもいうのでしょうか。
名無し氏から「ハマスのプロパガンダを見抜く一方で、JSF氏は「トンネルをハマスが利用していた証拠はない」とも言ってるみたいですが」というコメントがありましたので、お答えしておきます。
当初コメント欄に書いたのですが、長くなってしまったのでこちらのほうに移しかえました。
JSF氏がなにを言ったかは置いて、確かに病院の下のトンネルは決定的確証とはならなかったのは確かです。
あの地下施設からはハマスのテロ決行日である10月7日に作戦名を記したカレンダーが見つかりましたが、弾薬庫か人質がそこにいたという決定的証拠は見つかりませんでした。
また病院施設内からも、カラシニコフは電磁的影響を受けやすいMRIの横にあったりして、保管場所したというより、急いで隠したというかんじでした。
同じようにハマスのボディアーマーなどもありましたが、これらは負傷したハマス戦闘員が所持して病院に持ち込んだものかもしれません。
証拠として使えそうなものは、トンネル脇の車両に武器が積んであったことくらいでした。
逆説的な言い方になりますが、これはイスラエルが捏造をしなかったからではないでしょうか。
もしこれが宣伝上手のハマスなら、数日間メディアを遮断して大量の武器弾薬を持ち込み、ハマスの旗と戦闘員の死体のひとつふたつは放置しておくくらいの芸当はしたことでしょう。
しかしイスラエルは、病院制圧からすぐにメディアを入れて、この報道官の動画も公開しています。
実にデモクラティックというか、能がありません。
後から反イスラエルに傾いている国際世論からつつき回されることがわかっていないか、病院地下に司令部があったという確信があるからでしょう。
ハマスの子供の負傷者をメディアの前に走らす、泣き叫ぶ母親というハマスの宣伝と較べ、このイスラエルの不器用さは真実を語ろうとしているからに見えます。
素朴な疑問ですが、どうして戦場となることがわかっていながら、ハマスは「国民」を退避させなかったのでしょうか。
彼らはまがいなりとも「保健省」や「国連」、あるいは「軍」を名乗る組織でありながら、一般人の避難を進めるどころか、避難民に発砲して押し戻す様が撮影されています。
まるで、戦場に一般民間人がいて欲しく、彼らの犠牲の血が欲しいからのように見えます。
ハマスの最大の「武器」は、カラシニコフでもなければRPGでもなく、民間人の「血」なのです。
民間人犠牲者は、ハマスがイスラエルで1200人を虐殺したことを忘れさせてしまい、浄化し被害者と加害者の立場をみごとに逆転させました。
ハマスのようなテロリストにとって、民間人は時に楯であり、時に兵士予備軍であり、そして宣伝の道具にすぎないのです。
では、あのトンネルはハマスとは無関係なのでしょうか。
かつてこの病院下にイスラエルがトンネルを掘ったことはあるようです。
しかし問題は「誰が掘ったか」ではありません。「誰がそれを使っていたか」です。
まだ情報が圧倒的に不足していますが、シファ病院、ナスル病院、ランティシ病院などが人間の楯としてハマスに利用されていたのは、その近辺が激戦区であることから確かだと思われます。
とくに地区最大の病院シファ病院について、イスラエル軍はハマスの中枢が指揮をとる司令部があると主張していました。
NHK
では、なぜ今はもぬけの殻だったのでしょうか。
私は、「空白の1カ月」があったからだと思っています。
「空白の1カ月」とは、テロ攻撃を受けたのが10月7日、そして地上進攻は11月3日、丸々1カ月間ちかくイスラエルが足踏みをしていた期間のことです。
イスラエル軍はわずか48時間で予備役を招集し、1週間以内に地上進攻のすべての準備を完了させていたにもかかわらず、人質交渉が裏で進んでいたために地上進攻に踏みきれませんでした。
この作戦の初動の遅れが、徒に空爆に偏った攻撃を生み出し、民間人犠牲者を増やしていきました。
そして起きたのが、シファ病院「空爆」誤報です。
陸戦の交戦規定では、民間人と戦闘員を区別して視認してから発砲せねばならず、空爆よりはるかに犠牲を押さえられたはずでした。
しかし人質交渉によってイスラエルは地上進攻ができず、その間1カ月間もの時間的猶予をハマスに与えてしまったのです。
この「空白の1カ月間」はハマスが前線部隊の一部を除いて、指導部と戦闘員主力の南部への撤退を完了させるには充分でした。
もちろん推測の域を出ませんが、シファ病院地下の司令部もこの時期に南部へと移動していたのかもしれません。
いずれにしても、決定的なことは誰も言えないはずです。
それはいままさに現在進行形の戦場で、しかもイスラエルが戦っているのは、ハマスという国際人道法も武力紛争法もクソもないテロリスト武装集団だからです。
イスラエル中部、南部への激しいロケット弾の発射。48時間で30万人の予備役を動員 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
イスラエルの兵士たちが戦っているのは、非対称な戦場です。
ふと思うのですが、今回の対ハマス戦争も、空軍も地上軍すら使わず、イスラエルが使い続けた古典的「暗殺」という手段を使うことも可能でした。
イスラエルはミュンヘン五輪テロ事件ではこの非公然、かつ非合法の方法を使い、モサドがテロリストを世界の果てまで追い詰めていきました。
ダーティと言わば言えという無言の迫力が、テロリストを圧倒したのです。
今回、その古典的手段を封じたのは、あまりに規模が大きい民間人虐殺だったからと、これを未然に阻止できずに、まんまと大規模テロを成功させてしまった弱みのためです。
しかし、いま「快楽殺人国家」とまで罵られているイスラエルの姿を見ると、テロリストから非対称な戦いを挑まれた場合、非対称の手段で応えるしかないのかとも思うのです。
非対称な戦いに大規模な空爆で対応してしまったことは失敗でした。
とまれ相手が守る気がない国際法を、修羅場である戦場で守ることを要求されています。
ハマスが病院から攻撃してもそれは「抵抗運動」であっても、イスラエルが反撃すれば「人道法違反」なのです。
しかも相手は主権国家ではなく、時に「国連職員」であり、時に「保健省」であり、そしてその実態はテロリストなのです。
ところで昨日もエルサレムでテロが起きました。
「(CNN) イスラエル当局は11月30日、エルサレムで銃撃があり、少なくとも3人が死亡、7人が負傷したと発表した。発砲した2人は兵士と市民によって殺害されたという。
警察当局によると、「テロリスト」らは東エルサレムの出身で、M16ライフルとピストルで武装していた。銃撃現場のバス停に車で乗り付け、市民に向かって発砲したという。
撃たれた市民の1人は現場で、2人は病院で死亡が確認された。犯行に携わった者が他にいないか捜索が続けられている」
エルサレムで銃撃、3人死亡 ハマスメンバー犯行 - CNN.co.jp
ハマスが犯行声明を出したそうですが、ならばこの一般市民を銃撃した男たちは「民間人」なのでしょうか、それとも「兵士」なのでしょうか。ハマスが主権国家の兵士ならば、軍服と記章をつけない敵国民間人殺戮行為は、問答無用にジュネーブ条約違反です。
しかし、ハマスは犯行を認めても、この戦時国際法に違反した不法行為についてはなんのコメントもしていません。
メディアもわからないから、「戦闘員」などというどうとでもとれる表現をつけています。
というか、彼らはハマスの本質がなにかを突き詰めて考えていないのです。
だから、いまもなお「ハマスは福祉ボランティア団体」だというような見当違いの解説を平気でします。
無差別大量殺人を犯すような「福祉ボランティア団体」などあってたまるものですか。
このようなメディアや一部国際政治学者らのあいまいなハマスのとらえ方こそが、ハマスの最大の援軍です。
彼らはハマスを「抵抗運動」と呼び、無意識のうちにハマスがイスラエルで犯した1200人の大量虐殺に目をつぶって、国際法の枠外に置いています。
そして戦時国際法によって非難されるべきは、イスラエル軍「だけ」だと考えています。
なんというダブルスタンダードでしょうか。
戦争の当事者の片方は戦時国際法と人道法によって縛られても、片方はその枠外なのですから。
しかも国際法は他の法律と根本的に異なり慣習法の集合体にすぎず、それを裁く主体が不在です。
それは当然のことであって、国家の上位に超国家機関が存在しないからです。
とりあえずハーグにそれらしきものがあるように見えますが、彼らの仕事は国際間の仲介・調停であって「裁く」ことではありませんし、仮に裁いたように見えても法的拘束力はありません。
そもそもハマスのような国家格を持たないテロ団体などは裁きようがありません。
故にハマスは永遠に裁かれず、イスラエルのみの非行が叩かれることになりました。
このように国際法は未完成な法律なために、このハマステロ紛争をこの不完全な国際法体系でとらえることは不可能です。
国際法を金科玉条にしている人たちは、彼らテロリストにはなぜ戦時国際法が適用されないのか、疑問に思わないのでしょうか。
ヌエのような相手との戦争を国際法が想定しなかったが故に、現実とキレイゴトと化した国際法の狭間でイスラエルはもがいています。
このエルサレムテロを受けて、再びイスラエルは停戦を終了し、戦闘を再開しました。
空軍のCV22オスプレイが不時着水しました。
まだ事故の詳細はわかりません。
「アメリカ空軍の輸送機オスプレイが29日、鹿児島県の屋久島沖で墜落した事故で、これまでに現場付近の海上で機体の残骸とみられるものが多数見つかったほか、救助された男性1人の死亡が確認されました。オスプレイには当時8人が乗っていて、海上保安庁などが30日も捜索を続けています」
米軍オスプレイ 墜落情報【30日 随時更新】1人死亡 海保など捜索継続 | NHK | 鹿児島県
米軍は「パイロットは最期までがんばっていた」として不時着水したと政府に伝えてきました。
「政府は29日、鹿児島県の屋久島沖で発生した米軍輸送機オスプレイの墜落を「不時着水」と位置付けた。米側から「最後までコントロールを試みていた」との説明があったことを踏まえた判断。米軍も「不時着水」の用語を使っているといい、宮沢博行防衛副大臣は同日、記者団に「最後の最後までパイロットは頑張っていたということだ」と理解を示した」
オスプレイ事故は「不時着水」 政府、米軍説明受け:時事ドットコム (jiji.com)
エンジンが火を吹いていたという目撃情報もあるので、あるいはエンジントラブルかもしれません。
この記事のコメントに、「ガダルカナルは撤退と言わず転身、占領軍は進駐軍」というものがありますが、まったく違います。
今回「不時着水」と言っているのは米軍であって、言い換えが好きな言霊民族の日本人ではありません。
このような航空機事故の時、米軍は直ちに始まる事故調査委員会まで見据えていますから、いいかげんなことを言うはずがありません。
不時着水は操縦によって制御された状態で、飛行場にたどり着けず機を破損させた事故です。
典型的なのは、うるま市沖のオスプレイ事故のケースです。
自動車に置き換えれば、緊急着陸は警告灯が点ったので路側に寄せて停止した状態。
不時着(水)は、運転手がブレーキやハンドルを操作しながら、壁などに衝突して止めた状態。
墜落はそのものズバリ、ハンドルもブレーキも効かずに車や物に衝突する状態。
米軍は今回は、きちんと事故機の動翼が動き、パイロットがそれをコントロールしていたとして「不時着水」のカテゴリーに入れたのです。
ですから、これを一括して、ぜんぶ「墜落」だというのはおかしいのです。
この三つの概念を混同してメディアは、今回も「墜落」と表現していました。
事故当事者が「不時着水」と言っているのですから、それを打ち消す証拠があるならともかく、なぜ「墜落」にこだわるのでしょうか。
それはなにがなんでもオスプレイが「欠陥機」でなくては困るからです。
このオスプレイ=事故多発機というイメージは、日本のメディアが作り出した幻想です。
オスプレイデマが発生した地域は沖縄でした。
いうまでもなく、発信元は沖縄地元紙です。
普天間に旧式ヘリと交代でオスプレイが配備された時には、この2紙が「構造的欠陥機を沖縄に配備したのは沖縄差別だ」とまでいいだしたのにはたまげました。
故翁長氏が突如として左翼に転向したきっかけはこのオスプレイ配備でしたね。
たしかに普天間移設とオスプレイ配備が時期的に重なったのが刺激的だったとは思いますが、オスプレイは世界的な配備計画の一環であって、かねてから決まっていたことです。
とくに「沖縄差別」をしたくて、オスプレイを配備したわけではありません(あたりまえだ)。
北部訓練場の大規模返還の代わりに、高江につましいヘリパッドをつくろうという計画があった時にも言われたのが「高江に危険機オスプレイパッドを作らせない」という論法でした。
この人たちは政治的認知バイアスを作るためにオスプレイを利用し、それに本土の左翼メディアが相乗りしました。
ですから、オスプレイは「欠陥機」でなくては困るのです。
具体的に見てみましょう。
メンドーだったら個別事例は飛ばして下さってもけっこうです。
要は、いろいろ挙げられているが、ほとんどが普通の航空機の事故の範囲内で「オスプレイだから落ちた」ということではありません。
まず最初に、よくテレビでオスプレイ欠陥機説でとりあげられるのが下の映像です。
片方に沈んで壊れるオスプレイの画像は、1991年6月11日に、試作5号機がグァシャーンとやった時のものですが、軽傷者2名で済んでいます。
そもそも 試験機は欠陥を洗い出すためですから、事故を起こしたと言って欠陥機呼ばわりはいかがなものですが、この事故は配線を逆につないだという凡ミスです。
最終調整工程で、飛行制御システムの3系統あるロールレイト・ジャイロのうち、2系統を逆に配線してしまったためです。
理由はすぐに判明して、この事故の5日後には別な試作機でテストが再開されています。
国内では、「事故をひんぱんに繰り返す」といいますが、めだった事故は2016年の不時着水の一回きりです。
この事故は事故報告書によれば、気流の突然の乱れによって給油機側のホースを、オスプレイのプロペラ(ローターブレード)が切断してしまい、それがプロペラにダメージを与えたうえにホースがブレードに絡みついてしまったために、左右の回転が不均等になり、強い振動が発生したためのようです。
機体の欠陥ではありません。
オスプレイのプロペラは左右が連結されていますから、すごい振動だったと推測されます。
このような事故は今までも他機種で起きていますから、オスプレイ特有のものではありません。
もちろんオスプレイはすべての双発機がそうであるように、片肺といって片一方のエンジンだけで飛行もできますし、着陸もできます。
現にこの事故で片肺になった当該機も普天間の目前まで飛んでいます。
※参考資料
http://booskanoriri.com/archives/2565
http://kinema-airlines.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/ceo-11d5.html
沖縄配備後のものとしては、2017年のオーストラリアで強襲揚陸艦ボノム・リシャールを発艦し、ドック型輸送揚陸艦グリーン・ベイへの最終進入中にデッキに衝突した事故です。
これなどは艦艇が大きく波で揺さぶられたために起きたもので、構造的欠陥とはまったく無関係に起きたものです。
「今回の事故は、陸上への着陸よりはるかに複雑な、海上を移動中の艦船への着艦の最中に発生したものであること、米軍が事実関係及び事故発生までの状況を初期調査で確認し、MV-22の飛行は安全であると結論付けていること、MV-22に安全な飛行を妨げるような機械的、構造的及びシステム上の欠陥はないと米軍が認識している」
(防衛省『オーストラリアで発生した第31海兵機動展開隊所属のMV-22オスプレイによる事故について』)
沖縄以外の事故としては、2015年5月ハワイ事故があります。
原因は、砂塵による「ブラウン・アウト」現象と、同じく砂塵によるコンプレッサー・ストール(失速)です。
いずれも機体の構造欠陥ではありません。
ブラウンアウトとは、濃密な砂塵に包まれて自分の機体の位置がパイロットにわからなくなくなる現象です。
http://news.mynavi.jp/column/airplane_it/056
上の写真は米国のユマ訓練場でのオスプレイのものですが、これがブラウンアウト現象です。
この時事故機のパイロットは操縦ミスをしています。
本来マニュアルで60秒で完了せねばならない着陸操作を110秒もかけてしまって、さらに多くの砂塵を吸い込む結果になったようです。
当然のことですが、このようなブラウンアウト現象は特にオスプレイ特有の事故ではなく、2003年にイラクでわずか1カ月間に17機のAH64アパッチが、同じブラウンアウトで墜落しています。
ヘリでもジェットのような固定翼機でも、このような砂塵の中を飛べば視界が妨げられ、エンジンに異物が吸い込まれて危険に決まっています。
このハワイ事故と似た、砂塵が原因の事故が2010年4月にアフガニスタンで起きています。
空軍型は特殊作戦機なので、陸自や普天間に配備された輸送機型と違って、危険を承知の飛行をしたり、不整地に着陸するために事故が多いのです。
国内で飛行するかぎり砂塵による事故はほとんど無視できると思います。
オスプレイの事故について米軍の統計がでています。
出典 防衛省 下も同じ
上のグラフは米軍機全体で見た飛行10万時間あたりの事故率です。最少から二番目です。
グラフ中程にCH-46とありますが、これがオスプレイに代わってスクラップになった大型ヘリです。
上図は米軍全機種の中でのオスプレイの事故率ですが、平均より下です。
このようにもはやオスプレイ・デマは種切れなのですが、いったん刷り込まれてしまったオスプレイデマはなにかというと「繰り返される事故」として蘇ってきます。
繰り返されるのは事故ではなく、デマのほうです。
なおオスプレイが米国で都市上空を飛べないとか言っている人がまだいますが、まったくのデマです。
事実は、まったく普通に都市上空を飛行しています。
なんせ大統領専用機になっているくらいですから、都市上空を飛べない「未亡人製造機」だったらどうします。
このようにオスプレイについて頻繁に落ちるというのは、典型的なメディアが作り出した認知バイアスです。
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