第1ラウンドは民主主義陣営の勝ち
今年は前々から言われてきたとおり、国際政治における「選挙イヤー」です。
まず第1ラウンドは、この台湾総統選でした。
これは今や中華帝国がその牙でかみ砕こうとしている台湾を巡っての民主主義陣営と専制国家との戦いの場でした。
そして1ラウンドは民主主義陣営が勝利しました。
第2ラウンドは、3月のロシアの大統領選です。
専制国家らしく対立候補がいないというのですから、「選挙のようなもの」というべきでしょうか。
100%プーチンが再選が再選されて、次の任期は2030年までです。
そのうち憲法をいじって永世大統領にでもなるかもしれません。
問題はむしろ、どこの範囲まで選挙をするのかですが、プーチンとしては22年に「併合」を宣言したウクライナの4州でも選挙する構えです。か
大統領選を使って既成事実の積み重ねをしていき、それを国民と国際社会に見せつけるというだんどりです。
第3ラウンドは、5月に予定されているウクライナ大統領選挙です。
これは実施されるかどうかは不透明ですが、戦況が膠着してしまい、政府内部の内紛が絶えない状況ですから、かならずしもゼレンスキーが有利とはいえません。
「ゼレンスキー氏は2019年大統領選で初当選し、来年5月に1期5年の任期切れを迎える。ウクライナ政府はロシアによる侵略開始と同時に全土に戒厳令を敷いており、戒厳令下では国政選挙の実施が禁じられている。ゼレンスキー氏が大統領選の延期を示唆したため、戒厳令は今後も議会の承認を得て更新される公算が大きくなった」
(読売11月7日)
ゼレンスキー大統領、来春の大統領選挙の延期を強く示唆「今は適切な時期ではない」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
第4ラウンドは、これがある意味で本番ですが、11月には米国大統領選挙が行われます。
現在の情勢では、トランプの立候補する権利を連邦最高裁が否定しないかぎり、トランプvsバイデンという組み合わせの一騎討ちとなるでしょう。
不人気なバイデンを担ぐ民主党は、隠し玉としてミシェル・オバマを引っ張りだすという動きもあるようで、彼女が出ると一気にわからなくなります。
私はもうトランプはこりごりですので、ニッキー・ヘイリーでも出てくれないか、というのが私のひそかな願いです。
ちなみに、民進党は本来リベラル政党ですし、副総統の蕭美琴(しょう びきん )は駐米大使(台北駐米経済文化代表処代表 )で、民主党政権とは懇意の仲でしたから、民主党政権のほうが相性がいいでしょう。
あとは2月にインドネシア大統領選、6月にメキシコ大統領選が用意されています。
そして4月から5月にかけ「世界最大の選挙」インド総選挙が行われます。
9億とか10億という単位のすさまじい規模の選挙が見られることになります。
6月には、 EU「ヨーロッパ議会」選挙があります。
極右の進出が目立つ中、どうころぶか次第でウクライナ支援の風向きが替わりかねません。
台湾与党、副総統候補に蕭美琴氏 | 中国新聞デジタル (chugoku-np.co.jp)
さて、このように国際社会が流動化する中で、ここだけは食い止まってほしいと願った最大の選挙が、この台湾総統選挙でした。
民進党は辛勝だったと思います。
なんせ、対抗馬2人が野党連合を組むといってスッタモンダで失敗。
去年11月に浮上した合作案ですが、これが成功していれば、総統選はどうなったかわかりません。
読売
「【台中(台湾中部)=園田将嗣】台湾の野党2党が総統選の候補一本化で電撃的に合意した背景には、候補乱立で支持が分散したままでは共倒れに終わり、勝利につながらないとの危機感があった。両党の掲げる政策には温度差があるが、政権交代を目指す一点で一致し、小異を捨てて大同につく共闘の道を選んだ」
(読売11月16日)
台湾総統選で野党共闘、共倒れ回避…政策に温度差不安も : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
福島香織氏にいわせれば、当然の失敗だったそうですが、民衆党はこれで失速し、大勢は大きく民進党に傾いたところに、追い打ちをかけるように馬英九が見事なまでのオウンゴール。
この馬の放言については昨日書きましたが、時代を読めていないオールド権力者の哀しい性なのか、それとももっとバックがあるのでしょうか。
福島氏はこう述べています。
「野党連合の背後に中国習近平政権の目論見があったとすれば、二つの可能性があります。習近平がおバカで、台湾の実情、有権者心理を理解していなかったので、馬英九や郭台銘を使って野党連合を画策した。
馬英九や郭台銘は台湾有権者にほとんど信頼されていない、どころか国民党内でも信頼されていないということを、習近平はわかっていなかったから、その目論見に失敗した」
(福島香織中国趣聞NO.944:民進党勝利の要因と歴史的意義)
つまり習近平が馬鹿だったために常套的手段に頼ったというものです。
いつもの中国の手口である脅迫的言辞や、時にはミサイルをぶっ放してみたり、軍事演習で台湾島を包囲したりしました。
古くは、李登輝時代にも訪米したことを怒ってミサイルを発射しています。
「李氏は95年に訪米し、母校コーネル大学で台湾の存在を世界にアピールする演説を行った。訪米は密使ルートで事前に伝えていたが中国は激しく非難し、ミサイル演習で威嚇した。
96年の初の総統直接選挙でも、中国は李氏の得票を減らそうとミサイルを発射したが、李氏は「空砲だ。恐れることはない」と住民を鼓舞した」
FOCUS:「空砲だ。恐れることはない」中国のミサイルにも動じなかった李登輝元総統 中国を翻弄したその「スパイ網」の正体 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)
蔡英文の訪米時にも同じような軍事恫喝をしており、もっとも大規模だったのは、2022年8月のペロシ米下院議長の台湾訪問への抗議として行われた人民解放軍の総力を上げた大軍事演習でした。
海軍、空軍、ロケット軍、戦力支援軍、統合後方支援軍が参加した台湾周辺の6箇所の空域及び海域での大規模な軍事訓練を行いました。
このときには、波照間島近海に着弾しています。
こういうことをやってきた中国が手をこまねいて総統選挙をながめている道理はなく、議員を中国に呼んで利権をチラつかしてみたり、大量のフェーク情報を流布したりと忙しく、その規模は今までで最大のものだったそうです。
これについては別途に記事にしようかと思っています。
その締めくくりとして台湾最大のパンダハガーの馬英九を使って野党連合をつくらせてみたり、中国式模範回答をしゃべらせたりした、というものです。
中華帝国は内向きな国で、しかも中南海にこもっている独裁者は正しい情報が持っていないのかもしれません。
もう一つは、もっとうがった説です。
これを言っているのは、産経の名物特派員だったあの元台北支局長の吉村剛史氏です。
ヒゲヅラの大男というお姿は、よくユーチューブで拝見します。
吉村氏の説はこうです。
「習近平は我々が想像する以上の頭脳派で、馬英九を使って、わざと国民党を負けさせ、民進党を勝たせた。野党連合を画策させるとみせかけて、わざと失敗させ、民衆党と国民党の有権者対立を生むことによって「棄保」(勝てそうな候補に票を集めて民進党に勝たそうとする有権者行動)を防ぎ、三つ巴戦を維持させた。馬英九の「習近平を信じるべきだ」発言によって、国民党の信頼を貶め、民進党総理に寄与した。
習近平の中国にとっては国民党政権より民進党政権の方が都合がよい。なぜなら国民党は表向き中国との対話をよびかけており、習近平は残り任期3年のうちに台湾を強引に統一しようにも、武力を使いにくい。でも、民進党ならば独立派として武力行使の口実を見つけやすい」
(福島前掲)
うーん、ありそうですが、考えすぎなんじゃないでしょうか。
民進党に勝たせるのは、中国にとってリスキーにすぎます。
これまでの2期の民進党政権は非常に慎重で、独立の「ど」の字も口にしない兎のような神経を持っています。
民進党の外交路線は決して冒険的ではなく、一言でいえば、ステータスクオ(現状維持)です。
侵略を受けるような不用意なことはいっさい国しない、米国の支持を常にキープする、同じ立場の日本との連帯を大事にする、そういう賢さを持っています。
ですから、今回も習近平のお馬鹿で自滅したというのが妥当な見方ではないでしょうか。
そしてなにより、台湾総統選挙は牙をむく専制主義国家に対して、民主的方法によって指導者が選ばれたことこそが重要です。
民主主義こそがもっとも厚い防壁なのです。
そしてこの台湾と言う民主主義の防壁が守られたことは、沖縄にとってもうれしいことでした。
「台湾が中国に吸収されれば、沖縄・八重山は台湾という緩衝地帯を失い、巨大な独裁国家と直接的な対峙を余儀なくされる。県民として、ことさら「一つの中国」に反対したり、台湾独立を支持するわけではないにせよ、台湾の民意にそむく形での統一は「沖縄としても受け入れらない」との意思を明確にすべきだろう」
(八重山日報1月16日)
【視点】頼氏当選 台湾との連携強化を(八重山日報) - Yahoo!ニュース
まことにそのとおりです。
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吉村さんの説は面白いけれど、今しばらくは人民解放軍は闘える状態にないというのが通説でしょう。
けれど、頼総統の誕生で今後とも台湾に対する恫喝圧力を弱める必要はなく、さらに脅しをかけやすいという意味では国民党相手よりもやりやすい面がある、といった解釈も出来るのでは? という話ですかね。
台湾国民が「脅しに屈する」という事はないと思いますが。
また、相手国の「分断」は常に中共が企図するところ。民主主義国最大の弱点だと信じています。
頼総統の国会運営はきびしいものになりそうですが、民衆党も国民党も一国二制度にはNOを公約として言っています。そう簡単に習近平の思い通りになりゃしません。
台湾を民主主義の「防波堤」と言っては台湾国民に失礼ですが、緩衝地帯の役目を担わされているのは間違いありません。
日本政府は大胆かつスピーディーに台湾を支援・援助出来る仕組みを構築するべきで、それそのものが先島の私たちの安心にもつながります。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年1月16日 (火) 21時32分