国際司法裁判所、判決出る
南アフリカが提訴していたイスラエルのジェノサイドについて、国際司法裁判所(ICJ)の判決が出ました。
「イスラエル軍によるガザ地区への攻撃が、パレスチナ人に対するジェノサイド、集団殺害などにあたるかどうかが争われている訴訟で、国際司法裁判所はイスラエルに対して、判決を言い渡すまでの間、住民の大量虐殺などを防ぐため、あらゆる手段を尽くすという、暫定的な措置を命じました。一方で裁判所は焦点となっていた軍事作戦そのものの停止は命じませんでした」
(NHK1月26日)
国際司法裁 イスラエルに暫定措置命じるも軍事作戦停止命じず | NHK | イスラエル・パレスチナ
この南アフリカの提訴に対して、イスラエルは敏感に反応し、直ちに受けて立つ方針を固めました。
そりゃそうでしょう、イスラエル人が一番使われたくない「ジェノサイド」という言葉を使って、こともあろうにユダヤ人国家が提訴されたからです。
忘れられてきていますが、イスラエルはこのジェノサイドから生き残ったユダヤ人によって建国された国家なのです。
あらためてシェノサイドについておさえておきます。
ジェノサイドとは軽く使われていい概念ではありません。
ジェノサイドとは | ホロコースト百科事典 (ushmm.org)
「12日の口頭弁論では、イスラエル側共同代理人のタル・ベッカー氏が冒頭陳述を行い、「集団殺害とみなされる行為があったとすれば、それはイスラエルに対して行われたもの」と指摘した。
さらに、「ハマスが繰り返すと公然と宣言している10月7日の虐殺と、現在も続いているガザからの攻撃に対して、イスラエルは自国民を守り、人質の解放を確保するために、あらゆる合法的な措置をとる固有の権利を有している」と主張した。
ベッカー氏は最後に、「イスラエルはハマスのテロリストと戦っているのであって、一般市民と戦っているのではない」と述べ、「南アによる申請は名誉棄損として却下されるべきだ」と締めくくった」
(ジェトロビジネス短信1月15日)
ガザでの集団殺害の提訴を巡り、国際司法裁判所でイスラエルが反論(パレスチナ、オランダ、イスラエル、南アフリカ共和国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ (jetro.go.jp)
イスラエルはパレスチナと戦っているのではなく、あくまでもハマスという凶悪なテロリストと戦っているのだ、という主張です。
この部分を意図的に落として情緒的に「パレスチナ人2万5千人が虐殺された」というすり替えが行われていることに、イスラエルは抗議したのです。
イスラエルに、パレスチナ人を民族的に滅亡させようという意志はありません。
あったのは、過剰な民間人の死傷者に現されるような「巻き込まれ」なのです。
これをどう判断するかが、この裁判の焦点でした。
2日間の審理で、1月26日、15人の判事(1人はイスラエル人判事)は、イスラエルがガザでパレスチナ人に対してジェノサイド(大量虐殺)を行っていると訴えたことについて、15対2で、「妥当性」がある、つまりありうると認めました。
ひとりがイスラエル人なので、判事のほぼ全員が「可能性がある」としたことになります。
「ICJは特に、パレスチナ住民を殺害したり、肉体的・精神的に深刻な危害を加えたり、部分的あるいは全体的に物理的破壊を引き起こすために「生活の条件」を故意に破壊するなど、「集団としてパレスチナ住民を破壊しようとする意図を持った行動を取ってはならない」と命じた。
ICJは、イスラエルが「ジェノサイドを犯しうる直接的で公開的な扇動」も防いで処罰し、ガザ地区に必要な援助をより緊急に支援しなければならないと命じた。ICJの暫定措置は、最終判決が出るまでさらなる被害を防ぐための一種の仮処分命令だ。ジェノサイドの疑いそのものに対する本案判決の結果が出るまでには、今後数年かかる可能性もある」
(ハンギョレ1月29)
国際司法裁判所の「イスラエルへのジェノサイド防止命令」、安保理で論議へ(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース 。
このことについて、イスラエルは重く受け止めねばなりません。
いかにハマスが人間の楯を使った卑劣な方法で民間人を危機にさらしているとしても、2万5千人とも言われる死傷者はあまりにも多く、あまりにも悲惨です。
「パレスチナ自治区ガザの保健当局は21日、イスラエルとイスラム組織ハマスによる10月の戦闘開始以降、パレスチナ側の死者が2万5000人を超えたと発表した」
(ロイター1月22日)
ガザの死者2万5000人超、イスラエル・ハマスの戦闘開始後 | ロイター (reuters.com)
ここで出てくる 「ガザ保健省」がハマスの支配下にあり、 かつ、パレスチナ側死者の中にはハマス戦闘員が7千人以上いたとしても、耐えがたい死者数です。
今のイスラエル軍の掃討戦は「殺戮」のようになっているのは事実です。
特に、戦場の大部分が市民が居住する市街地での戦闘にもかかわらず、シナイ半島で使われたような大規模な空爆を戦術としたことは強く非難されるべきです。
国際社会はこれ以上死者を容認しないということです。
少なくとも、ICJはそう見ています。
しかし同時にICJは「停戦」を命じてはいません。
つまり、言い換えれば判決文が言う「パレスチナ住民を殺害したり、肉体的・精神的に深刻な危害を加えたり、部分的あるいは全体的に物理的破壊を引き起こすために生活の条件を故意に破壊するなど、「集団としてパレスチナ住民を破壊しようとする意図を持った行動」をとらねば、イスラエルがハマスと戦い続けることを認めています。
つまりイスラエルのガザにおける戦闘は、国家の自然権である自衛行為であることを認めているといってよいでしょう。
たぶん反イスラエル系は判決の「ジェノサイドの可能性がある」という部分だけを切り取ってプロパガンダするでしょうが、ちゃんと後段で戦闘自体は認めているのです。
ICJが判決で言っているのはそのやり方です。
イスラエルはジェノサイドにならないよう、最善の措置を講じなければならない」とし、イスラエルに対し、1ヶ月後に以下の点を改善するかどうかを見てから再び状況を判断する、という暫定措置だということは、改善すれば継続可能だということです。
その意味では、南アの望むようなイスラエル制裁を回避したバランスがとれた判決です。
イラエルに課された内容は以下の通り。
イスラエルが一番恐れていた即時停戦は判決には盛り込まれませんでしたので、イスラエルの半ば勝訴といってよいのかもしれません。①イスラエル軍はジェノサイド(大量虐殺)をしないと保証すること。
②イスラエル政府内の閣僚による大量虐殺を先導するともとれる発言に処罰を与えてこれを阻止すること。
③ガザの厳しい人道状況を改善する緊急措置を講じること。
④ジェノサイドに関する証拠隠滅をしないこと。
⑤これらについて一月後に報告すること
国際司法裁判所:即時停戦は命じず「ジェノサイド」の可能性は否定せず 2024.1.27 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
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南アは「即時停戦」を求めて訴訟を提議したのであって、その理由が「ジェノサイドだから」というものでした。
仮にイスラエル側に個々人の戦争犯罪があったとしても、「計画的かつ、意図して民族や集団を破壊」しようとした事実などあろうはずもありません。今後もそのような証拠が出る事はないでしょうし、安保理で責任を問われる事もないでしょう。
一方、「即時停戦」を目的とした南アの訴訟上の目論見ははずれ、イスラエルの「戦いの正当性」そのものが逆に認められる結果となりました。
しかし、イスラエルの「戦い方の正当性」の方は疑問符が付くカタチとなって、具体的な戦闘行動に一定のカセがハメられる結果となった。
もとより偽善的な南アやイラク側の訴訟の政治的ねらいはそこにあって、世論や宣伝戦に弱いイスラエルは物量や最新兵器を用いた大げさな攻撃を慎まざるを得ないという事になりそうです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年1月30日 (火) 05時59分
>ガザの保健当局
実態は「ハマスのスピーカー」なので、死傷者数を「盛って」発表している可能性があるので注意が必要かも。
投稿: | 2024年1月30日 (火) 10時25分