徐々に方向転換しようとしているイスラエル
イスラエルが微妙に方向を転換しています。
まずは国防相のガラントの発言です。
「パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐり、イスラエルの国防相は北部で大規模攻撃から標的を絞った作戦に移行する方針を示しました。
イスラエルのガラント国防相は4日、ガザ地区での戦闘の今後の見通しに言及し、南部ではイスラム組織ハマスの壊滅に向けた攻撃を継続する一方、北部では標的を絞った作戦に移行する方針を明らかにしました。地下トンネルの破壊や特殊部隊による攻撃が含まれるとしています。
民間人の犠牲を減らすよう求める国際社会の圧力や、予備役の動員による国内経済への影響があるとみられます。
ガラント国防相はまた、戦闘が終結したあとのガザ地区の統治について「パレスチナ人が責任を持つ」と強調しました。一方で、治安維持のため、イスラエル軍がガザ地区で自由に活動できるようにすべきだとしています。
ガザ地区では年明け以降も連日100人以上が犠牲となっていて、ガザ地区保健当局は4日、過去24時間で少なくとも125人が死亡したと明らかにしました」
(日テレ1月5日)
イスラエル国防相 ガザ北部で“標的絞った作戦に移行”方針示す - YouTube
実はこのガラントの戦後処理の考えは、ネタニヤフと異なっています。
共に一定期間軍事占領せねばならないところまでは一緒ですが、ネタニエフは戦後もガザにイスラエルが「関与し続ける」としています。
このネタニエフが言う「関与」とは、ネタニヤフが12月12日の演説で言う「ガザは『ハマスタン』にも『ファタハスタン』にもならない」という意味で、ガザをハマスだけではなく、自治政府の主流派ファタハにも渡さないという意味です。
これは2005年のようなガザの軍事的占領を繰り返すことを意味します。
「パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘をめぐり、イスラエルのネタニヤフ首相は6日、戦後のガザ統治について、イスラエルが安全保障の責任を負う考えを示した。戦闘開始から1カ月となり、ガザへの攻勢を強めるなか、ハマス排除後の自国防衛のため、イスラエルがガザに関与し続ける考えを初めて明確に打ち出した。
イスラエルは1967年の第3次中東戦争でガザ地区を占領。2005年にガザから軍を撤退させた後もガザ境界を封鎖し、人やモノの出入りを厳しく制限してきた。バイデン米大統領は、イスラエルが05年以前のようなガザ占領を繰り返すのは「大きな過ち」と述べている」
ネタニヤフ氏、戦後のガザへの関与明言 「イスラエルが安保に責任」 [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
では、イスラエルの最大の後ろ楯である米国の考えはどうなのでしょうか。
ブリンケンは頻繁にイスラエルと中東諸国を行き交いながら、なんとかこのハマス・イスラエル戦争をソフトランディングさせようとしてきました。
つい先だっての1月に中東9カ国とイスラエルへの訪問をしています。
驚異的なハイスピードで、これほどエネルギッシュな国務長官は見たことがありません。
この中で、米国の和平案が見えてきました。
やや長いですが、イスラエルポストから引用します。
イスラエルポスト
「パレスチナ国家への道筋を提供することは、より広い地域を安定させ、イランとその代理人を孤立させる最善の方法だと、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は木曜日、カイロでのガザ戦争をめぐる熱狂的な地域歴訪を終えた際に述べた。
イスラエルとアラブ諸国の間を行き来するブリンケン国務長官は、紛争がレバノン、イラク、紅海の航路にさらに広がる恐れがあるにもかかわらず、ガザでの流血から前進する方法を推し進めてきた。
ブリンケン国務長官は、エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領との会談後、記者団に対し、この地域は2つの道に直面していると述べ、1つ目は「イスラエルが統合され、地域諸国と米国、そしてパレスチナ国家からの安全保障の保証とコミットメント、そしてパレスチナ国家が統合される」と述べ、
「もう一つの道は、テロリズム、ニヒリズム、ハマス、フーシ派、ヒズボラによる破壊を、すべてイランが支援するのを見続けることだ」と彼は述べた。
「最初の道を進むと...それこそが、イランを孤立させ、疎外し、我々にとっても、この地域の他のほとんどすべての人にとっても、非常に多くの問題を引き起こしている代理人を疎外するための唯一の最善の方法だ」
(イスラエルポスト1月11日)
ブリンケン国務長官:イスラエルがパレスチナ国家への道筋をつけることは、孤立化するための最良の方法である - エルサレム・ポスト紙 (jpost.com)
ブリンケンは、戦後のガザの復興が中東諸国の支持によらないと失敗するだろうと述べています。
そのためには、イスラエルとの経済的一体化は必要だが、政治的には「独立したパレスチナ国家」の創設に向かわねばならないとしています。
そしてその道だけが、この地域の紛争の元凶であるイランを孤立化させる唯一の道だとしています。
日本の中東屋の学者先生は、イランと等距離外交をすることこそが日本の生きる道みたいなことばかり言っていますが、とんでもない。
イランの影響力を中東から排除し孤立化させることだけが、中東安定化の唯一の道なのです。
かつて安倍氏がイランとの協調外交をとった時、ポンペオもトランプも、「あのアベでも間違えるのだ」とため息をついたそうです。
それはさておき、「統一されたパレスチナ国家」というのは、今の外形的にはファタハが統治し、内実はハマスが強権支配しているパレスチナ自治政府とは異なる「パレスチナ国家」を作るという意味だと思われます。
ここで登場するのは、おそらくブリンケンとそうとうに突っ込んだところまで一致していると思われるエジプトの戦後処理案です。
なかなかよく出来たエジプトの調停案: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
「第2段階では、パレスチナの諸派閥(主にファタハ党が支配するパレスチナ自治政府とハマス)間の分裂を終わらせ、ヨルダン川西岸地区とガザ地区にテクノクラート政権を樹立し、パレスチナの議会選挙と大統領選挙への道を開くことを目的とした、エジプトが後援する「パレスチナ国民会議」が行われる」
(イスラエルタイムス12月24日)
エジプト、人質解放、戦争終結、ガザ地区にパレスチナ自治政府・ハマス政権樹立の提案を提出 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
冒頭のガラントの発言は、エジプト調停案の「新たなパレスチナ人の自治政府」のためのなんらかの推進母体を作ることを認めたように読めます。
ネタニヤフの強硬一点張りの方針は、ネタニヤフがハマスの襲撃情報を握りつぶしたことがあきらかになるに連れて、イスラエル国内でも批判がでてくるようになっています。
ガラントはネタニヤフと同じファーライトと呼ばれるグループに属しますが、彼をしても方向転換を余儀なくされつつあるようです。
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我が国政府の外交では、ロウハニ大統領時代と比べればの話ですが、ラースィー大統領の今はけっこう塩っぱい印象は持ちます。
それでも、あちらの方は「日本ちょろい」と考えているでしょうね。
日章丸の件以降からの日本とイランの関係(或いは関係と思ってきたもの)を、(イランが悪いのだという形で)破壊できるか。
破壊せずに「あなたが悪い」と、ものが言える存在になるか。
サウジアラビアとの国交仲介、上海協力機構加盟承認、原油・非石油製品いずれにおいてもイランの最大の顧客となる、観光客大量送り込み、などなどで着実にイランとの関係を固める中共。
戦争観を共有し、金融制裁を受ける者どうしの結束を深める働きかけをイランからされているロシア。
各相手が取り得るあらゆる選択肢を覚悟し備えることができないうちは、我が国の方から「日イ関係」のあり様を劇的に転換することはできないのではと思っております。
あらゆる悪い事態に備えられたら、或いは「最悪」にも耐える力を我が国と国民がつけたら、あちらも我が国を「ちょろいぜ」扱いできなくなるわけですが。
投稿: 宜野湾より | 2024年1月12日 (金) 18時45分