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2024年2月

2024年2月29日 (木)

北朝鮮の誘い水に乗るな

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なでしこ勝ちました。おめでとう。なかなか手ごわかった。

北のナンバー2である与正が、直接岸田氏に「拉致問題を議題にしないのなら正恩との首脳会談もありえる」と言い始めました。
与正は若すぎるために肩書は(党中央委員会)副部長のままですが、政治局員(対外担当責任者)として正恩とサシで話せる唯一の人物のはずです。
したがって与正の言うことは、正恩兄の言うことであると見てよいでしょう。

「北朝鮮の朝鮮中央通信は15日、金正恩(キムジョンウン)総書記の妹で朝鮮労働党副部長の金与正(キムヨジョン)氏の談話を配信し、正恩氏との首脳会談に強い意欲を示した岸田文雄首相の発言について、「解決済みの拉致問題を障害物としなければ」と条件をつけた上で、「肯定的なものとして、評価されないはずがない」との見解を明らかにした」
(朝日2024年2月15日)
金与正氏、「岸田首相が訪朝する日も」 拉致問題は議題にしない条件:朝日新聞デジタル (asahi.com)

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読売テレビ

ちなみに、与正は「個人的見解」だとしつつも、日本側が「政治的決断」を下せば、「いくらでも新しい未来をともに切り開いていける」といいながら、正恩ら党指導部は「関係改善に向けたいかなる構想も持っておらず、(日本との)接触に何の関心もないと理解している」とも付け加えてはいます。
ただし「なんの関心もない」なら、与正がいまさらこんなスピーチをする道理がないのです。
これは、岸田氏が訪朝を考え始めていることに対する北のアンサーだと考えるのが妥当です。
どうぞいらっしゃい、罠仕掛けて待ってますからね、というわけです。

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拉致集会で岸田首相「私の手で必ず解決する」 (youtube.com)

岸田政権は4月の米国国賓訪問の後に北を電撃訪問し、「拉致問題の何らかの進展」を得たいという情報を流していました。
とうぜん、こんな情報が出てくるくらいですから、水面下では日朝の秘密交渉で打診していると思われます。

去年は東南アジア某国で2回接触しているようですから、たぶんこの場でも首相訪朝を匂わせたと思われます。

「北朝鮮による拉致問題の解決に向け、日本政府関係者が今年3月と5月の2回、東南アジアで北朝鮮の朝鮮労働党関係者と秘密接触していた、と複数の日朝関係筋が証言した」
(朝日2023年9月29日)
日朝、今春2回の秘密接触 東南アジアで その後の交渉、停滞:朝日新聞デジタル (asahi.com)

容易に予想できるのは、岸田氏が訪朝した場合のお土産は「二人の日本人」です。
この「二人の日本人」とは、田中実氏(政府認定の拉致被害者)と金田龍光氏(特定失踪者)です。
ふたりの共通点は、田中氏と金田氏は共に同じ孤児院育ちで日本には身寄りがなく、金田氏は在日韓国人で、双方ともに国内には身寄りがいないことです。

「田中さんは1949年、神戸市に生まれ。2歳の時に両親が離婚し、児童養護施設に預けられた。神戸工業高校を卒業後、いくつかの職場を経てラーメン店の店員に。78年、28歳のときにラーメン店の店主とともに、成田空港からウィーン行きの飛行機に搭乗後、消息不明となった。27年後の2005年、日本政府が16人目の拉致被害者に認定した。
金田さんは、同じ児童養護施設で育った友人で、「田中さんのところに行く」と言った後、消息を絶っており、拉致の可能性の高い特定失踪者だ」
(ZAKZAK2023年7月1日)
【葛城奈海 戦うことは「悪」ですか】心の闇の深さに慄然…演劇「よそのくに」から考える拉致被害者救出 田中実さんと金田龍光さんを描く 独立国なら2人を取り返すべき(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

このふたりに関して、なぜか北は公式に生存情報を日本政府に伝えています。

「日朝は2014年、北朝鮮が拉致被害者らの調査を行い、随時通報することを盛り込んだ「ストックホルム合意」を結んだ。
当時、外務事務次官だった斎木氏は朝日新聞のインタビューに対し、北朝鮮から田中さんや金田さんの生存情報が提供されたと報じられていることについて、「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りだ。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取らなかった」と証言。インタビューは今年9月17日に朝日新聞デジタルで報じた」
(朝日2022年10月13日)
元外務次官の拉致被害者「生存情報」証言、林外相は「答弁控える」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

北はこのふたりを返してもいいという意思表示をだいぶ前からしており、日本側がその情報の受け取りを拒否したということは、裏を返せば日本政府は、このふたりが北のエージェントである可能性をぬぐいきれなかったからだと考えられます。
ふたりとも海外で誘拐されるか、あるいは自分の意志で北に入国したと思われます。
北は拉致被害者を必ず結婚させていますから、すでに結婚して家族もいるはずで、生活の根は向こうにあります。
望郷の念があるかどうかはわかりませんが、こうまで北が差し出してくる以上、いったん帰国してもまた舞い戻ることになるでしょう。

ではなぜここで2名を返してくるのでしょうか。
北の代弁者をしている有田ヨシフは、2020年10月26日の参院質問書でこう述べています。

質問主意書:参議院 (sangiin.go.jp)

九 政府は帰国していない十二人の政府認定拉致被害者に序列をつけているのですか。ありていにいえば横田めぐみさんや有本恵子さんたちの生存と帰国のめどが立たないうちは、田中実さん、金田龍光さんの生存確認はしないということですか。拉致問題解決への道筋のなかでの田中実さん、金田龍光さん個人の位置づけについて明確にお答えください。

なるほどね。有田は、横田めぐみさんや有本恵子さんのような拉致被害者の象徴的な人たちより、北が返すといっている田中氏と金田氏を先に返してもらえ、そうすれば拉致問題は締めくくりだ、と言っているわけです。
つまり、このふたりを返してもらえば、それで拉致問題というのどに刺さったトゲは抜けて、さぁ制裁解除だ、日韓基本条約で韓国に与えた援助と同等のものを北にも寄こせという段取りになります。

元北朝鮮外交官・太永浩氏はこう述べています。

「もし首脳会談で拉致問題が議題に上がるのであれば、北朝鮮の外交戦術としては、『日本側が提起していない2人の日本人が北朝鮮にいるので、日本側が要求すれば日本に帰国させることはできる』ということを示唆するかもしれません。
第一段階として、今、北朝鮮が帰国させることができると言っている2人をまず連れて帰る。そして、北朝鮮が『拉致問題は完全に解決済み』という立場から一歩後退し、『今後、北朝鮮がこの問題を再び調べ直してみてからまた会おう』といったように、少し余地を残すような外交戦術を北朝鮮が使うかもしれません」
「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」|ウェークアップ|読売テレビ (ytv.co.jp)

まぁ、そのとおりでしょう。
安倍氏の時代からこのような誘い水はあったようですが、安倍氏はその手には乗りませんでした。
副官房長官として行った小泉訪朝時の体験から、北のやり口を熟知していたからです。 
今回の与正の誘いも危険な罠です。
与正は、「2つの国が近づけない理由はなく、岸田首相が平壌を訪問する日が来るかもしれない」と言っており、その唯一の障害が拉致問題だと認めています。

岸田氏はこのピョンヤンの誘いに乗る可能性があります。
というのは、有田にせっつかれなくとも、岸田氏は外務大臣当時、斎木外務事務次官と連れ立って官邸を訪れ、田中さん、金田さんの一時帰国と、それ以外の拉致被害者に関しては日朝合同調査委を設置するという案を進言しているからです。
つまり2名先行帰国案です。
これを認めてしまえば、拉致問題は事実上の幕引きとなることはわかりきったことですから、安倍総理はにべもなく拒否したそうです。
今回も安倍氏が存命だったら止めろと言ったことでしょうが、落ち目の支持率をなんとかしたい岸田氏は乗るかもしれません。
うちの首相が、妙に決意を込めて「拉致問題は私の手で」なんて言っているのを聞いていると、正直ゾっとします。

 

 

 

2024年2月28日 (水)

ウクライナ戦争の舞台裏でしのぎを削る南北朝鮮

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ご承知のように 現在、北朝鮮はロシアに防大な軍事支援を送っています。
その供給量もハンパではなくなんと100万発。
大砲こそ生命、戦場の女神とあがめるロシア軍の実に2カ月分だそうです。

というか、たった2カ月分。
いくらあっても足りませんから、正恩はここにビジネスチャンスを見つけたのでしょう。

「米紙ワシントンポストは4日、今年のウクライナ戦争の膠着状況を振り返る深層企画記事で、韓国製の155ミリ砲弾がウクライナに間接支援された過程を紹介した。その量は最大で33万発に上る。一方、北朝鮮はロシアに100万発の砲弾を提供したとされる。ウクライナ戦争はなお長期化の様相を見せている。今後も朝鮮半島からの直接間接の弾薬供給が続く可能性は高い」
(デイリーNK2022年12月6日)
ウクライナに30万発の韓国製砲弾、ロシアには北朝鮮から100万発…米紙など報道 #専門家のまとめ(高英起) - エキスパート - Yahoo!ニュース 

同じように、ウクライナと東欧に商機をみつけたのが韓国です。
すでに全欧より多い33万発送ったそうです。
そればかりではなく、ウクライナと国境を接するポーランドに猛烈な売り込みをしています。

「 韓国は、同国史上最大となるポーランドとの137億ドルの武器契約を活用し、巨大軍産複合体の基礎を築こうとしている。両国の軍需企業が期待するのは、遠い将来にわたって欧州の武器需要を満たすことだ。
韓国の国防省によると、同国の昨年の武器売却額は前年の72億5000万ドルから170億ドル以上に急増した。昨年は西側諸国がウクライナへの武器供与に奔走し、北朝鮮や南シナ海などでも緊張が高まったという背景がある」
(ロイター2023年5月30日)
焦点:韓国が武器製造でポーランドと大型提携、巨大軍産複合体目指す | ロイター (reuters.com)

どうやら韓国はポーランドの耳に、ただウクライナに砲弾を供給するだけでなく、韓国とジョイントすることで 東欧圏の武器を丸ごと韓国に引き寄せようぜ、とささやいたようです。
こういうマネはわが国には逆立ちしてもできないので、ひたすらやるねと思います。

「北大西洋条約機構(NATO)の主要メンバーであるポーランドとの昨年の武器取引には、多連装ロケット砲「チョンム(Chunmoo)」、K2戦車、K9自走榴(りゅう)弾砲、FA―50戦闘機など併せて数百基・両が含まれていた。その金額と数は、世界屈指の防衛産業の中でも際立っていた。
韓国とポーランドの当局者らは、両国の提携はウクライナ戦争後も欧州の武器市場を制覇することにつながると言う。韓国が高品質の武器を他国より迅速に提供し、ポーランドが製造能力と欧州への販売パイプを提供する形だ」
(ロイター前掲)

これは武器供与に息切れが目立ち始めた米国にも喜ばれているようです。

「米紙ワシントンポストは4日、今年のウクライナ戦争の膠着状況を振り返る深層企画記事で、韓国製の155ミリ砲弾がウクライナに間接支援された過程を紹介した。今年初め、米国の生産量では月に9万発以上が必要なウクライナの需要の10分の1強しか満たせないという判断が出ると、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安保補佐官は、弾薬を大量に保有している韓国に目を向けた。
韓国は、155ミリ自走砲の世界最大の保有国であるとともに、頻繁に行われる大規模演習のため砲弾の消費量も多く、その需要を満たすため備蓄量・生産量ともに大きいという特徴がある」
「ウクライナに送られた韓国製155ミリ砲弾、欧州全体より多い」最大33万発、米紙報道 | NKR (nkreport.jp)

米国は米国で、武器庫がカラッポになりかけてしまい、仮に中国方面が緊張した場合エライことになると心配したようです。

「米国などからの兵器がウクライナの「命綱」となる一方、前例のない規模の軍事支援を続けた結果、在庫が逼迫(ひっぱく)しはじめた。米行政管理予算局国防総省の予算戦略や兵器の調達を担当した米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は、「一部の兵器については、戦争計画を立てる担当者が『作戦に対応できなくなるのではないか』と心配する水準まで減っている」と話す」
(朝日2023年1月1日)
ウクライナに武器支援で在庫が逼迫 NATO「盆栽軍」の備えに懸念 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)


そもそも、このようなヨーロッパ危機はNATOがガツンと防ぐべきでした。
ところが、ウクライナが加盟国でないことで部隊派遣は論外、いくつかのハイテク兵器は送ったものの、量がモノをいう戦場ではすぐにすり潰されてしまいました。
鳴り物入りで供与されたドイツ自慢のレオパルト2も、大きな力にはなっていません。
現地の整備能力が追いつかないようです。

「ウクライナからの熱望を受け、ドイツがレオパルト2を18両供与したのは昨年3月。12月にリトアニアの戦車修理工場を訪れたドイツ「同盟90/緑の党」のセバスチャン・シェーファー議員によれば、整備不良などで現在戦闘に使用可能なレオパルト2は数両しかないという。
戦闘による破損や、それがなくても消耗による修理・整備が必要になるが、リトアニアの修理工場では部品が足りていない。
独誌シュピーゲルによれば、シェーファーは配備可能な戦車は「数両」しかなかったとラインメタル社を含む独軍需企業に通知。ウクライナ軍は自力で修理を試みたが、ダメージを拡大させただけだったという。リトアニアの修理工場側は、修理には「長期間」かかるとしている」
(ニューズウィーク2024年1月10日)
実はほとんど機能していない...ウクライナ供与の独戦車「レオパルト2」に衝撃の事実が発覚(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

NATOの場合、トランプが飽きずに怒っているように、数十年にわたる軍備への過少投資の結果、NATO諸国は弾薬庫の備蓄が半分かそれ以下の状態でした。

しかもNATOは「いる時にいるだけ提供」という市場経済の方法をとっていたために、砲弾の製造が追いつかないことになりました。
こんな状態で、ウクライナ戦争が始まったためにたちまちに武器の備蓄が消耗し始めました。


「(NATOのロブ・バウアー軍事委員長は)大量に必要だ。我々が自由主義経済圏で30年間築き上げてきたジャスト・イン・タイム、ジャスト・イナフ(必要な時に必要なだけ提供する)経済は、多くのことに適している。しかし、戦時中の軍には適していない」
イギリスのジェイムズ・ヒーピー閣外相(国防)も同じフォーラムで、西側の軍事備蓄は「少し手薄に見える」と発言。NATO同盟国に対し、約束通り国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てるよう求めた。
「欧州で戦争が起きている今が、防衛に2%を振り向ける時期でないとしたら、いったいいつなのか」と、ヒーピー氏は問いかけた5
(BBC2023年10月4日)
西側諸国、ウクライナに供給する弾薬が不足 NATOと英高官が警告 - BBCニュース

つまりNATOは、ハッキリ言って、「戦えない組織」いわゆる張り子の虎になりかかっていたようです。
その張り子に空気を吹き込んだのが韓国だったというわけです。

一方北朝鮮です。
北はビッグビジネスとばかりに大張り切りしたところまでは韓国と一緒でした。
死蔵していた砲弾をジャンジャン売りましたが、その粗悪ぶりがバレはじめています。
そして弾道ミサイルも、供給も始めたと聞いたとき、あれあれあんなパッチモンで大丈夫かいな、と思ったのですが、案の定だったようです。

送ったのはイスカンダルもどきのパクリだったことが、残骸から確認されています。
ロシアを支えているのは北朝鮮製兵器: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

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デイリーNK

このハルキウに着弾したロシアの弾道ミサイルの気圧計の部品には、ハングル文字が記されていました。

「CARが現地調査で発見した新たな事実です。「2月11日工場」は北朝鮮の咸興南道にある龍城機械連合企業所の工場名で、「112」が2月11日工場を指すと考えたのは日付の表示形式が日/月/年の順番になるイギリス的な発想だと思われますが、しかし北朝鮮の日付けの表示形式は年/月/日の順番です。「112」が2月11日工場を指すかどうかはCARも可能性があるという表現に止まっています」
(JSF1月21日)
ハルキウで発見された北朝鮮製KN-23弾道ミサイル(推定)の直径は110cm、イスカンデルMより太い(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

しかしなにぶん北朝鮮製の砲弾は不発や暴発が多くてロシア軍砲兵の恐怖の的になりかかっているようで、開けてビックリ中にあるべき配線がなかったりしたものが多く見つかったようです。
大いばりで送ったイスカンダルもどきも、うたい文句は変則軌道を飛行することから迎撃が困難であるということでしたが、変則軌道が過ぎてトンデモの方角に飛んでいってしまったようです。

「同氏によれば、「まず1月2日の『火星-11』はハルキウ市内に向けて発射されましたが、目標物と推定されていた工場建物の代わりに、アパートとアパートの間の広い空き地に落ちました。 2月5日、同じくハルキウ市内に発射された火星-11は、市内ではなく市内から5キロ以上離れた郊外農村の廃墟の建物に落ちた」という。
また、「2月15日にキーウに向けて発射された『火星-11ナ』もやはり都心ではなく北部の山林地帯に落ちて巨大なクレーターを作りました。弾着が確認された3発のうち2発がキロ単位の誤差が出たということは、事実上、目の見えないミサイルだという話ですが、これは最悪の命中率を嘲笑された旧ソ連の初期型スカッドミサイルにも劣る水準」だとしている。
同氏は北朝鮮製ミサイルがこうした劣悪な性能を見せた原因について、姿勢制御システムの劣悪さや、目標への軌道を維持する電子工学原点照準システムの欠如、またウクライナ軍によるジャミング(電波妨害)の可能性を挙げた」
(デイリーNK2022年12月6日)

どうやら北朝鮮はうなるほど砲弾を溜め込み、ミサイルも持っているようですが、使える代物かどうかはまた別の問題のようです。
ロシアは北の怪しげなミサイルの使用を諦め、イランからのミサイル400発に期待しているようです。

というわけで、ウクライナ戦争の舞台裏では韓国と北がしのぎを削っているようです。

 

2024年2月27日 (火)

中国と一蓮托生のドイツ

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さて、4番目のドイツのビジネスモデルです。
ドイツ政府は去年7月13日に、中国との関係だけに焦点を合わせた「中国戦略文書(China-Strategie)」を公表しました。
特定の国をテーマとする戦略文書は世界でも稀で、ドイツがいかに対中関係で深みにはまっていたのかを自ら証明したことになります。

ドイツは、かつて二度も世界大戦を引き起こした反省として、軍事力を行使せずに経済的関係を深めることで、相手国を変化させようとする関与外交をとってきました。
関与外交(engaged directly )とは、経済進出して相手国の経済と深く関わったり、経済協力により相手方の体制を民主化に誘導する「接近による変化」政策です。

結論からいえば、関与外交はひどい失敗でした。
中露の人権問題に目をつぶった結果、独裁政権を増長させて軍拡に走らせ、西側はなにをしても大丈夫だという妙な自信をもった独裁者たちは、クリミアや南シナ海に乗り出していったのです。

やがて中国は「西欧の押しつけられたか民主主義などいらない。西欧が作った世界秩序もいらない。中国を中心とする世界秩序を作るのだ」というという願望が目覚めてしまいました。
そしてそれを実行する超大国パワーも備わったと彼らに思わせたのが、リーマンショックでした。
中国は混乱が続く自由主義諸国をに追いつき、一気に世界有数の超大国となったのです。
ちなみにこの時期、日本はデフレ地獄にはまったままでした。

このような結果を招き寄せた関与外交は、米国民主党が行い、日本も大規模なODAという形で中国にインフラを提供し、ドイツは東欧圏、ロシア、さらに中国へとシフトしていきます。
ただし日本は対象国の港湾整備、道路・通信などのインフラ整備に対して、ドイツはひたすら経済進出をしていくというスタイルだったようです。
2005年から21年間も続いたメルケル政権は、それを対中戦略として定式化し、経済発展の結果生まれる中間層が中国の民主化を促すという幻想を強く持っていました。

この考えに基づいて、ドイツは中国政府とは親密にし、中国の宗教・人権・少数民族問題などには沈黙を貫きました。
要は、メルケルは、フォルクスワーゲンが売れれば良かったのです。

「現に、ドイツの主力産業である自動車産業の場合、いわゆるBIG3(フォルクスワーゲン、ダイムラー、BMW)の自動車販売の4割程度を中国が占めている。メルケル政権下でのドイツ景気の堅調は、まさしく中国の成長の果実を享受することで実現したのである」
(土田陽介2021年10月22日)
メルケル首相を「中国人の友」と持ち上げる習近平国家主席の魂胆 対中ビジネス依存度の引き下げを提言したメルケル首相だが(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

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JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

またサプライチエーンの鎖で自らをがんじがらめにしました。
結果、ドイツ経済にとって中国市場なくしては成り立たないようないびつな構造を作ったのです。

この光景はプーチンのロシアに対して独露蜜月関係とよく似たパターンで、メルケルなど在任中、中国訪問回数は12回なのに対して訪日は6回、しかもう3回はG7サミットですから実質たった3回というショボさです。
製造業ではライバル関係の上に、デフレで消費縮小していた日本などには用はなかったのでしょう。
とまれメルケルは、ロシアと中国をメタメタに溺愛していたのです。

ドイツの貿易において1990年には1%に満たなかった中国の割合は、2021年には9.5%にまで上昇しました。
一方、ドイツの中国からの輸入額は2013年からの10年間で150%以上伸び、2022年には約850億ユーロの入超となっています。
今や、ドイツにとって輸出入共に最も大きな単一の貿易相手国は中国です。
輸出先としては米国に次ぐ地位にあり、輸入元としては2015年以降7年間、中国は首位を維持しています。

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ドイツの対中戦略を読む:日本企業の欧州ビジネスと中国における競争への影響 | PwC Japanグループ

つい3年ほど前までは、他のEU諸国が中国の軍事膨張にを警戒して関係に距離をおき始めても、ドイツにはこの中国への強依存を改めるきはさらさらありませんでした。

「EUでは経済安全保障上の懸念から中国との関係を見直す機運が高まっているが、ドイツの政財界はそうした声から距離を置いていた。かつてのような高成長が見込みがたいとはいえ、中国経済は着実に発展し、今後も米国とともに世界景気をけん引し続けることになる。中国との良好な関係の維持は、ドイツの産業界の将来にとって必要不可欠だ」
(土田前掲)

そしてさらに関係を深めた結果、今度は中国のヨーロッパ市場の征服を手助けすることになります。
輸出入に変化が見られたのは、中国経済が猛烈な勢いでドイツ製をキャチアップしてしまい逆上陸を開始したからです。
攻守は逆転しまったのです。

いまやドイツはバッテリーや半導体製造で遅れをとり、さらにはメルケルが音頭を取った脱炭素の象徴であるEV市場では、中国製EVに欧州市場を席巻されてしまったのですからミイラ取りがミイラになってしまったというわけです。

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武者リサーチ

「貿易変調の最大の理由は、EV用主体のバッテリーと半導体(太陽光パネル、パワー半導体等)の急増である。中国の対ドイツバッテリー輸出は2020年16億ドル、21年37億ドル、22年80億ドル、対ドイツ半導体輸出は2020年14億ドル、21年18億ドル、22年31億ドルと倍々ゲームで増加し始めた(JETRO「地域分析レポート」)。クリーンエネルギーやEVにシフトすればするほど自動的に対中赤字が増加する仕組みがビルトインされている。
加えて中国EVの欧州急進出により欧州自動車企業は地元でシェアを奪われるリスクが高まっている。中国市場で高成長を謳歌してきたVWなどの欧州自動車メーカーは、今や攻守所を変えて、守る側に立たされつつあるのである。
2023年上期の中国自動車輸出台数は214万台(前年比76%増)のとなり、日本を抜き世界一となった。けん引役は、EVおよび民主主義国が禁輸している対ロシア向け輸出である。中国車のロシアでのシェアは2021年9%から22年37%、23年にはシェア50%を超え100万台に迫ると見られている」
窮地か?ドイツ企業の対中戦略検討とEU | 武者リサーチ (musha.co.jp)

メルケルが始め、バイデンが乗り、いまや世界の常識と化した脱炭素でもっとも恩恵を得たのはまがうことなくこの中国でした。
中国は、不動産バブルで得た有り余るチャイナマネーを、この脱炭素のサプライチェーンに惜しげもなく投入しました。
バッテリー、液晶、通信基地局、太陽光パネル、風力発電部品等には初期の巨額投資が必要ですが、国家財政の大規模投入で次々に世界の競争相手をなぎ倒してきました。
その結果、EVとEV用バッテリーの世界シェアは6割です。
いまやEVや風車、太陽光と関わることは、中国のサプライチェーンに組み込まれることと同義なのです。

「また5,000以上のドイツ企業が中国に拠点を持っています2。中国から輸入する中間製品に依存するドイツ企業の割合は、自動車産業や電気機器産業で70%超、比較的上流に近い化学産業でも40%以上にのぼります。ドイツはEU加盟国やG20諸国と比べても特に、中間財の供給国として、また販売市場として中国の重要性が高い国と言えます」
ドイツの対中戦略を読む:日本企業の欧州ビジネスと中国における競争への影響 | PwC Japanグループ

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 PwC Japanグループ

また中国企業によるドイツ企業買収も盛んで、中国資本は「中国製造2025」で掲げられたハイテク重要産業に集中して買収を重ねました。
このように「地球にやさしい」脱炭素政策は、確実に欧米日の産業に打撃を与え、国の体力を奪い、中国を肥え太らせたのです。

しかしご承知のように、その中国経済もデッドロックに突き当たりました。

「一方中国は深刻な経済困難に陥っている。国内ではバブル崩壊と消費の落ち込みによるデフレ化が進行している。金融緩和が不可欠だが、それは資本流出と人民元安圧力を高める。2022年までウォール街は中国応援団が多数派で、ワシントンの警告を無視して対中投資を積み上げてきた。しかしレイ・ダリオ、ジム・ロジャースなどのパンダ・ハガー(Panda hugger)は中国の独裁恐怖政治の確立、反スパイ法の制定、中国バブル崩壊と経済困難により対中政策を転換し対中投資の回収に走り始めた。これが中国株独歩安の原因となっている」

この中国経済の不動産と株式バブルの崩壊については、先日詳述しましたのでそちらをご覧ください。
中国恒大集団、清算へ: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
中国逃げが始まった: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

とまれ、ドイツはだましだまし進むしかないほど根本的なビジネスモデルの崩壊に瀕しています。
その結果としてのインフレ下の不況(スタグフレーション)という業病に罹患してしまいました。
こんなのでGDP3位になってもうれしかないでしょうな。
わかっていても元には戻れない以上、共に一蓮托生となるのでしょう。
それに引き換え34年ぶりでデフレトンネルから抜けつつある日本。
さて、どちらが健康な経済なんでしょうか。

2024年2月26日 (月)

日本のGDPが世界第4位に、だから?

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先日来、メディアは日本のGDPが世界第4位になったと嬉しげに報じています。
私からすれば、だからなんなのさ、経済はオリンピックしゃないんだぜ、と思いますが、こういう調子です。

「内閣府によりますと、日本の去年1年間の名目GDPは、平均為替レートでドルに換算すると4兆2106億ドルでした。
一方、ドイツの去年1年間のGDPは、4兆4561億ドルと日本を上回りました。
日本の経済規模は、1968年にGNP=国民総生産で当時の西ドイツを上回って、アメリカに次いで世界2位となりました。
その後、2010年にGDPで中国に抜かれ、世界3位が続いていましたが、去年、人口がほぼ3分の2のドイツに逆転され、4位となりました。
日本では1990年代にバブル経済が崩壊して以降、長年にわたって低成長やデフレが続き、個人消費や企業の投資が抑えられてきました」
(NHK2月14日)
日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退 | NHK | GDP 

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ブルームバーク

日本が世界の経済大国の地位から転げ落ちた、ニッポン終了バンザイ、とばかりに朝日は身悶えせんばかりのご様子です。
朝日は、メディアの仕事は国民を落ち込ませ、未来なんぞない、子供も作れない絶望大国だ、と国民に思わせることこそが仕事だとわかっておられます。
さっそく出した記事がこれ。行間から歓喜がにじみ出ています。

「半世紀以上掲げてきた「経済大国ニッポン」の金看板が危うくなっている。昨年の国内総生産(GDP)ランキングで日本がドイツに抜かれ、4位に転落した。
 2010年に中国に抜かれた際と同様のショックと受け止める向きもあるようだが、ノンフィクション作家の高野秀行さんは「日本はとっくに世界の蚊帳の外に置かれている」と語る。世界を飛び回りながら隅々まで見てきた目に、日本の針路はどう映るのか」
(朝日2024年2月15日)
「ニッポンは田舎の終着駅」 GDP4位転落、辺境作家が占う未来:朝日新聞デジタル (asahi.com)

タイトルからして「ニッポンは田舎の終着駅」だもんね。
いちおう経済のことがテーマなのに、めったに日本にいない世界放浪を生業にしている旅行作家が登場して、ニッポンは没落しているぞよ、いまや「辺境の地」と成り果てた、世界は誰もニッポンなんか相手にしてないぞ、廃線駅の裏で草むしりでもしていろ、とのことです。
この人どこを回ってきたんだろう。世界放浪してこういうことをいえる人って、そうとうにレア。

はいはいそれにしても、あまりの朝日節に吹き出してしまいました。
朝日さんはこの20年間、なにかというとこういう時には辺見庸のような作家を登場させて「足るを知れ、成長幻想から醒めよ」とのたもうていましたもんね。
その努力の甲斐あって、めでたくニッポン経済は世界経済の辺境、行き止まりの国となったのでしたとさ。ちゃんちゃん。
ペシミズムに染まってガス管くわえるのは勝手ですが、どうぞ自分の新聞業界だけのことにしておいて下さいな。
あそこは確かに「辺境の終着駅」そのものですからね。

メディアは日本が没落してドイツが躍進したというニュアンスですが、そもそもここからちゃいまんね。
ドイツは名目GDPが、ひどいインフレで水ぶくれしただけのこと。
IMFも「ドイツが3位になったのはインフレのためだよ」と言っています。

ニッポンひとり負け論の熊野英生氏はこう述べています。

「GDPの日独逆転の一因として円安の影響が大きいからだ。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、為替要因に言及した上で、13年の大規模金融緩和以降の円安が「日本のドル表示の経済規模を小さくしている」と指摘。ドイツに抜かれたというよりも「日本の一人負け。実質ベースであれほど苦しんでいるドイツを下回ってしまっている」と語った」
(ブルームバーク2024年2月13日)
日本のGDP、世界4位転落が確実な情勢-存在感低下に懸念の声 - Bloomberg

あれ熊野さん、じゃあ円安止めます?
円安こそ日本の製造業に国際競争力をブーストしたんじゃなかったんですかね。
日本が円安インフレにならなかったのは、輸出力が増して企業業績が好調だからです。
この資本が成長力の弱い日本から逃げていき円安になるという悪い円安論は日経新聞が得意ですが、歴史的経緯を見落としています。
日本の低成長が定着した2010年以降の円高時代には、巨額の資本が成長率が高い海外へと流出しましたが、円高は続きました。
日本の成長力と為替レートはデュアルではないのです。

武者陵司氏はこのように見ています。

「これは日経が言い続けてきた日本の産業復興を切望する米国が、円安を誘導しているのだ。韓国が2008年から2013年の著しいウォン安の過程で飛躍的に競争力を強め日本のハイテク企業をなぎ倒したが、円安の定着は日本の劇的再台頭を準備するだろう。日本は巨大な製造業立国として、サービス(観光)立国として再登場するだろう。それにより長期的に日本の強い円は復活する。日本は今の円安の僥倖を享受するべきであり、間違っても円高誘導等、無駄な抵抗をするべきではない」
円安を享受せよ | 武者リサーチ (musha.co.jp)

米中対立が深刻化し、トランプが火を点け、バイデンも倣ったのは米中デカップリング(分離)でした。
中国台頭前の時期には、米国は日本をライバル視し、日本バッシングに狂奔した時期があります。
こうして円高デフレは根が生えたように日本経済に取り付き、日本を衰弱させました。
それはいまや逆転しました。中国と対抗するためには、中国経済と距離を開ける必要があり、そのためには世界を見渡しても日本しかその役割を担える国がないのです。
ですから米国政府は、対中デカップリングのために強い日本を必要とし、そのための円安を容認するようになったのです。

では、人口が3分の2なのに日本を抜いた、と囃したてられているドイツはどうでしょう。

「欧州連合(EU)の経済の中心であるドイツの消費者物価上昇率も歴史的な高水準であり、2022 年 10 月時点で前年比 12.8%になった。高インフレの最大の理由は、エネルギー価格の急騰にある。同月のエネルギー価格の上昇率は生産者物価ベースで同 123.4%と、2 ヵ月続けて伸びが鈍化したものの、9 ヵ月連続で 100%以上となった。
インフレの元凶であるエネルギー価格の急騰が生じた最大の理由は、欧米を中心とする主要国による対ロシア制裁にある」
(三菱 UFJリサーチ & コンサルティング 調査部土田陽介)
tsuchida_2023_02.pdf (murc.jp)

図表でみるとドイツのインフレの凄まじさがわかります。
まずは消費者物価。ドーン。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

そしてその原因となったエネルギー価格の爆発上げ。ドーン。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

ドイツ経済のビジネスモデルは4つありました。
ひとつは、エネルギー安です。
天然ガス供給量の実に62.4%(2022年現在)を占めるロシア産が安価かつ安定して供給される構造が、ドイツ経済の大前提でした。
石炭産業は伝統的に強かったのですが、メルケルの強引な化石燃料排除政策のために、天然ガスシフトに変えられてしまいました。

原発も同じで、全原発を原子力についても、稼働中の原発 3 基について、2023 年 4 月 15 日までの運転延長が決定ましたが、基本的には脱原発路線が引き継がれました。

メルケルは脱炭素・脱化石の切り札として再エネをすえましたが、ともかく天候に左右されて不安定で、電気料金を押し上げました。

「脱炭素化の旗振り役でもあるドイツは、2020 年時点で一次エネルギー(国内産出分)の 47.6%を再エネに頼っていた。しかし再エネは気象条件や地理条件の制約を受けるため、安定性を欠いている。特に近年は、異常気象の影響から再エネは風力を中心に不調が続き、それがドイツのエネルギー価格の上昇の一因となっている」
(土田前掲)

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ドイツの電力料金の構成と再生可能エネルギー付加金の推移‐ドレスデン情報ファイル (de-info.net)

もはや逃げ道は天然ガスしかありません。
したがって、ドイツのエネルギー構造はロシア産天然ガスだけに強依存する異常なバランスになってしまいました。
いや、他のヨーロッパもそうだろう、って。違います。
他のユーロ圏のロシア依存度は平均で34.4%にすぎませんから、ほぼ倍ロシアにベッタリと頼りきっていたのです。

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三菱 UFJリサーチ & コンサルティング

これが、ウクライナ侵略に対して当初ドイツが制裁に消極的だった原因です。
武器を送ってくれ、と要請しているウクライナにヘルメットを送りつけてウクライナを逆上させましたっけね。

ロシアが制裁に反発してノルドストリームのコックを締めてしまうと、一気にドイツのエネルギーは干上がってしまうことになりました。
あとは世界各地の産地に頭を下げて、高い天然ガスを売ってもらうというしかありませんでしたが、その時は遅し、他の国が押さえた後でした。
ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ノルドストリームの稼働はありえませんから、ドイツのインフレか改善する可能性はありません。
しかも強インフレ下の景気後退、つまりもっとも恐ろしいスタグフレーションの可能性もささやかれている始末です。
長年のデフレから復活し、再び本来の力を取り戻しつつある日本。

さてさて、日独どちらが「辺境の終着駅」なんでしょうか。

ところでドイツのビジネスモデルの2番目は、ユーロという魔法の箱を作ったことです。
ユーロが出来るまで、ドイツは慢性リウマチのように、マルク高に苦しんできました。
その原因は、皮肉にもドイツが貿易黒字大国だったからです。
輸出黒字が増えるほど通貨は信任されて買われてしまって通貨高になってしまう、という悲喜劇。
ドイツは人口が8千万人程度で内需の引きが弱いので、貿易の対GDP比率は40%という馬鹿げた輸出依存体質でしたから、イヤでも貿易黒字が積み上がっていきました。
ちなみに輸出産業国家と思われているうちの国は16.5%にすぎません。


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ですから、ドイツが独自通貨を維持していた頃にはマルク高は常態化しており、これがドイツの悩みでした。
一方、逆の現象はドイツの輸出の受皿国だったギリシャで起きました。
貿易収支・経常収支赤字が積み上がっていくために、通貨の価値が下がっていってき、ドラクマ安になるはずでした。
ところがならなかったというミラクル。
なぜなら、「ユーロ」という世紀の大発明があったからです。

ドイツが独自通貨ならば、マルク高が必ず起きたはずで、一方でギリシアが独自通貨だった場合、貿易収支・経常収支赤字が積み上がっていくために、通貨の価値が下がっていきます。
まぁ通貨安になることで、国際競争力が強化されるというメリットもあるのですが、ユーロは、あくまでも「みんなの通貨」(共通通貨)ですから、為替政策はギリシア一国の経済に関係なく、他国の貿易収支を加えてヨーロッパ中央銀行(ECB)がガラガラポンにする仕組みです。

これはマルクでいるよりも、ドイツにとって圧倒的に有利なシステムでした。
マルク高による、輸出ブレーキがないからです。
事実、マルクはユーロ加盟以前は常にマルク高に悩まされていましたが、ユーロになってからは、ユーロ安の恩恵を存分に浴びて、ユーロ圏、特に製造業が弱い南欧諸国への貿易で潤ってきたわけです。

その上に、関税というブレーキがユーロによってなくなったことです。
輸出依存国にとってユーロ域内はどこに行っても無関税 、ついでにヒトの動きも制限なしとなって安い労働力を南欧や東欧からいくらでも吸収できるようになりました。
つまり、ドイツのこの間の繁栄は、①安いエネルギー、②ユーロによる通貨安、③無関税、ヒトの動きの自由化による移民、によって成り立っていたのです。

そして4番目のドイツのビジネスモデルは、こうして得た経済力を中国にドッと輸出攻勢をかけたことです。
これが中国経済の失速と同時にお先真っ暗となっていますが、これについては次回にまわします。
いずれにしても、ドイツのビジネスモデルが八方ふさがりしたのはあきらかです。

 

 

2024年2月25日 (日)

日曜写真館  霧動くとき身ほとりの霧匂ふ

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肩抱けば霧の香まとふかなしさよ 稲垣きくの

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冬の波冬の波止場に来て返す 加藤郁乎

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寒し愛は波止場渡しということに 池田澄子

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土浦の入江に温みて蓮ひらく 乾 修平

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月青き波止場の猫の会議かな 眞鍋呉夫

 

2024年2月24日 (土)

北方領土交渉の失敗、反省をこめて

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認識を誤っていました。
ウクライナに対するロシアの姿勢を見て、ロシアに対する私の認識が根本的に甘すぎたことがわかってきました。
私の認識の甘さは、2019年1月に書いた『北方領土交渉は最終直線コースに入ったのかもしれない』によく出ています。
北方領土交渉は最終直線コースに入ったのかもしれない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

この記事は、2019年1月22日に控えた日露首脳会談前のラブロフとの会談後に書かれたものですが、私の記事は妥結までの最終ストレッチに入ったという誤った見方をしていました。
しかし現実には、ラブロフ外相はこう言っていたのです。

0029306132 時事

「会談後、ラブロフ外相が単独で記者会見に臨み、北方領土におけるロシアの主権を認めるよう、日本側に改めて要求したことを明かした。
また、日本の法律で「北方領土」という文言が使われていることについて「受け入れられない」と反発したことや、平和条約について交渉を進めるにあたり、日本側が第2次世界大戦の結果をすべて認めることが必要だと伝えたという」(ハフィントンポスト2019年1月15日)
https://www.huffingtonpost.jp/2019/01/14/meeting-taro-kono-sergey-lavrov_a_23642564/

ラブロフは、当時の河野外相に愛想もこそもなくこう言っていました。
「北方領土問題などというものはない。この諸島の主権はロシアにあり、日本はそれが第2次大戦の結果であることを認めよ」
この意味するところは、「戦争の結果」に従え」、もっと砕いて言えば、返してほしくば戦争するんだな、、ということです。
ロシアという国は、建国の昔から一貫して、戦争で領土を拡げてきたのです。

そして私の大きな判断の間違いは、これを単なる危険球だと軽視してしまったことです。
ラブロフは交渉というと必ず課題な要求を出して最後通牒めいたことを言うのが習いなので、また投げやがったと思ってしまったのです。
ところが、これは外交交渉上のレトリックではなく、まさにロシアの真意でした。
2020年には、とうとう憲法に「領土割譲禁止」を入れたくらいです。

ところが2021年になっても、佐藤優はこう述べています。

「ロシアのプーチン大統領は4日、昨年7月に改正された憲法に領土割譲を禁止する条項が盛り込まれたことを踏まえ、北方領土問題について「憲法を考慮しないといけない」と述べた。この条項が領土交渉に影響する可能性を認めた格好だ。一方で「(日本との)平和条約交渉を止めるべきだとは思わない」とも語り、交渉継続に意欲を示した」
(毎日 2021年6月11日佐藤優 『北方領土交渉に対するプーチン大統領の意欲』)

そして佐藤はあの迫力のある顔で、ロシアが懸念する米国の中距離ミサイル配備を日本が拒否し、4島に固執せずに2島返還で折り合うならば北方領土は返還されると説いています。
この男のミスリードは政府にすら影響を与えました。

「プーチン氏は2000年の大統領就任直後、日ソ共同宣言の履行に前向きな姿勢を示したが、日本側が4島返還を求めたことに反発し、交渉が停滞した時期がある。
 一方、「日露とも戦略的観点から平和条約締結に関心を持っている」とも強調。ただ、米軍による日本への中距離ミサイル配備の可能性には改めて懸念を表明した」
(佐藤前掲)

この2島返還論は、鈴木宗男なども盛んに提唱していたもので、この平和条約を進めつつ並行して経済開発で信頼醸成し、2島先行返還交渉を具体化していく、米軍は駐留させない、という戦略に安倍氏も強い影響を受けたと思われます。
私もそれが現実的解決方法だと考えていました。

しかしこのロシアに歩み寄ったかに見える2島先行返還論ですら幻想にすぎませんでした。
ロシアにはテンから北方領土を返還する気などなく、返してもいいというそぶりはフェイントにすぎず、その裏にはなにかの政治的意図が針のように隠されていました。
ありていにいえば、ラブロフがいうようにロシアには「北方領土問題」など存在しないのです。
したがって、交渉そのものが無意味です。
わが国はロシアが1990年代のソ連崩壊直後のように疲弊にあえぐ時に機敏に再交渉するしか道はありません。

にもかかわらず、日本は北方領土交渉においてロシアに対して甘すぎました。
それにはいくつか理由があります。
ひとつには、ロシアが戦後処理を急いでいると考えていたことです。
ロシアにとって残された戦後処理は日本の北方領土交渉だけで、これか喉に刺さったトゲとなって日露平和条約は締結に至っていません。
ここで日本が考える「戦後処理」とは、あるべきものをあるべき者に返還すること以外にありません。
そもそも北方領土は、敗戦のどさくさに紛れて、ロシアの没義道な進攻によって奪われたわが国固有の領土だからです。
いわば「固有領土論」とでもいうべきものです。

ロシアが言っているのはそれと正反対に、「第2次大戦の結果をすべて認めよ」という「戦争結果論」の立場ですからかみ合うはずがありません。
彼らロシア人に言わせれば、第2次大戦の結果とは、今の戦後の国際秩序そのものであり、日本もその中で生きている以上、これを前提にするのが当然ではないか、というものです。
したがって、国境の変更を言い出しているのは日本の側であり、ロシアは戦後秩序の守り手なのだというわけです。

そしてプーチンはいくつもの餌を撒きました。
その最大のものは、プーチンが2001年3月のイルクーツクでの首脳会談での「1956年宣言」の有効性を認め、その履行はロシアの義務だ」という発言です。

「(日ソ)共同宣言の有効性を、ロシア首脳で初めて公式に認めたのがプーチン大統領だ。2001年、イルクーツクでの日ロ首脳会談では声明で、平和条約の交渉プロセスの出発点となる基本的な法的文書と明記した。大統領は日ソの両議会が同宣言を批准したことを重視し、ソ連の継承国として「履行義務がある」と言及している。
ただし大統領は、歯舞、色丹の2島を「どのような条件で引き渡すかは明記していない」とクギも刺している。主権の問題を含めてすべて交渉次第というわけだ」
(日経 2016年10月19日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO08527230Z11C16A0EA1000/

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地球コラム】プーチン大統領、「2島マイナスα」が本音か:時事ドットコム

この「1956年宣言」とは、鳩山一郎政権時にソ連と締結した宣言で、この時も領土問題で行き詰まっていました。
平和条約を締結するにはまず相互の領土を確定せねばならず、この部分でスッタモンダのあげく、宣言はこういうことで落ち着いています。

●日ソ共同宣言(1956年)
歯舞群島及び色丹島を除いては、領土問題につき日ソ間で意見が一致する見通しが立たず。そこで、平和条約に代えて、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた日ソ共同宣言に署名した。
→平和条約締結交渉の継続に同意した。
→歯舞群島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことにつき同意した。
外務省『北方領土』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html

つまり、ソ連は日本と平和条約を締結された後に、歯舞・色丹を日本に引き渡す、ということです。
ですから、プーチンがこれは「1956年宣言はロシアの義務だ」とまで言ったということは、平和条約を締結すれば返すという意味以外に取りようががありません。

この理解に基づいて安倍氏はプーチンが危惧するトゲを抜いてやりさえすれば、北方領土は返還されると読んだのです。
このトゲとは、北方領土に在日米軍と中距離ミサイルなどを進駐させないことや、さらには民族主義者プーチンの国内への顔をどう立ててやるかということなどで、いずれも解決可能なことだと安倍氏は考えていたようです。

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プーチン大統領が「シンゾー」と言わないワケ

結局は、この安倍氏の判断が誤っていたのはご承知のとおりです。
プーチンはいかなる妥協も拒みました。

「しかし、2004~05年を境にその発言内容は一変、以降は「南クリルが第二次大戦の結果正式にロシア領になったことは、国際法で認められており、これについて一切議論するつもりはない」、あるいは「1956年宣言には、島を引き渡すとしても、どこの国の主権が及ぶかは書かれていない」、「日本との間に領土問題は存在しない」などという、日本としては理解しがたいレトリックを繰り返し、一貫して強硬な姿勢を示してきた。
特にここ数年のプーチン大統領の発言は、どれも2000年代前半の時分とはかけ離れたものだ。それにもかかわらず、安倍政権は当時のプーチン氏の発言に引きずられてきた可能性が高い。シンガポール合意で、日本が1956年宣言まで下りる決断をしたのも、まさにプーチン氏が当時、1956年宣言の履行はロシアの義務と認めたという一点に、望みをつないだ結果だったと考えられる」
(吉岡 明子 2021年1月13日キャノングローバル研究所)

思えばこのプーチンを日本に呼んで開かれた日露首脳会談時は、すでにロシアのクリミア進攻が起きていたのです。

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ロシア軍、クリミアの重要拠点を掌握 - WSJ

訪日に応じたプーチンの胸中にあったのは、2島返還などではなく、日本を西側陣営から領土交渉で釣り出すことだったようです。
まさに西側分断工作の一環だったのですが、安倍氏はそれに乗ったことになります。
そしてかくいう私もそれに引っ掛かってしまいました。

この2014年3月のクリミア進攻で、ロシアはG8として西欧と協調する路線を完全に放棄し、対決へと舵を切っていました。
これは単なる一時の局地的紛争ではなく、世界秩序を支える根幹の枠組みそのものの変更を迫るプーチンの挑戦状だったのです。

これは2点で重要です。
ひとつは、露骨なNATOへの挑戦です。
軍事的にNATOはすでに膨張を続けるロシアと対峙できる能力を喪失しかけていました。
あまりに極端に開いてしまったロシアとの軍事費の差は、まるでナイアガラのようです。
下図は、先日も紹介した1992年を基準値にして直近の2020年を比較し変動倍率を算出したものですが、ロシアは実に4千935倍というウルトラ軍拡をしているのがわかります。
一方、本来ならばNATOの中軸たるべきドイツ軍はメルケル緊縮でズタボロの状態でした。

米国は声を枯らしてNATOに国防費の2%の増額を求めましたが、応じたのは英仏ポーランドなどごくわずかというありさまでした。
クリミア進攻を待たずして、NATOは「戦っても勝てないから、戦わないように」という不戦敗の心理に陥り、初めから軍事的に対抗していく戦略を放棄してしまったのです。

そして第2に、ウクライナ問題において、NATO諸国が掲げるべき大義を裏付けるものに欠けていました。
型式的にはウクライナがNATOに加盟できていないことですが、それだけではありません。
本来なら、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻は、1945年以降、国連を中心に形成してきた世界秩序そのものへの敵対であり、国連安保理はこのために作られたといって過言ではない機関のはずでしたが、これが完全に空洞化していました。

中国もほぼ同時期に南シナ海を軍事要塞化していきますが、ウクライナのロシアと一緒で、このならず者ふたりが揃って国連安保理の常任理事国であるという悲喜劇です。
不戦敗戦略を実質とったNATOは、頼みにすべきは国連安保理での制裁決議のはずでしたが、これも得られることは絶対にありえなくなりました。
理由はいうまでもなく、当のロシアが常任理事国なので拒否権を発動するに決まっているからです。
これがクウェートに進攻したイラクや、核開発に走る北朝鮮に対する時とは本質的に異なる理由です。
ましてウクライナは加盟申請中であって加盟国ではないために、米国とNATOは仮にロシアと軍事的に対峙しようと思うなら、「有志連合」の形をとらざるをえないのです。

つまり、2014年を境にして、東と西で大きなパラダイムシフトが起きていたのです。
西ではクリミア、東では南シナ海において。
私は、このような大きな戦後史の転換点を視野からはずして、日露2国間に狭めて考えていました。
もちろん、西側陣営のわが国もプーチンにとっては例外ではなかったはずでしたが、安倍氏は老練な政治家にありがちなプーチンとの強い人間関係を頼りに解決を図ってしまいました。
外交の天才とまで言われ、G7の指導的立場にいたた安倍氏の唯一の失敗でした。

 

2024年2月23日 (金)

ドゥーギンプラン

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ドゥーギンプランは、ある一時期まで順調に構想が進んでいました。
プーチンはノルドストリームを2本通すことでドイツのエネルギーの首根っこをガッチリ押さえこみ、メルケルドイツを西欧一の親露国に仕立て上げてしまいました。
ドイツはその力で中国市場に進出し、ロシアと中国に強依存した経済を作ってしまいました。
またドゥーギン・プランでは、中国は分裂させるべきだとしていましたから、プーチンは中国を牽制し、かつ日米同盟をに亀裂をいれるために北方領土を餌に接近します。
佐藤優と鈴木ムネオなどが提唱した2島返還論という謬論が一世を風靡し、安倍氏の足をからめました。

いうまでもなくドゥーギンの「ユーラシア帝国」の核心にいなければならないのは、「高貴なる永遠のロシア民族」です。
では、その「ロシア民族」とはなんでしょうか。
いわゆる地理的な「ロシア連邦共和国」のことではありません。
プーチンは自らの歴史観を小文にしていますが、彼が言う「ロシア民族」とはかつてのキエフ公国を発祥地とするスラブ民族のことで、ロシアとウクライナがその中心とならねばならないと説いています。
ウクライナ側からは嘘八百とこき下ろされていますが、プーチンからすればウクライナとロシアは一体となって「ロシア民族」を形勢する核にならねばならない民族なのです。
しかるに、ウクライナは西側に接近しているだと、というのがプーチン大帝のお怒りです。

プーチンに言わせれば、ゼレンスキーは「ロシア民族」が歴史においてなすべき崇高な役割をわかっていない愚か者です。
「高貴なロシア民族」がなすべきことは、歴史の変革なのですから。
なにが4州だ、なにがクリミアだ、ふざけるなウクライナなんて国はない、全部「ロシア民族」のものだ、というわけです。

ところで、かつてこういう妄想にとらわれた不孝な国家があったことを思い出しませんか。
そう、あのヒトラー率いるナチスドイツです。
ナチスは自らを歴史の変革者と考え、それを実行する役目を歴史が与えたのは「ゲルマン民族」であると考えました。
ドイツ民族がその後なにをしたのか、誰でもが知っていることです。
世界大戦とジェノサイドです。
ガザ戦争の発端はここにあります。

似た思想を持っていたのが、マルクス主義の辺境の一分派でしかなかったロシア共産党でした。
彼らは首領のレーニンが提唱するテロと陰謀によって政権を取ってしまいました。
彼らは「労働者階級」こそが「歴史の転轍手」であると信じ、その核にロシア共産党がいると考えました。
結果、世界で初めての「労働者国家」が出来上がってしまい、世界のマルクス主義のバチカンとなって、世界に赤い種を蒔いていきます。
ただの土俗マルクス主義にすぎなかったロシアマルクス主義が、「マルクスレーニン主義」という金看板で世界思想もどきになってしまった不幸です。

この混沌の中から生まれたのが、ドゥーギン主義です。
彼に言わせれば「ロシア民族」は世界の救世主です。
救世主の役割は、腐れ切った欧米の物質主義を粉々に打ち砕き、浄化してより高次の文明に向ける役割を与えられた世界歴史の「転轍手」のことです。
こんなものがほんとうに存在するかどうかは別にして、自分の「歴史的使命感」とやらに酔っている者はえてして歴史が自分に与えた任務だと勘違いします。(ああ、迷惑)
ヒトラー、毛沢東などはそう思っていたから、何億もの人を殺したり牢獄に閉じ込めても一切の後悔やためらいはありませんでした。
なぜなら、彼らは歴史が「正しく」進む障害物でしかないからです。

ここでプーチンが打った一世一代のバクチがウクライナ侵攻でした。
プーチンはウクライナがナチ国だのなんだのとタワゴトを言っていましたが、世界は聞く耳を持ちませんでした。
あからさまになったのは、ロシアという国に誰もプーチンを止める人間がいなかったこと、FSBも軍部もオルガルヒも、彼に忠告できる力も意志もなかったということです。
このような国はプーチンが消滅しない限り戦争は終わりません。

この結果、ロシアが仮に勝とうが負けようが、西欧はNATOの旗の下に団結してしまい、中立国のスウエーデンやノルウェイまで加盟するという反作用を生みました。
ただし、NATOの支援は遅すぎて少なすぎました。
そのために反攻作戦は挫折し、いまや東部で大きな圧力を許しています

「11月の米大統領選に向けて同盟国を軽視するトランプ前大統領が勢いを増し、欧州はロシアに侵略されるウクライナへの軍事支援で窮地に立たされている。欧州連合(EU)ではドイツを中心に兵器増産の体制づくりが急ピッチで進むが、砲弾供給は目標に遠く届かない。「対応が遅すぎた」との焦りが広がる。
ドイツでは最近、防衛大手ラインメタルが新たな砲弾工場の建設を始めた。年間20万発の生産ラインができる。ショルツ独首相は隣国デンマークの首相と12日の起工式に出席し、「欧州は砲弾の大量生産が必要だ」と意欲を語った」
(産経2/21)
欧州の本気、遅すぎたか ウクライナ砲弾支援「北朝鮮に負けるのか」 トランプ氏再来焦り ウクライナ侵略2年(産経新聞) - Yahoo!ニュース 

NATO欧州連合軍の元最高司令官で元米空軍司令官でもあったフィリップ・ブリードラブは、ウクライナ戦争の今後についてニューズウィークに対して、「 今と違う手を打たなければ、ウクライナは敗れる。ロシアは兵力が多く、軍にも余力がある」と語っています。

「西側諸国に見捨てられても、ウクライナは勇敢に戦うだろう。しかし、さらに数万人の命が失われ、最終的にはロシアに全土を制圧されて、再びロシアの属国になる」
(ニューズウィーク2月20日)
ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の元最高司令官が語る「敗北のシナリオ」(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

このロシアが持ちこたえて、いまやウクライナを圧倒せんばかりの勢いを示す原因は、世界のならず者国家がこぞって支援に入ったからです。
もっとも戦場で必要とされる砲弾やミサイルについて、イランと北朝鮮は大規模な支援を行いました。

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プーチン氏、侵略開始後初めて旧ソ連圏外に…テヘランでイラン大統領やハメネイ師と会談 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

「イランがロシアに大量の強力な地対地弾道ミサイルを供与し、両国間の軍事協力を深めているもよう。関係筋6人が、ロイターに対し明らかにした。 
イラン筋によると、イランは「ゾルファガール」を含む約400発のミサイルを供与する計画。専門家によると、これらは300─700キロの射程距離にある目標の攻撃が可能という。
ミサイル供与は昨年末、両国の軍・治安当局者間で合意。今年1月初旬から供与が始まり、輸送は今後数週間にわたり行われる見通しという」
(ロイター2月22日)
EXCLUSIVE-イラン、ロシアに弾道ミサイル約400発供与 軍事協力深化へ=関係筋(ロイター) - Yahoo!ニュース

皮肉にも、プーチンはウクライナ戦争に勝つためにドゥーギンが敵に準する者としていた中国に、揉み手をせんばかりに接近し、格下の北朝鮮にまで媚を売る始末です。

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ロシア、北朝鮮との関係発展へ プーチン氏の訪朝期待=報道官 | ロイター (reuters.com)

これでは仮に勝っても、その後に来る「戦後」はロシアがユーラシアの覇者になるどころか、ドゥーギンが思い描いていた構想から徐々にかけ離れてしまったことがわかります。 

一方「ユーラシア共同体」は制裁回避に動きました。

「ロシアのこれら近隣地域からの重要な経済物品や軍事的に重要な部品の輸入は近年急増している。例えば、アルメニア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルコは2022年にはロシア経済に不可欠な物品、または軍需産業にとって重要な物品を50倍もロシアに輸出した。ロシアは現在香港から大量の半導体を輸入している。中央アジアではカザフスタンが制裁回避において主要な役割を果たしている。カザフスタンからロシアへのデータ処理機器輸出は2022年以降、劇的に増加している」という。欧米諸国にとっての懸念は、トルコの企業が制裁回避に役割を果たしていることだ。トルコはNATOの加盟国だ」
(ウィーン発コンィデンシャル2月23日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

バイデンが「核兵器より強力だ」と言ったウクライナ戦争当初の制裁は、残念ながら空砲に終わったようです。

このように見てくると、プーチンはほとんど言葉も通じない異星人のような人物です。
しかもこの「異星人」は侵略戦争が現代でも可能であることを証明しつつあります。
西側が唱える、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値などとプーチンにいくら言ってもまったくかみ合わないことがおわかりでしょうか。

ナチスの東方生存圏構想に似た、おそるべき侵略的全体主義思想こそプーチンの「ユーラシア主義」思想です。
言葉の正確な意味で、プーチンはロシアの風土から生まれた土俗的マッドなのです。
しかも「有機的一体性をもった共同体」なるものを世界に拡大しようとする狂気のグローバリストなのです。
日本の反米保守の一部にあるような「反グローバリズムの戦士」という礼賛がいかにトンチンカンで危険なことか、少しはわかってほしいものです。
馬淵さん、プーチンは別の意味でグローバリストなんですよ。

 

2024年2月22日 (木)

プーチン、みずからをメシアだと思う世界観

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プーチンは、自分が腐敗した世界を作り変える歴史的任務を持っている「君主」であると考えているようです。
この使命感を与えたのが、イワン・イリインです。
イリインは君主主義者であり、道徳と敬虔さを土台として各個人の「法意識」を発達させることの重要さを強調しました。
イリインは1938年、亡命先のベルリンをナチ政府によって追われ、スイスに逃げ、そこで亡くなりましたが、プーチンは2009年、スイスにあったイリインの遺骨をロシアに移送させ、新たな墓に埋葬させています。

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ロシアのプーチン大統領、29日に年次教書演説 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

イリインがプーチンに遺したのは、強力な権威主義国家像です。
そしてイリンは、そのような国家を実現するためには煽動と陰謀、そして中央集権だと説きました。
これは、当時のプーチンはKGB将校としてでドイツ赤軍という極左テロリストに武器や資金を提供する任務を負っていたことから、すんなり理解できたはずです。
破壊と陰謀、暗殺こそKGB時代のプーチンの職業だったからです。

「プーチン大統領と犯罪組織との関係は、同氏が1980年代に旧東ドイツのドレスデンでKGB諜報員として働いていたときに遡る。当時、プーチン氏は「プラトフ」と「アダモフ」というコード名を使い、NATO(北大西洋条約機構)に関する秘密情報を収集していた。加えて、欧米の技術を盗み、社会主義陣営に密輸する工作にも関与した。この密輸を実現するために、KGBと東ドイツの諜報機関であるStasi(シュタージ)は犯罪組織と協力したといわれている」
(ジェームスブラウン  日経ビジネス2021年1月6日)
日本人も知っておくべきプーチン大統領の黒い素顔:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

イリイン思想はロシアでは珍しいものではありません。
国父のレーニンが破壊と陰謀、中央集権の熱烈な信奉者だったからです。

「イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。
「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。
かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。
2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある」
プーチンを支えるイワン・イリインの思想―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生 | FOREIGN AFFAIRS JAPAN

しかし、鉄の長城に見えたソ連が崩壊した後、KGB集団は生き残って新たな権力の中枢に居すわり続けます。

「ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊する直前の最後の数カ月に、KGB(国家保安委員会)が、大量のソ連通貨を海外に密輸したと指摘する。このいわゆる「秘密経済」により、ロシアの諜報集団は、1991年にソ連が崩壊した後も、財源と大規模な影響力を維持することができた。
ボリス・エリツィン大統領の下で比較的民主的な時代を過ごした後、1990年代の終わりに、KGBの元有力者はこれらの秘密資金を使ってロシアの支配を取り戻した。国家の支配を取り戻す使命は、元KGB高官であるプーチン氏が1999年12月31日、エリツィン氏に代わって大統領(「大統領代」を含む)に就任したときに完了した。
大統領に就任した後プーチン氏は、エリツィン時代の政治に影響力があったオリガルヒというビジネスの大立者たちの力を厳しく制限し、国全体を自分の個人的な管理下に置く取り組みを進めた。プーチン大統領に完全な忠実を示したオリガルヒは富を保つことを許された。2003年に英サッカーチームのチェルシーFCを買収したロマン・アブラモヴィッチ氏(Roman Abramovich)はその一例である。
一方、依然として独立した行動を続けようとした他のオリガルヒたちは、プーチン政権によって全面的に破壊された。そのうちの何人かは、経営していた会社を違法に押収され、刑務所に送られるのを避けるためにロシアから逃げた」
(ジェームスブラウン  日経ビジネス2021年1月6日)
日本人も知っておくべきプーチン大統領の黒い素顔:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

プーチンは国家権力を掌握すると、それを実現する構想をアレクサンドル・ドゥーギンから移植します。
プーチンの外交政策をつくったのは、アレクサンドル・ドウーギンの構想が作り出したのです。

彼の思想は、ひとことで言えば「ロシアが支配するユーラシアの成立」です。
ソ連の復興などという狭いものではなく、ユーラシア大陸全体を西欧も東欧も、そしてゆくゆくはアジアも含めてロシア帝国の「責任圏」としてしまおうというのですから、気宇壮大というか誇大妄想です。
こんな人物相手に、「国境の実力による変更の禁止」「法の支配」などといってもまったく言葉が通じないでしょう。

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アレクサンドル・ドゥーギン
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アレクサンドル・ドゥーギンは、 モスクワ大学教授として極端なロシア民族主義を鼓吹する哲学者で、長年にわたってクレムリンの政策に影響を与えてきました。
たとえば、ドゥーギンは、ロシアの反西欧的な「ユーラシア運動」の創始者で、2014年、ロシアがクリミアに侵攻した際に、プーチンにウクライナ東部への介入を促したのは、この人物だとされています。

このドゥーギンのユーラシア思想は、2011年にプーチンが「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ロシアの公的なイデオロギーとなっていきます。
この「ユーラシア連合構想」は、ロシアを提唱国としてカザフスタン、タジキスタン、キルギス、アルメニア、モルドバの5カ国が調印し、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャンの3カ国も加入を検討しようとしていました。
これらのユーラシア地域を、プーチンはロシアの「責任圏」と呼びました。

ちなみに当時、旧ソ連圏最大の工業国にして穀倉地帯だったウクライナも執拗に加入を勧められましたが、蹴り続けたことがプーチンの怒りとなったとする人もいます。

ドゥーギンの思想の具現化こそが、このユーラシア共同体でした。
ドウーギンの世界戦略とはこのようなものでした。

「ドゥーギンが描く構図によれば、今後、ドイツがロシアへの依存度を一段と高めることによって、欧州は次第にロシア圏とドイツ圏へと分断されていく。
英国は(EU離脱後)ボロボロの状態となり、ロシアは漁夫の利を得ることで『ユーラシア帝国』へと拡大・発展していく、というものだ。
ドゥーギンはさらに、アジア方面についても、ロシアの野望を実現するために、中国が内部的混乱、分裂、行政的分離などを通じ没落しなければならないと主張する一方、日本とは極東におけるパートナーとなることを提唱する。
(略)

ドゥーギンの戦略論は「新ユーラシアニズム」ともいうべきものであり、目指すべき将来目標として、旧ソ連邦諸国を再びロシアが併合するとともに、欧州連合(EU)諸国もロシアの〝保護領にするという極論から成り立っている」
(斎藤 彰 元読売新聞アメリカ総局長2022年3月26日 )
プーチンも洗脳?超保守主義学者の危険すぎる思想  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

もう少し続けます。

 

 

2024年2月21日 (水)

プーチン、西欧的合理主義の枠外に棲むマッド

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ナワリヌイの遺体を巡って、引き渡しを拒む当局との攻防になっています。

「近年のロシアで最も著名な野党指導者で、収監されていた北極圏の刑務所で16日に死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体について、「化学分析」のため2週間は引き渡せないと、調査当局が同氏の母親に伝えた。同氏の広報担当が19日、明らかにした。こうしたなか、ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏が、夫の闘争を引き継ぐと宣言した。
ナワリヌイ氏の遺体がどこに置かれているのか、ロシア当局は公表していない。同氏の家族らは遺体を確認しようとしているが、刑務所の遺体安置所や現地当局は繰り返しこれを拒んでいる。
ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏によると、調査当局はナワリヌイ氏の母親に対し、「化学分析」のため2週間は遺体を引き渡せないと伝えたという。
ナワルナヤ氏は19日、動画を投稿し、当局が遺体を隠していると非難。当局は遺体を手元に置き、致死性の神経剤ノビチョクの痕跡が消えるのを待っているのだろうと述べた」
(BBC2月20日)
ナワリヌイ氏の遺体、「化学分析」で2週間は引き渡さないと当局 妻は闘いを引く継ぐと宣言 - BBCニュース

なぜプーチンはナワリヌイを殺したのか、なぜ平然と暗殺を積み重ねられるのか、どうして暗殺という陰湿な宮廷政治のような手法を好むのか、この特異な独裁者を知らないと理解できないでしょう。
それを知るために、彼の源流に遡ってみます。
私はプーチンを西欧的合理主義の枠の外にいる人物だと思っています。
なぜこのような奇怪な人物が生まれたのでしょうか。

西欧の国際政治学者たちは、プーチンを妄想性パーソナリティとして理解しようとしました。
たとえば、防衛省防衛研究所山添博史氏(ロシア研究・主任研究官)はこのように述べています。

「そうした狂気を計算高く「演出している」というものです。恐怖心を煽ることで、「プーチンの要求をある程度飲まないと、第三次世界大戦が勃発する」と周囲に思わせる。計算された狂気、計算された非合理さです。Madman Theory(狂人理論)というのがありますが、その可能性もあるでしょう」
(山添博史3月4日)
「勝てるようにやっているとは思えない」なぜプーチンは“狂気の独裁者”になったのか 防衛研究所・山添博史氏インタビュー #1 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) 

ただしマッドマンセオリはマッドではない者がマッドのふりをしているというのが大前提で、ほんもののマッドマンなら話は別です。
マッドマンを分類するとこのようになります。

①マッド度レベル1・真マッド。
②マッド度レベル2・中程度のマッド。半ば狂っているが、まだ計算ができる状態。
③マッド度レベル3・なんちゃってマッド。理性が残されており、スタッフのアドバイスを聞くことができるていどの状態。

正常な人物がマッドのふりをしているのは③に相当しますが、本当にそうだったらかえってほっとするくらいです。
③のなんちゃってマッドは演技ですから、側近はそれを理解して正しい情報を入れるように努めます。
しかしいまやプーチンに諫言できるものはほとんどの残されておらず、情報機関はおろか軍部でさえ信用していない様子です。
すると、①の真のマッドマンなのでしょうか。

「一つは、本当に精神状態に異変が起きていて、狂気の独裁者になっている可能性です。忠実な部下を含め全員をつるし上げて、誰も逆らえないようにして「俺だけの世界」を実現するヒトラーのようなイメージです。
このパターンだった場合、もう戦争の勝ち負けは関係ない。ロシアの安全も国民生活も関係ない。全てを懸けて、ウクライナを叩き潰す。必要だったら核のボタンも押す。……そういう狂気の独裁者になっているのであれば、非常に怖いです」
(山添博史前掲)

たぶんプーチンは、西欧的合理主義の範疇でいえば真マッドです。
しかも一般人ではなく、世界有数の軍事力を持ち、独裁権力を意のままに操り、しかも権力内部に有力な反対派がいない孤立型マッドマンです。

この山添氏の分析は、半分当たっていて半分はずれているような気がします。
西欧的分析でプーチンを見ているからです。
その結果、プーチンの神秘主義の霧がかかった反西欧主義、ロシア国粋主義が、この異様な独裁者の根っこにあることを見逃すからです。

ロシアは、原油で国は多少豊かになりましたが、民主主義不毛の地であり続けました。
ロシア国民は歴史的に「市民」だったことは一度もありません。
ツァーリー支配下では農奴であり、ロシア革命以降は「人民」という名で市民的自由を奪われた、「ロシアという有機体の一部」でした。
しかもソ連が崩壊した後も本質は変わりませんでした。
この原因はソ連崩壊後、民主化に向かうと見られていたロシアが逆流し、プーチンという独裁者が権力を握ってしまったからです。
そしてこの男は、KGBでありながらマルクス・レーニン主義者とは無縁のロシア特有の奇怪な思想の集合体でした。

2022年9月30日のプーチンの4州併合演説はその特徴をよく現しています。

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ロシア、ウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言 ウクライナはNATO加盟申請を発表 - BBCニュース

その特徴とはこのようなものです。

①「西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることだ」とするように、強い被害者意識とそれからくる反西欧主義です。
「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にする新植民地主義」だとしています。「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようとしている」と考えています。
ちなみにこのあたりのプーチンの西側への呪詛は、西側社会にも存在する反米反グローバリズム思想と好一対ですから、彼らは揃ってプーチンをグローバリズムと戦う「光の戦士」などという尊称を奉っています。

②したがってウクライナ戦争とは、「偉大なロシア」を西側に抹殺されないための防衛戦争であって、「ロシアの言語や文化を守る戦い」なのだと位置づけます。
そしてそのロシア精神の中心にあるのが、ロシア正教です。

③プーチンは西側の民主主義システムを全面的に否定します。
後述するプーチン主義の源流であるイワン・イリンはこう言っています。

「選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだ」
つまり本来選挙などやる必要がなく、あえてやるなら、4州の「住民投票」のように軍が銃をつきつけて、透明の投票箱に入れさせるものでなくてはなりません。
選挙などはロシアを分断するものであって、祖国ロシアとはひとつの生き物であって、「自然と精神の有機体」だというのです。
選挙をすれば90%が政府支持、世論では9割がプーチン支持、これが正常な世界なのです。
プーチン大統領の戦争、背後に「ロシア世界」思想 米メディア「ウォールストリート・ジャーナル」が指摘 2022年3月21日 - キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

事実ロシア正教のキリル総主教は、プーチンと強いつながりを持ち、ウクライナ人を絶滅することを祝福するという宗教者にあるまじき態度を再三示しています。
プーチンが「正教大国ロシアを目指す」と再三主張していることは、統治理念としてのロシア正教を基盤にしたいためです。
ロシア正教は、ソ連時代に弾圧を経て生存戦略として国家権力への接近を図ってきました。
西欧のキリスト教は世界宗教であることを自認し、神の愛を唱えましたが、ロシア正教系はそれと根本的に異なって、あくまで国家を支える民族宗教です。
ロシア正教は、受難から力への信奉を通して歴史的に神聖なるものに列聖されると説きます。
いわば、ソ連崩壊の精神的欠落を補完するものとしてロシア正教会はあったわけです。

「ロシア正教は、プーチン氏の地政学的野望を支えるイデオロギーの形成に積極的役割を果たしてきた。その世界観は、現在のロシア政府をロシアのキリスト教文明の守護者と見なすものであり、それゆえロシア帝国と旧ソ連の版図にあった国々を支配する試みを正当化する。
この思考はプーチン主義に強い影響を与えている」
(ウォールストリートジャーナル)2022年3月22日)
キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

これがプーチンが信奉するロシア国家有機体論です。
ナチスドイツや北朝鮮、中国を思わせる「国家有機体論」です。

これらとプーチンのファシズムがやや異なっているのは、社会の統合装置としてロシア正教が登場することです。

さてプーチンは、クリミア半島への侵攻前の2014年初めに、クレムリンの重要な5000人の官僚たちに3人のロシア思想家の本を渡しました。
その3人の思想家こそ、プーチン大統領のその後の「プーチン主義」とも呼ばれているユーラシア主義の根幹を作ったのです。
この3人は19世紀から20世紀初期にかけ活躍したロシア人の思想家です。

・イワン・アレクサンドロヴィチ・イリイン(1883年~1954年)
ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ベルジャーエフ(1874年~1948年)
・ウラジーミル・セルゲイェヴィチ・ソロヴィヨフ(1853年~1900年)

そしてもうひとり4番目の男が、アレクサンドル・ドゥーギンです。
この者ら全員がマルクス主義とは無関係で、むしろ無神論ソ連で迫害されてきた者らの系譜に属します。
私たちからすれば、彼らプーチン主義を作った者たちが、共産主義者だったほうがむしろ分かりやすかったでしょう。
共産主義とは交渉可能だからです。
ところがプーチンが愛好したこれらのロシア主義の思想家たちは、ことごとく反西欧精神主義に連なる者たちだったのです。
彼らはソロヴィヨフのように神秘主義者であり、アンチキリストの到来と世界の終末を予感し、神の国は歴史の終わりにのみ実現する唱えています。

長くなりましたので、次回に分割します。

 

 

2024年2月20日 (火)

ナワリヌイをここで殺したプーチンの思惑

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ナワリヌイの「暗殺」について波紋はひろがっています。
16日からミュンヘンでひらかれたヨーロッパの安全保障を議論する安全保障会議では、思ったとおり、ロシアはボロ叩きに合いました。

「MSC開催初日、モスクワからショッキングなニュースが飛び込んできた。ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が16日、収監先の刑務所で死去したというのだ。
 ドイツの軍事専門家は「ナワリヌイ氏が16日に亡くなったのは決して偶然ではない。プーチン氏はウクライナと独仏間の安全保障協定の締結を意識し、欧米で良く知られているロシア反体制派指導者ナワリヌイ氏をMSC開幕日に合わせて殺害したのではないか」と推測していた。すなわち、ナワリヌイ氏の16日の死はモスクワが計算した政治的殺人だというわけだ。プーチン氏はミュンヘンのMSCに参加する代わりに、ナワリヌイ氏死亡というニュースを欧米社会に向かって発信し、「ロシアはウクライナ戦争を勝利するまで戦い続ける」というメッセージを送ってきたというのだ」
(ウィーン発コンフィデンシャル2月19日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

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ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

長谷川良氏は「ロシアはウクライナ戦争を勝利するまで戦い続ける」というシグナルだと考えています。
このミュンヘンの全欧安保会議で直前というタイミングを考えるとそれもありえるとは思います。
ただし、ほんとうに政敵アワリヌイをここで殺す必要があったのでしょうか。

ナワリヌイはベルリンから帰って来た段階で、プーチンの意のままになる政治的カードでした。
ナワリヌイは、その自己犠牲的思いは別にして、プーチンに取引材料を与えてしまったことになります。
その気になればすぐ殺せるナワリヌイを帰国時点で殺さなかったのは、生かしておけばどこかで西側との交渉材料になるからでした。
ナワリヌイは、帰国によって大きな希望をロシアの民主派に与えたと同時に、彼の身柄をプーチンに預けてしまったのです。
そして今回、プーチンはナワリヌイカードを全欧安保会議で切ってみせたのです。

しかしこれがプーチンの思惑のすべてかといえば違う気がします。
ご意見に「反プーチン派のあぶり出し」とありましたが、それはないと思います。
「反プーチン派」というのが狭い意味でナワリヌイの追悼に来る人々を指すなら、彼らのほとんどはウクライナ侵略時の反戦デモで挙げられているはずです。
人権団体によると、当時数十の都市で動員に反対する集会で2千人以上が拘束されており、日曜日にはロシアの極東とシベリアでさらに多くの抗議行動が起きたとされています。
しかもデモの拘束者は警察署で徴兵令状を執行されて、即座に徴兵を言い渡された例もあるようです。

「同団体「OVDインフォ」の報道担当者によると、拘束者の1人は軍への編入を拒めば立件すると脅されたという。
ロシア政府は徴兵を拒否した場合、禁錮15年を科す方針を明らかにしている。首都モスクワの検察当局は21日の声明で、抗議活動への参加者は最長で禁錮15年の刑が言い渡される可能性があると警告していた」
(CNN2022年9月23日)
動員令に抗議のデモ参加者、拘束後に直接徴兵か ロシア(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース

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再び反戦デモ、700人超拘束 呼び掛けの団体捜索 ロシア(時事通信) - Yahoo!ニュース

つまりもうプーチンにとって「名簿」はいらないのです。
2千人以上パクってしまえば、反体制派のほとんどの名簿や関係は暴露されてしまいます。
したがって、プーチンにとっていまさらあぶり出す必要もないことです。

プーチンは、多くの独裁者がそうであるように力の信奉者です。
彼が信じるのは唯一力であり、権力であり、暴力です。
往々にして私たちが見誤るのは、かれら独裁者を政治的合理性で判断するからです。
プーチンや習近平は合理主義や理性の枠外に住んでいます。
彼らは「気に食わない者はいつでも殺すことが出る人間」であると自分を思っています。

そのような男がこの時期にしたいことは、自らの力の誇示、自分に逆らう者は必ず死ぬという警告のメーッセージです。
プーチンという男を並の西側の政治家のように選挙目当てで動くと考えていたら、彼の非合理的行動がわからなくなります。
プーチンはこの選挙で負ける可能性はゼロです。
民主派が勝つ可能性もゼロです。
だからここであえてナワリヌイを殺して見せることの意味などないのです。

思えば、ウクライナ侵攻も差し迫ったことではなく、いくらでも非軍事的解決の方法はありました。
私たちが理解できないのは、プーチンがロシア的非合理主義の霧に隠れているからです。
彼を突き動かしているのがなにかもう少し考えて見る必要があります。
プーチンの黒い素顔については次回に続けます。

 

 

 

2024年2月19日 (月)

ナワリヌイが遺したもの

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ロシアはアレクセイ・ナワリヌイを殺しました。
極北の牢獄に収監され、遺族は遺体と面会することすらかないませんでした。
いや遺体の場所すらわからないのです。

それを伝えるBBCです。


「ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏は17日、死亡を確認したと発表した。
ナワリヌイ氏の母リュドミラさんに渡された書類には、同氏は現地時間16日午後2時17分に死亡したと書かれていたと、ヤルミシュ氏は明らかにした。ヤルミシュ氏は後に、ナワリヌイ氏の遺体が安置されていると当局に言われた刑務所近くの遺体安置所にリュドミラさんと弁護士が向かったものの、安置所は閉じていて、そこにナワリヌイ氏の遺体はないと言われたとソーシャルメディアで明らかにした。
ヤルミシュ氏はさらにBBCに対して、ナワリヌイ氏の遺体が今どこにあるか分からないと話した。当局は、捜査が終わるまで遺体を家族に引き渡せないと話しているという」
(BBC2月17日)
ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡=ロシア刑務所当局 - BBCニュース 

プーチンは比喩的な意味ではなく、ナワリヌイを「殺した」のです。
ナワリヌイは一度殺されかかりました。

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アレクセイ・ナワリヌイ

政治生命、ロシアに懸ける=毒殺未遂・獄死のナワリヌイ氏―プーチン政権批判でカリスマ | 時事通信ニュース (jiji.com)

ナワリヌイは2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談し、翌20日、モスクワに帰る途上の機内で突然気分が悪化し意識不明となりました。
飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれ、症状からは毒を盛られた疑いがあったため、交渉の末、8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けました。
もしベルリンに移送されていなかったら、ナワリヌイはこのとき死んでいたことでしょう。

治療に当たったベルリンのシャリティ病院は、ナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けました。
これについて、英仏蘭、そしてオランダ・ハーグの国際機関「化学兵器禁止機関」(OPCW)は、このナワリヌイの血液サンプの提供を受けて独自に検査しこれを追認しました。
もちろんモスクワは否定しています。

ナワリヌイは独自に調査を開始し、ロシア連邦保安庁(FSB)のエージェントが当時トムスクに来ており、ナワリヌイの下着にノビチョクを入れたことを突き止めています。

昨年12月には調査報道サイト「ベリングキャット」などが、ナワリヌイ氏を長年監視していたとされるロシアの連邦保安庁(FSB)の工作員3人が、同氏と同時期にトムスクにいたと報道。さらに、ナワリヌイ氏が身元を伏せてFSB工作員に接触し、神経剤ノビチョクを使った自分への攻撃の詳細を聞き出した様子を伝えた。
ナワリヌイ氏はFSB工作員コンスタンティン・クドリャフツェフ氏との通話を録音し、オンラインで公表。その中で工作員は、ノビチョクをナワリヌイ氏の下着に入れたと話している」
(BBC2021年1月19日)
ロシア野党指導者ナワリヌイ氏、帰国直後に拘束 欧米が釈放要求 - BBCニュース

プーチンは暗殺という方法を政治手段として使う世界で数少ない政治家です。
本人を抹殺するばかりではなく、その支持者たちを威嚇して恐怖に陥れることになるからです。
ロシアではこれまでも、毒ガスを反体制派のみならず、意に染まないオルガルヒや亡命しようとしたロシアのスパイの暗殺に使ってきました。
ノビチョクは旧ソ連時代に密かに開発された神経剤で、またの名をA-230と言います。

液体、固体のかたちで存在し、毒性の低い二種類の化学物質を隔離した容器で保存、混合して毒性を高める「バイナリー兵器」として使用されるそうです。
即効性と遅効性を使い分けることも可能です。
ナワリヌイがトムスクで受けたのは遅効性だったと思われます。

正恩が異母兄・正男暗殺に使用したVXガスより毒性が5~8倍強いとされ、噴霧してから数分以内に死に至る猛毒性があるようです。

プーチンの周りでは、毒ガス以外に不審死が絶えません。
ロシアの石油大手ルクオイルのラヴィル・マガノフ会長は2023年9月1日、モスクワ市内の病院の窓から転落したと報じられました。

「ロシアではここ数カ月で、エネルギー企業の重役やオリガルヒ(富豪)が不審死している。
4月には、天然ガス大手ノヴァテクの前社長セルゲイ・プロトセーニャ氏と妻子の遺体が、スペインの別荘で発見された。
同月、石油大手ガスプロム傘下の金融機関ガスプロムバンクのウラジスラフ・アヴァエフ前副社長と妻子の遺体が、モスクワのマンションで発見された。
5月には、ルクオイルの大物役員アレクサンデル・スボティン氏が心不全で亡くなった。報道では、シャーマン(宗教的職能者)による代替医療を探していたという」
(BBC2022年9月2日)
ロシア石油大手の会長が「病院の窓から転落死」 企業重役の不審死相次ぐ - BBCニュース

その他、ガスプロム・インベストの輸送責任者だったレオニド・シュルマンが2022年1月30日、ロシアのレニングラード州にあるコテージのバスルームで、謎の自殺を遂げています。

「また、オリガルヒではないものの、プーチンとつながりのある元ロシア高官が6月20日、自宅で撃たれた状態で発見された。大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツは、元治安機関幹部である53歳のバディム・ジミンが、モスクワの自宅で「血の海のなかに」倒れているところを弟が発見したと報じている」
(ニューズウィーク2022年7月1日)
斧や銃で襲われ「血の海に倒れていた」 オリガルヒ連続「不審死」は偶然ではない|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

さて、ナワリヌイは、ベルリンで療養した後、驚くべきことに祖国に帰還することを望みます。
この覚悟の帰還を待っていたのは、プーチンの派遣した警察でした。
ナワリヌイは、モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束され、市中に出ることすらかないませんでした。
それは空港の外で、数千人の支持者が集まっていたためです。

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アレクセイ・ナワリヌイと妻ユリア・ナワリヌイ

「ナワリヌイ氏は2021年1月17日、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国直後、拘束された。そのニュースが報じられると、モスクワを含むロシア全土で同氏の釈放を要求する抗議デモが行われた。モスクワで4万人の市民がナワリヌイ氏の早期の釈放を要求するデモに参加した。気温の低いシベリアのノボシビルスクでも約4000人が路上デモに参加した。
それに対し、ロシア当局は無許可デモとして1000人を超えるデモ参加者を拘束した。その中には、ナワリヌイ氏のユリア夫人も含まれていた」
(ウィーン発コンフィデンシャル2024年2月14日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

ナワリヌイが遺した言葉があります。

「自ら命を絶つ考えはない。念のために申し上げるが、窓の面格子で首をつったり、尖ったスプーンで静脈や喉を切ったりするつもりはない。階段は慎重に登り下りしている。彼らは毎日私の血圧を測り、まるで宇宙飛行士のように扱ってくれるので、突然、心臓発作に見舞われる心配はない。刑務所の外には多くの善良な人がおり、必ず助けが来ると分かっている」
(ウィーン発前掲)

またロシア国民に対してはこのような言葉を遺しました。

「諦めないでほしい」。ナワリヌイ氏は自身を追った22年公開の米ドキュメンタリー映画で「もし殺されたと仮定して、国民への遺言はあるか」と質問されてこう答えていた」
(時事2月17日)
政治生命、ロシアに懸ける=毒殺未遂・獄死のナワリヌイ氏―プーチン政権批判でカリスマ | 時事通信ニュース (jiji.com)

ナワリヌイ、享年わずか47歳。
見事な一生でした。合掌。

なお、ナワリヌイを偲んで多くの「あきらめない」市民が立ち上がりました。

「北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を追悼する動きがロシア各地に広がり、人権団体「OVDインフォ」によると400人以上が拘束された。
ロシア国内の政治的な動きでこれほど多くの人が拘束されるのは、ウクライナ侵攻を巡りプーチン大統領が出した部分動員令に対する2022年9月の抗議デモ以来。この時は1300人以上が拘束された」
(ニューズウィーク2月18日)
治安部隊が人々を地面に縛り付け... ロシアでナワリヌイ氏追悼の動き、400人以上拘束と人権団体|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

まだわずかですが、希望が残っている証明です。

 

2024年2月18日 (日)

日曜写真館 ああだつたこうだつたなあ梅の花

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うつくしい所がほしい梅の花 三州

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カアさんといひてみてをり梅の花 川端茅舎

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かしこさの脱けて行きけり梅の花 角上

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から風を受けつ流しつ梅の花 木導

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この空の未来永劫梅の花 野崎明子

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キヤラメルをいくつかくらひ梅の花 八木林之介

2024年2月17日 (土)

ロシアの「和平案」とは

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選挙前というのは、その政治家の本音が過剰に出るものですが、これを読んだ時、私はおもわず、このハゲタコが!と叫んでしまいました。
皆さん、気を静めてロシアの「和解交渉案」なるものを見てみましょう。
この男の粘着気質と異常なウクライナに対する執着がわかるでしょう。

「モスクワ/ロンドン 13日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領が、現在の占領ラインに沿ってウクライナでの戦闘を凍結する停戦案を提示したものの、米国がこれを拒否した。ロシアの情報筋3人がロイターに対し明らかにした。
情報筋によると、プーチン大統領は昨年、公の場および、中東地域のパートナー国を含む仲介役を通じ、米国に対しウクライナでの停戦を検討する用意があるというシグナルを送った」
(ロイター2月14日)
 米、プーチン氏のウクライナ停戦案を拒否=情報筋 | Start Magazine (taboolanews.com)

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プーチンが突き付ける驚愕の降伏条件「傀儡政権樹立とハルキウ・オデーサ両州も割譲」―英軍事シンクタンクが分析 (fmworld.net)

このプーチンの「停戦に向けての提案」なるものの内容がわかってきました。
今、プーチンは妙な自信に溢れています。
端から見ると、ウクライナの反攻作戦を失敗に終わらせただけじゃないかと思いますが、いえなになに「勝つ」つもりなのです。
それも法外なレートで。

彼は心底ロシアは勝てるし、勝たねばならないと考えています。
国内経済はすべてがウクライナ戦争の勝利のために考えられており、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のサイトへの寄稿で陸戦専門家ジャック・ワトリング上級研究員らは「ロシアの戦力増強と工業生産のベースラインとなる計画は2026年までに勝利を達成することを目標に策定されている」と述べています。

さて、プーチンの和平交渉案はこうです。


「ロシアはウクライナを服従させるというこれまでの戦略目標を維持している。クレムリンはウクライナ戦争に勝利しつつあると信じている。ロシア側の仲介者が提案する降伏条件にはロシアが占領する地域と北東部ハルキウ州とオデーサ州の割譲、NATOに加盟しないこと、ロシアが承認した傀儡大統領を据えることが含まれている。
ロシアが示す唯一の譲歩は割譲後のウクライナのEU加盟だけだ。その戦略目標を達成するプロセスは(1)すべての前線で圧力をかけ続け、ウクライナ軍の武器弾薬と予備兵力を消耗させる(2)これと並行しロシアの情報機関はウクライナへの軍事支援を断ち切る(3)ウクライナの弾薬が尽きたら、さらなる攻撃を開始して大きな利益を得る―という3段階だ」
JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

そしてその詳細について、タッカー・カールソンとのインタビューでこう言っています。

「ウラジーミル・プーチン露大統領はトランプ氏に近い元米FOXニュース司会者タッカー・カールソン氏のインタビュー(2月8日放送)に応じ、戦争を終結させるためにウクライナの領土をロシアに割譲する「協定」を結ぶことを米国側に求めた。601億ドルのウクライナ支援に待ったをかける米共和党とトランプ氏への秋波である。(略)
ポーランドにも、ラトビアにも、他のどこにも興味はない。西側が恐怖心を煽っているだけだ。ロシアが戦場で負けることはないと西側の権力者たちが悟ったからこそ戦争終結の話し合いの時が来た。話し合いが実現するとしたら、彼らは次に何をすべきかを考えなければならない。われわれには対話の準備ができている」とプーチンは勝ち誇ったように言った 」
JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

つまり「戦争を終結する条件」とは「領土の割譲」と傀儡政権の樹立なのです。
しかも今の4州は既に「神聖なロシアの領土」である以上、プーチンが新たに望む割譲はクリミア半島の付け根のオデーサ、そして奪還したハルキウです。
このような領土割譲案にゼレンスキーが乗れるはずがない以上、プーチンがいう「和平案」とは、ロシアが望む傀儡政権の樹立です。
侵略軍が来たら白旗を上げて国民を守れと言った小賢しい人たちよ、これが「白旗」の意味です。

なお、ロシアで唯一の反プーチン政治家であったアレクセイ・ナワリヌイが北極圏の刑務所で死亡ししました。

「ロシア北極圏にあるヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所は16日、反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が死亡したと発表した。ナワリヌイ氏はロシアのプーチン政権批判の急先鋒として知られる。3月の大統領選に向け、プーチン大統領以外の候補者への投票を呼びかけるキャンペーンを獄中から実施していた。
発表によると、ナワリヌイ氏は16日、散歩の後で「体調が悪い」と申し出た後、意識を失った。刑務所の医師が対応し、救急車を呼ぶなどしたものの、死亡が確認されたという。死因は調査中だとしているが、臆測を呼びそうだ」
(読売2月16日)
プーチン政権批判のナワリヌイ氏、北極圏の刑務所で死亡…散歩後に「体調が悪い」と訴え意識失う : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

もちろん暗殺でしょう。

2024年2月16日 (金)

正恩の親不孝、祖国統一三大憲章記念塔を爆破

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ウクライナ、ハマスと続いたために私の視野から一時的に消えていた北朝鮮ですが、先日のロシアへの砲弾とミサイル輸出でいっぺんに復帰しました。
あいかわらずなにを考えているのか、小悪党らしくうごめいているようです。

ところで北国内で、先日、目立って大きな動きがありました。
なんと正恩坊やなどと失礼なことを言っている内に、父、祖父を否定するという荒技に出たのです。

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CNN 祖国統一三大憲章記念塔

「1月15日の最高人民会議(国会)で金正恩氏は「首都平壌の南の関門に無様(ぶざま)に建っている『祖国統一三大憲章記念塔』を撤去する」と演説した。ここでは国営の朝鮮中央通信の日本語記事を引用したが、「無様に建っている」と訳されている部分の朝鮮語原文は「見たくもない」とか、「見苦しい」という意味の罵(ののし)り言葉が使われていた。この演説からわずか数日後、実際に記念塔が撤去された」
(産経2月14日)
産経ニュース (sankei.com)

三大憲章記念塔は、数少ない北の「観光スポット」で、必ず観光客は連れていかれる場所です。
場所もただばくぜんとそこに作ったのではなく、ピョンヤンから軍事境界線に至るピョンヤン、ケソン高速道路の始点に設置してあります。
出来たのは、2000年のキム・デジュンと祖父キム・イルソンの南北頂上会談の時で、その成果の「6.15南北共同宣言」を記念して建立されました。

この南北共同宣言は、建前上は南北の関係を規定している重要文書でした。

「本宣言は、1972年7月4日に発表された南北共同声明(7・4声明)、1991年12月13日に締結された南北基本合意書と並び、朝鮮半島の南北対話に関する基本的合意文章である。
本宣言や南北基本合意書で合意した「自主、平和、民族大団結」といった祖国平和統一の原則を改めて確認し、統一案として韓国側の主張する「連合制」案と北朝鮮が主張する「緩やかな/低い段階の連邦制」案に共通点があるとし、その方向で統一を目指すこととした。
本宣言後、南北間の大きな懸案である離散家族再開の実現、経済協力や社会・文化など様々な分野での交流を促進するなどといった内容についても合意がなされ、実際、2000年8月には離散家族再会が実現し、金剛山観光や開城工業団地事業など、南北の経済協力事業が進められた」
6.15南北共同宣言 - Wikipedia 

そして1996年11月、父ジョンイルは「三大憲章」としてまとめました。
①1972年の南北共同声明(7.4共同声明)による祖国統一三大原則「自主、平和統一、民族大団結」、②1980年の「高麗民主連邦共和国創立方案」、③193年の「祖国統一のための全民族大団結十大綱領」の三つです。

つまり、オヤジとジィさんが作って大事にしてきた「祖国統一」目標を、孫の正恩がブチ壊すということになります。
しかも言い方がふるっていて、15日の最高人民会議の施政演説では「見苦しく立っている」とまで言っているのですから、儒教国家なのによーいいよるわ、いつのまにか先祖を否定するまでリッパになって、と妙に感心してしまいました。

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産経

「金氏は演説で「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言した。韓国が「和解や統一の相手であり同族だという既成概念を完全に消し去る」ことが必要だとして、朝鮮半島で戦争が起きた場合には、韓国を「完全に占領し、共和国(北朝鮮)に編入する」方針も憲法に盛り込むべきだとも主張。こうした改憲を次回の最高人民会議で審議するよう求めた」
(産経前掲)

なかなか過激なないようですが、要は「統一」というと平和的段階的統一だが、オレらはそんな生ぬるい言い方はしない「完全に占領して編入する」だけのことだ、ということです。
そのためにもう同族だなどと思わない「徹底的に敵」「主敵」だということになります。
いいのかね、ここまで言い切って、とは思いますが、それなりに考えた末の結論なのでしょう。
でなければ、儒教でタブーなはずの先祖の業績否定まで踏み切ることはありません。

というのは、正恩の権力の源泉はその血脈である「白頭山の血」にあるからです。
白頭山は、中朝国境にある山ですが、朝鮮民族の建国神話にかかわる聖地だそうで、金王朝初代のイルソンは、この一帯で抗日運動を展開したという異になっています。
もちろんファンタジーで、実際イルソンは中国共産党指揮下で活動したのは中国側の満州でした。
ジョンイルも生まれたのはロシア領でした。
そしてイルソンはソ連軍のジープに乗って「凱旋」して北を支配したのですが、ペーペーの下級将校だったために自らの神格化のために作ったのが「白頭山の血」ファンタジーだったのは有名な話です。

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白頭山と漢拏山 朝鮮半島の山々と南北関係の深い意味合い:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

2018年、ムンジェインは正恩の案内で白頭山を訪れ大感激して、韓国から持ってきた韓国南端・済州島の漢拏山(ハルラサン)の水を、白頭山の「天池」の水に注ぎ、南北融和を謳い上げるというパフォーマンスをやってみせました。
それが、わずか5年後には、初めて公式の場で「大韓民国」と正式国号で呼んでくれた代わりに、もはや同族でない「交戦中の外国」だときちんと位置づけてくれたわけです。

私は特に大きな変化ではないと思っています。
北が韓国を武力統一する目標を捨てたことは一度もなかったし、「南北の平和的統一」を口にしようが、それはただの欺瞞、便法の類です。
それを改めて、父と祖父の業績を否定してまで強調する必要があったということです。

では、こういう正恩の発言をどう考えたらいいのでしょうか。
西岡力氏はこう言っています。

「脱北者活動家や情報機関関係者らは、韓国の情報が大量に北朝鮮に流入し豊かで自由な韓国への憧れが急拡大し、韓国による吸収統一を望む者らが大量に発生して抑えきれなくなったことが理由だ、と説明する。
なんと昨年、100件を超える反体制事件が起きており、その大部分が韓国への憧れを抱いた者らによるという。最近、韓国マスコミが報じたが、中学校教師らをリーダーとする反体制地下党が結成され、自由民主主義への転換を求める活動がなされていた」
祖父と父を否定した金正恩氏 北朝鮮で今、大きく動いている事態 麗澤大特任教授 西岡力 - 産経ニュース (sankei.com)

西岡氏は、韓国に対する憧れが北に内部浸透した危機感の現れとしています。

一方、デイリーNKの高英起氏はこう指摘します。

「金正恩氏は、「世紀的な立ち遅れを払拭して、中央と地方の差を減らし、地方産業を全面的に、バランスを取って発展志向させる一方、それぞれの地方経済の特色のある発展を促し、競争的な発展の流れを作るのは、わが政府の前に提起された当面の課題であり、わが党の宿願である」と深刻な地域格差について言及しながら、「人民の大きな期待に報いられなかったことに対する重い責任がある。(略)
人民の生活改善のための事業で重要なことは、第一にも第二にも農業を立派に営むことである」
(デイリーNKジャパン1月16日) 
南北関係史に終止符」「韓国は不変の主敵」金正恩氏、最高人民会議で演説(デイリーNKジャパン)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

これも特に驚くことではありません。
あいかわらず同じことを言っています。
正恩は2010年の政策綱領の中で、国家目標とは北人民の生活水準を1960年代の水準にまで回復させ、祖父イルソンが掲げた目標「白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住む」ことを、真に成し遂げることだ、と言っています。
せめて「60年代に戻りたい」ですか、60年前でしょうが。
そこから成長するどころかドンドン落ちていったわけで、ああ情けなや。肥満したのは正恩父娘だけですか。

これは父ジョンイルも口にしていたことで、自身の誕生日には実際に肉を特配したほどです。
そして父子揃って、わが国はまだこの目標を達成できていない、できる限り短期間のうちにこの問題を解決し、永遠のイルソンの遺志を実現したい、と述べています。

つまり正恩にとって、この「地方経済の発展」「国民の生活の改善」なんてやる気はあるわけがありません。
あったら毎日のように高価なミサイルを飛ばすわきゃないのです。
火星シリーズなど、一発で3億から4億のものを2023年には5発、黙って20億円です。
どれだけの食糧を買い込めることか。
昨今は、備蓄していた砲弾を売り飛ばしてロシア産小麦を貰っているようですが、こんな蛸足をしていたら通常戦争なんて出来る道理がありません。
本気で国民の暮しを思うなら、即刻ミサイル道楽を止めることですが、それが止められないのは、ミサイルこそが正恩の「白頭山の血脈」に替わる新たな権力の源泉だからです。
というわけで、こんなことはテンプレであって、いつも言っていることにすぎないのです。

ただ、ここまで尻に火が着いた表現をする以上、父親系列の幹部の粛清などなんらかの権力内部の再編が背後にあるのかもしれません。

 

 

2024年2月15日 (木)

中国逃げが始まった

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中国経済の勢いを見る株式相場である上海総合指数が長期の不振に苦吟しています。
最近の動きを見てみましょう。

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マーケット|SBI証券 (sbisec.co.jp)
株式市場はただいま現在の経済動向そのものではなく、経済の先行きの展望を写しています。
ですから、中国金融市場が下落している理由は、今の中国経済が爆弾を抱えているだけでなく、投資家たちが中国市場を信頼していないことが原因なのです。
言い換えれば、マネーは中国経済を見限ったのです。
ちなみに同時期の日経平均は着実に上昇を続け、バブル期を突き抜けけ4万円台まで2千円に迫っています。
これは投資家のマネーが中国株から逃げ出し、日本株に向ったからだと言われているようです。
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マーケット|SBI証券 (sbisec.co.jp)
「中国の株式市場はかなり長い間低迷している。米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、上海総合指数は過去3年で21%超下落。それにともない時価総額も減っている。
株式の投資価値を判断する際に重視される株価収益率は、過去10年間の平均12.5倍をはるかに下回る10.4倍まで低下している。政府の大型支出計画の噂が思惑買いを誘い、主要株価指数はわずか3日間で5%近く上昇したが、その後再び下落に転じ、2021年の高値を大きく下回ったままだ」
(フォーブス2024年2月9日)
中国、国有企業に海外資金を引き揚げ同国株の購入を命じている可能性 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) 
このフォーブス記事に登場する「中国政府の大型支出計画」とは、中句政府が株式市場を買い支えるために資金を投入することです。
中国株式市場が暴落したのを受けて中国当局は市場介入を行い、1月25日の午後から株価の大きな回復が始まると思われました。
しかしその上昇は年寄りのションベンよろしくたった2日で終わり、1月29日の週の最初の取引日には再び株価が全面的に下落してしまいまい、2月2日には上海総合指数が2700ポイントを下回り、2月5日には再び2700ポイントを割り込んでいます。
さんざん中国人投資家に気を持たせておいて、結局は焼け石に水だったのです。
むしろ少し上がったところで、ストンと落ちてしまって疵を拡げただけでした。
この株式市場の低迷は、不動産バブル崩壊に起因しています。
中国指導部は何年間も不動産危機を放置し、人類史上稀な超巨大な不動産バブルを作り出しました。
これが中国政府のキンキラの軍拡や一帯一路の原資だったものですから、止めるどころかむしろ促進させました。
しかしいまや、不動産業界は海外の不動産資産をたたき売って資金を作っているという蛸足操業を始めています。

そのために海外の不動産市場に混乱が生じています。
「中国の不動産開発業者は、国内の資金繰り逼迫を緩和するために、海外資産を大量に売却している。今週、中国の不動産開発会社、広州R&Fは、ロンドンのナインエルムス地区にある16億9000万ドルの不動産プロジェクトの株式を売却した。(略)
JPモルガン・アセット・マネジメントの欧州不動産調査責任者、キャロル・ホジソン氏は「中国企業が大挙して売りに出しているため、欧州の不動産価格は急落している」と述べた。

ヨーロッパに加えて、中国の不動産開発業者もオーストラリアで多数の資産を扱っています。ほんの数年前、野心的な中国のデベロッパーのおかげで、オーストラリアの不動産市場はかつてないほど活況を呈していました」
(ブルームバーク2024年2月11日)
中国の不動産危機は世界中に広がる...中国企業は海外資産を大量に売却 (daum.net)
中国政府はこの蛸足操業をむしろ奨励しています。
「新たな報道によると、国有企業に海外に保有する資金を引き揚げて中国株の購入に充てるよう命じることで中国の株式市場を支援しようとしているようだ。噂では、この取り組みで2兆元(約42兆円)が動くという。共産主義の政権にしては実に奇妙な動きであり、中国経済が直面している根本的な問題にも対処しない限り、失敗に終わるだろう」
(ブルームバーク前掲)

中国政府は、この不動産業界の破綻の責任から逃れようとしています。
しかしこの不動産バブルは、地方政府に融資平台を通じて無制限にカネを貸し出し、その不動産利用権利を売りまくることで元手ゼロの錬金術に酔っていた中国政府が作り出したものです。
中国政府は、無から有を生むが如きこの不動産バブルで巨億の資金を手にし、軍拡や一帯一路に惜しみなくカネを注いできたのです。
中国恒大や碧桂園(カントリ・ガーデン)をはじめとする不動産開発企業は、事業計画を満足に練ることなく狂ったようにカネを借り入れ、疑わしいプロジェクトを乱立しました。
カネは土地から湧いてくるもの、カネは使いたい放題、こんなことが永久につづくと思うほうがどうかしています。
当然、全部まとめて不良債権。
つまり、現在の中国経済の悲惨な状況の責任の大部分は、このような杜撰な貸し出しをした中国政府にあります。
そしてこ不動産バフルが弾けた余波は、株式市場に向かったのです。
そして株式市場も崩壊。

結果どうなったのか、今まで安定して中国に投資してきた外国投資がキャピタルフライト(資本逃避)を起こし始めたのです。

「中国政府の最初の過ちは、住宅用の不動産開発をあまりに積極的に、しかも長く推し進めたことだ は問題の始まりに過ぎなかった。不動産価値の下落は家計の純資産を大きく目減りさせたため、消費者は支出を控えるようになった。同時に、外国企業がサプライチェーンの多様化を求め、外国政府(特に米国、欧州連合、日本)が中国との貿易を敬遠するようになったため、中国の輸出は苦境に立たされている。
これだけでも十分だが、中国政府は安全保障に執着するあまりに企業の事業運営に徹底的に介入するようになり、外国企業の対中投資は減少している。政府の中央集権的な統制への執着により、国内の民間企業の投資も伸び悩んでいる」
(フォーブス前掲)

サプライチェーンはあまりに中国政府が政治的介入を乱発するために嫌気が差していましたが、この不動産バブルと株式市場の長期停滞を受けて、いっそう多角化に走りました。
これにより中国からの輸出が鈍化しました。
今までの中国シフトが一転して、中国市場からの逃走モードに入ったのです。
かつて中国政府のエライさんらは、わが国は日本のバブル崩壊をテッテイ的に研究して対策を練った、なんて言っていましたが大笑いだったようです。
こういう時期に限って、中国共産党の中でも一番経済がわからない習大人が磐石の半永久政権を作ってしまったのですから、これもなにかの定めなのかもしれません。


2024年2月14日 (水)

日本政府がイラン革命45周年記念日に祝賀

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なんと恥ずかしいことには、日本政府がイラン革命45周年記念に祝賀を送ったそうです。
イランは各国からの祝電の冒頭にわが国を紹介しています。
イラン側の発表。

「イラン・イスラム革命勝利記念日にちなんで、世界各国の指導者や当局者らがイランのライースィー大統領宛てにメッセージを送り、祝意を表明しました。
今から45年前の1979年2月1日、イラン・イスラム共和国を建国した偉人、ルーホッラー・ホメイニー師は、遠く離れた異国での15年間の亡命・国外追放を経て、国民の熱狂的な歓迎の中イランの土を踏みました 。
ホメイニー師のイラン到着・帰国から10日後の1979年2月11日、イラン・イスラム革命が勝利の栄冠に輝きました。このことにちなみ、毎年このシーズンにはイラン全国のほか、在外のイラン外交機関でも祝賀行事が開催されます。
今年のこのイベントに際して日本、韓国、シンガポール、クロアチア、中国、エチオピア、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの当局者や指導者らがライースィー大統領に対し、イスラム革命勝利45周年を祝うメッセージを送信しました。
特に、中国の習近平国家主席はライースィー大統領への祝辞において、中国とイランの関係の大幅な発展および、この両国の積極的な連携に満足の意を表明するとともに、両国間交流と協力の新たな発展の実現への期待感を示し、「イランと中国の共同の努力により両国の包括的・戦略的パートナーシップの深化と両国の繁栄と至福がもたらされるよう希望する」としました。
各国首脳がイラン大統領に祝賀メッセージ、イスラム革命勝利記念日にちなみ - Pars Today

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IRNA通信

わが国は中国と並んで格別の扱いです。さすがは「伝統的友好国」。ああ、恥ずかしい。
もちろんこんな厚遇を受けるのは、G7唯一の祝賀国だからです。
世界からその所業によって制裁措置を浴びているイランからすれば、自由主義陣営の一角を崩せてさぞかし気持ちがいいことでしょう。
逆に言えば、日本がやっていることは、自由主義陣営に分断を持ち込む背信行為そのものです。

最新の欧州連合(EU)の制裁措置についての公式宣言。

「欧州連合(EU)理事会は本日、イランがロシアのウクライナに対する侵略戦争を軍事的に支援していることを踏まえ、制限措置のための新たな枠組みを確立した。
この新体制は、EUからイランへの無人航空機(UAV)の組み立てや製造に使用される部品の輸出を禁止する。また、イランのUAV計画に責任を負う者、支援する者もしくは関与する者に対して科すことが可能になる、渡航制限や資産凍結措置についても規定している。
この新制度は、直近では2023年2月に採択された、過去に無人機に関連した個人および団体を対象とする3度にわたる制裁措置を補完するものである」
(2023年7月20日)
EU、ロシアに軍事支援を提供するイランに対し、新たな制限的措置を採択 | EEAS (europa.eu)

そしてその前段では女性の人権侵害について制裁を課しています。

「議長国スウェーデンは「閣僚たちは、弾圧を推進している者を対象とする、イランに対する新たな制裁パッケージを採択した。EUは、イラン当局による平和的なデモ参加者に対する残忍で不釣り合いな武力行使を強く非難する」とツイートした。
欧州議会はEUに対し、IRGCをテロ組織リストに追加するよう要請。ドイツのベーアボック外相はこの日の会合で「イラン政権、およびIRGCは連日、自国民を恐怖に陥れている」と非難した」
(ロイター2023年1月24日)
EU外相、対イラン追加制裁で合意 IRGC「テロ組織」指定は見送り | ロイター (reuters.com)

女性やLGBTの人権にことのほか熱心な岸田氏が、イランを「祝賀」してどうするんでしょうか。

このロイター電は革命防衛隊(IRGC)がテロ団体に指定されなかったことを驚きとして伝えています。
つまり、されて当然、されるべきであるというのが自由主義陣営共通の認識なのです。
この革命防衛隊、その中でももっとも凶悪なのがコッズ部隊であることは、先日に記事にしました。
コッズ部隊こそ、中東各地にまんべんなくテロリスト団体を扶植した組織です。
武器を与え、カネを配り、テロリスト養成キャンプで訓練して、母国に送り返したのはイランです。
ハマスやヒズボラ、フーシー派の生みの親はこの革命防衛隊ですから、イスラエルのテロに対して大きな責任を持っています。

このようなイランはトランプの核合意離脱を奇貨として、高濃縮ウランの増産に乗り出しています。

[ワシントン 26日 ロイター] - 米ホワイトハウスの国家安全保障会議の報道官は26日、イランによる高濃縮ウランの増産に関する国際原子力機関(IAEA)の報告書を米国は「非常に懸念している」と述べた。
IAEAは26日、加盟国への報告書でイランがウランの濃縮度を兵器級に近い60%まで高めるペースを再び加速させているとの見解を示した。
報道官は、イラクとシリアにおける最近のドローン(無人機)攻撃や紅海における親イラン武装組織フーシ派の商船への攻撃など、イランが後ろ盾となる勢力が危険で不安定な活動を続ける中、イランの核開発加速は今まで以上に懸念事項だと指摘した」
(ロイター2023年12月27日)
イランの高濃縮ウランに関するIAEA報告、米政府「非常に懸念」 | ロイター (reuters.com)

欧米社会が結束しているのは、こんなイランに核兵器を持たせないためですが、これまた核なき未来を提唱する岸田氏は欧米と連帯するどころか、核兵器づくりに奔走するイランを「祝賀」してしまっています。
やれやれです。

 

2024年2月13日 (火)

トランプ、ロシアにNATOを攻撃することを促す

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ああ、どうしてこんなドアホウなことを言うのか、この人。
またもやトランプがウルトラ級の暴言です。
最近はウクライナ支援も止めるわけじゃないが、NATOも同じだけしろと言ってるんだ、なんて案外マトモなことを言っていたのですが、またまたやらかしました。
今度はこともあろうに米国最大の敵のはずのロシアに、NATOを攻撃しろとけしかけていますから尋常な神経ではありません。
プーチンは笑い転げていることでしょう。

「今年11月の米大統領選で野党・共和党の指名候補になる見通しが強いドナルド・トランプ前大統領は10日、在任中に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に対し、その国の「軍事費負担」が不十分ならばアメリカはその国を守らず、ロシアに「好きにするよう促す」と発言したのだと、支持者集会で明らかにした。
これについてNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「我々全員の安全保障を損なうものだ」と強く反発。ジョー・バイデン米大統領も、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為に「青信号」を与えるものだと批判した。
トランプ前大統領は10日にサウスカロライナ州で開いた支持者集会で、自分がかつてNATO首脳会議(サミット)に出席した際、「大きい国」の指導者から、仮定の話を持ち掛けられたのだと明らかにした。
これに対して自分は、「払ってない? ちゃんと払ってない? だったらうちはおたくを守らない。むしろ、(ロシアに)好きにするよう促す。払わないとだめだ」と答えたのだと、前大統領は聴衆に話した。
前大統領は、この会話がいつのことか、相手の国や指導者がどこのだれかなどは明らかにしなかった。
それによると、その外国指導者は「もし私の国がNATOでの金銭的義務を果たしていないとして、私の国がロシアから攻撃されたら、アメリカはどうするのか」と、トランプ氏に尋ねたのだという」
(BBC2月12日)
トランプ米前大統領、NATO加盟国攻撃をロシアに「促す」……在任中の発言に批判 軍事費負担めぐり - BBCニュース


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トランプ氏の「ロシアけしかける」発言 バイデン大統領が批判「権力取り戻したら…」(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース 

NATO事務総長は直ちに、これはプーチンに青信号を出したことだ、と批判しています。

「ストルテンベルグ事務総長の声明を受けて、バイデン米大統領は声明で、「ドナルド・トランプは、自分がプーチンに青信号を与えるつもりだと認めた。プーチンがさらに戦争を続け、暴力をふるい、自由なウクライナに対する残虐な攻撃を続け、その侵略行為をポーランドやバルト諸国へ拡大するのを、容認するつもりだと。これはとんでもない、危険なことだ」と強く批判した」
(BBC前掲)

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TBS NEWS DIG

今の勢いならほぼ確実にトランプは共和党候補となり、そしてかなりの確率でバイデンを破る可能性があります。
仮にトランプを止めたいとするなら、それは立候補資格を剥奪するしかありません。
去年12月19日、コロラド州最高裁は、3年前の議会乱入事件に関与したとされるトランプに立候補資格はない、という判決を下しました。

「この事案は、米国憲法の順守を誓った「米国の公務員(an officer of the United States)」などが反乱や反逆に関与した場合、その後の公職禁止を定める憲法修正14条3項の規定に絡むもので、大統領経験者に対し同規定に基づく判決が下されたのは初めて」
(ブルームバーク2024年1月4日)
トランプ前大統領が連邦最高裁に上告、出馬禁止のコロラド州判決巡り - Bloomberg

トランプ側は不服として連邦最高裁に上告しています。

「トランプ氏側は連邦最高裁への上告で、20年大統領選結果を覆そうとして同氏が反乱に関与したことはないと判断するよう求めている。ブルームバーグが確認した提出文書のコピーによれば、同氏は連邦議会議事堂襲撃事件について、「『反乱』ではなかった」と主張。同氏の弁護士も「憲法修正14条の制定時の解釈によれば、『反乱』とは武器を手にして米国に戦争を仕掛けることを意味する」と論じた」
(ブルームバーク前掲)

トランプは支持者をけしかけるような発言をしましたし、そもそも開票日に議事堂でその作業をしようとしている時に、大規模な集会を呼びかけるほうが異常です。
まずは当時の客観状況からおさえます。

「ワシントン=横堀裕也】米連邦議会で開かれていた上下両院合同会議は7日未明、大統領選の選挙人による投票結果の集計を終え、ジョー・バイデン前副大統領(78)を次期大統領に正式に選出した。議会では審議中の6日午後、トランプ大統領の支持者が多数乱入し、議事堂を一時占拠、一部は警官隊と衝突した。米メディアは、これに伴い、4人が死亡したと伝えている。
 米メディアによると、支持者らは窓ガラスを割るなどして議事堂に押し入り、議場や下院議長室に侵入した。合同会議は約6時間にわたって中断を余儀なくされた。会議の議長を務めていたペンス副大統領や議員らは避難して無事だった。
 首都ワシントンのムリエル・バウザー市長は6日午後6時(日本時間7日午前8時)から夜間外出禁止令を出し、警官隊がデモ隊の排除を進めた。米CNNなどによると、死者4人のうち女性1人は議事堂敷地内で銃で胸を撃たれたという。
 合同会議は再開後、各州の選挙人の投票結果の集計を継続し、計538人の選挙人による投票はバイデン氏306票、トランプ氏232票となり、バイデン氏の勝利が正式に確定した。
 一方、CNNなど米主要メディアは6日、ジョージア州で5日実施の上院2議席の決選投票で、民主党候補が両議席で勝利を確実にしたと一斉に報じた。民主党が上院で多数派となり、過半数を確保している下院と合わせ、20日に就任するバイデン氏は議会運営で主導権を握る運びとなった。
トランプ氏「20日に政権移行」
 トランプ氏は7日未明に声明を出し、「選挙結果には同意できないが、1月20日に秩序だった政権移行が行われる」と表明した」
(読売1月8日)
https://news.nifty.com/article/world/worldall/12213-921397/

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時事

いかなる理由にせよ、大統領確定を審議している議事堂に突入し、その審議を中断させてしまえば、これは立派な犯罪行為と見なされます。
主張していることの内容ではなく、やったことの行為の内容において処罰されねばなりません。
しかも死者を4名も出してしまっては、いかなる言い訳も許されません。

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同上

上の写真は当日死亡した女性が撃たれた時のもののようですが、発砲しているのはただの警官ではなく要人警護官(シークレットサービス)です。
彼らが銃を抜くというのは、要人のすぐ近辺まで殺到し、撃たれたのは制止に応じなかったためでしょう。
亡くなった方には気の毒ですが、重要案件を審議中の議事堂に暴力的に押し入り、警察官の制止を聞かなければ、米国では撃たれても文句は言えません。

トランプ政治の特徴であり欠点だったのは、大衆を動員する手法でした。
大規模な応援集会やデモをするところまでは、大衆のやりきれなさを具現化する大統領として有効な政治手法でしたが、このような議会審議に圧力をかけるためとなると話は違います。
これは民主政治の仕組みそのものを、大衆デモの力を借りて有利に運ぼうとするものであって、ひとたび間違えるとこのような一部の暴徒を押えきれなくなってしまいます。
トランプは「大衆の力」の使い方を土壇場で間違えたのです。

この事件がトランプが引き起こしたことであるか否かは微妙ですが、すくなくとも彼は怒りのガスを溜め込んだ支持者を集めて煽動してしまいました。
そしてトランプはこのモッブと化した支持者を背景にして、上院議長でもあったペンス副大統領に圧力をかけたのです。

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「昨年1月の米連邦議会襲撃事件を調査している米下院特別委員会が16日あり、当時のドナルド・トランプ大統領がマイク・ペンス副大統領に対し、大統領選の結果を打ち消すよう違法な圧力をかけて危険にさらしたと、委員らが発言した。
与党・民主党が主導する同委員はこの日、3回目の公聴会を開催。冒頭には、トランプ氏がホワイトハウス前での演説でペンス氏に「正しいこと」をするよう求める映像と、議事堂にいたトランプ氏の支持者らが「マイク・ペンスをつるせ」と唱えた場面の映像が流された。
その後、ペンス氏の首席顧問だったグレッグ・ジェイコブ氏が、「私たちは文書、歴史、そして率直に言って常識を検討したが」、ペンス氏には選挙結果を覆す権限がないとの結論に至ったと証言した」
(BBC2022年6月17日 )
トランプ氏がペンス氏に「違法な圧力かけた」 米議会襲撃の調査委 - BBCニュース


このペンスへの圧力は、議会での大統領選結果の認定と「平和的な政権交代」を阻止しようとしたととられてもしかたがないものです。
トランプはこの事件についてなんの反省もないばかりか、正しかったとすら言っています。そこが問題なのです。
この意味で、コロラド州最高裁が、トランプが「違法な目的」のためこうした一連の行動を取ったことには「十分な証拠」があるとしたのは当然です。

もちろんトランプはこんな州最高裁ていどの判決で引っ込むようなかわいいタマではなく、このようなことを主張し、連邦最高裁まで上告しています。

「トランプ氏は判決を不服として連邦最高裁に上訴し、この日(8日)、弁論が開かれました。主な争点は3つ。▼トランプ氏は反乱に加担したか?弁護団は「議会乱入は恥ずべき犯罪的暴力だが反乱ではない」と指摘しました。▼大統領は単なる官職(officer)か?この点を条文は明示していません。▼立候補資格をはく脱できるか?ひとつの州の判断で大統領選挙を決定づけるような事態には、複数の判事が懐疑的な発言をしました」
米連邦最高裁トランプ氏の立候補資格は? NHK解説委員室

どのように連邦最高裁が判断するかはわかりません。
たぶん「反乱」への加担については踏み込んだ判断はせずに、立候補は認めるのではないかと思われます。
ポンペオ元国務長官は、大統領になればチームで考えるようになるから大丈夫さ、という意味のことを言っていたようですが、どんなもんでしょうか。だといいのですが。
そしてトランプという猛獣の最大の「調教師」であった安倍氏はもういないのです。
これは日本のみならず世界の不幸でした。
暗澹とした気分になります。

 

2024年2月12日 (月)

UNRWA本部の地下にハマスの司令部発見される

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お気の毒ですが、昨日、「たった12人しかいないじゃないか、どこの組織にもいる不心得者にすぎない。支援停止はジェノサイド加担だ」と言ってきたUNRWA擁護派(というかハマス擁護派)の皆さんに壊滅的ニュースが飛び込んできてしまいました。

「(CNN) イスラエルは10日、パレスチナ自治区ガザ地区北部にある国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の本部地下でイスラム組織「ハマス」の主要なトンネルを発見したと主張した。
イスラエル軍がガザ北部シャティ、テルアルハワ両地区での作戦遂行中に見つけたとしている。声明で、UNRWAが運営する学校近くでトンネルの坑道入り口にたどり着いたとした。トンネルの発見日時には触れなかった。
CNNはこのイスラエル軍の主張を独自に検証できていない」
(CNN2月11日)
ガザのUNRWA本部地下にハマスのトンネル、イスラエル主張 - CNN.co.jp

「イスラエルの主張を独自に検証できていない」などとCNNは書いていますが、巨大なサーバーや発電施設なども見つかっており、じゃあどうやって「国連」の眼を逃れてこんな設備を地下トンネルに持ち込んだのだ、ということになります。

現地紙イスラエルポストは、このように伝えています。

「イスラエル国防軍によると、学校近くのトンネル坑道は、ハマスの軍事諜報部門にとって貴重な資産となる地下シェルターに通じていた。トンネルに繋がるルートは、ガザ地区にあるUNRWA中央本部の地下の小道にも通じていた。
報告書によると、トンネルの長さは700メートル、深さは18メートルで、さまざまな新しいルートに通じる通用口がいくつも設置されていた。イスラエル国防軍は、この作戦で新たに入手した情報により、将来、ハマスに対する追加の襲撃が可能になると述べている」
(イスラエルポスト2月10日)
イスラエル国防軍、UNRWAガザ本部地下にハマスの司令部トンネルを発見 - エルサレム・ポスト紙 (jpost.com)

イスラエル軍は動画を公開しています。
動画は上記のエルサレムポストに収録されています。
これがUNRWAのガザ本部ビルです。

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UNRWA 本部地下にハマスのトンネル入り口が発見されて、兵士が突入すると驚くべき巨大施設がでてきてしまいました。
ハマスの司令部です。

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この 地下を辿って行くと配電盤室に出ます。

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さらに 行くとバッテリーを連ねた蓄電器室に行き当たります。
たぶんUNRWA本部から給電されて、ここでいったん蓄電していたようです。

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そしてサーバー室に出ます。

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UNRWAのガザ本部の真下で、イスラエル国防軍がハマスの極秘データセンターを発見 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

このようなサーバーと配電装置は、司令部機能には必須のものです。
そしてこれらのケーブルは直接にUNRWA本部に接続されていました。

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タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

一方ケーブルを辿った先のUNRWAのサーバー室はもぬけの殻でした。
UNRWAはどうして器材を持ち出したのでしょうか。

「UNRWAのサーバールームは、ハマスのサーバールームと違って、ほとんど空っぽのようだった。部屋の外にはサーバーキャビネットが1台置かれていましたが、すべてのコンピュータが取り除かれていました。
「彼らはすべてのコンピューターとすべてのDVR(監視カメラ用デジタルビデオレコーダー)を片付け、ケーブル(のほとんど)を切断しました。これは何かを隠している人の行動です」と(イスラエル軍大佐の)アハロンは言った」
(イスラエルタイムス)

もちろんここからは武器弾薬も見つかっています。

かつてガザの病院地下のトンネルから、武器弾薬は見つかったものの、このような司令部機能が見つからなかったことから、ここはハマスとは無関係だという意見が多く出ました。
今回そのものズバリの司令部機能が見つかってしまったわけで、どういたしましょうか。

 

UNRWAのラザリーニ事務局長は、うろたえたのかガザ本部の下にこんなものがあるのは承知していなかったと言っています。
ばかだねぇ。知らなかったですか。
どうせ否定するなら、アレはUNRWAの施設だと言い切ってしまえばいいのに。
そうすれば、シファ病院の時のようにシラばくれることができたのに。
あれだけ巨大な施設が地下にあったことを知らなかった、なんて言い訳は通用しませんぜ。

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ラザリーニによると、同機関の施設の調査は四半期ごとに実施。ガザの施設の点検は昨年9月が最後だったと言っています。
これに対してイスラエルの人道支援担当官の反応。

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イスラエルの人道支援担当官も過去の会合でこのUNRWA本部を使っていたのではないかと思いますが、さすがに堂々とUNRWA本部の地下にハマスも同居していたとは思わなかったのでしょう。
UNRWA本部地下にトンネルが見つかったとの主張を受け、イスラエルのカッツ外相は10日、ラザリーニ事務局長の辞任を要求しました。

当然です。

それにしても国際政治学の「権威」S氏のように、「イスラエルは快楽殺人国家だ」「UNRWA支援停止はジェノサイドだ」なんて常軌を逸した言い方をしていた人はどう思うんでしょうね。
たぶん黙殺か全否定だと思います。

ところで一般的に学者は慎重な言い回しをします。
仮に、たとえば「ハマスは正しい」とか「ハマスとUNRWAは無関係だ」と考えていたとしても、しょせんまだ仮説構築の段階です。
だから研究者は、仮説の段階では極端な表現は慎み、事実を積み上げて論証していきます。
いまのガザ戦争のような進行形の紛争の場合、自分の説を否定する事実が出た時、自分の説全体が崩壊するからです。

ところが今回、中東専門家の「権威」I氏や平和構築学の「権威」S氏は、教授の肩書で口を極めて言い募る方法を選んでしまいました。
I氏などの論敵に対して法的措置をとる、この人物をメディアは取り上げるな、と言い出し、取り上げたジャーナリストのH氏に「色ボケ老人」とまで罵倒しています。これがまともな言論人の言うことですか。
研究者が論敵を訴訟をしたら、それは研究者として自殺です。
相手が暴力的な行為で乱暴をはたらいたのならまだしも、違う論説を立てて自分が批判反を受けたくらいで法的措置をとっていたら、学問研究や言論などは成り立ちません。
これでは政治運動家のやるスラップ訴訟(いやがらせ訴訟)です。それも三流どころの。

いままでこの2氏には一定の敬意を払っていたから言うのですが、I氏やS氏は後に新しい事実が出た時、引っ込みがつかなくなくなるような侮辱的な言い方は止めるようにお願いします。
学者の、というより言論人としてのそれが常識ではないでしょうか。
こういう議論の方法がいかに論壇を貧しくさせることか、心してほしいものです。


 

扉写真
なんとコウノトリがうちの村を飛翔していました。

 

 

2024年2月11日 (日)

日曜写真館 寒梅の蕊授かりし天に向く

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寒梅やよきこゑとして老のこゑ 森澄雄

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神在せば寒紅梅の魁けたり 岸風三楼

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浮く日あれ寒紅梅の蕊ひらく 成田千空

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寒梅や空の青さにすきとほり 星野立子

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冬梅や母の履き古る日和下駄 河久保喜秋

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黝きまで寒紅梅の紅驕る 長谷川素逝

 

 

2024年2月10日 (土)

やっぱりイランから現金が渡っていた

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あーあ、やっぱりね、という感じですが、イランからやはり現金がハマスに渡っていたようです。
いままでテロ組織に現金が渡っていたことは確実視されていても、その現物が押さえられていなかったのですが、その物的証拠が見つかりました。

「イスラエル軍は6日、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスの地下トンネルで、イランからイスラム主義組織ハマスへ約1億5000万ドル(約222億5000万円)が送金されたとされる証書が見つかったと発表した。軍報道官は「イランが中東にテロを輸出している具体例だ」と述べ、イランとハマスのつながりを強調した。
証書には2020年までの7年間に、イランからハマスのガザ指導者ヤヒヤ・シンワル氏らに送金されたと記録されている。イスラエルは同盟国に証書を送り、裏付けを進めている。

近くの金庫からは2000万シェケル(約8億1000万円)の紙幣も見つかったという。報道官は「ハマスの指導者が隠れ、人質が拘束されていた場所だ」と指摘した」
(読売2月7日)

イスラエル軍、イランからハマスに222億円送金の証書発見と発表…「イランがテロ輸出」と強調 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

この金庫は「ハマスの指導者が隠れ、人質が拘束されていた場所」で見つかったそうで、この指導者名は明示せれていませんが、おそらくガザ地区の軍事責任者であり、いまもトンネルを逃げ回っているヤヒヤ・シンワル(下写真右)だと思われます。

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カイロでの停戦・人質解放交渉の現状:無理を言っているのはハマス 2024.2.5 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

ハマスの地下金庫を捜索していたイスラエル軍のプレスリリースです。

「さらに、諜報活動を受けて、兵士たちはハマスの金融インフラを標的にした襲撃を行い、テロ組織の金庫と、テロ目的に指定された300万シェケル以上が保管されている外貨両替所を突き止めた。兵士たちはまた、ハマスの諜報文書も発見した」
(IDFプレスリリース2月4日)
2024年2月4日 80万ドル以上のハマスのテロ資金がハーンユニスの空挺部隊によって発見された |イスラエル国防軍 (www.idf.il)

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IDF

またシンワル宛てのカネも封筒に入ってあったようです。下写真はアラビア文字で「シンワル」とあります。

「イランから送金された多額の資金に加え、イスラエル国防軍の兵士は、ハマス宛ての100シェケル紙幣が入った袋や、ハマスの指導者ヤヒヤ・シンワル自身宛ての何万ドルもの現金が入った封筒を発見した」
イスラエル国防軍、イランからハマスに1億5000万ドル以上が送金されたことを明らかに - I24NEWS

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I24NEWS

ところでイランとハマスやヒズボラ、フーシ派などのテロリストとのつながりは公然の事実でしたが、現物の現金と証拠文書が発見されたのは初めてのことです。

ところで去年暮れの12月25日、イスラエル軍はシリアの首都ダマスカス郊外への空爆で、イラン革命防衛隊(IRGC)司令官のラジ・ムサビを殺害しました。
ムサビはコッズ部隊という海外テロ工作チームの最高指揮官でしたが、コッズ部隊とはこのような組織です。
中東問題における小泉悠氏に似た立場の黒井文太郎氏はこう説明しています。

「この部隊はもともと1980年代のイラン=イラク戦争時の革命防衛隊の特殊部隊を母体に、同戦争終結時の1988年に設立された。任務は海外での秘密工作で、具体的には海外でのテロ工作と、外国にイスラム革命を広げる「革命の輸出」である。後者の具体的な活動が、外国のイスラム主義者の人脈をリクルートし、組織化し、武器を与えて訓練し、武力闘争を指導することだった」
(黒井文太郎2023年11月7日)
ハマス・ヒズボラを支えるイランの危険な謀略機関「コッズ部隊」:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

ムサビはソレイマニの後任として、ハマスの武装化に力を注ぎました。

「ハマス指導部の最高幹部のひとりであるサレフ・アロウリ政治局次長が2020年5月、レバノン「マヤディーンTV」で次のように語っている。(表向き)関係が冷たくなった時期でさえ、イランは我々を支援してくれた」「私が初めてコッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官に会ったのは2010年か11年。その後に何度か会い、私自身もイランを訪問した」
 同インタビューによれば、アロウリ政治局次長は最初のイラン訪問時にアリ・ハメネイ最高指導者と会見。ハメネイはその場でソレイマニ司令官にハマス支援を指示し、それ以降、コッズ部隊との関係が深まっていったという。
(黒井文太郎2023年12月15日『キーマンは「ハマス政治局次長」と「コッズ部隊パレスチナ支部長」 イスラエルが命を狙う6人の最重要「標的」とは』)
キーマンは「ハマス政治局次長」と「コッズ部隊パレスチナ支部長」 イスラエルが命を狙う6人の最重要「標的」とは:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)


ハマスは90年代まで、当時の資金源である湾岸諸国や在外パレスチナ人の寄付で成り立つ微温的組織でした。
よく中東屋たちはしたり顔で、「ハマスは福利厚生団体だ」などと間違った印象誘導をしていますが、それはこの時代のものです。
本当に不勉強な連中で、こんな人らが少し前まで外務省の中東政策を動かしていたのです。
彼らがやったことは「イランは伝統的親日国」という誤った理解による親イラン政策でした。

それはさておき、ハマスは政治部門をシリアに移すと、アサド政権と同盟関係にあったイランの影響下に入ります。
いや、「影響下」というより、指揮下というべきでしょう。

「イランがハマスの最大の支援国になった。現在ではハマスの唯一の後ろ盾がイランと言っていいほどで、とくにカッサム旅団への軍事支援はほぼすべてがコッズ部隊とヒズボラによるものになっている」
(黒井文太郎2023年11月7日)
ハマス・ヒズボラを支えるイランの危険な謀略機関「コッズ部隊」:黒井文太郎 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

イランの影響下に入ったハマスの構成員の中には、元々イラン国内のコッズ部隊が運営するテロリスト養成所やヒズボラのベッカー高原での訓練所などで訓練された者たちがおり、彼らは「カッサム旅団」と名乗って、ハマスの軍事部門を作るようになります。

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イッズッディーン・アル=カッサーム旅団の戦闘員
イッズッディーン・アル=カッサーム旅団 - Wikipedia

「旅団」と称していますが、師団規模以上の3万から4万の戦闘員を抱える強力な存在です。
彼らこそ、今回の10.7テロ襲撃の主犯です。

ただし、カッサム旅団は、ハマスの合法部門とは区別された秘密軍事部門で、構成員が誰であるかは知らされていません。

「ハマスは政党でガザの行政機構でもあるので、政治部門はオープンだ。幹部も組織メンバーも公開されており、幹部の人選もオープンに任命される。対してカッサム旅団では、イスラエルの攻撃を警戒して徹底的な秘密主義がとられている。海外で訓練中の戦闘員を除き、最高幹部含めて全員がパレスチナ国内に潜伏し、最高幹部クラス以外は氏名も秘匿されている」
(黒井前掲)

この組織形態は共産党の構造によく似ており、4、5人の「細胞」に属し、自分の指揮系統しか知らされていません。
ハマス型「民主集中制」です。
逆に言えば、頭をつぶされると身体まで動かなくなるために、こういう組織構造を知るイスラエル軍は上級指揮官を狙い撃ちにしています。

また内部での横の議論や交流は禁止されているために、小規模なテロや奇襲が得意です。
普段は学校の教員や自治政府の公務員のような顔をして過ごしているために、中東屋はころりとだまされています。
握手した相手が、カッサム旅団の戦闘員だったりするかもしれないのですが。
戦闘員は指令があり次第戦闘服に着替えて武器を持ち戦闘に参加します。
全員が覆面をしているのは、シャバに戻った時にわからなくするためです。
もっともガザ戦争では、戦闘服は着用せずに民間人の姿のまま銃撃戦に参加しているのが多く見られています。
こういうやり方が、民間人被害を大きくする原因となっています。

このようにイランはハマスに対して「影響を与えた」「つながりがあった」「関係を疑われている」などという生易しい関係ではなく、生みの親はイラン、育ての親もイランなのです。
今回、物的証拠が見つかったことで、さらにこの関係の解明が進むでしょう。

 

 

2024年2月 9日 (金)

イスラエルとハマスの交渉状況

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2024年2月 8日 (木)

中国恒大集団、清算へ

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中国の不動産バブルを牽引してきた中国恒大集団(エバーグランデ)が、香港の裁判所から清算を命じられました。


「巨額の負債を抱えている中国の不動産大手、中国恒大集団(エバーグランデ)が29日、香港の裁判所から清算を命じられた。
清算は、企業の資産を差し押さえて売却する手続き。得られた金は未払い債務の返済に充てられる。
しかし、清算の命令が実行されるかは中国政府次第だ。今回の命令は必ずしも恒大の破綻を意味しない」
(BBC1月29日)
中国不動産大手の恒大に清算命令 香港の裁判所 - BBCニュース

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ロイター

BBCが書いているように今回の香港裁判所の命令はイコール破綻ではありませんが、恒大の負債は3250億ドル(約48兆円)超という途方もない規模に登り、香港高等法院(高裁)のリンダ・チャン判事が言うように、「もうたくさん」と言うにとおり八方塞がりです。

つまりニアイコールなのです。

今後、香港高等裁判所が命じたように中国恒大の清算に向かいますが、その資産の大部分は中国本土にあり、中国本土資産の差し押さえと凍結、売却ができなければ清算はできません。
そして管轄権の問題も浮上します。

「正式な管財人は、債権者らとの会合を経て、数カ月以内に任命される。
だが、恒大の資産の大半は中国本土にある。中国と香港は「一国二制度」とされているものの、厄介な司法管轄権の問題がある。
中国と香港の裁判所は、管財人の選任を認め合うことで合意している。しかし、デロイトのライ氏によると、彼が知る限り、中国本土のパイロット地域3カ所では、「申請6件のうち2件しか」認められていないという」
(BBC前掲)

つまり、中国政府と香港との間で結ばれた民事商事判決の相互承認という約束が守られれば、中国本土でも正常な清算プロセスにはいることが可能です。
中国政府がそれに従うかはまったく別問題で、中国政府が香港裁判所の清算命令を黙殺することは充分に考えられます。
いままで中国政府は、香港の「一国二制度」を踏みにじってきた歴史があるからです。
ただし、中国が香港との合意を廃棄してしまえば、金融不安の引き金を引くことになります。

そしてさらに中国社会の不安定化や、香港の金融ハブとしての機能に大打撃を与えることになります。

いずれにしろ、いくら時間をかけて引き延ばしても、恒大の再建に失敗したという厳然たる事実は、中国不動産バブルが完全に崩壊したことを宣言したことになります。
中国政府が合意を廃棄するかも知れないと思わせるのは、この中国恒大破綻は恒大だけのことにとどまらないからです。

中国民間デベロッパー上位50社のうち、40社以上が同様の不良債権を抱えており、中国恒大のモデルが他の破綻処理モデルになると考えられるために、おいそれは香港の要求に添えないからです。

中国政府が遭遇しているのは世界史上最大、かつ最悪の不動産バブルの崩壊です。
下図の右オレンジ色のが中国の不動産価格ですが、飛び抜けているのがわかります。
東京はグラフの下から5番目にすぎません。

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武者リサーチ

「中国において、近年世界が経験したことがない不動産価格の異常な値上がりが起きたことが指摘される。不動産価格の水準を年間所得との比較で見ると、上海50倍、深圳43倍、香港42倍、広州37倍、北京36倍(2023年NUMBEO調べ)と、歴史的高水準に達している(東京は12倍、NY10倍)。バブル期の東京の同倍率が15倍であったことと比較すると、中国の深刻度は明らかである」
(武者リサーチ2023年9月9日)
日中不動産バブルの比較と中国Japanificationの可能性 | 武者リサーチ (musha.co.jp)

不動産投資は中国経済の主要な牽引力であり、中国の対GDP比率544%に達します。
企業規模も巨大であり、都市住民の25%以上が建設不動産関連が雇用しているために、不動産バブル崩壊と企業破綻が本格化することにより、雇用不安が一気に表面化します。
失業率の増大は個人消費を確実に冷え込ませますから、家電、衣料など幅広い消費分野を道連れにするでしょう。

このように一見よく似た日中の不動産バブルですが、決定的に違う点があります。
それはこの不動産バブルは、中国政府が意識的に作り出したものであることがひとつ、そして第2に地方政府が深く関与していることです。

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隠れ債務665兆円、経済対策は安全運転 (3ページ目):日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

中央政府は、財政投入を予算法によって地方政府に押しつけてきました。
地方政府は債券発行の権限がないために赤字予算が認められず、やむをえず地方政府がやったのは、融資平台と呼ばれる投資会社を設立させ、地方政府に帰属する土地を担保にして資金を借り入れるという手管でした。

地方融資平台 - Wikipedia

新幹線や高速道路網、ダムなどの公共インフラ整備をするという名目で、巨額のカネを貸し付けたのです。
融資平台はタテマエは民間企業としましたが、当然ながら地方政府の暗黙の保証があるものだと考えられて、ジャブジャブと銀行は資金供給したのです。
貸し付けるだけで土地利用権を売れて地方政府が儲かるので、濡れ手に粟だとでも思ったのでしょうね。

いわばウルトラ大規模なカードローンみたいなもの、やがて破綻するのは目に見えていました。
このような浮草に乗って中国政府は、その支出の85%を地方政府に押しつけ、その地方政府財政の4割は土地利用権売却益で稼いでいたのです。
浮草の上に浮草が乗る錬金術、というのが中華帝国の金倉事情だったのです。

「日中共通の受動的バブル形成に対して、中国には政策が能動的にバブルを引き起こしたという、大きなバブル形成の誘因があった。
中国国家財政は地方が支出の85%を担うという構造になっているが、地方の財政収入の4割が土地利用権売却益によってねん出する仕組みとなっている。地方政府は規制・周辺インフラ整備・金融支援込みで魅力度を高めた土地利用権を売却し巨額の収入を得続けた。その威力は、2008年のリーマンショック時の世界経済を助けたといわれた4兆元の経済対策や、2015年のチャイナショック時に発揮された」
(武者リサーチ前掲)

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武者リサーチ

習近平が「中国の夢」と称して一帯一路に乗り出せたのも、米国に追いつけとばかりに中国海軍を大軍拡できたのも、リーマンショックで世界経済を助けたと称賛され「中国の時代」を鼓吹できたのも、すべてこの不動産バブルのおかげだったのです。
言い換えれば、不動産バブルが弾けてしまうと、習近平の金倉はカラッポになるかもしれないのです。

では、習近平はこの不動産バブル崩壊にどう対処するのでしょうか。
結論からいいましょう。
中国政府は不動産バブルの崩壊を「黙殺」します。
つまりズッと「ない」ことにしてしまうのです。嘘八百でも口を割らない。
認めれば共産党支配は終わる。
だから行けるところまで行く、そう共産党のボスたちは考えているはずです。

そんなことができるのかって。もちろんフツーにはできません。
日本の不良債権の規模がおおよそ100兆円超規模だったのに対して、中国は融資平台だけでその9.4倍、民間デベロッパーや銀行の不良債権まで加えると一体どれほどの規模になるのか見当も着かないありさまなのですからシカとできるはずがありません。
中国恒大の場合、債務総額50兆円以上、未払い債務(取引先や建設業者への支払いなど)12兆円以上、不渡り手形など9兆円以上、未納品完成物件に関する債務14兆円といわれており、資産は30兆円に満たないとされています。
しかも問題は不動産業界全体に行き渡っており、50兆などという生易しい額ではなくケタが違うはずです。

本来であれば、不良債権の管理会社はバブル崩壊の後始末のため、強固な財務基盤を持つ必要があるのですが、海外の大手信用格付け会社による融資平台などの格下げを開始しており、中国の信用不安の高まりから投資の引き揚げに走ろうとしています。
なにより中国政府が、本当に不動産バブル崩壊の深刻さを理解しているか、そこから怪しいと思う投資家が増えています。

中国政府は、不動産投資から株式投資に誘導し、株式市場に巨額の資金注入をして買い支えてきました。
にもかかわらず、今年に入って株式市場の暴落が続き、とうとう1月30日、中国の株式市場が大暴落しました。
その理由は「ナショナルチーム」と呼ばれる中国機関投資家らの力が尽きたことです。
ナショナルチームは、政府が株式を保有し管理下に置く金融機関や国有大企業のことで、これまで株式市場を下支えしてきたのですが、その力が尽きました。

本来なら、ナショナルチームなどにやらせずに、直接に中国政府が直ちに政府資金を投入して全力でこれを救済しないと、空前の不況と信用縮小に陥ることは明らかです。
そのためには、公金投入の規模をどれだけしたらいいのかを確定せねばなりません。
日本では不良債権の救済に当たって企業に財務の開示を要求しました。
いくら不良債権があるのか、いくら資金注入したらよいのか、どれだけ信用不安が拡がっているのか、を掴むためには経営内容の開示が前提だからです。

しかし中国恒大に貸し付けている銀行はことごとく国有銀行である以上、共産党は財務を公開できません。
高橋洋一氏は、石平氏との共著『断末魔の数字が証明する中国経済崩壊宣言』の中でいみじくもこのように述べています。

「不動産バブルを維持することは可能です。銀行のほうで不動産開発業者にずっとカネを貸し続ければよい。中国では銀行は国有です。だから国有銀行がずっと貸し続ければバブルは維持できます。(略)
不良債権があっても中国政府が『不良債権など一切ない』と言い、銀行も『不良債権はない』と言い切るのであれば砂上の楼閣がずっと続いていくはずです。(略)
だからバブルが弾けたとしても中国政府はなにも言わない」

たぶん、今回も共産党は「なにも言わない」でシラをきり通すことでしょう。
不良債権は一部の企業の不祥事だとしてないことにして、国有銀行には不良債権など一元もないとシラっとして言ってのけるはずです。
習近平には中国経済の立て直しは困難です。
なぜなら習近平は共産党内でも珍しいゴリゴリの毛沢東主義者であって、自由主義経済を憎んでいるからです。
こんな経済がわからない習は、中国経済を焦土と化しても、共産党だけは残したいはずです。

※お断り
扉写真が気持ち悪いという声があって、差し替えました(汗)。

 

 

2024年2月 7日 (水)

UNRWA支援を停止するのはジェノサイド加担だって?

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れいわ新撰組が、政府のUNRWA (ウンルワ)への支援一時停止についてこんなことを言っています。

「外務省は1月28日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA/ウンルワ)への2023年度補正予算に盛り込んだ約52億円3500万ドル)の資金拠出を一時停止すると発表した。イスラエルにより侵攻を受けているパレスチナ・ガザ地区の「壊滅的人道状況」の中で、最大の人道支援機構への妨害であり、多くのガザ住民を飢え死にさせかねない暴挙である」
【声明】政府によるUNRWAへの資金拠出停止への抗議、及びれいわ新選組の寄附について(れいわ新選組 2024年2月3日) | れいわ新選組 (reiwa-shinsengumi.com)

あいかわらずコンスタントに愚かな政党です。
政府は、G7と協調してUNRWAへの資金拠出を一時停止しました。
その理由は、10月7日、イスラエルを奇襲襲撃し、キブツなどで1200人あまりのイスラエル人を殺害したテロ事件にUNRWA の職員の少なくとも12人が直接関与していたことが判明したからです。
また解放された人質の証言では、2人は、UNRWA学校教師の家で拉致され、UNRWA施設へ続くトンネルで移動させられていたと証言しています。
これらの学校にはトンネルが見つかっています。
このように拉致行為に関わった実行犯を大量に出せば、その国際機関が支援を打ち切られて当然ではありませんか。

国連は特定した9人を解雇、調査を進めていると言っていますが、ニューヨークタイムズはUNRWAの2割前後がハマスの構成員だとしています。
ニューヨーク・タイムズによると、奇襲に関与したとみられる職員は12人で(たぶんそんな数ではないでしょうが)、うち10人がハマスに所属していました。
奇襲当日、これらの「国連職員」は、女性の拉致にまで手を染めています。
弁解の余地なきテロ加担です。
米国は2024年1月26日、国連が適切に対応するまで資金拠出を停止すると発表。ドイツや英国、日本などが追随しました。
拠出金上位10カ国で、いまだ停止していないのはノルウェー、トルコ、サウジだけです。
ちなみに、拠出金は20位以下なくせに拠出停止を批判しているのは、中国、ロシア、イランです。
いやなんとも色分けがハッキリしすぎていますね。

ところで、このガザ戦争でいかんなく無能ぶりを発揮したグテーレス事務総長はこんなことを言っています。

「グテーレス国連事務総長は「ガザ市民200万人が、日々を生き延びるためにUNRWAの援助を必要としている」と指摘。国連は、資金難で2月末にも活動中断を余儀なくされる恐れがあると危惧している」
「日本もか」ガザで怒りと失望=UNRWAへの拠出金停止|ARAB NEWS

このグテーレスは、パレスチナ問題についてわかってしゃべっているのか、ということを言い続けてきました。

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国連事務総長、イスラエルが二国家共存を拒否すれば世界の平和が脅かされると警告|ARAB NEWS

「グテーレス事務総長は、国連はパレスチナ人への暴力を非常に明確に非難するとともに懸念を抱いていると述べた。「二国間解決に次ぐプランBはないと信じるからだ。その点に関するイスラエルの次期政権の動きについて非常に懸念している」
「国際社会全体がイスラエル政府に対し、二国間解決以外の選択肢はないこと、また二国間解決を疑問視するような一方的な行動を取るべきではないことを明確に説明することが非常に重要だと考える」
(アラブニュース2022年2月12日)
国連事務総長、23年のウクライナ戦争終結を強く望む|ARAB NEWS

これはよくあるイスラエルとパレスチナ人を対立させる見方です。
グテーレスには大きな勘違いがあるようですが、10月7日のハマスのテロ以降も以前も、イスラエルはパレスチナ人やその代表組織である自治政府を敵としたことはありません。
一貫してイスラエルが戦ってきたのは、ハマスやヒズボラ、フーシ派などのテロリスト組織です。
グテーレスが言うように、仮にイスラエルとパレスチナが協議しても、ハマスは自治政府の決定にはまったく拘束されておらず、彼らに影響をおよぼす国は唯一イランだけです。
ヴァイッド・ベヘシュティが言うように、パレスチナ問題は解決しようと望むなら、イランという存在に突き当たるのです。

「ハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦はタコの手先であり、無力化したいのであれば、その核心を叩かなければならない」
西側諸国がイランと直接対決する時が来た - オピニオン - エルサレム・ポスト (jpost.com)

ところがいまやハマスは、その生みの親のイランにさえ事前通告なしに10.7の虐殺を働いたのですから、もはや彼らをコントロールできる者は世界になきに等しい。
現在、中東が荒れている一つの原因は、イランの指示というより、むしろその統制力が弱まっていることにあるのかもしれません。
だからこのテロリスト集団に対しては、戦闘で追い詰めて、交渉の場に引きずり出すしかないのです。

そして国連がガザ戦争に動いたのは、襲撃から2カ月もたった12月でした。
この時になって、グテーレスは国連検証99条を楯にして、安保理に対し人道的な停戦を求めるよう要請しました。
なにを寝ぼけているのか、この男。
そして中露米の拒否権行使で安保理は麻痺。それを打開できずに、今度はイスラエルに矛先を転じます。

グテーレスは、ガザ戦争が終わらないのはイスラエルが二国間共存を拒否するからだと言ってのけます。
同じようなことをブリンケンも言っていますが、それは実際に秘密交渉を進めて「戦後」のフレームを構想する中でのことです。
なにもしないでキレイゴトをだけ言っているようなグテーレスとは次元が違います。

「国連事務総長は23日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が二国家共存を拒否すれば、紛争が永遠に続き、世界の平和を脅かし、世界中の過激派を勢いづかせることになるとイスラエルに対して警告した。
「パレスチナ人民が完全な独立国家を樹立する権利はすべての当事者から認められるべきで、いかなる当事者による二国家共存の拒否は断固として拒絶する」アントニオ・グテーレス国連事務総長は安保理閣僚級会合で、イスラエル・ハマス戦争に関して非常に厳しい言葉でこのように述べた」
(アラブニュース1月24日)
国連事務総長、イスラエルが二国家共存を拒否すれば世界の平和が脅かされると警告|ARAB NEWS

おいおい、ガザ戦争の一方の当事者であるハマスは、二国間共存どころかイスラエルをいっさい認めず、ユダヤ人は地中海に蹴落とすと叫んでいる集団なのですよ。
そして自治政府はハマスをいかなる形でもコントロールできていません。

ですから、「戦後」の枠組みを作り出す中から自治政府を「刷新」するしかガザ戦争を停戦させる方法はなく、イスラエルがいかん、ネタニヤフは極右だ、とだけ叫んでも無意味なのです。

そして今回はUNRWAに対する資金停止に対して「パレスチナ人の人道支援が途絶えれば、多くの犠牲が出てくる」という言い方をしています。そして支援金が途絶えた場合、2月末までに人道支援活動は停止に追い込まれてしまうと述べています。
これは事実に反しています。

ガザは中東屋が言うように飢餓線上にはありません。
鈴木一人氏はこうツイートしています。

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さらに国際政治学者の篠田英朗氏もこうツイードしています。
こちらは拠出停止することは、なんと「ジェノサイド加担」だそうです。
イスラエルを「快楽殺人国家」とまで罵った人ですから、このくらいのことは言うでしょう。
それにしても中東業界の「権威」某氏といい、この篠田氏といい、どうしてこうも過激で短絡的な言葉遣いを繰り返すのか。
学者としての品性にかかわります。

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これらの人々にかかると、「UNRWAがなくなると行政や教育を扱う仕組みがなくなる」とのことですが、そもそも教育や行政といった基本的な生活インフラを長年国連の一機関がしていることのおかしさになぜ気がつかないのでしょうか。
「唯一の正統な代表の自治政府」が、ガザの住民に対する責任を放棄してしまったことこそ問題にせねばならないはずです。
自治政府がまったく機能していないのは、アッバスの私利私欲にだけあるのではなく、この自治政府もまたハマスに全身をむしばまれているからです。
そしてハマスはより巨大なカネが世界から集まり、「国連」の服を着てしゃべれるUNRWAの甘い蜜にたかったのです。

中東屋がなくてはならないと言うUNRWAの学校のレポートがあります。

「UNRWA学校を以前取材で訪ねたとき、壁一面にパレスチナの地図が貼ってあった。イスラエルの記載はなく、拳と銃の絵柄があしらわれていた。「あなた方の目標はイスラエルとの2国家共存ではないのか」と尋ねると、職員はあわてて「これは単なるイラスト」と釈明した。
当時、パレスチナ自治政府はイスラエルと和平交渉を進めていた。そんな中でも「パレスチナの大義」の名のもとに、「反イスラエル闘争」の精神が脈々と次世代に伝えられていると実感した。UNRWA学校の教科書はユダヤ人差別や暴力闘争を教えていると米欧で何度も批判され、UNRWAは「国連方針に沿って見直している」と応じてきた」
(産経2月3日)
パレスチナ問題の矛盾をはらむガザ国連機関 「反イスラエル闘争」継承 学校地図に拳と銃 - 産経ニュース (sankei.com)

UNRWAの学校教育では、ハマスやヒズボラのテロは美化され、イスラエルを悪者にする憎悪に満ちた教育をカリキュラムとしています。
すなわち、米国やドイツ、日本からの支援金でガザでテロ組織ハマスの戦闘員予備軍を育成しているようなものです。
UNRWAは改善したといっているようですが、どのようにどこを直したのかわかっていません。
実際、10.7虐殺に関与したUNRWA職員12人のうち7人はUNRWAが運営する学校の教員で、5人は学校職員やソーシャルワーカーだったということです。
彼らは、10月7日当日に集合場所へ来るようにメッセージを受け取ったり、ロケット弾を運搬し、女性の拉致を実行しました
こういう「教育者」がなにを教えていたのか容易に想像がつきます。
「国連学校」は長年、テロの温床に堕していたのです。

また、ガザ住民全体が飢餓線上にあるということも事実に反します。
ガザ北部にはとうに物資が大量に搬入され、日常が戻ってきています。
ガザ市への人道支援の調整担当者のツイートです。

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XユーザーのCOGATさん: 「Scenes from the Dier Al-Balah market, central Gaza Strip, today, today, (Jan. 31.) https://t.co/eghD6RIri6」 / X (twitter.com)

同じくコガットの1月22日のツイート。

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XユーザーのCOGATさん: 「本日(1月21日)、合計260台の人道支援トラックが検査され、ガザに移送されました。これは戦争が始まって以来最多です。 ガザ地区に入ることができる人道援助の量に制限はありません。https://t.co/2KRqk0BUSm」 / バツ (twitter.com)
 
この人道支援のトラックが入っていることは、去年10月の時点でもUNRWAは認めています。
それから3カ月以上が経過し、ガザ北部には充分な食糧が搬入されています。

「支援物資を積んだトラックがガザ入りしたことについては「安堵している。住民の生活を救う始まりの一歩だ。物資が届けば、『国際社会がガザの状況を見てくれている』との希望を住民に与える」と効果を強調した」
(産経10月21日)
ガザ南部の食料不足「絶望的」 UNRWA保健局長、悲惨な人道状況語る - 産経ニュース (sankei.com) 

現在、人道支援で問題なのは、ラファなどの南部の都市で、ここに北部からの難民が110万もなだれ込んでいます。

「ハンユニスでの激しい戦闘が始まってから、その住民12万人が、イスラエルが設置した回廊を通って、さらに南部、エジプトとの国境にラファへ避難したとみられる。国連によると、ラファには、戦前20万人が住んでいたが、そこへガザ市民半分の110万人以上がなだれ込んでいるという」
カイロでの停戦・人質解放交渉の現状:無理を言っているのはハマス 2024.2.5 – オリーブ山通信 (mtolive.net) 

支援物資の配分がUNRWAが仕切っているために、彼らは支援物資と燃料をガザ市民ではなく、ハマスに優先的に流しています。
英国の支援物資のトラックにハマス戦闘員が乗る写真も見つかっています。
そのために支援物資を受け取れない住民からはUNRWAへの怒りがわき起こり、暴動も起きています。
このようにUNRWAがなければ支援ができないのではなく、彼らこそガザ救援の阻害物なのです。

もはやUNRWA解体に酌量の余地はありません。
UNRWAを解体するかしないかではなく、どのように解体し、その事業をどこの機関が代替するかが問題なのです。
UNRWAの上部機関の国連は、第三者委員会を作ってハマスの膿を洗い出さねばなりません。

そして解体するか、刷新するのかが決まるまで、救援事業はもうひとつの難民救済機関であるUNHCRがやるしかしかないでしょう。

 

 

 

2024年2月 6日 (火)

米国、親イランシーア派を攻撃

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米国が一歩前に出ました。
シーア派に対して、米兵が亡くなったことに対しての報復として行われました。
バイデンは、この戦死した米兵の遺体の帰還にも立ち会っています。
大統領が戦死者の遺体の帰還に立ち会うということ自体が異例ですので、やる気マンマンです。

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東京

【ワシントン=吉田通夫】バイデン米政権が2日に、ヨルダンの米軍施設で米兵が死亡した無人機攻撃への報復として、シリアとイラクで親イラン武装組織への大規模な攻撃に踏み切った背景には、これまでの対応が甘かったとの批判の高まりがある。米軍への攻撃を抑止しつつ紛争拡大を回避するため、イランへの直接攻撃は避けた。それでも攻撃を受けたイラクなどは反発しており、中東地域の緊張は一段と高まっている」
(東京2月3日)

バイデン政権が親イラン武装組織を攻撃 米兵3人死亡で国内の批判高まり報復を決断 高まる中東の緊張:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

いままで中東の米軍基地は、テロ組織からの執拗な攻撃にさらされてきました。
下図は去年ガザ戦争が始まってからの攻撃を受けた米軍基地ですが、ペンタゴンの情報によると、これまでにイラクの米軍が53回、シリアの米軍に77回、ドローンや、ロケット弾、ミサイルなど様々な砲撃による攻撃を受けています。
米軍はその都度小規模な反撃を行っていますが、今回のような大規模なものは初めてです。
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中東危機の深みに巻き込まれるアメリカ:イランと紅海・シリアとイラク 2024.1.8 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
シーア派の攻撃が兵舎を直撃したために3人の死者だけではなく、少なくとも米兵34人が外傷性脳損傷を受けているそうです。
攻撃を受けたのは、シリア領内のアルタンフ外部ヨルダン国境付近タワー22と呼ばれる前哨基地です。
米軍はこんな所に居たんだと驚きますが、米軍が中東に駐留している理由はさまざまで、イラクやシリアなどの国では、米軍は過激テロ組織「イスラム国」(IS)と戦う目的で駐留しており、現地部隊への指導も行っているようです。
親米派のヨルダン以外はこういった米軍の駐留を知られたくないので沈黙していますが、過去数年間イランの支援を受けた勢力から攻撃を受けています。
今回は反米を旗印にしているはずのアサド政権下のシリアにも米軍が駐留していたということがはしなくもわかりました。
ちなみに中東にはこんなに多くの米軍基地があります。
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情報BOX:中東に駐留する米軍部隊、その場所と活動 | ロイター (reuters.com)
[ワシントン 3日 ロイター] - 米英両軍は3日、イエメンにある親イラン武装組織フーシ派の関連施設13拠点、計36の標的に対し攻撃した。前日には、1月末にヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した攻撃への報復として、親イラン勢力に関連するイラクとシリアの標的を空爆していた。米英によるイエメンのフーシ派への攻撃は3回目。
米国防総省によれば、3日の攻撃はフーシ派の武器貯蔵施設、ミサイルシステム、発射装置などが対象。フーシ派が紅海の海運を妨害する目的で船舶を攻撃するのに使用した装備も攻撃したという。
オースティン米国防長官は「今回の攻撃は、フーシ派が国際海運や海軍艦艇への違法な攻撃をやめなければ、さらなる結果を負い続けることになるという明確なメッセージを送るものだ」と発言。オーストラリア、バーレーン、カナダ、デンマーク、オランダ、ニュージーランドからの支援があったと明らかにした
(ロイター2月4日)
米英、イエメンでもフーシ派拠点に報復攻撃 | ロイター (reuters.com)

米国が攻撃した地点は、シリアとイラクと国境を接する地域で、両国領内にまたがっているという微妙な地域です。
この攻撃には、アメリカ本土、テキサス州から長距離飛来したB1戦略爆撃機も加わり、約30分の間に、125発以上の爆弾が85の標的に向かって投下されたようです。

ただし、米国は広報官が言うように「イランとの戦争は望んでいない」というように、イランとの直接戦争は慎重に避けるようです。

「一方、国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー(John Kirby)戦略広報調整官は2日の会見で、空爆は約30分続いたと明らかにするとともに、「われわれはイランとの戦争を望んでいない」と述べた」
(BBC1月29日)
中東の米軍基地にドローン攻撃、米兵3人死亡 親イラン勢力が実行とバイデン氏 - BBCニュース

米国がこの攻撃で言っている外交シグナルは、イランに対してお前らの子分共を抑えろ、さもなくばお前との対決となるぞ、ということになります。
実はイラン経済は、国際社会からの経済制裁のために厳しいインフレが続いており、国内情勢はイスラム原理主義政府による女性差別問題じ全国規模の反政府デモが起きています。

イランは制裁逃れのために、中露に接近したために、制裁効果は薄れています。中露も国連常任理事国なのですがね。

一方、バイデンはトランプの合意廃棄政策を捨てて、イランとの核兵器開発について交渉再開を図ってきました。
しかしとうぜん止める気がないイランとの交渉は、再開はしたものの成果はなく頓挫したままです。
こうした膠着状態の中、イランはウラン濃縮の濃度を上昇させており、今60%だと言われています。
完成するのは時間の問題で、映画「トップガン・マーベリック」の攻撃目標は、そのものずばりイランの核施設でした。

こうした膠着状態を打開すべく2023年夏、バイデンはイランで捕虜になっている米国人5人と、米国で収監されているイラン人7人を交換するという交渉を始めました。
捕虜交換に応じれば、米国が韓国で凍結しているイラン資産60億ドルをカタールに送って、イランに引き渡してもよいというオファーです。

こういう時期に起きたのがイランの育成してきたハマスのイスラエルへのテロ攻撃だったわけです。
イランが米国との交渉中であることを知っていたハマスは、この米国との交渉をつぶすためにもこの時期にテロ攻撃を仕掛けたようです。
どうやら、イランは自分の革命防衛隊が中東各地にバラ撒いたテロリスト集団をコントロールできなくなっているようです。

ちなみにISはイランに対して敵対的で、1月4日、4年前に米国のドローンに殺されたイラン革命防衛隊カッサム・スレイマニ総司令官の墓での記念イベントで大規模な爆破テロを引き起し84人が死亡する事態を引き起こしています。
もうなにがなにやらわからない中東テロ組織絵図ですが、イスラエルにはこのような意見が根強く残っています。
「ハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦はタコの手先であり、無力化したいのであれば、その核心を叩かなければならない」
西側諸国がイランと直接対決する時が来た - オピニオン - エルサレム・ポスト (jpost.com)
これは一面の真実ですが、極めて危険な道だということを忘れないように。

2024年2月 5日 (月)

ロシアを支えているのは北朝鮮製兵器

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北朝鮮制の兵器が、ロシアやイエメンのフーシ派に渡っていることがわかりました。

「【ソウル聯合ニュース】英国の研究機関「紛争兵器研究所(CAR)」は24日までに公表した報告書で、ウクライナに着弾した弾道ミサイルを分析した結果、部品にハングルが記載されており、北朝鮮製と推定されると明らかにした。
ロシアが今月2日、ウクライナのハルキウに発射した弾道ミサイルの残骸を分析した。
研究所はハングル表記以外にもミサイル残骸のロケットモーターやジェット翼、ボルトの締め付け方などを北朝鮮の短距離弾道ミサイル「KN23」や「KN24」の写真と比較・分析し、類似点を見つけたとして、ハルキウに着弾したミサイルは北朝鮮製のKN23かKN24であると推定した」
(聯合 2024.01.24)
ウクライナ攻撃のロシアミサイルにハングル 「明白な北朝鮮製」 | 聯合ニュース (yna.co.kr)

このハルキウに着弾したロシアの弾道ミサイルの気圧計の部品には、ハングル文字が記されていました。

「CARが現地調査で発見した新たな事実です。「2月11日工場」は北朝鮮の咸興南道にある龍城機械連合企業所の工場名で、「112」が2月11日工場を指すと考えたのは日付の表示形式が日/月/年の順番になるイギリス的な発想だと思われますが、しかし北朝鮮の日付けの表示形式は年/月/日の順番です。「112」が2月11日工場を指すかどうかはCARも可能性があるという表現に止まっています」
(JSF1月21日)
ハルキウで発見された北朝鮮製KN-23弾道ミサイル(推定)の直径は110cm、イスカンデルMより太い(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

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JSF

紛争兵器研究所(CAR)は、このミサイルの寸法がロシア製イスカンデルより15㎝大きい北朝鮮のKN-23と同じ寸法だということを指摘しています。
CARは「ウクライナで北朝鮮のミサイルが使用されたことを明白に示し、ロシアの北朝鮮製兵器の使用は大量破壊兵器の不拡散体制を阻害する代価を支払ってでもウクライナ戦争を続ける意図を示す」(聯合前掲)と述べています。
これを受けて、米政府は先月4日、ロシアが北朝鮮から提供を受けた弾道ミサイルをウクライナ攻撃に使用したと断定しました。

弾道ミサイルだけではなく、北は砲弾の供給もしているようです。

「AP通信は、北朝鮮がウクライナでの戦争を支援するため、コンテナ1000個分以上の軍装備品や武器弾薬をロシアに送ったと報じていた。米国政府は、北朝鮮が交換条件としてロシアの軍事技術を求めた可能性が高いとして、この支援を非難していた」
(ニューズウィーク12月25日)
北朝鮮供給の不良弾薬が発射前に爆発、ロシア軍兵士の自爆事故も|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

この背景には、ロシアがウクライナ侵略で窮地に追い込まれたことが背景にあります。
流れを見ておきましょう。

ウクライナ戦争当初の2022年5月~6月には、ロシア軍は1日1万2000発もの砲弾を撃ち込んできたのに対してウクライナ軍は1日1000発~2000発の砲弾を敵に撃ち込んでいたにすぎませんでした。
実に10倍近い砲撃回数の違いです。
大砲は戦場の女神という古い格言どおり、砲撃回数は戦場の優勢を決定づけていました。
そのためウクライナ軍は苦戦を強いられ、毎日100人~200人以上の戦死者が発生して東部戦線では後退に続く後退を強いられていました。

この問題の原因は、当時ウクライナ軍が使用していた旧ソ連規格(152mmや122mm)の砲弾不足、西側諸国による旧ソ連規格砲弾の供給限界、ロシア軍がかき集めてきた榴弾砲よりも射程の長い多連装ロケットシステムの存在があります。
火力投射量で劣ったウクライナ軍の地上部隊は手も足も出せないまま大砲の餌となり、毎日膨大な死傷者を出し続けたのです。

しかしウクライナ軍がNATO規格対応の榴弾砲へ移行し、榴弾砲と自走砲を合わせて400門以上に増強され、ロシア製多連装ロケットシステムよりも射程と命中精度で優れるHIMARSやMLRSが米国から到着し、行き渡るようになるとウクライナ軍も1日6000発も撃ち込めるようになり、不均衡だった両軍の火力投射量が急速に是正されました。
その結果、「1日あたりの戦死者数が30人まで減少した」とゼレンスキー大統領は述べています。

しかしロシア軍は2023年1月にはロシア軍は1日5万発体制を維持し続け、落ち込んでも2万発は撃っていました。
驚くべき物量ですが、この砲撃があるうちは、決して戦意が高いとはいえないロシア兵も活発に行動しています。

下図はロシアとウクライナ両軍の砲撃回数を見たグラフですが、赤線がロシア軍、青線がウクライナ軍です。

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10月19日を頂点として、以後ロシア軍砲撃回数が急降下していますが、それでも8月まではロシア軍が砲撃で撃ち勝っていたのがわかります。
ウクライナ軍兵士が「こちらが一発撃つと10発返ってきた」、と言っていたように、ウクライナは火砲で撃ち負けていたのです。
この重火力不足こそが、キーウでロシア軍を退けたのちの、ウクラナイナ軍が耐えた困難な半年の原因でした。

なんと陸軍大国を自他ともに認めていたロシアの砲弾の在庫が枯渇しかかっていたのです。
この状況に大いにいらだったのがプーチンでした。
彼はショイグの尻を蹴飛ばして、去年7月に北に砲弾をもらう手筈を整えさせます。

今までロシアは、多くの兵器技術を北朝鮮に供与してきました。
大物としては核兵器開発技術、イスカンデル短距離弾道ミサイル、MiG-29戦闘機、S-300・400防空ミサイルなどの技術供与をしたのはロシアです。
これらの軍事技術は、裏ルートを通じて供給されてきましたが、いまやそんな悠長なことはしていられない、直ちに北に砲弾を寄こせと掛け合ってこい、とプーチンはショイグに命じたようです。

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金正恩氏がロシア国防相と会談 戦略・戦術的協力めぐり意見交換と北朝鮮メディア 帰国の途に就く:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

「北朝鮮の朝鮮中央通信は26日、ロシアのショイグ国防相が率いる代表団が25日、平壌に到着したと報じた。空港では強純男(カンスンナム)国防相らが出迎え、歓迎式典が開かれたという。北朝鮮が「戦勝記念日」と位置づける朝鮮戦争の休戦協定締結から70年を迎える27日に合わせ、代表団も出席して軍事パレードが行われるとみられる」
(朝日7月26日)
ロシアのショイグ国防相が北朝鮮に到着 「戦勝」行事で異例の訪朝:朝日新聞デジタル (asahi.com)

戦争中の国防大臣が外国に出かけるのですから、もちろん一般的な儀礼外交ではありません。
これは西側に「ショイグのおねだり」と揶揄されるように、伏してでも砲弾を乞うことが目当でした。

そしてさらにそれを決定づけたのは、去年9月の正恩のロシア訪問の折にプーチンとの会談でした。
プーチン御大自らが、正恩を呼んでの大サービスを演じて見せます。

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金正恩氏、何を得た? 8泊9日「笑顔」のロシア訪問 日米韓は「新冷戦」を警戒:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

正恩が何を目的に行ったのが軍事技術の移転であることは、訪問先をみれば明瞭です。
プーチンとの会談は、ロケットが打ち上げられるボストーチヌイ宇宙基地で行われ(上写真)、正恩は「宇宙強国の現実と将来を具体的に深く知れてうれしい」と語ったそうです。
当然宇宙技術の移転も話し合われたでしょうから、それ以降の軍事偵察衛星の成功などをみるとさっそくその結果が現れています。
また、ロシアの最新鋭戦闘機や極超音速ミサイル、戦略爆撃機なども視察し、海軍基地ではフリゲート艦に乗り込んだそうです。
これらの大量破壊兵器を見せた上で、ロシアが改めて念押ししたのは、各種砲弾とロケット弾、歩兵戦闘車の供給であると推測されています。

北は北朝鮮は122ミリ砲弾と152ミリ砲弾、125ミリ戦車砲弾などを少なくとも数十万発、最大で100万発をロシアに提供したと見られています。
こうした不良品がどれくらいの割合を占めるかは その現実的結果は、すでにウクライナで出ています。
大量の砲弾を北から供給されたロシア軍は、今までのじり貧状態から蘇り、盛大に弾道ミサイルをウクライナの諸都市に撃ち込んでいます。

しかし失笑することには、北の砲弾は品質が劣悪で、次々に砲身内で暴発事故を起こしているようです。

「ウクライナ軍参謀本部の最新情報によれば、ロシア軍は、北朝鮮の低品質な弾薬を使わざるを得なくなっており、その結果、弾薬が銃や迫撃砲の中で破裂する事故が多発、装備の破損や兵士の負傷につながっているという。
ウクライナ軍参謀本部は、「弾薬の品質が悪いため、銃や迫撃砲の内部で破裂する事故がまれに発生しており、ロシア軍の兵器や人員に損失が出ている」と述べている」
(ニューズウィーク12月25日)
北朝鮮供給の不良弾薬が発射前に爆発、ロシア軍兵士の自爆事故も|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

ロシア軍事系サイトによれば、ロシア軍が北朝鮮製の同一の表示がある砲弾5発を無作為に抽出して点検を行ったところ、それらの砲弾には異なる種類の火薬(発射薬)が使われており、火薬の束の重さも一定ではなく、砲弾内部にあるはずの銅線がない砲弾も多く存在していたそうです。
さらには一部の砲弾は密封キャップをこじ開けた跡が見つかり、内部の銅線が盗まれていました。
このような劣悪な砲弾にすがっているのがロシア軍です。

また北がガザ戦争においても、ハマスやイエメンの親イランテロリスト集団フーシ派が使った兵器にもハングルの表記が確認され、北朝鮮が武器取引をしていると思われます。

 

 

2024年2月 4日 (日)

日曜写真館 一日に一度は見上ぐ山茶花を

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一幹の 日影 日おもて 山茶花散る 伊丹三樹彦

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山茶花に 生死大事の声ひびく 伊丹三樹彦

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一瞬の豪華山茶花花吹雪 山口青邨

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山茶花に 声呑む仲間 良しとする 伊丹三樹彦

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山茶花に 陽のうつろいの 永座り 伊丹三樹彦

 

 

2024年2月 3日 (土)

ガザ住民6割がハマス支配を拒否

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元NHKエルサレム支局長だった曽我太一氏が『「ハマスを望まない」市民の本音と“戦後”ガザ統治のキーパーソンたち』というレポートを書いていて大変に参考になりました。
曽我太一の記事一覧 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)
この曽我レポートも初めのほうはやはり日本の中東屋と一緒かと思わせる部分もあったのですが、全体としては情緒に流れることなく、データーを下敷きにして冷静に論じています。
まずパレスチナ政策・調査研究センター(PCPSR)」が11月22日から12月2日にかけて、ヨルダン川西岸地区とガザ地区2地域での意識調査が紹介されています。
西岸地区750人、ガザ地区481人(系1231サンプル)、方式は対面調査だそうです。
400サンプルを集めると、標本誤差を5%未満に留められるとされていますから、統計学上有意水準を持った意識調査です。
なお、対面調査はサンプルとなった個人が特定されてしまうために望ましい方式ではありませんが、今のガザの状況を考慮すればいたしかたないでしょう。

面白いのはこの部分です。
「あからさまな違いが現れたのは、「戦後のガザ」の統治だ。「もしあなたに任されるなら、誰にガザを統治してもらいたいか」という質問で、全体では60%が「ハマス」と回答した。ハマスによる統治を望んでいるように見えるが、そうではない。内訳を見ると、西岸地区でハマス統治を望むと回答した人は75%だった一方、ガザ地区では38%にとどまり、6割以上がハマス以外の統治を望んだ。なかにはイスラエルによる統治を望む人すらいた
(曽我前掲)
ほー、「ガザ地区では38%にとどまり、6割以上がハマス以外の統治を望んだ。なかにはイスラエルによる統治を望む人すらいた」ですか
日本の中東屋の皆さんは衝撃を受けたのではないでしょうか。

これは直接にハマスの支配を知っているガザ地区に、ハマスに対する嫌悪がいかに強いかを物語っています。
西岸のほうがハマス統治への期待度が高いことについて、曽我氏はこう見ています。
「西岸地区でなぜこれほどハマスが人気なのかというと、西岸を統治するパレスチナ自治政府、そしてマフムード・アッバス議長への失望が大きいからだ。ハマス統治下に暮らしたことがない西岸のパレスチナ人からすれば、イスラエルに対して強い態度をとるハマスは、「青く見える隣の芝」のような存在なのだ」
(曽我前掲)
アッバス政権の腐敗への失望が、イスラエルと対決しているように見えるハマスへの期待度を押し上げているというわけです。
この自治政府へと失望とハマスへの嫌悪が理解できないと、ガザの「戦後」を解くことができないでしょう。
つまり、自分の贔屓で判断するので判断の眼が曇るのです。
日本の中東屋の多くは「パレスチナの抵抗運動」の支持者ですから、当然ハマスの戦後に渡る支配の継続を望むでしょうが、それはありえない選択です。
ハマスが「戦後」もガザに居すわることは、イスラエルと米国が絶対に許容するはずがないからです。

では、イスラエルが統治するのかといえば、それも不可能です。
イスラエルは軍事的にガザを一時的に支配することは可能であっても、長期の治安占領はイスラエルの体力を奪っていくことでしょう。
2005年にガザからの撤退を決めたアリエル・シャロン元大統領はこう言っています。

「シャロン氏は、200万人のパレスチナ人から(当時ガザ地区に暮らしていた)6000人の入植者を保護するには、イスラエル軍では弱すぎるという結論に達していた。シャロン氏は、優秀な軍人だった。だからこそ、入植者や兵士への攻撃が連日起きるなかで、それ以上、血が流れるのを見たくないと判断したのだ」
イスラエル軍事史に名を残す軍人でもあったシャロン氏が、戦略的な観点から決めたのがガザ撤退だったのだ」
(曽我前掲)

今回も同様です。短期の治安占領はありえるでしょうが、それが長期になるに従ってガザ住民の憎悪を買うでしょう。
憎悪に囲まれた占領軍はもろいものです。
では、だれが行政と警察権を持つのでしょうか。

いちばん簡単な答えが、パレスチナ自治政府です。
すでに米国などの国際社会が「唯一の正統政府」として認知しているからですが、いままで何度も書いてきているように、アッバスにはこれを統治する能力も根性もありません。

「ただ、自治政府の「正統性」には、パレスチナ内からも疑問の声が投げかけられている。パレスチナでは2021年、2006年以来となる評議会選挙(国会にあたる)と大統領選挙を実施する予定だった。しかし、アッバス議長は、直前になって選挙を事実上中止した」
(曽我前掲)

この選挙をアッバスが流した理由は、やればハマスに負けてしまうからです。(笑)
こんな男をいくら米国が後ろ楯になってガザに連れ戻しても、住民は誰一人従わないことでしょう。
だから、ブリンケンは「刷新された自治政府」という考え方に舵を切りました。
今、行われている秘密交渉を前にして、米国はこの線で納得するようにネタニヤフに求めているはずです。
具体的には、ハマス系職員を排除し、かつてガザで仕事をしていたがハマスに追放されている自治政府のファタハ系職員をかき集めて行政機関を再構築し、そこに行政サービスと選挙の準備をさせます。


そして早急に自治政府の首長選挙を準備します。
問題なのは、誰を候補とするかですが、具体的には「戦後」統治の行政責任者となる資格は3つあります。

①ハマスはもちろん、アッバスからも独立していること。
②卓越した行政手腕。
③国際社会の信頼。

曽我氏は2人の名前を上げていますが、本命の自治政府元首相サラム・ファイヤードだけを紹介します。

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パレスチナ自治政府元首相サラム・ファイヤード fsight.jp

「ファイヤード氏は、国際通貨基金(IMF)での勤務や、自治政府の財務相を経た後、2007年から2013年まで首相を務めた。アメリカ政府との関係も良好で、首相時代に汚職撲滅など自治政府の再建に取り組んだ姿勢は「ファイヤード主義」などとも呼ばれた」
(曽我前掲)

テキサス大学とカイロ・アメリカン大学出身の知米派で財政の専門家です。
正直、よくこんな逸材がガザにいたものだと関心してしまいました。
サラーム・ファイヤード - Wikipedia

ファイヤードは、2007年6月のファタハとハマスの戦闘に際してアッバスから組閣を命じられて首相となり、欧米から期待された存在となりました。
しかしやがて腐敗撲滅の刷新運動がアッパスの逆鱗に触れて両者は対立するようになり、ファイヤードは辞任に追い込まれます。
このようにファイヤードの強みは、ハマスはもちろん、アッバスの手垢がついていない人物であることです。

このハマスとアッバスから独立していることは、「戦後」の統治を担う人間の絶対条件です。
また行政手腕については財政に明るく、腐敗を憎み自治政府の債権に取り組んだ経験があります。
そして米国などの国際社会からの信頼は非常に厚い。

ファイヤードもその期待に応えてか、このようなことを述べています。 

「そのファイヤード氏は去年10月、フォーリン・アフェアーズ誌に「A Plan for Peace in Gaza」と題する記事を寄稿。そのなかで、「仮に自治政府がガザを統治しようとしても、すでに低下している自治政府の正統性は、継続中の戦争による圧力の下、さらに急速に失われつつあり、自治を担うことは難しい。しかし、パレスチナ自治政府が適切に再構成されるのであれば、『戦後』とそれ以降に向けた最良の選択肢ではある」と指摘していた。ファイヤード氏は現在アメリカに居住している」
(曽我前掲)

たぶんブリンケンとバイデンは米国に住んでいるファイヤードとすでにコンタクトを取り、ガザの「戦後」について話をしているように思えます。

 

2024年2月 2日 (金)

ガザに再入植するのだ、と叫ぶ人たち

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反イスラエル眼鏡でみると、イスラエルは凶暴な極右一色に見えるようですが、あいにくイスラエルは一枚岩ではありません。
パレスチナ国家を認めて共存をすることを唱える人もいますし(だからオスロ合意が出来たのですが)、ナニを言っていやがる、そんな合意をしたからテロリストの温床を与えちまったのではないか、西岸はむろんのことガザ全域もイスラエル軍が再占領して入植すべし、ということを平気で言う者もいます。

10.7以降は後者が妙に元気づいています。
せっかく慎重な交渉を勧めているこのデリケートな時期に困った連中です。

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イタマル・ベングビール公共治安相  ロイター

「[エルサレム/ワシントン 29日 ロイター] - イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相は28日に開かれた集会で、ユダヤ人入植者らにパレスチナ自治区ガザへの帰還を呼びかけた。強硬派として知られるベングビール氏の発言は政府の公式見解と対立するもので、パレスチナ自治政府とイスラム組織ハマスは共に反発している。
ベングビール氏は、ユダヤ人入植者と軍隊がガザ地区に戻ることがハマスによる昨年10月7日の奇襲攻撃を繰り返さないための唯一の方法になるとし、「10月7日のあの出来事を繰り返したくなければ帰還し、この土地を支配する必要がある」と語った。
同集会は入植者の団体が企画し、数百人が参加。十数人の閣僚も参加した。
パレスチナ自治政府は、こうした呼びかけはパレスチナ人の強制移住につながり、地域の安全と安定を脅かすと非難。ハマスは、同集会で「パレスチナ人に対する強制移住と民族浄化の犯罪を実行に移す意図が明らかになった」とした」
(ロイター1月30日)
イスラエル強硬派閣僚、入植者にガザ帰還呼びかけ 米「無謀で扇動的」 | ロイター (reuters.com)
困ったのはむしろネタニヤフの方で、彼は苦々しげにこう言っています。
「テレビ放映された記者会見でこの問題について質問された首相は、議員や閣僚は自分の考えを話すことが許されているが、戦後のガザに関するイスラエルの政策は、ガザに再定住させる決定はなされていないと述べた。ガザ地区のユダヤ人入植地の復活に対する彼の反対は「変わっていない」と彼は言った」
(イスラエルタイムス1月29日)
閣僚らがガザの再定住を呼びかけ、ガザ住民に退去を促す歓喜の会見 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
水面下で難しい交渉をしている時に、現職閣僚が政府の方針と異なる集会に顔を出してアジったら、シャレにならんだろうがとおもいますが、この集会では具体的にガザに6つの入植地を作る案が出されていました。
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ただし、彼らイスラエルでもファーライトとか超正統派と呼ばれる人にもリクツはあります。
ここは歴史的に見て、イスラエルが農業をしなければ荒野だった場所だったからです。
1967年、六日戦争でイスラエルはガザからシナイ半島に至るまでを軍事占領下に置くことになりました。
その後、エジプトに和平条約との交換に大部分の土地はエジプトに返還しましたが、エジプトはパレスチナ難民が多く住んでいるガザは受け入れませんでした。

シナイ半島を追われた形になったユダヤ人入植者たちは、北上してガザへ移転したのです。
この時期、ガザには21のユダヤ人入植地があり、ユダヤ人8000人が住んでいました。
上図の6都市です。
この集会で叫ばれたスローガンに「グッシュ・カチーフに帰る時が来た」というものがあったそうです。
「グッシュ・カチーフ」はその中でもっとも繁栄した都市名で、ガザ再入植運動のシンボルとなっています。

ここに帰ろう、というのがガザ再入植運動です。

ところで、一般的にパレスチナ問題が語られる時、常にパレスチナ難民=犠牲者、ユダヤ人=悪玉という形で語られることが多いようです。
西側メディアには、おしなべてこのトーンが基調にあるようですし、特に日本の中東研究者はベタで反イスラエル・反米です。
ですから、今回のガザ戦争でもイスラエルに対する虐殺は見逃される傾向にあります。

ここで忘れられがちなのは、過去難民を出したのは、パレスチナだけではなくユダヤ人にも難民が出ているということです。

「確かに、70万人のパレスチナ人が住居を失い難民となったが、イスラエル側も第2次世界大戦後、アラブに居住してきた80万人のユダヤ人が難民となっている。難民の数ではユダヤ難民のほうがパレスチナ難民より多い。しかし、イスラエルとパレスチナ間で紛争が起きる度に、パレスチナ難民問題に焦点が集まり、イスラエル側はユダヤ難民の存在についてはあえて主張しないこともあって無視されてきた経緯がある」
(ウィーン発コンフィデンシャル 2023年12月14日)
「難民」はパレスチナ人だけではない : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

つまり、イスラエルが建国されたことで、中東各地に居住していた80万ものユダヤ人たちが難民状態になってしまった時期があるのです。
その数はパレスチナ難民より10万多いことになります。
彼らはイスラエルに移住するしか選択肢がなく、一斉に移住を始めました。
その結果、アラブ世界に万単位で居住していたユダヤ人が十数人になるまで激減しました。

「モロッコには1948年まで約26万5000人のユダヤ人が住んでいたが、2018年の段階でその数は2150人に激減した。イラクでは13万5000人から10人以下に。
エジプトでは7万5000人のユダヤ人が2018年には100人になっている。イエメンでも6万3000人から50人以下に。リビアでも3万8000人のユダヤ人が現在ほぼゼロだ。
チュニジア、シリア、レバノンでも同様だ。中東・北アフリカに住んでいたユダヤ人が戦後、難民として放浪し、最終的にイスラエルに避難していったわけだ」
(ウィーン発前掲)

語弊がある言い方かもしれませんが、イスラエル建国はアラブ世界では「ユダヤ人問題の解決」だったようです。
その結果、生み出されたのがパレスチナ難民でした。
それゆえかどうか、中東諸国は、表向きはパレスチナ難民に同情的に「パレスチナの大義」などと言っていながら、現実には冷淡です。
それは下図のUNRWAへの拠出金を見ればわかるでしょう。
サウジを除いて15位以内に出てくる中東諸国はありません。

金満な石油大国が多いにも関わらず、実にしわいもんです。

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国連のガザ支援機関、「極めて切迫した」状況 日本なども資金拠出ストップ - BBCニュース

パレスチナ難民の多くはレバノンに住んでいますが、 市民権がなく土地の所有も認められず、厳しい就労制限があります。
ですから、低賃金の日雇いや季節労働者が多いのが実情です。
決してアラブ世界はパレスチナ難民に優しくないのです。

今回のガザ戦争でも口ではイスラエルを非難するものの、解決に乗り出そうとしているのはカタールとエジプトくらいなもので、大部分の国は懐手しています。
この二国もガザ難民を引き受けようという気はありません。
パレスチナ難民を受け入れると、ハマスのようなテロリストが一緒に入ってきてしまうからです。

このような状況で出てくるべくして出てきたのが、復古主義的なガザ再入植運動だったようです。
しかしもちろん、彼らが要求を満たすようなことがあれば、パレスチナ問題の解決は未来永劫ないはずです。

2024年2月 1日 (木)

ガザ「戦後統治」が決まらないと落としどころがない

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すでにガザ戦争(私の勝手なネーミング)の焦点は「戦後処理」に移っています。
戦争自体は、ハマスに言わせればイスラエルが戦闘を中止することだといい、一方イスラエルはハマスが人質を解放すれば終わると言っていますが、双方が戦闘を止めない一つの理由は落とし所がないから力づくとなるのです。

もちろん手をこまねいているわけではなく、水面下での交渉はヨーロッパ某国の首都(たぶんパリ)でなされています。
仲介役には、双方にチャンネルがあるエジプトとカタールが担っています。

「[ワシントン 29日 ロイター] - カタールのムハンマド首相は29日、パレスチナ自治区ガザで拘束されている人質の解放に向け週末に行われた交渉について、良好な進展が得られたとの認識を示した。また、米国がヨルダンの米軍基地に対する無人機攻撃に報復し、交渉を後退させる可能性に懸念を示した。
ムハンマド首相は米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのオンラインセミナーで、人質解放を巡る枠組みをイスラム組織ハマスに提示し、ハマスが建設的に関与する運びにしたいと語った。
また、人質解放を巡る交渉は「数週間前」と比べ改善していると指摘。現時点での協議のペースを踏まえると将来的な恒久停戦につながる可能性もあるとの見方を示した」
(ロイター1月30日)
カタール首相、ガザ人質解放交渉「良好な進展」 米報復の影響注視 | ロイター (reuters.com)

ネタニヤフは、「ハマスにカネを支援しているようなカタールなんか信用できるか」といった声明を出していますし、カタールもネタニヤフを信用していないと公言しているようです。
確かにカタールは、ハマスに現金支援などをしているだけでなく、ハマスの最高幹部ハニヤもカタールで豪邸住まいをしているのは有名です。
ちなみにこのハマスの親分を肥え太らせているカネは、「国連」や中東諸国からの支援金の公金チューチューですが。


その意味でカタールは親ハマス国家ですが、同時にカタールはその立場を使ってイスラエルや各国の意見をハマス側に伝達するパイプ役をしているのも事実です。
ですから、今回の人質を取られた国かはこぞってカタールに協力を要請しています。
またカタールが巧妙なのは、一方で米英仏加などのG7諸国とも密に連絡を取っていることです。
引き合いに出して悪いのですが、イランとイスラエルを両天秤にかけて中東のバランス外交を自負しているはずの日本はまったく出る幕がありません。

それはさておき、イスラエルとしてはテロリストと交渉すること自体が許されないことであり、しかし交渉を拒否すれば人質は戻ってこないというジレンマの中で、やむなくカタールにゲタを預けている状況のようです。
こういう中で、先週にはカタール、エジプト、アメリカ、イスラエルの間で秘密交渉が行われたようです。
公表されていまさせんが、漏れ伝わってきています。

「アメリカからは、CIAのバーンズ長官、イスラエルからは、諜報機関モサドのバルネア長官が交渉にあたっている。その内容によると、数週間以内に、人質の解放を2段階で、パレスチナ囚人の解放と交換で行うとか、建設的だったとかいう報道が出てくるのではあるが、今の所、確定した発表はない」
パリでアメリカ・イスラエル・エジプト・カタールが人質解放交渉:まだ両者の間の溝は深いとネタニヤフ首相 2024.1.29 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

仲介役のカタールのムハンマド首相が、ここで言っている「人質解放をめぐる枠組みをハマスに提示したい」とはどういう意味でしょうか。
それはおそらく戦後の枠組みのことです。
今、人質解放と停戦を語ることは、戦後の枠組みを語ることなのです。
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カタール・ムハンマド首相   ロイター
イスラエルの主張は人質解放まで戦闘は停止しないという原則論だけではなく、条件についても突っ込んだ話をしているようです。
「我々は、合意に達する意志を持って、本当の交渉を活性化させるような突破口に何とか到達できることを願っている」と、匿名のイスラエル情報筋は土曜日にチャンネル12ニュースに語った。「現在のところ、一般的な枠組みについて合意がないため、条件はそれを可能にしていません。膠着状態を打破し、クリエイティブな公式を見つけるのがそれが交渉の目的です 」
(イスラエルタイムズ1月28日)

イスラエル、人質取引に関するパリ会談は「建設的」だったと発言、今週も継続 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)
このカタール首相がいう「枠組み」、あるいは、イスラエルが言う「一般的枠組み」とはなんなのか気になるところです。
ところでハマスの主張も伝わってきています。
「情報筋によると、ハマスはイスラエルが戦闘を完全に停止するだけでなく、ガザ地区から軍隊を撤退させ、テロ集団が沿岸の飛び地で権力の座にとどまることができるという国際的保証も求めているが、イスラエルは攻撃を終わらせることを「越えてはならない一線」と見なしている。
情報筋によると、エジプトとカタールは、単に様々な当事者間で情報を渡すためのパイプ役としてではなく、問題を解決するために「より創造的」になる必要があるという」
(イスラエルタイムズ前掲)
ハマスは戦後もガザと西岸で権力の座に留まれる保証を求めています。
テロ襲撃をして人質を取っているにも関わらず、実に図々しい要求ですが、イスラエルがどのように答えたのかは想像に難くありません。
このところ齟齬が見え始めた米国とイスラエルですが、答えは一致してノーのはずで、いかなる意味でもハマスを含んだ「戦後処理」など絶対にありえません。
ただし、ここで問題となるのは先日来登場しているUNRWAの存在で、彼らを戦後枠組みに位置づけてしまうと、「国連」の服を着たテロリストが戦後ものさばり続けることでしょう。
そう考えると、この時期になって、突然UNRWAのハマススキャンダルが出てきたのも偶然でないのかもしれません。

それはさておき、そこから先は米国とイスラエルは微妙にくい違ってきます。
米国は、パレスチナ問題の恒久的な解決には、穏健な「パレスチナ人国家」を作って、イスラエルと平和共存するしかないと考えています。
たぶん「パレスチナ国家」とは、ブリンケンが言う「刷新されたパレスチナ自治政府」のことだろうと思われますが、現状ではだれがその自治政府を担うのか明確にならないために非現実的だと、イスラエルから拒否されています。
要は、パレスチナ側に人がいないのです。
戦後枠組みについては三つくらいしか選択肢化ありません。
①現行の自治政府がそのまま引き継ぐ。
②イスラエルが軍事的に治安維持を行う。
③行政能力を持ったパレスチナ自治政府に刷新する。
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ハマスの行動「パレスチナ人を代表しない」 アッバス議長 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
①については、アッパスは、ガザの実権をハマスに明け渡し、西岸の一部にしがみついているバカ殿でしかありませんし、彼の自治政府は腐敗堕落しきっていて人心はとうに離れていますから戦後枠組みからは辞退していただかねばなりません。
そもそも自治政府がしっかりしていれば、こんなハマス戦争は起きませんでした。
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ガザの戦闘死者2万人に 侵攻継続とイスラエル首相 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
②イスラエル軍の占領は、残念ですがもっとも有力です。
交渉が膠着して時間切れとなり、イスラエルの掃討作戦が終了してしまったら、必然的にこの再占領コースに入る、とネタニヤフは考えているはずです。
ネタニヤフは12月5日の声明で、「ハマスなき後、ガザは非武装化される。この非武装化を確認できる唯一の部隊がIDF(イスラエル国防軍)だ。国際部隊はこれに責任を負えない」と言い切っていますが、事実そうでしょう。
そもそも治安維持部隊を中東諸国が出すとは思えませんし、NATO軍も歴史的に見て摩擦が多すぎます。
国連PKOは安保理が動かない以上無理です。
中東諸国しかありませんが、それすらも火中の栗を拾うのはまっぴらで遠巻きにしているというのが現状です。
唯一可能性があるのはエジプトくらいでしょうが、ガザとのゲートを閉めているようなこの国が腰をあげるとは思えません。
したがってイスラエルがやるしかないというのも、一面の真理なのです。
しかしそれは非常にヘビー(死語)です。

「イスラエルは2005年9月、ガザ地区から撤退した。撤退を決断したのは、軍人時代に「狂犬」の異名を取り、インティファーダの引き金を引いた強硬派のリクードの政治家アリエル・シャロン首相(2014年没)。2004年に行われたガザ撤退に関する国民投票で、65%が反対するという結果が出たにもかかわらず、撤退を強行した。
 シャロン氏はなぜガザからの撤退を決めたのか。晩年はパレスチナとの和平を模索するようになったとも伝えられるが、シャロン氏に最も近かったとされるジャーナリストのヨニ・ベンメナヘム氏は、その理由を次のように話す。
「私は何度もガザ撤退の理由をシャロン氏に尋ねた。シャロン氏は、200万人のパレスチナ人から(当時ガザ地区に暮らしていた)6000人の入植者を保護するには、イスラエル軍では弱すぎるという結論に達していた。シャロン氏は、優秀な軍人だった。だからこそ、入植者や兵士への攻撃が連日起きるなかで、それ以上、血が流れるのを見たくないと判断したのだ」
イスラエル軍事史に名を残す軍人でもあったシャロン氏が、戦略的な観点から決めたのがガザ撤退だったのだ」
(曽我太一
「ハマスを望まない」市民の本音と“戦後”ガザ統治のキーパーソンたち:曽我太一 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp) 

この再占領という血のコストに今のイスラエルが耐えられるか、はなはだ疑問です。
それを知っていたシャノンは、2005年のガザの撤退を強烈な国内の反対をものともせずに行ったのです。
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シャノン元首相 NHK
「今月15日、イスラエルは40年近く占領を続けてきたガザ地区にある21カ所すべての入植地の撤去を開始した。およそ8500人の入植者には自発的な退去を促したものの半数近くが拒否。1万4千人余りの軍と警察が強制撤去に乗り出し、一部では激しい抵抗が続いている。撤退への激しい反発は、イスラエル社会はじめ与党内部からも上がっているが「中東和平の重要なステップ」とするシャロン首相の姿勢は揺らいでいない」
(NHK2005年8月22日)
“ガザ撤退”和平の行方は ~イスラエルの選択~ - NHK クローズアップ現代 全記録
このように考えて来ると八方塞がりのようですが、あながちそういうわけでもなさそうです。
というのは、行政能力がある政治家がパレスチナ側にもいないことはないようだからです。
長くなりましたので次回に。

 

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