北朝鮮の誘い水に乗るな
なでしこ勝ちました。おめでとう。なかなか手ごわかった。
北のナンバー2である与正が、直接岸田氏に「拉致問題を議題にしないのなら正恩との首脳会談もありえる」と言い始めました。
与正は若すぎるために肩書は(党中央委員会)副部長のままですが、政治局員(対外担当責任者)として正恩とサシで話せる唯一の人物のはずです。
したがって与正の言うことは、正恩兄の言うことであると見てよいでしょう。
「北朝鮮の朝鮮中央通信は15日、金正恩(キムジョンウン)総書記の妹で朝鮮労働党副部長の金与正(キムヨジョン)氏の談話を配信し、正恩氏との首脳会談に強い意欲を示した岸田文雄首相の発言について、「解決済みの拉致問題を障害物としなければ」と条件をつけた上で、「肯定的なものとして、評価されないはずがない」との見解を明らかにした」
(朝日2024年2月15日)
金与正氏、「岸田首相が訪朝する日も」 拉致問題は議題にしない条件:朝日新聞デジタル (asahi.com)
読売テレビ
ちなみに、与正は「個人的見解」だとしつつも、日本側が「政治的決断」を下せば、「いくらでも新しい未来をともに切り開いていける」といいながら、正恩ら党指導部は「関係改善に向けたいかなる構想も持っておらず、(日本との)接触に何の関心もないと理解している」とも付け加えてはいます。
ただし「なんの関心もない」なら、与正がいまさらこんなスピーチをする道理がないのです。
これは、岸田氏が訪朝を考え始めていることに対する北のアンサーだと考えるのが妥当です。
どうぞいらっしゃい、罠仕掛けて待ってますからね、というわけです。
拉致集会で岸田首相「私の手で必ず解決する」 (youtube.com)
岸田政権は4月の米国国賓訪問の後に北を電撃訪問し、「拉致問題の何らかの進展」を得たいという情報を流していました。
とうぜん、こんな情報が出てくるくらいですから、水面下では日朝の秘密交渉で打診していると思われます。
去年は東南アジア某国で2回接触しているようですから、たぶんこの場でも首相訪朝を匂わせたと思われます。
「北朝鮮による拉致問題の解決に向け、日本政府関係者が今年3月と5月の2回、東南アジアで北朝鮮の朝鮮労働党関係者と秘密接触していた、と複数の日朝関係筋が証言した」
(朝日2023年9月29日)
日朝、今春2回の秘密接触 東南アジアで その後の交渉、停滞:朝日新聞デジタル (asahi.com)
容易に予想できるのは、岸田氏が訪朝した場合のお土産は「二人の日本人」です。
この「二人の日本人」とは、田中実氏(政府認定の拉致被害者)と金田龍光氏(特定失踪者)です。
ふたりの共通点は、田中氏と金田氏は共に同じ孤児院育ちで日本には身寄りがなく、金田氏は在日韓国人で、双方ともに国内には身寄りがいないことです。
「田中さんは1949年、神戸市に生まれ。2歳の時に両親が離婚し、児童養護施設に預けられた。神戸工業高校を卒業後、いくつかの職場を経てラーメン店の店員に。78年、28歳のときにラーメン店の店主とともに、成田空港からウィーン行きの飛行機に搭乗後、消息不明となった。27年後の2005年、日本政府が16人目の拉致被害者に認定した。
金田さんは、同じ児童養護施設で育った友人で、「田中さんのところに行く」と言った後、消息を絶っており、拉致の可能性の高い特定失踪者だ」
(ZAKZAK2023年7月1日)
【葛城奈海 戦うことは「悪」ですか】心の闇の深さに慄然…演劇「よそのくに」から考える拉致被害者救出 田中実さんと金田龍光さんを描く 独立国なら2人を取り返すべき(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト
このふたりに関して、なぜか北は公式に生存情報を日本政府に伝えています。
「日朝は2014年、北朝鮮が拉致被害者らの調査を行い、随時通報することを盛り込んだ「ストックホルム合意」を結んだ。
当時、外務事務次官だった斎木氏は朝日新聞のインタビューに対し、北朝鮮から田中さんや金田さんの生存情報が提供されたと報じられていることについて、「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りだ。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取らなかった」と証言。インタビューは今年9月17日に朝日新聞デジタルで報じた」
(朝日2022年10月13日)
元外務次官の拉致被害者「生存情報」証言、林外相は「答弁控える」:朝日新聞デジタル (asahi.com)
北はこのふたりを返してもいいという意思表示をだいぶ前からしており、日本側がその情報の受け取りを拒否したということは、裏を返せば日本政府は、このふたりが北のエージェントである可能性をぬぐいきれなかったからだと考えられます。
ふたりとも海外で誘拐されるか、あるいは自分の意志で北に入国したと思われます。
北は拉致被害者を必ず結婚させていますから、すでに結婚して家族もいるはずで、生活の根は向こうにあります。
望郷の念があるかどうかはわかりませんが、こうまで北が差し出してくる以上、いったん帰国してもまた舞い戻ることになるでしょう。
ではなぜここで2名を返してくるのでしょうか。
北の代弁者をしている有田ヨシフは、2020年10月26日の参院質問書でこう述べています。
質問主意書:参議院 (sangiin.go.jp)
九 政府は帰国していない十二人の政府認定拉致被害者に序列をつけているのですか。ありていにいえば横田めぐみさんや有本恵子さんたちの生存と帰国のめどが立たないうちは、田中実さん、金田龍光さんの生存確認はしないということですか。拉致問題解決への道筋のなかでの田中実さん、金田龍光さん個人の位置づけについて明確にお答えください。
なるほどね。有田は、横田めぐみさんや有本恵子さんのような拉致被害者の象徴的な人たちより、北が返すといっている田中氏と金田氏を先に返してもらえ、そうすれば拉致問題は締めくくりだ、と言っているわけです。
つまり、このふたりを返してもらえば、それで拉致問題というのどに刺さったトゲは抜けて、さぁ制裁解除だ、日韓基本条約で韓国に与えた援助と同等のものを北にも寄こせという段取りになります。
元北朝鮮外交官・太永浩氏はこう述べています。
「もし首脳会談で拉致問題が議題に上がるのであれば、北朝鮮の外交戦術としては、『日本側が提起していない2人の日本人が北朝鮮にいるので、日本側が要求すれば日本に帰国させることはできる』ということを示唆するかもしれません。
第一段階として、今、北朝鮮が帰国させることができると言っている2人をまず連れて帰る。そして、北朝鮮が『拉致問題は完全に解決済み』という立場から一歩後退し、『今後、北朝鮮がこの問題を再び調べ直してみてからまた会おう』といったように、少し余地を残すような外交戦術を北朝鮮が使うかもしれません」
「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」|ウェークアップ|読売テレビ (ytv.co.jp)
まぁ、そのとおりでしょう。
安倍氏の時代からこのような誘い水はあったようですが、安倍氏はその手には乗りませんでした。
副官房長官として行った小泉訪朝時の体験から、北のやり口を熟知していたからです。
今回の与正の誘いも危険な罠です。
与正は、「2つの国が近づけない理由はなく、岸田首相が平壌を訪問する日が来るかもしれない」と言っており、その唯一の障害が拉致問題だと認めています。
岸田氏はこのピョンヤンの誘いに乗る可能性があります。
というのは、有田にせっつかれなくとも、岸田氏は外務大臣当時、斎木外務事務次官と連れ立って官邸を訪れ、田中さん、金田さんの一時帰国と、それ以外の拉致被害者に関しては日朝合同調査委を設置するという案を進言しているからです。
つまり2名先行帰国案です。
これを認めてしまえば、拉致問題は事実上の幕引きとなることはわかりきったことですから、安倍総理はにべもなく拒否したそうです。
今回も安倍氏が存命だったら止めろと言ったことでしょうが、落ち目の支持率をなんとかしたい岸田氏は乗るかもしれません。
うちの首相が、妙に決意を込めて「拉致問題は私の手で」なんて言っているのを聞いていると、正直ゾっとします。
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