正恩の親不孝、祖国統一三大憲章記念塔を爆破
ウクライナ、ハマスと続いたために私の視野から一時的に消えていた北朝鮮ですが、先日のロシアへの砲弾とミサイル輸出でいっぺんに復帰しました。
あいかわらずなにを考えているのか、小悪党らしくうごめいているようです。
ところで北国内で、先日、目立って大きな動きがありました。
なんと正恩坊やなどと失礼なことを言っている内に、父、祖父を否定するという荒技に出たのです。
CNN 祖国統一三大憲章記念塔
「1月15日の最高人民会議(国会)で金正恩氏は「首都平壌の南の関門に無様(ぶざま)に建っている『祖国統一三大憲章記念塔』を撤去する」と演説した。ここでは国営の朝鮮中央通信の日本語記事を引用したが、「無様に建っている」と訳されている部分の朝鮮語原文は「見たくもない」とか、「見苦しい」という意味の罵(ののし)り言葉が使われていた。この演説からわずか数日後、実際に記念塔が撤去された」
(産経2月14日)
産経ニュース (sankei.com)
三大憲章記念塔は、数少ない北の「観光スポット」で、必ず観光客は連れていかれる場所です。
場所もただばくぜんとそこに作ったのではなく、ピョンヤンから軍事境界線に至るピョンヤン、ケソン高速道路の始点に設置してあります。
出来たのは、2000年のキム・デジュンと祖父キム・イルソンの南北頂上会談の時で、その成果の「6.15南北共同宣言」を記念して建立されました。
この南北共同宣言は、建前上は南北の関係を規定している重要文書でした。
「本宣言は、1972年7月4日に発表された南北共同声明(7・4声明)、1991年12月13日に締結された南北基本合意書と並び、朝鮮半島の南北対話に関する基本的合意文章である。
本宣言や南北基本合意書で合意した「自主、平和、民族大団結」といった祖国平和統一の原則を改めて確認し、統一案として韓国側の主張する「連合制」案と北朝鮮が主張する「緩やかな/低い段階の連邦制」案に共通点があるとし、その方向で統一を目指すこととした。
本宣言後、南北間の大きな懸案である離散家族再開の実現、経済協力や社会・文化など様々な分野での交流を促進するなどといった内容についても合意がなされ、実際、2000年8月には離散家族再会が実現し、金剛山観光や開城工業団地事業など、南北の経済協力事業が進められた」
6.15南北共同宣言 - Wikipedia
そして1996年11月、父ジョンイルは「三大憲章」としてまとめました。
①1972年の南北共同声明(7.4共同声明)による祖国統一三大原則「自主、平和統一、民族大団結」、②1980年の「高麗民主連邦共和国創立方案」、③193年の「祖国統一のための全民族大団結十大綱領」の三つです。
つまり、オヤジとジィさんが作って大事にしてきた「祖国統一」目標を、孫の正恩がブチ壊すということになります。
しかも言い方がふるっていて、15日の最高人民会議の施政演説では「見苦しく立っている」とまで言っているのですから、儒教国家なのによーいいよるわ、いつのまにか先祖を否定するまでリッパになって、と妙に感心してしまいました。
産経
「金氏は演説で「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言した。韓国が「和解や統一の相手であり同族だという既成概念を完全に消し去る」ことが必要だとして、朝鮮半島で戦争が起きた場合には、韓国を「完全に占領し、共和国(北朝鮮)に編入する」方針も憲法に盛り込むべきだとも主張。こうした改憲を次回の最高人民会議で審議するよう求めた」
(産経前掲)
なかなか過激なないようですが、要は「統一」というと平和的段階的統一だが、オレらはそんな生ぬるい言い方はしない「完全に占領して編入する」だけのことだ、ということです。
そのためにもう同族だなどと思わない「徹底的に敵」「主敵」だということになります。
いいのかね、ここまで言い切って、とは思いますが、それなりに考えた末の結論なのでしょう。
でなければ、儒教でタブーなはずの先祖の業績否定まで踏み切ることはありません。
というのは、正恩の権力の源泉はその血脈である「白頭山の血」にあるからです。
白頭山は、中朝国境にある山ですが、朝鮮民族の建国神話にかかわる聖地だそうで、金王朝初代のイルソンは、この一帯で抗日運動を展開したという異になっています。
もちろんファンタジーで、実際イルソンは中国共産党指揮下で活動したのは中国側の満州でした。
ジョンイルも生まれたのはロシア領でした。
そしてイルソンはソ連軍のジープに乗って「凱旋」して北を支配したのですが、ペーペーの下級将校だったために自らの神格化のために作ったのが「白頭山の血」ファンタジーだったのは有名な話です。
白頭山と漢拏山 朝鮮半島の山々と南北関係の深い意味合い:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)
2018年、ムンジェインは正恩の案内で白頭山を訪れ大感激して、韓国から持ってきた韓国南端・済州島の漢拏山(ハルラサン)の水を、白頭山の「天池」の水に注ぎ、南北融和を謳い上げるというパフォーマンスをやってみせました。
それが、わずか5年後には、初めて公式の場で「大韓民国」と正式国号で呼んでくれた代わりに、もはや同族でない「交戦中の外国」だときちんと位置づけてくれたわけです。
私は特に大きな変化ではないと思っています。
北が韓国を武力統一する目標を捨てたことは一度もなかったし、「南北の平和的統一」を口にしようが、それはただの欺瞞、便法の類です。
それを改めて、父と祖父の業績を否定してまで強調する必要があったということです。
では、こういう正恩の発言をどう考えたらいいのでしょうか。
西岡力氏はこう言っています。
「脱北者活動家や情報機関関係者らは、韓国の情報が大量に北朝鮮に流入し豊かで自由な韓国への憧れが急拡大し、韓国による吸収統一を望む者らが大量に発生して抑えきれなくなったことが理由だ、と説明する。
なんと昨年、100件を超える反体制事件が起きており、その大部分が韓国への憧れを抱いた者らによるという。最近、韓国マスコミが報じたが、中学校教師らをリーダーとする反体制地下党が結成され、自由民主主義への転換を求める活動がなされていた」
祖父と父を否定した金正恩氏 北朝鮮で今、大きく動いている事態 麗澤大特任教授 西岡力 - 産経ニュース (sankei.com)
西岡氏は、韓国に対する憧れが北に内部浸透した危機感の現れとしています。
一方、デイリーNKの高英起氏はこう指摘します。
「金正恩氏は、「世紀的な立ち遅れを払拭して、中央と地方の差を減らし、地方産業を全面的に、バランスを取って発展志向させる一方、それぞれの地方経済の特色のある発展を促し、競争的な発展の流れを作るのは、わが政府の前に提起された当面の課題であり、わが党の宿願である」と深刻な地域格差について言及しながら、「人民の大きな期待に報いられなかったことに対する重い責任がある。(略)
人民の生活改善のための事業で重要なことは、第一にも第二にも農業を立派に営むことである」
(デイリーNKジャパン1月16日)
南北関係史に終止符」「韓国は不変の主敵」金正恩氏、最高人民会議で演説(デイリーNKジャパン)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)
これも特に驚くことではありません。
あいかわらず同じことを言っています。
正恩は2010年の政策綱領の中で、国家目標とは北人民の生活水準を1960年代の水準にまで回復させ、祖父イルソンが掲げた目標「白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住む」ことを、真に成し遂げることだ、と言っています。
せめて「60年代に戻りたい」ですか、60年前でしょうが。
そこから成長するどころかドンドン落ちていったわけで、ああ情けなや。肥満したのは正恩父娘だけですか。
これは父ジョンイルも口にしていたことで、自身の誕生日には実際に肉を特配したほどです。
そして父子揃って、わが国はまだこの目標を達成できていない、できる限り短期間のうちにこの問題を解決し、永遠のイルソンの遺志を実現したい、と述べています。
つまり正恩にとって、この「地方経済の発展」「国民の生活の改善」なんてやる気はあるわけがありません。
あったら毎日のように高価なミサイルを飛ばすわきゃないのです。
火星シリーズなど、一発で3億から4億のものを2023年には5発、黙って20億円です。
どれだけの食糧を買い込めることか。
昨今は、備蓄していた砲弾を売り飛ばしてロシア産小麦を貰っているようですが、こんな蛸足をしていたら通常戦争なんて出来る道理がありません。
本気で国民の暮しを思うなら、即刻ミサイル道楽を止めることですが、それが止められないのは、ミサイルこそが正恩の「白頭山の血脈」に替わる新たな権力の源泉だからです。
というわけで、こんなことはテンプレであって、いつも言っていることにすぎないのです。
ただ、ここまで尻に火が着いた表現をする以上、父親系列の幹部の粛清などなんらかの権力内部の再編が背後にあるのかもしれません。
« 中国逃げが始まった | トップページ | ロシアの「和平案」とは »
タテマエを捨てて国内の引き締めにかかった、と言う事だと思います。そうすると、朝鮮総連のこれまでの立場はどうなるのでしょうかね。
ミサイルサーカスは効果が上がらず、通常兵力は全く更新できていず。戦闘機は部品調達が出来ず、古臭いレーダーも役立たず。
他の兵器もメンテナンス不良か著しい老朽化。
糊口をしのぐため、砲弾や弾薬の在庫はほとんどがロシアへ。
口では「圧倒的な軍事力を備えている」としているものの、韓国に攻め入る事が出来る状態とは到底思えません。
それでいて日本には秋波を送ってきている。支援を乞いたいが、まだ拉致問題には触れられたくないという、けれど微妙な変化があります。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年2月16日 (金) 15時27分