ナワリヌイが遺したもの
ロシアはアレクセイ・ナワリヌイを殺しました。
極北の牢獄に収監され、遺族は遺体と面会することすらかないませんでした。
いや遺体の場所すらわからないのです。
それを伝えるBBCです。
「ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏は17日、死亡を確認したと発表した。
ナワリヌイ氏の母リュドミラさんに渡された書類には、同氏は現地時間16日午後2時17分に死亡したと書かれていたと、ヤルミシュ氏は明らかにした。ヤルミシュ氏は後に、ナワリヌイ氏の遺体が安置されていると当局に言われた刑務所近くの遺体安置所にリュドミラさんと弁護士が向かったものの、安置所は閉じていて、そこにナワリヌイ氏の遺体はないと言われたとソーシャルメディアで明らかにした。
ヤルミシュ氏はさらにBBCに対して、ナワリヌイ氏の遺体が今どこにあるか分からないと話した。当局は、捜査が終わるまで遺体を家族に引き渡せないと話しているという」
(BBC2月17日)
ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡=ロシア刑務所当局 - BBCニュース
プーチンは比喩的な意味ではなく、ナワリヌイを「殺した」のです。
ナワリヌイは一度殺されかかりました。
アレクセイ・ナワリヌイ
政治生命、ロシアに懸ける=毒殺未遂・獄死のナワリヌイ氏―プーチン政権批判でカリスマ | 時事通信ニュース (jiji.com)
ナワリヌイは2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談し、翌20日、モスクワに帰る途上の機内で突然気分が悪化し意識不明となりました。
飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれ、症状からは毒を盛られた疑いがあったため、交渉の末、8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けました。
もしベルリンに移送されていなかったら、ナワリヌイはこのとき死んでいたことでしょう。
治療に当たったベルリンのシャリティ病院は、ナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けました。
これについて、英仏蘭、そしてオランダ・ハーグの国際機関「化学兵器禁止機関」(OPCW)は、このナワリヌイの血液サンプの提供を受けて独自に検査しこれを追認しました。
もちろんモスクワは否定しています。
ナワリヌイは独自に調査を開始し、ロシア連邦保安庁(FSB)のエージェントが当時トムスクに来ており、ナワリヌイの下着にノビチョクを入れたことを突き止めています。
「昨年12月には調査報道サイト「ベリングキャット」などが、ナワリヌイ氏を長年監視していたとされるロシアの連邦保安庁(FSB)の工作員3人が、同氏と同時期にトムスクにいたと報道。さらに、ナワリヌイ氏が身元を伏せてFSB工作員に接触し、神経剤ノビチョクを使った自分への攻撃の詳細を聞き出した様子を伝えた。
ナワリヌイ氏はFSB工作員コンスタンティン・クドリャフツェフ氏との通話を録音し、オンラインで公表。その中で工作員は、ノビチョクをナワリヌイ氏の下着に入れたと話している」
(BBC2021年1月19日)
ロシア野党指導者ナワリヌイ氏、帰国直後に拘束 欧米が釈放要求 - BBCニュース
プーチンは暗殺という方法を政治手段として使う世界で数少ない政治家です。
本人を抹殺するばかりではなく、その支持者たちを威嚇して恐怖に陥れることになるからです。
ロシアではこれまでも、毒ガスを反体制派のみならず、意に染まないオルガルヒや亡命しようとしたロシアのスパイの暗殺に使ってきました。
ノビチョクは旧ソ連時代に密かに開発された神経剤で、またの名をA-230と言います。
液体、固体のかたちで存在し、毒性の低い二種類の化学物質を隔離した容器で保存、混合して毒性を高める「バイナリー兵器」として使用されるそうです。
即効性と遅効性を使い分けることも可能です。
ナワリヌイがトムスクで受けたのは遅効性だったと思われます。
正恩が異母兄・正男暗殺に使用したVXガスより毒性が5~8倍強いとされ、噴霧してから数分以内に死に至る猛毒性があるようです。
プーチンの周りでは、毒ガス以外に不審死が絶えません。
ロシアの石油大手ルクオイルのラヴィル・マガノフ会長は2023年9月1日、モスクワ市内の病院の窓から転落したと報じられました。
「ロシアではここ数カ月で、エネルギー企業の重役やオリガルヒ(富豪)が不審死している。
4月には、天然ガス大手ノヴァテクの前社長セルゲイ・プロトセーニャ氏と妻子の遺体が、スペインの別荘で発見された。
同月、石油大手ガスプロム傘下の金融機関ガスプロムバンクのウラジスラフ・アヴァエフ前副社長と妻子の遺体が、モスクワのマンションで発見された。
5月には、ルクオイルの大物役員アレクサンデル・スボティン氏が心不全で亡くなった。報道では、シャーマン(宗教的職能者)による代替医療を探していたという」
(BBC2022年9月2日)
ロシア石油大手の会長が「病院の窓から転落死」 企業重役の不審死相次ぐ - BBCニュース
その他、ガスプロム・インベストの輸送責任者だったレオニド・シュルマンが2022年1月30日、ロシアのレニングラード州にあるコテージのバスルームで、謎の自殺を遂げています。
「また、オリガルヒではないものの、プーチンとつながりのある元ロシア高官が6月20日、自宅で撃たれた状態で発見された。大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツは、元治安機関幹部である53歳のバディム・ジミンが、モスクワの自宅で「血の海のなかに」倒れているところを弟が発見したと報じている」
(ニューズウィーク2022年7月1日)
斧や銃で襲われ「血の海に倒れていた」 オリガルヒ連続「不審死」は偶然ではない|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
さて、ナワリヌイは、ベルリンで療養した後、驚くべきことに祖国に帰還することを望みます。
この覚悟の帰還を待っていたのは、プーチンの派遣した警察でした。
ナワリヌイは、モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束され、市中に出ることすらかないませんでした。
それは空港の外で、数千人の支持者が集まっていたためです。
アレクセイ・ナワリヌイと妻ユリア・ナワリヌイ
「ナワリヌイ氏は2021年1月17日、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国直後、拘束された。そのニュースが報じられると、モスクワを含むロシア全土で同氏の釈放を要求する抗議デモが行われた。モスクワで4万人の市民がナワリヌイ氏の早期の釈放を要求するデモに参加した。気温の低いシベリアのノボシビルスクでも約4000人が路上デモに参加した。
それに対し、ロシア当局は無許可デモとして1000人を超えるデモ参加者を拘束した。その中には、ナワリヌイ氏のユリア夫人も含まれていた」
(ウィーン発コンフィデンシャル2024年2月14日)
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)
ナワリヌイが遺した言葉があります。
「自ら命を絶つ考えはない。念のために申し上げるが、窓の面格子で首をつったり、尖ったスプーンで静脈や喉を切ったりするつもりはない。階段は慎重に登り下りしている。彼らは毎日私の血圧を測り、まるで宇宙飛行士のように扱ってくれるので、突然、心臓発作に見舞われる心配はない。刑務所の外には多くの善良な人がおり、必ず助けが来ると分かっている」
(ウィーン発前掲)
またロシア国民に対してはこのような言葉を遺しました。
「諦めないでほしい」。ナワリヌイ氏は自身を追った22年公開の米ドキュメンタリー映画で「もし殺されたと仮定して、国民への遺言はあるか」と質問されてこう答えていた」
(時事2月17日)
政治生命、ロシアに懸ける=毒殺未遂・獄死のナワリヌイ氏―プーチン政権批判でカリスマ | 時事通信ニュース (jiji.com)
ナワリヌイ、享年わずか47歳。
見事な一生でした。合掌。
なお、ナワリヌイを偲んで多くの「あきらめない」市民が立ち上がりました。
「北極圏の刑務所で死亡した反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を追悼する動きがロシア各地に広がり、人権団体「OVDインフォ」によると400人以上が拘束された。
ロシア国内の政治的な動きでこれほど多くの人が拘束されるのは、ウクライナ侵攻を巡りプーチン大統領が出した部分動員令に対する2022年9月の抗議デモ以来。この時は1300人以上が拘束された」
(ニューズウィーク2月18日)
治安部隊が人々を地面に縛り付け... ロシアでナワリヌイ氏追悼の動き、400人以上拘束と人権団体|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
まだわずかですが、希望が残っている証明です。
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勇敢なる殉教者ナワリヌイ氏に追悼の意を表明します。なんて書いたら何処かの機関からマークされるんですかね?
あー、本当に生きていてほしかった人材ですね。
ロシア語は昔多少齧ったことがありますので、とりあえず読めます。博友社の辞書片手に大雑把ながらそこそこ翻訳·意訳もできます。筆記体は左手の方が効率良かったりします。アラビア語やヘブライ語もそうだけどあれはよく分からん。
確か「希望の光」的な表現もあったはずなんですけど今じゃ全く思い出せませんな。
ロシア国民の為にも、ナワリヌイ氏という若き反独裁政権の旗を追悼します。
で、安倍独裁は殺せ!とか騒いでた過激な連中はどうなんですか?と。本物の独裁政権なら反対派のリーダー格は皆変死してるはずなんだけど。今や温厚かつフラフラな岸田政権相手にも同様にギャーギャーと批判するばかりです。お元気でなにより。
投稿: 山形 | 2024年2月19日 (月) 06時03分
投獄された時点でこの結末は予想していましたし、遺体すら遺族に引き渡さない時点でもっと早い段階で亡くなっていた可能性も高いと思われます。
哀悼の意を表すると同時に「今このタイミングで発表された意味」をしっかりと考える必要もあると感じます。
選挙に向けて反プーチン派のあぶり出しもあるのでしょうね。
投稿: しゅりんちゅ | 2024年2月19日 (月) 10時37分
「確定申告ボイコット」なるワードを見かけてちょいと調べると、今日午前の各局情報バラエティ番組から、「自民党裏金問題」を理由にした「税金一揆」の話を始めたらしい。
番組は見ないけれど、「気持ちは解るがそれはいけないこと」そこまでいう番組はあるのかな?
嫌なこと悪いことをあっちがやっているんだ、こちらもやって何が悪い。
それって、本当は楽をしたいちっぽけな己に力があるのだと、確認したいだけじゃないの?
中世に戻りたい者が湧いてくる。そんなにプーチンを手本にして真似たいか。
投稿: 宜野湾より | 2024年2月19日 (月) 13時20分
宜野湾よりさん。
それって玉川徹とかですよね。たまたま岸田総理が「確定申告」を呼びかけたら過剰反応という。なんと愚かなメディアかと。
それはそれ、これはこれ。という区別もつかない「反政権」「反自民」だけに凝り固まった頭で派手にやりたいだけですね。
投稿: 山形 | 2024年2月19日 (月) 18時04分
アホウな我が国のプーチン支持者はナワリヌイ氏に関して、重大な勘違いをしているケースが多々見られますね。
ナワリヌイ氏があたかも欧州や米国好みの過度な民主主義者であったとか、果てはグローバリストであったかのような誤解です。
ナワリヌイ氏はクリミア併合を是としたように、ロシアの伝統的右派でした。プーチン容疑者はナワリヌイをイデオロギーの違いから殺めたのではなく、独裁者で批判に耐える事の出来ない小心者ゆえ、「次に来るもの」の目を摘み取ったのです。
これはスターリンのやった事と同じで、プーチン政権を絶たない限りロシアの不幸は続くでしょう。
献花の波はモスクワだけでなく、ロシア各地に静かに広がっているようです。「かくすれば、かくなる事と知っていた」ナワリヌイ氏の死は、最後のロシア人たる栄光に包まれている。
刑務所からの笑顔を忘れません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年2月19日 (月) 21時28分
>「自民党裏金問題」を理由にした「税金一揆」
ルーピーの脱税疑惑が浮上した時マスゴミは「税金一揆」を煽ったかな?
投稿: | 2024年2月20日 (火) 10時54分