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2024年2月21日 (水)

プーチン、西欧的合理主義の枠外に棲むマッド

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ナワリヌイの遺体を巡って、引き渡しを拒む当局との攻防になっています。

「近年のロシアで最も著名な野党指導者で、収監されていた北極圏の刑務所で16日に死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の遺体について、「化学分析」のため2週間は引き渡せないと、調査当局が同氏の母親に伝えた。同氏の広報担当が19日、明らかにした。こうしたなか、ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏が、夫の闘争を引き継ぐと宣言した。
ナワリヌイ氏の遺体がどこに置かれているのか、ロシア当局は公表していない。同氏の家族らは遺体を確認しようとしているが、刑務所の遺体安置所や現地当局は繰り返しこれを拒んでいる。
ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏によると、調査当局はナワリヌイ氏の母親に対し、「化学分析」のため2週間は遺体を引き渡せないと伝えたという。
ナワルナヤ氏は19日、動画を投稿し、当局が遺体を隠していると非難。当局は遺体を手元に置き、致死性の神経剤ノビチョクの痕跡が消えるのを待っているのだろうと述べた」
(BBC2月20日)
ナワリヌイ氏の遺体、「化学分析」で2週間は引き渡さないと当局 妻は闘いを引く継ぐと宣言 - BBCニュース

なぜプーチンはナワリヌイを殺したのか、なぜ平然と暗殺を積み重ねられるのか、どうして暗殺という陰湿な宮廷政治のような手法を好むのか、この特異な独裁者を知らないと理解できないでしょう。
それを知るために、彼の源流に遡ってみます。
私はプーチンを西欧的合理主義の枠の外にいる人物だと思っています。
なぜこのような奇怪な人物が生まれたのでしょうか。

西欧の国際政治学者たちは、プーチンを妄想性パーソナリティとして理解しようとしました。
たとえば、防衛省防衛研究所山添博史氏(ロシア研究・主任研究官)はこのように述べています。

「そうした狂気を計算高く「演出している」というものです。恐怖心を煽ることで、「プーチンの要求をある程度飲まないと、第三次世界大戦が勃発する」と周囲に思わせる。計算された狂気、計算された非合理さです。Madman Theory(狂人理論)というのがありますが、その可能性もあるでしょう」
(山添博史3月4日)
「勝てるようにやっているとは思えない」なぜプーチンは“狂気の独裁者”になったのか 防衛研究所・山添博史氏インタビュー #1 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) 

ただしマッドマンセオリはマッドではない者がマッドのふりをしているというのが大前提で、ほんもののマッドマンなら話は別です。
マッドマンを分類するとこのようになります。

①マッド度レベル1・真マッド。
②マッド度レベル2・中程度のマッド。半ば狂っているが、まだ計算ができる状態。
③マッド度レベル3・なんちゃってマッド。理性が残されており、スタッフのアドバイスを聞くことができるていどの状態。

正常な人物がマッドのふりをしているのは③に相当しますが、本当にそうだったらかえってほっとするくらいです。
③のなんちゃってマッドは演技ですから、側近はそれを理解して正しい情報を入れるように努めます。
しかしいまやプーチンに諫言できるものはほとんどの残されておらず、情報機関はおろか軍部でさえ信用していない様子です。
すると、①の真のマッドマンなのでしょうか。

「一つは、本当に精神状態に異変が起きていて、狂気の独裁者になっている可能性です。忠実な部下を含め全員をつるし上げて、誰も逆らえないようにして「俺だけの世界」を実現するヒトラーのようなイメージです。
このパターンだった場合、もう戦争の勝ち負けは関係ない。ロシアの安全も国民生活も関係ない。全てを懸けて、ウクライナを叩き潰す。必要だったら核のボタンも押す。……そういう狂気の独裁者になっているのであれば、非常に怖いです」
(山添博史前掲)

たぶんプーチンは、西欧的合理主義の範疇でいえば真マッドです。
しかも一般人ではなく、世界有数の軍事力を持ち、独裁権力を意のままに操り、しかも権力内部に有力な反対派がいない孤立型マッドマンです。

この山添氏の分析は、半分当たっていて半分はずれているような気がします。
西欧的分析でプーチンを見ているからです。
その結果、プーチンの神秘主義の霧がかかった反西欧主義、ロシア国粋主義が、この異様な独裁者の根っこにあることを見逃すからです。

ロシアは、原油で国は多少豊かになりましたが、民主主義不毛の地であり続けました。
ロシア国民は歴史的に「市民」だったことは一度もありません。
ツァーリー支配下では農奴であり、ロシア革命以降は「人民」という名で市民的自由を奪われた、「ロシアという有機体の一部」でした。
しかもソ連が崩壊した後も本質は変わりませんでした。
この原因はソ連崩壊後、民主化に向かうと見られていたロシアが逆流し、プーチンという独裁者が権力を握ってしまったからです。
そしてこの男は、KGBでありながらマルクス・レーニン主義者とは無縁のロシア特有の奇怪な思想の集合体でした。

2022年9月30日のプーチンの4州併合演説はその特徴をよく現しています。

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ロシア、ウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言 ウクライナはNATO加盟申請を発表 - BBCニュース

その特徴とはこのようなものです。

①「西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており、その背景にある動機は「新植民地主義システム」を維持し、そこから得られる利益を獲得し続けることだ」とするように、強い被害者意識とそれからくる反西欧主義です。
「西側が世界に寄生し、世界から略奪し、人類から年貢を集め、繁栄の主たる源を絞り取ることを可能にする新植民地主義」だとしています。「彼らはわれわれが自由になることを望まず、植民地にしたいのだ。対等な協力を築きたいのではなく、略奪したいのだ。われわれを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集合体にしようとしている」と考えています。
ちなみにこのあたりのプーチンの西側への呪詛は、西側社会にも存在する反米反グローバリズム思想と好一対ですから、彼らは揃ってプーチンをグローバリズムと戦う「光の戦士」などという尊称を奉っています。

②したがってウクライナ戦争とは、「偉大なロシア」を西側に抹殺されないための防衛戦争であって、「ロシアの言語や文化を守る戦い」なのだと位置づけます。
そしてそのロシア精神の中心にあるのが、ロシア正教です。

③プーチンは西側の民主主義システムを全面的に否定します。
後述するプーチン主義の源流であるイワン・イリンはこう言っています。

「選挙は独裁者に従属の意思表示をし、国民を団結させる儀式でしかなく、投票は公開かつ記名で行なわれるべきだ」
つまり本来選挙などやる必要がなく、あえてやるなら、4州の「住民投票」のように軍が銃をつきつけて、透明の投票箱に入れさせるものでなくてはなりません。
選挙などはロシアを分断するものであって、祖国ロシアとはひとつの生き物であって、「自然と精神の有機体」だというのです。
選挙をすれば90%が政府支持、世論では9割がプーチン支持、これが正常な世界なのです。
プーチン大統領の戦争、背後に「ロシア世界」思想 米メディア「ウォールストリート・ジャーナル」が指摘 2022年3月21日 - キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

事実ロシア正教のキリル総主教は、プーチンと強いつながりを持ち、ウクライナ人を絶滅することを祝福するという宗教者にあるまじき態度を再三示しています。
プーチンが「正教大国ロシアを目指す」と再三主張していることは、統治理念としてのロシア正教を基盤にしたいためです。
ロシア正教は、ソ連時代に弾圧を経て生存戦略として国家権力への接近を図ってきました。
西欧のキリスト教は世界宗教であることを自認し、神の愛を唱えましたが、ロシア正教系はそれと根本的に異なって、あくまで国家を支える民族宗教です。
ロシア正教は、受難から力への信奉を通して歴史的に神聖なるものに列聖されると説きます。
いわば、ソ連崩壊の精神的欠落を補完するものとしてロシア正教会はあったわけです。

「ロシア正教は、プーチン氏の地政学的野望を支えるイデオロギーの形成に積極的役割を果たしてきた。その世界観は、現在のロシア政府をロシアのキリスト教文明の守護者と見なすものであり、それゆえロシア帝国と旧ソ連の版図にあった国々を支配する試みを正当化する。
この思考はプーチン主義に強い影響を与えている」
(ウォールストリートジャーナル)2022年3月22日)
キリスト新聞社ホームページ (kirishin.com)

これがプーチンが信奉するロシア国家有機体論です。
ナチスドイツや北朝鮮、中国を思わせる「国家有機体論」です。

これらとプーチンのファシズムがやや異なっているのは、社会の統合装置としてロシア正教が登場することです。

さてプーチンは、クリミア半島への侵攻前の2014年初めに、クレムリンの重要な5000人の官僚たちに3人のロシア思想家の本を渡しました。
その3人の思想家こそ、プーチン大統領のその後の「プーチン主義」とも呼ばれているユーラシア主義の根幹を作ったのです。
この3人は19世紀から20世紀初期にかけ活躍したロシア人の思想家です。

・イワン・アレクサンドロヴィチ・イリイン(1883年~1954年)
ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ベルジャーエフ(1874年~1948年)
・ウラジーミル・セルゲイェヴィチ・ソロヴィヨフ(1853年~1900年)

そしてもうひとり4番目の男が、アレクサンドル・ドゥーギンです。
この者ら全員がマルクス主義とは無関係で、むしろ無神論ソ連で迫害されてきた者らの系譜に属します。
私たちからすれば、彼らプーチン主義を作った者たちが、共産主義者だったほうがむしろ分かりやすかったでしょう。
共産主義とは交渉可能だからです。
ところがプーチンが愛好したこれらのロシア主義の思想家たちは、ことごとく反西欧精神主義に連なる者たちだったのです。
彼らはソロヴィヨフのように神秘主義者であり、アンチキリストの到来と世界の終末を予感し、神の国は歴史の終わりにのみ実現する唱えています。

長くなりましたので、次回に分割します。

 

 

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コメント

 プーチンは老境に入って、井筒俊彦著「ロシア的人間」で描かれる伝統的ロシア人独特の人間性が強く濃くなっていると感じました。

キリストはロシア独特の悲惨なキリストで、プーチンは終末を希求する黙示録的人間のよう。一切の傾向を極端にまで持って行かなければ承知できない、「一切か、しからずんば無」と言った感じ。

ドゥーギンは「ロシアは隣国を侵略する権利を有している」としていて、プーチンはそれに感銘を受けたものと思われます。
ダッタン人に奴隷的に支配された三百年間、続くモスコウ時代の二百年もそれとは違う奴隷形態でした。
プーチンはソ連時代の領土と勢力を取り戻す使命を、宿命として自分に課したのでしょう。

また、プーチンの「孤独」についてですが、これはヒトラーと非常に似ていると思います。最初は劣等感で、それを克服するための攻撃性に変わったと思います。

いづれにしろプーチンと停戦交渉など不可能です。
在日本ウクライナ大使が言うように、「戦うのをここでやめたら、ウクライナは無くなる」という意味は深いです。

ドゥーギンの思想に対する強烈なアンチテーゼとして、先週モンゴル(世界で2番目に出来た共産主義国家)の元大統領がかつての蒙古の最大版図の地図を公開してました!
見事なパンチだと。
あの時代のロシアや産業革命前のヨーロッパなんてゴミカスレベルで蹂躙です。内部崩壊がなければたぶんイベリア半島まで達して、北アフリカのイスラム国家すら落ちていたかと。
インドとブリタニアだけは残ったかもですけどね。
あとアフガニスタンが巨大王朝や大国に完全支配されたのは、この時だけですね。

あんな地図出されて誰も反論出来ない事実になってるんてすから、他の政治家や思想家がどう言おうとね。。

ああ、宗教が絡むと本当に面倒くさいですね。
プーチンはアレクサンダー大王の生まれ変わりだと主張する、よくわからないハッピーなお方もいましたし。何なの?そんなにギリシャに支配されたいの(笑)と。規模がまるで違いますよ。

このままだとウクライナは負けますね。
アウディイウカで包囲殲滅の危機で撤退。これにはロシア側のエアカバーが付いてたそうで、砲弾だけではなく対空兵装も尽きています。せっかくドニプロ川を越えた部隊は今や瀕死です。。
どうする?EUはどうにかハンガリーのオルバンを説得したけど、肝心のアメリカがなあ。トランプ次第という極めて不安定な状態です。

 >西側は、ロシアを「攻撃、弱体化、分割」しようとしており

 ロシアは帝政時代から「完治も寛解も不可能な病的な被害妄想」に罹ってますからねえ。それが対外膨張政策の拠り所なので、プーチン一人の問題ではないでしょう。

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