ガザ住民6割がハマス支配を拒否
曽我太一の記事一覧 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)
まずパレスチナ政策・調査研究センター(PCPSR)」が11月22日から12月2日にかけて、ヨルダン川西岸地区とガザ地区2地域での意識調査が紹介されています。
西岸地区750人、ガザ地区481人(系1231サンプル)、方式は対面調査だそうです。
400サンプルを集めると、標本誤差を5%未満に留められるとされていますから、統計学上有意水準を持った意識調査です。
なお、対面調査はサンプルとなった個人が特定されてしまうために望ましい方式ではありませんが、今のガザの状況を考慮すればいたしかたないでしょう。
面白いのはこの部分です。
「あからさまな違いが現れたのは、「戦後のガザ」の統治だ。「もしあなたに任されるなら、誰にガザを統治してもらいたいか」という質問で、全体では60%が「ハマス」と回答した。ハマスによる統治を望んでいるように見えるが、そうではない。内訳を見ると、西岸地区でハマス統治を望むと回答した人は75%だった一方、ガザ地区では38%にとどまり、6割以上がハマス以外の統治を望んだ。なかにはイスラエルによる統治を望む人すらいた」
(曽我前掲)
日本の中東屋の皆さんは衝撃を受けたのではないでしょうか。
これは直接にハマスの支配を知っているガザ地区に、ハマスに対する嫌悪がいかに強いかを物語っています。
西岸のほうがハマス統治への期待度が高いことについて、曽我氏はこう見ています。
「西岸地区でなぜこれほどハマスが人気なのかというと、西岸を統治するパレスチナ自治政府、そしてマフムード・アッバス議長への失望が大きいからだ。ハマス統治下に暮らしたことがない西岸のパレスチナ人からすれば、イスラエルに対して強い態度をとるハマスは、「青く見える隣の芝」のような存在なのだ」
(曽我前掲)
この自治政府へと失望とハマスへの嫌悪が理解できないと、ガザの「戦後」を解くことができないでしょう。
つまり、自分の贔屓で判断するので判断の眼が曇るのです。
日本の中東屋の多くは「パレスチナの抵抗運動」の支持者ですから、当然ハマスの戦後に渡る支配の継続を望むでしょうが、それはありえない選択です。
ハマスが「戦後」もガザに居すわることは、イスラエルと米国が絶対に許容するはずがないからです。
イスラエルは軍事的にガザを一時的に支配することは可能であっても、長期の治安占領はイスラエルの体力を奪っていくことでしょう。
2005年にガザからの撤退を決めたアリエル・シャロン元大統領はこう言っています。
「シャロン氏は、200万人のパレスチナ人から(当時ガザ地区に暮らしていた)6000人の入植者を保護するには、イスラエル軍では弱すぎるという結論に達していた。シャロン氏は、優秀な軍人だった。だからこそ、入植者や兵士への攻撃が連日起きるなかで、それ以上、血が流れるのを見たくないと判断したのだ」
イスラエル軍事史に名を残す軍人でもあったシャロン氏が、戦略的な観点から決めたのがガザ撤退だったのだ」
(曽我前掲)
今回も同様です。短期の治安占領はありえるでしょうが、それが長期になるに従ってガザ住民の憎悪を買うでしょう。
憎悪に囲まれた占領軍はもろいものです。
では、だれが行政と警察権を持つのでしょうか。
いちばん簡単な答えが、パレスチナ自治政府です。
すでに米国などの国際社会が「唯一の正統政府」として認知しているからですが、いままで何度も書いてきているように、アッバスにはこれを統治する能力も根性もありません。
「ただ、自治政府の「正統性」には、パレスチナ内からも疑問の声が投げかけられている。パレスチナでは2021年、2006年以来となる評議会選挙(国会にあたる)と大統領選挙を実施する予定だった。しかし、アッバス議長は、直前になって選挙を事実上中止した」
(曽我前掲)
この選挙をアッバスが流した理由は、やればハマスに負けてしまうからです。(笑)
こんな男をいくら米国が後ろ楯になってガザに連れ戻しても、住民は誰一人従わないことでしょう。
だから、ブリンケンは「刷新された自治政府」という考え方に舵を切りました。
今、行われている秘密交渉を前にして、米国はこの線で納得するようにネタニヤフに求めているはずです。
具体的には、ハマス系職員を排除し、かつてガザで仕事をしていたがハマスに追放されている自治政府のファタハ系職員をかき集めて行政機関を再構築し、そこに行政サービスと選挙の準備をさせます。
そして早急に自治政府の首長選挙を準備します。
問題なのは、誰を候補とするかですが、具体的には「戦後」統治の行政責任者となる資格は3つあります。
①ハマスはもちろん、アッバスからも独立していること。
②卓越した行政手腕。
③国際社会の信頼。
曽我氏は2人の名前を上げていますが、本命の自治政府元首相サラム・ファイヤードだけを紹介します。
パレスチナ自治政府元首相サラム・ファイヤード fsight.jp
「ファイヤード氏は、国際通貨基金(IMF)での勤務や、自治政府の財務相を経た後、2007年から2013年まで首相を務めた。アメリカ政府との関係も良好で、首相時代に汚職撲滅など自治政府の再建に取り組んだ姿勢は「ファイヤード主義」などとも呼ばれた」
(曽我前掲)
テキサス大学とカイロ・アメリカン大学出身の知米派で財政の専門家です。
正直、よくこんな逸材がガザにいたものだと関心してしまいました。
サラーム・ファイヤード - Wikipedia
ファイヤードは、2007年6月のファタハとハマスの戦闘に際してアッバスから組閣を命じられて首相となり、欧米から期待された存在となりました。
しかしやがて腐敗撲滅の刷新運動がアッパスの逆鱗に触れて両者は対立するようになり、ファイヤードは辞任に追い込まれます。
このようにファイヤードの強みは、ハマスはもちろん、アッバスの手垢がついていない人物であることです。
このハマスとアッバスから独立していることは、「戦後」の統治を担う人間の絶対条件です。
また行政手腕については財政に明るく、腐敗を憎み自治政府の債権に取り組んだ経験があります。
そして米国などの国際社会からの信頼は非常に厚い。
ファイヤードもその期待に応えてか、このようなことを述べています。
「そのファイヤード氏は去年10月、フォーリン・アフェアーズ誌に「A Plan for Peace in Gaza」と題する記事を寄稿。そのなかで、「仮に自治政府がガザを統治しようとしても、すでに低下している自治政府の正統性は、継続中の戦争による圧力の下、さらに急速に失われつつあり、自治を担うことは難しい。しかし、パレスチナ自治政府が適切に再構成されるのであれば、『戦後』とそれ以降に向けた最良の選択肢ではある」と指摘していた。ファイヤード氏は現在アメリカに居住している」
(曽我前掲)
たぶんブリンケンとバイデンは米国に住んでいるファイヤードとすでにコンタクトを取り、ガザの「戦後」について話をしているように思えます。
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ハマス圧制のなか、しかも対面調査で38%しか支持が出ないとは、ハマスの不人気ぶりは明らかです。
パレスチナ国家樹立について、「ネタニヤフは、包括的に否定しているわけではない」(キャメロン英外相)
つまりネタニヤフは二国家共存について、エジプトものぞむ「ガザ地区の非武装化」を条件とするんでしょう。
そうすると、問題はイランとその手下のテロ組織で、米軍がどれだけこれを叩けるか?それが今後のイランへの抑止力のカギですかね。
そのうえでパレスチナの選挙という段取りですが、「第三の道」による国家承認への道を有権者にうまく示す事で、存外上手く行くかも知れません。
全然、理想論に過ぎなくはないですね。
なお、米軍がイラン系テロ組織に報復してますが、池内先生が言うような「中東戦争」に発展する心配はありません。
湾岸諸国は内心、米国の関与は望むところでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年2月 3日 (土) 10時37分