イスラエルのザヘディ爆撃は国際法違反なのか
今回の事の発端となったシリアのイラン領事館爆撃で殺害されたのは、コッズ部隊の上級司令官モハマド・レザ・ザヘディ准将と、その副官のモハマド・ハディ・ハジ=ラヒミ准将です。
この両名はここからイスラエルに対する攻撃を指揮していました。
ニューズウィーク
「米シンクタンク「中東問題研究所」の対テロ専門家であるチャールズ・リスターは、「ザヘディはとてつもなく大きな権力を持つ人物だった」と指摘し、「彼は何年も前から、革命防衛隊とコッズ部隊がシリアとレバノンで行うあらゆる活動を指揮してきた」と説明した。これらの活動には、今や世界で最も重武装の非国家勢力と考えられているヒズボラへの武器の密輸も含まれる。
第二の違いは、攻撃が行われた場所だ。今回の空爆は、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館に隣接する領事部の建物を標的とし、空爆によって建物は全壊した。当局者やアナリストによれば、この建物はイラン革命防衛隊のシリア国内の司令センターとして使われていた」
(ニューズウィーク4月2日)
イラン公館空爆で革命防衛隊の最強司令官が死亡、イスラエルの仕業ならヒズボラとの全面戦争に発展も|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
このイスラエルのザヘディ暗殺に対して、国際法違反だというのがおおむね日本の識者のみなさんの意見です。
第三国の領事館を爆撃し、イラン要人を殺害したのですから、外形的には確かにそのように見えます。
ここからイランも国際法違反なら、それを引き起こしたのがイスラエルの国際法違反なのだから、ドッチもドッチだという見方が生まれています。
しかし私はどうも腑に落ちないのです。
4年前に似た事件がひとつあるので、それを参考に考えてみます。
かつて2020年1月3日、コッズ部隊の最高指揮官だったソレイマニを、米国はドローンで殺害しました。
その前日の12月27日には、イラク北部のK-1空軍基地がロケット弾で攻撃され、米民間人(通訳)1人が死亡しました。
実行したのは、イランの支配下にあるヒズボラでした。
米軍はこの時ヒズボラ施設を空爆して報復していますが、さらにトランプは元日にポンペオの持論だったソレイマニ司令官殺害を決断し、ドローンによる空爆作戦が1月3日に実施されました。
そしてソレイマニを殺害した地点はイラクのバクダットでした。
場所が公館ではないということだけが違うだけで、たいへんよく今回の事件と似ています。
米軍の空爆で殺害、ソレイマニ司令官とはどんな人物か - CNN.co.jp
ソレイマニが中東各地でのテロを指揮していたからですが、ではこれが戦時国際法ではどのように判断されるのかでしょうか。
静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之氏はこう述べています。
正戦論の倫理的基準は、戦ってもよい(始めてもよい)戦争の条件と、戦い方の条件に区別される。戦ってもよい戦争の条件は、次の5つがもっとも重視されている。
1)正当な目的があること。
2)紛争を平和的に解決する合理的な努力が尽くされ、戦争が最後の手段となったこと。
3)正当な権力が戦争を許可すること。
4)戦争の目的に比べて、戦争がもたらすと予測される損害が上回らないこと。
5)目的が達成可能であること。
次に「戦い方の条件」はこのようなものとして定義されています。
1)戦闘員と非戦闘員を区別し、非戦闘員は攻撃目標にしないこと。
2)攻撃目標の軍事的価値に比べて、巻き添えとなる非戦闘員と非軍事物の損害を、不釣り合いに大きくしないこと。
ソニイマニは殺害された時も、イラクで大規模なテロ襲撃を準備しており、最新兵器をイラクに移送する準備をしていたようです。
したがって西氏はこう結論づけています。
「端的にいえば、ソレイマニ司令官はイラクで米軍や米関連施設への攻撃を指揮していた戦闘員なので、米軍の待ち伏せ攻撃は暗殺ではない」
(西恭之)
このようにソレイマニ爆撃は戦時国際法の要件である自衛権の行使であり、かつ「正当な目的」があったと判断されたために、米国と一定の距離を持っているヨーロッパ諸国も即座に支持を表明しました。
ところで今回の空爆で死亡したコッズ部隊指揮官ザハディは、ソレイマニの後任者で、多くのテロに関わっています。
ガザのハマス、シリアのヒズボラ、イラクのイスラム抵抗運動、イエメンのフーシ派、これら中東のテロリスト団体はすべてイランから資金援助をもらい、武器を与えられてイスラエルや米国を攻撃し続けてきました。
ソレイマニやザヘディは、一般的な軍人でもないし、ましてや政府要人一般でもありません。
彼らは正規軍ですらなく、イランという宗教原理主義国家でハメイニ師だけに仕える親衛隊、いわば「私兵」です。
ですから、このイスラエルのイラン領事部爆撃は一般的な外交使節爆撃の範疇で理解すべきではなく、テロリスト指揮官の抹殺を意図した「正戦」という概念が成立するのではないでしょうか。
« イスラエルの難しい決断 | トップページ | イランのミサイルと原油を支える中国 »
誰がいようが大使館や領事館を攻撃するという行為自体が国際法違反なのだからイスラエルが非難されるのは当然のことでしょう。
駐在武官のように大使館に軍人がいるのも普通のことであるし、冷戦時代は狸穴のソ連大使館にはKGBのエージェントが身分を隠して頻繁に出入りしていたことは有名ですが、だからといって襲撃や強制捜査はできませんでした。
EUはイスラエルの攻撃を批判しています。また、攻撃をアメリカに事前に通告しなかったことからもイスラエル自身が国際法違反の自覚を持って行った確信犯と言ってもいいと思います。
投稿: 中華三振 | 2024年4月18日 (木) 08時34分
ハマスの黒幕(というか、最大の当事者)はパレスチナでもなく、イランです。イスラエルは、同じようにイランに支援・指示されているヒズボラやフーシ派とも戦っています。そんな基本的な事は世界中誰でも知っていますが、「イスラエル憎し」に凝り固まる日本の専門家らの頭にはないのでしょう。
つまり、この戦争を始めたのはハマスですが、国際社会は「イランが始めた」と認識していて、その事とは別にイスラエルの「行き過ぎ」に警鐘を鳴らしているだけ。大使館付属施設に対する攻撃が国際法に違反するかどうか?などという仔細な部分をフレームアップする事で、イスラエルがどれだけ悪かを言い立てたいワケです。
だからイランの攻撃に際してはこぞって非難声明を出したし、「イランの自衛権の発動」としてのイスラエルへのミサイル攻撃など認めていません。結局、イスラエルや米国・英国のみならずサウジやヨルダンまで協力してイランのミサイルを撃ち落としたんです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年4月18日 (木) 18時50分
大使館・領事館への攻撃は絶対ダメ、という「聖域」であるべきだと思います。
投稿: ねこねこ | 2024年4月19日 (金) 11時42分