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2024年5月10日 (金)

「パレスチナ国家」が難しい理由

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パレスチナ国家承認問題は、イスラエルの喉に引っかかった小骨のような存在です。
先月、パレスチナ自治政府が再び国連に承認問題を持ち出しました。

「パレスチナ自治政府は2日、2011年に行った国連への正式加盟申請の再検討を要請した。パレスチナは12年に国連から非加盟オブザーバー国家の資格を付与され、事実上国家として承認されている。
正式加盟には安全保障理事会での申請承認を経た後に国連総会で加盟国193カ国の少なくとも3分の2の賛成が必要となる」
(ロイター4月4日)
パレスチナ国家承認は国連でなく当事者間の協議で、米が見解 | ロイター (reuters.com)

「オブザーバー国家」とは国連などの国際機関や国際会議で、正式な加盟国や参加国以外に、一定の参加資格を与えられた国のことです。
ロイターは「事実上の国家」というい言い方をしていますが、正確ではありません。
会議に出席して提案したりはできますが、投票権はありませんから「半国家」あるいは「みなし国家」です。

このみなし国家をホンモノの国家待遇に格上げしてほしいというのが、自治政府の要求です。
米国民主党政権としては、かつてオスロ合意を作った後継政権として、本心は国家承認に踏み込みたいのでしょうね。

オスロ合意は、1993年8月20日、クリントン民主党政権が仲立ちして、イスラエルのラビン労働党政権とアラファトPLOを握手させたものでした。

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 Wikipedia

これによっていまのパレスチナ暫定政府が成立し、イスラエルはガザから撤退します。

  1. イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認する。
  2. イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する。
    オスロ合意 - Wikipedia

ただしこのパレスチナ暫定政府は、あくまでも「みなし国家」でした。
これを正式な国連の加盟国とすることで正式な国家待遇を与えよ、というのが自治政府の要求です。
ちなみに米国、EU、カナダ、日本など西側主要国は承認していません。
パレスチナ国 - Wikipedia

今回も米国はこれに対して、こんなことは国連で決めることではなく、当事国つまりイスラエルと相談してくれというい言い方で拒否しました。

「正式加盟には安全保障理事会での申請承認を経た後に国連総会で加盟国193カ国の少なくとも3分の2の賛成が必要となる。
米国務省のミラー報道官は、米国が安保理の拒否権を行使してパレスチナの加盟を阻止するかと問われ、「先のことを推測するつもりはない」としつつ、イスラエルへの安全保障を伴うパレスチナの独立国家樹立は「国連ではなく、当事者間の直接交渉によって行われるべきだ。われわれは現在これを追求している」と述べた」

(ロイター前掲)

当然といえば当然の対応です。
「パレスチナ」とひとくちで言っても、パレスチナ自治政府が実効支配できているのは、その「首都」が置かれているヨルダン川西岸のわずかであり、今紛争が起きているガザではハマスに奪取されていたからです。
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パレスチナ国 - Wikipedia     灰色の部分はパレスチナの統治外
「パレスチナ国は領有を主張する国土に16の県(ガザ地区に5、ヨルダン川西岸地区に11)を設置している。ただしイスラエルの実効支配下にある地域を含んでいるため、ヨルダン川西岸地区の県の多くの地域が統治下にはない」
パレスチナ国 - Wikipedia
「首都」の西岸地区だけでこの複雑さです。

西岸地区の総面積は5,660km²であり、以下に区分けされている。
A地区・・・パレスチナ政府が行政権など全てを握っている。面積は西岸地区のうち18%の約1,018km²である。
B地区・・・イスラエル軍警察権を握っているが行政権はまだパレスチナ政府にある。面積は西岸地区の21%の約1,188km²である。
C地区・・・イスラエル軍が行政権など全てを握っている。面積は西岸地区の61%で約3,452km²である。
また、西岸地区のイスラエル軍管轄地域はユダヤ・サマリア地区と言われている。
パレスチナ国 - Wikipedia

ガザは自治政府が「統治」していたといいますが、実態はハマスが実効支配していました。
だから去年10月のような残虐なテロが起きたのです。
ですからパレスチナ自治政府が純粋にみずから実効支配できたのは西岸地域のA地区18%だけにすぎません。
こんなていどの「統治」しかできない自治政府がいかに無力な存在かわかるでしょう。
これを「国家」承認しろというには無理がありすぎます。
A地区より大きなイスラエルが警察権や行政権を握るB地区、C地区 をどう扱うつもりなのでしょうか。
一方、ガザ地区のイスラエル軍の支配状況です。
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アメリカがイスラエルへの武器支援を保留:どうする!?ネタニヤフ首相 2024.5.9 – オリーブ山通信 (mtolive.net)
ハマスがいう恒久的平和とは、ガザのみならず西岸からもイスラエルに出て行けという意味ですが、そんなことを飲む道理がありません。
英国はこんな言い方をしています。


「昨年11月の外相就任後、4度目となる中東訪問を前にキャメロン氏は、中東での和平を促進するにはパレスチナ人に政治的地平を与える必要があると、与党・保守党の中東評議会 (CMEC)で述べた。
キャメロン氏はまた、イギリスにはパレスチナ国家がどのようなものかを示す責任があると語った。
そして、パレスチナの人々に対して「2国家解決」に向けた「不可逆的な進展」を示す必要があるとした」
(BBC1月31日)
英外相、パレスチナ国家の承認を「前倒しする用意」示唆 和平には「不可逆的進展」必要と - BBCニュース 

ナニを言いたいのかよくわかりませんが、英国としてはパレスチナ国家承認はやぶさかではないが、できる国家像がはっきりしないうちはねぇ、というところでしょうか。
西側主要国が及び腰なことには理由があります。
パレスチナを国家承認すれば、ネタニヤフのガザ侵攻は「武力による国境変更」に該当してしまうからです。
西側はイスラエルがこれほどまでにオーバーランしてしまうとは思わず、自衛権であると擁護して米国も武器援助をおこなったからです。
国家承認してしまえば、「パレスチナは国家ではないので武力による国境変更にはあたらない」という弁解ができなくなるのです。

パレスチナ国家の基本はパレスチナ自治政府となるのでしょうが、実効支配があまりに少なく、主体が腐りきって無能なアッバス政権では話にもなりません。
ブリンケンがいう「刷新された自治政府」といっても、その道筋が見えません。

というわけで、理念では「二国家共存」が正しいのは百もわかっていても実効はかぎりなく困難なのです。
ネタニヤフも、どうせ戦争が終われば自分は勝利した指導者どころか、ハマスの攻撃を予想した情報を握り潰して防がなかった罪と、無駄にガザ住民の流血を招いて世界から批判された罪によって辞任に追い込まれることくらいは覚悟しているでしょう。
だから彼が政権を握る以上、妥協はありえません。

このように見てくると、バイデンが気の毒な気がしないでもありません。
クリミアを含めて全土の奪還をめざすウクライナ、そして頑としてハマス討伐をに突き進むイスラエル。
共に最大に支援国でありながら、いやそれ故に難しい判断を強いられています。
ま、これも11月までの辛抱かもしれませんが。

パレスチナ国家の基本はパレスチナ自治政府となるのでしょうが

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コメント

 パレスチナの国家承認などと言う事は、現時点では考えられぬ事です。オスロ合意をやったアラファトが健在の時でさえ、合意後のパレスチナは続々たるテロ組織の発祥・温床となってい続けています。
これを単にイスラエルのせいにするのが我が国の専門家ですが、国際社会からの長年にわたる莫大な支援こそが元凶だと言えます。
今回のハマスの蛮行の根幹もそうで、パレスチナに集まる金と権威を勢力を駆って行わしめたと見るべきです。
ですから、ここでハマスを根本的に消滅させる事を目標とするネタニヤフの考えは概ね正しい。しかし、やり方には問題があるし、国内世論も完全にはついて来ないという現状。
仮に現段階で承認があれば、パレスチナはハマス他の新興テロ組織の掌握する事になるでしょうし、理想主義的すぎるにせよブリンケンがいう「刷新された自治政府」を待つより方法がないと思われます。


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