イラン大統領、ヘリ事故で死亡
イランのライシ大統領が事故死したことを、イラン当局も認めました。
[ドバイ 20日 ロイター] - イランのライシ大統領(63)とアブドラヒアン外相が搭乗していたヘリコプターがアゼルバイジャンとの国境近くの山岳地帯に墜落し、いずれも死亡した。イラン国営メディアが20日に伝えた。
19日に墜落したヘリを巡っては吹雪の中で夜通し捜索が進められ、20日の早い時間帯に炎上して燃え尽きた残骸が発見された。
政府高官がロイターに明らかにしたところによると、搭乗者全員が死亡。マンスーリ副大統領もその後、声明でライシ氏の死亡を確認した。
国営テレビは墜落原因に触れていない。現場の映像は山頂に激突したことを示していると伝えた」
(ロイター5月20日)
イラン大統領と外相が死亡、ヘリ墜落で 国営TVは原因に言及なし(ロイター) - Yahoo!ニュース
速報】イラン・ライシ大統領ら乗せたヘリ発見か ロイター通信に対しイラン当局者「生存可能性低い」 | TBS NEWS DIG
さて、上の黒いターバンを巻いて人間を信じない目つきをしている人物がセイイェド・エブラーヒーム・ライシです。
黒いターバンを巻く者は、ムハンマドの血筋を引くという意味で、シーア派高位であることを示しています。
ですから、イランの歴代大統領でも黒いターバンを巻けることができるのは2名しかいませんでした。
次の「最高指導者」はこのライシだと目されていたようです。
ライシは、2021年の大統領選挙で6割の票を集めて当選しました。
大統領職とは元首のことですから、国家のトップかとおもいきや、イランでは中間管理職でしかありません。
だから選挙で国民が選ぶことが(形式的にはですが)可能なのです。
イランの権力構造は下図のようになっています。
実にわかりにくいですが、イランという異形の国家を知るためにちょっとおつきあいください。
イランは最高指導者が絶対権力 大統領は行政の長 (産経ニュース) (newspicks.com)
イランの全権を握るのは「最高指導者」は、わが国やヨーロッパ諸国のような国家統合の象徴ではなく文字通りの実力を持っています。
ここに座ったのはたった2名。初代があまりにも有名なカリスマ指導者のホメイニ、二代目が今のハメネイで、いずれも高位のイスラム法学者でした。
3代目と目されていたのが、今回事故死したこのライシでした。
この「最高指導者」が、日欧の立憲君主制と根本的に違うのはふたつの「力」を持っているからです。
まず、なんといっても国家の実力組織を掌握しています。国軍と例の悪名高きコッズ部隊を擁する革命防衛隊です。
ですから、イスラエルに盛んにテロ攻撃を仕掛けているコッズ部隊は、直接に「最高指導者」が司令官を任命し、その命令で動いているということになります。
国軍は政府の統制が効きますが、革命防衛隊は「最高指導者」の直轄なので、なにをしているのかさえも政府が掌握してはいないようです。
イラン革命防衛隊(IRGC)は、軍隊のように見えますし、実際国軍並の軍事力を持っていますが、国軍とはまったく別系列の軍隊です。
おそらくこのような組織は諸外国にはないでしょう。
強いていえば、ヒトラー個人に忠誠を誓ったナチの突撃隊(SA) と武装親衛隊(SS)を足して、ゲシュタッポをかけあわせたような組織で、独裁国家でしか誕生しません(おおコワ)。
当初、イスラム原理主義政権が反革命と目した国内の民主派運動家たちを殺すために作られ、やがて起きたイラン-イラク戦争を支える組織として武装化しました。
国内民主派が海外に逃亡すると、海外のイラン民主派勢力に対しても容赦ない暗殺攻撃を続けました。
イスラム革命防衛隊
「イラン人の暗殺は、欧州亡命組を中心に、1980年代から90年代にかけてかなり頻繁に行われ、少なくとも20か国以上で、計350人以上が殺害された。ただし暗殺作戦は、2000年代以降は比較的沈静化している。亡命反体制派の活動家たちが高齢化し、武力で体制を倒せるような存在ではなくなったからである」
(黒井文太郎2019年4月17日)
中東の最重要問題に浮上したイランの国家的テロ組織 ISよりも危険な存在、イラン「革命防衛隊」とは(後編)(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
この執拗な大量暗殺のために、国外亡命グループは壊滅しました。
なぜならほとんど全員が殺されてしまったからです。
このようにイランで専制政治が続く最大の理由は、イスラム原理主義政権にとって代わる民主派勢力を存在させない革命防衛隊がいるからです。
次に革命防衛隊の標的にされたのが、イスラエルです。
コッズ部隊は、中東各国に浸透しました。浸透工作が成功した地域は、イラク、シリア、イエメン、パレスチナで、この地におけるテロ流血事件のすべてに、イランが関わっています。
今回イスラエルをテロ攻撃しているハマス、ヒズボラなどのテロ組織はことごとくイランが育成し、武器と資金を与えたものです。
これらの組織の活動は、革命防衛隊の指令に従っており、革命防衛隊を通じてイラン「最高指導指呼」と直接につながっています。
つまり、中東の騒乱の大元締めがイランの「最高指導者」なのです。
第2に、「最高指導者」は大統領選挙の候補者を選ぶことができます。
え、国民が投票で選ぶんじゃなかったのと思うのは甘い。
その候補の選定は「最高指導者」が行うのです。
こういうのを言葉の正しい意味で「選挙」とは呼ばないはずですが、大統領選挙に出るには、最高指導者の影響下に置かれた「監督者評議会」(専門家会議)の承認を得なければなりません。
この監督者評議会のメンバー12人のうち6人は最高指導者が任命し、残り6人は司法の長が指名します。
ライシが司法の長だった時代に指名した人間がこの6名の中には含まれています。
つまり、「最高指導者」のペット以外に立候補すらできないのです。
しかしメディアはノーテンキに「イラン大統領選挙でライシ当選」などと報じていましたが、こういうカラクリには触れませんでした。
当然のこととして、大統領職は「イラン・イスラム共和国」という看板に偽りありの体裁を整えるためだけの存在にすぎません。
逆に、失敗したら大統領が腹を切ることになります。
ライシは精力的に仕事をこなしていき、長く在任した検察官時代には多くの反体制派の処刑を決定しました。
「検察官」といっても、近代法で裁くのではなく、イスラム原理主義の法典で裁くのです。
たとえばヒジャブです。
日本の「イスラム専門家」たちには、ヒジャブについてイスラム風ファッションだとか、着用の義務はなく自由だという言い方をする者がいますが違います。
女性のヒジャーブ着用はイスラム教という宗教上の義務であり、そこには基本的に「選択の自由」などというものは存在しません。
国家が宗教支配の象徴として着用義務を定めているために、ヒジャーブをしなかったり、着用が既定と少し異なっていることで懲役刑や、それ以上の刑罰に処されます。
22歳のイラン女性マーサー・アミニさんは、ヘジャブの端から髪の毛がでていたというささいな理由で宗教警察(こんなもんがあるんです)逮捕され、拷問死しました。
この痛ましい事件はイラン全土で激しい抗議デモを呼び起こしました。
「一方、クルド系のRudawメディア・ネットワークは、「彼女はヘッドスカーフが原因で警察官に殴打された。彼女の父親は娘の体に拷問の痕跡があったと主張している。彼女が以前に病気を患っていたという情報についても、父親は『娘は完全に健康だった』と述べた」と報じた。また、彼女の治療にあたったクリニック関係者は、「彼女は13日に入院した時に既に脳死状態だった」と証言したという」
(ウィーン発 『コンフィデンシャル9月24日)
10年遅れで「イランの春」到来するか : ウィーン発
アミニさん虐殺抗議行動は、イスラム原理主義政権への抵抗運動でした。
「(CNN) イランで道徳警察に拘束された若い女性の死に対する抗議デモが続くなか、当局は24日までに、街路に平穏が戻るまでインターネット接続を制限すると明らかにした。
イランではマフサ・アミニさん(享年22)の先週の死をきっかけに、数千人が街頭に繰り出して抗議を行っている。
アミニさんは首都テヘランで逮捕され、「再教育センター」に連行された。逮捕理由は頭部を覆うヒジャーブを適切に着用していなかったことだとみられる。
16日以降、テヘランを含む少なくとも40都市でデモが行われた。デモ隊は女性に対する暴力や差別、ヒジャーブ着用義務の撤廃を求めている。
デモは治安部隊との衝突に発展し、数十人が死亡したとの情報もある」
(CNN9月24日)
イラン、ネット接続を制限 女性死亡へのデモで死者増加 - CNN.co.jp
民主派を大量にクレーンから「吊るした」ので、奉られたあだ名が「ハングマン」でした。
なぜハングマンと呼ばれたかといえば、イランはいまだ公開処刑をしており、死刑囚をクレーンで街中に吊るすという蛮行をいまでもしているからです。
特にひどかったのが、1988年で、実に数千人から数万人といわれるイランの反体制派が短期間に絞首刑とされましたが、その決定をした「死の委員会」の4人のメンバーの指導者が、このライシでした。
ライシの後任はモハンマド・モフベル第1副大統領です。
そうとうに悪相の男です。
ハメネイ師に近い強硬派 大統領代行のモフベル氏 イラン(時事通信) - Yahoo!ニュース
革命防衛隊上がりのゴリゴリの強硬派だそうで、大統領選挙にも出るようです。やれやれ。
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今回のヘリ墜落についても「革命前の旧式機で、欧米の制裁で更新や充分な整備が出来ていなかった可能性」だとか。だったらそんな機体に要人を乗せるなよ!という話なんですけど。
それですら全くの想像でしかないのに、中東情勢に詳しい専門家という大学の先生(少なくとも航空機の運用は知らなそう)の話として流す日本のマスコミというか毎日&TBS!
投稿: 山形 | 2024年5月21日 (火) 04時24分
革命から10年近く経った1988でも落ち着かずに処刑しまくりでしたか。しかも当時はまだイラクとの戦争中ですね。
で、当時の革命政権に不満な若者達が正にバブル絶頂期の日本にあの手この手で大量に押し寄せて来た訳で。。
東北高校出身のダルビッシュ有投手日米通算200勝おめでとう。偉大なピッチャーになりました。
親父さんはこの流れで日本に来たのかは知りませんが。
投稿: 山形 | 2024年5月21日 (火) 08時09分
まあ、こんな風に1人ずつバカイスラム指導者の子飼いが死んでいけば、手足をもがれて何もできなくなるんじゃないですかね。
投稿: ねこねこ | 2024年5月21日 (火) 15時23分
そういう国家だから、ライシに似たり寄ったりのウルトライスラム保守は幾らでもいるし、作れる。
お飾り兼使いっ走りの大統領に据える人材はあるし、いずれハメネイ亡き後でもうってつけの人物は現れ、イランはイランであり続ける。(しかもさほど孤立もせずに)
だからこそ。
親日的ではあれど虐殺と弾圧をやり放題なイランについて、我が国ならではの物が言える立場を目指しては、と言っている人までイランの味方認定して非難する人たちにも、ハメネイ最高指導者やライシ大統領の残虐さには詳しく触れないままで、「強権の一方で厚い支持」などとだけ言うマスコミや一部識者にも、讃えて哀悼だけを表明する我が国政府にも、ズレてる感だけが湧く。
一切合切不問/支持か、一切合切非難/否定か、何故どちらか一方のみでなきゃと思うのか。
他国の宗教や歴史や文化の尊重と重大な人権侵害を、捉え区別してその両方への考えを表しておける狡さは、身に付けようとは思わないのかな。
もしかして何も考えていないから、雑になれるのか。
投稿: 宜野湾より | 2024年5月22日 (水) 00時17分