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2024年6月

2024年6月26日 (水)

ガザの市民死者数3万3千人説は真実だろうか

S2-033

淡々とガザ戦争について考えています。
ガザ戦争についての一般的イメージはこうです。

パレスチナ自治区ガザの保健当局は19日、イスラエル軍の攻撃によるガザの死者数が計3万4千人を超えたと発表した。国連によると死者の3分の1近くにあたる1万人以上が女性だという。
保健当局の発表によると、イスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘が始まった昨年10月以降の死者数は計3万4012人。負傷者数は計7万6833人に上る。
一方、国連女性機関が16日発表した報告書によると、死亡した女性のうち6千人が母親だった。その結果、1万9千人の子どもが孤児になったとみられる。また、ガザに住む100万人以上の女性と女児が飢餓に直面しており、清潔な水やトイレ、生理用ナプキンを利用できていない。肝炎や下痢などの感染症も蔓延(まんえん)しているという」
(朝日2024年4月20日 )
ガザの死者、3万4千人超える 国連機関「女性に対する戦争」と警鐘:朝日新聞デジタル (asahi.com)

この3万4千人という数字が一人歩きして、日本のメディアはもっぱらハマスをパレスチナ人の代表に祭り上げ、それに寄り添い、イスラエルは虐殺を続ける悪玉ということを報道方針としました。
いまや世界のサヨク界隈の反イスラエルの人々は、これをジェノサイドとまで呼びます。
ちなみに「ジェノサイド」とは、安易に使っていいレッテルではありません。

「genocide」(ジェノサイド)という言葉は、1944年より前には存在しませんでした。これは非常に特定的な言葉で、あるグループの存在を抹消することを目的として行われる暴力的な犯罪行為を意味します」
ジェノサイドとは | ホロコースト百科事典 (ushmm.org)

つまり特定の民族が特定の民族を抹殺するための残虐行為がジェノサイドであって、イスラエルがガザで戦っているのは「パレスチナ人」一般ではなく「ハマス」というテロリスト組織なのです。
ここを混同しないで下さい。
イスラエル軍の行き過ぎた戦闘行動が多く市民を巻き沿いにしたことは事実ですから、それはそれとして批判されるべきですが、それはハマスが市民の家や病院、学校に立て籠もり、トンネルからロケット弾や銃で攻撃したからです。
このような「人間の楯」戦術はハマスの定石であって、それが市民の死傷を増加させましたが、この卑劣な戦法についてほとんどのメディアは沈黙しています。

また「ガザ保健省」あるいは「国連機関」と名乗ってプレスリリースしているのは、ハマスです。

「イスラエル軍のハガリ報道官は4日、パレスチナ自治区ガザでの支援を担う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、イスラム組織ハマスを含む武装集団から450人を超える「軍事工作員」を雇用していたと述べた。イスラエルはこの情報を国連と共有しているとしている」
(ロイター2024年3月5日)
UNRWA、ハマスなどから450人以上雇用=イスラエル軍報道官 | ロイター (reuters.com)

このような情報も「イスラエル軍はそう言っている」ていどでいとも軽く片づけられてしまいました。
もちろん西側メディアも「ガザ保健省」なるものの正体はとうにご存じで、申し訳ていどにこういう表現をしています。

「ガザ地区で殺害された人数、3万人超す=ハマス運営の保健省 大多数は女性や子供と」
(BBC2024年3月1日)
ガザ地区で殺害された人数、3万人超す=ハマス運営の保健省 大多数は女性や子供と - BBCニュース

なーんだBBC、「ガザ保健省がハマス運営」だとわかって書いているのですね。
それならなおさら罪が深い。

ならばプロパガンダに長けたハマスが出す「公式発表」は大本営発表にすぎませんから、独自に裏取りをするべきでしょう。
常日頃西側メディアは「これは確認されていない」という言い方をするのに、今回に限ってハマス大本営のプロパガンダを丸投げしています。
メディアが独自の裏取りをせずに、そのままプロパンダ数字を世界に流すから、それを米国政府も使ってしまい、これが公認の数となります。す。
最低でも、ハマス=ガザ保健省はこう言っているが、イスラエルはこう言っているという両論並記でもしてくれたならいいのにと思いますが、これでは偏向報道です。
思えば、最初の10月7日のハマスの越境テロ時、その現場になぜか居て画像を取り巻くっていましたが、どうしてこの時間にこの箇所でハマス戦闘員が突破するとわかっていたのか不思議じゃありませんか。

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【解説】 イスラエルへの急襲、不可能と思われたが……ハマスはどうやって - BBCニュース

もちろんハマスが10月7日にここでテロを行いますよ、という情報をBBCなどはあらかじめ知っていてこの場所で待っていたのです。
このようにハマスと西側メディアは水面下でツーカーの関係だったことが暴露されました。
こういう写真を報じた段階で、西側メディアは報道の中立性を喪失しているのです。

それはさておき、まだガザは鉄火場です。戦争が終わらねば正確な死傷者数など出るはずもありません。
戦争の途中で、中立性が疑問視される組織があたかも公式発表のようにして出してくる数字を垂れ流していい道理がありません。

さて、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの統計学・データサイエンスのエイブラハム・ワイナー教授は、この3万4千人説が、自然発生的な数字がどのように機能するかを理解」していない人間が作為的に作った数字だと考えています。
「ガザ保健省」はパレスチナ人vsイスラエルという図式を作り出したいために、ガザにはハマス戦闘員が存在しないような見方をします。
一般市民とハマス戦闘員との区別をつけすず、ベタで「パレスチナ人の死傷者」という表現をします。
このことは西側メディアも知っています。

「殺害された人数を発表する際、保健省は民間人と戦闘員を区別していない」
(BBC2024年3月1日)
ガザ地区で殺害された人数、3万人超す=ハマス運営の保健省 大多数は女性や子供と - BBCニュース

したがって、イスラエル軍が去年末にこう発表しているのもほとんどスルーされています。
去年末時点で7000人、そして今年3月には1万3千人の戦闘員を殺したとしています。

「イスラエル国防軍は2月29日の時点で、少なくとも1万3千人の戦闘員を殺したと明らかにしている は「ハマスのテロリスト」だったと推定している」
(BBC3月1日))
ガザで3万人超が殺されたと現地当局、イスラエルは戦闘員1万3千人を殺害と 数字が示すものは - BBCニュース )

このイスラエル軍発表の1万3千人という数字も、ハマスと同じく戦時プロパガンダであることはいうまでもありませんから割り引かねばなりません。
仮にハマス戦闘員の死者が1万人前後だとすれば、ガザ保健省=ハマスの主張する3万3千人が正しいとして差し引き約2万人ていどとなります。

またガザ保健省=ハマスによる死者について、その死因について明らかにされていません。

「これまで報告されてきた死傷者数については、パレスチナ人がどのように殺されたのかを反映していないという批判が続く。イスラエル軍の空爆の結果なのか、砲撃なのか、あるいはパレスチナ側のロケット砲の誤射によるのかなどが、示されていないからだ。死者は現在いずれも「イスラエルの侵略」による犠牲者として計上されている。
ガザ保健省は最近では、WHOが「間接的な死者」と呼ぶ死者数を強調している。つまり、戦争の影響で亡くなったが、戦闘そのものに殺されたのではない人たちのことだ。
保険省は2月28日には、ガザ北部の病院で子供6人が脱水と栄養不良で死亡したと発表した。2人はガザ市内のアル・シファ病院、4人はガザ地区北部ベイト・ラヒアの病院で亡くなったという。
ガザ地区について国連は、今では人口の25%が飢饉(ききん)で犠牲になる危険があると警告。さらに、医薬品や医療が全体的に不足していることもあり、感染症にかかる人が劇的に増えているという」
(BBC3月1日)
ガザ地区で殺害された人数、3万人超す=ハマス運営の保健省 大多数は女性や子供と - BBCニュース

この記事で述べられているように、ハマスは国連の「間接的死者」という概念を拡大して、死者は現在いずれも「イスラエルの侵略」による犠牲者として計上しています。
このような「間接の死者」の原因は、戦争そのものにあります。
たとえば地震において直接の死者より、その後の避難生活での間接の死者が多かったように、避難生活による不衛生、栄養不足などで多くの人が死にます。
いわゆる関連死ですが、ガザ戦争の場合、これをすべて「イスラエルによる市民殺害」で一括りにしていいのでしょうか。
救援物資はどこで滞貨しているのか、考えたことがありますか。
おおよその人は、イスラエル軍か避難民を飢えさそうとして救援トラック止めていると思っています。
よく考えて見てください。そんなことをしてイスラエルにどんな得があるのでしょうか。
救援物資は組織的盗難に合って、運搬トラックまで襲撃されるから滞貨しているのです。
「「今や略奪は実に深刻だ」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)のガザ代表を務めるゲオルギオス・ペトロポウロス氏は指摘。18日には、トラックに積載されて検問所からガザ入りした物資の4分の3が盗まれたようだという。
国連関係者によると、車両は武装集団によって組織的に襲撃され、停止させられる。この集団は、特にガザの闇市場で法外な値段で取引されるたばこの密輸を中心に行っているという。ガザに燃料を運ぶトラックも、最近狙われるようになった」

(BBC2024年6月22日)
援助物資が届かない……イスラエルと国連は互いを非難 - BBCニュース
つまり治安の不安定をうながしている勢力があるのです。
それがハマスかどうかわかりませんが、少なくとも混沌の長期化を願う彼らにとってこれは「いいこと」のはずです。
そのような状況があっても、ガザ保健省=ハマスは避難民や市民が死ねばただちに「イスラエル軍の虐殺」としてカウントしています。
つまりイスラエル軍の空爆の結果なのか、砲撃なのか、あるいは地上部隊の戦闘の巻き沿いなのか、パレスチナ側のロケット砲の誤射によるのか、戦闘とは関係のない間接的原因なのかなどが、いっさい示されておらず、死者はすべて「イスラエルの侵略」による犠牲者として計上されています。

もう少しわが国の民は、戦争における数字について醒めたほうがいいでしょう。
数字ほど容易にプロパガンダに利用されるものはありません。
一見「公的機関が出した統計数字」を「国際的メディア」が報じたとしても、その数字が信頼性があるかどうかを吟味して「ジェノサイド」なるものを考えたほうがいいと思います。
さもないと戦争にはつきもののプロパガンダにやられてしまいますよ。

2024年6月25日 (火)

ガザ戦争に投影された超正統派と世俗派の対立

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イスラエルのガザ戦争に対する国論は分裂しています。
整理すれば、今のイスラエルにはガザ戦争についておおよそふたつの立場があります。

一つ目は、ネタニヤフとイスラエル右派の立場です。
イスラエル右派は、ユダヤ教超正統派を基盤としています。
シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」によれば、イスラエルの超正統派は130万人近くに上り、かつては9%程度だったものがいまや人口の約14%を占め、出生率は全国平均を大きく上回って、急速に拡大しています。

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イスラエルの宗教モザイク/イスラエルについて | シオンとの架け橋 (zion-jpn.or.jp)

超正統派が拡大するのは、特権がいくつもあるからです。
その最大のものは、徴兵免除と税金の減免です。

「イスラエルの超正統派は電力や水道の供給に至るまで世俗派(の税金)に依存している。超正統派の割合が増えれば全般的に生活の質が落ちる」
(産経2022年11月1日)
「超正統派」に「世俗派」が反発 揺れるイスラエル - 産経ニュース (sankei.com)

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イスラエル「超正統派」ユダヤ人の間で感染拡大…戒律重視で礼拝規制も無視 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

このような超正統派に与えられた特権が、イスラエルの国家統合を阻んできました。
超正統派は、非妥協的戦争の完遂を目指せと主張していますが、皮肉にも兵役を免除されていました。

「イスラエルでは、基本的に国民皆兵が導入されているが、フルタイムで宗教を学ぶ超正統派の男性は、建国初期から続く政策に基づき、多数が免除されてきた。建国当時の1948年ごろに徴兵免除になったのはイェシーバーの学生約400人のみだったが、現在は18~26歳の超正統派の男性約6万6000人に上っている。
この問題は長らくイスラエル社会を分断しており、超正統派も他のイスラエル国民と同様、国家安全保障に貢献するべきだという声も上がっている」
(AFP2024年4月15日)
兵役免除は「道徳的」に許されない ユダヤ教超正統派閣僚 イスラエル

宗教保守派が兵役を拒否するのは、(ふざけた話しですが)女性や他宗派、さらには同じユダヤ教でも世俗派などとは共に軍隊に勤務できないと主張するからです。
彼らは一切の妥協を拒み、ハマスの物理的完全殲滅を目指しており、戦争後もハマスの復活を許さないと言い続けています。
また戦後のガザ統治についても、パレスチナ国家はおろかいまあるパレスチナ自治政府すら否認しています。
いうまでもなく、ヨルダン川西岸の植民者を撤収させる気など毛頭ありません。
なぜなら、神が与えたもうた土地だからで、そう聖書に書かれているからです。
神が出てくると、一切の妥協を拒否し、みずからの民族的利害を一歩も譲ろうとしません。
ネタニヤフ政権は、この超正統派を支持基盤にしています。

何事もない平時なら、それはそれとして通用したでしょうが、戦火が拡大し戦死者が増大し続け、国際的孤立が進行しても、あいも変わらず頑なに過激なことを鼓吹している超正統派に大きな反発が生まれました。
なんせ自分は戦争に出ないでナニを言っているのか、という反発が出て当然です。

この世論に押されて、兵役適期の青年層の宗教学校学生も徴兵対象とする法改正が行われました。

「イスラエル議会は10日、ユダヤ教超正統派の宗教学校生も徴兵対象に含める徴兵法改正法案の予備採決を行い、法案成立に向けて前進した。
ユダヤ教超正統派の兵役免除は長年、イスラエル社会に分断をもたしてきた。ネタニヤフ首相率いる連立政権が免除廃止に向けた方策を打ち出すと、連立政権内の超正統派系政党から強い反発を招き、紛糾が続いていた」
(ロイター2024年6月11日)
イスラエル議会、徴兵法改正に前進 ユダヤ教超正統派も対象に | ロイター (reuters.com)

ネタニヤフは戦時内閣という野党まで含んだ大連合を組んだはずなのに、結局は自分の支持基盤である超正統派のいう通りではないか、という声が高まっています。
この声は米国政府内にも拡がり、いまや国際社会の孤児と化そうとしています。

それに対してもうひとつの考え方は、世俗派の見方です。
彼らは軍や情報機関、あるいはイスラエル労働党やキブツなどの社会主義勢力にまで広く分布しています。

ガザ紛争においては世俗派は、IDFと諜報機関という形で政権内部に現れ、首相府を取り巻くようなデモはネタニヤフを確実に追い込みました。
軍部というとイケイケのイメージですが、極めて冷静、かつ、したたかです。

彼らは、いままでの四方を敵とした4次に渡る苛烈な戦争を経て勝利してきました。
多くの土地を軍事占領しながら、それを返還するという政治的妥協を知っています。
すべてが神の与えたもうた土地だなどというおとぎ話など信じていたら、ジェノサイドを経てカナンの地に辿りついたユダヤ民族はとうに滅亡していたでしょう。
したがって彼ら世俗派は、超正統派をイスラエルに必要不可欠なものとして重要視していると同時に、敬して遠ざけています。

今月、ガンツ前国防相とアイゼンコット元参謀長が戦時内閣を離脱しました。
IDFはいまや反ネタニヤフの旗幟を鮮明にしており、元来ネタニヤフとは不仲だったモサドも同調しているようです。
いままで水面下での軋轢でしたが、軍を代表するガンツが戦時内閣を脱退し、そのうえIDFスポークスマンのハガリまでもが公然とこのようなことを記者会見で言い出すようになっています。

「イスラエル国防軍のスポークスマン、ダニエル・ハガリ少将は水曜日、ハマスのテロ集団を根絶するというイスラエルの戦争目標は達成不可能だとし、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と国防高官の間のガザでの戦争の扱いをめぐる緊張を強調しているように見えた。
「ハマスを破壊し、ハマスを消滅させるというこのビジネスは、大衆の目に砂を投げつけているだけだ」と、ハガリはチャンネル13のインタビューで語った。
「ハマスは思想であり、ハマスは政党だ。それは人々の心に根ざしており、ハマスを抹殺できると考える人は誰でも間違っている」と彼は続けた。ハガリ氏はまた、「もし政府が代替案を見つけなければ、(ハマスは)ガザ地区に残るだろう」と警告した。
これに対し、ネタニヤフ首相の事務所は声明で、安全保障内閣は「ハマスの軍事力と統治能力の破壊を戦争目標の一つと定めた」と述べた」
(タイムス・オブ・イスラエル2024年6月20日 )
イスラエル国防軍のスポークスマン、ハマスを壊滅させることはできないと発言、首相から反論「それが戦争の目標だ」 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

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国防軍のスポークスマン、ダニエル・ハガリ少将
タイムズ・オブ・イスラエル

このハガリのコメントは、先月、軍がハマスを一掃したガザ地区に戻る必要があるのは、テロ集団の代わりに誰がガザ地区を支配するかについて政府が決定を下さなかった結果ではないかと尋ねられたときの発言です。
ヨアブ・ガラント国防相は、ネタニヤフにガザの戦後統治計画を進めるよう促し、5月には、ハマスに代わるものを見つけられなければ、テロ集団が再編成し、飛び地の支配を再び主張することができるため、イスラエルの軍事的成果が損なわれると警告しました。

ガラント国防相はこう述べています。

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ヨアブ・ガラント国防相
|タイムズ・オブ・イスラエル

「イスラエル国防軍は、ハマスの残存大隊を解体し、人質の居場所を突き止め、テロリストを排除し、(ハマスの)密輸ルートを封鎖するために、ラファで活動している。
しかし、ハマスがガザの市民生活を支配し続ける限り、ハマスは再建と強化を行う可能性があり、イスラエル国防軍は帰還し、すでに活動している地域で戦う必要がある。ガザ地区におけるハマスの統治能力を解体しなければならない。
この目標の鍵は、軍事行動と、ガザ地区における統治の代替案の確立である。
そのような代替案がなければ、ガザにおけるハマスの支配か、ガザにおけるイスラエルの軍事支配かという、2つの消極的な選択肢しか残されていない。
優柔不断の意味は、ネガティブな選択肢の1つを選択することです。それは、我々の軍事的成果を損ない、ハマスへの圧力を弱め、人質解放の枠組みを達成する機会を妨害するだろう」
(タイムス・オブ・イスラエル2024年5月15日)
本文: 勇敢な首相、イスラエル軍の排除を要求、ハマス後のガザ地区の文民統制 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

さらに、ガラントは、ネタニヤフの連立政権の超正統派が提唱しているような、戦争終結後のガザにおけるイスラエルの軍事支配の考えを排除するようネタニヤフに呼びかけています。
このガラントに同調し、イスラエル国防軍参謀総長のヘルジ・ハレヴィとシン・ベト(イスラエル総保安庁)のローネン・バール、国民統一党首の元国防相のベニー・ガンツも戦時内閣を辞任しました。

 

 

 

 

2024年6月24日 (月)

ヒズボラがイスラエルに全面戦争を予告

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ガザ戦争は、レバノンをも巻き込んだものに発展しそうな勢いです。
レバノンの過激テロ組織ヒズボラがイスラエルに全面戦争を予告しました。

レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの首長であるナスララ(Hassan Nasrallah)師が19日、宿敵イスラエルとの全面戦争に応じる用意があると表明した。
ナスララ師はテレビ演説で「我々はイスラエルとの全面戦争になった場合、シオニスト共が潜伏する拠点を含む、イスラエルの奥深くを正確に攻撃できる兵器と諜報能力を持っている」と主張した。

イスラエルとヒズボラは昨年10月にガザ紛争が始まって以来、ほぼ毎日国境沿いで攻撃を交わしている」
(KWP2024年6月20日)
ヒズボラ首長「イスラエルとの全面戦争に応じる用意ある」 | KWP News/九州と世界のニュース (kagonma-info.com)

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ナスララ党首がガリラヤ侵攻とキプロス攻撃を示唆:ヒズボラと全面戦争の危機 2024.6.20 – オリーブ山通信 (mtolive.net)

イスラエルとヒズボラはじりじりと紛争をエスカレートさせてきました。
「じりじりエスカレーション」といわれるのは、国境からの距離と武器の選択、攻撃対象が民間に及ぶか否かです。

「国境を越えた衝突の数と規模が拡大するにつれて、両陣営は最近戦争に近づいています。「明らかにエスカレートしている」とウィメンは述べ、特に国境の両側での死者数と、ヒズボラが配備している兵器の種類に関して述べた。
先週、イスラエル北部の村に対するヒズボラの攻撃でイスラエルの予備役兵が殺害され、イスラエル側で殺害された兵士の総数は19人となった。
イスラエルは今週、ヒズボラの最高司令官の一人、タリブ・サミ・アブドゥラを、レバノン南部への攻撃で殺害した。イスラエル国防軍は、司令官が数年にわたってイスラエルの民間人に対する複数の攻撃に関与したと述べた。報復として、ヒズボラは水曜日にイスラエルに向けて200発以上のロケット弾を発射し、木曜日には大規模ではあるが小規模な集中砲火を浴びせた。
イスラエルとレバノンの国境で緊張が高まる中、イスラエル国防軍は新たな攻勢の決定が近づいていると警告。
イスラエルとヒズボラは、戦闘が両側の国境から半径約4キロ(2.5マイル)に制限されていた戦争開始時よりも、互いの領土をはるかに深く攻撃している。
ヒズボラはイスラエルに向けて35キロの砲撃を行い、イスラエルは120キロ以上北のレバノンの地域を標的にした」
(CNN6月14日)
イスラエルとヒズボラの緊張が今沸騰する危険がある理由 |CNNの

ヒズボラは2023年10月のハマステロ攻撃以来ハマスに呼応して、地対空ミサイルを発射してみたり、イスラエルに5千発以上のロケット弾、ミサイル、ドローンを発射しています。
ヒズボラはイランの息がかかっているテロ団体としては中東最大最強で、指導者のナスララは3年前にはみずからの兵力を10万人といっていましたが、19日のテレビ演説では「これよりもっと多い」と主張し、さらに「周辺の同盟国や民兵が数万人規模の戦闘部隊をレバノンに派遣したいと申し出ているが、今のところ、これを受け入れるつもりはない」と述べています。
もちろん吹かしでしょうが、公安調査庁の「国際テロリズム要覧」には戦闘員4万5千人と記述されています。

ヒズボラがイスラエルに攻撃を全面化すると、IDF(イスラエル国防軍)は、いやでも北部に戦力を分散させられることになります。

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アイアンドーム
CNN

「イスラエルとヒズボラの間で全面戦争が勃発した場合、イランが支援する過激派集団が、自慢のアイアンドーム防空システムを含む北部のイスラエルの防空網を圧倒する可能性があると、3人の米国当局者がCNNに語った。
アイアンドームがヒズボラの膨大なミサイルや無人機に対して脆弱になり得るという懸念は、イスラエルがレバノンへの陸と空からの侵攻を準備していることをますます米国当局者に示唆するにつれて、イスラエルからも伝えられていると米国当局者は述べている。
イスラエル当局は、この集団に対する攻撃の可能性に備えて、ガザ南部からイスラエル北部に資源を移す計画を米国に伝えたと、米国当局者は水曜日にCNNに語った。
「少なくとも一部のアイアンドーム砲台は圧倒されるだろう」と政府高官は述べた。
イスラエルの高官は、ヒズボラが主に精密誘導兵器を使用して大規模な攻撃を行った場合、その可能性が高くなり、システムにとって防御が困難になる可能性があると述べた。ヒズボラは何年も前からイランから精密誘導弾やミサイルを備蓄しており、イスラエルは繰り返し懸念を表明してきた」
(CNN6月20日)
イスラエルのアイアンドームがヒズボラとの戦争で圧倒される可能性を懸念する米国、当局者は言う |CNNの政治

「イスラエル国防軍北部軍司令官オリ・ゴーディン少将と作戦総局長オデッド・バシウク少将は、ヒズボラとの国境を越えた戦闘が最近激化していることを受けて、火曜日にレバノンの戦闘計画を承認したと軍は述べた。
イスラエル国防軍は声明で、将軍らが査定を行い、「レバノンでの攻勢作戦計画が承認された」と述べた。
最高司令官らは「地上部隊の即応態勢を加速する」という決定も下したと軍は付け加えた」
(タイムス・オブ・イスラエル6月19日)
イスラエルの最高司令官がレバノンの攻撃的な戦闘計画を承認、軍は言う |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

ヒズボラは、1982年にイラン・ゴッズ部隊がレバノンのシーア派をテロ組織として組織し、2000年にIDFがレバノン南部から撤退するとを決めると、レバノン南部で急速に力をつけました。
レバノンでは合法政党も有しています。
テロ組織が政党を作り、巨額のカネを会社から横領したゴーンが逃げめるほど、このレバノンという国はハチャメチャなのです。
以後、この24年の間に、ヒズボラはイスラエル北部だけでなく、テルアビブやエルサレムも含む文字通り全土に向けて、実に15万発ものロケット弾を発射してきました。しかもそれらの発射基地はハマスと同じで市民の家屋や公園や学校の周辺に設置されています。

レバノンに接する北部にはハイファ港や重要な軍需産業の工場群があり、ヒズボラがドローンで空影したとして動画を公開しています。

「イランが支援するレバノンのテロ組織ヒズボラは6月18日、イスラエル沿岸上空で撮影されたドローン映像を公開した。映像には、イスラエル最大の防衛企業の1つであるラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ(Rafael Advanced Defense Systems)が入居する地域や、イスラエル海軍基地があるハイファ港など、海岸沿いのいくつかの場所が映し出されている。ヒズボラが編集し、ヒズボラが撮影した映像は、ラファエルの所有地内の防空システムやその他の場所を示していると主張している」
ヒズボラ、ナスラッラーが新たな警告を発したイスラエルのドローン映像を公開 |FDDのロング・ウォー・ジャーナル (longwarjournal.org)

IDFは北部軍司令官にレバノンへの越境攻撃も許可したようです。
なおイスラエル・レバノンの国境は確定しておらず、暫定的にブルーラインと呼ばれています。

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L'Orient Today (lorientlejour.com)

「レバノンとイスラエルの国境のマーキングは、2023年9月13日以降停止しています。この日、レバノン、イスラエル、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の三者による最後の会合が、レバノン南部のナコウラで開催され、ブルーライン(境界線)沿いの13の係争点について合意に至らなかった。
しかし、10月8日以来、ヒズボラがガザ戦争に関与したことで、この問題は、レバノンとイスラエルの間の永続的な解決のために米国とフランスが主導する交渉で顕著に再浮上している。
国境画定の最終決定は、フランスがレバノン当局に提出した計画を補完する、米国特使エイモス・ホッホシュタインによる提案の第3段階を構成する」
レバノンとイスラエルの国境の現実と課題 - L'Orient Today (lorientlejour.com) 

いずれにせよ、仮に越境攻撃を実行すれば、イスラエルは二正面作戦を強いられることとなります。
悪手の極みですから、思い止まっていただきたい。

戦争は拡大しており、イスラエルはいっそう困難な立場に追い込まれています。

「ガザでの停戦だけが、レバノン-イスラエル国境での戦闘や、イエメンのフーシ派反政府勢力やヒズボラと同盟関係にあるイラク民兵による欧米やイスラエルとつながりのある標的への攻撃を止めることができる」
(AP6月20日)
ヒズボラの過激派組織がイスラエルに戦争拡大を警告 |APニュース (apnews.com)

戦況としては、ハマスは部隊として正面戦を戦う能力をほぼ喪失するていどに弱体化し、IDFはトンネルに逃げ込んだハマス戦闘員を捜索している状況です。
単独でラファだけならあと1カ月で掃討作戦は終わるでしょう。
しかしハマスは、国際世論の反イスラエルの声を追い風にして、ラファから離れていったん戦火が収まったかに見えた北部地区や、ヨルダン川西岸でのゲリラ戦に持ち込もうとしています。
そのうえにレバノンまで戦線を拡大し、ヒズボラのみならずレバノンと戦争におよぼうとしています。
これでは中国との戦争を解決できないままに対米戦争に突入してしまったかつてのわが国と一緒です。
結局、今、戦争をガザで消し止めるしか方法はないのです。

ガザですら手を焼いているのに、戦時内閣の極右はこう言います。

「ヒズボラの拠点はすべて焼き払われ、破壊されなければならない。「戦争だ!」とイスラエルの極右国家安全保障相イタマール・ベン・グヴィルは声明で述べた。」
(CNN前掲)

彼らと袂を分かてない今のネタニヤフには、エスカレーションを制御することは不可能です。

 

2024年6月23日 (日)

日曜写真館 あじさいに ひとりびとりの思いの丈

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あじさいに 絞り下ろしの 水絵具 伊丹三樹彦

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あぢさいや花と露との重みにて 正岡子規

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あじさいに降り 有彩の 雨の糸 伊丹三樹彦

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けふや切らんあすや紫陽花何の色 正岡子規

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あぢさいや花と露との重みにて 正岡子規

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あぢさいや一かたまりの露の音 正岡子規 

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七変化にてとどまらぬ 花の色 伊丹三樹彦

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いくらでも水気ほしげに紫陽花は 細見綾子 

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夕焼に 色譲りつつ あじさい園 伊丹三樹彦

 

2024年6月22日 (土)

正恩のイルソン離れは自信か、自滅か

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先月、日本政府はモンゴルで北朝鮮と面談していたようです。
報じたのは韓国中央日報です。

「北朝鮮と日本が最近、モンゴルで接触したことが分かった。北朝鮮が公開的には日本側と「すべての接触を拒否する」と公言しながらも秘密裏に会ったのは経済的・外交的な突破口を模索しようとする試みに読まれる。
12日、複数の情報筋によると、北朝鮮と日本の関係者らは先月、モンゴルで会った。関連事情に詳しい消息筋は「両国が先月中旬、モンゴルのウランバートル近くで会ったと承知している」とし「北朝鮮では偵察総局・外貨稼ぎ関係者など3人が参加し、日本側からは有力な家門出身の政治家が代表団の一員として出てきた」と明らかにした。 」
(中央日報2024年6月13日)
朝日、モンゴルで秘密接触…「金正恩氏の直接指揮を受ける情報機関関係者が出席」(1) | Joongang Ilbo | 中央日報 (joins.com)

面白いのは、与正が対話を拒否していた後に会っていることです。

「今回の朝日接触が注目されるのは、北朝鮮がわずか3カ月前に公開的に日本を相手にしないと明らかにしたためだ。金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長は3月25日、岸田文雄首相が「できるだけ早い時期に」首脳会談を提案してきたと紹介し、興味を示しているようだったが、翌日すぐに「日本は歴史を変える勇気がない。日本とのいかなる接触・交渉にも背を向け拒否する」と明らかにした。3日後には崔善姫(チェ・ソンヒ)外相がまた「朝日対話は我々の関心事ではない」と明らかにした」
(中央日報前掲)

このモンゴル会談で北朝鮮が出してきた代表は、正恩直轄の工作機関である偵察総局と出稼ぎ担当でした。

「今回のモンゴル接触に参加した両国代表団の面々も目を引く。北朝鮮では、外務省ではなく最高司令官(金正恩国務委員長)の直接指揮を受ける諜報機関である偵察総局の関係者が出席者リストに含まれていた。
金委員長が直接関わっているという意味とみられるが、専門家の間では北朝鮮が偵察総局関係者を派遣したのは日本人拉致被害者問題を議題化しないという意志と捉えるべきだという見方もある。実際、偵察総局は対南・海外工作を担当してきた部署で、日本人拉致被害者問題とも無関係ではない」
(中央日報前掲)

日本相手に出稼ぎ担当が出てくるというのは奇妙ですが、身元をロンダリングするためではないかと見られています。
あるいは、北にとっての大きな財源である朝鮮総連の権益と関係あるのかもしれません。
ちなみにこういう時期に蓮舫氏は朝鮮学校無償化を進めるとのことで、まことに彼女らしく時宜にかなったイカレポンチの公約です。

蓮舫氏はともかくとして、岸田氏が訪朝に色気を出しているのは事実なようですから、お止めになったほうがよい。
たぶん岸田氏は「得意の外交」で一気に人気浮揚なんて近視眼的な思惑でしょうが、アンタもうそんな状況でしょうに、北朝鮮のほうも大きな権力の地殻変動期に当たっています。
そんな時期に北となにか決めたとしても、アチラさんが履行されるかどうかまったく予想もつきません。
こちらもこちらで岸田氏が9月以降首相である可能性は、小惑星の地球衝突くらいの確率しかありませんから、結局、カネだけふんだくられて国交正常化という禍根を残してオシマイになりかねないでしょう。
双方共に権力基盤が揺らいでいる時に、なにか決定的な外交をしてはいけません。
相手の動向をみきわめてからでも遅くはありません。いずれにしても今ではありません。

さてこの時期、優れたコリアウォッチャーの李相哲氏が、北の地殻変動について興味深いことを述べています。
李氏は、正恩がジィ様にして初代の独裁者であるキン・イルソンの路線から逸脱し始めているのではないかと見ています。

「この頃の北朝鮮の金正恩総書記がやっていることや打ち出す政策はどう考えてもおかしい。今年1月に開かれた最高人民会議での施政演説で「わが民族史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去する」とまくし立て、韓国への攻勢を強めている。ミサイル発射は常態化し、最近も韓国にゴミ付き風船を大量に送り付けるなど挑発を繰り返す。
また、まねしていた祖父の金日成に対する態度を一変させた。政権を受け継いだ直後には遺体安置所を頻繁に参拝したが、今年は行っていない。ただの怠慢か、意図的なのかは不明だが、先代の陰から脱して新時代の到来を演出するつもりなのかもしれない」
(李相哲2024年6月19日)
正論>金正恩政権の崩壊視野に対応策を  龍谷大学教授・李相哲 - 産経ニュース (sankei.com)

いままでなにかといえば「建国の父」であるイルソンの御威光を担ぐことで、自らを「白頭山の血脈」と仰々しく神格化してきた金一族が、とうとうイルソン離れを開始したことをどう考えるべきでしょうか。
李氏はこう続けています。

「それを自信の表れとみるべきか、危機を乗り越える苦肉の策か評価が分かれようが、筆者は、正恩体制は崩壊過程にあり、崩壊を食い止めようともがいているのではないかとみる」
(李前掲)

外交においても、経済、軍事においても、イルソン時代の伝統的やり方が通用しなくなったために、正恩はこの無理偏にゲンコツというやり方を繰り返すことができなくなりつつあるようです。
おもえば12年前に正恩が政権を継いだ時から、すでに正恩の権威は揺らいでいました。

ドイツ大使として北朝鮮に2度赴任したトマス・シェーファー元大使は『金正日から金正恩まで』の中でこう述べています。

「シェーファー氏が、金正恩氏の不安定な立場を確信した根拠として挙げたのが、「私の記憶に残った会話」だ。金正恩氏が2011年12月に権力を継承してから間もない頃、「朝鮮語を使う相手」と交わした会話だ。シェーファー氏は「相手はロイヤルファミリーについて語るとき、求められていた尊敬語を使わなかった」と語る。「金正恩は、(権力の継承によって)自動的にエリートからの尊敬と服従を得ることができなかった」と指摘する。
シェーファー氏の指摘を裏付ける別の情報もある。日朝関係筋によれば、同じ頃、日本政府も北朝鮮軍の将兵が交わした会話についての情報を入手していた。内容は、新しい指導者である正恩氏を馬鹿呼ばわりする内容だった。将兵らは、正恩氏の軍に対する統率力を疑い、未来を悲観していたという」
(牧野愛博2021年6月4日)
「金正恩氏は絶対的独裁者でない」北朝鮮で2度大使を務めた外交官が見た、権力の構図:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

朝鮮語は極端に上下のけじめにうるさい言語で、ひとつ歳が違っただけで尊敬語を使わねばなりません。
それがこの独裁国家で、指導者を尊敬語なしで語るということは、3代目をただの親から権力を引き継いだだけのボンボン扱いしていたということです。

「金正恩氏は労働党第一書記に就任した直後の2012年4月の演説で「二度と人民が(飢えで)ベルトを締めるようなことはさせない」と宣言、経済の立て直しに取り組む姿勢を見せた。経済開発特区を20カ所つくると発表、海岸観光リゾート地区開発に着手したが、いつの間にか特区の話は消え、開発事業も頓挫した」
(李前掲)

正恩は、開放改革派と強硬派に分裂していた時期に権力を引き継いでいます。
開放改革派とは要するに中国派のことで、そのボスは正恩の叔父の張成沢(チャンソンタク)でした。
張は中国流の開放経済をめざし、資源を売りさばいて暴利を貪る一方、中国共産党とベッタリの党運営をしようとしていたようです。
張にとって正恩など甥の小僧っ子にすぎず、意のままに操れると思ったようです。
もし仮に張が正恩のパペット化に成功していたなら、いまごろ東アジアの辺境にベトナムやカンボジアのような中国型経済の国がそれなりに栄えていたかもしれません。
この時期、一時的に平壌はバブル景気で沸き、党官僚のどら息子がスポーツカーを乗り回したそうです。

ところがどっこい、正恩は2013年12月に張のクーデターを事前に察知し、張を残虐な方法で処刑します。
党内闘争こそ主戦場、逆らった者は全部殺せ、というのが金一族の家訓ですから、外から金一族の婿になった張は甘かった。

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正恩体制に入ってから粛清されたのは240人以上と言われています。
正恩の兄の正男もまた長年にわたり、北朝鮮の世襲体制に疑問を呈しており、張と共に中国型開放改革経済の導入を提唱していたために、2017年2月にクアラルンプール国際空港でVXガスで暗殺されます。

正恩にとって体制護持の障害になる者は、公衆の面前で見せしめ的に残虐に殺害する公開処刑スタイルを取ります。
ISの公開石打ち刑と発想は一緒で、 法治国家ウンヌンというより、数千年前の古代国家と思ったほうがいいでしょう。
戦車とか戦闘機を持って洋服を着ているから見た目でだまされますが、やっていること自体は数千年前の古代国家そのままです。

張や正男の処刑と開放改革派の粛清によって、短かった開放経済の季節は終わり、正恩肝いりの馬息嶺スキー場はわずかにロシア人観光客が訪れただけで閑古鳥が鳴く状態となり、総合病院も建設途中で放棄されたままです。
そしてとうとう昨年の経済成長はマイナス6・2%を記録しました。

一方、軍事路線は人民軍がほとんど燃料不足と栄養不良で動かなくなり、備蓄していた砲弾やミサイルの類も劣化しきっていたことが、今回のロシアへの砲弾提供でバレました。
頼みの弾道ミサイルも、この間の軍事偵察衛星の度重なる失敗でわかるように壁にぶち当たっています。
そこに降って湧いたのが、ウクライナ戦争によるロシアの砲弾絶対ピンチという事態だったわけです。

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朝日  国でひとりだけ肥満している独裁者

李氏は、正恩体制の崩壊を三つの側面で見ています。

一つ目は配給制度です。

「配給制度。北朝鮮住民が体制に臣従し、首領を崇(あが)める理由は根本においては配給制度のおかげと言ってよい。それが崩壊した。
韓国統一部が実施した正恩政権誕生後に脱北した約6千人の調査によれば、7割が国から配給をもらった経験がない。
人民軍に対しても食糧配給を減らし、兵士の半数近くが栄養失調に陥っているとの国連報告もある。現在、軍の中核をなす20、30代の若者は配給制度などの恩恵を受けず、労働党や正恩氏と連帯感はなく体制に対し忠誠心を持たないと言われる」
(李前掲)

そして二つ目は洗脳教育。

「北朝鮮当局は住民を外部の世界から孤立させるため鉄の壁を作り、情報を遮断してきた。金一族の独裁が70年以上持ちこたえた理由は、徹底した情報統制にあったと言ってよい。
当局は、保育園の頃から住民を各種組織に従属させ、首領を崇め、首領のために行動するように強要。学校、職場、家庭でも首領唯一思想(主体思想)という統治理念を注入できるシステムをつくり、住民を教化し、洗脳してきた。それが崩壊中だ。
携帯電話をはじめ便利なデジタル機器の普及で住民の多くが外部情報に接する手段を手にしたからだ。前出調査では8割が外部から入ってきた映像を見たことがあると答えた」
(李前掲)

そして残ったのが、三つめの恐怖政治です。

「最近では恐怖統治もうまく機能しないという実態が浮き彫りになった。昨年夏、水害対策を怠り、穀倉地帯の干拓地で水田の冠水を招き、食糧生産に大きな支障を来したとして金徳訓首相に罵詈(ばり)雑言を浴びせた。それを労働新聞に掲載させておきながら、首相を粛清しなかった。正恩氏が「太っ腹政治」をやるようになったという評価もあるが、北朝鮮のような独裁体制では、間違いなく権威失墜につながるだろう」
(李前掲)

今回ロシアと軍事協力協定を結び、砲弾やミサイル提供の代償として食糧や燃料を得たとしても、すでに体制を支える3本の柱は折れてしまっているのです。

 

2024年6月21日 (金)

プーが北朝鮮に行ったわけ

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プーチンがわざわざ北朝鮮という辺境に出向いてまで「包括的戦略的パートナーシップ条約」とやらに署名しました。
これでプー・キム会談は3回目だったでしょうか。
初回はトランプとの直接会談に失敗した正恩にプーはすげないそぶり、2回目は去年の9月、ウクライナでの砲弾不足からわざわざ極東アムール州の「ボストーチヌイ宇宙基地」まで呼んで会談しています。
さぁキム坊や、大砲の弾くれたら、宇宙ロケット技術をちよっぴりお分けしてもいいんだぜというわけです。
それにしても、いままで旧式の武器を下げ渡してやるていどに思っていた「辺境の最貧国」が、ウクライナ戦争で突如として盟友に変じたのですからわかりやすいことではあります。

それほどまでにロシアの砲弾不足は深刻でした。

「(ウクライナ大統領府顧問 )ポドリャク氏によると、ロシア軍の砲弾使用数はピーク時で1日当たり3万5000~5万発だったが、侵攻が長引くにつれ同3000~5000発に減少。最近、再び同8000~1万2000発に増加した。(略)
ポドリャク氏は、北朝鮮がロシアに砲弾100万発以上や地雷、弾道ミサイルを提供したとし、「北朝鮮の武器供与はロシアを大いに助けている」との見方を示した。その上で「ロシアと北朝鮮、イランによるテロ国家連合は、明らかに武器や軍事技術を融通し合うという合意を結んでいる」と指摘。北朝鮮に武器提供を求めたのは、ロシアの軍需産業が逼迫している証拠だとも語った 」
(時事2024年2月1日)
砲弾数、ロシアの4分の1 ウクライナ高官「深刻な不足」:時事ドットコム (jiji.com)

最近、北朝鮮の砲弾供与を受けて(もちろん有償ですが)、ロシアはかつての勢いを取り戻しています。
逆にウクライナは、共和党のウクライナ支援のサボタージュのために支援が激減し、再び攻勢を招いています。

といっても北の砲弾やミサイルの品質は劣悪で、多くの事故を起こしてロシア兵を恐怖に陥れているようです。

「ウクライナ軍当局によれば、北朝鮮がロシアに提供した砲弾は不発や砲身内で爆発する不良品が多く、弾道ミサイルも半分以上は発射後に目標に向かって飛ばず、空中で失踪した」
(李相哲2024年6月19日)
金正恩政権の崩壊視野に対応策を  龍谷大学教授・李相哲 - 産経ニュース (sankei.com)

それはさておき、もうこの頃からプーは正恩のペースにはまりかけており、今回も朝高露低の力関係の中での3回目会談です。
今回、プーはわざわざ北朝鮮にまで出向いています。

「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日午前3時(日本時間同)ごろ、北朝鮮の首都・平壌に到着した。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が出迎えた。両首脳は同日午後、首脳会談に臨んだ。ロシアの通信社は、両首脳が包括的戦略的パートナーシップ条約に署名したと報じた。
首脳会談でプーチン氏は、北朝鮮の「ウクライナを含むロシアの政策に対する一貫して揺るぎない支持」への感謝を表明した。
プーチン氏はまた、今後の両国関係の基礎となる新たな「基本文書」を発表した。これに先立ち、ロシア政府関係者は、包括的な戦略的パートナーシップが結ばれる可能性を示唆していた。
その後、ロシアのRIA通信は、両首脳が包括的戦略的パートナーシップ条約に署名したと報じた」
(BBC6月19日)
プーチン大統領、北朝鮮で金総書記と会談 戦略条約に署名との報道 - BBCニュース


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BBC

ただし、プーはここで格下の若造にニコニコと揉み手をしたら恥だと思ったのか、来る時間も深夜2時、フツーそんな時間にはよほどの緊急事態でなければ首脳級の訪問はありえません。
そのうえ得意の遅刻を演出して、正恩を平壤空港で待たせてマウントをとっていますから、せこいというか芸が細かい。
空港ではポツネンと正恩が待たされておりました(苦笑)。

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BBC

お前、宮本武蔵かつうの。
これが国内の人物なら即刻処刑でしょうな。


ちなみになぜか正恩は、こういう場合に必ず引き連れて来る、ナンバー2の金与正(キム・ヨジョン)党副部長や崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、崔善姫(チェ・ソニ)外相などという取り巻きは随行させず、寒々とした深夜の空港に儀仗兵と正恩だけという異様な光景となったようです。

ところでプーが訪朝した理由は、ひとつは言うまでもなくロシアで深刻化している砲弾供給の恒常化です。
いままでのスポット買いから恒常的に北を砲弾やミサイルを仕入れる軍需工場化にあるでしょう。

「専門家らはプーチン氏の訪朝について、ウクライナでの戦争を遂行するうえでロシアが武器を必要としていることが主な理由とみている。北朝鮮は宇宙技術や食料、燃料などの支援を必要としており、首脳会談で話し合われる可能性もある」
(BBC前掲)

いままでの提携関係を条約化して固定化することです。

「ロシアのメディアは、プーチン氏と金氏が安全保障の問題を含むパートナーシップ条約に署名し、共同声明を発表する可能性があると報じている。北朝鮮の国営メディアは今回のプーチン氏訪問を、両首脳の関係が「無敵で永続する」ことを証明するものだと伝えている」
(BBC前掲)

一方北としては、いうまでもなくいま熱中している軍事偵察衛星などのミサイル技術などの先端技術をロシアから導入することです。
砲弾販売もいい商売で、一般的な155ミリ砲弾は、ウクライナ戦争に続いてイスラエルとハマス間の戦争まで起きたことで暴騰しており、1年間で4倍に跳ね上がっています。
1発2100ドル(約31.5万円)が8400ドル(約126万円)が相場だそうです。

これをロシアに100万発売ったというんですから、正恩は笑いが止まらない。
もはや北の最大の収入源となってしまいました。

そして三つ目は、近々やるだろう核実験の水面下での合意とりつけです。
中国は北京に核ミサイルを向けられてはたまらないので難色を示しているようですから、なおさらロシアの承認を得たいところです。

いずれにしてもこれで北の軍事技術はいっそう強化されたことになり、わが国の脅威は増えたことになります。

 

 

 

2024年6月20日 (木)

イスラエル戦時内閣解散に追い込まれる

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ネタニヤフの戦時内閣が解散しました。

「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は16日、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラム武装組織ハマスとの戦闘を指揮するために昨年10月に発足させた戦時内閣を解散した。中道派のベニー・ガンツ前国防相とその盟友のガディ・アイゼンコット元参謀総長が、6人からなる戦時内閣を辞任したことを受けてのもの。
政府報道官は17日、ガザでのハマスとの戦闘については既存の安全保障内閣と、それより大規模な内閣全体で決定していくと説明した。
ガンツ前国防相が9日に、ガザにおける戦争戦略の欠如を理由に戦時閣僚ポストを辞任して以降、政権閣僚を務める複数の極右政党幹部が後任として戦時内閣入りすることを求めていた。
戦時内閣を解散することでネタニヤフ首相は、連立政権に参加する極右政党や同盟国とのやっかいな状況を避けることになる」
(BBC6月18日)
イスラエル首相、戦時内閣を解散 主要閣僚辞任で「必要性なくなった」と - BBCニュース

解散のきっかけは、ガンツ前国防相とアイゼンコット元参謀長が戦時内閣を離脱したためです。
両氏ともにIDF(イスラエル国防軍)のトップを努めた経験のある退役将軍で、2人は昨年10月の開戦から数日後、ネタニヤフ氏率いる右派連合との挙国一致政府に加わっていました。

IDFのトップだったふたりが離脱に加わっているのは、軍部がネタニヤフに対して深い不信感を持っているからだと推察できます。
しかもネタニヤフはモサドとも不仲であり、モサドが出していた戦争によらずミュンヘン五輪テロの報復のように暗殺で首謀者を確実に罰していくという進言も退けたようです。
つまりネタニヤフは、イスラエルの2本の柱であるIDFとモサドを敵に回したのです。

ガンツが辞任発表をした直後、極右政党を率いるイタマル・ベン=グヴィル国家安全保障相が、ならば代わりにオレを戦時内閣に入れろと要求したようですが、ネタニヤフに一蹴されて戦時内閣自体を解散する道を選んだようです。
そもそもここで戦時内閣を解散させた意味は、日を追って強まる西側陣営からの非難の声を和らげるためですから、こんな極右をいれてしまったら元も子もなくなります。

これを好感してか、米国は国際社会のイスラエル非難を受けてイスラエルに対する武器援助を控えていた制限を解除すると述べています。

[エルサレム 18日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相は18日、先週中東を歴訪したブリンケン米国務長官と会談した際、イスラエルに対する武器供給制限の解除に取り組むと確約したと述べた。(略)
バイデン米大統領は先月、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ南部のラファに本格侵攻すれば、イスラエルに対する武器供給を停止すると警告している」
(ロイター6月19日)
米国務長官、対イスラエル武器供給制限の解除を確約=ネタニヤフ氏(ロイター) - Yahoo!ニュース

ガンツが戦時内閣に離脱を決めたのは、ネタニヤフが国内の極右やユダヤ教保守派勢力からの圧力に弱く、交渉においても決断すべき時に決断できずにズルズルと引き延ばすという悪手に陥り、それがまた西側を怒らせて国際的孤立を呼び込んでしまったことを批判したためです。
ガンツとアイゼンコットは、9月に総選挙をして新たな政府に交代すべきだと主張しています。

またガンツは、イスラエルはガザ地区から軍を撤退させ、そこに拘束されている人質の解放を確保するために必要な限り、ハマスとの戦争をやめることに同意すべきだと主張しています。


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ベニー・ガンツ
タイムス・オブ・イスラエル
「イスラエルは、ガザ地区から軍を撤退させ、そこに拘束されている人質の解放を確保するために必要な限り、ハマスとの戦争をやめることに同意すべきだ、と国民統一党のベニー・ガンツ委員長は木曜日に述べた。(略)
「南部の治安状況は既に決定的な状態に達しており、イスラエル国防軍が作戦を望み、南部で活動できない場所はない」とガンツは述べた。「南部で我々が負っているのは、人質を返還するという道徳的、至高の義務だ」

「誰も混乱させてはならない、3個大隊に対する完全な勝利は、イスラエル国家の本当の問題ではない」と彼は言い、イスラエルがガザ地区で「完全な勝利」を達成するというネタニヤフの繰り返しの主張を退けた」
タイムス・オブ・イスラエル6月14日)
ガンツは人質の解放がガザでの戦闘よりも優先されるべきだと語る |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

それにしてもわずか半年で、いかにハマスが卑劣な人間の楯を使ったとしても、また3万7千人という数字がハマスのフロント組織であるガザ保健省の誇大な発表だとしても、あまりにも多すぎた犠牲でした。
おそらく実際の犠牲者はこのガザ保健省の発表はだいぶ割り引かねばならない数字で、しかもそのうちの半分はハマスの戦闘員のはずです。
イスラエルは1万5千人のテロリストを殺したと発表していますが、下に引用したイスラエル紙も書いているように「テロリストと民間人の区別がつかない」のが実際です。
これが非対称戦争の特徴です。

「ガザでの戦争は、10月7日、ハマスによるイスラエルに対する前代未聞の攻撃で勃発し、テロリストが約1,200人(大半は民間人)を殺害し、251人を人質に取った。これに対し、イスラエルはハマスを解体し、人質を本国に連れ帰るという目標を掲げて軍事攻撃を開始した。
ハマスが運営するガザ保健省は、ガザ地区でこれまでに3万7000人以上が戦闘で殺害されたか、死亡したと推定されていると述べている。テロリストと民間人の区別もつかないが、この犠牲者数には、イスラエルが戦闘で殺害したと主張する約15,000人のテロ工作員が含まれている。イスラエルはまた、10月7日にイスラエル国内で約1,000人のテロリストを殺害したと発表している」
(タイムス・オブ・イスラエル6月17日)
ネタニヤフ、ガンツ政権離脱後、正式に戦時内閣を解散 |タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

なお、ガンツ氏と、エイセンコットの2人が離脱しても、ネタニヤフの連立政権は、国会議席120議席中64議席と、まだ過半数を維持できています。
しかし、テルアビブは連日平和と人質解放を叫ぶデモで揺れ、戦時内閣は崩壊、もうネタニヤフに延命の道はありません。

 

 

2024年6月19日 (水)

サミット共同声明、ロシアの凍結資産から支援金を出す

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県議選のために出たり引っ込んだりしていた記事です。時を逸するのでアップしておきます。とほほ。

あまり注目されていませんが、首相はイタリアのサミットに出張中でした。
外交では岸田氏はいい仕事をしているので、強力な首相の部下として外務大臣だけやっていれば有能だったのかもしれません。
是々非々で見て上げましょう。

このサミットでは、ウクライナ支援について大きな一歩がありました。


「主要7カ国(G7)首脳会議が13日、イタリア南部プーリア州で始まった。G7は、凍結済みのロシア資産を使って、ロシア軍の侵攻と戦うウクライナを支援するため、500億ドル(約7兆8500億円)の融資を行うことで合意した。
アメリカのジョー・バイデン大統領はこの合意について、「私たちは一歩も引かない」ことを改めてロシアに示すものだと述べた。
一方、ロシアは、「極めて痛みが大きい」報復措置を取ると脅している。
ウクライナに資金が届くのは年末になる見通し。この融資は、ウクライナの戦争遂行と経済を支援するための長期策とされる。
首脳会議ではまた、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とバイデン氏が、10年間にわたる二国間の安全保障協定に署名した。
この協定は、アメリカがウクライナに軍事支援と訓練を提供することを想定している。アメリカが軍隊の派遣を約束するものではない。
ウクライナ政府は、この協定締結を「歴史的」なものだと歓迎した」
(BBC6月16日)
G7、ロシア凍結資産使ったウクライナ支援で合意 500億ドル融資へ - BBCニュース

日本も、日ウ防衛支援協定に岸田首相とゼレンスキー大統領が署名しました。

「G7サミット出席のためイタリアを訪問中の岸田総理は、ウクライナのゼレンスキー大統領と首脳会談を行いました。
会談に先立ち2国間文書の署名が行われ、日本として、▼「憲法上及び法律上の要件と規則」に従って可能な範囲で防衛支援を行うことや、▼地雷除去・がれき処理を含む復旧・復興支援に取り組むことなどで合意しました。
首脳会談は30分弱行われ、冒頭、岸田総理は「日本は大西洋国家以外でウクライナとの2国間文書を交わした国であり、ウクライナの問題が欧州だけでなく国際社会全体の問題であることを改めて示すものだ」「G7を初めとする同志国と連携し、ウクライナを強力に支援していく」と強調しました」
(TBSDIG6月14日)
【速報】岸田総理がウクライナのゼレンスキー大統領と会談 防衛や復旧・復興支援含む2国間文書に署名 - ライブドアニュース (livedoor.com)

具体的には、地雷処理、瓦礫処理が上げられていますが、すでに自衛隊のトラック、高機動車などが100台ウクライナ現地に到着しています。

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XユーザーのПосольство Японії в Україніさん

車両には白塗りの73式小型トラック(パジェロの自衛隊向け車両)が写っているのがご愛嬌です。
おそらく全国の部隊から抽出した時に、警務隊のが入っていたのでしょう。

ところで、共同宣言でもウクライナ支援が冒頭から登場します。
「頑張って応援していきます」的抽象的文言ではなく、具体的にやり方まで書き込んでいます。

「ウクライナの自由と復興のための戦いを、必要な限り支援するために連帯する。ゼレンスキー大統領のご臨席の下、固定化されたロシアのソブリン資産の臨時歳入を活用して約500億ドルを利用可能にすることを決定し、プーチン大統領に紛れもないシグナルを送りました。我々は、ロシアの軍産複合体を武装解除し、資金を削減するための共同の努力を強化している」
(イタリアのプーリアG7サミットコミュニケ共同声明)

つまり、いまロシア制裁で凍結している3250億ドル(51兆円)規模のロシア資産をから出てる年間30億ドル(4722億円)をウクライナ支援に当てようというものです。
押さえているロシア資産の形態は、現金預金と有価証券、金地金です。

「G7は、ロシアが2022年にウクライナに全面侵攻したのを受け、欧州連合(EU)とともに約3250億ドル(約51兆円)相当のロシア資産を凍結している。この資産は年間約30億ドルの利子を生んでいる。
G7の計画では、この30億ドルを、国際市場で資金調達するウクライナへの融資500億ドルの年利の支払いに充てる」
(BBC6月14日)
G7、ロシア凍結資産使ったウクライナ支援で合意 500億ドル融資へ - BBCニュース

ここで登場する3250億ドルの凍結資産にはSDRなどの引出権も含まれているため、実際にはそれよりも少ないと考えられますが、ロシアの公的企業の在外資産なども同時に凍結されているので、結局これに近い額が西側の手元にあります。
これらをぜんぶまとめてウクライナ支援にしてしまう、というロシアがみずからのカネで自分を殴られるという冗談のような構図が実現したわけです。

 

※写真 私が追いかけ回しているアオサギさんです。なかなか撮らしてもらえません。

 

2024年6月18日 (火)

かくして、デニー氏を乗せたオール沖縄の神輿は左にコケた

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完勝です。
よくメディアは「自民逆風」と囃し立てていましたが、ではこの沖縄の自民完勝をどう評価するんでしょうかね。
見事にデニー知事が完敗しました。

「沖縄県議選(定数48)は16日に投開票され、玉城デニー知事に批判的な自民、公明両党などの反知事派が28議席を獲得し、過半数を制した。自公が多数派となるのは2008年の保守県政以来16年ぶり。安全保障政策を巡って政府と対立する玉城氏は今後、厳しい県政運営を迫られそうだ。
玉城氏の2期目の「中間評価」と位置づけられた県議選には13選挙区に75人が立候補した。反知事派のうち、改選前に18議席だった自民は公認した20人全員が、2議席だった公明は4人全員がそれぞれ当選した。知事派では、7議席だった共産党が4議席に減らすなど大きく後退した。自民は約2年後の知事選に向けて攻勢を強める構えだ」
(読売6月17日)
沖縄県議選、自民と公明は全員当選…反知事派が過半数でも玉城知事「移設反対は揺るぎない」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

自民は立候補した20人が全員当選しました。今の全国情勢に真っ向から反するような快挙です。
メディアの皆さん、これをどう考えるんですかね。

メディアは辺野古「新基地」と南西諸島の「ミサイル要塞」化(なんつうネーミング)が焦点なんて言っていましたが、いまでも同じことが言えますかね。

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いや長かった、これで沖縄保守が勢いを取り戻したとまでは楽観しませんが、2年後の知事選が射程に入ってきたといってもよいでしょう。

政党別の選挙前議席数と獲得議席を比較してみます。

●2024年6月沖縄県議会選挙  選挙前議席 選挙結果
・自民              19    19
・公明               4     4
・維新               3     2
・共産党              7     4
・立憲               5     2
・社大               3     3
・社民               5     2
・無所属             25    10

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沖縄県議選、不支持派勝利で知事、民意の後ろ盾失う 生活に直結の課題なおざり - 産経ニュース (sankei.com)

自民党と無所属はそれぞれ、無投票の石垣島でも1人ずつ立候補しています。
無所属で当選した11人のうちの9人が「知事派」だそうですが、今回は「無所属」立候補が減り、キチンと政党を名乗っています。
けっこうなことで、都知事選でも無党派層に媚びて駆け込み的に離党するなんてヒトがいましたっけね。

とまれ自民は議席を増やし、公明は堅調、維新はやや減ですが、壊滅的といってよい結果になったのはなんといっても7人立候補させて4名という悲惨な結果の共産党でしょう。

共産党はこう敗北を総括しています。

「しかし県政転覆を狙う自民は、徹底した自民党隠しで裏金問題への批判をかわす一方、本土企業が県内企業締め付けを強めるなど異常なテコ入れで企業・団体ぐるみ選挙を展開。自公維で“共産党落とし”のシフトも図りました」
(しんぶん赤旗6月17日)
沖縄県議選 共産党4人当選 (jcp.or.jp) 

う~ん、これでは層塚にならんよ。共産党は長年県政与党で、しかも今の自民党の「逆風」のさなかの選挙で連敗街道まっしぐらでしたから楽勝と考えていたはずです。
だから引かれ者の小唄でよろしく「団体ぐるみ」で負けたなんて言い訳しますが、ナニ言ってんだか。
高い組合費を徴集して政治活動ばかりしている官公労を、選挙マシーンとして手足のように動かしているのはどこの誰でしたっけね。

今回、投票率が下がった、いままでで最低だった、ということを琉新は書いています。
まるでこんな少ない投票率では「民意」はわからない、と言いたげです。

「沖縄県選挙管理委員会によると、沖縄県議選の投票率は45・26%で、過去最低となった。これまでの最低だった前回2020年の46・96%を1・2ポイント下回った」
(琉球新6月16日)
沖縄県議選、投票率は45.26% 過去最低 前回を1.7ポイント下回る - 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)

おいおい、違うでしょう。投票率が低く出れば、組織票がある共産公明が有利なのは知れたことです。
逆風があり、かつ投票率が低かったという二重の追い風がありながら、デニー知事を支える共産、社民、社大、立憲などの4派で作る自称「オール沖縄」が惨敗したというのが実体です。
今回、オール沖縄の4政党の獲得議席数は48議席中わずか11議席、これで彼らはたった23%の陣営に過ぎなくなりました。
これでまだ「オール沖縄」という誇大表示を続けるなら図々しいにもほどがあります。

この「オール沖縄」というグループ名は、自民県連の大幹部だった翁長氏が、寝返って共産党陣営に飛び込んだ時から始まりました。
いわば山城博治御大が自民党に鞍替えしたようなもんです。
当時、自民県連は、鳩山氏が巻き起こした県外移設の熱波をモロにくらって現実主義路線から脱落し、自民党本部と対立していました。
しかし冷静に考えるとそんなことは不可能なことは百もわかっているために、選挙で当選するやいなや県外移設の公約を翻して辺野古容認に逆戻りしました。
あまりの見苦しさに県民の信頼を失い、衆議院選挙、参議院選挙、自民党はボロ負けです。
こういう中で、県連トップの翁長氏が、移設阻止を金科玉条としてあろうことか共産党と手を組んだのです。
さらに沖縄財界の一部が合流し、かくて保革の垣根を超えた共闘ということで「オール沖縄」という晴れがましい看板を出したのでした。

Photo

出典不明

翁長氏が言う、「県政の柱に新基地反対を据える」ということは、言い換えれば基地移設反対以外何もしないということです。
つまり経済振興策も展望もなく、県民生活のケアもしない、ひたすら移設反対だけしているというのが翁長氏2期でした。

翁長氏は元来経済が分かる人ではなく、利権とポストの配分が「政治」だと考えているオールドタイプの政治家でしたから、移設反対で粘れば必ず本土政府は予算を増額してくるという読みがあったはずです。
実際、翁長氏の頃には新香予算は減額されませんでしたが、デニー氏に替わって本土政府は冷やかに対応するようになります。
本土政府は翁長氏が元保守政治家であることへの信頼があって(間違いでしたが)、なんとか妥協の線を探りたかったのです。

仲井真知事で知事公室長をつとめた吉川由紀枝氏は、当時、こう述べています。

「翁長知事は2014年11月の県知事選で圧勝したが、その基盤は盤石というわけではない。『オール沖縄』を標榜して当選しただけに、知事自身の可動範囲は、全基地閉鎖から基地容認まで様々ある沖縄の意見の最小公約数に狭められている。
即ち、「辺野古反対」「オスプレイ反対」くらいしか、発言できる範囲がないのだ。特に現実的な妥協ラインはどこか?という話になると、「オール沖縄」では一切の合意はない。この可動範囲をちょっとでも越えれば、知事の支持基盤は分裂する
とどのつまり、「沖縄県のいうことをすべて呑むか」「それとも、呑まないか」という、オール・オア・ナッシング以外の交渉ができないということだ。これでは、日米政府とのまともな交渉相手たりえない」
(太字引用者)

吉川氏の炯眼の予言どおり共産党と組んでしまった翁長氏は、かつての現実政治家から仮面のように同じことを同じ言葉で繰り返し、同じ戦術をひたすら繰り返し続ける人物に変わっていきます。
私も当時、「翁長氏を乗せた「オール沖縄」の神輿は左に傾き、そして転倒する」と書きましたが、そのとおりになりました。

翁長氏はかつてのいい悪いは別にして、基地を条件闘争の場にして、本土政府からなにかしらの譲歩を引き出すという伝統的手法を止めてしまい、極端に政治選択の幅の狭い隘路に自ら入っていったのです。
その瞬間、現実政治家としての翁長氏は死んだのです。
そして「いかなる新基地反対」から、やがて「全基地撤去」に少しずつ軸足を変化させていきます。 

Photohttp://kunimasa28.ti-da.net/e7251862.html 読谷村議クニヨシ氏のサイトより引用

この「全基地撤去」というスローガンは、「ただ移転先だけが問題じゃない。沖縄の米軍基地総体を許さない。米軍は出て行け」という主張です。 
これは日米同盟を潰せということと同義です。 
移転先が問題だ、というだけならまだ分かります。
私もその「気分」は実現可能性は別にして、大浦湾埋め立てには反対ですから。
しかし「全基地撤去」とは安全保障全否定の共産党のスローガンそのものです。 
なぜなら、これではわが国の機軸的同盟そのものを全否定してしまうからで、この日米安保そのものを打倒するという共産党の長年の路線だからです。

そして今。
翁長氏が亡くなり、そのご霊言で後継者に指名されたデニー氏の場合、ただの喜劇でした。
あまりにも脳味噌が軽く軽佻浮薄、政治家としては未熟、せいぜいがDJをやっているのがお似合いの人だったために、共産党にべったりと依存しました。
結果は見えすぎています。吉川氏の予言どおりのことが起きました。

「「辺野古反対」「オスプレイ反対」くらいしか、発言できる範囲がないのだ。特に現実的な妥協ラインはどこか?という話になると、「オール沖縄」では一切の合意はない。この可動範囲をちょっとでも越えれば、知事の支持基盤は分裂する」
(吉川前掲)

デニー氏には選択肢がない、一切の妥協を拒否するブレない共産党と地元紙に抵抗できるわけがないからです。
だからパペットとしてこう言うしかありません。

「名護市辺野古の新基地建設に関しては「移設反対は揺るぎない思い。これからもできうることはしっかりと取り組んでいきたい」と強調。ただ、予算を伴う議案では困難が予想されるとし「真摯に、誠実に説明し、理解を求めていきたい」との考えを示した」
(沖タイ6月16日)
「オール沖縄」大敗で表情がこわばる玉城デニー知事 県議会は自公などが多数に 「真摯に対応したい」 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

しかしそんなことに飽きた県民の現実との乖離は進む一方です。

「玉城県政が基地問題に精力を傾け国と対立を深める中、足元の地域経済は疲弊。沖縄振興予算は3年連続で減額が続き、県民所得も全国で最も低い。子供の貧困の問題も深刻だ。インフラ整備も進まず、道路の白線や案内標識の劣化も目立つ。基地問題に重きを置くあまり、生活に直結するこれらの問題がなおざりになった」
(産経6月17日)
沖縄県議選、不支持派勝利で知事、民意の後ろ盾失う 生活に直結の課題なおざり - 産経ニュース (sankei.com)

いずれにせよ、デニー氏は絶対君主の立場を喪失しました。
いままでのように気楽にくだらない反政府、反自衛隊、反米軍、親中国という政策では議会は通らないのでです。

 

 

2024年6月17日 (月)

速報、デニー県政敗北!

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都知事選なんぞよりはるかに重要だった沖縄県議選において自民が勝利し、デニー知事陣営が過半数割れを起こしました。
わ、はは、ひさしぶり、本当にひさしぶりの朗報です。
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産経

島袋県連幹事長が「完勝だ」とか叫んだとか。

 

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琉球新報

「任期満了に伴う第14回県議会議員選挙(定数48)は16日、無投票当選が決まった石垣市区(定数2)を除く12選挙区で投票され、即日開票の結果、野党の自民や公明、維新、野党系無所属による「野党・中立」が過半数に達することが確実となった。
 玉城デニー知事を支える県政与党は過半数に届かず県政運営に打撃となった。与党は中頭郡区などで現職候補が落選するなど現有議席を減らした。
投票率は45.26%と県議選の過去最低を記録した」
(琉球新報6月16日)
「野党・中立」が過半数を確実に 玉城デニー県政に打撃 沖縄県議選 - 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp) 

沖縄県議会議員選挙の投開票が16日行われ、玉城知事を支える与党は過半数を割り込んだ。
今回の選挙は与党、野党・中立のどちらかが過半数を獲得するかが最大の焦点で、自民党の公認候補は20人全員が当選するなど改選前の18から議席を伸ばす結果となった。
改選後の与野党中立の議席数
与党・・・20議席
野党・・・22議席

中立・・・6議席
【沖縄県議会議員選挙】玉城知事を支える与党が過半数割れ 野党・中立が改選前から議席を伸ばす | OKITIVE (otv.co.jp)

「任期満了に伴う沖縄県議選(定数48)が16日、投開票され、自民、公明両党などの玉城デニー知事不支持派が28議席を獲得して過半数を確保した。共産、社民両党など米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する支持派は20議席と大幅に議席を減らし、玉城知事は厳しい県政運営を迫られそうだ。
玉城知事は17日未明、知事公舎で報道陣の取材に応じ、「選挙結果は真摯(しんし)に受け止めなければならない。非常に厳しい県政運営を余儀なくされる」と語った。一方、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する姿勢は「揺るがない」とし、「県政運営や政治理念は変化することはない」と強調した」
(産経6月16日)
沖縄県議選、自公など知事不支持派が過半数を確保 県政運営への影響必至 - 産経ニュース (sankei.com) 

とりあえず速報のみ。詳細はもう少し情報がでそろった明日します。

 

 

2024年6月16日 (日)

日曜写真館 あやめ草見えゐてものをねぶるなり

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あさまだき草にあやめのこむらさき 日野草城

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あやめの辺束ねて軽き洗ひ髪  桂信子

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あやめ咲きひとりでわたる丸木橋 桂信子

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ふりほどく力見せけりあやめ草 りん女

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交りを結ぶもけふのあやめかな 中川乙由

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何もかも昔あやめの返り花 高野素十

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あやめ濃し蝌蚪も紫光りして 富安風生
※蝌蚪(かと)おたまじゃくし

 

2024年6月15日 (土)

レーダー照射事件の新証言、ムンジェインが隠蔽工作を指示

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ああ、やっぱりね、という気分です。
韓国海軍の軍人が、ついにあのレーダー照射事件を隠蔽したのはムン閣下の指示だということを認め始めました。

「日韓両国は1日の防衛相会談で、韓国海軍の海上自衛隊機へのレーダー照射事件に関する再発防止で合意し、防衛交流を再開しようとしている。だが、事実解明の棚上げには自民党をはじめとする保守陣営に強い不満が残った。火器管制レーダーを照射された日本側には事実を示すさまざまなデータがあり、全面否定する韓国の主張が荒唐無稽だからだ。ここにきて、照射の隠蔽(いんぺい)は「文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)の指示」だったことなど、一連の経緯を韓国の一部軍人らが非公式に日本側に説明していたことが明らかになった」
(産経久保田るり子2024年6月14日)
韓国レーダー照射事件で新証言 「文在寅大統領が隠蔽を指示した」 背景に北との癒着 久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ - 産経ニュース (sankei.com)

2018年12月20日午後3時頃、能登半島沖、日本の排他的経済水域(EEZ)の大和堆と呼ばれる漁場で発生した、韓国海軍による自衛隊機に対するレーダー照射事件です。
P1は無線で駆逐艦に意図を照会したが、応答は全くなく、海上には韓国の駆逐艦と海洋警察艦、漁船らしき小さな船がいました。

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防衛省

日本はこの不法行為に対して、直ちに韓国に強く抗議しましたが、韓国側は「遭難した北朝鮮漁船の捜索中」であり、韓国国防省は「作業中にレーダーを使ったが哨戒機を追跡する目的で使った事実はない」とコメントをだしました。
韓国メディアも韓国海軍の談話として「火器管制レーダーを使用したのは事実」と報じていたのですが、これが5日後にひっくり返ります。
さすがだね、だから韓国の反論もいつ言ったというのを明らかにしないと転々とします。(苦笑)

事件発生から5日後、韓国国防省はレーダー照射の全否定に転じ、「カメラは使用したが照射はしていない」とし、以後韓国側は否定するだけに止まらず、なんと「日本の哨戒機が低空飛行をした行為そのものが危険」として日本側に謝罪まで求めました。
日本側は異例の措置として、レーダー照射された機内の動画を公開し、クルーの音声やレーダー警報機の音響、レーダー波まで公開しています。
もうこれだけ証拠が揃っているのですから、この段階で韓国はすいませんでした、こちらのミスですと誤っていればそれでオシマイだったのですが、そこはさすがムン閣下。
日帝になんぞに謝ったら国の恥とばかりに、韓国はP1が遭難漁船を救助していた韓国艦船に低空で威嚇飛行したのだぁ、被害者はわれわれだぁと主張して、世界に動画まで配信しました。

らちが開かないと見た日本政府は2019年1月に異例の「最終見解」を発表し、韓国側との協議を打ち切りました。

この件について各国の海軍軍人に聞くと、100人が100人日本側の主張に同意するといいます。(エクセプト・チャイナ)
なぜなら、公海における軍艦はやっていいことと悪いことが、国際法によって定められているからです。
国際法は「ザ国際法」として存在するのではなく、その都度国際社会の合意で定められています。
このレーダー照射事件の場合、該当する国際法とは、世界の海軍のルールを定めたCUES(キューズ・Code for Unalerted  Encounters at Sea 海上衝突回避規範)です。
韓国海軍はこれに明確に違反しています。

え、ただのシンポジウムで決めた規範じゃないの、国際法と呼んでいいのかって。もちろんいいんです。
他に公海上においての海軍のとってはならない定めがない以上、これが国際法です。
「国際法」とは、国際間の条約、あるいは取り決め、あるいはそれに準じる規範を指します。
平時における公海上の軍艦の行動については、このCUESしか世界に存在しません。ちなみに有事は別枠ですから念のため。

●CUES(海上衝突回避規範)
砲やミサイルの照準、火器管制レーダーの照射、魚雷発射管やその他の武器を他の艦船や航空機がいる方向に向けない
②遭難時などを除いて、信号弾やミサイル、ロケット、各種火器などの物体を艦船や航空機に向かって放出しない。
③艦橋や航空機の操縦席を(探照灯や照明などで)照らさない。
④レーザーを使用し、乗員や艦船の装備に悪影響をおよぼすような行為をしない。
⑤アクロバット飛行や模擬攻撃を艦船の付近で行わない
[PDF]  Code for Unalerted Encounters at Sea (CUES) |
cues_2014.pdf (maritimesafetyinnovationlab.org) 

織田邦男元空将は、当時のP-1の映像から測定して低空などでは飛んでいないことを立証しました。 

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韓国国防省

P1の全長は38mなので、海面からP-1の影までの長さを図って、それをP-1の見た目の長さで割ると高度推計できるそうで、織田氏の推定では、P-1の長さの7倍、つまり高度約266mであったとのことです。 
正確な高度はフライトレコーダーに記録されているはすですが、おそらく200~250mで飛行しており国際法が定める民間航空機規則150mよりも高い高度を飛行していたのは確実です。 

さて、今回出てきた韓国海軍の新証言はなかなか面白い。
いままでいくつか謎がありました。

①当初はレーダー照射したことは事実だとしていたことが、なぜ5日後に覆ったのか。
②韓国海軍艦艇が、いったいナニを日本近海のEEZでしていたのか。
③これは韓国海軍の独自判断か、それとも国防省の指示か、あるいはさらに青瓦台からのものだったのか。

まず①ですが、新証言ではこうです。

「ある防衛省幹部OBは「韓国国防省は、日本に対し、レーダー照射の事実を公表しようとしていたようだ」と証言する。事件発生から約1週間後、韓国国防省の知己から連絡が入った。話の内容は次のような事件の経緯だったという。
鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相(当時)が青瓦台(大統領府)に火器管制レーダー照射を報告に行ったところ、文氏から「照射はなかったことにする」と命令された。このため国防省はこの件で「何も言えなくなった」。鄭氏は韓国軍幹部OB数人に一連の事情を日本側の防衛省幹部らに伝えるよう指示した」
(産経前掲)

これで一気に①~③まで謎が解けてしまいました。
韓国海軍と国防省はレーダー照射が事実だと認め、それを大統領府のムンに報告に行ったところ、ムンから「なかったことにする」と命じられて沈黙を余儀なくされたということです。
そしてその理由はやはり北朝鮮ガラミでした。

「その事情とは、「青瓦台は、北朝鮮から漁船で逃げた人間の拘束を依頼された。捜索水域に近い場所で演習中だった駆逐艦が現場に急行した。(P1が駆逐艦を発見したとき)駆逐艦は海に飛び込んだ北朝鮮人の身柄を確保している最中だった」というものだった。韓国軍は脱北者3人と1人の遺体を確保した。韓国統一省は事件の2日後、彼らを北朝鮮に送還したと発表した。しかし送還の映像も写真も公表されなかった。
防衛省幹部OBは「(脱北者を)軍が港に搬送した4~5時間後には彼らを北朝鮮に送ったと聞いた」と証言する」
(産経前掲)

ああ、やっぱりね、この「遭難した漁船」は、当時まったく海が荒れていなかったために海難事故ではありえないとされていたのですが、この漁船には脱北者が乗っており、北朝鮮から青瓦台への直接要請で、ムンがこれを補足するために駆逐艦を差し回したもののようです。
そしてその北と癒着したムン政権の隠し事の真っ最中に、こともあろうに一番見られたくない海自の哨戒機が頭上に現れてしまった、という大笑いの状況だったようです。

たぶん悪事を現場で押さえられた形となった韓国駆逐艦は、上の艦長から下のCIC(戦術センター)で射撃管制をしていた担当員までがパニくったようです。
艦長は日本に脱北者の補足まで手伝っていたことをバラされることを考えて逆上し、 射撃管制員に「いいから射撃管制レーダーを食らわせてさっさと追い払え」と命じたのでしょう。

ではこの、正恩がムンに依頼してまで捉えることを望んだ脱北者は誰だったのでしょうか。

「北朝鮮に送還された脱北者は、金正恩(キム・ジョンウン)政権が18年5月から12月にかけ摘発していた朝鮮労働党組織指導部による大規模粛清の関係者だった可能性が指摘されている。捜査対象は金氏の身辺警護を担当する護衛司令部の幹部ら。19年以降、複数の幹部が逮捕、処刑されたとの情報が日韓で報じられている。その罪状は金氏暗殺未遂説が有力だ。
北朝鮮情勢に詳しい麗澤大の西岡力特任教授によると、「北朝鮮内部につながる情報源から聞いた内容によると、大和堆で漂流していたのは粛清を恐れて逃亡した護衛司令部幹部ら3人と機関長」という。さらに「北朝鮮は文政権の中枢に4人の拘束と送還を依頼し、韓国海軍が出動したが、そこに自衛隊機が近づきレーダー照射となったと聞いている」(西岡氏)」
(産経前掲)

2024年6月14日 (金)

おめでとう、やっと戦力化できたぞ、F-16

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やっとウクライナはF16を使用可能にしたようです。
いやー、米国が止めていた供与がやっと承認されたのが去年5月ですから、丸々1年以上。長かった。
軍事技術の提供という意味の前もさることながら、F16を供与されることによって、ウクライナ国民が鼓舞されることでしょう。

去年5月、産経はこのように伝えていました。

「筆者(渡辺)が先月、ウクライナで「西側に望む支援」をたずねると軍人もボランティアもF16を真っ先に挙げた。その対空、対地攻撃の性能以上に、ウクライナ国民の多くがF16の供与を西側との紐帯の象徴ととらえていた。
供与が始まれば、パイロットの訓練から始まり、搭載兵器の補給、改修など西側の息の長い関与が必要となるからだ」
(産経ワシントン支局長渡辺浩生2022年5月22日)

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画像ギャラリー | ウクライナ待望! マルチ戦闘機「F-16」ついに到着へ「複数国から供与予定」どうなる? | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

つまり、F16はただの戦闘機という枠を超えて、「西側との長い連帯の絆の象徴」なのです。
言い換えれば、ウクライナはすでに長期戦になると読んでおり、その間西側との絆が切れないための担保としてF16を考えているということです。

一方、西側からしてもF16を供与することは、砲弾を供与するのとはわけが違います。
現代の最新鋭戦闘機はテクノロジーの粋を集めて作られていますから、飛ばせるようになっただけではパイロット訓練は終わりません。
すでに米国に先遣隊として派遣されているウクライナ空軍パイロットは優秀な成績を納めて4カ月くらいで「飛ばせるようになる」というお墨付きを米空軍からもらったそうです。
ただし、「飛ばせるようになる」というのは、機体を飛行させてせいぜいが初歩的な空戦をするところまでです。

「この4ヶ月間で習得できる戦闘スキルは初歩的な空対空戦闘のみだ。
専用シラバスを用いた4ヶ月間=16週間の訓練内容は大まかに移行訓練、低レベルの低空飛行訓練、空対空戦闘訓練の3つに分かれており、唯一の戦闘スキル=空対空戦闘は「単機もしくは2機編成による迎撃とAIM-120とAIM-9による基本的なWVR(視界内射程)運用に重点を置く」と言及しており、基本戦闘機機動、空中戦闘機動、空中給油、近接航空支援、水上攻撃といった訓練要素は含まれていない」
独占:米国は16か月でF-4を飛ばすようにウクライナのパイロットを訓練することができます (yahoo.com)

これは空自でいうTR(training )は終了したが、OR(Operation Ready作戦可能態勢)の前という段階です。
まだまだ本命の対地攻撃訓練などはやらしてもらえません。
これでは、ウクライナ空軍がF16の搭載するAGM-88HARM対レーダーミサイルを使ってのピンポイント攻撃は不可能です。
下の写真でブラ下げているばかデカイのがHARMですが、これをフルに使いたいからこそ、ウクライナはF15ではなくF16を要望していたのですから。
つまりウクライナは戦闘機としてよりも攻撃機、それもワイルドウィーゼルのような用途でF16を使うつもりなのです。
ワイルド・ウィーゼル - Wikipedia
AGM-88 (ミサイル) - Wikipedia

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ファイル:AIM-9 AIM-120 and AGM-88 on F-16C.jpg - Wikipedia

「ウクライナが期待しているような効果をもたらすとは言い難く、AIM-120の射程を生かした視界外戦闘、無誘導爆弾やJDAMを使用した近接航空支援、AGM-88HARMを使用した敵防空網制圧に対応したスキル獲得を全て身につけるには「年単位の訓練期間」が必要で、各国の空軍が何年もかけて育てるパイトットを「短期間で」というのが無理な話なのだろう」
(航空万能論5月20日)
ウクライナ人パイロットは4ヶ月の訓練でF-16を操縦できるようになる? (grandfleet.info)

F16をウクライナのパイロットたちがものにするために、やはり1年間ていどかかったようです。
一番の問題点は、パイロットの英語力でした。

軍事航空用語は、口語と違って大変に難解なのです。

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出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Tristan McIntire

「ウクライナは当初、8月にも訓練が始まり、来年3月までにF16を運用できると期待していた。しかし、最近になってウクライナがリストアップしたパイロット32人のうち8人しか英語力がないことが判明した。その8人も英語で専門用語などを習得する必要があると判断された。欧州で教官の確保が難航したこともあり、訓練開始は何度も延期されているという」
(読売2023年8月13日)
パイロットの英語力に難…ウクライナ軍のF16操縦訓練、完了は24年夏以降にずれ込むか : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

たぶんそれでは間尺に合わないので、すでに手持ちのミグ29にHARMを統合する魔改造して一定の戦果を上げたことは知られています。
機体自体は、NATOのいくつかの国でF35の機種転換が行われているので、余剰となっていますから、すぐにでも供与可能です。
そもそも米国がその気にさえなれば、数百機のF16などたちどころに湧いてでるのですが、いかんせんバイデンの腰が重い。

問題はそれを操るパイロットと整備の人たちの訓練の成熟具合です。
しかし多くのハーバルを乗り越えて、ウクライナ空軍はようやくF16をものにしたようです。

規模は多く見積もって85機です。

「ウクライナ空軍司令部のセルヒー・ホルブツォウ航空部長(准将)はかねて、ロシアがウクライナで拡大した戦争の1000kmにおよぶ戦線の一区域でウクライナ側が航空優勢を確保するには、F-16戦闘機の作戦飛行隊が4個必要だとの認識を示していた。
ウクライナ、ノルウェー、オランダ、デンマーク、ベルギー各国の当局者による1年以上にわたる精力的な外交努力の結果、ホルブツォウは念願の4個飛行隊を編成できる運びになった。
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は28日、ベルギーから余剰のF-16が30機ウクライナに供与されると発表した。これにより、ウクライナが今夏以降受け取ることになるF-16の総数は85機に増えた。
85機あれば、現在ルーマニアに派遣されているウクライナのF-16訓練部隊(オランダ供与の18機を使用中)に加え、4個飛行隊(各16機配備)をつくることができる。残り3機は、戦闘で不可避の損失を補うための予備に回されると考えられる」
(フォーブス2024年5月30日)
ウクライナ空軍、F-16戦闘機の4個飛行隊編成へ ただし一気には実現せず(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース

NATOと米国は非常に多くのF16を供給する能力を持っています。
ちょうどF35に切り換えが進行しているところだったので、F16に余剰が生まれたのです。
これにより、ウクライナは航空優勢の獲得を得ることになりそうです。
少なくとも、F16のエアカバーなしで決行した反転作戦の失敗の轍を踏むことはなくなることでしょう。


2024年6月13日 (木)

南シナ海、天気晴朗なれども浪高し

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日本のメディアはのほほんと政治資金規正法改正がどーたら、小池氏参戦などとやっていますが、南シナ海の軍事緊張が急速に高まっています。
中国の海警及び海上民兵とフィリピン沿岸警備隊は、たびたび衝突しており、今年大では本格的戦闘に発展する可能性があります。

「南シナ海における中国とフィリピンの緊張が高まっている。中国は南シナ海のほぼ全域を「九断線」で囲み、内側の島嶼の領有権と海底資源の権利と管轄権を主張する。周辺国は、このような主張が国際法、とりわけ国連海洋法条約と合致しないとして争いが起きている。
このような中、以前より中国の海警局の所属船(海警船)や海上民兵の船がフィリピン沿岸警備隊(PCG)の巡視船や補給船に接近し、かろうじて衝突を回避するケースが多く報じられてきた。そのような中で、2023年の2月に海警船がPCGの巡視船にレーザー光線を照射し、一時的に乗組員の視界が遮られたと報じられた。
その後8月には中国海警がPCGの巡視船に対して放水銃を使用する事件が発生した。
さらに9月には中国が南シナ海のスカボロー礁に全長300メートルにも及ぶ網状の障害物を設置し、フィリピン漁民の漁業や船舶交通の安全に支障をきたす事件が発生した。この障害物は、のちにPCGのダイバーによって撤去された」
( 海上保安大学校教授 古谷 健太郎)

古谷 健太郎 | 著者・研究員紹介 | 国際情報ネットワークIINA 笹川平和財団 (spf.org)

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南シナ海でフィリピン軍船と中国海警局の船が衝突 互いに非難 | NHK | 南シナ海問題

今回の衝突は、南シナ海のセカンド・トーマス礁(フィリピン名アユギン礁)付近で発生しました。
セカンド・トーマス礁は、南シナ海のスプラトリー諸島の中央付近に位置しています。
下図を見ていただくとわかりますが、スプラトリー諸島には例の悪名高きファイアリークロス礁とミスチーフ礁には、すでに中国軍の軍港と滑走路が建設されてしまって要塞化されています。
この両人工島にはさまれるようにしてウィットサン礁がありますが、2021年3月には中国は海上民兵の船舶を220隻も結集させて、フィリピンに圧力をかけています。

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 JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

「多数の中国海上民兵船が集結しているのは、南シナ海・南沙諸島を形成するユニオン堆(たい)と呼ばれている環礁群の中で最も大きい環礁(満潮時は水没する暗礁)のウィットサン礁である。この環礁はフィリピン沿岸から200海里以内に位置しており、フィリピン政府によるとフィリピンの排他的経済水域内ということになる」
(北村淳2021年3月25日)
中国船220隻が集結、8つ目の人工島を建設か? 武装海上民兵が乗船、完全に舐められたバイデン政権(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

フィリピ政府は激しく中国に抗議していったん状況は鎮静化したものの、去年12月また中国民兵船団が活動を開始しました。

「フィリピン沿岸警備隊は3日、南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島のウィットサン礁付近に中国の海上民兵の船団135隻以上が「不法」に集まっていると発表した。沿岸警備隊の巡視船2隻が海域に派遣され、無線警告を行ったが、反応はなかったという」
(2023年12月3日)
南シナ海に中国の民兵船団135隻が集結 フィリピン「不法」と警告 - 産経ニュース (sankei.com)

そして今年に入ってセカンド・トーマス礁で座礁したフィリピン海軍の廃船に陣取って実効支配を宣言しているフィリピン軍に対して、中国海警は補給船の進路を妨害したり、レーザー光線を照射するなどの激しい圧力をかけています。

「フィリピン側は、中国海警局の船舶が放水銃を使用し、セカンド・トーマス礁(フィリピン名・アユンギン礁、中国名・仁愛礁)に座礁させた軍艦への補給任務を妨害したと指摘。放水銃を発射された船はガラスが割れ、4人が負傷したものの、乗船していた高官にけがはなかったという」
(ロイター2024年3月7日)
フィリピン「最も深刻な事案」、南シナ海の中国船衝突で | ロイター (reuters.com)

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JBpress (ジェイビープレス)

このセカンド・トーマス礁は領海などの海域の基準となるフィリピンのパワラン島の群島基線から約104海里(約192キロ)、中国の海南島の基線からは約598海里(約1,107キロ)の距離にあり、フィリピンはその基線から200海里以内であるため、国連海洋法条約に基づき、フィリピンの排他的経済水域の一部であると主張しています。
中国は例によって一切の国際法上の根拠を明確にしないまま、中国が管轄権を有する海域であるとの主張を行なっていますが、国際社会はこのような言辞を認めないでしょう。

ところで、スプラトリー諸島はベトナムも領有権を主張しており、「チュオンサ諸島」と呼称しています。
1972年、当時の南ベトナムはパラセル諸島を、中国に奪われました。
中国はベトナムから米軍が地上撤退して、米国にベトナム近海に関与する意思がないことを見計らって、これを強奪しています。

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上の写真は侵攻してくる中国軍と戦う旧南ベトナム軍ですが、中国は戦闘機、軍艦まで繰り出しました。
米国の庇護を失って、亡国の道を滑り落ちていた南ベトナム政権には止める手だてはありませんでした。
中国は泥沼のベトナム戦争から足抜きしたいという米国の意志を見抜いて、領土拡張に走ったのです。
当時の北ベトナム(今の現政権)は、中国に支援を受けていたために沈黙していましたが、後に深く後悔することになります。
なぜなら、ベトナムの前庭に拡がる西沙諸島は中国の内海となってしまったからです。
沈黙の代償に、ベトナムは統一後の1988年に、
南沙諸島のファイアリー・クロス礁を中国によって奪われています。
皮肉にもベトナム戦争におけるベトナムの勝利が、東南アジア全域からの米国の後退をもたらしたからです。
この軍事的真空につけこんだのが中国でした。

ちなみに、よく「米軍は沖縄から出て行け」などと軽く言う人たちがいますが、そんなことやってしまったら、1972年に米国が南シナ海に作ってしまった軍事的真空と同じものを東シナ海に作ってしまうことになります。
残念ですが、東アジアの軍事力バランスは米国と自衛隊が共同で支えてなんとか保たれているのですから、米軍という大黒柱が消滅してしまえば自衛隊単独でこれを支えることは不可能です。
1972年から始まった悪夢が尖閣、宮古・八重山を襲うことになるでしょう。

1995年、南沙諸島のミスチーフ礁を中国が占拠していますが、これも1992年から米軍がフィリピンから撤退したのを見計らって奪取し、そのまま居すわって軍事基地を建設したものです。
国際海洋法で否認されている水面下の岩礁を建て増しして、いまや完全な軍事基地と化しています。
このミスチーフ礁の中国軍事基地のグロテスクな成長ぶりのビフォア・アフターです。
いい機会ですから一挙公開してみます。

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1995年頃。満潮時には水面下に隠れる岩礁に乗った岩礁勇士。よほど悪いことしたんだろうな。

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1990年代終わり頃か。岩礁からパイルを打ち込んで、海上石油基地もどきの海上基地に成長しました。

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2000年代初頭。海底の泥を汲み上げて陸地化させる埋め立て技術で、立派な島になりました。既に大型貨物船がつく桟橋もあるようです。

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ジャーン、2017年頃。ほぼ完成しました。ビルが立ち並び、長距離爆撃機が発着できる滑走路、軍港、商用港、対空ミサイル陣地、兵舎、グラウンドも設置されています。

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こちらはスビ礁。同じくビルと工場が立ち並び、工場写真手前には3千メートル級の滑走路もあります。
岩礁を埋め立てて作った基地なんて言うと小規模なものを連想しがちですが、とんでもなくバカデカイものだとお分かりになったでしょうか。

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CNN

こうして一気に時系列で並べると、水面下の岩礁から一大軍事要塞を作ってしまうというまさに毛沢東の「愚公、山を移す」の教えに沿って着々と岩の上にも三年をやっているようです(褒めてんじゃねぇぞ)。
おそらく尖閣諸島を中国が奪った場合、彼らは島々の間を埋立て、大規模軍事基地建設をするんでしょうね。

フィリピンは、いまでは死ぬほど後悔していますが、途上国が溺れやすい反米民族主義に陥った結果、よせばいいのに米軍のクラーク空軍基地と、スービック海軍基地を追い出してしまったからです。
このような悲惨な事態になって、新たに米比相互防衛条約を締結したようてすが、この「失われた20年」はあまりにも大きかったようで、フィリピンも前庭の南沙諸島を中国の軍事要塞に変えられてしまいました。
若い頃に毛沢東思想にかぶれていたドテルテも、やっと昨今目が醒めたようです。

島だけならまだしも、そこを領土と宣言して領海、接続海域、EEZを設定してしまいますから、今や南シナ海全域が中国の海と化してしまっています。
中国の南シナ海領有の目的は、ひとつには中国の一帯一路の海上ルートが南シナ海からインド洋に伸びているためです。
ならば国際海洋法を遵守して公海としてその安定に協力すればよさそうなものですが、彼らの発想の影には常に軍事支配がちらつきます。
中国はこの海域一帯を軍事基地として利用し、SLBMを搭載する戦略原潜を配備可能な自分だけの海、つまり「内海」にしたいのです。

この南シナ海を軍事的に我が物とできればビンの蓋の役割を果たしてきた日本列島・南西諸島・台湾を迂回して南シナ海ルートで太平洋の深く広大な海へと戦略原潜を放つことが可能となります。
これにより、中国が建国以来追及してきた核の三本柱(戦略原潜・地上発射弾道ミサイル・長距離爆撃機)の最後の一枚である戦略原潜が完成します。

もっともこの人工島は軟弱地盤なので、昨今は不同沈下しているのが認められているようです。(笑)

 

 

2024年6月12日 (水)

尖閣が緊張するわけ

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台湾を海上封鎖する軍事訓練をしたばかりの中国は、続いて尖閣の緊張を高めています。

「第十一管区海上保安本部によると、7日午前10時半ごろから、尖閣諸島(石垣市)周辺の領海に中国海警局の艦船4隻が相次いで侵入し、午後0時10分ごろから0時25分ごろまでに領海外側の接続水域に出た。
4隻はすべて機関砲らしきものを搭載している。十一管によると、尖閣周辺で砲搭載船が4隻同時に領海侵入するのは初めて。
尖閣周辺を航行する中国船は通常4隻体制だが、これまでは1隻だけ砲を搭載するのが通例だった。
すべての艦船が砲搭載船に交代するのは、中国側が尖閣周辺で艦船の武装を強化する動きとなる。新たな挑発行為として日本側の警戒感が高まりそうだ。
 尖閣周辺で砲搭載船が4隻確認されたのは2016年8月以来だが、当時は7隻が同時に航行していた」
(八重山日報6月8日)
中国船4隻が領海侵入 尖閣周辺、すべて砲搭載は初(八重山日報) - Yahoo!ニュース 

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NHK

沖縄尖閣沖中国海警局の砲らしきもの搭載の船4隻相次ぎ領海侵入 | NHK | 尖閣

これは尖閣だけではありません。
いまもフィリピンに対しても南シナ海で攻勢を強めています。

南シナ海には陸地と呼べるものは台湾が領有している太平島とフィリピンが領有するパグアサ島という小島があるていどです。
ベトナムもいくつかの小島を領有しています。
一方、中国は1960年代から70年代にかけての文革という内戦で進出の機会を逸してしまい、進出を開始し始めた70年代には岩礁くらいしか残されていませんでした。
そこで国際海洋法を無視して自分で岩礁を埋め立てて陸地を作り、軍港と滑走路とそれを守る部隊を張り付けたわけです。
そしていまや南シナ海は中国の内海と化しています。

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南シナ海の領有権問題、中国に対抗するフィリピンの座礁船 - BBCニュース

中国という国には、実は近代的「国境」という概念自体が存在しないことは何回か書いてきたと思います。
ロシアも似たような性格を持った国で、モスクワ公国が戦争をしながら膨張していく過程が「国境」ですから、その時代によって国境は違っています。
今は占領したウクライナ領までが申請なロシア領」のようです。

中国は、過去の中華帝国の通商関係を「領土」と考えています。
たとえば、中国の尖閣領有権主張の根拠は、琉球王国への渡航の途中に航海者が「見た」ということにすぎません。
石井望(長崎純心大学准教授)は、尖閣諸島のひとつ大正島について、中国・明から1561年に琉球王朝へ渡航した使節である郭汝霖(かくじょりん)が、明国皇帝に提出した上奏文にこうあることを発見しています。

「渉 琉球境 界地名赤嶼」
(琉球の領域に入った。分界地は赤嶼(せきしょう・大正島)と呼ばれる」

これは福州から那覇への航路上に「赤嶼」という島があって、ここから先は琉球王国の領海となるという意味で石井はこれで中国側の根拠が崩れたとしています。

「石井准教授によると「渉る」は入る、「界地」は境界の意味で、「分析すると、赤嶼そのものが琉球人の命名した境界で、明の皇帝の使節団がそれを正式に認めていたことになる」と指摘している」(産経2012年7月17日)

ところがこの石井の論説に対しての中国側の反論がなかなか傑作です。

「航路において復権側の東限に言及しないので、福建から赤嶼まではすべて中国領だ」(高洪 中国社会科学院日本研究所2012年9月)

なぁーに言ってんだか。そもそも国際法などのない前近代のことのうえに、それも使節が大正島を琉球王国の人間に教えられて「見た」だけの話です。
それを大正島から福建まで全部中華帝国の領海だとはよく言ったもんです。この欲ボケめ。

使節が乗って来たのは琉球王国の船で、当然水先案内人は琉球王国の人間が努めています。
そしてたぶん大正島を指して、「ここからが琉球だ」とでも教えたのでしょうね。
つまり、明国使節は尖閣諸島の一部を「見た」にすぎません。

尖閣が琉球王国のものだと、明国使節に教えたことになります。
当時から尖閣は近代国際法の無主先占有ではなく、琉球王国の西限の島であるという認識が当時から存在していて、明の使節も「ああ、そうですか」としか思わなかったのです。
つまり尖閣は無主地先占有ではないということです。
これはどの国にも属していない、無主の土地を自国領に編入する場合に使う国際法上の概念ですが、これには相当しないのです。

にもかかわらず、中国は明国使節が通商上通過した島を「見た」というだけで、自国に領有権があるとしているんですから、たまったもんじゃありません。
実際に、当時の明国が尖閣を領土として認識していたわけではなく、明王朝の公式日誌『皇明実録』において、明の地方長官が日本の使者に対して、「明の支配する海域が尖閣諸島より中国側にある台湾の馬祖列島までだ」とし、「その外側の海は自由に航行できる」と明言した記録も残されています。

さて、中国の領土意識の一端がお判りになってきたでしょうか。
彼らには近代的な国際法が考える「国境」もなければ「領土」もありません。
清朝最盛期の朝貢国までが、中国が考える「領土」です。

下図の黄色部分が直轄領、ピンクが藩部、そして緑色が朝貢国です。
共産中国は、すでに黄色部分の直轄領は言うに及ばず、ピンクの藩部まで領土化し、今やその先の朝貢国部分へと爪を伸ばしているのがわかります。

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清朝支配の拡大 | 世界の歴史まっぷ

先ほどの琉球への使節が尖閣の一部を「見た」から領土だという意識の下には、あからさまに琉球王国は朝貢国家なんだから、とうぜんのこととして中華帝国の一部なのだ、という支配意識が眠っているのです。
すると支配意識の裏返しとして、沖縄側にも隷従意識が生まれました。
日本が統治下に置こうとすると、清の黄龍旗船の救援を熱望したり、琉球独立学会とやらも北京で集会をするという、身も蓋ない従属意識があったわけです。

沖縄タイムスは、コラム「大弦小弦」(2005年5月16日)でこんなことを恥ずかしげもなく書いています。


「黄色軍艦がやってくる…。船体に黄色の龍の文様を描き、黄龍旗を掲げる清国の南洋艦隊は黄色軍艦と呼ばれたという。知人とこの話をしていたら、黄色軍艦が沖縄を侵略すると、勘違いして話がややこしくなった。
実際は逆で、明治の琉球人にとって清国軍艦は援軍だった。武力で琉球国を併合した明治政府に対し、琉球の首脳らは清へ使者を送って救援を求めている。そして、沖縄側はその黄色軍艦を待ちわびたのだった」 

思わずなんのための「援軍」、あなたは誰、ここはどこ?と問いたくなるような、中国への崇拝意識と裏返しの隷属意識そのままです
こういう人たちが叫ぶ「米軍基地と自衛隊は出て行け」「戦争協力ノー」「平和な沖縄」と叫ぶ意味はわかりすぎるくらいです。

 

 

2024年6月11日 (火)

離島からの避難を助けないデニー知事

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台湾有事において、中国軍が台湾島東部を攻撃するために、宮古、八重山のいずれかを攻撃する可能性があります。
直接攻撃を受けないまでも、与那国、波照間は海上封鎖線の内側に入ってしまいます。
また現代の戦闘機の空戦においては与那国はもちろんのこと、八重山、宮古上空まで、わずか数分で到達してしまい、これらの離島上空は空戦空域となります。
台湾有事は日本有事であるというのが、亡き安倍氏の持論でしたが、まさにそのとおりとなることでしょう。

与那国島は1700人の住民がおり、250人の自衛隊員が駐留しています。
この封鎖は台湾だけでなく、日本領土に及ぶ封鎖です。
少なくとも、政府は早急に与那国島民の避難計画を策定する必要がありますが、具体的進展は見られていません。

「島民からは不安の声が上がる。その代表格は、糸数健一町長だ。
「これだけで島を守り切れるのでしょうか。電子戦の専門部隊とはいっても車両2台分くらいの増派で大丈夫なのでしょうか。もっと増やしてもらいたい」
「島民の避難も大きな課題です。島内での避難は防災訓練で実施していますが、島外への避難は全然やっていません。陸路では逃げられないのでフェリーと航空機で、ということになりますが、フェリーは120人程度、航空機は50人程度しか一度には乗れません。とても間に合わない」
(清水克彦2022年5月27日)
「台湾有事の最前線」に行って分かった、“日本の防衛力”の不安な実態 | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

真っ先に県民保護を訴える責任があるはずの、沖縄県知事はこんなことを他人事のように言っています。

「中国が米国のペロシ下院議長台湾訪問に対抗して台湾海域に向け複数の弾道ミサイルを発射したことに、沖縄県の玉城デニー知事は4日、「米中の覇権争いをあおる状況になっては絶対にいけない」と危機感を示した。
知事は、冷静かつ平和を構築する外交が重要と強調し「中国と台湾、中国と米国の関係において、県民や国民がその不安に巻き込まれることは絶対にあってはならない」と述べた。
また、政府に対して「不測の事態はあってはならず、常に冷静かつ信頼の構築を重ねていくことを中国や米国に申し入れてほしい」と求めた」(沖縄タイムス8月5日)
沖縄・デニー知事「不測の事態あってはならず」 米中の「覇権争い」に危機感(沖縄タイムス) - Yahoo!ニュース 

はぁ、そうですか、「冷静かつ信頼関係の構築」ねぇ。
防衛計画など論以外、避難計画を策定したりすればチューゴクを刺激するってわけです。
あのね、デニーさん、そもそも侵略の意志を露骨に示した中国と、それを防ごうとしている米国は、いわば火付け盗賊と消防士、台湾は一方的被害者の関係なのです。
それを全部同列に並べて「冷静かつ信頼の構築」ってどういう意味になるのでしょうか。
火付け盗賊と消防士が「信頼関係の構築」できるとでも(笑)。
消防士にや被害者に向かってナニをしろというのですかね、台湾を守るのを止めろ、防ぐのをよせ、やらされるままになれとでも言うのかしらね。

「米中の覇権争い」ですか。わかったようなことを。
米国が、台湾を切り捨てて出来たのが今の米中関係です。
文革で疲弊の極にあった中国を救済し、国連常任理事国の地位まで与えて超大国の道を開いてやったのも、当時の米国です。
そして天安門事件で世界的に孤立した中国を救ったのが、わが国でした。
しかしそれは、米国は中国が台湾を武力併合しない、覇権主義には立たないという大前提があったからそうしたまでのこと。

しかしその結果、どうなりました。
強大化した中国は、約束を破って台湾を武力で併合するという姿勢を露骨に見せ始めたから、こうなったのです。
この軍事演習は、覇権主義特有の「危険な火遊び」なのです。
つまり「米中の覇権争い」ではなく、中国の覇権主義こそにすべての問題の根があります。
こういうどっちもどっち、お互いに冷静になんていう評論家づらした物言いは、中国の要求に屈しろということと同じです。

なんの解決にもならないばかりか、中国を支持することととまったく同じです。
日頃から、駐留米軍を沖縄から追い出すことにだけ熱中してきたデニー知事は、もっとはっきりとモノをいうべきですね。中国加油、他妈的台湾とね。

政府に求める必要なんかありません。
だって、リン外相はデニー氏と同じ立場ですから。

「林芳正外相は2日の記者会見で、アジア歴訪を開始したペロシ米下院議長が同日夜にも台湾を訪問するとの観測が強まっていることについて、「日本政府としてコメントする立場にない」と述べた。その上で、「一般論として申し上げると、わが国としては米中両国の関係の安定は国際社会にとっても極めて重要である」と語った」
(産経8月2日)
林外相、ペロシ氏訪台「コメントする立場にない」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

こんな米中を同列に並べて自制を求めるようなことを言ってしまったために、米国は怒ったそうですよ。お前はどっちの味方なんだ、とね。
そんな三流評論家のようなくだらないことを言うより、県知事としてやらねばならないことの第一は、沖縄県を圧迫している中国軍の不当な軍事演習に強く抗議すること。
次に、海上封鎖にさらされている与那国町長が要請している避難計画を、早急かつ具体的に国と共同で作ることです。
そして第三に、そのための受皿である港湾や空港の強靱化を進めることです。

現在、沖縄、鹿児島に限らず、大災害が頻発する中で、各県は先を争うようにして大規模避難訓練を実施しています。
参加数は昨年度に比べ1・7倍で、「武力侵略」が空論ではなく、北朝鮮や中国の弾道ミサイル発射やウクライナ戦争など、日本の安全保障環境で「戦争」が現実味を帯び始めたことが影響しているのでしょう。

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産経

ただし上図でわかるように、大半の訓練に住民自身は不参加で、訓練の想定も現実味に欠けるという声は専門家から常々上がっていました。
たとえば、国は2020年5月、都道府県向けの通知で、国主導の訓練は「広域での高度な訓練」を行うと明記しました。
これはいままでのように大水、地震、噴火などの自然災害だけではなく、武力侵略を想定する県をまたいだ事態を想定しています。

沖縄ではこのような訓練が想定されています。

「図上訓練は政府では内閣官房と消防庁、国土交通省が主体となる。沖縄の離島では①台湾との距離が110キロの与那国町②尖閣諸島のある石垣市③宮古島市④多良間(たらま)村⑤竹富(たけとみ)町-の5市町村が参加する。
訓練は武力攻撃事態などへの政府や自治体の対処を規定している国民保護法に基づいて行う。想定は武力攻撃が予測される事態を政府が認定を検討している早期の段階で住民避難に着手する。より早く、多くの住民を避難させる輸送手段を確保できるか検証する。
住民避難には通常から離島に運航している民間の航空機と船舶を使う。
5つの離島で観光客を含めて約12万人の避難のために可能な限り早く、多くの航空機と船舶を離島に送り込む。そのような事態になれば沖縄本島も住民は屋内避難の対象になるため、離島住民の避難先は九州とする」
(産経前掲)

避難の流れはこうなります。
石垣、宮古、多良間、竹富の5市町村は、住民に危機が迫っていることを認識してもらい、集落などの単位ごとに空港と港に集まってもらう輸送手段の確保と要領を説明します。
宮古・八重山からの脱出を想定している人数は、沖縄県の試算で1日2万5千人です。
鹿児島と違って、至近距離に本土がないので困難な避難となるでしょう。

2020年の国勢調査では宮古の人口が5万4020人、八重山が5万3297人ですから、宮古の避難想定数が1万500人、石垣で1万、いずれも5分の1ていどということになります。
島に残されたひとたちにはシェルターなどを準備せねばなりません。

宮古・八重山のシェルター建設は進んでいないようです。
沖タイの阿部岳記者はこんなツイートをしています。

「きょうは政府が先島諸島に建設を検討しているシェルターについて。不穏です。例えば中国がシェルターを造り始めたら、身構えますよね。
シェルターは一見あった方がよさそうで、反対しにくそうに見える。でも、ミサイル発射から着弾までのわずかな時間に人々が逃げ込める距離に造ろうとしたら、いくつ造っても足りない。
命を守る効果は限定的。緊張を高め、戦争を呼び寄せるリスクが大きい」
阿部岳 / ABE Takashi(@ABETakashiOki)さん / Twitter

こういうドグマに冒されたメディアと議論しても始まりませんが、記者ならともかく県知事までがこの調子ですからなんともかともです。
命ど宝だとか、先島切り捨てを許さない、とか言いながら、島民が身を守る最低限の施設まで「戦争準備」となってしまうのですから話になりません。
しかし、こういう空気に押されてシェルター建設はまだ青写真もできていないようです。

くだらない講釈を垂れている時じゃないのですよ、デニーさん。

 

2024年6月10日 (月)

特定利用空港・港湾指定 デニー知事は同意を見送り

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政府は台湾有事をにらんで、全国の重要な空港・港湾を「特定利用空港・港湾」に指定し、平素から自衛隊や海上保安庁が円滑に利用できるよう機能強化を進める方針を決定しました。
ウンザリする話ですが、沖縄県は、例によって例の如しで反対です。

「台湾に近く、対中最前線でもある沖縄では12カ所が候補に挙がった。だが、玉城デニー県政が指定に難色を示しており、今年4月、実際に指定されたのは国管理の那覇空港と石垣市管理の石垣港だけだった」
ZAKZAK6月8日)
有事見据えた「特定利用空港・港湾」指定 沖縄・玉城デニー知事は同意見送り 離島の〝民意〟無視…誰のための県政か(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース

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自衛隊・海保の能力を最大限発揮へ16カ所を「特定利用空港・港湾」に指定 | お知らせ | ニュース | 自由民主党 (jimin.jp)

沖縄県ではこの空港・港湾整備事業の候補として、那覇、下地島、久米島、宮古、新石垣、波照間、与那国の7空港と中城、那覇、平良、石垣、比川(新設)の5港が候補に挙がりました。
しかし結局、本年度は沖縄県の反対に合って、国管理の那覇空港と石垣市管理の石垣港だけが指定されたに留まっています。

琉球新報はこう社説で書いています。

「一方で「戦争につながる空港にしたくない」との反対の声が多くを占めた。沖縄戦で、日本軍の拠点となった飛行場や港が米軍の爆撃を受けた。軍事拠点として整備されれば、有事の際に標的となり得る。住民らの懸念は当然だ。
 軍事拠点化に抵抗する住民にも滑走路延長への期待はあるはずだ。逆に指定を容認する住民も軍備増強への懸念を抱いていよう。滑走路を延長する場合でも、下地島空港の軍事利用を避けるため国と琉球政府が1971年に「屋良覚書」を交わした時と同様の対応を求めていく考えだ。これも住民の危機感の表れだと言える」
(琉球新報社説5月24日)
<社説>特定利用空港に反対 軍事化への危機感示した - 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)

また71年の屋良文書ですか。
文革の真っ最中の当時と、半世紀たって大軍拡のあげく南シナ海と東シナ海に勢力を伸ばしている2024年と、脅威のレベルがまるで違っていることはよほどドグマで眼が曇っていなければ見えるはずです。
台湾有事が起きた場合、離島からの退避で真っ先に使うのは港湾と空港です。
湾を掘り下げて、桟橋を強化すること、空港を強靱化することが、大規模避難の際にどれだけ役にたつことか。

有事に限らず平時においても、これは自治体にとって、願ってもないいいチャンスなのです。
いままで自治体がせねばならなかった港湾や空港の整備について、国の力を借りて大規模整備ができるようになります。
このどこが悪いのでしょうか。

それとも大規模災害や有事は沖縄県に限って起きないとでも、言うのか。
大規模災害時にいかに港湾や空港のハブ機能が重要なのかは、能登半島地震でも改めて証明されました。

能登半島では複数の港が被災し、救援船が接岸できる港湾がほぼ全滅してしまう状況に追い込まれました。
そのために、自衛隊は沖からホパークラフトを使って往復して救援物資をピストン輸送を強いられたのです。
港湾さえしっかりと機能していれば、こんなことをする必要はありませんでした。

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孤立地域解消へ 自衛隊 がれき撤去の重機など輪島市に陸揚げ 能登半島地震 | TBS NEWS DIG

たとえば、もっとも復旧が遅れた石川県珠洲市の飯田港は半分が被災して使用不能となりました。

「国土交通省 金沢港湾・空港整備事務所 舟川幸治所長
「地盤が沈下して、地震動で立っていた(岸壁が)前に出ている。そこに空間ができて、地盤が沈下した」
最も深刻なのは、船を停める岸壁の損傷です。飯田港は、普段は最大2000トンの船まで停泊できますが、現在は11ある施設のうち半分以上が利用できず、最大500トンに限られています」
(TBSニュースDIG2月5日)

石川・能登の復旧、加速のカギは“港湾” 半数近くの施設が利用不可 | TBS NEWS DIG (1ページ)

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TBS

能登半島地震の大きな教訓は、平時から救援の大きな受皿となる港湾の強靱化を図っておくことが重要だということです。
平時から湾を深く浚渫し、水深を確保すること、岸壁を強化しておくことが防災対策上必須です。

「復旧を加速させるカギは「港湾」にある。そう語るのは、海洋土木の建設業者からなる日本埋立浚渫協会の地田さんです。協会が港湾の応急工事の実務を担っています。
日本埋立浚渫協会 北陸支部 地田英樹副支部長
「(Q.支援船があると違う?)そうですね。車で運ぶ量と、船で運ぶ量では格段に量が違います」
輸送量の差。例えば2000トン級の貨物船であれば、10トントラック200台分の物資が一気に運べる計算です。
本格的な復旧には、▼岸壁の大型工事や、▼水深を確保するため、海底の土砂を掘りあげる工事など、船からの「海上工事」が必要となります」
(TBSニュースDIG前掲)

これがわかっているから全国の自治体は、今回の国の「特定利用空港・港湾」整備計画に諸手をあげて賛成したのです。
たとえは、博多港の指定を受けた福岡市はこう言っています。

「特定利用港湾となった博多港には予算17億円を充てた。管理者の福岡市港湾計画部によると、大型船舶の航路を確保するために海底を掘り下げ、岸壁を強化する事業。河川の土砂がたまりやすいため、数年前から整備を進めているという。
 吉岡麻子計画課長は「災害時の物資輸送など九州の玄関口である博多港の役割は大きい。訓練を通して自衛隊との連携が進めば災害対応の強化につながる」と話す」
(南日本新聞5月20日)
特定利用空港・港湾に合計370億円 災害対応の強化に期待できるが…気になる「米軍の利用促進」 | 鹿児島のニュース | 南日本新聞 | 373news.com

福岡市が言うように港湾に国の予算がつくうえに、「訓練を通して自衛隊との連携が進めば災害対応の強化につながる」ことのなにがいけないのでしょうか。
自衛隊は悪者だから戦争協力ノーですか、まるで中学生だ。
それとも沖縄県は、大規模災害時には自衛隊の救援は不要だ、デニー氏を先頭にして県職員が総出で捩り鉢巻して土砂を取り除いたり、トラックで救援物資を運ぶとでもいうのか。
いままで豚コレラがあれば自衛隊に泣きつき、コロナで医療崩壊しかけると自衛隊の医官派遣を乞うたのはいったいどこの誰だったのですか。
はっきりいいますが、沖縄県は全国一脆弱なのです。

コロナ時に、デニー知事は宮古島で発生したクラスターに自衛隊の看護師を要請しましたが、自衛隊は災害派遣として既に活動を開始しています。
ため息が出ますが、実はこれで沖縄県の医療支援要請は二度目なのです。
半年に2回の自衛隊への支援要請を受けて、他県の自衛隊の応援を受けて医療支援に当たりました。

「全国知事会は18日、玉城デニー知事からの要請を踏まえ鳥取県など5県から看護師10人を派遣すると発表した。陸上自衛隊第15旅団(那覇駐屯地)も同日、玉城知事の災害派遣要請を受け、看護官ら約20人を県内の医療機関などに派遣した」
(琉新2020年8月19日)

これだけ自衛隊やよその自治体に安易に支援を求める自治体は、全国でもそう多くはないでしょう。
そもそも夏に一回医療崩壊の危機を経験したのですから、第3波がくる前になぜ手を打たなかったのでしょうか。
時間はたっぷりあったはずで、その間にコロナ専用病棟や、それに見合った医療体制の拡充などいくらでも手当てする余裕があったはずです。

予算不足だったならば、自治体や地元医師会が発議して厚労省に掛けあえばよいのです。
おそらく当時の状況なら問題なく通ったはずです。
「戦争協力ノー」などという悠長なことを言えるのも、沖縄県は今まで国のほうからこれだけの振興予算がつきましたからいかがいたしましょうか、といった上げ膳下げ膳を当然だとおもっていた体質があるからです。
その甘ったれた体質が染みついているため、いざという時に医療崩壊を簡単に起こしてしまい、そして簡単に国にすがる。
簡単にすがっても反省の色もない。

首里城が失火で燃えたといえば、デニー氏は真っ先にナニをしましたか。
このご仁、東京に駆けつけて菅氏に泣きついたのです。

常識的には、失火の疑いが強かったのですから、まずは失火原因を突き止め、県の管理ですから責任の所在を明確にし、その上で再建するならするで、県独自の計画をまとめて、その上で予算が不足するならその時に国に支援を要請すればいいのです。
それをとるものもとりあえず、官邸に泣きつく醜態をさらす、こういう情けない精神を私たちはなんと呼んだらいいのでしょうか。

にもかかわらず琉新はこうも言います。

「地域振興への地元の思いを逆手に国策を推進すれば、地域分断を招くことにもなりかねない。政府の手法としてあってはならないはずだ。政府は振興の在り方で選択を迫り、地域を翻弄(ほんろう)するような施策を強行すべきではない。沖縄振興の理念に反する。
 住民が安心して暮らせる将来像を描き、実行することが本来の沖縄振興の姿である。それから逸脱するような国策の押し付けは許されない」
(琉球新前掲)

まさにドグマそのもの。
デニー県政がイデオロギーを優先して、離島の声を無視し「地域を翻弄する」ことが今回ではっきりしました。

 

 

 

2024年6月 9日 (日)

日曜写真館 ひなげしの曲りては立ち白き陽に

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揺るるかな揺るるかな花ポピーとは 清崎敏郎

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つゆ見えて雛罌粟の咲きはじめたり 松村蒼石

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ポピー野に咲けば加州の春といふ 山口青邨

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ひなげしの曲りては立ち白き陽に 山口青邨

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ひなげしのにこ毛の蕾花に添ひ 飯田蛇笏

 

※正確にはこれはナガヒナゲシです。茎に植物アルカロイドを含んでいますから、素手でさわるとかぶれる人もいるようです。

 

2024年6月 8日 (土)

米国の新和平提案の中身とは

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ガザ戦争はあいかわらずしっこっており、先が見通せません。
米国の案提案は概要しかわかりませんが、3段階にわかれているようです。

「AFPが確認した草案には、「5月31日に発表された新たな停戦案を歓迎し、ハマスに対して同案を全面的に受け入れ、合意内容を無条件で遅滞なく履行するよう求める」との文言が盛り込まれている。
 バイデン氏は5月31日、イスラエルが完全な停戦に向けた行程表を提示したと発表。3段階から成り、紛争終結に向け6週間かけてイスラエル軍がガザの人口密集区域から撤退する一方、ハマスは人質全員を解放、さらに、ハマスには権限を与えずにガザの復興計画に着手するなどと説明していた」
(AFP6月7日)
米、ガザ停戦へ国連決議案の草案発表 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

これは安保理に対しての米国案としてでてきたものですが、米国は「中東諸国を含めさまざまな国の指導者や政府の支持を得ている」と言っています。
米国は湾岸諸国で最大のハマス支援国であるカタールにも圧力をかけています。

「CNNの報道によると、カタールはハマスに対し、アメリカとイスラエルが提案した停戦協定を受け入れるか、さもなくばドーハからの追放に直面するという最後通牒を突きつけた。
停戦を達成するための米国の外交キャンペーンの一環として、米国はイスラエル政府のメンバーに取引を受け入れるよう強い圧力をかけてきた。CNNは、カタールに対しても、交渉の結果を出すよう、同様の圧力をかけていることを明らかにした」
(エルサレムポスト 6月7日)
カタールはハマスに停戦を受け入れるか、ドーハから追放すべきだと告げる - エルサレム・ポスト (jpost.com)

いまハマスの親玉であるイスマイル・ハニヤは確かにカタールに豪邸を構えて拠点としていますが、カタールから追い出されたらレバノンにでも移転すればいいだけのことです。
これしきの圧力でこたえるようなハマスではありませんから、直ちにゴネ始めました。

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ロイター

「エジプトの関係者によると、ハマスは提案の特に第2段階について懸念を示しているという。
ホワイトハウスが発表した計画の概要によると、第2段階には敵対行為の恒久的な停止とイスラエル軍のガザ撤退が含まれている。
ハマス幹部のサミ・アブ・ズーリ氏は6日、ロイターに対し、いわゆるバイデン案を歓迎するものの、米国が国連安保理に示した草案はイスラエルの停戦案を基にしていると指摘。「イスラエルの文書は無期限の交渉や、占領軍が人質を取り戻し戦争を再開する段階について述べている」とし、そうした文書は受け入れられないと仲介国に伝えたと語った」
(ロイター6月7日)
ガザ休戦交渉、進展見られず バイデン氏発表の提案にハマス難色 | ロイター (reuters.com)

まぁ、要はガザの復興計画からハマスを排除するというのが気に食わなかったのでしょう。
一方、イスラエルの原則は一貫して頑迷なまでに不変です。

「しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相側は、ハマスの軍事・統治能力の破壊を含め、「すべての目標が達成されるまで」戦闘を続ける考えに固執。米国との足並みはそろっていなかった」
(AFP前掲)

しかし、ハマスを物理的に完全殲滅することは可能でしょうか。
イスラエル軍は、現在ラファでいままでになく神経の行き届いた作戦をして市民の巻き沿いを防ごうとしていますが、それでも誤爆や誤射が絶えません。
人口密集地域で掃討作戦をすれば必ずそのようになるのです。
したがって必ずハマスはなんらかの形で生き残り、イスラエルの国際的立場はいっそう悪化します。
イスラエルは、どこかで現実との折り合いをつけねばなりません。
とはいえ、折り合いをつけるためには、最低でもガザ地区の最高指揮官であえ、10月7日越境テロの計画実行の主犯であるヤヒヤ・シンワルを逮捕せねば収まりがつかないでしょう。

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ヤヒヤ・シンワル
Xユーザーの黒井文太郎さん

シンワルは1962年にハンユニスの難民キャンプで生まれ。
1987年に発足したハマスに初期から加わり、その軍事部門のカッサム旅団の創設者です。
つまり初めからテロリストの指導者としてハマスに関わっていきます。
1989年、いすらえるによって逮捕され、殺人や誘拐の罪でイスラエルの刑務所に収監されますが、2011年、イスラエル兵1人の解放と引き換えに1000人余りのパレスチナ人受刑者が釈放された際に、シンワルも釈放されました。
今回もイスラエルは人質交換で大量にハマスの収監者を解放していますが、これは後に恐ろしい結果をもたらすのは、イスラエルもよくわかってのことでしょう。

2015年にはアメリカ政府が国際テロリストに指定され、2017年にガザ地区の指導者を務めていたイスマイル・ハニヤが政治部門のトップに選出された際、その後任としてシンワル氏がガザ地区のトップに選ばれました。
ハニヤの直属の腹心であり、かつ、イランのコッズ部隊との連絡役でした。

米国は水面下でイスラエルにこのシンワルの所在について、調停案とを納得させる意図で情報提供をほのめかしたようです。

「バイデン政権はイスラエルに対し、ラファ侵攻を思いとどまらせるためにハマス幹部の居所に関する機微なインテリジェンスの支援を提案した。イスラエルの情報機関モサドは、少数の要人暗殺で多数の犠牲者が出る戦争を回避できると考えてきた経緯がある。一方、ネタニヤフ首相は暗殺に消極的で、モサドとはむしろ対立関係にあったという。冷戦期から緊密に協力してきた米CIAとモサドは、ネタニヤフ首相に暗殺カードを切らせるか」
(榛名幹夫6月7日)
米国がハマス幹部情報をオファー:イスラエル首相は「暗殺カード」を切るか:春名幹男 | インテリジェンス・ナウ | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp) 

ネタニヤフはこのシンワル情報について冷やかに受け取ったはずです。
なぜならシンワルの居所についてはCIAと緊密に情報交換しているモサドが知らないはずがありませんから、ネタニヤフに暗殺を進言しているはずです。
この暗殺方針はモサドが一貫してとってきたもので、陰険に見えるようですが、空爆や地上進攻作戦と違って市民を巻き添えにしません。

それが実行されてかったのは、一にネタニヤフが軍事力の解体を優先しているからです。
憶測にすぎませんが、ネタニヤフはシンワルの居場所を知っていて、ハマスの戦闘力を解体しきるまであえて泳がせているのかもしれません。

かくして、ネタニヤフが戦時内閣にトップに座っているかぎり、この提案も拒否されるでしょう。
この男を降ろさない限り戦争は続きます。

ネタニヤフに対して独自案を主張しているガンツ国防相の回答期限が今日午前に切れます。
おそらく彼の党(国民統一党)は離脱することになりそうです。

「ベニー・ガンツ国防大臣は、先月ベンヤミン・ネタニヤフ首相に突きつけた最後通牒を履行し、ハマスが敗北したシナリオで誰がガザ地域を支配するかを規定することを含む、ガザ紛争の合意されたビジョンへのコミットメントを要求し、土曜日の夜までに、彼の国民統一党の政府からの撤退を発表する予定だ。(略)
先月の最後通牒で、ガンツは、人質の返還、ガザのハマスの排除、10月7日以降、ガザの北部と南部の家を追われた何千人ものイスラエル人の帰還を認めること、そして「すべてのイスラエル人が国家に奉仕し、国家の努力に貢献する[軍/国家]奉仕の枠組みを採用する」ことを含む計画を策定するよう、戦争内閣に要求した。

彼の要求には、政府に「アメリカ、ヨーロッパ、アラブ、パレスチナの要素を含む、ガザの国際的な文民統治メカニズムを創設し、それはハマスでも[パレスチナ自治政府の]マフムード・アッバース議長でもない将来の代替案の基礎にもなる」こと、そしてパレスチナ国家を創設するための実行可能な道筋を約束してきたサウジアラビアとの正常化を進めることへの呼びかけが含まれていた」
(タイムス・オブ・イスラエル)
ガンツは土曜日の夜に連立を離れると予想されていますが、彼は留まるように圧力をかけられています|タイムズ・オブ・イスラエル (timesofisrael.com)

妥当な提案です。
戦後枠組みも協議せぬまま、市街地戦闘を拡大し続けるネタニヤフは正気とは思えません。
たぶんガンツの離脱でも戦時内閣は揺るがないでしょうが、労働党も似たような発言をしていますから、選挙をすればネタニヤフを引きずり降ろすことは可能なはずです。

 

2024年6月 7日 (金)

米国、ウクライナにロシア領に米国兵器使用を限定的に許可

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米国がウクライナに米国製兵器によるロシア本土の攻撃を認めました。
遅すぎた感がありますが、画期的なことです。

「バイデン政権は、ウクライナがロシア国内(ハリコフ近郊のみ)で米国が供与した武器を使用して攻撃する許可をウクライナに密かに与えたと、3人の米国当局者とこの動きに詳しい他の2人の関係者は木曜日に述べた。
米政府高官の1人は「大統領は最近、ウクライナがハリコフで反撃目的で米国の兵器を使用できるようにするようチームに指示した。そうすれば、ウクライナはロシア軍に反撃したり、攻撃の準備をしたりできる」と述べ、ロシア国内での長距離攻撃を認めない方針は「変わっていない」と付け加えた」
(POLITICO 5月30日)
バイデンはウクライナに米国の兵器でロシア国内を攻撃する許可を密かに与えた - POLITICO

いままで、供与された米国製兵器はウクライナ領(クリミア半島を含む)地域のみでの使用を許可されていました。
そのためにロシア領からのミサイル攻撃や空爆に対して対処するには、ウクライナ領に入ってから落すしかなかったわけです。
ミサイルは対処するリードタイムが短いのですから、本来ならロシア領にいるうちから落してしまえばいいのに、わざわざ危険を承知でこんなことをしていたのです。

また通常の戦争では、相手のミサイルや空爆の攻撃の発射する基地(策源地と呼びます)を攻撃するのが常識ですが、米国はそれを武器の使用制限をすることで禁じました。
こんな制限をかけているために、ロシアは思うままにウクライナにミサイル攻撃と空爆をかけてきました。
つい最近も1日100発の攻撃をエネルギーインフラと民間住宅地にかけています。

「ウクライナへの侵略を続けるロシア軍は5月31日~6月1日、ウクライナ各地のエネルギー施設を狙い、計100のミサイルと無人機で攻撃した。南部ザポリージャ州にある同国最大の水力発電所が稼働を停止するなど被害が出ている。
ウクライナ軍の発表によると、露軍は一方的に併合した南部クリミアやカスピ海上空の爆撃機などから弾道ミサイルや巡航ミサイル53発、露南部プリモルスコ・アフタルスクから無人機47機を発射した。ウクライナ軍はミサイル35発と無人機46機を撃墜したとしている」
(読売6月2日)
ロシア軍が合計100のミサイル・無人機攻撃、ウクライナ最大の水力発電所が稼働停止 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

このロシアの民間インフラの攻撃のために、ウクライナは発電能力の半分を失い深刻な電力危機に陥っています。

「ウクライナの発電能力について「侵攻前の発電能力は約55GWで欧州最大級だったが、現在は20GW以下に低下している。政府関係者は1日の被害がもたらす影響について『今年の冬は暗闇と寒さの中で生活することになる』『これがウクライナの新しい日常になる』と、キーウ経済学院のボリス・ドドノフ氏(エネルギー気候変動研究センター長)も『何の対策も講じられなければ来年1月までに国民が使用できる電力は1日2時間~4時間になる』と述べた」と報じている」
ロシアはウクライナの発電の半分以上を奪った (ft.com)

とうぜんのこととしてウクライナはこのロシアの攻撃に対して、米国兵器のロシア領に対しての使用許可を求め続けてきました。
発電所や送電網をロシアの好き放題に攻撃できる状態で復旧しても意味がないからです。
しかしロシアとの戦争のエスカレーションを恐れるバイデンは頑として許しませんでした。
このバイデンの煮え切らない態度が、ウクライナの窮地を招いてしまいました。
すべて後手後手。
プーチンは攻撃したい場所を、好きな時に攻撃できるのてすから、いまさらエスカレーションの脅威もナニもあったもんじゃありません。

やむなく妥協線として、ハリコフに向かって発射されたロシアのミサイルや、ハリコフ近くのロシア国境のすぐ東に集結している部隊や、ウクライナ領土に向けて爆弾を発射するロシアの爆撃機を撃ち落とすために、米国製兵器を限定的に使用していました。

POLITICOによれば、2024年5月30日「バイデン大統領が秘密裏に米国製兵器によるロシア領内の攻撃を許可した」「米国製兵器の使用はハルキウ方面を攻撃するロシア軍や軍事目標に限定される」「今後も米国製兵器を使用したロシア領内への長距離攻撃を認めない」と報じられています。
ここでいう「米国製兵器」とは、HIMARSで使用するGMLRSのことです。
GMLRSはGPS誘導のロケット弾で射程は70km以上で、HIMARSから発射可能なATACMSは使用できません。
さらに射程が長いATACMS(射程300キロ)の使用は認められていません。

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ATACMSMay2006 (cropped) - MGM-140 ATACMS - Wikipedia

これはロシア軍が5月10日に開始した国境を越えてハルキウ北部への侵攻の再開に対応したものです。
ロシア軍のこの新たな攻勢は、ウクライナ東部、南部戦線にあるウクライナ軍の戦力を、ハルキウ北部に割かせる戦略だと考えられます。

ウクライナ軍、ロシア軍双方ともに兵員が枯渇しています。
ウクライナの兵員不足は深刻で、動員法が施行されました。

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NHK

「ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、18日、軍への動員をより厳格に行うための改正法が施行されました。
兵力で上回るロシア軍に対抗するため兵員不足が課題となる中、動員逃れを防ぎ、公平性を担保することがねらいです。
ロシアによる軍事侵攻後、ウクライナでは総動員令が出され、18歳から60歳の男性は原則、出国が禁じられ、対象年齢の男性は軍から動員される可能性があります。
改正動員法によって、18歳から60歳の男性は18日から60日以内に住所や家族などの個人情報を軍に登録することが義務づけられるほか、登録したことを証明する書類を常に所持することも義務づけられます。
軍事侵攻後の混乱で、多くの人が避難や転居を余儀なくされる中、動員の対象となる男性の人数や所在を把握することで動員逃れを防ぐため、登録を行わなかった場合には罰金や車の運転の制限などの罰則が設けられています」
(NHK5月19日)
ウクライナ 兵員不足で軍への動員逃れ防止へ 軍に住所登録などを義務化 | NHK | ゼレンスキー大統領 

一方ロシア軍の損耗もひどく、おそらく数十万人規模の死傷者を出しているはずです。
それにもかかわらず、前線の兵力を拡大したり、ハリコフでの攻勢をが可能なのは、人権を無視できる全体主義国家特有の仕組みがあります。

「ロシア軍はウクライナ軍との2年2カ月あまりにおよぶ激しい戦いで、戦車、歩兵戦闘車、榴弾砲など各種装備を1万5300点あまり失った。人員も数十万人損耗した。ウクライナ軍の損害はその3分の1ほどにとどまっている。
一方で、ウクライナに進駐しているロシア軍の規模はかつてないほど大きくなっている。米欧州軍の司令官で北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合軍最高司令官を兼任するクリストファー・カボリ米陸軍大将は10日、米下院軍事委員会で「ロシア軍の規模は(2022年2月に)ウクライナに侵攻した時点よりも15%拡大している」と証言した。「この1年で、ロシアは前線の兵員数を36万から47万に増やした」
そうできたのは、ロシア政府が志願兵への報酬を増額したのに加え、2022年後半に約30万人を動員したからだ。さらに、新兵をウクライナの戦線に迅速に投入するために、ロシア軍が基礎的な訓練を短縮しているという事情もある」
(フォーブス4月13日)
ロシアの戦車はあと1年で枯渇か、死傷者も年30万人ペース ウクライナ正念場(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース

とうぜん、このようなまともな訓練も受けないで前線に駆り出された兵士は死にに行くようなものです。

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ロシアの動員兵は最低限の準備で前線に配置される=英国防省 (ukrinform.jp)

「しかし、こうした訓練不足の新兵は前線で長く生き残ることはできない。ウクライナ国防省の発表では、ロシア軍はこのところ1日に800~1000人の人員を失っている。
ロシア兵はウクライナに到着するとすぐに死ぬ。エストニア国防省は昨年の研究で、ウクライナ側が今年、ロシア軍に10万人の死者・重傷者を出させれば、ロシアの動員努力を崩壊させるとまではいかなくとも、それに恒久的なダメージ与えられると分析していた。
現在、ウクライナは年30万人のペースでロシア軍の人員を損耗させている。ロシアはこれほどの人的損失には持ちこたえることができない」
(フォーブス前掲)

ロシア国境に近いヴォフチャンスクでは、ロシア軍がウクライナ軍の砲兵陣地位置を知るため、自軍兵士をおとりで進撃させる戦術をとっていることがわかっています。
多くが訓練が足りない契約兵によるロシア軍部隊は無謀な突撃を強いられたために100人いた中隊の生存者は1割の12人にすぎませんでした。
そして突撃を強いられたこの村は戦略的価値がなく、ただウクライナ軍砲兵を叩くためだけに突撃を命じられたようです。
この中隊の兵士の平均年齢は20歳を下回っており、生き残った兵士は、「モスクワで座っている指揮官たちの前進、前進、前進戦略による兵士の損失を気にしない命令で、自分が死や負傷に直面している」と訴えています。
The Ukrainians stole a super new tank from the Russians and here's what they found on it! (youtube.com)

今回のハルキウ攻撃において「亀戦車」というシロモノまでが登場しました。

「ハルキウ攻撃で露軍が投入したのは「亀戦車」。戦車の前方に地雷源処理車用の除去ローラーを、そして後方や上部には無人ドローン攻撃を防ぐための装甲を取り付け、さながら"亀の甲羅"で防御力を高めた改造戦車だ。
そして、亀戦車で地雷原を突破したところに露軍が攻め込む。通常の機甲部隊ならば、亀戦車の後には装甲車両BTRが続くが、受刑者らで編成されたストームZ部隊は違う。民間車両のバン、オフロードバイク、中国製電動ゴルフカートで突っ込んでくる。
「機甲部隊として、戦車に歩兵戦闘車、装甲歩兵輸送車を随伴させ移動、散開して戦闘する部隊を育成するには長期間の訓練が必要です。しかし露軍はいま、新兵に十分な訓練を行わず基礎訓練だけ受けさせて攻撃をさせています。
大量の人員損耗をおかしてまで遂行している露軍の狙いはハルキウを攻撃することで、ウ軍の予備兵力を投入させて兵力不足にさせ露軍の主導性を更に発揮しようとしたものでした。その狙いは当たり、ウ軍はかなり兵力的に厳しい状態に陥ったのです」(二見龍元陸将補)
崖っぷちのウクライナ軍が最後の"賭け戦"を開始!? ロシアへの攻撃が新たなフェーズに!(週プレNEWS) - Yahoo!ニュース

まさにロシア軍のなりふりかまわない攻撃が起きているわけです。
これを止めるには、米国兵器の性能を目一杯引き出すしかありません。
さもなくば、ウクライナは兵員不足+武器不足+電力不足で早晩力尽きることでしょう。

 

2024年6月 6日 (木)

小池氏の小手先技に惑わされないでください

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小池不出馬の情報をFACTあたりが流しているようですが、複数の報道がされていない未確認情報です。
現時点では読売がこう書いている状況から出ていません。

「小池氏は所信表明で、海外から投資を呼び込むための環境整備や子育て支援策の充実を挙げ、「都政を加速させていく」と決意を示したが、知事選への言及はなかった。しかし、議会後の取材には、「行政は『継続してこそ力なり』だ」と述べ、3選への意欲をにじませた。
28日には都内の区市町村長の有志や都議会公明党などから3選出馬を要請された小池氏。都関係者によると、小池氏は当初、要請を受けた直後の所信表明のタイミングで、出馬表明することを検討していた。小池氏側近の一人は表明見送りについて、「最適な時期を見極めているのだろう」と話した」
(読売5月30日)
東京都知事選へ出馬明言しない小池氏「行政は継続してこそ力なり」…蓮舫氏は都議会野党会派にあいさつ回り : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

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【都知事選】連合会長より強い「母のコネ」蓮舫氏VS.世田谷区長がバッサリ「作戦失敗」小池氏“泥仕合”の全真相 | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌] (smart-flash.jp)

たぶんこんな不出馬情報をあえてリークさせたのは、小池氏自身でしょう。
小池氏はレンポー氏に負けるなどとは、思ってもいないはずです。
別に小池氏を褒めるつもりはありませんが、女性政治家としての「格」が違いすぎます。
レン・ーポー氏は頭が悪いまま野党のお姫様でちやほやされてきた人にすぎません。
野党には人材がないから、とんだ勘違いオンナになってしまっただけのこと。
一方、有力政治家に媚を売りまくって自民で国務大臣にまでなっておきながら後ろ足で砂をかけて、自民を敵に回した小池氏とは修羅場を潜った回数が違いすぎます。

立候補締め切り直前まで態度を保留することで、代替候補を建てることすらできないでいる自公は見苦しく慌てて、水面下で小池氏にすがりつくはずです。出馬してくれぇ、お願いだから出てくれと言っているはずです。
結果、今は都議会野党の自公ですが、当選の暁にはベッタリになるでしょう。

ともかく策士ですから、あの人。まともに相手してはだめ。
52首長に出馬要請を出させておいて、いまさら引っ込む道理がないでしょうに。

こういう小技に惑わされず、もう少し落ち着いて実績を評価すべきです。

さて私は小池百合子という人物がそうとうに苦手、いやはっきり言って嫌いです。
あの我の強い顔を見ることすら苦痛に感じるほどで、それがコロナの時は連日連夜「ワタクシ小池でございます」としゃしゃり出てくるのですから、なんとかしちくれぇと悲鳴をあげました。

小池氏はなぜここまで状況の主導権を握りたいのでしょうか。
いうまでもなく、小池百合子という政治家特有の権力指向のためです。
この人のゴールは、いい都政を敷くことにはありません。
中央政界で総理になること、これが彼女の最大にして最終ゴールなのです。
これが今までの都知事と決定的に違う部分です。
小池にとって都知事は踏み台でしかなく、総理の座に手をかけるためのバネでしかないのです。

かつて小池は、崩壊した旧民主党の残党を吸収して「小池党」を作ろうとして惨敗しました。本来ならこれで終りです。
おとなしく都知事していなさいというのが選挙民の声だったはずでが、なんと起死回生の事件が起きてしまいました。
新型コロナの蔓延です。しかも延々と足かけ2年も!
その間、毎日のようにテレビに出られて、一挙手一投足がワイドショー民に即日流されるという願ってもない状況が突如生まれました。

この新型コロナで小池がとった方法は、あの就任直後の豊洲問題とまったく同じです。
当時、小池はもう完成していた豊洲新市場を、「安全だが安心ではない」という奇怪な表現でちゃぶ台返ししました。
前任者の石原が東京ガス工場の跡地に豊洲を作ったのが安全性に疑義があるというわけで、非科学的たわごとにすぎず、当時から私は徹底的に批判した記憶があります。

ちょうどルーピー鳩山が、行政手続を積み重ねて各方面と調整してきた移転作業を、一瞬の思いつきで完成寸前にチャブ台返ししたことによく似ています。
不必要かつ無意味な政治的混乱を呼び寄せ、豊洲開業は大幅な遅滞を余儀なくされます。
このことだけで、行政官としての資質を問われるのですが、そのうえ小池はジャンヌダルク政治を始めます。
危機を煽り立てて敵を作り出し、それと戦う構図をパーフォーマンスして自分を飾りたてる。
豊洲と希望の党の大コケで懲りたかとおもいきや、めでたくも新型コロナで大復活しました。

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東京都の病床過少発表は繰り返された 昨春も大幅修正 延長直前、政府に

今度は病床利用率を水増しして危機を煽り立て、緊急事態宣言を政府に強硬に申し入れて、手柄にするということを始めています。
病床使用率が逼迫して医療崩壊だというのが小池の主張でしたが、それは虚偽の数字をもとにしたものだと柳井人文氏がファクトチェックしています。

「昨年4月7日の緊急事態宣言発令後、東京都が発表する入院患者数は過大に発表されていた。都が修正したのは、5月に宣言が延長された後のこと。4月27日時点の2668人→1832人、5月6日時点の2974人→1511人に修正された。都は自ら訂正発表せず、都の報告を受けて厚労省がとりまとめた資料で判明した」(3月5日『東京都の病床過少発表は繰り返された 昨春も大幅修正 延長直前、政府に誤情報を報告』)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20210305-00225648/

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柳井氏による

小池は去年4月27日、入院患者数は2668人と発表し、「そのうち宿泊療養198人」と発表し、それを受けてNHKも「自宅療養者を含む」と注記しつつ病床使用率は131%というありえない数字を流していました

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なんですって。100%を超える病床使用率ですって?病院で床にでも寝かせていたんでしょうか。
そうではなく、5月12日厚労省が発表した資料には、東京都の療養者を含めた入院患者数は2196人で、小池は約800人の退院・回復者を含めて水増ししていたのです。

逆に病床数のほうは過少報告します。

「昨年4月当初、東京都は確保病床数の拡大状況を随時発表していたが、4月12日に2000床に達した後は、5月11日に3300床と発表するまで情報を更新しなかった。5月下旬ごろ、4月中に3300床を確保していたと厚労省に訂正報告をした」(柳井前掲)

去年4月から都は病床数を4月に700床、5月末にも2000床を確保したと厚労省に申告していたのですが、これがとんだフェークでした。
実際は、後に都自らが密かに修正したように5月11日には3300床確保していたのですから、実に1300床もサバを読んで過少報告していたことになります。

「5月6日時点で発表された2974人/2000床は、正しくは1511人/3300床(使用率45.8%)だった。
この重大な訂正も、都は自ら報道発表することはなく、主要メディアも一切報じなかった」(柳井前掲)

このような小池が流したフェーク情報を、メディアは怠慢にもまったく報ぜずに危機を煽り立てる手伝いをしました。
そもそも解除目標は、東京都で1日新規陽性者500人、国基準でステージ3です。
現在、新規陽性者263人(7日平均)、国基準でステージ2から3の間にすぎず、目標は達成されているのですから、緊急事態宣言を延長すべき状況ではなかったのです。

こういうことばかりやったのが、小池氏のコロナ対応でした。

 

 

2024年6月 5日 (水)

小池女史の手法は「敵」を作ること

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有本香氏は、『「小池劇場」が日本を滅ぼす』の中で、小池氏の政治が、同じように「劇場型政治」と言われながらも、小泉氏や橋下氏とは根本的に違うとしています 。
その理由を3つの「ないない尽くし」があるからだとして、 こう言っています。


「小泉純一郎氏、橋下徹氏の『劇場』には、賛否は別にして,はっきりとした『演目=実現したい政策』があった。小泉のそれは『郵政民営化』に代表される構造改革であり、橋下には『大阪都構想』と銘打った大阪の再編という大命題があった。
しかし小池劇場にはこれといった演目が『ない』 。
強いて挙げれば、小池本人が言った『黒い頭のネズミ捜し』であろうか。つまり、前任者や政敵の『吊るし上げ』劇だが、数カ月もメディアと共に大騒ぎしたわりには、罪人は一人も見つかっていない」
(有本香『「小池劇場」が日本を滅ぼす』)

 「敵」を仕立て上げて、それを叩くことで己の政治目的を達しようとするのは、古来よくある政治手法ですが、ここで問題となるのは小池女史に「政治目的」と呼べるようなものがあるのか、ということです。 
私はないと思っています。小池女史にとって政敵を叩くこと自体が「目的」だからです。 

彼女が取った石原氏の百条委員会でのつるし上げなど、まさに文革の人民裁判を彷彿とさせるものでした。 
病身ながら、出席した石原氏は堂々の論陣を張りました。
その結果、何か石原氏の都政ガバナンスに問題点がみつかったでしょうか。
なにひとつ見つかりません。それは一見ワンマン型に見える石原氏が、東京都のシステムを尊重して、議会と官僚に諮りながら慎重に移転作業を進めたからです。

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小池女史は政敵を「叩く」ことについて貪欲です。しかしそれは小泉、橋下両氏と大きく異なっていました。

「つぎの『ない』は、正規の手続きがないことだ。
小泉、橋下は『既得権益をぶっ壊す』ことを訴えて喝采をあびてはいたが、日本の民主主義のシステムをぶっ壊すことはけっしてなかった。
当然ながら、2人は行政の長として手続きをきちんと踏んでものごとを決め、執行した。小泉の『破壊劇』の後ろには財務省のエリート官僚がついていたし、橋下は法律家だ。そのあたりは抜かりはない。
ところが、小池は違った」
(有本前掲)

小池女史は口を開けば「ブラックボックスの透明性」と言いますが、それは自分だけは例外です。

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思い出してみましょう。わずか2カ月先に迫っていた豊洲市場への移転をちゃぶ台返ししたわけですが、それはどのような手続きを踏んで、どのように執行されたのでしょうか。 
議会には諮りましたか?いや、なにひとつ諮らずに、わずかの側近、それも外部から「小池チーム」として連れてきた側近とだけ相談し、独断で延期すると叫んだのではありませんでしたか。 

この豊洲移転は20年間に渡って続けられたもので、その政策決定過程に「ブラックボックス」などではありません。 
都庁には膨大な議事録が積み重なっており、都議会事務局には審議記録が山のようにあったはずです。 
しかもそれは秘匿情報ではなく、完全に一般市民も閲覧できるものでした。
「ブラックボックス」など初めからなかったのです。 

少し検索すれば、豊洲になぜ選定されたのか、その汚染土壌をどのように処分して、どのような汚染防止策をとったのか、東京ガスとどのような取り決めをしたのか、すべて詳細に分かります。 
この積み上げを一瞬にして破壊してみせたのが、小池氏でした。しかもひとりの独断で、なんの手続きも踏まず、議会にも諮らずに。 
このようなガバナンスのスタイルを、私は「独裁」と呼びます。 

三つ目の「ない」を有本氏は、「ファクト(事実)に基づくロジック(論理)がない」ことを挙げています。 
豊洲移転は小池氏一人の独断で決定したために、途中から迷走を開始します。 
そもそもメディアが騒いだような豊洲の安全性には、なんの問題もなかったからです。 

私は当時豊洲移転問題を三つに切り分けました。


①豊洲の安全性評価
②東京都のガバナンスのあり方の問題点
③豊洲移転と都政利権

これらがなんの問題もなかったことが分かるに連れて、小池氏はメチャクチャなことを口走り始めます。


「2月末、現在の築地市場の安全性か問われた際に、『コンクリートとアスファルトでカバーされており、法令上も問題がない(から安全)』 と答え、それなら同じく被覆されている豊洲も安全ではないか、と問い返されると、『地上と地下を分けるという考え方は、消費者が合理的に考えてクエスチョンマークだ』と支離滅裂な答えを返し、数日後、『豊洲は安全だが、安心がない。築地は安心もある』との珍回答をした」

安全性は始めから問題はなく、そもそもメディアと共産党がヒ素が出たなどと騒いだ地下水は排水路に回されて、魚や野菜にかけるものではありませんでした。
五輪施設の工事にも入札手続きに瑕疵はなく、政治家が介在や談合の不正はなにひとつ見つかっていません。
自分が仕掛けた「革命」が不発に終わったとみるや、窮したあげく小池女史が言ったのが「豊洲と築地の両方をAIで決めた」ですから、もはや爆笑ものです。

このような小池氏が目指したのは国政、しかも首相でした。
当時、週刊誌などは「安倍惨敗退陣・小池首相誕生」とブチあげていました。テレビは小池絶賛一色。

メディアは小池新党がどのような政策を持っているのか、ひとことも触れません。それはメディアの愚かさもありますが、そもそも小池氏やその新党に政策などと呼べるものがなかったからです。

小池氏の支援者だった二階堂氏が政界から去り、東京15区の補欠選で敗北し、国政復帰の道は断たれたように見えます。
さてさて、小池さんもう一回都知事をやるんでしょうか。
やるなら、自分の経歴の「ブラックボックスの透明化」をしたらいかがでしょうか。

 

2024年6月 4日 (火)

忘れてはならない天安門事件

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いまから35年前の1989年4月、100万人を超える学生や労働者たちが民主化を求め、北京の天安門広場を占拠しました。
民主化デモは、約1カ月半にわたって続き、北京だけではなく中国各他の都市や大学にも拡大しました。

彼らの要求は、共産党による独裁体制の打倒、言論結社の自由、インフレ対策の実施、賃金の上昇、住宅事情の改善などでした。

これを弾圧することに決めた共産党は、1989年6月3日夜、天安門広場に軍の戦車と部隊を出動させました。
これは地元の軍ではなく、遠くの地区から連れて来られた「よそ者の軍隊」でした。

彼らは、4日の朝にかけて丸腰の市民に向けて無差別の発砲を繰り返す、という大量虐殺事件を引き起しました。

これは正規軍が無辜の自国民に銃を向けた事件でした。

その虐殺数は記録に残されておらず、幅がありますが、数百から1万人の間だと見られています。

「英国で新たに公開された外交文書によると、中国当局が民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件で、中国軍が殺害した人数は少なくとも1万人に上ると報告されていることが明らかになった。
「1万人」という人数は、当時のアラン・ドナルド駐中国英国大使が1989年6月5日付の極秘公電で英国政府に報告した。大使は、「中国国務院委員を務める親しい友人から聞いた情報を伝えてきた」人物から入手した数字だと説明している。
国務院は中国の内閣に相当 し、首相が議長を務める。
天安門事件の死者数はこれまで、数百人~1000人以上と、様々に推計されていた。」(BBC2017年12月26日)
https://www.bbc.com/japanese/42482642

中国治安当局は後日、発砲による死者はゼロだと主張しましたが、それを信じるものはひとりもいません。
時系列で見ます。

中国が歴史から葬り去ろうとしている天安門事件、30枚の写真 | Business Insider Japan

1989年4月21日 民主化に理解を示した胡耀邦・元総書記の死を追悼する学生たちが自然発生的に集まりました。
それがやがてみるみるうちに民主化要求運動として各地に拡大することになります。

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Business Insider Japan

5月21日、数万の学生と市民が北京の中心地にある天安門広場に集まった全国の学生や市民は百万人とも言われています。
しかし指導部は、学生に限られており、いくつもの系統にわかれ、政府と交渉する代表もいない状態でした。
このような混沌とした状態が、エネルギーを生むと同時に、後に出てくる趙紫陽との交渉にあたって統一した対応を取れない欠陥も持っていました。

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Business Insider Japan

一方、当時の共産党の党内は分裂していた。
趙紫陽は胡耀邦と共に、中国はやがて民主化するべきであるという考えを持っていましたが、それは分裂を招くとするのが鄧小平の考えでした。
党内闘争で胡耀邦と趙紫陽が勝利していたら、今の習近平の刑務所帝国はなかったでしょう。

鄧小平は趙紫陽に混乱の原因があるとし、北京市内に軍を展開し、戒厳令を敷き武力弾圧に踏み切ることを決断しました。
抵抗するなら殺せ、これが後に開放改革路線を取ることになる鄧小平の決意だったのです。
趙紫陽は戒厳令の発動を拒否しましたが、鄧小平は李鵬、楊尚昆、喬石といった最高指導部を味方につけて彼らに戒厳令の責任者を命じます。
5月19日、追い詰められた趙紫陽は、学生との対話でなんとか妥協点を見いだそうとしますが、拒否されます。そして失脚。

李鵬首相が戒厳令を宣言し、5月20日、人民解放軍は北京に向かい始めました。
彼ら兵士の多くは、地方から駆り集められていました。
学生たちは北京に侵攻する兵士に必死に支持を訴えかけました。
当時はまだ「解放軍は人民を守る」という幻想が残っていたのです。

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Business Insider Japan

学生たちは広場の占拠を1週間続けました。
天安門広場は権力の前庭から、初めて国民が自由な討論を楽しめる空間に変容したのです。
ニューヨークの自由の女神に模した「北京版自由の女神」がやさしく彼らを見守っているようでした。
たった1週間でありながらも、初めて中国国民は「自由」の空気を吸ったのでした。

6月2日、鄧小平は「首都に秩序を取り戻す」と述べ、武力弾圧を命じます。
警察力を行使せずに、いきなり軍隊に武力鎮圧と排除を命じれば、いかなることになるのか、愚劣、凶暴の極みです。

6月3日 第54軍、27軍、38軍の 約2万5000人の兵士の動員が始まり、6月4日午前1時に広場に入り、午前6時までに群衆を排除することが命じられました。
複数の外国メディアや大使館からの公電によれば、解放軍の進行は一旦は数で勝る民衆によって阻止されたものの、これらの部隊は市街地で民衆に対して無差別発砲を許されていました。
午後10時、天安門広場の西、約5kmで市民に対する最初の発砲が報じられた、とABCが伝えました。
軍は6月4日午前1時30分に広場に到着し、装甲兵員輸送車が学生たちの列を突入し、広場に入ろうとして学生たちに発砲しました。
それも威嚇ではなく、水平に銃を向けて撃ったのです。

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天安門事件の死者を忘れるな」真実を知るために戦う中国90年代生まれの若者たち | 裁判の記録も消されている | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

その虐殺の夜について、初代産経新聞中国総局長だった古森義久記者はこう書いています。
長文ですが、引用します。

「1989年6月4日午前1時、北新華街の片隅でも1・6キロも離れた民族飯店周辺から初めての銃声が聞こえてきた。西長安街ではバスやトラックが転覆、放火されて、オレンジ色の炎が道路沿いに広がった。
 銃声がさらに大きくなり、人民解放軍の装甲車のヘッドライトが東に向けて動くにつれ、群集の間の怒りが高まった。年配の女性が「なぜ中国人が中国人を撃つのか」と叫んだ。若い男が「われわれは中国人だが、彼らは違う」と声をあげ、中南海を指さして「彼らは悪者なのだ」と叫んだ。

 1時10分。群集の後方から腹に響く音が聞こえてきた。炎に包まれた装甲車が疾走してきた。装甲車の車輪に向け、群集は大きなコンクリート片を投げつけ、停止させた。怒った群集は装甲車を取り囲み、古い木材を積み重ねて火を放った。数分後、車の扉が開き、兵士が1人、飛び出した。群集は彼を捕まえて殴り、殺してしまった。

 1時20分。後続の装甲車隊が群集を銃撃しながら北新華街に次々に到着した。弾丸が飛来し、群衆のなかに血まみれになって倒れる人間が続出した。デモ参加者は兵士たちが空砲でもゴム弾でもなく実弾を撃っていることを知り、恐怖に駆られて天安門方向や脇道へと逃走した。

 1時45分。さらに新たな部隊が天安門に着き、装甲車隊が長安街に面して一定間隔で展開し、人民大会堂の東正面にも達した。装甲車隊は東長安街の約1万5000人の抗議者らにヘッドライトの光をあて、不動の態勢をとった。

 2時9分。毛沢東主席の肖像画の前に並んだ将兵と装甲車隊は長安街の大群衆に対し発砲した。群集は東の北京飯店の方向へと、どっと避難した。多数の人間が銃弾を浴びて倒れ、苦痛の悲鳴が起きた。報告者に向かって「なんとかしてくれ! あなたがた外国人に助けて欲しい!」と叫んだ男は次の瞬間、額の真ん中に銃弾を受けて倒れた。

 2時30分。約100人の解放軍兵士は歴史博物館隣の道路の向かい側に腹ばいで布陣し、ライフルを40メートルほど東のデモ隊に狙いを定めていた。

 2時40分、兵士たちが狙撃をするたびに、デモ隊はばらばらとなり、遮蔽物を求めた。
数分後には街路に戻り、仲間の死体を輪タクに乗せ、元の場所に集結した。
次に再び銃撃が起きると、10~15人のデモ隊の人間たちがまた倒れた。

 4時27分。天安門の照明は同3時30分に消えていたが、また点くと、装甲車、戦車、トラックなどが果てしないほど並んだ兵器集団が姿をみせた。照明は広場の北端近くの「民主の女神」の残骸を照らし出した。人民英雄記念碑の周囲からは煙が上がっていた。広場での銃撃は学生たちが人民解放軍への武器のない対決で、希望を失いながら殺されていったことを意味していた。

 5時30分。装甲車、戦車、トラック合計約50台から成る軍の第2の隊列が轟音をあげながら東長安街を通って、天安門広場に入った。民主活動家たちが怒りの声をあげると、解放軍将兵はジープに装備した機関銃2丁を撃ち始め、15分ほども銃撃を続けた。この大虐殺が中断されたとき、天安門広場と北京飯店の間の東長安街の路上には25~30の人間の体が横たわり、その一部はもがき、他は動かなかった。活動家たちはその道路ににじり寄り、死傷者を輪タクに乗せ、人民解放軍の狙撃手の列とまた対決する構えをとった。

 6時20分。装甲車、戦車、トラック合計約40台の軍の第3の隊列が東長安街を東から驀進し、広場に入った。人民解放軍将兵は民主活動家ら群集に向けまた10分ほど機関銃の激しい射撃を続け、多数の死傷者を出した。
 この2回の虐殺の間、天安門の政府拡声器からは奇妙に優しくなめらかな声が流れ、「北京の友人たち」に「混乱は終わり、秩序が回復され、乱暴者たちは鎮圧されました」という鎮静の言葉が伝えられ続けた。

 7時30分。拡声器が静かになって数分後、聞きなれた勇ましい中国国歌が流れて、周囲の空気を圧した。だが国歌の吹奏はその途中で歴史博物館の背後から響いてくるライフル発射の音と東長安街でのデモ参加者にまた発射された機関銃の連続音とに抑えつけられた。国歌が終わると、ソフトな女性の声が流れた。「同志たち、おはようございます。幸いにも反革命分子は粉砕されました。私たちの愛する天安門広場に平和が回復されました」と」

また駐中国アラン・ドナルド英大使の秘密解除公文はこう伝えています。

鎮圧にあたったのは山西省を主力とする第27軍」「1時間の退去期限を通告したが、実際には5分後にはAPC(装甲兵員輸送車)による攻撃が始まりひき殺され、大多数は広場から離れる途中で犠牲に遭った」「学生たちは腕を組んで対抗しようとしたが、兵士たちを含めてひき殺されてしまった。そしてAPCは何度も何度も遺体をひき、『パイ』を作り、ブルドーザーが遺体を集めていった。遺体は焼却され、ホースで排水溝に流されていった」「負傷した女子学生4人が命乞いをしたが、中国軍銃剣で刺されてしまった」
六四天安門事件 - Wikipedia

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・流血の後、広場の学生は排除された。当時、党は兵士を含む241人が死亡し、7000人が負傷したと発表した。イギリスの外交官は1万人と書き残した。多くの死者は広場の外で発生した。

・北京は軍の戒厳令下に置かれ、数千人が逮捕され、秘密に処刑された。天安門事件は中国の歴史書から消され、いまだに検索すらできない。

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さて、ニコラス・クリストフの事件25周年にあたってのコラムをご紹介します。
これが1989年6月3日の夜、に起きた中国軍による自国民虐殺の夜の出来事です。概説よりもより心に響きます。
ニューヨークタイムスの北京支局長だったクリストフは、第2次天安門事件(六四天安門事件)に関する報道で、1989年のピューリッツア賞を受賞しました。

私はクリストフがこのコラムで書くような、経済の発展が中産階級を生み、彼らが民主化を求めていくことによって、一党独裁国家からゆるやかに民主国家に生まれ変わっていくとする考え方は、残念ながら幻想だと思っています。
一般的には、多くの国はそのコースを辿りましたが、中国は世界唯一の巨大な例外として変化を拒んでいます。
それはあの事件から30年間変わらなかったし、今後30年間変わらないかもしれません。
なぜなら、飯がたらふく食える間は民主化要求は二の次にされるからです。

そして今や中国共産党は、ジョージ・オーウェルが描く「1984年」もかくやと見紛うような超管理社会を作り出しました。
ビッグブラザーたる中国共産党は、30年前のように人民解放軍を使うことなく、ITによって14億人を支配できると考えています。

唯一の民主化の「希望」が残るとすれば、経済が右肩上りの発展を止めた時に、どうなるかです。
その意味で、米国が仕掛ける経済戦争は、米国による「民主化要求戦争」の側面も持っています。
以下、クリストフ記者の記事を紹介します。

「フランスの田舎から世界を見ると土野繁樹の21世紀探訪」様から転載させていただきました。ありがとうございます。
写真は引用者がいれたもので、改行を施しています。

わたしが生きている限り、決して忘れない光景がある、それは、戒厳令軍に撃たれた重傷の学生を病院に運ぶ、人力車の車夫のほおから流れていた涙である。その人力車の車夫は勇気のある人だった。わたしより上等な男だった。

1989年6月3日の夜、われわれ(外国人記者とカメラマン)は天安門広場に隣接する長安街にいた。中国人民解放軍は学生の民主化運動を粉砕しつつあった。
あの夜、解放軍はまるで外国軍のように首都周辺の各所から北京に侵攻し、動いているものはかたっぱしから標的にした。天安門広場からはるか離れた場所で、わたしの友人の弟は自転車に乗って職場へ向かう途中で射殺されている。解放軍の侵攻がはじまると、わたしは自転車に飛び乗り天安門広場へ駆けつけた。長安街では学生を守ろうとする群衆が撃たれた。

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6月4日未明の惨劇のなかで、最も英雄的だったのは人力車の車夫たちだった。いつもは、彼らは三輪自転車の荷台に品物をのせて運搬するのだが、その夜は射撃が停まり次の射撃が始まる前に、彼らは兵士がいる方向に人力車のペダルを漕ぎ、殺された学生と傷ついた学生を拾い上げていた。

学生の遺体と負傷した学生を収容しようとする救急車にも、兵士たちは情け容赦なく銃撃していたが、車夫はそれをもろともせず救出作業を続けた。彼らの勇気ある行動は、わたしの心を激しく揺さぶった。
なぜなら、その春、外国人と中国人官僚から「民衆の教育レベルも洗練度もまだ十分ではない中国では、まだデモクラシーは機能しない」と繰り返し聞かされていたからだ。

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わたしが目撃した一人の車夫のことを、いまでも鮮明に覚えている。Tシャツを着たたくましい体格をしたその人は、高校卒でさえなかっただろう。だが、なんという勇気の持ち主であったことか。彼は倒れている若い男の方に向かった。

わたしは彼が射殺されるのではないかと思い、息を呑んでその姿を見ていた。彼は若い男の体を抱えて荷台に置き、ペダルを踏んで生きたままわたしたちの所に戻ってきた。彼のほおには涙が流れていた。

その人は外国人であるわたしと目を合わせると、三輪車の向きを変えゆっくりとこちらの方に近寄ってきた。わたしに政府がやったことの証人になってもらいたかったからだ。その夜の体験は戦慄すべきものだったから、彼の言葉を正確には覚えていない。
しかし、彼が言いたかったのは、あなたはここで起こったことを世界に伝えるべきだ、ということだった。その人はデモクラシーを定義できないかもしれない。しかし、彼はデモクラシーのために命を賭けていた。

中国が過去4半世紀で巨大な進歩を遂げたこと事実である。収入は飛躍的に増え、住宅環境も向上した。人力車の車夫だったあの人には選挙権はないが、彼のこどもは大学に通っているかも知れない。その進歩は議論の余地がない。

しかし、人間の尊厳はライス(パン)だけでは保たれない。人権をも必要とする。中国の偉大な作家、魯迅は「筆で書かれた虚言は、血で書かれた事実を隠すことはできない」と言っている。

中国の繁栄が続き、教育ある中産階級社会になると、彼らは政治参加への要求を強めるだろう。わたしはポーランドから韓国まで世界のデモクラシー運動を取材してきた。その体験からすると、いずれ天安門広場であの夜殺害された人々を追悼する式典が行われるだろう。

わたしはそれを確信している。そして、その式典の記念に人力車夫の像が建てられることを願っている。

 

※記事を差し替えました。

 

2024年6月 3日 (月)

小池氏の作法は共産党とうりふたつ

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小池百合子という政治家はバーチャルに生きているフシがあります。
ほんとうに現実世界でもがいてなんとか光明を見いだそうとしている下々の私たちと違って、「操る側」に初めから座っておられるようです。

そうとうに知られてきたことですが、小池女史の政治手法は、「話題作り」です。
内容などなくてもいい、とまれ「話題」さえあればワイドショーは食いつく、メディアが食いつけばなんか「やっている」イメージを散布できるというわけです。 

双葉より芳しで、小池女史が出馬の公認を求めた時のことを思い出します。 
自民が公認を寄こさないことを知っていながら、わざわざメディアを引き連れて誰もいない都連本部に押しかけるというえぐさを思い出しますなぁ。
彼女はこういう「絵」を見せたかったわけです。
「悪玉は都連。私はこの腐った都連のジジィどもと戦うジャンヌダルクなんだ」 
ミニサイズですが、女史の政治の2番目の師匠だった小泉元首相の「自民党をぶっ壊す」を彷彿とさせます。 
この「内容はないが、話題だけで引っ張る」、「政治をワイドショー化する」という政治手法は、豊洲市場移転でさんざん私たちが見させられてきたことです。 

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小池氏が就任直後の8月に最初にした仕事は、 「安全性」「不透明な予算」「情報公開不足」の3点を理由にした11月豊洲移転の延期でした。
「ヒ素が基準の4割も出た」、曰く「謎の地下空間」、そして前任者の追及です。
彼女がとった手法は、前の知事を全否定する易姓革命的な追及姿勢と、煽りを手段とするパーフォーマンスでした。
このやり方を見ると、小池氏に一番近い手法を取るのは、ほかでもない共産党です。
あ、そうそうレンポー氏もそうでした。このおふたりが似てしまうのはやり方が一緒だからです。

知事は行政官ですから煽ってはいけない、クールダウンして正しい情報を取捨選択して都民に提供すべきです。 
その知事がみずからデマに火を着けて、燃料を投下し続けたんですから目も当てられない。
ことごとく論破され、しまいには「安全だが安心ではない」なんてワケのわーらんことまでいう始末。
こんな非科学的なゼロリスク信仰は、いまでは反原発教徒でなくては言いませんよ。

私はこの小池百合子という政治家も、レンポー氏とはちょっと違う意味でヌエだと思っています。
保守とサヨクのキメラなのです。
その時によって保守の顔をしたサヨクとなるか、サヨクの顔をした保守となるか、その時の都合で使い分けています。

この人が都知事に当選した時には、全身これサヨクになりきりました。
レンポー氏もそうですが、このリトマス試験紙には共産党との関係を見るのが適当でしょう。
共産党とどういうつきあい方をするのかで、素性がハッキリします。

小池氏は、この豊洲移転問題を切り口にして都議会自民をフンサイしようとしていましたから、一も二もなく共産党に相乗りします。 
2016年当時、共産党は豊洲移転反対を掲げていました。
しんぶん赤旗はこう述べています。


「日本共産党都議団は16日、青果棟地下の空間で採取したたまり水の水質検査結果を発表し、猛毒のヒ素が土壌汚染対策法にもとづく溶出量基準(1リットル当たり0・01ミリグラム)の4割に当たる同0・004ミリグラム検出され、たまり水が地下水由来であることを明らかにしました」
(新聞赤旗2016年9月17日)
豊洲たまり水にヒ素/共産党都議団発表 地下水に由来 (jcp.or.jp)  

この「豊洲の地下空間から猛毒ヒ素が基準値4割検出」という共産党発表に、メディアが追随して大騒ぎし、今回の豊洲問題に発展していきます。 

 

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毎度おなじみの共産党の手法ですが、メチャクチャないいがかりです。
まずはショッキングな風評を叩きつけてメディアを巻き込み、それを火種にして政治をショー化して延焼させ、自分がその主導権を握ろうとします。
かつて原発事故の風評問題で、これでもかとばかりに農民や漁民をいじめまくったのがこの共産党のやり口でした。
オスプレイも同じで、「落ちてくるぞ」と煽りまくり、とうとう沖縄反基地運動の定番ネタにしてしまいました。

話を戻します。
当然のことながら、「基準値の4割」なら文句なく安全と評価すべきですが、それがどうかしましたか。
それ以外、どう評価しようがあるのかお聞きしたいものです。
そもそも共産党は、「基準値」の意味をまったく理解していません。

基準値は種々の判断の基準となる数値のことです。(あたりまえだ)
逆に「基準値4割」なら、問題とするほうがおかしいのです。
共産党が騒いだのは「基準値4割」です。
しかも共産党は何か大きな誤解があるようですが、ヒ素の類を「猛毒」と呼ぶからおかしくなるのです。
確かに過剰に摂取すれば「猛毒」となりえますが、環境中にはごくあたりまえに存在している物質です。
確かにヒ素(As)は、IRAC(国際がん研究機関)が発がん性物質であるグループ1に指定されています。
これは「人体に対して発がん性が認められる」物質で、長期間ヒ素が体内に入るとガンの発生リスクが高くなるといわれています。

ただし条件があります。
病気になるには、「基準値を越える量を長期間、あるいは一気に大量に摂取する」という条件がついています。
だから、その目安としての基準値が意味を持つのです。
たとえばよく食品の焦げは発がん物質だなんてしたり顔でいう人がいますが、デマです。
確かにコゲの中にはヘテロサイクリックアミンという発癌物質が含有されていますが、イワシの干物に当てはめてみると、体重60kgの人に毎日76トンの干物を食べさせてグループ2のリスク量に達します。
「基準値の4割だぁ」と悲鳴を上げている皆さん、ひとつやってみたらいかがでしょうか。

土壌、地下水、海水にもヒ素は含まれています。
そもそも食品基準は100倍のマージン(余裕)を持って定められています。

基準値設定は動物実験でやっていますが、さらに人間と動物では身体の大きさや感受性が違うということで、それを10倍にし、そのうえに人間は個体差があるのでそれをまた10倍にしています。
え~、本当に危険だと思われる基準値の、とれだけになりましたか。ざっと100倍ですね。
いわば崖の数百m先を基準値にして安全を定めているわけです。
だから勝手に共産党の皆さんのように、「基準値の4割だから猛毒だぁ」などというと、自分の非科学ぶりがバレてしまうことになります。

海水や地下水、土壌にも一定量含まれていますから、人体にも食物の形で移行します。
長くなるので略しますが、米にも海産物にもヒ素は含有されています。

農林水産省 食品中のヒ素に関する基礎情報 


・精米のヒ素含有量・・・0.14mg/kg(平均値)
・ひじき(乾物)     ・・・93
・のり(乾物)       ・・・25

もし共産党が言うように、「猛毒」ヒ素を食べた瞬間死んでしまったり病気になったら、日本民族はとっくの昔に滅亡しています。

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ましてや、打って間もないコンクリートタタキの上で測定したら、石灰の強アルカリが出るのはあたりまえじゃないですか。
私は当時この映像を見て、メディアの馬鹿もついにここまで来たなと思いましたもん。
それを「うわ~、強アルカリでリトマス試験紙が真っ青です.」とやるメディアの脳味噌は、ホントに大丈夫なのでしょうか。
馬鹿の集まりをメディアというようです。

小池氏が百条委員会まで持ち出して石原元知事を追及した時、彼はこのように答えています。


「私はこの問題について発言された米田(稔)さんという京都大学の最高権威の(都市環境工学の)学者に話を聞きました。直に聞きました。
あとは彼に紹介された中西(準子)さんという、ある組織(産業技術総合研究所)の最高権威者の女性の方に「豊洲の現状というのは全く危険がない。なんで豊洲に早く移さないのか」と。
そして「豊洲が風評に負けて放置されるのは、科学が風評に負けたことになる。これはまさに国辱だ。世界に(対して)日本が恥をかくことになるという」と忠告もいただきました。
ゆえに私はですね、小池さんは今、権限をもって豊洲に移転をすべきだと思いますし、しないのであれば、私は(小池さんを)告発するべきだと。要するに不作為の責任だと思います。それも含めて申し上げたいと思ってこの機会を設けました。」

見事としかいいようがない、論理構築の反論です。 

「豊洲が風評に負けて放置されるのは、科学が風評に負けたことになる」 

リスク評価の世界的権威である中西準子氏の言葉で、この豊洲問題は言い尽くされています。
結局、豊洲問題は科学的な安全性論議で終了させるべきでした。
元駐留軍のドライクリーニング工場があって土壌汚染が豊洲を凌ぐとされ老朽化が進む築地より、汚染対策が出来上がった豊洲と、いずれが都民の台所としてふさわしいか考えてみるまでもない話です。 

ところが小池氏はヌエ故にこの移転問題を政治的に利用してしまったのです。
そしてこの移転反対闘争が、彼女の都知事としての唯一の「実績」だったのですからため息が出ます。

 

2024年6月 2日 (日)

日曜写真館 川原への道野茨の花のみち

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花茨仲間はづれの女の子 白石美喜枝

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雨に香のよわらで哀れ花茨 五竹坊

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花茨来し方をまた行方とす 深谷雄大

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花茨雨ひかり降りひかり消ゆ 渡辺幼

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我もまた岡にのぼれば花茨 渡辺重昭

 

※花茨=野ばら

 

2024年6月 1日 (土)

ヌエとしての蓮舫

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蓮舫氏の二重国籍問題で明らかにされたのは、彼女が「ヌエ」だということです。
ヌエ(鵺)とは、「平家物語」にでてくる妖怪で、サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビだそうです。
ヌエはおとなしいいきもだそうですが、一転して噛みつくカミツキガメに変身してしまうのですから、おおこわ。
この人の場合、日本の顔、台湾の胴体,中共の手足、ではさしずめ尾っぽは東京ですかね。

このように二重国籍とは、日本-中国-台湾のいずれから見ても、「自国籍があるように見えてしまう」から困ったもんです。

「1972年以降、私の国籍は形式上『中国』。中国の国内法では外国籍を取得した者は自動的に(中国籍を)喪失をしているので、二重国籍にはならない」

この場合の「中国」は中華人民共和国なことは明らかです。
なぜなら中国しか外国籍取得と同時に自動的に国籍放棄になる法律を持つ国はないからですが、これでは彼女は自分が「中国人」といっていることになります。

ではこの1972年という年はどのような意味でしょうか。それはたぶん1972年が日本と中華民国が断交した年だから、自分は「中国籍」だと言いたいようです。
この人がわかって言っているなら危険、わかっていないのなら愚かです。 
日本の国籍で台湾出身者が「中国」と表記されるようになったのは、1972年以降ではありません。 
1952年(昭和27年)4月28日、つまり日本が戦後主権を回復した時から一貫しています。 
この日、日本は中華民国と「日華平和条約」に署名し、この7時間半後にサンフランシスコ講和条約が発効しました。 
同時に日本は、「外国人登録令」(昭和22年公布・施行)を廃止して、「外国人登録法」を制定し、台湾出身者を中華民国(中国)の国民とみなして国籍を「中国」と表記するようになったのです。 
1969年6月以降は、中華人民共和国出身者も同じく「中国」と表記されるようになり、現在に至っています。 

つまりこの場合の「中国」とは、必ずしも中華人民共和国を指しませんし、1972年の断交の年はこの問題とはなんの関係もないことなのです。 
あえて日本政府が「中国」と記しているのは、中国と台湾との関係で日本政府が取り続けている「あいまいな態度」があるからです。

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日本政府は中華人民共和国と国交を樹立するにあたって、台湾が中国の一部だとする中国の主張を「尊重した」という微妙な表現をとりました。 
これは台湾を中国領土だと認めたわけではなく、そういう主張を中華人民共和国側がしているのを日本政府は「十分尊重している」(共同宣言)ていどの意味です。
実はこれでも中国に譲歩しすぎで、カナダのように「テーク・ノート(留意)する」、あるいはオーストラリアの「アクノレッジ(認識)する」程度の表現でよかったのです。
ここから、あたかも日本は「台湾は中国の一部」という中国の主張をすでに承認したかのような錯覚が日本国民の間で生れてしまいました。田中角栄の拙速による失敗です。 

ただし、「留意する」も外交的にはよく使われる表現で、相手の立場に同意はしないが、その立場だということは理解しているていどのニュアンスで止まっています。 
日本政府とて決して台湾を中国領土と認めたわけではないよ、漠然と「中国」と呼ぶことでその意志を表明しているんだ、というのがこの「中国」に込められた意味です。
それほどデリケートなガラス細工の関係があることを、どうやら蓮舫氏は知らないようで、彼女にかかると「中国」=中華人民共和国となってしまいます。やれやれ、困ったお人だ。

我が身かわいさのあまり、「中国」表記=中華人民共和国だと国民に説明してしまったわけで、この蓮舫氏の言い分が正しければ、現在の台湾(中華民国)は「中華人民共和国台湾省」という行政区となってしまいます。
したがって蓮舫氏の論法ならば、 中国軍(中国人民解放軍)の台湾侵攻は、中国の正統な領土への進駐にすぎないことになります。
このようにこの蓮舫発言は、在留台湾人の地位を貶めて危機にさらし、さらには日中台の微妙な含みを残したバランスを崩す結果となったのです。
蓮舫が台湾籍を持ちながら、共産中国との統一を望む統一派と同じ立場だと言われるのはそれ故です。

ところで、蓮舫氏の血脈を調べて分かったことは、彼女の祖母にあたる陳杏村という女傑は、魔都と呼ばれた戦前、戦中の上海を舞台にして、日本軍特務機関、蒋介石のテロ組織である青幇、あるいは中国共産党の特務をてんびんにかけて巨富を築いた人物だということです。
陳杏村は阿片取引などで巨富を築き、これを元種にして戦後日本の政界工作をすることになります。 
これが戦後政界を揺るがせた「台湾黒いバナナ事件」です。
ちなみに蓮舫氏は、つい最近までこの祖母の建てた「バナナ御殿」に一家で住んでいたそうです。

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  父親の謝哲信と幼年期の蓮舫

この時に、日本政界工作に巨額の黒い資金をばらまく役割をしたのが、蓮舫氏の父親である陳杏村の息子・謝哲信でした。 
父・謝哲信氏が亡くなった時に、蓮舫氏には大きな遺産が残されたはずです。  
父親の謝氏は政商だった母・陳杏村の台湾バナナルートの日本事務所長のような立場だったからです。 
巨額の金が謝氏の元にあつまり、黒い霧の中に消えていきました。 

憶測の域を出ませんが、蓮舫氏が相続税を租税回避するために、台湾籍を捨てなかったとしてもそう不自然ではありません。
というのは台湾は、日本よりはるかに相続税が安いからです。 
ここにも、彼女のもう一つの体質である、「違法ではないが、限りなく脱法に近い」ことをやってのける体質が現れているのではないか、と見る向きもあります。  

蓮舫氏の祖母である陳杏村は、これはもう女傑、あるいは、女帝というにふさわしい存在でした。 
戦時中に表向きのタバコ商の看板の裏で、日本海軍の裏工作であった阿片取引などに関わっていたとされています。

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当時日本海軍は米国などのタングステンなどの戦略物資の禁輸で苦しんでいました。しかし、哀しいかな軍人にはどうしていいかわかりません。 
そこで白羽の矢がたったのが、大陸に様々なパイプを持つ右翼の児玉誉士夫でした。 
児玉は、上海を拠点にしてこの裏工作に当たります。これが俗にいう「児玉機関」です。 
児玉は、1937年、外務省情報部長河相達夫の知遇を得て、中国各地を視察し、翌38年には海軍嘱託となり、41年から上海で児玉機関を運営しています。 
この裏工作の資金源が阿片密売でした。  

陳は、上海で児玉機関のための物資調達や、阿片密売の売り捌きなどに協力していたようです。 
この阿片密売によって陳杏村は巨富をなし、児玉も戦後、日本に持ち帰った巨富を元手にして黒幕にのしあがっていきます。 

では陳が単純な日本軍協力者かといえば、どうも違うようです。 
どうやら陳は二重スパイのようでした。
国民党政権のテロ組織であった青幇は漢奸(裏切り者の中国人の意)狩りをして数万といわれる白色テロをおこなっています。 
青幇の本拠地は上海にありました。
しかし、陳は日本軍に取り入って巨富を得て、しかも戦闘機を2機も贈るという派手なまねをしておきながら、結局、青幇の漢奸狩りからは逃げおおせています。
後に一度逮捕された際も、釈放されています。 
疑わしき者を容赦なく殺しまくった青幇にしては不自然です。 

ここから、陳は実は日本軍協力者という仮面をかぶって、その情報を国府に流していたスパイではなかったのか、という疑惑もささやかれています。
中国情報サイト・サーチナはこう書いています。


「1945年、日本軍が降伏したのち、陳杏村は売国罪で起訴されたが弁護士に弁護を頼んで仮釈放となり、台湾に帰った。
台湾当局の裁判所は当時の社会的事情に迫られた事、国民党の地下工作と関係があった事の理由から「陳杏村売国事件」に無罪を言い渡した。」

この陳が戦後に手がけたのが、台湾バナナの日本輸出でした。

同じくサーチナはこう述べています。


「台湾に帰った後も、陳杏村は依然として実業と政治の世界で大いに活躍する名声赫々たる女丈夫であった。
彼女は大一貿易有限公司総経理、福光貿易株式会社社長、契徳燃料廠股フェン有限公司董事長を歴任し、更に台湾地区青果輸出業同業公会理事長を務め、台湾が海外に進出を果たす、とりわけ日本向けバナナ輸出貿易事業において主導的な役割を果たしたという」

当時、バナナ貿易ほどボロイ商売はなかったようです。 
日本人にとっては高嶺の花であるバナナは高価で売れ、しかも輸入枠があったからです。 
ですから、一回このバナナ輸入枠さえ押さえてしまえば、安く輸出できて、ベラボーに高く売れる市場を独占できたのでした。 
これが陳の錬金術第二幕でした。
彼女がやった方法は、裏金をふんだんに政界にバラまいて、バナナ貿易を独占することでした。 
このようにして政界工作をしていた「台湾バナナの女帝」・陳杏村と、既に政界のフィクサーとなっていた児玉とは二度目の協力関係を持ちます。 

ところで、陳杏村の孫の蓮舫氏は、高野孟氏という中国派ジャーナリストの手引きで北京大学に留学します。 
蓮舫氏という人は、「国家」という存在そのものを根本的に理解できません。
それは祖母や父親から受け継いだ、しょせん「国家」などは自分のために利用するものであって、帰属は上っ面だけでいいという考え方が、孫の蓮舫氏の中にも根強く存在するからです。

なるほど彼女は自分で言うように、「多様性の象徴」ではあることに間違いないでしょう。
ただしそれは、この二重国籍事件で明らかになったように、極めて利己的な意味において、ですが。

蓮舫氏は成人した後に北京大学に留学しています。 
陳はこれまでの経緯からなんらかの北京政府とのパイプを持っていたはずですが、それと蓮舫氏の留学と関連づけられるかどうかは不明です。

147297343709220199179_jfn061115高野孟氏と蓮舫氏

ここにもうひとり蓮舫氏の人生に、強い影響を与えた人物が登場します。 
それがかつて総評左派労働運動を率い、「高野総評」とまで呼ばれた高野実の息子である高野孟氏でした。
父親の実氏は生粋のマルクス・レーニン主義者で、中ソを平和勢力と規定し、労働運動を革命の学校と位置づけたような人物です。
長男である高野氏もまた、中国派エージェントとしてマスコミ業界で知らぬ人とていない存在でした。サンデープロジェクトでよく見る顔でしょう。
ちなみに、鳩山由紀夫氏と共に旧民主党の立ち上げに関わり、現在も鳩山氏の主宰する東アジア共同体研究所の理事を務めています。
日本を火の中に入れてやるとほざいた駐日大使の懇談会にも、鳩山氏や福島氏と並んで顔を出していた人物です。

その彼が蓮舫氏を北京大学に送り込み、さらには弟子格の村田信之氏まで付き添わせ、やがてふたりの結婚の媒酌人まで努めています。
後にテレビ業界に蓮舫氏を紹介し、その後、政界入りを勧めたのも、この高野氏です。
ただ、その後の蓮舫氏が中国の意に沿ったことを、多く発言し始めたことは事実なようです。

そしていま東京都知事選において再び蓮舫氏は「ヌエ」体質を武器にしようとしています。
それは「オール東京」という、オール沖縄をパクった選挙戦術を使ったことからもわかります。
今回は「無所属」だそうですが、民主党政権以来、一貫して民主党系列を転々とし、民進党では代表までやった人物が、なにをいまさら「無所属」だつうの。しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ。
まぁ、立憲から見れば立憲に見え、共産党から見れば共産党に見え、無党派から見ればそうも見える、というだけのヌエです。

オール沖縄とは共産党を中心とした全野党共闘のことですが、要は共産党を隠して、立憲と共産党が共闘関係を結ぶことです。
むき出しの立共共闘とせずに、反自民を組んだら共産党も「たまたまいた」という体裁を作るための装置です。
ご丁寧には、蓮舫氏が落選すれば東京26区をあてがい、立憲を辞めた松原仁氏と競わせるという安全装置までついています。
つまり、この東京都知事選は、次の衆院選のモデル作りとして立憲共産党が考えたものなのです。

蓮舫氏、そういえば「都政をリセット」だそうですが、日本を根底からリセット、すなわち全否定したい共産党好みのフレーズではあります。

 

写真  アオサギです。

 

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