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2024年6月22日 (土)

正恩のイルソン離れは自信か、自滅か

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先月、日本政府はモンゴルで北朝鮮と面談していたようです。
報じたのは韓国中央日報です。

「北朝鮮と日本が最近、モンゴルで接触したことが分かった。北朝鮮が公開的には日本側と「すべての接触を拒否する」と公言しながらも秘密裏に会ったのは経済的・外交的な突破口を模索しようとする試みに読まれる。
12日、複数の情報筋によると、北朝鮮と日本の関係者らは先月、モンゴルで会った。関連事情に詳しい消息筋は「両国が先月中旬、モンゴルのウランバートル近くで会ったと承知している」とし「北朝鮮では偵察総局・外貨稼ぎ関係者など3人が参加し、日本側からは有力な家門出身の政治家が代表団の一員として出てきた」と明らかにした。 」
(中央日報2024年6月13日)
朝日、モンゴルで秘密接触…「金正恩氏の直接指揮を受ける情報機関関係者が出席」(1) | Joongang Ilbo | 中央日報 (joins.com)

面白いのは、与正が対話を拒否していた後に会っていることです。

「今回の朝日接触が注目されるのは、北朝鮮がわずか3カ月前に公開的に日本を相手にしないと明らかにしたためだ。金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長は3月25日、岸田文雄首相が「できるだけ早い時期に」首脳会談を提案してきたと紹介し、興味を示しているようだったが、翌日すぐに「日本は歴史を変える勇気がない。日本とのいかなる接触・交渉にも背を向け拒否する」と明らかにした。3日後には崔善姫(チェ・ソンヒ)外相がまた「朝日対話は我々の関心事ではない」と明らかにした」
(中央日報前掲)

このモンゴル会談で北朝鮮が出してきた代表は、正恩直轄の工作機関である偵察総局と出稼ぎ担当でした。

「今回のモンゴル接触に参加した両国代表団の面々も目を引く。北朝鮮では、外務省ではなく最高司令官(金正恩国務委員長)の直接指揮を受ける諜報機関である偵察総局の関係者が出席者リストに含まれていた。
金委員長が直接関わっているという意味とみられるが、専門家の間では北朝鮮が偵察総局関係者を派遣したのは日本人拉致被害者問題を議題化しないという意志と捉えるべきだという見方もある。実際、偵察総局は対南・海外工作を担当してきた部署で、日本人拉致被害者問題とも無関係ではない」
(中央日報前掲)

日本相手に出稼ぎ担当が出てくるというのは奇妙ですが、身元をロンダリングするためではないかと見られています。
あるいは、北にとっての大きな財源である朝鮮総連の権益と関係あるのかもしれません。
ちなみにこういう時期に蓮舫氏は朝鮮学校無償化を進めるとのことで、まことに彼女らしく時宜にかなったイカレポンチの公約です。

蓮舫氏はともかくとして、岸田氏が訪朝に色気を出しているのは事実なようですから、お止めになったほうがよい。
たぶん岸田氏は「得意の外交」で一気に人気浮揚なんて近視眼的な思惑でしょうが、アンタもうそんな状況でしょうに、北朝鮮のほうも大きな権力の地殻変動期に当たっています。
そんな時期に北となにか決めたとしても、アチラさんが履行されるかどうかまったく予想もつきません。
こちらもこちらで岸田氏が9月以降首相である可能性は、小惑星の地球衝突くらいの確率しかありませんから、結局、カネだけふんだくられて国交正常化という禍根を残してオシマイになりかねないでしょう。
双方共に権力基盤が揺らいでいる時に、なにか決定的な外交をしてはいけません。
相手の動向をみきわめてからでも遅くはありません。いずれにしても今ではありません。

さてこの時期、優れたコリアウォッチャーの李相哲氏が、北の地殻変動について興味深いことを述べています。
李氏は、正恩がジィ様にして初代の独裁者であるキン・イルソンの路線から逸脱し始めているのではないかと見ています。

「この頃の北朝鮮の金正恩総書記がやっていることや打ち出す政策はどう考えてもおかしい。今年1月に開かれた最高人民会議での施政演説で「わが民族史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去する」とまくし立て、韓国への攻勢を強めている。ミサイル発射は常態化し、最近も韓国にゴミ付き風船を大量に送り付けるなど挑発を繰り返す。
また、まねしていた祖父の金日成に対する態度を一変させた。政権を受け継いだ直後には遺体安置所を頻繁に参拝したが、今年は行っていない。ただの怠慢か、意図的なのかは不明だが、先代の陰から脱して新時代の到来を演出するつもりなのかもしれない」
(李相哲2024年6月19日)
正論>金正恩政権の崩壊視野に対応策を  龍谷大学教授・李相哲 - 産経ニュース (sankei.com)

いままでなにかといえば「建国の父」であるイルソンの御威光を担ぐことで、自らを「白頭山の血脈」と仰々しく神格化してきた金一族が、とうとうイルソン離れを開始したことをどう考えるべきでしょうか。
李氏はこう続けています。

「それを自信の表れとみるべきか、危機を乗り越える苦肉の策か評価が分かれようが、筆者は、正恩体制は崩壊過程にあり、崩壊を食い止めようともがいているのではないかとみる」
(李前掲)

外交においても、経済、軍事においても、イルソン時代の伝統的やり方が通用しなくなったために、正恩はこの無理偏にゲンコツというやり方を繰り返すことができなくなりつつあるようです。
おもえば12年前に正恩が政権を継いだ時から、すでに正恩の権威は揺らいでいました。

ドイツ大使として北朝鮮に2度赴任したトマス・シェーファー元大使は『金正日から金正恩まで』の中でこう述べています。

「シェーファー氏が、金正恩氏の不安定な立場を確信した根拠として挙げたのが、「私の記憶に残った会話」だ。金正恩氏が2011年12月に権力を継承してから間もない頃、「朝鮮語を使う相手」と交わした会話だ。シェーファー氏は「相手はロイヤルファミリーについて語るとき、求められていた尊敬語を使わなかった」と語る。「金正恩は、(権力の継承によって)自動的にエリートからの尊敬と服従を得ることができなかった」と指摘する。
シェーファー氏の指摘を裏付ける別の情報もある。日朝関係筋によれば、同じ頃、日本政府も北朝鮮軍の将兵が交わした会話についての情報を入手していた。内容は、新しい指導者である正恩氏を馬鹿呼ばわりする内容だった。将兵らは、正恩氏の軍に対する統率力を疑い、未来を悲観していたという」
(牧野愛博2021年6月4日)
「金正恩氏は絶対的独裁者でない」北朝鮮で2度大使を務めた外交官が見た、権力の構図:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

朝鮮語は極端に上下のけじめにうるさい言語で、ひとつ歳が違っただけで尊敬語を使わねばなりません。
それがこの独裁国家で、指導者を尊敬語なしで語るということは、3代目をただの親から権力を引き継いだだけのボンボン扱いしていたということです。

「金正恩氏は労働党第一書記に就任した直後の2012年4月の演説で「二度と人民が(飢えで)ベルトを締めるようなことはさせない」と宣言、経済の立て直しに取り組む姿勢を見せた。経済開発特区を20カ所つくると発表、海岸観光リゾート地区開発に着手したが、いつの間にか特区の話は消え、開発事業も頓挫した」
(李前掲)

正恩は、開放改革派と強硬派に分裂していた時期に権力を引き継いでいます。
開放改革派とは要するに中国派のことで、そのボスは正恩の叔父の張成沢(チャンソンタク)でした。
張は中国流の開放経済をめざし、資源を売りさばいて暴利を貪る一方、中国共産党とベッタリの党運営をしようとしていたようです。
張にとって正恩など甥の小僧っ子にすぎず、意のままに操れると思ったようです。
もし仮に張が正恩のパペット化に成功していたなら、いまごろ東アジアの辺境にベトナムやカンボジアのような中国型経済の国がそれなりに栄えていたかもしれません。
この時期、一時的に平壌はバブル景気で沸き、党官僚のどら息子がスポーツカーを乗り回したそうです。

ところがどっこい、正恩は2013年12月に張のクーデターを事前に察知し、張を残虐な方法で処刑します。
党内闘争こそ主戦場、逆らった者は全部殺せ、というのが金一族の家訓ですから、外から金一族の婿になった張は甘かった。

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正恩体制に入ってから粛清されたのは240人以上と言われています。
正恩の兄の正男もまた長年にわたり、北朝鮮の世襲体制に疑問を呈しており、張と共に中国型開放改革経済の導入を提唱していたために、2017年2月にクアラルンプール国際空港でVXガスで暗殺されます。

正恩にとって体制護持の障害になる者は、公衆の面前で見せしめ的に残虐に殺害する公開処刑スタイルを取ります。
ISの公開石打ち刑と発想は一緒で、 法治国家ウンヌンというより、数千年前の古代国家と思ったほうがいいでしょう。
戦車とか戦闘機を持って洋服を着ているから見た目でだまされますが、やっていること自体は数千年前の古代国家そのままです。

張や正男の処刑と開放改革派の粛清によって、短かった開放経済の季節は終わり、正恩肝いりの馬息嶺スキー場はわずかにロシア人観光客が訪れただけで閑古鳥が鳴く状態となり、総合病院も建設途中で放棄されたままです。
そしてとうとう昨年の経済成長はマイナス6・2%を記録しました。

一方、軍事路線は人民軍がほとんど燃料不足と栄養不良で動かなくなり、備蓄していた砲弾やミサイルの類も劣化しきっていたことが、今回のロシアへの砲弾提供でバレました。
頼みの弾道ミサイルも、この間の軍事偵察衛星の度重なる失敗でわかるように壁にぶち当たっています。
そこに降って湧いたのが、ウクライナ戦争によるロシアの砲弾絶対ピンチという事態だったわけです。

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朝日  国でひとりだけ肥満している独裁者

李氏は、正恩体制の崩壊を三つの側面で見ています。

一つ目は配給制度です。

「配給制度。北朝鮮住民が体制に臣従し、首領を崇(あが)める理由は根本においては配給制度のおかげと言ってよい。それが崩壊した。
韓国統一部が実施した正恩政権誕生後に脱北した約6千人の調査によれば、7割が国から配給をもらった経験がない。
人民軍に対しても食糧配給を減らし、兵士の半数近くが栄養失調に陥っているとの国連報告もある。現在、軍の中核をなす20、30代の若者は配給制度などの恩恵を受けず、労働党や正恩氏と連帯感はなく体制に対し忠誠心を持たないと言われる」
(李前掲)

そして二つ目は洗脳教育。

「北朝鮮当局は住民を外部の世界から孤立させるため鉄の壁を作り、情報を遮断してきた。金一族の独裁が70年以上持ちこたえた理由は、徹底した情報統制にあったと言ってよい。
当局は、保育園の頃から住民を各種組織に従属させ、首領を崇め、首領のために行動するように強要。学校、職場、家庭でも首領唯一思想(主体思想)という統治理念を注入できるシステムをつくり、住民を教化し、洗脳してきた。それが崩壊中だ。
携帯電話をはじめ便利なデジタル機器の普及で住民の多くが外部情報に接する手段を手にしたからだ。前出調査では8割が外部から入ってきた映像を見たことがあると答えた」
(李前掲)

そして残ったのが、三つめの恐怖政治です。

「最近では恐怖統治もうまく機能しないという実態が浮き彫りになった。昨年夏、水害対策を怠り、穀倉地帯の干拓地で水田の冠水を招き、食糧生産に大きな支障を来したとして金徳訓首相に罵詈(ばり)雑言を浴びせた。それを労働新聞に掲載させておきながら、首相を粛清しなかった。正恩氏が「太っ腹政治」をやるようになったという評価もあるが、北朝鮮のような独裁体制では、間違いなく権威失墜につながるだろう」
(李前掲)

今回ロシアと軍事協力協定を結び、砲弾やミサイル提供の代償として食糧や燃料を得たとしても、すでに体制を支える3本の柱は折れてしまっているのです。

 

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コメント

 正恩の「金日成ばなれ」は国内対立の火種となりかねません。
ウソとごまかしにまみれた程度の低い言説ではあっても、これまでは理論や理想、イデオロギーがありました。金正日の主体思想もそうで、そうとう時間をかけて準備して練られた跡があります。御身大事の中身のなさは、今の体制の致命傷になるかも。
これじゃ、朝鮮総連だって頭抱えるんじゃないでしょうか。

岸田さんの一発逆転ねらいはついえたようで、中央日報が抜くのには深い意味がありそうです。この時期、韓国としてはだいぶん迷惑なのでしょう。

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