高笑いのカマラはなにを考えているのか?(内政篇)
民主党大統領候補となったカマラ・ハリスがどのような政策を持っているのか、あまり報道されていません。
米国政治紙「ポリティコ」が整理している記事がありますので、ご紹介します。
カマラ・ハリスの綱領がジョー・バイデンの綱領とどう違うのか (politico.com)
■中絶の権利
・ハリス・ロー対ウェイドを超える連邦政府の中絶保護を提案し、州の制限を制限した。
・バイデン・中絶に対する連邦の権利を保証したが、州が中絶を制限することも許可したロー対ウェイド事件を復活させることを誓う。
このロー対ウェイド法とは、妊娠初期の中絶を許容した連邦最高裁判決のことです。
「1973年に米国の最高裁判所が出し(女性が人工妊娠中絶を受ける権利が憲法で保障されるプライバシー権の一部であるとする)、米国全州で中絶が合法化されることになった画期的な判決です。
元々はテキサス在住だったジェーン・ロー(当時の仮名)がテキサス州ダラス郡の地方検事ヘンリー・ウェイドに対して起こした訴訟です。妊娠が分かったローが中絶を受けようとしたら、テキサス州では妊娠した人の命に危険が及ばない限り、中絶できないと知ったことから、訴訟に踏み切りました。
弁護団は、原告のローが州外に移動して中絶を受けることができないこと、さらにテキサス州の法律の文言が曖昧で、合衆国憲法で定められる原告の人権を侵害していることを主張しました。その結果、最高裁判事は7対2でローの主張を認めました。この判例によって、米国全土で妊娠初期の3カ月は人工妊娠中絶が合法となり、妊娠している人が政府の過度な制限を受けずに中絶を選ぶ自由が守られました」
ロー対ウェイド判決とは? よく聞かれる質問にお答えします | IPPF
しかしこのロウ対ウェイド判決は、トランプ政権時の22年に連邦最高裁で覆りました。
現時点ではトランプは中絶は各州が判断しろという姿勢で、バンスは全面的に禁止しろということを発言しています。
「アメリカのドナルド・トランプ前大統領は8日、人工妊娠中絶の権利については各州が決定すべきだとする声明を発表した。中絶の権利は11月の大統領選挙で争点となるとみられ、トランプ氏が所属する保守・共和党からは、妊娠15週以降の中絶を連邦レベルで禁止することを同氏に期待する声が出ていた」
(BBC4月9日)
トランプ氏、中絶の権利は各州で判断すべきと主張 大統領選にらみ - BBCニュース
私たち日本人からすればなんでこんなことで争っているのか理解に苦しみますが、これがフランスとは真逆のゴリゴリの宗教国家米国の実態です。
いま26州で中絶は禁止されています。
その根拠は、人間は受精した瞬間から人間である、すなわち「受精卵も人間である」という考えがあります。
これは十戒の中の一つに、人間を「殺してはならない」という教えを犯すことになるとされているからです。
キリスト教文化センター │京都 同志社大学 (christian-center.jp)
米国が2つに分断 26州で中絶を禁止・規制強化へ (youtube.com)
「米国では人工妊娠中絶の是非が、国や州の選挙に大きく影響する重要テーマとなっている。その背景にあるのが、キリスト教の伝統的な価値基準を声高に訴えるキリスト教右派の存在だ。共和党の保守派と強く結びつき、中絶反対運動を展開している。
キリスト教右派は聖書に書かれたすべてを真実とし、避妊にも否定的な姿勢を示す。受精が生命の始まりという考えをとるため、中絶は胎児の殺人と断じている。これはカトリックの信仰と相通ずるため、カトリック保守派も連携している」
米国で「中絶の権利」が選挙の争点となる宗教的理由とは | 世界の宗教地図 わかる!読み方 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
バイデンはカソリックですから元来は中絶反対派のはずですが、この問題に関しては連邦最高裁判決を支持しつつも、州の判断も否定しないといういわばコウモリ的な立場を見せています。
一方トランプはプロテスタント原理主義の福音派の票田を抱えていることから、中絶反対派かとおもいきや、意外にも州き判断に任せるという慎重さを見せています。ワーワーと過激なことを言っているのはバンスのほうです。
カマラは聖書解釈に幅があることを許容するバプティスト派ですが、信仰以上に民主党左派の代表的人物です。
なお、日本では以下の条件で人工中絶が可能です。まぁ日本人の平均的考え方でしょうね。
「人工妊娠中絶の適応は、次の 2 つである。 ①妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により 母体の健康を著しく害するおそれのあるもの、② 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶 することができない間に姦淫されて妊娠したも の、99.9%近くの人工妊娠中絶が①の事由で行わ れている」
d05.pdf (med.or.jp)
この中絶問題は、ハリスがバイデンより左派的であると評価されている項目で、おそらくハリスが政権を握った場合、中絶の権利を擁護する立場に立つでしょう。
しかし、同時に実施される連邦議会選挙で上下院が共和党に握られた場合、州の意義申し立てに遭遇されるはずです。
■気候変動
・ハリス・10兆ドルの気候計画を提案し、グリーン・ニューディールを共同提案。フラッキングには反対。
・バイデン・彼自身が数兆ドルのビルド・バック・ベター(BBB)法を提案し、それが3690億ドルの気候法(依然として米国史上最大)に変わった。グリーン・ニューディール全体を支持したわけではありません。フラッキングの禁止に反対した。
フラッキングとはシェールガス採掘の水圧破砕法のことで、この方法を使っていままでは採掘不可能だった層にあるシェールガス・シェールオイルの採取が可能になりった画期的工法のことです。
これにより米国内の原油生産量が大きく伸び、長年の課題であった原油を輸入に依存する体質が改善されことが可能となりましたが、民主党政権下で、水の大量使用、有害物質の使用、と嬢汚染などの弊害が指摘されて事実上禁止されています。
「両者とも、気候変動との闘いと、化石燃料の代わりにクリーンな資源を採用するように米国経済を再構築するために、歴史的な金額を費やすことを提案しています。彼女の計画はさらに進んでいたでしょう。
大統領候補として、ハリスは10兆ドルの気候計画を売り込み、その官民の投資は、バイデンの主要な気候、エネルギー、インフラ、技術法の推定連邦コスト総額1兆6000億ドルを小さく見せるものだった。政権の現在の政策とは異なり、彼女はまた「気候汚染料金」を制定し、化石燃料に対する連邦政府の補助金を廃止するはずだった」
(ポリティコ前掲)
ハリスのエネルギー政策は、民主党左派の考えどおり極端な脱炭素思想の下に今後も巨額のEV支援やシェールガスの採掘に対する厳しい条件をつけ続けていくと思われます。
ただしこれも、この民主党政策ためにエネルギー価格の高騰を招いている原因となっているために、議会の反対に遭遇するはずです。
もちろんトランプは彼ら2人とは正反対で、米国経済の桎梏となっている脱炭素規制を撤廃すると明言しています。
たぶん就任したら真っ先に手をつけそうな項目です。エネルギー問題については長くなるので別記事とします。
■移民問題
ボリティコは記事にしていませんが、不法移民問題がハリスの最大のウィークポイントです。
「バイデン氏は2021年、副大統領であるハリス氏に米国南部国境での移民問題に取り組み、問題の根本原因に対処する役割を与えた(共和党陣営は「国境問題特使(border czar)」と呼ぶ)。
しかし、下院国土安全保障委員会が2024年5月に公表した資料によれば、バイデン政権下で不法越境者数は約1000万人と、過去最多だった通り、移民の急増を抑制できなかった。その上、米国では移民の増加と共に犯罪件数も増加したとの懸念があり、実際に米連邦捜査局(FBI)の統一犯罪報告書(UCR)と米司法統計局の全国犯罪被害者調査(NCVS)の2つをみれば、後者では「暴力犯罪件数」、「レイプ」など明確な増加を確認できた。検察官時代の経験が役に立ったと言えそうもない」
移民の急増を抑制できず、暴力犯罪件数も増加…ハリス副大統領「不人気」「悪評」のウラにある、アメリカの深刻な「犯罪社会」事情(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
ハリスはバイデンに特命特使として不法移民問題を命じられましたが、ほとんどなにもしませんでした。
国境には一度も行かず、そのことを追及されると高笑いで逃げるというあるまじき態度をとったために不評を買っています。
【米大統領選2024】 ハリス氏に熱狂するインターネット、実際の投票率につながるのか - BBCニュース
移民自体を否定しているわけではなく、あくまでも「不法」移民を問題としているのに、法の番人を気取るカマラはこの問題から目を背けているようです。大統領になればいやでも直面するのですから、どうするつもりでしょうか。
その一方で、カマラはトランプを公然と悪者と決めつけ、「悪vs正義」といういかにも検事らしい図式で戦いたいようですが、不法移民をどうして放置しているんだという声が民主党支持者からも上がっているようです。
「この間、政府の取り組みを「非常に悪い」「やや悪い」と答える人の割合は共和党支持者で89%、民主党支持者でも73%に達しており、特に後者の割合はバイデン政権発足時(2021年)の56%から上昇傾向にある。また、人種別に見ると白人層の不満が特に強い一方、ヒスパニックやアジア人においても半数以上が政府の対応を評価していない。これらのマイノリティは昨今の不法移民問題を契機に合法・不法を問わず移民への風当たりが強くなる懸念を抱いている可能性があり、結果的に支持政党や人種を問わずに移民対応が失敗しているとの見方が大勢を占める」
バイデン政権下で流入する730万人の不法移民 ~アメリカ人は移民に依然好意的だが、トランプ2.0で移民の大流出へと転じるリスク~ | 前田 和馬 | 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)
「バイデン政権下における不法移民の流入見込みが730万人と試算されるなか、経済的負担や治安悪化に対する懸念が強まっており、移民政策が11月大統領選の重要な論点に浮上している。
不法入国の急増は中南米諸国における社会不安に加えて、バイデン政権の移民対応の不備が影響しており、米国民の8割弱は政府の移民対応を評価していない。また、この解決策として共和党支持者は強制送還の拡大等を求める一方、民主党支持者は移民受入態勢の強化を主張する傾向にある」
第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)
なお、トランプは不法移民の強制送還を主張して、最大の争点としています。
ウクライナとイスラエル支援については別稿としますが、いずれにせよ米国大統領選においては内政が焦点で、私たちが考えるほど外交政策には重きを置いていないという印象です。
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