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2024年7月

2024年7月31日 (水)

高笑いのカマラはなにを考えているのか?(内政篇)

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民主党大統領候補となったカマラ・ハリスがどのような政策を持っているのか、あまり報道されていません。
米国政治紙「ポリティコ」が整理している記事がありますので、ご紹介します。
カマラ・ハリスの綱領がジョー・バイデンの綱領とどう違うのか (politico.com)

■中絶の権利
・ハリス・ロー対ウェイドを超える連邦政府の中絶保護を提案し、州の制限を制限した。
・バイデン・中絶に対する連邦の権利を保証したが、州が中絶を制限することも許可したロー対ウェイド事件を復活させることを誓う。

このロー対ウェイド法とは、妊娠初期の中絶を許容した連邦最高裁判決のことです。

「1973年に米国の最高裁判所が出し(女性が人工妊娠中絶を受ける権利が憲法で保障されるプライバシー権の一部であるとする)、米国全州で中絶が合法化されることになった画期的な判決です。
元々はテキサス在住だったジェーン・ロー(当時の仮名)がテキサス州ダラス郡の地方検事ヘンリー・ウェイドに対して起こした訴訟です。妊娠が分かったローが中絶を受けようとしたら、テキサス州では妊娠した人の命に危険が及ばない限り、中絶できないと知ったことから、訴訟に踏み切りました。
弁護団は、原告のローが州外に移動して中絶を受けることができないこと、さらにテキサス州の法律の文言が曖昧で、合衆国憲法で定められる原告の人権を侵害していることを主張しました。その結果、最高裁判事は7対2でローの主張を認めました。この判例によって、米国全土で妊娠初期の3カ月は人工妊娠中絶が合法となり、妊娠している人が政府の過度な制限を受けずに中絶を選ぶ自由が守られました」
ロー対ウェイド判決とは? よく聞かれる質問にお答えします | IPPF

しかしこのロウ対ウェイド判決は、トランプ政権時の22年に連邦最高裁で覆りました。
現時点ではトランプは中絶は各州が判断しろという姿勢で、バンスは全面的に禁止しろということを発言しています。

「アメリカのドナルド・トランプ前大統領は8日、人工妊娠中絶の権利については各州が決定すべきだとする声明を発表した。中絶の権利は11月の大統領選挙で争点となるとみられ、トランプ氏が所属する保守・共和党からは、妊娠15週以降の中絶を連邦レベルで禁止することを同氏に期待する声が出ていた」
(BBC4月9日)
トランプ氏、中絶の権利は各州で判断すべきと主張 大統領選にらみ - BBCニュース

私たち日本人からすればなんでこんなことで争っているのか理解に苦しみますが、これがフランスとは真逆のゴリゴリの宗教国家米国の実態です。
いま26州で中絶は禁止されています。
その根拠は、人間は受精した瞬間から人間である、すなわち「受精卵も人間である」という考えがあります。

これは十戒の中の一つに、人間を「殺してはならない」という教えを犯すことになるとされているからです。
キリスト教文化センター │京都 同志社大学 (christian-center.jp)

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米国が2つに分断 26州で中絶を禁止・規制強化へ (youtube.com)

「米国では人工妊娠中絶の是非が、国や州の選挙に大きく影響する重要テーマとなっている。その背景にあるのが、キリスト教の伝統的な価値基準を声高に訴えるキリスト教右派の存在だ。共和党の保守派と強く結びつき、中絶反対運動を展開している。
キリスト教右派は聖書に書かれたすべてを真実とし、避妊にも否定的な姿勢を示す。受精が生命の始まりという考えをとるため、中絶は胎児の殺人と断じている。これはカトリックの信仰と相通ずるため、カトリック保守派も連携している」
米国で「中絶の権利」が選挙の争点となる宗教的理由とは | 世界の宗教地図 わかる!読み方 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

バイデンはカソリックですから元来は中絶反対派のはずですが、この問題に関しては連邦最高裁判決を支持しつつも、州の判断も否定しないといういわばコウモリ的な立場を見せています。
一方トランプはプロテスタント原理主義の福音派の票田を抱えていることから、中絶反対派かとおもいきや、意外にも州き判断に任せるという慎重さを見せています。ワーワーと過激なことを言っているのはバンスのほうです。

カマラは聖書解釈に幅があることを許容するバプティスト派ですが、信仰以上に民主党左派の代表的人物です。

なお、日本では以下の条件で人工中絶が可能です。まぁ日本人の平均的考え方でしょうね。

「人工妊娠中絶の適応は、次の 2 つである。 ①妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により 母体の健康を著しく害するおそれのあるもの、② 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶 することができない間に姦淫されて妊娠したも の、99.9%近くの人工妊娠中絶が①の事由で行わ れている」
d05.pdf (med.or.jp)

この中絶問題は、ハリスがバイデンより左派的であると評価されている項目で、おそらくハリスが政権を握った場合、中絶の権利を擁護する立場に立つでしょう。
しかし、同時に実施される連邦議会選挙で上下院が共和党に握られた場合、州の意義申し立てに遭遇されるはずです。

■気候変動
・ハリス・10兆ドルの気候計画を提案し、グリーン・ニューディールを共同提案。フラッキングには反対。
・バイデン・彼自身が数兆ドルのビルド・バック・ベター(BBB)法を提案し、それが3690億ドルの気候法(依然として米国史上最大)に変わった。グリーン・ニューディール全体を支持したわけではありません。フラッキングの禁止に反対した。

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Napa Valley College

フラッキングとはシェールガス採掘の水圧破砕法のことで、この方法を使っていままでは採掘不可能だった層にあるシェールガス・シェールオイルの採取が可能になりった画期的工法のことです。
これにより米国内の原油生産量が大きく伸び、長年の課題であった原油を輸入に依存する体質が改善されことが可能となりましたが、民主党政権下で、水の大量使用、有害物質の使用、と嬢汚染などの弊害が指摘されて事実上禁止されています。

「両者とも、気候変動との闘いと、化石燃料の代わりにクリーンな資源を採用するように米国経済を再構築するために、歴史的な金額を費やすことを提案しています。彼女の計画はさらに進んでいたでしょう。
大統領候補として、ハリスは10兆ドルの気候計画を売り込み、その官民の投資は、バイデンの主要な気候、エネルギー、インフラ、技術法の推定連邦コスト総額1兆6000億ドルを小さく見せるものだった。政権の現在の政策とは異なり、彼女はまた「気候汚染料金」を制定し、化石燃料に対する連邦政府の補助金を廃止するはずだった」
(ポリティコ前掲)

ハリスのエネルギー政策は、民主党左派の考えどおり極端な脱炭素思想の下に今後も巨額のEV支援やシェールガスの採掘に対する厳しい条件をつけ続けていくと思われます。
ただしこれも、この民主党政策ためにエネルギー価格の高騰を招いている原因となっているために、議会の反対に遭遇するはずです。
もちろんトランプは彼ら2人とは正反対で、米国経済の桎梏となっている脱炭素規制を撤廃すると明言しています。
たぶん就任したら真っ先に手をつけそうな項目です。エネルギー問題については長くなるので別記事とします。

■移民問題

ボリティコは記事にしていませんが、不法移民問題がハリスの最大のウィークポイントです。

「バイデン氏は2021年、副大統領であるハリス氏に米国南部国境での移民問題に取り組み、問題の根本原因に対処する役割を与えた(共和党陣営は「国境問題特使(border czar)」と呼ぶ)。
しかし、下院国土安全保障委員会が2024年5月に公表した資料によれば、バイデン政権下で不法越境者数は約1000万人と、過去最多だった通り、移民の急増を抑制できなかった。その上、米国では移民の増加と共に犯罪件数も増加したとの懸念があり、実際に米連邦捜査局(FBI)の統一犯罪報告書(UCR)と米司法統計局の全国犯罪被害者調査(NCVS)の2つをみれば、後者では「暴力犯罪件数」、「レイプ」など明確な増加を確認できた。検察官時代の経験が役に立ったと言えそうもない」
移民の急増を抑制できず、暴力犯罪件数も増加…ハリス副大統領「不人気」「悪評」のウラにある、アメリカの深刻な「犯罪社会」事情(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

ハリスはバイデンに特命特使として不法移民問題を命じられましたが、ほとんどなにもしませんでした。
国境には一度も行かず、そのことを追及されると高笑いで逃げるというあるまじき態度をとったために不評を買っています。

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【米大統領選2024】 ハリス氏に熱狂するインターネット、実際の投票率につながるのか - BBCニュース

移民自体を否定しているわけではなく、あくまでも「不法」移民を問題としているのに、法の番人を気取るカマラはこの問題から目を背けているようです。大統領になればいやでも直面するのですから、どうするつもりでしょうか。
その一方で、カマラはトランプを公然と悪者と決めつけ、「悪vs正義」といういかにも検事らしい図式で戦いたいようですが、不法移民をどうして放置しているんだという声が民主党支持者からも上がっているようです。

「この間、政府の取り組みを「非常に悪い」「やや悪い」と答える人の割合は共和党支持者で89%、民主党支持者でも73%に達しており、特に後者の割合はバイデン政権発足時(2021年)の56%から上昇傾向にある。また、人種別に見ると白人層の不満が特に強い一方、ヒスパニックやアジア人においても半数以上が政府の対応を評価していない。これらのマイノリティは昨今の不法移民問題を契機に合法・不法を問わず移民への風当たりが強くなる懸念を抱いている可能性があり、結果的に支持政党や人種を問わずに移民対応が失敗しているとの見方が大勢を占める」
バイデン政権下で流入する730万人の不法移民 ~アメリカ人は移民に依然好意的だが、トランプ2.0で移民の大流出へと転じるリスク~ | 前田 和馬 | 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

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第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

「バイデン政権下における不法移民の流入見込みが730万人と試算されるなか、経済的負担や治安悪化に対する懸念が強まっており、移民政策が11月大統領選の重要な論点に浮上している。
不法入国の急増は中南米諸国における社会不安に加えて、バイデン政権の移民対応の不備が影響しており、米国民の8割弱は政府の移民対応を評価していない。また、この解決策として共和党支持者は強制送還の拡大等を求める一方、民主党支持者は移民受入態勢の強化を主張する傾向にある」
 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

なお、トランプは不法移民の強制送還を主張して、最大の争点としています。
ウクライナとイスラエル支援については別稿としますが、いずれにせよ米国大統領選においては内政が焦点で、私たちが考えるほど外交政策には重きを置いていないという印象です。

 

 

2024年7月30日 (火)

なぜフランス政府は五輪開会式のキリスト教冒涜を許可したのか?

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もう少し、パリ五輪開会式で私たち和の国の民が受けた違和感について考えていきます。
最大の謎は、どうしてフランス政府があのような公然たるキリスト教に対する冒涜を許したかです。
あの太ったオープン・レスビアンの女性が演じたキリストがムハンマドだったとしたら、おそらくただでは済まなかったはずで、キリスト教にしたのは報復を受けることが少ないという理由にすぎません。

ではなぜ、あんな公然たる宗教冒涜が可能かといえば、それはフランスの「国教」が無宗教、「ラシイテ」( laïcité )だからです。
今日は今回のパリ五輪開会式のグロテスクさが、実はフランス国家の本質であるラシイテとからんでいることについて見ていきます。
ライシテには一定の和訳はありませんが、「政教分離」と訳すと、ただの公権力への宗教の介入を許さないとなって、我が国と同じになってしまいます。
もちろんライシテは、そんな甘チョロイもんじゃありません。むしろ「非宗教性」あるいは「宗教からの自由」くらいの強い意味なので、ここでは原語のまま記すことにしました。
ライシテ - Wikipedia

例の開会式はふたつの「毒」が隠されていました。
ひとつはフランス革命の全面的肯定です。これは血まみれのマリーの首で表現して見せました。
もうひとつはLGBTQにやらせたキリスト教冒涜です。
こちらは最後の晩餐にペニスを露出させた男まで使徒として登場させました。
当然、キリスト教界隈からは非難の嵐で、組織委員会は謝罪に追い込まれています。

「英紙ガーディアン(電子版)によると、このパフォーマンスについて「世界中のカトリック教徒、キリスト教団体、保守派政治家の間で激しい怒りを引き起こしたため、大会組織委員会は謝罪を余儀なくされた」と報道。「いかなる宗教団体に対して敬意を欠く意図はなかった。(開会式は)コミュニティーの寛容さを称えることを試みた。不快な思いをされたとしたら、申し訳ない」とする組織委広報担当者のコメントを紹介した。
また、米放送局のFOXニュース(電子版)は「『最後の晩餐』を大げさに演出したことを受け、米国や世界の議員が開会式を非難している」と報じた」
(産経7月27日)
パリ五輪開会式の余波収束せず 「最後の晩餐」連想の演出にキリスト教団体「愚弄」と反発 - 産経ニュース (sankei.com) 

そしてもうひとつのキリスト教冒涜は、蒼ざめた馬に乗った騎士を最後に登場させたことです。

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2024Paris 開会式 モチーフのおさらい|咲良 桜子 (note.com)

これはヨハネ黙示録第6章第8節に出てくる第4の封印が解けて登場する蒼ざめた馬の騎士そのものです。

そこでていると、よ、青白あおじろうまてきた。そして、それにっているものは「」とい、それに黄泉よみしたがっていた。かれらには、の四ぶんの一を支配しはいする権威けんい、および、つるぎと、ききんと、と、けものらとによってひところ権威けんいとが、あたえられた。
ヨハネの黙示録6 (churchofjesuschrist.org)

この青ざめた馬にまたがる騎士とは、戦争と死、そして飢饉の象徴という禍々しいものです。
到底「平和の祭典」の末尾に出してよいものではありません。
もはやフランスは、「人類の平和」に呪いをかけたいのかと疑いたくなるほどです。

ここで疑問なのは、なぜここまで執拗に繰り返される反キリスト教行為を、フランス政府は認めたかということです。
とうぜん、政府のチェックが隅々まで入ってしかるべきで、なぜここまで大胆、かつ執拗に反キリスト教行為を祝祭の場でやらせたのか。
しかも世界同時中継という逃げ場のない場で、フランスの国家としての威信をかけて。
それを理解する補助線が前述したラシイテです。

このラシイテこそフランス革命の「成果」でした。
フランス人が手にしたのは何だったのかといえば、近代世俗国家でした。なぁ~んだ、と言わない。大変な犠牲の上に勝ち取ったものなんですから。 
フランス革命の犠牲者数が約200万人。革命当時のフランスの人口が約2500万~2600万人といったところですから、実に1割を殺したことになります。
大量処刑と虐殺が横行し、ヴァンデ、リヨンのように王党派に属したために、街ごとすり潰されてしまった地域すらあります。
フランス革命は「自由・平等・友愛」という標語を掲げましたが、この<自由>とは、あくまでも「宗教からの自由」のことなのです。

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 (写真 自由・平等・博愛という革命スローガンに書き換えられた寺院の正面玄関)

ここにパリ五輪開会式になぜキリスト教冒涜が登場したかの意味があります。
この「宗教からの自由」こそがフランス国家の本質であって、後に来るふたつの「平等・友愛」は、これを理解した者に対してのみ平等と友愛を保証します、という意味です。
フランスに移民を希望する人間は、この「宗教からの自由」を理解したことを宣誓してのみ帰化が認められます。 
ですから、シャリルの編集者を殺戮したテロリスト兄弟の両親もアルジェリアから帰化する際に、「宗教からの自由」を国に対して宣誓して入国したはずです。

ところで、そう言えば思い出したのですが、かつてテロを受けたシャルリ・エブドの社屋は、あの革命の聖地・バスティーユの裏にあります。 
今はオベラ・バスティーユ(新オペラ座)になっていますが、シャルリにとっては、あながち偶然ではなく、ひょっとしたら革命の聖地に自分たちの城を作りたかったのかも知れません。 

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さてフランスが「フランス共和国」を名乗り、革命国家であることをレジティマシィ(正統性)にしているのは、宗教との分離があったからです。 
革命以前まで聖職者は、貴族と並ぶ特権階級に属していました。そのために共和派にとって、教会は敵そのものであり、聖職者の殺害・追放、教会の国有化と破壊が進みました。

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上は、『フランス栄光の頂点・自由の頂上』と題するポンチ絵ですが、これは1793年1月21日の革命広場(現コンコルド広場)のギヨタン処刑台の情景です。※http://www.maroon.dti.ne.jp/gokyo/savebox/sawada-fr.html
戯画的に描かれていますか、かなり史実に忠実だと言われています。

以後、国王、王妃、貴族、僧侶、反革命と目された一般人までもが大量に処刑されていきます。
今回改めて注目された王と王妃の処刑などまったく不要で、ルイ16世は立憲君主制を提唱する開明君主であり王妃にいたっては無関係でした。
しかし王と王妃を無意味に処刑したために、暴力マシーンと化してしまい、最後は急進派内部での殺し合いとなって、穏健派まで処刑しまくりました。
最終的には、テロル政治の親玉であるロベスピエールが、ギロチンで首をハネられて終了しました。
結局、革命指導部ですら最後まで生き残った者がほとんどいないほどの殺戮ぶりでした。

この絵のキリスト像の上は、「旦那、お休み」と書き換えられて、首を吊られているのは、裁判官、大司教、修道士などです。
三色旗の上に「自由万才」とあり、聖母昇天教会は炎上中です。ガス灯によじのぼってニカニカして僧侶の死体の頭を踏んでいるのはサン・キュロット(平民)です。  
今は観光地として名高いモン・サン・ミッシェル修道院は牢獄となり、ヨーロッパ最大だったクリュニー修道院は他の建造物の石材供給源にされてしまいました。

1801年に、ナポレオンが革命の終了を宣して教皇との和解(コンコルダート)に至るまで宗教への徹底した迫害が続けられました。
それまで僧侶は殺されるか、国外に亡命していたのです。 
ナポレオンがコンコルダートを宣言したのは、国民から宗教を取り上げることが不可能と知ったからです。

それにしても宗教を公権力の場から排除するために、いかに巨大な犠牲が必要だったのかわかると、憂鬱になります。
このフランス革命の暗部があまりに大きかったために、フランス共和国は、今に至るも革命戦争の詳しい実態を公表せず、臭いものに蓋を決め込んでいます。
フランス革命とは後に来るロシア共産革命の原型であり、いまにいたるテロル思想の源泉なのですから。
それにしても、革命記念日を巴里祭と言い換え、すべての人類は皆平等だから友愛の心で手をつなぎ合おうというような日本のインテリの解釈のなんと浅いことよ。

「言論の自由」とはフランス人の理解によれば、「一切の宗教に対する非難・冒涜まで含む自由」のことということになります。
一切の公の場から宗教性を排除するだけでは止まらず、宗教に対してなにを言ってもよい、侮辱しようと貶めようと揶揄しようと自由だ、これがフランスの考える<自由>です。
そしてこの<自由> 原理主義の先に現れた最新の思想こそがLGBTQである以上、それの欲するままに祝祭を支配させ、公然とキリスト教を冒涜して見せたのです。
まことに人間の本質に反した非合理な原理主義、あるいは急進主義です。
殺害した王妃の死体に歌わせ、最後の晩餐をLGBTQに侮辱させ、蒼ざめた馬を疾駆させる、これがフランスだとマクロンは言っているのですから。

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世界の愚民の諸君、これがLGBTQこそが民主主義の最新モードなのだ、トレビアンだろ。
文明の遅れている国々よ、早くこの最新モードを取り入れたまえ、そして共に宗教と性別の壁を嘲ってやろうではないか、と。
これがフランスの開会式に込めたメッセージです。

 

2024年7月29日 (月)

ギロチンとLGBTQに乗っ取られたパリ五輪

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マクロンはオリンピックの開会式典を、LGBTQの祭典にしてしまいました。さすがは革命国家フランス。
それでなくても雨の中に選手を詰め込んだ漁船をどぶ川に浮かべ、つまらない踊りと歌をさんざん聞かせた後にコレです。

「26日(日本時間27日)に行われたパリ五輪の開会式で、18世紀のフランス革命で処刑された王妃マリー・アントワネットがギロチンで切り落とされた自らの首を持って登場するパフォーマンスがあり、世界に衝撃が広がった。
パフォーマンスが行われたのは、セーヌ川沿いのコンシェルジュリ。王妃が処刑までの日を過ごしたかつての監獄で、現在は観光名所になっている。真っ赤なドレスを着て自らの首を小脇に抱えた女性がベランダにたたずみ、革命時代に流行した歌「サ・イラ」(仏語で「うまくいく」の意味)がヘビーメタル調で流れるという演出だった。演奏の終盤には建物の窓から流血を思わせるような真っ赤な紙テープが空に舞うとともに赤い煙が噴き出し、ドラマ効果をあげた。
保守系の仏紙フィガロ(電子版)は「革命の暴力を恥知らずに想起させた。1793年の国王夫妻の殺害を礼賛した」と論じた。米FOXニュースも、この演出は「複雑な反応を引き起こした」と報じた」
(産経9月27日)
パリ五輪開会式「首を持つ王妃」演出に賛否沸騰 「恥知らず」「メダルに値する」 - 産経ニュース (sankei.com)

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パリオリンピック開会式の演出が攻めすぎ→投獄された場所でマリーアントワネットの斬り落とされた首が歌い出す - Togetter [トゥギャッター]

その座興を世界に見せたコンシェルジュリーはパリのシテ島にある旧監獄で、ここでは名前さえ呼ばれず囚人番号280と呼ばれていたマリーは、コンコルド広場で処刑されました。
今回の座興には実物のコンシェルジュリーがつかわれるという念の入れ方です。
窓という窓からは大量の血が流れだしています。悪趣味の極。普通ここまでやるか。

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パリ五輪中継、深夜に映った「斬首女性」の強烈演出にネット悲鳴「怖いけどセンス凄い」「攻めてるなあ」 | THE ANSWER (the-ans.jp)

処刑場に連行時の絵が残されています。決して五輪で見せたような華美なものではなく、白い質素な服でした。
態度は落ち着きはらっていて、常に前を見ていました。

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「マリー・アントワネットとフランス」23  マリー・アントワネット処刑 | 粋なカエサル (amebaownd.com)

彼女が残した妹エリザベートへの最後の手紙の一節。

「犯罪者にとって死刑は恥ずべきものだが、無実の罪で断頭台に送られるなら恥ずべきものではない」
マリー・アントワネット - Wikipedia

フランス革命は、マリーと夫の首を切り、以後無辜の国民を大量虐殺しました。
殺しも殺したり、パリだけでギロチンにかけたのが1400人、全土では4万人です。
その先駆けとなったのがマリーです。いまもなお墓を暴かれて、首を持って歌を歌わされるという座興に駆り出されています。
フランス革命の末裔達には、死者に対して払うべき敬意などかけらもないようです。

ちなみにギロチンは「人道的処刑道具」として出来たもので、全体の処刑数の2%ていどにすぎませんでした。
それ以外にはナントで船に市民を満載にして沈めて約1万人 、一斉射撃や大砲の散弾、さらには手斧やその他の方法による殺害で、犠牲者数は推定で60~80 万人と言われています。
その大部分は弁護人はおろか裁判さえありませんでした。

毎日、広場で十数人の首を切ったので、広場のそこここに首が転がり、子供がサッカーのボール代わりにして遊んでいたとか。
フランス革命の輸出だったナボレオンの外征まで含めると犠牲者数は200万人規模となります。

まさに血の海から生まれたのが、今のフランスでした。
それを堂々と「平和の祭典」の座興にして暴力を正当化してしまうとは見事な鉄面皮ぶりです、さすがです、マクロン。

この式典を演出したのはトマス・ジョリーで、彼はオープン・ゲイにしてクイアー、つまりLGBTQのGとQの人物だそうです。
パリオリンピック2024開会式の演出家はトーマス・ジョリー!年齢や経歴は? | MUSIC ROUND (masaourino40.com)

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「クイア」とはウィキによれば、このような人たちです。

「クィア(Queer)とは、ヘテロセクシュアルでない人々およびシスジェンダーでない人々を指す総称。元は「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」などの意味を持つ同性愛者に対する侮蔑語であったが、20世紀後半から戦略的にあえて自分達をクィアと呼ぶことで権利を主張していき、現代では肯定的な意味合いを持つ言葉に変化した」
クィア - Wikipedia

この薄気味が悪いトマス・ジョリーなる人物は、「誰もが代表されていると感じて欲しい」と言っているそうですが、ムリに決まってるだろうって。(笑)
そもそもどんなカッコウをしようと、顔面白塗りにして現れようと、帽子を足に履こうとそちらの勝手ですが、それはあなたが自分の「表現」をしているだけのことであって、誰かを「代表する」性格のものじゃありません。
私はLGBTQを差別する気はいささかもありません。どうぞお好きになさってください。自由主義社会はそれを容認します。
しかしLGBTQもまた自分の価値観を押しつけないでください。
ノーマルな人たちの価値観や、大事にしている宗教を嘲ったりする権利はないのてすから。

このトマス・ジョリーがイベントの目玉に持ってきたのは、ダビンチの最後の晩餐のパロディーというより頭の悪いガキの仮装行列のような一場でした。
もちろんキリスト教に対する冒涜と嘲りが目的で、イスラム教徒相手にやれば即座にテロで仕返されるようなシロモノでした。
考えてみれば、坊主の首を斬って(文字どおり)、あの世か外国に追放してしまい、教会は物置か公衆便所にしたような国だけあります。

キリスト教の皆さん、アレを黙って見ていたんでしょうか。
 事実、世界各国ではキリスト者から抗議の声が上がっています。

「米カトリック誌『National Catholic Register』によると、フランス司教協議会は、エッフェル塔付近の橋で、女装したダンサー「ドラァグクイーン」らがレオナルド・ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」の構図をオマージュしたシーンが「キリスト教に対するひどい嘲笑」だとし声明を発表。世界中の教徒も連帯で遺憾の意を示したという。
 そして、司教らは、「オリンピックの祝賀会が、一部のアーティストの思想的な好みをはるかに超えていることを、彼らが理解することを願っています」と付け加えたという。また、マルタのシャルル・シクルナ大司教はXで、駐マルタフランス大使に「パリ2024オリンピックの開会式で、アーティストグループがイエスの最後の晩餐をパロディ化した際のキリスト教徒に対する侮辱に苦悩し大きな失望をした」とメッセージを送ったという。
 また、このシーンを巡っては米実業家のイーロン・マスク氏もXで「キリスト教徒に対する無礼」「公正で正しいことのために立ち上がる勇気がもっとなければ、キリスト教は滅びるだろう」とポストした」
(THE DIGEST編集部2024年7月28日)

開会式で話題のシーンに仏キリスト教団体が怒りの声明「思想の好みをはるかに超えている」【パリ五輪】 | THE DIGEST (thedigestweb.com)

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中心の太った女性の周りはドラァグ・クイーンばかりです。
ちなみにこの女性は、クィアのレズで「団結のために戦っている」LGBTQ活動家だそうです。
ドラァグ・クイーンとはこういう人たちです。

「ドラァグクイーン(drag queen)は、誇張した女らしさ性表現女装)でパフォーマンスを行う人物ゲイシスジェンダー男性であることが多いが、さまざまな性的指向性同一性のドラァグクイーンも存在する。纏った衣装の裾を引き摺る (drag) ことからこう呼ばれる 」ドラァグクイーン - Wikipedia

よくわかりませんが、あえて過剰なメイクや服装をする連中のようです。彼らの好むパーフォーマンスは、公衆の面前での局部の露出です。
ちなみに、画面左の男も局部を露出させています。うへぇ~、見たくないぞ。

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わ、はは、オリンピックの開会式典でペニスをプラプラですか。

そして流れた曲がジョンのイマージンですから、こりゃプラックジョークです。

Imagine there's no countries
It isn't hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people
Living life in peace

この歌は、ジョンがアナーキーズムに傾倒していた時期のものですぜ。
それにしてもこれ以上ないみごとなまでにグロテスクな開会式でした。
ヨーロッパの劣化を広く世界に宣伝してくれて感謝しますが、あんなものを世界に見せてしまったマクロンにも明日はないでしょうな。

 

 

 

2024年7月28日 (日)

日曜写真館 四方から青みし夏の夜明哉

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夏の朝つとめて快き月か 荷兮

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夏の朝空より象が降りてくる 平井照敏

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夏あかつき薄眼開け嬰児のなほ眠る 伊丹三樹彦

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夏暁寝返りを闇の方に打つ 平井照敏

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夏の朝よく歩きしと戻り来し 星野立子

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男子生れて青山青し夏の朝 村上鬼城

 

2024年7月27日 (土)

和平案とは侵略を固定化することである

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おとといのウクライナ和平問題の続きです。
苦いものを口にする気分ですが、ウクライナ人に厭戦気分が広まりつつあります。
キーウ国際社会学研究所 (KIIS)による最新調査は、世論の変化がでていることを教えています。

「KIISは、ロシアが本格侵攻を開始した2022年2月の直後からウクライナ人の意識調査を実施してきた。
【開戦1年後は9割が反対】
今回発表された世論調査によると、「和平を実現し、独立を維持する」ためには領土の割譲を受け入れる、と答えたウクライナ人は32%で、2024年2月の26%から増加した。2023年2月にはわずか9%だった。
すべての領土を奪還するというウクライナ人のかつての士気は、疲労と犠牲の大きさのために低下しているのかもしれない」と、元ウクライナ軍人の防衛アナリスト、ヴィクトール・コヴァレンコは言う。「ウクライナ軍も反撃能力を欠き、もっぱら守りに徹している。西側諸国は揺るぎ支援を約束しているが、援助は一向に届かないようだ」
なお、今回の調査では、「戦争を終わらせるためにロシアに領土を割譲する」ことに依然として反対する者は、回答者の55%に上った。しかしこの数字も、2023年12月と比べれば減少している。当時は、人口の74%が割譲に反対だった」
(ニューズウィーク7月24日)
ウクライナ「領土割譲やむなし」初の3割超でゼレンスキーに和平の選択肢(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

興味深いのは、領土割譲やむなしという比率が増えていることです。

「2番目に多い支持を集めたのは、クリミア半島と親ロ派地域であるドネツク州、ルハンスク州の支配権は事実上譲り渡すものの、ヘルソン州とザポリージャ州は完全に取り戻し、NATOとEUの両方に加盟する案で、53%だった」
(NW前掲)

 ただし、ロシアを撤退させよと主張する人が減ったことで、ゼレンスキーが国内で抵抗を受けずに「和平」を実現できる外交的余裕ができた、ということでもあります。

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数万人以上の追加動員進めるウクライナ軍、問題は装甲車両不足 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

和平案はいくつかあります。
前提として覚えておいていただきたいのですが、戦場で失った領土は残念ですが、テーブルで戻ってくることはありません。
戦場で失ったものは戦場で取り返すしかないのです。
沖縄は極めて稀なケースで、故にノーベル平和賞をもらいました。
特に国境とは、常に膨張し続ける限界点のことだと信じてきたロシアという国が、いま実効支配している土地を手放すことはまず絶対に考えられません。

実現可能かどうかは別にして列記してみます。

①いま占領している土地をロシア領として認め、ウクライナ軍は撤収する。ロシア案。
②いま占領している土地は侵略の結果であるのでこれを認めず、クリミア半島まで含めてロシア軍は撤収する。ウクライナ案。
③2022年2月24日侵攻以前の線にロシア軍は撤収する。
④ウクライナはEUに加盟し、東部2州(ドネツク州、ルハンスク州)は割譲し、南部2州(ヘルソン、サポリージャ)からロシアは撤退する。

①は、よくプーチンが口にするもので、ウクライナの全面敗北を意味します。
ウクライナは中国の仲介に期待しているようですか、中国はロシアの準同盟国です。
仮にロシアが勝利すれば、ロシア・中国・イラン・北朝鮮といった全体主義国家陣営が力をえるはずで、西側陣営はいまの数倍の国防費を支出せねばならなくなります。

では②のウクライナ案が可能かと言えば、そうとうに困難であるのは確かです。
ウクライナ案とはゼレンスキーがいま努力しているものですが、正当なものばかりです。
ロシアのウクライナ侵攻:公式サイト |ウクライナのMFA (ukraine.ua)

 ①放射線と原子力の安全(Radiation and nuclear safety)
 ②食糧安全保障(Food security)
 ③エネルギー安全保障(energy security)
 ④全ての捕虜と追放者の釈放(Release of all prisoners and deportees)
 ⑤国連憲章の履行とウクライナの領土保全と世界秩序の回復
(Implementation of the UN Charter and restoration of Ukraine’s territorial integrity and the world order)
 ⑥ロシア軍の撤退と交戦の停止(Withdrawal of Russian troops and cessation of hostilities)
 ⑦正義(Justice)
 ⑧環境の即時保護(Immediate protection of the environment)
 ⑨エスカレーションの防止(Prevention of escalation)
 ⑩終戦の確認(Confirmation of the end of the war)

①は、戦争初期からロシアに軍事支配されているザポリージャ原発を念頭に置いています。
②は、戦争によって国土が戦場に変わりました。

「ウクライナでは、多くの人が激しい戦闘地域の近くに住み続けています。夫とヴェセリアンカ村に住むアラさんは言います。「故郷のような場所はありません」
彼らは自分の土地や家に愛着を持ち、あるいは長期にわたる移住生活の恐れから、信じられないような危険にもかかわらず、村にとどまり続けています。また、移住中に生活の糧を得るための選択肢がなくなり、農場やかつての職場に戻ることを余儀なくされる人もいます」
冬の寒さと戦争がウクライナを襲う中、最前線に暮らす家族が生きる糧を見つける | World Food Programme (wfp.org) 

 また、ウクライナは世界的穀倉地帯でしたが、ロシアが黒海ルートを封鎖したために、輸出が打撃を受けています。

「ロシアとウクライナは主食となる作物の一大産地で、アルメニア、アゼルバイジャン、エリトリア、ジョージア、モンゴル、ソマリアにおける小麦供給量の90%を提供しています。ウクライナはまた、120を超える国の1億1,150万人に対して食糧支援をしている国連世界食糧計画(WFP)にとっては、主要な小麦の供給国でもあります」
ウクライナと食料・燃料の危機:知っておくべき4つのこと |  認定NPO法人 国連ウィメン日本協会 | 世界の女性と少女に希望の未来を届けたい。 (unwomen-nc.jp)

これらの農業に対する打撃のために農業生産が22年度版「食料・農業・農村白書」によれば、前年同期比36%減の5500万トンになりました。

③はロシアが民間施設、それもエネルギーインフラを執拗に攻撃したために大規模なエネルギー危機が毎年起きています。

 「ウクライナは2年続きで長時間の停電を強いられる冬を迎えようとしている。ロシアのミサイル、ドローンによる容赦ない攻撃により、エネルギーシステムのあちこちで1年前よりも脆弱(ぜいじゃく)な状態が見られるためだ。
夏の数カ月、数千人のエンジニアは破壊された設備の修理に没頭し、気温が低下し始める頃には、防空体制の改善により戦争の影響は緩和される可能性がある。
だが、冬への備えを完了するには財源も時間も足りない。つまり、数百万人ものウクライナ国民が明かりも暖房も水もなしに長い夜を過ごす状況が昨年以上に増え、企業や経済全体にとっての苦痛も増すことになる」
(ロイター2023年10月14日)
焦点:ウクライナに再び厳しい冬か、攻撃でエネルギー供給脆弱 | ロイター (reuters.com)

④は、数百人規模で捕らえられている捕虜の返還です。
彼らは日常的にロシアによって虐待を受けていることが証言でわかっています。

「国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)は26日、ロシア軍から釈放されたウクライナ人捕虜だった男性60人に聞き取り調査をしたところ、半数以上が性暴力を受けたと証言した、とする報告書を発表した。国連が詳細に調べることができた事例では、ロシア軍によるウクライナ人捕虜への電気ショックや殴打などの拷問が日常的に行われていたという。 すべてが困難ですが、なかでも⑥ロシア軍の撤退と交戦の停止は、率直に言って不可能です」
(朝日2024年3月28日)
ウクライナ人元捕虜39人がロシア軍による性暴力を証言 国連調査 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

以下の④から⑩までは、それを実現するための取り決めです。
特に⑥「ロシア軍の撤退と交戦の停止」が実現可能かどうかですが、心を鬼して言えば限りなく不可能です。
戦線はロシア有利で膠着したままです。

完全な撤退は置くとして、すこしでもウクライナに有利な方向にすることは可能です。
それはロシアがもっとも固執しているクリミア半島のロシアの軍事支配はぐらついているからです。

クリミア軍港からは、最近撮影された衛星写真によると、ウクライナのミサイルや海上ドローン、あるいは特殊部隊による定期的な攻撃に押されっぱなしで、黒海艦隊にとってクリミア半島は安住の地ではなくなっているからです。
衛星写真ではクリミアの主要な海軍基地をほとんど放棄されている模様です。

「「クリミアはもはやロシア海軍にとって安全な避難場所ではない」
セバストポリは伝統的に、黒海地域におけるロシアの主要な戦力投射拠点として機能してきた。しかし、黒海艦隊司令部は2023年9月の巡航ミサイル攻撃で破壊され、重要な乾ドック施設も同月、攻撃型潜水艦、揚陸艦もろとも巡航ミサイルで破壊された。
セバストポリの約160キロ東にあるクリミアのフェオドシヤ港も攻撃の的となっている。ウクライナは23年12月、フェオドシヤの揚陸艦を巡航ミサイルで撃沈したと発表した。今回公開された最新の衛星画像によれば、フェオドシヤには現在、目立ったロシアの軍艦は存在しないようだ」
(NW2024年4月15日)
大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース 

黒海艦隊の残された主力艦と潜水艦のほとんどがノヴォロシースクに移動しているとみられ、キロ型潜水艦3隻とアドミラル・グリゴロビッチ級フリゲート1隻が含まれています。
このフリゲートは、いまや黒海艦隊のお宝である旗艦「アドミラル・マカロフ」です。

またクリミア大橋に近いカフカス港も、7月23日、複数のウクライナの無人機に攻撃されて被害をうけました。
もはやクリミア半島にロシア艦隊の安住の地はないのです。

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ロシア黒海艦隊の哨戒艇を沈没 ウクライナが無人艇攻撃 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

今後、いまのような海上ドローンやミサイルに加えて、ようやく到着したF16が戦力化します。
F16は、ロシアのレーダー網を破壊し、長距離ミサイルによって自在にロシア侵攻拠点を攻撃するはずです。
それなれば今のウクライナ戦争全体のバランスに変化が生じます。

そこに降って湧いたのが、トランプの復活という最大の支援国である米国の政変の可能性です。
トランプは大幅にロシアに譲歩した和平案を考えているはずです。

というのはトランプと仲がいいハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相がEUの議長国に就任した直後、ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平総書記(国家主席)と立て続けに会談して停戦を呼びかけています。
そしてその後に、オルバンは訪米し、7月11日、トランプのフロリダ別荘を訪れています。
オルバンは、ツイッターに「私たちは平和を作り出す方法を話し合った。今日の良いニュース。彼はそれを解決する!」とポストしましたが、たぶんトランプはハンガリー案と気脈を通じたのでしょう。

副大統領候補のバンスはもっと突っ込んだことを言っています。

「ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない。
ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ」
(ニューヨークタイムス6月13日)

トランプが考えている和平案は現状固定です。
ベンスがここでウクライナには「国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する」ということが曲者です。
「ウクライナの中立化」こそがそもそものプーチンの要求で、それを尊重して結ばれたのが2014年9月に結ばれた「ミンスク議定書」です。

この取り決めは、ドネツクの戦闘激化を鎮めるために作られ、ロシアとウクライナ、そして西側諸国(欧州安全保障協力機構・OSCE)の三者で成立したものでした。
内容は、2015年1月までの停戦とウクライナ東部とロシアに緩衝地帯を作ることが骨子でした。

ところが、このミンスク合意は直ちに失敗し、親露勢力はドネツクで戦闘を再開しています。
ですから、この「ウクライナの中立化」とは、親露勢力に占拠されている東ウクライナを事実上分離独立させることで、ロシアの思い通りにすることになったのです。
このミンスク合意に近い和平案がでてくるはずです。
唯一異なるのは南部2州に占領地が加わって4州となったこと、そしてこれら4州はすでにロシアの「領土」に編入されていることです。

死に体であるバイデンにできることは、残された4カ月に最大限の軍事支援を送ることです。



 

2024年7月26日 (金)

前回見事に滑ったので、今回は

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今日は雑談風にお話します。

カマラが逆転しただの、資金がどどっと流入しているだのとメディアは妙にウキウキしているようですが、まだ投票まで4カ月ちかくあります、なにが起きても不思議ではありません。
3ツの世論調査のひとつでカマラが僅差で勝ったくらいで、いちいち一喜一憂して騒がないようにしてください。
今後、カマラはどこまで行っても正義を体現する「検事」然として選挙戦を戦うつもりのようです。
政策や実績は二の次。極悪人の重罪犯を大統領にするな、女性の敵、LGBTと黒人の敵は許さない、なんていうネガキャン一本でいくつもりでしょう。
カマラの集会での発言。

「ハリス副大統領
「私はあらゆる種類の犯罪者を相手にしてきました。女性を虐待する暴漢、消費者から金をむしり取る詐欺師や、自分たちの利益のためにルールを破る嘘つきなど。だからドナルド・トランプのような人間のことは知り尽くしている」
(TBS7月25日)
ハリス副大統領「トランプ氏のような人間のことは知り尽くしている」 選挙集会で対決姿勢を鮮明に|ニフティニュース (nifty.com)

ねぇ、カマラさん、あんた地方検事の出馬声明しているんじゃないんだよ。大統領候補なんだよ、あんた。
法律家には政治家やらせるなっていうけど、ホントですね。
それを持て囃す薄手の左翼メディアは大のカマラ贔屓ばかり。ああ、うっとおしい、世の中を白と黒で分けられる過剰な攻撃性。
みずからが神の如く正義だと疑わないナルシズム。
11月までこんなヒステリックな声を聞かねばならんのか(ため息)。

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カマラ・ハリス氏「犯罪者と戦う」 対トランプ氏へ検事経歴前面 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

トランプ暗殺未遂事件とバイデン撤退で一時は俵に足がかかった民主党ですが、かえって危機感から結束を急いだようです。

「党内では大統領ポストを狙っている潜在的なライバルの上院議員たちが次々にハリス支持を表明したのだ。ナンシー・ぺロス元下院議長がハリス支持を言い出すと、クリントン元大統領夫妻もハリス支持を明らかにした。そのほか、カリフォルニア州ギャビン・ニューサム知事、ペンシルバニア州ジョシュ・シャピロ知事、ノースカロライナ州ロイ・クーパー知事、ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事らがハリス副大統領支持で結束したため、副大統領は党内でライバルを恐れる必要はなくなった。態度をまだ明らかにしていないのはオバマ元大統領ぐらいだ」
ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

一方、トランプ陣営ですが、ややミスりました。
せっかく暗殺未遂事件で国民融和を訴えたのに(演説の半分だけですが)、やはりトランプはトランプ、どこまで行ってもああトランプ。
すぐに元の「元気がよくて口汚い下品なトランプ」に戻ってしまいました。カマラを罵っても票は増えませんよ。
カマラはこれからイチイチ癇に触ることを言うはずですから、おだやかにおだやか~にお願いします。
テッド・クルーズかマルコ・ルビオだったらこんな心配しないで済むのに。

あくまで結果論ですが、カマラで来たなら同じくインド系女性のニッキー・ヘイリーを副大統領にしておいたほうがよかったかもしれませんね。
バイデン対応で副大統領を選んだことが裏目に出ました。上院議員たった2年目で副大統領候補に登り詰めたベンスは経験不足で舞い上がっていますから、失言しそうな感じがします。
ニッキーに関しては、ぜひ国務長官か、安全保障補佐官に据えて頂きたい人材です。

まぁいずれにしても、この大統領選でどちらを支持するという設問を立てにくいのは、両候補の主張がねじれていることです。
エネルギー政策やLGBT、BLMなどについてはトランプのほうが妥当ですが、外交・安全保障、特にウクライナ支援については民主党のほうがましです。
だから私はどちらとも言えない、是々非々だと思って見ています。
しょせんといってはナンですが、投票権のない海の向こうの国の選挙ですから、こちらがしっかりしてれば実はどちらでもいいのです。
前回大統領選でメートルが上がって、トランプに肩入れしすぎました。
読み直してみると、トランプ側の言い分に対して大甘でした。猛省。

特にわれながら恥ずかしいのは、ドミニオンうんぬんのフェークにみごとに引っかかってしまったことです。
投票の不正はあったかもしれませんが、当時言われていたよう大規模な操作は後の手集計でも見つかりませんでした。

ジョージア州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官は、同州の全票を手作業で再集計した「歴史的」な作業の結果、同州での勝者があらためて確認されたと発表した。13日の時点で発表されていた得票数からトランプ氏が496票(全体の0.0099%)増やしたものの、バイデン氏はそれをなお1万2284票上回っており、同州での勝利が確認されたという」
(BBC2020年11月20日)
【米大統領選2020】 ジョージア州の再集計でもバイデン氏勝利 - BBCニュース

例のドミニオンに関しても司法の判断がでており、ドミニオン謀略説を報じたFOXは謝罪しています。

「ドミニオンは、2020年米大統領選で一部の州に投票機など投開票システムを提供していた。同社は2021年3月、ドナルド・トランプ前大統領に対する選挙不正に加担したという偽情報をFOXニュースに拡散され、経営に損害を被ったとして、FOXニュースを名誉毀損で提訴。損害賠償として16億ドル(約2150億円)を請求していた」
(BBC2023年4月19日)
米FOX、投票システムのドミニオンと1060億円で和解 大統領選報道めぐる名誉棄損訴訟 - BBCニュース

申し訳ない、当時からお読みの方にはなんと言っていいのやら。(汗)
冷静公平を旨とする私としたことが恥ずかしい。

というわけで、今回は乗せられないぞぉ!
どちらかに肩入れして見ると、失敗します。
その意味で、今回幸か不幸か、どちらも肩入れしにくいのが「救い」です。

 

 

2024年7月25日 (木)

トランプ、「私なら24時間以内に戦争を終わらせる」だってさ

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ご承知のように、トランプはウクライナ支援に消極的、いや明確に反対のようです。困った奴です。
先日の大統領候補討論会でも、トランプは「ウクライナは勝っていない」といっています。

「討論会での焦点の1つは、ウクライナ戦争に対する姿勢だった。トランプ氏は、こう語った。
〈ウクライナは戦争に勝っていない。彼らは兵士を失っている。大変な数の人々だ。彼らは兵士を失い、1000年の歴史をもつ金のドームがある豪華な都市を失った。すべてはバイデンの馬鹿げた決定のせいだ。もしも私が大統領だったら、ロシアは攻撃しなかっただろう〉
〈彼ら(ロシア)はオバマやバイデンから多くの土地を奪った。トランプからは何も奪っていない。何もだ。プーチンは(私だったら)そんなことをしない。私とはゲームをするつもりはないのだ〉」
ウクライナの勝利を願う人々の気持ちを逆撫でする「トランプの戦争終結プラン」が、ここにきて「現実味」を帯びている理由(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

なんのことはない、自分という抑止力があればプーチンはウクライナ侵略をしなかったといいたいようです。
ただし「勝っていない」というのは、半分はそのとおりです。
プーチンは、オバマの時代にクリミア侵攻をし、バイデン政権の時にウクライナ侵略をしたのは事実です。

クリミア併合時に、米欧の対応は不十分、かつ、遅れていました。
まだ平和共存の甘い夢から醒めていなかったのです。

ではトランプだったらどうでしょうか。いっそう悪くなったかもしれません。
というのは、いま思えばこの2014年のクリミア侵攻時に、ためらわずにロシアに対抗可能な兵器の供与をしておけば、ウクライナの抑止につながったことでしょう。

しかしオバマは口だけの制裁に止まり、結局本格的援助は今回のウクライナ全面侵略の後となりました。
つまりクリミアは、ヒトラーのズーデーテン地方併合であり、チェンバレンはオバマだったのです。
そしてトランプだったらどうでしょうか。
プーチンに融和的なことは民主党以上でしたから、いっそう悪くなったかもしれません。

このオバマのロシアへの融和政策は、同時期の中国による南シナ海の軍事拠点づくりを誘発し、さらには2021年8月にアフガニスタンからの駐留米軍撤退の無様な失敗につながっていきます。
これを見て、プーチンがウクライナ侵攻を決意したのは間違いありません。
オバマの副大統領だった老いぼれのバイデンにはなにもできまいという読みがプーチンにあったのでしょう。
完全に足元を見られたのです。

しかしバイデンの名誉のために言っておくと、勃発時に「戦争をさせたいのか」と早々と不干渉を宣言するという大ポカを犯した以外、たぶん平時の米国において最大限の支援をしたのは確かで、ウクライナ支援に向けての西側諸国の結束は9・11米中枢同時テロ直後と同じくらい強まりました。これは得点です。
しかしその一方、長距離射程の兵器を出し惜しみ、対レーダーミサイルを発射可能なF16も今になって実現するという限界がありました。
結果、ウクライナはもっと早期に侵略を撃退できる可能性があったにもかかわらず、ズブズブの持久戦という体力勝負の戦いに持ち込まれてしまいました。
こうなってしまってはすんなりと勝てる道理がありません。
それを見てトランプは憎々しくこう言います。
「私が大統領なら、24時間以内に終わらせる。勝ち負けではなく、どう決着をつけるかという問題だ。人が殺されるのを止めるのだ」と主張し、ウクライナへの支持を明言しなかった」
(毎日「私なら24時間以内に戦争終わらせる」 ウクライナ巡りトランプ氏 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
なにがオレなら24時間以内にだ。なにを言ってるんだ、ナルシストめ。
こういうことを言うトランプはドンバスの戦場に蹴り入れたくなります。

つまりもう勝ち負けではなく、どう収めるかだとトランプは言いたいようです。

「トランプ前米大統領の国家安全保障問題担当補佐官を務めたジョン・ボルトン氏は21日までに、トランプ氏が大統領に返り咲けばロシアとウクライナの間で和平を実現すると主張していることに関し「ロシアに譲歩する以外、戦争を交渉で終わらせる案を持っていない」と批判した。ウクライナにとっては「暗黒の時となる」と指摘した。米CNNのインタビューに答えた。
トランプ氏はウクライナ支援に消極的な姿勢を示す。ボルトン氏は米国の支援について「良心や慈善によるものではない。理不尽な侵略に対抗して防衛することは、米国の安全保障上の利益になる」と主張した」
(共同2024年7月22日)
和平案「ロシアに譲歩のみ」 元側近がトランプ氏批判 | 共同通信 (nordot.app) 

さすが、正論を言いすぎてトランプから解任されたボルトンらしく、直球150キロです。 
こういうボルトンや、ジェームス・マティス、マイク・ポンペオなどが居てトランプの外交は成り立っていたのです。(ちなみにこの3人も微妙に考え方が違いますが)
しかしトランプは、個人の交渉力に過度な重きを置いて、ディールに酔ってしまう悪癖のためになんども失敗の淵までいくところでした。

典型的なのは、トランプが大成功と思っている北朝鮮との首脳会談です。
それまで北朝鮮が恐れられていたのは、棒を呑んだように妥協を拒み続け、うちの国を追い込めば核兵器もろとも世界を吹き飛ばしてやるぜ、後始末に困るのはあんたらのほうでしょうが、というガキのような瀬戸際戦略をとったからです。
これが弱者の恫喝というやつですが、これが常識人の外交官ばかりが揃った国際社会では効いたのです。

かくして六カ国協議などで、北への食料援助にとどまらず、北の核と交換に新しい原発を作るの作らないのというバカ丸出しの融和策に走ったあげく、その間にほんものの核兵器体系を完成寸前にする時間を与えてしまったのです。

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こういうマッドマンセオリをとられると、トランプはきっと内心笑っていたと思います。
正恩の瀬戸際戦略なんて北朝鮮流のマッドマンセオリだから、なんだオレの得意技と一緒じゃないか、ならばオレのほうが上手だってね。
それが判れば後は早い。要はメリハリです。硬軟取り混ぜて、交渉テーブルに追い込めば勝ちなのです。
まずはこぶしを振り上げて交渉に乗らねぇならブン殴るぞと脅し、反発すれば一転しておだてるだけおだてて、いい気分になってもらって適当な妥協線を探ろう、としました。

感染症対策の戦略にハンマー&ダンスという手法がありますが、トランプのやり方も似たようなもので、初めは完全非核化という高めの球を直球で投げ込んできます。
そして朝鮮半島海域に空母を3隻もならべて威圧する。
トランプはさまざまな情報から、北の核は完成していないことを知っていました。
自由主義国家ではメディアにすぐバレてしまうような核実験も、長距離核にしても、国営プロパガンダ放送しかない国ならいくらでも偽造が可能だからです。
ですからこのような独裁国家においては、独裁者が核を持っていると宣言すれば持っていることになってしまう不思議な兵器なのです。
この貴景勝のような体形の独裁者坊やは、出来たか出来ないか誰にもわからない核を作ったと宣言することで、それをいかに米国に高く売りつけることができるか、腐心していたわけです。
そこで、「高価・迅速出張買い取りします」と言って、片手にこん棒、片手にケーキをもって出てきたのがトランプでした。
買い取り担当者はボルトンとポンペオです。
ボルトンにはこん棒を持たせ、ポンペオにはケーキを持たせました。

Photo

ボルトンがつきつけたのが、CVID 「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(ああ長い)で、これは満額要求です。
ここで重要なのは非核化そのものではなく、「検証可能」という部分です。
これは北朝鮮内部に米国や国際社会の調査団が自由に踏み込めて、自由に査察できる権利という意味です。

ポンペオはいやいやをするガキの口を、「ほ~ら、痛くないでしょう。先生に虫歯チェックさせてね」とあやしながら開けさせて、虫歯ならぬ核の実態を調査しようとしたのです。 
ここで僕、イヤダもんと口を開かない悪い子だと、怖いボルトンおじさんが、優しそうなポンペオさんの後ろからヤットコを持って登場するということになります。おお、コワ。

これがトランプの成功体験です。 
結局、ハノイ会談の時も安易な妥協をしそうになってボルトンに制止されたように、周りのスタッフにボルトン役、ポンペオ役がいてこそなんとかなったのが、トランプのディールでした。
もうトランプ御大は忘れているようですが、彼ら「チームトランプ」が居てトランプ手品ができたのです。
似たようなディールを、またプーチン相手にできると思ってウヌボレています。

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BBC

トランプ氏は「(ロシアもウクライナも)両国とも弱みと強みがある。終わらせるには(米国の)大統領の力が必要だ」と強調した。プーチン露大統領については「大きな過ちを犯したが、頭が良く、ずる賢い人物だ」と評価。「(彼は)戦争犯罪人か」との質問には「戦争犯罪人だと言えば、問題解決のためのディール(取引)がずっと難しくなる。後で議論されるべきだ」とかわした」
(毎日前掲)

トランプとプーチンは元来仲が良かったのです。
首脳級の政治家にも相性があります。
プーチンは力の信奉者で「ずる賢い」人物ですから、オバマのような青瓢箪を頭から馬鹿にしています。
ですから、いい意味でも悪い意味でもオバマの対局にいるトランプとは相性がよく、互いに認めあっているところがありました。

「トランプ氏は以前からプーチン大統領に会いたがっていた。2017年1月に就任して以来、トランプ氏はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領から北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長まで、多くの独裁的な国家元首を称賛してきた。
大統領選では、トランプ氏はプーチン氏が「ロシアを見事にコントロールしている」と述べ、同氏と仲良くなれると発言していた。今年6月に歴史的な首脳会談を果たした金委員長についても同様のコメントを残している」
(BBC2018年7月18日)
トランプ氏とプーチン氏の関係 理解に必要な情報一覧 - BBCニュース

そして結局証拠不十分となりましたが、大統領選へのロシアの介入もあったようだとBBCは匂わせています。
ロシアが得意の偽旗作戦を米国内で展開した可能性は捨てきれません。
その反面トランプは、プーチンに抵抗する人権活動家については極めて冷やかです。
アレクセイ・ナワリヌイが死亡したときはこう言っています。

「11月の米大統領選で共和党候補となる公算の大きいトランプ前大統領は19日、ロシア反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡によって「米国で何が起きているかについて認識を深めている」とコメントした。
トランプ氏によるナワリヌイ氏の死亡に関する発言は初めて。ただ、バイデン米大統領や他の欧州諸国首脳らとは異なり、プーチン大統領を非難する内容ではない」
(ロイター2024年2月20日)
トランプ氏、プーチン氏非難せず 反政府活動家死亡で | ロイター (reuters.com)

つまりなんのことはない、一貫しているトランプのプーチンに対する姿勢は融和です。
これではかつてのオバマとは別の意味で戦う前から負けています。
こんな弱腰でトランプ好みの派手なディールなどしたらどうなるか、目も当てられません。

 

2024年7月24日 (水)

カマラという悪手

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バイデンがカマラを指名した理由は、シンプルに選挙資金です。
すべての候補者選出作業が終了した後の撤退ですから、新たな候補が出るとしても選挙資金を一から再構築せねばなりません。
それをしなくて済むのがカマラです。
バイデンは150億円の選挙資金を口座に持っていますが、それは副大統領候補と連名の口座だからです。
したがってバイデン本人が辞退したいま、カマラ以外これを自由にできるものはいません。

「AP通信の報道によると、バイデンの選挙資金を本人以外に利用できるのはハリスだけだ。これは、バイデンの選挙資金口座が大統領候補と副大統領候補の連名で連邦選挙委員会に登録されているためである。献金は両候補へ行われた形になっており、ハリスはこの資金を自分の大統領選出馬に活用できる。21日に「Harris for President」へと名称変更された口座には、6月1日時点で9600万ドル(約150億円)の資金が集まっていた」
(フォーブス7月22日)
バイデンが大統領選から撤退、ハリス副大統領を後継に支持 今後の展望は | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

もっともCNNテレビによれば、5月末時点のトランプ陣営の政治資金は1億1660万ドル(約184億円)。 これに対しバイデン陣営は9160万ドルと差を付けられていますが、とまれこの資金問題がなければ、彼の政治スタンスに近い中間派からを指名したはずです。
しかし後継指名をもらったものの、おそらくカマラではまとまらないでしょう。



カマラはヒンドゥ語で「蓮」(名前まであの人に似てる)のことで、つけたのはインド系の母親でした。
父親がアフリカ系にすぎませんから、バイデンが辞退演説で「アフリカ系女性を選んだ」と言ったのは半分だけホントにすぎません。
インド系女性なら特に珍しくもなく、共和党にもニッキー・ヘイリーがいますし、副大統領候補のベンスの妻もそうです。

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「ガラスの天井」挑戦へ ハリス氏、実績に不安 副大統領候補に白人男性の観測・米大統領選(時事通信) - Yahoo!ニュース

「ガラスの天井」なんて台詞はヒラリーのパクリでしょう。ヒラリーはカマラの10倍以上実務能力がありましたが、それでもトランプには勝てなかったのですからね。
バイデンが彼女を副大統領に指名したのは、その能力を買ったというより「黒人女性」だったからです。

「1991年のアニタ・ヒル事件以降、民主党内で「女性の敵」と誤解され、その払拭を悲願とするバイデンは、初の女性大統領誕生の立役者になることを希望している」
(渡辺将人バイデン政権を悩ますハリス副大統領という難題 | SPFアメリカ現状モニター | 日米関係インサイト)

このアニタ・ヒル事件は、セクシャルハラスメント被害公的に訴えた女性に対して上院司法委員会委員長だったバイデンが否定的態度をとったことによります。
これはバイデンは気の毒な面もあるのですが、これで女性運動家たちから蛇蝎のように嫌われ、以後「女性の敵」扱いを受けます。
そういうことがあったためにバイデンは大統領になる前から女性を最高裁判事にすると言明し、副大統領にカマラを抜擢したのです。

副大統領となったカマラは、とかくバイデンの足をひっぱることばかり起こします。
検事なんて稼業をやっていたせいか、そもそも政治家としての基本能力のコミュニケーション能力が欠落しています。
副大統領以前には「アイオワの十字架」事件を引き起こしています。

2019年、当時上院議員だったハリスは大統領候補指名キャンペーンの真っ最中でした。
女性黒人候補として推す多くのボランティアで、選挙事務所は異様なほどの熱気だったようです。

「ところがハリスは2019年12月に唐突にキャンペーンから撤退する。しかも、内部でスタッフに説明が行き渡らないうちにプレスに告知した。党員集会を目前に準備に奔走していたアイオワの現場も報道で知った。茫然自失の中、怒号が飛び交い、ボランティア学生は泣き崩れた。何しろ理由が分からない。初戦地であるアイオワの有給スタッフにすら、本部や議員本人から説明がない有様だった。(略)
当時の戸惑いと怒りを支持者は決して忘れない。棚からぼた餅で副大統領候補に選ばれたとき、熱心な初期支持者ほど本選キャンペーン参加に背を向けることで抗議を示す人がいたのは、この記憶があったからだ。」
(渡辺前掲)

突然の選挙戦からの撤退。しかも自分を支えてくれた人々にいっさいの説明なし。
このようなコミュニケーション能力を頭から欠いた体質と、自分の選挙運動チームもまとめられないマネージメント能力のなさは副大統領以前からそうなのです。
そもそもカマラは、政治家をやってはいけないタイプの人で、この体質は副大統領になった後もそのまま温存され、むしろ権力が付与されたぶんだけ肥大化しました。

「政策的失態というよりはマネージメント能力への疑問である。コミュニケーション戦略の破綻によるメディア対策不足でリークが頻出するところは、1993年のクリントン政権1期目の混乱にも似ている。複数の米メディアが副大統領室の混乱を6月以降相次いで報じている。(略)
ポリティコ紙は、元側近や現側近などホワイトハウス内のハリスの元・現部下にまたがる22名のディープな筋からの証言を報じた。副大統領室の士気は低空飛行で早々に幹部スタッフの辞職が続出しているという」
(渡辺前掲)

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Harris Speaks Out On Why She Hasn’t Traveled To Southern Border (youtube.com)

NBCナイトニュースのアンカーであるレスター・ホルトが移民問題にからめて、なぜカマラが国境を視察しないのかと尋ねたところプッツン。答えた台詞が「私は欧州にも行ってない」ですから、話になりません。
この批判めいたことをいわれると見境なくキレやすい体質も、日本のアノ人に似ています。
これを切り取られてユーチューブで拡散され大恥をかきますが、当人は蛙の面になんとやらです。
あげく左右両陣営からの十字砲火。

カマラの評判はバイデン以下です。
バイデンは人の良さと上品に見えるのが救いでしたが、カマラときたひにゃ政治家として未熟なうえに、なんの実績もなく、しかも喧嘩早く、徒に摩擦を引き起こすのが趣味ですから、民主党主流派、つまりバイデンのような中道左派からは総スッカンです。
カラード層からもヒスパニック系はカマラ嫌いも多く、今回はトランプにヒスパニック票が流れ込むかもしれません。
結局、カマラを熱烈支持するのは、反イスラエルで突っ走る極左とBLMの黒人層、そして環境原理主義者だけです。
つまりカマラの政治的支持層は極左なのです。

ほんとうのところ、バイデンがカマラを指名したのは、自分に忠誠を尽くして来てくれたことへの評価でもなければ、ましてや政治的理念でもなく、ただ選挙資金がらみにすぎませんでした。
他の候補だと一から選挙資金を構築せねばなりませんが副大統領ならそのままバイデンの資金をあてにできますからね。
というわけで、米国の地雷オンナが民主党候補で決まりそうです。
民主党最悪の悪手です。
いや、選挙資金も急速に集まってきているから勝てるぞ、という人もいるようですが、今の米国が抱える数多くの問題になにひとつ処方箋を持たないのですから、やはり貧すれば鈍するでしょうか。
この民主党のていたらくを見ていると、いよいよ「確トラ」になりそうですが、日本政府はなにひとつ対応を準備できていないようなのです。
もう安倍さんに頼れないのですよ。


 

2024年7月23日 (火)

バイデン涙の撤退

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ご承知のようにバイデンが撤退表明し、カマラ・ハリスを後継に指名しました。

「ジョー・バイデン米大統領は21日、大統領選から撤退すると発表し、アメリカの有権者を驚かせた。大統領はもう何週間にもわたり、撤退を求める声に抵抗していた。
バイデン氏は大統領としての任期は全うすると表明しつつ、今年11月の大統領選では自分の代わりとなる民主党の候補として、カマラ・ハリス副大統領を全面的に支持すると言明した」
(BBC7月22日)
【米大統領選2024】 撤退のバイデン氏、ハリス副大統領を支持 ではこの次は?(BBC News) - Yahoo!ニュース

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【米大統領選2024】バイデン氏、米大統領選からの撤退を表明 後任候補にハリス副大統領を支持 - BBCニュース

思わず、バイデン爺に同情したくなりました。
彼にまたまた撤退の鈴をつけたのはオバマです。
オバマに副大統領として8年間も仕えたのはバイデンでした。
副大統領というなんの権限も与えらていない陰キャラを8年間もやったことの唯一の報いは、その忠誠の報酬として次期大統領選の後継指名をもらえることだったはずなのに、なんとお可哀相なジョー。

副大統領は不思議な職務です。権力継承順位1位でありながら、あくまでもイザという時のスペアでしかありません。
無色透明の人間であり、大統領がピンピンしている間は、大統領演説の後ろでニコニコしているくらいしか仕事がありません。
有能な政治家なら耐えられないかもしれません。

それを知っているバイデンは、今回の逆風において2つのシナリオを持っていました。
第1は、バイデンが2期めを目指すこと。
当然、今回彼はこの道を突き進む予定でした。まだ1期しかやっていないし、大統領職は2期でワンセットなのです。
1期めは党内調整で始めの2年は潰れますから、やりたいことができるのはたった2年です。

バイデンは党内左派と中間派の妥協で生まれた政権だけに、わじわじとしたこともあったはずです。
ですからそれから解放される2期めを待望していたはずでした。
またなんといっても「トランプに勝った」という政治的資産は大きいので、対抗馬も出ずに党内候補の地位を獲得しました。
ですから2期めに不出馬という選択肢はバイデンにはなかったはずです。

ところが、政治家としての熟成期に年下のオバマのスペアを8年間もやったために大統領に就いた時は老いぼれていました。
足はよろける、手は震える、すぐに物忘れするという老耄が隠せなくなったのです。
そこで第2は、1期目で引退し誰か自分の政策を引き継ぐ人物に譲ることです。

結局、バイデンは第1の選択を党内とメディアに阻まれて、第2の道をえらぶしかないまでに追い詰められてしまいました。

リベラルメディアは砲門を揃えてバイデン撤退を唱えて、民主党内からも造反組が続々と出てきたところでした。
しかしバイデンは自分はまだリングに立っている、まだ戦えるとタオルを入れることを拒否し続けたわけです。
その引導を渡す役割をしたのは、またもやオバマでした。
前回の時もオバマはバイデンを後継指名せずに、国務長官だったヒラリーを指名しましたが、今回は政界からの引退に等しい勧告をしに現れたのです。
オバマは、リングサイドにフラフラになって戻ったバイデンに、タオルを投げるぞとささやいたのですから、コロナ明けのバイデンはぽっきり折れました。
いいおじぃちゃんとして余生をお送りください。

いくら「残りの任期をまっとうすることが党と国家への忠誠の証だ」と力んでも、後継指名までしてしまった人物はただの丸焼けのレームダックです。
どの国もまともにバイデンに対応しようとはしないはずです。
ロシアやイラン、中国はもはやバイデンを相手にしないでしょうし、同盟国ですらご苦労さまでしたお身体をご自愛下さいと優しく言うのみです。

いっそここで思い切って辞任して、自動的にカマラを大統領に昇格させて「現職大統領」として戦わせるという裏技を使えと言う人もいましたが、相手は「前大統領」にしていまや「民主主義の受難者」という後光を背負ったトランプです。
そんな姑息な手を使ったら、それでなくても民主党内すらカマラで一本化できるか怪しいのに、共和党から嵐のような罵声を浴びることでしょう。
そして国民からもね。
カマラについては次回に回します。

 

 

 

2024年7月22日 (月)

トランプ警備失敗の謎

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バイデンが撤退して後継は民主党最左派のカマラ・ハリスだそうです。
大山鳴動、結局あの悪評ふんぷんたるカマラかよ、というかんじで、意外感はありません。
おそらく、かつて仕えたオバマに引導を渡されたのが効いたのでしょう。
オバマはかつて副大統領だったバイデンを後継指名せずにヒラリーを候補としましたが、今回また二度目の引導です。
こういうかんじで事実上の政界引退ですから、やや気の毒な感じさえします。

「アメリカのバイデン大統領は、21日午後、声明を出し、秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退する考えを表明しました。
そして、後任の民主党の大統領候補に、ハリス副大統領を指名する考えを示しました。
再選を目指す現職大統領が選挙戦の途中で撤退するのは1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりの事態です」
(NHK7月22日)
【速報】バイデン氏 大統領選 撤退表明 後任候補 ハリス氏指名 | NHK | バイデン大統領 

撤退については明日に。

さて、トランプ暗殺未遂事件についての詳細がわかってきました。
というか不思議なことがあぶり出された、というほうが正確かな。

BBCが暗殺未遂事件について検証をおこなっています。
このへんの冷静さは、ただワーワーいうだけで「選挙戦への影響は」などと言ってしまうどこぞ国のメディアとは大違いです。
時系列で追っています。
【検証】 トランプ前米大統領の暗殺未遂、事件はどのように展開したのか (youtube.com)

さて、この暗殺犯トーマス・クルックスの動向は発砲前からわかっていました。
男は会場外で車を乗り捨てると、その中に爆発物を置いたまま自動小銃を携行したまま徒歩で工場の倉庫に向かっています。
下写真の右側の小さな方の建物で、男は登るための長い梯子まで準備していました。
この時点で警備は失敗と烙印されてもいたしかたありません。

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BBC

携行していた武器はDPMS製AR-15/5.56㎜ライフルで、民間仕様のために連射機能がはずしてあるだけで、軍用と同様の自動小銃です。
有効射程は400ⅿ以上ですが、今回の暗殺犯の潜んだ建物からトランまでわずか130ⅿという距離しかありませんでした。
スコープがついており、遮蔽物がない場所での狙撃ですから、ほぼ必中距離だといってよいでしょう。
父親の銃だという情報もありますが、暗殺犯も射撃クラブの会員だったようです。

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軍隊仕様の銃『AR15』とは?動機は?共和党員20歳男がトランプ氏“銃撃”事件の全容は(テレ朝news)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

ここでこの事件の最大の謎の一番目が浮かんできます。
どうしてこんな狙撃可能な場所に、シークレットサービスは銃を持った犯人を容易に近づけたのでしょうか。
犯人からトランプまで見下ろす形が130メートルでした。

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BBC

しかもこの会場に来た観客のひとりは犯人が建物の屋根に登るのを目撃し、警官に通報していましたが、無視されたと怒っています。

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BBC

ここで出てくるのは「警備の範囲」です。
この建物があったのは会場外で警備は地元警察がおこなっていました。
たしかに大統領は退任後も、生涯にわたってシークレットサービスが警護をしますが、現職と違って人員も少なく予算も限られているようです。
そこでシークレットサービスは地元警察(州警察、郡警察など)に協力を頼んで警備をします。
米国の警察機関は日本のように一元化されている国と違って、地方に行けば行くほど各種の警察や保安官が複雑怪奇にり組んで存在し、必ずしも相互の連絡関係はスムーズではありません。

ここで疑問に思うのは、シークレットサービスが警備計画を立てたと言いながら、なぜこのような絶好な狙撃ポイントを犯人に与えてしまったか、です。
今回の場合、会場内はシークレット・サービスが直接警備し、会場外はペンシルべニア州バトラー郡警察が警備しました。
なお、狙撃された後に壇上裏からわらわらと兵隊のような男たちの一群が出てきましたが、あれがバトラー郡警察SWATチームです。
彼らSWATチームが、会場外を警備していたら犯人は建物に近づくことさえできなかったと思いますが、結局なにもできないまま壇上裏に待機したままでした。

この批判に対して、シークレット・サービス長官のキンバリー・チートルは、7月16日、米ABCテレビで「その建物の屋根には傾斜があったので、危険なために警察官を配置していなかった」と説明して炎上しています。
そりゃそうでしょう、あの建物は犯人が楽に横たわって寝撃ち(Prone Position)が可能な程度のゆるい傾斜の屋根だったからです。

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BBC

「この寝撃ちは、4つある射撃姿勢の中で一番正確に射撃できる姿勢です。
うつぶせになり、両肘を立てて銃構えます。体の大部分を地面に預けることになり、体とライフルは安定します。体の隠蔽率が最も高く、敵に発見されにくくなります。しかし、その反面、低姿勢は視野が制限され、草むらなどブッシュの中では更に視野が狭まります」
ライフルを持った時の4つの基本の構え方・射撃姿勢│サバテク|sabatech

不審な人物が建物の屋根に上ったという通報を受けての地元警察の対応は鈍く、その建物には警官が配置されていて、そのひとりが見に上がったようですが、犯人から銃を突きつけられてそれ以上の行動をしなかったようです。
すぐに発砲するので有名な米国警察流とも思えませんが、上がってこようとする警官を追い払ってから犯人は悠々と狙撃にとりかかっています。
この時点でどのような連絡がシークレットサービスの警備本部に行ったのかわかりませんが、信じられないような失敗です。

しかし遅れはしたもののこの連絡を受けたシークレット・サービスは、会場後ろの建物屋上で待機する対狙撃班(CS)のカウンタースナイパーチームに対応を指示しました。

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BBC

このカウンタースナイパーのCSチーム「ヘラクレス」は特殊作戦部に所属し、黒スーツシークレットサービスの「大統領警護部」とは別系列ですが、通常は緊密に連絡を取り合っていたはずでした。
ここで第2の疑問点が浮上します。

カウンタースナイパーチームは高倍率のスコープを装したレミントンM700という高性能ライフルを装備していましたが、その動きは緩慢でした。
映像でも確認できますが、連絡を受けて犯人の方向に銃を指向し、当然望遠スコープには犯人が照準されていたはずなのにもかかわらず、直ちに対応せずに先に撃たせてしまっています。
いいでしょうか、そのとき犯人は銃を向けていたのですよ。なぜ撃たない!

この数秒間の謎の逡巡の間に、犯人はトランプとその周辺に弾丸の雨を降らせ、トランプ以外に1名を射殺し、2名に重傷を負わせました。

犯人の放った弾丸はまさに奇跡的にトランプの頭蓋骨をわずかに逸れて耳たぶを撃ち抜きました。

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ANN

まさに奇跡としか言いようがありません。
この数秒のカウンタースナイパーの逡巡がなぜ起きたのか、一節で上部からストップがかかったという根拠不明の情報もあるようですが、謎です。

とまれ福音派に近いトランプは、これでいっそう自分は神の加護があると信じたはずです。
ただしその後のシークレットサービスの動きはまさに要人警護はかくあるべしという手本で、トランプを布団むしにしてみずからの身体で防いでいます。

安倍氏の時のように、安倍氏を放って第2撃を与えた奈良県警とはエライ違いです。

 

 

2024年7月21日 (日)

日曜写真館 ふり止みて再びはげし蓼の雨

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雨あがりつゝ風あらき新樹かな 高濱年尾

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雨止んでもとの青空龍の玉 児玉輝代

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雨上がりたる緑蔭の匂ひかな 行方克己

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雨上がり生命の限り蝉鳴けり 長田一男

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雨上り撒き散らすごと新樹光 松田ひとみ

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山椒の実匂ふとすれば父の国 加藤秋邨 

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顔も膝も蔦の羅漢や夏近き 渡辺水巴

 

 

 

2024年7月20日 (土)

モディの一突き

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1週間前に書いたのですが、暗殺未遂事件がおきてお蔵入りになっていました。
あまり遅くなると間が抜けるので、アップしておきます。


こういうのをうまいと評していいのか迷うところですが、巧みであることは間違いないでしょう。

インドのモディ首相がロシアを訪問し、プーチンと会談しました。
プーチンはニカニカしていますが、そこは狡猾なモディはちゃんとこういうことを言っています。

「ロ印首脳会談 中立を維持するインド、軍の装備品などをロシアに依存し、一方で西側との軍事協力を拡大しているインド、米国や西側社会ともロシアとも微妙な距離感覚を保っている。(略)
また、経済的にも経済制裁の効果が明確化しており、さらに追い込まれている状態にある。これは真綿で首を絞められているようなものであり、協力という名目であるがインドはロシアの持つ技術(原子力など)を買いたたく形になっている」
(ロイター7月10日)
ロ印首脳会談、緊密協力で合意 モディ氏、人命損失を公然と批判 | ロイター (reuters.com)

オモチャの兵隊がしゃっちょこばって迎える中で穏やかに会談は始まっているようですが、プーチンは数少ない「友好国」から真綿に針をつつむようにしてグサリと刺されています。

「今回の首脳会談では、ウクライナ問題による人命損失を批判 これまで友好国に公然と批判されたことがなかったプーチンにとっては痛手となる。記者会見でもモディに完全に主導権を奪われた形となった。戦争が長期化する中で、軍人と装備品の消耗が進んでいる」
(ロイター前掲)

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ロイター

こはれはキーウをプーチンがミサイル攻撃したことに対する批判です。

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BBC


「ウクライナ各地で8日、ロシア軍のミサイル攻撃があり、少なくとも41人が死亡、166人がけがを負った。首都キーウでは小児病院がミサイルの直撃を受けた。ウクライナ最大の小児科施設であるキーウのオーマトディト小児病院は、爆発で大きな被害を受け、2人が死亡した。
レシア・リシッツァ医師はBBCに対し、ミサイルが落ちた瞬間は「ものすごい光と恐ろしい音」で「まるで映画のようだった」と語った。
「病院の一部は破壊され、別の場所では火災が起きた。本当にひどい損傷を受けた。病院の60~70%が被害を受けたと思う」
(BBC7月9日)
キーウの小児病院にミサイル ロシア軍がウクライナ各地を攻撃、死者40人超 - BBCニュース

さすが鋼鉄製の顔面皮膚を持つ独裁者は、あれは「民間目標を意図的に攻撃したというキーウ政権の声明は虚偽だ。小児科病院に落下したのは防空システムから発射された迎撃ミサイルだ」と言っていますが、もちろんウソです。
どうしてすぐにバレるようなことを言うかね、小児科病院からは多数のロシアの巡航ミサイルの部品が見つかっているのです。

「ロシア軍のKh-101(Х-101)巡航ミサイルのジェットエンジンの一部が発見されています。ジェットエンジンという時点で巡航ミサイルであることは確定します。地対空ミサイルは固体燃料ロケットモーターで推進するため、このような部品を持ちません」
(JSF7月11日)
ウクライナ保安庁が小児病院の破壊痕からロシア軍Kh-101巡航ミサイルのエンジン部品などを新たに回収(JSF) 

現場にいた証人たちはキーンというジェット音を聞いた後、物体が病院に突入するのを目撃しています。
超音速で落下してくる迎撃ミサイルはジェット音を出しませんし、目では見えません。
平気で「友好国」首脳にウソを言うとはさすがです。
モディさんはこんな言い訳の裏側を知りながら、あえてこういうことを言って、プーチンに下写真のような顔をさせています。
視線を逸らしてすっとぼけようとしているのでしょうが、きっと内心はこのクソジジィ、厭味垂れやがってナローと思っているんでしょうね。

「戦争やテロ攻撃で無実の子供が死ぬことは心が痛む」とも語った。具体的な攻撃の主体には言及しなかったが、露軍の8日のミサイル攻撃がキーウの小児病院などに着弾し、多数の死傷者が出たことに懸念を示した」
(読売7月10日)
インドのモディ首相、プーチン氏と会談「爆弾と銃ではなく対話で解決すべきだ」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

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ロイター

いまや、明確なロシア支援を示しているのは北朝鮮一国くらいで、戦争資源は枯渇して砲弾やミサイルすら北朝鮮の粗悪品を緊急輸入して凌いでいるありさまです。
それを贖う外貨の調達も非常に難しくなっていて、いままで中国の人民元を利用し、第三国を通じて経済制裁逃れをしてきました。
しかし米国は人民元決済に協力する中国の銀行に警告を発し、これを行ってきた第三国支店などを2次的経済制裁(セカンダリー・サンクション)の対象にしました。
これにより、第三国を通じた貿易決済も難しくなり始めています。
ただし、ロシアは原油・LNGなどの資源国であり、世界有数の武器輸出国であるため、バーター取引は未だ可能です。

2022年、ロシア中銀総裁は、このまま推移すればロシアではモノが作れなくなると発言しました。

「ロシアで製造されるすべての製品は輸入部品に依存する」とし、西側の輸出制裁でロシア企業はサプライチェーンを移すか、自ら部品を調達するなどの対策を講じなければならないと述べ、また、西側の制裁で6000億ドル(約77兆円)に達する外貨保有高と金の半分が凍結された状態であることを認めた。
NYTはプーチン大統領の楽観的予想とは相反する予測が方々から出ているとし、国際金融機関らは今年のロシア経済が10~15%縮小すると予想していると伝え、ロシア中央銀行は、消費財価格が昨年より16.7%上昇したと述べた」
(ニューヨークタイムス2022年4月18日)
ロシア経済の厳しい評価はプーチンのバラ色の主張と矛盾する-ニューヨークタイムズ (nytimes.com)

ロシア経済がこれだけ経済制裁をかけられながらも、なんとかもっているのは、発展途上国タイプのモノカルサャー経済だからです。
国家経済は、原油、LNG、木材、金属などの資源の輸出によって成り立っており、唯一世界と対等の競争力を持つ製造業は軍需産業です。
軍需産業はそこそこの性能のものを西側より格安で売って世界第2位に上り詰めた、ワン&オンリーの輸出産業です。
ミグとスホーイのブランドを持つユナイテッド・エアクラフト社、戦車ならロスティック社、通信機器のバイカルエレクロニクス社などがそうです。

戦車や戦闘機産業は、ロシアの唯一の輸出工業製品であり、かつ世界の大国としての威信はこの軍事力に依存していました。
世界に大量の武器類を輸出することで、その国を政治的に従属させる力にしていました。
カネ儲けできるうえに世界の大国ヅラできるて、一粒で二度おいしい、これが武器輸出なのです。
ところが戦車と航空機というふたつの翼のうち、戦車は自分が引き起こした戦争で大蔵浚えをしてポンコツを直して戦場に送り出しているありさまです。
航空機だけは防空ミサイルが怖くてまともに戦場上空を飛ばしていないので温存されているというありさまです。
ここで「唯一の友好国」のインドに航空機を売って外貨を稼がないでどうする、これが切なる本音だったはずです。

モディはそんなプーチンの下心を読み切って人道的非難をやんわりと言ってみせたのでしょう。
インドはソ連時代からロシア製戦闘機を大量に買っていました。

しかしいまやそのロシア製戦闘機を使って、日本の空自と共同訓練するまでになっています。
今年1月10日、インド空軍のSu-30MKI戦闘機が空自の百里基地に訪問し、日印戦闘機共同訓練「ヴィーア・ガーディアン23」を実施しました。

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インド空軍Su-30MKI、百里基地に到着 日本初飛来、空自と共同訓練 (aviationwire.jp)

わ,はは、ロシアは自分が売った機体で、日印共同訓練をやられているのですからざまぁありません。
ちなみに、いままで秘密のベールに隠れていたこの最新鋭のSu-30MKI戦闘機に空自パイロットたちが同乗し、気前よく質問に答えてもらったそうです。
なんというインドのしたたかさ。


今回の印露首脳会談の裏でも、随行のインド商人とロシアの航空機製造会社がドンパチやりあったのでしょうが、どちらが有利かは考えなくてもわかります。

 

 

2024年7月19日 (金)

だれが米国を分断したのか

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トランプ暗殺未遂事件で、これでほぼ決着と私は感じていましたが、そうは思わない専門家諸氏は大勢いるようです。
アメリカ現代政治外交が専門だという前嶋和弘教授はこう述べています。

「「トランプ氏に同情票が流れるのでは?」とも推測されている選挙戦への影響について次のように述べた。
同情票についてはなんとも言えない。確かに、1981年3月にレーガン氏が現職の大統領の時にヒルトンホテルの前で撃たれて入院した際には支持率が20ポイントも上昇した。だが、その時はアメリカが“一つの世論”とでも言うべき状況だったが、今のアメリカには保守系とリベラル系の2つの世論がある。分断の時代において、大統領という1人に対する見方も保守とリベラルとでは大きく違う。そのため、このままトランプ氏が圧倒的に勝つとはちょっと考えにくい。
今回の襲撃を受け、SNSなどを通して団結を呼びかけるトランプ氏と、 襲撃に対して「標的」などの言葉を使ったことで周囲から追求されるバイデン氏。これを「これまでと構図が逆転している」と見る向きもあるが、これに対し前嶋氏は「短期的なものだ」と否定した」
(ABEMAタイムス7月18日)
専門家「襲撃でトランプ氏に“同情票”が流れる」に疑義 大統領選への影響は?(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

う~ん、「短期的影響しかない」ですか、前嶋さん。
そもそも「同情論」ということで暗殺未遂事件を見ようとすること自体、そうとうにハズしています。
たぶんこの前嶋氏は大方の米国研究者がそうであるように、民主党サイドからモノを見ているのでこう見えます。
トランプは別に同情なんぞされたくないはずですよ。
民主党から「流れる」としたら同情ではなく、「暴力に屈せずにファイティングポーズを取り続けるというタフさに対する「賛辞」です。
多くの米国人は、じぶんの国が内部からガタガタになり、崩壊しようとしていることに漠然たる脅威を感じています。
少なくともこれはじぶんが育った祖国ではないと思い始めています。
しかしそれを形にして政治のテーマとし、さらに行政化したのは大統領としてのトランプただひとりでした。

暗殺未遂事件は、このようなアイコンを暴力で抹殺しようとした事件でした。
しかしトランプは奇跡的に死ななかった
銃撃されていったんは伏せたものの、直ちに護衛をはね除けるように立ち上がり、拳を天高く振り上げて星条旗を背景に聴衆に向かって「戦え!」と叫んだのです。

前嶋氏は「分断の時代」と言い、明示こそしませんでしたが、その責任はトランプにあると言いたいようです。
ほとんどすべてのメディアが、トランプが米国を分断したと無条件に決めつけて「米国の分断を深めたトランプ」という表現をあたりまえにしています。
果たしてそうでしょうか。
私の認識は真逆です。
米国を分断させたのは、民主党が支援したBLMやポリコレであり、トランプはそれを食い止めようとしたと思っています。
トランプはその粗野な態度で誤解されていますが、彼は力を抑止力として考えています。
ですから直接的な軍事行使は限定的であり、国内に対しても同様に抑止的です。

米国のBLMは、「黒人差別反対を叫ぶ我々に反対する者たちは反動的で、過去の黒人奴隷所有者は例外なくすべて糾弾されるべきだ」と言って、自国の歴史と文化を裁断しようとしました。
自国の歴史を当時を生きた人たちとは無関係に、今の価値観でバッサリと唐竹割りにできるものではないし、それを国民大衆に押しつけるのは止めて欲しいものです。

しかしこのての運動は言論の自由を口にしながら、その実、極めつきの統制主義です。
価値観を一般の国民にまで強制し、言葉狩りをするのを常とします。いわゆるポリコレです。
ことの発端は警官による黒人殺害事件でしたが、この事件によってBLM運動が爆発し、それはやがてアンティファ(アンチファシスト委員会)による暴動と、そして歴史的記念碑の暴力的破壊へとつながっていくことになります。

というのはBLMはこのような性格を持っていたからです。
米国在住の中国人ジャーナリストの何清漣はこう語っています。

「私は最近、自分の原稿の中に、この運動(BLM運動)と中国文革にはよく似たDNAがあると書いた。なにかって?みなさんご存じのように中国の文革の核心はマルクス主義であり、マルクス主義の核心理論は暴力革命。
既存の国家メカニズムを破壊し、新たな国家メカニズムを打ち立てること。これはなぜ民主党が首長の各州で警察機構がマヒしているかの理由でもあろう。
文革期の公安、検察、裁判所で同様の打ちこわしがあったことと同じだ。このようにして初めて、法執行機関の介入なしに、すべての“四旧”を好きなようにできるのだ」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ) NO.103  2020年6月28日)

BLMは米国版文革運動であり、アンティファは紅衛兵だ、そう考えると分かりやすいのではないでしょうか。
もちろんこの紅衛兵たちを仕掛けた者がいるのです。竹のカーテンの向こう側に。

当初は、歴史的記念碑の破壊運動は、南軍の将軍像を破壊することから始まりました。
なぜって?敗軍の将ならバッシングしやすいからにすぎません。
これは発端でしかなく、BLMはあっと言う間にエスカレートしていきます。

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AFP

「【6月5日 AFP】米バージニア州のラルフ・ノーサム知事は4日、州都リッチモンドにある南北戦争時の南軍司令官、ロバート・E・リー将軍の像を「できるだけ速やかに」撤去するよう指示したことを明らかにした。
リー将軍が率いた南部連合(Confederate States of America)は奴隷制度を擁護していたことから、将軍像の周辺のモニュメントアベニューでは連日、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官に拘束された際に死亡した事件に抗議するデモが続き、像への落書きも相次いでいる」AFP2020年6月5日)

このバージニア州知事は民主党員で、こののち猖獗をふるったBLMとその突撃隊のアンティファ暴動を幇助し続けたのもまたことごとく民主党系知事ばかりでした。
彼らの特色は、BLMの要求どおり、「反動的な銅像」を撤去し、商店が略奪されても州兵も出さず、むしろ警官にはてぬるい規制を命令し、果てはシアトル市長のようにアンティファが「解放区」を作れば「愛の夏が始まった」と歓喜の声を上げたほどです。
こうなるともうアンティファの共犯者です。

この後にBLMは、シアトルに銃による武装解放区をつくろうとしました。
この解放区の中にあった警察署の署長は黒人女性でしたが、撤収命令に強く抗議をしましたが、民主党系市長は握りつぶします。
トランプ陽性判定とシアトル自治区の「愛の夏」の結末: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

しかしこのコンミューンはわずか一カ月で内部崩壊を起こします。
お定まりの略奪・暴行、そして黒人少年が殺害される事件まで起きたからです。

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出典不明

しかし、彼らの共犯者であるシアトル市長と州知事(これも民主党)は、なにひとつ責任を問われることがありませんでした。
むしろ民主党系リベラルのメディアと政治家たちは、BLMとアンティファの暴走を支援しました。
たとえば2021年8月、ニューヨークタイムスは「1619プロジェクト」と称する12本のシリーズ特集を掲載しました。
これはリベラル左翼による米国建国史に対する修正要求でした。
ここに出てくる1619年とは、
黒人奴隷が独立前のバージニア植民地に初めて連れて来られた年で、そこを米国建国の年としようとする考えでした。

そして米国の民主党系メディアの代表であるニューヨークタイムスは、以後の米国史は、とりもなおさず黒人奴隷の迫害の悲劇の歴史であって、ここを軸に展開してきたとします。
そして実は1776年の米国の独立は汚辱にまみれたもので、その本当の動機は奴隷所有者である建国の父たちが奴隷制維持を企んだからだ、と主張します。
つまり建国の父たちは奴隷所有者であって、腹黒い差別主義者、悪人だというわけです。
この「1619プロジェクト」は、掲載中から多くの事実誤認を歴史学者に指摘されており、これにピューリツァ賞を与えてしまった際には、米国科学アカデミーは、そのようなことはメディアの仕事ではないと抗議しています。

そしてこの左翼メディアの煽動に乗るようにして、BLMは次の標的をとうとう建国の父たち、独立宣言署名者らに移していきます。

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像破壊訴追命じる大統領令 トランプ氏、奴隷制絡

「首都ワシントンでは22日夜、数十人の暴徒がホワイトハウス前の公園に建てられている第7代ジャクソン大統領の銅像をロープや鎖で引っ張って倒そうとしたが、駆け付けた警官隊に撃退された。トランプ氏は暴徒らの行為を「闇討ちだ」と非難した。 デモに参加している一部の黒人運動家や極左系の活動家は、ジャクソンや初代ワシントン大統領、第3代ジェファソン大統領について「生前に奴隷を所有していた」との理由で銅像や記念碑を破壊している。
 銅像などの破壊行為は当初、奴隷制を支持した南部連合政府に連なる政治家や軍人に集中していたが、最近はワシントンといった「建国の父」らを含め、標的が広範囲に拡大している。
有識者からは「現在の尺度で過去を一面的に断罪し、米国が積み重ねてきた歴史を否定する行為」として懸念の声も出ている」
(産経2020年6月24日)

そして当然の流れとして次に襲撃されたのは、「原住民虐殺のきっかけを作った」コロンブス、そして「奴隷制度を守るために独立した」初代大統領ワシントンでした。
うちの国では、ミセスグリーンアップルがコロンブスの格好をしたミュージックビデオが人種差別だと、一橋大の貴堂嘉之教授からこう罵倒されています。

「世界史の教科書作りに長年携わってきた一橋大の貴堂嘉之教授(米国史)は、コロンブスの評価について「2000年代以降は新大陸にたどり着いた航海者ではなく、植民地支配のきっかけになった人物としての位置付けが強まっている(略)
 明らかな人種差別的表現で、植民地支配を容認するように受け止められる。世界基準で判断すれば教養不足と評価されても仕方ない」と語る」
(東京2024年6月19日)
「コロンブス=侵略者」世界基準知らず…「不勉強」が生む過ちとは Mrs. GREEN APPLE炎上で考える:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

こういう米国リベラルの出涸らしみたいな人ばかりが日本の米国専門家のようです。
そしてミセスグリーンアップルに、ウィキくらい調べろと鼻持ちならないエリート主義を吹かせています。おおいやだ、虫酸が走る。

トランプは厳しくこれを批判し、像の破壊をやめるように訴えたのですが、反トランプの濁流にかき消されていきます。
そしてとうとうやり玉に上がったのは、なんとリンカーンでした。
リンカーン像が黒人を見下ろしているのがけしからんというのですから、理屈と膏薬はどこにでも着くとはよく言ったもんです。
どちらが「分断」の張本人なのでしょうか。誰が米国を破壊しているのか。

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AP

このような米国版文革に対して、トランプが出した答えが「1776委員会」を作ることでした。
ここで彼はこういう
大統領令をだします。その冒頭こうあります。
原文はリンク切れなので、高橋克己氏から引用いたします。
トランプの「1776委員会」は米国社会の分断に終止符を打てるか | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

「憲法とアメリカ合衆国の法律によって大統領としての私に与えられた権限によ、そしてこれから成長してゆく世代rising generation1776年にアメリカ合衆国建設の歴史と原則をよりよく理解、これを通じてより完全な連邦を作り上げるようにするため、ここに次のように命令る」

そして目的として、こうトランプはこのように述べています。

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「第1条「目的」には、自由と平等の権利を原則にして形成された共和国は、憲法制定、内戦、奴隷制廃止、一連の国内危機と世界紛争を経て歴史上稀な国家となったが、近年、このような歴史に反し、貧弱な学問に基づ一連の論争がが建国建国者中傷しているとある。
そして米国を救い難い組織的な人種差別国と見做すことでは、偉大な英雄の運動奴隷制と公民権に果たした役割を説明できないと述べ、現在、多くの学生自国を憎み、建国した男女英雄ではなく悪役であると信じるように学校で教えられこの歪んだ視点を修正しないと、我々の国と文化を結びつける絆が失われる可能性があるとする

常識的すぎて意外なくらいです。
しかしじぶんの国の建国の理念を守ろうということ自体がリベラルの目には「分断」を進めていると写るのです。
第1期トランプがしようとしたことは、汚泥の中に沈もうとするみずからの国を救助しようとしたことです。
それが故にリベラルの憎悪を一身に集めました。

そして彼がやろうと試みたことの多くは時間切れでした。この1776委員会も出来たのが大統領選前日だったのです。
トランプに2期めが与えられていたら第2条、第3条が具現化されたことでしょう。

「第2条「大統領諮問1776委員会」では、120日以内に教育長官は「1776委員会」を設立し、次の世代がその歴史と原則をよりよく理解できるようにすることが述べられ、会の構成や役割などが列挙される。以下、第3章は9月17日の「憲法記念日の祝い方について、また第4章は連邦資源の活用について述べられ、第5章の一般規定で締め括られる」

チムスターズのオブライエン会長は、わざわざ共和党大会に来て、組合としては個々の判断に任せるとしながらもこう言っています。

「13日の暗殺未遂事件を考えると、人々に好かれようが嫌われようが、トランプ氏は『タフな野郎』だと証明された。そのことに誰も異存はないと思う」
((ロイター7月17日)
バイデン氏に打撃 全米トラック運転手組合、「支持候補なし」へ(ロイター) - Yahoo!ニュース )

トランプは、なにに対して「タフ」なのか。
それはみずからの国の歴史と文化を取り戻すことに対して「タフ」なのです。

トランプを讃美しろとは思いません。
彼は欠点の多い男です。口汚いし、大統領としての品格には乏しく、態度も時に下品で粗野です。
それ故知識人には嫌悪されますが、その言葉は時として国民大衆の魂を鷲掴みにします。
この国民と直接に繋がることができるというのは、類まれな政治家としての能力ではないでしょうか。
それが遺憾なく発揮されたのが、あの暗殺未遂事件でした。

私たち日本人も、彼を頭からファシスト呼ばわりする民主党系インテリに倣う必要はありません。
逆に、トランプの一部支持者のようにまるで救世主のように頭から絶賛する必要もありません。
私はウクライナ政策は間違いだと思っていますから、政策ごとに是々非々を貫くつもりです。

 

 

2024年7月18日 (木)

始まったバンドワゴン効果

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昨日、トランプにはバンドワゴン効果が起きるだろうと書いたところ、さっそく起きました。
バンドワゴン効果とは、時流に乗る、勝ち馬に乗るという意味で、均衡していた情勢があることをきっかけにして雪崩をうって一方に傾くことを言います。
この現象が起きようとしています。

なんとバイデンの巨大票田で、前回大統領選でミシガン、ペンシルベニア、ネバダなど接戦州でバイデンに勝利をもたらした全米トラック運転手労組(チームスターズ)が、バイデン支持を止め、会長が共和党大会でトランプを称賛しました。

「全米トラック運転手組合(通称チームスターズ)の指導部が、11月の大統領選でいずれの候補者も支持しない方針を検討していることが、関係筋の話で明らかになった。チームスターズは130万人の組合員を抱え、2020年の大統領選ではバイデン氏を支持していた。主要労組からの支持を得られなければ、選挙戦からの撤退論が浮上しているバイデン氏には痛手。数週間以内に最終決定する見通しという。
バイデン氏が、大統領選を前に主要労組の支持を失う恐れがある。130万人が所属する全米トラック運転手組合(チームスターズ)は、どの候補者も支持しないことを検討している。最終決定は数週間以内に下される。
チームスターズは2020年の大統領選ではバイデン氏を支持。ミシガン、ペンシルベニア、ネバダなど接戦州で同氏を支えた。
だが関係者によると、バイデン陣営との関係はこの数カ月で悪化しているほか、チームスターズ幹部の一部がバイデン氏の政治的持続性を懸念している。
オブライエン会長は15日夜、共和党全国大会に出席。大統領候補に指名されたトランプ氏を称賛した。」
(ロイター7月17日)
バイデン氏に打撃 全米トラック運転手組合、「支持候補なし」へ(ロイター) - Yahoo!ニュース

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ロイター

上写真はトランプ支持を演説するチムスターズ会長のオブライエンです。
チームスターズは米国民主党の最も大きな支持母体の一つであり、130万人の会員を持つ組織で、歴史的に民主党を支持団体でした。
オブライエン会長はやはり暗殺未遂事件を取り上げてこう言っています。

「ただはっきりしているのは、トランプ大統領は新しく、声高で、しばしば批判的な声にも恐れず耳を傾ける候補者だということだ。
13日の暗殺未遂事件を考えると、人々に好かれようが嫌われようが、トランプ氏は『タフな野郎』だと証明された。そのことに誰も異存はないと思う」
(ロイター前掲)

もう一方の巨大労組の全米自動車労組は、いまのところバイデン支持を崩していませんが、確実に揺らいでいるはずです。
フェインUAW会長はこう言っています。

「(ブルームバーグ): 全米自動車労働組合(UAW)のショーン・フェイン委員長は、11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏がジョー・バイデン氏を破る勢いだとの認識を示唆し、民主党は「厳しい真実」に向き合わない限り、2016年の選挙の惨敗を繰り返すリスクがあると警告した。
フェイン氏は12日、メリーランド州ボルティモアで開催された会議で、「われわれは最も聞く必要のある人々に真実を話している。それは民主党だ」と発言。「2016年には現実を認めようとせずうまくいかなかった」と述べ、現実と向き合うよう呼び掛けた」
(ブルームバーグ7月13日)
全米自動車労組委員長、トランプ氏がバイデン氏を破る勢いと示唆(Bloomberg) - Yahoo!ニュース

つまりUAWは、バイデンに、というより民主党にいまやトランプに雪崩込もうとしている現実を見よ、なぜそうなったのか知れと言っているのです。
ここにトランプがラストベルト出身で、その悲哀を骨の髄まで知り尽くしているベンスを副大統領に抜擢した意味があります。
副大統領候補だったノースダコタ州知事のダグ・バーガム知事は最有力候補でしたが、トランプは中西部出身者ををあえてはずして、ラストベルト一本にかけたのです。
その理由はイーロン・マスクなどが「彼はエスタブリッシュメントの政治家だ」と批判したことを聞いて決断したと言われています。

ではいま、なにが米国政治地図で起きているのでしょうか。
本質的な地殻変動は、民主党が貧者と労働者の政党であることを止めて、東部の「左翼インテリ」だけの政党になってしまったことです。
米国政治地図は、トランプ以前と以後に分けられます。

かつての共和党は、白人の企業経営者を中心にした上流階級の政党とみなされていました。
彼らは経済のみならず政治も支配し、その既得権益を守ろうとするエリート集団でした。

対する民主党は、ラストベルトの労働者の側に立ち、その代弁者として見られていました。
この構図に従って、社会的弱者やマイノリテイーが民主党を支持し、既得権益者にあぐらをかく者たちが共和党を支持するという図式です。
しかしトランプはこの構図を逆転させました。
不法移民の激増で仕事を追われた労働者のやり場のない怒りを代表するのがトランプ共和党であり、脱炭素を謳い、BLMなどの過激な黒人運動やポリコレを推進するのが民主党というシフトチェンジが起きたのです。

グリーンニューディールを掲げて脱石油を唱え、ガソリンコストを高騰させ、コロナばらまきが嵩じてインフレを引き起こしてしまい国民衆を生活難に陥れたのが民主党した。
また、民主党は意識高い系特有の過度な環境保護政策に走りました。
その矛盾を押しつけられたのが、他でもない自動車産業と運輸産業です。
バイデンは脱炭素政策を強引に押し進め二酸化炭素排出量削減と称してEV車に優遇税制を与え、全米自動車産業の拠点とするガソリン車を作る自動車産業に打撃を与えました。
一部ではEVも作り始めているものの、EV車はガソリン車に比べ、いわばプラモデルのようなもので、高度の技術を必要とする熟練工は不必要となりました。
イーロン・マスクがトランプ支持の先駆けとなったのは皮肉ですが、おそらくマスクはEVの先行きを見通してそこから足抜きしようとしているようです。
このような労働者の現実に向き合わず、メディアの覚えめでたい「意識高い系」エリート運動家の党となってしまった民主党から支持者がなぜ逃げ出すのかバイデンよ知れ、というのがUAW会長のバイデンへの忠告なのでしょう。
バイデン、最大の失敗グリーンニューディール: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

こういった労働者階層の不満を受ける民主党はもはや問題解決能力がありません。
バイデン政権は左派に大幅に譲歩してできた政権です。
その担保で入っているのがカマラ・ハリス副大統領です。
ですから解決しようとすると、バイデン政権を全否定することになってしまいます。

したがってバイデンが負けると、ほぼすべての党員はわかっていても彼に代わろうという者は出ません。
勝てると思うなら、下克上でもなんでもしてオレがやると代わればよい。

一方、共和党はこれ以上ない形でまとまりました。
ニッキー・ヘイリーでさえトランプ支持に回帰しました。
ベンスですら反トランプだったのがいまや副大統領ですから、党内反トランプは蒸発したというべきでしょう。
第1期のように、共和党主流派のエスタブリッシュメントが、政権に力を及ぼすことはもうできません。

唯一なんとも憂鬱なのがトランプのウクライナ支援拒否問題ですが、国務長官に誰を持ってくるかでバランスをとるしかないでしょう。
これについてはもう少しかんがえさせて下さい。

 

 

 

2024年7月17日 (水)

トランプ、正式に共和党候補に

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ま、これで決まりでしょうな。

「11月の米大統領選に向けた共和党の全国大会が15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで始まり、ドナルド・トランプ前大統領(78)を同党の大統領候補に正式指名した。副大統領候補にはJ・D・ヴァンス上院議員(39、オハイオ州選出)が選ばれた。
共和党大会初日のこの日、2429人の代議員による投票が行われ、トランプ前大統領が過半数を獲得して正式に同党の大統領候補に指名された。トランプ前大統領は予備選で指名獲得に十分な2265人の代議員を確保したため、今回の投票は形式的なものに過ぎなかった」
(BBC7月16日)
【米大統領選2024】 共和党大会、トランプ前大統領を大統領候補に正式指名 銃撃事件から初の公の場 - BBCニュース


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BBC

対立候補がいままでの予備選ですべて振るい落とされているのですから、当然すぎるほど当然の結果です。
改めて言う必要もないでしょうが、大統領候補暗殺未遂という試練をこれ以上ない形で乗り越えたトランプに阻む障壁はありません。
常に両手を震わせながらよちよち歩きを見せる現職と、撃たれても立ち上がり拳を天に突き出して「戦え!」と叫ぶ男とでは、政策ウンヌンの以前の問題です。

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トランプ前米大統領、演説中に撃たれ耳負傷 暗殺未遂事件と捜査当局 - BBCニュース

このファイティグポーズは、まさにトランプのキャッチコピーであるMake America Great Againそのままであり、ありとあらゆる不条理と戦い、うちのめされてもなお立ち上がる米国を取り戻すのだ、というトランプの気迫がこれ以上ない形で具現化しました。
支持者にとって不屈の米国を地で行くものであり、トランプの支離滅裂な百万の言葉よりも、この一枚は雄弁に彼の目指すものを現していました。

一時、トランプ包囲網のために枯渇を噂されていた選挙資金は、「もしトラ」の時期から増え始め、これを一気になだれ込み始めたようです。
なんせ財界までトランプ潰しに加担していましたかね。
しかしいまやイーロン・マスクなどの大物が続々と支持に回っています。

一方、バイデンはトランプの負傷を気づかう様子も見せながらも(このへんはさすがです)なすすべがありません。
仮にバイデンの老耄が治癒したとしても、銃撃を受けてなお戦う姿勢を保てるかと問われれば、ほとんどの人は首を振るでしょう。
トランプの銃撃直後の姿と比較されるだけです。
一切がトランプと比較され、新たにアピールすべきものもなにもないのです。

副大統領候補すら、バイデンには悪名高き無能政治家のカマラであるに対して、トランプは意表をつく人事をぶつけてきました。
下図は副大統領候補の一覧ですが、手堅くバーガム、あるいはルビオあたりかと思っていましたが、なんと作家という肩書を持つJDバンスでした。

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トランプ前大統領の副大統領選び、政治経験も重視 忠誠心競争 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ところで、副大統領候補は、トランプの後継になると目されていたので注目されていましたが、トランプは39歳という息子のような年齢の青年政治家を抜擢しました。心憎い人事です。
バンスを忠誠心だけで選んだとメディアは言っていますが、たぶん違うでしょう。
前の副大統領ペンスは有能な保守政治家で、米国の保守中間層を支持母体としていましたが、共和党主流派から押しつけられた人事だっために必ずしもかみ合う関係ではありませんでした。
その亀裂が極限化したのが、あの忌まわしい議事堂占拠事件でした。
ペンスはあの時、トランプを切りました。
間違った判断ではないにせよ、トランプとはそういう関係だったのです。

それに対してバンスはブルーカラー出身で、社会の底辺を舐めた思春期を送り、兵役にもつき、一念発起してエールに学んで投資会社を経営するまでになった立志伝中の男です。
娑婆で一度も飯を食ったことがないようなエリートのオチコボレ揃いの日本共産党の幹部とはそこから違います。

そのうえ彼はその経験を著作にしており、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』はベストセラーとなっています。

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JDバンス『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』 

このなかで、バンスはラストベルトの労働者たちの救いのない生活を赤裸々に描き、母親は薬物中毒で自信もジャンキー転落一歩手前だったと正直に書いているそうです。
7年前にバンスを取材した朝日はこう書いています。めずらしく中立的な記事です。

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トランプ氏、共和副大統領候補にバンス上院議員指名 路線継承も視野 - 産経ニュース (sankei.com)

「バンス氏は17年の朝日新聞の取材に、米国の都市と地方には地理的、文化的な分断があり、低賃金労働、薬物依存などの問題を抱える地方の苦しみを、都市のメディアや政治家が気付いていなかったと指摘した。
 バンス氏は「トランプ氏は問題があることを少なくとも認識し、その解決を訴えてきた。その他の政治家は深刻さを知らなかった」と語った」
(朝日7月16日)
トランプ氏が副大統領候補にJ・D・バンス氏を指名 どんな人物? [アメリカ大統領選挙2024]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

「米国の都市と地方には地理的、文化的な分断」、「低賃金労働、薬物依存などの問題を抱える地方の苦しみ」そしてそれに「無関心な都市のメディアと政治家」、これがバンスを抜擢したトランプの意図でしょう。
銀のさじをくわえて生まれたようなエリート政治家には、まねしたくてもできません。

一方バンスにとっても、トランプには批判がありつつもこう述べています。

「バンス氏は「トランプ氏は問題があることを少なくとも認識し、その解決を訴えてきた。その他の政治家は深刻さを知らなかった」と語った」
(朝日前掲)

同時に、トランプが訴追されていた4件も棄却され、大統領選に向かって障害物はなくなりました。

「前大統領をめぐっては、党大会初日の15日、機密文書を違法に私邸で保管していた罪に問われていた裁判で、フロリダ州の連邦地方裁判所が検察側の起訴を棄却した。トランプ政権下で任命されたアイリーン・キャノン判事は、機密文書に関する捜査を主導するジャック・スミス氏は特別検察官に違法に指名され、起訴する権限はないと判断した。
4件の刑事事件で起訴されているトランプ前大統領は、今回の裁判所の判断について、「これが最初の一歩になるはずだ」と述べ、すべての起訴が取り下げられるべきだと主張した。
そして、司法省が「これらすべての政治的攻撃を、ジョー・バイデンの政敵である私に対する選挙妨害の共謀を調整した」のだと、トゥルース・ソーシャルに投稿した。
前大統領は党大会への出席を前に、「司法制度の武器化をすべて終わらせるために団結しよう」と支持者に呼びかけた」
(BBC前掲)


もはやバイデン陣営は、手のほどこしようもなく死に体です。
後は、11月までに米本土が攻撃をされるようなことが起きるくらいしか救いがありません。
それもおそらく非常事態においてはトランプのほうが有能なはずです。

一時取り沙汰された民主党最終兵器のミシェル・オバマですが、ムードだけが先行し、予備選にまったく参加していないために支持団体がありません。
これから選挙戦に向けて準備するとすれば、すべて資金面から構築せねばならず、すでに大口の民主党支援者は、バイデン陣営へ献金してしまっているために、もう一回ミシェル・オバマに献金し直さねばならなくなります。
そしてかんじんの勝てるかといえば、ここまで強力になってしまったトランプに勝てると断言できる献金者はいないでしょう。
ネガティブキャンペーンも時の「英雄」であり、かつ犠牲者に対しては手控えるしかありません。
かくしてもはやバイデンには、打つ手がありません。
11月に向けてバンドワゴン現象が見られるかもしれません。

 

2024年7月16日 (火)

やはり出てきた、「ブルーアノン」のトランプ暗殺未遂事件陰謀論

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一昨日のトランプ暗殺未遂事件を受けてやっぱり出てきたのが、自作自演インボー論です。
陰謀論とは、内藤陽介氏によればこのような傾きのことです。

「ある出来事について、広く知られている公の情報や、それに基づく社会の標準的な理解とは別に、確実な根拠もないまま、特定の組織や人物がみずからの利益のため秘密裏に策を弄した結果と考える主張」
(内藤陽介『みんな大好き陰謀論』)

今回のトランプ暗殺未遂事件においては、公的な音声つき映像資料が多く残されているにもかかわらず、それをムリクリの裏読みで、トランプがみずからの利害のために仕組んだ茶番だと見ています。
そもそも自分の頭の横数センチに数発(耳に1発、右頬横スレスレに2発?)を撃たせる「自作自演」がする奴が世の中どこにいるかと言う話です。

しかもトランプは、その瞬間左のグラフボードに振り向いたために頭の位置が変化して、この動作がなければたぶん3発を頭部に食らった可能性があります。
頭部に3発被弾して生きていることは100%不可能です。
普通はこのようなリスクを犯してまで茶番を演じる「勇気ある馬鹿」はいませんから、陰謀論などの出る余地はない思います。

百歩譲って、そういう陰謀を企んだら狙撃手にはプロを選び、7.62mmクラスの重い弾丸を発射できる狙撃銃を持たせるでしょうね。
AR-15のような5.56㎜の軽い弾では、精密射撃はむりです。

狙撃の訓練も受けたことのない素人のヒヨコに、親父のAR-15を持ち出させて、130メートル先の自分の頭に向かって8発も撃たせ、頭部スレスレで擦過させるなんて器用なまねはまかり間違ってもしないでしょう。自殺したいなら別ですが。

しかしそう思う奴がいるんだな、これが。
クーリエ誌が取り上げています。

「いわく、トランプの耳から流れた血は「演劇などで使われる赤いジェル」であり、この暗殺未遂は「偽旗作戦」であり、おそらくシークレットサービスがトランプ陣営と組んで「自作自演」したのだ、と。トランプが血を流しながら拳を突き上げるシーンは、「#staged」(やらせだ)とタグ付けされた」
(クーリエ7月15日)
トランプ銃撃事件は「自作自演」「あれはドラマ用の血のり」…リベラルの陰謀論がヤバすぎる(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース

現職大統領ならいざ知らず、単なる候補者のひとりにすぎないトランプが国家機関である財務省管轄のシークレットサービスとどうやったら「組める」のかお聞きしたいものです。
では、シークレットサービスがわざわざ手抜きをして、会場の外130メートルの倉庫の上にいたテロリストをあえて見逃したとでも。
そんなことをすれば、共和党はおろか民主党政府からも調査の手が伸びて存立の危機に合うことになります。
暗殺失敗してすら、強い非難の声が上がっています。

「共和党からはシークレットサービスの不備を指摘し、責任を追及すべきだとの声が多く上がった。クルックス容疑者は集会会場の外にある建物の屋根から銃でトランプ氏を狙ったとみられている。ホーリー上院議員は「なぜ屋根に登れたのか」として、警戒が甘かったのではないかと疑問視。マヨルカス国土安全保障長官や警護隊幹部に、議会で証言させるべきだと訴えた」
(ZAZAK7月15日)
暗殺未遂で負傷のトランプ氏「元気だ」 陣営予定変更せず共和党全国大会へ 容疑者は共和党員、過去が明らかに(2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

またこんなものが、Xにはこんな投稿もあったそうです

「シークレットサービスはいつから大統領に『待て』と言われたら、その指示に従って彼を立ち上がらせ、彼の姿が群衆に見えるようにして拳を高々と上げることを許すようになったのか? これがフェイクだと思う私のほうがおかしいのだろうか?
攻撃を受けた際、シークレットサービスは保護対象者に覆いかぶさり、有無を言わさず避難させるのが任務である。にもかかわらず、あの状況下でいわゆる「シャッターチャンスを与えた」ことが腑に落ちないというわけだ」
(クーリエ前掲)

はい、あんたのほうがヘンです。
実際は、この演壇での音声は演説中だったために全部収録されていて、疑問の余地がありません。
トランプが言ったのは靴をくれという言葉と、すぐに車両に運び込もうとするシークレットサービスに対して「待て」と実に5回も口にしています。

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AP

「映像では右耳から出血もあり、銃撃されたとみられる。トランプ氏は、自身のSNSで演説を生配信していたが、退場を促す警備員に対して「待て!」と5回、口にしてから支持者に右拳を2度、突き上げた。その後、右拳を何度も振ってから退場する様子が映っていた」
(日刊スポーツ7月15日)
トランプ前大統領、銃撃後に右耳から出血も、警備担当に5回「待て!」 支持者に拳突き上げる(日刊スポーツ)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

やらせで5回ももみ合ったんですって。
そして米国政治史上特筆されるべき下の1枚を与えてしまったというわけです。

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トランプ前米大統領、演説中に撃たれ耳負傷 暗殺未遂事件と捜査当局 - BBCニュース

このまま選挙ポスターになるくらい見事な一枚で、下の硫黄島のすり鉢山に星条旗を立てる米軍兵士の有名な写真くらい、米国民には訴求力があるはずです。
あまりによく撮れているので合成写真だなんてヨタが飛び交っていますが、撮影者はAP通信のチーフフォトグラファーでピューリッツァー賞 の受賞の経験もあるエヴァン・ヴッチ氏です。
「仕事は期待がすべて」:トランプ集会の銃撃の決定的な写真のレンズの裏側 |ドナルド・トランプペンシルベニア州集会銃撃 |ガーディアン紙 (theguardian.com)

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硫黄島の戦い - Wikipedia 

こういう脳ミソがたりない陰謀論者を米国では「ブルーアノン」と呼ぶのだとか。

 

2024年7月15日 (月)

トランプ暗殺未遂事件

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私は、大統領候補討論会以降、圧倒的にトランプに傾いた大統領選挙戦の勢いを変えるにはひとつしかないと思っていました。
それは暗殺です。
一報を聞いた時、たまたまプライムビデオでJFKの評伝ドラマ見ていたせいもあって、ああまた米国はやっちまったのかと暗澹たる気持ちになりました。

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CNN

「(CNN) 米東部ペンシルベニア州バトラーで13日、トランプ前大統領の演説中に銃撃が起き、同氏が耳と顔面から血を流しながら救出された。
トランプ氏は最初の衝撃音の後、地面に倒れた。周囲から叫び声が上がり、護衛チームが取り囲んで演台から避難させた。
同氏は群衆に向かって何か叫び、救出されながらこぶしを突き上げるジェスチャーを見せた。
シークレットサービス(大統領警護隊)の報道官は、トランプ氏の集会で異変が起きて防護措置を取ったが、本人は無事だと発表。詳しい調べを進めていると述べた。
複数の捜査当局者によると、銃撃犯は制圧された。会場に隣接する建物の屋上にいたとの情報もある。警護隊の情報筋は、隊員が銃撃犯を殺害したと述べた。
バトラー郡の地区検事によると、さらに観衆の1人が死亡、もう1人が重傷を負った」
(CNN7月14日)
トランプ氏が集会で撃たれ負傷、警護隊は「無事」と発表 - CNN.co.jp

犯人はその場でシークレットサービスの狙撃チームに射殺されました。
狙撃チームは演説する動画にも映り込んでおり、彼らが居た位置は演壇向かって左上の建物の上でした。
動画では彼らの狙撃銃が発射の反動で動くのも見えます。

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NHK

BBCは犯人の居た製造工場の屋根を特定し、トランプが撃たれた演壇まで130mであったことをつきとめています。

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【検証】 トランプ前米大統領銃撃、容疑者とステージの位置関係は - BBCニュース

犯人のマシュー・クルックスが130m離れた納屋の上に腹這いになってライフルを構えている動画も残っています。
観客のひとりはクルックスを目撃して警官に伝えましたが、なぜか無視されたようです。
130mという近距離まで近づけてしまい、ドローンなどを使った上空からの警備をしていなかったことに対して批判が起きています。

ただし、トランプの近辺にいたシークレットサービスは、直ちにトランプに抱きついて自分たちを楯にして守っていました。
これが正しい要人警備のやり方であって、安倍氏暗殺のように、SPまでもが犯人逮捕に走っていってしまうという歴史的大失態をしでかしたわが国とは対照的です。いまでも思い出すと腹が煮えます。

「現場を目撃したというグレッグさんは、BBCのギャリー・オドノヒュー記者の取材に対し、前大統領が演説を始める5分ほど前に、「クマのように」屋根の上をはう不審な人影を見かけたと話した。その人影について、グレッグさんは警察に指摘したという。
「男はライフルを持っていた。明らかにライフルを持っているのが見えた。自分たちはこの男を指でさしていて、警察は地面を走り回っていた。『屋根の上にライフルを持った男がいるぞ』と言っていたのに、警察は何がなんだかわかっていなかった」と、グレッグさんは話した」
(BBC7月14日)
「ライフルを持った男が屋根の上に」と目撃者がBBCに トランプ前米大統領の集会で発砲 - BBCニュース

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トランプ前米大統領銃撃の容疑者の映像 屋根の上で腹ばいに - BBCニュース

容疑者は共和党員として登録されているものの、実際は民主党行動委員会の献金者だったことがわかっています。
この男は車にも2個、自宅にも爆発物をもっていたと報じられています。

詳しい動機はわかっていませんが、おいおい判明すると思います。
といっても、背後に民主党がいたとは思えません。
民主党がなんらかの形で関わっていた場合、それが判明した場合立ち直ることが不可能な打撃を受けるからです。
いまのところローンウルフ型テロリストと考えたほうがよいでしょう。
なお、このようなクレージーなテロリストは民主党だけのものではなく、同等にトランプ陣営にも大量にいますので、念のため。

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XユーザーのThe Patriot Oasis™さん: 「Thomas Matthew Crooks "I hate trump. I hate republicans." https://t.co/dEwWOqdPyq」 / X

「容疑者の男性はシークレットサービスによって射殺された。FBIはペンシルヴェニア州のトマス・マシュー・クルックス容疑者(20)だと発表した。同州の有権者記録によると、同容疑者はトランプ前大統領と同じ共和党員として登録されていた。
一方、ロイター通信は、同容疑者が17歳のとき、左派や民主党の政治家のために資金を集める政治活動団体「アクトブルー」に15ドルを寄付していたと報じた」
(BBC7月14日)
トランプ前米大統領銃撃の容疑者の映像 屋根の上で腹ばいに - BBCニュース

発射された発砲数をABCテレビは、捜査関係者の話として8発と報じています。
犯人が使用したのはAR-15自動小銃だと伝わっています。
この自動小銃は今まで多くの米国の銃乱射事件で使われてきました。

「AR-15は、特に1994年に定められた攻撃用武器を禁止する連邦法が2004年に失効した後、アメリカで広く出回るようになった銃で、多くの乱射事件で使用されてきた。(略)
AR-15は、0.223口径(5.56mm)で秒速約3300フィート(約1000メートル)と、一般的なグロックの拳銃に比べ、その銃口速度は約3倍にもなる。

その有効射程は少なくとも1300フィート(約400メートル)以上と、グロックの160フィート(約50メートル)を大幅に上回る。
アメリカ司法省のアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局の元 特別捜査官で、銃を使った暴力と戦うギフォーズ(Giffords)のシニア・アナリストでもあるデヴィッド・チップマン氏はBusiness Insiderに対し、 AR-15はその威力の大きさから、屋内での攻撃に持ち込むことは禁じられていたという。あまりにも弾が速いため、銃を向けた相手だけでなく、壁や部屋にいる別の人間までをも貫通してしまうからだ」
なぜアメリカの銃乱射事件では、AR-15が使用されるのか —— 専門家が指摘する2つの理由 | Business Insider Japan

したがって犯人とステージとの130mという距離は完全に狙撃可能な範囲でした。
弾丸はトランプの右耳たぶを貫通しましたが、もうわずかズレていれば頭部を貫通し即死したはずです。
命中した以外にも、最低でも1発が左頭部脇を通過しているのが写真で捉えられています。
下写真の白い航跡がそれです。

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トランプ暗殺未遂に使われた「銃弾の軌跡」をカメラが捉えていた | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

また胸部にも1発被弾しており、防弾チョッキをしていたために事なきをえました。
犯人はこの8発の弾丸で1人を死亡させ、2名に重傷を与えました。銃撃で死亡したのは消防士のコーリー・コンペラトーレ氏で、一緒に集会に来ていた妻子をかばおうとして銃撃を受けたと、シャピロ知事は「コーリーはヒーローとして亡くなった」と死を悼みました。

まことに痛ましい犠牲で、民主主義の対価はかくも残酷なのです。

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トランプ前米大統領、演説中に撃たれ耳負傷 暗殺未遂事件と捜査当局 - BBCニュース

ところで、この暗殺未遂事件の影響ですが、かんがえるまでもなくトランプにとって決定的とでも言える追い風となることでしょう。
彼はシークレットサービスに守られて搬送されながらも腕を振り上げて「ファイト」と叫び、聴衆はUSA、USAで応えました。
こういうところがトランプらしい。
その後のメッセージです。

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Post | Truth Social

考えようによっては出来すぎなような事件で、昨日は狂言説まで唱える者が現れましたが、自分の頭を狙わす自作自演などありえません。
仮にもう数㎝ずれていて暗殺に成功した場合、いまごろはこの暗殺犯はうちの国の山上某のように英雄視されていたかもしれません。

いずれにしても、これがバイデンならばと思わない者はいなかったことでしょう。
バイデンとの差は、好むと好まざるとに関わらず天文学的に開いたと言えるでしょう。

 

2024年7月14日 (日)

日曜写真館 花臭木鋭き鉾立てゝ男神

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水懈く臭木の花を浮べをり 轡田 進

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つい霽れぬ空のにごりや花臭木 角田独峰

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遠くより臭木の花を見て通る 川原 程子

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炎天の香なり臭木の香にあらず 相生垣瓜人

 

ボタンクサギです。ひどい名をつけられていますが、そんなに臭いかな。
アゲハチョウが好んで、よく止まっています。

 

 

2024年7月12日 (金)

さっそく始まったマクロン闇鍋の正体

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よく浅はかな人たちが考えるのが、野党はまとまれば、自民に対抗できるんじゃないかという考えです。
たとえば都知事選で小池が291万票でトップでも、2位の石丸の165万と蓮舫の128万を足せば293万票だから勝てるじゃないか、というあれです。

この考え方はかなり前からヨーロッパにはあって、古くは小沢一郎がモデルとしたイタリアの「オリーブの木」や、今回のフランスの左翼連合と与党連合の選挙協力です。

というのは、自由主義社会では往々にして小政党がポコポコ沢山できてしまいます。
政党とは集団の利害を代表しする場所である以上、多言語国家や多民族国家では、彼らを代表する政党が数十あることはよくあります。
しかし日本ではどうでしょうか。
米国のような多民族国家ではありませんし、地域差といってもスペインのようなことはありません。
にもかかわらず、この20年来日本では、支持基盤の明確でない政党が乱立しました。

そのきっかけは、経世会を追い出された小沢一郎が二大政党制を唱えてからのものです。
なまじ元自民党幹事長というトップにいた男が言うことだけに迫力があったようです。
実際、いまの民主党系の諸派は、この小沢の動きの結果生まれたものです。
小沢は、自民党を倒すには野党連合をつくるしかないと考えました。 

あげくにできたのが「反自民」だけを拠り所にした民主党政権でした。
そして民主党が政権を握るや、小沢は幹事長に全権を集中させて支配しました。
その理由は、小沢の支配欲もありましたが、それ以上に民主党議員が致命的に能力不足だったことでした。
安全保障をなにも知らない防衛大臣、年金だけにしか興味がない厚労相、そしてほかの一切の課題を捨てて「最低でも県外」だけを言い募る首相。
野党の間の不勉強のツケがどっと出ました。そりゃ与党のスキャンダル追及だけしかしていなけりゃそうなりますよ。
民主党内ですらまとまりがなかったために、政権からころげ落ちるやいなや分裂を繰り返すことになりました。
いったん権力というタガがはずれると、個々の政治家の考え方の相違、人間関係の好き嫌いの関係で多数の政党ができてしまったのです。

結果、野党は個人商店ばかりとなりました。自分の唯一の当たり役を党名にした三流役者の党、NHKなんじゃらといいつつ掲示板詐欺を働らく党、といった具合です。
自民党がしっかり保守党として機能していれば救われたのですが、岸田氏は派閥解消の名の下に政敵潰しを行いました。
自民党は本来連合党であって、派閥が意見の違いや人間関係のきしみを吸収していたのですが、殿ご乱心の結果いまや内部分裂を抱えた党になっています。
たぶん政権与党から脱落したら、自民は分裂するかもしれません。

自民から政権を奪うには、唯一の分裂を知らない、というか、異見を言った瞬間即除名となる党である共産党と組むしかないというのが全野党共闘論者の主張です。
では、全野党共闘が政権をとればどうなるのか、今のフランスをケーススタディしてみましょう。

フランスは大統領のマクロンが、国民連合(RN )に勝たせたくないだけの一心で左翼連合との「悪魔の取引」に応じました。
その結果、確かに国民連合には地団駄踏ませましたが、与党第1党となったのが極左を含む左派連合でした。
本来、第1党とならねばならないマクロンの中道は第2党というお粗末です。

しかも笑えることには、第1党の「新人民戦線」も蓋をとればバラバラ。
新人民戦線という鍋の中には共産党もいれば、さらにその左もいる、社会党くずれもいる、環境左翼もいるというありさまです。
これが派閥ごとに分かれて、選挙ではとりあえず「新人民戦線」としてメランションの音頭に乗ったが、政権をとれば知ったこっちゃない、わが党大事。

そしてコレを見たマクロンが、左翼連合に密かに手を入れて引き込みを謀るんですからもうワヤです。
マクロンは、大嫌いなメランションの「不屈のフランス」を排除して中道派と連立しないかと画策しています。
もちろんメランションはそれを許すばずがなく、「不屈のフランス」は新人民戦線の政策合意とそれによる公約をすべて守るようにマクロンに要求しています。

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ロイター

「パリ 9日 ロイター  フランス国民議会(下院)選の決選投票で第1勢力となった左派連合「新人民戦線(NFP)」に参加する政党の代表は、多額の歳出を必要とする選挙公約を全て実現する意向を表明、NFP以外の勢力との連立政権樹立を拒否した。
一方、第2勢力となったマクロン大統領率いる中道連合は、過半数議席を確保していないNFPには中道連合との連携が必要だと訴えている。
NFPに参加する各政党の指導者は選挙結果判明後、複数回にわたって非公開の会合を開催。次期首相の人選や政権樹立について協議した。
NFP内で最多議席を獲得した極左「不屈のフランス」のジャン・リュック・メランション党首は8日夜、TF1テレビに対し、最低賃金引き上げ、定年退職年齢の引き下げ、燃料・電力・一部食料品価格の上限設定など、NFPの選挙公約を全て履行すべきだと主張。政策構想を「細切れにすることはできない」とし、NFP以外の勢力との連立を拒否した。
これに対し、中道連合はNFPの政権樹立には中道連合の協力が必要だとし、NFPを分割し、穏健派である中道左派政党、環境政党派、中道政党、中道右派政党で連立政権を樹立できるとの考えを示唆している」
(ロイター7月9日)
仏左派連合、中道連合との連携否定 公約実現に意欲 | ロイター (reuters.com)

特に左翼連合が実行を要求しているのが、公務員賃金のアップです。
ただしそれをやればただでさえ労組が強力なフランスは今でも財政危機なのですからとんでもないことになります。
強引に実行すれば、ユーロがもとめる財政赤字の範囲を抜け出してしまいます。
つまりユーロからの脱落です。そうなったらマクロンは真っ青ですが、左翼連合にはEU脱退かまわないんじゃないという連中もいて、彼らは皮肉にも国民連合とその点では息が合うのですから困ったもんです。
左翼連合の中でも穏健な社会党と中道派が組めればいいのですが、そのためには左翼連合からメランションを追い出さねばならないというジレンマを抱え込むことになりました。

これを見てわかるのは、第2党と第3党が手を組むような裏技をしてはならないということです。
それは単に多数決制という民主主義を悪用した結果であり、その結果できあがったものはフランス人の大多数の考えとは違った奇怪なものが出来上がってしまいました。
マクロンの党にいれたら左翼連合だった、では有権者は詐欺に合ったようてものですもんね。
仮に一時的には成功しても、混乱を招いて必ず瓦解します。

わが国の全野党共闘論者の皆さん、フランスでいま進行している政治劇をよーく観察してくださいね。

 

 

 

2024年7月11日 (木)

負け方を知らない蓮舫氏

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蓮舫氏は常に噛みつくモノを求めています。
噛みつかないと、自分の存在理由がなくなるとでも思っている脅迫神経症みたいです。
選挙期間中も口から出るのは小池氏攻撃ばかりで、自分の都政の展望を対置できなかった時点で負けていることに、この人は気がつきません。
こういう無意味に攻撃的、かつ戦闘的スタイル、つまり左翼ポピュリスト特有の臭みが都民に支持されなかったって、まだわかんないのかな。

小池氏に在日イスラエル大使が祝福のメッセージを送ったことに、噛みつきました。
選挙直後だというのに、まぁお元気なこと。
ウソでもいいから祝辞のひとつも送れば、さすがはと言われたのに。

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この写真について蓮舫氏は「この外交はありません」だそうです。

「蓮舫氏は、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使が、小池氏とのツーショット写真とともに当選を祝福する投稿を引用。まずは「敗者ですが言わせてください」と前置きし「当選直後にこの外交は私の考えではあり得ません」と指摘すると「都民の1人としても、とても残念です」と胸中を記した。イスラエルがイスラム組織ハマスと対立しガザ地区への攻撃を行っていることなどを念頭に置いたとみられる」
(日刊スポーツ7月10日)
蓮舫氏、小池知事とイスラエル大使ツーショットに疑念「あり得ない」→「抗議撤回を」→削除?(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース

ええ、知事って「外交」をやる仕事だったんだ、そうなんだ、蓮舫氏はデニー知事みたいな独自自治体外交をしたかったんだと分かりました。
きっと勝っていたら、いまごろは中国やパレスチナ自治政府から祝電が大量に届いたことでしょうね(笑)。
そして就任後にはチャイナに行ってシューさんと面会したがって断られる。ま、そんなところか。

ツイートの写真は2022年のものだでただの再掲ではないか、と指摘されると、ムキになって「それならばこそ、きちんと抗議撤回を要請して欲しいです」と再投稿してブーメランしています。
たぶん、いま左翼業界の流行の反イスラエル運動に便乗したのでしょうが、都政とどう関係があるのでしょうか。
別に祝電に再掲写真を使うのはよくあること。

というか、選挙後の忙しい相手を慮って昔の写真を使うほうが常識的です。
それを仰々しく撤回要求ですか。

そもそもこのお人は、この都知事選が国政選挙だと勘違いして出馬しちゃったみたいです。
ですから国政選挙でもないのに、口を開けば反自民の連呼。

「7月7日投開票の東京都知事選で蓮舫前参院議員(56)が「反自民党」を前面に押し出した運動を展開している。小池百合子知事(71)は自民と「二人三脚」だと印象付け、派閥裏金事件を巡る自民への逆風を自身の浮揚力に変えるのが狙いだ。ただ、共産党との連携に古巣の立憲民主党から不満が漏れるなど、陣営は不協和音も抱える。
 「小池さんはトップダウン。私はボトムアップだ」。蓮舫氏は28日、JR大井町駅前で街頭演説し、小池氏への対抗意識をむき出しにした。応援に立った立民の長妻昭政調会長は「(小池氏には)自民が付いている。都庁を絶対に金権都政にしてはならない」と蓮舫氏の主張を代弁した」
(文春オンライン7月1日)
【東京都知事選】蓮舫氏「反自民党」を前面に 一方で共産党との連携には不協和音も | 文春オンライン (bunshun.jp)

都知事選という地方自治体選挙で、しかも自民党とはかねてから一線を画して自前の政党すら持っている小池氏をつかまえて「小池には自民がついている」はないものです。
そこまで言うなら蓮舫さん、自分で「蓮舫新党」でも作りなさい。

足で歩き回って具体的な声を都民から聞き、地方自治を学んで、自分自身のオリジナルな都政公約をつくったらよかったのです。
それをムード的に反自民、反金権政治と言っておけば勝てると思ってしまうところが、この人のハンチクなところです。

では当の共産党はどう言っているかといえば、今回の都知事選は「勝利」だ、と言いたげな共産党小池書記局長の「敗戦の弁」です。

「東京都知事選で7日、小池百合子氏が3選確実となったことを受け、共産党の小池書記局長は「選挙結果自体は、非常に残念なものだ。しかし、蓮舫氏が自民党政治と小池都政を変えると、旗を掲げて立ち上がって、都民の声に耳を傾けながら、政策を日々バージョンアップさせていった。多くの都民を励ますものとなった。この選挙からどういう教訓を引き出すかについては、都民の皆さんの声に耳を傾けていきたい。そして、蓮舫氏を共同で擁立した市民と野党の皆さんと、率直な議論を行っていきたい」
(読売7月7日)
都知事選、共産党の小池書記局長「選挙結果は非常に残念」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

こういう総括は何百回も聞きました。
アンポ闘争でも、基地反対闘争でも、結局アンポ条約は国会を通り、基地はできてしまう、しかし闘争は大爆発したぞよ、勝ったのは我々だ、こういうのを共産党的総括といいます。
自分が主導権を握って闘争ができれば勝ち、だって党勢拡大できたもん、という発想は共産党とその周辺にしかわからないロジックです。
一般社会では目標が達成できなければ負けと言うんですが、立憲の顔である蓮舫氏を共産党陣営に引き込み、1000万都民の前でまるで共産党候補のような選挙運動が出来た、野党共闘を実現してみせた、そのこと自体に意味があるようです。

愚かな立憲は指導部が総出で、共産党と同じ宣伝カーに乗っていましたから、かりそめでも全野党共闘ができたみたいです。
ほんとうはそうではないのに、そのムードが出来た、これだけで大勝利だというわけです。
でも、負けた、2位のぽっと出のスットコドッコイの候補にすら追いつけなかった、という現実を見ないのです。

ところで共産党だけではなく、蓮舫陣営には極左もどきの連中がくっつきました。
いくらなんでも蓮舫陣営がやったとは思いませんが、「蓮舫赤軍」という悪い冗談のような名前の団体までが勝手連したようです。
彼らは小池氏の演説中に妨害コールをして、逆に黙れとばかりにはるかに多い聴衆から百合子コールのしっペ返しをうけたようです。馬鹿だね。
選挙違反あたりまえ、なんでもありのアナーキーな場となった都知事選に対して、大部分の都民がうんざりしていることを知らないのでしょうか。
もっともイソコさん界隈ではこんな選挙妨害行為を歓迎していたようですがね。

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彼ら「蓮舫赤軍」と思われる輩は、「R」のステッカーを都内に貼りまくりました。まったく迷惑行為そのものです。

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「黒地に白抜きで「R」のロゴを書いたシールが渋谷や新宿といった繁華街の電柱や歩道用防護柵、道路標識などに多数貼られていることが分かった。7日投開票された東京都知事選で小池百合子都知事に敗れた前参院議員、蓮舫氏の支援者らが無許可で公共物に貼り付けた可能性が取り沙汰されている。蓮舫氏は無関係との立場だが、小池氏の陣営幹部らは早急に剥がすように求めている。
「蓮舫さん陣営は、街中に貼りまくった『R』のシールを早急に剥がしてください。やり口は暴走族やピンクチラシと同じですが、普通に犯罪だし笑えません。モラルが無さすぎる」
小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」幹事長を務める尾島紘平都議は5日、X(旧ツイッター)にこう投稿した」
渋谷や新宿に「R」シール多数 小池氏側は蓮舫氏側が都知事選で貼ったとみて「剥がして」 - 産経ニュース (sankei.com) 

もちろん蓮舫陣営は与り知らぬことだとは思いますが、こういった反社行為までして「応援」する輩に、「直ちに止めて下さい」といえないのが蓮舫陣営の悲しさだったようです。

政治家の評価は負けた後の姿で定まります。
蓮舫氏はここでも大いに点数を下げたようです。

 

 

2024年7月10日 (水)

イラン新大統領に改革派がなろうとイランは変わらない

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よくある勘違いなのですか、イランは大統領が変わろうとどーしようと変化しません。
NHKなどは、これは民衆の不満の現れであるぞ、変革の兆しじゃ、なんて言っていますがだからどうしたというのでしょうか。
「民衆の不満」はもうかれこれ数年間続く暴動をともなったデモをみれば明らかですが、だからといってイランはなにひとつ変わりません。

「イランで行われた大統領選挙の決選投票は、欧米との対話を重視する改革派のペゼシュキアン氏が当選しました。最高指導者のハメネイ師は保守強硬派のライシ政権の路線継続を求めていて、融和的な外交政策への転換を実現できるかどうかが焦点となります。
5日に行われたイラン大統領選挙の決選投票では、欧米との対話を重視する改革派で、イラン議会の副議長や保健相を務めたペゼシュキアン氏が53%あまりの票を獲得し、欧米との対立をいとわない保守強硬派のジャリリ氏の44%あまりの得票を上回り、当選しました。
投票率は49.8%と、6月の1回目の選挙よりおよそ10%高くなり、現状に不満を持つ人たちの受け皿として支持を伸ばしたものとみられます」
(NHK7月7日)
イラン大統領選 改革派勝利もハメネイ師 路線継続を求める | NHK | イラン大統領選挙

NHKに言わせると、「融和的な外交方針に転換できるかが焦点」だそうですが、ナニを勝手に期待膨らませているのか、イランの外交方針を決めているのは政府ではなく、その頭上に君臨する「最高指導者」です。
共同通信なんぞ、これで核合意が守られるゾ、と歓喜のご様子です。

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NHK

【テヘラン共同】イランの改革派ペゼシュキアン次期大統領は6日、経済低迷の要因である米国の制裁の解除に向けて、イラン核合意再建の公約を守る意向を表明した。核開発問題で欧米と対立を深めたライシ政権の保守強硬路線を転換すると強調した。首都テヘラン郊外のホメイニ廟で支持者を前に「改革を実行する必要がある。交流と対話の道を歩む」と演説し、欧米との融和を図る方針を示した」
(共同7月7日)
核合意再建へ強硬路線転換 イランの次期大統領(共同通信) - Yahoo!ニュース

ここまで人がいいというか阿呆だと、イランはさすがは「伝統的友好国のニッポン」のメディア。
核合意に反してウラン濃縮を続けているのはイランです。
その前には米国が核合意から離脱していますから、核合意自体がただの紙切れ化していたのです。
空文化したことを見極めてトランプは核合意から正式に脱退して、真剣にイランを核放棄させる道を選択しました。
それをひっくり返して、またもや核合意に復帰してしまったのがバイデンです。

以来、イランは核合意復帰を外交カードに使ってきました。
厳しい制裁に合って経済が苦しむと、核合意に復帰してもいいようなそぶりをしますが、かんじんなIAEAの核査察は断固として拒否し続けています。

「ウィーン、テヘラン=共同】国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。査察官はウラン濃縮などを検証している。グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ」
(共同2023年9月17日)
イラン査察官受け入れ拒否 IAEA、影響深刻と非難 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

核合意の肝はIAEAの核査察です。
兵器級の核濃縮をしていない、ということをIAEAの査察官が立ち入り調査をして調査します。
イランは6月中旬に、IAEAに対して中部フォルドゥの核施設に高性能遠心分離機「IR6型」を複数連結したカスケード8基を増設しウラン濃縮能力を急速に拡大すると通知しています。
とうぜんIAEAはイランに査察官の受け入れなどを要求していますが、拒否され続けています。

このフォルドゥの核施設の高性能遠心分離機の設置で、イランの核兵器開発は最終段階に入ったと見られています。
すでにイランは兵器級、つまり核兵器ができる段階まで核濃縮を続けていることが、IAEAによって確認されているからです。

「IAEAが4日にまとめた報告書によると、イランは60%に濃縮した六フッ化ウランを8月19日時点で、推定121.6キロ貯蔵。60%は核兵器級の90%に近づく重大な核合意違反に当たる」
(共同前掲)

そもそも大統領選挙自体が、一般的な民主主義国家のそれと同じではありません。
大統領候補になるには「最高指導者」の思し召しが必要で、これがないと大統領選そのものに出馬できません。
したがってペゼシュキアンも「最高指導者」に了解を受けて出馬しているわけです。
彼が「最高指導者」から託された任務は国民の不満を逸らすことです。

「イランではイスラム革命後、45年余り、イスラム聖職者による統治政権が続いてきた。イランの国民経済は厳しい。イランの通貨イラン・リアルの対ドル為替レートの下落には歯止めがかからない。インフレ率も久しく50%を上回ってきた。イランでは若い青年層の失業率が高く、多くの国民は「明日はよくなる」という思いが持てない。特に、ソーシャルネットワークで育った若者は、イスラム革命のイデオロギーに共感することは少ない。聖職者統治政権と国民の間の溝は更に深まっている」
その一方、イラン当局はパレスチナ自治区ガザのハマス、レバノンのイスラム根本主義組織ヒズボラ、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派へ武器、軍事支援をし、シリアの内戦時にはロシアと共にアサド政権を擁護するなど、多くの財源を軍事活動に投入してきた」
(ウィーン発コンフィデンシャル7月8日)
ハメネイ師に忠実な改革派の新大統領 : ウィーン発 『コンフィデンシャル』 (livedoor.blog)

いままで同じことを何回も書いてきて、私もやや飽きてきましたが、こういう勘違いはイランという国の特異な権力構造を見ないので生まれます。

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産経

「イランは1979年にパーレビ王政を打倒した革命が起きて以来、イスラム教シーア派の法学者による統治が続く。最高指導者は国政全般に最終決定権を持ち、絶大な権力を握る。大統領は国会や司法と並ぶ行政の長に過ぎず、軍に対する権限などはない」
(産経2019年6月12日)
イランは最高指導者が絶対権力 大統領は行政の長(1/2ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

イランの「最高指導者」はイスラム坊主ですが、日本のように立憲君主制下の国家統合シンボルではなく、完全な親政を敷いています。
坊主はすべの権力を掌握しており、外交、軍事、内政のすべてを支配しています。

そしてなんとイスラム坊主は国軍とは別に、じぶんの私兵をまで有しているのですかスゴイね。
例の悪名高き革命防衛隊とその指揮下のコッズ部隊です。

コッズ部隊こそ中東全域にハマスやヒズボラなどのテロ団体を組織している中核的組織で、これは「最高指導者」が司令官を任命し、その命令で動いています。

いままでこの恐れ多い「最高指導者」の椅子に座ったのはたった2名。初代はあのカリスマ坊主のホメイニで、この男が普通の王政国家だったイランをイスラム原理主義国家に変貌させました。
2代目が今のハメネイで、いずれも高位のイスラム法学者で、3代目と目されていたのが、ヘリの事故で死んだライシでした。
ライシは着々と力をつけて、ハメイニが死んだら次はオレだと思っていたようですが、「改革派」とやらのペゼシュキアンなんてまったく及びではありません。
ただのガス抜きです。

この革命防衛隊を擁する「最高指導者」の絶対性を見ないで、新大統領が西側と協調したら、核合意を守ったら、なんて夢想するほうがアホらしい話です。
イランは革命防衛隊の圧政を打ち破り、「最高指導者」体制を変えないかぎりなんの変化もないのです。

 

 

 

2024年7月 9日 (火)

フランス、なにも決まらない議席配分に

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フランス国民議会選挙で、国民連合(RN)は過半数を取れずに第3党となりました。
原因は、マクロンがみずからの与党連合と左翼の新人民戦線との「共闘」、つまりは候補者調整をしたからです。
やれやれ、ここまでやるかね。

「フランスで7日、国民議会(下院、定数577)選挙の決選投票が実施され、即日開票された。第1回投票で得票率首位となった極右の流れをくむ右派政党「国民連合」(RN)に対し、左派の政党連合とマクロン大統領率いる中道の与党連合が候補者の一本化による共闘で巻き返し、左派政党連合が最大勢力、与党連合が2位となった。RNは3位に沈んだ。
 仏内務省が公表した開票結果に基づく仏紙「ル・モンド」の集計によると、改選前に149議席だった左派政党連合は182議席を獲得した。与党連合は解散前の250議席から大幅減の168議席だった。過半数をうかがう勢いとみられたRNは、解散前の88議席から伸ばしたものの、共闘勢力を含めて143議席にとどまり、事前予想に反して選挙戦の終盤で失速した」
(読売7月8日)
フランス国民議会選挙、左派政党連合が最大勢力に「マクロン大統領の敗北は明らかだ」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

新議席配分はこのようになります。
完全に三分してしまいました。

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読売新聞

メディアの伝え方だと「極右が負けた」というニュアンスで伝えられていますが、なんのRNは53議席も伸ばしていて、堂々と国民議会の3分の1ちかくを制しました。
いまのRNはかつての親父ルペンの時とは違ってゴリゴリの右翼ではありませんから、こと次第によっては中道右派と組むことも視野に入っているかもしれません。すると188議席になってしまい第1党になります。
ただの数合わせですが、マクロンがやったのですからマリーヌ・ルペンがしないという保証はありませんもんね。

いずれにせよ、今回は首相の座を逸しましたが、次が狙えるポジションです。

「仏紙ルモンドが報じた暫定結果によると、RNは共闘勢力を含め143議席を獲得し、改選前の約90議席から大幅に議席を増やした。仏紙フィガロによると、得票率は約36%で、最大勢力となった左派連合「新人民戦線」(約25%)とマクロン大統領の与党連合(約21%)を上回り、第1回投票に続いて最大となった」
(産経7月8日)
フランス極右政党の勢いなお ルペン氏「勝利は延期されただけ」 下院選で議席大幅増 - 産経ニュース (sankei.com)

第1勢力は下写真のジャン・リュック・メラシオンが率いる新人民戦線です。

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フランス議会下院選、左派連合が最大勢力に 極右は予想外の失速 - BBCニュース

メラシオンは「不服従のフランス」( La France insoumise/FI「不屈のフランス」という訳もある)の党首で、フランス社会党出身の左翼ポビュリストです。
不服従のフランス - Wikipedia

メランションが特徴的なのは、環境主義者、共産党まで含んだ左翼政党連合を作ろうと構想して成功させたことです。

2008年11月社会党を批判して離党したジャン=リュック・メランション上院議員らによって創設された。後に緑の党を離党したメンバーも加わった。左翼党は幅広い左翼の結集をめざしてフランス共産党などと共同歩調をとり、政党連合左翼戦線を構築している。2009年欧州議会議員選挙では左翼戦線として6.48%の得票で5議席を獲得し、メランションを欧州議会に当選させた」
左翼党 (フランス) - Wikipedia 

わが国のガチガチの社会主義人士にはいないタイプのキャラです。
一見、うちの国の共産党も似たような野党連合を提唱していますが、結局正体隠しのためのダミーに過ぎず、実体は共産党の拡大戦術でしかなかったことは今回の都知事選でも証明されました。
フランスの場合、フランス共産党はすでに民主集中制という独裁制を放棄し、分派の自由が実現しているから、メランションの新人民戦線方式を受け入れることが可能となったようです。
日本でもマネするのが生まれそうですが、日本共産党は世界でほぼ唯一残存した化石標本のようなマルクス・レーニン主義政党ですから、まったく無理でしょうな。

さて、このようなRN憎しだけの政治的曲芸で生まれた新政権ですが、どうなるでしょうか。

「第1回投票の結果を受け、主に地方選挙区レベルで、「国民連合」の議席獲得を阻止するために3番手の候補が選挙戦から撤退するかどうかが注目されていた。
左派連合と与党連合のこの選挙協力をめぐっては、多くの国民が不満を抱いた。しかし、今回の結果は、第1回投票では中道派や左派を支持した有権者が、その1週間後には極右が議会を掌握するのを防ぐことだけを目的に、ライバル政党へと支持を移したことを意味する」
(BBC7月8日)
フランス議会下院選、左派連合が最大勢力に 極右は予想外の失速 - BBCニュース

考えにくいですが、百田氏の保守党がひとり勝ちしそうになって、自民党と野党連合が手を握ったようなもんです。
主義も理念もありゃしません。ルペンが憎いだけ。
いままで共産党に入れていた支持者に、今度は自民党に入れてくれと頼むようなものですから。

当然、勝ったとはいえどそのストレスはお察しします。

一方、RNのほうはスッキリと怒っておいでです。

「国民連合」のバルデラ党首は、「不誠実な同盟」である選挙協力によって、何百万人もの有権者がフランスの生活費危機への対応を奪われたと訴えた。「我々は権力のために権力を欲しているのではない。フランス国民に権力を手渡すために権力を欲しているのだ」と、バルデラ氏は支持者に語った。
同党のセバスチャン・シェニュ氏は、マクロン氏の与党連合が左派の勝利を可能にし、マクロン氏が作り出した「苦境」の中にフランスを置き去りにしたと非難した」
(BBC前掲)

新人民戦線は第1党といっても、蓋を開ければただの闇鍋で、メランションのキャラで接着しているような寄り合い所帯の極のようなところです。
しかも元々左派色が強いフランスの価値観での左派ですから、日本でいえば共産党や過激派が勝利したようなもので、彼らの中にはEUを新自由主義として反対していた勢力も含まれます。
第1党といっても、過半数を押さえられない比較第1党にすぎません。
しかも大統領は中道派のマクロンで、この男がいなけれは新人民戦線も勝てなかったわけですが、皮肉にもメランションはマクロンが大嫌い。
これでスムーズに与党の政策がでてくるはずがありません。

一方、憎きRNは、いくらこのナチめと叫ぼうとも厳然として議会の3分の1を占めているわけで、虎視眈々と足を引っ張ろうと狙っています。
たぶん与党連合との政策調整が難航し、そこから出てきた政策はことごとくRNが拒否を突きつけることになるでしょう。

つまりマクロンのこの左翼陣営と組むという窮余の一策によって、フランスは一気に混乱する可能性が出てきました。
オリンピックまでは静かでしょうが、祭りが終わればどうなりますことやら。

 

2024年7月 8日 (月)

蓮舫氏が惨敗したわけ

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当初の予想どおり、蓮舫氏は2位にもなれず、3位という惨敗に終わりました。
これで自分が辞職して欠員となった参院選の補選にまたでるというのはいくらなんでもムリでしょうから、次の衆院選に出るしかありませんが、そうとうに難しくなりました。
出来ないとなると、この人の政治生命は事実上投了です。

「過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は、現職の小池百合子氏(71)の3回目の当選が確実になりました。
7日が投票日の東京都知事選挙は、自民党、公明党、国民民主党都連、地域政党の都民ファーストの会が自主的に支援した現職の小池氏が、広島県安芸高田市の元市長石丸伸二氏、立憲民主党、共産党、社民党が支援した元参議院議員の蓮舫氏らを抑え、3回目の当選が確実になりました」
(NHK2024年7月7日)

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開票率 70%  NHK

この結果自体にはなんの驚きもありませんが、蓮舫氏はなんの反省もないご様子で、「共産党さんをはじめ、本当に多くの応援の力をもらったことは私の財産だ」と言い放っています。
困ったお人だ。まだ分からないのか。
最大の敗因は「力不足」なんかではなくて、なんといっても大戦略の失敗です。
無党派を取り込むと言って立憲を離党しておきながら、共産党とベッタリで二人三脚を演じりゃ、なんだレンホーは共産党かいって思われて当然です。
そうでなくても、その人を人とも思わぬ攻撃的スタイルと見事なブーメランぶりは共産党そのものでしたもんね。

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蓮舫氏 街頭演説に共産党の影なしで“不協和音”報道も…聴衆2000人の町田では「神奈川県民も多い」の珍現象(SmartFLASH) - Yahoo!ニュース

「7日投開票された東京都知事選で、無所属新人の前参院議員、蓮舫氏=立憲民主党を離党=は3選を目指した無所属現職の小池百合子氏に敗れることが確実となった。蓮舫氏が選挙に敗れるのは平成16年の参院選初当選以来初めて。都内の会場で敗戦の弁を述べた蓮舫氏は「共産党さんをはじめ、本当に多くの応援の力をもらったことは私の財産だ。思いを心から訴えることができた戦いだった」と17日間の選挙戦を振り返った。次期衆院選出馬など今後の政治活動については「自分の中で都知事選のピリオドを打てていない。何が足りないか、少し考える時間をほしい」と述べるにとどめた。
「全力で訴えたつもりだ。結果として届かなかったのは私の力不足だ」」
(産経7月7日)
初の選挙敗北確実の蓮舫氏「共産党はじめ多くの力は財産」 次期衆院選は「少し時間を」 - 産経ニュース (sankei.com)

蓮舫氏は、共産党と組んで「人民戦線」の神輿に安易に乗ってしまいました。
共産党は人民戦線のことを「市民連合」という言い方をしていますが、要は共産党が指導して牽引する野党共闘のことですから、この布陣でやれば結果はおのずと見えています。
立憲の顔であり一番共産党と親和性が強かった彼女は共産党の中に埋没し、まるで共産党候補そのもののように都民には見えていくことになります。

「立憲民主党は代表の泉健太をはじめ、枝野幸男や野田佳彦ら、共産党は参議院東京選挙区選出の吉良よし子らが連日、街頭に立ち、声を張り上げて支持を訴えた。
演説前には、共産党の地方議員なども一緒にマイクを握り「蓮舫を知事に」と呼びかけた」
都知事選 小池百合子知事が勝利 舞台裏で何が?蓮舫氏は?石丸伸二氏は?2024東京都知事選挙 | NHK | WEB特集 | 選挙

立候補するやいなやまっ先に飛び込んだのが共産党会派の部屋。
そこで待ち構えていたのが共闘都議団団長以下のオバさんたちと、メディアの大取材陣。
これで決まりです。もう後戻りはできません。
終始、自民党ステルスといわれようと、一貫して自民党を前に出さなかった小池氏との政治的勘の違いが見え見えとなりました。

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共産党都議団

「東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)への立候補を表明した立憲民主党の蓮舫参院議員が29日、都議会の野党系各会派の控室を訪問しました。日本共産党の控室では大山とも子都議団長らが出迎えました」
(共産党5月30日)
住みやすい東京 一緒につくろう/蓮舫氏、共産党都議団を訪問 (jcp.or.jp)

選挙中は各地の共産党系「市民連合」が手足で駆け回りました。
連合からの推薦をもらえず、労組の手足を失った蓮舫氏にとって、この都内各地の共産党支部はなににも優る力だったはずです。

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JCP TOKYO (jcp-tokyo.net)

「大田区では、蒲田駅東口・西口、大森駅東口・西口、平和島駅、糀谷駅、雑色駅、御嶽山、田園調布、大岡山駅の10駅で、谷川智行衆院候補、藤田りょうこ、斉藤りえ、西崎つばさ都議、共産党や立憲の区議会議員、市民連合おおた代表、社民党、新社会党役員など88人が参加し、元気に道行く人々に訴えました。ニコッと笑みを浮かべビラを受け取る人、通り過ぎてから戻ってきてビラを受け取る人もいました。通行人からは、「蓮舫さんはいい候補者ですね」「頑張ってください」などの激励が寄せられました」
(共産党6月15日)
蓮舫さん勝利へ各地で行動 | JCP TOKYO (jcp-tokyo.net)

あまりの共産党とのズブズブぶりに立憲は、軒を貸して母屋を乗っ取られる危機感が出たようです。

「しかし、選挙戦中盤に入ると、この連携のあり方に、それぞれの政党から疑問の声が漏れ聞こえてきた。
立憲民主党の都議会議員の1人は不安を隠さなかった。
「共産党が前に出すぎている。『立憲共産党』のイメージがついて回り、無党派層などに支持が広がっていないのではないか」(立憲民主党の都議会議員)」
(NHK7月7日)

しかし哀しくや立憲には組織としての基盤がありません。
カネは労組から、候補者も労組から、選挙マシーンは労組にしてもらう、というないない尽くし。
これが今までの旧民主党系政党の体質だったからです。
その連合は蓮舫の推薦を拒否し、小池氏を応援する側に回りました。

「連合の芳野友子会長は5月31日、立憲民主党と共産党などでつくる「選定委員会」の要請に応じる形で出馬表明した蓮舫氏に関して、「連合は共産党とは考え方が全く違う。連携していくことは非常に難しい」と報道陣に説明した。あくまでも「共産党」との関係が問題というわけだ。
ある連合幹部は、蓮舫氏について「以前から『連合に選挙手伝ってもらうより、自分が演説に行った方が人が集まる』などと言っている。うちとの折り合いはあまり良くない」と明かす。

一方、連合と小池知事の関係は深い。
この連合幹部は「連合側の政策要請をきちんと受けてくれるし、会合にもきちんと出席してくれる。連合とはしっかり向き合ってきてもらった」と、小池都政を高く評価。連合は、2021年の都議選や2022年の参院選をはじめ、近年の東京の国政選挙や地方選挙では、小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」の公認候補を推薦することも多い」
(東京6月15日)
蓮舫氏を支援できない「連合」…共産党への接近だけじゃないその背景 連合東京は小池百合子氏「支持」へ:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

まぁ、蓮舫氏はかつてトップ当選を鼻にかけて、今でも人気者のあたしが出れば都民は手もなくなびくと楽観していたのですな。
このうぬぼれというか、ナルシズムが彼女の真骨頂です。
しかし頼みの無党派層は、あまりに共産党派色がベッタリついた蓮舫氏を嫌い、石丸氏を新鮮な候補と見るようになります。
組織戦で負け、頼みの人気で負ければ惨敗して当然です。

「出口調査によりますと、石丸氏は、回答者の4割を占めた無党派層で、3割台半ばの支持を得ていて、これは小池氏のおよそ3割を上回り、蓮舫氏の1割台半ばのおよそ2倍の数字です。
また、自民党支持層からはおよそ2割、立憲民主党支持層からも2割弱の支持を得ていて既成政党の支持層にも一定程度、浸透していることがわかりました」
(日テレ7月7日)
【都知事選】石丸氏“2位”の衝撃 蓮舫氏を上回る情勢 日テレ出口調査(日テレNEWS NNN) - Yahoo!ニュース

そして負けたあとは、小池書記局長とガッチリ抱擁という気色の悪いフィナーレでした。

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【都知事選ドキュメント】共産党・小池書記局長が蓮舫氏にねぎらい「蓮舫さんいなくなった参議院は寂しい」|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

共産党の小池書記局長が敗戦した蓮舫氏にねぎらいの言葉を贈りました。「最高の候補者だった。戦いはこれから。蓮舫さんがいなくなった参議院はさみしいけど、頑張って政治を変える」
(日テレ7月7日)
ntv.co.jp

これだけやれば、蓮舫はなまじ立憲の人格的代表であっただけに「立憲共産党」と見られますわな。
見られて当然。共産党はそれを狙っているのですし、立憲の共産党共闘派勢力の代表者こそ蓮舫氏だったからです。
そして泉さん、先週、英国労働党の勝利に、次はうちの国の番だ、みたいな寝言を言っていたので、7月8日にもう一回同じことを言えるかと問うたのですが、いかがでしょうか。
敵失頼みの勝利に浮かれて、共産党に鼻面をひきまわされ、国民にソッポを向かれるようなら、次はないですね。

ところで蓮舫氏は告示日前に選挙演説を行ったりしたことを、司直がどう判断するか楽しみです。
共産党が大量に撒いた法定外のビラや、告示日前の投票依頼演説など、選挙違反の疑いは濃厚ですからね。
事前運動も選挙妨害も警察が撮影して把握していますから、共産党関係にはガサが入りそうです。
そうなった場合、蓮舫氏まで波及するかどうか。
仮にしたら公民権停止ですから、衆院選どころではないはずですので。

おっと、冒頭で政治生命は投了だなんて失礼なことを書いてしまいましたが、いっそ共産党に入党しちゃいなさいよ。うん、それがいい。それが一番似合っている。パチパチ。

 

 

2024年7月 7日 (日)

日曜写真館 あじさいに降り 有彩の 雨の糸

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思ふ事紫陽花の花にうつろひぬ 内藤鳴雪

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水色の夢見確約 紫陽花は 伊丹三樹彦

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あじさいに 絞り下ろしの 水絵具 伊丹三樹彦

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あじさいの滴り青く雨の旅 飴山實

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いくらでも水気ほしげに紫陽花は 細見綾子

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ありなしの色から育つ あじさい これ 伊丹三樹彦

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七変化にてとどまらぬ 花の色 伊丹三樹彦

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あじさいの滴り青く雨の旅 飴山實

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あじさいに ひとりびとりの思いの丈   伊丹三樹彦


2024年7月 6日 (土)

バイデン、最大の失敗グリーンニューディール

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英国労働党が過半数を制して政権を奪還しました。
スターマー党首が新たな首相となります。

「イギリスで4日にあった下院(定数650)の総選挙は開票が進められ、5日午前(日本時間同午後)の時点で、野党・労働党が単独過半数を獲得した。大幅な議席増によって14年ぶりに政権を奪還し、キア・スターマー党首が首相となる。スターマー氏は「いまから変革が始まる」と勝利演説した。惨敗となった与党・保守党は、現職閣僚ら有力議員の落選が相次いだ。リシ・スーナク首相は同党の敗北を認めた。
開票の結果、5日午前6時(日本時間同午後2時)の時点で、労働党は390議席(191増)を獲得。保守党は97議席(218減)に落ち込んでいる。そのほか、自由民主党は60議席(53増)、スコットランド国民党(SNP)は7議席(38減)、シンフェイン党は7議席(増減なし)、新党のリフォームUKは4議席、ウェールズ党(プライド・カムリ)は4議席(2増)、緑の党は2議席などとなっている」
(BBC2024年7月5日)
【イギリス総選挙2024】 労働党が単独過半数、14年ぶり政権交代へ 保守党は現職閣僚ら相次ぎ落選 - BBCニュース

ヨーロッパにおけるイタリアに始まった右への風は、ここでいったん停止したようです。
たぶんフランスも、マクロンの恥も外聞もかなぐり捨てた2位・3位連合に国民連合は勝てないかもしれません。

とはいえ、いちおう保守党は壊滅を回避できたようです。
まだなんとも言えませんが、英国の政治的箴言のように「政争は海岸線まで」を貫いていただきたいものです。
最良の日英間系を後退させないように。

どうでもいいですが、柳の下のなんとやらで、立憲の泉代表がこんなひょうきんなことを言っています。

「立憲民主党の泉健太代表は5日の記者会見で、英下院総選挙により最大野党の労働党が大勝し、14年ぶりの政権交代をもたらした結果を歓迎した。「われわれにとって大きな勇気となる。次の衆院選で政権交代を果たしたい」と意欲を示した
(共同7月5日)
泉氏「われわれも政権交代を」 立民、英総選挙の結果を歓迎(共同通信) - Yahoo!ニュース

立憲みたいな落ち目になるとすぐに共産党と手を組むようなところと、英国労働党を同一平面に並べるなって。
明日の都知事選のあとにもご意見をお伺いしたいものです。

英国保守党の敗北原因は強インフレによる生活危機でした。

「イギリスでは「Cost of living crisis」=「生活費危機」という言葉が連日叫ばれていて、私が暮らすロンドンではチェーンのカフェでコーヒーとサンドイッチを買うだけで2000円近い値段になったり、毎月家賃が上がらないかひやひやしたりしながら暮らしているような状況です。
イギリスは保守党政権のもと、EUから離脱しましたが、国民はその恩恵を感じられないばかりか、歴史的なインフレに苦しめられてきました。そうした中、「史上最も裕福な首相」と言われるエリート階級のスナク首相が、選挙前のインタビューで「子どもの頃、手に入らなかったもの」を聞かれ、苦し紛れに「有料の衛星放送がなかった」と答えるなど市民の感覚とあまりにも乖離した発言が続き、有権者の心はさらに離れていきました」
(TBS7月6日)
イギリス「政権交代」の理由は“生活費危機”(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

さて、バイデンを取り巻く状況は悲惨です。
老耄を満天下にさらしてしまい、引くに引けぬ状況のようです。
落ち目になると、いままでの失政が重くのしかかります。
アフガン撤退の無残な失敗は米国民の心を大きく傷つけましたし、なにより強インフレで生活が圧迫されています。
まさにいま英国が陥っているのと同じCost of living crisisが米国でも起きているということです。

2022年8月のアメリカの大都市部の最新の物価はこうなっています。
なお当時の円ドル為替相場は133円でしたので、今の160円だとさらに上がって表示されるはずです

・マクドナルドのマックミールセット(コンボミール)10ドル(1359円)
・牛乳(1リットル)1.21ドル(164円)
・白パン(500グラム、1ローフ)3.99ドル(542円)
・米(1キロ)7.20ドル(978円)
・卵(12個入り)4.03ドル(548円)
・ローカルチーズ(1キロ)17.13ドル(2328円)
・鶏肉(モモフィレ肉、1キロ)16.44ドル(2234円)
・牛ひき肉(1キロ)20.25ドル(2752円)
インフレが進行するアメリカ・主要都市の物価はどうなっている? (j-seeds.jp)

このインフレの原因は、バイデンが人気とりでやったコロナの経済対策として、札束を配りまくったからです。
バイデン政権は、トランプ政権下の2回のコロナ経済対策の給付金(1人当たり1200ドル、600ドル)に上乗せして、2021年3月に民主党のみで成立させた米国救済計画法に基づき、追加給付金を1人当たり1400ドルも支給しています。
大統領選挙戦で、バイデンがもっとも力を入れてしゃべったことは、オレに入れてくれたらカネ配ります、でした。

バイデンの思惑どおり米国救済計画法は国民に大受けしたのですが、経済状況を見ないあまりに過剰な給付でした。
リベラルは洋の東西をとわず、このようなバラ撒きが大好きです。
デフレ時にはそれなりに押し上げ効果が見込めるのですが、インフレリスクが高い時にこれをするとほんとうのインフレに突入してしまいます。

米国の場合、バイデン政権からもらったカネを個人消費に回してしまったために過剰な個人消費が生じました。
さらにコロナで働けないためもあって、国民は労働を忌避し始めます。
結果がどうなったのかといえば、需要が急増したにもかかわらず働き手がいない→働き手を募集するには労賃を上げねばならない→価格に転化する→コストプッシュ・インフレの発生という現象が生まれました。
FRBが何度も利上げして消し止めようとしたのが、このインフレでした。
名付けて「バイデン・インフレ」と呼ばれています。

特に止まらないガソリン高は、元々ガソリンが湯水のように使えると思っていた米国民に強い不満をもたらしました。
下図は原油価格のベンチマーク(指標)価格である2021年のWTI先物相場ですが、10月20日の時点で1バレルあたり82ドルを超え、こちらも同じく14年10月以来となりの高騰です。
このまま推移すれば、バレル100ドルという庶民には手の届かない価格に達する勢いです。
このガソリン価格の高騰に、2022年2月以降のウクライナ侵攻がかぶって100ドルを超える高値になりました。

国内要因はバイデンが党内左派に媚を売って進めたグリーンニューディールにあります。
バイデンは、リベラルが大好きな極端なCO2削減政策を実施しました。
グリーンニューディールと自称していますが、これによって化石エネルギー源への投資が禁止されてしまいました。
炭鉱はおろか、テキサスの油田、そして米国が世界に誇ったはずのシェールガスまでもが投資が止まり、今や世界有数の産油国でありながら米国はガソリン高に苦しむはめになっています。

シェールガス掘削井戸は、バイデンが政権をとる直後から下り坂を転げ落ちるように激減しています。
このガソリン高が、コロナ後の人手不足による労働力市場の高騰と相まって、米国経済に思わぬ打撃を与えています。

特に物流を握る運輸関連の被害は深刻で、ニュージャージー州では、伝統的に民主党支持層だったトラックドライバーたちが民主党の州上院議長を追い詰める騒ぎに発展するなどの騒動にまで発展しています。
このガソリン高は自動車産業をも窮地にたたせており、自動車産業関連の労働者の動きにも連鎖していく可能性があります。

そしてお定まりのEVへの過剰な補助金です。

「電気自動車(EV)には陰に陽に様々な補助金が付けられている。それを合計すると幾らになるか。米国で試算が公表されたので紹介しよう。2021年に販売されたEVを10年使うと、その間に支給される実質的な補助金は約50000ドル(図中の48698ドル)に上る。為替レートを1ドル150円とすると、約750万円だ。


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EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

  • 政府や州による補助金や税控除など、納税者への負担によるものが8984ドル+(1318ドルの内数)、図中の黒色
  • 追加の発電設備や送配電設備など、電気利用者への負担によるものが10515ドル+(1318ドルの内数)、図中青色
  • 政府や州の燃費規制に基づいたクロス補助金など、ガソリン自動車利用者への負担によるものが4881+3322+19678= 27881ドル、図中水色
    直接の補助金である8984ドル以上に、電気利用者への負担や、ガソリン自動車利用者への負担に基づくクロス補助金の方がはるかに莫大に上っていることが分かる」
    EV補助金は1台750万円にも上るとの米国試算 | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)

このようなグリーンニューディール政策のツケは、エネルギーコストの上昇による経済への打撃、生活費の負担の増加、そしてそれを救済するための各種失業手当などの増大だったわけです。
当然のこととして政府は財政危機となります。

バイデンもこのグリーンニューディールを止めればいいことはよくわかっているはずですが、それをしようとすると与党民主党左派が激怒します。
トランプが政権を奪還したら、まずやるのはグリーンニューディールの完全停止であることはまちがいありません。
ガソリン高は世界的な過少投資によるものですが、米国はなにせ自分の足元を掘れば石油が湧いてくる土地なのですから、解決は簡単です。

グリーンニューディール政策を放棄し、炭鉱や石油産業、あるいはシェールガスに集中的投資を呼び込む政策に転じるでしょう。
もちろんEVなどという色物に対する補助金は打ち切られます。
各種補助金の竹馬に乗ることでやっと一人前の顔が出来たEVの息の根が止められることは必至です。
ニセモノのEV黄金期はこれで終わります。

そして電気自動車とリチウムバッテリーで世界を制覇しようとした中国の野望も、大きく後退することになりました。

 

 

 

 

2024年7月 5日 (金)

日本にはヨーロッパのような移民受け入れはできない

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去年、岸田氏はカタールなど湾岸国を例示して、「日本らしい(移民の)共生」ということを言ったことがあります。
カタールのように移民という現代の奴隷階層の上に少数の本国民が乗り、汚れ仕事と野外の仕事は100%移民という国にはなれないし、なりたくもありません。
比較対象を誤って立論すれば、本論も狂うのは当然です。
強いていえばヨーロッパが比較する対象になります。

結局、いま日本で激増している不法滞在者を解決できないうちに、移民対象を家族帯同にまで拡げ、永住権を与えてしまえば「日本らしい共生」もナニもありません。ただの移民と一緒です。
中身も、外国人人材派遣業者が言うように、待遇改善、就労前の語学教育、スキルの向上支援、就労後の評価制度の明確化ていどのことで、そんなことくらいは先進国ならどの国もすでにやり尽くしています。

たとえばフランスは「社会統合政策」と銘打ってこのような取り組みをしています。

「社会統合政策の内容は多岐にわたり、フランス語教育を含む職業訓練、住宅状況の改善、社会的文化的適応のための援助活動等であるが、サルコジ氏が推進している社会統合政策の象徴的なものは、移民に「受入れ・統合契約(CAI)」を義務化し、契約内容としてフランス語習得、フランスの社会文化の共通原則の理解、そのための市民教育講座への出席を義務化する一方で、就職、教育等に対する支援を行うというものである」
(平出重保『フランスの移民政策の現状と課題』)
Taro-20090601003.jtd (sangiin.go.jp) 

フランス文化を学ばせることを義務化までしていますが、いったん移民したらたぶんそんなものには出ません。
ましてや2世3世になれば推して知るべしです。

そして不満を募らせた「郊外」の3世4世の若者らが、まるで祭のような暴動を頻繁に起こしています。

ではひるがえって、日本は移民受け入れに際して、日本文化を学ばせることができますか?
あるいは、日本国への忠誠を誓わせることができますか?
仮に不幸にも出身国と戦争になった場合、日本人として戦うことを誓わせられますか?

たぶん無理でしょう。
なぜならいま移民を推進している「多文化共生」主義者の皆さんが、日本文化の押しつけとしてそれを許さないからです。

逆にむしろ日本国民に向かって、外国語を学べ、イスラムの習俗を学んで許容しろ、差別をするな、ヘイト禁止、公教育は多言語でやれ、というふうになるでしょうね。
そして公立学校で日の丸の掲揚を止めよ、韓国語と中国語をカリキュラムに取り入れろ、くらいは言うでしょう。

そしていとも安易に参政権を与えてしまう自治体が出現し、それをメディアがはやし立てる。
そんな移民に免疫がないゆるい国がうちの国です。
岸田氏が政治家ならば、「日本らしい共生社会」などというお菓子のようなことを言っていないで、自国民を移民からどう守のか、どのように日本社会に同化させていくのかを考えるべきですですが、それを言うと埼玉の事例のように即ヘイトとしてバッシングされるでしょう。20230729-070624

多文化共生とはなんだろうか? – SKYグローバルリンク|三重県四日市市【公式サイト】 (sky-gl.com)

どころが岸田氏のようなリベラル脳の持ち主は極端な性善説ですから、麗しく共存していくと思っていらっしゃる。
ヨーロッパのナニを見てそう思えるのか、不思議な人たちです。
奴隷に依存する国家であるカタールに行って、9割外人でも国が回るんだと妙な感心した人ならば当然かもしれません。

ただし、一定の移民は不可避の必要悪としているでしょう。
それは私は農業研修生制度が完全に定着しているのを見てきました。
このような仕組みは他の分野でも多く見られ、この方法ならいつでも制限をかけたり、退去させることが可能です。
家族をもたないためにコロニーが作りにくくなります。

矛盾は多々ありますが、特に賃金が安い問題も大幅に改善されました。
長年に渡って運用してきているために改善点もあぶりだされて、よりよい形になってきています。

それをなぜ今になって家族帯同可という本格的移民に道を開くのでしょうか。

それはおそらく財界がより安く働く労働力を大量に欲しているからです。
長年に渡って財界は移民の解禁を政府に強く働きかけていて、まるで悲願のようです。
それは20年間も続いたデフレで、財界は自国の勤労者の賃金を上げる方向で解決せずに、移民で代替するという安易な道をあたりまえだと勘違いしました。

本来なら、労働条件の改善と機械化などで乗り切るべきだったのです。
しかし深くデフレ脳に犯されていた財界は、もっとも安易な外国人移民に解決を求めました。
このところの日経連は、言うことなすこと夫婦別姓推進移民促進とかで、もはや日弁連財界部会と改称したほうがいいようです。

結局、自分の会社の人件費をアップしないで安い外国労働者で凌ぎたいというだけのことで、今頃になって全国的な人手不足でオタオタしているからこんなことを言い出す始末です。
この財界の醜態を朝日新聞などリベラル勢力は「開かれた多元社会」「多文化共生社会」というキラキラネームをつけて、まるでヒューマニズムの運動であるかのように囃し立てました。
オーストラリアに住むマンガ原作者のように「多元文化社会」を新たな人類史の発展だくらいに説く者も現れました。
馬鹿だね。移民国家のオージーと一緒にするんじゃないよ。

もちろん、移民の本音はセコイ財界の欲求にすぎません。
どういうわけか、それをヒューマンでカッコイイことと勘違いしたのが岸田氏のようです。困った人だ。
なぜ彼には、移民が国柄にとって本質的変更をもたらすことがわからないのでしょうか。

この人たちは、まるで移民受け入れを発展途上国の支援くらいに勘違いしています。
豊かな日本は、西アジアや東南アジアの人々に門戸を開いて失業で苦しんでいる人々を雇用で救済せねばならない。
これは発展途上国に恩恵を与える行為なのだ。
そして受け入れることで、閉鎖的島国根性がはびこる日本社会も、ヨーロッパ並に開かれた多元文化社会となるであろう、チャンチャン♪
ま、それも今の円安で外国人が来ませんから、残念。

「新しい資本主義」という社会民主主義的な言い方といい、岸田氏はこういう歯が浮くリベラルみたい言い方が文化的だと思っているようです。
彼が米国に生まれていたら民主党の左派になったでしょうね。
だから就任1年間はヒダリ側の人たちは妙な仲間意識めいた視線で岸田氏を見ていたようですが、安倍氏の政策の延長であるクアッド、防衛予算2%から疑問を感じ始め、いまや異次元の増税で完全に裏切られたと思い始めました。

これなら、かつての移民受け入れ期のフランスのように、うちの国は露骨に人が足りない、ヒューマニズムなんかお呼びじゃない、安い外国人労働者が欲しいんだ、と言ったほうがいっそ清々しい気さえします。

「第一次世界大戦以降、人口が急激に減少したフランスは、積極的に移民の受入れを行ってきた。特に、第二次世界大戦後、いわゆる「栄光の 30 年」(1945 年から 75 年までの間はフランス経済史上最大の経済成長期)には、安価で大量の労働力が必要となり、炭坑や自動車工業の労働者としてスペイン、ポルトガル、マグレブ等から大量の外国人労働者の受入れを行った。当時の移民として受け入れた外国人労働者の多くは、家族を連れず、男性1人で入国してくるのが普通であった」
(平出前掲)

たしかに移民導入は、フランスにとって一時は経済のカンフル剤となりました。
ただし巨大な副作用が後に到来し、それは70年間つづくフランスの不治の病と化してしまいましたが。

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フランスの暴動がさらに深刻化:移民たちの不満は国家を破壊するのか | アゴラ 言論プラットフォーム (agora-web.jp)

とまれ安い労働力を確保したフランスは国際競争力で優位となり、戦後の繁栄期を迎えることになります。
ただし、他のヨーロッパ諸国は右へ倣えで、大量移民に踏み切りましたからそうそう続きませんでしたが。

いろいろな移民トラブルが続出しましたが、本質的な変化は受け入れたフランス人の側に起きました。
先進国がいったん外国人を受け入れると、逆に外国人労働力に強く依存する構造が生まれてしまうのです。
まずは製造業やサービス産業、農業から始まり、やがてその依存構造は社会全般に及びます。
すると外国人労働者がいないと、社会システムが動かない、都市が機能しないという状況が発生します。
フランスに住んでいた饗庭孝男氏は、いまから36年も前にパリ滞在のエッセイにこう書いていました。

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パリ エスニックタウン・マップ|世界のエスニックタウン|e-food.jp

「私の住んでいる5区は、12区や14区、18区、20区、あるいは郊外ち較べると、比較的少ないとはいえ、外国人労働者もあるていど住んでいる。彼らはパリの人口の14%の比率である。ちなみにパリ以外は7%である。
黒人やアルジェリア人、モロッコ、,チュニジア、中近東の人たちは、メトロや清掃の従業員、小売店、それに区役所の下級官吏に多く、ポルトガル、スペイン、イタリア、ポーランドの人たちは、ホテルのボーイ、夜勤、門番、タクシーの運転手、床屋に多い。(略)
だからパリの階級構造は、下から言えば底辺を中近東、黒人、アルジェリア人、モロッコ、チュニジア人らか支え、第2の階層はポルトガル、スペイン、イタリア人たちがいて、その上部構造がフランス人ということになる」
(饗庭孝男『パリの一隅から』1987年11月)

このようにフランスでは、人種・宗教・出身地によって固まって住んでコロニーを作り上げ、まるでパイ皮のような階層社会を作り上げています。
それでもあいかわらずフランスは、魅力的で文化的であれるのです。少なくとも表向きは。
それを可能としているのはフランス人に「礼儀正しい冷淡さ」があるからです。
階級や階層によって「自然に差別」できる階級社会の伝統が背後にあるからです。

では日本人に同じマネができるでしょうか。
受け入れた、タイ人、ベトナム人、バングラディシュ人、中国人、韓国人、パキスタン人らが居住区をわけて、上層中層下層に分かれて暮らし、日本人のみが社会の上に「上級国民」として君臨することができるでしょうか。
ヨーロッパ人のように、このような所与の人種、階層を前提にして、眉ひとつ動かさず「自然に差別」して生きていける人だけが、外国人移民を賛成と言える資格があります。

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都道府県別外国人研修生・技能実習生数

私は農業研修生という名の外国人労働者が多い地域に住んでいます。
現行の研修生というがんじがらめの制度でも多くのフリクションをうみました。
確実に治安の乱れが各所で起きました。
彼らは家族を帯同できないから、この程度で済んでいるというのが現実です。
そして彼らなくしては生産続行か難しくなるような体質に日本農業は内側から急速に変わっていきました。
「特定2号」で大規模に移民を導入すればどうなるか・・・、ほぼみえてきます。
一部の人たちのようにゼノフォビアで移民問題を語ってはなりません。
むしろ移民で日本人がどのように変わってしまうのか見据えて議論すべきでしょう。

 

 

2024年7月 4日 (木)

トランプはなぜここまで強いのか

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米国司法が相次いでトランプに追い風を吹かせています。
「[ワシントン 1日 ロイター] - 米連邦最高裁は1日、トランプ前大統領が2020年米大統領選の敗北を覆そうとした罪で起訴されている裁判を巡り、在職中の公的な行為について「免責特権」を認める判断を下した。最高裁が大統領経験者に何らかの刑事免責を認めるのは初めて。
ただ、私的な行為については免責特権は適用されないとし、トランプ氏の行為の免責が適用される範囲を審理するよう下級審に差し戻した。
判決は6対3で、保守派判事全員が支持、リベラル派3人が反対した。
トランプ氏は20年の大統領選の結果を覆そうと企てたとして起訴され、21年1月6日の米国議会議事堂襲撃に関連した行為もこれに含まれる。
ワシントン連邦高裁は今年2月、大統領の任期終了後は「常に法を超越することは受け入れられない」として、大統領の免責特権が適用されるというトランプ氏の主張を退けた。これを受け、トランプ氏が最高裁に上訴していた。
最高裁の判断を受け、初公判は11月の大統領選前には開かれない可能性が高まった。返り咲きを目指すトランプ氏にとっては有利になる」
(ロイター7月1日)
トランプ氏の免責特権一部認める、米最高裁 審理差し戻し | ロイター (reuters.com)
また同じくトランプの下半身スキャンダルを審理しているニューヨーク州刑事裁判の言い渡しは、11月の大統領選挙後となりました。


まさに「風」としかいいようがありませんね。
あの大統領討論会を見てしまった後には、いまさら下半身スキャンダルがどうのとは言えないのでしょう。
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連邦最高裁が審議した議会襲撃事件において、トランプの果たした役割を私は不明瞭だと見ています。
公務と言うにはきついきもしますが、なんともいえません。

ペンスの証言にあるように、トランプは政治的圧力をかけて投票結果を覆そうとした、これは事実です。
そしてそのために支持者にワシントンに集まるように呼びかけた、これも事実です。
しかし、そこで議事堂を襲撃するように示唆したかどうか、私はそれはないと思っています。
大状況は作ってしまったことには責任があっても、トランプはさすが議事堂に突入しろまでとは言っていません。
突入までしたのは集団心理とでもいうもので、あのような状況では往々にしてあることです。
ただし、意図的煽動者グループは複数いたことでしょう。
ところで、この支持者集会に集まったのは、意外に思われるかもしれませんが、ごくあたりまえの市民でした。
シカゴ大学のロバート・ペイプ教授ら20数名のグループは乱入者の内訳を分析しています。

乱入者が撮った写真にやたらとQシャノンのような純正カルトが見られたことから、トランプ自身もその支持者たちもまとめて暴力的白人至上主義であるかのような報道がなされましたが、白人至上主義者や極右の関係者は20名ほどしかいませんでした。

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つまり大部分は「普通の市民のトランプ支持者」だったようで、奇しくもトランプ支持層のサンプル調査となっています。

●1月6日の議事堂乱入者たちの構成
● 職業・・・40%が中産階級。事業主、ホワイトカラー、医師、弁護士なども含む。無職は9%。
●平均年齢・・・40代、68%が35歳以上。
●地域・・・バイデン氏が勝った郡が過半数。トランプが票の60%以上を得た郡の住民は26%。
●過激派・白人至上主義団体に属するか支持する者は20名に止まる。

つまり、トランプ支持者はいわゆる「極右」でもなければ人種差別主義者でもない、ということです。
そしてこの大部分はバイデンが勝利した地域の人間でした。
これでわかるのは、民主党リベラルへの鬱屈した怒りで、その救済をトランプに求めたのです。
これに恐怖した民主党とリベラル司法は、弾劾訴追を繰り返しましたが、皮肉にも訴追すればするほど、リベラルメディアが叩けば叩くほど、われらがトランプがは元気になっていきました。

結局のところ気がついてみれば、スポットライトを浴び続けたのはトランプばかりと相成りました。
おっと待てよ、トランプは発言手段をビックテックによってすべて封じられて、鉄仮面をかぶされてフロリダに軟禁されているんじゃなかったのかな。
いや違います。トランプはツイッターもフェースブックからも排除されましたが、多くの罪状を訴追され裁判にかけたことで彼の一挙手一投足は国民注視の的となっていきました。

その結果、共和党支持者の間ではいっそうカリスマ性が強くなり、「受難の王」の帰還を求める声はいっそう強くなってきています。
まことにトランプというキャラクターは、誰かも言っていましたが、一種のロックンローラーなのです。
下半身スキャンダルが出れば出たで、これが民主党候補なら生命取りでしょうが、ドナルド、よーやるじゃん、さすがだねというわけです。
なんか叩いているほうが馬鹿馬鹿しくなりませんか。

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diamond.jp

共和党内にも反トランプ派はうじゃうじゃいます。
小さな政府を目指すティパーティ派ら共和党本流は、政府を財政規律で締め上げて、財政支出は最低限に、金融緩和は引き締めてという緊縮路線を目指していました。
トランプは、それと真逆な大型財政支出・大規模金融緩和といういわゆるリフレ政策を実行し、米国経済に空前の繁栄をもたらしました。
これは本来、共和党本流が嫌ったリベラル経済路線そのものです。
この辺が、リベラル派の経済政策を換骨奪胎した安倍氏にそっくりです。

また繁栄に取り残された中間層以下もケアする減税政策もまた、本来は民主党がせねばならないものだったはずでした。
トランプが民主党と一線を画するのは、減税によって経済全体を豊かにし、企業を国内に呼び戻して働く場所を増やすということを通じて行ったことです。
そしてトランプのほうがエスニックに対するケアが厚かったので、いまやかつては民主党の票田だったエスニック層はトランプ支持に回っています。
結果、失業率はFRBが驚嘆するほど低下しました。
一方、民主党リベラルは、この低所得層へのケアを、失業手当のバラ撒きという再分配政策でしようとして、徒に財政赤字を積み増ししていきます。
経済全体を豊かにしないで再分配だけに頼ろうとすれば、国民はやがて自ら働かずに糧を得ることを当たり前に思い、根っこから腐ってきます。今の米国が陥っている強インフレもそうで、この原因はコロナ対策として過度にバラ撒かれた支援金が原因でした。

そうではないだろう、勤労こそ民主主義の礎じゃなかったのか、国に養ってもらうんじゃなくて、油が染みついた手で家族を養うことがアメリカ人の誇りじゃなかったのか、それが米国の建国の伝統だったことを忘れるな、とトランプは呼びかけたのです。
このあたりは、本来リベラルがやるべき経済政策を大胆に取り入れ、アベノミクスという新しい衣を着せた安倍氏と酷似しています。
保守本流を自認する麻生氏などと、実はまるで正反対の考え方なあたりもよく似ています。
余談ですが、このふたりが盟友だったのは安保政策が一致していたからで、財政・金融政策は真逆でした。

同じ大統領弾劾訴追であっても、クリントンが守ったのはしょせん自分の下半身の不始末でしたが、トランプの場合、米国の民主主義とよき伝統をこれ以上破壊してよいのかという叫びそのものでした。
だから国民の半分がトランプに一票を投じたのです。

上院総務のマコーネルに象徴されるように、内心はトランプくたばれと思っていても、党内力学はそれを許さないほどトランプ防衛で固まってしまっていました。
つまり、民主-共和の別なく、その上に君臨する民衆的パワー、泥臭くも踏まれても簡単にはくたばらない勢力、これがトランプが作り出したかった構図です。
不法移民が増えた結果、犯罪が増加し、治安が悪化する、街は混乱し、BLMは南軍の将軍像を破壊し、コロンブスも餌食となり、さらにはワシントンまで踏みにじり、いまや米国ではメリークリスマスとも言えない国になりつつあります。
ポリコレ、キャンセルカルチャー、LGBT、気候変動原理主義、不法移民野放し、こういったバイデンの失政への恐れこそが多くの米国人を「極右」トランプへと動かしたのです。

もはや戦いの軸は民主党対共和党という枠組みの外になってしまっています。
米国を再び偉大な国へという声は、自分たちの国を自分たちの手に取り戻したいという本源的感情と同義語なのです。

これはフランスで起きた「極右」の勝利とまったく同じ構図でした。
フランスではマクロンが2位の「極左」勢力と野合して2位・3位連合を作ってまで勝利しようとしています。
おそらく米国においても、バイデンを辞退させて、民主党内左派に大幅に譲歩して新候補を立てるていどのことはありえるでしょう。
ミシェル・オバマでも誰でもいい。しかし小手先ですね。
民主党は本質的な米国民の変化に気がついていないのです。
バイデンは老いたる米国のリベラル政治そのものだと気がつかないのです。




2024年7月 3日 (水)

マリーヌ・ルペンが変えたフランス「極右」

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フランス国民議会選挙で、「極右」の国民連合が勝利しました。
マリーヌ・ルペン氏が率いる極右政党の「国民連合」(RN)の得票率が33.0%~34.2%、左派連合「新人民戦線(NFP)」が28.5%~29.6%、マクロン大統領率いる中道の与党連合が20.3%~22.4%となりました。
議席数では、RNが577議席のうち、国民連合が240から270議席を獲得し、第1政党となります。
おそらく首相には、国民連合(旧国民戦線)のジョルダン・バルデラが首相に選出されるでしょう。

「「フランスで6月30日、国民議会(下院、577議席)選挙の第1回投票が行われ、マリーヌ・ル・ペン氏率いる極右「国民連合」(RN)が33.2%の得票率で、エマニュエル・マクロン大統領の与党連合を抑えて第1勢力となる見通しとなっている。
移民排斥を掲げる「国民連合」の支持者たちは、「マクロン派が一掃された」とルペン氏が述べると歓声をあげた。
得票率の予測では、国民連合がトップで、左派連合の「新人民戦線(NFP)」が28.15%と続き、与党連合は21%で3位にとどまっている。
国民連合の28歳の党首ジョルダン・バルデラ氏は「フランス国民が我々に票をくれるなら、私はフランス国民全員のための首相になることを目指す」と語った」
(BBC7月1日)
フランス議会下院選の第1回投票、極右が最大勢力に 与党連合は3位 - BBCニュース

20240702-033505

BBC

実は、このフランス下院選挙の前にあった欧州議会選挙でも国民連合は勝利しています。
BBCは憂鬱そうにこう書いています。


「EUの多くの地域で、極右とナショナリスト右派が躍進した。背景には、移民問題やインフレ、環境重視の改革のコストなどに懸念を募らせる有権者の存在がある。
しかし、そうした右派政党が今後のEU政策に、どれだけ実質的な影響を与えられるのかは不透明だ。
EUにおける法律を審議し、修正し、議決する欧州議会の過半数議席は、依然として中道政党が占める」
(BBC2024年6月10日)
【解説】 欧州議会選での極右の躍進、何を意味するのか 団結には困難も - BBCニュース

世界のメディアは、今でもメディアは国民連合のことを忌ま忌ましそうに、まるで汚いモノでも触るようにして「極右」と呼んで憚りません。
私は、いいかげんその呼び方を止めたほうがいいのではないかと思っています。
というのは、いまや政治の軸全体が右へとシフトしてしまい、「極右」(ファーライト)とかつて呼ばれていた勢力はただの保守にすぎなくなっているからです。
かつてフランス国民戦線(FN)と呼ばれ、いまは「国民連合」(RN/Rassemblement National )と名を変えた政党について、もう少し考えてみます。

この党は前回の大統領選で、ファイナルまで残りながら、世界中のありとあらゆるメディアから「極右民族主義者」というレッテルを張られて敗北しました。 
いや、今思い出しても反国民戦線キャンペーンはすさまじいもので、マクロンは消去法で選ばれたようなところがあります。
今回の敗北後もマクロンは極右包囲網を作れと叫んでいます。自分の首相となる政党を包囲してどーすんだ。
マリーヌ・ルペンが得た得票数は1100万以上で、ただの極右の色物さと小馬鹿にしていたエスタブリッシュメントを青くさせました。
これまで国民戦線が獲得した票は、以下です。
積み上がってきていることにご注目下さい。


・2014年欧州議会選挙          ・・・470万票(25%)
・2015年地域圏議会選第一回投票    ・・・600万票(28%)
・大統領選第1回投票           ・・・760万票→第2回1100万票
・2924年国民議会選挙          ・・・33.0%~34.2%

実は、マリーヌが引き継いでからの旧国民戦線は、メディアの常套句である「極右」「排外主義政党」と簡単に言えるような存在ではなくなっています。

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マリーヌ・ル・ペン - Wikipedia

あながち冗談ではなく、次の国政選挙を経てマリーヌ・ルペン党首が大統領になる可能性すら生れてきました。 
ルパンじゃないよ、「ル・ペン」Le Penですよ。2名いますから、注意して下さいね。 
まずは創設者にして、先代党首のジャン・マリー・ル・ペン氏です。この頑固そうなのがオヤジのル・ペンです。
おお、ヤニ臭そうないかにもいかにも極右って臭気か漂いますね。 
国民戦線はこの親父の個人商店でした。

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出典不明

う~ん、いかにも生粋の「ザ右翼」って感じで、実に香ばしいキャラです。 
なにせ国民戦線を批判したフランスのユダヤ人歌手ブリュエルに対して、「今度はこちらが窯に入れてやる」という凄まじい発言をしています。 
「窯」が、アウシュビッツのガス窯であることはヨーロッパ人ならすぐ分かるわけで、こういうことを平気で言う政党だということで、猛烈な批判を浴びました。当然ですね。 
これに対して直ちに、この反ユダヤ主義の発言の削除と、厳重処分を言い渡したのが当時党首だった娘のマリーヌ・ル・ペンでした。

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オヤジのル・ペンの三女です。おッ、シックなファッションセンスとキレる頭脳。彼女はパリ第2大学卒で弁護士やってました。 
彼女は副党首のカール・ラングや、全国代表のゴルニッシュを押えて党首に選出されています。
 このマリーヌがやった最大の事業が、オヤジ・ル・ペンの路線の大幅見直しでした。
おお、いきなり骨肉の対立か、日本の家具屋お家騒動みたいだと思われるでしょうが、この父娘は現実的な路線では水と油だったのです。 

まずはオヤジ・ル・ペンの路線です。

●旧国民戦線路線
移民排斥
妊娠中絶反対
・治安強化
・EUからの脱退
・通貨のユーロからフランへの回帰
国籍取得制限の強化など
・移民の入国制限。(ただし、フランスの文化を尊重、保護する移民は拒まない)

 

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出典不明

これに対して、マリーヌ党首の新路線はこうです。ジャン親父のヤニ臭さがほぼ完全に一掃されています。


●新国民戦線(国民連合)新路線
・フランス文化を尊重する移民は認める。
・フランス国籍を持つ移民や移民二世・三世でも、犯罪を犯した場合は出身国へ強制送還させる。
・伝統的な生活様式を保護する。特に農民を尊重する。
・麻薬の密売人、小児性愛などの性犯罪者、母親による児童虐待、殺人者、テロリストを対象とする死刑の復活(現在、EU圏内では死刑はない)
・EU脱退
・極左系団体に対する公的補助金の廃止。
・道徳の復権
・犯罪者や移民の犯罪者には寛容ゼロ (tolérance zéro) で臨む。
・同性愛・妊娠中絶の容認
・国籍の血統主義
・減税
※Wikipedia

まるで、別な政党になってしまったようです。この新路線の国民戦線を「極右」「移民排斥政党」とレッテルを貼るのはそうとうに困難でしょう。
もっとも重要な移民政策についての新路線は、「フランスの文化を尊重、保護する移民は拒まない」としています。
国外追放するのは、「犯罪を犯した場合に限る」としています。
彼女はこういう在特会的レイシズム体質を持つ国民戦線党員に対して、党籍剥奪処分で臨んでいます。
父親にして創設者のジャンも例外ではなく、除籍されてしまいました。

マリーヌの移民についての考えは、朝日新聞(2015年1月27日)がインタビューしていますので、添えておきましょう。
※http://www.asahi.com/articles/ASH1P1RBXH1PUSPT002.html


――でも、今回のテロ(※シャルリ襲撃テロ)の容疑者たちは、移民とは言い難いのでは。移民家庭出身とはいえ、国内で生まれ育ったフランス人です。
 「いいえ。彼らはフランス人になることができた、というだけです。例えば(新聞社を襲撃した)クアシ兄弟。両親はアルジェリア人ですが、フランス領内で生まれたお陰で自動的にフランス国籍を取得しました。
国籍へのもっと厳しい条件を課さなければなりません。ハードルが低すぎるから、移民も殺到し、フランス人から雇用などの権利を奪うようになるのです」
 「国籍法の改定も欠かせません。二重国籍を廃止すべきです。祖国は一つしかあり得ない。どちらか選ばなければなりません」
 ――日本では、国内で生まれただけだと国籍を取得できません。二重国籍も違法です。
 「私たちが求めるのは、まさにそのような制度なのです。出生地主義の廃止です。フランス人は、フランス人の親から生まれるか、フランスに帰化するかだけ。帰化自体は否定しませんが、そのためには罪を犯さず、規則と価値観を尊重し、フランス文化を共有し、運命を共にする意思を持つ必要があります」

文化多元主義がお好きな朝日は、嫌悪感をこめてインタビューしているようですが、マリーヌさんの発言には、レイシズムの匂いはありません。
メディアはいいかげんに親父ルペン時代と、娘のマリーヌ・ルペンをゴッチャにするのはやめたほうがいいと思います。

いまヨーロッパと米国の政治の中心軸は、大きく右へとシフトしている過渡期にあたっています。
フランスのルペンの国民連合は首相を送り出し、イタリアのメローニのイタリアの同胞( FdI )、オランダのウィルダースの自由党(PVV)はすでに政権を取っています。
ドイツでは「ドイツのための選択肢」(AfD)が東独で高い支持率を得て、第2党に躍進しました。
それは欧州議会選挙でもはっきりしたし、米国ではトランプの再台頭として現れました。
この流れは早々簡単に止まらないし、いまさら「極右」と罵倒してもなにもかわりません。
日本でも日本保守党が結成されています。
これらを初めからネガティブな色眼鏡で「極右」と決めつけてはなにもわかりません。
個々の政策で是々非々で眺めるべきではないでしょうか。
とまれ「極右」のひとことでわかったつもりになって思考停止しているのはいかがなものでしょうか。

 

 

 

2024年7月 2日 (火)

大統領選、バイデンの悲劇

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米国大統領選の直接ディベートが終わりました。
ご承知のように、バイデンの惨敗です。
彼はただの老耄の人でした。

バンデンにとってこの大統領TV討論会の目的は、トランプに勝利するというより、むしろ自分は強力な指導者としてあと4年の間、米国と世界を牽引できる政治家であることを証明するためでした。
しかし結果は逆効果の極で、とても4年はおろか、いまですら危ないという疑惑を大きくしました。
いまや世界は、「ほぼトラ」よりも「もしバイ」だったら大変だと考え始めています。

元来、親バイデン陣営だったはずの全米メディアも、ほぼすべてがバイデンの惨敗と判定しました。
たとえば、CNNは容赦なくバイデンをこき下ろしています。

ワシントン(CNN) バイデン米大統領の選挙陣営は28日、2024年大統領選から撤退するつもりはないと表明した。ただ、バイデン氏周辺は選挙戦継続を主張する一方、幅広い民主党関係者の間では土壇場での候補者変更を求める声が出ており、討論会での悲惨な出来栄えを受けて両者の溝が広がっている。(略)
討論会でのバイデン氏の声はかすれ、口をぽかんとあけた表情が目立った。大統領が自分の考えを見失い、突然話を中断するという痛ましい場面もあった。バイデン氏のパフォーマンスは、史上最高齢の大統領を2期目に指名することに潜む政治的コストを浮き彫りにした。選挙戦から撤退するかどうか聞かれ、バイデン陣営の広報は「ノー」とコメントした。
ホワイトハウスや再選をめざす選挙陣営は自信に満ちた姿勢を打ち出しているが、支持者の間ですら、バイデン氏周辺で選挙戦を中断するよう説得できる人はいないのかと問う声が上がっている」
(CNN6月29日)
バイデン氏、討論会での低調ぶり認める 民主党内で選挙戦継続に疑念 - CNN.co.jp

バイデンは風邪気味だったそうですが、ご覧になった方はお分かりのように、次期大統領候補うんぬんというより、現職が務まるのかどうかさえ疑問をもたざるをえない体たらくでした。
この動画はユーチューブでもご覧いただけます。
CNN Presidential Debate: President Joe Biden and former President Donald Trump - YouTube

例のチェシャキャットのようなニタニタ笑いを浮かべて舌鋒鋭くディスってくるトランプに対して、バイデンはポカーンと口を拡げてハワハワという様子ですから、これだけで勝負あったです。
言っちゃナンですが、国民大衆は双方の言っていることの中身なんぞ聞いてはいません。
そんなものはあとからニュース解説でも見れば済むし、中継では候補者の身ぶり手ぶり、しゃべり方だけを見ているものです。
エネルギッシュで自信に満ちあふれていればよし。おどおどしていようもんなら、あのマッチョ信仰の国でなんと言われることやら。
ひ弱な大統領なら、外敵が攻めて来たら役立たずだということですからね。
有名な事例では、かつて挑戦者ケネディに対するニクソンは、テレビの顔色が悪いというだけで、国民からソッポを向かれました。

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CNN Presidential Debate

老耄のバイデンを見せつけられた全米メディアは、上へ下への大騒ぎとなりました。
バイデン応援団長格のニューヨークタイムス論説委員会は、翌日直ちにバイデンに対して大統領選からの撤退を求めました。

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「(CNN) 米紙ニューヨーク・タイムズの論説委員会は28日、CNN主催の大統領選討論会での低調ぶりを受け、バイデン大統領に選挙戦から撤退するよう求めた。
論説委員会は「27日夜の大統領に偉大な公僕だった頃の面影はなかった。2期目に何を達成するつもりなのかうまく説明できず、トランプ氏の挑発に対して反応に苦慮した。トランプ氏のうそや失敗、背筋の凍るような計画について説明責任を問うこともままならなかった。発言を最後まで言い切れない場面が一度ならずあった」と記した。
さらに「今のバイデン氏にできる最高の公共の奉仕は、再選に向けた選挙戦を継続しない意向を表明することだ」と指摘。民主党にはトランプ氏に代わる選択肢となる「魅力的でエネルギッシュ」な指導者が複数いると訴えた」
(CNN6月29日)
NYタイムズ論説委員会、バイデン氏に撤退要請 討論会での低調受け - CNN.co.jp

同じく反トランプ陣営のABCもこう報じました。

「ジョー・バイデン大統領の最大の政治的弱点である年齢と虚弱さが、木曜日の討論会の舞台で明らかになった。バイデン大統領にとって特に低い時期に、バイデン氏は国家債務に関する質問に答える際に思考回路を失ったようだ」
(ABC6月28日)
バイデン氏の最大の弱点である年齢が討論会で全面的に露呈:分析-ABCニュース (go.com) 

一方、親トランプは勝利宣言をあげんばかりです。

トランプ前大統領が選挙戦初の大統領選討論会でバイデン大統領に決定的な勝利を収めたことで、2024年の選挙戦に関する重要な疑問が浮かび上がってきた。
対決後の大きな問題は、バイデン氏が11月の大統領選で民主党の大統領候補になるかどうかだ。なぜなら、今の討論会で問題になっているのは、バイデン氏のプレゼンテーションの不確実性、彼のかすれた声、そして彼の数々の失言だけだからです。その答えは、討論会の後、世論調査がトランプ氏の方向に劇的に動くかどうかにかかっている」
(FOX6月27日)
トランプ氏のバイデン氏に対する明確な討論会の勝利は、2024年の選挙戦について厄介な疑問を投げかける |フォックスニュース (foxnews.com)

バイデン当人も惨敗したのはわかっているとみえ、翌日のノースカロライナにおける仲間うちの党集会では、こう言っています。

「自分がもう若くないことは分かっている。以前のように楽に歩くことはできないし、滑らかに話すこともできない。以前ほど討論もうまくないが、自分が今何をしているのかは分かっている。私は真実を語るすべを知っているし、善悪を見極める方法も分かっている。大統領職を遂行する方法、物事をやり遂げる方法も分かっている」とした上で、「何百万人もの米国民が知っているように、打ちのめされても再び立ち上がることができる」と強調した」
(CNN前掲)

バイデンさん、またケタを間違えましたか。討論中もバイデン政権下で生み出された雇用が1500万人だったはずなのに1万5千人と過少に言ってしまいました。
米国の人口は3億3千万。「何百万人もの米国人」が知っていてもだめなのですよ。なんか痛ましくなるなぁ。

ところで、実はバイデン陣営はこの大統領選討論会を準備周到に準備していました。
その内幕を、親バイデン派のニューズウィークは選挙陣営の失敗だとして、こう指摘しています。

「討論会に臨むバイデン氏陣営は自信に満ちていた。トランプ氏は5月31日に有罪評決を下された。そしてバイデン氏らの側近らも驚いたことに、世論調査でずっと低迷から抜け出せなかった同氏の支持率が、その後の数週間でじりじりと上がり始めていたからだ。
顧問らは、バイデン氏がワシントン近郊の山荘「キャンプデービッド」に6日間缶詰になるという厳しい討論会準備スケジュールを組んだ。
準備に関与したのは、バイデン氏の最初の大統領首席補佐官を務めたロン・クレイン氏、前出のダン氏、長年の側近マイク・ドニロン氏などのほか、政策・政治専門家約12人だった。(略)
側近らは、トランプ氏が2020年の討論会よりもはるかに準備万端で臨むだろうと考え、矢継ぎ早に飛び出す嘘に対抗する必要があると判断した」
(ニューズウィーク7月1日)
バイデン大統領の討論会「大失敗」は側近の判断ミス|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

なんとバイデン陣営は、6日間も大統領別荘に缶詰にし、徹底したレクチャーと模擬討論までやっていたようです。
しかしこれがかえって仇となりました。バイデンはそれまでの14日間、フランス、イタリア、西海岸などを飛び回っていて、老齢の身体には負荷がかかりすぎていたところに、休みなく缶詰にされた老体は疲労の極にあったようです。
そのうえに軽い風邪を引いてしまい「この間、バイデン氏を見た何人かの人々によれば、同氏はぐったりしていた」(NW前掲)そうです。
もはや気の毒にすらなります。
完全な選挙陣営の体調管理の失敗ですが、
これを軽く見て、よくあることだと流してしまいました。
そして結果は、全米のみならず、全世界の前でこれ以上ない情けない現職大統領の姿をさらしてしまうこととなります。

バイデンが言うように、「打ちのめされてもまた立ち上がる」には時間と年齢が不足しています。
民主党は早急に新たな候補を検討すべきでしょう。
いまもっとも有力なのはカルフォルニア州知事のギャビン・ニューサムです。

2024年大統領選挙については現職のジョー・バイデンを支持するとしているが、2023年11月30日には共和党より立候補を表明しているフロリダ州ロン・デサンティス知事との討論会に臨み舌戦を繰り広げた。こうした動きから、バイデンが何らかの理由で大統領選挙から降りた場合は自らが名乗りを上げる野心があるとも見做されている」
ギャビン・ニューサム - Wikipedia

しかし現実には不可能に等しいようです。
すでに民主党の予備選挙は終了しており、いまさら予備選挙のやり直しも効きません。

バイデン自らが立候補を止めない限り、バイデンで行くしかないのです。

そしてバイデンであることは、民主党の党内事情からいっても大変に都合がいいことなのです。
バイデンは民主党中間派です。
副大統領のカマラ・ハリスや前下院議長のペロシ、あるいは前回候補になったサンダースでは左派色が強すぎますし、中間派のバイデンは党内保守派からも嫌われないという都合があります。
つまり誰にとっても都合のいい候補がバイデンでしたから、いまさらこのバランスを崩すことは難しいのです。
実際に、カマラになるくらいなら、トランプのほうがましだと思う民主党議員も大勢いるようです。

このような党内力学でバイデンは降りるに降りられず、結局11月の本選に臨むでしょう。
しかしそこで仮にバイデンが勝ったとしても、このような老醜を示した指導者は、プーチンや、習近平、正恩からなめられるのは必至です。

そしてさらに世界は不安定化します。

 

2024年7月 1日 (月)

蓮舫氏、外苑再開発都民投票せよ、といちびる

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いやー、スゴイ!お見逸れしました、さすがルーピー界の女王!
なんとこりゃまた、先日に取り上げた神宮外苑再開発を住民投票にかけるんだそうです。
コメントでお二方から情報を頂戴したときには、いくら阿呆でもそこまではすまいと思ったんですが、本気のご様子です。
なんかニコニコしてしまいます。

「蓮舫氏は29日、東京・明治神宮外苑で新たな公約を発表した。神宮外苑の再開発について賛否を問う「都民投票(住民投票)」の実施を都議会に提案するもの。「小池都政8年間の負の象徴が神宮外苑の再開発。私が知事になったら直接都民に問いたい」と訴えた。
 既に公表した政策内で神宮外苑再開発の見直しを盛り込んでいたが、蓮舫氏は「再開発についてどのくらいの関心があるのか、正直私の中でも迷いがあった」という。それでも有権者と交流する中で「再開発に否定的な意見が多く、同じように考えてくれる人がたくさんいた」として公約を追加した。
 投票の際の具体的な文言については明言を避けたが「都民投票を行う、手法や結果をどう判断するのかなどは、知事になったらすぐに手をつけたい」と答えた」
(スポニチ6月30日)
蓮舫氏「都民投票」の新公約 神宮外苑再開発で有権者と交流、否定意見多数 小池氏を“リング”に上げる (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース

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「VR蓮舫」で首相になりきってみた 記者が体感した「追及」の臨場感: J-CAST ニュース【全文表示】

だめだ、イっちゃってます。「妙薬共産党」の薬効はあらたかで、服用すると直ちに効果が出てきます。
動悸が高まって、眼はつり上がり、顔は筋張り、口調は絶叫糺弾調となり、共産党本舗となんら変わらないことを吠え始めます。
なんだいつもといっしょじゃん。

こういうタイプの人は、首相になったら原発ゼロ、米軍基地ゼロなんかの国民投票やるな、しかし憲法改正の国民投票だけはしない。
自分は間接民主主義の都知事選に出ておきながら、直接民主制を鼓吹する、よく矛盾に感じないもんです。

なんでも直接投票すりゃいいってもんじゃないのですよ。
住民投票は、沖縄でサヨク知事がさんざんやっています。
古くは、1996年に大田昌秀知事の下で行われた「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票」、そしてデニー知事がやった2019年2月の辺野古埋め立てにかんする県民投票です。
共に反対が勝ちましたが、公職選挙法の外でやりたい放題の法的拘束力を持たない住民投票など、ただのアンケートにすぎません。
県民投票が終わりました: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

ところで住民投票と言っても、実は3種類あります。 
まず1番目に、国会が特定の自治体に適用する特別法を制定しようとする場合、憲第95条によって「(その自治体の)住民の投票で過半数の同意を得なければ、国会は制定することができない」とされている場合です。 
2番目は、議会の解散、首長のリコールに市町村有権者の3分の1の署名が集まった場合、地方自治法で住民投票で賛否を問わねばなりません。
以上ふたつの住民投票には、法的拘束力があり、結果には従わねばなりません。

ではデニー知事がやった移転に関する県民投票は、この前二者の範疇ではないので、沖縄県民投票には法的拘束力はありません。 
沖縄県の県民投票は県条例に基づくもので、それに対して総務省は「結果に従う義務を定めた法律は存在せず、法的拘束力はない」と説明しているようです。 

「法的拘束力」について押えておきましょう。

「法的拘束力は国会または行政の処分・運用、裁判所判決・決定、民事上の合意、国家間の合意について、正式な法律慣習法を含む)上の効果が義務となるかどうかを評価するときに使用される概念」
法的拘束力 - Wikipedia

なぜ、法的拘束力という概念が住民投票で大事なのかといえば、それはこのような理由です。

「個々の概念に於いて法的拘束力の及ぶ範囲は確立されており、その範囲を曖昧にすることはあらゆる分野に混乱をもたらすことになる」
(前掲)

従う義務があるかないのかを明らかにしないで、住民投票をした場合、結果について誰がどのように責任をとるのかわからなくなります。
沖縄県はこのへんをあいまいにしたまま、投票結果に国が従う義務があるかの如き主張をしましたが、そのような義務はありません。
ついでに県民は、投票する義務もありません。
自治体と自分で名乗っている政治団体が、税金を使ってやる政治パーフォーマンスです。
実際、この沖縄県民投票も、既にあらかじめ当時の菅官房長官は、「県民投票の結果には縛られない」と明言しています。

今回もまったく一緒。
たぶん蓮舫氏は、共産党に彼らの大好物である住民投票なんていう戦術をそそのかされたのでしょうな。
県民投票は共産党の成功イメージであるオール沖縄の数少ない「成功した」戦術でしたからね。
だから共産党は「第2のデニー」となった蓮舫氏に、住民投票をするように勧めたのです。
蓮舫氏がしっかりした理念をもっていないのを見透かしているからです。

しかし当たり前ですが、 一宗教法人の事業に対して住民投票は成立しません。
唯一止められるのは、環境アセスメントだけです。
たとえば違法な建造物があった場合、あるいは認可された計画にない伐採が予定されていた時には停止できます。

「都幹部は「条例にある『著しい影響』は、新たに構造物が見つかるなど想定外の事態が発覚した場合のことだ。恣意(しい)的に解釈すれば手続き上は可能でも、職権乱用のそしりは免れない」と指摘。保全策が提出されれば、誰が新たな都知事になっても、伐採を止めることは法令上難しいとの認識を示した」
(産経2024年6月27日)
神宮外苑再開発で「100年の森」内苑樹木と混同か…都知事選争点も事業見直しは困難 - 産経ニュース (sankei.com)

これについては東京高裁と、最高裁第3小法廷が開発停止を求める運動団体の特別抗告を棄却する決定をすでに出しています。

そもそも蓮舫さん、世界有数のメガロポリスの東京で住民投票なんぞやったらいくらかかると思っているのでしょうか。
沖縄県の場合、5億5千万円かかっています。
沖縄県は148万人、東京都は約10倍の1384万人ですから、単純計算で55億円です。たぶん、これでは効かないでしょう。
まさに無駄金の極。
青年層の貧困を救うとか言っているのですから、いっそ55億円を花咲爺よろしくパーっと若者限定でバラまいたほうが喜ばれるでしょうに。

蓮舫陣営は、外苑再開発を「小池都政8年間の負の象徴」(スポニチ前掲)とまで見ているようですが、気張る前に少しはいままで積み上げられてきた再開発計画を読んでから騒ぐんですね。
神宮外苑地区のまちづくり | 東京都都市整備局 (tokyo.lg.jp)

 

 

 

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