さっそく始まったマクロン闇鍋の正体
よく浅はかな人たちが考えるのが、野党はまとまれば、自民に対抗できるんじゃないかという考えです。
たとえば都知事選で小池が291万票でトップでも、2位の石丸の165万と蓮舫の128万を足せば293万票だから勝てるじゃないか、というあれです。
この考え方はかなり前からヨーロッパにはあって、古くは小沢一郎がモデルとしたイタリアの「オリーブの木」や、今回のフランスの左翼連合と与党連合の選挙協力です。
というのは、自由主義社会では往々にして小政党がポコポコ沢山できてしまいます。
政党とは集団の利害を代表しする場所である以上、多言語国家や多民族国家では、彼らを代表する政党が数十あることはよくあります。
しかし日本ではどうでしょうか。
米国のような多民族国家ではありませんし、地域差といってもスペインのようなことはありません。
にもかかわらず、この20年来日本では、支持基盤の明確でない政党が乱立しました。
そのきっかけは、経世会を追い出された小沢一郎が二大政党制を唱えてからのものです。
なまじ元自民党幹事長というトップにいた男が言うことだけに迫力があったようです。
実際、いまの民主党系の諸派は、この小沢の動きの結果生まれたものです。
小沢は、自民党を倒すには野党連合をつくるしかないと考えました。
あげくにできたのが「反自民」だけを拠り所にした民主党政権でした。
そして民主党が政権を握るや、小沢は幹事長に全権を集中させて支配しました。
その理由は、小沢の支配欲もありましたが、それ以上に民主党議員が致命的に能力不足だったことでした。
安全保障をなにも知らない防衛大臣、年金だけにしか興味がない厚労相、そしてほかの一切の課題を捨てて「最低でも県外」だけを言い募る首相。
野党の間の不勉強のツケがどっと出ました。そりゃ与党のスキャンダル追及だけしかしていなけりゃそうなりますよ。
民主党内ですらまとまりがなかったために、政権からころげ落ちるやいなや分裂を繰り返すことになりました。
いったん権力というタガがはずれると、個々の政治家の考え方の相違、人間関係の好き嫌いの関係で多数の政党ができてしまったのです。
結果、野党は個人商店ばかりとなりました。自分の唯一の当たり役を党名にした三流役者の党、NHKなんじゃらといいつつ掲示板詐欺を働らく党、といった具合です。
自民党がしっかり保守党として機能していれば救われたのですが、岸田氏は派閥解消の名の下に政敵潰しを行いました。
自民党は本来連合党であって、派閥が意見の違いや人間関係のきしみを吸収していたのですが、殿ご乱心の結果いまや内部分裂を抱えた党になっています。
たぶん政権与党から脱落したら、自民は分裂するかもしれません。
自民から政権を奪うには、唯一の分裂を知らない、というか、異見を言った瞬間即除名となる党である共産党と組むしかないというのが全野党共闘論者の主張です。
では、全野党共闘が政権をとればどうなるのか、今のフランスをケーススタディしてみましょう。
フランスは大統領のマクロンが、国民連合(RN )に勝たせたくないだけの一心で左翼連合との「悪魔の取引」に応じました。
その結果、確かに国民連合には地団駄踏ませましたが、与党第1党となったのが極左を含む左派連合でした。
本来、第1党とならねばならないマクロンの中道は第2党というお粗末です。
しかも笑えることには、第1党の「新人民戦線」も蓋をとればバラバラ。
新人民戦線という鍋の中には共産党もいれば、さらにその左もいる、社会党くずれもいる、環境左翼もいるというありさまです。
これが派閥ごとに分かれて、選挙ではとりあえず「新人民戦線」としてメランションの音頭に乗ったが、政権をとれば知ったこっちゃない、わが党大事。
そしてコレを見たマクロンが、左翼連合に密かに手を入れて引き込みを謀るんですからもうワヤです。
マクロンは、大嫌いなメランションの「不屈のフランス」を排除して中道派と連立しないかと画策しています。
もちろんメランションはそれを許すばずがなく、「不屈のフランス」は新人民戦線の政策合意とそれによる公約をすべて守るようにマクロンに要求しています。
ロイター
「パリ 9日 ロイター フランス国民議会(下院)選の決選投票で第1勢力となった左派連合「新人民戦線(NFP)」に参加する政党の代表は、多額の歳出を必要とする選挙公約を全て実現する意向を表明、NFP以外の勢力との連立政権樹立を拒否した。
一方、第2勢力となったマクロン大統領率いる中道連合は、過半数議席を確保していないNFPには中道連合との連携が必要だと訴えている。
NFPに参加する各政党の指導者は選挙結果判明後、複数回にわたって非公開の会合を開催。次期首相の人選や政権樹立について協議した。
NFP内で最多議席を獲得した極左「不屈のフランス」のジャン・リュック・メランション党首は8日夜、TF1テレビに対し、最低賃金引き上げ、定年退職年齢の引き下げ、燃料・電力・一部食料品価格の上限設定など、NFPの選挙公約を全て履行すべきだと主張。政策構想を「細切れにすることはできない」とし、NFP以外の勢力との連立を拒否した。
これに対し、中道連合はNFPの政権樹立には中道連合の協力が必要だとし、NFPを分割し、穏健派である中道左派政党、環境政党派、中道政党、中道右派政党で連立政権を樹立できるとの考えを示唆している」
(ロイター7月9日)
仏左派連合、中道連合との連携否定 公約実現に意欲 | ロイター (reuters.com)
特に左翼連合が実行を要求しているのが、公務員賃金のアップです。
ただしそれをやればただでさえ労組が強力なフランスは今でも財政危機なのですからとんでもないことになります。
強引に実行すれば、ユーロがもとめる財政赤字の範囲を抜け出してしまいます。
つまりユーロからの脱落です。そうなったらマクロンは真っ青ですが、左翼連合にはEU脱退かまわないんじゃないという連中もいて、彼らは皮肉にも国民連合とその点では息が合うのですから困ったもんです。
左翼連合の中でも穏健な社会党と中道派が組めればいいのですが、そのためには左翼連合からメランションを追い出さねばならないというジレンマを抱え込むことになりました。
これを見てわかるのは、第2党と第3党が手を組むような裏技をしてはならないということです。
それは単に多数決制という民主主義を悪用した結果であり、その結果できあがったものはフランス人の大多数の考えとは違った奇怪なものが出来上がってしまいました。
マクロンの党にいれたら左翼連合だった、では有権者は詐欺に合ったようてものですもんね。
仮に一時的には成功しても、混乱を招いて必ず瓦解します。
わが国の全野党共闘論者の皆さん、フランスでいま進行している政治劇をよーく観察してくださいね。
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マクロンの賭けは失敗です。
ルペン達の右派政権奪取は阻止できましたけど、このままでは全く動きが取れませんね。
日本でも79年だったか、自民党が弱体化した大平総理の頃に「野党連合政権構想」がありました。右も左も「新自由クラブ」や「社民連」のような個性のある少数政党があった時期ですね。
若くして幹事長に着いて小沢一郎が自民党を割って出て行ったのが93年政変。懐かしいですね。大変な混乱でした。ちょうど梅雨が開けない夏で「平成の米騒動」の年です。細川護煕が首相になるも、すぐに崩壊。小沢はその後も壊し屋として有名に。
で、ごった煮が分裂した旧民主党政権の中から自民党が引き抜いたのがまさかの仇敵「社会党」で村山政権という、まあ良くも悪くも政界のダイナミックな動きがありましたね。。
投稿: 山形 | 2024年7月12日 (金) 07時20分
マクロンがメランションを苦手なのは良く分かる。なんか立憲の杉尾秀哉に雰囲気似てるんだけど、マクロンとは対極的な極左インテリゲンチャですから。真ん中に寄ってきた国民連合と手を組む方がマシだと思うけど、そういう選択肢はないのだから行き詰まるのは当然。
元々フランスは思想が左派実験主義的だし、国民も我慢出来ない性質。共産党と組んでまで事を成そうとあがく立憲と末路は同じかも。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年7月12日 (金) 22時16分