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2024年8月

2024年8月31日 (土)

習近平の「認知戦」のチャチさ

135

先日、日本で初めての放送テロが起きました。
初めて尽くしの時期だとみえて、同時期には中国軍機による初めての領空侵犯が起きています。

「NHKのラジオ国際放送で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を「中国の領土」と主張し「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」などと発言した中国籍の男性スタッフを巡っては、NHKの待遇面に不満を漏らしていたとされる一方、仕事ぶりは「真面目」と評されている。アナウンス業務で中国の主張に沿った持論を展開するという極めて異例の事態だが、周囲の関係者は「単独犯」との見方を示している」
(産経8月29日)
NHK尖閣発言の中国籍スタッフ 「バイトテロ」単独犯の見方、在日中国人は非難「最低」 - 産経ニュース (sankei.com)

このテロを許したNHK国際放送は、日本政府の見解や日本文化を外国や外国にいる日本人に伝えることが目的で、国からテレビ部門に26.3億円、ラジオ部門に9.6億円、合計35.9億円の資金提供を受けています。
血税を使って反日放送を許してしまったということで、NHKはただ謝っただけでは済まないはずです。

この面妖なテロを起こした男は、東大大学院卒、文系で派遣社員としてNHKの海外放送の翻訳やアナウンスをしていたようで、その経歴は20年ちかくになるそうです。
当然、こんなことをしたらどうなるかわかってやったのでしょう。
同じ在日中国人は彼をこう評しています。

「派遣ホームページ(HP)や関係者によると、男性スタッフは49歳。中国・天津の大学で英語を専攻し、20代で来日し、東京大大学院を修了した。NHKの中国語ニュースで翻訳やアナウンス業務に関わるほか、企業や官公庁の中国向けビデオで中国語ナレーションも担当した。
香港の衛星放送フェニックステレビの東京支局でリポーターも務めたこともあり、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まった昨年8月は現地でリポートを行っている。
在日中国人の男性は男性スタッフについて「反日教育が強い時代に中国で育った世代で、元々愛国心は強かったのだろう。近年中国政府も(対外的に)横柄になったが、一般の中国人にとっては、日本政府も米国などに中国の脅威を『告げ口』するように映り、愛国心を募らせていったのではないか」と述べ、NHKで給与など待遇が長年変わらないことなどへの不満も蓄積した結果、突発的に行動に出たとみている」
(産経前掲)

それにしても、いままでの20年近いキャリアと信頼を全部ドブに捨ててまでやるかねと思いますが、じぶんはさっさと国に帰ってしまったようです。国では英雄視されているとか。
靖国神社でセコイ落書きをしたり、放送テロをしたりと、かの国の「英雄」もずいぶんと小さくなったもんです。(笑)
刑事訴追と損害賠償は免れないでしょうが、当人が国外にいる場合は実質無意味て、再入国ができなくなるだけにすぎません。

おそらくそれを見越しててNHK、あるいは外務省が「逃がした」という説もありますが、なんとも言えません。

いうまでもなく、これは中国が伝統芸とする「認知戦」に属します。
ただし、あまりに幼稚、かつ発作的であり、個人の思いつきの形で行われました。
大きい絵がないのです。

中国は従来、台湾に対して裏に表に激しい認知戦をしかけてきました。
時には、本土系のメディアを使っての偽情報を流布してみたり、時には独立派の仮面をかぶった過激な発言をネットでしてみたりと手を変え品を変え、繰り返しおこなってきたものです。
このようにして偽情報をばらまき、指導者への信頼を失くさせ、有事に際しては抵抗を失わせるというのが目的です。

最近台湾で中国の侵攻を扱ったリアルなドラマが作られていると報じられましたが、そこで中心となる中国の手口はこの認知戦でした。
金融機関やメディアに対するハッキング、偽情報の流布により国民を混乱に陥れて、政府への信頼を失くさせ、抵抗の意志をはぎ取っていきます。

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【狙いは?】“中国による侵攻”テーマのドラマ…台湾で制作 工作活動も描く (youtube.com)

一方、わが国に対する認知戦は、孔子学院を作って親中派を増やそうとしたり、「平和運動」の中に親中派を扶植する方向でした。
そのなかでももっとも力を入れたのが、政権与党である自公の議員に親中派を増やしていくことでした。
その工作の仕上がり具合は二階翁を見れば明らかですが、野党にもしっかり浸透していました。

Cay2ogap

出展不明

上の写真は2009年12月。当時幹事長だった小沢一郎に率いられた民主党訪中団の姿です。
2009年8月に民主党は政権を取っていますから、小沢の第2次黄金時代でした。
その小沢が真っ先にやった外交がこれ。

総勢なんと630名、現職国会議員143名は史上最大規模で、民主党政権が丸ごと北京に移動したようなもので、中国のエライさんに拝謁して頂いております。
まるで清朝の三跪九叩頭のようです。

小沢訪中団 - Wikipedia

訪中時の小沢氏の梁光烈国防相会談における発言はなかなかのもので、ここまで朝貢してしまうと歴史に名を刻みます。

「日本では中国脅威論の名の下に防衛力強化の意見が根強くあるが、今後も専守防衛の原則に基づいて国防政策を進めていく」

さらにはここまで言うのかというリップサービス。

「日本は解放以前の蒙昧な国でございますが、小生、いち野戦軍司令官としてがんばっております」

わ、はは、当時も話題になりましたが「じぶんは野戦軍司令官であります」ですか。
こんな台詞を中国の国防相相手に言えば、自分は中国人民解放軍日本方面軍司令官であります、と言っているようなもん。
さすがは田中角栄の直弟子なるが故でしょうが、政治家としての品性のなさ、底が浅さが透けてみえます。
こんな男が政権中枢にいたんですから、なんともかとも。

とまぁこのような隷従を強いたり、ハニートラップでポマード首相を篭絡してみたりと、親中派を育成するのが基本的な方向だったようですが、それは他国にない大成功の部類でした。
しかし、それが今回の放送テロで様相を変えました。
台湾型に姿を変容させているように見えます。

今回、このNHK放送テロ男が選んだのが「福島核汚染水放出」に対する非難でしたが、これは執拗に中国が煽ってきたものの国際社会は黙殺しました。
あたりまえです。トリチウムを海洋放出していない国などないからです。

そして今回の放送テロとなるのですが、なぜか粗雑さを感じます。
工作としてはキメがすこぶる粗いのです。

中国の伝統的手法はじっくりと中国シンパを増やしていき、当人の自発的意志で極度の親中行動を取らせることです。
前述した小沢某などのケースはこれです。
あるいは新聞社やテレビ局に浸透して認知戦を展開しました。
これは心理戦、法律戦とならぶ三戦のひとつで、中国はこれを「砲煙の上がらない戦争」と位置づけて、血を流さずに相手を屈伏させる国際戦略としています。

1971年、朝日記者の本多勝一がものにしたような『中国の旅』のような記事を書かせて「南京大虐殺」を煽り、当時舞台裏で進行していた日中友好条約を有利に運ぼうと画策します。
この「南京大虐殺」キャンペーンは手が込んでいて、当時イヌイットの生活に飛び込んだり、アラビア半島で遊牧民と共に生活をしたりして人気を博していた若手の本多記者に、中国をルポさせるという企画でした。
そして当地で「南京大虐殺の生き証人」にこれでもかというくらい出会い、衝撃を受けてそれを朝日に連載します。

絶大なる影響力で、当時中学生だった私など新聞を切り抜いたもので、恥ずかしながらすっかり赤い反戦少年になってしまいました。
ところが日をおかずに、この「生き証人」が全部中国当局があらかじめ用意したものだと、わかってしまいました。
つまりなんのことはない中国当局の言うがままの場所に行き、用意された「生き証人」をルポしただけだったわけです。
共産圏諸国がよくやる詐欺ですが、まんまと朝日はこれに引っかかった、というよりわかって引っかかったふりをしたのでしょう。
大新聞社が中国の反日宣伝戦に便乗してしまったら報道機関としては自殺行為です。

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本多勝一『中国の旅』

もちろんこれで終わったわけではなく、2017年、中国は「戦勝70周年」として大規模な反日プロパガンダの認知戦を展開しました。
中国は現在、一昨年にユネスコの記憶遺産に「南京大虐殺」を登録し、2017年秋からはこの記憶遺産展示国際展示会を行いました。
たとえば、仏北西部カン市で、昨年10月23日から12月15日まで「1937南京大虐殺・南京の6週間」という企画展が催されたそうです。
この折に展示された「記憶遺産」には、米国人宣教師ジョン・マギー の撮ったとされるマギー・フィルムやドイツ人ジョン・ラーベなどの証言です。

米人が日本の非道を糺弾することによって、あたかも中立性が担保され、信頼性が飛躍的に高まることを狙っており、中国はそれに成功しました。
そして日本の教科書まで「南京大虐殺」を書き込ませるまでに、これは動かない歴史的事実として国際的に定着してしまいます。
逆にこれに異議を唱えようものなら歴史修正主義者として、発言の機会さえ奪われる有り様です。
この「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」は、中国が日本に対して行った認知戦の2大成功事例でした。

これに較べて今回のNHK放送テロ事件は、しょせんと言ってはナンですがバイトテロにすぎません。
バイト店員の悪ふざけとそんなに変わらないレベルの行為で、かつての「南京大虐殺」キャンペーンのような恐ろしさはありません。
おいおい、中国の仕掛けはスケールがずいぶんと小さくなったな、昔のように大新聞動かして国際世論を味方にしてみろよ、と思うほどちゃちい。
これが昨日書いた習近平の裸の王様状態となにか関係があるのかないのか、悩ましいところです。

 

2024年8月30日 (金)

独裁者の疑心暗鬼が引き起こしたのか、領空侵犯

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中国は「領空侵犯の意志なし」なんて言っていますが、もちろん「軽い冗談」です。

[北京 27日 ロイター] - 日本の防衛省が26日、中国軍のYー9情報収集機が長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯したと発表したことについて、中国外務省の林剣報道官は27日の定例会見で、関連部署が状況の把握に努めていると述べた。
同報道官は「双方は既存の実務ルートを通じた意思疎通を維持している」とし「中国にはいかなる国の領空を侵犯する意図がないことも強調したい」と述べた」
(ロイター8月27日)
中国外務省「領空侵犯の意図ない」、状況を把握中 | ロイター (reuters.com)

まぁ、その意志があって実行したとなるとリッパな戦争行為ですからね。
可能性としては三つです。

①習近平の直接の命令。
②習近平を困らせるための反対派の策謀。
③現場の軍の独走。

素直に考えれば、①の習近平の直々の命令でわが国の総裁選へ威圧をかけたとするのが常識的でしょうが、よくわかりません。
というのは習は軍幹部の粛正を繰り返していますが、その理由は軍が常に独自の勢力であることを企むのを止めず、軍を完全な支配下に置くこととができないでいるようだからです。

すると②の習反対派が、外交に乗り出して国際政治大物に成り上がりたい習の足をさらう目的でやったこともありえます。
この間のフィリピンへの執拗な圧力は戦争直前まで緊張が高まっており、米中戦争を招き寄せかねない結果となっています。
これなど習の命令でしているのかどうなのか。
ただしこういった領空侵犯やフィリピンに対する圧力は、習自身がしてきたことであり、結果でもあるために①も捨てきれません。
③の現場の独走は考えられなくもありませんが、あのような極度に中央集権的な国家では、共産党のいずれかの派閥と結びついてのことでしょう。

かつては香港ルートでそれなりに確度の高い情報が入ってきましたが、いまや国安法支配下で完全に情報パイプが目詰まりを起こしています。
そのために、共産党の情報がなにも伝わってこないのが現状です。
たとえば、香港にはサウスチャイナ・モーニング・ポストや蘋果日報が、中国政府の情報を伝えていました。
80年代から記者をしていた蔡咏梅はこう言っています。
「私が香港の自由を深く感じたのは、当時の深圳市の物語だ。深圳市の向こう側では、誰を罵ってもよかったが、ただ政府だけは罵ることができなかった。河のこちら側は、誰を罵ってもよかったが、ただ妻だけは罵ることはできなかった」

ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルなどの新聞社は香港を拠点にその他の国家や地域をカバーさせていました。
それは香港が中国報道のみならずアジア全体の報道のハブだったからです。
これらの外国メディアは香港から撤退しました。
国安法は非常にあいまいです。蔡咏梅はこう言います。
「何を行えば、国安法に抵触するかはっきりしていない。あの法律は、思い通りに誰に対しても(容疑をかけらることが)可能のでみんなびくびくしている」

国安法のほんとうの恐ろしさは、解釈ひとつで中国政府に対する批判すべてを「国家転覆罪」として逮捕拘束できることです。
たとえば国安法第20条にはこう書かれています。

●国安法第20条
国家分裂、国家統一破壊の組織、計画、実施に参与したいかなる者も、武力を使用、あるいは武力を使用すると脅したか否かにかかわらず、すなわち犯罪である。

覚えておきましょう。いかなることも当局の恣意で「国家転覆罪」に仕立てることができる、これが全体主義です。
このようにして香港は中国の耳と口、そして眼であることを止め、深い沈黙に追い込まれたのです。
これは皮肉にも、中国自身の眼も塞いだことになりました。
それは中国当局にとっても、香港は外部世界の生の情報を取り入れることのできる、ほとんど唯一の接点、窓口だったからです。

それでなくても中国共産党とその政府のしもべたちは習の気に入る情報しか伝えなかったものが、いまやそれすらしなくなってしまいました。
習近平は確かな情報が得られずに裸の王様になったのです。
そこから芽生えるのは例の独裁者特有の真理、つまり疑心暗鬼です。
習近平の顔に貼りついたようになっている退屈と憂鬱な表情。
国のトップオブトップスに登り詰めた72の男とは思えない覇気のない気だるさ。
だれの言うことも信じられなくなった老人性鬱。

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中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮 13日には台湾総統選、「中国の軍事的脅威」とはいかほどか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

「中国共産党体制内の良心的な情報筋の説明によると、習近平は現在、いくつかの不安、それも極端な不安の中にいる。習近平はまた、このいくつかの極端な不安に基づいて、戦略計画を立てている。
現代の医学水準では、習近平が病気で死ぬ可能性は小さい。習近平の最大の不安は政治生命の安全である。
2人の国防相、秦剛元外相、ロケット軍や戦略支援軍の指導部に至るまで、習近平の側近だった解放軍の将官や外交幹部が、習近平に対し政治的に不誠実な行為を行っていた証拠が大量に判明した。秦剛、李尚福、魏鳳和およびロケット部隊幹部の粛清は、汚職が理由という人もいるが実は、政治的不誠実(習近平に対する不忠誠)問題が理由だ。これが問題の核心だ」
中国趣聞NO1054:北戴河会議で何が起きたか?噂の真相に迫る袁紅冰インタビュー

取り巻き幹部の誰ひとり信用できず、特にその疑惑は隠然たる巨大な力を持つ軍に集中しています。
国防相、ロケット軍という戦略ミサイル部隊の将官、外交幹部の「不忠分子」が次々に汚職を理由に粛清されていきました。

「過去6カ月の間に、少将以上の軍人だけでも15人が失脚した。その中心はロケット軍関係者。ロケット軍司令だった李玉超、ロケット軍政治委員だった徐忠波ら幹部がごっそり失脚した。年末、9人の軍人の全国人民代表資格剥奪が発表されたが、その9人のうち5人がロケット軍関係者だった。
また戦略支援部隊関係者も大勢失脚した。国防相だった李尚福は元戦略支援部隊副司令兼参謀長、第20回党大会で中央軍事委員を引退した魏和鳳(元国防相、ロケット軍初代司令)、最近動静不明の巨乾生・戦略支援部隊司令も2023年夏以降、汚職あるいはスパイ容疑で取り調べを受けているといわれている」
(福島香織2024年1月12日)
中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮 13日には台湾総統選、「中国の軍事的脅威」とはいかほどか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

いまや軍はもの言わぬ不忠分子の巣窟と見なされ始めました。
元来、習近平は軍に無知でした。
2915年の軍事パレードで左手で敬礼したほどです。

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中国人民解放軍建軍90周年--政治--People's Daily Online

歴代の中国共産党は軍の中から生まれました。
それは毛沢東の「革命は銃口から生まれる」という革命戦争思想の必然として、軍と共産党はふたつでひとつの存在だったわけです。
ごく自然に第1世代の指導者たちはすべて従軍体験があり、鄧小平は革命戦争の指揮官でしたから、軍の忠誠とリスペクトを最初から期待できた幸せな世代でした。

しかし最高指導者が文民に変わると、党は軍の支持を得るために必死にならねばならなくなりました。
江沢民は、中国の改革開放による経済成長のうまみを軍人にも分け与えるために軍がビジネスをすることを推奨し、大きな利権、特権を与えることで軍の支持を得ようとして成功しました。
要は江は札びらで軍の頬を叩いたのです。

この軍の利権の分配こそが、他国にない軍の財閥化を生み出し、今に続く軍のまったんまで染み込んだ腐敗構造を作り出していきます。
胡錦濤は軍から利権を奪おうとしましたが失敗します。

これを見ていた習は、軍を党のしもべとすべく徹底した「反腐敗闘争」という粛清を強引に進めていきます。
これは同時に、まだ存命していた江沢民派との闘争でした。
とうぜんのこととして、これはやればやるほど軍の反発と面従腹背を生んでいきます。
そして皮肉にも、江沢民時代と違って、いまや実際の戦争が起きる可能性がきわめて高いのです。

こういう状況の中で、このいままで歴代の指導者がしなかった領空侵犯事件が起きたのです。
果たして無関係でしょうか。
たんなる計器の故障かもしれませんが、私は可能性の4番目として、軍の習近平への「忖度」ではないかとも思うのです。
それはあの2分間という短い時間に、領空にタッチ&ゴーしたそぶりからも伺えます。
現時点では本格的に領空侵犯する気はないが、自衛隊機の動きを見ておきたいという合理的理由だけではなく、なにかそれ以外の脂っこい心理が隠されていそうです。

 

2024年8月29日 (木)

領空侵犯には無害通航はない

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中国軍機が領空侵犯しました。

「防衛省によると、領空侵犯したのは、中国軍のY9情報収集機1機。26日午前11時29分から同31分にかけて、長崎県の男女群島沖の日本領空を飛行した。領空侵犯は約2分に及び、防衛省関係者は「十数キロは飛行した可能性がある。2分は長い」として、何らかの意図的なものとの見方を強めている。
海洋進出を進める中国は、小さな動きを積み重ねて圧力を強める「サラミ戦術」を取っているとされる。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺では中国海警局の船舶が領海侵入を繰り返し、九州西方でも中国の艦船や無人機などの活動がたびたび確認されている。
今回の領空侵犯は、こうした東シナ海での活動強化の一環だった可能性もある。中国側の目的に関し、木原氏は「事柄の性質上、確たることを答えることは困難だ」と言及を避ける一方、「警戒監視および対領空侵犯措置に万全を期していく」と強調した」
(産経8月27日)
中国軍機の領空侵犯は意図的か 2分間で数十キロ飛行 防衛相「主権の重大な侵害」と非難 - 産経ニュース (sankei.com)

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産経

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防衛省

上図の黒い日本を囲む線が領空で、8月26日午前11時29分から2分間にかけて、わが国領空の男女群島領空を侵犯しています。
領空侵犯したのは中国空軍所属のY9電子偵察機です。

機首下レードームから新型のY9ZDのようです。
Y-9 (航空機) - Wikipedia

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防衛省・自衛隊:中国機による領空侵犯について (mod.go.jp) 

ジェーンズ・ディフェス・ウィークリーもこんなツイートをしていました。
electronic warfare aircraftというのは電子戦機のことですが、さすが専門誌、各部の名称の説明つきです。
電子戦機 - Wikipedia

20240829-021503

XユーザーのJanesさん: 「Chinese Y-9 electronic warfare aircraft infringes Japan airspace https://t.co/8Ee7rVeKJg https://t.co/THHmzkNEqX」 / X

「Y-9DZには新型のセンサーと通信システムが装備されている。同機がEW(電子戦)や電子情報収集(ELINT)、電波探知(ESM)、合成開口レーダー(SAR)による敵軍の動向監視、ジャミング(電子妨害)、心理戦(PSYOPS)などさまざまな特殊任務を飛行できる新世代の多用途電子戦機であることを示唆している」
航空自衛隊スクランブルで初確認された中国軍機の正体とは?(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

この機体は中国メディアによれば「中国の強さと決意を世界に示している」そうです。(ああ、うっとおしい)

「Y-9Z情報収集機は、光学およびレーダー偵察装置を装備した偵察機です。 航空機は戦場の状況を認識し、戦場の情報を収集および分析でき、幅広い監視機能を備えています。 広い範囲では、わずかな変化でも監視できる。
この航空機は、台東の海況などの海域を監視するのに特に適しており、 さらに、台湾軍や米軍の艦船、潜水艦、航空母艦などの大きな目標と比較して、航空機にはより多くの利点がある。
Y-9情報収集機は重要な軍用機として、アメリカの航空母艦に対する捜索作戦において重要な役割を果たしており、中国軍が強力な情報収集能力を持ち、常に敵の行動をコントロールしていることを示している。
同時に、中国軍の強さと決意を世界に示している」
中国人民解放軍の新型機は台東上空に円を描くために派遣され、日本は米国に警告を発した (baidu.com) 

この中国の「決意」とやらを背負ってY-9DZは堂々とわが国領空を侵犯しました。
飛行経路について、防衛省は淡々と飛行経路をアップしています。

当該機の飛行経路のを遠眼でみると、大陸から東シナ海を経て侵入しているようです。
たぶん北部戦区所属なのかもしれません。

20240828-152547

防衛省

このY9ZDは、2023年に台湾島の東の太平洋海域で米国、日本、フランス、カナダが共同で実施している海軍演習を監視し、情報を収集するために配備されました。
環球時報はこう書いています。

「台湾島の東に位置するこの海域は、台湾問題において重要な戦略的価値を持つ、なぜならそこから人民解放軍が島を包囲し、外国の軍事干渉の試みを拒否する可能性があるからだ、と匿名を条件に語った中国の軍事専門家は日曜日に環球時報に語った。
また、外国の干渉勢力がこの地域を支配することができれば、「台湾独立」分離主義者の勢力を支援することができると専門家は述べた」
(環球時報 2023年6月11日)
中国人民解放軍が新型偵察機を配備、米国と日本の空母が台湾島の東で演習を実施 - 環球時報 (globaltimes.cn)

Y9の任務は、台湾周辺の米空母打撃軍と海自艦隊を追尾・監視し、それを随時対艦ミサイル部隊に通知することだとされています。

「オブザーバーによると、中国人民解放軍は航空部隊に加えて、これまでにも遠洋演習のために空母群をこの地域に数回派遣しており、ロケット部隊は対艦弾道ミサイルで敵艦を標的にすることもできる。
専門家によると、外部勢力が台湾問題を利用して中国を挑発し、地域の緊張を煽るのをやめるべきだという」
(環球時報前掲)

この対艦ミサイルはYJ-62と呼ばれるもので、すでに北部戦区に配備されています。

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中国海軍、朝鮮半島方面を管轄する北部戦区にYJ-62対艦ミサイルを初配備か(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ジェーンズによると、YJ-62は弾頭1発で排水量最大5000トンの船舶にダメージを与えることができるという。ミサイル推進システムは、中国製のWS500ターボファンエンジンと未公表の固体燃料ブースターモーターで構成される」
(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ところで、中国のSNSの香ばしい反応が届いております。

「中国の短文投稿サイト微博(ウェイボ)には26日、中国軍情報収集機による日本領空侵犯を伝える日本や香港のメディア報道が転載された。海上自衛隊護衛艦が7月に中国領海を一時航行したことに触れ、領空侵犯は「報復だ」「よくやった」などと肯定的に捉える投稿が相次いだ。
中国外務省は海自艦の領海航行を巡り日本に抗議し、再発防止を要求。日本側が「技術的なミス」と説明したと明らかにしている」
(共同8月26日)
中国SNS、領空侵犯に「報復」「よくやった」 海自の領海一時航行と関連付ける - 産経ニュース (sankei.com)

日本も空自がスクランブルをかけても「よくやった、報復だ」なんてわけのわーらんことをいう奴はいなかったようですが、中国はあいかわらず脳が煮えていますね。
「報復だ」というのは、今年7月、海自の「すずつき」が中国艦艇の追尾・監視をしていて、一時的に中国領海に入ったことを指しているようです。

「関係者によりますと、7月4日の午前、中国東部 浙江省の沖合を航行していた海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が一時、中国の領海内に入ったということです。
「すずつき」は当時、中国軍の訓練の監視任務に当たっていて、中国側から退去勧告を受け領海の外に出たということです。
各国の艦艇は、沿岸国の秩序や安全を害さなければ領海を通過できる「無害通航権」が国際法で認められています」
(NHK2024年7月11日)
海自の護衛艦 一時 中国領海を航行 防衛省がいきさつを調査 | NHK | 防衛省・自衛隊

刺激するのは本意ではないでしょうが、国際法上はなんの問題もありません。
いままで中国など既に2回も領海侵犯していますが、中国SNSの連中は知らないくせに「報復だ」などと叫んでいるのでしょうな。困った人たちです。
海警の領海外縁の接続水域侵犯など年中行事です。

領海侵犯は、2016年6月、中国海軍ドンディアオ級情報収集艦が口永良部島(鹿児島県)西の我が国の領海(吐噶喇(トカラ)海峡)を南東進して、海自に警告を受けています。
2回目は2017年(平成29年)夏に中国海警局の公船2隻が、対馬海峡、津軽海峡及び大隅海峡沿岸の我が国領海内を航行しています。

『中国軍艦による我が国領海内の航行』参照
海上自衛隊幹部学校 (mod.go.jp)

海自「すずつき」の事案は、完全に国際海洋法第17条が定めた無害通航に属します。
では、中国艦艇のケースはどうだったでしょうか。微妙なんです。
「有害通航」について国際海洋法はこう既定しています。

「(1)有害な活動
   外国船舶による領海の通航が、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するとされる活動の具体例は以下のとおりである(条約19条2)。
 (a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に   対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
 (b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
 (c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為

はい、中国の領海侵犯した艦種は情報収集艦でしたね。
元来このような艦艇は非武装ですから、一見外から見ても大砲がやミサイルが動いてはいませんが、艦内ではさまざまな電子情報を採取し、自衛隊の動きを探っているのですから国際海洋法17条1Cの「情報収集」に属すると、わが国が断定してもかまわなかったのです。
「すずつき」事案は純然たる無害通航、中国情報収集艦はグレーゾーンというわけです。

では、領空侵犯についてみてみましょう。
領空侵犯にはそもそも「無害航行」という概念自体が存在しません。

原則では、軍用機が領空を侵犯したら、即落されても文句がいえません。
実際に、トルコは領空侵犯したロシア空軍機を撃墜しています。

「2015年11月24日9時20分頃、トルコとシリアの国境付近で、ロシア空軍のSu-24戦闘爆撃機がトルコの領空を侵犯したとして、トルコ軍のF-16戦闘機に撃墜され、シリア北部に墜落した。トルコ軍は国籍不明機2機が領空を侵犯したと認識し、10回警告したが領空侵犯を続けたため1機を撃墜したと主張している。Su-24の乗員2人が死亡したとみられる」
ロシア軍爆撃機撃墜事件 - Wikipedia

しかし一律に領空侵犯即落せとはならず、個別の国内法規に従って判断しています。
日本の場合、自衛隊法第84条がそれにあたります。

第84条 領空侵犯に対する措置
「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和27年法律第231号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」

この「必要な措置」にも順番があります。
過去の国会答弁に基づけば、(1)領空侵犯機の確認、(2)領空を侵犯している旨の警告、(3)領空外への退去または自衛隊基地等への誘導、(4)武器使用という、段階的な措置がとられます。
最後の「武器使用」には、信号射撃(警告射撃)は含まれず、本気で撃墜することが「武器使用」に相当します。
しかしこれが可能なのは、領空侵犯機が自衛隊機の警告や誘導に従わずに退去せず、さらに自衛隊機に対して実力をもって抵抗してきた場合にかぎられます。

そしてもう一つは、国民の生命および財産に対して大きな危険が間近に切迫している場合です。
たとえば、日本の領空を侵犯した爆撃機が爆弾倉を開いた場合には、地上に住む国民の命、財産に危険が差し迫っていると捉え、これに対して武器を使用することができます。
ところが実際にはこれも微妙なところで、ただ領土上空を通過しただけだと、警告射撃を実施しても従わず侵入を続けた場合でも自衛隊は撃墜していません。
実例としては、1987年にソ連爆撃機バジャー2機が沖縄本島上空を侵犯しましたが、警告射撃までで終了しています。
結局、ソ連の言い分の「計器の故障」で済ましています。
対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件 - Wikipedia

落せば国際紛争になるという決意がつかないのでしょう。
わからんではないですが、戦闘機では一瞬で奥深く侵入され、「爆弾倉の扉が開けば」なんて悠長なことを言っている間に、ミサイルなら前兆なしで発射されてしまいますがね。
今回は電子偵察機だったから「よかった」ですが、これが爆撃機なら悩ましいことになったことでしょう。
ぜひ、この判断の責任をパイロットに押しつけず政府がとりきって頂きたいものです。

蛇足ですが、日中友好議員連盟の二階翁たちが5年ぶりに訪中しているそうですが、こんなレームダッックを頂く国の終わった人が団長の議員が行っても屁のつっぱりにもなりません。
というか、こんな時期に訪中する必要はまったくありません。こちらが融和的態度に出たと思われるだけです。
行けば豪勢な飯を食わせてもらい、要人と握手してやくたいもない「友好的な」言質を取られて、足元を見られることがいいことなのかどうかちっとはわかりそうなもんです。
行く前日に領空侵犯されているのですから、その時点で政府は訪中を止めるべきでした。
少なくとも国際社会からは、張り倒されてもニヤニヤしながら「「旧交を温めることができるのは大変喜ばしいことです」なんて言っている奴がキングメーカーをやっていられる国と写ることでしょうな。

 

 

2024年8月28日 (水)

露クルスク原発に大手をかけたからウクライナは和平提案ができた

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では、なぜこの時期に、このクルスクに越境したのでしょうか。今日はそのへんを考えていきます。
「この時期」という問いに応えるのは簡単です。
昨日見てきたように、11月に最大の支援国である米国の大統領選があり、トランプが勝つ可能性が残っているからです。
トランプになった場合、最悪の場合、支援は打ち切られるか、よくても先細りとなり、無理やりに望まざる「和平」会談の席に座らされる可能性があります。

もちろん「和平」会議をウクライナに押しつけるために、米国は「独立の保証」などと口当たりのいいことを言うでしょうが(実際にバンスが言っていますが)、これもかつてのブタペスト覚書を再演するようなものです。
ロシアの要求は、ウクライナがNATOに加盟することについてロシアが拒否権を持ち、それを法制化しろということでした。
2021年には露外務次官はこんなことを言っています。

「要求項目には、ウクライナのNATO加盟に対してロシアが拒否権を持つことといった、西側諸国が既に除外している項目も含まれている。
要求項目の詳細を初めて公表したロシアのリャブコフ外務次官は報道陣に対し、ロシアと西側諸国は関係再構築のために白紙から始める必要があると指摘。「米国とNATOがここ数年、安全保障状況を積極的に悪化させようとしている路線は絶対に容認できず、極めて危険だ」と訴えた。
さらに「米国とNATOの同盟国は、予定外の演習など、わが国に対する敵対行為を直ちに中止し、ウクライナ領土での軍備増強を即時中止すべきだ」と強調した」
(ロイター2021年12月18日)

スっと読まないで下さい。
仮想敵国に拒否権をもたれる条約締結などありえません。お前属国になれということにに等しいのですよ。
相手が弱いと侮ると、こういうことを平気で言うのがロシアという国のイヤラシサです。
具体的には西側も入れて、かつてのブタペスト覚書のようなものをもう一回作れということになるでしょう。

ブタペスト覚書というのは、独立当時核兵器を多数保有していたウクライナから核兵器をもぎ取るために、ロシアと米国が結託して「独立の保証」という甘言をついて核兵器を放棄させたこととです。
当時、ウクライナは旧ソ連から引き継いだ核兵器を大量に保有しており、世界第3位の核保有国でした。

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ソ連核ミサイル基地を公開 発射施設、ウクライナ中部 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

1992年初めの時点で、ウクライナには最低で2800発から最大で4200発の戦術核弾頭を持ち、その他に戦略核として176発の大陸間弾道ミサイルを保有していました。
この核ミサイルの製造にはウクライナの技術も使われており、放棄するかしないかはウクライナの主権に属することでした。
ですからグレゴリー・アンドリーも言うように、核を手放す必要はなく、核を手にしていれば、今のロシアの宗主国然とした拡張主義はありえなかったとも言えるのです。
当時のウクライナには核兵器を保全できなかったという技術論もあるようですが、それこそ米国に助けさせればいいのです。

ウクライナは米国のクリントン政権の裏書きがあったので、こんなもんに署名してしまったのです。
そして当然のようにこんな約束は反故にされ、2014年にクリミア、2022年には全土にロシアは侵攻します。
その時、米国は約束どおり身を挺してウクライナの独立を守ったでしょうか。
いえいえ、オバマ政権は口先だけの制裁でお茶を濁しました。
ウクライナは米露の詐欺に引っかかったのです。

今になってクリントンこう言っています。

「米国やロシアなどが、1994年にウクライナの核兵器放棄で合意した「ブダペスト覚書」に関し、米側の当事者だったビル・クリントン元大統領が6日までに、ウクライナが現在も核兵器を保持していれば、ロシアが侵攻することはなかったとの認識を示した。放棄を促したことを後悔していると述べた。アイルランドの公共放送RTEがインタビューを報じた。
クリントン氏は「ウクライナは、核兵器が領土拡張主義のロシアから自国を守る唯一のものだと考えていた」と指摘。ウクライナは核兵器放棄を恐れていたが「私が同意させた」と振り返った」
(高知新聞2023年4月6日)
ウクライナ核放棄「後悔」 覚書署名のクリントン元大統領 | 高知新聞 (kochinews.co.jp)

グレゴリー・アンドリーは『プーチン幻想』の中で唇をかみしめるように言っているのは、ウクライナは独立に際して核を手放すべきではなかった、保有していれば独立が犯されることはなかった、という悔恨の念を述べています。
核兵器の是非うんぬんという抽象論ではなく、自国の独立を他国に委ねるということをしてしまった当時のウクライナの失敗は後々に響いて来ました。
核を手放す必要はなく、核を手にしていれば今のロシアの侵略はありえませんでした。

いったん戦争で領土を失えば、それは二度とテーブルでは戻ってきません
これが世界外交のイロハのイであって、プーチンはもとより、ゼレンスキーもいささかの幻想も持っていないはずです。
仮に和平会談をするのなら、あくまでもウクライナのイニシャチブでせねばなりません。
8月27日、ゼレンスキーは、米国の次の大統領候補ふたりに和平案を提示すると述べました。

「[キーウ 27日 ロイター] - ウクライナのゼレンスキー大統領は27日の会見で、ロシアとの戦争を終結させるための計画を、米大統領選候補のハリス副大統領トランプ前大統領バイデン大統領に提示する予定だと述べた。
ロシア西部への越境攻撃は別にして、計画には外交・経済面でさらなる措置を含むと述べた。
ゼレンスキー氏は記者団に対し、この計画の主旨はロシアに戦争を終結させることだと強調。「そして、それがウクライナにとって公平であることを強く望んでいる」とした上で、9月下旬にニューヨークで開催される国連総会への出席を希望していると述べた。
ゼレンスキー大統領は、ロシアとの戦争は最終的に対話を通じて終結するだろうが、そのためには今年開催を目指す和平サミットで強い立場に立つ必要があると言明。また国産弾道ミサイルの初実験を実施したと明らかにした」
(ロイター2024年8月27日)
バイデン・ハリス・トランプ3氏に停戦計画提示へ=ゼレンスキー氏(ロイター) - Yahoo!ニュース

いちおう「越境攻撃は別にして」とぼやかしていますが、これは越境攻撃と独自の弾道ミサイルの実験成功があってのことです。
そして裏返せば、この越境攻撃は大統領選挙の11月タイムリミットをにらんでのことだとわかります。
11月までの残り少ない期間になにができるか、なにをせねばならないのか、ウクライナ政府中枢は智恵を絞ったことでしょう。
そして、キーウ防衛戦を成功させた立役者であるシルスキー総司令官を中心に立案したのが、この越境作戦でした。

ところでこの越境作戦には、いくつの柱があります。
西村金一(元陸自一佐・幹部学校戦略教官室副室長)はこのようにウクライナの目的を整理しています。

①政治戦略としてはロシア国家・プーチン政権を不安定にさせること
②経済戦略としてはロシアから欧州へガスを供給する最大の輸送回廊の中継点をコントロール下に置くこと
③戦争戦略としてはクルスクの侵攻により今後の停戦交渉を有利に進めるカードにすること
④軍事戦略としてはロシア軍東部・南部の戦線の戦力を引き抜きクルスク正面に転用させること
⑤戦力転用することにより東部・南部戦線を弱体化させることであると予想できる。
ウクライナのクルスク進攻に隠された、停戦交渉材料よりずっと重要なこと バイデン米大統領が思わず漏らした「プーチンのジレンマ」とは(1/7) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

①の対露政治目的は、プーチン政権の不安定化です。
もう勝利は掌中にしたと驕り高ぶるロシアにの頬を張り倒し、ウクライナは勝利できるという声を世界に響かせることです。
②は先だっての記事でもふれたように、クルスクで真っ先にウクライナ軍が押さえたのがスジャというロシアのガスパイプライン中継所であったことで明らかです。
スジャ中継所を支配し、いつでも破壊できることを示すことは、ロシアの経済のチョークポイントを押さえたことと同義語です。
③は和平交渉の場でテーブルにこのクルスクというカードを載せて少しでも有利に交渉を進めることです。
④、⑤は、現実的軍事的要請としてクルスクに増援部隊を送るために、露軍が部隊を抽出しドネツク州などへの攻撃が弱くなることを期待しています。
今はFSBの治安部隊を増援に送り込んでいますから、ドネツク戦線に影響は出ていないようですが、やがてクルスクで孤軍となっている部隊が包囲殲滅されそうな事態にでもなれば本隊から抽出せざるをえないはずです。

そしてもうひとつ忘れてはならない要素が核抑止です。
クルスクにはロシアの原発が二カ所あります。
一カ所は、すでに稼働と建設を停止しているチェリノブイリと同型の黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉が6基、近隣にはロシア型加圧水方原子炉が2基存在します。

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Google Earth

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クルスク原子力発電所 - Wikipedia

このクルスク原発から、ウクライナ軍が支配しているスジャまでの距離を計ってみると58キロです。

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Google Earth

ハイマース(HIMARS)の通常射程距離は80kmですが、地上発射型小直径爆弾(GLSDB)を使えば射程 150㎞㎏まで延伸できます。
そして米国はすでにこのGLSDB弾を供与しています。
前者をハイマース80、後者をハイマース150と呼びます。

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【そもそも解説】米が提供する新兵器、ウクライナの戦況を変える? [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

完全にハイマース150の射程圏内に、クルスク原発が入ってしまったことがお分かりでしょう。
クルスクのどこかにハイマースがいることは、セイム川にかかった3本の橋への精密攻撃で明らかになりました。

クルスク原発は歩兵で占領できればいいのですが、そこまでは要求されていません。
ハイマースの有効射程にロシアのクルスク原発が「ある」という無言の圧力こそ、意味があるのです。

 

2024年8月27日 (火)

越境攻撃という方法で眼を覚まさせる

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昨日からの続きです。
私は、ウクライナのクルスク越境攻撃のニュースを聞いた時、これはバクチだと感じました。
つまり投機性が高い丁半バクチのように思えたのです。
国をかけた投機は、たとえばわが国がやった真珠湾作戦のように、ひとたび誤ると国を滅ぼしかねません。
失敗すれば、そこから全体の破局につながりますし、仮に成功しても長期戦となるからです。
長期戦となれば、やはり体力勝負ですから、小国は大国に勝つことは不可能です。

今、露軍はドネツクで攻勢を強めています。
その勢いは越境作戦以降も変化なく、露軍で抽出されたのは攻勢と無関係な二線級の国内治安軍だけのようです。
その一方ウクライナ軍は精鋭を抽出しており、クルスクでの越境作戦を拡大すればするほどドネツク州の状況が悪化する、というのは事実です。

ポクロフスク方面から避難を余儀なくされている住民からは「東部を犠牲にしてまでロシアを攻撃する必要性が理解できない」という不満の声が登場しているそうです。
このままポクロフスクやドネツクが陥落すると、「ゼレンスキーは東部地域を犠牲にしてまでクルスクに執着している」という批判が出てくるでしょう。

しかし、越境から2週間たって見ると、この越境作戦は大変に慎重に練り上げられたものであることがわかってきました。
ウクライナのレズニコフ前国防相が、産経のインタビューに応えています。
聞いているのは黒瀬悦成特派員で、ワシントン支局長も勤めた特派員です。
といっても、黒瀬氏はゴチック活字のトランプ嫌いのようですが。

「レズニコフ氏は、越境作戦はキーウ防衛戦などを成功させたシルスキー総司令官を中心に立案、実行されたと明かし、露領内に幅四十数キロの緩衝地帯を設け、露軍の多連装ロケット砲がウクライナ東部ハリコフ州の街に届かないようにすることが主目的だとした。
また、クルスク州セイム川の橋を相次ぎ爆破していることから「今後はセイム川南岸まで制圧地域を拡大し、短距離弾道ミサイルを防ぐとともに、川を天然の要害として防衛態勢を固めるとみられる」と分析した」
(産経8月24日)
ウクライナのレズニコフ前国防相インタビュー 「ロシアは張り子の虎」と勝利に強い自信 長距離兵器による露領攻撃の全面解禁も要請 - 産経ニュース (sankei.com)

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産経

ここでレズニコフが言っているのは、いわゆる「緩衝帯」づくりのことです。
地理的関係を見てみましょう。
クルスクは国境地域で、露軍のロケット弾と砲撃の基地です。
たとえば、露軍の使っているBM30スメルチ多連装ロケット弾発射システムの射程県圏は70キロで、軽く国境を越えてウクライナの民間地帯を攻撃し続けてきました。
より射程の短い旧式の152ミリ榴弾砲(射程17キロ)を使っても楽々とウクライナ領内を狙えます。
その結果、クルスクに接するする国境地帯の町々はことごとく砲爆撃を浴び続けられて、多数の民間人死者を出しています。

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ロイター

[ハリコフ(ウクライナ) 19日 ロイター] - ロシア軍は19日、ウクライナ北東部ハリコフ州の州都ハリコフ市近郊や周辺の集落を攻撃し、少なくとも11人が死亡、多数の負傷者が出た。検察当局によると、ハリコフ市近郊の攻撃では6人が死亡し、1人が行方不明となっており、27人が負傷した。
その後、クピャンスク地区の2つの集落への攻撃で5人が死亡し、9人が負傷。地元当局によると、ロシア軍は多連装ロケット砲で攻撃したという。
また、ロシア国境から5キロの同州ボウチャンスクでも砲撃があり、1人が死亡、3人が負傷した。ロシアは約1週間前からボウチャンスクを中心にハリコフ州で攻勢を強めてきた」
(ロイター5月20日)
ハリコフ州攻撃で11人死亡、ロシア軍の攻勢続く | ロイター (reuters.com)
ロシア軍はこのような卑劣な大規模な砲撃やミサイル攻撃をし続けています。
米国戦争研究所(ISW)の分析によれば、プーチンはロシアが主導権を維持し続ける限り、ウクライナ侵略の目的を果たすことができると考えています。
そのためにはウクライナ軍を叩くことだけではなく、国民生活の基盤であるエネルギーインフラに間断なく攻撃をしかけて、ウクライナ国民を精神的にも肉体的にも疲弊させることが必要だと考えています。

ロシアは民間施設、それもエネルギーインフラを執拗に攻撃したために大規模なエネルギー危機が毎年起きています。

 「ウクライナは2年続きで長時間の停電を強いられる冬を迎えようとしている。ロシアのミサイル、ドローンによる容赦ない攻撃により、エネルギーシステムのあちこちで1年前よりも脆弱(ぜいじゃく)な状態が見られるためだ。
夏の数カ月、数千人のエンジニアは破壊された設備の修理に没頭し、気温が低下し始める頃には、防空体制の改善により戦争の影響は緩和される可能性がある。
だが、冬への備えを完了するには財源も時間も足りない。つまり、数百万人ものウクライナ国民が明かりも暖房も水もなしに長い夜を過ごす状況が昨年以上に増え、企業や経済全体にとっての苦痛も増すことになる」
(ロイター2023年10月14日)
焦点:ウクライナに再び厳しい冬か、攻撃でエネルギー供給脆弱 | ロイター (reuters.com)
軍事的にはこんな民間施設は無意味ですし、当然国際法が禁止している民間人殺害に当たります。
ではなぜこのような攻撃を続けるのでしょうか。
理由はウクライナ国民に厭戦気分を作り出すことです。
キーウ国際社会学研究所 (KIIS)による最新調査は、世論の変化がでていることを教えています。

「KIISは、ロシアが本格侵攻を開始した2022年2月の直後からウクライナ人の意識調査を実施してきた。
【開戦1年後は9割が反対】
今回発表された世論調査によると、「和平を実現し、独立を維持する」ためには領土の割譲を受け入れる、と答えたウクライナ人は32%で、2024年2月の26%から増加した。2023年2月にはわずか9%だった。
すべての領土を奪還するというウクライナ人のかつての士気は、疲労と犠牲の大きさのために低下しているのかもしれない」と、元ウクライナ軍人の防衛アナリスト、ヴィクトール・コヴァレンコは言う。「ウクライナ軍も反撃能力を欠き、もっぱら守りに徹している。西側諸国は揺るぎ支援を約束しているが、援助は一向に届かないようだ」
なお、今回の調査では、「戦争を終わらせるためにロシアに領土を割譲する」ことに依然として反対する者は、回答者の55%に上った。しかしこの数字も、2023年12月と比べれば減少している。当時は、人口の74%が割譲に反対だった」
(ニューズウィーク7月24日)
ウクライナ「領土割譲やむなし」初の3割超でゼレンスキーに和平の選択肢(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

非常に危険な兆候は、領土割譲やむなしという比率がウクライナ国民の中に増えていることです。

「2番目に多い支持を集めたのは、クリミア半島と親ロ派地域であるドネツク州、ルハンスク州の支配権は事実上譲り渡すものの、ヘルソン州とザポリージャ州は完全に取り戻し、NATOとEUの両方に加盟する案で、53%だった」
(NW前掲)

このような国民に厭戦気分が拡がれば、西側諸国によるウクライナ支援は無意味となってしまいます。
そこにトランプが大統領にでもなって、最大の支援国米国がウクライナ支援から手を引くそぶりを見せれば、ゼレンスキーもロシアがしつらえた「和平のテーブル」に追いやられることになります。

トランプは大幅にロシアに譲歩した和平案を考えています。
トランプと仲がいいハンガリー首相のオルバン・ヴィクトルはEUの議長国に就任した直後、ゼレンスキー、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平総書記(国家主席)と立て続けに会談して停戦を呼びかけています。
そしてその後に、オルバンは訪米し、7月11日、トランプのフロリダ別荘を訪れています。

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ハンガリーのオルバン首相、トランプ前米大統領と会談 フロリダで - BBCニュース

オルバンは、ツイッターに「私たちは平和を作り出す方法を話し合った。今日の良いニュース。彼はそれを解決する!」とポストしましたが、たぶんトランプはハンガリー案と気脈を通じたと観測されます。
トランプが考えている和平案は現状固定です。

副大統領候補のバンスはもっと突っ込んだことを言っています。

「ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない。
ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ」
(ニューヨークタイムス6月13日)

なにが「ウクライナは戦略的思考がなかった」だ。なかったのは米国のほうです。
彼らに縛られて専守防衛しかできなかったことが、苦境を招いたのです。
バンスが言うには、ウクライナには「国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する」というのも曲者です。
「ウクライナの中立化」こそがそもそものプーチンの要求で、それを尊重して結ばれたのが2014年9月に結ばれた「ミンスク議定書」たったからです。
ミンスク議定書は、そもそもロシアの侵略の追認であり、固定化でした。
こういう危険な考えが米国にあり、それが11月に顕在化する可能性がある以上、ウクライナは作戦を急がねばなりませんでした。

さもないと、「和平」という領土割譲をして、事実上のロシアへの属国に舞い戻るのです。

一方、ロシア経済は短期的に見れば、むしろ「景気がいい」ことがわかりました。
経済は戦争経済の真っ最中であるためにGDPが軍事支出で増大し、原油は中印に順調に売れている、なにが問題なのだというわけです。

20240826-163051
ロシアGDP(2024年1-3月期)-前年比5%台の高成長を維持 |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)
「ロシアの24年1-3月期の実質GDP伸び率は前年比5.4%となり、5月17日に公表されていた予備推計値(5.4%)から変更はなかった。また、季節調整系列の前期比は1.0%(年率換算4.0%)となり、23年10-12月期(前期比0.8%、年率換算3.2%)から加速し、7四半期連続でのプラス成長となった。また、戦争前(21年10-12月期)と比較した水準は3.7%だった」
ロシアGDP(2024年1-3月期)-前年比5%台の高成長を維持 |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)

国内は戦争景気で温まり、5万とも6万とも言われる膨大な戦死者を出しながらも、それは極東少数民族だけの話でしかなく、モスクワやペテルスブルトに住む大方のロシア国民にとって戦争は遠い所の話、自国内が戦場となっていない気楽さでプーチンを熱狂的に支持してこれました。
そしてプーチンは驚異的支持率の上にあぐらをかいて、とうだこれがオレの描く「物語」だ、と胸を張れたわけです。
この「物語」を止めるには、プーチンの横面を国民と世界の真ん前で力一杯張り倒さねばなりません。
「欧州政策分析センター(CEPA)のシニアフェロー、マシュー・ブレグ氏も、両国の全体的な戦略を見れば、大きく変わったところはあまりないという点で合意する。「しかし、この作戦は数カ月ぶりにクレムリン(ロシア大統領府)に異なる物語を強いることとなり、プーチン氏の物語に初めて亀裂が入った」
(CNN8月26日)
ウクライナの越境攻撃は西側へのメッセージ 「我々は勝利できる」(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース
そのためには越境攻撃という方法で、プーチンのみならず世界の眼を覚まさせる必要があったのです。
ウクライナ軍は、奪われた4州を取り戻す可能性がほとんどないというウクライナ国民に拡がりつつある「空気」を変え、さらには西側にはびこる「和平」あるいは「平和」という美名でウクライナの自由を売る動きにも一石を投じました。
20240825-040657
いままで、米国がロシア領内の攻撃を渋ってきたために、ウクライナはその発射地点を攻撃できず、一方的に砲爆撃を受けてきました。
このような攻撃をする基地、その補給路、訓練場まで含めて「策源地」と呼びます。
クルスクはウクライナ侵略のまぎれもない策源地ですから、国際法上許される自衛戦争です。
ウクライナはいままで不本意にも西側の恐露病によって、国境を超えた攻撃は認められていませんでした。
まるでどこぞの国の専守防衛そのままで、自国を本土決戦の修羅場にするしか方法はなかったのです。
ああ、クルスク原発まで行かなかった。明日にでも。

2024年8月26日 (月)

ウクライナのクルスク越境攻撃の現在

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暑中(いや本来は残暑かな)お見舞い申し上げます。
それでもやや暑さは峠を越したみたいですが、ジジィにはこたえるんじゃい。早くどうかしてくれって感じです。
では、再開します。

実は、この1週間の夏休みの間、書きたくてたまらなかったことはウクライナのクルスク攻撃についてでした。
結論から言えば、ご心配無用。現況ではこの越境作戦はハイリスクといわれながらも、順調に進行しているようです。
侵攻した兵力は、フォーブスの軍事専門家のデビット・アックスによれば第22独立機械化旅団と第88独立機械化旅団、そして空中強襲軍(空挺軍)の第80空中強襲旅団が確認されており、5個旅団(約1万人規模)と、砲兵部隊、ドローンチーム、防空部隊の数個大隊が支援任務についているようです。

進撃地域は、既に東京都の2倍の面積を占領するに至っています。
8月20日に提示されたウクライナ軍の占領地域では、なんと1263平方キロという面積がウクライナの支配下に入りました。
ただしウクライナ側も、この急進撃の代償としてそれなりの損失を出しています。

「6個前後の旅団と数個の独立大隊、そして複数の支援部隊から成る侵攻部隊は急速な進撃の代償として、貴重な装甲車両をかなりの数失っている。人員の損耗も数十〜百数十人にのぼる可能性がある」
David Axe | Forbes Staff

この損失は車両だけで推定で45両とされているので、決して少なくはありませんが、侵攻冒頭のものだということに留意ください。
一定の予定範囲を確保した後は塹壕を掘って、反撃に来る露軍を迎え撃つことになりますので、損害は激減するはずです。

20240825-040442

ウクライナ、ロシア領土1000平方キロを掌握と主張 越境攻撃で - BBCニュース

一方、まったくこの攻撃を察知していなかったプーチンは、慌てて兵力をクルスクに差し向けたようです。

「(CNN) ウクライナ軍によるロシア南西部クルスク州への越境攻撃を受け、ロシア軍はウクライナ各地の戦闘地や、バルト海に面するロシアの飛び地カリーニングラード州から兵士をクルスク州に移動させている。ウクライナ軍の司令官やリトアニアの国防相が明らかにした。
大隊を率いるウクライナ軍の司令官、ディムトロ・ホロド氏によると、クルスク州でのウクライナ軍の前進を止めるためにロシア軍がウクライナのザポリージャ、クリミア、ハルキウから兵士を移動させていることをうかがわせる「情報」をウクライナ軍は持っているという。ウクライナ北部スーミ州にいるCNN取材班に明らかにした。
ホロド氏は国内各地で戦う自軍の部隊にとって、ロシア兵の移動は有利に働くと指摘。一方でロシア兵が再配備されることでクルスク州でのウクライナ軍の前進は難しくなると認めつつ、それでも前進するとの見方を示した」
(CNN8月15日)
ロシア軍、ウクライナ各地から部隊をクルスクに移動 カリーニングラードからも - CNN.co.jp

それがなんと、バルト海に面するカリーニングラードから大隊を派遣したんですとさ。
おいおい軽く1300キロありますぜ。(苦笑)たぶん重装備の大砲や戦車は置いてくるしかないんだろうから、むき身の兵隊だけ数個大隊規模を送ってもほとんど無意味です。
しかも大部分の露軍部隊は、いま担当している正面だけで手一杯で、そこから抽出できても数個大隊規模です。
それもプーチンがいまだ未練がましく「対テロ作戦」と呼んでいるところから、FSBなどの国内治安軍が中心のはずです。

したがってクルスクに増援できるのは、軽歩兵部隊の10個大隊前後、兵員数にして4000~6000人規模にすぎないと推測されます。
この戦力では、チャレンジャー3やストライカーを装備した最精鋭部隊をぶつけてきたウクライナ軍を撃破できるはずがありません。
しかも既にウクライナ軍は反撃を予想して塹壕を掘って待ち構えているのです。
本気で奪い返すつもりなら攻撃3倍の法則どおり、3万くらいは兵力集中せねばならないはずですが、今のロシアにはできるでしょうか。

ザポリージャ、クリミア、ハルキウ 戦線から兵力をひっぺがすと言っているようですが、支配が安定している地域はないのですから、本格的に部隊を再配置したりすれば必ずひずみが来て、逆にその局面から押し込まれてしまいます。
攻撃三倍の法則 - Wikipedia

ロシア国内でも、クルスクでの敗北が徐々に知られ、アホな右派からは戦術核や絨毯爆撃の使用を促す発言も出ていると聞きますが、やれるならやってみてください。
なにを使って「絨毯爆撃」とやらをするか知りませんが、それができるのは絶対的航空優勢が確保できた場合だけ。
ロシアが絶対的航空優勢が確保できたのはこの2年半で一回もなかったはずです。
今回の越境攻撃にも、ウクライナ軍には強力な防空部隊を随伴させていますから、どうなりますことやら。

戦術核使用にいたっては論外です。
プーチンが自国領土内で核を使用するはずもありませんし、クルスク原発がウクライナのハイマースの射程圏内に入っていることをお忘れなきように。(このクルスク原発については重要ですので、明日詳述します)
というわけで、プ ーチンはこのジレンマに身悶えしていることでありましょうな。

渡辺悦和(陸自東部総監)氏は、ウクライナは第2段階として、クルスク東へさらに進出するだろうとみています。
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ウクライナ軍のクルスク奇襲作戦は見事、ただし次の一手が極めて重要に ロシア軍に激戦地から部隊転用の兆しなく、セイム川攻防が今後の焦点(1/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

というのは、上図左側の赤い点はセイム川(下図青線)にかかった3本の橋ですが、ウクライナはこれをことごとくハイマース(HIMARS) で破壊しました。
ハイマースから発射されたM30/31ロケット弾が、浮橋のひとつに数百発の擲弾サイズの子弾を浴びせて破壊される様子が映像で確認できます。

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ウクライナがロシアへの越境攻撃にアメリカ製ロケット砲「ハイマース」の使用を明かす…橋などの攻撃に使用か|FNNプライムオンライン

さらに露軍があわてて設置した臨時の浮橋(ポンツーン)も同様に即座に破壊されました。
その結果、クルスク地域に残る露軍部隊は陸上の補給と増援を事実上絶たれました。
唯一可能性として残るのは、露軍がヘリを使ってエアボーンで補給を続けることですが、この地域はウクライナ軍の濃密な対空ミサイル・火器で覆われているはずですから、鈍速で動きの鈍い輸送ヘリが生き残る可能性は皆無です。

するとどうなるでしょうか。
援軍は橋の破壊で辿りつけずに個別に粉砕され、クルスクに残された露軍部隊は補給と救援の望みを断たれて孤軍と化します。
ウクライナ軍の発表では600人以上を捕虜とし、悪名高きチェチェンの督戦隊が率先して白旗を掲げている情けない動画もあるようです。
督戦隊とは旧ソ連が始めた、後ろから機関銃で味方の兵を監視して突撃させるという人でなしの部隊のことですが、この連中が投降してはシャレになりません。

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国内に残るロシア軍兵士の士気と規律は低く、多数の投降兵、兵器の鹵獲が確認される│ミリレポ|ミリタリー関係の総合メディア (sabatech.jp)

捕虜となった露軍兵士は、さっそくUAE(!)の仲介で捕虜交換がなされました。

「ウクライナ、ロシア両政府は24日、戦争捕虜を115人ずつ交換したと発表した。タス通信によると、ロシア国防省は交換された自国の兵士について、ウクライナが越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州で捕らえられたと明らかにした。
アラブ首長国連邦(UAE)が交換を仲介した。ウクライナのゼレンスキー大統領は「全員を連れ戻すため全力を尽くす」とX(旧ツイッター)に投稿した。ウクライナメディアによると、2022年のロシアの侵攻後、55回目の捕虜交換になるという」
(産経8月24日)
ウクライナとロシア 115人ずつ捕虜交換 - 産経ニュース (sankei.com)

渡辺氏は、「1段階と第2段階の占領地域を合計すると約2000平方キロの面積(東京23区の約3.2倍)になる」と述べています。

ちなみに越境したウクライナ軍には、第501海兵大隊という懐かしい部隊が混じっていました。
この部隊は、2022年のマリウポリ攻防戦においてアベフスタリ鉄工所の守備にアゾフ連隊と共についたのですが、頑強に粘るアゾフ連隊を尻目に勝手に投降して守備軍を崩壊させました。
その前の2014年のクリミア侵攻時には、守備部隊ごと寝返るという醜態ぶり。
3回目の今回、どのような戦いぶりを見せてくれるでしょうか。

それはさておき、ゼレンスキーはこの越境作戦には大きな目標があると言っています。

「クルスクで占領した領土が和平交渉の際の材料になる」という見方についても「ある人はクルスク侵攻を対話のための材料と言うが、これは交渉材料ではない」と述べ、クルスク侵攻作戦には「公表されている以上の目的がある」と付け加えている5
ゼレンスキーはクルスク地域での作戦の任務に名前を付けました|RBC-ウクライナ

では、いったいこの「公表されている以上の目的」とはなんなのでしょうか。
これについては明日とします。

 

 

2024年8月25日 (日)

日曜写真館 れいろうとして水鳥はつるむ

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わが泣けば鴉が嗤ふ朝ぐもり 鈴木真砂女

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じいと鳴く蝉それきりの朝ぐもり 能村登四郎

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さゞ波のいたづらめきぬ浮寝鳥 森田峠

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かの鳥も水鳥にしてかなしかり 染谷卓

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たましひも洗ひ立てなり水鳥は 宮坂静生

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いくつかは貼絵の遠さ浮寝鳥 狩行

 

暑中お見舞い申し上げます。
今日から再開いたします。
こんな時期に台風が来たり、きのうなどは雷雨。
いい歳をしてアイスにはまってしまいました。

タイトルの「れいろうとして」は、玉が透き通るような美しさのことです。

 

 

2024年8月19日 (月)

夏休みのお知らせ

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本日から8月24日(土)まで夏休みを頂いております。
再開は25日の日曜写真館からです。
猛暑の折、皆様もご自愛ください。
                                      ブログ主

2024年8月18日 (日)

日曜者写真館 向き蘭やがて匂へり見つゝあれば

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むせび泣くあまりに高き蘭の香に 渡辺恭子

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胃が痛む月夜や蘭の香の忽と 宮坂静生

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王女迎ふ躑躅紅紫の蘭館址 下村ひろし

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星空も生者の側に蘭溢れ 花谷和子 

 

写真はアンコールワットです。まだコンデジで撮っていました。
また一眼をもって撮りにいきたいもんです。

 

明日8月19日(月)から24日(土)まで夏休みをとらしていただきます。
いや暑いのなんのって。

 

 

2024年8月17日 (土)

プーチン、ウクライナの越境に動転

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湖対決の高校野球、こちらの負け(くそ)。
市村投手ドンマイ、まだ2年だ。
野球少年よ、台風が通過した後の故郷に戻ってきなさい。

さてウクライナはクルスクに越境し、新しい戦線を作りました。
多くの西側メディアが言うようにこれは大きな賭けです。
成功すれば、クルスクにロシア軍を引き止めることで、ロシア軍の東部への攻勢を薄くすることが可能です。
そして心理的には、厭戦気分が高まりつつあるウクライナ国民に希望を抱かせ、逆にプーチンには恐怖を与えることができます。
失敗すれば、一気に逆襲をうけてドンバス全体を失うことになります。
そしてそれ以上に国民に深い落胆を与えて、ロシア有利の和平交渉の場に出ねばならなくなくでしょう。

ところで、プーチンは完全にウクライナに勝った気でいました。
議会トランプ派のサボタージュにより、米国からの支援が途切れたために、ウクライナ軍は一時的に砲弾や武器が尽きかけかけて窮地に陥っていました。
おそらくプーチンはウクライナは瀕死の状況にあり、もはや抵抗する力など残っていないと考えていたはずです。
だからドローンに頼りきりとなり、地上戦は今の拠点防衛で手一杯である、と。

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【抄訳】戦争研究所「ロシアによる攻勢戦役評価」12.08.2024 - ロシア領クルスク方面戦況|Panzergraf (note.com)

しかし驚くべきことに、ウクライナ軍は窮鼠猫を噛むような反攻を計画していました。
そのために数千の大部隊を密かに移動し、大胆にもクルスク越境作戦に投じます。

「ウクライナ軍は米支援の停滞で武器や弾薬が一時的に尽きかけ、支援が再開されたにも関わらず東部戦線でジワジワと土地を削り取られているため、誰もが『ウクライナに新たな攻勢を仕掛ける余裕はない』と考えていたが、ウクライナ軍は本作戦のためチャシブ・ヤールの防衛に参加していた第22機械化旅団のドローン大隊、ボルチャンスク近郊でロシア軍と激戦を繰り広げてきた第82空中強襲旅団、ハルキウの最前線にいた第80空中強襲旅団を密かにスームィ州へ移動させた」
(ニューヨークタイムズ8月13日)
ウクライナ軍がロシアに侵攻した方法 - ニューヨーク・タイムズ (nytimes.com)

このふたつの部隊は西側装備で固められた最精鋭部隊であり、いままでチャシブ・ヤール防衛の任についていました。
その秘匿ぶりは徹底しており、作戦が各級指揮官に伝達されたのはわずか作戦発動の10日前のことでした。
移動に際しては私服を着用した部隊もあったようで、いかに隠密裏に作戦が準備されたのかわかります。

「ウクライナ軍は訓練と武器の受領を装って旅団の一部をスームィ州に移動させたり、将校らには「都市や街に移動する際に軍服を着用するな」と指示して徹底的に部隊の移動を隠した。作戦内容も一握りの人間だけに知らされ、ある旅団の副司令官は「上級将校を集めた8月3日の会議で任務の目的を明かされた」「ロシア軍の戦力を クルスクに誘引してドンバスで戦う仲間を支援すること」「ロシア軍の砲兵部隊をスームィから遠ざけること」「ロシア軍の計画と諜報の失敗を見せつけて軍の士気を下げること」と述べている」
(ニューヨークタイムズ8月13日)
ウクライナ軍がロシアに侵攻した方法 - ニューヨーク・タイムズ (nytimes.com)

一方、ロシアは完全に寝耳に水だったようで、なんの警報も受けていなかったロシア軍国境警備部隊はなんの抵抗もなく捕虜となってしまい、瞬く間にクルスクを占領されてしまいました。
ロシアは外に対しては獰猛ですが、いったん内懐に入られると驚くほど膳弱なようで、それはかつてのワグネルの乱でも彼らに快進撃を許してしまいました。
そしてこのクルスクから300キロの射程を誇る長距離ミサイルATACMS(エイタクムス)やストームシャドーを発射すれば、、非常に効果的にロシア軍の後方基地や兵站線破壊できるとしています。

「ウクライナがロシア本土攻撃でロシアに衝撃を与えている中、ウクライナのゼレンスキー大統領が12日(現地時間)、「長距離ミサイルでロシア本土をさらに深く攻撃できるよう許可してほしい」と西側同盟国に訴えた。長距離攻撃が可能になればロシアのプーチン大統領を追放できるという主張だ。(略)
テレグラフによると、ウクライナはロシア軍がクルスク州で反撃できないよう、長距離ミサイルを使用して最前線の向こう側にある飛行場や補給路を破壊するのが目的という。元英国軍タンク司令官のゴードン氏は「射程距離250キロのストームシャドーを使用すれば、クルスクと連結したすべての鉄道路線と主要道路、100マイル(160.9キロ)以内のすべての飛行場を破壊できる」と説明した。米国のエイタクムスは射程距離300キロを超える」
(中央日報8月14日)
ロシア本土を占領したウクライナ、西側に「長距離ミサイル攻撃の許可を」(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース

特にプーチンが怒りを募らせている対象は、ゲラシモフ参謀総長のようです。

「ロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長は非難の矢面に立たされている。ロシア情報当局はウクライナ軍が同国北東部スームィ州の国境地帯に兵力を結集し、越境攻撃を準備していることを察知して、警告したにもかかわらず、ゲラシモフが対応を怠った、というのだ。
ニュースサイトのブルームバーグは8日、クレムリンに近い匿名情報筋の話として、クレムリン高官はゲラシモフの対応に不満を募らせていると伝えた。
先週、ウクライナ軍がクルスク州の集落を次々に掌握し、制圧地域を広げる中、テレグラムのロシア人チャンネルではゲラシモフの「無能ぶり」を非難する声が渦巻いた」
(ニューズウィーク8月15日)
越境攻撃に不意を突かれたプーチン、「俺は騙された」と激怒、犯人探しが始まった|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

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ロイター   アレクセイ・デュミン国家評議会書記

プーチンはゲラシモフに「騙された」とまで感じているようで、その調査のために懐刀であるアレクセイ・デュミンをクルスクの監視役として派遣しました。
デュミンは先だっての5月29日に、プーチンから国家評議会書記に抜擢された人物です。

「デュミンはプーチン氏の大統領1期目と2期目に警護官を務め、軍参謀本部情報総局(GRU)副局長やトゥーラ州知事も務めた。大統領補佐官(防衛産業担当)に今月抜てきされていた。
元大統領府顧問のセルゲイ・マルコフ氏はメッセージングアプリ「テレグラム」で「以前から憶測があった通り、プーチン氏がデュミン氏を将来のロシア大統領として選んだ人物であることが確認されたようだ」と述べた」
(ロイター2024年5月29日)
ロシア国家評議会書記にデュミン補佐官、プーチン氏後継の観測も | ロイター (reuters.com)

警護官から情報畑(GRU)副局長を経て、大統領補佐官、そして国家評議会書記という出世街道を驀進中で、プーチンが次期大統領に考えているという噂があるような人物です。この男の報告次第で、何人かの政府高官と指揮官のクビが飛ぶことでしょう。

2024年8月16日 (金)

トランプの冷静な「従者」ポンペオ

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前国務長官のマイク・ポンペオが日本でロングインタビューに応えています。
裏話が聞けて、なかなかおもしろいんだな、これが。
ことトランプとなると、方やなにをしようとトランプ万歳と叫ぶ熱狂的支持者と、方や見るのも聞くのも嫌い、あの顔を見るとジンマシンが出るという人らにわかれますが、そうではない対応があるということがポンペオをみるとわかるはずです。

日本製鉄「助言役」ポンペオ元国務長官の苛烈な中国観と野心と「大人の対応」:杉田弘毅 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

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fsight.jp

ポンペオは「仮トラ」の場合、国務長官になる可能性がまぁまぁあります。
というか、ぜひなっていただきたい。さもないとトランプはいつまでたっても悪ガキじぃさんで不安定で見ていられません。
方や、トランプがするならなんでもすんばらしいと言うトランプ支持者と、方やトランプと聞いただけで何もかもダメ、ファシストだというバッシングメディアという配置ですからどうにもなりません。
かつては太平洋の向こうにシンゾーという最大の御者がいましたが、今はいない以上、米国内でなんとかしてもらわないと困ります。

トランプにはこの猛獣伝説には事欠きません。
本人もあえてやっている部分があって、実際に会ってみるとよく他人のいうことに耳を貸すタイプらしいのですが、一度表にでるとキレたマネをするプロレスラーのようなまねをします。

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プロレスラー、ボビー・ラシュリーの手を高々…:ドナルド・トランプ氏 写真特集:時事ドットコム (jiji.com)

当人は冷静にマッドマンのふりをしていて、それが相手をしてあいつなら本気でやりかねんという恐怖心を招きます。
それがうまく運んだのが北朝鮮対応でした。
交渉そのものを拒否して瀬戸際外交をつっ走る正恩に対して、若い若い、オレなんぞこの道何十年だとばかりにシン・マッドマンを演じたのがトランプでした。
ドン・キホーテとサンチョ・パンザみたいな関係が、トランプとポンペオです。
イカれたようなふりをする主人と醒めた従者とでもいうんでしょうか。
これができなければ、トランプの国務長官は務まりません。

核だ核だと騒ぐ北に対して世界のどの国も手を焼いていた時、トランプひとりがこの若造を「てなずけた」のです。
空母三隻を朝鮮半島海域に浮かべ、最大の恫喝をしながら、一方でサシで首脳会談をやって繁栄の道を共に考えてもいいぜ、というシグナルを送って見せるという器用なまねをトランプはしたわけです。
典型的なハンマー&ダンスですが、バイデンには逆立ちしてもできません。

この舞台裏でマッド親分の影となってうごいたのがポンペオでした。
その動きの一端をポンペオは語っています。
なんと4回くらい会って、直接に正恩とサシで会談しているようです。
秘密会談時、正恩がなんと言ったかが面白い。

「ポンペオの習近平嫌いは北朝鮮の金正恩総書記への態度と比べると興味深い。ポンペオは米朝首脳会談の準備や拘束米国人解放のため、トランプの指示で北朝鮮を極秘訪問し金正恩と会談している。
金正恩を「純粋な悪」と呼ぶ一方で、金がポンペオに対して、中国は北朝鮮をチベットや新疆ウイグル両自治区のように扱おうとしていると不満をあらわにした様子や、机をたたきながら「中国は嘘つきだ」と声高に批判したやり取りが、回顧録に綴られている。ポンペオの解釈では、北朝鮮は中国の支配から抜け出せずにおり、金正恩の狙いは中国からの「独立」の確保だとみる」
fsight.jp

そうではないかとかねがね思ってきて、そのように書いてきましたが、北にとって最大の「敵」はやはり中国のようです。
中国は自分たちを辺境の少数民族のように扱い、ウィグル化しようとしているとみており、北の核ミサイルの照準は北京を向いているということのようです。
北にとっての核保有は「独立」の担保だということのようです。
つまり「独立」の担保を西側が差し出せばいいということでもあります。
だから米国が核の傘を差し出し、北の体制を保証して開放経済に切り換え、経済的繁栄を確保して国内の極端な飢餓と貧困を解決できる、というメニューをトランプは差し出したわけです。

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https://share.america.gov/ja/us-north-korea-summit... 

そういう機微がわからずにヒタスラ信仰のように南北統一、高麗連邦を叫ぶノータリンがムン・ジェインでした。
正恩は親譲りのクソリアリストです。
一種の中小企業の社長みたいなもんで、でなければ瀬戸際戦術なんて、ひとたび匙加減を誤ると亡国になるような危険な戦術は取れません。
韓国大統領なんかはぬくぬくと在韓米軍の庇護の産着にくるまっていられますが、北は一本どっこで外国軍に依存していませんからね。

一方韓国は親会社の系列でいつも仕事を貰えます。
いつも助けて貰っておきながら文句を垂れて、嫌がらせさえ働くんですからしょーもない。
いまや親会社からも嫌われて、系列からはずそうかと思われている始末です。
だから社長がクルクルと何人変わってもいいが、北はそういうわけにはいかないのです。

で、こんな正恩にとってムン閣下などただの駒にすぎません。頭から見下しています。
なんせなまじ、ムンなんぞ元南朝鮮労働党員だっただけあって(真偽不明ですが)、ムンは北朝鮮と同じような言葉を使ってしゃべ散らすだけにいっそう始末が悪いのです。
コミュニストは自分に似た言葉を使う奴を最も警戒する性分なのです。
「黙れ、お前」というのが、短距離ミサイル実験に込められた北の暗喩なんですが、わかんないだろうな、あの男には。

別のか立場からトランプもこの馬鹿ムンにブチ切れていたようです。
そしてもう我慢できん、在韓米軍を撤退させるぞとホワイトハウスで叫んでいたそうです。

「有名なのが、トランプが韓国の文在寅政権と衝突し「在韓米軍を引き上げよう」とホワイトハウス内で突然言い出した時に、「それは2期目の重要課題にすべきだ」と進言し、いったん断念させたことだ。子供のように感情の起伏が激しいトランプに対するポンペオの「大人の対応」は、第2次政権で入閣した場合にも大いに役立つだろう」
(フォーサイト前掲)

これを止めたのがポンペオで、まだその時期じゃありませんとなだめたそうです。

また、あの悪名高い議事堂占拠事件の前段となった大統領選占拠結果否認事件の時には、選挙結果無効をガナるトランプの矢面に断たされたペンスは頑として「それでは副大統領が大統領を決めることになる」と峻拒しました。
そりゃ確かに副大統領は上院議長ですから、選挙結果を確認できる権限がありましたが、だからといって政権党のナンバー2が選挙結果を覆すようなまねをしたら民主主義はないのも一緒です。
後に、トランプ陣営が訴えた選挙不正は様々な州で検証されてシロとわかっています。
しかし、ペンスに裏切られたと感じたトランプはその後もペンスを口撃し続けました。

その時、ポンペオはどうしていたかといえば、距離を置いて静観していました。

「バイデンに敗れた2020年大統領選について「不正」を訴え続けるトランプに「米国のリーダーは後ろを振り返って犠牲者であると主張するのではなく、前を向く人が良い」と語ったこともある。当時はポンペオ自身も2024年大統領選への出馬を目指して運動していた」
(フォーサイト前掲)

賢明ですな。たぶんボスの狂乱は見ていられなかったのでしょう。
仮に2期目があるのなら、こういう人物をあてがっておかねばしかたがないでしょうな。

 

 

2024年8月15日 (木)

岸田さんが不出馬ですとさ

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岸田さんが出馬しないそうで、はい、そうですか、遅かったですねでおしまい。

「岸田首相(自民党総裁)が9月に予定される党総裁選への不出馬を決めたのは、「政治とカネ」の問題などを受けた内閣支持率の低迷から抜け出せず、党内からも責任論が出る中で、首相を続けるのは困難だとの考えに至ったためだ。刷新感を求める党内のムードにあらがえず、党の信頼回復のために身を引く判断をした。
首相は14日午前、記者会見に先立って、党幹部らに相次いで電話をかけ、不出馬の意向を伝えた。記者会見では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題や、自民派閥の政治資金規正法違反事件を挙げ、「国民の政治不信を招く事態が相次いで生じた」と指摘。「総裁選を通じて選ばれた新たなリーダーを一兵卒として支えていくことに徹していく」と語った」
(読売8月14日)
「責任を取っていない」「顔を替えないと衆院選戦えない」…岸田首相、党内の不満強まり身を引く判断(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース 

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次期総裁には政策実行力がある人を」関西の自民党関係者にも衝撃 岸田首相不出馬表明 - 産経ニュース (sankei.com)

例によってぐだぐだと長たらしい会見をしていましたが、自分がデフレからの脱却の道筋をつけた、というところで失笑しました。
岸田首相、茂木幹事長ら政府・与党関係者も「円が安すぎてインフレになるから利上げを」というトンチキな金融正常化論を言って、植田日銀に利上げを迫っておきながらナニをおっしゃる。
この植田日銀の早すぎた利上げによって、史上最大の株安が起きてデフレ回復の道が危機にさらされました。

つまり岸田、茂木両氏がいる限り、デフレからの脱却の道は常に危機にさらされているということです。

麻生氏が、「安倍晋三が必死にやろうとしてできなかったことが、岸田になったら全部できている」なんてオベンチャラを言っていますが、本気で言っているとしたら泉下の客となってしまった安倍氏が泣くことでしょう。
麻生氏は、どうやら「国家安全保障戦略」など3文書の改定や反撃力のことを評価しているようですが、あの骨格を作ったのは安倍-菅政権です。
岸田氏ではなくとも、あそこまでお膳立てさてれていたら通さざるを得ませんでした。
岸田氏は蹴り込む球を置かれてトライだけというおいしい仕事をしただけです。

では、安保三文書や外交の「魂」である対中姿勢はどうだったでしょうか。
いままで岸田氏の口からウィグルにおける少数民族弾圧、香港における人権侵害、フィリピンに対する海洋侵略についてないか言うのを聞いたことがあったでしょうか。
一般的に「国際社会における普遍的な価値である自由、基本的な人権の尊重、法の支配が中国でも保障されることが重要だ」ていどのことを表面的にいうだけで、いったいなにが中国が非難に値するのか、なにが危険な行いなのかを明らかにする具体的言及やアクションはなにもありませんでした。
常に中国の反発を恐れ腰がひけていて、一般論に逃げ込もうとします。
たぶん柔らかく出れば日中関係が好転するとでも思っているのでしょうが、真逆です。

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中国が新たなブイ、日本EEZ内に漂流 実効支配を狙う〝暴挙〟に「即時撤去」の声 「与野党が岸田首相の尻をたたかねば」と識者(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

中国は日本の配慮に対応して軟化するどころか逆に居丈高となり、気がつけばわが国は中国の設置した違法なブイに囲まれてしまいました。
たとえば2023年7月に、中国の海洋調査船が尖閣の魚釣島の北西約80キロのEEZ内に「中国海洋」などと表記した海洋ブイを勝手に設置しました。
そしてつい先々月には、同じく中国の海洋調査船が沖ノ鳥島周辺の日本の大陸棚に位置する公海上の海域にブイを設置したことが確認されています。

日本政府はグレイゾーンで難しいなどといっていますが、このような中国のブイ設置は周辺海域の管轄権を既成事実化する狙いがあるのは明白です。
国際海洋法(UNCLOS)上、他国のEEZに設置することは侵犯行為とみなして主権国は撤去してもかまいません。
しかし中国を恐れて腰が上がらず、結果として中国の主張に屈伏してしまっています。
岸田政権は、国際海洋法には明記されていないから撤去できないなどと言っていますが、反対でしょう。
中国は明記されていないことをやってきたのですから、毅然として撤去すればいいだけのことです。
力の信者である中国には、ひとつひとつ反撃せねば変わらないのです。

そういう腰の引けた対応をしているから、尖閣は侵犯され放しです。
中国海警局船は、既に尖閣のわが国領海を支配水域として管轄下に置き、日本の漁船や海保船が尖閣海域に入ろうものなら、不法侵入したとして退去命令をガナっています。
対する海保には県警レベルの予算しか与えられず、海軍のフリゲート艦を改造した中国海警に対処が困難になっています。

こういう状況に無策を決め込む岸田政権が、「安倍氏がやりたくてできなかったことを全部やった」ですか、冗談もほどほどに。
岸田氏が官僚だったなら優秀な公僕だったと思います。
大きな課題を与えられ、それを淡々と行政化するという仕事なら、彼はほんとうに向いていたことでしょう。
だから安倍氏の下で外務大臣をしているかぎり破綻はありませんでした。
しかし彼は政治家という「大きな絵」を描くことを生涯の仕事に選び、とうとうそのトップに立ちました。
すると彼の器の小ささが露になりました。
安保三文書でも経済安全保障にしても、あるいは自由で開かれたインド・太平洋構想にしても、なんのために、どうして今、誰に対して、こうせねばならないのかさっぱり伝わってこないのです。

岸田さんあなたが仕えた首相は、日本の政治家として異例に大きなスケールの政治家でした。
岸田氏が外務大臣の当時、カウンターパートナーだったマイク・ポンペオはいまでもこう言っています。

「ポンペオは日本を高く評価する。回顧録でも、故・安倍晋三元首相を「ものすごい勇気と構想力、知恵をもったグローバルリーダーで、真の意味での米国の友人」と称賛し、特にQUAD (日米豪印戦略対話)やFOIP(自由で開かれたインド太平洋)で大きな役割を果たしたと評価している。今年1月の来日時に行った講演では、日米などが協力すれば「善は必ず勝つ」と述べている」
日本製鉄「助言役」ポンペオ元国務長官の苛烈な中国観と野心と「大人の対応」:杉田弘毅 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト (fsight.jp)

たぶんあなたは安倍晋三という男に嫉妬を感じたはずです。
このような構想力、戦略性、そして人を惹きつけて止まない人間としての包容力、そしてなにより機関車のような実行力、それらすべては岸田氏に欠落しているものです。
あなたにできるのは党内人事くらいなものでした。
あなたは嫉妬のあまり安倍派を完膚なきまでに破壊しました。

そして安倍氏の残した遺産を己が成果として誇ったのです。
実に卑劣な人だと思います。

そのような岸田氏が「新生自民党」ですって、笑わせないで下さい。
あれだけ長く安倍氏の下で働きながら、その精神のかけらも学ばなかったあなたに言われたくはありません。

 

 

2024年8月14日 (水)

ウクライナ越境攻撃とロシア原油輸出

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茨城の霞ヶ浦高校が、な、なんと智弁和歌山をジャイアントキリングしてしまいました。
11回までもつれこんでの激闘。見応えがありました。
最遅88キロのヘロヘロを投げたかと思うと、次は120キロの速球という変幻自在の市村。
そして根性少年の継投の真中。彼が決勝点を叩き出しました。
いつも一回戦落ちしていたわが県ですが、今年は案外、行けそうかもしれません。

さてウクライナの越境攻撃について、分析がいくつかでています。
おおよそ予想どおり、東部戦線のロシア軍を領内に引き戻し、プーチン政権を不安定化させるといったものです。
たとえばCNNはこう書いています。

「ウクライナは6日、貴重な資源と新たな兵員を動員して、ロシア領の奥深くへ投入した。すぐに二つの効果が現れた。ロシアの失態とウクライナの前進を報じる見出し、そしてロシア軍は国境強化のために兵力を分散する必要があると説く見出しだ。ウクライナにとって不利なニュースが何週間も続き、ロシア軍がポクロフスクやスラビャンスクといったウクライナ軍の拠点へじりじり前進していることが報じられた後、今度はロシアが最も重要な前線、すなわち自国国境を強化する対応に迫られている」
(CNN8月12日)
ロシア領侵入、ウクライナ軍上層部が賭けに出た理由 - CNN.co.jp

たしかにロシア軍の兵力を分散さけることには有効な戦略ですが、しかしではなぜクルスクのスジャなのかを説明しきれません。
もうひとつの要素である、ロシアの唯一の輸出産業である原油輸出から見る視点が抜け落ちています。

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プーチン大統領 ロシア領からウクライナ軍の撃退を指示 | NHK | ウクライナ情勢

そこで原油輸出との関係で見てみましょう。
反攻作戦の挫折以来、ウクライナ軍は陸上兵力による攻撃を手控えて、もっぱらミサイルとドローンによる散発的攻撃に終始していました。
これはウクライナにおいても兵員不足が明らかになっており、部隊再編を余儀なくされているからだと見られていました。
しかし、ウクライナはその次の一手を密かに開始していたのです。

それが原油施設へのドローン攻撃です。
ウクライナのドローン攻撃は、国境から800キロの深さに達し、ロシアの黒海からバルト海に至る広い地域の主要石油精製施設を標的にしました。
陸戦において厳しい戦闘を強いられながらも、ウクライナはロシアの石油製品輸出や部隊に燃料を供給する能力に確実にボディブローを放ってきたのです。

越境攻撃以前の今年春から、ウクライナはロシアの原油施設を執拗に叩いてきました。

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AP  ウクライナ軍の大型ドローン

「ロシアはサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などとともに、第2四半期に輸出や生産を日量47.1万バレル減らすと発表していた。強制力を伴わない自主的な措置とみなされていたが、政府による減産命令で実効性が高まるとの見方が広がった。
ロシアはさらに輸出削減を徐々に緩和し、減産のみに軸足を移す方針だ。計画通りに削減が実施されれば、6月の生産量は日量約900万バレルとなる。
ロシアが減産に舵を切った背景に、ウクライナによるロシアの製油所への度重なる攻撃があることは言うまでもない。
ロイターの試算によれば、ウクライナのドローン(無人機)攻撃を受け稼働を停止したロシアの製油所の生産能力が合計で日量90万バレル(製油能力全体の14%)に達したという。ウクライナ東部の前線から800キロメートル離れた製油所も被害に遭っている」
(藤和彦2024年3月29日)
「恩を仇で返される」米バイデン政権、ウクライナのドローン攻撃とイスラエルの暴走がガソリン価格を高騰させる(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

かくして、ロシアは産油国でありがなら、市販のガス価格が高騰するという窮地に陥っています。

「産油国ロシアでガソリン価格が高騰している。ウクライナによるロシアの製油所への攻撃が相次ぎ、国内主要取引所での3月の卸売価格は2023年末から一時5割上昇した。政府は3月から半年間のガソリンの禁輸を決めた。
国内最大のサンクトペテルブルク商品・原料取引所によると、一般的なレギュラーガソリン(オクタン価95)の1トンあたりの価格は、24年3月下旬に昨年末比で一時5割高となる約6万5000ルーブル(約10万7000円)とおよそ半年ぶりの高値に急騰した。
4月に入っても6万ルーブル前後で推移している。
1月には南部クラスノダール地方にある石油大手ロスネフチの製油所への攻撃で火災が起きた。3月にはモスクワの南東にある西部リャザン州の製油所が標的となるなど、被害は10拠点以上に広がった。
ロシア政府は2月末、ガソリンの輸出を3月から6カ月間禁止すると発表した。ノワク副首相は「国内の需要増に対応し製油所を計画的に維持するため禁輸を決めた」と述べた」
(日経4月16日)
ロシアでガソリン高騰 ウクライナの製油所攻撃響く - 日本経済新聞 (nikkei.com)

とくにこのクラスノダール製油所に対する攻撃は衝撃的で、ここが稼働できなくなると、いくら生産しても貯蔵タンクに溜まるだけにすぎません。
貯蔵能力には限界があるためにロシアは減産に踏み切らざるをえませんでした。
今年2月のドローン攻撃ではロシアの原油処理能力の約5分の1を損傷を受け、3月にはいったん修復させたものの再び執拗な波状攻撃を受けています。

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Bloomberg

「ロシア領内深くにある3カ所の製油所が、ウクライナのドローン攻撃を受けて操業を停止した。プーチン大統領は今週の大統領選挙をウクライナが妨害しようとしていると主張した。
13日の攻撃で、モスクワ近郊にある国営石油会社ロスネフチの国内最大級の製油所が炎上。南部ロストフ州の比較的小規模なノボシャフチンスク製油所もドローン攻撃で稼働を停止。前日には石油大手ルクオイルのノルシ製油所も同様の事態に見舞われていた
(ブルームバーク3月13日)
ロシア、製油所3カ所が操業停止-ウクライナはドローン攻撃激化 - Bloomberg

とうとうモスクワ近郊の石油施設まで攻撃を受けたプーチンは今週の大統領選挙をウクライナが妨害しようとしていると主張していますが、そのような短期的なものではないことがすぐにわかるようになります。

いま思うと、それは今回の越境攻撃の準備活動でした。
ウクライナ軍は、米国から供与されたお宝のATACMS(エイタクムス)はもっぱらクリミアの軍事施設に投入し、安価で大量に保有している大型ドローンを使ってロシア領内の原油施設を攻撃し続けてきました。
このうち今回占拠したと伝えられるスジャには、ガスプロムのパイプライン中継基地が存在し、ここを押さえられると西へ原油を送ることが不可能になるツボです。
これがボディブローのように効いてきていました。
そしてボディブローからストレートパンチを繰り出したのが、今回の越境攻撃でした。

ロシア官営のスプートニクはツイッター(X)で、西側の原油価格が上がるぞ、いいのかと憎々しげに書いています。

「ウクライナによるスジャ攻撃により、欧州では天然ガスの価格が値上がりし始めている。シュペトレ氏はハンガリーのように、ウクライナに武器供与を行わない国々に対する切り札を手にするため、パイプラインを管理下に置こうとしていると分析した。
また、スジャへの攻撃は米国とも調整済みと示唆した。ロシア産ガスが欧州市場から撤退すれば、オーストリアなどの中立国は米国産LNGに切り替え、これにより親欧米路線を強めると見られている。
ロンドンICE取引所のデータによると、ウクライナ経由で供給されるロシア産ガスの輸送に対する懸念を背景に、8日の取引終了時点で欧州のガス価格は5%近く上昇し、1000㎥当たり455ドルとなった。
スジャ・ガス測定所を経由する供給ルートは現在、ロシアからウクライナを経由して欧州へガスを輸送する唯一のルート。露ガスプロム社は2023年、このパイプラインを通じて年間約150億㎥を供給したが、これはEUで消費される総量の4.5%に相当する」
XユーザーのSputnik 日本

ウクライナが進撃したスジャを通過するパイプラインは、このようになっています。
スジャ・ガス中継基地を経由する供給ルートは、現在、ロシアからウクライナを経由して欧州へガスを輸送する唯一のルートで、ガスプロムは2023年、このパイプラインを通じて年間約150億㎥を供給しましたが、これはEUで消費される総量の4.5%に相当します。

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ロシア、サウスストリームパイプライン計画着工 - 化学業界の話題 (knak.jp)

ウクライナによるスジャ攻撃により、欧州では天然ガスの価格が値上がりし始めています。
ロンドンICE取引所のデータによると、ウクライナ経由で供給されるロシア産ガスの輸送に対する懸念を背景に、8日の取引終了時点で欧州のガス価格は5%近く上昇し、1000㎥当たり455ドルとなっています。

米国や西ヨーロッパの本音はこのような石油施設への攻撃は止めてほしいのでしょうが、、ウクライナにとっては大きな切り札を握ったことになります。

 

2024年8月13日 (火)

ウクライナ軍、ロシア領内に進撃

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世界中の専門家がびっくりしたようですが、私も充分に驚きました。
なんとウクライナがロシア領に侵攻したのです。
あらかじめ申し上げておきますが、これは国際法上の侵略には相当しません。
戦争において敵の策源地を攻撃することは、まったく正当な反撃行為とみなされます。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーは10日、国境を接するロシア西部クルスク州で自軍が越境攻撃を行っていることを初めて認めた。クルスク州をめぐってはロシアが6日に攻撃を受けたと発表し、後に同州に非常事態が宣言されていた
ゼレンスキー大統領は10日夜のテレビ演説で、ウクライナ軍が「侵略者の領内へと」戦争を押し込んでいると述べた。
ウクライナ軍の越境攻撃はロシアに不意打ちを食らわせ、両国の国境沿いで大規模な避難を引き起こした。(略)
複数報道によると、ウクライナ軍は国境から10キロ以上離れた地点に到達し、町の一つを占拠しようとしている。2022年にロシアの全面侵攻が始まって以来、ウクライナがこれほどロシア領内で前進するのはこれが初めて。
クルスク州では11日早朝、13人が負傷(うち2人は重傷)したと、同州のアレクセイ・スミルノフ知事代行は述べた。
ロシア国営タス通信によると、国境地帯からはすでに7万6000人以上が避難した。スミルノフ氏は11日、民間人を安全な場所へ避難させる作業を加速させるよう、関係当局に命じたと述べた」
(BBC8月11日)
ロシアへの越境攻撃、ゼレンスキー氏が認める 戦争を「侵略者の領内に押し込んでいる」 - BBCニュース

英国とフランスはストームシャドウとスカルプ供与していましたが、米国はさんざん躊躇したあげくこの4月になってようやくウクライナに対し最大射程300キロの地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)の供与を開始したばかりです。
これもウクライナ軍にロシア領内を攻撃させないためです。

ドイツは長距離巡航ミサイルのタウルスの供与をウクライナから再三要請されてきましたが、その理由をショルツ首相は、「タウルスは射程距離500キロだ。ウクライナ領土を超えてロシア領土まで飛行した場合、ロシア側の反発が予想される」というものでした。

つまり、NATOや米国は、ウクライナに対してのミサイルに制限をかけ、勝手にレッドラインを引いていたわけです。
しかし少し考えてみればわかるように、いまロシアはロシア領内からミサイルやドローンを雨あられと撃ってきているわけで、この発射基地をつぶさない限り止められません。

こういう相手の発射基地や備蓄基地などの兵站がある地域を策源地と呼びます。
可能か可能でないかを別にすれば、ウクライナがロシアの策源地を攻撃するのは軍事的にはいたって常識です。

今回ゼレンスキーは米国のレッドラインを無視して、だれも予測し得なかったロシア領クルスクに侵攻してみせたわけです。
ロイターによれば、米国への事前通知はなかったようで、まぁ、していたら許さなかったでしょうが。
今後はこの越境攻撃をいかに西側諸国に納得させるかが問題となります。

「ロシア国防省によると、ウクライナ側の勢力はモスクワの南西530キロメートルのクルスク州スジャの北西に進撃した。米政府は越境攻撃について事前に知らされていなかったとし、紛争激化の恐れがあるとウクライナに警告した。
スジャの北東60キロの地点にはクルスク原子力発電所がある。親ロシア派軍事ブロガーのユーリー・ポドリャカ氏によると、クルスク原発まであと約30キロの地点で激しい戦闘が行われている」
(ロイター8月9日)

ウクライナのロシア越境攻撃、3日目に突入 米政府「事前の連絡なかった」(ロイター) - Yahoo!ニュース

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ウクライナの焦点:クルスク攻勢は戦争を再形成する可能性があるか?- ザ・スペクテイター (deal.town)

侵攻したスジャの北東60キロにはロシアのクルスク原発があり、ウクライナ軍は30キロまで迫っているようです。


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BBCニュース

ウクライナ軍の1000人(数個廉価いから旅団規模)は数十台の戦車と装甲車両を伴って、国境線を突破しクルスクのガスプロムの施設を占領しました。
主力は精鋭の西側戦車装備の機械化旅団か、空挺部隊だと思われます。

下の写真が公表されており、これについてBBC検証チームは本物であると確認しています。

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BBC

「ロシアによると、最大1000人のウクライナ兵は6日朝、戦車や装甲車の援護を受けながらクルスク州に侵入した。
これ以降、ウクライナ軍は多数の村を占拠し、クルスク州の町スジャにも迫っているとされる。
9日には、スジャと、ロシアのエネルギー大手ガスプロムが所有する主要ガス施設を制圧したと主張するウクライナの武装兵とされる動画が浮上した。
BBCヴェリファイ(検証チーム)はこの動画が確かに、ウクライナ国境から約7キロ離れたスジャの北西郊外にあるガスプロム社施設で撮影されたものだと確認した。この映像だけでは、ウクライナ軍が町全体を占拠したとする主張が事実かどうかは、検証できない。
ロシアの軍事ブロガーたちはこれより先に、スジャはロシア側が掌握していると主張していた」
(BBC前掲)

一方、ロシア側は情報筋からウクライナ軍が国境付近に集結していることを2週間も前に知っていたようです。
しかしそれを伝えられたゲラシモフ参謀総長が無視したとのこと。

「ロシアでゲラシモフ参謀総長を批判する声が広がっている。2022年の侵攻以来で最大規模のウクライナによるロシア越境攻撃が起きたことをきっかけに、同氏への不満がくすぶっている。
クレムリンに近い関係者によれば、ウクライナ軍がロシア西部クルスク州との国境付近に部隊を集結させているとの情報を、すでに越境攻撃の2週間前に入手していたにもかかわらず、ゲラシモフ参謀総長と高官らはこれを重視せず、誰もプーチン大統領に報告していなかった。国内のロシア軍は不意を突かれ、ウクライナの進撃に対して初動が遅れた。
ゲラシモフ参謀総長が近く解任される可能性は低いが、クレムリン内では同氏の不手際にしびれを切らしていると、その関係者は扱いに注意を要する話だとして匿名で述べた」
(ブルームバーク8月8日)
ロシア内で参謀総長への批判渦巻く、ウクライナの攻撃で非常事態宣言 - Bloomberg

果たしてプーチンがどのていど知っていたのか、今後を見ないとわかりませんが、独裁国家というのはこういう情報の目詰まりを往々にして起こすものです。
これもなにやらハマスの攻撃を予知した情報を握りつぶしたネタニヤフに似ています。

同時に、首都モスクワ南方リペツク州の空軍基地にウクライナ軍の大規模なドローン攻撃があったようです。

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ウクライナ軍の越境攻撃 100平方キロメートル制圧か ロシア西部の軍飛行場にもドローン攻撃|TBS NEWS DIG (youtube.com)

「[キーウ 9日 ロイター] - ウクライナ軍は9日、ロシア西部リペツク州のロシア軍飛行場を同日未明に攻撃し、保管されていた誘導爆弾を破壊したと発表した。攻撃により一連の爆発が起きたとしている。
ウクライナはロシアの空爆能力やミサイル発射能力を弱めるため、ロシアの空軍基地を攻撃している。
ウクライナ軍は通信アプリ「テレグラム」に「大規模な火災が発生し、複数の爆発が起きた」と投稿。攻撃対象となったのロシアの軍用機Su-34、Su-35、MiG-31を駐機する飛行場だったという。
治安当局者がロイターに明らかにしたところによると、攻撃はドローン(無人機)で行われた。飛行場には数十機の航空機とヘリコプターが駐機していたほか、700発の誘導爆弾を格納した倉庫もあった」
(ロイター8月9日)
ロシア西部の軍飛行場を攻撃、ウクライナ発表 誘導爆弾破壊 | ロイター (reuters.com)

このリペック空軍基地はウクライナ空爆の拠点の一つで、ウクライナが恨み骨髄の空軍基地です。
現在、ロシア軍は衝撃から立ち直り、クルスクに軍を集中させているようです。

ウクライナの意図はプーチンに対する政治的揺さぶり、クルスク方面にロシア軍を拘置することによって東部戦線に対する圧力を軽減することなどかんがえられますが、今日は情報収集のみとさせていただきます。

 

 

 

2024年8月12日 (月)

ウクライナ空軍、F-16の実戦配備始まる

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ウクライナ戦争をめぐって、ふたつの大きな出来事がありました。
ひとつは祝賀すべきこと、いまひとつはやや複雑な心境になることです。

まずいいほうのニュースから。
首がろくろ首になるほど待ち望んでいたF-16がウクライナ現地に入り、とうとう実戦配備されたようです。
ウクライナ空軍は、これまで旧ソ連製のMiG-29や、Su-27といったポンコツを運用してこざるをえませんでした。
奮闘したのですが、戦闘でだいぶ損耗したうえに、長距離ミサイルなどの西側兵器を搭載できません。
たとえばストームシャドーを果敢に撃っているのは、Su-24攻撃機を魔改造したもので、自ずと限界があります。
そのために、毎日何百発とロシアが撃ちまくってくるミサイルに対しては、各種地対空ミサイルシステムで対応してきました。
しかしF-16の導入によって、今後、ウクライナ空軍は初めて戦闘機による領空防衛が行えるようになりました。

F-16をウクライナに供与するには製造国の米国の第三者譲渡許可が必要です。
ロシアを刺激したくないバイデンがなかなか供与を認めず、ゼレンスキーは広島サミットにまで足を運んでやっと譲渡を認めさせました。
戦争の初期からF-16を供与する努力をしていたらと思います。
バイデンはそれなりによくやっていると言って上げたいのですが、腰の定まらなさというか思い切りの悪さが後になって祟ります。
そもそも彼が副大統領だった時に起きたロシアのクリミア侵攻時に、大規模な支援をしていたら、ウクライナ戦争は起きませんでしたからね。
戦争が膠着し、ウクライナが押されている状況でやっとですから、間に合えばいいのですが。
今回も配備される基地は明らかになっていませんが、基地の守りを固めないと、ロシアはここを徹底的にミサイル攻撃するはずですのでご注意ください。

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Volodymyr Zelenskyy / Володимир Зеленський(@ZelenskyyUa)さん / X

「ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、米国製戦闘機F16が到着し、ウクライナのパイロットによる国内での運用が始まったと明らかにした。
空軍基地で同戦闘機2機の前でパイロットと面会し、「F16はウクライナに到着した。同機を乗りこなし、国のために既に使用し始めた(兵士らを)誇りに思う」と述べた。
また「ウクライナ軍の航空戦力強化は新たな段階に入った」と強調した。
F16到着はウクライナにとって大きな節目となるが、使用できる機数や防空強化、戦況にどの程度の影響をもたらすかは不透明だ。
ロシアはF16が配備されている可能性のある基地を攻撃しているほか、撃墜する構えも示している。
ゼレンスキー氏はF16を使いこなす訓練を受けたパイロットも、戦闘機の機数自体もまだ十分ではないと述べた。その上で、パートナー国がウクライナのパイロットと技術者を訓練する機会を拡大することが重要だと訴えた」
(ロイター8月4日)
ウクライナ大統領、F16配備を発表 航空戦力「新たな段階」 | ロイター (reuters.com)

今回受領したのは元デンマーク空軍のF-16AM/BM です。
デンマークがF-35を導入するために不要になったので、ウクライナ譲渡が実現しました。
下図が各国のF-16の供与数です。
米国は空欄ですが、おそらく37機だと見られています。(2000機以上保有しているのにケチくさい)
20240811-164445
mod.go.jp
またその性能について、防衛省はこのように述べています。
20240811-165011
mod.go.jp
「デンマーク、オランダ及びノルウェーから供与される機体は F-16AM/BM であるとされる13。AN/ASQ-213 センサーポッドを備え、AGM-88 対レーダーミサイル(HARM)を搭載した場合、約 130km 先の敵防空施設を攻撃できるとされる。ウクライナ空軍が運用する R-27ER 空対空ミサイルと、F-16 に搭載する AIM-120C 空対空ミサイル(AMRAAM)を比較すると、AMRAAM のほうがわずかに長射程となる上、セミアクティブレーダー方式の R-27ER と異なり AMRAAM は撃ちっぱなし(fire and forget)ミサイルであるため、射撃後即離脱することができる。F-16 は搭載レーダーの探知距離及び電子戦システムにおいても、MiG-29 を上回るとされる。また、リンク 16 戦術データリンクにも対応しており、ペトリオットや AWACS と連接可能である」
Microsoft Word - %û F-16ł h¨¹«ìü·çó_Ró P  
そしてここがキモなのですが、F-16AM/BMはブロック50/52相当にMLU(中期アップデート)プログラムされていますから、対レーダーミサイルHARMや長距離巡航ミサイルストームシャドーも装備できるはずです。
「Block 50/52の後期生産型。レーダーは能力強化型のAN/APG-68(V)7/(V)8が搭載され、JDAMJSOWの運用能力が付加された他、防空網制圧 (SEAD) 任務用装備として、フルスペックでのAGM-88 HARM対レーダーミサイルとASQ-213 HTS(HARM照準システム)ポッドの運用能力を生産段階で追加。後に以前のBlock 50/52も全てこの仕様となった」
ようやくロシア戦闘機と戦える…! 間もなく誕生「F-16ウクライナ仕様」で戦況が激変するワケ | 乗りものニュース (trafficnews.jp)
かなり古い機体ですが、オランダとデンマークの両空軍はMLU(中期アップデート)プログラムと呼ばれる寿命延長・近代化改修を受けていますから、最新鋭のF-16Vほどではないものの、十分にロシア軍戦闘機と戦える性能を有しています。
デンマークとオランダは、このF-16をオーバーホールして重整備した後に供与します。
両国で45機、米国供与分を合わせて、英誌エコノミスト(8月4日付け)によれば、供与予定のF16計79機のうち、7月末に10機が引き渡され、年末までに約20機が配備される見通しだそうです。
来年までには、おおよそ3~4飛行隊分が揃うはずです。
兵装としては、翼下のパイロンの形状からこのようなものだと推測できます。
ただし、ウクライナはパイロンの種類や形状について、搭載兵装と直結するものとして軍事機密として秘匿しているはずですので、現時点で見せていいものと思って下さい。
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F-16戦闘機の受領を「ウクライナ空軍の日」に公式発表(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース
「これらを搭載した空対空装備です。PIDS+はベルギーのテルマ社が設計したもので、パイロンなのでこの下に更に別の兵装を吊り下げることも可能です。テルマ社にはECIPS+(ミサイル警戒装置+電子妨害システム内蔵パイロン)という製品もあり、1機の戦闘機の左右の主翼の片側にPIDS+、もう片側にECIPS+を積む運用ができます が、問題はパイロットが充足できるかです」
(JSF) 

このパイロンから見てとれるのは、ウクライナ空軍は当初は空対空兵装を使って、比較的安全な巡航ミサイルやドローンの迎撃に使うと見られます。
なんせウクライナ空軍が供与話が持ち上がってから丸々1年半かけても、いまだF-16に機種転換できたパイロットはお宝です。
機体は今年の末までに約80機が手元に到着するでしょうが、おそらくはそれを操縦できるパイロットはその3分の1もいないはずです。
ですから、機種転換訓練を終わったパイロットが教官となって操縦可能な者をふやしていくという気長なことをせねばなりません。
その間F-16は、ストームシャドー巡航ミサイルを使った攻撃は控えて、力を蓄えていくことになるでしょう。

そしてもうひとつの情勢変化は、ウクライナ軍がロシア領に侵入しました。
これについては次回に。

 

 

 

2024年8月11日 (日)

日曜写真館 ここに咲けば青きばかりに百合白き

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偽りのなき香を放ち山の百合 飯田龍太

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いよよ咲く百合よ歓喜の蕊(しべ)放ち 林翔

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こころに棲む人あり百合の青莟 山田みづえ 

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今生のこれも夢なる百合の風 石塚友二

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すかし百合わが裡に咲く一花のみ 斎藤玄

 

2024年8月10日 (土)

わかっているのかな、長崎市、これはリッパな二重外交ですよ

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長崎市がイスラエル大使の原爆の日の式典に参加を拒否したことで、波紋がひろがっています。

「長崎市の鈴木史朗市長は8日、9日に開く平和祈念式典にイスラエルを招かない判断を巡り、報道陣の取材に応じた。イスラエルの招待を要求していた米欧の駐日大使らは相次いで式典欠席を決めており、鈴木市長は「(不招待は)政治的理由ではないが、十分に理解いただけていない結果」と受け止めつつ、判断は変えないと明言。理由について「平穏かつ厳粛に式典ができるよう心を配る中での判断」とあらためて強調した。
 日本を除く先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の駐日大使らは、イスラエルの招待を保留していた市に対し、7月19日付の書簡でイスラエルの招待を求めた。鈴木市長は25日に郵送で受け取り、31日には不招待を決定。パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルには国際的批判がある中、抗議活動など式典運営に影響を及ぼす「不測の事態」の発生リスクなどを考慮した」
(長崎新聞8月7日)

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長崎の平和祈念式典、イスラエルを招待せず 長崎市長「リスク懸念」 [核といのちを考える] [長崎県]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

左右入り乱れての論戦になっているようで、イスラエル・ポジションとパレスチナ・ポジションの代理戦争になっています。ああ暑苦しい。
整理してみます。
まず、長崎市鈴木市長の説明はこのようです。

①不測の事態発生の懸念。
③あらゆる国参加してほしいと思うので残念。
④イスラエルの招待拒否は政治的判断ではない。

鈴木市長は、政治的判断ではないと言っています。
しかしこれは単に慰霊式典に政治を介入させたという非難を回避するためでしょう。
なぜなら、「政治的」というならば、もはや自治体の手の届かない国際問題にまで発展しているからです。
ここまで暴れてしまって、いまさら「これは政治的判断ではない」、っていわれてもね。

ここまで大事になったのは、G7大使らは長崎市のこの行為をユダヤ人差別だと考えているからです。

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長崎市の平和祈念式典を欠席したアメリカの駐日大使ら 東京・増上寺の追悼会に参列(FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) - Yahoo!ニュース

主要国の式典ボイコットを主導したのはエマニュエル米大使だったようです。
投下国の米国は主賓ですから、大使の名前くらいはちゃんと知っていなければなりません。
その名はセラーム・イスラエル・エマニュエルといい、名前からもわかるように父親はイスラエルからのユダヤ人移民です。
しかもこの父親はただ者ではなく、武装組織イルグンに加わっていました。
イルグンはいまでこそ政権党のリクードに改編されていますが、独立運動を戦った筋金入りのシオニスト強硬派です。
ウィキで検索すれば、彼の父ベンジャミン・エマニュエルは主要メンバーで登場します。
エツェル - Wikipedia
そういった父からセラーム・イスラエル(ヘブライ語で「高貴なイスラエル」)という名をもらったエマニュエルは、子供の頃から徹底したシオニズム教育を受けたはずです。
ですから、主義主張でイスラエル支援をしているのではなく「血と骨」で考えているのです。

エマニュエル大使はLGBTでもたいそう内政干渉してくれましたが、イスラエル支援においても同じです。
好むと好まざるとにかかわらず、この人はこういうことをする人物なのです。
外務省北米局ならば、イスラエルを式典からパージしたならこの大使が必ずボイコットに走る、しかもG7各国に呼びかけるだろうくらいの予想はついていたはずです。
主賓が式典ボイコットを呼びかけたのですから、もはや国際問題です。
だから政府は長崎市に翻意を要求したようですが、鈴木氏は耳を貸さなかったようです。
やれやれ。これをさすがだと褒めそやす人もいるようですが、ただの井の中の蛙にすぎません。

「与党幹部によると、政府は長崎市がイスラエルを式典に招待しないことを決め、各国大使らが反発していることが分かると、外交問題に発展する事態を懸念。鈴木史朗市長と関係のある現職閣僚や元参院議員を通じて水面下で翻意を促したが、市の方針は変わらなかった。
林芳正官房長官は8日の記者会見で、「式典は長崎市主催行事だ。各国外交団の出欠についてコメントする立場にない」と述べるにとどめた。首相周辺は「日本政府も招待される側だ」と語り、打つ手には限りがあったと強調している」
(爺8月9日)
政府、核軍縮への影響懸念 G7大使の長崎式典欠席 原爆忌(時事通信) - Yahoo!ニュース

たぶん鈴木市長は、エマニュエル大使がユダヤ人であることさえ知らなかったのではないでしょうか。
原爆投下国の米国が来ない慰霊式典はありえない以上、米大使が来ないということがわかった時点で「あらゆる国」の参加に切り換えるべきでした。
ところが外交などをみじんも考えていない鈴木市長は左翼少年のような正義感でやってしまい、ガザ戦争のもうひとつの側面であるユダヤ人差別というテーマをまったくわかろうともしなかったのです。
そして自分が最大の「不測の事態」となってしまいました。

メディアは感傷的平和主義ですから、「政治的理由ではない」という長崎市長の主観だけを強調して報じています。

長崎市で9日に行われる平和祈念式典にイスラエルが招待されなかったことに対し、米英の駐日大使らが式典の欠席を決めたことについて、長崎市の鈴木史朗市長は8日朝、「(招待を見送ったのは)政治的な理由ではない。私の判断の真意が伝わっていない」などと語った」
(朝日8月8日)
長崎市長「政治的理由でない」イスラエル招待見送り 大使側にも説明:朝日新聞デジタル (asahi.com)

そしてG7大使が出席しないとなると、「どうして理解してもらえないのか」という子供のような感情論を振り回します。
鈴木市長は、G7の怒りを理解していません。
G7大使は連名で書簡を長崎市に送付しています。

「7月19日付の書簡は米英独仏伊とカナダの6か国と欧州連合(EU)の大使らの連名で、同市が、ロシアと同国を支援するベラルーシを招待していないことに触れ、「イスラエルを同列に置くことは誤解を招く」と懸念を表明した。一方、市は同月末、イスラエルが攻撃を続けているパレスチナ自治区ガザの状況などを踏まえ、式典で不測の事態が発生するリスクを考慮したとして、招待しないと発表していた」
(読売8月8日)
イスラエル招待しなかった長崎市長「苦渋の決断」…6か国大使の欠席「理解求めたが平行線だった」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

G7大使が連名で書簡を出し懸念を表明するということ自体、きわめて危険なシグナルです。
たぶん今後日本は、核軍縮のイニシャチブを失うでしょう。
岸田氏のライフワークの「核なき世界」構築はもうさんざんです。

なんせイスラエルは呼ばずに、呼んだのはパレスチナ自治政府ですから、懸念を表明しているG7に喧嘩を売っているようなものです。
「あらゆる国を呼ぶ」と言いながら、ガザ戦争の一方の当事者であるパレスチナ自治政府を呼ぶのですからダブスタも極まれりです。
パレスチナ自治政府はそもそも国際的に承認された「国」ではありませんし、その「政府」には多数のハマスが含まれているのはよく知られている事実です。

自治政府に所属するハマスが去年10月7日に、イスラエル人を大量に虐殺し、人質に取った、これがガザ戦争の発端でした。
ここを忘れてイスラエルだけを非難するのは片手落ちというもんです。

イスラエルを過剰な反撃したとして非難したいのなら、同時にハマスのテロを引き起こしたパレスチナ自治政府も同時に非難し、出席を認めるべきではありませんでした。
それでなくては筋が通りません。
というか、鈴木氏はガザ戦争の「即時停戦」はイスラエルの意志だけでどうにでもなると思っているようです。
だから長崎市は6月にG7とイスラエルに即時停戦を求める書簡を送っていますが、パレスチナ自治政府にはなんのアクションもしていないようです。

「6月、鈴木氏は、長崎がイスラエル大使館にガザでの「即時停戦」を求める書簡を送ったと述べた」
(BBC8月9日)
欧米大使はイスラエルの冷遇をめぐる長崎式典を敬遠 (bbc.com)

おっと、オカシイですね。「即時停戦」を求めるならば、当事者双方に書簡を送るべきでしょう。
それを片方だけに「書簡」を送り、はかばかしい回答がないからといって招待を拒否する、なんて手前勝手なことよ。
停戦交渉が停滞しているのは、イスラエルだけのせいではないことを知っているのかしら。

これはただのダブルスタンダードでは済みません。
まず、わかっているのかな、鈴木市長。これは二重外交です。
外国は国の専管事項ですが、市レベルが容喙できることではありません。

この二重外交は沖縄特産とでも言うべき悪習ですが、政府方針とまったく異なることを自治体が独走します。
とばっちりは国のほうに行きますが、自治体は知らぬ顔の半兵衛です。

そしてなんども繰り返し、日本外交を傷つけています。

鈴木市長が個人の思想信条としてイスラエルを非難するのは勝手ですが、それは国の見解とは異なります。
準国家行事である慰霊式典を、自分の鈴木氏の個人的見解より優先させることはできません。
結果、今回の出来事は、昨今の世界を覆おうとしているおぞましい反ユダヤ主義に加担してしまいました。

では、イスラエルを招いたとして「不足の事態が起きた」でしょうか。
たしかに広島の式典でも、時代錯誤のヘルメットを被った過激派が騒ぎを演じようとしましたが、排除されています。
なおどーでもいいですが、この男のメットには「お前の未来のために戦っている」と書いてあります。
余計なお世話です。こういうオレはお前を解放してやるという意識が戦争を招くのです。ああ、胸くそが悪い。

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(産経新聞

「米軍の原爆投下から79年となる6日、広島市の平和記念公園では午前8時から記念式典が開かれる。市は今年、公園内の規制を強化し、式典開催中の大規模な集会を事実上禁じた。同日早朝、規制のため公園の利用者をいったん外に出そうとしたが、「反戦・反核」を訴える団体は拒否。「集会弾圧を許さないぞ」などとシュプレヒコールし、公園内には怒号が響きわたった」
(産経8月6日)
「帰れ、帰れ!」原爆の日・平和記念公園で怒号、広島市の警備強化に反戦・反核団体が猛反発(産経新聞) - Yahoo!ニュース

過激派のプラカードには「ガザ虐殺をやめろ」とあり、ここで抗議をしているのはイスラエルが招待されているからのようです。
つまり、広島市は彼らの政治的主張に屈せず、長崎市は屈したということになります。
それが「不測の事態を避ける」内容だというなら、過激派に長崎市が屈伏したということになります。
それでよいのでしょうか。

いずれにしても、沖縄や被爆自治体がその置かれた歴史でなんでも出来る特権を持てると思っているなら、とんでもないことになりますよ。

 

2024年8月 9日 (金)

日本潰すにゃ軍隊はいらぬ、日銀総裁に馬鹿あてがえばよい

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宮崎沖地震心配しております。いかがだったでしょうか。
南海トラフと連動するかもしれないとのこと、いやーな気分です。
南海トラフが起きたときに、立憲共産党が政権を握っていたら絶望的ですもんね。

さて昨日の続きです。
今回の世界同時株安で、わが国だけが突出した下げを見せた原因は、中央銀行のご乱心にあります。
本来、世界株安に対しては不況に突入しないように利下げをするべきを、真逆の利上げをしたのですから、アクセルとブレーキの踏み間違い。
当然さらに大暴落となってしまいました。あたりまえです。

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Xユーザーのとーのさん

「以上3要因のうち、日本株の突出した下落が日銀の利上げに端を発していたのは明らかである。市場の戸惑いの中心は、植田総裁の姿勢の急変である。従来の説明に基づくなら7月の利上げは考えにくかった。
植田総裁が説明してきた金融引き締めの条件、「賃金と物価の好循環」が始まっているとは到底言い切れない。5月の実質賃金は前年比-1.3%と26カ月連続の水面下にある。
秋口にはプラスに転ずる可能性はあるものの、来年まで浮上は無理との見方もある。また実質消費支出(前年比)を見ても1月-6.3%、2月-0.5%、3月-1.2%、4月0.5%、5月-1.8%とマイナス基調から抜け出せていない。こうしたことから日銀は7月の展望レポートにおいて2024年度の実質成長率見通しを0.8%から0.6%に引き下げた。植田総裁はデータ重視と言いながら、データが明らかになる前に利上げに踏み切っており、明らかに前のめりと言える」
(武者リサーチ8月4日)

植田氏は利上げした理由を、自信たっぷりに「賃金と景気の好循環が生まれている」といっていますが、うそです。
日本経済は回復の兆しを見せているだけで、実質賃金はいまだマイナスで、経済の6割を占める個人消費は低迷したままです。

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Business Journal

「しかし、景気の先行きは厳しい。企業の設備投資意欲は堅調だが、個人消費は10~12月期に前期比0.3%減と、速報値の0.2%減から下方修正となった。個人消費のマイナスは3四半期連続。実質賃金は今年1月まで22カ月連続で減少しており、物価高に賃金の上昇が追い付かないままでは消費の冷え込みが続く。」
( Business Journal 2024年3月12日)
消費弱く、再びマイナスも=10~12月期GDP、2期ぶりプラス | ビジネスジャーナル (biz-journal.jp)

このような個人消費の冷え込みがあるにもかかわらず、利上げをすればどうなるか火を見るより明らかです。
たとえば変動金利の住宅ローンは一斉に上がり、中堅層は家計の見直しを迫られましたし、勤める会社もより高い金利で市中銀行から資金を調達せねばならず苦境に落ち込ます。
それを大方の市場関係者はわかっていたから、よもやこんな時期に利上げをするなどという馬鹿なことはしまいと観測していたのです。
それを植田氏は真正面から裏切りました。

「日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を0.1%から0.25%へと利上げした。債券関係者に対する事前の調査では、「日銀は利上げを見送る」との予想が74%だったので、意外感があった。
ただし、見送るという予想の根拠は、「円高基調になっているので早急な利上げの必要性が薄れた」というものだった。為替のために金利を動かすというのは、インフレ目標下での金融政策として不合理で、債券関係者の肌感覚としては見送りが妥当だったのだろう」
(高橋洋一8月5日)
植田日銀の「利上げ」は意味不明…日本経済をブチ壊し、雇用も賃金も押し下げる「岸田政権の大失策」になりかねない(髙橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(1/7) (gendai.media)

この必然性のない植田日銀の利上げにより、日本の金融政策に対しての不信感が一気に拡がりました。
元来、植田氏は利上げ前のめり論者と見られていましたが、メディアと一部政治家が「円安阻止のために利上げをすべし」と金利政策の「正常化」を迫る中でなんとか我慢してものが、一気に崩壊したようです。

「日本株の突出した下落が日銀の利上げに端を発していたのは明らかである。市場の戸惑いの中心は植田総裁の姿勢の急変である。従来の説明に基づくなら7月の利上げは考えにくかった。植田総裁が説明してきた金融引き締めの条件、「賃金と物価の好循環」が始まっているとは到底言い切れない。
5月の実質賃金は前年比-1.3%と26カ月連続の水面下にある。秋口にはプラスに転ずる可能性はあるものの、来年まで浮上は無理との見方もある。
また実質消費支出(前年比)を見ても1月-6.3%、2月-0.5%、3月-1.2%、4月0.5%、5月-1.8%とマイナス基調から抜け出せていない。こうしたことから日銀は7月の展望レポートにおいて2024年度の実質成長率見通しを0.8%から0.6%に引き下げた。植田総裁はデータ重視と言いながら、データが明らかになる前に利上げに踏み切っており、明らかに前のめりと言える」
「円安悪玉論」が株価を殺す | 武者リサーチ (musha.co.jp)

そのうえにこのザックリ開いた市場の傷口に塩をなすり込むように、植田氏は年内にさらなる利上げをするというタカ派のメッセージを出してしまいました。

「日本銀行が追加金利を引き上げた31日の金融政策決定会合後の記者会見で、植田和男総裁は今後数回の利上げにも前向きな姿勢をにじませた。総裁発言をタカ派と受けとめた市場では、早くも年内追加利上げの見方が浮上している。
日銀が決定した政策金利の水準は0.25%程度。植田総裁は、2年以上にわたって目標の2%を超えているインフレを踏まえると、「実質金利は非常に深いマイナスにある」と何度も強調した。低い実質金利を続けることで「急激な調整を強いられる」先行きリスクに早めに手を打った対応との見解も示した。
その上で、現在の政策金利は景気や物価に景気を過熱させず冷やしもしない中立金利に比べてかなり下の水準にあり、今回の利上げは「そこの範囲での調整だ」と説明。中立金利自体に大幅な不確実性があるが、しばらくはその不確実な領域に入ることはないとの認識を示した。過去の利上げ局面において上限となった「0.5%の壁」も「特に意識していない」と語った」
(ブルームバーク7月31日)

植田日銀総裁が利上げに積極姿勢、タカ派発信で年内追加観測も浮上 - Bloomberg

本来、利上げを行った直後は、金融市場が混乱するために一定期間はフリーハンドであるべきなのですが、船が傾く嵐の真っ最中に船長がこれじゃ足りない、オレは船底の栓を抜くつもりだと言ったわけで、もはや正気の沙汰ではありません。

実はこの植田ショックを決めた政策決定会合直前に、総裁選挙にも出馬をしようという政府要人の3人が日銀に利上げを求めていました。
岸田首相を筆頭に、茂木幹事長と河野デジタル大臣などです。

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「7月30~31日の日銀の政策決定会合を前には、岸田文雄首相の後継を狙う自民党の茂木敏充幹事長と河野太郎デジタル相という「ポスト岸田」候補の2人から、日銀に追加利上げを求める発言があった。その際も、日米で開いていた金利差が今後縮小するとの見通しから、円相場は対ドルで上昇している。
その後、日銀はこの政府要職2人の発言を受けるような格好で追加利上げを決めたため、市場の一部では独立性が求めらられる日銀への不信感が募っていた」
(産経9月7日)
相次ぐ口先介入で市場が乱高下 今度は日銀の内田真一副総裁、信頼性低下の懸念も - 産経ニュース (sankei.com)

呆れた不見識で、岸田、茂木と河野の3名も大暴落と円高の戦犯指定をしてよいでしょう。
また政策決定会合において、この殿ご乱心に反対したのは、安倍、菅氏が任命した2名のみで、他は岸田政権が任命した審議委員たちでした。

「利上げに賛成は植田総裁、氷見野副総裁、内田副総裁、安達委員、中川委員、高田委員、田村委員。いっぽう反対は中村委員、野口委員だった。賛成の幹部は岸田政権での任命者5名と安倍・菅政権での任命者2名、反対は安倍・菅政権での任命者2名だった。
岸田政権における任命者で総裁・副総裁を含む過半数の5名を握っている以上、現下の金融政策は、安倍・菅政権でのアベノミクス(インフレ目標下でのオーソドックスな金融政策運営)ではもうないと言ってもいいだろう」
(高橋前掲)

つまり安倍氏と黒田総裁によるアベノミクスの完全放棄です。

かくして、日本経済が30年に渡るデフレトンネルからの出口を見つけようとしていた矢先、日本経済はまた再びデフレトンネルの奈落へと転落していく危機が発生してしまったということになります。
この「植田ショック」とまで言われた大暴落を見て財務省、金融庁、日銀も青くなったと見えて、あわてて鳩首協議した結果、内田副総裁に追加利上げはないと言わしています。

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日銀内田副総裁「追加利上げ慎重に考える」 市場急変動で - 日本経済新聞 (nikkei.com)

まったくいけしゃーしゃーと。内田さん、あんたも利上げに賛成しただろうって。

「日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利とする無担保コール翌日物レートを0.25%に引き上げると決めた。今後の追加利上げは株価や為替の乱高下やそれに伴う経済情勢の変化といった新たな要素を考慮せざるを得ない状況になった。
7月会合後の記者会見では植田和男総裁は年内の追加利上げを否定しなかった。内田氏も否定はしなかったものの、「今後の経済・物価・金融の情勢次第だ。これまでよりも慎重に考えるべき要素が生じている」と述べた。
7月の日銀の利上げ決定後に金融市場では円高が進み、株価が下落した。内田氏は「総裁会見より後の段階で今回の市場の急激な変動が起きている。総裁と私の間に考えの違いがあるということではなくて状況が変化したということだ」と説明した」
(日経8月7日)
日銀内田副総裁「追加利上げ慎重に考える」 市場急変動で - 日本経済新聞 (nikkei.com)

とまれ植田氏を日銀総裁に据え置くことは大変に危険であり、彼こそが不安定要因の主たる原因だということがわかったということだけが、唯一の「収穫」です。
日銀は独立性を担保されているとはいえ、政府のデフレからの脱却という政策目標には従う義務があります。
岸田氏は日銀法を改正し、植田氏を解任すべきです。
といっても、自分も金融政策正常化論者ですから、無理でしょうがね。

ところで、祝杯を上げねばならない人らがいます。「悪い円安論」「金融政策正常化論」を唱えてきた野党とメディアです。
立憲は、アベノミクスに反対してきました。
たとえば日銀の異次元金融緩和政策、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策、さらにはマイナス金利政策などにたいして常に「円安・物価高騰を招いて、国民を苦しめている」などと批判し、「金融政策の正常化」を要求していました。
「金融政策の正常化」とは、利上げのことです。

メディアも似たトーンで黒田日銀を批判していました。

立憲のネクスト財務大臣である階猛氏は、こう言っています。

「日本銀行は本日の金融政策決定会合において、マイナス金利政策の解除と、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC)の撤廃等を決定した。昨年2月に策定・公表した「新しい金融政策」など、これまでの我が党の主張に沿った動きであり、日本の経済・財政に様々な弊害をもたらしてきた「異次元の金融緩和」の転換である。
 マイナス金利政策は、我々が国会審議等で度々指摘してきた通り、2016年の導入以来、期待された効果を上げられないばかりか、地域金融機関の収益悪化、そして円安・物価高騰を招くなど、弊害ばかりが目立っていた。解除の遅れが国民生活に悪影響を及ぼしてきたことは明らかで、日銀はこの点を真摯に反省する必要がある
立憲民主党 ネクスト財務金融大臣階 猛 2024年3月19日
【コメント】日本銀行の「異次元の金融緩和」転換について - 立憲民主党 (cdp-japan.jp)

植田日銀がマイナス金利とYCCコントロールを止めると言えば、これぞ我が党の「新しい金融政策」に合致するものだと喝采を叫び、これぞ黒田日銀、すなわちアベノミクスの全否定が始まったと手放しで讃美していました。いい気なもんです。
そして現実に植田日銀が「金融政策の正常化」をした結果がこれです。
唐突な利上げがナイアガラ暴落と円高を招くと、こんどは泉代表が一転してこんな批判を岸田政権にしています。

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わ、はは、なにが説明をですか、日銀はあんたらの政策を実行しただけでしょうが。
その悲惨な結果がこれです。わかりましたか。
今の時期に利上げをして拙速な「金融政策の正常化」などやると、とりかえしのつかない傷を経済に与えるのです。
ま、無責任に政府追及だけしていれば済む人らには関係ないことですが。

とまれ、いままでさんざん日本経済が回復しようとすると、その出鼻を挫き、再びデフレ地獄へと突き落とし続けてきた日銀の暗い情熱が蘇ったようです。
過去2000年と2007年の2回、日本は時期尚早の財政・金融引き締めによって景気後退を深刻化させ、10年で終わるはずの失われた時代が、20年、30年と続いしまいました。
30年ですよ、30年!
一世代丸々デフレ下に置いたために、この間中国は世界一の富裕国になりおおせ軍拡に励み、日本人はすっかり萎縮して下を向いて歩くようになってしまいました。

黒田日銀と安倍氏が艱難辛苦でテフレ脱却の糸口を切り開いたのに、安倍氏は暗殺され、替わって登場したのが隠れ利上げ派の植田氏でした。
彼は黒田日銀の遺産を食いつぶし、とうとう時期尚早の利上げをしかけてこのありさまです。
日本潰すにゃ軍隊はいらぬ、日銀総裁に馬鹿あてがえばよい。

 

 

改題しました。

2024年8月 8日 (木)

植田ショック襲来

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ああ、とうとうやっちまった、これが植田日銀が利上げをしたときの私の感想です。
こんな感慨に襲われたのは私だけではなかったはずです。
いや、円安諸悪の根源と叫んでいたメディアは、ご希望どおり、株安円高となったので赤飯を炊いたのではないでしょうか。

「日銀は31日の金融政策決定会合で、賃金と物価がそろって上がる好循環の実現が確認できたとして、政策金利である短期金利を0~0・1%から0・25%程度に引き上げることを決めた。マイナス金利政策解除後も月6兆円程度で続けてきた国債買い入れは、令和8年1~3月期に3兆円程度まで購入額を減らす具体的な金融引き締め策も同時に決めた。
政策金利の引き上げは今年3月のマイナス金利解除に続く措置。0・25%の政策金利はリーマン・ショック直後の平成20年12月の0・3%前後以来、約15年7カ月ぶりの水準となる」
(産経7月31日)
日銀、追加利上げを決定 政策金利は0・25%程度に 国債買い入れ減額も - 産経ニュース (sankei.com)

すぐに記事にしようかとも思いましたが、「植田ショック」とまで言われた大暴落の後、どのていどの反発がくるのかを見てからということで今日となった次第です。

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【解説】株価「反発」…過去最大の上げ幅記録 乱高下…生活や賃上げムードに影響は?|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

東京市場は5日に4451円28銭のナイアガラ暴落をした後、翌日6日には2600円上げて、終値は前日比3217円04銭高の3万4675円46銭でした。

「6日午前の東京株式市場で、日経平均株価は反発して取引が始まった。始値は前日終値比618円91銭高の3万2077円33銭だった。上げ幅は一時、2600円を超え、3万4000円台を回復する場面もあった。
一方、5日の日経平均は大幅続落し、前週末終値比の下げ幅は4451円28銭となり、1987年の米国株式相場の大暴落「ブラックマンデー」翌日に記録した3836円を超え、史上最大だった」
(産経8月6日)
東証、反発して始まる 上げ幅は一時2600円超 3万4000円台に回復も - 産経ニュース (sankei.com)

実はこの「植田ショック」の少し前の7月11日の日経平均は、史上最高値である42224円をつけていました。
それが一気に8月2日には35909円ですから、半月余りの間に15%の暴落となったわけです。

背景として3つの要因が指摘されています。
ひとつめは、世界経済の牽引役である米国経済の雇用統計が悪化し、いよいよ景気減速が始まり、米経済ハードランディングが取り沙汰されたことです。

「7月の米雇用統計で、非農業雇用者数は前月から11.4万人の増加と、事前予想の17.5万人の増加を下回った。また6月雇用者増加数は前月比20.6万人増から19.9慢人増へと下方修正された。
失業率は4.3%と前月から0.2%ポイント上昇した。4か月連続の上昇だ。さらに、時間当たり賃金は前月比+0.2%と前月の同+0.3%及び事前予想の同+0.3%を下回った。前年同月比では+3.6%と前月の+3.8%を下回り、3年ぶりの低水準となった。
このように今回の雇用統計は、雇用者増加数、失業率、賃金の3つの側面で労働需給の緩和、景気減速を示唆するものであった」
木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

ふたつめは、米経済はバイデンが立候補辞退したことにより、「仮トラ」を想定した米株式市場のシフトチェンジが始まったことです。
ハイテク株市場であるNASDAQ(ナスダック)が10%下落し、トランプが公言しているエネルギー株に資金が集まり、米国市場は不安定化していました。
このような中でヘッジファンドは、円キャリートレードの巻き戻しをすることを迫られました。

円キャリートレードとは、相対的に金利が低い円建てで資金を借り入れ、その資金を金利が高い外貨に転換して運用する取引のことです。
いままでは金利が低い日本円を買って資金を調達し、外貨に転用していましたが、この形が崩れて、ヘッジファンドは大慌てドルを売り、円を買いました。
これが今回の株価の暴落と円高のもっとも大きな原因です。
だいぶこの衝撃波は小さくなってきてはいますが、まだキャリートレードは6割が済んだくらいだろうと金融筋は見ているようです。

「円は依然として最も過小評価されている通貨の一つであるため、最近のキャリートレード巻き戻しはまだ続く余地があると、JPモルガン・チェースが指摘した。
グローバル為替戦略共同責任者のアリンダム・サンディリア氏はブルームバーグテレビジョンの番組で「全く終わっていない」と語った。「キャリートレードの巻き戻しは、少なくとも投機的投資家コミュニティーの中では、50-60%が完了した段階」だとの見方を示した」
(ブルームバーク8月6日)
キャリートレード巻き戻しはまだ半ば、せいぜい60%-JPモルガン - Bloomberg

かくしていままで堅調だった金融・為替市場は一気に株安・円高に転じました。 

「米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによれば、ヘッジファンドなどレバレッジを活用する投資家は23日までの2週間で、円のネットショートを5万6639枚減らした。2011年前半以来の大きな減少だ。
まだショートは残っているものの、今年2月以降で最も弱気でないポジションだ。金利が最終的に円に有利に傾くという期待から、センチメントが大きく変化した。円の上昇はまた、キャリートレードの大規模な巻き戻しとも重なった」
(ブルームバーク7月29日)
ヘッジファンドの円ショート急減、キャリー取引巻き戻しと重なる - Bloomberg

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「植田不況」の始まりか? 繰り返される日銀の失敗…植田総裁の「仰天発言」の中身とは(FRIDAY) - Yahoo!ニュース

そして第3に、わが国の日銀中枢に禍神がいたことです。
暑さで脳ミソが焼けてしまったためか、このような米経済が景気後退局面に入った時を狙いすましたように、植田日銀が利上げをしてしまいました。唖然とするような大失敗です。
たしかに世界的株の暴落でしたが、日本だけ突出して下げています。

下左図の赤線が日本ですが、下げ幅が世界一です。

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「円安悪玉論」が株価を殺す | 武者リサーチ (musha.co.jp)

どうしてこのようなことに我が国だけ見舞われているのかについてはいったんアップしたのですが、ながいので、明日に切り離しました。

 

 

2024年8月 7日 (水)

パリ五輪とパリ協定

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本来、パリ五輪とパリ協定はなんの関係もありません。
しかしパリ五輪組織委員会はなんていっても意識高い系であることが自慢ですから、パリ協定とLGBTQ思想の良き子でした。
とうぜんのこととして、本来はアスリートファーストで運営されるべき大会運営を放棄し、イデオロギーの使徒となりました。
開会式の狂宴の凄まじさは競技が始まれば平常に戻るかと思いきや、狂ったまま拡大していったのですから、さすがはフランス。だいぶわが国のフランスファンを減らしたんじゃないでしょうか。
とくに選手村の悲惨な暑さと食事は、フランス組織委員会がCO2削減、カーボンニュートラル、ゼロエミッションというイデオロギーに過剰に支配されたために引き起こされました。

しかしちょっと頭を冷やして考えてみて下さい。
このCO2削減の対象である二酸化炭酸ガスは自然由来のものが多くを占め、人間の生活-生産活動由来はたった3%と限られているのですから、いくら選手に暑い思いをさせようが、肉を食わすまいと1度の気温も下がらないのですよ。
それをまるで全部人類の経済活動に原因にあるとする説が脱炭素思想です。
そしてそのためには、人間活動由来のCO2削減するためにエネルギー源そのものを転換をせねばならないと説きます。
そしてこれこそが人類の至高の価値、一片でも疑うことを許さない絶対真理としたのがことの発端です。

そのためにCO2排出源である化石燃料から非化石燃料に切り換える必要があると考えるのが、いま盛りの脱炭素です。

 

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各種電源別のCO2排出量 出典:電気事業連合会「原子力・エネルギー」図面集2010

化石燃料をどんどん削減していけばどうなるのかわかりきった話で、エネルギー不足、つまりは電力の枯渇を引き起こしました。
うちの国を例にとると、わが国の電源は火力、水力、原子力によってまかなわれていました。
それが民主党政権の原発全面停止政策によって、主要電源は一気に化石燃料になります。
下図が原発を停止させた2013年のエネルギー源の配分です。

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2013年度のエネルギー源別の発電電力量の割合http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035081.html

もはや化石燃料を主体とした火力発電に偏った配分となっており、これではわが国は二酸化炭素を削減することを目標としたパリ協定の達成は不可能です。
このパリ協定とはこのような削減目標をもっていました。

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パリ協定 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

気がつかれたでしょうか、中国、インドが「GDP当たり」なのに対して、日米EUはネットでの削減率、つまり化石燃料のカットです。
しかし中国こそ世界の30%を締める最大のCO2排出国なのです。実に日本の10倍。

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データで見る温室効果ガス排出量(世界) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

その中国はパリ協定で、CO2排出量を2030年までに05年比で60〜65%削減すると約束していますが、中国は8%の経済成長を続けており、今後も続くことすれば、事実上、中国の排出量は増加を続ける公算が大きいのです。
そしてその削減策とは世界随一の原発増産でした。

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asahi.com(朝日新聞社):2025年までの世界の原発の新規需要(世界原子力協会のデータをもとに経済産業省が試算)=2011年4月15日朝刊 - 図解・福島第一原発事故と市民生活への影響(2) - 写真特集

このように事実上中国はやりたい放題で、規制に苦しむのは自由主義先進諸国だけだったわけです。

とまれパリ協定に忠実で原発を止め、9割弱を化石燃料に依存している現状では、パリ協定目標を達成することは不可能です。
今の日本はで動いている原発はたった7基で、これでは焼け石に水です。

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夏の電力不足はどうなる? その背景と対策を解説 - Yahoo!ニュース

近年、電力供給は綱渡りの状況で、今年のような猛暑が続くとどこかで破綻するのは目に見えています。
猛暑や厳冬のピーク時を想定した電力需要に対して、どのくらい供給できる電力があるかの余力を示す「電力予備率」 を見てみましょう。
まさに薄氷の上を歩くが如しです。

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「政府がまとめた、猛暑や厳冬のピーク時を想定した電力需要に対して、どのくらい供給できる電力があるかの余力を示す「予備率」を見ると、今夏は、東北・東京・中部の3電力のエリアで、最低限必要とされる3%ぎりぎりです。電力に余裕のある地域から不足する地域へ送電する広域融通を加味しても、ここ5年で最も厳しい数字です。
今冬はさらに厳しく、現時点の見通しでは、東京エリアは予備率がマイナスとなり、関西や九州など西日本の6エリアでも3%を下回ります」
(東京2022年6月4日)
<Q&A>今年の夏と冬に迫る電力不足の危機 なぜ供給余力が厳しくなったのか?:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) 

これでどうして原発ハンタイなのか東京新聞に聞いてみたいものです。

それはさておき、下図を見ると、1997年の京都議定書以降も、CO2の増加には歯止めがかかっていないのが現状です。
京都議定書 - Wikipedia

 

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化石燃料などからのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化出典:電気事業連合会「原子力・エネルギー」図面集2010http://www.jnfl.co.jp/recruit/energy/warming.html

このように京都議定書は失敗し、パリ協定もまた実行が疑問視されています。
だってそんなまねをしたら産業の自殺ですから。

 

2024年8月 6日 (火)

パリ五輪、女子ボクシング問題について考える

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パリ五輪が女子ボクシングにおいて、LGBTQの選手と女性選手を戦わしたとして、イタリア首相も巻き込んだトラブルに発展しました。

「パリ五輪で2人の選手の「ボクシング女子」への参加が国際的な論争を呼んでいる。両選手は、昨年の世界選手権において検査の結果、「女子」選手としての参加資格がないと判断されていた。にもかかわらず、IOC(国際オリンピック委員会)が、2選手にパリ五輪でのボクシング女子への参加を認めたためだ。
そのうちの1人は、対戦相手の途中棄権により初戦を突破。対戦相手は「公平ではない」と涙をこぼした」
(日テレ8月2日)

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【パリ五輪】過去にボクシング女子に“参加資格なし”の選手が勝利 背景に長引く“ルールの不在”が…|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

このハリフ選手は東京大会で失格しています。
それについて国際ボクシング協会はこう述べています。

「この時の世界選手権を開催者したIBA(国際ボクシング協会)は、議論の高まりを受けた先月31日、ハリフ選手とリン選手が失格となっていた昨年の大会の経緯を説明する声明を発表した。
IBAによると、この2人の選手は2022年および2023年の世界選手権期間中に実施された2回の検査の結果、女子競技に参加するための条件を満たさなかったという。このためIBAは、綿密な検査結果の検討の上で、競技の「公平さ」を保つため両選手を失格とした。このためハリフ選手は決勝戦に出場することができなかった。
IBAは検査の詳細は明かしていない。さらにIBAは、IOCが問題の2選手のボクシング女子への参加を認めたことを批判し、競技の公平性と安全への懸念も表明している」
(日テレ前掲)

この選手の適格性についてIOCは対立する意見を持っているようです。

「IOC広報責任者のマーク・アダムス氏は2日の会見で、ハリフ選手について「女性として生まれ、女性として登録され、女性として生きてきた選手で、トランスジェンダーではない」としている」
(日テレ前掲)

 IOCは、このハリフ選手はトランスジェンダーではなく、生まれつき男性器がないDSDsであり「女性として生きてきた」とする意見のようです。

「人間の性に関わる発達は、とても複雑な過程をたどります。多くの人とは異なる過程を経て、性染色体や性腺、内性器、外性器が非典型的である状態の総称がDSDsとされ、そこには様々な状態が含まれます」
(朝日2024年8月3日 )
ボクシング女子、性と出場資格めぐる議論 「公平性」模索の歴史 - パリオリンピック:朝日新聞デジタル (asahi.com)

このようなタイプの人は、DSDs (Differences of Sex Development :体の性の様々な発達)と呼ばれています。
DSDs問題の運動団体はこう説明しています。

「DSDsは単一の体の状態ではなく、然るべき検査なしでは見た目だけでは性別がすぐには分かりにくい形状の外性器(女性器が大きかったり,男性器が小さく尿道口の位置がずれていたり、内性器等が外に露出した状態等)で生まれる女の子や男の子の赤ちゃんや、二次性徴の欠如等で、X・Y染色体の構成がXひとつであったり(ターナー症候群女性),男性に一般的とされるXY型であったり(アンドロゲン不応症女性など:全くの女性です)、膣・子宮が無いと判明する女性(ロキタンスキー症候群:全くの女性です)、不妊で判明する男性(クラインフェルター症候群男性や,XX男性)等様々なものがあり、それぞれの体の状態や判明時期の違いによっても全く異なります」
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とは? | ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会 (nexdsd.com)

つまり、ハリフ選手は男性器がない、もしくは未発達で生まれ「女性として生きてきた」が、思春期に運動によって骨格と筋肉が男性同様に発達した人ということのようです。
しかしハリフ選手の染色体は男性が持つXY型です。
また一般的に男性を示すテストステロン値も高いために、東京大会では失格となっています。

「ハリフ選手は女性選手として東京オリンピックにも出場。5位入賞を果たしましたが、去年の世界選手権では林選手と同様、失格になっていました。「男性の染色体を持つ」とされ、性別検査で不合格とされました」
(日テレ8月3日)
IOC「女性として生まれ、生きてきた」…正当性を強調 女子ボクシング「男性の染色体を持つ」選手|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

しかしIOCはこれを不服として、IBAを五輪の統括団体からはずしました。
その理由はテストステロン値だけではわからないケースが生まれたからです。
テストステロンとは、男性ホルモンのなかでも筋肉や骨格の構成に大きく影響するホルモンで、これによって男性は女性より筋肉質で大きな骨格になります。しかしこれも骨格ができる思春期にいかなる運動をしたかで決定され、決定的なものではないのです。

「このテストステロンの値で線引きしたということですが、私はそれでもダメだと考えます。
当然ですが、人間の肉体が性別によってそれぞれ大きく変化するのは思春期です。
この時期にホルモン的にどちらの性別で過ごしたかでその後の骨格に大きな影響を与えます。
骨格が出来上がったあとにテストステロンの値を測って女子競技に出てOKなんて、そんな馬鹿な話はありません。
この件に苦言を呈した女性選手は引退に追い込まれました」
女子自転車競技で生物学的男性のトランスジェンダー選手が優勝したLGBT問題について – kurocycle クロサイクル | kurocycle 

つまりXY染色体でもわからず、DSDsで外性器がなく、成長期に運動した結果テストテロン値が高く出る場合もあるわけで、じゃあいったい性別を決める決定的要素はなんなのでしょうか。
生物学的に決定できないのなら、たぶん当人の「自分は女性だ」という性自認というその人の内面の問題だけとなってしまいます。
実際、多くの公的団体はここに重点を置いています。

「性自認とは、自分の性別をどのように認識しているかを示す概念で「心の性」ともいいます。身体は男性で、自分を女性と認識している人、身体は女性で、自分を男性と認識している人、男性、女性どちらにも当てはまらないと感じている人もいます。自分の性別をどのように認識するかは人それぞれ違います。多くの人は「身体の性」と「心の性」が一致していますが、「身体の性」と「心の性」が一致しないことにより違和感を覚えたり、身体の手術を通じて「身体の性」と「心の性」の適合を望んだりすることもあります」
島根県:★性的指向・性自認(LGBT等)(トップ / くらし / 人権・男女共同参画 / 人権 / 性的指向・性自認(LGBT等)) (shimane.lg.jp)

IOCも「骨格や筋肉の差は、性別ではなく個人差なだけ」という見解を発表し、共通のルールづくりを諦めて、競技協会ごとに決定しろという立場のようです。
本当にそれ「だけ」なのでしょうか。
一般社会ならそれで通用します。
しかしこれが身体能力を競う競技、ましてや肉体的打撃を伴う格闘技やサッカーのようなフィジカル・コンタクトが多い競技だった場合、話は別です。
男性同様に身体が出来上がった「心が女性」の選手がフィジカルコンタクトをした場合、圧倒的に前者が有利だからです。

実際、女子サッカーではLGBTQが激増しています。


「2023年7月に始まるFIFAサッカー・女子ワールドカップに参加するLGBTQ当事者の選手数が、過去最高になるとみられている。
アウトスポーツによると、前回2019年大会は40人だったが、2023年大会はその倍以上の87人が出場する。
そのほとんどが北米や南米、ヨーロッパ、オーストラリアとニュージーランドの選手で、参加チームの3分の2以上にLGBTQの選手が所属している」
サッカー女子ワールドカップ、LGBTQの選手数が過去最高に。前回大会から倍以上の増加 | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)

スポーツにおいて、なぜ女性と男性が分かれているのか、その理由は明確です。
それは女性保護を徹底しないと肉体的危険があるからです。
だから男女の線を取り払って戦わせる競技はありません。
男女は肉体的特徴が異なり、男性の方が競技において優位になる場合が圧倒的でしたが、かつてIOCはこの女性保護の視点を放棄し、LGBTQに寄り添った結果、テストテロン値で決めることにしました。しかし前述したように、このテストステロン値もダメでした。
かくして、この「元々男性」あるいは「女性」という概念がに決定的回答がなく、IOCは各競技団体に丸投げしたのです。

ですから、今回のイタリア女子選手の訴えに対してのIOCの答えは木で鼻をくくったようなものでした。

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「1日、ボクシング女子66キロ級2回戦第3試合が行われ、イマネ・ケリフ(アルジェリア)とアンジェラ・カリニ(イタリア)が対戦。開始わずか46秒でカリニが棄権し、ケリフが勝利した。ケリフは性別適格性検査に合格しなかったため昨年の世界選手権で失格となった過去があり、パリ五輪への出場が賛否を呼んでいる。
これを受けIOCは「すべての人は差別なくスポーツをする権利を持っています」と主張。また性別については「これまでのオリンピックボクシング競技と同様に、アスリートの性別と年齢はパスポートに基づいています」と説明した」
(スポニチ8月2日)
【パリ五輪】ボクサー性別騒動 IOCが声明「すべての人は差別なくスポーツする権利」選手への中傷に遺憾(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース 

IOCがいう「すべての人は差別なくスポーツをする権利を持っています 」というのは、LGBTQ大会の前にはただのタテマエにすぎません。
生物学的判定がつかず「心が女性」の選手が出場してメダルをさらうようだと、「スポーツの前には公平」という概念そのものが揺らぐからです。
私は割り切るべきだと思います。
仮にハリフ選手がDSDsであろうと、XY遺伝子を持って誕生し、成長期において男性の体格を獲得した以上「男性」として遇すべきです。
ハリフ選手のようなケースがあたりまえとなると、本来の女性保護の視点が飛ぶからです。
IOCは、外性器がなく生まれたということのみで判断しているように見えますが、そうすることにより女性から公平、かつ安全にスポーツをする権利を奪ったのです。

マクロンが強行したセーヌ川でのトライアスロンは大腸菌感染者を複数出したようです。
まったくもうアタマデッカチめ、という感じです。

 

2024年8月 5日 (月)

素晴らしき「エコ五輪」

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パリ五輪は絶賛悪評の中、後半を迎えています。
こんなにもフランス人に大会運営の運営能力欠如しているとは思わなかった、という人も多いんじゃないでしょうか。
ドラッグクイーンとLGBTQに「最後の晩餐」のパロディーをやらせて、フランスカソリック教会から批判を受け、謝罪に追い込まれた組織委員会はこう述べています。

「記者会見で報道担当者は「宗教団体に対する軽蔑を示す意図はなかった」「誰かを不快にさせたとしたら、すまなく思う」と述べた。そのうえで、式典の演出について「寛容な共同体を称えようとした。世論調査でも示されているように、その目的は達成されたと思う」と述べた」
(産経7月29日)
五輪開会式「最後の晩餐」連想の演出、教会批判で組織委謝罪 仏世論85%は「式典成功」 - 産経ニュース (sankei.com)

なにをおっしゃる兎さん、ああいう見せ物は「誰かを不快にする」ためにやったんでしょうが、意図的に。
太ったオープンレスビアンをキリストに見立て、局部を露出した使徒に囲ませ、全裸に近い紫色の怪人(バッカスだって?)に歌を歌わせたのが好意的に言って風刺、はっきり言って宗教冒涜になることを百も承知、二百も合点で登場させたんじゃありませんか。

かつてシャルリ・エブドという風刺雑誌がイスラム教原理主義者に襲撃された時、当時も大統領だったマクロンは平然とこう言ってのけました。
スゴイね、この信念でパリ五輪開会式やったんだろうね。

「フランスのマクロン大統領は1日、2日付の風刺週刊紙シャルリー・エブドが、かつてイスラム教徒の反発を招き2015年の同紙本社襲撃テロのきっかけとなったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を再掲載したことをめぐり「フランスには冒涜する自由がある」と表明した。
 訪問先のレバノン・ベイルートで記者会見したマクロン氏は「報道の自由があり、大統領は編集の決定に判断を下さない」とした上で、会員制交流サイト(SNS)を例に挙げ「表現の自由には憎悪を唱えないようにする義務もあるが、風刺は憎悪ではない」と述べた」
(産経2020年9月2日)
「フランスには冒涜する自由がある」マクロン大統領、ムハンマド風刺画再掲載で - 産経ニュース (sankei.com)

このマクロンの考え方こそ典型的なラシイテです。

この開会式以外にも、食事を選べない選手村のアスリート向けの食事が野菜と豆だけの肉なしビーガン食だったりして、選手たちの怒りを買ったようです。

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クーリエ

「選手村の大食堂内やその周辺で提供されているものとしては、アーティチョークとトリュフのツイストクロワッサン、レンズ豆のカレー、牛肉抜きのブルゴーニュ風煮込みなどがある。だが、もっと肉を欲しがる選手もいるのだ 」
(クーリエ7月20日)

パリ五輪の選手村で「環境に優しい」食事に選手らからクレーム | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

温室効果ガスの削減のために地場野菜だけに限定したために、たとえばホットドックのソーセージは、ジャガイモとそら豆で作っているものが使われているのだとか。(喰いたくない)
赤ワインの牛肉煮込みも肉なしで全部野菜で出来た精進フランス料理だとか。
かくて日替わり料理の3分の1はビーガン食だそうです。
有閑マダムやファッションモデル相手にしているのか、つうの。
2024パリ五輪:観客も味わえる!地元食材と植物性食品で彩る選手村食事を公開! (ann-design-poi.com)

「カーボンフットプリントを最低限に抑える」のはけっこうですが、相手は戦いの真っ最中のアスリート戦士です。
地球上でもっともタンパク質を必要とする人種です。
動物性タンパクは、筋肉量の維持や増加に重要で、アスリートのパフォーマンス向上やリカバリーに必須です。
スポーツにおける植物性タンパク質の可能性 動物性タンパク質との違いは? ナラティブレビュー | スポーツ栄養Web【一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)公式情報サイト】 (sndj-web.jp)

五輪運営はアスリートファーストが揺るがない絶対原則。自分の脱炭素イデオロギーを押しつけなさんな。

また選手村の部屋は空調がありません。この真夏に30度越えをしているのによーやるよと思いますが、理由はこうです。これも理由はエコです。

「主催者が100%再生可能エネルギーで運営するとうたう大会と同様に、選手村のためのあらゆるものは持続可能性を考慮して建設された。 (略)グレノン氏によると、建設された建物には木材とリサイクル素材が使用され、大会プロジェクトの温室効果ガスの排出量(カーボンフットプリント)を1平方メートルあたり30%削減する工程が採用された。これはフランスの環境規制で求められている削減量を上回る」
(CNN6月29日)
エアコンなし? でも史上最高にエコな五輪、パリ選手村を見学 - CNN.co.jp

あげく選手たちは争ってオプションの移動式クーラーを買い求めたそうです。
フランス選手の部屋だけはあらかじめ空調つきだったというオチがありますが、ホントかしらね。

このパリ五輪は、なにもかも頭デッカチの脳内産物です。
気の毒なのは、観念過多のイデオローギーの使徒らの祝宴の犠牲になった気の毒な存在がアスリートたちでした。
アスリートたちは、理想という実験の祭壇に捧げられた供物ではないのです。
4年に一回の大会に照準を合わせて厳しいトレーニングに励み、体調を調整し、コンセントレーションを最高値に高めあげているアスリートです。
それが「エコ五輪」の実験動物にされてはあまりに気の毒です。

物事はバランスです。
 脱炭素が理想かどうかは別にして、理想と現実の均衡がなければ、五輪というアスリートの大会は観念の博覧会となってしまいます。
かといって理想を持たない者だけが仕切る五輪は、現実的対応に追い回されるだけであり進歩がなく退屈です。
ただし理想を達成するためには、慎重すぎるほど慎重であることです。

人間という生き物は、理想という二字に根源的な喜びを感じるようにできている存在だからです。
根源的喜びであるが故に、これを押しつけようとすると蹴躓きます。
今回の「エコ五輪」は、この理想と現実のバランスを著しく欠いていました。
もっと何回も、いや何十回も国内大会で試行錯誤してから、初めて五輪という大舞台にかけるべきでした。

『フランス革命の省察』のエドモンド・バークがいみじくも言うように、「自分だけが正しい社会の変革の方法論を知っている」という迷妄への甘い陶酔が、アスリート第1で運営されるべき五輪をLGBQとエコスノッブの博覧会に変えたのです。

女子ボクシング問題については長くなりましたので、明日にしました。

 

2024年8月 4日 (日)

日曜写真館 そよ風に 座る者待つ 蓮の花

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あの世にて逢ふ人あまた蓮ひらく 林翔

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ひろ~と蓮生ひたる昔かな 高野素十

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ふいと来て見しうれしさや蓮の花 正岡子規

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夏帽を吹きとばしたる蓮見かな 河東碧梧桐

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かたなりに花吹きこほす蓮哉 正岡子規

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うとうとと骨肉わけて蓮紅し 飯島晴子

 

くそっー、男子サッカー負けた、頼みの女子サッカー負けた、そして柔道混合負けたぁぁ(号泣)。
ああ、いかん、蓮の花でもながめて心を鎮めねば。

 

2024年8月 3日 (土)

シーシェパードのボス、ポール・ワトソン日本に送還

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当地も殺人的暑さです。
よりよにってこの時期に空調が壊れましたぁ。(号泣)

さて、シーシェパードのポール・ワトソンが日本に送られてきます。
環境テロリスト業界の先駆者をどのように日本が裁くか、世界が注目しています。
知恵足らずのマクロンは司法権がないくせに移送に反対しています。

「フランス大統領府は23日付で「マクロン大統領がワトソン容疑者の身柄を日本に引き渡さないようデンマーク政府に強く要請している」との発表を行った。パリ五輪の開催期間は来月11日まで。官邸関係者は「逮捕のタイミングが悪い。開催中に身柄引き渡し手続きに入れば日本選手へのブーイングなど嫌な動きが出かねない」と五輪での影響を懸念。欧州の多くの国が反捕鯨方針であることを踏まえ「岸田首相が強めたNATO(北大西洋条約機構)との連携にも影響が出かねない」とも付言した」
(神奈川新聞2024年7月25日)
シー・シェパード創設者の身柄引き渡し  フランスと自民党…首相が板挟み 政界の断面 | カナロコ by 神奈川新聞 (kanaloco.jp)

なぁに言ってんだか。
マクロンさん、フランスが1985年にグリーンピースの抗議船を特殊部隊使って爆破沈没し、1名を殺したことお忘れか。
レインボー・ウォーリア号事件 - Wikipedia
ムルロワでの原爆実験反対は殺しても阻止するが、捕鯨調査船のほうはかまわないとでも。
そして昨今もルーブルでモナリザに環境テロやられていますが、いいんですかねシーシェパードのほうは。

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“自戒”する「エコ・テロリズム」 ~背後にあるものとその末路とは~ (IISIA研究員レポート Vol.102) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com

オリンピック期間中だなんてまったく関係ありません。
物事の筋をしっかり見ないからこういうダブスタ対応になるのです。
環境テロ業界最大の大物であるワトソンをしっかり法の支配の下で裁かないと、環境テロは止まりませんよ。

「日本の調査捕鯨船の妨害活動に関与したとして、デンマーク自治領グリーンランドで身柄を拘束された反捕鯨団体「シー・シェパード」創設者、ポール・ワトソン容疑者(73)について、海上保安庁がデンマーク当局に身柄の引き渡しを請求したことが1日、政府関係者への取材で分かった。関係者によると、デンマーク側も応じる意向を非公式で日本側に伝えたという。
ワトソン容疑者を巡っては、フランスのマクロン大統領が身柄を日本へ引き渡さないようデンマーク側に働き掛けるなど、反捕鯨国を中心に釈放を求める動きが広がっている。日本に身柄が引き渡されれば、反発がさらに強まる恐れもある」
(産経8月1日)
<独自>ポール・ワトソン容疑者、日本に身柄引き渡しへ シー・シェパード創設者(産経新聞) - Yahoo!ニュース

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「シー・シェパード」創設者逮捕…日本の調査捕鯨船に過激妨害 身柄引き渡しの可能性も|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

このワトソンはひと頃欧米では英雄扱いされていましたが、あまりに暴力的な活動で逮捕されました。
ワトソンはみずからをグリーンピースの創設者と称しています。
グリーンピース側は創設者のひとりにすぎないと主張していますが、実際は抗議船の船長でした。
この抗議船で捕鯨調査船を攻撃するというスタイルは、グリーンピースが作り出したものです。

グリーンピースの「オペレーション・エイハブ」は、大型ゴムボートで調査船に幅寄せするという過激なものでしたが、それが全米に放映され大反響を呼びました。

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グリーンピースの誕生ストーリー – 国際環境NGOグリーンピース (greenpeace.org)

一躍、グリーンピースは凛々しい動物保護運動家のヒーローに飛び出したのです。
米国民の熱狂を見て膝を打ったのが、デトロイトやピッツバーグの財界人でした。
それまで彼らは反核運動などをしていたグリーンピースなどという「ロン毛のクソガキども」には目もくれませんでしたが、彼らの利用価値の大きさに初めて気がついたのでした。
それは、他ならぬ当時の米国が追い上げてくる日本に対する恐怖から逃れるためのバッシングの道具としてです。

彼ら米国財界人は、日本が対等な貿易国ではなく、「可愛く賢いクジラ」を食べるような非文明人として米国民にアピールしたかったのでした。
いうまでもなく、自動車輸出と捕鯨はなんの関係もありませんが、大戦の時のレトリックと同じく、「日本人はこんなに残酷な人種だからテッテイ的に叩きのめさねばならない」という世論を作り出せればオーケーなのです。
「冷酷で残忍なジャップ」に捨て身で阻む勇敢なエコロジストの青年たち!おお、いい絵になるじゃありませんか!
そして80年代、ジャパン・バッシングの絵作りのために、巨額の献金が米国財界から滔々と彼らに流れ込むようになります。
いままですりきれたジーンズと、手作りの事務所で活動していた彼らは一躍リッチになり、「文化人」扱いされ、子供たちのヒーローと成り上がっていきます。
その米財界の期待に応えるようにして、いっそうグリーンピースは過激に「残酷なジャップ」を襲撃するようになりました。

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日刊ベリタ : 記事 : 今度は捕鯨船のモリが環境団体の抗議船にニアミス? 日本側は否定 (nikkanberita.com)

1989年、スーパー301条という日本制裁法の交渉のために訪米した竹下首相を、グりーンピースら、捕鯨反対の大手デモが出迎えます。
もちろん日米経済問題と捕鯨がなんの関係もないのは百も承知で、米国民に反日意識が刷り込めればいいのです。
同年1月には、とうとう心配された調査船との衝突事故がひき起こされましたが、米国民にとって当然悪者は日本です。
1991年12月にも同様の妨害行動が行なわれ、95年2月には調査船の第18利丸への無許可乗り込みが起きました。

また、フランスからの処理済みプルトニウム移送にも、数ある原子力利用国の中で日本だけをあえて取り出すようにして抗議行動を続けています。
これはグリーンピース本来の反核にかこつけていますが、わが国がプルトニウムを原爆製造に使用する意志などまったくないのは誰も知るところです。
にもかかわらず、わが国のみを執拗につけ狙い、まるで核武装する陰謀でもあるかのような宣伝を続けます。
ましてプルトニウム移送は核ジャックの可能性があるために、その航路すら秘密にされているのに、追跡して全世界に「ここにいますよ。ただ今抗議中」とやりまくるのですからなんとも非常識な連中です。
グリーンピースは、2015年には辺野古にまで襲来して「ジュゴンを救え」と叫んで帰っていきました。

ではなぜ、彼らは日本のみを執拗にターゲットにするのでしょうか?
それは今見た日米関係を背景にして彼らの行動を見ると、一目瞭然です。
日本を叩けば金になる、身も蓋もない言い方をすれば、そういうことです。
同じ捕鯨国でも、白人国で米国に冷凍魚ていどの輸出しかないノルウエーを叩いても1セントの金にもなりません。
それどころかバイキングの末裔たちからは断固たる反撃が返ってくることがわかっているからです。
実際、シーシェパードは、ノルウェイの捕鯨船を破壊した時に、怒ったノルウェイ漁民にかえり討ちにあってデコボコにされたあげく、頭目のポール・ワトソンは牢屋に入れられたりしています。(笑)

Photo_2 (写真 シーシェパードの抗議船。なかなかのセンスだが惜しくも自沈。彼らは調査船にぶつけられたと主張。ワトソンは調査船から銃撃された主張している。鯨類研究所が銃で武装しているとは大笑い)

それに対して日本はおとなしく逃げまどうばかりです。叩けば大金になる上におとなしい「残酷なジャップ」、これこそ絶好のターゲットだったのです。
この国際世論作り、米国世論操作の先兵が、グリーンピースであり、シーシェパードだったのです。
ナイーブな環境運動が、いつしか巨額の資金を得てジャパン・バッシング・ビジネスに化けたのです。
このような政治的意図を持つダーティな資金提供を得て、グリーンピースは、小さな反核グループから、いまや巨大な多国籍環境保護団体へと成り上がりました。
つまり、グリーンピースこそ、日本を標的にすることが金脈であることを発見し、それをビジネスモデル化した最初の環境保護団体なのです。
そして日本叩きを原資にして、いまや多国籍企業と化したグリーンピース本部の幹部の移動はファーストクラス、年収は数百万ドル、泊まるホテルはスイートと噂されています。
これが、1971年9月15日、1セントの見返りも期待せずに、すり切れたジーンズにロングヘアーを海風になびかせて、「レンボー・ウォーリア号」で、アリューシャン核実験海域にむけての航海に向かった彼らの成れの果ての姿です。
このような堕落の過程で、オリジナルのグリーンピース・メンバーはそのほとんどが失望し、去っていきました。

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シーシェパードのポスター。もはや2流どころのハリウッド悪役。中央の悪党づらが頭目のポール・ワトソン。海賊旗みたいなのが彼らの旗。どこまでもマンガ的です。

そして別の意味でグリーピースを去った(というか除名された)オリジナルメンバーのひとりに、後のシーシェパードの指導者ボール・ワトソンがいました。
そのとき、ワトソンは、このグリーンピースのジャパン・バッシングというビジネスモデルをもっと過激に、もっと派手に演出できる団体の構想をもっていたのです。
それがあのシーシェパードです。
ちなみにかなり前から、シーシェパードと元祖グリーンピース は犬猿の仲だそうです。この業界もニッチと見えます。
彼らには理想などありません。あるのは、ギラギラした自己顕示欲と金儲けヘの欲望だけです。

 

 

2024年8月 2日 (金)

ハマス最高指導者ハニヤ死亡

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ハマスの最高指導者であるイスマイル・ハニヤが暗殺されました。

「(CNN) イスラム組織ハマスの最高指導者、ハニヤ政治局長がイラン首都テヘランで死亡した。イランの地元メディアが31日、イランの軍事組織・革命防衛隊の話として伝えた。
ハマスによれば、ハニヤ氏はイランの新大統領の就任式に参加した後、テヘランにある自宅への「シオニストの襲撃」により、護衛とともに殺害された。
CNNはハマスの発表についてイスラエル軍にコメントを求めている。
ハニヤ氏がいつ殺害されたのかは不明」
(CNN2024年7月31日)
イスラム組織ハマス最高指導者、イランで殺害 地元メディアが報道 - CNN.co.jp

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Xユーザーのالعربيةさん: 「#حماس: اغتيال #إسماعيل_هنية تصعيد خطير و البيت الأبيض: نحن على علم بالتقارير عن مقتل هنية #العربية https://t.co/Ebgw0eGPnM」 / X

イランの新大統領となったマスード・ペゼシュキアンの祝賀に出かけて、ホテルに帰った所を護衛もろとも空爆されたようです。
実行犯は声明を出していませんが、イスラエルと考えるのが常識的でしょう。
一方自国領土内でハニヤを殺させてしまったイランはこう声明を出しています。

「イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師は、ハニヤ氏暗殺に対する報復は「イラン政府の義務」だと述べ、イスラエルは「厳しい罰」を受けるだけのことをしたと非難した。
イラン国営メディアによると、同国外務省は、ハニヤ氏の「殉教」が「テヘランとパレスチナ、そしてレジスタンスの間の深く、断つことのできない絆を強める」とコメントした」
(BBC2024年7月31日)
ハマス最高幹部ハニヤ氏、イランで殺害される イスラエルが攻撃とハマス発表 - BBCニュース

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NYT

ハメイニとしては、こう言うしかなかったという感じです。
イランに招いておいてその式典の後に殺されたのですから、イランの面子は丸つぶれです。

「ハニヤ氏はイランのペゼシュキアン大統領の就任式に出席するためテヘランを訪問していた。ハマスが31日発表したところによると、ハニヤ氏は滞在していた宿泊施設で夜間にイスラエルの攻撃に遭い、死亡した。
その数時間前にイスラエルはレバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの司令官を殺害したと発表。さらに数カ月前には、シリアでイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)司令官らが空爆を受けて死亡。イランはイスラエルによる空爆だと非難した。
ハニヤ氏殺害がイラン国内で起き、その数時間前に同氏がイラン国営テレビ局でペゼシュキアン大統領を称賛していたことを踏まえると、今回の暗殺はイラン情報機関と最高指導者のハメネイ師、IRGCにとって大失態と言える」
(ブルームバーク2024年8月1日)
ハマス指導者殺害、なぜ起きたのか-イランの深刻な欠陥を露呈 - Bloomberg

 たぶん、イスラエルの諜報機関に内通したイラン政府内部の協力者がハニヤの居場所を追跡していたのでしょう。
イラン情報相のユネシは21年のインタビューで、 10年代初めに「競合する新たな複数の情報機関」が創設されて情報省が弱体化し、イスラエルのモサドがイラン国内に浸透する直接的なきっかけを作っている」(ブルームバーク)と述べていました。

「英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東・北アフリカ・プログラム担当ディレクター、サナム・バキル氏は、ハニヤ氏への攻撃について「イランの情報・安全保障機関に大きな穴が開いていることを露呈した。
情報が漏れ、イランにとっては極めて大きな失態だ」と指摘。近く退任するハティブ情報相がわずか数日前、国内におけるイスラエル情報機関の影響力をイランは削減したと話していただけに、いっそう無様に映るとバキル氏は語った」
(ブルームバーク前掲)

とてもではありませんが、今のイランにはイスラエルと戦える能力はなく、情報はだだ漏れ、手先のハマスはといえば壊滅状態です。
残されたハマスの指導部は、ガザ南部の地下にいるヤヒヤ・シンワルだけとなりました。
いままでもイランは2020年には革命防衛隊最高司令官ソレイマニを殺され、さらに23年にはその後継者のムサビとサレハ・アル・アロウリを次々と殺されていますが、イランはこの時も「代償を払わせる」と報復を宣言しましたが、ヒズボラにロケット弾を撃ち込ませた程度で、イスラエルのアイアンドームにあっさりと落されています。

そのヒズボラの最高指導者であるファド・シュクルも、先月30日には空爆されて死亡しています。
このシュクルは、ヒズボラ指導者ハッサン・ナスララの上にいるとされる最高指導者で、1983年にベイルートの米海兵隊兵舎が爆破され米兵241人が殺害で中心的役割を果たしたとして、米政府から情報提供に対して500万ドル(約7億6200万円)の報奨金をかけられています。

イランは自国が直接攻撃対象となった場合には考えるでしょうが、今はその時期ではないと考えるでしょう。
なぜなら、かんじんの核兵器はまだできていないからです。
たぶん核兵器そのものなら1カ月、2カ月で完成するでしょうが、それを搭載する運搬手段のミサイルに手まどっているといわれています。
これに後1年はかかり、その間イスラエルとの全面対決は避けたいというのが本音のはずです。
かといってなにもしないわけにはいかないので、時間かせぎに自分の息がかかったテロ組織のハマスやヒズボラに攻撃させていたのです。
試しにこの4月にミサイルやドローンを300発撃ち込んだがほぼ100%おとされることがわかり、やりようがないことが改めて証明されました。

このときもイスラエルは核基地の近辺を爆撃してみせています。
それ以降、イランとしては、全面戦争となるようなまねは絶対に避けたいと判断したはずです。
さもないとバンカーバスターで、お宝の核施設 を破壊されるかもしれません。

ですから、口とは裏腹にハマスの指導者であるハニヤなど使い捨ての駒にすぎず、できるだけガザ戦争を引き延ばしてくれることくらいの利用価値しかないと思っています。
ハニヤは去年10月のイスラエル大規模民間人虐殺の首謀者ですが、このテロ攻撃もイランが命じたものではないといわれています。

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ハマス戦闘員が音楽イベントに――若者ら260人が犠牲に 「奇襲」「民間人の人質」「SNS」…イスラエルに異例な大規模攻撃 - ライブドアニュース (livedoor.com)

今回のハニヤの死で、いちばんほくそ笑んでいるのがパレスチナ自治政府のアッバスのはずです。
アッバスはファタハのボスで、昔のPLOの流れを汲んでいますが、いまは腐敗しきって昔日の力はありません。
ハニヤは、2005年にイスラエルがガザから完全撤退した後、ハマスの最高指導者となり、その翌年のパレスチナ自治政府における選挙で、広くパレスチナ人の支持を集め、過半数をとりました。
ガザ市民は無能で私腹を肥やすことにだけ貪欲なファタハのアッバスにうんざりしていたのです。

以後、ハマスは穏健な仮面の下にイランからの支援で強力な武力を蓄え、自治政府の諸機関は完全にハマスが牛耳ることになります。
同時に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)も乗っ取ります。
UNRWAは通常の支援機関とは異なり、パレスチナ難民キャンプの運営自体に関わっています。
教育や病院など900以上の施設を運営しており、道路などのインフラ整備なども実施しています。
その結果、UNRWAだけで3万人という大量の職員を雇用しています。すごい利権です。
もちろんハマスに忠誠を誓う者しか採用されません。

EUだけで毎年UNRWAに6億9100万ユーロ(約1080億円)もの援助をおこなっており、巨大な利権となっています。
日本もUNRWAに対し第6位の援助国で、3320万米ドルを拠出しています。
このように、パレスチナに送られる国際的支援の大部分はUNRWAと自治政府を通して、ハマスの懐へと入って行くようになります。
病院や学校を作ったことは事実ですが、そこで教えられるのはイスラエル憎悪とハマスへのリクルートでした。

そしてハマスは平然と学校や病院の地下や近辺に軍事拠点を作り、ロケット弾テロを働いていました。
一方、アッバスはかろうじてヨルダン川西岸でかすかに息をしているだけの存在となり、事実上のガザの支配者はハニヤでした。

3年ほど前まで朝日はこんなノーテンキな記事を書いて、ハマスを手放しで褒めたたえていました。

パレスチナ自治区ガザ地区で続いた武装勢力とイスラエル軍との衝突は21日、停戦に入った。ガザ地区での最大勢力は、同地区を実効支配するイスラム組織ハマスだ。停戦前日の20日もイスラエルに向けてロケット弾を発射している。
米欧などが「テロ組織」とする一方、「エルサレムを守るために戦う」とのイメージを広め、存在感をさらに増している。
 イスラエル占領下の東エルサレムでパレスチナ人が退去を求められたことなどを機に、4月中旬からエルサレムなどで抗議デモが拡大。そうした人々の声を代弁するように、真っ先に動いたのがハマスだった。

「パレスチナの人々と聖地を守る」(ハニヤ政治局長)として5月10日、ロケット弾攻撃に踏み切った」
(2021年5月21日)
ハマスがガザで支持される訳 「盾」にされた市民だけど [ガザ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

まるで正義の味方、弱者のために立ち上がるハマスです。
日本の中東専門家業界はおしなべてこのトーンです。
彼らは10.7テロで一時沈黙しましたが、いまは元気を取り戻してジェノサイドをガナっています。
そしてハニヤはそれから10年後の2017年、ガザをシンワルに譲り、自分はハマスの指導部の多くを引き連れてカタールの豪邸暮しを始めます。ガザ市民は貧しい、天井のない牢獄だとハマスはプロパガンダしていますが、当人たちだけは世界からの支援金で優雅な富豪暮しをしていたわけです。

 

2024年8月 1日 (木)

トランプか掲げる「エネルギー・ドミナンス」とは

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環境・エネルギー政策は共和党と民主党でくっきりと意見が分かれている分野です。
「仮カマ」(カニカマではない)の場合のエネルギー政策は、いっそう脱炭素政策という経済自殺路線まっしぐらなことはハッキリしています。

トランプ政権時代には、エネルギー温暖化政策の否定とパリ協定からの離脱を図りましたが、逆にバイデンは政権発足の第一日目にパリ協定へ復帰してみせ、同時にカナダとの石油パイプラインの見直しを命じました。
その集大成がグリーンニューディールで、気候変動特使に命じたのが環境派のボス格のジョン・ケリーでした。

共和、民主で互いに政権を取るやいなや前政権の全否定をしていたわけです。
そいういえば、日本でも民主党政権になるやいなや、事業仕分けと称してダムを筆頭にしてバサバサと自民党時代の予算を潰しまくり、米国との準条約であった普天間移設の内容変更をしようとしましたっけね。
ですから「仮トラ」となった場合、今回もその例外ではなく、バイデン政権の環境・エネルギー政策は全否定される運命にあります。

2016年党大会に提出された共和党の大統領選の政策綱領がありますので、エネルギー・環境部分だけをピックアップしてみます。
【アメリカ】[立法情報]大統領選挙における民主党と共和党の政策綱領 (ndl.go.jp)

(3) アメリカの自然資源:農業、エネルギー及び環境
・鉱物資源の生産許可を促進し、原子力エネルギー開発への規制を解除する。
・いかなる炭素税にも反対する。環境保護庁(EPA)を独立委員会に改編する。
・温暖化防止に関する京都議定書(1997 年)とパリ協定(2015 年)いずれにも反対する。

ちなみに同じ年の民主党のそれはこうです。まさに正反対。
もはや社会主義計画経済で、自前のエネルギー源である石炭や原油、シェールガスの生産を著しく制限する内容です。

(5) 気候変動問題への取組、クリーンエネルギー経済の構築及び環境に係る正義の確保
・温室効果ガスの排出を、2050 年までに 2005 年比で 80 %削減する公約を維持する。
・今後 10 年以内に電力源の 50 %をクリーンエネルギーとする公約を維持する。

実はわが国もこの民主党政権の脱炭素路線に追随しています。

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1 脱炭素社会に向けた動向 (mlit.go.jp)
(2)我が国におけるカーボンニュートラル宣言
 2020年10月、日本政府は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。また、温室効果ガス削減目標として、「2050 年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030 年度において、温室効果ガスを2013 年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく。」こととし、2021年10月にNDCとして国連に提出した。また、同年10月に2050年カーボンニュートラルを踏まえた対策の方向性等を記載した、更新版の長期戦略を国連に提出した」
(国交省脱炭素化を取り巻く動向)
(mlit.go.jp)

いわば先進国のおつきあいですが、ヨーロッパ諸国は常に目標を変更したり、米国に至っては政権が変わるたびに正反対に突っ走ったりしていますが、優等生気質のうちの国は真面目に実行しようとしています。
まぁ、岸田さんは脱炭素化だけじゃなくて、LGBTQまで米国大使に言われてへへぇとなっちゃいましたけどね。ああ、みっともない。
知ったこちゃないけど、「仮トラ」になったらどーすんだろ。もう安倍さんはいないですよ。

それはさておき、トランプはこのマニフェストを実行に移しました。
民主党政権の脱炭素化という経済自殺路線を転換すると宣言しています。

・パリ協定からの離脱。
・連邦国有地での環境規制の撤廃。
・米国を横断するガスパイプラインの建設促進。
・国産エネルギーの増産支援。
・オバマ政権が環境配慮の規制で抑制した石炭産業、シェールガス支援。
・原子力推進。
・原子力発電の増加は支援。
・グリーンニューディール政策の否定。

原子力推進は両党とも一緒です。
化石燃料を全部封じて、原子力もゼロにしろ、これからは再エネ一本だ、なんてグレタさんみたいなことは、さすがに民主党も言いませんでした。

共和党の2024年版のマニフェストはできていませんが、共和党系のシンクタンク米国第一政策研究所(America First Policy Institute)が提言としてだしているのが参考になります。
「もしもトランプ」の場合に、エネルギー問題への影響はどうなるか – with ENERGY(ウィズエネ)
やや長いですが、資料としてアップしておきます。

1.エネルギー自給を実現し、輸入石油ガスへの依存を終了
・沖合および陸上での石油・ガス生産の拡大を奨励。

・アラスカ国立野生生物保護区(ANWR)とアラスカ国立石油保護区(NPR-A)の開放。
・重要鉱物やレアアースのエネルギー自給への明確な道筋を確立。
・ウランの採掘、転換産業における許可の合理化と規制上のハードルの除去
・戦略的ウラン備蓄の確立
・次世代原子力技術開発のための官民パートナーシップ
・原子力教育、人材育成
2.エネルギー生産増大による価格引き下げ
・生産段階から消費段階までの非効率な補助金、規制の廃止

・退役する発電所の迅速な復旧 等
3.予測可能、透明、効率的な許可プロセスと規制環境の構築
・予測可能、透明、効率的な許可プロセスと規制環境の構築=補助金を評価し、規制・許認可改革による合理的な制度を作る。

・裁量的規制をすべて停止
4.すべてのアメリカ人にきれいな空気、きれいな水、きれいな環境を
・大気浄化法(CAA)水質浄化法(CWA)などを見直し

・中国をはじめとする敵対国の膨大な環境破壊を監視する
・パリ協定ではなく、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)のような意味のある強制力のある環境協定を優先

5.豊富なエネルギー輸出でエネルギー大国に
・国際的なエネルギー・環境機関(UNFCCC、IEA、IREN等)を包括的に監査し、米国の利益に資するよう関与を適正化

・エネルギー省による30日間の審査プロセスでLNG輸出認可を合理化
・自由貿易協定(FTA)の待遇を非FTA諸国、特にアメリカの同盟国に拡大
・国際石油パイプライン・インフラに対する国務省の監視を緩和または撤廃
・海外の化石燃料プロジェクトへの融資に対する障壁を撤廃
・連邦政府による財政支援、保証、契約を受けるための要件として、国内外を問わず、再エネプロジェクトに対して少なくとも75%の国産要件
・原子力技術の移転に必要な認可の期限を設定

ざっとこういう感じですが、第1次トランプ政権と異なるのは、「エネルギードミナンス」という概念が加わったことてす。
ドミナンス(dominance)は 優勢、優越、支配的立場のことですが、この「優勢」な勢力を同盟国と築こうという考えです。
これはエネルギーという場での同盟関係構築を意味します。
トランプ自身に語ってもらいましょう。

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トランプの公約「エネルギードミナンス」とは何か – Global Energy Policy Research | GEPR

「ドナルド・J・トランプ大統領のリーダーシップの下、米国は地球上でナンバーワンの石油・天然ガス産出国となり、米国のエネルギー自立を達成し、石油、ガス、ディーゼル、電力の歴史的な低コストを消費者と企業に提供した。トランプ大統領は、わが国が神から授かった豊富な石油、天然ガス、クリーンな石炭を解き放った。彼は、キーストーンXLとダコタ・アクセスのパイプラインを承認し、連邦の土地と沖合地域を責任ある石油・ガス生産のために開放し、不公平で費用のかかるパリ協定を終結させた。
ジョー・バイデンはトランプ・エネルギー革命を逆行させ、今や海外の敵国を豊かにしている。トランプ大統領は、国内のエネルギー資源の生産を解き放ち、高騰するガソリン、ディーゼル、天然ガスの価格を引き下げ、世界中の友人のためにエネルギー安全保障を促進し、社会主義的なグリーン・ニューディールを排除し、米国が再び外国のエネルギー供給者の言いなりになることがないようにする」
トランプ公式ホームページ

いままでエネルギーは商取引関係のみで語られてきたために、そこに「ドミナンス」という政治・軍事的要素も含んだ概念を持ち込むことはありませんでした。
その結果どうなったでしょうか。
地球温暖化対策は過激化が進み、国際的な枠組みである「パリ協定」は、先進国だけに実現不可能な「2050年CO2ゼロ」を目標化させる一方、世界最大のCO2排出国であるはずの中国は途上国ヅラをして何もしなくてよいという、極めていびつな関係が固定化しました。
パリ協定とはエネルギーにおける不平等条約なのです。
その結果、自由主義先進国には安全保障の要であるエネルギー確保に対して脱炭素という何重もの規制がかかり、常に電力不足、石油高が経済を苦しめることになりました。

トランプが構想しているのは、再びパリ協定から離脱し、これに日本も加わることで実質的にこの協定を廃棄に追い込むことです。
そしてこのエネルギー・ドミナンスに加わる諸国に対して米国は、シェールガスを中心とした米国産エネルギーを安定的に供給し、中国やロシアと対峙しようと考えています。

オバマが始め、バイデンが受け継ぎ、ハリスがさらに徹底的な脱炭素化に突き進もうとするのか、それともトランプが再びそれに待ったをかけるのか、この問題は中絶問題などと違って国際的影響が巨大です。

 

 

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