独裁者の疑心暗鬼が引き起こしたのか、領空侵犯
中国は「領空侵犯の意志なし」なんて言っていますが、もちろん「軽い冗談」です。
[北京 27日 ロイター] - 日本の防衛省が26日、中国軍のYー9情報収集機が長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯したと発表したことについて、中国外務省の林剣報道官は27日の定例会見で、関連部署が状況の把握に努めていると述べた。
同報道官は「双方は既存の実務ルートを通じた意思疎通を維持している」とし「中国にはいかなる国の領空を侵犯する意図がないことも強調したい」と述べた」
(ロイター8月27日)
中国外務省「領空侵犯の意図ない」、状況を把握中 | ロイター (reuters.com)
まぁ、その意志があって実行したとなるとリッパな戦争行為ですからね。
可能性としては三つです。
①習近平の直接の命令。
②習近平を困らせるための反対派の策謀。
③現場の軍の独走。
素直に考えれば、①の習近平の直々の命令でわが国の総裁選へ威圧をかけたとするのが常識的でしょうが、よくわかりません。
というのは習は軍幹部の粛正を繰り返していますが、その理由は軍が常に独自の勢力であることを企むのを止めず、軍を完全な支配下に置くこととができないでいるようだからです。
すると②の習反対派が、外交に乗り出して国際政治大物に成り上がりたい習の足をさらう目的でやったこともありえます。
この間のフィリピンへの執拗な圧力は戦争直前まで緊張が高まっており、米中戦争を招き寄せかねない結果となっています。
これなど習の命令でしているのかどうなのか。
ただしこういった領空侵犯やフィリピンに対する圧力は、習自身がしてきたことであり、結果でもあるために①も捨てきれません。
③の現場の独走は考えられなくもありませんが、あのような極度に中央集権的な国家では、共産党のいずれかの派閥と結びついてのことでしょう。
かつては香港ルートでそれなりに確度の高い情報が入ってきましたが、いまや国安法支配下で完全に情報パイプが目詰まりを起こしています。
そのために、共産党の情報がなにも伝わってこないのが現状です。
たとえば、香港にはサウスチャイナ・モーニング・ポストや蘋果日報が、中国政府の情報を伝えていました。
80年代から記者をしていた蔡咏梅はこう言っています。
「私が香港の自由を深く感じたのは、当時の深圳市の物語だ。深圳市の向こう側では、誰を罵ってもよかったが、ただ政府だけは罵ることができなかった。河のこちら側は、誰を罵ってもよかったが、ただ妻だけは罵ることはできなかった」
ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルなどの新聞社は香港を拠点にその他の国家や地域をカバーさせていました。
それは香港が中国報道のみならずアジア全体の報道のハブだったからです。
これらの外国メディアは香港から撤退しました。
国安法は非常にあいまいです。蔡咏梅はこう言います。
「何を行えば、国安法に抵触するかはっきりしていない。あの法律は、思い通りに誰に対しても(容疑をかけらることが)可能のでみんなびくびくしている」
国安法のほんとうの恐ろしさは、解釈ひとつで中国政府に対する批判すべてを「国家転覆罪」として逮捕拘束できることです。
たとえば国安法第20条にはこう書かれています。
●国安法第20条
国家分裂、国家統一破壊の組織、計画、実施に参与したいかなる者も、武力を使用、あるいは武力を使用すると脅したか否かにかかわらず、すなわち犯罪である。
覚えておきましょう。いかなることも当局の恣意で「国家転覆罪」に仕立てることができる、これが全体主義です。
このようにして香港は中国の耳と口、そして眼であることを止め、深い沈黙に追い込まれたのです。
これは皮肉にも、中国自身の眼も塞いだことになりました。
それは中国当局にとっても、香港は外部世界の生の情報を取り入れることのできる、ほとんど唯一の接点、窓口だったからです。
それでなくても中国共産党とその政府のしもべたちは習の気に入る情報しか伝えなかったものが、いまやそれすらしなくなってしまいました。
習近平は確かな情報が得られずに裸の王様になったのです。
そこから芽生えるのは例の独裁者特有の真理、つまり疑心暗鬼です。
習近平の顔に貼りついたようになっている退屈と憂鬱な表情。
国のトップオブトップスに登り詰めた72の男とは思えない覇気のない気だるさ。
だれの言うことも信じられなくなった老人性鬱。
「中国共産党体制内の良心的な情報筋の説明によると、習近平は現在、いくつかの不安、それも極端な不安の中にいる。習近平はまた、このいくつかの極端な不安に基づいて、戦略計画を立てている。
現代の医学水準では、習近平が病気で死ぬ可能性は小さい。習近平の最大の不安は政治生命の安全である。
2人の国防相、秦剛元外相、ロケット軍や戦略支援軍の指導部に至るまで、習近平の側近だった解放軍の将官や外交幹部が、習近平に対し政治的に不誠実な行為を行っていた証拠が大量に判明した。秦剛、李尚福、魏鳳和およびロケット部隊幹部の粛清は、汚職が理由という人もいるが実は、政治的不誠実(習近平に対する不忠誠)問題が理由だ。これが問題の核心だ」
中国趣聞NO1054:北戴河会議で何が起きたか?噂の真相に迫る袁紅冰インタビュー
取り巻き幹部の誰ひとり信用できず、特にその疑惑は隠然たる巨大な力を持つ軍に集中しています。
国防相、ロケット軍という戦略ミサイル部隊の将官、外交幹部の「不忠分子」が次々に汚職を理由に粛清されていきました。
「過去6カ月の間に、少将以上の軍人だけでも15人が失脚した。その中心はロケット軍関係者。ロケット軍司令だった李玉超、ロケット軍政治委員だった徐忠波ら幹部がごっそり失脚した。年末、9人の軍人の全国人民代表資格剥奪が発表されたが、その9人のうち5人がロケット軍関係者だった。
また戦略支援部隊関係者も大勢失脚した。国防相だった李尚福は元戦略支援部隊副司令兼参謀長、第20回党大会で中央軍事委員を引退した魏和鳳(元国防相、ロケット軍初代司令)、最近動静不明の巨乾生・戦略支援部隊司令も2023年夏以降、汚職あるいはスパイ容疑で取り調べを受けているといわれている」
(福島香織2024年1月12日)
中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮 13日には台湾総統選、「中国の軍事的脅威」とはいかほどか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
いまや軍はもの言わぬ不忠分子の巣窟と見なされ始めました。
元来、習近平は軍に無知でした。
2915年の軍事パレードで左手で敬礼したほどです。
中国人民解放軍建軍90周年--政治--People's Daily Online
歴代の中国共産党は軍の中から生まれました。
それは毛沢東の「革命は銃口から生まれる」という革命戦争思想の必然として、軍と共産党はふたつでひとつの存在だったわけです。
ごく自然に第1世代の指導者たちはすべて従軍体験があり、鄧小平は革命戦争の指揮官でしたから、軍の忠誠とリスペクトを最初から期待できた幸せな世代でした。
しかし最高指導者が文民に変わると、党は軍の支持を得るために必死にならねばならなくなりました。
江沢民は、中国の改革開放による経済成長のうまみを軍人にも分け与えるために軍がビジネスをすることを推奨し、大きな利権、特権を与えることで軍の支持を得ようとして成功しました。
要は江は札びらで軍の頬を叩いたのです。
この軍の利権の分配こそが、他国にない軍の財閥化を生み出し、今に続く軍のまったんまで染み込んだ腐敗構造を作り出していきます。
胡錦濤は軍から利権を奪おうとしましたが失敗します。
これを見ていた習は、軍を党のしもべとすべく徹底した「反腐敗闘争」という粛清を強引に進めていきます。
これは同時に、まだ存命していた江沢民派との闘争でした。
とうぜんのこととして、これはやればやるほど軍の反発と面従腹背を生んでいきます。
そして皮肉にも、江沢民時代と違って、いまや実際の戦争が起きる可能性がきわめて高いのです。
こういう状況の中で、このいままで歴代の指導者がしなかった領空侵犯事件が起きたのです。
果たして無関係でしょうか。
たんなる計器の故障かもしれませんが、私は可能性の4番目として、軍の習近平への「忖度」ではないかとも思うのです。
それはあの2分間という短い時間に、領空にタッチ&ゴーしたそぶりからも伺えます。
現時点では本格的に領空侵犯する気はないが、自衛隊機の動きを見ておきたいという合理的理由だけではなく、なにかそれ以外の脂っこい心理が隠されていそうです。
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こうして見ると趙紫陽〜胡耀邦のラインがいかに開明的であったかという。
鄧小平に付いた李鵬に歩調を合わせて寝返って政権を取った江沢民というイメージですね。
あの天安門から35年過ぎました。
中国共産党という絶対権力の中での派閥抗争が苛烈を極めてますね。
政府の報道官も解放軍の報道官も「我が国は他国の主権を侵害したことはない。大きな騒ぎにするな」とか、どの口がいってるんだか。
一旦100歩引いて東シナ海や南シナ海があちらの言うように「係争地」だとしても、いつの間にか「核心的領土」だと言い出すんだし。
最近だと投資しまくってるアフリカ諸国には「世界平和会議には出席するな」と圧力かけたり。
それでいてチベット·ウイグルといった人権問題だと「内政干渉だ!」とダダをこねる様式美。
二階の爺さんたちは何をしにいったのやら。王毅に塩対応されて逆に睨まれただけ。
で、林さんは総裁選挙出るんですかぁ。はあ、どうせお話にもならないでしょうけど、乱戦になれば少しは目立てるという算段か?
投稿: 山形 | 2024年8月30日 (金) 05時24分
私は、③現場の軍の独走。説ですわ。かの関東軍と同様に、硬直化した大国意識を持つ現場のエリートが、「ドヤ!やったったでェ、日本なんてチョロイもんよ」「オレみたいな有能な軍人にとっては、領空侵犯なんて朝飯前さね」、ってなもん。
対して中共上層部は、「ありま、ホントにやっちゃった!」「そら小日本だとか、米国の属国だとか、かつて我が中華を侵略した倭人の成れの果てとか、そりゃ、そういう教育はしたよ」「けど、こう簡単にやるとは思わなんだ」と、少し焦ってる。領空侵犯には本来強いメッセージが込められてこそ、その意味がある。なのに、これじゃトンダ無駄撃ちじゃないかと。
おそらく大国の軍として、はち切れんばかりに膨らんだ中華エリート意識が現場にあって、戦争ヤル気まんまんなんだと思いますわ。そしてそれは中共トップが望んだことではあるのですが、あまりに"純粋"に育ててしまったばかりに、トンデモナイ夢=軍閥(人民解放軍派閥)によるアジア統一を持ってしまったんですわ。そしてやはり"純粋"に育ててしまった愛国国民が、ヤンヤヤンヤと軍閥の活躍(?)を熱く称賛するので、中共トップも「よくやった!」と言うしかなくなるんですわ。
もし万一そうだとすれば、これから台湾フィリピン日本に対して突発的に領空侵犯をかましてくるケースが増えますわ。関東軍が必ずしも陸軍の命令に従わなかったように、中華軍閥も中共上層に必ず忠実であるハズがありません。東アジア的文化圏にある(あった)硬直化した全体主義国家というものは、どこか似てくるものなのか知れませんわ。中共も、そのうち米国の仕掛けにマジで引っ掛けられるかも。
旧大日本帝国の領土拡大の失敗や、最近じゃ不動産バブル崩壊の処理の失敗など、中共はホントに日本を研究してんの?と不思議ですわ。まあ、無能皇帝ですから。
投稿: アホンダラ1号 | 2024年8月31日 (土) 00時10分