ハマス最高指導者ハニヤ死亡
ハマスの最高指導者であるイスマイル・ハニヤが暗殺されました。
「(CNN) イスラム組織ハマスの最高指導者、ハニヤ政治局長がイラン首都テヘランで死亡した。イランの地元メディアが31日、イランの軍事組織・革命防衛隊の話として伝えた。
ハマスによれば、ハニヤ氏はイランの新大統領の就任式に参加した後、テヘランにある自宅への「シオニストの襲撃」により、護衛とともに殺害された。
CNNはハマスの発表についてイスラエル軍にコメントを求めている。
ハニヤ氏がいつ殺害されたのかは不明」
(CNN2024年7月31日)
イスラム組織ハマス最高指導者、イランで殺害 地元メディアが報道 - CNN.co.jp
イランの新大統領となったマスード・ペゼシュキアンの祝賀に出かけて、ホテルに帰った所を護衛もろとも空爆されたようです。
実行犯は声明を出していませんが、イスラエルと考えるのが常識的でしょう。
一方自国領土内でハニヤを殺させてしまったイランはこう声明を出しています。
「イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師は、ハニヤ氏暗殺に対する報復は「イラン政府の義務」だと述べ、イスラエルは「厳しい罰」を受けるだけのことをしたと非難した。
イラン国営メディアによると、同国外務省は、ハニヤ氏の「殉教」が「テヘランとパレスチナ、そしてレジスタンスの間の深く、断つことのできない絆を強める」とコメントした」
(BBC2024年7月31日)
ハマス最高幹部ハニヤ氏、イランで殺害される イスラエルが攻撃とハマス発表 - BBCニュース
ハメイニとしては、こう言うしかなかったという感じです。
イランに招いておいてその式典の後に殺されたのですから、イランの面子は丸つぶれです。
「ハニヤ氏はイランのペゼシュキアン大統領の就任式に出席するためテヘランを訪問していた。ハマスが31日発表したところによると、ハニヤ氏は滞在していた宿泊施設で夜間にイスラエルの攻撃に遭い、死亡した。
その数時間前にイスラエルはレバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの司令官を殺害したと発表。さらに数カ月前には、シリアでイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)司令官らが空爆を受けて死亡。イランはイスラエルによる空爆だと非難した。
ハニヤ氏殺害がイラン国内で起き、その数時間前に同氏がイラン国営テレビ局でペゼシュキアン大統領を称賛していたことを踏まえると、今回の暗殺はイラン情報機関と最高指導者のハメネイ師、IRGCにとって大失態と言える」
(ブルームバーク2024年8月1日)
ハマス指導者殺害、なぜ起きたのか-イランの深刻な欠陥を露呈 - Bloomberg
たぶん、イスラエルの諜報機関に内通したイラン政府内部の協力者がハニヤの居場所を追跡していたのでしょう。
イラン情報相のユネシは21年のインタビューで、 10年代初めに「競合する新たな複数の情報機関」が創設されて情報省が弱体化し、イスラエルのモサドがイラン国内に浸透する直接的なきっかけを作っている」(ブルームバーク)と述べていました。
「英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東・北アフリカ・プログラム担当ディレクター、サナム・バキル氏は、ハニヤ氏への攻撃について「イランの情報・安全保障機関に大きな穴が開いていることを露呈した。
情報が漏れ、イランにとっては極めて大きな失態だ」と指摘。近く退任するハティブ情報相がわずか数日前、国内におけるイスラエル情報機関の影響力をイランは削減したと話していただけに、いっそう無様に映るとバキル氏は語った」
(ブルームバーク前掲)
とてもではありませんが、今のイランにはイスラエルと戦える能力はなく、情報はだだ漏れ、手先のハマスはといえば壊滅状態です。
残されたハマスの指導部は、ガザ南部の地下にいるヤヒヤ・シンワルだけとなりました。
いままでもイランは2020年には革命防衛隊最高司令官ソレイマニを殺され、さらに23年にはその後継者のムサビとサレハ・アル・アロウリを次々と殺されていますが、イランはこの時も「代償を払わせる」と報復を宣言しましたが、ヒズボラにロケット弾を撃ち込ませた程度で、イスラエルのアイアンドームにあっさりと落されています。
そのヒズボラの最高指導者であるファド・シュクルも、先月30日には空爆されて死亡しています。
このシュクルは、ヒズボラ指導者ハッサン・ナスララの上にいるとされる最高指導者で、1983年にベイルートの米海兵隊兵舎が爆破され米兵241人が殺害で中心的役割を果たしたとして、米政府から情報提供に対して500万ドル(約7億6200万円)の報奨金をかけられています。
イランは自国が直接攻撃対象となった場合には考えるでしょうが、今はその時期ではないと考えるでしょう。
なぜなら、かんじんの核兵器はまだできていないからです。
たぶん核兵器そのものなら1カ月、2カ月で完成するでしょうが、それを搭載する運搬手段のミサイルに手まどっているといわれています。
これに後1年はかかり、その間イスラエルとの全面対決は避けたいというのが本音のはずです。
かといってなにもしないわけにはいかないので、時間かせぎに自分の息がかかったテロ組織のハマスやヒズボラに攻撃させていたのです。
試しにこの4月にミサイルやドローンを300発撃ち込んだがほぼ100%おとされることがわかり、やりようがないことが改めて証明されました。
このときもイスラエルは核基地の近辺を爆撃してみせています。
それ以降、イランとしては、全面戦争となるようなまねは絶対に避けたいと判断したはずです。
さもないとバンカーバスターで、お宝の核施設 を破壊されるかもしれません。
ですから、口とは裏腹にハマスの指導者であるハニヤなど使い捨ての駒にすぎず、できるだけガザ戦争を引き延ばしてくれることくらいの利用価値しかないと思っています。
ハニヤは去年10月のイスラエル大規模民間人虐殺の首謀者ですが、このテロ攻撃もイランが命じたものではないといわれています。
ハマス戦闘員が音楽イベントに――若者ら260人が犠牲に 「奇襲」「民間人の人質」「SNS」…イスラエルに異例な大規模攻撃 - ライブドアニュース (livedoor.com)
今回のハニヤの死で、いちばんほくそ笑んでいるのがパレスチナ自治政府のアッバスのはずです。
アッバスはファタハのボスで、昔のPLOの流れを汲んでいますが、いまは腐敗しきって昔日の力はありません。
ハニヤは、2005年にイスラエルがガザから完全撤退した後、ハマスの最高指導者となり、その翌年のパレスチナ自治政府における選挙で、広くパレスチナ人の支持を集め、過半数をとりました。
ガザ市民は無能で私腹を肥やすことにだけ貪欲なファタハのアッバスにうんざりしていたのです。
以後、ハマスは穏健な仮面の下にイランからの支援で強力な武力を蓄え、自治政府の諸機関は完全にハマスが牛耳ることになります。
同時に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)も乗っ取ります。
UNRWAは通常の支援機関とは異なり、パレスチナ難民キャンプの運営自体に関わっています。
教育や病院など900以上の施設を運営しており、道路などのインフラ整備なども実施しています。
その結果、UNRWAだけで3万人という大量の職員を雇用しています。すごい利権です。
もちろんハマスに忠誠を誓う者しか採用されません。
EUだけで毎年UNRWAに6億9100万ユーロ(約1080億円)もの援助をおこなっており、巨大な利権となっています。
日本もUNRWAに対し第6位の援助国で、3320万米ドルを拠出しています。
このように、パレスチナに送られる国際的支援の大部分はUNRWAと自治政府を通して、ハマスの懐へと入って行くようになります。
病院や学校を作ったことは事実ですが、そこで教えられるのはイスラエル憎悪とハマスへのリクルートでした。
そしてハマスは平然と学校や病院の地下や近辺に軍事拠点を作り、ロケット弾テロを働いていました。
一方、アッバスはかろうじてヨルダン川西岸でかすかに息をしているだけの存在となり、事実上のガザの支配者はハニヤでした。
3年ほど前まで朝日はこんなノーテンキな記事を書いて、ハマスを手放しで褒めたたえていました。
「パレスチナ自治区ガザ地区で続いた武装勢力とイスラエル軍との衝突は21日、停戦に入った。ガザ地区での最大勢力は、同地区を実効支配するイスラム組織ハマスだ。停戦前日の20日もイスラエルに向けてロケット弾を発射している。
米欧などが「テロ組織」とする一方、「エルサレムを守るために戦う」とのイメージを広め、存在感をさらに増している。
イスラエル占領下の東エルサレムでパレスチナ人が退去を求められたことなどを機に、4月中旬からエルサレムなどで抗議デモが拡大。そうした人々の声を代弁するように、真っ先に動いたのがハマスだった。
「パレスチナの人々と聖地を守る」(ハニヤ政治局長)として5月10日、ロケット弾攻撃に踏み切った」
(2021年5月21日)
ハマスがガザで支持される訳 「盾」にされた市民だけど [ガザ情勢]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
まるで正義の味方、弱者のために立ち上がるハマスです。
日本の中東専門家業界はおしなべてこのトーンです。
彼らは10.7テロで一時沈黙しましたが、いまは元気を取り戻してジェノサイドをガナっています。
そしてハニヤはそれから10年後の2017年、ガザをシンワルに譲り、自分はハマスの指導部の多くを引き連れてカタールの豪邸暮しを始めます。ガザ市民は貧しい、天井のない牢獄だとハマスはプロパガンダしていますが、当人たちだけは世界からの支援金で優雅な富豪暮しをしていたわけです。
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コメント
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久々に胸のすく思いがした事件でした。
日本の報道では「ハニヤは紳士」とか言ってるのがあったけど、あれは労動貴族ならぬ革命貴族。パレスチナ人の血を吸って、自らは贅沢に耽る最低のテロリストです。
菅原出氏なんかが、「(本当にイスラエルの攻撃とすれば)これから凄まじい展開になる」などと書いていました。けれど、そんな事はないです。
イランは自国大使館を攻撃されてイスラエルにミサイルを撃ち込みましたが、99%迎撃されています。その後は自国向けのプロパガンダにその戦果を大々的に膨らませて喧伝し、自ら沈静化させています。
記事のようにイランに正面から構える能力はないです。
もちろん限定的な報復はあるでしょうが、大事に至る事はありません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年8月 2日 (金) 13時19分
若かりし頃にそのテの本を読んでいると、『タルムード』に出ているとか『タルムード』を読んで実践したとか書かれていて、それで『タルムード』というユダヤ伝統の本があると知って、さっそく本屋へ行ってそれらしき訳本を買って読んでみたら、実は『タルムード』という本が一冊あるわけでなくて、ユダヤの歴史の中で各人の知恵や一族の箴言などが"各"『タルムード』に記されたものであり、それゆえユダヤの『タルムード』は無数にあると解かって、もう驚きましたわ(半分、あきれた)。
旧約聖書を今も頑なに信じるユダヤ人も多いというだけで驚きだったのに、その他にも"各"『タルムード』が彼らの行動を律していて、ユダヤ人は決してその時の感情や気分で生きておらず、常に歴史の教訓の中に生きているんですわ。
私などは、ハマスと無関係で実際にはハマスに虐げられているだろう一般のパレスチナ人が、ハマスが紛れ込んでいるというだけの理由で十把一絡げに殺戮されていく現況に心が萎えますが、ユダヤの人達にとっては、彼らの歴史上の教訓から「ヤラれたら必ず打ち負かせ!」(敵に情をかけると、最後にはこっちの喉笛が切られる)という行動に従っているんだと思いますわ。
突然侵入してきたハマス戦闘員に民間人を虐殺されて、一部は人質として拘束されて最後の一人まで解放されないままでは、ユダヤ人は敵をトコトンまで追い詰めて追い詰めて、必ずタマを取るんですわ。確かにここまでヤルと、将来、今回のようなイスラエル襲撃を計画する者はヤワな根性では躊躇してしまうでしょう。必ずタマ取るまで一般人もろとも報復されるんですから。
私も人の子なんで、一般のパレスチナ人まで殺すイスラエルの報復はやりすぎだと思いますが、自己の安全は自己の武力で守りぬく、敵は必ず抹殺する、というユダヤ人の掟には恐れ入りましたわ。ただ、ペルシャ人にもペルシャ人の誇りがあるわけで、もう剣や弓の時代じゃないんでエスカレートしたら共倒れになりますわ。それともこの先、「核の抑止力」が効くことになるんでしょうか?
投稿: アホンダラ1号 | 2024年8月 3日 (土) 00時37分