パリ五輪、女子ボクシング問題について考える
パリ五輪が女子ボクシングにおいて、LGBTQの選手と女性選手を戦わしたとして、イタリア首相も巻き込んだトラブルに発展しました。
「パリ五輪で2人の選手の「ボクシング女子」への参加が国際的な論争を呼んでいる。両選手は、昨年の世界選手権において検査の結果、「女子」選手としての参加資格がないと判断されていた。にもかかわらず、IOC(国際オリンピック委員会)が、2選手にパリ五輪でのボクシング女子への参加を認めたためだ。
そのうちの1人は、対戦相手の途中棄権により初戦を突破。対戦相手は「公平ではない」と涙をこぼした」
(日テレ8月2日)
【パリ五輪】過去にボクシング女子に“参加資格なし”の選手が勝利 背景に長引く“ルールの不在”が…|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)
このハリフ選手は東京大会で失格しています。
それについて国際ボクシング協会はこう述べています。
「この時の世界選手権を開催者したIBA(国際ボクシング協会)は、議論の高まりを受けた先月31日、ハリフ選手とリン選手が失格となっていた昨年の大会の経緯を説明する声明を発表した。
IBAによると、この2人の選手は2022年および2023年の世界選手権期間中に実施された2回の検査の結果、女子競技に参加するための条件を満たさなかったという。このためIBAは、綿密な検査結果の検討の上で、競技の「公平さ」を保つため両選手を失格とした。このためハリフ選手は決勝戦に出場することができなかった。
IBAは検査の詳細は明かしていない。さらにIBAは、IOCが問題の2選手のボクシング女子への参加を認めたことを批判し、競技の公平性と安全への懸念も表明している」
(日テレ前掲)
この選手の適格性についてIOCは対立する意見を持っているようです。
「IOC広報責任者のマーク・アダムス氏は2日の会見で、ハリフ選手について「女性として生まれ、女性として登録され、女性として生きてきた選手で、トランスジェンダーではない」としている」
(日テレ前掲)
IOCは、このハリフ選手はトランスジェンダーではなく、生まれつき男性器がないDSDsであり「女性として生きてきた」とする意見のようです。
「人間の性に関わる発達は、とても複雑な過程をたどります。多くの人とは異なる過程を経て、性染色体や性腺、内性器、外性器が非典型的である状態の総称がDSDsとされ、そこには様々な状態が含まれます」
(朝日2024年8月3日 )
ボクシング女子、性と出場資格めぐる議論 「公平性」模索の歴史 - パリオリンピック:朝日新聞デジタル (asahi.com)
このようなタイプの人は、DSDs (Differences of Sex Development :体の性の様々な発達)と呼ばれています。
DSDs問題の運動団体はこう説明しています。
「DSDsは単一の体の状態ではなく、然るべき検査なしでは見た目だけでは性別がすぐには分かりにくい形状の外性器(女性器が大きかったり,男性器が小さく尿道口の位置がずれていたり、内性器等が外に露出した状態等)で生まれる女の子や男の子の赤ちゃんや、二次性徴の欠如等で、X・Y染色体の構成がXひとつであったり(ターナー症候群女性),男性に一般的とされるXY型であったり(アンドロゲン不応症女性など:全くの女性です)、膣・子宮が無いと判明する女性(ロキタンスキー症候群:全くの女性です)、不妊で判明する男性(クラインフェルター症候群男性や,XX男性)等様々なものがあり、それぞれの体の状態や判明時期の違いによっても全く異なります」
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とは? | ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会 (nexdsd.com)
つまり、ハリフ選手は男性器がない、もしくは未発達で生まれ「女性として生きてきた」が、思春期に運動によって骨格と筋肉が男性同様に発達した人ということのようです。
しかしハリフ選手の染色体は男性が持つXY型です。
また一般的に男性を示すテストステロン値も高いために、東京大会では失格となっています。
「ハリフ選手は女性選手として東京オリンピックにも出場。5位入賞を果たしましたが、去年の世界選手権では林選手と同様、失格になっていました。「男性の染色体を持つ」とされ、性別検査で不合格とされました」
(日テレ8月3日)
IOC「女性として生まれ、生きてきた」…正当性を強調 女子ボクシング「男性の染色体を持つ」選手|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)
しかしIOCはこれを不服として、IBAを五輪の統括団体からはずしました。
その理由はテストステロン値だけではわからないケースが生まれたからです。
テストステロンとは、男性ホルモンのなかでも筋肉や骨格の構成に大きく影響するホルモンで、これによって男性は女性より筋肉質で大きな骨格になります。しかしこれも骨格ができる思春期にいかなる運動をしたかで決定され、決定的なものではないのです。
「このテストステロンの値で線引きしたということですが、私はそれでもダメだと考えます。
当然ですが、人間の肉体が性別によってそれぞれ大きく変化するのは思春期です。
この時期にホルモン的にどちらの性別で過ごしたかでその後の骨格に大きな影響を与えます。
骨格が出来上がったあとにテストステロンの値を測って女子競技に出てOKなんて、そんな馬鹿な話はありません。
この件に苦言を呈した女性選手は引退に追い込まれました」
女子自転車競技で生物学的男性のトランスジェンダー選手が優勝したLGBT問題について – kurocycle クロサイクル | kurocycle
つまりXY染色体でもわからず、DSDsで外性器がなく、成長期に運動した結果テストテロン値が高く出る場合もあるわけで、じゃあいったい性別を決める決定的要素はなんなのでしょうか。
生物学的に決定できないのなら、たぶん当人の「自分は女性だ」という性自認というその人の内面の問題だけとなってしまいます。
実際、多くの公的団体はここに重点を置いています。
「性自認とは、自分の性別をどのように認識しているかを示す概念で「心の性」ともいいます。身体は男性で、自分を女性と認識している人、身体は女性で、自分を男性と認識している人、男性、女性どちらにも当てはまらないと感じている人もいます。自分の性別をどのように認識するかは人それぞれ違います。多くの人は「身体の性」と「心の性」が一致していますが、「身体の性」と「心の性」が一致しないことにより違和感を覚えたり、身体の手術を通じて「身体の性」と「心の性」の適合を望んだりすることもあります」
島根県:★性的指向・性自認(LGBT等)(トップ / くらし / 人権・男女共同参画 / 人権 / 性的指向・性自認(LGBT等)) (shimane.lg.jp)
IOCも「骨格や筋肉の差は、性別ではなく個人差なだけ」という見解を発表し、共通のルールづくりを諦めて、競技協会ごとに決定しろという立場のようです。
本当にそれ「だけ」なのでしょうか。
一般社会ならそれで通用します。
しかしこれが身体能力を競う競技、ましてや肉体的打撃を伴う格闘技やサッカーのようなフィジカル・コンタクトが多い競技だった場合、話は別です。
男性同様に身体が出来上がった「心が女性」の選手がフィジカルコンタクトをした場合、圧倒的に前者が有利だからです。
実際、女子サッカーではLGBTQが激増しています。
「2023年7月に始まるFIFAサッカー・女子ワールドカップに参加するLGBTQ当事者の選手数が、過去最高になるとみられている。
アウトスポーツによると、前回2019年大会は40人だったが、2023年大会はその倍以上の87人が出場する。
そのほとんどが北米や南米、ヨーロッパ、オーストラリアとニュージーランドの選手で、参加チームの3分の2以上にLGBTQの選手が所属している」
サッカー女子ワールドカップ、LGBTQの選手数が過去最高に。前回大会から倍以上の増加 | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)
スポーツにおいて、なぜ女性と男性が分かれているのか、その理由は明確です。
それは女性保護を徹底しないと肉体的危険があるからです。
だから男女の線を取り払って戦わせる競技はありません。
男女は肉体的特徴が異なり、男性の方が競技において優位になる場合が圧倒的でしたが、かつてIOCはこの女性保護の視点を放棄し、LGBTQに寄り添った結果、テストテロン値で決めることにしました。しかし前述したように、このテストステロン値もダメでした。
かくして、この「元々男性」あるいは「女性」という概念がに決定的回答がなく、IOCは各競技団体に丸投げしたのです。
ですから、今回のイタリア女子選手の訴えに対してのIOCの答えは木で鼻をくくったようなものでした。
「1日、ボクシング女子66キロ級2回戦第3試合が行われ、イマネ・ケリフ(アルジェリア)とアンジェラ・カリニ(イタリア)が対戦。開始わずか46秒でカリニが棄権し、ケリフが勝利した。ケリフは性別適格性検査に合格しなかったため昨年の世界選手権で失格となった過去があり、パリ五輪への出場が賛否を呼んでいる。
これを受けIOCは「すべての人は差別なくスポーツをする権利を持っています」と主張。また性別については「これまでのオリンピックボクシング競技と同様に、アスリートの性別と年齢はパスポートに基づいています」と説明した」
(スポニチ8月2日)
【パリ五輪】ボクサー性別騒動 IOCが声明「すべての人は差別なくスポーツする権利」選手への中傷に遺憾(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース
IOCがいう「すべての人は差別なくスポーツをする権利を持っています 」というのは、LGBTQ大会の前にはただのタテマエにすぎません。
生物学的判定がつかず「心が女性」の選手が出場してメダルをさらうようだと、「スポーツの前には公平」という概念そのものが揺らぐからです。
私は割り切るべきだと思います。
仮にハリフ選手がDSDsであろうと、XY遺伝子を持って誕生し、成長期において男性の体格を獲得した以上「男性」として遇すべきです。
ハリフ選手のようなケースがあたりまえとなると、本来の女性保護の視点が飛ぶからです。
IOCは、外性器がなく生まれたということのみで判断しているように見えますが、そうすることにより女性から公平、かつ安全にスポーツをする権利を奪ったのです。
マクロンが強行したセーヌ川でのトライアスロンは大腸菌感染者を複数出したようです。
まったくもうアタマデッカチめ、という感じです。
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LGBTQと言うよりはT=トランスジェンダーだけの問題ですね。
レズビアンやゲイ、バイセクシャルのように同性愛だろうが異性愛だろうが競技自体には影響はありませんし。
投稿: 中華三振 | 2024年8月 6日 (火) 08時31分
実現できるとしたら、「全ての人に平等」じゃなくて、「可能な限り最大の平等」なのでは。
「全ての人に平等」とは。
ならば、男性と競技したい身体女性にも門戸は開かれるべきだが、どうだろうか。
オリンピアンのボクサーが開始1分にもならないうちに試合を諦めるほどの差或いは危険を感じるのは、平等公平といえるだろうか。
あらゆる競技スポーツの中で、男女差を問わない無差別カテゴリーを新しく設定することが可能で、そのカテゴリーを選択する選手達によって全体レベルの向上進化が図れる種目は、そうしてもいいかもしれない。
もしもその世界の多くの競技者が理解し受け入れるのであれば、フルコンタクト・スポーツであっても。
けれど、男性・女性どうしの中ですら公平性のために階級を細分化する競技がそう分ける理由の大きなひとつに、選手の安全確保があるわけで、そのような種目が男女差に厳格であることを「攻撃的」などと言って責めるのはフェアではない。
いくら平等を目指しても全ての種目が均一に可能なわけじゃない現実は、万人が押さえておくべき事。
全ての人の望みを100%ずつ叶えて納得される結論がすぐに出るような問題ではないのは明らかな以上、競技者の理解を得て可能な範囲で無差別カテゴリーを設定しながら、議論や研究を続ける…くらいしかないように、個人的には考える。
投稿: 宜野湾より | 2024年8月 6日 (火) 13時11分
「トランスを差別するのは、レイシストだ~!」と騒いでいたLGBT運動界隈。お決まりのコース。嫌われて、批判し、米ACLUのような団体の補助を受けて裁判に持ち込む予定だったかな?
しかし、まさかの「トランス問題ではなかった」という複雑なオチでした。
でも、イマネ・ケリフは日本で昔からある両性具有というヤツで、そこはやはり「自認が性別を決める要件」としたのがIOCの立場。
けれどもXY染色体保持者である以上、性器以外の体の構造は男性であると認識して間違いないと思われます。(台湾のリン選手も同じXY染色体保持者) したがって、IBAの裁定が正しい。
いくらヘッドギアをしているからといって、女性が男にボコボコに殴られている醜悪な図は見るに堪えたれません。
フェミニストたちがなぜこれを黙っているのか不明ですが、なぜ女性の権利を蔑ろにする方向で物事が進むのか? そろそろ、その真相に解答を得たいものです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2024年8月 6日 (火) 14時41分
ヘリフ選手は2021東京五輪では失格でなく5-0の判定負けで準々決勝敗退していたようです。
https://www.asahi.com/sp/olympics/2020/results/box/events/?kydtky2020og_page2=BOXW60KG--------------QFNL--------R
2023年の世界選手権で失格。
体格が完成した後に、鍛えて場数を踏んで強くなった分というのは彼女の姿の何割なのか、どれくらい染色体由来なのか。
見た目や撮り方、エピソードには決して惑わされずに、LGBT運動に眉をひそめる人こそ、抑制を効かせ視点をなるだけ前向きに持つ事が大事で、世の中を生きやすくする道なのではと思います。
DSDsの高テストステロンの女性の場合、トランス女性選手や一般女性選手とは異なり、テストステロン値がいくら高くてもそれによって「男性並み」のパフォーマンスになることはなく、その差も実はそれほど大きくないと考えられている
という下記の記事を読むと益々これはトランスだけ線を引けば後は個人差なのではと私は考えます。
https://gendai.media/articles/-/85782?page=5
一体どれくらい染色体に揺らぎがあるのか、そしてその割合は?という研究が進んだのはここ10年程です。
何の値がどうだから切るという線は調べるほどに引きどころがないのではと、今回考えさせられました。
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v12/n5/揺れる性別の境界/62908
投稿: ふゆみ | 2024年8月 6日 (火) 18時52分
身体的に男か女かよく判らないけど心は女性なんで女子競技に参加させろというのは、そりゃ、女の体を持つ心も女の女性たちから不公平だと言われて当然ですわ。身体的に男か女かよく判らないけど心は女性が、女の体を持つ心も女の女性たちと仲良く競技に参加するのは自由・平等・博愛という理想からすると美しいハナシだけど、現実には身体的優位に立った(としか見えない)者が、より弱い者を虐げているだけですわ。
こうなると、競技者に不公平が生じないように体重別に細かく階級を分けているボクシングという競技自体が根幹から???になってしまいますわ。ハッキリ言って、競技を観てる者は興ざめしてしまい、その本質が"興行"というオリンピックの魅力を大きく削ぐ形となって、オリンピックのボクシング人気も下がると思いますわ。これで金メダルの名誉とカネが獲得できるのなら、これからも続々と身体的に男か女かよく判らないけど心は女性なんで女子ボクシング競技に参加させろという人達が出て来るので、そりゃ当然です。
LGBTQ…問題に揺れた"意識高い系"トイレは、結局、男の体を持つ心も男のトイレと、女の体を持つ心も女のトイレと、その他誰でも使えるトイレ、の三種類に分けるというアタリマエの解決に至りました。男の体を持つ心も男の数と、女の体を持つ心も女の数と、その他の数を考えれば、現実的にはオーソドックスにこうするしかありませんわ。
私としては、男の体を持つ心も男と女の体を持つ心も女が圧倒的マジョリティなんで、彼ら彼女らの権利も大事にするべきだと思いますわ。マイノリティの権利は保障されるべきですが、その為にその他大勢の人々の権利が蝕まれることになるのは、いわゆる"逆差別"ですわ。もう根本的には、身体が男で心が女の女性と、身体が女で心が男の男性と、そんな人達同士が競技するカテゴリーを作るしかないと思います。自由・平等・博愛の美しいハナシではなくなるけど、当のフランス革命だって実は美しいハナシじゃなかったのは、もう世界中にバレてるんだから。
投稿: アホンダラ1号 | 2024年8月 6日 (火) 23時36分
この流れだから書いてみたくなりました。
この先どの様に線引きしてもその境目で笑う人と泣く人は必ず出る以上、100%妥当な線引きは不可能でしょう。
ならばいっそ、複数の線引き方法を一時的にでも認めて、実際にやってみるのが、結局は機会平等を最大公約数的に保障することになると思います。
そしてその際、お互いの存在を認めること。これが真の多様性なのではないでしょうか。
それとは別に、少数派の賢い生存戦略は、目立たずに少しずつ利益を得ることだと思うのです。
これだけ騒がれて金メダルを取ってしまったら、怒った多数派によって完全に潰されるでしょうから。
投稿: プー | 2024年8月 7日 (水) 23時06分