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2024年9月

2024年9月30日 (月)

石破内閣組閣始まる

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2回目の議員投票の動向がわかってきました。
こんなかんじだったようです。

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【自民党総裁選】石破茂氏、議員票呼び逆転 3人の「首相」の暗躍 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

やはり菅、岸田連合でした。
岸田氏は第2次岸田政権くらいに考えているのでしょうが、あのふたり仲が悪いそうなんで、どこまで持つか。
いわゆる親中派と目される人たちは、こぞってゲル氏についたようです。
河野さんだけは麻生氏を裏切れずに、渋々高市氏に入れたようですが。

さて、石破氏が「組閣」を始めました。
判明しているのはこうです。
安倍氏を国賊と呼んで処分を食らった村上氏が総務大臣ですか。分かりやすい。

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衆院選10月27日投開票へ 閣僚全容固まる 自民は30日に新体制始動、副総裁に菅前首相 - 産経ニュース (sankei.com)

お静にお静かに。
案外中庸路線です。
注目していた防衛相には中谷氏、経済安全保障に城内氏、そして政調会長には小野寺氏が入っているので、石破政権が安全保障で破綻することはないでしょう。

SNSでは早くも高市離党なんて言う気の早い者がいますが、やればかつての渡辺喜美氏のように第3極をめざすも結局はのたれ死にです。
安倍氏も自民を出るという噂はなんどもありながら、しがみついて総理総裁となって長期政権の道を拓きました。
はじめから親からもらった大派閥のプリンスではなかったのです。

高市氏には、今の高市人気は水ものくらいに考えてほしいと思います。
ライトスタンドのファナティックな応援団を過剰に期待しないこと。
彼らは無責任ですから。
自民党議員諸氏をビビらせて逆方向に走らせたんですからね。
気持ちはわからないではありませんが、いまは一歩引いて高市氏はかつてのゲル氏に倣うべきです。
内閣や党の要職は甘い罠で、これに取り込まれたら独自の発言は完全に封殺されてしまいますからね。

大臣を辞めたらフリーです。
石の上にも5回に倣って、総裁選支援に対する挨拶回りと称して全国行脚にでも行くんですな。
そう遠くない将来それが活きてきますから。
いまは少しゆっくりしてください。時代があなたを迎えに来ますから。

さて石破氏が「組閣」するに当たって、力点を置くのは菅・岸田というふたりのスポンサーを怒らせないことです。
自身が水月会という泡沫派閥しか持たなかったですし、いまの人気も高市氏とは別の意味で水物です。
水月会からは赤澤亮正氏が経済再生大臣に入りましたが、精一杯、菅・岸田色は残すでしょう。
したがって過激な金融所得課税や消費増税は封印します。脱原発も引っ込めるでしょう。
これは高市氏が勝ったとしても一緒で、自民党という連合党の宿命です。
となると、独自色をどこで出すのかと言えば、内政に縛られない外交です。

石破氏を推した人間から枢要なポジションを与えていくことでしょう。
これは常識で、いかなる政治家でもやることで、特に驚くようなことではありません。

「自民党の石破茂総裁(67)は29日、新内閣の外相に岩屋毅元防衛相(67)を起用する方針を固めた。党執行部では、党三役の総務会長に鈴木俊一財務相(71)を充てる方向で調整しており、鈴木氏本人の意向を踏まえて最終判断する。国会運営の司令塔となる国会対策委員長には坂本哲志農林水産相(73)の起用が固まった」
(朝日9月29日)
外相に岩屋元防衛相起用へ、総務会長は鈴木財務相で調整 石破新総裁(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

常に石破氏に寄り添っていた選挙参謀格の岩屋氏には、外相という花形ポストを与えられました。
なんの実績もないのに外相ですって。

開票の時にも岩屋氏は横に座ってなにやら石破氏としゃべっていました。
当選と同時に、石破氏以上に 周囲に頭を下げて居た姿が印象的でした。
下写真の右下の白髪頭が岩屋氏です。

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自民党総裁選、石破茂氏の勝因は「悪さ加減の選択」問われる実行力…組閣の多様性が課題 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

彼がどんな外交をするのか、いまからでも察しがつきます。

それについては長くなったので次回に。

 

2024年9月29日 (日)

日曜写真館 あはれ来て野には咏へり曼珠沙華

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まどはしの日が雨にさす曼珠沙華 山口誓子

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まほろばに赤の彩り彼岸花 泉田秋硯

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ここを墓場とし曼珠沙華燃ゆる 種田山頭火

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いつまで生きる曼珠沙華咲きだした 種田山頭火 

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お前さん どこへ行くんじや 彼岸花 伊丹三樹彦

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なかなか死ねない彼岸花さく 種田山頭火

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さきほどの陽が総退場 彼岸花 伊丹三樹彦

 

 

2024年9月28日 (土)

「石破首相」誕生という最悪シナリオ

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負けました。
「石破首相」の誕生です。最悪シナリオです。
まだ軽い神輿の小泉氏のほうがましでした。

いきなり株式市場は石破ショックを呈し、株価急落、円高にふれました。
その前日までさなえ景気を先取りしていた市場は、一気に冷え込みました。
27日午後1時頃に39400円前後だった日経平均株価は、「高市総理誕生」を織り込んでいたためか、39829円56銭で取引を終え、為替市場も1ドル=146円台前半で推移していました。
ところが、石破勝利が決まった瞬間、CFD先物は急落し、現時点でマイナス1568円となっているほか、為替相場も一時142円台程度にまで円高が進む展開となりました。
一機に1500円下落、為替は4円高です。すさまじい大逆神効果。
これが逆説的な石破政権への「御祝儀相場」です。

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自民党新総裁に石破茂氏 高市氏を21票差で逆転、勝因は?(2024年9月27日掲載)|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

「27日午後に投開票された自民党総裁選で、石破茂元幹事長(67)が選出されると、市場は敏感に反応した。日銀の追加利上げに肯定的な石破氏の当選が伝わり、東京外国為替市場では円相場が数分で1ドル=146円台から143円台まで急騰した。積極財政派の高市早苗経済安全保障担当相(63)が敗れ、財政出動による経済波及効果の期待が薄れたことで、日経平均株価の先物でも売りが急激に拡大。一時2000円超急落するなど、市場は〝石破ショック〟の様相を呈している。
同日の東京外国為替市場では円が対ドルで一時1ドル=142円台後半をつける場面もあった。また、国内債券市場でも、日銀の利上げ期待が高まり、長期金利の指標となる新発10年物国債は一時0・855%と、総裁選の結果発表前の0・805%から上昇した。石破氏は総裁選中、金融政策運営は「日銀の独立性を尊重」すべきとし、日銀の追加利上げに肯定的な姿勢を示していた」
市場は〝石破ショック〟の様相 円急騰、日経平均株価の先物は一時2000円超も急落 - 産経ニュース (sankei.com)

これは、石破氏が経済をわかっていないと市場に見られているからです。
石破氏当人は経済には感心が薄く、「里山資本主義」の藻谷浩介氏の影響を強く受けていると言われています。

たぶん石破氏が提唱する地域興しと共鳴したのでしょう。
藻谷氏はありていにいえば、市場経済を敵視するような社会主義者です。

なにか鳩山政権が生まれた「政権交代」の時のような浮ついた熱気すら感じます。
メディアは安倍政治を清算し、「里山資本主義」を掲げる新首相に大歓声を送ることでしょう。

安全保障では弱腰、財政政策では規律増税派、金融政策では利上げ、アベノミクス清算、口先改憲、選択的夫婦別姓賛成ですから、野田立憲と完全に被りました。見分けがつかないほどうりふたつです。
次の遠からずやるつもりの衆院選挙では、なにを野党との対立軸にするのかわからないほどです。
石破派で経済がわかる者を枢要のポジションにつけないと、石破政権は経済によって短命化するのは必定です。
次の組閣で財務省と経産相にだれを置くかで決まります。
細野剛志氏あたりを入れてほしいものですが、石破氏は「地方を重視する」とか言って農水系の古手を入れて来そうなかんじがします。

また党内統治においても禍根を残しました。
石破氏は「裏金議員は党が公認しないかもしれない」ということを言って「刷新感」をアピールしましたが、これは安倍派潰しは徹底的にやるという意味です。
歯切れがいいのは、メディア受けしそうな選択的夫婦別姓賛成、原発ゼロ、外国人移民受け入れ拡大といったことばかりです。
完全に立憲の主張とかぶっていますから、さぞかし野田立憲と消費増税あたりで合意しそうです。
改憲に対しても「9条2項の改正の議論が深まっていない」とでもいうのでしょう。つまり、改憲なんぞやらない。

石破氏の特徴は責任をとりたくない一心で御身大事に走る傾向です。
かつての安保法制時には、再三にわたる安倍氏の懇願を拒否して防衛大臣を固辞し、メディア受けする後ろから弾を撃って自民党攻撃の最先鋒に立ったことすらあります。
この情の薄い裏切り体質と吝嗇が嫌われて議員には人気がなかったはずですが、どこぞのキングメーカーが首相にまで押し上げてしまいました。

こういう生き方をしてきたこの慎重居士は、政権運営でも失敗すれば容赦なく切り捨てることでしょう。
当面は石橋を叩いて、とりあえず岸田路線の継承で試運転するのでしょうから、我流を出すのは、総選挙で勝った後になるでしょうが、その時は保守層はごっそりと剥がれているはずです。

ところで高市氏は思ったより議員票が伸びませんでした。
信じられないない展開でした。
石破氏が46から189とは、予想しない展開でした。
これは菅氏が音頭を取ったといわれています。
決戦投票となった場合、3位の小泉票を全部石破氏に回すという約束でもあったのでしょう。

私は、菅氏に対して安倍政権の「不屈の幹事長」にしてコロナと戦った宰相として深い敬愛の念を持っていましたので実に残念です。
菅氏は唯一の安倍氏の後継者を敗北に追い込んで、安倍氏の背中を撃ち続けることだけがアイデンティティになっていた男を総理に押し上げました。
菅氏は、自身の政権末期に安倍派に力になってもらえなかった恨みをいまだ持っているらしいようですが、いいかげんになさい。
石破茂という男が、習近平と真正面から対峙できるかどうか、たじろがずに国益を守れるかどうか、安倍氏の官房長官だったあなたにはよくお分かりのはずです。

1回目の投票結果はこうでした。

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自民党総裁選 

そして党員票の県別の1位は以下です。
いわゆる農村票を石破氏がとりまとめているのがわかります。

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自民党総裁選 赤が石壊、紫が高市、青が小泉

石破氏がJA票を取り込んだ成果が出ました。
私は地方の農業者ですが、特に農業関係者に石破氏が浸透しているという話は聞きませんので、農協関連への食い込みなのでしょう。

これは石破に入れればJAに予算が来るという期待感からでしょう。
たぶん今、農林中金が外国債券の運用に失敗して巨額の含み損を抱えていることが問題視されていますが、この救済などを約束した可能性があります。
農林中金は各地の農協などから預かった資金を運用し、その収益を還元する役割を担っていますが、有価証券の運用に偏った収益構造の見直しが求められています。
JAは本来の農民の利益のために働くという役割から、金融へのシフトが目立っており、その受皿が農林中金だからです。

かねてからJAに対しての改革要求は厳しさを増してきましたが、この時JAがすがったのが石破氏でした。

「(JA全農会長)万歳氏は先月27日、都内で石破氏と会談。「JAグループの機能をフル活用することが地方創生にとっても合理的だ」と述べ、農協法に基づく監査・指導権の温存を求めた。関係者によると、石破氏は地方自治体が地方創生の総合戦略を作る過程で「JAの果たす役割は極めて大きい」と述べたが、政府の改革案に異論は挟まなかったという」
(産経2015年2月3日)
ターゲットはまず石破氏…JA全中の改革骨抜き工作が始まった(1/4ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

石破氏はJA利権の保護者と見られているのですが、今回これがいかに力を持っているのか実証されました。
農協は農政連という政治団体を持っていますが、自民党の集票マシーンとして機能してきました。
今回これが総裁選の舞台裏で動いたのかもしれません。

前世紀の自民党が基盤にしてきた古臭い利権政治ですが、このような露骨な利権政治を使って勝ったのが石破氏のようです。

それにしてもこの総裁選は後味が悪いものでした。
岸田氏自らがが陣頭に立っての高市叩きはえげつないものでしたが、これにメディアが相乗りしました。
メディアは口を揃えて総裁選の主題は「カネと政治」「裏金問題」と歪めてしまい、高市氏の推薦人に「裏金議員が13人もいるぞ」と騒ぎ立て、高市=裏金と書き立てました。
そして永遠の定番の靖国参拝問題では、高市氏があたりまえのように参拝の意志を示すや、めった叩き。
やれ「国益に反する」とか「中国を挑発するのか」と罵詈雑言。まるで極右扱いです。
そして政策リーフレットで揚げ足を取ったのが、岸田氏自らです。

とまれ自民党は最悪の選択をしました。
なにももっとも立憲寄りの裏切り常習犯を首相にすることはなかったのに。

 

2024年9月27日 (金)

自民党総裁に石破茂氏が選出

速報

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開票速報・ライブ】自民党総裁選挙2024 新総裁に石破茂氏 決選投票で高市早苗氏を抑え選出 | NHK | 自民党総裁選

自民党総裁に石破茂氏が選出されました。

最低最悪な選択です。
以後、自民党改め立憲自民党となります。くたばりなさい。

息子を殺害された父親の手紙

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深圳で殺害された10歳の男の子の父親の手紙が公表されています。
この手紙は中国のSNSで拡がり、大きな同情と共感を得ています。
本文はさがしましたがわかりませんので、レコード・チャイナからの引用でご紹介します。

「文章は、殺害された男児について「日本人であり、中国人でもある」と強調した。母親は中国人で日本で10年近く暮らしたことがあり、父である自分は人生の半分近くを中国で過ごした日本人だと説明し、外部がどのように取り上げてても男児が「日本と中国の両国をルーツとして持っている事実は変わらない」と論じた。

また文章は、男児は当初、深センに行くことをためらっていたと紹介した。ただし、渡航直後には食べ物に慣れられなかったが、最近では中国の食べ物が好きになり、バスケットボールにも夢中になっていたとして、「彼がこんなに突然に去ってしまうことを、私はまったく予想していませんでした」「彼を守ることができなかったのは、私の一生の悔いです」などとつづった。

文章はさらに、「中国を憎むことはないし、同様に日本を憎むこともありません」「国籍にかかわらず、われわれは両国を自分の国と見なしています。風習や文化には違いがありますが、私は、われわれは皆同じ人であることを誰よりもよく知っています。だから私は、歪んだ思想を持つごく少数の卑劣な者の犯罪によって、両国の関係が破壊されることを望みません」「私の唯一の願いは、このような悲劇が二度と起こらないことです」などと論じた。

文章によると、殺害された男児の父は日中間の貿易の仕事をしている。また、殺害された男児は父親と同様に、「日中貿易の仕事に従事し、両国間の橋渡しをして双方の認識の違いを埋め、円滑なコミュニケーションを促進すること」を望んでいたという。文章は「このような不幸に遭遇しなければ、彼は私よりも役立つ人間になったと信じます」「今後も日中両国の相互理解のために小さな貢献をしていきます」「これは私の最も愛する息子への償いであり、犯人への報復でもあります」と表明した。

文章は最後の部分で、「彼が私たちを両親にしてくれたことに感謝して、彼が私たちのそばで10年8カ月7日間の時間を過ごしてくれたことに感謝します。私たちは引き続き強く生きて、彼のために、彼の未完成の道を歩み続けていきます」と表明した」
(レコードチャイナ9月21日)
深センで殺害された男児の父親のものか、「中国を恨まない」などとする文章が出回る(レコードチャイナ)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

非常に感動的な文章で、私も不覚にも涙してしまいました。
母親は中国人で、幼い頃は母親の中国人家庭で育ち、父親の日中貿易の志を継いで自らも日中の架け橋となりたいと常日頃言っていたそうです。
私はこの父親の手紙を読んで一輪の花を手向けるためにやって来る中国人に救われた思いです。

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日本人男児襲撃事件に地元市民「憎悪教育」、中国メディア「憎悪宣伝など存在しない」 (msn.com)

福島香織氏が言うように、反日は中国共産党の党是、すなわち国是です。
中国共産党の政権としてのレジティマシィ(正統性)は、反日闘争を戦って勝利したという虚構にあります。
ほんとうは戦ったのは国民党軍で、共産党軍ははるか辺境の延安ち落ち延びて逼塞して日中戦争には関わりがありませんでした。

習近平は、中国共産党建党100周年での習近平の記念演説、いわゆる「七一演説」では改めてこんなことを言っています。

「中華民族の偉大な復興を実現するため、中国共産党は中国人民を束ねて率い、血まみれになって戦い、幾度の挫折にも屈せず、新民主主義革命による偉大な成果をあげた。
我々は北伐戦争、土地革命戦争、抗日戦争、解放戦争を経て、武装した革命をもって武装した反革命に対抗し、帝国主義、封建主義、官僚資本主義という(中国人民を苦しめた3種の反動勢力である)「3つの大きな山」を覆し、人民が主人公となる中華人民共和国を立ち上げ、民族の独立と人民の解放を実現した」

ここで習が並べてみせた北伐戦争、土地革命戦争、抗日戦争、解放戦争ですが、4つのうち三つまでが内戦です。
つまり中国共産党の正統性とは、内戦、すなわち中国人相手に血を流した結果得られたものにすぎないということになります。
それもここで並べた最初に出てくる北伐戦争を行ったのは、蒋介石率いる国民党軍です。
北伐とは、蒋が孫文の遺訓に従って北の軍閥を打倒した戦争でしたが、それが始まったのは1926年。
当時共産党は自力の軍隊はおろか、独立した政治グループですらなく、ひたすら身元を偽って国民党内部に潜入していた浸透作戦の真っ最中でした。

周恩来は広州にあった国民当軍士官学校「黄埔軍官学校」の副校長にもぐり込み、蒋介石は上司にあたる校長でした。
毛沢東の肩書など、国民党宣伝部長(笑)です。
これを「第1次国共合作」などと言っていますが、実際に共産党がやったのは、統一の戦いではなく、ひたすら国民党の内部に浸透し、遺伝子を書き換えて多くの共産党幹部を作ることでしかなかったのです。
実際にこの黄埔軍官学校からは、後に共産党軍の大将クラスが輩出することになります。
なんのことはない、蒋介石は自分の党内に共産党の人材ソースを作ってあげてしまったわけで、これにやっと気がついた蒋は1927年に、共産党を叩き出します。
そして大戦の最中には戦うことは国民党に任せて、辺境の洞窟で昼寝をしていました。
そして大戦が終了するやいなや、戦いで消耗していた国民党に襲いかかったのです。

こういう歴史しか持たない共産党にとって、抗日の歴史を改竄し、全部自分がやったことにしてしまうなどお茶の子でした。
反日は使い減りしない万能の「真実」で、国民の意識をとにまとめ上げ、社会不満が起きればその矛先を自らに向かないように日本や日本人に誘導することは、いままでさんざんやってきたことでした。
福島香織氏は「反日誘導をやめるとき、それは共産党独裁の終焉のときだと思います」とまで書いています。

今回もいつもどおりの反日教育をし、ヘイトを教え込んできたのですが、この父親の手紙で風向きが変わってしまいました。

「この「父親の手紙」やそれを引用したりコメントしたりするネット投稿が撤去され、献花の花束が撤去される理由は、建前はさておき、犠牲の男児への同情論が盛り上がりすぎると、最終的に矛先が行き過ぎた反日教育を指導した共産党政府の政策が悪い、という方向に行きかねないという懸念があるからだと思います。
中国では集団的な哀悼行動が反政府的なデモに発展する歴史があります。天安門事件は胡耀邦哀悼から始まった民主化デモに対して行われた武力鎮圧でした。白紙革命も新疆・ウルムチ市でおきたアパート火災の犠牲者追悼と絡んでいます。江沢民がなくなった時も李克強がなくなった時も、当局は大衆の追悼行動に目を光らせていました」
(福島香織 中国趣聞NO1066)

共産党はやりすぎたのです。
反日意識にあぐらをかいて煽ったあげくとうとうこんな子供を犠牲者にしてしまい、中国国民の中にも反日教育が行き過ぎた結果このような殺人が起きたのではないか、という意識を生んでしまったのです。
私は、このように自らの利害のために中国人と日本人を争わせる中国共産党を批判します。

 

 

2024年9月26日 (木)

ロシア軍用機領空侵犯

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これまたなんとも、実に分かりやすい威嚇行為です。
ロシア軍用機がまたまた礼文島の領空で派手な挑発飛行をしました。
実に2時間ちかく領空付近空域を飛行し、3度に渡って領空侵犯しました。
偶然でも過失でもなく、明白な挑発行為です。

斎藤海幕長は同日に中露の合同艦隊が宗谷海峡を通過したことで、空と海からの両軍の行動は関連していると述べています。

「ロシア軍の哨戒機が23日、北海道・礼文島周辺で領空侵犯した問題で、海上自衛隊トップの斎藤聡海上幕僚長は24日の記者会見で、同じ日に中国とロシアの艦艇計8隻が宗谷海峡を通過したことに触れ「同じような時間帯で哨戒機が飛び、艦艇が共同航行した。関連している可能性がある」と述べた。防衛省はロシア側の意図の分析を続けている」
(北国新聞9月24日)
中ロ艦共同航行「関連の可能性」 ロシア軍機領空侵犯で海自トップ|全国のニュース|北國新聞 (hokkoku.co.jp)

航行した中露艦隊は以下です。

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防衛省

侵入した中露海軍の艦名は以下です。
黒海艦隊が壊滅寸前なのにこんなことをしている余裕があるのかと思いますが、いずれにせよ極東艦隊は戦場である黒海へは到達できない孤軍化した存在です。
使い道としては日本への挑発くらいしかないのでしょう。

  • 中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦(艦番号104) ※「無錫(ウーシー)」
  • 中国海軍ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦(艦番号117) ※「西寧(シーニン)」
  • 中国海軍ジャンカイⅡ級フリゲート(艦番号547) ※「臨沂(リンイー)」
  • 中国海軍フチ級補給艦(艦番号889) ※「太湖(タイフー)」
  • 中国海軍ドンディアオ級情報収集艦(艦番号794) ※「天狼星(テンランシン)」
  • ロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(艦番号548) ※「アドミラル・パンテレーエフ」
  • ロシア海軍ウダロイⅠ級駆逐艦(艦番号564) ※「アドミラル・トリブツ」
  • ロシア海軍グリシャⅤ級小型フリゲート(艦番号332) ※「МПК-107」
  • ロシア海軍グリシャⅤ級小型フリゲート(艦番号375) ※「МПК-82」

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防衛省・自衛隊:ロシア機による領空侵犯について (mod.go.jp)

この中露艦隊と連動して露の哨戒機が領空侵犯したのですが、これは宗谷海峡を通過した中露艦隊を追跡している日米の潜水艦を警戒するためだという説もあります。
露哨戒機の4回に渡る執拗なジグザク飛行はソノーブイを落としながら、何かを探しているようにも見えるからです。

令和6年9月23日(月)、ロシア軍のIL―38哨戒機が、13時台から15時台にかけて、3度にわたり北海道礼文島北方の領海上空を侵犯したことを確認した。
これに対し、自衛隊は、航空自衛隊北部航空方面隊の戦闘機を緊急発進させ、通告及び警告を実施する等の対応を実施した。
① 13時03分頃~13時04分頃
② 15時31分頃
③ 15時42分頃~15時43分頃
mod.go.jp

自衛隊は直ちにスクランブル発進しましたが(そのうち一機はステルスのF35ですが、スクランブルの場合は、レーダー反射板をあえて着けています)、露軍機はIL―38哨戒機で、なんと大胆にも爆弾倉の扉を開けて飛行していました。
自衛隊機はこの露軍用機に対してフレア(熱囮弾)を発射し強く警告しました。

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画像ギャラリー | フレアってなに? 軍用機がばらまく光るアレ 誘導ミサイルとの壮絶な戦いの歴史とは | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

フレアとは聞き慣れない用語ですが、強烈なマグネシウム熱源を放出することで、敵の赤外線ミサイルの狙いを逸らすための囮弾のことです。
メディアは「火炎弾」という表現を使っていかにも攻撃用兵器のように報じていますが、ただの閃光を発するデコイ(囮)にすぎません。

「フレアは赤外線誘導対空ミサイルを妨害する目的に使用する囮弾「赤外線対抗手段(IRCM)」であり、一般的にマグネシウムなどを主原料とし母機から射出後は強烈に燃焼、赤外線を発することによって赤外線誘導ミサイル先端部の赤外線検知器(シーカー)による追尾(いわゆる「ロックオン」)を引き寄せます」
フレアってなに? 軍用機がばらまく光るアレ 誘導ミサイルとの壮絶な戦いの歴史とは | 乗りものニュース (trafficnews.jp)

それはさておき、問題は露軍機領空内で爆弾倉の扉を開けて飛行したことです。
下写真の右主翼後方に爆弾倉の扉が開いているのが確認できます。

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mod.go.jp

「今回の航空自衛隊の撮影ではロシア海軍のIl-38哨戒機がソノブイを投下した様子そのものは映っていませんが、爆弾倉の扉が開いている以上はソノブイを投下した可能性があります。ロシア方式は爆弾倉(爆雷、機雷、魚雷、爆弾などを搭載可能)でソノブイも運用します。
なお西側の哨戒機のソノブイは爆弾倉とは別個に専用の投下装置を設けており、ロシアとは運用方式が異なっています」
(JSF9月23日)
宗谷海峡でロシア海軍哨戒機が領空侵犯、空自戦闘機が初のフレア警告を実施(JSF) - エキスパート - Yahoo!ニュース

まず大前提として、他国の領空内に許可なく侵入することは国際法違反となります。
これは軍用機、民間機の別を問わず、他国領土および領水の上空に広がる領空には、その国の排他的な主権が及んでいるからです。
他国領空を通過したい場合には、あらかじめ運用側は相手国に飛行ルートや運用者と目的地を明らかにした飛行計画書を提出し、当該国の了承を得ねばなりません。
領空侵犯 - Wikipedia

なお船舶と違って、航空機は高速なために、無害航行権は認められていませんから、入った瞬間に国際法違反が成立します。
船舶の場合、軍艦でも索敵レーダーや艦載砲を回したり、艦載機を飛ばしたりなどしなければ無害通航権がありますが、空にはありません。

領空侵犯が発生した際には、地多角の上から戦闘機を発進させ、警察活動の一環として侵犯機に対応することとなっています。
ここで留意してほしいのはあくまでも警察活動であって軍事活動ではないということです。
ですから、敵の戦力の撃滅が目的である軍事行為と違って、警察法の範疇に属します。
警察法の範疇と言っても、礼文島上空では空自以外取り締まれませんから、自衛隊が行います。
あくまでも警察法は違法行為を止めさせることが目的で、開いての物理的撃滅を目的としてはいません。
ここが重要で、よくこういうことが起きるとすぐに撃墜しろという声がおきますが、そんなことをすれば国際社会から非難されるのはうちの国です。
こうした領空侵犯機への対応については法律の規定に基づき実施されます。それが、自衛隊法第84条です。

第84条 領空侵犯に対する措置
「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和27年法律第231号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」

シンプルですね。「必要な措置」という部分が微妙ですが、それはこういう順番になっています。
まず国際法規または航空法その他の法令(航空法第126条や出入国管理及び難民認定法第3条など)に違反して無許可で日本の領空を侵犯してきた外国の航空機に対しては、フレアを焚いて警告したり、時には警告射撃をする場合があります。
いずれも警官が違法行為をしている者に取る警察活動とまったく同質で、警官が止まれと叫びながら空に向けて拳銃を撃っているのと同じです。ですから警告射撃もフレアも武器使用には該当しません。

ところで今回問題となりそうなのは、露軍用機が非常識にも領空で爆弾倉の扉を開けて飛行していたことです。
これはこの露軍機の下が地上であったり、都市であったりする場合、看過できないことになります。
そりゃそうでしょう、攻撃の意志があるとみなされても仕方ありませんし、爆弾倉からソノーブイではなくホンモノの核爆弾でも落された場合、たいへんな惨事になるからです。

しかし今回は露軍機の下は海面であり、船舶の姿もなく、この航空機が哨戒機だったことから、爆撃する意志はないと判断されました。
とはいえ重大な挑発行為であることは間違いありません。
こういう火遊びを続けると、いつ偶発的戦争に発展するかわかりません。
願わくば、自民党員のみなさん、この危機に正面から立ち向かえる勇気を持った政治家を総裁に選んで頂けますように。

 

 

2024年9月25日 (水)

高市氏はリズ・トラスにならない

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立憲の新代表に野田氏がなったようです。
ま、それ自体はどうでもいいですが、野田氏の首相在任時の事跡は、尖閣国有化という拙劣な外交政策と消費増税三党合意です。
当時野党に転落していた自民は谷垣氏が総裁をしていましたが、増税などで妙に波長が合ってしまったようです。
仮に今回も増税路線の石破氏などが総裁になってしまうと妙に親和して、第2の三党合意をしてしまうかもしれません。

さて、高市氏が総理総裁になったらエライことになるぞ、という噂が流れています。
一部の保守を自称する評論家も拡散に努めているようです。

なんでもインフレ容認で強インフレになり、英国のリズ・トラス女性首相のようになるぞ、外交路線でもサナエは対中強硬路線を突っ走って公明離反・連立崩壊、そしてとどのつまり短期政権、自民下野だそうです。
公明との太いパイプを持っている菅氏が推すのは小泉ジュニアだけだ、それぇジュニアに入れろ、というわけです。ちゃんちゃん。

あのね、期待にお応えできないですまんこってすが、たぶんそうならないから。
そもそも短期で辞任したトラスの英国経済と日本経済では根本的に条件が違いますから安易な比較はやめるようにお願いします。
たぶん高市氏のこういう発言が、財務省フレンドにはカチンっときたのでしょうね。

「[東京 14日 ロイター] - 高市早苗経済安全保障担当相は14日、日本記者クラブ主催の自民総裁候補討論会で、「金融緩和は我慢して続けるべき、低金利を続けるべき」と主張し、日銀による追加利上げをけん制した。
足元の物価上昇はエネルギーや食料価格によるコストプッシュ型であり、「生産性、給料、購買力も上がる好循環を作りたい」と語った。
加藤勝信元官房長官も金融政策の正常化について「金利は動くものだが、足元の経済を見て慎重にやりたい」と述べた。
財政問題については、高市氏が「資産と債務を合わせてネットで見るとG7(主要7カ国)の中で2番目の健全性」との持論を展開する一方、河野太郎デジタル担当相は「遅かれ早かれ金利が徐々に上がっていく中で、利払いが増えていく」とした上で、財政収支の議論をすべきと訴えた」
(ロイター9月14日)
高市氏「低金利続けるべき」、追加利上げをけん制=自民総裁選討論会 | ロイター (reuters.com)
「金利の正常化」もせずに、言うに事欠いて日本の財務状況がG7で2倍目に健全だとぉ、おのれサナエめ、ホントのこと暴露しやがってと財務省が歯ぎしりしたのでしょう。
財務省がメディアに流させている財務状況は悲惨の一語に尽きます。
もう財務赤字は「史上最悪」で、明日はない、日本は破綻国家なのだ、ということのようです。
「国債や借入金などをあわせた政府の債務、いわゆる“国の借金”は、ことし3月末の時点で1297兆円余りと過去最大を更新し、財政状況は一段と厳しくなっています。
財務省によりますと、国債と借入金、それに政府短期証券をあわせた政府の債務、いわゆる“国の借金”はことし3月末の時点で1297兆1615億円と8年連続で過去最大を更新しました。
去年3月末と比べた1年間の増加額は26兆6625億円となり、財政状況は一段と厳しくなっています」
(NHK2024年5月10日)
“国の借金” 1297兆円余 8年連続で過去最大を更新 財政厳しく | NHK | 財務省
はて、いまや郷愁すら感じる「政府の借金」という言葉がでてきましたね。まだ使ってるんだ、この放送局。
こういう財務ハルマゲドン論はかならずこの「国の借金」なるものを国民の数で割って「国民一人当たり1000万の借金」なんていうトンデモの方角に誘導される仕組みになっていました。
同時期の読売です。
「財務省は9日、国債や一時的な資金を調達するための借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」が、6月末時点で1311兆421億円になったと発表した。3月末に比べ13兆8805億円増え、初めて1300兆円を突破した。
国民1人あたりで単純計算すると約1085万円の借金を背負っていることになる」
(読売2024年8月9日)
国の借金1311兆421億円、国民1人あたり1085万円…初めて1300兆円を突破 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
さて、このようなハルマゲドン説は、果たして正しいのでしょうか。
そもそも前提が間違っています。「国の借金」ではなく「日本政府の借金」です。
財務省がレクチャーする時に必ず使うのがこの財務省提供の「GDPに対する国の借金比率 」の図表です。
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GDPに対する国の借金比率
007.pdf (mof.go.jp)

これをみると確かに特出して日本が239%で財務赤字になっているように見えます。まるで破綻国家一歩手前みたいです。
では素朴な疑問ですが、なぜ有事には日本円や日本国債が買われるのでしょか。
おかしいではありませんか、そんな危ない破綻国家の通貨や債権を買ったらいつ紙切れになるかわからないものを。
しかしそれは国際トレーダーたちと、有事となると必ず円を買います。
それは日本の財務状況が安定していて、債権も全部円建てだからです。
財務省は、国債を「国の借金」という間違った表現を使って一般家庭と同列のように説明しています。
国民が勝手に通貨を刷ったら偽札づくりですから、手が後ろに回ります。
国家と民間企業や個人と異なり、国家には「通貨発行権」と「国債発行権」があります。
ここが国と個人の決定的な違いです。
しかも日本の場合、1000兆円を超えるといわれる国債は、すべて円建て国債です。
しかも買っているのは、多くが国内基幹投資家で、現在は資金がダブついており、彼らが国債を売って資金調達する必然はありません。
したがって日本国債が破綻するには、この三つの条件が揃わねばなりません。
国内投資家が国債を引き受けてくれないこと、海外投資家も国債を引き受けてくないこと、かつ中央銀行すら国債を引き受けてくれないことの三つの条件が揃わねばなりません。
ところが、このひとつとして合致する兆候はありません。
だから、日本国債は10年もので0.860%という世界一の超低金利で国債発行できたのです。
現在募集中の個人向け国債・新窓販国債 : 財務省 (mof.go.jp)
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【グラフ編】現実:日本国債の金利は世界最低水準 / 理由:外国の国債金利よりも低いため (fukurou.win)

このように財務省のもうひとつのトリックは、バランスシート(損益対照表)の「負債の部」しか見せないことです。
一般的に法人の財務はバランスシートで見ますが、財務省はバランスシート上の右側の数字の負債しか見せません。
バランスシートとは貸借対照表のことで、貸借対照表の右側には、企業がどのように資金を調達しているのか、左側には調達した資金をどのように事業に活かしているのかがわかるようになっていて、貸借対照表の右側と左側の合計は、必ず一致します。
このことから、貸借対照表は「バランスシート(B/S)」とも呼ばれています。
これの右側の負債の部だけを国民に見せているのが、財務省です。
東大法学部卒しか入れない財務省官僚の皆さんはバランスシートをご存じないらしい。
(※ということはなくて、今は海外の大学なとで学んでいる人も多いようです)

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貸借対照表(バランスシート)とは?損益計算書との違いや読み方|OBC360°|【勘定奉行のOBC】

負債があれば資産もあるのは当然で、バランスシートの左側に目を移すと次のようになります。

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東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

スウェーデン王立工科大学経済学准教授のステファン・フォルスターはこう述べています。

「公的資産がその国のGDPのなかで占める割合を分析すると、日本は信頼できる統計のある国々の中で、世界第2位に位置している。その額は、問題視されている公的債務を上回り、GDPの2倍以上となっている。GDPの2倍以上の公的資産を持つ国は、日本のほかにノルウェー、ラトビア、チェコの3カ国しかない(IMFの2013年データより筆者ら推計)」
日本は世界第2位の「政府の隠れ資産」大国だ 活用次第で「債務削減+経済成長」が可能に | 国内経済 | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

GDPに対する国の資産比率を見ると日本が221%、フランス100%、米国99%、カナダ99%、ドイツ79%、イタリア79%、英国47%である。そして負債と資産の両方を考慮した「純負債」でみると日本のGDPに対する純負債比率は18%に過ぎません。
最悪はイタリアの78%で平均値は22%ですから、日本の純負債はG7平均よりも低いことがわかります。
だから有事の円買いという財務ハルマゲドン信者には信じがたい現象が起きてしまうわけです。

そして財務省がこんなバルマゲドン説を流布する理由は、財政支出を増やしたくないからです。
だから「英国のトラスのようになるぞ」と腰巾着の連中に言わしているわけです。
これも果たしてそうでしょうか。ここでも国家と一般家庭の会計を混同したように、英国と日本の経済状況を安易に比較してしまっています。

確かに、英国ではトラス新政権が誕生するや大規模な財政出動方針を打ち出したことをきっかけにして、金利上昇・国債価格下落・通貨安、株安のトリプル安という英国売りが進行しました。
その責任をとってトラスは自認に追い込まれています。
ほーら見ろ、高市も第2のトラスになるぞというのが財務省フレンドの見方です。

うんにゃ、そうはならないでしょう。
ここでも日本経済と英国経済を安易に横並びにして比較するという作為的ミスをしています。
英国のインフレ状況と日本の状況には天と地の差があることを伏せて比較しているのです。
英国のトラスが44日間で失脚したのは、英国が強インフレにかかっているにもかかわらず大型減税をしたからだと言われています。
44日で辞任「英国・トラス首相」が起こした大混乱 次期首相候補に挙がっている意外な人物 | ヨーロッパ | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)

第一生命経済研究所経済調査部の長濱利廣氏はこう述べています。

「主要先進国のCPIインフレ率を比較すると、欧米ではインフレ率が既に+8~+10%台に到達している。このため、現在の欧米のように、需給ひっ迫によりインフレ率が目標の+2%を大きく超えてしまっている国は、財政出動が限界にきているといえよう。
しかし、日本の場合はインフレ率がそこまで上がっていない。コストプッシュ型のインフレにより一時的にインフレ目標+2%を超えているが、輸入物価の上昇に伴うインフレであるため持続性は低いといえよう。
このように、英米と日本のインフレ率に格差が生じる一因として、英米では需要超過の経済になっているのに対し、日本は依然として需要不足の経済状況になっていることがある。 このため、財政の予算制約を考える上では、表面上のインフレ率に加えて、GDPギャップの動向も重要になってくる」
(長濱利廣 『英国と大きく異なる日本の財政状況』)
英国と大きく異なる日本の財政状況 ~英国の財政リスクはG7ワースト2に対して日本はベスト2~ | 永濱 利廣 | 第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

 では、世界経済のインフレ状況を見てみましょう。日本のインフレがいかにたいしたことはないかお分かりいただけるでしょう。
ドジャードックとポテトで3千円近い米国と、30年間のデフレから脱却しつつあるわが国を較べてはならないのです。

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第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

そしてGDPギャップはこのような状況です。
GDPギャップとは別名需給ギャップのことで、国の経済全体の総需要と供給力の乖離を指します。
プラスの場合(総供給より総需要が多い場合)は、インフレギャップと呼び、好況や景気が過熱しており、物価が上昇する要因となります。
逆にマイナスの場合(総需要より総供給が多い場合)は、デフレギャップと呼び、景気の停滞や不況となっており、物価が下落する要因となります。

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第一生命経済研究所 (dlri.co.jp)

このGDPギャップでは、米英は需要過多、日本は大幅な需要不足でした。

「国際比較可能なIMFのGDPギャップで比較すると、米国では2021年時点、英国でも2022年時点で需要超過になっており、需要超過によりインフレ率が加速している一方、日本では2022年時点でも大幅な需要不足が続いている」
(長濱前掲)

したがって、米英ではこれ以上の財務出動による供給プッシュは不要であるのに対して、日本はまだまだ財政拡大していかねばならないのです。

「そして、足元で内閣府が公表するGDPギャップは▲3%程度であり、金額にすると約▲15兆円となる。このため、内閣府のGDPギャップをプラスにもっていくには、+15兆円規模の需要拡大が必要になる。しかし、インフレ率を+2%程度に安定させるには、そこからさらに金額にして+15兆円程度の需要超過が必要となるため、合計で+30兆円の需要拡大余地があることになる」
(長濱前掲)

このように見てくると、高市氏の言う「資産と債務を合わせてネットで見るとG7(主要7カ国)の中で2番目の健全性」という説はまったく正解であるのがわかるでしょう。
というわけで、高市氏はリズ、トラスにはなりようがありません。


 

 

2024年9月24日 (火)

中国、日本産海産物輸入再開?

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能登半島の大雨被害に声もありません。
亡くなられた方のご冥福をお祈りし、一日も早い復旧を願っております。

さて、今回の深圳で起きた男児殺害事件は大きな衝撃を日本に与えました。
これは当局が隠蔽するように「単発」ではなく「精神障害者によるどこの国にでも起きる事件」ではないことは明らかです。
阿古智子(東大教授)はこう述べています。

「この事件も含め、中国の政府系メディアは詳細を報じないが、中国では最近、外国人への犯罪が増加している。また交流サイト(SNS)を見ると、中国人同士の殺傷事件も頻繁に起きていることがわかる。社会が極めて不安定化している表れではないか。
中国は経済が悪化し続けており、習近平政権を批判的に見る人も増えている。だが、言論統制で不満を口に出すことができず、暴力で解決する傾向が強まっていると感じる。思想教育やプロパガンダ(政治宣伝)が行われる中、余裕のない人が「敵」と教わった日本人を不満のはけ口としてみている恐れもある」
(産経9月19日)
日本人男児殺害、社会の不安定化の表れ 中国は説明責任果たせ 東京大教授・阿古智子氏 - 産経ニュース (sankei.com)

中国社会が大きく揺れ動いており、その捌け口に日本人がされたという見方は福島香織氏もしています。
この殺害犯人は、反日教育を子供の頃から受けてきた世代に当たっています。

そして去年、習近平の「戦狼路線」は、標的を日本に定めました。
福島第1原発からの処理水放出にかこつけて、習は「核汚染水放出」と煽動し福島などの海産物を輸入禁止にしたのです。
これに同調したのはロシアくらいなもので、結局、世界は踊らず中国は渋々方針転換することになりました。

「東京電力福島第一原発にたまる処理水の海洋放出をめぐり、岸田総理大臣は記者団に対し、IAEAの枠組みのもとでの追加的なモニタリングの実施を踏まえ、中国が安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開させることで日中両国が合意したことを明らかにしました。(略)
会談のあと岸田総理大臣は、記者団の取材に応じ、IAEAの枠組みのもとで行っている処理水のモニタリングを拡充し、中国を含む参加国の専門家による水のサンプリング採取や分析機関の間での比較などを追加的に実施していくことで一致したと説明しました」
(NHK2024年9月20日)
【詳報】中国 日本産水産物の輸入再開へ 日中両国が合意 東京電力福島第一原発の処理水海洋放出めぐり | NHK | 福島第一原発 処理水

一見収まるべき所に収まったように見えますが、そうではありません。

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毛寧副報道局長  NHK

「この中では日本側が、中国などすべての利害関係国の懸念に基づき、IAEA=国際原子力機関の枠組みの中で、長期的な国際モニタリング体制を構築することや、中国などが参加して独立したサンプル採取を行い比較分析することなどが盛り込まれています。
その上で中国は科学的な根拠を元に基準を満たした日本産の水産物の輸入を段階的に再開するとしています」
(NHK前掲)

中国は「中国などが参加して独立したサンプル採取」をすることを日本に認めさせた上で、その検査が中国の国内海産物基準に一致すれば「解禁」すると言っているのです。
「中国など」と言っていますが、他の国々はすべてIAEAの長期モニタリング調査に協力しており、唯一中国のみが一応IAEAの枠内にあるとはいえ、「独自にサンプル調査」をやるということになります。
そしてそれを国内基準に当てはめて改めて検討するといっていることにご注意ください。

「また、日本産水産物の輸入停止措置について毛報道官は「目的は国民の健康を守ることだ」とした上で、「今回の両国の合意はただちに全面的に日本産水産物の輸入を再開することを意味しない」と述べ、段階的な輸入再開については中国側が提示する要求を十分に満たすという前提のもとで実施する方針を示しました」
(NHK前掲)

なーんだ、ぜんぜん前と変わらないじゃありませんか。
中国に独自調査が可能な以上、彼らの特技である統計数字や検査数値の改竄をする余地を残しています。
そしてそれを彼らの食品基準で輸入可否を決められるのですから、このプロセスでいくらでも恣意的判断が可能です。

そもそもこのテーマで日中交渉などに応じるべきではありませんでした。
中国の海産物輸入禁止はまったくのいいがかりにすぎないからです。
なにもないところで火を立てて問題化し、それを外交カード化しているのですから、乗ってはダメです。

中国の不当な言いがかりには安易な妥協をしないこと、毅然としていること、これが対中外交の大原則です。
一時の打撃には耐えて、国際社会の支持を得ること以外ありません。

今回、中国は海洋放出で太平洋諸国や東南アジアと反日包囲網を作るつもりでしたが、見事失敗。
G7は完全に日本支持で、いままでしていた海産物輸入制限を完全撤廃してしまいました。
つまり、中国はこぶしを振り上げて後ろを見たら、ついて来るのは誰もいなかったのです(笑)。
安倍氏が遭遇した慰安婦問題の時とはえらい違いです。
振り上げたこぶしをの腕がしびれるまで待っていればよいだけのことです。

それを岸田氏は二階氏に王毅へのとりなしを頼んだりしています。
この2023年時にも反日事件が起きています。
8月24日には山東省の日本人学校、翌25日の江蘇省の日本人学校に卵が投げ込まいます。れる事件です。
そのときの外務省の対応が傑作です。
「日本語を使うな」「スマホで撮るな」、つまりは日本人であることを隠して、石を投げられても証拠の写真も撮るなとのお達しです。
これが日本大使館の「邦人保護」とやらなのですから、呆れてものがいえません。

なにか起きた場合、外務省はどう言うつもりでしょうか。
あたしら大使館は邦人の代表を集めて注意喚起し、情報交換を密にするように通達しております、いやあたしらは注意喚起を呼びかけていたのですが、どうもそれを守って頂けなかったようで、日本語を使っちゃたんですよ。ウチのせいじゃありませんからね、うんぬん。

とまぁ、こんなかんじで、在留邦人を守ろう、邦人の楯になろうというという気概など微塵もありません。
第一、日本人学校の入り口から出てくれば日本人に決まっているので、襲いたい放題です。

あるいは河野太郎氏のように言うのでしょうか。

「外に見えるように強く言え」というのは、ネトウヨなんかが言うが、それがいいとは限らない。申し入れはきっちりやらなきゃいけないが、外向けにワアワア言って、言ってるぞ!感を出せばいいというものではない」

中国に強く言えというあたりまえの要求が「ネトウヨ」ならば、わたしもネトウヨとやらか。(笑)
河野氏のキャッチフレーズは「国民に向かい合う」だったはずで、いいんでしょうかね、こんなこと言ってしまって。
いかにも政府は秘策を持ってそうですが、なんのことはない二階氏に訪中してお願いしてくれ、ていどでしかありませんでした。
結局、この怯懦にして無策な外務省が手をこまねいているうちに、6月には山東省で、そしてとうとう今回は男の子を殺させてしまったのです。

今、習が安直に反米方向に「空気」を誘導すると、ほんとうに戦争が始まってしまう、今はまだ戦争準備の時期で、中国人の「空気」に押されて大戦争をしたくはない、まぁそんなところです。

こういう時に、米国をこれ以上刺激せずに叩ける国がいました。
それがわが日本です。
いくらメチャクチャな論理で叩いても反撃もせず、叩かれぱなしになっている国。
ぜったいに実力で反撃してこない国。
中国内の日本企業が焼き討ちにあっても、口頭の抗議しかしない国。
大使館が投石されて河原のようになってもようと、大使召還さえしない専守防衛の国。

海上保安庁の船に中国漁船がぶつけても、後難を恐れて船長をすぐに返してしまう腰抜けの国。
与党内部に大量の中国シンパがいる国。
メディアが親中派で占められている国。

これが中国が経験則で熟知している日本という国です。
サンドバックにするに、これほど適した国がどこにあるでしょうか。

 

 

 

2024年9月23日 (月)

中国、軍民揃って対日ヘイトクライム

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今の日本人の対中感情はボトムに近いと思われます。
ただ日本人特有の気質からカっとならないだけで、通常の民族ならハジけていてもおかしくありません。
日本人の男児が深圳(シンセン)でなんの理由もなく路上で切りつけられて殺害されました。
ご冥福をお祈りします。

「AFP=時事】中国・深セン(Shenzhen)で男に刺された日本人男児が死亡した事件を受けて19日、中国外務省の林剣(Lin Jian)報道官が「遺憾と悲しみ」を表明した。
林氏は「中国はこうした不幸な事件が発生したことに対して遺憾と悲しみを表明する」とし、「少年の死を悼み、ご家族に哀悼の意を表する」と述べた。
深セン市の警察によると、18日朝、男児は男(44)に襲われ、病院に緊急搬送された。警察が容疑者の身柄を拘束した。
林氏は定例会見で、男児は日本人と中国人の子どもで、日本国籍を持っているとした。(略)
「今回の事件も同様に単発的なものかと尋ねられた林氏は、「現在把握している状況によれば、個別のケース」「同様の事件はどの国でも起こり得る」と述べた」 」
(AFP9月19日)
日本人男児死亡、中国外務省「遺憾」表明 「個別のケース」(AFP=時事) - Yahoo!ニュース

20240922-074203

中国 日本人学校 男児死亡事件 容疑者について地元紙報道 上海で関係者が対応協議 深センの校門前には花束 | NHK | 中国

このAFPの記事で「林」と出てくるのは、林芳正房長官ではなく、中国外務省の報道官の林剣です。
中国のリンは、この男児殺害事件に対して「単発の事件」であって、こんなことはどこの国も起きるなどととぼけたことを言っています。

白昼堂々と学校に通う罪のない外国人の子供を暴漢が襲撃して殺害する、こういうことが世界のどの国でもあたりまえに起きているだなんてよく言えるものです。
仮に在日中国人駐在員の子弟が連続して襲撃されて殺害されでもしたら、中国政府は怒り狂うはずです。
しかも「単発」ではなく、この4月には駐在員が切りつけられ、6月には蘇州で日本人母子が襲撃されて重体となっています。

20240923-021649

中国・深センで刺された男児死亡 邦人社会で不安拡大―日中関係に影響必至:時事ドットコム (jiji.com)

「中国東部の江蘇省蘇州で、24日、日本人学校のスクールバスが、刃物のようなものを持った中国人とみられる男に襲われ、迎えに来ていた日本人の母親と一緒にいた子どもがけがをしました。2人は命に別状はありませんが、バスの案内係の中国人女性も刺され、重体になっているということです。事件を受けて、現地の日本人学校は25日は休校となったほか、中国各地にあるほかの日本人学校でも警備が強化されています」(NHK2024年6月25日)
中国 蘇州 日本人学校のバスが襲われ 母親と子どもがけが 中国人女性が重体 襲った男は確保 | NHK | 中国

深圳は中国のIT産業が集中する所で、日本人駐在員も多く滞在し、その多くは家族同伴です。
中国は米国24.9万に続く世界第2位の駐在員数が多い国で、14.7万もの日本人が駐在しています。
在留邦人数は日中関係の悪化などを受けてピーク時の3割減に落ち込んでおり、一部の企業は家族を日本に帰国させる指示を出しています。 



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中国駐在、家族帯同に不安 進出企業、帰国や在宅容認 在留邦人はピーク比3割減 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

特に駐在員が集中しているのは3万7千人が住む上海ですが、現地でできることは黙祷を捧げることと情報交換ていどのことです。

「このあと、上海総領事館の岡田勝総領事が「6月には蘇州の日本人学校のスクールバスが襲われている。緊張感を持って日本人や日本人学校の安全確保に全力を挙げていきたい」と述べ、中国政府に対し、再発防止や真相の究明を要請したことを説明しました。
続いて、上海日本人学校の須永清英事務局長が「児童の安全は何よりも優先される。学校単独では対応できないこともあるため、引き続きご支援をお願いしたい」と述べ、安全対策の整備に向けた協力を要請しました。
会合では、安全対策の強化や、日本人社会の不安への対応などを話し合い、情報交換を続けていくことを確認しました」
(NHK9月20日)
中国 日本人学校 男児死亡事件 容疑者について地元紙報道 上海で関係者が対応協議 深センの校門前には花束 | NHK | 中国

なんと弱々しい対応なことよ。再発防止要請や真相究明など、申し入れしてもなんの効果も期待できません。
全体主義国家は末端の逸脱を許しませんから、中国官僚は中国外務省と同じことを同じように答えるだけです。
結局在留邦人同士が情報交換するだけが身を守る術ということになります。

また日本政府の対応は、例によって例の如くです。
岸田氏の弁。

「御家族の御心痛は察するに余りあります。政府としては、引き続き全力で御家族の支援にあたってまいります。
今は先ず、中国側に対し、事実関係の説明を強く求めていきます。
犯行から既に一日以上が経っていることからも、一刻も早い説明を強く求めるよう、指示いたしました」
Xユーザーの岸田文雄さん

岸田さん、いくら中国に説明を求めても、「単発の事件でどこの国にもあることだ」と木で鼻をくくったような答えが返ってくるだけですよ。
そもそもあなたの媚中的姿勢が招いた事態なのです。
元駐オーストラリア大使の山上信吾氏は、今回の事件について、中国の学校における長年の「反日教育」の結果だと投稿していますが、そのとおりです。

20240922-084454

上川外相は得意の遺憾砲です。

「事件について上川陽子外相は「今般の事案を極めて重く受け止めている。登校中の児童に対して卑劣な行為が行われたことは誠に遺憾だ」と述べ、岸田文雄首相は中国側に説明を強く求めると語った」
(ニューズウィーク9月20日)
深圳日本人学校の男児殺害に日本はもっと怒るべきだ|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

驚いたことには、外務省の中国に対する渡航情報は変わらずに「0」、つまり外務省の認識では中国は米国やージーNZ並に「安全」な地域だとしています。

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外務省の危険情報。黄色はレベル1「十分注意」、オレンジ色はレベル2「不要不急の渡航自粛」
外務省 海外安全ホームページ (mofa.go.jp)

「中国・広東省深圳市の日本人学校に通う男子児童(10)が刺殺された事件を受け、外務省が出す渡航・滞在の「危険情報」が注目されている。中国の危険度は、新疆ウイグル、チベット両自治区を除き「レベルゼロ」。インドは全土がレベル1以上、ロシアはレベル2だ。外務省は「現段階では見直しの検討はしていないが、中長期的な観点から総合的に判断する」としている」
(産経9月20日)
中国の危険情報「レベル0」維持 外務省「見直しは検討していない」子供連れには注意喚起 - 産経ニュース (sankei.com)

自国民を連続して殺傷されて、こんなていどしか中国に言えないのなら、政府など閉店してしまったほうがいい。
中国に対して少しは目を覚まさせるために、渡航情報を一気にレベル2あるいは3にするていどのことをやったらどうですか。

今の中国の治安はきわめて悪化しています。
不動産景気が崩壊し、いままでの右肩上がりの経済を信じられなくなった民衆は不満を手近な者にぶつけます。

連日のように各地で殺傷事件が多発し、殺傷事件や騒乱が絶えません。
犯人を中国政府は「精神疾患者」と呼びますが、中国国民は社会不安の現れととっています。
そしてその不満をどこにぶつけ易いかといえば、「殺しても褒められる」日本人です。

「最大の理由は社会不安、社会不満の情緒が一般人の弱者に向かう社会報復性テロが本質なのだと思いますが、中国社会において日本人は、一番攻撃の矛先が向きやすい政治的弱者の存在なのだということは忘れてはならないと思います。
中国人は自分の怒りや不満を自分より強い者には向けません。抵抗しない人間に向けるので、女性や子供が暴力の対象になる事件が社会報復性テロに多いのです。社会への不満なら、その社会の権力者に矛先を向けるべきだけれど、なかなかそうならないのです。
社会報復性事件とは、自分の不幸、不満に社会の多くの人たちを巻き込むことで理解してもらおうとういう心理から起きます。なので、より多くの人たちが巻き込まれたり、あるいは共感を呼んだり、あるいはより大きなニュースになることを望みます。
なので、抵抗がすくない相手(弱者)だったり、あるいは国際的な関心があつまる外国人であったり、共感性が高まる社会共通の敵、たとえば歴史的に「日本鬼子」と絶対悪のように教えられている日本人が対象になりやすいと私(福島)は見ています」
(福島香織9月19日 中国趣聞NO1064)

今回の事件も「精神疾患の男が単発でしでかした事件」ではなく、この男なりの「愛国行動」でした。
この男児殺害事件が起きた9月19日は、中国の柳条湖事件が起きた「国恥日」に当たっています。
だから日本人を標的にしたヘイトクライム(憎悪犯罪)に走ったのです。

「今回の事件が起きた18日は、日本による満州侵攻の発端になった悪名高い柳条湖事件の日だったことを指摘する声もある。1931年9月18日の同事件で日本は、満州侵略を正当化するため線路爆破を偽装。これが、中国との14年にわたる戦争の引き金となった」
(BBC9月19日)
中国で日本人学校の男児刺され死亡 広東省深圳市 - BBCニュース

一方、まったく同時期に、中国空母「遼寧」が日本の接続海域に侵入しました。
これもまた空母を使ったヘイトクライムです。
接続海域侵入した後にごていねいにも艦載機を発進させています。
露骨な砲艦外交です。

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産経

「防衛省統合幕僚監部は20日、日本の接続水域を航行した中国海軍の空母「遼寧」が同日夕、太平洋上で艦載の戦闘機やヘリコプターを発着艦させたと発表した。
防衛省によると、警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦「あさひ」が、沖縄県・宮古島の南東約1360キロの海域で、発着艦を確認した。
遼寧は18日未明、沖縄県の与那国島と西表島の間の海域を南進した際、一時接続水域に入った。中国の空母による日本の接続水域航行を確認したのは初めて」
(産経9月20日)
中国空母「遼寧」の戦闘機やヘリの発着艦を確認 接続水域航行後、太平洋上で 防衛省発表 - 産経ニュース (sankei.com)

この日本人襲撃殺害事件と中国空母侵入事件はまったく別の事象ではなく、中国が上も下も総動員して仕掛けてくる民族憎悪そのものなのです。

福島香織氏が言うようにこのような事件は絶対にまた起きます。
物理的に反撃不可能な相手として日本や日本人は絶好のターゲットだからです。

この間重なった靖国落書き事件やNHK放送テロなどは、むしろ「英雄」と見なされています。
ちなみに、このNHK放送テロ男はSNSでこの殺人事件のことをこう言っているそうです。

「NHKラジオ国際放送で尖閣諸島を「中国の領土」と発言するなどして解雇され、帰国した中国人男性とされるアカウントも事件に反応。在中日本人や在日中国人の生活を揺るがす元凶は「安倍晋三政権が推進してきた歴史修正主義路線だ」とし、日本が一方的な姿勢を続ければ「両国で非理性的な傷害事件を引き起こすことになる」などと警告した」
(産経9月20日)
深圳の日本人男児殺害、中国主要メディア沈黙 SNSは「批判」と「反日」が混在 - 産経ニュース (sankei.com)  

今の中国社会は再び混沌化する淵にいます。
中国経済と社会が不安定化する時、政府はその空気を煽って日本と日本人に向けます。
煽れればなんでもいい。抗日戦争でも台湾支援でも、あるいはサッカーに惨敗したでもかまいません。
そうなってしまうのは、戦前と同じ構造があるからで、彼らがまとう高層ビル、ハイテク産業などは薄皮一枚のものにすぎないのです。

今回の邦人子弟殺害事件は、候補者選びのいい材料となります。
ぜひひとりひとりの意見を開示ください。

 

 

 

2024年9月22日 (日)

日曜写真館 夕立のくるけはひして朝ぐもり

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朝ぐもり無吟の青き蝉ひとつ 水原秋櫻子

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朝曇しめやかにかくるはたきかな 中村汀女

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水郷や波の子たたぬ朝ぐもり 阿波野青畝

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湖の国の青花摘の朝ぐもり 大野林火

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朝曇炎の色残る骨拾ふ 岡本眸

 

 

2024年9月21日 (土)

いいかげんにしろ、高市叩き

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自民党は一回潰してしまったほうがいいのではないか、と思いたくもなります。
なんでも高市氏が禁止されていたリーフレットを出したのがルール違反だから「毅然とした対応」をとるべきだそうです。

「自民党総裁選(27日投開票)を巡り、高市経済安全保障相が、自民党総裁選挙管理委員会が禁止した政策パンフレットを郵送したことを巡り、自民執行部は17日、口頭注意に加え、新たな対応が必要だとの認識を確認した。
者によると、岸田首相(党総裁)と森山総務会長、渡海政調会長、小渕優子選挙対策委員長が党本部で対応を協議した結果、高市氏に対して「毅然(きぜん)とした対応が必要だ」との考えで一致し、逢沢一郎・選管委員長に検討を要請した。
各地の党員がパンフレットを見て、地元の国会議員が高市氏支持だと受け止める事例が相次いでいるといい、ある陣営幹部は「今更パンフレットの効果を打ち消すことはできないが、やった者勝ちで許されていいのか」と不満を漏らした」
(読売
高市早苗氏が党員に文書郵送、「金のかからない選挙に逆行する」と批判の声…総裁選管が口頭注意:写真 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

自民党はこんなことをすることで、国民が「ああ、クリーンな党で、素晴らしい党だ」と喝采を送るとでも思っているのかしら。
真逆でしょう。せっかくほぼ1カ月間の間、メディアを占有して自民党がいかに豊富な人材がいるのかを宣伝してきたのに、そのなかでもっとも理路整然と政策を語っていた女性がトップグループ躍り出るやいなや、いきなりこれです。
しかもその「罪状」が政策リーフレットを出したことだというのですから、呆れてモノが言えません。
政治家が自分の政策を伝えてなにがいけない。

今の選挙戦の情勢は、石破氏は伸びが止まり、小泉氏はガタ落ち、唯一高市のみが支持を拡げているという構図です。
この3人で第1集団を作っており、終盤戦を迎えてなかなかこの力関係を覆すのは難しいでしょう。
小石河連合としては、いかに高市氏の支持を引き剥がすかで腐心している時期でした。
この時期に、こういうことを本来中立であるべき党の選管がやらかす。
誰の圧力か知りませんが、(おおかたあの人でしょう)卑劣としかいいようがありません。
下写真が件の高市氏のリーフレットです。

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読売

議員が自分の政治信念や政策を党員に語る、このどこがいけないのか。
坊主がお経を唱え、パン屋がパンを売り、百姓がコメを作ってはいけないというようなもんです。

他の候補の選挙運動はこうです。

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読売

そもそも総裁選とは政策を争うものではなかったのですかね。
電話攻勢もかまわないそうですが、うちにも選挙シーズンになるとかかってきますが、「〇〇候補をよろしくお願いします」ていどのもので、いったいナニをこの議員が考えてきたのか、実行してきたのかまったくわかりません。
支持者集会といっても、本当にその候補者を応援するコアな党員しか来ないでしょう。
多くのそれ以外の党員に、自分の政策を知らせることは大変に重要で、政策にいちばん力を注いで来た高市氏くらいしかできないまねです。

なんでもリーフレットがダメな理由は「カネがかからない選挙」だそうで、いかにもクリーンなことがお好きな岸田氏好みの通達です。

「党は「カネのかからない総裁選」を打ち出し、選管は4日、告示前後を問わず文書類の郵送や書籍の配布などの禁止を通知した。これに基づき選管の逢沢一郎委員長は11日、高市氏を口頭注意した。
石破氏の推薦人の平将明広報本部長代理は16日、BS日テレ番組で、高市氏支持の拡大はリーフレットを全国党員らに郵送したことが要因の一つとし、「他陣営は一切出していない。それが影響したとの分析もある」と主張した」
(ZAKZAK9月19日)
高市早苗氏に〝包囲網〟リーフレット送付問題、首相が選管に「追加対応」求める 自民総裁選での急伸に他陣営が焦り?(2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

たぶん「カネと政治」でメディアから突っ込まれたことに対するリアクションなのでしょうが、政治はカネがかかるものです。
この政治資金パーティ裏金事件ってそんなに騒ぐことなのでしょうか。

「政治とカネ」といっても、かつての角栄さんが河川敷で何億ものカネをもらったの、ロッキードに有利に進める見返りで巨額賄賂をもらったなんていう時代ではありません。
料亭の黒塀の裏で、業者に酌をさせながら小判入り菓子折りを貰って、お前も悪じゃのうなんていう牧歌的金権時代はとっくに終わっています。

今回の問題でひとり1000万なんて聞くと、こりゃ政治家は濡れ手に粟だと一般国民は感じるわけですが、月にすれば百数十万です。
こんな程度の額で政治生命をかけるわきゃないしょ。
パーティ券の売り上げがノルマ以上になったから、議員に還元しようとどうしようとこれも問題ありません。
あたりまえですが、そもそも政治資金を集めるためにやっているパーティーなんですから。
問題があるとすれば、その還元分が政治資金収支報告に記載されていない場合です。
これも派閥の会計処理の責任であって、個人の議員は慣例に従っていただけにすぎません。
もちろん収支報告書無記載は罰則対象ですが、そこに悪質性があるかどうか、金額的にそこまで突っ込める事案なのかといえば、どうなんでしょうか。
だから全国から一説千人もの検事を駆りだして徹底的に帳簿を洗った東京地検特捜部も、議員を立件できなかったのです。
少なくとも、派閥を解散するだの、政治資金パーティを禁止するだのと大騒ぎを演じることではまったくありません。

それはさておき、政策リーフレットがいかんとはどの口で言えるのか。

「高市氏側は、総裁選管委が文書郵送の禁止を各議員に通知した9月4日時点で発送を終えていたと説明している。しかし、高市氏が党員・党友票で先行しているとの報道を踏まえ、他陣営が「リーフレットが影響した」などと反発。党執行部が逢沢氏に追加対応を求めていた」
(産経9月19日)
「再注意しない」高市早苗氏の政策リーフレット郵送巡り、自民総裁選管委 - 産経ニュース (sankei.com)

この党選管にクレームを言った「他陣営」とは石破陣営だそうです。
こんなことではなく政策で勝負しなさい。
高市氏は立候補するかまだ決まって無かった7月に原文を書いて、8月の頭に業者に依頼して、8月末には発送の手続きを済ませたそうです。

そして高市氏が発送手続きを終わってから、この文書送付禁止ルールが届いたのが9月4日です。
完全に事後であって、高市氏が文書送付がルール違反だとわかるはずがありません。
うがった見方をすれば、高市氏が発送手続きをしたことを確認してからこのルールを作った可能性すらあります。
いわば事後法であって、そんなものは近代法の概念では無効です。

つまんないことグダグダやっていないで政策で勝負しろ!

ちなみに高市氏は世評とは裏腹に苦戦しています。
情勢としてはよくて3位、悪くするとそれ以下になるかもしれません。
トップ争いは小泉氏と石破氏だそうです。

「小泉氏は菅義偉前首相らに近い無派閥を中心に安倍派や二階派、旧岸田派などから幅広く支持を集めている。2位には46票を固めた小林鷹之前経済安全保障担当相(49)が入った。半数近くが安倍派で、衆院当選4回以下の中堅・若手も多い。3位は林芳正官房長官(63)で、所属していた旧岸田派の7割超を固めて40票に達した。
石破茂元幹事長(67)は無派閥や二階派、安倍派の議員らが支えるが、4位の34票と広がりを欠く。茂木敏充幹事長(68)は茂木派の約6割の支持を集め、33票で5位となった。
高市早苗経済安保担当相(63)は安倍派議員を中心に31票で6位と低迷する。麻生派の河野太郎デジタル相(61)は派内の支持が約4割にとどまり26票と苦戦。上川陽子外相(71)と加藤勝信元官房長官(68)は23票と伸び悩む。
一方、党員票について、14、15両日に実施した産経とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査で「自民支持層」の支持を基に試算すると、29・4%の小泉氏が109票でトップとなった。石破氏89票▽高市氏60票▽河野氏19票▽林氏14票▽小林、上川両氏13票▽茂木氏11票▽加藤氏1票-と続いた。
議員票との合計は小泉氏167票、石破氏123票、高市氏91票で、このうち上位2人の決選投票となる公算が大きい。党員票は、あくまで世論調査の自民支持層で試算しており、実際の動向と異なる可能性がある」
((産経9月20日)
小泉氏58票でリード、党員票も優位 石破・高市両氏含め決選投票見通し 総裁選議員動向 - 産経ニュース (sankei.com)

 

2024年9月20日 (金)

石破氏は金融所得課税をやるんだそうです

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今回の総裁選の重要テーマは金融・財政政策です。
石破氏はいわゆる増税派のようで、金融所得課税、つまり株式・債権・投資信託の売買収益や配当に課税したいのだそうです。

他の候補者と比較してみましょう。
石破氏の突出した財政規律回復・増税・緊縮姿勢がわかるでしょう。
これに並ぶのは河野太郎氏と小泉進次郎氏くらいなもので、見事に小石河連合の息が揃いました。
茂木さんが「増税ゼロ」を掲げています。現職のうちに言えよ、とは思いますが主張はあんがいまともです。

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自民総裁選、候補9人の意見をエネルギーで比べる   – with ENERGY(ウィズエネ)

では、石破氏がどんなことを言っているのかみていきます。

「自民党の石破茂・元幹事長は2日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、株式の売却益などへの金融所得課税の強化について「実行したい」と述べ、格差是正重視の姿勢を強調した」
(読売9月2日)
[深層NEWS]石破茂氏、金融所得課税を強化し格差是正…自民党総裁選へ改めて決意 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 

「(株式の売却益などへの金融所得課税の強化について)それは実行したい。お金持ちが本当に(日本の)外に出て行ってしまうのかという議論を詰めていかなければいけない」
(9月10日フロントラインプレス)

金融所得課税を言い出したのは岸田氏で、金融所得課税を前回の総裁選で格差是正の一環として見直したいと言い出したのが始めです。
一律約20%(所得税15%・住民税5%)の税率を課すそうですが、例によって薄志弱行の首相はこんな不人気な政策をやらないまま放り出しました。
そんなことを首相が言った瞬間、国民からは総スッカン、株式市場はささっと資金を引き上げて株価は下落しましたしね。
そこで岸田氏は「当面は触ることは考えていない」と軌道修正しました。

そもそも岸田氏は「新しい資本主義」という意味不明なスローガンを作って「貯蓄から投資へ」と叫んでいましたから、金融所得課税はアクセルを踏んで同時にブレーキをめいっぱい踏むということになり、頭の調子を疑われました。
これを「後退した」と批判し、オレはひとり敢然と増税するんだ、と言っているのが石破氏です。
石破氏は自分が大久保利通のような指導者像を描いているふしがあって、民から憎まれようと謗られようと やるときはやるんだぁという「勇気」の持ち主です。
というか、正確に言えば、そういうことを口にしたがる人で、すぐに腰砕けになりますがね。

実際に金融所得課税をしたからといって、株式市場に大きな影響が出るかどうかはわかりません。
日本株売買で海外投資家のシェアは7割近いので、日本に本社や住所を置かない海外投資家が日本株を売っても「譲渡所得」はもともと非課税とされているから変化はさほど大きくないかもしれないという意見もあるようです。

ただしそういう見方の人たちも含めて、共通しているのは予測がつかないということです。
株式市場は「空気」で動くものだからです。
経済と世界の地政学的要因は密接に連動しています。
現在の世界情勢は、わずか2年前がなんて平和な時代だったと懐かしく感じるほど揺れ動く激動期に入っています。
中東やウクライナで戦争が勃発し、中国は再び南シナ海への侵攻を始めました。
こんな悪材料で揺れ動いているこの時期の株式・為替市場はナーバスで、ピリピリしています。

日本が4万円台に乗せてひとり勝ちに見えたのも、大きな理由は日本経済の回復もさることながら、米国の政府金利高のために日米金利差から輸出産業が潤ったからです。
しかしその米国政府金利も経済の後退と共に一気に利下げに転じています。

「米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めからの転換に動き始めた。18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は通常の倍となる0.5%の幅で4年半ぶりの利下げを決めた。高インフレの収束が濃厚となり、米国は持続可能な経済成長の姿を模索する。 (中略)
記者会見したパウエル議長は大幅利下げに踏み切った理由について「時宜を得たものであり、後手に回らないという決意の表れ」だと説明した。
「経済と労働市場の強さを維持し、物価抑制のさらなる進展を可能にする」と狙いを解説した。最近の経済指標によって「物価上昇率が持続的に目標の2%に向かっていく確信が深まった」と強調した」
(日経9月19日)
FRB、0.5%の大幅利下げFOMCで決定 議長「後手に回らぬ決意」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

今、この時期に金融所得を増税すれば、マーケットには石破=株安という図式が強烈に投資家に刷り込まれます。
いくら後になって「今はやらないから」と言い訳しても、石破にやらせれば確実に株式市場は冷え込むという眼で経済を見るでしょう。

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では、石破氏はどうして金融所得課税にこだわるのでしょうか。
石破氏は「本来の資本主義」に戻すのだと言っています。
これまた岸田さんの「新しい資本主義」並によくわかりませんが、どうやらこういうことのようです。

「本来の資本主義に戻す」と述べ、企業の内部留保の活用や経済的に余力がある個人・法人への課税、農林水産業の成長促進、マイナス金利政策からの正常化などを掲げた」
(ラジオNIKKEIポ ッドキャスト)

どうやら石破氏は、「本来の資本主義」という概念を、財政規律がしっかりと保たれ、過剰な政府投資も抑えられて、民間だけの投資で経済成長していくビューティフルな平和郷を夢見て使っているようてす。
そんなもんになりませんよ。
実は石破氏の金融所得課税にそっくりなことを、ハリスがやろうとしています。
この富裕層叩き、貧者救済は左派経済政策の定番だからで、ハリスは現在20%のキャピタルゲイン課税を大きく引き上げ、富裕層に対しては株の含み益に関しても25%の税を課そうとしています。
一方、食品価格を政府統制し、中間層や低所得層を潤わせようとするものです。

もしこれを実施すれば、税の支払いのために株式や債権を売って資産売却を迫られることになるでしょう。
結果、債権・株式市場は崩壊します。
そしてさらに悪化すれば、富裕層は海外に逃げ出します。

だって日本にいる限り政府から絞り取られるだけですからね。
中間層や低所得層は逃げるカネなんかありませんが、富裕層はたやすく生活拠点を海外に移せるのです。
今の中国が直面しているのが、この富裕層の大規模なエクソダスです。

ただ日米で違うのは、米国では議会で共和党が多数を握る可能性が高いので、大統領が金融所得課税を提案しても否決されるでしょう。
しかしわが国では、議院内閣制のために通ってしまうかもしれません。

では石破氏は、株で儲けている富裕層に高い税金をかけて、それを低所得層に還流させて格差是正を図りたいようです。
残念ながらなりません。
なぜなら、石破氏は金融所得課税と同時に「財政規律の健全化」あるいは「金融政策の正常化」をセットメニューでつけてくるからです。
石破氏はアベノミクスを止める時期だとして、こう言っています。

「自民党の石破茂元幹事長は7日発行の新著で、「異次元の金融緩和」の長期化で国の財政と日銀の財務が悪化したとしてマクロ経済運営の危機に備えた新たな組織を設置すべきだとの考えを示した。
金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とした「アベノミクス」に関して「功罪についてきちんと評価すべき時期が来た」と強調した。異次元の金融緩和には円高・株安基調だった日本経済を円安・株高にシフトさせるなど一定の効果があったと指摘。10年続けたことで国や日銀の財務悪化に加え、超低金利下で企業も「やすきに流れた面があったのではないか」と疑問を呈した」
(ブルームバーク2024年8月7日)
異次元緩和の長期化で財政悪化、経済危機に備え新組織設置を-石破氏 - Bloomberg

なにを言っているのやら。財務省のレクチャーどおりにしゃべっていますな、この人。
国の財政は悪化していません。なにを根拠にこんなことをいうのでしょうか。
これについては高市氏が、日本の財政は世界で2番目に健全だといるので、明日にまわします。
金融緩和をしたからカネがダブついて安きに流れたといわんばかりですが、2%のインフレ目標を置いてコントロールされています。

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2%の物価上昇は定着するか?期待形成から2%の物価上昇を考える | MRI 三菱総合研究所

このことによって雇用は劇的に改善されました。

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原田泰 データアナリシス

「(上図は)失業率と有効求人倍率の推移を示したものである。安倍政権以前、4%を超えていた失業率は、2019年末には2.2%にまで低下した。
雇用の改善は大都市だけのものではない。全国で有効求人倍率は上昇した。「仕事があっても非正規ばかり」という指摘があるが、パートを除いた有効求人倍率も14年12月以降は1を超え続けていた。

若者の就職状況は急激に改善した。若者を食い物にするブラック企業などという言葉はほとんど聞かれなくなった。一度ブラックと噂されれば採用できなくなるからである」
(原田泰2020年9月14日 )
アベノミクスへの辛口評価は根拠なし、景気実感は実は改善している | 原田泰 データアナリシス | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

アベノミクスの最大の功績は雇用拡大の効果です。
総務省「労働力調査」によれば、2010年~2012年にかけて5500万人前後で推移していた雇用者数は、2019年半ばには6000万人に到達しました。
コロナショックの影響で雇用が大きく失われていますが、7年半で500万の雇用を創出したというわけです。
「いざなみ景気」(2002年から08年)での雇用総数の増加が150万人程度であったことと比すると、その増加の規模が想像つきます。
そして原田氏も私的しているように、「増えたのは非正規ばかりで、正規雇用は減少した」とメディアは非難しますが、非正規雇用の増加と正規雇用の減少は実はデュアルであり、2014年以降は正社員の増加の方が上回っています。

このような日本経済に大きなプラスを与えたアベノミクスに対して、石破氏は安倍氏を認めたくない一心なのか株価、円安くらいがよかった点だ、もはや見直しの時期だ、として矮小化しています。
いえいえ、そんな小さなことではなく、日本経済全体が蘇ったのです。
原田氏はそれを雇用の改善、企業収益と雇用者所得の拡大、実質と名目GDPの増加、景気の実感の向上、所得分配の改善、自殺の減少、TPP-11の締結などの成果として総括しています。

では、不幸にして石破氏が首相になり、アベノミクス総否定、緊縮・増税路線に舵を切ったとして、ご託宣どおり、富裕層から奪った税金は政府はどこに消えるのでしょうか。
この政府収入増は「国債の償還」に回るでしょう。
本来は景気が充分に温まっておらず、個人消費はコロナ前に戻っていない今は、政府はカネの出所を絞ってはダメなのです。
政府は金利を上げずに、政府からのカネを潤沢に市場に出して景気を活性化させなければいけません。
そしてわれらがゲル氏はその正反対に走るでしょう。
いや違ったか、「国民の皆さんと議論していかねばならない」のでしたね。

それにしても石破氏の新著は『保守政治家 わが政策、わが天命』だそうですが、誰が保守政治家なんでしたっけ?
よもやあなたではありませんよね。
今のあなたは立憲の代表選に出たほうがいいような人ですからね。

蛇足ですが、高市氏からリーフレットが送られてきたぁこれは違反だ、処罰しろという声が「党員」から上がっているとのことです。
あからさまな高市潰しですが、この「党員の声」というのが石破陣営から集中しているとのこと。
はいはい、そこまでするかね。

 

 

2024年9月19日 (木)

裏切りの常習犯

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そもそも石破氏は、自分が何者なのか、自分でわからなくなっているのではないでしょうか。
若き日の石破氏はバリバリの安全保障通として、こんなことを阿比留瑠比氏に言ったことがあるそうです。

「自衛隊法は行うことができることを記した『ポジティブリスト』方式になっており、それ以外はできない。これを軍隊の行動の国際標準である行ってはいけない行動を規定した『ネガティブリスト』方式にしたい。それにより、自衛隊の活動の自由は大きく広がり、有事に柔軟に対応できる。政治家として、これだけは成し遂げたい」
絶対、総理にしてはいけないざんねんな石破茂|阿比留瑠比 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp)

この自衛隊はナニナニをしてよいというポジティブリスト方式が課せられており、通常の軍隊のようにナニナニをしてはいけない、それ以外は戦時国際法の枠内で可能であるというネガティブ方式ではない点に着目したことは秀抜でした。
当時、このことを理解している政治家はひとにぎりもいなかったはずです。

安倍氏と中川氏、そしてこの石破氏くらいなものです。
なぜなら、このポジティブ方式でしか自衛隊が動けないという根本欠陥によって、自衛隊はあっても「使えない軍隊」になっていたからです。

修正護憲派(このように評してよいかわかりませんが)の井上達夫氏はこう述べています。

「自衛隊は警察と同様、ポジティブリストで統制されているから、軍隊ではないとする合憲論が存在する。
この主張は後に触れるように嘘であるが、仮に真だとしても、自衛隊は「法的な束縛が強すぎて使えない実力組織」になってしまい、日本をしっかり守ることなどできなくなる。
警察は、取り締まり対象者が暴力的・破壊的行動を実行し、武器使用しないと警官や第三者の被害を回避できないとみなされるごく限られた場合しか武器使用できない」
法的根拠が曖昧で気球すら撃ち落とせない…東大名誉教授が「自衛隊では日本を守れない」と断言する理由 日本の安全保障体制の根本的な欠陥 (3ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

自衛隊は現実には法的な束縛が強すぎて使えない「軍隊」のようなものになっています。
これでは日本を自衛隊がしっかりと守れるはずがありません。
ではこういう状態を、責任ある地位についた後の石破氏は少しでも手を着けたのでしょうか。
いやまったく、なにもしませんでした。なにもです。
防衛庁長官になっても、自民党幹事長となっても小指一本動かしませんでした。
これが彼のスタイルです。一事が万事、拉致問題についてもかつてはこう言っていました。

「とにかく行動すること、北朝鮮に毅然たる姿勢で臨むことの二点に議連の意味がある。日本はこれまで、コメ支援や朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への援助など、太陽政策的な措置を何度もとってきた。それなのに北朝鮮は、『行方不明者(拉致犠牲者)は捜したがいなかった』と非常に不誠実な答えを返し、ミサイルを撃ち、工作船を航行させるという行動に出ている。
この問題を歴史認識や戦後補償と絡める人もいるが、拉致犠牲者の返還要求とは全く別問題であり、切り離すべきだ。拉致容疑は人権問題でもあるが、それ以前に国家主権の侵害だ」
(阿比留前掲)

「もう政界でも忘れてしまった人のほうが多そうだが、石破氏は2002年4月から9月頃まで 拉致議連の会長を務めたことがある。(略)
ところが、石破氏は小泉純一郎内閣の防衛庁長官(当時)に抜擢されると、拉致問題から手を引いていく。
防衛庁長官就任直後には、筆者に「拉致議連会長だったということで、福田康夫官房長官に怖い人かと思われていた。腫れ物に触るようだったよ」と苦笑していたが、のちには取り込まれていく」
(阿比留前掲)

ここに出てくる「議連」とは拉致議連のことで、彼は会長すら務めたことがあります。
言っていることはまことに正論で、太陽政策をとっても無駄だ、戦後補償うんぬんとは無関係だとはっきり言いきっています。
この人物が15年後には訪韓して謝罪してしまうとは誰も思わなかったことでしょう。

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産経

「韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し「(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事を掲載した。
記事は、石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に「『謝罪』という言葉は一切使っていない。お互いが納得するまで努力を続けるべきだ』と話した」と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という」
(産経2017年5月24日)
【「慰安婦」日韓合意】韓国紙、自民・石破茂氏が「納得得るまで日本は謝罪を」と述べたと報道 本人は「謝罪」否定 - 産経ニュース (sankei.com)

なにが「お互いが納得するまで」ですか。
韓国が日本の謝罪に「納得する」ことなど未来永劫ありません。
こんなことものたもうておられます。

「自民党の石破茂元幹事長は23日付の自身のブログで、韓国政府が日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めたことについて、「日韓関係は問題解決の見込みの立たない状態に陥った。わが国が敗戦後、戦争責任と正面から向き合ってこなかったことが多くの問題の根底にあり、さまざまな形で表面化している」と分析した。
石破氏は、明治維新後の日韓関係を再考する必要性を強調し、「(ナチス・ドイツの戦争犯罪を裁いた)ニュルンベルク裁判とは別に戦争責任を自らの手で明らかにしたドイツとの違いは認識しなくてはならない」とも指摘した」
(産経2019年8月23日)
GSOMIA破棄 自民・石破氏「日本が戦争責任と向き合わなかったことが問題の根底」 - 産経ニュース (sankei.com)

病膏肓だね。GSOMIA廃棄は「戦争責任」とやらとはなにも関係ありません。
日本が韓国の輸出管理が杜撰で、大量破壊兵器の材料をならず者国家に売りさばいていた違いがあるためにホワイト国待遇を止めたからです。
公には公表されていませんが、日本は韓国企業がフッ化水素などを北朝鮮やイランに横流ししたり、第三国を経由して迂回輸出している証拠を握っていたようです。
だから、ひとつひとつ丁寧に用途と行き先を調べるために何度もカウンターパートの韓国政府に協議を呼びかけたのですが、なんの音沙汰もなかったために、今までの特権的待遇を止めたというだけのことです。
逆上したコリアがなんの関係もないGSOMIAを廃棄するという暴走をしたために起きたことです。
またまた韓国がGSOMIA廃棄だって: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)

この経緯は当時経産大臣をしていた茂木氏が詳しいはずなので聞いてみてはいかがでしょうか。
それを歴史認識にすり替えるなんて、韓国の言うがままです。
韓国司法と死闘を繰り広げた経験がある、産経元ソウル支局長・加藤達也氏が、日韓紛争が「長期化に入る鉄板のサイクル」についてこう書いています。
(産経2018年11月4日)
【加藤達也の虎穴に入らずんば】韓国に2・5兆円ほど要求しては? - 産経ニュース (sankei.com) 


日韓摩擦の定石サイクル
[第1段階]反日の土壌に日本統治時代の“記憶”が目覚め
[第2段階」共感・同調圧力が作用し
[第3段階]人権やプライドの問題とすり替えられて活動が組織化し
[第4段階]司法・行政府が世論を忖度した判断や方針を示して公認し
[第5段階]日本に善処を要求する 

ほとんどすべての日韓摩擦はこのプロセスを通過します。
このプロセスを経ないと、韓国人は民族的自尊心が傷つくのだそうです。
ですから慰安婦問題にしかり、旭日旗問題にしかり、自称徴用工問題でもそうでした。
ですからこの負のスパイラルに歯止めをかけるために安倍氏は日韓慰安婦合意を結んだのです。

「安倍総理から,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明した。その上で,慰安婦問題を含め,日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で最終的かつ完全に解決済みとの我が国の立場に変わりないが,今回の合意により,慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に」解決されることを歓迎した」
(外務省平成27年12月28日 )
日韓首脳電話会談|外務省 (mofa.go.jp)

石破氏は、この安倍氏の2015年の日韓慰安婦合意にある「最終的不可逆的な解決」によって、日本は二度と謝罪をしないとしたことを踏みにじりました。
サヨクメディアらは、ほー石破さんはオレたちと同じ立場だなと安堵し、以後石破氏をアンチ安倍の急先鋒に位置づけます。
一方、石破氏もこれぞ天命とばかりにメディアの需要に応じて安倍叩きを繰り返します。
いったい彼を幹事長に遇したのは誰だったのでしょうか。

そしてかつては拉致議連会長までやった同じ人間が、拉致問題にはまったく発言を封じ、北朝鮮に宥和的な衛藤征士郎会長率いる日朝国交正常化推進議連にまで出席するに至ったのです。ちなみに家族会からは事実上の出禁です。
まぁフツーに考えて、これはリッパな背信行為と呼ぶべきではないでしょうか。

と、こういう人なのです、彼は。
なにか原則的なことを言っても決してやらない、言っただけで放置する、そして我が身かわいさでメディアにすり寄り、彼らが好むようなことを言う。
阿比留氏ではありませんが、ぜったいに首相にしてはいけない人物、それが石破氏です。
だからたまに訪れてくれてにこやかに(笑うといっそうコワイが)話を聞いてくれる地方党員には受けても(だから地方創生大臣になったんですが)、議員からは蛇のように嫌われています。
それなのになにを勘違いして、またまたまたまたまた(5回繰り返す)出てくるのか。
もうこのご仁は、「世界一党首選で負けた男で堂々ギネス」としてしまってしまったほうがいい人なのです。

2024年9月18日 (水)

石破氏にニュークリアシェアリングなどやる気はありません

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朝日が一面トップでまるでスクープみたいな顔をして「アベが自民党本部で統一教会幹部と面会していたぁ。写真もあるぞぉ」と絶叫しております。

安倍晋三首相(当時)が2013年の参議院選挙直前、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の会長らと自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられることが複数の関係者への取材でわかった。自民党の萩生田光一・元経済産業相や岸信夫・元防衛相、教団の友好団体トップらが同席。朝日新聞は面談時とされる写真を入手した」
(朝日9月17日)
安倍晋三氏と旧統一教会会長、自民党本部で選挙支援確認か 写真入手:朝日新聞デジタル (asahi.com) 

だからナニよ。選挙前に支持していますという団体と面談するなんてあたりまえでしょう。
しかも政権を奪還した直後の2013年のことで、安倍氏の党内指導力を確立する以前のことです。
そもそも政治家は呼ばれれば行ってしゃべって来る、面談したいといわれれば会うのが仕事です。
特別なことではありません。

それと公務は別。
安倍氏はこの後の2016年、「消費者裁判手続特例法」を施行し、霊感商法を断ち切ったのです。
それまで、消費者が企業(事業者)から何らかの財産的被害を受けた場合、自らその被害回復を図るためには、自力で事業者を相手に交渉するか、訴訟を提起する必要がありました。
これを消費者裁判手続法によって、消費者契約に関する共通の原因により相当多数の消費者に生じた財産的被害の集団的な回復が図れるとしたのです。
「共通の原因」とは霊感商法などを指します。
これにより旧統一協会の霊感商法は大打撃を受けています。
つまり、旧統一教会からすれば、安倍氏は殺しても飽き足らぬくらい憎い政治家だったことでしょう。
私は山上某が旧統一教会の送った刺客だったとしてもいささかも驚きません。
それを真逆に描き出し、アベが統一教会の黒幕だったから殺されてあたりまえだ、とねじまげたのが朝日です。

そもそもなんでこんな総裁選追い込みの時期にぶつけて来るのか。
それは長期間の総裁選で、朝日が描いていた方向とはまるで違う方向に候補者の議論が展開し、密かに推していた候補者が軒並み支持を下げていることに対するいらだちがあったからです。
朝日としては、なにがなんでも「政治とカネ」「統一教会と自民党」がメーンテーマだと叫びたいのでしょう。
しかしこれって公党の党首選挙への介入圧力ですね。

さて、石破氏という人を見ていると、妙に玄人ッポイことを言う方のようです。
今度の総裁選では、ニュークリアシェアリングを言い出しました。
この主張は石破氏をリベラル候補と見て推しに回ったメディアはスルーしていますが、同じようなことを彼らが大嫌いな安倍氏や田母神氏も言ってますよ。
私は賛成はしませんが、一定の現実性を持った案なことは確かです。

「自民党総裁選9候補は16日夜、インターネット動画中継サイト「ニコニコ動画」主催の討論会に臨んだ。石破茂元幹事長は、米国の核兵器を日本で運用する「核共有」について「非核三原則に触れるものではない」と述べ、議論の必要性を訴えた。上川陽子外相は日本は唯一の戦争被爆国だとして慎重姿勢を示した」
(共同9月17日)
石破氏、「核共有」議論を 上川氏慎重、総裁候補討論(共同通信) - Yahoo!ニュース

日本においては、安倍氏の提言をきっかけにニュークリア・シェアリング論が急速に現実味を帯びました。
この安倍氏の議論は呼びかけとしては面白いのですが、日本においてニュークリアシェアリングを導入しても、そのポタンは米国が握るということをお忘れなく。
ニュークリアシェアリングは、冷戦期に考えられた核の前方配置です。
突如核攻撃を受けた場合、米国が対応できないケースを想定していたわけです。
ですから、当然核拡散防止防止条約(NPT)の決め事の範疇でシェアされる以上、あくまでも管理、運用権限の一切が米国にあります。

自国では核兵器を製造せずに、米軍基地に保管して有事に際して米国に合意を受けて受け取るニュークリアシェアリングによって、ドイツ、イタリア、トルコ、オランダ、ベルギー領内に核が置かれています。
NATOはこのシステムを使って、これらのNATO加盟国に常に150~200発のB61核爆弾が備蓄していますし、1991年に軍縮計画の一環として撤収するまで、アジアでは韓国のオサン空軍基地に常備されていました。

ただし冷戦が終了すると、シェアされた方のドイツなどは核兵器を置かれることを嫌がり始めていました。
冷戦も終わって核戦争なんかありっこないのに核なんか置きやがって、ささっと持って返ってくれ、というわけです。

ところがこれが大きく揺らぎました。
ロシアがウクライナ侵略に当たって、核を恫喝の道具にしたからです。

核保有超大国ロシアが、核もなければNATOという核の傘もない小国を侵略してしたことは西側に衝撃を与えました。
侵略に当たって、プーチンはドスを効かせてNATOと米国に、「手出ししたら核戦争になるからな」という脅迫までしています。
このロシアの核戦争の脅迫に、NATOと米国は屈してしまいました。
ウクライナ侵略冒頭、軍事介入するのかと聞かれたバイデンは、にわかに顔色を変えて「米国に戦争をさせる気なのか」と青ざめました。

これが現在のニュークリアシェアリングを巡る世界の情勢です。
米軍に核を「持ち込ませる」ことが大前提ですから、石破氏がいうように「3原則に抵触しない」などということはありえません。
またこの提案を受けた場合、米国はNPT(核拡散防止条約)を遵守する意志を明確にすることを望むでしょう。

それと同時に、日本に核兵器を移動した場合、その管理保管が万全に行われるかを徹底に調査するはずです。
最大のネックは、日本が核兵器の軍事機密情報を万全に守りきれないのではないか、という不信感がいまだ拭えないからです。
これは海自によるイージスシステムの情報漏洩事件で現実のものとなりました。
経済安全保障法という形で、高市氏は大きな仕事をしましたが、このような機密保全の仕組みが必須なのです。

またいかなる形であれ核の保有に踏み込むのなら、危機に至るエスカレーションの度合いに応じて、いかに日本社会が耐えるのかが問われます。
緊急事態への法的・制度的準備も同時に準備せねばなりません。

具体的にいえば、経済安全保障、スパイ防止法や緊急事態法の制定など社会的強靱性を保有して初めて米国にニュークリアウェアエングを要求できるのです。

石破氏はこのような一連の社会の強靱化にすこしでも役立つ動きをしましたか。
いやむしろサヨクメディアの言うがままに政権批判を繰り返し、党内で煮詰まった議論のちゃぶ台返しをして妨害し続けてきたのはこの人です。
そんな人が、いまさらニュークリアシェアリングで米国と対等になんてとんだファンタジーです。

こういっちゃナンですが、石破氏は仮に首相になってもこのやっかいなテーマには手も着けないでしょう。
議員はもうこんな石破氏のアドバルーンには乗らない免疫を備えていますが、地方党員の多くは元幹事長・防衛相の肩書にダマされて知りません。
そこを狙ったのが今回の目的です。
要は、ただの選挙目当てで保守票を集めたいからにすぎないのです。

 

2024年9月17日 (火)

石破氏の空理空論

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安全保障・外交、そしてエネルギー問題は国の根幹ですから、徹底したリアリズムで語らねばなりません。
夫婦別姓やライドシェアとは次元が違うのです。
したがって、まともな候補なのかどうかのいいリトマス試験紙になります。

その候補が国民の安全と真剣に向き合っているか、ただのカッコつけなのかわかってしまうからです。

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朝日新聞デジタル (asahi.com)

たとえば、安全保障のプロを自認する石破元防衛大臣は、安保関連の著作までお持ちなくせに、こんなことを言っていました。

「石破氏は安全保障分野で持論を展開し、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の創設や、米軍が日本で活動する際のルールを定めた日米地位協定の改定を目指す考えを示した」
朝日9月10日)
石破氏、安保で持論展開 アジア版NATO、日米地位協定改定検討 [自民]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

正直言って、石破氏が「アジア版NATO」と吹き上げた時には、ほぉと思いました。
たしかにそんなもんがあったら、日本はアジアのウクライナにならずに済むからです。
そのことは石破氏も重々承知で、ウクライナを引き合いに出しています。

「石破氏は会見の冒頭、今回出馬を決めた理由として、安全保障環境の変化を挙げた。ロシアによるウクライナ侵攻について「ウクライナはNATOに入っていない。それが(ロシアの)プーチン大統領の決断を促したことは想像に難くない」と説明し、「アジア版NATO」など、アジアにおける集団安全保障体制を構築する必要性を強調した」
(朝日前掲)

ただし、ここで石破氏があえて口にしないのは、日本には「アジア版NATO」という集団安全保障体制はなくとも、日米同盟という集団的自衛権が存在するということです。
石破さんって顔に似合わずファンタジーの人なのですね。

いいですか、なぜASEANがEUのような政治経済共同体に発展せず、NATOのような集団安全保障体制にならないのでしょうか。
理由は簡単。国の経済の発展もバラバラ、民主主義の成熟度もバラバラ、宗教もバラバラ、全部バラバラだからです。

かつて日本で議論された集団的自衛権(right to collective defense )と、NATOのような集団的安全保障体制(collective security)は違う概念です。 
どちらも同じ「集団的」(collective )という名がかぶっていますが、「自衛権」のほうは権利で、「体制」のほうはそれを維持していくシステムのことです。 

NATOの肝は第5条にあります。 

●NATO条約第5条
NATO締結国(1カ国でも複数国でも)に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃に対して全締結国は、北大西洋地域の安全保障を回復し維持するために必要と認められる、軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する。

「NATO締結国に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なす」、スゴイこと言っているのに気がつきましたか。
たとえばフランスは、フィンランドが侵略を受けたら自国に対する武力攻撃とみなし共に戦うということです。
ですから、 この第5条は、別名「自動介入条項」と呼ばれています。
安保法制の時に、日本のサヨクの皆さんは、なにを勘違いしたのか個別的自衛権こそが平和の証拠と叫んでいましたが、国際的には個別的自衛権だけで語るほうが危ない考えかたなのです。
だって、周辺国と図らずに一国の独断で戦争が出来てしまいますから。

それに対してNATO第5条は、個別的自衛権をあらかじめ捨てて、交戦権を「集団」に預けているのです。
つまり安全保障を個別国家の枠内から「集団」、この場合はNATOに委譲してしまったのです。

さて、これが今のアジアに可能でしょうか。
まったくムリです。
東南アジアだけに限っても、タイがカンボジアのために派兵できますか、インドネシアがベトナムのために戦いますか、まずできないでしょう。
東アジアに至っては、韓国が日本を守るはずがありませんし、日本が北から侵攻されたからといって救援に駆けつけたなら、逆に南北打ち揃って護国反日戦争をされてしまいます。

今、フィリピンがサビナ礁を侵略されようとしていましたが、補給が続かずに撤収しました。
フィリピンの窮状に手を差し伸べているのは、日米くらいなものです。

どの東南アジア諸国も見て見ぬふり、これが現実のASEANです。

アジア太平洋地域で唯一集団安全保障体制の萌芽なのはFOIP(自由で開かれたアジア・太平洋)くらいなもので、それすらアジア・太平洋版NATOからはほど遠い段階です。
これは脅威の対象がはっきりと見えているからで、それはいうまでもなく中国と北朝鮮、そしてロシアです。
今のASEAN諸国に中国を視野に入れた安全保障体制に入れといっても、すべての国が尻込みするでしょうし、域内にはカンボジア、ラオス、ミャンマーのような中国経済圏に組み込まれ、軍事支援さえ受けている国も多いのです。
つまりはっきり言って現時点でアジア版NATOなど机上の空論にすぎません。

そもそもうちの国の集団的自衛権の一部容認では、集団安保体制に加入するのは無理なことくらい、石破さんはご存じでしょう。
かつて安保法制の時に、安倍氏からなんどとなく防衛大臣を頼むといわれて、逃げ続けてきたので忘れましたかね。
「アジア版NATO」をブチ上げたなら、そのへんの法制整備も折り込み済みなのでしょう、きっと、たぶん、ゼッタイ。
でなければ、ただの選挙選のためのリップサービスです。

また日米地位協定にも石破氏は言及して改定を唱えています。
石破氏が言うのは日米地位協定改定と米国内に自衛隊基地をつくるというプランです。

日米同盟を対等に近づけるために日米地位協定の改定検討も表明。1960年の日米安全保障条約の改定と同時に結ばれたまま変わっておらず、「不平等」との指摘がある。石破氏は、米国内に自衛隊の訓練用基地を設ける案を披露し、その際に結ぶ協定と同水準であるべきだと主張。「地位協定の改定を目指すからには、それが同盟関係の強化につながり、地域の安全保障環境を向上させるものでないとダメだ」と語った」
(朝日前掲)

地位協定上の問題は第1次裁判権が日本にないということです。

日米地位協定第17条5(c)
 日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は、その者の身柄が合衆国の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き行うものとする。

NATO諸国も似たようなものを持っていると外務省は言い訳していますがそんなことは理由になりません。
私が言うことは大変に簡単なことです。米兵を通常の内国人や外国人が犯罪を犯した場合と同様に逮捕し、取り調べ、起訴し、裁判にかける司法権をわが国が持てと言っているだけです。

ところが、石破氏はこれを米国内にも自衛隊基地を作ることで双務的な協定にするという言い方をしています。
米国は自国領内に外国軍隊に基地を提供したことはありません。
それを押して基地を作らせろということは、日本は世界戦略のすべてに関わる、南米、ヨーロッパまで含めて責任を持ってそれをやり切るということなのでしょうか。
これまた空理空論です。そんなことはまるっきり不可能で、むしろ米国はそんなことを日本が言い出したらドン引きすることでしょう。

FOIPが現実の集団安保体制として機能する前段まできている時期に、いやアジア版NATOだと言い出すのですからタチが悪い。
こんな無意味な風呂敷を拡げておきながら、既に実体化している日本発の世界戦略のFOIPについてはなにも言わないのですからなんともかとも。

この人の悪癖は、改憲論議もそうでしたが、むやみとハードルを高くして、な、できないだろう諦めろ的なグズグズに持ち込むことです。
たとえば、自民党内で改憲議論が煮詰まってくれば、突如9条2項の削除という超原則論を言い出します。
安倍氏が改憲ならぬ加憲で集約し現実に近づこうとしている時になって、こういう水を差すことを言う、これがゲル氏の流儀です。
今回も一緒で、作法が悪すぎます。

2024年9月16日 (月)

拉致問題についての小泉ジュニアのお言葉

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いやー、党首討論って面白い。
常日頃こういう議論を党内でしていた、自民はもっと活性化したのでしょうが。
始めから落し所が決まっているような立憲とは大違いで、よくこれで同じ「自民党」という器に入っているもんだと感心します。

やはり出色なのが小泉氏です。
党首討論の場で、首相になったら待ち構えているカナダのG7サミットについて上川外相から聞かれたジュニア。

「小泉進次郎「カナダのトルドー首相は就任した時43歳。私は今43歳です。この43歳総理就任というトップ同士が、胸襟を開いて新たな未来志を切り拓いていきたい。トルドー首相と共に、G7の連携が更に深まる、そんなサミットにしていくことをお約束します」
進次郎、答えに窮したら同世代:G7「トルドーと私は同世代!」拉致問題「北のトップと同世代!」 | Total News World (totalnewsjp.com)

近所にいたら思わず肩を叩いて、お前いい奴だな、なんにも考えていないんだな、そのカラッポさが好きだよ、と嬉しくなるようなお答えです。
小泉氏がルッキズムと年齢だけが武器だと考えているのが、余すことなくさらされました。
上川さんも内心苦笑して、あたしはなりたくないが、よほどいい外相つけなきゃダメだと思ったことでしょう。
このトルドーさんとは同じ年齢だから(ついでに同じイケメンだから)ですが、拉致問題を聞かれての答えは笑ってばかりはいられないことを答えています。

そういえばこの人、いままで頑としてブルーリボンバッチをつけていなかったのですが、総裁選となってSDGsバッチをはずしてこちらに付け替えました。
そうそう憲法改正なんて急に言い始めて、大変だね、保守装うのも。

「小泉進次郎「拉致問題、打開できない中で、残された時間は少ない。私が総理になれば、トップ同士同世代なわけですから、今までのアプローチにとらわれず前提条件なく向き合う、新たな機会を模索したいと考えている」
totalnewsjp.com

助けてくれぇ、腹がお茶を沸かし過ぎてしまう。ここでも年齢と親父か、と真面目に考えるのがばかばかしくなりますが、この人がいちばん首相に近いから仕方がない。
菅さん、なんでこんな人を推すのよ。あなたまで評価ダダ下がりですぞ。

20240915-150749

NHK 小泉首相(当時)のひとりおいて田中均審議官

小泉パパが5人を取りかえしたのはいいが(これとて中山恭子氏と安倍氏が頑張ったからですが)、パパはこの5人の拉致被害者を日本に連れ帰ったのはいいがすぐに北に返せと言ったのですよ。
これを強く進言したのは、当時拉致問題をひとりで仕切っていた外務官僚の田中均(外務審議官・アジア太平洋局長)でした。
彼はミスターXという北の高官との独自パイプを持っているとうそぶき、この訪朝団を仕切っていると考えていました。
この田中氏はこういう質問を受けたとしてこのように語っています。
「若いビジネスマン」なんて書いていますが、これは田中氏の考えそのものでしょう。

「小泉訪朝までの経過はともかく、小泉訪朝後の展開については、これまで多くを語ってこなかったが、先日、友人の祝賀会で偶々席を同じくした初対面のまだ若いビジネスマンから質問を受けた。「田中さん、小泉首相の訪朝を仕掛けられたのはもう20年前のことだと思うが、5人の拉致被害者が一時帰国したあと、何故北朝鮮に帰国させず日本に留めおいたのか。北朝鮮との約束通り一旦返して、その後平壌宣言に書かれているような北朝鮮との正常化の道のりを歩んでいれば、日本主導で拉致問題の解決だけではなく核やミサイルなど朝鮮半島の平和を作る外交が出来たのではないか。一貫して準備に当たってきた田中さんは何故、日和ってしまったのか。個人的に悔しくないのですか?」(略)
 もう誤解を正す意味もないが、私は一旦返すべきだという強硬な主張を行ったわけではない。返さなかった時には家族を取り戻す交渉は長くかかるだろうし、また、私が交渉をしてきたXとのルートは難しくなるだろうことを官邸の協議で小泉総理や福田官房長官、安倍官房副長官に申し上げただけだ」
(朝日「論座」2022年7月22日)

【朝日新聞・論座】小泉訪朝から20年、いまだに北朝鮮問題が解決できないのは何故か|日本総研 (jri.co.jp)

田中外務審議官は極度の秘密外交を行ってきました。
ちなみに、外務審議官は外務次官の下のポジションで省内ナンバー2です。

ミスターXと称する北の高官を唯一の窓口にして交渉し、都合の悪い議事録は丸々2回分廃棄されていまだ不明です。
なにをこのXとやらとしゃべっていたのかわかりませんが、国家間交渉の記録がないということを平気でする外務官僚でした。
外交官には、一定の秘密工作の権限が与えられていますが、田中審議官の隠蔽体質は飛び抜けていました。

後にモリカケで登場する文科省の前川喜平事務次官とよく似た体質で、面従腹背がモットーの「赤い高級官僚」のひとりで、退官した後には安倍批判に興じて、メディアから重宝がられました。

20240916-020213

北朝鮮拉致問題、いまだ解決に至らない理由 : 最初の事件から46年、日朝首脳会談から21年超(前編)  | nippon.com

田中氏の思惑は、拉致被害者5人をいったん日本に返し拉致家族と一回面談させたらすぐに北に返してしまうというもので、一気にこれで北にいい心証を与えて国交正常化に持ち込むという段取りでした。
事実、彼はこのことを北と約束していました。

この田中構想について小泉パパは大いに乗り気で、たぶん拉致被害者家族担当の内閣参与の中山恭子氏と安倍氏がなかりせば拉致被害者5人はいまごろまだ北に捕らわれていたはずです。
安倍氏は2013年6月、田中元外務審議官がインタビューで安倍政権の外交政策を否定したことに対してフェイスブックで反論し、「彼に外交を語る資格はない」と書き込んでいます。

「安倍首相は、田中氏が外務省アジア大洋州局長だった2002年、北朝鮮から一時帰国していた拉致被害者5人を再び北朝鮮に帰すよう主張していたことを引き合いに出しながら、
あの時田中均局長の判断が通っていたら5人の被害者や子供たちはいまだに北朝鮮に閉じ込められていた事でしょう。外交官として決定的判断ミスと言えるでしょう」
(Jキャストニュース2013年6月13日 )
安倍首相、FBで田中均元外務審議官を批判 「外交語る資格ない」 - ライブドアニュース (livedoor.com)

では、田中氏の言うとおりに、5人の拉致被害者を返して日朝国交回復交渉に臨めばすべての拉致被害者が帰ってきたでしょうか。
いいえ、真逆だったはずです。
北はおそらくあいもかわらず「拉致被害者はすべて死んだ。北は一度帰国させて約束を守った。もはや彼らは北の公民だから戻すわけるはいかない。したがって拉致問題は解決済みだ」と主張したはずです。
そして日本は日朝国交回復の代償として、日韓基本条約と同等の巨額の「支援金」をむしり取られたはずです。

北は2021年に、田中実氏(政府認定の拉致被害者)と金田龍光氏(特定失踪者)をがせいそンしているという情報を伝えてきました。
ふたりの共通点は、田中氏と金田氏は共に同じ孤児院育ちで日本には身寄りがなく、金田氏は在日韓国人で、双方ともに国内には身寄りがいないことです。しかし政府はこの情報の受け取りを拒否します。

北の代弁者をしている立憲の有田ヨシフは、2020年10月26日の参院質問書でこう述べています。
質問主意書:参議院 (sangiin.go.jp)

九 政府は帰国していない十二人の政府認定拉致被害者に序列をつけているのですか。ありていにいえば横田めぐみさんや有本恵子さんたちの生存と帰国のめどが立たないうちは、田中実さん、金田龍光さんの生存確認はしないということですか。拉致問題解決への道筋のなかでの田中実さん、金田龍光さん個人の位置づけについて明確にお答えください。

北のエージェントをしていた有田は、横田めぐみさんや有本恵子さんのような拉致被害者の象徴的な人たちより、北が返すといっている田中氏と金田氏を先に返してもらえ、そうすれば拉致問題は締めくくりだ、と言っているわけです。
つまり、このふたりを返してもらえば、それで拉致問題というのどに刺さったトゲは抜けて、さぁ制裁解除だ、日韓基本条約で韓国に与えた援助と同等のものを北にも寄こせという段取りになります。

ちなみに日韓基本条約で日本は韓国に「経済協力金」として5億ドル=1800億円(1965年当時)しましたが、当時の韓国の国家予算が3億5000万ドルですから、1年余の国家予算を提供したことになります。
これは時価に換算すると、1965年の大卒初任給が約2万円で、2021年大卒初任給は約20万円 ですから、貨幣価値の換算率は10倍として1800億円(1965年当時)×10=1兆8000億円(2021年現在) となります。
この2兆円弱を北に「経済協力金」として手土産にすれば、めでたく北と国交正常化をして頂けるということになります。
もちろんこれでは済まずに、以後延々とむしられ続けるでしょうがね。
そしてそのカネを使って、北はいっそう核大国の道を驀進するのです。

元北朝鮮外交官・太永浩氏はこう述べています。

「もし首脳会談で拉致問題が議題に上がるのであれば、北朝鮮の外交戦術としては、『日本側が提起していない2人の日本人が北朝鮮にいるので、日本側が要求すれば日本に帰国させることはできる』ということを示唆するかもしれません。
第一段階として、今、北朝鮮が帰国させることができると言っている2人をまず連れて帰る。そして、北朝鮮が『拉致問題は完全に解決済み』という立場から一歩後退し、『今後、北朝鮮がこの問題を再び調べ直してみてからまた会おう』といったように、少し余地を残すような外交戦術を北朝鮮が使うかもしれません」
「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」|ウェークアップ|読売テレビ (ytv.co.jp)

太永浩氏の言うとおりになったでしょう。
安倍氏の時代から再三このような誘い水はあったようですが、安倍氏はその手には乗りませんでした。
副官房長官として行った小泉訪朝時の体験から、北のやり口を熟知していたからです。 

田中氏を見ていると日本の外交の欠点がまざまざと浮かび上がります。
この田中審議官は外交が「国民の生命と財産を守る」という大命題の下に展開されねばならないことを忘れています。
だから田中氏は、大の虫を生かすためには小の虫を殺してもかまわないという悪しき現実主義に陥っており、それが「外交」だと信じていたのでしょう。
こういう発想の外交をすると、北をさらに増長させて、再びもっとひどい挑発を生み、そしてまたそれに譲歩してしまうというスパイラルを生んでいきます。

元ホワイトハウス国家安全保障補佐官のマクマスターは、韓国の北への外交アプローチについてこう言ったことがあります。

「マクマスター氏はこの日、「北朝鮮を交渉に参加させるために譲歩し、交渉が進んで挫折感または脱力で成功の見込みがないのに譲歩に譲歩を繰り返したあげく非常に弱い合意に到達する。
北朝鮮は経済的な見返りを取りまとめると同時に合意に違反し、再び挑発→譲歩→合意の違反サイクルを始める」として批判の根拠を説明した」
(中央日報2021年10月16日)

このような北への際限のない宥和姿勢をマクマスターは「狂気の沙汰」と呼びました。
韓国が、このような米国政府の直言を友情溢れるアドバイスだと感じなければ国を滅ぼします。

同じように「譲歩し、交渉が進んで挫折感または脱力で成功の見込みがないのに譲歩に譲歩を繰り返したあげく非常に弱い合意に到達する」ことを、韓国と中国に対してやってきたのがわが国の外務省と自民党の親韓派たちです。
韓国が日本に対する竹島、慰安婦問題、日本企業への補償請求等々、あらゆる場面で同じことを繰り返し、同じ成果を期待するようになったその理由は日本のこの「狂気の沙汰」の外交姿勢にあるのです。
かつて岸田政権が始まった時に韓日議員連盟傘下の「朝鮮通信使委員会」所属の韓国国会議員らは大挙して訪日し、東京で日本側の日韓議連に面会し、こう言ったそうです。
「新しい酒は新しい革袋に盛れというが、新政権発足の機会を両国が賢く活用する必要がある」
(聯合2021年11月17日)

「新しい酒」ですか、おそらく小泉進次郎氏が首相になれば、正恩は大喜びで手を差し伸べ、「同じ世代同士で前提条件なき話合いをしよう」と秋波を送ってくるでしょう。

蛇足ですが、加藤勝信前官房長官はこう言っています。

「加藤元官房長官は「日朝関係だけで事が動くわけではなく、アメリカとの関係などいろいろな動きの中でタイミングを見極めなければならない。タイミングが来た時にしっかり話ができるための努力が大事だ」と述べました」
(NHK9月15日)
自民総裁選 公開討論会 外交・安全保障政策などめぐり論戦 | NHK | 自民党総裁選

まことに華のない発言ですが、まぁそのとおりです。

 

2024年9月15日 (日)

日曜写真館 オクラ咲く黄の明るさに湖の村

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うらはらの心見えぬよオクラ咲く 佐藤いづみ

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うつむかぬ決意ありありオクラ成る 服部早苅

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手びさしの先にオクラの花盛ん 荒井和昭

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青き星オクラ刻めば生れけり 東芳子

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秋の蚊がオクラの花にゐたりけり 山尾玉藻

 

 

2024年9月14日 (土)

最後までハリスをとらえられなかったトランプ

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トランプとハリスの一騎討ちテレビ討論が終わりました。
メディアは早々とハリス勝利、大統領選はこれで決まりといったトーンで報じています。
経済評論家のJなど早々と「ハリス大統領誕生」と書いています。
日本のメディアも総じてハリス圧勝といった報じ方をしているようです。

「(CNN) 11月の米大統領選に向けてABCニュースが10日夜に開催したテレビ討論会で、討論会を視聴した人のうち民主党候補のハリス副大統領のほうが共和党候補のトランプ前大統領よりも良い討論を行ったと考える人の割合は63%に上った。SSRSが行った世論調査で明らかになった。トランプ氏のほうが良かったと答えた人の割合は37%だった。
同じ有権者を対象に討論会の前に行った調査では、どちらの候補者が力強いパフォーマンスを見せるかについては、ハリス氏とトランプ氏が50%ずつと真っ二つに割れていた」
(CNN9月11日)
視聴者の63%、ハリス氏が良かった 米大統領討論会 - CNN.co.jp

まぁ全体的に見れば、確かにハリスの作戦勝ちです。
トランプに決定打を与えず(というか不利なことは逃げていただけですが)、終了直後にポップスターのテイラー・スウィフトに「ハリスの勝ちよ」と言わせるというエグサです。
もちろん、このタイミングで言わせるなんて仕込みに決まっています。
スウィフトについては、トランプ陣営からも誘いがあったようですが、メディア・映画・音楽業界は民主党の票田です。

『ラスト・ブラッド』で国境を超えた誘拐犯罪を描いたスタローンですら、トランプ支持とは言えない、そういう雰囲気です。

そもそもといってもセンないですが、FOX以外の全米ネットでやればこうなるのはわかりきっていました。
CNNは極端な反トランプでしたが、ABCのキャスター二人ももっぱらトランプに対してのみ質問を繰り返しました。
だからトランプは、ハリスと司会2人相手に3対1でやっていたようなもの。

これはおそらく、後にトランプ陣営からしゃべらせなかったという非難逃れをさないと考えたのと、トランプに息もつかせぬ質問を2人がかりでをあびせることで失点を誘発しようとしたのかもしれません。
実際に「移民はネコを食う」というトンデモ発言を引き出し、トランプに用意してきたハリスへの追及ポイントをはずさせる効果をもたらしました。

たとえば、ハリスの経済政策は、ツッコミ所満載です。
ハリスという人は民主党最左派、つまりゴリゴリのサヨクですから、経済は苦手です。
経済など富者を叩き、貧者を救えばどうにかなるくらいに思っています。
ハリスの経済政策は典型的な左翼経済政策で、現在20%のキャピタルゲイン(株などの売買利益)課税を大きく引き上げて、富裕層に対しては含み益の25%もの税を課す一方で、食品価格を政府統制するというものです。
金融所得課税を強化するというのは、うちの国では石破氏が言っています。(今は他の候補から袋叩きにあって引っこめています)

日本でも共産党などがよく口にする政策ですが、幸いにも彼らは政権から遠い位置にいました。

しかしハリスが大統領ともなれば、市場経済を否定し、社会主義的統制経済をする権限を与えられることになります。
本気でこの左翼経済政策を実施すれば、富裕層は過大な税の支払いのための株式や債権の資産売却に走るでしょう。
さらには米国から大規模なキャピタル・フライト(資本逃避)が発生し、解雇による失業率が跳ね上がります。
結局、このようなことが一気に起きるために、企業収益は落ち込み株式市場は低迷し、税収減として現れ、一回りして政府と国民を苦しめることになります。
ちなみに石破氏が首相にでもなって金融所得課税と口にした瞬間、株式市場は投げ売りとなります。

強インフレの原因は、バイデンの経済運営の失敗です。
2022年8月のアメリカの大都市部の物価はこうなっていました。

・マクドナルドのマックミールセット(コンボミール)10ドル(1359円)
・卵(12個入り)4.03ドル(548円)
・チーズ(1キロ)17.13ドル(2328円)
・鶏肉(モモフィレ肉、1キロ)16.44ドル(2234円)
・牛ひき肉(1キロ)20.25ドル(2752円)
インフレが進行するアメリカ・主要都市の物価はどうなっている? (j-seeds.jp)

ドジャーズ観戦に行ったら、ドジャードックとポテトチップで2300円なんてユーチューブで言ってましたね。
石原良純「こんな高い芋ある!?高えなあ」ドジャースのスタジアム限定グルメの金額に腰抜かす 

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米国の「悪いインフレ」いつ終わる?日本の「良いインフレ」いつまで続く? | トウシル 楽天証券の投資情報メディア (rakuten-sec.net)

このインフレの原因は、バイデンが人気とりでコロナの経済対策として札束を配りまくったからです。
バイデン政権は、トランプ政権下の2回のコロナ経済対策の給付金(1人当たり1200ドル、600ドル)に上乗せして、2021年3月に民主党のみで成立させた米国救済計画法に基づき、追加給付金を1人当たり1400ドルも支給しています。
大統領選挙戦で、バイデンがもっとも力を入れてしゃべったことは、私に入れてくれたらカネを配ります、でした。

バイデンの思惑どおり米国救済計画法は国民に大受けしたのですが、経済状況を見ないあまりに過剰な給付でした。
リベラルは洋の東西をとわず、このようなバラ撒きが大好きです。
デフレ時にはそれなりに押し上げ効果が見込めるのですが、インフレリスクが高い時にこれをするとほんとうのインフレに突入してしまいます。FRBが加熱しすぎた経済を冷やすために何回利上げしたことか。実に11回です。

「政策金利は5.25%から5.5%の幅と、2001年以来、22年ぶりの高い水準となりました。
FRBの利上げはこれで去年3月以降、合わせて11回におよびました」
(NHK2023本12月14日)
米FRB利上げ見送り 3会合連続 来年少なくとも3回利下げ見通し | NHK | 金融

原因ははっきりしていて、米国の場合、バイデン政権からもらったカネを個人消費に回してしまったために過剰な個人消費が生じたからです。
さらにコロナで働けないためもあって、国民は労働を忌避し始めます。
結果がどうなったのかといえば、需要が急増したにもかかわらず働き手がいない→働き手を募集するには労賃を上げねばならない→価格に転化する→コストプッシュ・インフレの発生という現象が生まれました。
FRBが何度も利上げして消し止めようとしたのが、このインフレでした。
名付けて「バイデン・インフレ」と呼ばれています。

ですから、いかにもハリスが困った国民向けに物価を下げる法律を作りますといっても、それは自分らの政権が撒いた種なのです。
ハリスは食品価格を政府統制すると言いますが、そんなことをすれば価格競争力が低い中小零細メーカーなどが破綻するのは目に見えています。

経済は政府が強権的統制をすればするほどおかしくなります。
本来、政府は金融・財政政策を使って経済の内側から景気をコントロールすべきなのに、ハリスは法律を作れば経済は法に従って動くという錯覚をしているようです。
そしてその裏返しで、富裕層をただの金の亡者としか見ていないために、重い富裕税をかけようとします。

トランプはこの強インフレに陥った米国経済について、副大統領としてのハリスの責任を問い質すべきでした。
そして政府による価格統制と富裕税は、いっそう米国経済をおかしくすることを追及するべきでした。 

「ハリス氏:「私は米国民の野心、大志、夢を信じている。それこそ私が『機会の経済』を構築するために計画を思い描く理由だ」
ハリス氏:「半面、私の対抗馬(トランプ氏)は過去に実施したような富裕層や大企業への減税を行う考えだ」
(ロイター9月11日)
情報BOX:米大統領選TV討論会、経済・中絶・移民などを巡る主な発言 | ロイター (reuters.com)

これに対してトランプはこう言っています。

「トランプ氏:「経済はひどくなっている。『カントリーバスター(国を破壊するもの)』として知られるインフレのためだ」
トランプ氏:「人々は外に出て、シリアルやベーコンや卵などを買うことができない。彼女(ハリス氏)らがやったことで国民は本当に死にそうだ。彼女らは経済を破壊した」
(ロイター前掲)

うーん弱い。分かりやすくしゃべろうというのはいいですが、ここで一気にハリスの左翼経済政策を論破しないと、低所得層の税を引き下げ、富裕層に対する税金を上げ、機会の均等を与えるという口当たりのよい政策がいかにも素晴らしいもののように聞こえてしまいます。
ハリスもバイデン政権の経済政策が失敗したのは薄々わかっていて、まともに答えずに、「トランプ氏は起訴中の人物だ」という言い方で逸らします。
この論点ずらしをテレビ局の司会者は何度も容認してしまうのですから、まったくもう。
司会者がまともなら、「ハリスさん、経済政策は重要課題ですから答えて下さい」と介入するべきでした。
ハリスは実に狡猾です。なにか都合が悪くなるとトランプが重罪犯だとか起訴中だとかいう人格攻撃に終始して逃げます。

そして例の高見から下を見下したような高笑いです。ホント不愉快な笑いです。ああ、たまらん。
この人は、一貫して追及されそうになるとハリス笑いを上げて逃げてきました。
仮に大統領になっても高笑いで逃げ回るのでしょうね。

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ロイター

内容的には、ハリスは綿密にトランプが追及しそうなことを想定問答で予習していたようです。
ロイターが討論内容の要約を出しています。
情報BOX:米大統領選TV討論会、経済・中絶・移民などを巡る主な発言 | ロイター (reuters.com)

ハリスは具体的政策がありません。
外交についてはバイデンの外交路線を踏襲するだけですし(だから安心というのが国際社会の見方でもあるのですが)、トランプに対しても政策で対峙するのではなく「お前は重罪犯だ」といういかにも検事然とした印象操作だけに終始しています。
この人は検事だったくせに、判決がでるまで推定無罪だということを知らないのでしょうか。

訴追されたら即「重罪犯」とされて社会的に抹殺されたらたまったもんじゃありません。

経済対策に並んで重要な内政の移民問題についてはこうです。

「ハリス氏:「言っておきたいのは彼(トランプ氏)は今夜、移民についてたくさん話すだろう。たとえその時のテーマでなくともだ」
トランプ氏:不法入国する人々に言及し「われわれの国は失われつつあり、私たちは失敗しつつある国家だ」
(ロイター前掲)

ハリスはただウソだと言うだけで、データーを使った反証ができていません。
そもそもこの人は不法移民の現場を見てくるように要請されても、行かなかったような人で、無関心なのです。
実態は、トランプがウソを言っているのではなく、バイデン政権ができてから急増の一途を辿っています。
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ニッセイ基礎研究所
「メキシコ国境を越えて米国に不法入国し身柄を拘束された人数(不法越境者数)は21年度(20年10月~21年9月)が165.9万人となり、統計を開始した1960年以来で最高となった。特に、バイデン大統領が就任した21年1月以降の増加が顕著となっている(図表1)。また、22年度も10月と11月分が前年度を大幅に上回っているため、このままのペースが続けば、さらに史上最高を更新する可能性が高い」
(ニッセイ基礎研究所2022年2月3日)
深刻化する不法移民問題。22年の中間選挙に影響する可能性 |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)


不法越境者が大幅に増加した原因は、新型コロナ感染拡大によって中南米諸国の雇用が大きな打撃を受けて失業者が急増し、それが米国に殺到したからです。
しかも受け手となった米国バイデンがトランプの拒否政策とは180度逆の人道的な観点からの寛容政策に転じたために歯止めが効かなくなりました。

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不法移民について、トランプは天井に届くほど生の資料を持っているはずなのに、それを使えずに逆に「移民はネコを食う」などという信じがたい暴言を口にする有り様です。
あるいは、対イラン政策ではトランプはこう言っています。
「イランはドナルド・トランプ政権下で破産した。今、イランは私が課していた制裁をすべて解除したため、3000億ドルの資金を持っている。イランにはハマスやヒズボラ、あるいは28の異なるテロ組織のいずれにも資金がなかった。そして、それらはテロ組織であり、恐ろしいテロ組織なのだ」
そのとおりで、なぜバイデンが核合意に復帰してしまったのか、イラン制裁を解除したのか、という指摘は的を射ています。
それに対するハリスの答え。
「私はこれまでのキャリアと人生をイスラエルとイスラエル国民の支持に費やしてきた。彼もそれを知っている」
「彼はまたもや現実から分断し、目をそらそうとしている。ドナルド・トランプが国家安全保障と外交政策に関して弱く、間違っていることは周知の事実だ」
これはユダヤ人票が、今の民主党ノイスラエル支援に共感して流れていることからくる自信が背景にあります。
これもすり替え議論で、トランプはイスラエルを支持するかどうかではなくバイデンのイラン融和政策が根本的に間違っていると言っているのですが、これも虚しく逸らされてしまいました。
このようにハリスとABCの司会者にことごとく要点を逸らされたあげく、さらにウクライナ支援を止めるというトランプの最大の弱点についてきちんと答えられずに、自分はプーチンから敬われているから大丈夫だ、というようなサシの交渉が片づくかのような(本気でそう思っていそうでコワイ)言って口を濁してしまいました。
ちなみにこのABCの司会ぶりは明らかに中立性を逸脱しており、トランプについては執拗にファクトチェックを求める具合にハリスの側に立ち、一方トランプがハリスを追及して別な話題に逃げようとしてもそれを制止しませんでした。

とまれ、こういうことがあるにせよ、トランプは多くの追及点を持ちながら生かしきれなかったとは言えます。
トランプはハリスとの2回目はしないと言っているようですが、それが賢明です。
彼は演説は大好きで支持者相手なら1時間でも2時間でもやっていられますが、相手あってのディベートがまるでダメなのはこれではっきりしました。

2024年9月13日 (金)

オツムが軽い男の急進主義

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私は、失礼ながら小泉進次郎氏が哀しいくらいオツムが軽い人だと思っています。
頭が軽いだけならまだ修行の余地がありますが、ガチガチに教条を墨守するもんだから柔軟性がない。

そしてそれを修正しようにも、耳学問を感性でしゃべっているから議論にならない。
おまけにその情報源がリベラル運動家方面からばかりのようでひどく偏っています。

ところで彼の唯一の大臣としての実務経験は環境相でしたが、就任以来ろくなことはしませんでした。
あのセクシー発言やレジ袋廃止などを見ていると、このひとはただの大向こう狙いのポピュリストにしか見えません。
しかも見事にハズして、若者から総スッカン食らいました。

たとえば、かねてから脱原発なのは父親譲りでもはや不治の病と化していますが、脱炭素だといって低炭素石炭火力輸出にまで制限をかけると言ったこともありました。
そもそも脱原発と脱炭素を同時に進める、と発想自体がどうかしています。
何度も書いていますが、脱原発をすれば火力発電が増えるのは当然しごくのことです。
再エネというお花畑に遊んで原発を止めてしまったドイツはCO2が増大して七転八倒しています。

「自国産出の褐炭を持つドイツでは、風力発電が極端に不振で、停電を避けるために石炭火力発電を多用した。この結果、ドイツ全体としてのCO2排出量を増やし、脱炭素に逆行してしまったのである」
脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part2|SOLAR JOURNAL

ならば、CO2を排出しない原発を再稼働させるしかないはずですが、ドイツは自国産褐炭という質の悪い石炭を使った火力に走ってしまいました。
結果は、当然のこととしてCO2が増えてしまいます。そしてトドメのようにウクライナ戦争がらみの経済制裁でロシア産天然ガスがストップ。
まさに八方塞がりですが、解決法はあるにはあるのです。
それが日本が独自に開発したCO2排出が極限まで抑制される低炭素火力発電所です。

「カギを握るのは「アンモニア(NH3)」と「水素(H2)」だ。化学式からもわかるように、この2つには「炭素(C)」が含まれていない。
 つまり、燃やして酸素と結びついても、CO2が出ないのだ。
 2050年のゼロエミッション実現に向けてJERAが描くロードマップでは、石炭やLNGを燃料とした現状の火力発電設備に手を加え、それぞれ化学的に相性のいいアンモニアと水素に置き換える」
【日本発】世界が注目する「CO2を出さない」火力発電 | DISCOVER JERA | JERA

こういう日本の優れた低炭素技術はどんどんと世界に輸出すればいいようなもんですが、なんとジュニアはこれも炭素を出すから輸出支援はしないと言い出しました。
これを聞いた時には、おいおい官僚は大臣レクしないのかよ、とため息が出ました。
この人の脳内では「火力」と名がついただけで、悪魔よ去れとばかりにショートしてしまうようです。

「小泉進次郎環境相は26日の閣議後記者会見で、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力発電所の輸出支援政策見直しについて触れ、相手国で脱炭素への移行が促進されることを輸出要件に含めるべきだとの考えを表明した。政府が6月にも策定する「インフラシステム輸出戦略」の基本方針に盛り込むことを目指す。
この日環境省の有識者検討会が、脱炭素化に政策転換するよう輸出相手国を支援する重要性などを指摘した報告書を取りまとめたのを踏まえ、環境省として新たな方針を示した。小泉氏は、石炭火力は新設後約50年稼働するため相手国のCO2排出量を固定化するほか、投資に見合った資金の回収ができなくなるリスクがあると指摘。「長期的なリスク評価が必要だ。ビジネス最優先で、売れるから売るというだけではだめだ」と述べた」
(毎日2020年5月26日)
石炭火力輸出「相手国の脱炭素促進を原則に」 小泉環境相、ビジネス優先否定 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

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アベマニュース

まことに愚かな発言です。
低炭素火力とは、自動車のハイブリット技術のような位置にあります。
完全な解決ではないが、現状としては最良の解なのです。
イエスノーの二分法ではなく、現実的な解決方法の提示でした。

それを小泉氏は否定してしまう。最も実効性のある低炭素排出火力の世界への普及を止めてしまう。
この人には問題解決が、プロセスの地道な積み上げだということを理解していないのです。

悪しき急進主義、というよりなにも考えていないのでしょうね。

2013年、カン首相が、全原発を止めてしまったために、電力会社は休止していたポンコツ火力を必死に動かしていましたが、いまや火力発電の多くは新型の低炭素排出火力に置き換わりつつあります。
3.11以降日本は火力を低炭素化・効率化に必死に取り組んでいったのです。

●超々臨界圧発電方式(USC)
燃料を燃やして蒸気をつくる際に、極限まで高温、高圧にして蒸気タービンを回すシステム
●コンバインド・サイクル発電
高温のガスを燃やしてまずガスタービンを回し、その排ガスの熱を再利用して蒸気をつくることで蒸気タービンも回すシステム
●石炭ガス化複合発電(IGCC)
コンバインド・サイクル発電でガスタービンを回すのに使われる「高温ガス」を、石炭をガス化して作るシステム

そして、気がつけばこの低炭素化・効率化の新技術は飛び抜けて世界最高水準になっていました。

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資源エネルギー庁

たとえば、上図をみていただければ、同じ石炭火力発電といってもインドや米中のそれと比較すると4割以下の炭素排出量となっているのがわかります。
日本はひとことで化石依存と言いながらも、炭素排出の少ないLNG火力(グラフ右端)の比重を高め、新型の低炭素型に置き換えながら、従来型の旧式石炭火力を削減し続けています。

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資源エネルギー庁

そこで問題となるのは火力発電プラントの建設コストですが、これは一定程度マスで作ることによってコストを押えていくしかありません。
しかし、国内の電力会社は3.11以降原発が止まったために厳しい経営状況で、海外に活路を見いだすのはしごく当然のことでした。
一方この優れた低炭素火力の輸出は、世界の炭素排出大国であるインドや中国にとっても福音となると見込まれていました。
だって下図のように、世界の約3割の炭酸ガスは中国がボンボン出しているんですからね。

中国では、新型コロナで生産が止まった時、いきなり炭素量が減って、空がきれいになったってくらいなもんです。
日本なんぞ炭素排出量の世界に占める割合はたかだか3.6%にすぎません。
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国際エネルギー機関(IEA)の調べによれば、火力発電は新興国を中心にして、今後も重要な発電方法のひとつであり続けることが見込まれています。
またインドや中国、東南アジア諸国はモーレツな経済発展を続けている真っ最中ですから、石炭火力を止めてしまうことは不可能です。
ですから、LNGや石炭火力発電は、今後とも増えこそすれ減ることは考えにくいのです。

中国はいかにも中国らしく一気に原発を増設しようとしています。
というわけで、今後数十年のスパンでは、世界の化石燃料依存は変化しようがないし、ならばその低炭素化を進めるしか方法はないのはわかりきった話です。

こんなエネルギーの常識が判っていないのが小泉ジュニアです。
この人は父親ゆずりで脱原発がお好きなようですから、原発を完全停止したまま火力発電を削減したら、日本のエネルギーがどのようになるのかちっとは考えてからにしていただきたいものです。
特に世界の石炭火力を4割も削減できる日本の高度技術はジャンジャンと海外輸出すべきなのです。

それをジュニアときたら、カッコつけて「ビジネス最優先で、売れるから売るというだけではだめだ」(毎日前掲)なんて言っているんですから、脳みそが足りないと私に言われるのです。

 

 

 

2024年9月12日 (木)

夫婦別姓の必然性はありません

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今日が総裁選の告示日です。
残念ながら、青山繁春氏はひどい引き剥がしにあったようで出られないようです。
青山氏は「青山繁晴を居ないことにするというのが大流行という気がします。わはは」と笑い飛ばすほどお元気ですが、氏のような人材を使いこなせない日本の政界に絶望します。
日本がんじがらめ党総裁選【その17】  一応、こんなのもあります|青山繁晴の道すがらエッセイ/On the Road (shiaoyama.com)

27日が開票日ですが、4位まで誰が食い込むかです。
順番はわかりませんが、暗い読みでは小泉、河野、高市と並ぶと、2位票は1位に集中させて勝利する戦術に出ることは間違いありません。
となると・・・、ああイヤダ。
ぜひとも小林ホークが3位、ないしは4位にまで入って下さい。

ところで、朝日や東京新聞などは夫婦別姓を争点化したいようで、東京に言わせると今の日本は「周回遅れ」だそうです。
こういう空気を察したジュニアはこう言っています。

「結婚後も働くことが当たり前になる中、主に女性から、結婚後の改姓に伴う負担やリスクが大きく、選択的夫婦別姓を認めてほしいという声が多く出ている。経済界も早急な対応を求めている。世論調査を見れば、選択制であれば別姓という選択肢を認めてよいのではないかという意見が増えている。選択的夫婦別姓を導入するためには、国民の皆さんの支持と理解が必要であることは言うまでもない。家族のあり方は時代によって変化するということも忘れてはならない」
「1876年から1898年までは夫婦別姓制度が導入されていた。現在の夫婦同姓制度は1898年の民法改正で導入され、120年あまり続いてきた。家族のあり方も大きく変化してきた。もう議論ではなく、決着をつける時ではないか。私が総理になったら、選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出し、国民的な議論を進める」
(東京9月6日)
<詳報>選択的夫婦別姓は「もう決着をつける時」 小泉進次郎氏が自民党総裁選出馬会見で語ったこと:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

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ライブドアニュース - Livedoor

いや、今の日本が直面しているのは夫婦別姓なんかじゃないでしょう。
経済問題や対中政策のほうがはるかに緊急でしょうと思いますが、当人は真っ先にやりたいようです。
左翼メディアとワイドショーばかりが世論じゃないよ、小泉さん。
例によって現行法のどこが問題なのか夫婦別姓に変えねばならない必然はどこなのかということを飛ばして「決着をつける」「就任したらすぐに法改正する」と息巻きます。
「結婚後改姓に伴うリスクがある」と仰せですが、具体的になんなのでしょうか。
具体的に別姓婚が認められないことで困っている人がいるというならわからないでもありませんが、そのような人たちはいるのかどうか。
LGBT理解促進法の時もそうでしたが、ジュニアが「決着を漬けねば」と力むほど救済が差し迫ったことなのか、どうか。

考えてみていただきたいのですが、今の日本社会で結婚した後に職場で旧姓を使用することにまったく問題がないはずです。
いわゆる通称(旧姓)を使用し続けることですが、それを理由に女性が解雇・配転などの不利益を被るなどとは考えられません。
小泉氏が不利益の根拠として上げているのが、経団連が資料で上げている「不動産登記ができない」ということでした。
ちなみに経団連は「夫婦別姓を認めないと世界から人材が集まらない」と叫んでいるようですが、この人ら移民促進問題もそうでしたが、自分らの利害でしかモノを考えられないようです。

通称使用が法的に定まっていないために不利益を被っているというなら、法令改正してその部分だけを変えればいいだけの話で、戸籍制度の根幹をまで変える必要はありません。
経団連は国の社会制度のあり方の基本まで目先で変えて、それを「世界基準に合わせる」「日本は遅れている」みたいな言い方を平気でします。
こういう黒船型発想が抜けきらないようでは説得力がありませんね。
国の根幹をいじるのは、国の内部から議論が自然に醸成され、広く共有されてからにしていただきたいものです。

ところで高市氏はこう述べています。

「高市氏は「婚姻で姓が変わることによる不自由を解消したい。私が提出したような法案が通れば、ほとんどの不便は解消される」と述べ、旧姓の通称使用に法的根拠を与える法整備の必要性に重ねて言及した。
高市氏は平成14年と令和2年、それぞれ党法務部会に、旧姓の通称使用に法的根拠を与える「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」を提出した。しかし、党議決定には至っていない」
(産経9月9日)
高市早苗氏、選択的夫婦別姓で小泉進次郎氏に反論「不動産登記できる」解雇規制緩和も反対 - 産経ニュース (sankei.com)

今の日本の政治家のなかで最高の実務能力を持っている高市氏は、すでに2回も通称使用に対する不利益をなくす法案を提出しているにも関わらず無視されてきています。
おかしいじゃありませんか。「夫婦別姓の長年の決着をつける」とまで言うなら、どうしてこの高市案を検討せずに、ひと飛びで別姓婚に飛躍するのでしょうか。
順番が逆です。現行法を改良し尽くして、それでも救済しきれないなら、あるいは夫婦別姓もありえるでしょうが、プロセスが飛躍しています。
これでは今のリベラルの主張にすり寄って、メディアの覚えよろしくを得たいためとしか考えられません。

ジュニアが夫婦別姓が世の流れだ、家族のあり方も変わった、いまが決着の時だ、と言っていることに対して、高市氏は具体的に統計数字を出して反論しています。

「(高市氏は)旧姓の通称使用の法制度化を重視する理由には世論調査の結果を上げた。そのうち、内閣府の令和3年12月の調査は「夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」との回答は42・2%で、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」の28・9%を上回っている」
(産経前掲)

前述した経団連が言う、旧姓では不動産登記ができないという主張も間違いで、登記可能です。
高市氏の指摘通り、2022年4月の法改正により、旧姓でも不動産登記が可能で、 2022年4月の法改正では、旧姓(通称)での不動産登記が可能になりました。
法務省:所有権の登記名義人への旧氏(旧姓)の併記について(不動産登記関係) (moj.go.jp)

旧氏を併記することができる者
  旧氏は現在の所有権の登記名義人の氏名にのみ併記することができ、これ以外の者は、旧氏併記の対象とはなりません。
  また、日本の国籍を有しない者については、旧氏を併記することはできません。
2 併記することができる旧氏
  所有権の登記名義人の氏名に併記できる旧氏は、氏に変更があった者が過去に称していた氏であって、その者に係る戸籍又は除かれた戸籍に記載又は記録がされているものに限られます(不動産登記規則(平成17年法務省令第18号。以下「規則」といいます。)第158条の34第1項。住民基本台帳法施行令(昭和42年政令第292号)第30条の13)。

要約
①旧姓での不動産の登記申請が可能

②ただし、改姓者は婚姻歴や配偶者の氏名を公示する必要がある
③旧姓単独での登記は不可

つまり現行制度の部分的改良で、ほぼすべての「不利益」は解消可能です。
ジュニアは明治維新直後の「1876年から1898年までは夫婦別姓制度が導入されていた 」と明治民法に戻りたいようですが、当時夫婦別姓が可能だったのは女性の権利が著しく制限されていたからです。
夫婦同姓制度は女性の権利の保護が目的でした。
そもそも女性参政権が認められたのですら1946年なのですから、女性の地位向上とはなんの関係もありません。

夫婦別姓をしている家庭の例をふたつ知っています。
生育期に家庭内で父親と母親の姓が分裂しているのはあたりまえとして、兄弟姉妹の姓が全部違うのですから迷惑このうえない。
そして就活に際して親が内縁扱いにされることは確実に不利益です。

もっと過激な奴は戸籍制度フンサイを掲げて、子供2人に戸籍を与えないというトンデモ暴挙を働きました。
親は自分の反国家イデオロギーを実現できて気分がよかったでしょうし、自身はちゃんとした戸籍を持っているのですからなんの不自由もありません。
しかし子供はどうなりますか。
この一件は結局、市側が勝って戸籍は復元されましたが、もはや暴力です。
復元されなければ、子供は「日本国民」ですらなかったのです。

ジュニアはこんなことを言っています。

「家族の中で苗字が違うということが、家族の絆の崩壊につながるというのは、必ずしも私は違うと思います。私自身、両親が離婚した中で、私の弟と苗字は違います。しかし苗字が違うからと言って小泉家の、そしてまた弟たちの絆は強いです」
(テレ朝)

あんた馬鹿ですか。離婚と両親の自己都合での別姓とはまったく次元が違います。
親のイデオロギーによって子供は傷つきます。
ちっとは子供の立場で夫婦別姓を考えてみてほしいものです。

ジュニアの私的問題なので、とやかく言いたくはありませんが、滝川クリステル氏の結婚後の姓について公開されていないようですが、その理由はなんなのでしょうか。
たぶん別姓だからでしょうね。
ならば抽象的に議論するより、弟より自分の妻のケースをしっかりと開示してから夫婦別姓を議論しろといわれるのではありませんか。

一事が万事とまではいいませんが、ジュニアの主張は海洋プラスチック削減と言えばレジ袋をなくしてしまうような短絡的政策が多すぎます。
具体的実務を積み上げて、そのプロセスで見えてくるものもあろうに、メディアの覚えを良くしたいのか気分でしゃべっているものが多すぎます。
しょせんは若造(失礼)と思ってぬるい眼で眺めてきましたが、総理総裁になる可能性があるならば話は別です。
小泉氏は、高市氏が12年もののシングルモルトならせいぜいが缶チューハイがいいところです。
しかし缶チューが首相をめざすと宣言した以上、しっかりと批判させていただきます。

 

 

2024年9月11日 (水)

小泉ジュニア、強度のファザコン男

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小泉ジュニア、ひとことで評せば優秀なタレントでしょうか。
そして相当に重篤のファザコンのようです。

しかし、いかんせんタレントに過ぎませんからあまりムキになって政策がどーの、しゃべりの「構文」がどーしたなんて野暮は言わないこと。
パパと一緒で、脳内を占めているのはボクってカッコイイ、髪形決まってるということくらいで、言う内容はなんとなくほんわかと「決意」が伝わればいいのです。

よくシンジロウ構文と言われている典型は、2019年に環境大臣だった頃に国連気候変動行動サミットの時のものでしょう。

「今のままではいけないと思います。だからこそ「日本は今のままではいけないと思っている』と世界に向けて発信しなければならない」
温暖化に16歳少女「絶滅の始まりに」国連で涙の訴え (tv-asahi.co.jp)

わ、はは、好きだなぁこういう奴。当人、まったく気がついていないね。
「日本は今のままではいけないから、いけないと思うことを世界に発信するのだ」では結局ナニを言いたいのかまったく不明で、これでは内容が抜けた見事なトートロジー(同義語反復)となっています。

トートロジーとは、「楽しいことは楽しいことだ」「私は何者かと問われれば、私は私だと答える」「世界の破滅とは世界が破滅することだ」というようなバカ丸出しの話法で、政治家が公の場で使うと馬鹿認定をもらいます。
日本で馬鹿認定クラスのトートロジーを駆使したのはパパ小泉でした。
パパ小泉(当時首相)は、2004年、党首討論において、自衛隊が駐留するイラク南部のサマワが「非戦闘地域」であると断言した根拠を尋ねられ、パパ小泉は「戦闘が行なわれていない。だからこそ非戦闘地域だ」と言い放ちました。

米国の強い要請で、なんとしてでもイラク復興に自衛隊を出さねばならない、しかし戦闘地域に部隊を出せば戦争行為となる、だからこういう「戦闘が行われていないから非戦闘地域だ」というトートロジーで野党を煙にまく言い方で逃げたわけです。
パパの場合はくだらない野党の追及をかわすための意図的な臭いがしますが、ジュニアの場合はただのポカです。

パパは、たぶん息子に「聴衆はなにも聞いていない、印象に残る言葉を繰り返してガツンっと演説しなければダメだ」くらいのことをレクチャーしたのでしょう。
例のワンレーズ・ポリティクスです。

「その手法の一つが、短い言葉で国民に直接呼びかけるワンフレーズ・ポリティクス。
 純一郎氏は2001年総裁選で田中真紀子氏とともに全国を遊説し、「自民党をぶっ壊す」と聴衆の度肝を抜く言葉で、小泉旋風を起こしていった。国民はその言葉に熱狂し、森内閣の失政の数々を忘れて政治の刷新を期待した」
(ポストセブン9月10日)
【令和の小泉劇場へ】総裁選出馬の小泉進次郎氏 期待される“自民党の救世主”の役割、父・純一郎氏から受け継がれるワンフレーズ・ポリティクス - ライブドアニュース (livedoor.com)

別にパパ小泉をヒトラーになぞらえる気はありませんが、あの人物の演説手法がこれでした。
ヒトラーはこのような演説手法をとったといわれています。

①必ず夕方に演説する。
②短く、具体的なキイフレーズを掲げ、何度も言う。
③言葉以外にも沈黙やジェスチャーを駆使して注目を集める。
④人の心を動かすストーリー構成や演出を欠かさない。

パパ小泉の場合も、①夕方から夜の演説を好み、②短い「自民党をぶっ壊す」といった過激なキーフレーズを繰り返し、③激しい手ぶり身ぶりで聴衆とメディアに訴えかけ、④自分は「古い自民党」=守旧派と戦っている正義というストーリーを叫ぶ、とまぁこんな感じです。
効きましたね。特に郵政選挙前の最後の演説なんぞ鬼気せまるものすらあって、林真理子氏が惚れ惚れした男の色気みたいな感想を書いていました。

ジュニアは素直ないい子ですから、パパの言う通りをなぞってみせます。
今回の出馬宣言。ジュニアは決意を「強い眼差しにこめて」凛々しくこう宣言します。

「私は、このたびの自民党総裁選に立候補いたします。自民党が真に変わるには、改革を唱えるリーダーではなく、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶことです。私は総理になって、時代の変化に取り残された日本の政治を変えたい。長年議論ばかりを続け、答えを出していない課題に決着をつけたい
(FNN9月6日)
「時代の変化に取り残された日本の政治を変えたい」小泉進次郎氏が自民党総裁選出馬会見 期待の一方「経験不足が不安」という懸念払拭が課題に(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース 

パパが「自民党をぶっ壊す」と田中マキコと組んで全国遊説し、ポマードに勝った時とそっくりです。

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聞いていると何か自民党全体を叩き潰して新たな政党に変革するみたいな印象を受けますが、結局パパ小泉が首相となってやったのは田中派の解体だけでした。
どこをどう変えるのか、どの部分を残すのか、まったく残さないで一からビルドアップしていくつもりか、わからないままにパパ小泉のアジ演説の口車に乗ってしまったのです。やれやれ。

ジュニアの場合、「古い自民党」とはこんなていどのことみたいで、思わず苦笑してしまいます。

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「カンペ読みすぎ」小泉進次郎 出馬会見の堂々振る舞いに称賛も…演説中に見せた“仕草”にツッコミ続出(女性自身)|dメニューニュース(NTTドコモ) (docomo.ne.jp)

「今の自民党を「古い自民党」と呼び、政策活動費の廃止や、ライドシェアの完全解禁、選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出することも掲げた」
(FNN前掲)

「古い自民党をぶっ壊す」と言う割には、政策活動費とライドシェアに夫婦別姓ですか、はぁ。(ため息)

ジュニアの致命的欠点は、おしゃべりのくせに自分の言葉でしゃべれないことです。
どこかで聞いた耳学問を、いかにもいかにもという調子でカッコよくしゃべろうとするから身につかない。
さすが今回は慎重でカンペまで用意しているようですが、告示日までにバカ言ってしまえば台無しですからね。
まぁ、バイデンやハリスでも作っていますしね。ペーパーを持っちゃカッコワルイので、缶詰にしてテッテイ的に想定問答を叩き込みます。
バイデンはそれをクタクタで帰ってきた外遊の直後からやって意識朦朧。
若さが売りのカマラは、今、缶詰づくりの真っ最中。

小林ホークや高市氏はまったくカンペ無で自分の言葉でしゃべっています。
だから、ジュニアがいちいちプロンプターというカンペを見るのは、すごくカッコ悪いよ。

日本のジュニアはおそらく大手広告会社がついているようで、イメージ戦略から立ち振る舞いまで全部レクチャーされているようです。

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「福島の海は安全です!」と“サーフィンでアピール”した小泉進次郎議員に「センスがいい」「初めてカッコいいと思った」と賛辞が集まる【波乗り進次郎】(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/9) (gendai.media)


「古い自民党」が期待するのは、秋の総選挙の「顔」にすぎません。
パパ小泉が優勢民営化選挙で見せたような雪崩的勝利は望めないものの、ジュニアを担いで少しでも勝てれば幸い。
負ければ使い捨て、まぁそんなところでしょうか。
「古い自民党」が必要としているのは優れた役者であって、安倍氏型の実力理念共に備わった指導者ではないのです。

 

 

2024年9月10日 (火)

立憲も代表選やっているそうです

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百花騒乱状態、誰がなってもおかしくないというレースをしている自民党に対して、立憲は良く言ってあげてまったり、正直に言えばアナクロの党首選をしております。
候補ときたひにゃ、現職の泉代表はカツカツで立候補ができても勝てる可能性はなし。
紅一点の吉田氏は、あんまりにダルなメンツばかりなので、一輪の花を入れとこうというところで、実態は野田vs枝野という旧旧対決です。
しかも野田氏を支援すると言って、あの死に切れないでいる昭和の妖怪オザワまで登場するという晩夏の怪談。


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Xユーザーの立憲民主党さん

野田氏は忘れもしない安倍氏大復活の号砲となった2012年12月16日に実施された総選挙で、民主党を惨敗させ獲得議席を480議席中57議席にに転落させた責任者でした。
まぁこれは彼の責任というより、その前任者2人が憲政史上最下位とブービーを争うような御仁らだったからで、野田氏が常識人に見えたものです。
とまれ一度死んだはずの安倍氏に首相の座を譲り、田中真紀子氏など野田政権下の現職閣僚がなんと8人落選してしまうという惨事を引き起しました。

枝野氏は旧民主党の幹事長にして福島事故と東日本大震災の官房長官で、福島事故というとこの人の顔を思い出すくらいです。
被曝地を視察すると言って自らは防護服とゴム手袋をつけて、平装の地元の人と接していたというどうしようもない小心者です。

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おまけに記者会見で「直ちに影響は出ない」と、まるで後になれば被曝の影響が出るようなことを言ってしまい国民をパニックに陥れました。
官房長官が風評の言い出しッペなのですからなんともかとも。
後の対応、除染のあり方を含め、この人物の福島事故への負の遺産は大きいものです。

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官房長官「直ちに影響与える数値ではない」(2011年3月16日掲載)|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

このような政権運営をして、見事に自爆し下野してからの枝野氏は、共産党との共闘路線の推進役でした。
とまぁこのように情けない旧旧対決ですが、面白いのは安保法制についてです。

立憲民主党の代表選(7日告示、23日投開票)に立候補を表明している野田佳彦元首相(67)は2日夜、BSフジの番組で、集団的自衛権の行使容認を盛り込んだ安全保障法制について、「すぐに何かを変えるのは現実的ではない」と述べた。立憲は2022年の参院選公約で安保法制の「違憲部分の廃止」を掲げていたが、野田氏はこれを見直す考えに言及した。
野田氏は番組で、「(立憲が)政権を取って百八十度、政策転換なんてことをやってしまったら、もう国際社会からは相手にしてもらえない」と述べ、外交・安全保障では政策の継続性を重視する姿勢を強調。「(同法制定後に)どんなことがあったのかの検証を、丁寧にやっていくことが必要だ」とも語った。
立憲の現状については、「中道と言っていたけれども、『リベラルな方向と仲良くやりすぎているのではないか』というイメージが出来上がっている」と指摘。そのうえで「それを崩さないと政権を取りにはいけない」と主張した」
(朝日2024年9月3日)
野田元首相、安保法制の継続を示唆 「すぐの変更、現実的でない」 [立憲]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

野田氏は仮に自民にいれば宏池会あたりにいてもおかしくないようなキャラですから意外感はありませんが、枝野氏までこんなことを言う始末です。

「立憲民主党の代表選(9月7日告示、23日投開票)への出馬を表明した枝野幸男前代表(60)は28日、時事通信のインタビューに応じた。集団的自衛権行使を容認した2015年成立の安全保障関連法について、「現状の運用は個別的自衛権で説明される範囲だ。法律は現状では問題ない」との認識を示した。その上で、安保法制の根拠となった14年7月1日の閣議決定は「放置すると拡大解釈されるリスクがある」と述べ、対応が必要だとした」
(時事2024年8月28日)
安保法制「現状問題なし」 辺野古移設に疑念―立民・枝野氏:時事ドットコム (jiji.com)

枝野氏は記憶喪失しているようですが、2015年9月の安保法制当時、共産党や左翼団体と相乗りして国会前で狂態を演じたひとりでした。

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【緊迫・安保法案】国会前デモ 枝野氏「集まっていただきありがとうございます」に参加者「お前のためじゃない」(1/2ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

「また枝野氏は、「まともな国民の声がまともに通じる、まともな議会にしていくために私たちは最後までがんばります」と指摘。安全保障関連法の反対者がまともで、衆参両院で最も議員数が多い自民党を選挙を選んだ有権者がまともではないと切り捨てるかのような過激な演説で、周囲を盛り上げた」
(産経2015年9月16日 )

こんな大反対運動をしておきながら、いまさら「法律上は問題はない」はないもんです。
実際、共産党の別動隊である「市民連合」を介してこんなことを約定し、枝野氏が署名しています。

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これを反故にし、さらには評判が悪すぎの共産党との共闘路線も止めたいというのですから、当の共産党が怒るまいことか。

「共産党の小池晃書記局長は3日の記者会見で、立憲民主党代表選(7日告示、23日投開票)の立候補予定者に、集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法への反対を貫くよう要求した。「戦争法廃止が野党共闘の一丁目一番地だ。否定するなら共闘基盤を失うことになる」と野党連携に影響しかねないと警告した。
共産との選挙協力を見直すよう求める立民内の声にも反発。「2021年衆院選で共産は擁立済みの候補を降ろしてまで協力した。誠意も敬意も感じられない議論はいかがなものか」と述べた」
(東京9月3日)
共産、安保法制反対維持を要求 立民代表選候補に:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

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首相選挙、枝野氏から共産へのお願いあった?なかった?:朝日新聞デジタル (asahi.com)

2021年、枝野氏が代表をしていた当時の立憲は今回の衆院選を政権選択選挙と位置づけた上で、共産党と「野党統一」に踏み込んでしまいました。
その選挙区は全国289選挙区の75%となる217選挙区にも及びます。
つまり大分部で、立憲は共産党と手を組んだのです。
「野党共闘」という言い方をするから実態がぼけるのですが、全国で基礎票を持っているのは共産党たけです。
あくまでも立憲と共産党が組んだことが本質であっって、組織力ゼロの山本新党や社民党などはただのお飾りにすぎません。
枝野氏は共産党と統一戦線を組んだことで「全野党共闘」は全国に拡大しました。

野党共闘は217選挙区に及び、全国を覆い尽くしました。
これだけのことを共産党はしてみせたわけで、この「功労者」に向かって選挙までの「限定的共闘」でしたと言える道理がないじゃありませんか

「政権選択選挙とされる衆院選で初めて「野党共闘」が成し遂げられた。野党第1党の立憲民主党を中心に、全国289選挙区の75%となる217選挙区で候補者が一本化された。与野党による事実上の一騎打ちは約140選挙区とされ、激しい選挙戦が繰り広げられそうだ。(略)
この結果、宮城、秋田、山形、福島、群馬、福井、長野、和歌山、鳥取、山口、香川、高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の18県では、全選挙区で野党候補が一本化されたことになる」
(朝日2021年10月20日)

かつての民主党政権は愚か極まる政権でしたが、最低限の矜持は持っていました。
共産党に候補を取り下げてくれなどとも頼まなかったし、党幹部が共産党幹部と街宣車に乗ることもありませんでした。
それなりに自力で政権を勝ち取ったのですが、枝野立憲は根本的に違います。
共産党の手を借りて政権選択選挙を戦い、勝てばとうぜん共産党の意向を組んで政権を構想するということです。
立憲はあくまでも選挙対策だといいたいようで「限定的協力にすぎない」と言っていますが、一方共産党は「党として閣内協力も閣外協力もありうる 」と明確に言い切っています。この違いはただの温度差で片づけられません。
共産党は「閣内協力」すること、政権参加するのが前提であって、仮に当座は閣外協力となろうともありとあらゆる圧力をかけ続けると言っているのです。

当時、自民党幹事長だった甘利氏はこう言っています。

「われわれの自由民主主義の思想で運営される政権と、共産主義が初めて入ってくる政権とどちらを選ぶのかという政権選択だ」
「勝った方は首相をとる。(立民が中心の政権には)日本史上、初めて共産主義の思想が入ってくる」
(産経2021年10月14日)
甘利幹事長、衆院選争点 「自由民主主義か、共産主義が入ってくる政権か」 - 産経ニュース (sankei.com)

いや甘利さん、日本史上どころか、共産党と手を組んだ自由主義国の野党など皆無です。
立憲と共産党は政策協定をしていると言っていますが、国の基本である安全保障-外交において共産党はなんと言っているのかといえば、安保廃棄、自衛隊違憲の立場を少しも変えていません。
まさにファーレフト(極左)の名に恥じないものですが、枝野立憲はそんな共産党と組むというのです。

当時の共産党の安保政策を笠井亮衆議院議員はこう言っています。

「在日米軍は決して日本を守る軍隊ではない。トランプ米大統領は日米安保を「不公平だ」と主張し、在日米軍の駐留経費の増額を要求しているが、不公正な負担を強いられているのはむしろ日本のほうだ。
諸悪の従属の根源である日米安保をいつまで続けるのか、正面から問われる時期になってきているのではないか。
国民の多数の合意によって安保条約を廃棄し、独立・平和・中立の日本を作る。米国とは対等平等の立場に基づく日米友好条約を結ぶ。そうすることで米国の引き起こす戦争の根拠地から抜け出し、米軍基地の重圧から解放され、経済主権を取り戻し、本当の独立国といえる日本になることができる」
安保は対米従属の根源 廃棄で「本当の独立国」に | 日米安保を問う | 笠井亮 | 毎日新聞「政治プレミア」 (mainichi.jp) 


安全保障・外交政策の根幹である日米同盟を廃棄し、自衛隊は違憲だから否定する、いっそサッパリするほどの「革命的」です。
これを対中緊張が高まっている今実行すれば、言葉の比喩ではなく日本は亡国します(あたりまえだ)。
このような「革命政党」と事実上合体した国政選挙をしてしまう、これが枝野共産党でした。
だから共産党は裏切られた気分になってしまったのです。
とまれ、一度過去の政策や言動をきちんと総括してから代表選をやるのですな。
それにしても、前回の党首選もそうでしたが、共産党と手を切るかどうかだけが争点とはね。
本来、まともな野党第1党なら、誰がなろうと総選挙は近いのですから、同時期の自民党総裁選に国政テーマを投げつけて討論に介入するくらいの気迫が欲しいものです。

 

 

2024年9月 9日 (月)

百花騒乱状態

S227-015

派閥がなくなるとこういう百花騒乱状態になるとは予想されていましたが、ここまでとはね。
完全に1カ月間、自民がメディアジャックしました。
これが岸田氏の書いたシナリオならこれほどの刷新感は望めないわけで、案外この人、策士だったのかもしれません。
政権支持率も政党支持率もアップしました。

「岸田内閣の支持率が先月の調査から3.3ポイント上昇し、34.3%だったことが最新のJNNの世論調査でわかりました。
不支持率は先月の調査から5.8ポイント下落し、60.6%でした。
また政党支持率では、▼自民党の支持が前月の調査から3.9ポイント上昇し、31.0%、▼立憲民主党は0.1ポイント上昇し、5.3%、▼日本維新の会は1.4%ポイント下落し、2.3%でした」
(JNN9月8日)
【速報】岸田内閣の支持率が34.3% 先月より3.3ポイント上昇 9月JNN世論調査(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

自民はさまざまな考えを持つ派閥の連合党であったために、旧来の総裁選挙は派閥が推す候補者を応援するというスタイルでした。
今回、この派閥自体が消岸田氏の安倍派潰しの余波で、「一致団結箱弁当」と言われた派閥がほぼ消滅しました。
形としては麻生派が残存していますが、麻生派もバラバラです。
麻生氏までもこんなことを言う始末です。

「一方で、「その他、多くの方々が出馬される。『一致結束、(箱)弁当』みたいに縛り上げるつもりはない。河野太郎もそれを期待しているわけではない」とも指摘。「今からいろんな方が手を挙げられるだろう。いいという方がおられるんだったら、信念を大事にしてもらいたい」と述べ、事実上の自主投票とする方針を示した」(東京8月27日)
麻生太郎氏「一致結束、箱弁当みたいに縛り上げるつもりはない」 麻生派は河野太郎氏支援で一本化せず 自民総裁選:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

その結果、従来の一派閥から1名だった候補者が複数出たり、派閥の当選回数が多いベテランしか出られない構図から、一気に弾けました。
麻生派ですら、いちおう派閥候補の河野以外に、小林、高市、上川などの陣営に議員が分散しているあり様です。
年齢的にも、小泉ジュニアと小林ホークがトップ争いをした場合、一気に50歳以下が首相となります。

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自民総裁選、事実上の号砲 茂木・石破氏ら動き活発:時事ドットコム (jiji.com)

まったくの混沌状態で、小林ホークの推薦人は旧派閥横断で、共通項は若手ということのみです。
そのなかで比較的まとまったグループとしては、俗に言う小石河連合がありますが、この3人が揃って出馬するので、前回の総裁戦で河野氏が得た小石河連合の合併票4割を3者が奪い合う形となってしまいます。

1、2位争いを演じるかも知れない小泉、河野がバッティッグすることになります。

「3年前の自民党総裁選で共闘態勢を築いた小泉進次郎元環境相(43)、石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)の「小石河連合」は今回、それぞれが出馬し、有力候補となる。かつての協力関係は最大のライバル関係に転じている」
(毎日9月5日)
読む政治:小石河連合は「最大のライバル」 共闘から一転、火花 自民党総裁選 | 毎日新聞 (mainichi.jp) 

この割れ方次第で、3人共に3位以下に落ちるかもしれません。
むしろいまや、総裁選が一発で決まることは考えておらず、決選投票を前提に戦略を立てているようです。

問題は政策です。
なかなか愉快なのは、現職で政権の中枢を担っている茂木氏と林氏がこんな発言をしていることです。
注目は、岸田政権の増税うずうず感を否定した茂木幹事長です。

「自民党総裁選(12日告示、27日投開票)に出馬する茂木敏充幹事長(68)は7日、総裁選で掲げる「増税ゼロ」政策を巡り、財務省の体質を「税率をアップしないと税収は上がらない考え方だ」と批判した。宇都宮市内で記者団に語った。
茂木氏は「古い財務省の考え方を転換する」と強調した上で「経済を成長させることによって税収を上げていく。その資金によって成長分野への投資を進める」と自身の経済政策を説明した」
(毎日9月7日)
茂木氏、「増税ゼロ」巡り財務省を批判 「古い考え方を転換する」(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

わかっているなら今やれ、と誰もが言うでしょうな。
岸田氏がそれなりにやっていながら不人気だったのは防衛増税、子育て支援増税、社会保障費の割り増しに見られるように、常になにかする度に増税が顔を出したからです。
いっそすっきり、オレが首相の間はビタ一文増税はせぬと宣言すれば、2期目もあったのにと思いますが、もう遅い。
その岸田株式会社のナンバー2の茂木氏が、出ること自体が、政権否定ととられかねないのに、今になって増税ゼロはないもんです。

一方林官房長官も、常々媚中派と言われていたことを気に病んでか、自分は知中派だ、なんて言っていますがどんなもんでしょうか。
例の中国が2カ所敷設し、領有権を主張しているブイについても、今になってこんなことを言い始めました。

「総裁選に勝利して首相に就任した場合、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置した海上ブイの対応策を検討する関係閣僚会議を立ち上げると明らかにした。林氏は「ブイの撤去を含めて検討する」と強調した。(略)
外務省や海上保安庁などが参加する会議を想定。林氏は「(ブイの設置からは)だいぶ時間が経過している。これから1年かけて議論するという類のものではない」と述べ、早期の立ち上げを目指す意向を示した。その上で「外交努力をやっていくのは当然だ」とも語り、引き続き中国側の対応も求めるとした」
(産経9月6日)
<独自>中国ブイ撤去へ関係閣僚会議立ち上げ 林官房長官単独インタビュー、首相就任の場合 - 産経ニュース (sankei.com)

こういう出し遅れの証文みたいなことをやること自体、古手議員の焦りが透けて見えるようです。
総裁選の争点をメディアは勝手に夫婦別姓だ、なんて言い始めています。
たとえば朝日なんてひとり夫婦別姓で盛り上がっています。

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朝日

自民党総裁選では、岸田文雄首相が積み残した課題にどう向き合うのかも問われる。なかでも主張がはっきりと分かれそうなのが「選択的夫婦別姓」だ」
(朝日9月20日)
(自民党総裁選 政策検証:1)選択的夫婦別姓、保守派が壁:朝日新聞デジタル (asahi.com)

上の図に出てくる保守団体というのが曲者で、朝日は日本会議と旧統一協会を念頭に置いているようです。

「「伝統的な家族観」にこだわる自民議員が意識するのが、保守系団体の意向だ。日本会議や神道政治連盟、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)などは選択的夫婦別姓に反対の立場を取っており、ある団体の関係者は「夫婦別姓に反対でなければ応援しない」と明言する」
(朝日前掲)

朝日はいままで極悪とレッテルを貼ってきた旧統一教会まで引き合いにして夫婦別姓を踏み絵にして、高市氏と小林氏を叩きたいようです。
あのね、旧統一教会なんて自民党への影響なんてゼロなんですがね。
議論したいならすればいいでしょう。
しかしLGBTQと一緒で、今それを最優先にせねばならないテーマだとは思えないのに、真っ先に夫婦別姓を持ってくる下心が嫌らしい。
旧統一協会=安倍というパターンで、ありもしない旧統一協会汚染を煽って岸田政権を屈伏させた前例を踏襲したいようです。

今議論すべきは、デフレからの完全脱却をめざす経済政策であり、日銀が取ろうとしている金利政策の是非であり、あるいは経済回復の足を引っ張っている電力不足の原因であるエネルギー政策のあり方です。
言うまでありませんが、対中対露政策は大前提です。

そういう眼にさらされているのを感じてか、政権中枢に居ながら茂木は増税ゼロを謳い、林も中国のブイ撤去を言いだしたのはご愛嬌です。
やるなら現職の今やりなさい。
とまれ今の趨勢だと、小泉は残るでしょうが、小石河の割れ方と次第で、高市氏がどこまで食い込めるかが注目でしょう。

ちなみにエピソード的ですが、今、立憲民主という政党も代表選をやっているそうです。
これについては明日に。

2024年9月 8日 (日)

日曜写真館 白鷺の炎天銀細工として舞ヘり

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青鷺や世間ながむる田植哥 正秀

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青田にて白鷺紙の如く飛ぶ 山口誓子

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うららかや天辺に鵜は巣を作る 村山故郷

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白鷺の一点のほか青田波 鷹羽狩行

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夢に白鷺唾萌えるとき目覚めくる 金子兜太

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白鷺に子ありて秋の水に彳つ 山口誓子

 

2024年9月 7日 (土)

日本農業は世界有数の「農業大国」

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今週は珍しく農業特集となってしまいましたが、いちおう今日にて終了します。

ところで、農業という分野はろくなことが起きない限り、都市の人たちに思い出してもらえないようで、やれリーマンショックで失業者が増えれば、そんな連中は田舎にやって農業をやらしたらどうだとか、TPPともなれば農業は日本経済のお荷物だ、とんでもないニッポン農業を守れだとか、そしてコメが余ったから困ったと言っていたのに、今度は手のひら返しをしたみたいにコメを食わせろです。
たまにはいいことで思い出してほしいものですね

私はちょっと前に「日本農業滅亡論」も、その反対の「日本経済、農業によって滅亡論」もメダルの表裏だと書きました。なぜなら、この一見正反対のこの議論は、同じ根から生えた夫婦樹のようなものだからです。
同じ根とは、いうまでもなく農水省卸もとの「食料自給率40%」という国民的常識です。この食料自給率とはカロリー自給率であり、複雑怪奇な計算式を使います。

計算式は複雑怪奇ですが、訴えるイメージは強烈です。なんせ、日本人は自給率4割、裏返せば6割を外国農産物に頼っているってことですからね。
日本農業は自分の同胞の食さえ満足に供給していないんだ、と誰しも思うわけです。
ほとんどの論者が、日本農業を語る時、「食料輸入大国」とか、「輸入食料依存大国」だのと枕言葉のように使います。
年中、「輸入食料依存大国」だと書き散らしている評論家に、ある人が、日本農業の生産額の国際的順位を聞いたそうです。
その評論家先生、「そうね50位?まぁ最下位から数えたほうが早いよな」、だそうです。

日経新聞なんぞこんなことを書いていました。

「食卓から国産の農作物が消えていく。民間の推計では2050年、国内の農業人口が現状より8割も減る。生産は激減、必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれない。世界で人口が増える中、輸入頼みを続けられるか。飽食の意識を変える必要がある」
(日経2023年9月17日)
農家が8割減る日 主食はイモ、国産ホウレンソウ消滅? 1億人の未来図 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

なぁに言ってんだか。
いかにも財務省機関紙らしい記事ですが、「開かれた日本農業」と連呼していたカン総理大臣閣下も「80位くらい」だなんて言っていました。
とんでもない、日本は世界第5位の農業国です。
これは先進主要5カ国という枠組みをはずして、全世界の国々の中の農業生産額の順位です。
順位は、2005年(現在)で第1位が中国、第2位が米国、第3位がインド、第4位がブラジル、そしてわがニッポンは第5位、第6位はフランスです。
これはFAO2005が根拠ですが、さらに日本は先進主要5カ国国でいえば、実に世界第2位となります。

2023年(現在)でも、世界18位、G7では米仏に次ぐ3位です。
世界の農業生産額 国別ランキング・推移 - GLOBAL NOTE

では、先進主要国の農業生産額の順位をみてみましょう。
第1位が米国1826億ドル、第2位日本826億ドル、第3位フランス549億ドル、第4位ドイツ379億ドル、第5位英国184億ドルとなります。第5位の英国の実に2倍超です。
ついで世界の農業大国といわれるロシアは世界順位第7位269億ドル、オーストラリアは17位259億ドルとなります。わが国はこの両国の3倍以上になるわけです。

このどこが衰亡でしょうか!?なにが50位だ!何が80位だ。80位といえば破綻国家のアフガニスタンやウガンダ並の最貧国じゃないか。こんな程度の農業知識しかない男が国の舵取りをして「開国元年」などと言っていたのですから、ゾっとします。
とまぁ、このように私のような農業者が啖呵を切ると、かならず返ってくる反論があります。そう、例の「日本は農産物が高いから、そのような生産額になるのだ」というものです。
日本農産物が、高関税で輸入をブロックしているから、日本の消費者は世界で最も高い農産物を買わされている、という言いぐさは、もう耳にタコが出来るほど聞かされてきました。

では、食肉を例に取ります。下の図を見てください。広大な面積と少ない人口密度をもつ米国の優位は揺らぎません。しかし、同じような広大な面積の国土を持ち、農民収入は月1万円に届くかという中国とはどうでしょうか。
中国と日本は、豚と鶏肉価格においてはほとんど同じ水準の価格だと分かります。所得水準から言えば、驚異的なことです。牛は飼育面積が大きいためにどうしても米国が有利となります。しかし、その分、わが日本の牛生産は世界で比肩するものがない超高品質を持っています。

 

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日本の農産物が高いかどうなのかは、家計内の食料支出をみれば見当がつきます。その数字も出ています。
2003年に総務省統計局が出した「世界の統計2003年版」に家計消費支出の食料支出の占める割合が日本は25%弱です。
この数字はカナダ、ドイツ、イタリア、イギリスとまったく一緒です。
日本の消費者が不利益をしているというのはまったくのデマです。先進国としてはいたって平均的水準で、デフレが進んだ時期にはもっと下落した数字が出るはずです。

自給率で比較するのも考えものの側面があります。
たとえば広大な国土を持ち、人口密度が低く、所得水準が低い国がどうしても高く出る傾向があります。
広大な土地と低い人口密度の米国やオーストラリア、ブラジルなどがそうであり、貧困国はそもそも外貨で輸入食料が買えないために自給率はイヤでも高くなります。
また、輸出が輸入より多い国も、自給率は高く出ます。フランスやドイツがそうです。

わが国は農産物輸出はほとんどなく、国土も狭く、人口密度は世界有数です。このようなハンディを持ちながらも、世界主要5カ国で農業生産額第2位、世界順位第5位のステータスにいることは、わが日本農民は誇りに思うべきです。
農水省はカロリー食料自給率40%という、世界のどこの国も採用していない恣意的な数字を弄ぶことでコメを聖域化し、日本農業を不当に卑しめ、農業者の誇りそのものを奪ってしまったのです。

 

2024年9月 6日 (金)

水田、環境維持のためのスタビライザー

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では、なぜ日本人はコメを捨てられないのでしょうか。
結論から言えば、農業という環境維持のためのスタビライザー(安定化装置)を利用しないと、防災インフラを再構築せねばならなくなり、その公共投資のコストは天文学的になるからです。
農業という存在を田んぼ単体で考えているから分からなくなるのです。田んぼは「システム」なのです。 

 

Photo                     図 座間市HPより

田圃にはその灌漑のための水系が付属します。河川から水を取り込む小規模河川、網の目のような農業用水、そして干天に水を放出し、大水の時に水を蓄え込むため池などがそうです。 
また、田んぼに常に水を涵養しておくための山も重要な存在です。田んぼを作るためにはげ山に植林し、その森林が水をしっかりと蓄えられるようになって初めて「田んぼ」が出来るのです。 
いわゆる水田は、田んぼという土と水のエコシステムの一部でしかありません。さらにこの水田から出来るコメだけ取り出して700%の関税がうんぬんという議論は、木を見て森を見ない議論に思えます。
もっと大きな目で見て御覧になりませんか。これが分からないと、ではどうやってこの700%超の関税を改革していくのかという議論につながりません。
そうでしょう。その価値がわからない人が、コメの価格だけ高い安いと言っても始まりませんものね。

さて、北朝鮮でなぜ大水が頻繁に起きるかご存じでしょうか。酔狂にもわざわざ見に行った人の話によれば、天井川になっているのです。 
天井川とは、河川の底が土砂で埋まって岸より高くなっている河のことです。こんな河はたいした大雨でなくてもすぐに溢れます。 
この土砂はどこから来るのかと言えば、河沿いの山肌の崩落が原因です。北朝鮮の山ははげ山なのです。
それは樹を引っこ抜いて、山に土留めもせずに根の浅いトウモロコシをビシッと植えたからです。こんなことをすれば、山はどんどん崩れていくのは当たり前です。 

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今、現代日本人が漫然と見ている山もかつての先人たちの営々とした植林によって出来ました。
盛んになるのは江戸中期頃からですが、 米を食いたければ山に樹を植えるところから始まりました。
漫然と植えたのではなく、樹が水を蓄えることを当時の人が知っていたからです。それが治水に役立つこともそれ以前から知っていました。
苗を植えて100年、やっと山が緑に覆われてくる頃、初めてそこから湧き出る水を集めて田んぼを作りました。 
そして水を山から引く農業用水路を整備し、天候の変動に備えてのリザーブ・タンクとしてのため池を堀りました。
もちろん縄文末期から田んぼはあるのですが、植林、山の手入れ、水路などを一体のものとして作り始めたのはこの頃からです。
こうして、今の見学の外国人が公園のようだと評する農村風景が出来上がりました。

樹を植えて三代。そこから稲ができるまでまた1代。毎年の山の手入れは永代。川さらい、農道の普請は地域で毎年。まったく気長な話です。これを営々と村の共同の作業として維持してきたのが「田んぼ」なのです。 人々の汗の積み重ねがあって、日本の土と水は保全されてきたといえます。
この営為を「生活」のためだというなら、そのとおりです。 「生活」のためにコメを作り、森林を保全し、河川を維持してきたのです。そのなにがいけないのでしょうか。

さてこれを「水田以外の方法」でやってみるとなると、どうなりますか。 
今、60年代に作った全国の公共インフラは耐用年数を迎えつつあります。笹子トンネルの崩落事故などはその前兆です。
「コンクリート」と「人」は対立する概念ではない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
これは公共事業=悪玉論によって公共事業費を削減し続けたからです。公共事業費を消すると、真っ先にメンテナンス部門にしわ寄せが行きます。 

ですから、今早急に道路、河川、トンネルなどの補修事業をせねば、想定される大地震などの天災でまた多くの国民が亡くなってしまうことになります。 
それだけで巨額な公共投資を要します。しかし、やらないわけにはいかないわけです。 
この時期に、わが国の国土特有の治水の要である水田や小規模河川、それに付随するため池、農業用水、そして山の手入れを全部潰すとなるとどうなるでしょうか。 
基幹的公共インフラの整備ですら膨大な財政支出が必要な上に、今まで「農業」という見えない形で支えていたものが消滅していきます。

ちょとした線状降水帯が現れただけで河川は溢れ、住宅地や農地は水に漬かり、道路は寸断され、トンネルは埋まり、河口付近の湾は河から押し流される土砂でとんどん浅くなって港湾機能も失われていくことでしょう。
これを「他の方法で」で解決するとなると、田んぼの代わりに小規模多目的ダムを全国に無数に作ることになりますね。もちろん税金でです。まぁ、そんな金があったらの話ですが。

ちなみに、多目的ダムはこんな概要です。
治水ダム - Wikipedia

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美和・小渋ダムの治水|天竜川ダム統合管理事務所 (mlit.go.jp)

容量は河川によっても異なりますが、たとえば小型の熊本県球磨川・五木ダムが36万㎥の貯水量があります。
建設コストは一概に言いきれませんが、群馬県倉淵ダム(建設中止)、当初予算の275億円は最終的には550億円となったようです。大体は用地買収などが手間取って当初予算の数倍にハネ上がっています。
そもそも作りたくとも今や例の八ッ場ダムで分かるように、環境破壊がひどいので建設のためのコンセンサスがとれなくなってきています。

一方、仮に田んぼに20㎝分だけ貯水したとすると、大分県の試算では、10アール当たり200トンの雨水を受け止めるのに相当し、大分県内の水田(4万2500ヘクタール)すべての貯水量は、1240万㎥となり、小型ダム約3基分に匹敵する貯水量があります。
馬鹿げてはいませんか。農業が黙々とやってきた環境スタビライザー機能を他の手段で置き換えるというのは。言うのは簡単ですが、まったく割に合わない愚行なのです。

別にこれはわが国だけに限ったことではなく、世界中どこの国でも農業が国土の基本インフラであるのは常識です。農業は取り替えが効かない部門なのです。
だから農業保護ということにどこの国も必死になるわけです。それをしなければ、国土が崩壊して、外国産の安い農産物で潤う以上の損失を国土にもたらすことがわかったからです。

よく「食の安全保障」といいますが、それは単にカロリーで表記できるだけのものではなく、農業が守っている国土インフラ保全の安全保障まで含む概念だと私は思っています。
今の中国のように無計画にそれを壊してしまうと、修復にはとてつもないコストと時間がかかることを、多くの国は理解しているからです。

だから、一般的な競争原理にはなじみません。といって、誤解されたくはないのですが、まったく今までどおりでいいとも私は思っていません。減反政策と高関税は一対のものです。減反を維持するために馬鹿げて高い高関税を敷いているのは事実で、もはやこのような関税ブロックは賞味期限切れです。
しかし国土の強靱性を保つためにも、水田は残さねばなりません。
どうやって残すのか智恵を絞るべき時です。

 

2024年9月 5日 (木)

兼業農家保全のためだけの減反

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昨夜の6時台のニュースはほぼすべての局がコメがあるスーパーはここだ、みたいな内容でしたね。
やれやれ、困ったスカベンジャー(腐肉食動物)たちだ。
新米価格を高騰させたくてしかたがないみたいです。
踊らされないでくださいね。もう新米が溢れるほど出ているんですから。
新米価格が気になる方も多いでしょうが、とうぜんこれだけ騒動を煽れば上がるに決まっています。
まったく馬鹿じゃないか。

「JAしまね(松江市殿町)は26日、コメを出荷した農家に支払う2024年産米の概算金(コシヒカリ1等米、60キロ当たり)を23年産より4600円高い1万6800円に引き上げると発表した。増額は3年連続で、15年の概算金制度導入以降では最高値。生産資材高騰が農家の経営を圧迫しているのに加え、国内の消費拡大に伴う全国的な価格動向を踏まえて決めた」
(山陰中央新報8月27日)
コシヒカリ 最高値更新 24年産米買い取り価格 JAしまね | 山陰中央新報デジタル (sanin-chuo.co.jp)

ついでにこの間転化できなかった機械、燃料コストなどの上昇も、この時とばかりに乗せるでしょう。
と言っても概算支払いにすぎませんから、相対取引で決まるのが大部分です。
農家はクールに眺めていますが、消費者がテレビに踊らされて騒げば騒ぐほど市場価格は上がるのです。
コメが喰いたいとデモするよりお平らに、お平らに。
スカベンジャーらの言うことは、8掛けで聞いて下さいな。

さて、昨日からの続きです。
ではコメの生産量管理制度が守ろうとしている「農家」とは誰のことでしょうか。
コメ生産で言う「農家」は、稲作に関わる生産者のことです。
したがって、プロフェッショナル農家だけではなく、パートタイム農家、つまり兼業農家も含んでいます。
生産管理制度の最悪なことは、プロもパートタイムも含んで一律に規制をかけていることです。

野菜や畜産、果樹では勤め人が片手間にやることは不可能ですが、コメは農業全体を見渡してももっとも機械化が進んだ分野なので、わずか2週間程度の労働で出来てしまいます。
兼業農家も先祖からもらった水田を持っていますから、作らないでペンペン草を生やしていると村内で肩身が狭いのです。
まして改良区と言ってパイプラインで大面積を給水する大規模水田に、自分の田んぼが統合されようものなら、やらないと隣の農家の視線が痛いわけです。

だから、コメではまったくといっていいほど儲からないのに、兼業農家は泣くような思いで、一年に数日しか使わないトラクターやコンバインを買ってコメを作っているのです。
機械なんか共同化しろなんて言う経済評論家もいますが、あんたねぇ同じ時期に収穫期が来るんですから、共有なんぞしたら毎日取り合いです。
こういう評論家に限って、農村では家に3台も車がある、なんていかにも儲かってウハウハだみたいな言い方をしていますが、それは子供たちがそれぞれ別なところに働きにいくからです。田舎には電車なんか通っていないしね。

コメを作ると悪いことのようで、減反割り当てが、たとえば36%と決まると、減反の消化で本業の農業がおろそかになるほどです。なにせ36%なんてザラです。

このように村のしがらみでやっているパートタイム農家と、本格的に水田を借り集めて、大型機械で耕作し、自分で売るルートも開発するというプロフェショナル農家も、等しく耕作する水田の実に4割弱を「作るな」というのですから無茶いいなさんな。
こんな馬鹿なことを農家にやらしている国は、自慢じゃないが、世界広しといえどわが国だけです。
立派なカルテル行為です。公取委なんとかしろ。

昔は青刈りといって植えてまだ実が入らない前に刈り取っていましたが、余りに農業者の評判が悪いので(そりゃそうだ)、何か植えることにして「転作奨励」という形にしました。
そこで、登場したのが当初は大豆などでしたが、農家にやる気が出ずに捨てづくりとなって品質劣悪で失敗。

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次に登場したのがエサ米(飼料用米)といって、人が食えるシロモノでないコメが大量に出来る品種を作って、家畜にやるのが流行っています。
これは一頃大流行しましたね。なんで世界一うまいコメを家畜に食わせるのよ、やればやるほどバカバカしくてやってられんと、これまた捨てづくり。
そしていまの流行は米粉です。作っている友人が言っていましたが、一粒一粒ホカホカの米粒が立つ、キラキラと輝いてえもいえず美しい、これを目標に研鑽してきたらお国がすり潰して粉にしろ、ですか。冗談ではない。
馬鹿にするのもいいかげんにしろ、とは思っても、これを飲まなきゃとコメを作れないのですからしかたがありません。
もう笑うきゃありません。ここまでして「減反」やらなきゃならないのか、と思いました。

官僚の作ったエサ米のお題目は、笑えることには「家畜飼料の国産自給」です。これには腹を抱えました。
税金の補助が大部分の竹馬を履かせて、なにが「国産飼料の自給」なんだか。
霞が関文学の真骨頂。役人の苦し紛れの思いつきを、さも政策のように語るんですからつきあいきれません。
家畜飼料が外国依存なのは構造的な問題で、この構造を指導したのは農水相でしょう。

それを捉えて、リベラルな消費者団体好みの「国産自給」という題目と絡ませて、実は減反奨励でしかないエサ米を拡げようとします。
内実はなんのことはない、税金まみれの減反対策、すなわち、コメを作らせない国家カルテル維持の手練手管にすきません。

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そんなバカな減反があるのは、「赤信号、皆んなで渡れば怖くない」とばかりに、先の兼業農家を大量温存をしてしまったからです。
そしてそれを集荷するJAにとってみれば、コメの扱い手数料は馬鹿になりません。
JAにすれば、兼業農家もプロの農家も等しくひとり一票の組合員。
出荷してくれれば、等しく手数料が取れます。これが馬鹿にならない。
かといって、JAが儲かっているかといえば、そういうふうにも見えないので、なんのことはない、こんな馬鹿げた農政も大量に利害関係者がいれば合理化できるというわけです。

かつて民主党が大勝利した時に、いままで自民党の票田だったJAの多くが1人区で民主党支持に回りました。
なんせ民主党は個別農家補償制度なんて言い方で、まるで各戸にカネを配るように聞こえる政策を出していましたからね。
ちなみにこの言い方を考えたのが、あの小沢御大です。
一方、自民党が進めようとした品目横断政策は集約化を目指すと思われて、JAの逆鱗に触れました。
その時、多くのJA関係はなんと言ったのでしょうか。「小規模農家切り捨てを許さない」でした。
「小規模農家」と言うとまるで零細農家のように聞こえますが違います。兼業切り捨てるなということです。
かくしてコメは、聖域のようになっていたのです。

このコメの聖域化は誰かが作った人工的構造ではなく、自然にできてしまったしがらみのような構造的宿痾ですので、それを半世紀もやってくればもはや各層の利害でがんじがらめで、身動きがとれなくなってしまいました。
コチラが減反縮小といえば、アチラが反対というわけです。
しかも最大の農業団体であるJAが、(単協によって温度差がありますが)、兼業農家をたくさん抱え込んでいれば皆揃ってこれも村の衆なので、切り捨てるわけにもいきません。
減反やめたら、価格維持ができなくなって米国産並に下落するぞ、と農水に脅されれば、そんなリスクはとりたくない、だから揃って大反対というわけです 

この減反は、農業者のやる気を著しく削ぎました。説明する必要もないでしょう。パートタイム農家も、20ヘクタール、50ヘクタールやっている本気の農家も減反割り当ては一律なんですから。
この減反を墨守するために、外国からの安価なコメと価格競争しないように、高関税が必要だったのです。
農業以外の人たちに誤解していただきたくないのですが、こんなおかしな制度はコメだけです。
よく知ったかぶりのコメンティターが、「高関税で守られている農家のために、都会の消費者は世界一高い農産物を食べさせられているんですよ」などと聞いたふうなことを言っているのを聞くと、情けなさでがっくりきます。
そりゃコメだけだろうって。
ひたすらコメが、若い人の集団に混ざった年寄りよろしく、平均を押し上げているだけで、全体は主要国としては平均値です。

 

Photo_8(図 主要国関税率比較)

だから、コメを他の品目と同じ扱いにしろ、と私はかねてから主張しています。
そのためにもし政策誘導したいのなら、関税ではなく各農家の工夫と努力に対して支払われる直接支払い制度が望ましいと思っているわけです。
さまざまな方法が考えられます。担当省庁は農水省の専管である必要はまったくありません。
というか、農水からもぎ取って、各省庁断にするほうがかえって今までの農政とのしがらみがないだけ自由です。

たとえば農地の規模に対しては、コメなどでは、いままでのように減反したら補填されるのではなく、逆に農地を集積して大規模化した農家に対しては、10ヘクタールにつき一定の直接支払いをする方法もできます。これは農水。
棚田などの伝統的な農法による景観の保護のための直接支払いは環境省。
あるいは、水源保全や水利を目的とした国土環境保全目的での支払いは国交省。
もちろん、有機農法やアイガモ農法などの環境保全型農業には、環境省と農水省と文科省。
このように、農業者のやる気を出させる支援をせねば、税金は捨て金となってしまいます。

いままでのように、「皆で知恵を絞って作るな」と均一に減反させるのではなく、「皆で智恵を絞って儲けよう」に転換せねばなりません。

 

2024年9月 4日 (水)

日本農業の宿痾、減反

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久しぶりにホームグラウンドの農業をテーマに書いています。
さて、私は減反は日本農業の宿痾だと思っています。
減反とは、文字通りコメを生産管理して「反」(たん)を減らすことです。
反とは10アールのことですが、ここでは象徴的に使っています。

減反政策とは、政府が国家規模のカルテルを結んで、米価を一定の水準に保つことで「農家を保護」する仕組みです。
70年頃からコメ余りになった結果、食管制度(食料管理制度)が財政的に持たなくなったために生れました。
おいおい、今どき社会主義やってんじゃないよ、と思いますが、そのとおりです。
念のために言っておくと、こんなダルな社会主義統制経済をやっているのはコメくらいなもので、他の農産品は熾烈な産地間競争をしています。

ですから、たまに元気のいい農家がオレは50ヘクタールの大規模コメ農家になるんだ、と資本主義宣言をすると、行くところ行くところで頭をぶつけコブだらけになるという仕組みです。

それはさておき、かつてのガチガチの減反をやっていた頃の食管制度は、下図のような仕組みでした。
戦時経済統制が、そのまま戦後の今もそのまま残存していたのがおわかりでしょうか。

 

Photoなんとこの時代は、作れば全量をお国がお買い上げ頂いてお金を支払ってくれるという夢のような時代だったのです。
こんな無茶ぶりな制度を作ってしまったのは、戦後の食料難の時代に、なんとしてでも主食のコメを確保しようと考えたからです。
今では信じられませんが、1970代まで一家に一冊、米穀通帳(知ってます?)なるものがあって、消費すら一定の枠があったという時代です。
もっと食べてくれぇと叫んでいる今とは違いすぎてウソみたいですが、この米穀通帳がないとコメが買えない時代があったのです。
ですから米穀通帳は身分証明書代わりにもなっていました。

生産部門には食管制度、消費部門には米穀通帳というわけで、川上から川下までお国が一元支配していたのです。
社会主義だねぇ。日本社会は妙にこういう社会主義制度となじむ体質があるらしく、まったく違和感なく社会になじんでいました。
下写真が実物です。

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そもそも生産奨励や、農家にきちんと供出させる意味で作った食管制度を作ったのですが、ところが豊かな時代になると、コメは余り始めます。米穀通帳まで作って、喰いすぎるなと言っていたのが、もっと喰ってくれという悲鳴が上がるようになったのです。(笑)

下図をご覧ください。

Photo_2(図 農水省米改革の取り組みよりhttp://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h19_h/trend/1/t1_1_1_02.html

グラフのオレンジ線がコメの個人あたりの消費量です。1960年代から較べて2007年には約半分です。政府は食管制度を維持するために、備蓄しまくっていました。
グラフ下の棒グラフを見ると、1960年代から70年代かけては700万トンという凄まじい量を備蓄して、古米、古古米の山を築いていました。
こんな備蓄を抱えながら、なお全量買っていたのですから、そりゃパンクするわな。これに音を上げた政府が1970年から始めたのが、減反です。
政府指導でコメの生産調整をしようと考えたわけです。
戦前や終戦直後には農家はいかに多く作ったかを競い、多収量を達成した農家は農林水産大臣賞が貰えた時代から一転、作らないように励むとお褒めに預かる時代になって、今に至ります。

 

Photo_4(図 東京新聞2013年11月8日より)

今は表面的にはとりあえず、「食管はなくなったことにしよう」「減反もないことにしよう」ということになっています。 
正式には、2018年度に完全廃止ということになっていますからね。
もちろんウソです。
なぜこんな見え透いたことを言っているのかといえば、80年代に吹き荒れた貿易自由化交渉において、農業保護をしているとなると交渉で著しく不利になったからです。
WTOやFTA交渉に行けば、こんな前近代的な農業保護をいまだしていることが知れると、肩身が狭いでは済まなかった時代がやって来たのです。

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しかし現実には、今でもコメは農水省が生産調整を行なったり(地域に丸投げしていますが)、備蓄米を作ることで、裏減反は健在です。
村や地域などには生産調整の枠があり、それに合わせて、過剰になったコメは米粉にしたり、あるいは、その分エサ米に転換したりしています。協力しないと補填金を受けられませんが、この補填金というのも一般には分かりにくいものでしょう。
日経の(2015年6月15日)の記事をご覧ください。


「農林水産省は5日、2014年産コメの価格下落を受け農家に総額514億円(計5万8千件)の補填金を支払う見込みだと発表した。07年に発足した収入減少影響緩和対策制度に基づく支払いで、07年の313億円を上回り過去最大となる。
 補填金は国と農家が3対1の比率で拠出している。減収額の9割までを補填する仕組みで、コメ以外には麦や大豆なども対象となる。14年産コメの60キログラムあたりの収入額は全国平均で約1万2千円で、過去5年間の標準的収入を3千円程度下回った。60キログラムあたり約2500円が農家に渡る見込みだ。
 国は15年度予算で802億円を計上しているため、支払いに問題はないという」

これは農水省が、今年の米相場が悪そうなので「収入減少影響緩和金」を800億用意しているよ、という「心強い」ニュースです。
これがコメの補填金です。農家も3分の1払っていますが、国が3分の2出して、事実上国の価格支持政策です。
いちおう食料管理制度(食管)がなくなったというのがタテマエなのですが、なんのことはない内実は一緒なのです。
「生産調整」という名の減反、作りたくても作れない仕組み・・・、この国の農業のコメ部門だけだけには社会主義計画経済が生き残っています。なんというアナクロ。
しかし、これが始まって半世紀。もはや村の「和合」の象徴のようになってしまいました。

では、この「ムラの農家」ってなんでしょうか。
長くなりましたので、今日はここまでにします。

 

2024年9月 3日 (火)

「令和の米騒動」を煽ったメディアと野党の罪

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続けます。
政府は声を枯らして備蓄は充分にある、冷静にと呼びかけました。

「令和のコメ騒動といわれるほど一部で品薄となっているコメについて、坂本農水大臣は新米の流通などから供給が「順次回復していく」として、消費者に冷静な対応を呼びかけました。
坂本農水大臣はけさ、コメの品薄の背景について、▼地震や台風に備えた買い込み需要や、▼お盆休みで物流が滞ったことなどが主な要因だったと指摘。
そのうえで、早いところでは新米の流通が始まっているとして、供給は「今後、順次回復していく」との見通しを示しました。
坂本哲志 農林水産大臣
「消費者の皆様には必要な量だけのお米を買い求めるなど、落ち着いた購買行動をお願いしたい」
一方、大阪府が要望している備蓄米放出については、「民間流通が基本となっているコメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべき」と述べています」
(TBS8月27日)
農水大臣、コメの供給「順次回復していく」“令和のコメ騒動”に冷静な対応呼びかける|TBS NEWS DIG (youtube.com)

私としてはきわめて珍しく農水省の肩を持ちますが、まことに正論です。
原因については私が指摘しているとおりですが、大臣のコメントが一カ月遅いという鈍さ(いつものことですが)以外はまぁそのとおりです。
それと坂本大臣、下を向いて官僚が作ったペーパーをボソボソ読むのはお止めなさい。みっともない。
特に備蓄米について「民間流通が基本であって悪影響が出る」というのも確かです。

コメ価格は今や民間流通、すなわち相対取引が指標となっています。
これはJA全農や各農協などの出荷業者と卸売業者との間で、売買取引する際の主食用米の銘柄ごとの契約価格のことで、 農水省はコメ価格の代表的な指標としています。
この相対取引がもっとも注目されるのが今の新米が出てくる時期なのです。
これで一年のコメ価格が事実上決まってしまいます。
令和5年産米の相対取引価格・数量について(令和5年9月):農林水産省 (maff.go.jp)

新米が出て新たな年間の価格が決まる寸前に政府備蓄を放出したらどうなるのか、かんがえないでもわかるでしょう。
相対取引の年間契約価格は、落ち着いた状況を前提として決めねばなりませんが、それができなくなります。

しかしメディアの煽りはそれを押し潰します。
ともかく騒ぎたい、騒ぎ立てて大事にしたい、そして政府を追及したい、社会の安定なんて知ったことか、騒げば視聴率(ゼニ)になるんだ、これが社会のスカベンジャーたるメディアの本能です。
東京新聞はスーパーのカラッポの棚の写真つきでこう書いています。

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東京

「「1人1点まで」「品切れ中」…。
都内のスーパーマーケットをのぞくと、販売制限や欠品を知らせる張り紙を掲出する店舗が相次いでいる。
ある店舗では、もち米と玄米が少し残っているだけで、白米のコーナーはからっぽ。「あら、ここもない」と、女性客が足早に去って行った。
別の店も、白米の在庫はゼロ。物珍しそうに客が集まり、空の陳列棚の前に人だかりまでできていた」
(東京8月21日)
お米が売ってない…これいつまで続くの? スーパーを回って聞いてみた アキダイ社長「解消するのは…」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

そしてお定まりの備蓄米を放出せよ、と叫んでいます。

「備蓄米の放出について要望があったが、民間流通が基本のコメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべきだ」坂本哲志農林水産相は27日の閣議後記者会見で、そう語った」
(東京8月29日)
お米を買いたいのに…「政府備蓄米の放出」が実現しないのはなぜ? 坂本農相は「品薄は順次回復する」と語る:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

共産党も便乗してこんなことを言っています。バカですねぇ、あんたらの中に農民はいないのか。

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Xユーザーの田村智子さん

備蓄米は主に政府が凶作時の供給不足に対応するため、100万トンをめどにして政府が備蓄しているコメのことです。
600万t~700tが平均年間収量なので、備蓄米100万tとは10年に1度の不作にも不足を来さない量の保管規模です。
政府は毎年約20万tの米を買い入れ、5年保管して、それを過ぎた米は飼料用米などとして売却しています
備蓄米を蓄える理由は、突然想定しなかった事態に備えるためです。

たとえば東日本大震災で、コメどころの福島、宮城、茨城の米作が大打撃を受け、さらに風評被害で流通量が減ったためにそれを補うため、政府は備蓄米4万トンを供給しています。
また熊本地震の際にも放出しています。

ですから、大地震クラスが襲来しない限り、ちっとやそっとの変動幅では市場機能でどうにかしてしまいます。

市場機能というのは、品不足になければ価格が上がって生産者の民間保管分からコメを吸い上げますし、余れば安くなって保管に回ることです。
新米が出る直前の時期なので、そう沢山保管米があるわけでもないので、農家はそう儲かったわけでもありません。
ここで政府備蓄を取り崩してしまって市場放出するぞという声がかかれば、市場価格はいったんは冷却しますが、それも新米が出て需給バランスがとれるまでのこと。
品不足によってコメ価格は一時的に跳ね上がり、
例年の安値で参っていた農家にはやや嬉しいことではありましたが、なにぶん現物が希少です。おまけに新米の登場まで半月ていどのことです。
つまりやってもやらなくても一緒。

今回一時的に消費市場からコメが姿を消したのは、共産党が言うような政府の減反とは無関係です。
減反は農家が自らの農地を100%活用できず、4割の水田でコメを作れないばかばかしい政策で、これはこれとしてしっかり問題ですが、今回の「コメ騒動」はこんな深い問題ではありません。
コメの少なくなる端境期に南海トラフ地震警報が出て、これを煽ることしかできないメディアが煽ったために、消費者が家庭の買いだめを増やしたことが原因です。

そしてコメがスーパーから姿を一時的に消すと、ほら見たことか「令和のコメ騒動」が始まったとまたまた煽れば、それはパニックになるかもしれませんね。

コロナのマスク騒動もそうでしたが、国民がパニくらずに落ち着いていれば、日本の製造基盤が破壊されたわけでもないので短期間で品不足は解消します。コロナの時を思い出して下さい。

「マスクがまったく売っていない」というメールが「ニュースあなた発」に繰り返し寄せられている。新型コロナウイルス感染症の拡大でメーカーはマスクの増産態勢を強化し、三月は六億枚を供給したが、店頭にマスクが並ぶ光景はなかなか見られない。政府はさらに一億枚の増産を目指すが、専門家は「七億枚でも十分とはいえない」と指摘している」
(東京新聞2020年4月6日)
<新型コロナ>マスク不足 解消遠く メーカー「供給追いつかない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

医療メーカーはたちまち増産体制を作って1カ月に6億枚生産したのですが、それでも不足したのです。
ヘンですね。国民ひとりに5枚は来る勘定なのに、それでも足りないというのはなぜでしょうか。
たぶん中間業者で買い占めた転売屋が出たのです。
今回も「令和のコメ騒動」も似たようなものです。

日刊ゲンダイなんぞ、不平不満のタネを見つけられたと喜びで打ち震えながらこう書いています。

「あ~、やっとあった」
 5軒目でようやくたどりついたボクのお米。これで夫としての役割を果たすことができる。令和の米騒動。どうしてスーパーにお米がなくなったのか?
それは昨年の猛暑で不作だったほか、足元の「南海トラフ注意情報」が原因だ。一部の人たちに「備蓄しなければ」という危機感が生まれ、「いらない米」を買いだめしたのである。
「政府が余計なことを言ったからに!」
(日刊ゲンダイ8月29日)
家計を直撃!「令和の米騒動」は人災か【シニアのためのマネー講座】(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース 

そしてすべて政府に責任を転化します。
メディアが自分らで火を着けておいて、コメがたりな~い、政府がぁワルイですから笑えます。

南海トラフ地震で警報が出たことまで「政府か余計なことを言った」ですから、もしほんとうに警報期間内になにかあったらあったで、「政府の予知対策がたりな~い」と騒ぐんでしょう。
こういう煽りをする人らって、煽り→買い溜め→品不足ということを見越して、買い占めているけしからん奴らと示し合わせてるんじゃないかなんて邪推してしまいます。
「令和のコメ騒動は人災だ」なんて言っていますが、確かに。
メディアとヒダリの皆さんが煽って出来た「人災」には違いありません。

というわけで、いまや続々と新米がスーパーに搬入されていますからメディアに踊らされないように。
ちなみにコメは生鮮品ですから、ポリ袋に入れたまま台所の隅になど置いておくと、確実に劣化しますので、備蓄もほどほどに。

減反については、明日に回します。

 

 

2024年9月 2日 (月)

コメ不足だって?

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コメ不足と聞いてたまげしました。わきゃありません。
だって平常どおり去年は収穫量があがっているのですから、足りなくなるなんてどこの国の話なの。

「令和の米騒動」なんて騒ぐなら、まずは収穫量推移グラフくらい押さえてほしいものです。
市場に出回っている去年産コメの収穫量を知らないで、コメ不足もなにもありませんからね。

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水稲の収穫量に関するデータ | データで見る田んぼ | クボタのたんぼ [学んで楽しい!たんぼの総合情報サイト] (kubota.co.jp)

傾向的に落ちてきてはいますが、700万tから800万tの間で推移しています。
これは農水省が市場動向に合わせて生産量調整しているからです。

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kubota.co.jp

ちなみに去年2023年度は716.5万トンで、例年より10万トン程度の減少にすぎません。

「水稲の全国の10a当たり収量は533kgと見込まれる。 以上の結果、収穫量は716万5,000t(前年産に比べ10万4,000t減少)と見込まれる。 このうち、主食用の収穫量は661万t(前年産に比べ9万1,000t減少)と見込まれる」
令和5年産水陸稲の収穫量:農林水産省 (maff.go.jp)

次に、作柄の状況を示す作況指数です。
作況指数が106以上で「良」、105~102で「やや良」、101~99で「並み」、98~95で「やや不良」、94~91で「不良」です。
今回の「コメ騒動」で最初に思い出したのは、あのタイ米を嫌々食べさせられた1993年の作況指数が74の時だったかもしれません。
戦後で飛び抜けてひどい凶作は1945年の作況指数67があります。
敗戦の混乱と重なったために食料難が引き起こされました。
着物を抱えて田舎にイモを買い出しに行ったなんて話は、私が子供時代よく聞いたものです。
共に原因は冷夏です。
去年のような高温も困りますが、よりダイレクトに作柄に影響を与えるのは冷夏のほうです。
「令和の米騒動」なんて言われると、ついこういう記憶が一気にフラッシュバックして買いだめしたくなるのはわからないではありません。

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(199)1933年:コメ作況指数120【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】|グローバルとローカル:世界は今|コラム|JAcom 農業協同組合新聞

去年の作況指数は101、つまり平年並みですからコメパニックになるわきゃありません。

「農水省は 12 日、令和 5 年産水稲の最終作柄を全国作況指数 101 の「平年並み」と発表した。 前回の 10 月 25 日現在から変わらず、5 年連続の平年作が確定した」
k1b-info_20231222.pdf (agri-note.jp)

この「コメ不足」を去年の猛暑と結びつけて高温障害による作柄不振が原因と書いていたところもありましたが、確かに高温障害は出ましたが、2010年の猛暑時より、被害を被った水田は少ないのです。

「水稲の被害統計で高温障害が単独項目として区分され、被害分類がいまの形になったのは平成 14年産から。それ以降で高温障害面積が最も大きかったのは、昨年まで歴代 1位の猛暑年だった平成 22年産の 97 万 7500 ㌶ だった。今年は 22 年を大幅に上回る史上最高猛暑として記録を塗り替えた中、高温障害面積でも 22 年産を上回り、過去最大規模の約 100 万㌶に上った。直近 10 年では令和元年産 69 万 9200 ㌶、平成 30 年産 65 万 3300 ㌶を大幅に上回った」
(商経アドバイス令和 5 年 12 月 18 日)

しかし高温被害を受けた水田は少なかったものの、歩留りの悪さが響いて商品となるコメが減少しました。
そのために春には、政府備蓄と別にJAなどが保管している民間在庫がかつてない速度で減少し始めました。

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日本農業新聞

「4月末現在の民間在庫量は近年、200万~230万トンで推移しており、今年の180万トンは過去にない低水準だ。「十分な売り物がない」(西日本の米穀店)との声も聞かれる。 23年産米は猛暑の影響で生産量が下振れしており、JAなど出荷段階で在庫の減少幅が大きい。高温障害による精米の歩留まり低下も尾を引く。
米の需要が上向いたことも在庫の消化ペースを早める要因で、人流の回復を受けて業務需要が堅調で、家庭向けの消費も前年を上回る」
(日本農業新聞6月26日)
逼迫する米需給 現状と24年産の展望は / 日本農業新聞 (agrinews.co.jp)

このような民間在庫が減少する中で起きたのが、8月8日の南海トラフ地震警報発令でした。
この警報は広域に大地震が起きるという恐怖を国民に与え、一部の消費者はいっせいにコメの買いだめに走ります。
それを煽ったのがメディアと野党でした。
この根性がねじ曲がった人たちは常にことあれかしと狙っているようで、こういう社会が変動するととたんに元気になり「責任を追及するぅ」と叫び始めました。
長くなりそうなので、ここで切って明日に続けます。

 

 

2024年9月 1日 (日)

日曜写真館 台風が生れ天気図活気づく

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台風の押し上げて来し雲走る 右城暮石 

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のろのろと来し颱風の忽ち去る 右城暮石 

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いちまいの鏡くもらし颱風来 三橋敏雄

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み仏に颱風去りしことを告ぐ 高野素十

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台風に任すもの任されぬもの 後藤比奈夫

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孤り昏れ野の光も昏れ颱風の樹 赤尾兜子

 

 

 

 

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