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2024年9月 6日 (金)

水田、環境維持のためのスタビライザー

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では、なぜ日本人はコメを捨てられないのでしょうか。
結論から言えば、農業という環境維持のためのスタビライザー(安定化装置)を利用しないと、防災インフラを再構築せねばならなくなり、その公共投資のコストは天文学的になるからです。
農業という存在を田んぼ単体で考えているから分からなくなるのです。田んぼは「システム」なのです。 

 

Photo                     図 座間市HPより

田圃にはその灌漑のための水系が付属します。河川から水を取り込む小規模河川、網の目のような農業用水、そして干天に水を放出し、大水の時に水を蓄え込むため池などがそうです。 
また、田んぼに常に水を涵養しておくための山も重要な存在です。田んぼを作るためにはげ山に植林し、その森林が水をしっかりと蓄えられるようになって初めて「田んぼ」が出来るのです。 
いわゆる水田は、田んぼという土と水のエコシステムの一部でしかありません。さらにこの水田から出来るコメだけ取り出して700%の関税がうんぬんという議論は、木を見て森を見ない議論に思えます。
もっと大きな目で見て御覧になりませんか。これが分からないと、ではどうやってこの700%超の関税を改革していくのかという議論につながりません。
そうでしょう。その価値がわからない人が、コメの価格だけ高い安いと言っても始まりませんものね。

さて、北朝鮮でなぜ大水が頻繁に起きるかご存じでしょうか。酔狂にもわざわざ見に行った人の話によれば、天井川になっているのです。 
天井川とは、河川の底が土砂で埋まって岸より高くなっている河のことです。こんな河はたいした大雨でなくてもすぐに溢れます。 
この土砂はどこから来るのかと言えば、河沿いの山肌の崩落が原因です。北朝鮮の山ははげ山なのです。
それは樹を引っこ抜いて、山に土留めもせずに根の浅いトウモロコシをビシッと植えたからです。こんなことをすれば、山はどんどん崩れていくのは当たり前です。 

Photo_2

今、現代日本人が漫然と見ている山もかつての先人たちの営々とした植林によって出来ました。
盛んになるのは江戸中期頃からですが、 米を食いたければ山に樹を植えるところから始まりました。
漫然と植えたのではなく、樹が水を蓄えることを当時の人が知っていたからです。それが治水に役立つこともそれ以前から知っていました。
苗を植えて100年、やっと山が緑に覆われてくる頃、初めてそこから湧き出る水を集めて田んぼを作りました。 
そして水を山から引く農業用水路を整備し、天候の変動に備えてのリザーブ・タンクとしてのため池を堀りました。
もちろん縄文末期から田んぼはあるのですが、植林、山の手入れ、水路などを一体のものとして作り始めたのはこの頃からです。
こうして、今の見学の外国人が公園のようだと評する農村風景が出来上がりました。

樹を植えて三代。そこから稲ができるまでまた1代。毎年の山の手入れは永代。川さらい、農道の普請は地域で毎年。まったく気長な話です。これを営々と村の共同の作業として維持してきたのが「田んぼ」なのです。 人々の汗の積み重ねがあって、日本の土と水は保全されてきたといえます。
この営為を「生活」のためだというなら、そのとおりです。 「生活」のためにコメを作り、森林を保全し、河川を維持してきたのです。そのなにがいけないのでしょうか。

さてこれを「水田以外の方法」でやってみるとなると、どうなりますか。 
今、60年代に作った全国の公共インフラは耐用年数を迎えつつあります。笹子トンネルの崩落事故などはその前兆です。
「コンクリート」と「人」は対立する概念ではない: 農と島のありんくりん (cocolog-nifty.com)
これは公共事業=悪玉論によって公共事業費を削減し続けたからです。公共事業費を消すると、真っ先にメンテナンス部門にしわ寄せが行きます。 

ですから、今早急に道路、河川、トンネルなどの補修事業をせねば、想定される大地震などの天災でまた多くの国民が亡くなってしまうことになります。 
それだけで巨額な公共投資を要します。しかし、やらないわけにはいかないわけです。 
この時期に、わが国の国土特有の治水の要である水田や小規模河川、それに付随するため池、農業用水、そして山の手入れを全部潰すとなるとどうなるでしょうか。 
基幹的公共インフラの整備ですら膨大な財政支出が必要な上に、今まで「農業」という見えない形で支えていたものが消滅していきます。

ちょとした線状降水帯が現れただけで河川は溢れ、住宅地や農地は水に漬かり、道路は寸断され、トンネルは埋まり、河口付近の湾は河から押し流される土砂でとんどん浅くなって港湾機能も失われていくことでしょう。
これを「他の方法で」で解決するとなると、田んぼの代わりに小規模多目的ダムを全国に無数に作ることになりますね。もちろん税金でです。まぁ、そんな金があったらの話ですが。

ちなみに、多目的ダムはこんな概要です。
治水ダム - Wikipedia

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美和・小渋ダムの治水|天竜川ダム統合管理事務所 (mlit.go.jp)

容量は河川によっても異なりますが、たとえば小型の熊本県球磨川・五木ダムが36万㎥の貯水量があります。
建設コストは一概に言いきれませんが、群馬県倉淵ダム(建設中止)、当初予算の275億円は最終的には550億円となったようです。大体は用地買収などが手間取って当初予算の数倍にハネ上がっています。
そもそも作りたくとも今や例の八ッ場ダムで分かるように、環境破壊がひどいので建設のためのコンセンサスがとれなくなってきています。

一方、仮に田んぼに20㎝分だけ貯水したとすると、大分県の試算では、10アール当たり200トンの雨水を受け止めるのに相当し、大分県内の水田(4万2500ヘクタール)すべての貯水量は、1240万㎥となり、小型ダム約3基分に匹敵する貯水量があります。
馬鹿げてはいませんか。農業が黙々とやってきた環境スタビライザー機能を他の手段で置き換えるというのは。言うのは簡単ですが、まったく割に合わない愚行なのです。

別にこれはわが国だけに限ったことではなく、世界中どこの国でも農業が国土の基本インフラであるのは常識です。農業は取り替えが効かない部門なのです。
だから農業保護ということにどこの国も必死になるわけです。それをしなければ、国土が崩壊して、外国産の安い農産物で潤う以上の損失を国土にもたらすことがわかったからです。

よく「食の安全保障」といいますが、それは単にカロリーで表記できるだけのものではなく、農業が守っている国土インフラ保全の安全保障まで含む概念だと私は思っています。
今の中国のように無計画にそれを壊してしまうと、修復にはとてつもないコストと時間がかかることを、多くの国は理解しているからです。

だから、一般的な競争原理にはなじみません。といって、誤解されたくはないのですが、まったく今までどおりでいいとも私は思っていません。減反政策と高関税は一対のものです。減反を維持するために馬鹿げて高い高関税を敷いているのは事実で、もはやこのような関税ブロックは賞味期限切れです。
しかし国土の強靱性を保つためにも、水田は残さねばなりません。
どうやって残すのか智恵を絞るべき時です。

 

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コメント

90年代初頭。牛肉とオレンジの輸入自由化でアメリカと妥協しましたが(他にもインフラ400兆円導入とか)やってた時代の自民党幹事長が宏池会で庄内出身の加藤紘一だったりします。当時の新聞での扱いも酷かったな。それ以前には防衛大臣時代に隊員のふくりこう

90年代初頭。牛肉とオレンジの輸入自由化でアメリカと妥協しましたが(他にもインフラに外資400兆円導入とか)やってた時代の自民党幹事長が宏池会で庄内出身の加藤紘一だったりします。当時の新聞での扱いも酷かったな。それ以前には防衛大臣時代に隊員の福利厚生のために防衛費増額を訴えたら朝日や毎日は「加藤紘一防衛大臣の強硬姿勢!」なんて書かれたり。
後に2000年秋の加藤の乱で没落した上に、右翼から自宅放火されるほどの親中ハト派なのに。。
現在の加藤鮎子子ども政策大臣は紘一の次女。
地元ではすこぶる評判が悪いです。

で、マクロで見ると最近よく話題になるいわゆる田んぼダムですね。はい、必要です。むしろ完全に破綻している林業とセットで考えるべき事柄で···本当に農水省って何をやっているのかと、もう怒りの感情ですね。利権でがんじがらめの官僚だらけの無能組織。解体してほしいです。

今年はこれまで手厚く保護されてきた兼業農家の廃業が過去最大だそうで、そりゃあ少子化で跡継ぎもいませんし。もう断崖絶壁に追い込まれている状況の米農家。
じゃあどうするかというと、効率を上げるしか無いわけです。30年以上前に農学部で議論していたんだけど、ただの大規模化ではやればやるほどアメリカに必ず負けるというデータが既にありました。食管法改正の頃だけど、現実は冷酷なものです。だから関税でも何でもいいから圃場の維持と保護は必要です。あの頃は「小規模兼業農家なんて潰れろ!」と思ってましたが、教授たちが赤い人ばかりで(笑)、学生に「美味しんぼ」を無理矢理読ませたりというアホな洗脳やってましたわ。
アメリカはその後に「日本の魂が米なら、アメリカの魂を侵略した日本はアメリカの自動車を受け入れろ!」とかいう農産品に工業製品をぶつけるというとんでもないことを言ってきましたね。クリントンの頃です。
まあ実際に受け入れてもネオンとかキャバリエとか様々なのが尽く爆死しました!必要な食い物と違って、クルマは値段や「カッコ良さ」とクオリティにサービスといった魅力が無ければ売れませんからね。

で、ここ数日のマスコミの「米が無い!全部政府が悪い!」のキャンペーンはねえ、目を覆うばかりの酷さです。大手に乗っかるフライデーとか最悪なことやってます。

あー、またか。

スマホで書いてる途中で不意にPostにタッチしちまったわ。ココログの仕様ですからありがちですが。
もちろん批判はお受けします。

私の住むド地方都市の郊外には、キレイな田園風景が拡がっていて、古道などから少し山へ入ると、とっくの昔に放棄された棚田跡が延々とあって、そこは手入れされていない杉林になっていたりします。江戸時代には、この地域の農民はモーレツに山を開墾して小さな"隠し田"を数多く作って税を逃れ、なんとかいい暮らしを得ようとしていたらしいんですわ。

それが江戸時代の終わり頃にもなると、藩の財政難からお役人様に目を付けられ、「小作人にも自作できる土地を分け与えてやる(口実)から、一回、実際に農地がどれだけあるのか検地する!」などと言われたんで、地域農民が激高して大きな一揆になり城下町に押し寄せてテンヤワンヤ、農民側は庄屋格の三名が打首獄門となり、当のお役人様は左遷されて、結局は元のままとなったという大騒動があったんですわ。

昔も今も、あんまり変わっていませんわ。農民は自分達でいい暮らしをしようと努力しても、お上がお上の都合でそれを許さないんですわ。農水省の省益とJAの独占益と政治家の票益です。もちろん、グータラのくせして補助金はよこせ!なんて百姓の風上にもおけない輩も多いみたいですが・・

専業であっても兼業であっても、「農業をして、カネ儲けて、もっといい暮らしをしたい!」という農民が、努力してドンドン発展していけるようなシステムが必要なんですわ。でないと、ただでさえ少子高齢化なのに、もう農業の後継者なんて皆無になりますわ。環境維持なんて、もう土台ムリムリですわ。農業の大規模化は必須なのに農地を集約できないなど、もう農地入手の時点でガンジガラメなんて、「一揆だ、一揆!」もんですわ。

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