「ハリスの旋風」は吹きやんだ
11月5日に、長かった大統領選の戦いがようやく終わり、決着の日を迎えます。ふー、長かった。
いままでハリス優位を伝えていたメディアの風向きに変化が生まれています。
ハリス推しだったロイターもこのように報じ始めています。
「[ワシントン 29日 ロイター] - ロイター/イプソスが29日発表した米大統領選に関する世論調査で、民主党候補ハリス副大統領の支持率が44%、共和党候補トランプ前大統領が43%となった。大統領選が1週間後に迫る中、ハリス氏のリードはわずか1%ポイントに縮小した。
調査は27日までの3日間、登録有権者975人を含む全米の成人1150人を対象に実施された。
ハリス氏は7月の出馬以降、ロイター/イプソスが実施した支持率調査全てでトランプ氏をリードしてきたものの、9月下旬以降はその差は着実に縮まっている。
経済、失業、雇用について、いずれの候補者の対策が優れているかという質問に対しては、トランプ氏が47%、ハリス氏が37%で、トランプ氏がリードを維持している。
移民問題への対処についても、トランプ氏への支持が48%と、ハリス氏の33%を上回った。
政治的過激主義や民主主義に対する脅威への対応では、ハリス氏への支持が40%、トランプ氏が38%。ただ、ハリス氏のリードは前回調査の7%ポイントから縮まっている」
(ロイター10月30日)
ハリス氏、支持率リードわずか1ポイント 大統領選まで1週間=調査 | ロイター

ロイター
これはトランプが勝ちつつあるのではなく、ハリスの失速が原因だと考えたほうがいいかもしれません。
失速の原因は、カマラが極左に傾いた人物であることが、国民の目にも明らかになってしまったからです。
ひとつには、今のガザ・レバノン戦争に対する両候補の対応です。
共和党にはなんの影響もなく、トランプは福音派というキリスト教原理主義に近い宗派ですから、聖書でパレスチナ地はユダヤ民族のものであるということから、親イスラエル派です。
トランプの娘婿のクシュナーはユダヤ人で、娘もユダヤ教に改宗しています。
トランプ自身は改宗していませんが、立場としては近いとは言えます。
したがって、親イスラエル・反イランというスタンスが明確です。
一方、民主党は対照的に動揺しました。
平時にあってはユダヤ人の多くが民主党支持層だったために親イスラエルでしたが、今回のガザ戦争で大きくねじれました。
左翼層がイスラエルを糾弾し、反イスラエル闘争を激化させたために民主党が分裂しました。
今年4月、全国の大学に拡大した親パレスチナ闘争は、アラブ風シュマグで覆面して大学のホールを占拠し、警官隊と衝突を繰り返す暴動にまでにエスカレートしました。
全土の大学に飛び火した親パレスチナデモは、まるでハマスが米国でデモをしているような有り様を呈しました。
「パレスチナを解放せよ」、「反イスラエル闘争を世界へ」
学生らが連呼し、パレスチナの旗を振る。首には「ケフィエ」と呼ばれる網目模様のスカーフ。団結の象徴だ。おびただしい数の警官。上空を舞うヘリ。4月下旬、米ニューヨーク市のコロンビア大前は緊張した空気に包まれた」
(日経5月9日)
米大学デモの危うい正義 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
1968年民主党大会の亡霊なのか…米国の学生「抗議運動」 宮家邦彦 宮家邦彦のWorld Watch - 産経ニュース (sankei.com)
これはたまたま起きたのではなく、BLMやアンティファがそうであったように周到に左翼組織が準備し組織したものでした。
「大学キャンパスでの最近の親パレスチナ抗議行動の波は突然やってきて、全国の人々に衝撃を与えた。しかし、いくつかのデモの根底にある政治的戦術は、長年の活動家や左翼グループによる何ヶ月にもわたる訓練、計画、奨励の結果でした」
Students Trained for Pro-Palestinian Protests With Veteran Activists for Months - WSJ 。
BLMやアンティファについて、米国に亡命している民主活動家の中国人ジャーナリスト何清漣はこう語っています。
「私は最近、自分の原稿の中に、この運動(BLM運動)と中国文革にはよく似たDNAがあると書いた。なにかって?みなさんご存じのように中国の文革の核心はマルクス主義であり、マルクス主義の核心理論は暴力革命。
既存の国家メカニズムを破壊し、新たな国家メカニズムを打ち立てること。これはなぜ民主党が首長の各州で警察機構がマヒしているかの理由でもあろう。
文革期の公安、検察、裁判所で同様の打ちこわしがあったことと同じだ。このようにして初めて、法執行機関の介入なしに、すべての“四旧”を好きなようにできるのだ」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ) NO.103 2020年6月28日)
BLMは米国版文革運動であり、アンティファは紅衛兵でしたが、これに立ち向かって秩序を回復させようとしたのがトランプであり、煽ったのが民主党系知事たちでした。
米国の紅衛兵・アンティファ: 農と島のありんくりん
アンティファの三つの歴史的刻印とは: 農と島のありんくりん
そしてこの親パレスチナ運動の激化は、同時に進行していた大統領選に大きな影響を与えました。
特にこの親ハマス組織が夏の民主党大会を標的にしたために、民主党はより親パレスチナ・反イスラエル的な候補に差し替えることを余儀なく去れました。
それがバイデン降ろしであり、党内極左派に属するカマラ・ハリスの登場です。
ハリスは、この親パレスチナだけてはなく、BLMやLGBTQ、急進的グリーン政策といった立場で、大統領にしてよいようなタイプではないと党の中道派にすら思われていた人物でした。
しかし、トランプとの直接討論の失敗からバイデン降ろしが始まってしまい、オバマに推されて急遽すげかえられたピンチヒッターが副大統領のハリスであったことは民主党の不幸でした。
民主党の集会にオバマ元大統領…ハリス副大統領の支持訴え トランプ氏、自分を起訴した検察官「2秒でクビに」(2024年10月25日掲載)|日テレNEWS NNN
中道保守派のバイデンから極左のハリスへのシフトチェンジは、バイデン政権時に大きく開いた国内の分裂の傷口をさらに左から拡げる選択でした。
これは民主党支持団体に大きな影響を与えました。
汗水垂らして家族のために働いている労働者階級の反発です。
彼らが多く住む、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ミシガンなどのスイングステート(激戦州)では、トラック労働組合、鉄鋼労働者組合、消防士組合などがハリスを推薦しない方向に舵を切りました。
「[ワシントン 3日 ロイター] - 国際消防士協会(IAFF)は3日、11月に迫る米大統領選で、民主党候補ハリス副大統領と共和党候補トランプ前大統領いずれも支持しないと発表した。
IAFFは消防士や救急緊急要員約30万人を代表する労働組合。
ハリス陣営は、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ミシガンといった重要な激戦州で労働者層票を取り込むため、労組にアピールしていただけにIAFFの決定は打撃となりそうだ」
(ロイター10月4日)
消防士労組、米大統領選でいずれの候補も支持せず ハリス陣営に打撃か(ロイター) - goo ニュース
全米トラック運転手組合(チムスターズ)という今までは民主党の票田だった大労組も、どちらも支持しないという方針転換を図りました。
つまりブルカラー層はハリスを嫌ったのです。
全米50州はすでにどちらの側につくのかが明確になっていて、動くことはないとされていました。
たとえばカリフォルニアが共和党になることも、テキサスが民主党になることも考えられないのです。
激戦州は50州のうちわずか7州ですが、全体の結果に影響を及ぼします。
ですから、全体の得票数で負けても、この激戦州で勝てば大統領になれてしまいます。
7州とは、ペンシルベニア州、中西部ミシガン州、ラストベルト(錆びた工業地帯)をがあるウィスコンシン州の3州と、西部アリゾナ州、ネバダ州、南部ジョージア州、ノースカロライナ州のサンベルト(温暖な地帯)の4州です。
そのなかでも特に競合が激しいのは、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州です。
「16年の大統領選でトランプ氏はこれら3州全てを僅差で制し、民主党候補だったヒラリー・クリントン元国務長官に大方の予想に反して勝利した。
バイデン大統領は20年の前回大統領選ではこれら3州で勝ち、歴史的には共和党の牙城だったジョージア、アリゾナ両州でも予想を覆す勝利を収めて大統領に就任した。
(ロイター10月18日)
情報BOX:米大統領選、なぜ一部の激戦州が結果を左右するのか | ロイター
外交も苦手、国境問題も無関心、経済には無知。
特長はといえば、黒人で女性なことくらいでしたから、副大統領に誰を据えるかに注目が集まっていました。
実はすでに副題党候補として有力だったのはペンシルバニア州知事のジョン・シャビロでした。
シャビロはユダヤ人の中道保守派で、左派のハリスとのバランスを考えたのでしょう。
[ワシントン 23日 ロイター] - 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が23日に公表した大統領選の世論調査によると、共和党候補トランプ前大統領の支持率が47%と、民主党候補ハリス副大統領の45%を上回っている。
調査は10月19─22日に1500人の登録有権者を対象に実施された。誤差はプラスマイナス2.5%ポイント」
(ロイター10月24日)
トランプ氏支持率47%、ハリス氏45%=WSJ調査 | ロイター
「11月5日の投票日を目前に控えたいま、7つの激戦州の支持率でハリスは共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に対して保ってきたリードを失った。
とりわけハリスが死守しようとしている激戦州は、かつては民主党の牙城であったことから「青い壁」と呼ばれるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州だ。(略)
3州のなかで選挙人の数が最も多い(19人)ペンシルベニア州に関心が集まりがちだが、動向が注目されるのが、アラブ系市民を多く抱え、選挙人15人が割り振られているミシガン州だ。
アラブ系米国人研究所によると、ミシガン州にはアラブ系が40万人近くいる。彼らの多くは2020年大統領選ではバイデンに投票し、その勝利に大きく貢献したが、ハリスはいま、彼らの票を失いつつある」
(クーリエ10月29ニチ)
カマラ・ハリスの失速─「あの激戦州」が彼女の命取りになるかもしれない(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース
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